特許第6016764号(P6016764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6016764-エステル油の評価装置及び評価方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016764
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】エステル油の評価装置及び評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/28 20060101AFI20161013BHJP
   G01N 27/44 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   G01N33/28
   !G01N27/44 301
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-257380(P2013-257380)
(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公開番号】特開2015-114244(P2015-114244A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2015年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】矢野 昭彦
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−152172(JP,A)
【文献】 特開2012−181167(JP,A)
【文献】 特開平10−253569(JP,A)
【文献】 特開平8−231972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル油を所定量密閉保持する密閉容器と、
前記密閉容器内の前記エステル油を加熱してエステル油を加水分解する加熱装置と、
前記密閉容器内の微量水分量を計測する微量水分分析装置と、
前記密閉容器内に微量の水分を添加する微量水分添加装置と、
前記微量水分分析装置の計測結果に応じて、前記密閉容器内のエステル油の水分量を所定濃度に保持する水分濃度制御装置と、を具備することを特徴とするエステル油の評価装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記所定濃度の水分量が、エステル油の飽和水分量以下で加水分解を実施することを特徴とするエステル油の評価装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記微量水分添加装置は、マイクロシリンジを備えた水分供給装置であることを特徴とするエステル油の評価装置。
【請求項4】
エステル油を密閉容器内に所定量密閉保持し、
前記密閉容器内の微量水分量を計測し、
前記微量水分量の計測結果に応じて、前記密閉容器内のエステル油に水分を添加し、
前記エステル油中の溶存水分量を所定濃度に管理し、
所定時間加熱しつつ加水分解を行うことを特徴とするエステル油の評価方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記所定濃度の水分量が、エステル油の飽和水分量以下で加水分解を実施することを特徴とするエステル油の評価方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、
前記所定時間経過後、エステル油の全酸価を計測することを特徴とするエステル油の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば作動油等に用いるエステル油の評価装置及び評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば作動油等に用いるエステル油は、アルコールと脂肪酸を原料にエステル化反応(脱水反応)で合成される。このエステル油は、水分環境下で加水分解し、すなわちエステル化反応の逆反応が可逆的に生じ、アルコールと脂肪酸とに分解する。エステル油の寿命は、油の全酸価等を調べて管理されるため、加水分解による脂肪酸の発生は、油寿命を縮めることとなる。
【0003】
従来、エステル油の加水分解安定性の評価は、ASTM D2619(Standard Test Method for Hydrolytic Stability of Hydraulic Fluids(Beverage Bottle Method))に示される飲料容器試験で行われている。このASTM D2619による試験方法は、エステル油75gと水25gと銅板とを飲料容器に入れ、93℃の条件下で48時間振とうさせ、振とうによる油の全酸価変化、水層の全酸価、銅板の重量変化と外観を評価するものである(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ASTM D2619
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術のASTM D2619試験法においては、以下のような問題がある。
すなわちASTMD2619試験法では、エステル油に水を25%と多量に添加するので、油層と水層とが分離する。そして、飲料容器を振とうさせることにより、油中水滴形のエマルションが形成され、油層はそのエステル油がもつ飽和水分濃度になると考えられる。
【0006】
ここで、飽和水分濃度は、エステル油によって異なる値を示し、およそ500ppmから5000ppmの範囲にある。加水分解速度は油中の水分濃度に依存すると考えられるため、飽和水分の濃度が異なれば、加水分解速度は異なることになる。
この結果、飽和水分濃度の異なる油の加水分解安定性を、水を過剰に添加するASTM D2619の方法で横並び評価することは適していないと考えられる。
【0007】
なお、エステル油の加水分解は、油中あるいは油と水との界面で発生すると考えられる。油中の反応速度は、上述したように飽和水分濃度の影響を受けると考えられるが、油と水との界面は、振とう条件が同じであれば表面積は略同じと考えられ、油の違いによる影響は小さいと考えられる。
【0008】
さらに、ASTM D2619試験法は、水をエステル油中に大量に添加して試験を行うこととなるので、実機を模擬した水分濃度(例えば1000ppm以下)で加水分解安定性を評価するものと異なり、実機の油寿命と整合したデータを取得することができない、という問題がある。
【0009】
なお、建設機械用生分解性油圧作動油の水分濃度は新油で1000ppm以下と定めがあり、また、運用上も油中に水滴が生じるような水分濃度で使用されないのが一般的である。これに対し、ASTM D2619試験法では水分を多量に用いて加水分解しているので、実機を想定するものではない、という問題がある。
【0010】
よって、飽和水分濃度の異なる油の加水分解安定性について、実機の油寿命と整合したデータを簡易に取得することができる、エステル油の評価装置及び評価方法の出現が切望されている。
【0011】
本発明は、前記問題に鑑み、飽和水分濃度の異なる油の加水分解安定性について、実機の油寿命と整合したデータを簡易に取得することができる、エステル油の評価装置及び評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、エステル油を所定量密閉保持する密閉容器と、前記密閉容器内の前記エステル油を加熱してエステル油を加水分解する加熱装置と、前記密閉容器内の微量水分量を計測する微量水分分析装置と、前記密閉容器内に微量の水分を添加する微量水分添加装置と、前記微量水分分析装置の計測結果に応じて、前記密閉容器内のエステル油の水分量を所定濃度に保持する水分濃度制御装置と、を具備することを特徴とするエステル油の評価装置にある。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記所定濃度の水分量が、エステル油の飽和水分量以下で加水分解を実施することを特徴とするエステル油の評価装置にある。
【0014】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記微量水分添加装置は、マイクロシリンジを備えた水分供給装置であることを特徴とするエステル油の評価装置にある。
【0015】
第4の発明は、エステル油を密閉容器内に所定量密閉保持し、前記密閉容器内の微量水分量を計測し、前記微量水分量の計測結果に応じて、前記密閉容器内のエステル油に水分を添加し、前記エステル油中の溶存水分量を所定濃度に管理し、所定時間加熱しつつ加水分解を行うことを特徴とするエステル油の評価方法にある。
【0016】
第5の発明は、第4の発明において、前記所定濃度の水分量が、エステル油の飽和水分量以下で加水分解を実施することを特徴とするエステル油の評価方法にある。
【0017】
第6の発明は、第4又は5の発明において、前記所定時間経過後、エステル油の全酸価を計測することを特徴とするエステル油の評価方法にある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、飽和水分濃度の異なる油の加水分解安定性について、実機の油寿命と整合したデータを簡易に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例に係るエステル油の評価装置の概略図である。
図2図2は、3種類の油A、油B、油Cを試験した一例を示す図である。
図3図3は、水分量とエステル油の劣化との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【実施例】
【0021】
図1は、実施例に係るエステル油の評価装置の概略図である。
図1に示すように、本実施例に係るエステル油の評価装置10は、エステル油11を所定量密閉保持する密閉容器12と、密閉容器12内のエステル油11を加熱してエステル油11を加水分解する加熱装置13と、密閉容器12内の微量水分量を計測する微量水分分析装置14と、密閉容器12内に微量の水分15を添加する微量水分添加装置16と、微量水分分析装置14の計測結果に応じて、密閉容器12内のエステル油11の水分量を所定濃度に保持する水分濃度制御装置17と、とを具備するものである。図1中、符号20は、密閉容器12内のエステル油11を撹拌する攪拌装置を図示する。
【0022】
本発明では、エステル油11の飽和水分濃度以下の水分濃度として加水分解を実施し、エステル油の評価をするようにしている。
ここで、エステル油としては、例えば蒸気タービンの制御系統油として用いられるりん酸エステルや脂肪酸エステル、風車の作動油等に用いられる脂肪酸エステルやプロピレングリコールモノエーテル(PAG)等を例示できるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
具体的には、水分濃度を例えば500ppmに管理する場合について説明する。
先ず、密閉容器12内に、500gのエステル油を投入して、このときの水分量を微量水分析装置14で確認する。
【0024】
そして、500ppmに管理する場合には、500g×500/1000000=25/100=0.25g=250mgの水分量に保持する必要がある。
例えば水分濃度を500ppm±20ppmで管理する場合、例えば2ppm刻みで管理しようとすれば、微量水分添加装置16から添加する水分15の添加量としては、1mg刻みの添加が必要となる。
【0025】
この水分添加は、例えばマイクロシリンジ等の微量水分添加装置を用いることで達成することができる。
【0026】
そして、水分濃度を500ppm±20ppmで管理し、加熱装置13で例えば所定の温度(例えば90℃程度)で、所定時間加水分解を行う。
加熱温度は、エステル油の使用状況の温度と同程度とするようにしてもよいし、温度を高くして、加水分解を促進させて、加速試験を行うようにしてもよい。密閉容器は試験温度の水蒸気圧に応じた耐圧性が必要になるが、密閉容器を圧力容器とする場合には、100℃を超える温度で試験することも可能である。
【0027】
加水分解を行う間は、水分が消費されるので、微量水分分析装置14を用いて、所定時間ごとに監視し、常に水分濃度が500ppm±20ppmとなるように、水分濃度制御装置17で管理し、適宜微量水分添加装置16から水分15を適宜補うようにすればよい。なお、微量水分分析装置14は、密閉容器12内のエステル油11を所定量吸引して分析するものである。なお、本実施例では、500ppm±20ppmとしており、これは一例である。試験の精度を高める場合には、±10ppmと許容範囲を狭くするようにすればよい。ここで、水分分析装置としては、水分濃度は、JISK2275の規定する水分試験方法(カールフィッシャー法)や公知の水分センサー等を適用するようにしている。
【0028】
所定時間加水分解する所定時間としては、例えば500時間、1000時間、2000時間と、油の加水分解による劣化の程度により、適宜設定される。
なお、評価においては、同一条件(水分量、加熱温度、加水分解時間)として、試験を実施することで、エステル油の加水分解安定性の横並び評価を行うようにすればよい。
【0029】
本発明のエステル油の評価方法は、先ず試験したいエステル油を準備し、密閉容器12内に所定量密閉保持する。次いで、この密閉容器12内の微量水分量を微量水分分析装置14で計測し、微量水分量の計測結果に応じて、密閉容器12内のエステル油11に水分15を、微量水分添加装置16より添加し、エステル油11中の溶存水分量を所定濃度(例えば500ppm±20ppm)に管理しつつ、所定時間加熱しつつ加水分解を行うものである。
この所定時間、加水分解を行ったエステル油の全酸価や動粘度、RPVOT値(Rotating Pressure Vessel Oxidation Test)を計測して、劣化度を求める。また、エステル油11の外観を観察して、評価するようにしてもよい。
この結果、飽和水分濃度の異なる油の加水分解安定性について、実機の油寿命と整合したデータを簡易に取得することができる
【0030】
図2は、3種類の油A、油B、油Cを試験した一例を示す図である。図2から油Cが油A、Bに比べて相対的に加水分解し難いことがわかる。
【0031】
図3は、水分量とエステル油の劣化との関係を示す図である。
図3に示すように、エステル油は水分量が350ppmを超えると、劣化度合いが急上昇するものとなる。よって、この試験のエステル油の場合には、水分管理値は例えば300ppmと定めることができる。
【0032】
この結果、実機を模擬した水分濃度(例えば1000ppm以下)で加水分解安定性を評価することができるので、種類の異なるエステル油に対して、実機の油寿命と整合したデータを得ることができる。また、劣化しやすいエステル油かどうかの相対評価も行うこともできる。
【0033】
ここで、従来技術に係るASTMD2619の試験法では、25%の水を多量に添加して、水分と油とが分離するような過剰水分量の場合における加水分解反応であるので、実機を模擬した水分濃度(例えば1000ppm以下)で加水分解安定性を評価するものと異なり、実機の油寿命と整合したデータを取得することができないものであった。
【0034】
すなわち、実機で用いられるエステル油は、水と油とが分離するほど水が混入している場合は稀である。よって、本発明のように、通常飽和水分濃度未満の状態で使用されている場合と同等の条件で、エステル油中の水分濃度を一定に保持した状態で試験を行うことで、エステル油の加水分解安定性の横並び評価ができるものとなる。
この結果、本発明によれば、エステル油の加水分解安定性を正しく評価する試験方法を提供する。
【符号の説明】
【0035】
10 エステル油の評価装置
11 エステル油
12 密閉容器
13 加熱装置
14 微量水分分析装置
15 水分
16 微量水分添加装置
17 水分濃度制御装置
図1
図2
図3