(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したミキサセトラー型の抽出装置で、抽出速度をさらに高めるためには、ミキサー槽での攪拌翼の回転速度を大きくして原料流体をさらに強く攪拌し、軽液と重液との細分化を進めるのが好ましい。このようにすれば、軽液と重液との接触面積はさらに大きくなり、一方の原料流体から他方の原料流体に向かう抽出対象の物質の移動が更に促進されて、抽出速度が向上すると考えられる。
【0006】
ただ、過剰な攪拌により軽液と重液との細分化が過度に進むと、軽液と重液とがあまりにも微細な液滴にまで分散され、再びセトラー槽で抽出後の原料流体(原液)を2つの単一物質に分離する際に余計な時間がかかり、分離の作業性が極めて悪くなる可能性が高い。つまり、上述した抽出装置では、攪拌を強くし過ぎても、抽出にかかる時間はトータルであまり短くならず、生産性を向上するにも自ずと限界がある。
【0007】
また、上述した抽出装置では、液−液の境界面を介して行われる化学的操作は抽出操作であったが、液−液界面で化学反応を行わせる場合などにも、同様な問題が発生する。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、2種類の原料流体が接触し合う境界面を介して物質を移動させることにより、抽出、分離、反応といった化学的な操作を行う場合の効率を高めることができる処理装置及び処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の処理装置は、比重が異なる2種類の原料流体を接触させて、両原料流体が接触した部分で化学的な操作を行う処理装置であって、前記2種類の原料流体を上下2層に分離させた状態で収容する分離槽と、前記分離槽の内部に配備されると共に、該分離槽の上層の原料流体と下層の原料流体とを接触させる微細流路を複数備えた多流路部材と、を有しており、前記微細流路は、前記多流路部材を上下に貫通するように形成されると共に、多流路部材の下側から取り入れた下層の原料流体を、多流路部材の上側に案内する第1流路と、前記第1流路に合流すると共に、前記上層の原料流体を取り入れて第1流路内へ導入させる第2流路と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
なお、好ましくは、前記分離槽の上層の原料流体を前記第2流路に送るポンプが設けられているとよい。
なお、好ましくは、前記多流路部材は、複数の単板部材を板厚方向に積層して形成されており、前記複数の単板部材の表面及び/又は裏面に、前記微細流路が形成されているとよい。
【0010】
なお、好ましくは、前記第1流路の上下方向の中途側に、前記第2流路が合流する合流部が形成されており、前記合流部より下側の第1流路に、前記上層の原料流体が下方に逆流することを防止する逆流防止手段が設けられているとよい。
なお、好ましくは、前記分離槽内の上層の原料流体と下層の原料流体との間には、原料流体を分離する境界面が形成されており、前記第1流路は、前記境界面の下側から取り入れた下層の原料流体を、前記境界面の上側から取り出す構成とされており、前記第2流路は、前記境界面の下側で前記第1流路に合流する構成とされているとよい。
【0011】
一方、発明の処理方法は、比重が異なる2種類の原料流体を接触させることで、両原料流体が接触した部分で化学的な
操作を行うに際しては、前記2種類の原料流体を上下2層に分離させた状態で収容する分離槽と、該分離槽の上層の原料流体と下層の原料流体とを2相流状態で接触させる微細流路を複数備えた多流路部材とを設けておき、前記分離槽の中で下層に分離された原料流体を、前記微細流路に沿って分離槽の上層に向かって上方に案内すると共に、前記上方に案内される微細流路内の原料流体に、上層に分離された原料流体を接触させることにより、前記化学的な操作を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の処理装置及び処理方法によれば、一旦細分化された原料流体の混合物を再び単独の原料流体に分離するのに時間を要することがなく、抽出、分離、反応などの化学的な操作を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る処理装置1について図を基に説明する。
図1に示すように、本実施形態の処理装置1は、互いに混じり合うことがなく、且つ、比重が異なる2種類の原料流体2a、2bを接触させて、両原料流体2a、2bが接触した界面を介して物質を移動させたり反応させたりして化学的な操作を行うものである。この化学的な操作には、抽出、分離、反応といった操作が含まれる。
【0015】
例えば、化学的な操作として抽出を例に挙げれば、上述した化学的な操作には以下に示すような実施態様が考えられる。つまり、互いに混じり合うことがない水のような重液と、重液より比重が小さな油のような軽液とを、それぞれ接触させる。そして、界面の上側に位置する軽液(油)に含まれる抽出対象の物質を、界面の下側に位置する重液(水)に移動させ、抽出対象の物質が溶け込んだ水を取り出すような装置が、本発明の処理装置1として挙げられる。この処理装置1は、一般に「液液抽出装置」と呼ばれている。また、本発明の処理装置1は、液液界面で化学合成など化学反応を行わせる装置(液液反応装置)にも適用することができる。
【0016】
なお、以降の説明では、液液抽出方式で抽出を行う抽出装置を例に挙げて、本発明の処理装置1を説明する。
図1及び
図2に示すように、第1実施形態の抽出装置1(処理装置1)は、2種類の原料流体2a、2bを上下2層に分離させた状態で収容する分離槽5を備えている。この分離槽5の内部には多流路部材6が原料流体2a、2bに浸漬した状態で収容されており、多流路部材6の内部で2種類の原料流体2a、2bを接触させて抽出を行う構成となっている。
【0017】
具体的には、多流路部材6の内部には複数の微細流路7が設けられている。これらの微細流路7は、分離槽5の上層の原料流体2aと下層の原料流体2bとを流路内に取り入れ
、取り入れた2種類の原料流体2a、2bを流路内で互いに接触させて、一方の原料流体から他方の原料流体に抽出対象の物質を移動させ、物質の移動が終了した原料流体を混合状態で分離槽5に帰還させる構成となっている。
【0018】
原料流体2a、2bは、互いに混じり合うことがなく、且つ、比重が異なる2種類の流体が用いられる。つまり、2種類の原料流体2a、2bには、水と有機溶剤のように、互いに相溶性がない流体であって、比重が異なる2種類の流体が用いられる。このような原料流体2a、2bを用いれば、抽出後に原料流体2a、2b同士が再び単一の物質に分離することが可能となり、抽出対象の物質3を原料流体に溶け込んだ状態で簡単に取り出すことが可能となる。
【0019】
具体的な例を挙げれば、2種類の原料流体2a、2bには、フェノールのように水溶性の有機化合物が溶け込んだドデカンなどの無極性溶液と、水などの極性溶液とを用いることができる。これらの原料流体2a、2bは互いに混じり合うことがなく、比重が小さな無極性溶液が軽液として分離槽5の上側に浮き上がり、比重が大きな極性溶液が重液として分離槽5の下側に沈み込んで、液液間で抽出操作を簡便に行うことが可能となる。
【0020】
なお、原料流体2a、2bに用いられる流体は液体に限られない。例えば、後述する分離槽5に蓋などを設けて容器内の気密性を確保する場合には、2種類の原料流体2a、2bに気体と液体とを選択することもできる。
分離槽5は、上方に向かって開口した有底円筒状の容器であり、内部に原料流体2a、2bを貯留できるようになっている。具体的には、分離槽5内に2種類の原料流体2a、2bを入れると、分離槽5の下側に重液が沈み、分離槽5の上側に軽液が浮かび上がって、軽液と重液とを2層に分かれた状態で収容可能となっている。
【0021】
一方、分離槽5の内部に重液と軽液とを入れると、上側の軽液と下側の重液との間には液液境界の境界面3が形成される。つまり、分離槽5は、この境界面3が後述の多流路部材6の上下方向中途側を水平に横切る位置に形成されるように、重液と軽液とを貯留する構成とされている。それゆえ、分離槽5の内部では、境界面3よりも上方に多流路部材6(多流路部材6の本体8)の上端が位置するようになり、境界面3の下方に多流路部材6(多流路部材6の本体8)の下端が位置するようになる。
【0022】
ところで、本発明の処理装置1では、分離槽5の内部に上述した多流路部材6が設けられており、この多流路部材6は分離槽5に貯留された軽液と重液とに浸漬した状態で配備されている。そして、多流路部材6には複数の微細流路7が設けられており、これら複数の微細流路7の内部で軽液と重液とが接触可能になっている。具体的には、複数の微細流路7のそれぞれは、多流路部材6の下側から取り入れた下層の原料流体2bを多流路部材6の上側に案内する第1流路9と、上層の原料流体2aを取り入れて第1流路9内へ導入させる第2流路10とを備えており、この第1流路9と第2流路10とで構成された微細流路7が多流路部材6に形成されている。
【0023】
次に、本発明の処理装置1の多流路部材6について説明する。
図3及び
図4に示すように、多流路部材6は、重液と軽液とを接触させて抽出対象の物質の抽出を行うものであり、上下方向に沿って長尺な板状の本体8と、本体8の側面に設けられた分流ヘッダ11とを備えている。
多流路部材6の本体8は、原料流体2a、2bに対して耐食性や耐熱性を備えた金属、合成樹脂、またはセラミックスなどで形成されており、板厚方向に厚みを持った厚板形状の外観を備えている。多流路部材6の本体8の内部には、この本体8を上下方向または水平方向に貫通するように複数本の微細流路7が形成されており、微細流路7の内部で重液と軽液とを接触させて抽出を行うことができる構成となっている。具体的には、それぞれの微細流路7は、多流路部材6の本体8を上下に貫通するように形成された第1流路9と、本体8内を水平方向に伸びる第2流路10とを組み合わせたものとなっている。
【0024】
図2及び
図3に点線で示すように、第1流路9は、本体8の底面に半円状に開口した第1取入口12を備えており、第1取入口12から取り入れた重液(下層の原料流体2b)を本体8の内部を通って上方に向かって案内できるようになっている。また、第1流路9は、上述した境界面3を超えてさらに上方に伸びていて、本体8の上面に第1取入口12
と同様に半円状に開口した取出口13を備えており、多流路部材6の上側に案内された重液を分離槽5の上側に導出している。
【0025】
一方、第2流路10は、分離槽5の上側から取り入れられた軽液を、第1流路9を流れる重液に合流させるものである。具体的には、分液ヘッダ11が設けられた側面には第2取入口14が開口しており、この第2取入口14から本体8内を水平方向に伸びるように第2流路10は形成されている。第2取入口14は、第1取入口12と同様に半円状に開口しており、後述する分液ヘッダ11の内部に向かって開口していて、分液ヘッダ11の内部に導入された軽液(上層の原料流体2a)を取り入れることができるようになっている。また、第2流路10は、第1流路9の上下方向の中途側、正確には上述した第1取入口12よりも上方であって、境界面3よりも下方の第1流路9に合流口15を備えていて、取り入れた軽液を合流口15から第1流路9に合流させている。
【0026】
上述した第1流路9や第2流路10を多流路部材6の内部に複数形成する場合には、次のような方法を採用することができる。
すなわち、
図5に示すように、水平方向の幅に比べて上下方向の高さの方が大きい長方形の単板部材16を複数枚用意し、複数の単板部材16を板厚方向に積層して多流路部材6を形成する。具体的には、複数の単板部材16には、厚みがやや厚い第1単板部材17と、厚みが薄い第2単板部材18とがあり、第1単板部材17の側方に隣接して第2単板部材18、さらに第2単板部材18の側方に隣接して第1単板部材17というように、第1単板部材17と第2単板部材18とを板厚方向に交互に積層して多流路部材6を形成するとよい。
【0027】
また、多流路部材6を構成する第1単板部材17は、この第1単板部材17のおもて面(表面)に、第1流路9を形成するための第1溝19が、上下方向に沿って複数条に亘って形成されている。この第1溝19は、水平方向に所定の間隔をあけて複数条に亘って形成されており、断面の形状が半円状に窪んだ溝として形成されていて、窪んだ部分を通って原料流体(重液)を上下方向に案内できるようになっている。
【0028】
また、第1単板部材17の裏面には、第2流路10を形成するための第2溝20が、水平方向に沿って複数条に亘って形成されている。この第2溝20は、第1溝19とは直交するように水平方向に沿って形成されており、上下方向に所定の間隔をあけて複数条に亘って形成されている。この第2溝20も、断面の形状が半円状に形成されていて、凹状に窪んだ部分を通って原料流体2a(軽液)を水平方向に沿って案内できるようになっている。また、第2溝20は、下側に位置するものより上側に位置するものの方が短く形成されており、設置位置が上側になればなるほど分液ヘッダ11から近い位置にある第1流路9に原料流体2aを案内できるようになっている。なお、第2溝20の高さについては、最も上側に位置するものの場合でも、多流路部材6が内部に設置された分離槽5中に原料流体2a(軽液)及び原料流体2b(重液)を入れた状態で、分離槽5での重液2bと軽液2aの界面より常に下側になるような位置に第2溝20が配備されるようになっている。
【0029】
さらに、第1単板部材17の内部には、おもて面の第1溝19と、裏面の第2溝20とを結ぶ貫通孔21が形成されており、貫通孔21を介して第2溝20を流れる原料流体2aを第1溝19に合流できるようになっている。つまり、第1溝19における、貫通孔21の開口が上述した「第1流路9に対する第2流路10の合流口15」とされている。
上述した構成を備える第1単板部材17に対して、第2単板部材18は、おもて面とも裏面とも溝が形成されていない平板であり、第1単板部材17のおもて面や裏面に積層されることで溝の開口を閉鎖して上述した第1流路9や第2流路10を形成できるようになっている。つまり、第1単板部材17のおもて面に第2単板部材18を積層すれば、第2単板部材18により第1溝19の開口が閉鎖され、第1溝19を第1流路9として利用できるようになる。また、第1単板部材17の裏面に第2単板部材18を積層すれば、第2単板部材18により第2溝20の開口が閉鎖され、第2溝20を第2流路10として利用できるようになる。それゆえ、第1単板部材17と第2単板部材18とを板厚方向に交互に積層すれば、第1単板部材17と第2単板部材18との貼り合わせ部分に第1流路9や
第2流路10が複数設けられた多流路部材6を容易に形成することが可能となる。
【0030】
分液ヘッダ11は、上述した本体8に比べて上下方向の高さが低い筺状の部材であり、本体8の側面に沿うように設けられている。また、分液ヘッダ11は、分液ヘッダ11の下面が本体8の下面と面一となるように、本体8の側面の下側に設けられている。さらに、分液ヘッダ11の内部は空洞とされていて、後述するポンプ4により取り入れられた軽液を収容可能となっている。
【0031】
また、分液ヘッダ11は、本体8に面する側が大きく開口しており、壁面が設けられていない。そして、この開口した分液ヘッダ11の側面に対応した本体8の側面に、上述した複数の第2取入口14が形成されている。それゆえ、分液ヘッダ11に一時的に貯留された原料流体2a(軽液)は、分液ヘッダ11から複数の第2取入口14に分かれて供給され、複数の第2取入口14に均等に分かれた原料流体2a(軽液)をそれぞれの第1流路9に均等に分けて供給できるようになっている。
【0032】
また、上述した分液ヘッダ11の側面のうち、分液ヘッダ11の中心を挟んで、開口した側と反対側の側面には、ポンプ4を用いて取り入れられた軽液を分液ヘッダ11内に取り入れる供給口22が形成されている。
ポンプ4は、分離槽5の上側に貯留された軽液を吸い込んで、上述した分液ヘッダ11に軽液を吐出するものであり、第2流路10に軽液を供給している。具体的には、このポンプ4は、分離槽5の上側と、分液ヘッダ11の供給口22との間を連結する吸込配管23に取り付けられている。この吸込配管23は、分液ヘッダ11の供給口22から分離槽5の外側を通って分離槽5の上端付近まで伸び、分離槽5の上端付近で下方に向かって逆U字状に曲がり、曲げられた先端が分離槽5の内部に位置するように設けられていて、上側の原料流体2a(軽液)に先端を浸漬した状態で配備されている。また、吸込配管23の経路途中には原料流体を圧送するポンプ4が設けられており、ポンプ4を駆動させれば上側の原料流体2a(軽液)を吸込配管23に吸い込んで、上側の原料流体2aを分液ヘッダ11に送ることができるようになっている。
【0033】
それゆえ、ポンプ4を用いて上側の原料流体2aを分液ヘッダ11まで引き込めば、上側の原料流体2aを第1流路9に流れる下側の原料流体2bへ合流させることが可能となっている。
次に、上述した抽出装置(処理装置1)を用いて抽出操作を行う方法、言い換えれば本発明の抽出方法(処理方法)について説明する。
【0034】
例えば、分離槽5の下側に重液として水が貯留されており、分離槽5の上側に軽液として有機溶剤のドデカンが貯留されており、軽液のドデカンに含まれる水溶性のフェノールを重液に移動させて抽出する場合を考える。
図1に示すように、まず分離槽5の内部に多流路部材6を収容する。この多流路部材6は、第1流路9が上下方向を向くように分離槽5の内部に配備されており、第1流路9の第1取入口12が分離槽5の下側に位置すると共に、第1流路9の取出口13が分離槽5の上側に位置している。
【0035】
このように多流路部材6が収容された分離槽5の内部に、軽液のドデカンと、重液の水とを流し入れる。このとき、比重が小さなドデカンは分離槽5の上側に浮かび、比重が大きな水は分離槽5の下側に沈む。それゆえ、ドデカンと水とは、分離槽5の内部で上下2層に分かれた状態で貯留される。
また、2層に分かれたドデカンと水との間には、両原料流体2a、2bを隔てる境界面3が形成される。この境界面3の高さが上述した多流路部材6の合流口15よりも上方に位置するように、分離槽5の内部に軽液と重液とを流し入れる。
【0036】
この状態で、上述したポンプ4を駆動させれば、上側のドデカンが吸込配管23に吸い込まれ、吸込配管23内を経由して分液ヘッダ11に送られる。そして、分液ヘッダ11においてドデカンはそれぞれの第2流路10に分岐され、合流口15から第1流路9を流れる水に合流させられ、それぞれの微細流路7内で軽液のドデカンと重液の水とが2相流状態で接触する。
【0037】
具体的には、合流口15より上方の第1流路9内では、軽液のドデカンと重液の水とが
それぞれ小さな容積の液滴に分かれ、ドデカンの液滴と水の液滴とが上下方向に交互に並んで配管内を上方に移動するため、上方移動の際に軽液のドデカンから重液の水にフェノールが移動して、水へのフェノールの抽出が行われる。
また、この液滴に分かれた状態では、第1流路9の内部と外部の密度差により軽液のドデカンに上方に向かって大きな浮力が作用する。それゆえ、軽液のドデカンが第1流路9内を上方に向かって勢いよく上昇し、この軽液の上昇に合わせて比重が大きな重液の水も上昇しやすくなる。それゆえ、液滴に分かれた状態では、微細流路7内で2種類の原料流体2a、2bが停滞することが全くなく、微細流路7を短時間で通過させて抽出操作を効率的に進めることが可能となる。
【0038】
なお、例えば、第1流路9や第2流路10の内部に、空気や不活性ガスなどの気泡を意図的に発生させれば、微細流路7を上昇する液滴状態の原料流体2a、2bの速度をさらに速くすることが可能となる。それゆえ、例えば、第1流路9や第2流路10に空気や不活性ガスなどの気泡を発生させる部材(バブル発生器など)を設けるのが好ましい。
また、合流口15より下側の第1流路9の流路径が大きいと、合流口15から合流した第2流路10の軽液が下方に向かって逆流する可能性がある。このような場合は、合流口15より下側の第1流路9に、上層の原料流体2aが下方に逆流することを防止する逆流防止手段を設けるのが好ましい。このような逆流防止手段には逆止弁を用いても良いし、合流口15より上側の第1流路9の流路径に比して、合流口15より下側の第1流路9の流路径を小さく形成して、原料流体2aの逆流を防止しても良い。
【0039】
上述のようにして第1流路9に沿って軽液と重液とを液滴状態で上昇させつつ接触させれば、軽液に含まれるフェノールを重液に効率的に移動させることができる。そして、フェノールが取り除かれた軽液のドデカンは、第1流路9の取出口13から分離槽5の上側に排出され、分離槽5の上側に位置するドデカンの液層に帰還する。それゆえ、ポンプ4を用いて連続して軽液を微細流路7内に循環させつつ処理を行えば、ドデカンからフェノールを短時間で確実に取り除くことが可能となる。
【0040】
一方、微細流路7内でフェノールが移動した水は、第1流路9の取出口13から分離槽5の上側に排出される。しかし、ドデカンに比べて比重が大きいため、ドデカンの液層より下方に沈降し、上下2層に分かれた原料流体2a、2bのうち下側の水の液層に帰還する。それゆえ、ポンプ4を用いて連続して重液を微細流路7内に循環させれば、抽出対象のフェノール(抽出対象の物質3)が微細流路7内でドデカンから移動し、フェノールを水溶状態で取り出すことが可能となる。
【0041】
例えば、2種類の原料流体2a、2bを攪拌翼などを用いてすべて混合するミキサーセトラー型の抽出装置であれば、攪拌を強くすると原料流体2a、2b同士の細分化が過度に進んで抽出などの化学的操作の効率を高めることができない。しかし、上述した多流路部材6を用いた抽出装置(処理装置1)であれば、2種類の原料流体2a、2bの一部を微細流路7に導入して微細流路7内で抽出などの操作を行うことができるので、すべての原料流体2a、2bを混合する必要はなく、大部分の原料流体2a、2bは単一物質として分離した状態のままとなっている。それゆえ、従来の装置であればセトラー槽などで行われる分離操作、つまり一旦混合された原料流体を再び単独の原料流体に分離する操作に多大な時間を要することがなく、抽出、分離、反応などの化学的な操作を極めて短時間で効率的に行うことができる。
【0042】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。