【実施例】
【0021】
図1は、実施例に係るエステル油の評価装置の概略図である。
図1に示すように、本実施例に係るエステル油の評価装置10は、エステル油11を所定量密閉保持する密閉容器12と、密閉容器12内のエステル油11を加熱してエステル油11を加水分解する加熱装置13と、密閉容器12内の微量水分量を計測する微量水分分析装置14と、密閉容器12内に微量の水分15を添加する微量水分添加装置16と、微量水分分析装置14の計測結果に応じて、密閉容器12内のエステル油11の水分量を所定濃度に保持する水分濃度制御装置17と、とを具備するものである。
図1中、符号20は、密閉容器12内のエステル油11を撹拌する攪拌装置を図示する。
【0022】
本発明では、エステル油11の飽和水分濃度以下の水分濃度として加水分解を実施し、エステル油の評価をするようにしている。
ここで、エステル油としては、例えば蒸気タービンの制御系統油として用いられるりん酸エステルや脂肪酸エステル、風車の作動油等に用いられる脂肪酸エステルやプロピレングリコールモノエーテル(PAG)等を例示できるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
具体的には、水分濃度を例えば500ppmに管理する場合について説明する。
先ず、密閉容器12内に、500gのエステル油を投入して、このときの水分量を微量水分析装置14で確認する。
【0024】
そして、500ppmに管理する場合には、500g×500/1000000=25/100=0.25g=250mgの水分量に保持する必要がある。
例えば水分濃度を500ppm±20ppmで管理する場合、例えば2ppm刻みで管理しようとすれば、微量水分添加装置16から添加する水分15の添加量としては、1mg刻みの添加が必要となる。
【0025】
この水分添加は、例えばマイクロシリンジ等の微量水分添加装置を用いることで達成することができる。
【0026】
そして、水分濃度を500ppm±20ppmで管理し、加熱装置13で例えば所定の温度(例えば90℃程度)で、所定時間加水分解を行う。
加熱温度は、エステル油の使用状況の温度と同程度とするようにしてもよいし、温度を高くして、加水分解を促進させて、加速試験を行うようにしてもよい。密閉容器は試験温度の水蒸気圧に応じた耐圧性が必要になるが、密閉容器を圧力容器とする場合には、100℃を超える温度で試験することも可能である。
【0027】
加水分解を行う間は、水分が消費されるので、微量水分分析装置14を用いて、所定時間ごとに監視し、常に水分濃度が500ppm±20ppmとなるように、水分濃度制御装置17で管理し、適宜微量水分添加装置16から水分15を適宜補うようにすればよい。なお、微量水分分析装置14は、密閉容器12内のエステル油11を所定量吸引して分析するものである。なお、本実施例では、500ppm±20ppmとしており、これは一例である。試験の精度を高める場合には、±10ppmと許容範囲を狭くするようにすればよい。ここで、水分分析装置としては、水分濃度は、JISK2275の規定する水分試験方法(カールフィッシャー法)や公知の水分センサー等を適用するようにしている。
【0028】
所定時間加水分解する所定時間としては、例えば500時間、1000時間、2000時間と、油の加水分解による劣化の程度により、適宜設定される。
なお、評価においては、同一条件(水分量、加熱温度、加水分解時間)として、試験を実施することで、エステル油の加水分解安定性の横並び評価を行うようにすればよい。
【0029】
本発明のエステル油の評価方法は、先ず試験したいエステル油を準備し、密閉容器12内に所定量密閉保持する。次いで、この密閉容器12内の微量水分量を微量水分分析装置14で計測し、微量水分量の計測結果に応じて、密閉容器12内のエステル油11に水分15を、微量水分添加装置16より添加し、エステル油11中の溶存水分量を所定濃度(例えば500ppm±20ppm)に管理しつつ、所定時間加熱しつつ加水分解を行うものである。
この所定時間、加水分解を行ったエステル油の全酸価や動粘度、RPVOT値(Rotating Pressure Vessel Oxidation Test)を計測して、劣化度を求める。また、エステル油11の外観を観察して、評価するようにしてもよい。
この結果、飽和水分濃度の異なる油の加水分解安定性について、実機の油寿命と整合したデータを簡易に取得することができる
【0030】
図2は、3種類の油A、油B、油Cを試験した一例を示す図である。
図2から油Cが油A、Bに比べて相対的に加水分解し難いことがわかる。
【0031】
図3は、水分量とエステル油の劣化との関係を示す図である。
図3に示すように、エステル油は水分量が350ppmを超えると、劣化度合いが急上昇するものとなる。よって、この試験のエステル油の場合には、水分管理値は例えば300ppmと定めることができる。
【0032】
この結果、実機を模擬した水分濃度(例えば1000ppm以下)で加水分解安定性を評価することができるので、種類の異なるエステル油に対して、実機の油寿命と整合したデータを得ることができる。また、劣化しやすいエステル油かどうかの相対評価も行うこともできる。
【0033】
ここで、従来技術に係るASTMD2619の試験法では、25%の水を多量に添加して、水分と油とが分離するような過剰水分量の場合における加水分解反応であるので、実機を模擬した水分濃度(例えば1000ppm以下)で加水分解安定性を評価するものと異なり、実機の油寿命と整合したデータを取得することができないものであった。
【0034】
すなわち、実機で用いられるエステル油は、水と油とが分離するほど水が混入している場合は稀である。よって、本発明のように、通常飽和水分濃度未満の状態で使用されている場合と同等の条件で、エステル油中の水分濃度を一定に保持した状態で試験を行うことで、エステル油の加水分解安定性の横並び評価ができるものとなる。
この結果、本発明によれば、エステル油の加水分解安定性を正しく評価する試験方法を提供する。