(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
触媒粒子と液体炭化水素とを含むスラリーを内部に保持し、前記スラリーの上部に気相部を有する気泡塔型スラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応により、炭化水素を製造する炭化水素の製造装置において、
前記反応器の前記気相部から抜き出された前記反応器内の条件において気体状である炭化水素を冷却して該炭化水素の一部を液化させて気液分離を行う、冷却器と気液分離槽とからなる気液分離ユニットを複数有する気液分離装置を備えてなり、
前記気液分離装置における最後段の第1気液分離ユニットの上流側に配置されて、冷却器による冷却温度が80℃〜120℃に設定される第2気液分離ユニットの気液分離槽内の中間部に充填材層を設け、該第2気液分離ユニットの気液分離槽に、その底部から導出されたライトオイルの重質分を該第2気液分離ユニットの気液分離槽の前記充填材層中もしくは該充填材層より頂部側に返送する第2返送ラインを設け、
前記第1気液分離ユニットの気液分離槽に、その底部から導出されたライトオイルの軽質分を、前記第2気液分離ユニットの気液分離槽内における前記第2返送ラインの返送箇所より頂部側から、前記第1気液分離ユニットの冷却器における最後段の冷却器の直前のラインまでの間に返送する第1返送ラインを、設けたことを特徴とする炭化水素の製造装置。
前記第1返送ラインを、前記第1気液分離ユニットの気液分離槽の底部と、前記第2気液分離ユニットの気液分離槽内における前記充填材層より頂部側との間に設けたことを特徴とする請求項1記載の炭化水素の製造装置。
触媒粒子と液体炭化水素とを含むスラリーを内部に保持し、前記スラリーの上部に気相部を有する気泡塔型スラリー床反応器を用いたフィッシャー・トロプシュ合成反応により、炭化水素を製造する炭化水素の製造方法において、
冷却器と気液分離槽とからなる気液分離ユニットを複数有した気液分離装置により、前記反応器の前記気相部から抜き出された前記反応器内の条件において気体状である炭化水素を冷却して前記炭化水素の一部を液化させた後気液分離を行う、気液分離工程を備え、
前記反応器での反応が停止している間に、又は該反応器での一酸化炭素反応転化率が20%以下である間に、
前記気液分離装置における最後段の第1気液分離ユニットの上流側に配置されて、冷却器による冷却温度が80℃〜120℃に設定されるとともに、その気液分離槽内の中間部に充填材層が設けられた第2気液分離ユニットでは、該第2気液分離ユニットの気液分離槽の底部から導出されたライトオイルの重質分を、第2返送ラインによって前記第2気液分離ユニットの気液分離槽の前記充填材層中もしくは該充填材層より頂部側に返送し、
かつ、前記第1気液分離ユニットでは、その気液分離槽の底部から導出されたライトオイルの軽質分を、第1返送ラインによって前記第2気液分離ユニットの気液分離槽内における前記第2返送ラインの返送箇所より頂部側から、前記第1気液分離ユニットの冷却器における最後段の冷却器の直前のラインまでの間に返送することを特徴とする炭化水素の製造方法。
前記第1気液分離ユニットでは、その気液分離槽の底部から導出されたライトオイルの軽質分を、第1返送ラインによって前記第2気液分離ユニットの気液分離槽内における前記充填材層より頂部側に返送することを特徴とする請求項4記載の炭化水素の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の炭化水素の製造装置及び炭化水素の製造方法を詳しく説明する。
まず、本発明の炭化水素の製造装置の一実施形態を含む液体燃料合成システムを、
図1を参照して説明する。
図1に示す液体燃料合成システム1は、天然ガス等の炭化水素原料を液体燃料に転換するGTLプロセスを実行するプラント設備である。
【0023】
この液体燃料合成システム1は、合成ガス製造ユニット3と、FT合成ユニット5と、アップグレーディングユニット7とから構成されている。合成ガス製造ユニット3は、炭化水素原料である天然ガスを改質して一酸化炭素ガスと水素ガスを含む合成ガスを製造する。FT合成ユニット5は、合成ガス製造ユニット3において製造された合成ガスからFT合成反応により液体炭化水素を合成する。アップグレーディングユニット7は、FT合成反応により合成された液体炭化水素を水素化・精製して液体燃料(主として灯油、軽油)の基材を製造する。
以下、これら各ユニットの構成要素について説明する。
【0024】
合成ガス製造ユニット3は、例えば、脱硫反応器10と、改質器12と、排熱ボイラー14と、気液分離器16,18と、脱炭酸装置20と、水素分離装置26とを主に備える。脱硫反応器10は、水素化脱硫装置等で構成され、原料である天然ガスから硫黄化合物を除去する。改質器12は、脱硫反応器10から供給された天然ガスを改質して、一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H
2)とを主成分として含む合成ガスを生成する。排熱ボイラー14は、改質器12にて生成した合成ガスの排熱を回収して高圧スチームを発生する。
【0025】
気液分離器16は、排熱ボイラー14において合成ガスとの熱交換により加熱された水を気体(高圧スチーム)と液体とに分離する。気液分離器18は、排熱ボイラー14にて冷却された合成ガスから凝縮分を除去し気体分を脱炭酸装置20に供給する。脱炭酸装置20は、気液分離器18から供給された合成ガスから吸収液を用いて炭酸ガスを除去する吸収塔22と、該炭酸ガスを含む吸収液から炭酸ガスを放散させて再生する再生塔24とを有する。水素分離装置26は、脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスから、該合成ガスに含まれる水素ガスの一部を分離する。ただし、前記脱炭酸装置20は場合によっては設ける必要がないこともある。
【0026】
このうち改質器12は、例えば下記の化学反応式(1)、(2)で表される水蒸気・炭酸ガス改質法により、炭酸ガスと水蒸気とを用いて天然ガスを改質し、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。なお、この改質器12における改質法は、前記水蒸気・炭酸ガス改質法の例に限定されず、例えば、水蒸気改質法、酸素を用いた部分酸化改質法(POX)、部分酸化改質法と水蒸気改質法の組合せである自己熱改質法(ATR)、炭酸ガス改質法などを利用することもできる。
【0027】
CH
4+H
2O→CO+3H
2 ・・・(1)
CH
4+CO
2→2CO+2H
2 ・・・(2)
【0028】
また、水素分離装置26は、脱炭酸装置20又は気液分離器18と気泡塔型スラリー床反応器30とを接続する主配管から分岐した分岐ラインに設けられる。この水素分離装置26は、例えば、圧力差を利用して水素の吸着と脱着を行う水素PSA(Pressure Swing Adsorption:圧力変動吸着)装置などで構成できる。この水素PSA装置は、並列配置された複数の吸着塔(図示せず)内に吸着剤(ゼオライト系吸着剤、活性炭、アルミナ、シリカゲル等)を有しており、各吸着塔で水素の加圧、吸着、脱着(減圧)、パージの各工程を順番に繰り返すことで、合成ガスから分離した純度の高い水素ガス(例えば99.999%程度)を、水素を利用して所定反応を行う各種の水素利用反応装置(例えば、脱硫反応器10、ワックス留分水素化分解反応器60、中間留分水素化精製反応器61、ナフサ留分水素化精製反応器62など)へ連続して供給することができる。
【0029】
水素分離装置26における水素ガス分離方法としては、前記水素PSA装置のような圧力変動吸着法の例に限定されず、例えば、水素吸蔵合金吸着法、膜分離法、あるいはこれらの組合せなどであってもよい。
【0030】
次に、FT合成ユニット5について、
図1、
図2を参照して説明する。
図1、
図2に示すようにFT合成ユニット5は、気泡塔型スラリー床反応器30(以下、「反応器30」ということもある。)と、気液分離器32と、外部型触媒分離器34と、気液分離装置36と、第1精留塔40とを主に備える。
反応器30は、合成ガスから液体炭化水素を合成するもので、FT合成反応により合成ガスから液体炭化水素を合成するFT合成用反応器として機能する。この反応器30は、反応器本体80と、冷却管81とを主に備えており、内部温度は例えば180〜270℃程度で、かつ大気圧より加圧された条件下で運転される。
【0031】
反応器本体80は、略円筒型の金属製の容器である。反応器本体80の内部には、液体炭化水素(FT合成反応の生成物)中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーが収容されており、該スラリーによってスラリー床が形成されている。
この反応器本体80の下部においては、水素ガス及び一酸化炭素ガスを主成分とする合成ガスがスラリー中に噴射されるようになっている。そして、スラリー中に吹き込まれた合成ガスは、気泡となってスラリー中を反応器本体80の高さ方向(鉛直方向)下方から上方へ向かって上昇する。その過程で、合成ガスは液体炭化水素中に溶解し、触媒粒子と接触することにより、液体炭化水素の合成反応(FT合成反応)が進行する。具体的には、下記化学反応式(3)に示すように水素ガスと一酸化炭素ガスとが反応して、炭化水素を生成する。
【0032】
2nH
2+nCO→(−CH
2−)
n+nH
2O ・・・(3)
ここで、このような反応において、反応器に供給された一酸化炭素ガス(CO)に対して、反応器内で消費された一酸化炭素ガスの割合を、本願では一酸化炭素の反応転化率(以下、単に「反応転化率」ということもある。)としている。この反応転化率は、反応器本体80に単位時間当たりに流入するガス中の一酸化炭素ガスのモル流量(入口COモル流量)と、後述するように反応器本体80の気相部82から単位時間当たりに抜き出される気体排出分中の一酸化炭素ガスのモル流量(出口COモル流量)とから、百分率で算出される。すなわち、反応転化率は、以下の式(4)によって求められる。
反応転化率=
[(入口COモル流量−出口COモル流量)/入口COモル流量]×100
・・・(4)
【0033】
なお、前記反応器30の気相部から排出される気体排出分に含まれる、反応器本体80内で未反応であった合成ガスを再利用するため、気体排出分を冷却して凝縮する液体成分から分離されたガス成分を反応器本体80にリサイクルして、再度反応に供することが通常行われる。その場合に前記入口COモル流量は、新たに供給される合成ガスと前記リサイクルされるガスとから構成される反応器入口ガス中の、一酸化炭素ガスのモル流量をいう。
【0034】
反応器本体80に単位時間当たりに流入する合成ガス中の一酸化炭素ガスのモル流量(入口COモル流量)は、例えば反応器本体80に合成ガスを供給する供給管49に設けられたガスクロマトグラフ装置及び流量計(図示せず)によって連続的に、又は定期的に測定される。なお、前述したように、未反応の合成ガスを含むガスを反応器本体80にリサイクルする場合には、前記ガスクロマトグラフ装置及び流量計を供給管49上に設置する位置は、前記リサイクルされるガスが流通するラインとの合流点よりも下流側とするのが好ましい。また、反応器本体80の気相部82から単位時間当たりに抜き出される排出分中の一酸化炭素ガスのモル流量(出口COモル流量)は、後述する排出管88に設けられたガスクロマトグラフ装置及び流量計(図示せず)によって連続的に、又は定期的に測定される。したがって、このような測定値から、前記式(4)に基づいて一酸化炭素の反応転化率が連続的に、又は定期的に算出され、この算出結果によって運転が監視される。
【0035】
反応器本体80では、合成ガスが気泡として反応器本体80内を上昇することにより、この反応器本体80の内部においてはスラリーの上昇流(ガスリフト)が生じる。これにより、反応器本体80内部にスラリーの循環流が生じる。
【0036】
なお、反応器本体80内に収容されるスラリーの上部には気相部82が設けられており、該気相部82とスラリーとの界面において、気液分離がなされる。すなわち、スラリー中で反応することなくスラリーと気相部82との界面を通過した合成ガス、及びFT合成反応により生成した、反応器本体80内の条件において気体状である比較的軽質の炭化水素は、気体成分として前記気相部82に移る。その際に、気体成分に同伴された液滴(飛沫)の大部分、及びこの液滴に同伴された触媒粒子は重力によりスラリーに戻される。そして、反応器本体80の気相部82まで上昇した気体成分(未反応の合成ガス及び前記軽質の炭化水素)は、反応器本体80の気相部82(塔頂部)に接続された導管(抜出管83)を介して抜き出され、気体排出分となる。気体排出分は、その後、後述するように冷却された上で気液分離装置36に供給される。
【0037】
冷却管81は、反応器本体80の内部に設けられ、FT合成反応の反応熱を除去することにより、系内の温度を所定の温度に保つ。この冷却管81は、例えば、1本の管を屈曲させ、鉛直方向に沿って上下に複数回往復するように形成されていてもよい。また、例えば、バイヨネット型と呼ばれる二重管構造の冷却管を反応器本体80の内部に複数配置してもよい。すなわち、冷却管81の形状及び本数は前記形状及び本数に限られるわけではなく、反応器本体80内部に配置されて、スラリーを冷却することに寄与できるものであればよい。
【0038】
この冷却管81には、
図1に示す気液分離器32から供給される冷却水(例えば、反応器本体80内の温度との差が−50〜0℃程度の水)が流通するようになっている。この冷却水が冷却管81を流通する過程で、冷却管81の管壁を介してスラリーと熱交換することにより、反応器本体80内部のスラリーが冷却される。冷却水の一部は、水蒸気となって気液分離器32に排出され、中圧スチームとして回収されるようになっている。
スラリーを冷却するための媒体としては、前記のような冷却水に限られず、例えば、C
4〜C
10の直鎖、分岐鎖及び環状のアルカン、オレフィン、低分子量シラン、シリルエーテル、シリコンオイルなどを使用することができる。
【0039】
気液分離器32は、反応器30内に配設された冷却管81を流通して加熱された水を、水蒸気(中圧スチーム)と液体とに分離する。この気液分離器32で分離された液体は、前述したように冷却水として再び冷却管81に供給される。
【0040】
反応器本体80内に収容されるスラリーを構成する触媒は、特に限定されないが、シリカ、アルミナ等の無機酸化物からなる担体に、コバルト、ルテニウム、鉄等から選択される少なくとも1種の活性金属が担持された、固体粒子状の触媒が好ましく使用される。この触媒は、活性金属の他に、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、レニウム等の触媒の活性を高めるため等に添加される金属成分を更に有していてもよい。この触媒の形状は特に限定されないが、スラリーの流動性の観点、及び、流動に際して触媒粒子どうし、及び触媒粒子と反応器本体80の内壁、冷却管81等との衝突、摩擦により触媒粒子が崩壊あるいは磨耗して、微粉化された触媒粒子が発生することを抑制するとの観点から、略球状であることが好ましい。
また、触媒粒子の平均粒径は特に限定されないが、スラリーの流動性の観点から、40〜150μm程度であることが好ましい。
【0041】
外部型触媒分離器34は、
図2に示すように反応器30の外部に配設された分離槽50と、分離槽50内に設けられたフィルター52とを備えている。フィルター52は、触媒粒子を捕捉し、スラリーを構成する液体炭化水素と分離するためのもので、スラリーの流れ方向に対して単段、あるいは多段に設置されている。フィルターの目開き(フィルターを多段に設置する場合は最も小さいものの目開き)としては、5μm〜30μm、好ましくは5μm〜20μm、更に好ましくは5μm〜15μmであることが望ましい。また、分離槽50の上部には、反応器本体80の中央部に接続された流出管34aが設けられ、分離槽50の下部には、反応器本体80の下部に接続された返送管34bが設けられている。
【0042】
ここで、反応器本体80の下部とは、反応器本体80の底部から、反応器本体80の1/3以下の長さの範囲にある部分のことであり、反応器本体80の中央部とは、反応器本体80の上部と下部との間の部分のことである。流出管34aは反応器本体80内のスラリーの一部を外部型触媒分離器34に供給するための配管であり、返送管34bは、フィルター52で捕捉した触媒粒子及び炭化水素油を反応器本体80に返送するための配管である。
【0043】
また、配管41は、分離槽50内のフィルター52に接続し、触媒粒子と分離されたヘビーオイルを導出する。また、この配管41には、必要に応じて濾過装置(図示せず)や貯槽(図示せず)がこの順に配設されている。濾過装置は、内部にフィルター(図示せず)を有し、このフィルターによって導入された液体炭化水素を濾過する。すなわち、この濾過装置のフィルターは、前記フィルター52で捕捉されずに流出した、液体炭化水素中の微粉となった触媒粒子の少なくとも一部を捕捉し、除去する。貯槽は、前記フィルター52で濾過されて、更に前記濾過装置で再度濾過された液体炭化水素を一旦貯留する。そして、配管41にはこのような濾過装置(図示せず)や貯槽(図示せず)が必要に応じて配設された後、さらにその下流側に第1精留塔40が接続されている。
【0044】
また、前記反応器30には、その反応器本体80の気相部82(塔頂部)に抜出管83が接続されている。抜出管83は、熱交換部84を介して気液分離装置36に接続し、反応器本体80の塔頂まで上昇してきた気相部82中の気体成分を、気体排出分として気液分離装置36に移送する。熱交換部84は、合成ガス製造ユニット3から供給された合成ガスと反応器本体80から抜き出された気体排出分とを熱交換させ、相対的に温度が低い合成ガスを加熱するとともに、相対的に温度が高い気体排出分を冷却する。
【0045】
気液分離装置36は、本実施形態では第2気液分離ユニット85と第1気液分離ユニット86とからなり、第2気液分離ユニット85が上流側に配置されて前段を構成し、第1気液分離ユニット86が下流側に配置された後段を構成している。すなわち、本実施形態では、第1気液分離ユニット86が気液分離装置36の最後段の気液分離ユニットとなっている。なお、本発明の気液分離装置36は、二段構成のものに限定されることなく、三段以上であってもよい。気液分離装置36を複数段の構成とすることにより、気体排出分に含まれる液化可能な成分をより確実に液化し、回収することができる。
【0046】
第2気液分離ユニット85は、第2冷却器85aとこれの下流側に配置された第2気液分離槽85bとからなり、第1気液分離ユニット86は、第1冷却器86aとこれの下流側に配置された第1気液分離槽86bとからなっている。第2気液分離ユニット85の第2冷却器85aは、抜出管83に直接接続し、前記熱交換部84を通って冷却された排出分を水等の冷却媒体と熱交換させることでさらに冷却し、その一部を液化する。この第2冷却器85aは、熱交換部84を通って例えば180℃程度に冷却された排出分をさらに冷却することにより、その出口の温度を80℃以上120℃以下、好ましくは100℃以上120℃以下にするように構成されている。本実施形態では、110℃程度にするように構成されている。
【0047】
ここで、排出分中に僅かに含まれるワックス分は、100℃程度で固化(凝固)することから、第2気液分離ユニット85の第2冷却器85aで例えば80℃程度に冷却した場合、固化することが考えられる。しかし、ワックス分は排出分中に僅かに含まれるだけであり、したがって仮にワックス分が固化しても、この固化分は排出分中に溶解・分散するため、排出分全体の流動性は失われない。そのため、ワックス分が第2冷却器85aに付着することなく、ワックス分を含む排出分は第2冷却器85aの下流側に配置された第2気液分離槽85bに流入する。
【0048】
第2気液分離槽85bは、第2冷却器85aの出口に第2配管85cを介して接続されたもので、沸点が約110℃を超える液体炭化水素を沸点が約110℃より低い気体成分から分離するとともに、該気体成分を第1気液分離ユニット86側に排出するように構成されている。この第2気液分離槽85b内には、その高さ方向中央部に、パッキングやラシヒリング等からなる充填材が配置されている。これら充填材は、第2気液分離槽85bの高さ方向に層状に配置されており、これによって充填材層93を形成している。ここで、前記の第2配管85cは、充填材層93より第2気液分離槽85bの底部側(下側)に接続されている。したがって、第2冷却器85aを出た排出分は、第2気液分離槽85bの充填材層93より底部側に流入する。
【0049】
第2気液分離槽85bの底部には、気体成分から分離されたライトオイルの重質分を導出する第2導出管85dが接続されている。また、これとは別に、第2気液分離槽85bの底部には第2返送管(第2返送ライン)85eが接続されている。この第2返送管85eは、第2気液分離槽85bから導出したライトオイルの重質分を、該第2気液分離槽85bの前記充填材層93中もしくは該充填材層93より頂部側に返送するように構成されている。すなわち、この第2返送管85eは、その一端(末端)が前記充填材層93中もしくは該充填材層93より頂部側に接続され、これによって第2気液分離槽85bから導出されたライトオイルの重質分を、充填材層93中もしくは該充填材層93より頂部側に流入させるようになっている。(
図1、
図2では、第2返送管85eの一端(末端)を充填材層93中に接続しているが、該充填材層93より頂部側に接続してもよい。)
【0050】
ここで、この第2返送管85eには、第2気液分離槽85bから導出されたライトオイルの重質分を移送(圧送)するためのポンプ94と、第2返送ライン内冷却器95とが設けられている。第2返送ライン内冷却器95は、第2返送管85eにおいてポンプ94より下流側に配置されたもので、ポンプ94によって圧送されてきたライトオイルの重質分を、80℃以上でかつ前記第2冷却器85aによる冷却温度以下(本実施形態では約110℃以下)に冷却するように設定されている。
【0051】
すなわち、ポンプ94によって圧送されてきたライトオイルの重質分は、圧縮熱によってその温度が上昇するため、第2冷却器85aから第2気液分離槽85bに流入する前記排出分の温度より高くなる傾向にある。したがって、圧送されてきたライトオイルの重質分を第2返送ライン内冷却器95によって前記第2冷却器85aによる冷却温度以下に冷却することにより、第2気液分離槽85b内に返送されるライトオイルの重質分が気化し、第1気液分離ユニット86側に流れるのを防止することができる。なお、本実施形態では、第2返送ライン内冷却器95による冷却温度を100℃程度としている。
【0052】
このように第2返送管85eによってライトオイルの重質分を第2気液分離槽85bに返送し、充填材層93中もしくは該充填材層93より頂部側に流入させているので、第2気液分離槽85b内では、第2配管85cから流入した排出分中の気体成分と第2返送管85eによって返送されたライトオイルの重質分とが主に充填材層93中で気液接触する。これにより、気体成分中に蒸気や飛沫などとして含まれている(同伴されている)ワックス分は、返送されたライトオイルの重質分中に良好に吸収され、第2気液分離槽85bの底部から導出される。
【0053】
底部から導出されるライトオイルの重質分の一部は、第2導出管85dを介して配管89に流れ、さらに前記配管41に流れる。また、底部から導出されるライトオイルの重質分の残部は、前述したように第2返送管85eに流れ、第2気液分離槽85bに循環させられる。底部から導出されるライトオイルの重質分の、第2導出管85dに流れる量と第2返送管85eに流れる量とは、予め適宜に設定され、第2返送管85eに設けられた制御弁(図示せず)によって制御されている。なお、本実施形態では第2返送管85eを直接第2気液分離槽85bの底部に接続したが、例えば三方弁等を介して第2導出管85dに接続してもよい。その場合には、第2導出管85dの一部とこれに接続する第2返送管とが、本発明における第2返送ラインとなる。
【0054】
第1気液分離ユニット86の第1冷却器86aは、第2気液分離槽85bの頂部に接続配管87を介して接続され、第2気液分離槽85bから抜き出された気体成分を水等の冷却媒体と熱交換させてさらに冷却し、その一部を液化する。例えば、この第1冷却器86aは、第2気液分離槽85bから抜き出された気体成分をさらに冷却することにより、その出口の温度を40℃〜50℃程度にするように構成されている。本実施形態では、45℃程度にするように構成されている。なお、本実施形態では第1冷却器86aを単一の冷却器で構成したが、複数(例えば2つ)の冷却器によって第1冷却器86aを構成するようにしてもよい。その場合に、例えば一番目の冷却器で60℃程度に冷却し、二番目(最後)の冷却器で45℃程度に冷却するよう構成するのが好ましい。
【0055】
第1気液分離槽86bは、第1冷却器86aの出口に第1配管86cを介して接続されたもので、沸点が45℃程度を超える液体炭化水素を沸点が45℃より低い気体成分から分離するとともに、該気体成分を、その頂部に設けられた排出管88から排出するように構成されている。
【0056】
排出管88から排出された気体成分は、未反応の合成ガス(CO、H
2)やC
4以下のガス状炭化水素を主に含んでいる。したがって、この第1気液分離槽86bから排出される気体成分は、通常運転においてはその一部又は全部がリサイクル管(図示せず)によって合成ガスの供給管49に返送され、新たに供給される合成ガスと共に再度FT合成反応に供される。また、排出管88から排出される気体成分の一部、場合により全部は、フレアガス等として焼却されてもよい。
なお、第1配管86cには温度センサ(図示せず)が設けられており、これによって第1冷却器86aの出口温度が連続的に監視されるようになっている。
【0057】
第1気液分離槽86bの底部には、気体成分から分離された液体炭化水素を導出する第1導出管86dが接続されている。第1導出管86dは、前記第2導出管85dとともに一つの配管89に接続しており、この配管89は前記配管41に接続している。
第1精留塔40は、配管41に接続して配設されたもので、配管41を経て供給されるヘビーオイル、すなわち外部型触媒分離器34から導出されたヘビーオイルと、第2導出管85d、第1導出管86d、さらに配管89を通って供される液体炭化水素、すなわち第2気液分離槽85b、第1気液分離槽86bから導出されたライトオイルの重質分及びライトオイルの軽質分とを蒸留し、沸点に応じて各留分に分離する。
【0058】
ここで、本実施形態では、気液分離装置36の最後段の気液分離ユニットとなる第1気液分離ユニット86の、下流側のラインとなる第1導出管86dに、三方弁等からなる切換弁90が設けられており、該切換弁90には第1返送管(第1返送ライン)91が接続されている。この第1返送管91は、前記第2気液分離ユニット85の第2気液分離槽85b内における前記第2返送管85e(第2返送ライン)の返送箇所より頂部側に接続されている。
【0059】
ただし、本発明はこれに限定されることなく、前記第1返送管91は、例えば
図2中に破線で示すように、第1気液分離ユニット86の第1冷却器86aの直前のライン、すなわち接続配管87に接続していてもよい。また、第1冷却器86aを複数の冷却器で構成した場合には、最後段の冷却器の直前のラインに接続してもよい。すなわち、第1返送管91は、前記第2気液分離ユニット85の第2気液分離槽85b内における前記第2返送管85eの返送箇所より頂部側から、前記第1気液分離ユニット86の冷却器における最後段の冷却器の直前のラインまでの間に、設けられる。これにより、最も低い温度に冷却する第1気液分離ユニット86の最後段の冷却器に対して、後述する第1導出管86dを流れるライトオイルの軽質分を、リサイクルさせるようになっている。
【0060】
この第1返送管91には、例えばポンプ(図示せず)が設けられることにより、第1導出管86dを流れるライトオイルの軽質分を第2気液分離槽85bに移送(供給)するようになっている。すなわち、第1返送管91は、その基端が第1導出管86dに接続し、その末端が第2気液分離槽85bに接続している。
【0061】
ここで、第1気液分離ユニット86(気液分離装置36の最後段の気液分離ユニット)の第1気液分離槽86bの底部に接続する第1導出管86dに導出されるライトオイルの軽質分は、第1冷却器86aで凝縮した液体炭化水素であり、JIS K2269に規定される曇り点(CP)が、第1気液分離ユニット86における第1冷却器86aの出口温度(通常運転時45℃程度)よりも低い軽質炭化水素となっている。
【0062】
切換弁90は、第1気液分離槽86bから導出されたライトオイルの軽質分の全量が配管89に排出されるようにする形態と、全量が第1返送管91に排出されるようにする形態と、一部が配管89に排出され、残部が第1返送管91に排出されるようにする形態との、三通りに切り換え可能になっている。また、前記ライトオイルの軽質分の一部が配管89に排出され、残部が第1返送管91に排出されるようにする形態では、各配管89、91に排出されるライトオイルの軽質分の量の比率を適宜に変更できるようになっている。
【0063】
図1に示すようにアップグレーディングユニット7は、例えば、ワックス留分水素化分解反応器60と、中間留分水素化精製反応器61と、ナフサ留分水素化精製反応器62と、気液分離器63,64,65と、第2精留塔70と、ナフサ・スタビライザー72とを備えている。ワックス留分水素化分解反応器60は、第1精留塔40の塔底に接続されている。中間留分水素化精製反応器61は、第1精留塔40の中央部に接続されている。ナフサ留分水素化精製反応器62は、第1精留塔40の上部に接続されている。気液分離器63,64,65は、これら水素化反応器60,61,62のそれぞれに対応して設けられている。第2精留塔70は、気液分離器63,64から供給された液体炭化水素を沸点に応じて分留する。ナフサ・スタビライザー72は、気液分離器65及び第2精留塔70から供給されたナフサ留分の液体炭化水素を精留し、C
4以下の気体成分はフレアガスとして排出し、炭素数が5以上の成分は製品のナフサとして回収する。
【0064】
次に、以上のような構成の合成反応システム1により、天然ガスから液体燃料を合成する工程(GTLプロセス)について説明する。
合成反応システム1には、天然ガス田または天然ガスプラントなどの外部の天然ガス供給源(図示せず)から、炭化水素原料としての天然ガス(主成分がCH
4)が供給される。前記合成ガス合成ユニット3は、この天然ガスを改質して合成ガス(一酸化炭素ガスと水素ガスを主成分とする混合ガス)を製造する。
【0065】
まず、前記天然ガスは、水素分離装置26によって分離された水素ガスとともに脱硫反応器10に供給される。脱硫反応器10は、前記水素ガスを用いて天然ガスに含まれる硫黄化合物を公知の水素化脱硫触媒で水素化して硫化水素に転換し、さらにこの硫化水素を酸化亜鉛のような吸着材により吸着・除去することにより、天然ガスの脱硫を行う。このようにして天然ガスを予め脱硫しておくことにより、改質器12及び気泡塔型スラリー床反応器30、アップグレーディングユニット7等で用いられる触媒の活性が硫黄化合物により低下することを防止できる。
【0066】
このようにして脱硫された天然ガス(炭酸ガスを含んでもよい。)は、炭酸ガス供給源(図示せず)から供給される炭酸ガス(CO
2)と、排熱ボイラー14で発生した水蒸気とが混合された後に、改質器12に供給される。改質器12は、例えば、水蒸気・炭酸ガス改質法により、炭酸ガスと水蒸気とを用いて天然ガスを改質して、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。このとき、改質器12には、例えば、改質器12が備えるバーナー用の燃料ガスと空気とが供給されており、該バーナーにおける燃料ガスの燃焼熱及び改質器12の炉内の輻射熱により、吸熱反応である前記水蒸気・炭酸ガス改質反応に必要な反応熱がまかなわれている。
【0067】
このようにして改質器12で製造された高温の合成ガス(例えば、900℃、2.0MPaG)は、排熱ボイラー14に供給され、排熱ボイラー14内を流通する水との熱交換により冷却(例えば400℃)されて、排熱回収される。このとき、排熱ボイラー14において合成ガスにより加熱された水は気液分離器16に供給され、この気液分離器16から気体分が高圧スチーム(例えば3.4〜10.0MPaG)として改質器12または他の外部装置に供給され、液体分の水が排熱ボイラー14に戻される。
【0068】
一方、排熱ボイラー14において冷却された合成ガスは、凝縮液分が気液分離器18において分離・除去された後、脱炭酸装置20の吸収塔22、または気泡塔型スラリー床反応器30に供給される。吸収塔22は、貯留している吸収液中に、合成ガスに含まれる炭酸ガスを吸収することで、該合成ガスから炭酸ガスを分離する。この吸収塔22内の炭酸ガスを含む吸収液は、再生塔24に導入され、該炭酸ガスを含む吸収液は例えばスチームで加熱されてストリッピング処理され、放散された炭酸ガスは、再生塔24から改質器12に送られて、前記改質反応に再利用される。
【0069】
このようにして、合成ガス製造ユニット3で生成された合成ガスは、
図2に示す供給管49を介して前記FT合成ユニット5の気泡塔型スラリー床反応器30に供給される。このとき、気泡塔型スラリー床反応器30に供給される合成ガスの組成比は、FT合成反応に適した組成比(例えば、H
2:CO=2:1(モル比))に調整されている。なお、この合成ガスは、本実施形態では気泡塔型スラリー床反応器30の気相部から抜き出された気体成分を熱交換部84において冷却する冷媒となる。したがって、該気体成分を所望温度に冷却するべく、必要に応じて予備冷却されるように構成されていてもよい。また、この合成ガスは、脱炭酸装置20と気泡塔型スラリー床反応器30とを接続する配管に設けられた圧縮機(図示せず)により、FT合成反応に適切な圧力(例えば3.6MPaG)まで昇圧されるように構成されていてもよい。
【0070】
また、前記脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスの一部は、水素分離装置26にも供給される。水素分離装置26は、前記のように圧力差を利用した吸着、脱着(水素PSA)により、合成ガスに含まれる水素ガスを分離する。分離された水素ガスは、ガスホルダー(図示せず)等から圧縮機(図示せず)を介して、合成反応システム1内において水素ガスを利用して所定反応を行う各種の水素利用反応装置(例えば、脱硫反応器10、ワックス留分水素化分解反応器60、中間留分水素化精製反応器61、ナフサ留分水素化精製反応器62など)に、連続して供給される。
【0071】
次いで、前記FT合成ユニット5は、前記合成ガス製造ユニット3によって製造された合成ガスから、FT合成反応によって炭化水素を合成する。以下、FT合成反応による炭化水素の合成方法に基づき、本発明の炭化水素の製造方法の一実施形態を説明する。
【0072】
FT合成ユニット5の通常運転においては、前記合成ガス製造ユニット3において生成した合成ガスが供給管49により供給される。その際、反応器30において未反応であった合成ガスを含むリサイクルガスは、排出管88からさらにリサイクル管(図示せず)を経て供給管49に合流する。したがって、前記合成ガスは、このようなリサイクルガスと混合された後、熱交換部84において反応器30から抜き出された気体排出分と熱交換して加熱され、気泡塔型スラリー床反応器30を構成する反応器本体80の底部に流入し、反応器本体80内に保持されたスラリー内を気泡となって上昇する。
【0073】
その際、反応器本体80内では、前述したFT合成反応により、該合成ガスに含まれる一酸化炭素ガスと水素ガスとが反応して、炭化水素が生成する。なお、前述のように、供給管49により供給される合成ガスと前述のリサイクルガスとの混合ガスについては、反応器本体80に流入する前に、流量計(図示せず)によりその流量が測定され、また、ガスクロマトグラフ装置(図示せず)によりその中に含まれる一酸化炭素ガスの濃度が測定される。そしてこれらの値から、単位時間当たりに反応器本体80に流入する一酸化炭素ガスのモル流量(入口COモル流量)が算出される。
【0074】
また、この合成反応時には、冷却管81に水を流通させることでFT合成反応の反応熱を除去する。この熱交換により加熱された水は、気化して水蒸気となる。この水蒸気に含まれる液体の水は、気液分離器32で分離されて冷却管81に戻され、気体分が中圧スチーム(例えば1.0〜2.5MPaG)として外部装置に供給される。
【0075】
気泡塔型反応器30の反応器本体80内の、液体炭化水素及び触媒粒子を含有するスラリーの一部は、
図2に示すように反応器本体80の中央部から流出管34aを介して抜き出され、外部型触媒分離器34に導入される。外部型触媒分離器34では、導入されたスラリーをフィルター52によって濾過し、触媒粒子を捕捉する。これにより、スラリーを固形分とヘビーオイルからなる液体分とに分離する。外部型触媒分離器34のフィルター52には、捕捉した触媒粒子をフィルター表面から取り除くと共に反応器本体80に戻すために、適宜、通常の流通方向とは逆方向に炭化水素油を流通させる。このとき、フィルター52により捕捉された触媒粒子は、返送管34bを介して、一部の液体炭化水素と共に反応器本体80に戻される。
【0076】
また、反応器本体80の気相部82から抜き出された気体排出分は、抜出管83を通って熱交換部84で反応器本体80に供給される合成ガス(リサイクルガスを含む)との熱交換によって冷却された後、気液分離装置36に流入する。なお、気液分離装置36から気体成分を導出する排出管88を流通する気体成分は、前述したように、流量計により流量が測定され、またガスクロマトグラフ装置により、その中に含まれる一酸化炭素ガスの濃度が測定される。これらの値から、反応器本体80の塔頂に接続する抜出管83から単位時間当たりに抜き出される一酸化炭素ガスのモル流量(出口COモル流量)が算出される。これにより、反応器30での反応転化率が連続的に、又は定期的に計算・監視される。
なお、FT合成ユニット5における通常運転では、この反応転化率は30%〜70%程度であり、合成ガスの供給を開始するスタートアップ時やその他の非定常的な運転時でない限り、通常は反応転化率が20%以下になることはない。
【0077】
気液分離装置36に流入した反応器本体80の塔頂からの気体排出分は、第2気液分離ユニット85の第2冷却器85aでさらに冷却され、気液混合状態で第2気液分離槽85bに流入する。第2気液分離槽85bに流入した気液混合物は、ここで気液分離され、液体分、すなわちライトオイルの重質分は第2導出管85dから導出される。第2導出管85dに導出されたライトオイルの重質分は、配管89に流入し、その後配管41を通って第1精留塔40に流入する。
なお、本実施形態では、通常運転時には基本的にライトオイルの重質分が第2返送管85eに導出されないように、第2返送管85eに設けられた制御弁(図示せず)によって制御されている。
【0078】
また、第2気液分離槽85bに流入して液体成分と気液分離され、その後接続配管87を流通する気体成分は、第1気液分離ユニット86の第1冷却器86aでさらに冷却され、気液混合状態で第1気液分離槽86bに流入する。第1気液分離槽86b内に流入した気液混合物は、ここで気液分離され、液体分、すなわちライトオイルの軽質分は第1導出管86dから導出される。FT合成ユニット5が通常運転にある場合には、第1導出管86dに設けられた切換弁90は、該第1導出管86dを流通するライトオイルの軽質分の全量を配管89に排出する形態となっている。
【0079】
したがって、第1導出管86dを流通するライトオイルの軽質分は、第2導出管85dを流通するライトオイルの重質分と同様に配管89に流入し、その後配管41を通って第1精留塔40に流入する。なお、第1気液分離槽86bにて分離された気体成分は、前述したように排出管88より排出される。また、第1気液分離槽86bに流入する液体成分中には、反応器30内で副生する水が含まれている。したがって、第1気液分離槽86bの底部には、水抜き用の配管(図示せず)を設けておくのが好ましい。
【0080】
気液分離器86bにおいて液体成分から分離され、排出管88に排出された気体成分は、前述したように反応器本体80内で未反応であった合成ガス、及びFT合成反応によって生成したC4以下のガス状炭化水素を主成分としている。したがって、FT合成ユニット5が通常運転にあるときには、排出管88に排出された気体成分はリサイクル管(図示せず)によって合成ガスの供給管49に供給され、新たに供給される合成ガスと混合されて反応器本体80にリサイクルされ、再度FT合成反応に供される。
また、排出管88により排出される気体成分の少なくとも一部は、フレアガス等として焼却されてもよい。
【0081】
一方、例えば前記スタートアップの前段階や何らかの理由により一時的にFT合成反応を停止する必要がある場合などには、前述したように合成ガス(原料ガス)の供給を行なわず、反応系内に窒素ガスを循環する運転を行うことがある。また、前記窒素ガスを循環する運転から通常運転に移行する途中段階などにおいては、合成ガスの供給は行なうものの、反応器温度を通常運転に比較して低温に設定し、実質的にFT合成反応が進行しないようにする、あるいは通常運転に比較して一酸化炭素ガスの反応転化率を大幅に低い値とする運転を行なうことがある。
【0082】
このような非定常的な運転を行う場合にあっては、気液分離装置36の冷却器、特に後段(最後段)の第1気液分離ユニット86の第1冷却器86aにワックスが付着し蓄積されて、伝熱が低下し、該冷却器出口の温度が通常の運転温度(45℃程度)を超えて上昇する場合がある。このような冷却器内のワックスの付着の原因については、FT合成ユニット5が通常運転にあるときには前記冷却器により凝縮したライトオイルの軽質分が該冷却器内を多量に流通するのに対して、前記非定常的な運転においてFT合成反応が実質的に進行しない、あるいは反応転化率が大幅に低下する場合には、前記冷却器内を流通するライトオイルの軽質分の量が大幅に減少し、付着するワックスを「洗い流す」効果が大幅に低下することにあると考えられる。
【0083】
そこで、本実施形態では、反応器30において、FT合成反応が実質的に進行しない運転、あるいは反応転化率が20%以下である運転を実施する際に、前記第2返送管85eに設けた制御弁を切り換え、第2気液分離槽85bの底部からライトオイルの重質分の一部を第2返送管85eに導出する。導出されたライトオイルの重質分は、ポンプ94にて圧送され、第2返送ライン内冷却器95で所定温度に冷却された後、第2気液分離槽85bの充填材層93より頂部側(上側)に返送される。すると、第2気液分離槽85b内では、第2配管85cから流入し、第2気液分離槽85b内を上昇する排出分中の気体成分と、第2返送管85eによって返送され、充填材層93中にシャワー状に降らされたライトオイルの重質分とが、充填材層93中にて高効率で気液接触する。
【0084】
これにより、気体成分中に蒸気や飛沫などとして含まれている(同伴されている)ワックス分は、返送されたライトオイルの重質分中に良好に吸収されて液化し、第2気液分離槽85bの底部から導出される。すなわち、一部は第2導出管85dから配管89、配管41を通って第1精留塔40に流入する。残部は、第2返送管85eに導出され、第2気液分離槽85bに循環させられる。なお、このような第2返送管85eによるライトオイルの重質分のリサイクル運転は、基本的には非定常運転時のみ行うが、通常運転時にも行うようにしてもよい。
【0085】
また、前記した非定常運転時に第1気液分離ユニット86では、第1導出管86dに設けられた切換弁90を切り換え、該第1導出管86dを流通するライトオイルの軽質分の一部又は全量を、第1返送管91に流入させる。第1返送管91に流入させるライトオイルの軽質分の量については、転化率等によって適宜に決定する。すなわち、第1冷却器86aやその上流側に付着し蓄積されるワックスに対して充分な洗い流し効果が得られる量となるように、切換弁90を調節する。
【0086】
このように切換弁90を切り換えると、所定量のライトオイルの軽質分が第1返送管91に流入し、さらに第1返送管91を経て第2気液分離槽85bの第2返送管85eの返送箇所より頂部側(上側)に流入する。すると、第1返送管91を経て第2気液分離槽85bに流入するライトオイルの軽質分の曇り点(CP)は第1冷却器86aの出口温度よりも低いので、第2気液分離槽85bの頂部側に付着したワックスや接続配管87内に付着したワックス、さらに第1冷却器86aに付着したワックスを前記ライトオイルの軽質分によって再溶解し、洗い流すことができる。また、新たにワックスが付着することを防止することができる。
【0087】
なお、第2気液分離槽85bの頂部側や接続配管87に付着するワックスは僅かであり、ほとんどのワックスは第1冷却器86aに付着するため、実質的にはこの第1冷却器86aに付着したワックスを前記ライトオイルの軽質分によって再溶解し、洗い流すようにする。
また、第2気液分離槽85bには、第2返送管85eによってライトオイルの重質分をリサイクルさせ、第1返送管91によってライトオイルの軽質分をリサイクルさせているが、ライトオイルの重質分は充填材層93中もしくは該充填材層93より頂部側に導入され、ライトオイルの軽質分は第2返送管85eの返送箇所より頂部側に導入されるため、これらは混ざり合うことはない。したがって、ライトオイルの重質分がライトオイルの軽質分に同伴され、第1気液分離ユニット86側に流れることが防止されている。
【0088】
本実施形態において、第2返送管85eによってライトオイルの重質分を第2気液分離槽85bにリサイクルさせたり、第1返送管91によってライトオイルの軽質分を第2気液分離槽85bに返送(供給)する期間について、FT合成ユニット5のスタートアップの場合を例にして以下に説明する。
FT合成ユニット5のスタートアップにおいては、原料ガス(合成ガス)を反応器30に供給する前段階として、通常、スラリーを保持した反応器30の系内に窒素ガスを循環させ、スラリーの流動を確保する。この段階ではFT合成反応は進行していないが、スラリーを構成する液体炭化水素に含まれるヘビーオイルの一部が気化し、反応器本体80の塔頂から抜出管83により排出される窒素ガスを主成分とする気体排出分に同伴する。
【0089】
スタートアップ時のスラリーを構成する液体炭化水素としては、一般的に、軽質分を殆ど含まないヘビーオイルを用いるため、抜出管83から排出されるヘビーオイル中の軽質分は少なく、したがって、前記冷却器で凝縮するライトオイルの軽質分の量は少ない。このため、この窒素ガスを循環させる運転においては、ワックスが第1冷却器86a等に付着し易い。このワックスの付着を防止するために、この窒素ガスの循環を行なう運転の期間に、予め第2気液分離槽85bに貯留しておいたライトオイルの重質分を第2返送管85eによって第2気液分離槽85bにリサイクルさせ、かつ、予め第1気液分離槽86bに貯留しておいたライトオイルの軽質分を第1返送管91によって第2気液分離槽85bにリサイクルさせてもよい。
【0090】
FT合成ユニット5のスタートアップにおいては、次に合成ガスの反応器30への供給を開始する。一般的に、合成ガスの供給を開始しても、発熱反応であるFT合成反応が暴走状態とならないよう、すぐに反応転化率を通常運転の値に設定することはせず、徐々に反応転化率を増加させる運転を行なう。この段階においても、新たな炭化水素の生成は通常運転に比較して大幅に少ない。また、反応温度が低く設定されているので、FT合成反応の特性として、生成する炭化水素の炭素数が大きくなる(相対的に重質炭化水素が多く生成する)。
【0091】
したがって、この運転期間においても、気液分離装置36の冷却器にはワックスが付着し易い。よって、この期間内にワックスの付着を防止するため、予め第2気液分離槽85bに貯留しておいたライトオイルの重質分を第2返送管85eによって第2気液分離槽85bにリサイクルさせ、かつ、予め第1気液分離槽86bに貯留しておいたライトオイルの軽質分を第1返送管91によって第2気液分離槽85bにリサイクルさせてもよい。
【0092】
一般的に、気液分離装置36の冷却器(例えば第1冷却器86a)にワックスが付着するのは、FT合成反応が実質的に進行しない期間及び反応転化率が20%以下の期間であり、特にワックスが付着しやすいのは、FT合成反応が実質的に進行しない期間及び反応転化率が10%以下の期間である。したがって、本実施形態において、第2返送管85eによってライトオイルの重質分を第2気液分離槽85bにリサイクルさせ、かつ、第1返送管91によって第2気液分離槽85bにライトオイルの軽質分をリサイクルさせる期間としては、FT合成反応が実質的に進行しない期間及び反応転化率が20%以下の期間が好ましく、FT合成反応が実質的に進行しない期間及び反応転化率が10%以下の期間が特に好ましい。
【0093】
前記期間内であれば、任意の期間に第2返送管85eによるライトオイルの重質分のリサイクル、及び第1返送管91によるライトオイルの軽質分のリサイクルを行ってよく、例えば運転開始当初は前記ライトオイルの重質分、及びライトオイルの軽質分のリサイクルを行なわず、冷却器86aの出口温度を監視し、該温度の上昇が見られた段階で前記ライトオイルの重質分、及びライトオイルの軽質分のリサイクルを開始してもよい。
【0094】
あるいは、窒素ガスの循環を行なう段階において前記ライトオイルの重質分、及びライトオイルの軽質分のリサイクルを開始し、その後合成ガスの供給を開始し、反応転化率を増加させ、反応転化率が20%に達するまで継続して前記ライトオイルの重質分、及びライトオイルの軽質分のリサイクルを行なってもよい。このような実施態様とすることにより、最も確実に冷却器へのワックスの付着を防止することができる。
【0095】
あるいは、反応転化率が例えば10%に達した段階で、前記ライトオイルの重質分、及びライトオイルの軽質分のリサイクルを停止してもよい。なお、場合により、反応転化率が20%を超える段階においても、前記ライトオイルの重質分、及びライトオイルの軽質分のリサイクルを継続してもよいが、一般的には、反応転化率が20%を超えると、前記ライトオイルの重質分、及びライトオイルの軽質分のリサイクルを停止しても、第1冷却器86a等へのワックスの付着は生じなくなる。これは、FT合成反応による軽質の炭化水素の生成が増加し、前記第1冷却器86a内で凝縮し、該第1冷却器86aを流通するライトオイルの軽質分の量が増加し、「洗い流し」効果が十分になるためと推定される。
【0096】
このようにライトオイルの重質分、及びライトオイルの軽質分のリサイクルは、反応器30での反応転化率を連続的に又は定期的に監視し、前述したように反応転化率に応じて、リサイクル及びその停止を行なうことができる。また、第1冷却器86aの出口温度を監視することにより、ライトオイルの重質分、及びライトオイルの軽質分のリサイクル、リサイクルの停止を行なってもよい。
【0097】
なお、第1冷却器86aの出口温度は、例えば第1配管86cに設けられた温度センサ(図示せず)によって連続的に監視することができる。前記ライトオイルの軽質分の第1返送管91へのリサイクルの開始時期を、前記出口温度によって判断してもよい。さらに、前記ライトオイルの軽質分の第1返送管91へのリサイクルを行なっている場合には、その効果を前記出口温度から判断することができ、これに基づき、リサイクルするライトオイルの軽質分の流量を調整することもできる。また、リサイクルしているライトオイルの軽質分の曇り点を測定し、前記出口温度よりも低いことを確認することも好ましい。
【0098】
次に、第1精留塔40は、前記のようにして反応器30から外部型触媒分離器34を介して供給されたヘビーオイル、及び気液分離装置36を介して供給された液体炭化水素を分留し、ナフサ留分(沸点が約150℃より低い。)と、中間留分(沸点が約150〜360℃)と、ワックス留分(沸点が約360℃を超える。)とに分離する。この第1精留塔40の底部から取り出されるワックス留分の液体炭化水素(主としてC
22以上)は、ワックス留分水素化分解反応器60に移送され、第1精留塔40の中央部から取り出される中間留分の液体炭化水素(主としてC
11〜C
21)は、中間留分水素化精製反応器61に移送され、第1精留塔40の上部から取り出されるナフサ留分の液体炭化水素(主としてC
5〜C
10)は、ナフサ留分水素化精製反応器62に移送される。
【0099】
ワックス留分水素化分解反応器60は、第1精留塔40の塔底から供給された炭素数の多いワックス留分の液体炭化水素(概ねC
22以上)を、前記水素分離装置26から供給される水素ガスを利用して水素化分解して、その炭素数をC
21以下に低減する。この水素化分解反応では、触媒と熱を利用して、炭素数の多い炭化水素のC−C結合を切断して、炭素数の少ない低分子量の炭化水素を生成する。このワックス留分水素化分解反応器60により、水素化分解された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器63において気体と液体とに分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、中間留分水素化精製反応器61及びナフサ留分水素化精製反応器62に移送される。
【0100】
中間留分水素化精製反応器61は、第1精留塔40の中央部から供給された炭素数が中程度である中間留分の液体炭化水素(概ねC
11〜C
21)を、水素分離装置26からワックス留分水素化分解反応器60を介して供給される水素ガスを用いて、水素化精製する。この水素化精製反応では、主に、燃料油基材としての低温流動性を向上する目的で、分枝鎖状飽和炭化水素を得るために、前記液体炭化水素を水素化異性化し、また、前記液体炭化水素中に含まれる不飽和炭化水素に水素を付加して飽和させる。さらに、前記炭化水素中に含まれるアルコール類等の含酸素化合物を水素化して飽和炭化水素に変換する。このようにして水素化精製された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器64で気体と液体とに分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、前記水素化反応に再利用される。
【0101】
ナフサ留分水素化精製反応器62は、第1精留塔40の上部から供給された炭素数が少ないナフサ留分の液体炭化水素(概ねC
10以下)を、水素分離装置26からワックス留分水素化分解反応器60を介して供給される水素ガスを用いて、水素化精製する。これにより、供給されるナフサ留分に含まれる不飽和炭化水素及びアルコール類等の含酸素化合物は飽和炭化水素に変換される。このようにして水素化精製された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器65で気体と液体に分離され、そのうち液体炭化水素は、ナフサ・スタビライザー72に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、前記水素化反応に再利用される。
【0102】
次いで、第2精留塔70は、前記のようにしてワックス留分水素化分解反応器60及び中間留分水素化精製反応器61においてそれぞれ水素化分解及び水素化精製された液体炭化水素を、炭素数がC
10以下の炭化水素(沸点が約150℃より低い。)と、灯油留分(沸点が約150〜250℃)と、軽油留分(沸点が約250〜360℃)及びワックス留分水素化分解反応器60からの未分解ワックス留分(沸点が約360℃を超える。)とに分留する。第2精留塔70の下部からは軽油留分が取り出され、中央部からは灯油留分が取り出される。一方、第2精留塔70の塔頂からは、炭素数がC
10以下の炭化水素が取り出されて、ナフサ・スタビライザー72に供給される。
【0103】
さらに、ナフサ・スタビライザー72では、前記ナフサ留分水素化精製反応器62及び第2精留塔70から供給された炭素数がC
10以下の炭化水素を蒸留して、製品としてのナフサ(C
5〜C
10)を分離・精製する。これにより、ナフサ・スタビライザー72の塔底からは、高純度のナフサが取り出される。一方、ナフサ・スタビライザー72の塔頂からは、製品対象外である炭素数が所定数以下(C
4以下)の炭化水素を主成分とするフレアガスが排出される。このフレアガスは、外部の燃焼設備(図示せず)に導入されて、燃焼された後に大気放出される。
【0104】
本実施形態の炭化水素の製造装置及びこれを用いた製造方法によれば、第2気液分離ユニット85の第2気液分離槽85b内の中間部に充填材層93を設け、該第2気液分離槽85bに、その底部から導出されたライトオイルの重質分を該第2気液分離槽85bの前記充填材層93中もしくは該充填材層93より頂部側に返送する第2返送管85eを設けたので、該第2気液分離槽85bに導入された炭化水素中の気体分と充填材層93中もしくは該充填材層93より頂部側に返送されたライトオイルの重質分とを、充填材層93中にて気液接触させることで導入された炭化水素中の重質分の蒸気や飛沫などをライトオイルの重質分中に良好に吸収させることができる。これにより、炭化水素中のワックス分である重質分が蒸気や飛沫などとして第2気液分離槽85bの頂部から流出し、最後段の第1気液分離ユニット86側に流れるのを防止することができる。
【0105】
また、第1気液分離ユニット86の第1気液分離槽86bに、その底部から導出されたライトオイルの軽質分を、前記第2気液分離槽85b内における前記第2返送管85eの返送箇所より頂部側に返送する第1返送管91を設けたので、第2気液分離槽85b内における第2返送管85eの返送箇所より頂部側から第1冷却器86aまでの間にワックスが付着することを確実に防止でき、また、付着したワックスを除去することができる。
【0106】
さらに、長時間待機運転を行った際にも、第2返送管85eを設けたことで第2気液分離槽85bの頂部から流出する炭化水素中にワックス分が含まれるのを抑制し、ワックス分が最後段の第1気液分離ユニット側に流れるのを防止しているので、第1返送管91を流れて循環されるライトオイルの軽質分中にワックス分が濃縮されるのを防止することができる。
よって、FT合成ユニットの稼働率の低下や、設備の大型化や設備コストの上昇を招くことなく、ワックスの付着に伴う不都合の発生をより充分に防止することができる。
【0107】
また、第2返送ライン内冷却器95では、ポンプ94から送られてきたライトオイルの重質分を80℃以上でかつ第2気液分離ユニット85の第2冷却器85aによる冷却温度以下に冷却するので、第2気液分離槽85b内に返送するライトオイルの重質分が気化し、第1気液分離ユニット86側に流れるのを防止することができる。すなわち、ポンプ94によって圧送されてきたライトオイルの重質分は、圧縮熱によってその温度が上昇するため、第2冷却器85aから第2気液分離槽85bに流入する前記排出分の温度より高くなる傾向にあるが、第2返送ライン内冷却器95によって冷却することにより、前述したようにライトオイルの重質分が気化するのを確実に防止することができる。
【0108】
なお、前記実施形態では、スラリーを濾過するフィルター52を外部型触媒分離器34の分離槽50内に配置したFT合成ユニット5を用いて、本発明の製造方法を実施するようにしたが、本発明はこれに限定されることなく、
図3に示すように反応器30内にフィルター52を配置する、内部型の触媒分離機構を設けたFT合成ユニット100を用いて炭化水素を製造するようにしてもよい。
【0109】
図3に示すFT合成ユニット100において、
図2に示したFT合成ユニット5と異なるところは、外部型触媒分離器34に代えて、反応器30内にフィルター52を設け、反応器30に内部型の触媒分離機構を形成している点である。この触媒分離機構は、
図2に示した外部型触媒分離器34の分離槽50内に設けられてフィルター52を主とする構成と同様の構成からなる。
【0110】
また、本発明の製造方法を実施するFT合成ユニットとしては、触媒分離機構として外部型と内部型とを併用したものを用いることもできる。すなわち、
図2に示した外部型触媒分離器34を備えるとともに、
図3に示したように反応器30内にフィルター52を備えた構成のFT合成ユニットを用いて、本発明の製造方法を実施してもよい。
【0111】
さらに、前記実施形態においては、液体燃料合成システム1に供給される炭化水素原料に天然ガスを用いたが、例えば、アスファルト、残油など、その他の炭化水素原料を用いてもよい。
また、前記実施形態においては、液体燃料合成システム1を用いて本発明の製造方法を実施する形態について述べたが、本発明は少なくとも水素ガス及び一酸化炭素ガスを主成分とする合成ガスと触媒粒子を含むスラリーとの接触によって炭化水素を合成する、炭化水素の製造方法に適用されるものである。
【0112】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【実施例】
【0113】
図2に示す気泡塔型スラリー床反応器30において、スタートアップとして、通常運転に比較して一酸化炭素転化率を大幅に低下させた運転を実施した。
ここで、第1返送管91として、
図2中に実線で示すようにその一端(末端)を第2気液分離槽85bの充填材層93より頂部側に接続した装置構成による場合を第1実施例とした。
また、
図2中に破線で示すようにその一端(末端)を接続配管87(第1冷却器86aの直前)に接続した装置構成による場合を第2実施例とした。
また、
図2に示す装置構成において、第2返送管85eによるライトオイルの重質分のリサイクルを行わず、第1返送管91によるライトオイルの軽質分の第2気液分離槽85bへのリサイクルのみを行う場合を、第1比較例とした。
さらに、第1返送管91によるライトオイルの軽質分のリサイクル、第2返送管85eによるライトオイルの重質分のリサイクルを共に行わない場合を、第2比較例とした。
【0114】
前記の各例において、原料として合成ガス製造ユニットから供給される合成ガス(CO:H
2モル比=1:2)を気泡塔型スラリー床反応器30に供給し、反応温度を180℃〜190℃として運転を行い、一酸化炭素が反応器30を通過する際の一酸化炭素の反応転化率を5〜10%とした。
【0115】
前記の各例において、前記運転を開始してから約72時間後に、それぞれ第1冷却器86aの出口温度を計測するとともに、第1冷却器86aから出てきたライトオイルの軽質分をサンプリングし、その性状を目視した。
その結果、第1実施例、第2実施例では、共に第1冷却器86aの出口温度に上昇が見られず、したがって第1冷却器86aが良好に機能していることが確認された。また、サンプリングしたライトオイルの軽質分は透明であり、ワックス分は固化することなくライトオイルの軽質分中に溶解していることが確認された。したがって、第1実施例、第2実施例では共に第1冷却器86aでのワックスの付着が起こらず、第1冷却器86aは正常に機能することが分かった。
【0116】
一方、第1比較例では、第1冷却器86aの出口温度に上昇が見られないものの、サンプリングしたライトオイルの軽質分には白濁が見られた。これは、第1比較例では第2返送管85eによるライトオイルの重質分のリサイクルを行っていないため、第1気液分離ユニット86側に流れたワックス分の総量が時間の経過に伴って増え、これによって第1冷却器86aを通過した炭化水素にワックス分の固化が生じ始めていると考えられる。
すなわち、第1実施例、第2実施例では第2返送管85eによるライトオイルの重質分のリサイクルを行っているため、第1気液分離ユニット86側に流れるワックス分の総量がほとんど増えることがなく、したがって前記したように第1冷却器86aを通過した炭化水素中にワックス分が固化することなく、溶解した状態に維持されていると考えられる。
【0117】
また、第2比較例では、第1冷却器86aの出口温度が大きく上昇した。これは、第2比較例でも第2返送管85eによるライトオイルの重質分のリサイクルを行っていないため、第1気液分離ユニット86側に流れたワックス分の総量が時間の経過に伴って増え、しかも第1返送管91によるライトオイルの軽質分のリサイクルを行っていないため、第1冷却器86aに付着したワックスに対する洗い出し効果がほとんど得られないためと考えられる。
【0118】
以上に説明したように、気泡塔型スラリー床反応器30において一酸化炭素の反応転化率が低い運転を行なった際に、第2返送管85eによってライトオイルの重質分をリサイクルさせ、第1返送管91によってライトオイルの軽質分をリサイクルさせることにより、第1冷却器86aの冷却効率を通常運転と同等に保つことができることが明らかとなった。