(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガラスフィルム搬送部は、前記巻出し部から巻き出されて前記保護シートから分離されたガラスフィルムを搬送し、前記巻取り部は、前記ガラスフィルム搬送部によって搬送されたガラスフィルムに、巻出し部において前記ガラスフィルムから分離されて巻取り部まで搬送された保護シートを積層しつつロール状に巻き取るように構成されていることを特徴とする、請求項6に記載のガラスフィルム搬送装置。
【背景技術】
【0002】
近年、映像等を表示する表示デバイス用の基板材料として、ガスバリア性や透光性などに優れる薄膜ガラス(ガラスフィルム)が用いられている。現在、一般的なガラスフィルムの厚さは200μm程度であるが、最近では、200μmより薄い、厚さ30μm〜150μmほどの極めて薄いガラスフィルムが開発されている。
このような極めて薄いガラスフィルムは、その薄さゆえに可撓性を有するので、ガラスフィルムをロール状に巻き取ったガラスロールとして扱うことが可能である。ガラスロールには、ロール状に巻かれたガラスフィルムが内周側および外周側に隣接するガラスフィルムと接触して破損するのを防ぐ目的で、隣接するガラスフィルム間に樹脂製の保護シート(保護フィルム、合紙)を挟み込んだものがある。
【0003】
特許文献1は、隣接するガラスフィルム間に保護シートを挟み込んだガラスロールの製造方法を開示している。
特許文献1に開示のガラスロールの製造方法は、ダウンドロー法によってガラスフィルムを成形するとともに、その成形したガラスフィルムを保護シートに重ねてロール状に巻き取るガラスロールの製造方法であって、前記保護シートに、前記ガラスフィルムよりも大きな搬送方向の張力を付与しながら、前記ガラスフィルムと前記保護シートとを巻き取ることを特徴とするものである。
【0004】
このような可撓性を有するガラスフィルムに対して効率的に各種処理を施す手法としては、長尺のガラスフィルムがロール状に巻かれたガラスロールをロール・ツー・ロール方式で搬送しつつ、その表面にコーティング等の各種処理を施す技術が様々に提案されている。
このガラスフィルムの表面に対する各種処理としては、たとえば真空蒸着やスパッタリングなど、真空圧近傍にまで減圧された真空容器内で行われる処理がある。真空圧近傍にまで減圧された容器内では圧力変化による影響が様々に発生するので、発生する影響を考慮してガラスロールをロール搬送しつつ真空蒸着やスパッタリングなどの処理(表面処理)を施す様々な技術が提案されている。
【0005】
特許文献2は、真空圧近傍下で薄膜ガラスを搬送する薄膜ガラスの搬送装置を開示している。
特許文献2に開示の薄膜ガラスの搬送装置は、真空容器内の圧力を制御可能な圧力制御手段を備え、真空圧近傍まで減圧された前記真空容器内で長尺な薄膜ガラスを搬送する薄膜ガラスの搬送装置において、前記圧力制御手段は、ロール状の前記薄膜ガラスが前記真空容器内に配置された状態で、3分以上の時間を掛けて前記真空容器内の圧力を10000Paまで減圧させた後に、真空圧近傍まで減圧させることを特徴とするものである。
【0006】
この薄膜ガラスの搬送装置では、上述の条件で減圧した後に、ガラスロールの薄膜ガラス間に挟み込まれた保護フィルムを、巻き出し時に薄膜ガラスから取り外し、また、表面処理が施された薄膜ガラスの巻き取り時に、薄膜ガラス間に保護フィルムを挟み込んで薄膜ガラスをロール状に巻き取っている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るガラスフィルム搬送装置を説明する。なお、以下に説明する各実施形態および図面において、ガラスフィルム搬送装置における同一の構成部材には、同一の符号および同一の名称を付すこととする。従って、同一の符号および同一の名称が付された構成部材については、同じ説明を繰り返さない。
[第1実施形態]
図1および
図2を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るガラスフィルム搬送装置100について説明する。
図1は、第1実施形態に係るガラスフィルム搬送装置100の構成を示す概略図である。
図2(A)は、
図1のA部の詳細を示す図であって、
図2(B)は、
図1のB部の詳細を示す図である。このガラスフィルム搬送装置100においては、保護シートとともにロール状に巻き取られた処理前のガラスフィルムを、保護シートと分離して搬送して、その後に別の保護シートとともにロール状に巻き取る。
【0018】
ガラスフィルム搬送装置100は、たとえば、幅1メートルほどで、厚さ30μm〜200μm程度の極めて薄いガラスフィルムがロール状に巻かれたガラスロールからガラスフィルムを巻き出す巻出し部2と、巻き出されたガラスフィルムをスパッタリング、プラズマCVD,蒸着、イオンプレーティング、AIP法、プラズマ照射処理、イオン注入などの減圧下又は真空での表面処理を施す表面処理工程へ搬送するガラスフィルム搬送部3と、表面処理が施されたガラスフィルムを再びロール状のガラスロールとして巻き取る巻取り部4とを有している。ガラスフィルム搬送装置100は、たとえば100m以上にわたる長尺のガラスフィルムがロール状に巻かれたガラスロールを、いわゆるロール・ツー・ロール方式で搬送する装置である。
【0019】
ここで、ガラスロールにおいて、ガラスフィルムの片面には、ガラスフィルムと略同幅に成形された樹脂製の保護シートが重ね合わされて積層されている。保護シートの厚みは、ガラスフィルムと同程度であるが、ガラスフィルムを破損や損傷から保護できる厚みがあれば、ガラスフィルムと同程度でなくてもよい。
このようにガラスフィルムと保護シートが重ね合わされて2層となった積層フィルムは、後述する巻出し部2として機能する巻出しコアに巻回されてガラスロールとなっている。巻出しコアは、たとえばステンレス材料などで形成されている。ガラスロールは、巻き始めにおいて積層フィルムの保護シート側が巻出しコアの巻き付け芯に接するように巻回されているのが好ましい。そして、巻出しコアの巻き付け芯から外周側に向かって保護シートとガラスフィルムが交互に重なりあったロールとなる。
【0020】
巻出し部2からガラスフィルムを巻き出す際には、まず積層フィルムを巻き出して、巻き出した積層フィルムをガラスフィルムと保護シートに分離するという方法と、積層フィルムのうち外周側のガラスフィルムを先に巻き出した後に保護シートを巻き出すといった、ガラスフィルムと保護シートを交互に巻き出すという方法がある。
図1を参照しながら、第1実施形態によるガラスフィルム搬送装置100の構成を説明する。
【0021】
以下の説明では、
図1の紙面に向かっての上下方向を、ガラスフィルム搬送装置100の上下方向とし、同じく紙面に向かっての左右方向をガラスフィルム搬送装置100の左右方向とする。
ガラスフィルム搬送装置100は、上述のように、ガラスロールからガラスフィルムを巻き出す巻出し部2と、巻き出されたガラスフィルムを表面処理工程へ搬送するガラスフィルム搬送部3と、表面処理が施されたガラスフィルムを再びロール状に巻き取る巻取り部4とを有しており、加えて、巻出し部2でガラスロールから巻き出された保護シートを
保護シート分離ローラ9により分離させて保護シート巻取りロール11に巻き取るとともに、巻取り部4の手前に設けられた積層ローラ12により、保護シートロール13から供給された新しい保護シートをガラスフィルムに重ね合わせる。このような構成のガラスフィルム搬送装置100は、たとえば箱形の真空チャンバ6内に設けられている。
【0022】
真空チャンバ6は、内部が空洞の筺状に形成されており、外部に対して内部を気密的に保持するものである。図示しないが、真空チャンバ6の下側には真空ポンプが設けられており、この真空ポンプによって真空チャンバ6の内部が真空状態または低圧状態にまで減圧される。
図1に示す真空チャンバ6内の上下方向における中央部の左側上方には、巻出しコアで構成された巻出し部2が配置されている。巻出しコアである巻出し部2は、積層フィルムの幅よりも若干全長の長い円筒状または円柱状の巻き付け芯を備えている。また、この巻き付け芯の両端に円板状のフランジの一方の面が同軸に固定された構成となっていても良い。このような構成の巻出し部2において、巻出しコアの巻き付け芯には、ガラスフィルムと保護シートが積層された積層フィルムを巻回することでガラスロールが形成されている。
【0023】
このようにガラスロールが形成された巻出し部2は、巻き付け芯の軸心である巻出し部2の回転軸が、
図1の紙面に向かって垂直方向となるように真空チャンバ6内に配置されている。従って、巻出し部2は、ガラスロールから積層フィルム(ガラスフィルム、保護シート)を巻き出すことによって回転軸を中心に回転運動する部材である。
図1に示す真空チャンバ6内の上下方向における中央より下側であって、巻出し部2の下方には、巻出し部2から巻き出されて保護シートから分離したガラスフィルムの表面に対して、たとえばスパッタリングやプラズマCVD等の表面処理工程を実施する成膜装置が備えられている。第1実施形態では、一例としてスパッタ成膜部7が備えられている。
【0024】
ガラスフィルム搬送部3は、この表面処理工程を実施するスパッタ成膜部7におけるガラスフィルムの搬送部材を含んで構成されている。
図1は、一般的なスパッタ成膜部7の構成の一部である成膜ロール8およびターゲットTが示されている。
図1に示すスパッタ成膜部7の成膜ロール8は、ステンレス材料等によって円筒状または円柱状に形成されており、曲面を形成する外周面にガラスフィルムを巻き付けて搬送する搬送部材である。成膜ロール8は、回転中心となる成膜ロール8の軸心(回転軸)が、巻出し部2の回転中心となる軸心(つまり、巻出しコアの巻き付け芯の軸心)と略平行となるように配置されている。
【0025】
ガラスフィルム搬送部3とは無関係であるが、スパッタ蒸発源Tは、成膜ロール8で搬送されるガラスフィルムと対向するように、成膜ロール8の左右側に配置されている。スパッタ蒸発源Tは、ガラスフィルムの表面に堆積させる成分で構成された蒸発源であり、周知のとおりグロー放電によってスパッタされた(蒸発した)成分がガラスフィルムの表面へ導かれて堆積する。
【0026】
上述のとおり、成膜ロール8は、表面処理工程を実施するために巻出し部2から巻き出されたガラスフィルムを搬送するものとして、ガラスフィルム搬送部3を構成している。なお、成膜ロール8の温度は、たとえば200℃〜400℃の高温である。
また、
図1を参照して、ガラスフィルム搬送装置100は、巻出し部2と成膜ロール8との間に保護シート分離ローラ9を備えている。保護シート分離ローラ9は、成膜ロール8と同様にステンレス材料等によって円筒状または円柱状に形成された部材であるが、成膜ロール8の外径よりも小さな外径の円筒または円柱形状を有している。
【0027】
保護シート分離ローラ9の回転軸は、巻出し部2および成膜ロール8の回転軸と平行であって、真空チャンバ6の左右方向において、成膜ロール8の左端よりも真空チャンバ6の中央寄り、つまり、成膜ロール8の回転軸寄りに配置されている。保護シート分離ローラ9のこの配置は、成膜ロール8に対して、常に一定の角度および方向からガラスフィルムを搬送することを可能にする。
【0028】
この保護シート分離ローラ9は、ガラスフィルムと保護シートとが重ね合わせられた状態から、ガラスフィルムから保護シートを分離させて保護シートを保護シート巻取りロー
ル11に巻き取るとともに、ガラスフィルムを成膜ロール8へ搬送する。
ガラスフィルム搬送部3は、成膜ロール8と保護シート分離ローラ9と保護シート巻取りロール11とで構成することによって、ガラスフィルムの搬送経路(ガラスフィルム搬送経路)を形成し、巻出し部2でガラスロールから巻き出されたガラスフィルムを保護シートから分離し、保護シートを回収することができる。
【0029】
図1に示す真空チャンバ6内において、
図1の紙面に向かって巻出し部2の右側には、巻取り部4が配置されている。巻取り部4は、ガラスフィルム搬送部3を通って表面処理が施されたガラスフィルムを再びロール状のガラスロールとして巻き取るものである。
巻取り部4は、巻出し部2と同様の巻出しコアで構成されており、積層フィルムの幅よりも若干全長の長い円筒状または円柱状の巻き付け芯を有している。巻取り部4は、この巻き付け芯の軸心である巻取り部4の回転軸が、
図1の紙面に向かって垂直方向となるように、上述した巻出し部2や成膜ロール8などの回転軸と平行となるように真空チャンバ6内に配置されている。
【0030】
このような巻取り部4は、アクチュエータなどによって回転軸を中心に回転運動することで、後述する保護シートロール13から供給された新しい保護シートを巻き取り、ガラスフィルム搬送部3からのガラスフィルムを巻き取る。
ここで、
図1に示すように、ガラスフィルム搬送装置100は、巻取り部4と成膜ロール8との間であって保護シート分離ローラ9の右側に、積層ローラ12を備えている。
【0031】
この積層ローラ12は、保護シート分離ローラ9と同様の構成であって、成膜ロール8と同様にステンレス材料等によって円筒状または円柱状に形成された部材である。積層ローラ12の回転軸は、巻取り部4および成膜ロール8の回転軸と平行であって、真空チャンバ6の左右方向において、成膜ロール8の右端よりも真空チャンバ6の中央寄り、つまり、成膜ロール8の回転軸寄りに配置されている。積層ローラ12のこの配置は、成膜ロール8から、常に一定の角度および方向に沿ってガラスフィルムを搬出することを可能にする。
【0032】
以下に、この積層ローラ12について詳しく説明する。
この積層ローラ12の直径は、φ100mm〜φ300mm、好ましくはφ125mm〜φ200mmである。
保護シートは、積層ローラ12上に供給されるにあたり、50N/m〜200N/mの範囲の張力で供給することが好ましい。一方で、ガラスフィルムはこれよりも弱い張力で供給することが好ましい。保護シートの張力Tfは、ガラスフィルムの張力Tgの2倍程度以上であることが好ましい。これは、積層ローラ12において、保護シートに付与される搬送方向の張力は、積層ローラ12に対する保護シートの密着度を高めて保護シートに含まれる水分の蒸発を促進させることができるように、ガラスフィルムに付与される搬送方向の張力よりも大きく設定されている。
【0033】
積層ローラ12上に、角度α=45°以上に渡り保護シートを密着させた後に、さらにガラスフィルムを重ね合わせることが好ましい。さらに、その後の積層ローラ12上に、角度β=30°〜90°(90°を大きく超えなければ構わない)かつ50mm以上の面長に渡りガラスフィルムを保護シートに接触させた後に、ガラスフィルムと保護シートとが接触した状態で、保護シートと積層ローラ12から離脱させ、その後ガラスフィルムと保護シートとをセットにして巻取り部4でロール状に巻き取る。巻取り部4でガラスフィルムと保護シートとをセットにしてロール状に巻き取る際には、保護シートを内側にして巻き取ることが好ましい。
【0034】
積層ローラ12の温度は保護シートより高い温度であって、好ましくは、40〜80℃である。この積層ローラ12には、積層ローラ12の表面温度を、保護シートの温度よりも高い温度とする加熱機構が設けられる。これにより、保護シートを昇温させることができ、保護シートに含まれる水分の蒸発を促進させることができる。積層ローラ12を上記の温度とするために、例えば、積層ローラ12の内部に温水などを循環して加熱してもよい。
【0035】
ここで、昇温とは、外的な加熱により定常状態の保護シートの温度よりも高い温度にす
ることを表す。真空・低圧環境下にある保護シートは、定常状態においても保護シートに含まれる水分が蒸発させられる。本発明では、保護シートを昇温させることにより、外的な加熱のない定常状態よりも、水分の蒸発を促進させることが重要である。上記では、外的な温度として40〜80℃を例示したが、これに限定されるものではなく、保護シートの材質、あるいは真空度によって変化するもので、当業者により適切に設定できる。
【0036】
ここで、保護シートの材質について説明する。保護シートは、COPなど吸水率が0.01%未満と少なくて水蒸気放出が少ないフィルムよりは、PET、PC(ポリカーボネート)、PES、PI(ポリイミド)などのように、吸水率が0.2%以上と比較的高く適度に水蒸気を放出する材料が好ましい。特に、水蒸気を表面から素早く放出する必要性から、100μm厚みの換算で、10g/m
2/日を超える水蒸気透過係数を有する材料が好ましい。また、保護シートとしては紙を使うことも可能である。また、水分は保護シート中に含まれるとしているが、表面に吸着している水分も含むものとする。また、本実施例では、水分を例示しているが、水分以外にも保護シート中に含まれ、真空中あるいは減圧下の加温により蒸発し、真空チャンバ内の汚染が少ない気化成分であればこれに限定されない。
【0037】
このような構成で、積層ローラ12で、保護シートにガラスフィルムが重ね合わせられて巻取り部4で巻き取られるときの積層ローラ12の表面付近の状態について
図2を参照して説明する。
図2(A)に示すように、積層ローラ12にまず保護シートが巻き取られる。この保護シートは、保護シートロール13から供給された新しい保護シートであって、常温程度の温度である。これに対して、積層ローラ12の表面温度は、この保護シートの温度よりも高温で40℃〜80℃であって、かつ、保護シートの巻取り方向張力はガラスフィルムのそれよりも大きい。このため、保護シートは積層ローラ12に密着され、保護シートの温度よりも高温である積層ローラ12の表面から熱量が供給される。
【0038】
このように、保護シートに熱量が供給されると、樹脂製であって水分を含む保護シートから、水分の放出が促進される。このように放出された水蒸気は、積層ローラ12と保護シートとの間隙および保護シートの外周側に熱伝達層を構成することになる。
このような状態が十分に形成されるだけの経路長となるように、上述した角度α(保護シートのみが積層ローラ12に接触している角度)および角度β(保護シートおよびガラスフィルムが積層ローラ12に接触している角度であって積層ローラ12から離脱する位置)が設定されている。
【0039】
ここで、
図1に示すように、角度αも角度βも積層ローラ12の中心角であって、角度αは、積層ローラ12上において、保護シートを巻き取り始める位置と積層ローラ12の回転中心とを結ぶ線分と、ガラスフィルムを巻き取り始める位置と積層ローラ12の回転中心とを結ぶ線分とで形成される角度であって、角度βは、積層ローラ12上において、ガラスフィルムを巻き取り始める位置と積層ローラ12の回転中心とを結ぶ線分と、ガラスフィルムおよび保護シートが積層ローラ12から離脱する位置と積層ローラ12の回転中心とを結ぶ線分とで形成される角度である。
【0040】
次に
図2(B)に示すように、積層ローラ12にガラスフィルムが巻き重ねられる。この状態では、積層ローラ12が角度αだけ回転する間に積層ローラ12から保護シートに十分に熱量が供給されて、積層ローラ12の表面温度と保護シート温度はほぼ等しいものとなる。一方、この状態では、ほぼ等しくなった積層ローラ12の表面温度と保護シート温度とが、ガラスフィルム温度よりも低いものとなっている。
【0041】
ここで、高温のガラスフィルムが保護シートに接触した際、ガラスフィルムと保護シートとの間の熱伝達および保護シートと積層ローラ12との間の熱伝達が、放出された気体(水蒸気)により(真空チャンバ6内の真空状態に比較すると相当に)促進される。このため、高温のガラスフィルムの温度が適切に冷却される。すなわち、保護シートから放出された気体が、ガラスフィルムと保護シートとの間および保護シートと積層ローラ12との間に溜まった状態で、ガラスフィルムが保護シートに接触されるので、ガラスフィルムから保護シートを介して積層ローラ12への熱伝達が活性化されて、ガラスフィルムが適
切に冷却される。
【0042】
このように、ガラスフィルムが保護シートに重ねられると、保護シートの外側に放出された気体がガラスフィルムと保護シートとの間に溜まり、両者の間の熱伝達を促進する。ガラスフィルムが有する熱は保護シートに伝達されるが、保護シートと積層ローラ12との間にも気体が溜まり、両者の間の熱伝達を促進する。
このときに、ガラスフィルムと保護シートとの間に溜まる気体(圧力P2)は下方が開放されているのでガスが抜けることになるが、保護シートと積層ローラ12との間に溜まる気体(圧力P1)は開放されていないのでガスが抜けず、P1>P2となる。このように熱伝達媒体であるガス圧Pが異なるので、ガラスフィルムから保護シートへの熱伝達係数よりも、保護シートから積層ローラ12への熱伝達係数が高くなる。このため、保護シートが高温になることなく、かつ、ガラスフィルムが適切に冷却されるので保護シートが高温に接触されることなく、保護シートはダメージから保護される。
【0043】
なお、保護シートの表裏のコーティング層等の違いにより、保護シートの積層ローラ12側からの気体の放出が相対的に多いと、安定的に温度制御することができる点で好ましい。
以上の説明で、ガラスフィルム搬送装置100において、巻出し部2から巻き出されたガラスフィルムが巻取り部4に再び巻き取られるまでの構成を説明した。以下に、巻出し部2から巻き出された保護シートが巻取り部4に再びロールとして巻き取られるまでの動作を説明する。
【0044】
続いて、
図1を参照しつつ、ガラスフィルム搬送装置100の動作を説明する。以下では、ガラスフィルム搬送装置100にガラスロールを搬入して各ローラに保護シートおよびガラスフィルムを巻きかけるといった、ガラスフィルム搬送装置100を動作させるための準備操作の説明は省略する。
巻出し部2のガラスロールから、積層フィルムの一方のフィルムであるガラスフィルムが巻き出され、ガラスフィルム搬送部3へ搬送される。ガラスフィルム搬送部3を構成する保護シート分離ローラ9により、ガラスフィルムと保護シートとが重ね合わせられた状態から、ガラスフィルムから保護シートを分離させて保護シートが保護シート巻取りロール11に巻き取られるとともに、ガラスフィルムが成膜ロール8へ搬送される。
【0045】
ガラスフィルム搬送部3によりへ成膜ロール8へ搬送されたガラスフィルムは、保護シート分離ローラ9から成膜ロール8に巻きかけられつつ、スパッタ処理などが施されることで表面処理が行われる。
表面処理が施されたガラスフィルムは、成膜ロール8から積層ローラ12へ搬送され、積層ローラ12から巻取り部4に搬送される。この積層ローラ12で、新しい保護シートと処理後のガラスフィルムとが重ね合わせられる。このときにおける、積層ローラ12の表面温度が40℃〜80℃および保護シートの巻取り張力がガラスフィルムの巻取り張力よりも強い。積層ローラ12に強く密着された保護シートは積層ローラ12から熱量が供給され、含有水分の放出(含有水分の水蒸気化、気体化)が促進される。
【0046】
保護シートから放出された気体は、ガラスフィルムと保護シートとの間に溜まり両者の間の熱伝達を促進しガラスフィルムが有する熱は保護シートに伝達される。保護シートと積層ローラ12との間にも気体が溜まり、両者の間の熱伝達をより大きく促進しガラスフィルムから保護シートへ伝達された熱は、保護シートから積層ローラ12へ十分に熱伝達される。その結果、保護シートが高温になることなく、かつ、ガラスフィルムが適切に冷却されるので保護シートが高温に接触されることなく、保護シートはダメージから保護される。
【0047】
この場合において、積層ローラ12の直径が100mm以下ではガラスフィルムの曲げがきつくなりすぎ、破損の可能性が高まる。また、積層ローラ12に加熱機構を設けるためにもφ100mm程度は必要である。積層ローラ12の直径が無駄に大きくてもこのガラスフィルム搬送装置100が無駄に大きくなり過ぎて、積層ローラ12の直径がφ300mmを超えることは現実的でない。最も好ましい積層ローラ12の直径の範囲はφ125〜200mmである。積層ローラ12の直径がφ125mm以上であると保護シートを
45°巻き付けた際には保護シートと積層ローラ12との接触面長が約50mm以上となり十分に熱的に安定した状態でガラスフィルムと接触する。積層ローラ12の直径をφ200mm以下とするのは、ガラスフィルム搬送装置100の小型化の観点で有利であることに加えて、積層ローラ12の直径が小さい方が保護シートと積層ローラ12との密着状態がより安定化するという観点でも有利であると考えられる。
【0048】
保護シートが積層ローラ12に巻かれて直ぐにガラスフィルムが重ねられると、保護シートのうねりが十分収まっていない状態でガラスフィルムが重なることになり、ガラスフィルムが破損する可能性が高まる。本願発明者の知見によると、積層ローラ12の直径の要件を満たす積層ローラ12上では保護シートのうねりや皺は、45°以上の巻きつけによって、完全に無くなる。
【0049】
特に、保護シートのダメージを防ぐためには、保護シートと積層ローラ12との密着が、ガラスフィルムと保護シートとの密着より強いことが望ましく、保護シートの供給は、50N/m以上の巻取り張力で行なわれることが好ましい。逆にガラスフィルムの張力は、保護シートの張力に比べて十分弱いことが好ましい。このためには、保護シートの張力は、ガラスフィルムの張力より強いことが望まれる。より好ましくは、保護シートの張力は、ガラスフィルムの張力の2倍程度以上であることが望ましい。
【0050】
積層ローラ12上で平坦になった保護シート上にガラスフィルムが巻き付けられる。ガラスフィルムが保護シートと安定的に重なった状態で搬出するためには、角度αを30°以上とした巻付け角度で重ね巻きする必要がある。一方で、角度βを90°を大きく超える巻付け角度とすると破損の可能性が高まる。
保護シートとガラスフィルムとが重ね合わさったものは、保護シート側を内側にしてロール状に巻き取られることが、好ましい。
【0051】
特に、積層ローラ12の温度が保護シートの温度より高く設定されているので、保護シートが積層ローラ12に接触した時点から保護シートから水蒸気等のガス放出が始まり、保護シートと積層ローラ12との熱交換が促進されるとともに、放出されたガスは保護シートと積層ローラ12との間のすべりを容易にして密着も促進する。
以上のようにして、第1実施形態に係るガラスフィルム搬送装置によると、樹脂製の保護シートが含有する水分の放出を促進させて熱伝達媒体として機能させることにより、保護シートを高温にすることなく、高温のガラスフィルムを適切に冷却することができる。ガラスフィルムが高温でなくなると、保護シートが破損または/および破断等のダメージを受けることを回避できる。このため、保護シートとガラスフィルムとを重ねて巻き取ってもガラスフィルムを破損させるおそれがなくなる。そのため、第1実施形態に係るガラスフィルム搬送装置によれば、ガラスフィルムの破損を抑制しながら、ガラスフィルムと保護シートとを重ねて巻き取ることができる。
【0052】
なおこのようなガラスフィルムの温度制御の手法は、ガラスフィルムが真空中の処理で著しい低温に冷却されるような場合にも適用可能である。すなわち、ガラスフィルムが、例えば−100℃のような極低温に冷やされた状態で保護シートに接触すると、保護シートを冷却し、保護シートの柔軟性を失わせ、結果として保護シートの破断などのダメージ、ひいてはガラスフィルムの破損を引き起こす。このような場合も、本構成が適用されると、積層ロールに接触して加熱された保護シートに接触すると、ガラスフィルムは、水蒸気を介して同様に加熱されて巻取りに適切な温度とすることが可能で、保護シートとガラスフィルムの破損を抑制しながら、重ねて巻き取ることが出来る。
【0053】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係るガラスフィルム搬送装置200について説明する。なお、第2実施形態に係るガラスフィルム搬送装置200において、上述した第1実施形態に係るガラスフィルム搬送装置100と同じ構成については同じ参照符号を付してある。それらの機能も同じである。そのため、それらについての詳細な説明は、ここでは繰り返さない。
【0054】
上述したガラスフィルム搬送装置100は、巻出し部2にて保護シートとともにガラスフィルムがロール状に巻き取られたガラスロールを用いていたため、保護シート分離ロー
ラ9および保護シート巻取りロール11を備えていた。
図3に第2実施形態に係るガラスフィルム搬送装置200の構成の概略図を示す。このガラスフィルム搬送装置200においては、保護シートが巻き取られていないガラスフィルムのみがロール状に巻き取られたガラスロールを巻出し部2にて用いている。このため、
図3に示すように、ガラスフィルム搬送装置200は、保護シート分離ローラ9および保護シート巻取りロール11を備えていない。ただし、成膜ロール8におけるガラスフィルムの接触角度を確保するために、保護シート分離ローラ9の位置に保護シート分離ローラ9と同様のローラ29が設けられている。
【0055】
このガラスフィルム搬送装置200におけるこれ以外の構成は、ガラスフィルム搬送装置100の構成と同じである。
第2実施形態に係るガラスフィルム搬送装置200においても、第1実施形態に係るガラスフィルム搬送装置100と同様に、巻出し側がガラスフィルムのみのロールであっても、ガラスフィルムの破損を抑制しながら、ガラスフィルムと保護シートとを重ねて巻き取ることができる。
【0056】
特に、第2実施形態は、ガラスフィルムがその両端部に保護テープ材(いわゆる、エッジタブと呼ばれる)をつけた形でガラスロールとなっているものに適用するのが好ましい。この場合、保護シートの幅はガラスフィルムの保護テープ材の間の領域の幅と同一かわずかに狭い程度であり、かつ、保護シートの厚みは保護テープ材の厚みより厚い事が、ガラスフィルムの温度制御や巻取りの観点から好ましい。
【0057】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態に係るガラスフィルム搬送装置300について説明する。なお、第3実施形態に係るガラスフィルム搬送装置300において、上述した第1実施形態に係るガラスフィルム搬送装置100と同じ構成については同じ参照符号を付してある。それらの機能も同じである。そのため、それらについての詳細な説明は、ここでは繰り返さない。
【0058】
図4に第3実施形態に係るガラスフィルム搬送装置300の構成の概略図を示す。このガラスフィルム搬送装置300においては、巻出し部2にてガラスフィルムから離脱させた保護シートを巻取り部4にて再利用している。このため、
図4に示すように、このガラスフィルム搬送装置300においては、保護シート搬送部34を備える。また、このガラスフィルム搬送装置300においては、成膜ロール8におけるガラスフィルムの接触角度を確保するために、第1ガイドローラ35が設けられている。さらに、積層ローラ12が上述した角度αおよび角度βを満足するために、第2ガイドローラ37が所望の位置に設けられているとともに巻取り部4および積層ローラ12の位置が設定されている。
【0059】
このガラスフィルム搬送装置300における巻取り部4および積層ローラ12は、それぞれ、上述したガラスフィルム搬送装置100における巻取り部4と積層ローラ12と同じ構成を備える。このため、このガラスフィルム搬送装置300における積層ローラ12は、ガラスフィルム搬送装置100における積層ローラ12における温度条件、角度条件およびローラ径条件の全てを満足している。特に、保護シート搬送部34と巻取り部4とが干渉することがなく、かつ、角度α≧45°を満足するために、第2ガイドローラ37を設けている。
【0060】
ガラスフィルム搬送装置300は、巻出し部2から巻き出されたガラスフィルムから分離した保護シートを搬出するとともに、巻取り部4に向けて保護シートを搬入する保護シート搬送部34を備えている。
図4に示すように、保護シート搬送部34は、巻出し部2の上方に配置された第1保護シートローラ31、および巻取り部4の上方に配置された第2保護シートローラ32を有する。
【0061】
第1保護シートローラ31および第2保護シートローラ32は、第1ガイドローラ35とほぼ同様の構成を有する円筒状または円柱状のローラであり、第3実施形態では、第1保護シートローラ31および第2保護シートローラ32の外径は、第1ガイドローラ35の外径よりも若干小さい。このような第1保護シートローラ31および第2保護シートロ
ーラ32のそれぞれは、巻出し部2または巻取り部4の直上付近で、回転軸が、巻出し部2および巻取り部4の回転軸とほぼ平行となるように、配置されている。
【0062】
続いて、
図4を参照しつつ、ガラスフィルム搬送装置300の動作を説明するが、上述した第1実施形態と同じ動作についての説明はここでは繰り返さない。
表面処理が施されたガラスフィルムは、成膜ロール8から積層ローラ12を経由して巻取り部4に搬送される。
このガラスフィルムの搬送と同時に、保護シートは、保護シート搬送部34に搬送されて、第1保護シートローラ31から第2保護シートローラ32を通過して第2ガイドローラ37を経由して積層ローラ12へ搬送される。
【0063】
図4に示すように、第2保護シートローラ32を通過した保護シートは、積層ローラ12に巻回される。積層ローラ12においては、保護シートが巻回されてから第1実施形態と同じように角度αが45°以上を満足するように回転した後に、成膜ロール8から搬送されたガラスフィルムを先に巻回された保護シート上に巻き取って、ガラスフィルムと保護シートとが重なり合った状態を角度β(30°≦β≦90°)だけ回転した後に巻取り部4へ搬送されて、巻取り部4で再びガラスロールを形成する。
【0064】
このように、このガラスフィルム搬送装置300においても、上述したガラスフィルム搬送装置100と、保護シートを再利用する点を除いて、積層ローラ12により保護シートが昇温されることで、保護シートに含有されている水分の放出(含有水分の水蒸気化、ガス化)が促進される。
なお、このガラスフィルム搬送装置300においては、保護シートは再利用されるため、保護シートに含有されている水分が水蒸気(ガス)として放出されにくい場合がある。この場合には、第2ガイドローラ37等の位置を調整して角度αおよび/または角度βを上述した角度範囲内で変更して、所望の水分が保護シートから水蒸気(ガス)として放出されることを促進するようにすればよい。また、積層ローラ12の温度をさらに高く設定して、保護シートからの水分の放出を促進するとよい。
【0065】
以上のようにして、第3実施形態に係るガラスフィルム搬送装置によれば、ガラスフィルムの破損を抑制しながら、ガラスフィルムと保護シートとを重ねて巻き取ることができる。
[変形例]
以下、本発明の変形例に係るガラスフィルム搬送装置について説明する。この変形例は、上述した第1実施形態〜第3実施形態に適用することができる。
【0066】
本変形例において、保護シートを昇温させて含有水分の蒸発を促進させ、蒸発したガスを熱伝達媒体とする点は、上述した実施形態と同じである。上述した実施形態において、保護シートを昇温させるために積層ローラの温度を制御して、保護シートの温度より高い40℃〜80℃に設定していた。本変形例においては、保護シートを温度調整された積層ローラで昇温させるのではなく、ガラスフィルム自体で昇温させる点が異なる。このため、積層ローラの温度は、積極的に昇温する必要はなく、室温(または常温)より20℃程度低温で構わない。
【0067】
すなわち、保護シートに接触するときのガラスフィルムの温度が高温である場合には、積層ローラで保護シートを昇温させるのではなく(積層ローラの温度は保護シートより低い温度としてもよく温度条件以外の角度条件および積層ローラ径条件を満足すれば良い)、高温のガラスフィルムからの熱が保護シートに付与されて保護シートの温度が上昇して、保護シートに含有されている水分が水蒸気(ガス)として放出される状況が促進されて、ガラスフィルムと保護シートとの間および保護シートと積層ローラとの間に溜まり、それらの間の熱伝達を促進することができる。
【0068】
以上のようにして、本変形例に係るガラスフィルム搬送装置によると、保護シートを積層ローラで昇温させるのではなく高温のガラスフィルムで昇温させるので、積層ローラの温度を制御することなく、ガラスフィルムの破損を抑制しながら、ガラスフィルムと保護シートとを重ねて巻き取ることができる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない
と考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、たとえば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。