(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、建屋等の外壁を構成する壁部等の構造物には、建屋の内外に貫通する貫通孔が形成され、この貫通孔に配設部材を挿通することで建屋の屋外から屋内又は屋内から屋外への流体等の供給や排出を可能としている。この際、貫通孔と配設部材との間には、火災等が発生した際に貫通孔を介して火炎や煙等が流入することを防ぐために、貫通孔の内周面と配設部材の外周面との間の隙間に耐火シール材を設けたシール構造が構成されている。
【0003】
このようなシール構造としては、例えば、特許文献1では、配設部材の周囲にウレタンフォーム等の保温材を巻き、その周りから部分的に熱膨張耐火シートを巻き付けている。さらに、熱膨張耐火シートに重ねて断熱シートを巻き付けている。そして、配設部材と貫通孔との間に防火シール材を注入し固定することでシール構造を構成する方法が開示されている。
【0004】
このようなシール構造は、火災によって生じる火炎やガス等が貫通孔から流通してしまうことを防ぐだけではなく、火炎や熱によって保温材が溶融して失われることで隙間が再び生じたとしても、熱膨張性耐火シートを膨張させることによって隙間を閉塞させて火炎や煙の流入を防ぐことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなシール構造では、地震などの様々な原因によって、配設部材が構造物に対して相対移動しようとした場合、配設部材自体が構造物と耐火シール材等を介して固定されているため、わずかなずれでも、配設部材と耐火シール材との接着部分等に大きな負荷がかかってしまう。これは、上述した特許文献1のシール構造のように配設部材の周りに保温材や断熱シート等を巻きつけていても同様である。
【0007】
その上、火災が発生する場合、火災だけが起こるのではなく、事前に大きな地震等が発生することによって火災が発生する場合がある。このような場合、地震の振動によって建屋だけでなく配設部材も大きく振動し、火災が発生する前に配設部材は貫通孔に対して大きく相対移動してしまう。そのため、貫通孔と配設部材との間に充填されるシール材は、貫通孔側ではなく配設部材側から剥離して地震によって火災が発生する前に間隙を生じてしまう。これにより、シール材によって閉塞されていた空間が後発的に開放されてしまい、貫通孔と配設部材との間隙を介して、火炎やガス等が流入してしまうという問題を有している。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、後発的に耐火シール材と配設部材との間に間隙が生じた場合でも耐火性を確保することが可能なシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の一態様に係るシール構造は、壁部に形成された孔部を挿通するように軸線に沿って延びる配設部材と、該配設部材の外周面と前記孔部の内周面との間の空間を閉塞する耐火シール材と、該耐火シール材における前記軸線方向の少なくとも一方側に設けられ、前記配設部材と前記耐火シール材との境界に接する閉鎖空間を画成するカバーと、前記閉鎖空間に充填されて、前記配設部材と前記耐火シール材との境界に形成された間隙を経由して到達する熱により膨張することで、該間隙内に侵入する熱膨張耐火材と、を備えることを特徴とする。
【0010】
このような構成のシール構造よれば、配設部材と耐火シール材との境界に接する閉鎖空間に熱膨張耐火材を設けておくことで、間隙が生じた際に、閉鎖空間は間隙の部分のみが開放されることとなる。そのため、熱膨張耐火材は、膨張した際に、カバーや配設部材よって進行を阻害されるため拡散しながら進行せずに、間隙内を進行するように制限することができる。これにより、熱膨張耐火材によって確実に間隙を塞ぐことができ、後発的に耐火シール材と配設部材との間に間隙が生じた場合でも耐火性を確保することが可能となる。
【0011】
また、本発明の他の態様に係るシール構造は、前記孔部が壁部を貫通する貫通孔をなしており、前記耐火シール材は、前記貫通孔の前記軸線方向の一方側の開口を封止し、前記カバーが、前記孔部内で前記配設部材の外周面に固定され、前記耐火シール側に向かって開口するよう前記軸線に沿って延びる前記貫通孔の径よりも小さい有底円筒形状をなすことを特徴とする。
【0012】
このような構成のシール構造よれば、閉塞部であるカバーが、貫通孔内に配置されていることで、壁部よりも突出することなく設置することができ、シール構造をコンパクトにすることが可能となる。
【0013】
また、本発明の他の態様に係るシール構造は、前記カバーの前記軸線の径方向への変形を制限する制限部を有することを特徴とする。
【0014】
このような構成のシール構造によれば、熱膨張耐火材が膨張することによってカバーが押し広げられるように変形しそうになっても、制限部によってカバーが変形することを制限することができる。これにより、カバーが変形して耐火シール材との間に隙間が生じ、熱膨張耐火材が漏れだすことを防止できるため、より確実に間隙を塞ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシール構造によれば、配設部材と耐火シール材との境界に接する閉鎖空間に熱膨張耐火材を設けておくことで、間隙が生じた際に、熱膨張耐火材が間隙内を進行するように制限することができる。これにより、熱膨張耐火材によって確実に間隙を塞ぐことができ、後発的に耐火シール材と配設部材との間に間隙が生じた場合でも耐火性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る第一実施形態について
図1から
図4を参照して説明する。
図1に示すように、第一本実施形態のシール構造は、建屋等の外壁を構成し孔部13を有する構造物である壁部10と、建屋等の屋内外に跨って孔部13に挿通されている配設部材1と、孔部13と配設部材1との間の空間を閉塞している耐火シール材2と、孔部13内の耐火シール材2よりも軸線O方向の屋内側に配置される閉塞部3とを備えている。
【0018】
壁部10は、屋外側を向き鉛直面に沿って延在する表面11と、屋内側を向き鉛直面に沿って延在する裏面12と、表面11から裏面12に向かって軸線Oを中心とする円形状をなして壁部10を貫通するよう形成された孔部13である貫通孔(孔部)(以下、単に貫通孔13とする)とを有している。
配設部材1は、貫通孔13を屋内側及び屋外側にわたって挿通するように軸線Oに沿って延びている。本実施形態では、配設部材1として、軸線Oを中心とする円筒状をなして延在する配管が設けられている。
【0019】
耐火シール材2は、配設部材1の外周面と貫通孔13との内周面との間の空間に充填されて、貫通孔13の軸線O方向の一方側である屋外側の開口を封止して、表面11側から貫通孔13の軸線O方向の中心部分まで充填されている。即ち、耐火シール材2は、配設部材1の外周面と貫通孔13の内周面とに接着され固定されており、配設部材1と貫通孔13との間の空間を閉塞している。ここで、配設部材1と耐火シール材2との接着部分を境界Bと称する。
なお、本実施形態で用いられる耐火シール材2は、公知の建築用シール材等が用いられれば良い。
【0020】
閉塞部3は、貫通孔13内の軸線O方向の他方側である屋内側に耐火シール材2と隣接して配置されている。閉塞部3は、配設部材1の周方向に配置される断熱材32と、耐火シール材2の屋内側の面に隣接し断熱材32上に固定されるカバー31と、カバー31と配設部材1と耐火シール材2とによって画成される閉鎖空間3aの中に充填される熱膨張耐火材33とを有している。
【0021】
断熱材32は、シート状をなしており、貫通孔13の内部で耐火シール材2から離間して、配設部材1の外周面上に周方向にわたって巻きつけてられて固定されている。
カバー31は、上部カバー311と、上部カバー311と組み合わされてカバー31を形成する下部カバー312と、上部カバー311と下部カバー312とを固定する固定用ボルト313とを有している。カバー31は、上部カバー311と下部カバー312とを組み合わせることで、軸線Oを中心とする有底円筒形状をなしており、耐火シール材2側に向かって開口した貫通孔13よりも径の小さい形状となっている。カバー31は、耐火シール材2に開口部分を押し付けるように貫通孔13内に配置され、有底円筒形状の底部分の中心を挿通するように断熱材32を介して配設部材1上に固定されている。そして、カバー31は、配設部材1と耐火シール材2との境界Bの端部を覆うように内部に閉鎖空間3aを画成している。
【0022】
上部カバー311は、上部カバー311の底面をなす上部円板部311bと、上部カバー311の側面をなす上部円筒部311aと、上部円板部311bに形成される上部固定孔311cとを有している。
上部円板部311bは、180度よりわずかに大きい優角(本実施形態においては例えば、200°)をなす扇形の板材であり、内周面が外周面と同心円弧を形成している。
上部円筒部311aは、180度よりわずかに小さい劣角(本実施形態においては例えば160°)をなす円弧を有する筒形状をなしており、上部円板部311bの外周面から軸線O方向の屋外側に向かって延出している。
上部固定孔311cは、上部円板部311bに形成される円形状の孔であり、径方向の同一直線上に上部円板部311bの中心を介して対称に二カ所配置される。
【0023】
下部カバー312は、下部カバー312の底面をなす下部円板部312bと、下部カバー312の側面をなす下部円筒部312aと、下部円板部312bに形成される下部固定孔312cとを有している。
下部円板部312bは、180度よりわずかに大きい優角(本実施形態においては例えば、200°)をなす扇形の板材であり、内周面が外周面と同心円弧を形成している。
下部円筒部312aは、下部円板部312bと同様の180度よりわずかに大きい優角(本実施形態においては例えば、200°)をなす円弧を有する筒形状をなしており、下部円板部312bの外周面から軸線O方向の屋外側に向かって延出している。下部円筒部312aは、上部円筒部311aより下部円板部312bの板厚分だけ短く形成されている。
【0024】
下部固定孔312cは、下部円板部312bに形成される円形状の孔であり、径方向の同一直線上に下部円板部312bの中心を介して対称に上部固定孔311cと対応するよう二カ所配置される。下部固定孔312cは、上部固定孔311cよりも小さい円形状なしており、内周面にネジが切られていることでボルトが固定可能となっている。
固定用ボルト313は、市販の公知のボルトが使用され、下部固定孔312cの大きさに合わせて適宜選択されて使用されれば良い。
【0025】
熱膨張耐火材33は、カバー31と配設部材1と耐火シール材2とによって画成される閉鎖空間3a内に充填されている。熱膨張耐火材33は、火炎等の熱によって膨張する公知の熱膨張耐火材33が使用されれば良い。
【0026】
ここで、カバー31の施工方法について説明する。
図2に示すように、上部カバー311の上部円筒部311aの内周面と下部カバー312の下部円筒部312aの内周面とが配設部材1を介して対向し、下部カバー312は、上部カバー311に対して下部円板部312bが上部円板部311bの軸線O方向の貫通孔13側にくるように軸線Oに沿って配置される。そして、上部円板部311bの内周面及び下部円板部312bの内周面が、配設部材1の外周面上に固定された断熱材32上に対向するように重ねて組み合わされる。即ち、上部カバー311の上部円板部311bの内周面が断熱材32に密着し、下部カバー312の下部円板部312bの内周面も断熱材32に密着した状態で、下部円板部312bに上部円板部311bが覆いかぶさり、下部円筒部312aの端面と上部円筒部311aの端面とが合うように組み合わされている。上部カバー311と下部カバー312が組み合わされると、上部固定孔311cの位置と下部固定孔312cの位置とが対応しているために重なり貫通する。そのため、上部固定孔311c側から固定用ボルト313を挿通し下部固定孔312cに固定することができる。そして、上部カバー311と下部カバー312とが組み合わされることで耐火シール材2側を開口し軸線Oを中心とする有底円筒形状をなすカバー31が形成される。
【0027】
次に、上記構成の第一実施形態のシール構造の作用について説明する。
上記のような第一実施形態のシール構造では、配設部材1と貫通孔13との間の空間は、耐火シール材2が充填され閉塞部3を取り付けられた通常の状態では、耐火シール材2によって隙間なく閉塞されている。
しかし、
図3に示すように、地震が発生し壁部10の屋外側で火災が発生すると、まず地震によって配設部材1が振動し貫通孔13に対して大きく相対移動をする。配設部材1が貫通孔13に対して相対移動をすることにより、耐火シール材2が僅かに変形し配設部材1の外周面と耐火シール材2との接着部分である境界Bに負荷がかかり、境界Bから耐火シール材2が剥離する。即ち、配設部材1と耐火シール材2との境界Bに間隙Gが形成される。
【0028】
その後、配設部材1と耐火シール材2との境界Bに間隙Gが形成されている状態で、壁部10の屋外側で火災が発生する。そのため、間隙Gを経由して火炎による熱や煙等が屋内側に向かって侵入し始める。ここで、カバー31と配設部材1と耐火シール材2とによって画成された閉鎖空間3aは、耐火シール材2と配設部材1との境界Bに間隙Gが形成されていることで、間隙Gによって屋外側に向かって開放されている。これにより、閉鎖空間3aに充填されている熱膨張耐火材33は、間隙Gを経由して到達する火炎による熱によって膨張を開始する。
【0029】
図4に示すように、膨張を開始した熱膨張耐火材33は、間隙G内を配設部材1に沿って膨張しながら進む。そして、熱膨張耐火材33が、間隙G内で膨張することで配設部材1と耐火シール材2との間隙Gが閉塞され、屋内側に火災による火炎や煙等が侵入することを防止できる。
【0030】
上記のようなシール構造によれば、孔部である貫通孔13と配設部材1との間に空間を閉塞するよう充填された耐火シール材2が、地震等によって後発的に配設部材1と剥離してしまい、配設部材1と耐火シール材2との間に間隙Gが生じた場合でも、間隙Gを経由して侵入してくる火炎の熱を利用して熱膨張耐火材33によって間隙Gを閉塞することができる。つまり、配設部材1と耐火シール材2と境界Bに間隙Gが生じた際に、閉鎖空間3aは、閉鎖空間3aを画成するカバー31及び配設部材1と接する面側は閉塞されたままで、耐火シール材2と接する面側の間隙Gの部分のみが開放されることとなる。そのため、熱膨張耐火材33は、膨張した際に、カバー31や配設部材1によって進行を阻害されるため拡散しながら進行せずに、間隙G内を屋外側に向かって進行することができる。これにより、熱膨張耐火材33によって確実に間隙Gを塞ぐことができ、地震等によって後発的に耐火シール材と配設部材1との間に間隙Gが生じた場合でも耐火性を確保することが可能となる。
【0031】
また、閉塞部3であるカバー31が、貫通孔13内に配置されていることで、壁部10よりも突出することなく設置することができ、シール構造をコンパクトにすることが可能となる。そして、壁部10から閉塞部3が突出しないため、耐火用のシール構造だけではなく、水密性を高める等の他の目的のシール構造をさらに設けることができる。
さらに、貫通孔13の径よりも有底円筒形状をなすカバー31の径を小さくすることで必要最低限の熱膨張耐火材33によって、配設部材1と耐火シール材2との境界Bに形成された間隙Gを埋めることができる。
【0032】
また、カバー31が上部カバー311と下部カバー312に分離して構成されており、組み合わせることで有底円筒形状をなして閉鎖空間3aを形成できるため、既設の配設部材1に対して事後的に容易にシール構造を設けることができる。これにより、既設の配設部材1に対しても、確実に孔部である貫通孔13を閉塞することができる信頼性の高いシール構造を容易に設けることが可能となる。
【0033】
さらに、カバー31が、配設部材1と耐火シール材2との境界Bを覆うように閉鎖空間3aを画成することで、境界Bに間隙Gが生じ、間隙Gを経由して煙等が侵入してきてもカバー31によって遮断することが可能となり、火災の発生していない側である屋内側が煙等の火災の影響を受けることをより確実に防止できる。
【0034】
次に、
図5から
図7を参照して第二実施形態のシール構造について説明する。
第二実施形態においては第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を伏して詳細な説明を省略する。この第二実施形態のシール構造は、カバー31の外周面が貫通孔13の内周面に向かって変形することを制限する制限部34を設ける点について、第一実施形態と相違する。
【0035】
即ち、第二実施形態のシール構造は、第一実施形態と同様のカバー31の外周面と貫通孔13の内周面との間の空間を埋める制限部34を備える。
制限部34は、上部カバー311及び下部カバー312の外周面と貫通孔13の内周面との間の空間に耐火シール材2と同様の材料を充填し、この空間を軸線Oの周方向にわたって埋めることで形成されている。
【0036】
上記のようなシール構造によれば、熱膨張耐火材33が膨張することによってカバー31が押し広げられるように変形しそうになっても、カバー31の外周面と貫通孔13の内周面との空間が埋められているため、制限部34によってカバー31の外周面が抑えられ、貫通孔13の内周面に向かって変形することを制限することができる。これにより、カバー31が変形して耐火シール材2との間に隙間が生じ、熱膨張耐火材33が漏れだすことを防止できるため、より確実に間隙Gを塞ぐことが可能となる。
【0037】
また、カバー31を取り付けた際に施工に不備があり、耐火シール材2とカバー31との間に僅かな隙間が生じていた場合であっても、制限部34によってカバー31の外周面の径方向の外側の空間が埋められているため、熱膨張耐火材33が膨張する際に漏れだすことを防止し、間隙Gが十分に閉塞されずに耐火性を確保できないことを防ぐことができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
【0039】
なお、本実施形態では、建屋の壁部10にシール構造を形成したが、これに限られるものではなく、建屋の床部や天井部にシール構造を設けても良い。
また、本実施形態では、挿入孔を壁面に設けられた貫通孔13としたがこれに限られるものではなく、建屋の壁部10等の構造物の表面11から凹んで形成される凹部であっても良い。
さらに、孔部である貫通孔13の軸線Oに直交する断面形状は円形をなしているが、他の断面形状であっても良い。
また、配設部材1は、円筒状をなす配管に限られるものではなく、例えば、断面が矩形状の配管であったり、配管ではなくケーブル等であったりしても良い。