(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、平ベルトを用いた伝動装置においては、平ベルトが走行中に蛇行したり、プーリ上においてその幅方向の片側に寄って片寄り走行を行うことがある。これは、平ベルトが他の伝動ベルトに比べて、プーリ軸方向における正規位置からのずれや、軸荷重の変化によるプーリ軸のたわみ、プーリ自体の揺れなど、伝動装置を構成する要素の変化に敏感なためである。このような蛇行や片寄り走行を生じた場合、平ベルトがプーリのフランジに接触して、該平ベルトの側端面で毛羽立ちや心線ほつれを生じる。
【0003】
これに対して、平ベルトの蛇行や片寄りを抑制する機能を持つ自動調心式の伝動ベルト用プーリユニットが知られている。例えば、特許文献1には、伝動ベルトが走行可能に巻き掛けられるプーリ本体と、該プーリ本体の内周側にベアリングを介して挿入されて該プーリ本体を回転自在に支持する筒状の調心輪(軸部材)と、該調心輪を所定の枢軸周りに揺動自在に支持する支持機構と、を備え、プーリ本体上の伝動ベルトに蛇行や片寄りが発生したときにその片寄った側のプーリ本体部分をベルト走行方向における前側に変位させる自動調心式の伝動ベルト用プーリユニットが開示されている。
【0004】
この特許文献1に開示の伝動ベルト用プーリユニットでは、支持機構が調心輪の筒孔に挿入された固定軸(支持ロッド)を有し、該固定軸と調心輪との間に、これらのうち少なくとも一方との間に摺動抵抗を発生させる樹脂製の摺動部材(樹脂部品)が介装されている。この摺動部材は、その中央部分にピン孔(係入孔)を有し、該ピン孔と固定軸及び調心輪に形成された各孔とに1本の支持ピンが挿通されていることで、これら固定軸と調心輪との間に位置決めされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示のような伝動ベルト用プーリユニットでは、部品加工費を低価格に抑える観点から、調心輪はその内周面が円形に形成された単純な円筒形である構造が最も好ましいが、このような構造を採用した場合、摺動抵抗を発生させるために用いる摺動部材を、調心輪の内周面に対応する部位が該内周面と同じ曲率半径の円弧面を呈する形状にする必要がある。このため、摺動部材の円弧部分の寸法を調心輪の内周面の寸法と高精度に合わせなくてはならず、部品加工費が嵩む。
【0007】
また、摺動部材には上述したピン孔をあける必要があるが、摺動部材の形状が上述した円弧面を有する形状であると、このピン孔が予め設定された所定位置から僅かにでもずれた場合、該ピン孔を固定軸及び調心輪の各孔に対応させる位置では摺動部材の円弧面と調心輪の内周面とが合わなくなって、伝動ベルト用プーリユニットの支持機構部分の組立てが困難となったり、組み立てることができても固定軸や調心輪との間に発生する摺動抵抗が偏って蛇行制御の機能を充分に果たせなくなるおそれがある。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、伝動ベルトの蛇行や片寄りを安定して抑制でき、部品加工費が安価で組立て容易な自動調心式の伝動ベルト用プーリユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明では、調心輪を単純な円筒形としたまま、該調心輪及び固定軸における摺動部材に対応する面を平坦面として、摺動部材を平坦な板材で構成すると共に、該摺動部材の位置を支持ピンの挿通による位置決め前に調整可能な構造とした。
【0010】
具体的には、本発明は、自動調心式の伝動ベルト用プーリユニット及びそれを備えたベルト伝動装置を対象とし、以下の解決手段を講じたものである。
【0011】
すなわち、第1の発明は、上記伝動ベルト用プーリユニットであって、伝動ベルトが走行可能に巻き掛けられるプーリ本体の内側に該プーリ本体を回転自在に支持する円筒形の調心輪が設けられたプーリと、前記調心輪に挿入された固定軸と、該固定軸に形成された貫通孔に挿通されると共に両端部が前記調心輪の互いに対応する位置に形成された一対の支持孔に嵌入されて、前記固定軸に前記調心輪を揺動自在に支持する支持ピンと、該支持ピンが挿通されるピン孔を有し、前記固定軸と前記調心輪との間に挿入されて、前記ピン孔に挿通した前記支持ピンで前記固定軸及び調心輪に対して位置決めされる摺動部材と、を備える。前記調心輪の内周面は円形に形成されている。前記調心輪には、一対の挿入孔が前記支持ピンと交差する径方向に対向して貫通形成されると共に、これら一対の挿入孔の内面で前記摺動部材に対応する面が平坦面に形成されている。また、前記固定軸の前記摺動部材に対応する面も平坦面に形成されている。そして、第1の発明は、前記摺動部材が、平坦な板材からなり、前記支持ピンで位置決めされる前の状態で前記調心輪の径方向及び筒中心線に沿う方向に位置調整可能に前記挿入孔から前記調心輪の内部に挿入されて、前記両平坦面に面接触していることを特徴とする。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の伝動ベルト用プーリユニットにおいて、前記支持ピンが前記伝動ベルトの張力による軸荷重の方向に対し前記伝動ベルトの走行方向における前側に傾倒し、その傾倒角が0度を超え且つ90度未満の角度である。
【0013】
第3の発明は、第2の発明の伝動ベルト用プーリユニットにおいて、前記支持ピンの傾倒角が0度を超え且つ45度未満の角度である。
【0014】
第4の発明は、第1〜第3の発明のいずれか1つの伝動ベルト用プーリユニットにおいて、前記固定軸の貫通孔の内面と前記支持ピンとの間に摺動材が設けられていることを特徴とする。
【0015】
第5の発明は、第1〜第4の発明のいずれか1つの伝動ベルト用プーリユニットにおいて、前記支持ピンが前記プーリ本体の幅方向における中央付近に位置していることを特徴とする。
【0016】
第6の発明は、上記ベルト伝動装置であって、第1〜第5の発明のいずれか1つの伝動ベルト用プーリユニットを備え、該伝動ベルト用プーリユニットのプーリが伝動ベルトに押し当てられて該伝動ベルトに張力を付与することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、調心輪及び固定軸に摺動部材に対応する面として平坦面がそれぞれ形成されていて、これら両平坦面の間に平坦な板材からなる摺動部材が挿入され、該摺動部材が両平坦面に面接触しているので、調心輪が揺動した際に調心輪及び固定軸のうち少なくとも一方と摺動部材との間に安定した摺動抵抗を発生させることができる。これにより、伝動ベルト用プーリユニットに蛇行制御の機能を充分に発揮させることができ、伝動ベルトの蛇行や片寄りを安定して抑制することができる。
【0018】
また、第1の発明によれば、上記摺動部材が支持ピンで位置決めされる前の状態で調心輪の径方向及び筒中心線に沿う方向に位置調整可能であるので、摺動部材のピン孔が予め設定された所定位置からずれて形成された場合にも、摺動部材の位置を適宜調整することで、固定軸に形成された貫通孔と調心輪に形成された一対の支持孔とに当該ピン孔を対応させることができる。したがって、従来の伝動ベルト用プーリユニットのように摺動部材のピン孔を固定軸及び調心輪の各孔に対応させる位置では摺動部材を組み付けできなくなるという事態を回避し、伝動ベルト用プーリユニットの組立てを容易化することができる。
【0019】
そして、第1の発明によれば、上記調心輪の平坦面が支持ピンと交差する径方向に対向して貫通形成された一対の挿入孔の内面で形成されているので、調心輪を円形の内周面を有する単純な円筒形としながらも、当該調心輪に摺動部材と面接触する平坦面を形成することができる。さらに、固定軸においても摺動部材と対応する面が平坦面に形成されていることから、平坦な板材からなる摺動部材を用いることができる。このように調心輪及び摺動部材が単純な形状であるので、これら両部品について加工費を安価に抑えられると共に加工精度を高くすることができる。したがって、伝動ベルト用プーリユニットの部品加工費を安価に抑えることができ、且つ、高品質な伝動ベルト用プーリユニットを提供することができる。
【0020】
第2の発明によれば、プーリ本体が調心輪を介して支持ピン周りに揺動自在に支持されていて、支持ピンが伝動ベルトの張力による軸荷重の方向に対し伝動ベルトの走行方向における前側に0度を超え且つ90度未満の角度で傾倒しているので、伝動ベルトがプーリ本体の幅方向に片寄ったときに、該伝動ベルトには、プーリ本体が軸荷重の方向に高低差を生ずるように傾斜することによる戻し力と、プーリ本体が伝動ベルトに対して斜交いの状態になることによる戻し力との双方が働く。そして、伝動ベルトは、これら両戻し力の合力とベルト伝動装置の特性によって伝動ベルトに作用する片寄り力とがつり合う位置で走行することになる。これによって、伝動ベルトの蛇行や片寄り走行を具体的に防止することができる。
【0021】
第3の発明によれば、支持ピンの傾倒角が0度を超え且つ45度未満の角度範囲に設定されているので、当該傾倒角が45度以上且つ90度未満である場合に比べて、上記プーリ本体が斜交いの状態になることによる戻し力を有効に利用することができる。上述した伝動ベルトに働くプーリ本体が傾斜することによる戻し力とプーリ本体が斜交いの状態になることによる戻し力とでは、後者の方が片寄り防止効果が高いので、この第3の発明によれば、伝動ベルトの蛇行や片寄り走行を良好に防止することができる。
【0022】
第4の発明によれば、伝動ベルトがプーリ本体上で片寄って、軸荷重が支持ピンに対応する位置からずれたときに、この軸荷重が支持ピンをこじるように作用しても、該支持ピンと固定軸の貫通孔との間には摺動材が設けられているから、両者の間の摺動抵抗はあまり大きくならない。したがって、プーリ本体の揺動に対する摺動抵抗を低減することができる。これにより、伝動ベルトの片寄りに対してプーリ本体が遅れなく、スムーズに揺動変位して、伝動ベルトには片寄り力に対して必要充分な戻し力が与えられることになるので、伝動ベルトの蛇行や片寄り走行を良好に防止することができる。
【0023】
第5の発明によれば、プーリ本体が揺動する際の揺動中心となる支持ピンが回転体であるプーリ本体の幅方向における中央付近に位置するので、伝動ベルトの幅方向における中心をプーリ本体のベルト走行面の幅方向における中央付近に位置付けて走行させる上で有利になる。
【0024】
第6の発明によれば、伝動ベルト用プーリユニットにより伝動ベルトに対して安定した張力を与えながら、該伝動ベルトの蛇行や片寄り走行を防止することができ、ベルト伝動装置において、伝動ベルトの伝動能力を充分に発揮させる上で有利になる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、或いはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0027】
《発明の実施形態》
図1は、この実施形態に係るベルト伝動装置1の概略構成を示す側面図である。本実施形態に係るベルト伝動装置1は、自動調心式の伝動ベルト用プーリユニット5のプーリ10をテンショナとして用いた伝動装置である。
【0028】
ベルト伝動装置1は、
図1に示すように、互いに離間して配置された駆動プーリ2と従動プーリ3とに伝動ベルト4が巻き掛けられた構造を有している。伝動ベルト4は平ベルトであり、駆動プーリ2及び従動プーリ3はそれぞれ平プーリである。このベルト伝動装置1では、伝動ベルト4に張力を付与すべく、本発明に係る伝動ベルト用プーリユニット5のプーリ10がテンショナとして伝動ベルト4の背面に押し当てられている。
【0029】
なお、図示のベルト伝動装置1の全体構成はあくまで一例に過ぎず、これを各種の産業機械、その他の機器に利用する場合には、ベルト伝動装置1に必要に応じた種々のレイアウトを採用することができる。
【0030】
上記伝動ベルト用プーリユニット5の構成を
図2及び
図3に示す。
図2は、伝動ベルト用プーリユニット5の概略構成を示す正面図である。
図3は、
図2のIII−III線における伝動ベルト用プーリユニット5の断面構造を示す断面図である。
【0031】
上記伝動ベルト用プーリユニット5は、
図2及び
図3に示すように、伝動ベルト4が走行可能に巻き掛けられるプーリ10と、該プーリ10を支持する支持機構20と、を備えている。
【0032】
プーリ10は、当該プーリ10に巻き掛けられた伝動ベルト4に直接接触する円筒形のプーリ本体11と、該プーリ本体11の筒孔に圧入された環状のベアリング13と、該ベアリング13の内周側に圧入された円筒形の調心輪17と、を備えている。プーリ本体11は、ベアリング13を介して調心輪17に回転自在に支持されている。
【0033】
ベアリング13は、互いに対向して配置された外輪14及び内輪15と、これら外輪14及び内輪15の間に軸方向において2列に並ぶように介挿された複数のボール16と、を有する複列玉軸受である。このベアリング13の外輪14は、プーリ本体11の内周側に該プーリ本体11と一体に回転するように連結されている。また、ベアリング13の内輪15は、調心輪17の外周側に連結されて該調心輪17に固定されている。
【0034】
調心輪17は、円形の内周面を有し、単純な円筒形に形成されている。この調心輪17の軸方向における略中央位置で筒中心を介して対向する2箇所には、後述する支持ピン25が挿入される断面円形の支持孔18が当該調心輪17を貫通した状態で一対に形成されている。
【0035】
上記支持機構20の概略構成を
図4に示す。
図4は、調心輪17及びその内側に配置された構成の横断面構造を示す断面図である。
【0036】
支持機構20は、
図3及び
図4に示すように、調心輪17の筒孔に挿入された固定軸21と、該固定軸21に調心輪17を揺動自在に支持する円柱状の支持ピン25と、を備えている。支持ピン25は、調心輪17が揺動する際の揺動中心Pを構成している。
【0037】
固定軸21は、ロッド状の部材であって、基本形状が断面円形状を成している。この固定軸21の基端側の部位は、ベルト伝動装置1のハウジング等の支持体に取り付けられる。他方、固定軸21の先端側の部位は、調心輪17の内径寸法よりも小さな外形寸法を有し、該調心輪17の筒孔に挿通されている。
【0038】
この固定軸21の先端側の部位は、断面円形状のロッドを縦割りに一部カットしたような形状に形成されていて、その外周に揺動中心Pに直交する矩形状の平坦面21aを有している。この平坦面21aは、調心輪17に形成された一対の支持孔18のうちいずれか一方の支持孔18側に正対(対面)し、後述する摺動部材30に対応する面を構成している。
【0039】
平坦面21aが形成された固定軸21の部位には、揺動中心Pに沿って当該固定軸21を半径方向に貫通する断面円形の貫通孔23が形成されている。この貫通孔23の一端は平坦面21aに開口し、調心輪17に形成された一方の支持孔18に対応している。また、貫通孔23の他端は、固定軸21の外周の円弧面21bに開口し、調心輪17に形成された他方の支持孔18に対応している。
【0040】
この固定軸21の貫通孔23には支持ピン25が挿通されている。すなわち、支持ピン25は、プーリ本体11の幅方向における中央付近に位置し、固定軸21及び調心輪17の両平坦面21a,17bと直交している。支持ピン25の長さ寸法は、ベアリング13の内輪15の内径寸法と同じかそれよりも僅かに小さい。そして、支持ピン25の両端部は、調心輪17に形成された一対の支持孔18に嵌入し、該調心輪17をプーリ本体11と共に揺動自在に支持している。
【0041】
この支持ピン25と固定軸21に形成された貫通孔23の内面との間には、円筒形に形成された樹脂製の摺動材27が設けられている。このことで、伝動ベルト4がプーリ本体11上で片寄って、該伝動ベルト4の張力によってかかる
図2に示す軸荷重Lが支持ピン25に対応する位置からずれたときに、軸荷重Lが支持ピン25をこじるように作用しても、固定軸21の貫通孔23内面と支持ピン25との間に生じる摺動抵抗があまり大きくならないようになっている。
【0042】
なお、固定軸21の外周面において平坦面21aに連続する円弧面21bと、該円弧面21bを取り囲む調心輪17の内周面との間には、支持ピン25を揺動中心Pとして調心輪17がプーリ本体11と共に揺動することを許容するための隙間Sが形成されている。
【0043】
また、調心輪17には、
図4に示すように、後述する摺動部材30を挿入するための一対の挿入孔19が揺動中心P、つまり支持ピン25と直交する径方向に対向して形成されている。一対の挿入孔19は、調心輪17において固定軸21の平坦面21aが臨む側で該平坦面21aの側方に向かって貫通している。
【0044】
挿入孔19が形成された調心輪17の側面図を
図5に示す。この
図5では、プーリ本体11及びベアリング13を省いて図示している。調心輪17に形成された一対の挿入孔19は、
図5に示すように、調心輪17の筒中心線に沿う方向(
図5で左右方向)に延びる長孔である。各挿入孔19において、調心輪17の筒中心線に沿う方向の長さは、例えば10.0mm〜40.0mm程度の長さであり、調心輪17の外周に沿う方向(
図5で上下方向)の幅は、例えば1.0mm〜5.0mm程度の幅である。
【0045】
一対の挿入孔19において固定軸21側に位置する内面部分は、
図4に示すように、該固定軸21の平坦面21aと面一になるように形成されている。他方、一対の挿入孔19において固定軸21とは反対側に位置する内面部分は、固定軸21の平坦面21aと対向する平坦面17aを形成している。すなわち、調心輪17の形状を単純な円筒形としたまま、該調心輪17の内周面において固定軸21の平坦面21aと対向する面が平坦面17aに形成されている。この平坦面17aは、後述する摺動部材30に対応する面を構成している。
【0046】
そして、調心輪17の平坦面17aと固定軸21の平坦面21aとの間には、これら2つの平坦面17a,21aの少なくとも一方との間に摺動抵抗を発生させる樹脂製の摺動部材30が挿入されている。摺動部材30は、調心輪17及び固定軸21に対応する両側の面がそれぞれ平坦面に形成された平坦な板材からなる。
【0047】
摺動部材30は、熱可塑性樹脂をベース材料として、これに耐摩耗性を向上させる目的で炭素繊維などの有機繊維を配合した樹脂材によって形成されている。摺動部材30のベース材料に用いる熱可塑性樹脂としては、特に制限はないが、伝動ベルト4の走行中はベアリング13の発熱によって高温状態になるため、耐熱性の高い樹脂が好ましい。具体的には、6−ナイロン、66−ナイロン、芳香族ナイロン、46−ナイロンといったアミド系樹脂や、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、四フッ化エチレン(PTFE;polytetrafluoroethylene)といったエンジニアリングプラスチックなどが好適に採用される。
【0048】
摺動部材30の形状についての斜視図を
図6(a),(b)に示す。摺動部材30は、
図6(a)に示すように矩形状に形成されていてもよく、また、
図6(b)に示すように円環状に形成されていても構わない。その他、この摺動部材30には、両面が平坦な面であれば種々の形状を採用することができる。
【0049】
摺動部材30の中央部分には、支持ピン25が挿通されるピン孔31が当該摺動部材30の厚さ方向に貫通した状態に形成されている。すなわち、ピン孔31は、固定軸21に形成された貫通孔23とこれに対応する位置にある調心輪17の支持孔18とを連通するようにこれら貫通孔23及び支持孔18と対応させた位置に配置されている。そして、摺動部材30は、貫通孔23及び支持孔18と共にこのピン孔31に挿通した支持ピン25で留められて、固定軸21及び調心輪17に対し位置決めされている。
【0050】
この摺動部材30は、一対の挿入孔19のいずれか一方から調心輪17の内部、すなわち調心輪17及び固定軸21の平坦面17a,21a間に挿入されている。
図5に示すように、摺動部材30において調心輪17の筒中心線に沿う方向の長さは、挿入孔19よりも例えば0.5mm短く設定されており、9.5mm〜39.5mm程度の長さである。また、摺動部材30の厚さは、挿入孔19の幅と略同一であり、例えば1.0mm〜5.0mm程度の厚さである。
【0051】
そして、摺動部材30は、調心輪17及び固定軸21に形成された両平坦面17a,21aに面接触している。摺動部材30の両面が平坦面であり、調心輪17及び固定軸21において摺動部材30に対応する面も平坦面17a,21aであるので、摺動部材30は、支持ピン25で位置決めされる前の状態で調心輪17の径方向(
図4で左右方向)及び筒中心線に沿う方向(
図3で左右方向)に位置調整が可能である。
【0052】
上記構成の伝動ベルト用プーリユニット5は、
図2に示すように、伝動ベルト4の張力による軸荷重Lの方向を基準として、支持ピン25(揺動中心P)をプーリ本体11の回転方向における前側、つまり伝動ベルト4の走行方向Rにおける前側に0度を超え且つ90度未満の角度αだけ傾倒させて使用される。これにより、伝動ベルト用プーリユニット5は、プーリ10に巻き掛けられて走行する伝動ベルト4がプーリ本体11の幅方向に片寄ったときに、該伝動ベルト4の片寄りを戻す戻し力を効果的に発生させるようになっている。
【0053】
伝動ベルト用プーリユニット5の動作を
図7に平面図で示す。この
図7では、伝動ベルト4が正常な走行状態であるときの様子を実線で示し、伝動ベルト4がプーリ本体11上でその幅方向に片寄った場合の様子を二点鎖線で示している。
【0054】
伝動ベルト用プーリユニット5では、
図7に実線で示すように、伝動ベルト4がプーリ本体11の幅方向における中央付近に掛かっているときには、該伝動ベルト4の張力による軸荷重Lのベクトルは支持ピン25(揺動中心P)と交差し、そのベクトルが支持ピン25に作用する。他方、
図7に二点鎖線で示すように、伝動ベルト4がプーリ本体11の幅方向における中央付近から片側へ寄ると、その片側に軸荷重Lがずれて該軸荷重Lのベクトルが調心輪17にも作用するようになる。そうなると、軸荷重Lの分力により調心輪17に支持ピン25(揺動中心P)周りの回転モーメントが働き、調心輪17がプーリ本体11と共に支持ピン25周りに回動変位(揺動)することになる。
【0055】
このようにプーリ本体11が回動変位すると、揺動中心Pがプーリ本体11の回転方向における前側に傾倒しているから、その片寄りに起因する軸荷重L中心のずれによってプーリ本体11が、軸荷重Lの方向について伝動ベルト4の片寄ってきた側が高く(
図2で上側に上がり)その反対側が低くなる(
図2で下側に下がる)ように傾斜すると共に、
図7に二点鎖線で示すように伝動ベルト4に対し斜交いの状態になる。プーリ本体11がこのような状態となると、伝動ベルト4に対し、プーリ本体11が傾斜することによる戻し力と、プーリ本体11が斜交い状態になることによる戻し力とが働く。
【0056】
上述した伝動ベルト4に働くプーリ本体11が傾斜することによる戻し力とプーリ本体11が斜交いの状態になることによる戻し力とでは、後者の方が片寄り防止効果が高い。このことから、プーリ本体11が斜交いの状態になることによる戻し力を有効に利用するために、支持ピン25の傾倒角は、0度を超え且つ45度未満の角度範囲に設定されていることが好ましく、30度以下とすることがさらに好ましい。
【0057】
伝動ベルト用プーリユニット5では、上記両戻し力の合力とベルト伝動装置1の特性によって伝動ベルト4に作用する片寄り力とがつり合う位置で伝動ベルト4が走行することになる。これにより、仮に外乱などによって伝動ベルト4が大きく片寄ることがあっても、該伝動ベルト4は上記戻し力と片寄り力とがつり合う位置に戻されるので、伝動ベルト4の蛇行や片寄り走行を防止することができる。
【0058】
そして、本実施形態のベルト伝動装置1では、上述の如く伝動ベルト4の片寄りを戻す機能を持つ自動調心式の伝動ベルト用プーリユニット5のプーリ10をテンショナとして用いているので、伝動ベルト4に対して安定した張力を与えながら、該伝動ベルト4の蛇行や片寄り走行を防止することができ、伝動ベルト4の伝動能力を充分に発揮させる上で有利になる。
【0059】
−実施形態の効果−
この実施形態によると、調心輪17及び固定軸21に形成された両平坦面17a,21aの間に摺動部材30が挿入されて、該摺動部材30がこれら両平坦面17a,21aに面接触しているので、調心輪17がプーリ本体11と共に支持ピン25周りに回動変位するときに、調心輪17及び固定軸21のうち少なくとも一方と摺動部材30との間に安定した摺動抵抗を発生させることができる。これにより、プーリ本体11が調心輪17ともども必要以上に回動変位することを防止し、伝動ベルト4に働く戻し力が大きくなり過ぎて伝動ベルト4が片寄り側とは反対側にまで移動すること、及びこれに起因してプーリ本体11が揺動を繰り返すと共に伝動ベルト4が蛇行し続けて、その走行位置が定まらないといった事態を回避することができる。したがって、伝動ベルト用プーリユニット5に蛇行制御の機能を充分に発揮させることができ、伝動ベルト4の蛇行や片寄りを安定して抑制することができる。
【0060】
また、この実施形態によれば、摺動部材30が支持ピン25で位置決めされる前の状態で調心輪17の径方向及び筒中心線に沿う方向に位置調整可能であるので、摺動部材30のピン孔31が予め設定された所定位置から僅かにずれて形成された場合にも、摺動部材30の位置を適宜調整することで、固定軸21に形成された貫通孔23と調心輪17に形成された一対の支持孔18とに当該ピン孔31を対応させることができる。したがって、従来の伝動ベルト用プーリユニットのように摺動部材のピン孔を固定軸及び調心輪の各孔に一致させる位置では摺動部材を組み付けできなくなるという事態を回避し、伝動ベルト用プーリユニット5の組立てを容易化することができる。
【0061】
そして、この実施形態によれば、調心輪17の平坦面17aが一対の挿入孔19の内面で形成されているので、調心輪17を円形の内周面を有する単純な円筒形としながらも、当該調心輪17に摺動部材30と面接触する平坦面17aを形成することができる。さらに、固定軸21においても摺動部材30と対応する面が平坦面21aに形成されていることから、平坦な板材からなる摺動部材30を用いることができる。このように調心輪17及び摺動部材30が単純な形状であるので、これら両部品17,30について加工費を安価に抑えられると共に加工精度を高くすることができる。したがって、伝動ベルト用プーリユニット5の部品加工費を安価に抑えることができ、且つ、高品質な伝動ベルト用プーリユニット5を提供することができる。
【0062】
なお、上記実施形態では、支持ピン25が調心輪17及び固定軸21に形成された両平坦面17a,21aと直交しているが、本発明はこれに限らず、支持ピン25は、これら両平坦面17a,21aと交差し、調心輪17及び固定軸21に形成された各孔18,23と摺動部材30に形成されたピン孔31とに挿入されて、これら調心輪17、固定軸21及び摺動部材30を串刺し状に連結していればよい。
【0063】
また、上記実施形態では、摺動部材30において調心輪17の筒中心線に沿う方向の長さと挿入孔19の長さとの差が0.5mmに設定されているとしたが、本発明はこれに限らない。摺動部材30の同方向における長さと挿入孔19の長さとの差は、0.5mm未満(例えば0.2mm程度)であってもよく、0.5mm超(例えば5.0mm程度)であっても構わない。
【0064】
また、上述した実施形態では、本発明に係る伝動ベルト用プーリユニット5をテンショナとして用いているが、本発明に係る伝動ベルト用プーリユニット5の用途はそれに限定されず、例えば、ベルトの長さや接触角の調節、ベルト走行方向の変更など、ベルト伝動装置1における種々の用途に用いることができる。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記各実施形態に記載の範囲に限定されない。上記各実施形態が例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せに、さらにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。