【文献】
An optimization of hematopoietic stem and progenitor cell isolation for scientific and clinical purposes by the application of a new parameter determining the hematopoietic graft efficacy.,Folia Histochem Cytobiol,2008年,vol.46, no.3,p.299-305
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記細胞遊走因子が、SDF−1、G−CSF、bFGF、TGF−β、NGF、PDGF、BDNF、GDNF、EGF、VEGF、SCF、MMP3、Slit、GM−CSF、LIF、HGF、S1P、protocatechuic acid、及び血清から選択される一以上である、請求項11に記載のキット。
前記細胞遊走因子が、SDF−1、G−CSF、bFGF、TGF−β、NGF、PDGF、BDNF、GDNF、EGF、VEGF、SCF、MMP3、Slit、GM−CSF、LIF、HGF、S1P、protocatechuic acid、及び血清から選択される一以上である、請求項15に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、本発明を、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は、本発明を限定するものではない。
【0038】
(第1実施形態)
本発明の、第1実施形態による膜分取培養器1は、上部構造体10と下部構造体13とから構成される。上部構造体10は、検体細胞200あるいは検体組織を含む培地100を入れ、分離膜12上に検体細胞200あるいは検体組織を保持するためのものである。一方、下部構造体13は、遊走因子(図示せず)を含む培地300を入れ、遊走した幹細胞を受け取るためのものである。
【0039】
上部構造体10は、側面部11と円形の底面部とからなる容器で、底面部は複数のポア121を有する分離膜12により形成される。上部構造体10は、その内部に、培地100と検体細胞200あるいは検体組織を収容することができるものであればよい。本明細書において、検体細胞とは、酵素処理により組織から細胞間の接着をばらばらにし、分取していない細胞をいう。あるいは、継代して分散した細胞をいう。例えば、100〜250μl程度の培地100と検体細胞200とを収容することができる容器が好ましい。検体組織とは、細切しているが、酵素消化処理していない、分散させていない組織をいう。
【0040】
上部構造体10の底面を構成する分離膜12は、幹細胞が透過するための複数のポア121を有する。ポアサイズは、1μm〜100μmであり、好ましくは3μm〜10μmであり、さらに好ましくは、5μm〜8μmである。幹細胞が通過できるようにするためである。また、ポア密度は、2.5×10
3〜2.5×10
7ポア/cm
2であり、好ましくは、1×10
5〜4×10
6ポア/cm
2である。幹細胞が効率よく通過できるようにするため、開孔率はできるだけ高い方が良い。
【0041】
分離膜12の材料としては、PET、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド等の疎水性ポリマーを基材とするものを用いることが好ましい。また、分離膜12の厚さは、10〜100μmとすることが好ましく、10〜25μmとすることがさらに好ましい。幹細胞の遊走時、特に幹細胞がポアを通過する時に幹細胞表面に傷害を与えないようにするためである。
【0042】
分離膜12は、細胞非接着性にするために、コート剤により分離膜表面をコートされているものであることが好ましい。特には、検体細胞200あるいは検体組織を播種した際に、検体細胞200あるいは検体組織と接触する面である、上部構造体10の内側にあたる面にコート剤を適用することができる。コート剤としては、既知の細胞非接着性のコート剤、例えば、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(旭電化工業株式会社の商品名:プルロニックF108)、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレートを95%エタノールに、5mg/mlになるように溶解させたコート剤(Folkman J&Moscona A,Nature 273:345−349,1978、特開平8−9966号公報等)、分岐ポリアルキレングリコール誘導体(WO2009/072590)等を用いることができるが、これらには限定されない。任意の細胞非付着性のコート剤を用いることができる。コート厚さは、PET、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン等の基材膜に、細胞の非接着特性を十分に付与する範囲であればよい。そのような厚さは、コート剤の種類によっても異なるが、例えば、10〜100μmとすることが好ましく、10〜25μmとすることがさらに好ましい。
【0043】
分離膜12の特に好ましい修飾方法について、さらに説明する。上記コート剤を用いる方法では、分離膜の孔を閉塞させたり、また水系培養液によって溶出したり、有機溶剤残存による細胞への悪影響が懸念されるため、以下の様な共有結合法による分離膜表面修飾を行うことが好ましい。
【0044】
すなわち、所望の孔径で高開孔率で開口させた、疎水性ポリマーからなる基材膜を、ビニルピロリドン系ポリマー、エチレングリコール系ポリマーおよび/またはビニルアルコール系ポリマー、および必要に応じてアルコールを添加した処理水溶液に浸漬したあと、高エネルギー線を照射することで、表面修飾を行い、分離膜を製造する。
【0045】
ポリビニルピロリドン系ポリマーとは、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン・ビニルアルコール共重合体、ビニルピロリドン・スチレン共重合体、ビニルピロリドン・ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体およびこれらの変性ポリマーよりなる群から選ばれるポリマーで有り、エチレングリコール系ポリマーは、側鎖にエステル基を含む物も含まれる。ビニルアルコール系ポリマーは、鹸化度によって様々な種類の物が入手できるが、限定する物ではない。ただし、これら膜表面修飾ポリマーは、水溶性であることが好ましい。そのために、例えば、数平均分子量が、1万から100万のポリマーを用いることができるが、水溶性であればこのような分子量には限定されない。この処理水溶液におけるポリピロリドン系ポリマーの濃度は、10〜5000ppmが好ましい。濃度が高くなると、孔を閉塞する場合があるため、10〜2000ppmがより好ましい。
【0046】
また、基材膜の表面修飾を効率的に行うために、基材膜の吸水率が2%以下である場合は、この処理水溶液には、更にアルコールを添加することが好ましい。なお、基材膜の吸収率とは、100μm以下の膜厚の基材膜を23℃24時間水中に浸漬し、重量増加量を測定し、この重量増加率の値を、吸水率としたて定義する。
【0047】
吸水率が2%以下である場合に添加するアルコールとしては、残存した場合の安全性を考慮するとエタノールが好ましいが、これに限定する物ではない。アルコールの濃度は、処理水溶液の重量に対し、1重量%以下が好ましく、安全のためには0.5重量%以下、さらには0.1重量%以下が好ましい。
【0048】
高エネルギー線としては、UV、電子線、γ線のいずれかを用いることができるが、電子線またはγ線が反応率を高めやすいことからより好ましい。照射する線量は、5〜35kGyが好ましく、特に培養装置全体を、例えば滅菌線量として認められている25kGy相当の線量で照射することで、表面修飾と滅菌を同時に実施することも可能である。
【0049】
このようにして得られた分離膜は、細胞非付着性の観点から有用であり、本実施形態における膜分取装置に有効に使用することができる。
【0050】
上部構造体10の側面部11の材料としては、一般に細胞培養器として用いられる通常のものを用いることができ、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリスチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート等のプラスチック製とすることができる。
【0051】
上部構造体10の寸法は、特定の大きさには限定されないが、例えば、底面部の直径を、5〜8mmとすることができる。側面部11の上端により規定される容器開口部の直径が、例えば、6〜10mmとすることができる。底面部12から開口部までの高さ、すなわち容器の深さは、例えば、10〜15mmとすることができる。なお、かかる値は、一例であって、上部構造体10を構成する容器の寸法は、検体細胞や検体組織の種類や、採取する幹細胞の種類等、目的によって、当業者が適宜、決定することができる。
【0052】
次に、下部構造体13は、底面部と側面部とからなり、上面に開口部を有する容器である。下部構造体13の材料としては、側面も底面も同様のものを用いることができ、ポリスチレン、ガラス等を用いることが好ましい。細胞付着性、細胞増殖性を付与するためである。なお、下部構造体は、底面部と側面部とが固定されて一体になっていることが必ずしも必要ではなく、実施の形態によっては、下部構造体の底面部を、下部構造体とは異なる別の部材で構成することもできる。
【0053】
下部構造体13は、上部構造体10を着脱可能に積載することができる。積載した際に、上部構造体10を構成する容器の分離膜12が、下部構造体13に収容される。これは、後述する幹細胞分取方法において、下部構造体13に入れる培地と、上部構造体10を構成する分離膜12とが接触し、分離膜の両側で幹細胞の通過を可能にするためである。図示する実施形態において、分離膜12は、下部構造体13の底面に接することなく、分離膜12と下部構造体13の底面部の間に空隙が形成される。この空隙に培地を充填させることができる。
【0054】
下部構造体13と、上部構造体10との積載時の位置関係を固定するために、図示しない保持機構をさらに有してもよい。保持機構は、上部構造体10もしくは下部構造体13の一方に設けられてもよく、双方に設けられても良い。保持機構としては、例えば、上部構造体10の側面上端もしくは側面の所定の高さから、開口部の外側に延びるフランジもしくは爪状の部材であってよい。かかる保持機構は、下部構造体13の側面上端に接して、上部構造体10を所定の高さに保持することが出来る。保持機構の別の例としては、上部構造体10に設けられ、上部構造体10の底面より下へ延びる脚状の部材であってもよい。かかる保持機構は、下部構造体13の底面に接して、上部構造体10を所定の高さに保持することが出来る。この際、下部構造体の底面にも、上記脚状の部材に嵌合し、固定する部材を設けることができる。
【0055】
下部構造体13の寸法の一例としては、上記上部構造体10の寸法との関係で、例えば、底面部の直径を、7〜15mmとすることができる。また、下部構造体13の側面部の上端により規定される容器開口部の直径の寸法も同じとすることができる。下部構造体13の深さは、上部構造体10の深さよりも深いことが好ましく、例えば、11〜20mmとすることができる。
【0056】
なお、本実施形態においては、円形の底面及び開口部を有し、底面の直径が、開口部の直径よりも小さい形状の上部構造体を一例として説明するが、底面部12の形状は円形には限定されず、楕円形、方形、多角形、もしくは任意の形状とすることができる。また、底面部の寸法と開口部の寸法との関係も、本実施形態のとおりには限定されず、底面部と開口部との寸法が同一であっても良い。さらには、上部構造体は、その底面の少なくとも一部に複数のポアを有する分離膜を有し、分離膜上に細胞を播種し、保持することができれば、底面と側面とが連続した、球体の一部の面を含んで構成されるものであってよい。下部構造体13もまた、本実施形態においては、円形を一例として説明するが、底面及び開口部の形状は特定の形状には限定されない。さらには、下部構造体は、底面と側面が明確に区別できるものである必要はなく、底面と側面とが連続した、球体の一部の面を含んで構成されるものであってよい。
【0057】
このような膜分取培養器1は、哺乳類を含む任意の生物組織あるいは細胞から幹細胞を分取するために用いることができる。分取することができる幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞、iPS細胞、および組織幹細胞が挙げられる。特には、ヒトを含む哺乳類の歯髄を再生する目的で、歯髄細胞、もしくは間葉系細胞から、歯髄幹細胞もしくは間葉系幹細胞を分取するために用いることができる。間葉系幹細胞には、例えば、骨髄幹細胞、脂肪幹細胞、羊膜幹細胞、臍帯血幹細胞が含まれる。しかし、本実施形態にかかる膜分取培養器1の用途は、これらには限定されない。
【0058】
分取の目的とする前記歯髄幹細胞あるいは他の組織幹細胞は、詳細には、歯髄あるいは他組織(例えば骨髄、脂肪組織、羊膜、歯根膜、滑膜、臍帯)由来のCD105陽性細胞、CXCR4陽性細胞、SSEA−4陽性細胞、FLK−1陽性細胞、CD31陰性かつCD146陰性細胞、CD24陽性細胞、CD150陽性細胞、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、CD90陽性細胞、FLK−1陽性細胞、G−CSFR陽性、及びSP細胞のうち少なくとも何れか一つを含むことが好ましい。前記SP細胞が、CXCR4陽性、SSEA−4陽性、FLK−1陽性、CD31陰性かつCD146陰性、CD24陽性、CD105陽性、CD150陽性、CD29陽性細胞、CD34陽性細胞、CD44陽性細胞、CD73陽性細胞、CD90陽性細胞、FLK−1陽性又はG−CSFR陽性の何れかであることが好ましい。
【0059】
次に、本実施形態による膜分取培養器1を、幹細胞分取方法の観点から説明する。幹細胞分取方法は、上部構造体10の分離膜12上に検体細胞200または検体組織を播種する工程と、下部構造体13に細胞遊走因子を含む培地300を注入する工程と、分離膜12を培地300に接触させる工程とを含む。これらの工程により、下部構造体13に入れた細胞遊走因子の濃度勾配を用いて、分離膜12上部から幹細胞を選択的に通過させることができ、幹細胞を分取することができる。
【0060】
上部構造体10の分離膜12上に検体細胞200または検体組織を播種する工程においては、例えば、Nakashima,Archs oral Biol 36,1991により既知の方法によ
り取得することができる検体細胞200を培地100に溶解させ、上部構造体10の分離膜12上に播種する。幹細胞の分取源として用いる検体細胞200としては、歯髄細胞あるいは間葉系細胞が挙げられる。間葉系細胞には、骨髄、脂肪組織、羊膜、歯根膜、滑膜、臍帯由来の細胞が含まれるが、これらには限定されない。また、胚性幹細胞、iPS細胞を分取する場合には、分取源として用いる検体細胞200としては、胚及び胚盤胞、遺伝子導入あるいは蛋白導入などを施した体細胞を用いることができる。検体組織を使用する場合は、細切後培地に浸漬し、上部構造体10の分離膜12上に静置する。
【0061】
検体細胞は、分離膜1mm
2あたり、3×10
2cells〜3×10
4cellsで
播種する。例えば、直径6.5mmの分離膜に対しては、細胞密度が1×10
2cells/100μl〜1×10
7cells/100μlであることが好ましく、1×10
4cells/100μl〜1×10
6cells/100μlであることがさらに好ましい。細胞密度が低すぎると増殖しにくく、高すぎると遊走しにくいためである。なお、分取する幹細胞の種類によって、必要とする検体細胞の量は異なり、例えば、1×10
3cellsの歯髄幹細胞を分取する場合に必要な歯髄組織からの検体細胞は、ごくわずか、例えば1×10
5cells程度でよい。特に歯髄幹細胞を分取する場合のもっとも好ましい検体細胞の密度は、3x10
2〜1.5x10
3cells/mm
2である。いっぽう、同量の骨髄幹細胞もしくは脂肪幹細胞を分取する場合に必要な検体細胞は、例えばそれぞれ3×10
5cellsおよび1×10
6cells程度が必要となる場合がある。また、iPS細胞を分取する場合には、検体細胞200の量は、導入効率により異なる。このような必要とする検体細胞の量は、当業者には既知であり、適宜、決定することができる。また、検体組織を使用する場合には、検体組織は、分離膜1mm
2あたり、0.1mg〜1mgで静置することができる。
【0062】
下部構造体13に細胞遊走因子を含む培地300を注入する工程においては、培地に細胞遊走因子を溶解させ、下部構造体13に注入する。下部構造体13に入れる、培地に添加する細胞遊走因子が、SDF−1、G−CSF、bFGF、TGF−β、NGF、PDGF、BDNF、GDNF、EGF、VEGF、SCF、MMP3、Slit、GM−CSF、LIF、HGF、S1P、protocatechuic acid、及び血清のうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。特には、遊走活性、及び、臨床使用における安全性の観点から、G−CSF、またはbFGFが最も好ましい。また、前記細胞遊走因子の濃度が、1ng/ml〜500ng/mlであることが好ましい。薄すぎると遊走効果がない場合があり、濃すぎると幹細胞が分化してしまうおそれがあるためである。特には、G−CSFまたはbFGFを細胞遊走因子として用いる場合には、G−CSFまたはbFGFの濃度が、50〜150ng/mlであることが好ましく、約100ng/ml前後、例えば95〜105ng/mlであることが特に好ましい。最も多くの幹細胞分取が可能であり、かつ、分取した幹細胞において、血管新生因子、神経栄養因子のmRNA発現も高い値となるためである。
【0063】
用いる培地としては、ダルベッコ社製の改変イーグル培地、EBM2等を用いることができるが、これらには限定されない。幹細胞の培養に用いることができる任意の培地でよい。培地の量は、下部構造体13の容量によって適宜、決定することができる。培地には、細胞遊走因子とともに、血清を添加することが好ましい。血清は、細胞遊走活性を促進する効果があるためである。ヒト幹細胞を分取するためには、ヒト血清を用いることが好ましく、ウシ胎児血清も使用することができる。血清の添加量は、培地の体積に対し、5〜20vol%とすることが好ましい。
【0064】
分離膜12を培地300に接触させる工程では、上部構造体10を、下部構造体13に積層し、分離膜12の外側を培地300に十分に接触させる。これにより、細胞遊走因子の濃度勾配ができる。その結果として、検体細胞200あるいは検体組織中の幹細胞が、ポア121を通過して、下部構造体13へ遊走し、幹細胞の分取が可能になる。接触させた後の作用時間は、40〜50時間とすることが好ましい。
【0065】
なお、上記においては、上部構造体10に検体細胞200あるいは検体組織を、下部構造体13に細胞遊走因子を含む培地を、それぞれ入れた後に、上部構造体10を下部構造体に積載して、分離膜12を培地に接触させるように説明したが、これら三つの工程は順序を問わない。上部構造体10と下部構造体13とを組み合わせた後に、それぞれに播種、注入してもよく、実質的に同時に行っても良い。
【0066】
なお、かかる幹細胞培養方法は、特定の容器の形状によらず実施することもでき、その場合、幹細胞培養方法は、ポアを有する分離膜の細胞非接着性の面に検体細胞あるいは検体組織を接触させる工程と、前記分離膜の他方の面に細胞遊走因子を含む培地を接触させる工程とを含む。
【0067】
本実施形態による膜分取培養器1及びこれを用いた幹細胞分取方法によれば、安全にかつ効率的に幹細胞を分取するこができる。
【0068】
本発明は、第二実施形態によれば、ガス交換システムおよび培地交換システムを備える膜分取培養器である。
図2は、本実施形態による膜分取培養器2の概念図である。膜分取培養器2は、上部構造体20と下部構造体23に加えて、蓋状構造体24をさらに含む。
【0069】
上部構造体20と下部構造体23との基本的な構造、材料、及び機能は、第一実施形態において説明したとおりである。本実施形態においては、下部構造体23がさらに、培地取込口231と培地送出口232とを備える。これらは、培地交換システムを構成する。培地取込口231及び培地送出口232は、下部構造体23の容器内部と外部を連通する開口部である。かかる開口部により、下部構造体23と外部とのあいだで、細胞遊走因子及び/または分取した幹細胞を含む培地を連通することができる。すなわち、培地送出口232から、分取した幹細胞を含む培地dを取り出すことができ、培地取込口231から細胞遊走因子を含む新鮮な培地cを取り込むことができる。そのために、培地取込口231及び培地送出口232は、図示しない管に接続されていてもよい。このような培地の交換機構により、GMPにも対応できる非開放系(密封系)による細菌やウィルス、マイコプラズマ感染をさせず、安全性と効率を高めるといった利点を有する。
【0070】
いっぽう、蓋状構造体24は、上部構造体20に積載して、上部構造体20の開口部および下部構造体23の開口部を覆う蓋状構造体である。蓋状構造体が、下部構造体23、もしくは、上部構造体20と下部構造体23との両方に密着して、膜分取培養器2を外気から密閉することが好ましい。密閉の目的で、下部構造体23の側面上端にゴムあるいはシリコーン製のパッキングを備えることができる。
【0071】
蓋状構造体24は、さらに、ガス取込口241とガス排出口242とを備える。これらは、ガス交換システムを構成する。ガス取込口241とガス排出口242とは、蓋状構造体の内部と外部を連通する開口部である。ガス取込口241とガス排出口242とは、図示しない管に接続されていてもよい。例えば、ガス取込口241から膜分取培養器2内部にCO
2、N
2等の不活性ガスaを送り、ガス排出口242から、CO
2等を含む使用済ガスbを排出することができる。
【0072】
蓋状構造体24においては、ポアサイズが、100nm以下、特には、1〜100nm、好ましくは、10〜100nmの複数のポアを設けたシリコーン膜をさらに備えることができる。シリコーン膜は、蓋状構造体において、ガス取込口241及びガス排出口242を覆うように設けることができる。外部からのマイコプラズマの侵入経路を絶つためである。このようなガス交換システム24を備えることは、GMPにも対応できる非開放系(密封系)による安全性と効率および生存率を高めるといった利点を有する。
【0073】
本実施形態による膜分取培養器は、さらに、図示しない温度調節システムを備えてもよい。温度調節システムは、密封された膜分取培養器2の内部の温度を測定する温度測定装置と、膜分取培養器2の外部から膜分取培養器2を加熱し、もしくは冷却する加熱・冷却装置とから構成される。温度調節システムを備えることで、例えば、下部構造体23に温度感受性の培地システムを用いて、温度調節管理することもできるようになる。
【0074】
なお、本実施形態においては、培地の交換機構とガス交換システム24との両方を備える膜分取培養器2について説明したが、本発明の膜分取培養器はこれに限定されず、どちらか一方を備えるものであってもよい。第2実施形態による膜分取培養器2によれば、より安全に、かつ、循環式で培地交換を特に必要としない培養を行うことができ、組織再生に好適な幹細胞を効率よく得ることができる。
【0075】
本発明は、第三実施形態によれば、蓋状構造体を備える膜分取培養器である。
図3は、本実施形態による膜分取培養器3の構成を示した概念図である。膜分取培養器3は、上部構造体30と下部構造体33に加えて、蓋状構造体34をさらに含む。
【0076】
本実施形態において、上部構造体30は、円形の底面を有する軸状部と開口部を有する円錐台形部とから構成される一つの容器である。上部構造体30においては、底面の直径よりも開口部の直径が大きいように構成される。円錐台形部の開口部には、外側へ張り出すフランジからなる保持機構35を備える。
【0077】
図示する下部構造体33は、直径が同一の円形の底面と開口部とを備える、筒状部材である。開口部近くには、溝を備え、溝には密封用の弾性体331を保持している。溝は、一重であってもよく、二重であってもよい。この時に用いられる密封用の弾性体の材質は、シリコーンゴムなどのように、組成が明確である合成ゴムなどが望ましい。また、円筒の中央部付近であって、弾性体331を設けた溝と底面との間には、円筒の内壁面から内側に張り出すフランジからなる保持機構335を備える。保持機構335は、上部構造体30の保持機構35と係合し、上部構造体30を下部構造体33内部の所定の位置に保持する。
【0078】
上部構造体30と下部構造体33の上記以外の基本的な構造、材料、及び機能は、第一実施形態において説明したとおりである。
【0079】
蓋状構造体34は、前記上部構造体30と下部構造体33とを覆設するまたは密封することができる部材である。蓋状構造体34は、上部構造体30の上方から、上部構造体30と下部構造体33との開口部を覆うものであればよく、その材質は第一実施形態において説明した下部構造体と同じ材質である。蓋状構造体34には、ガス交換機構(図示せず)をさらに備えていることが望ましい。このガス交換機構としては、例えば、蓋状構造体34の全ての面あるいは、一部に設けられた、ポアサイズが、100nm以下、特には、1〜100nm、好ましくは、10〜100nmの複数のポアであってよい。別の例としては、蓋状構造体34の少なくとも一部に、例えばガスラインフィルター用の四フッ化エチレン(PTFE)ラミネート膜のような、高分子膜によるガス通気膜を付設してもよい。なお、蓋状構造体34は、第二実施形態において説明したような、ガス取込口とガス排出口とをさらに備えるものであってもよい。
【0080】
蓋状構造体34は、下部構造体33と組み合わせると、前記下部構造体33の溝に保持される弾性体331に密着させることができる。かかる構成により、簡単に密封を実施することができるが、ガス交換機能(図示せず)をさらに備えることで、幹細胞に圧力変化を与えない構造を提供している。
【0081】
本実施形態によるこのような蓋状構造体34と下部構造体33を備えることは、覆設の場合にはコンタミネーションの危険率を低減し、密封の場合には例えばマイコプラズマのようなコンタミネーションを回避し、温度変化による圧力変化も回避するといった利点を有する。
【0082】
本発明は、第四実施形態によれば、複数の上部構造体を備えてなる膜分取培養器である。
図4は、本実施形態による膜分取培養器4の構成を示した概念図である。膜分取培養器4は、複数の前記上部構造体40と、複数の前記上部構造体40を係止する枠体45と、複数の前記上部構造体40の分離膜を浸漬させる流体をまとめて保持する容器から構成される下部構造体43を含む。
【0083】
本実施形態において、個々の上部構造体40の構造は、第三実施形態と同様であってよい。複数の上部構造体40は、各々が異なるポアサイズ及び/またはポア密度の分離膜を備えるものであってもよく、あるいは、全て同一のものであってもよい。
【0084】
枠体45は、下部構造体43の中に収納される構造体であって、複数の上部構造体40を各穴451に、別個に支持する。すなわち、枠体45は、下部構造体40から、保持機構453により一定の高さに保持される板状部材に設けられた複数の穴451を備える、上下が開口した部材である。格子状の仕切り452は、板状部材上側の領域を区切って区画を形成し、一つの区画に一つの穴451が存在している。枠体45の材質は第一実施形態において説明した下部構造体と同じであってよい。また、保持機構453は、板状部材の辺縁から下方へ延びる脚状部材である。保持機構453は、板状部材の辺縁のみに、外枠のように形成されており、板状部材上側の仕切り452に対応する箇所に、スリットが形成されている。
図4は、24個の穴を持つ枠体45の構造を示しているが、枠体45の穴の数は2穴でも96穴でもよく、穴の数は限定されない。また、枠体24の板状部材に設けられる穴の配置も、図示する態様には限られない。また、本実施形態における保持機構453は、板状部材から下に伸びる脚状部材であるが、下部構造体の内壁から内側へ伸びるフランジを設けて、これに係留させてもよい。
【0085】
枠体45の各穴451には、上部構造体40を着脱可能に挿入することができる。上部構造体40を挿入した際、上部構造体40の底面を構成する分離膜が、穴451と、下部構造体43の底面内壁との間に位置するように、穴451が上部構造体40を係止する。すなわち、穴451の直径は、上部構造体40の底面の直径よりも大きく、かつ開口部の直径よりも小さいように形成される。
【0086】
下部構造体43は、枠体45を着脱可能に収容する容器である。下部構造体43には、溝が一重の形で付設されている。溝には、第三実施形態で説明した弾性体431が設けられている。後述する蓋状構造体44と密着させて、膜分取培養器4の内部を密閉するためである。その他の下部構造体43の構造、材料、及び機能は、第一実施形態において説明したとおりである。下部構造体43は、また、培地取込口と培地送出口(図示せず)とをさらに備えていてもよい。図示する下部構造体は、方形の底面を有するが、下部構造体は方形に限らず、例えば、円形もしくは楕円形であってもよい。
【0087】
蓋状構造体44は、複数の上部構造体40の上方から、複数の上部構造体40と下部構造体43との開口部を覆う。蓋状構造体44の基本的な構造、材料、及び機能は、第三実施形態において説明したとおりである。なお、蓋状構造体44は、第三実施形態において例示したガス交換機構(図示せず)を備えるものであってもよく、ガス取込口とガス排出口とをさらに備えるものであってもよい。
【0088】
このような枠体42と、下部構造体43を備えることは、例えばiPS細胞のように目的とする幹細胞の数が少ない場合、大量の組織細胞を検体として用い、かつ、単一の下部構造体で収集することができるといった利点を有する。
【0089】
本発明は、第五実施形態によれば、複数の上部構造体と、複数の容器から構成される下部構造体とを備える膜分取培養器である。
図5は、本実施形態による膜分取培養器5の構成を示した概念図である。
【0090】
膜分取培養器5は、複数の上部構造体50と、前記枠体55と、それぞれの前記上部構造体50の分離膜を浸漬させる流体をそれぞれ個別に保持する複数の容器から構成される下部構造体53を含む。
【0091】
上部構造体50の基本的な構造、及び機能については、第四実施形態において説明したとおりである。本実施形態においても、複数の上部構造体50は、各々が異なるポアサイズ及び/またはポア密度の分離膜を備えるものであってもよく、あるいは、全て同一のものであってもよい。
【0092】
枠体55の基本的な構造、及び機能については、第四実施形態において説明したとおりであるが、本実施形態において、枠体55の下部の保持機構553には、下部構造体53の仕切り532との干渉を回避するために、複数のスリットが設けられている。
【0093】
いっぽう、本実施形態による下部構造体53は、前記該複数の上部構造体の各々に対応する複数の容器から構成される。具体的には、下部構造体の本体が、格子状の仕切り532によって区切られてできた区画から構成される複数の容器からなる。格子状の仕切り532は、下部構造体53と一体になって形成されるものでもよく、下部構造体53に着脱可能な部材であってもよいが、使用時に、仕切り532により形成される各容器間での物質の連通ができない程度に下部構造体に固着している。
【0094】
下部構造体53には、枠体55を積載し、収容することができる。積載したとき、下部構造体53の複数の容器のそれぞれに、枠体52の各穴551が対応する。また、下部構造体53の仕切り532の上に、枠体55の仕切り552が重ね合わされる。さらに、枠体52の各穴551には、複数の上記構造体50のそれぞれを、積載することができる。このとき、下部構造体53の一つの容器と一つの上記構造体50との組み合わせが、独立した膜分取培養器として機能する。よって、仕切り532で区切られた容器には、上部構造体50の分離膜を浸漬させる流体をそれぞれ保持することができる。例えば、異なる遊走因子及び/または培地を含む、異なる種類の流体を、別個の容器にいれて、膜分離を行うことができる。
【0095】
本実施形態による膜分取培養器5はまた、図示しない蓋状構造体を備えてもよい。蓋状構造体は、第三実施形態において例示したガス交換機構(図示せず)を備えるものであってもよく、ガス取込口とガス排出口とをさらに備えるものであってもよい。図示する下部構造体53は、密封用の溝を持たないものであり、覆設する蓋状構造体と組み合わせて用いることができる。
【0096】
第五実施形態による膜分取培養器5を用いることにより、例えば今まで分取したことがない幹細胞を分取するにあたり、上部構造体のポアサイズを複数配置し、さまざまな細胞遊走因子を含む培地を複数配置して組み合わせることで、分取条件のスクリーニングを一度に行うことができるといった利点を有する。
【0097】
本発明は、第六実施形態によれば、継代培養を可能にする、閉鎖系膜分取培養器である。
図22は、本実施形態による膜分取培養器6の構成を示した概念図である。
【0098】
膜分取培養器6は、上部構造体60、下部構造体63に加え、ディッシュ66を必須の構成とする。上部構造体60の基本的な構造、材料、及び機能は、第一実施形態において説明したとおりである。上部構造体60の開口部には、上部構造体60の上方から開口部を覆う、蓋状構造体64が設けられる。蓋状構造体64は、導入口65を備える。導入口65は、蓋状構造体64を貫通して設けられる好ましくはシリコーン製の管であり、上部構造体60が構成する容器内部と、外部を連通する。導入口65は、主に膜分取培養器6の内部に、細切歯髄組織あるいは歯髄検体細胞を外界から汚染されず閉鎖系で挿入するために用いられる。導入口65からは、閉鎖系で培地交換も可能である。上部構造体60が備える膜62の構造、材料、及び機能は上記第一実施形態と同様である。いっぽう、本実施形態における下部構造体63には、側面部と一体になって固定された底面部が存在せず、側面部のみから構成される以外は、第一実施形態と同様の構成を有する。
【0099】
ディッシュ66は、底面部と側面部とから構成される細胞培養が可能な容器である。ディッシュ66には、培地の回収口661が設けられ、外界から汚染されず閉鎖系で培地交換や培養上清の回収あるいは細胞回収ができる。ディッシュ66の底面部であって、容器の内側に面した表面には、図示しない表面処理層が設けられる。表面処理層は、細胞付着および増幅性に優れた特性を有し、かつ、熱、または光、あるいはそれらの両方に対して反応し、分解可能であることが好ましい。一実施の形態によれば、表面処理層は、特定の波長の光照射に反応して、表面処理層を構成する物質が分解するように設計することができる。一例として、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)をディッシュ66の底面部であって、容器の内側に面した表面にグラフト重合させた表面処理層を形成することができる。この表面処理層は、37℃では疎水性を保っているが、30℃程度まで温度を下げることによって相変化し親水性に変化することから層表面に付着した細胞を剥離させることが可能となる。別の実施形態によれば、表面処理層は、特定の温度変化に反応して、表面処理層を構成する物質が分解するように設計することができる。一例としては、コラーゲンを含んでなる表面処理層を形成することができる。この場合、コラーゲンの変性温度まで、温度を上げることにより表面処理層が分解し、層表面に付着した細胞を剥離させることが可能となる。
【0100】
ディッシュ66の上部には、ディッシュ66の上方から、ディッシュ66の開口部を覆う蓋状構造体67をさらに備える。蓋状構造体67は、ディッシュ66の内部を密閉し、かつ上部構造体60と下部構造体63との積層体が鉛直方向に移動しても密閉状態を保持するように構成される。
【0101】
本実施形態においては、下部構造体63が、ディッシュ66の内部に、鉛直方向に移動可能に設置されて用いられる。
図22(a)は、膜分取を行う時の設置形態を示す概念図である。このとき、膜62と、下部構造体63の側面部と、ディッシュ66の底面部とが、閉鎖された空間を構成し、上部構造体60から遊走した細胞を、空間の内部に保持する。ディッシュ66の直径は、下部構造体63の直径の約7〜10倍であることが好ましい。なお、
図6は、各部材を明確に表示するために縮尺を変更して記載している。
【0102】
下部構造体63は鉛直方向、上向きに移動させて、固定することが可能である。培地の交換あるいは幹細胞の回収のために下部構造体63を移動させたときの膜分取培養器6の概念図を、
図22(b)に示す。この場合でも、蓋状構造体67がディッシュ66を密閉することができる。
【0103】
次に、第六実施形態に係る膜分取培養器6を、閉鎖系培養方法の観点から説明する。閉鎖系培養方法は、膜分取を行う工程と、幹細胞を増殖させる工程と、幹細胞を継代する工程と、幹細胞を増幅し、回収する工程とを含む。膜分取を行う工程では、第一実施形態で説明した方法に従って幹細胞の膜分取を行う。かかる工程において、上部構造体60から下部構造体63に遊走した細胞は、下部構造体63の側壁部により囲まれたディッシュ66の底面に付着する。次に、幹細胞を増殖させる工程では、上部構造体60と下部構造体との積層体を鉛直方向上向きに移動させ、培地の回収口661を通して10%血清を含むDMEMなどの増殖培地に交換をして遊走因子を除去し、上部構造体60と下部構造体との積層体を鉛直方向下向きに移動させ、66の底面部に接触させ固定することにより、幹細胞を増殖させる。更に、幹細胞を継代する工程を実施する。このとき、上部構造体60と下部構造体との積層体を鉛直方向上向きに移動させ、固定する。そして、表面処理層に、光を与えるまたは熱を与える、または温度を下げることで表面層を分解させ、増殖した幹細胞を剥離させる。このとき、下部構造体63の側壁部とディッシュ66の底面部が接触していないので、幹細胞はディッシュ66全体に拡散される。そして、幹細胞を増幅し、回収する工程では、培地の回収口661を介して、継代幹細胞を回収することができる。この際、回収口661に遠心チューブをつないで、閉鎖系にて遠心分離し、細胞あるいは培養上清を回収することができる。また、各工程において、培地交換は、培地の回収口661を介して行うことができる。
【0104】
本実施形態においては、ディッシュ66に表面処理層を設けたことで、従来、細胞を培養容器から剥離するために通常用いるトリプシンなどの酵素を細胞剥離に用いる必要をなくすことができる。この細胞培養上清および細胞は酵素を含んでいないため、遠心して洗浄せずともそのまま移植に用いることが可能である。
【0105】
本発明は、第七実施形態によれば、膜分取培養キットである。膜分取培養キットは、膜分取培養器と細胞遊走因子とを含む。膜分取培養器としては、上記第一実施形態から第六実施形態における膜分取培養器1〜6のいずれか、あるいはその変形形態のものを用いることができる。
【0106】
細胞遊走因子が、SDF−1、G−CSF、bFGF、TGF−β、NGF、PDGF、BDNF、GDNF、EGF、VEGF、SCF、MMP3、Slit、GM−CSF、LIF、HGF、S1P、protocatechuic acid、及び血清のうち少なくとも何れか一つであることが好ましい。また、前記細胞遊走因子の濃度が、1ng/ml〜500ng/mlであることが好ましい。効率よく幹細胞を遊走させるためである。すなわち、薄すぎると遊走効果がない場合があり、濃すぎると分化してしまう場合があるためである。細胞遊走因子は、培地に添加して用いることができる。よって、本実施形態によるキットは、培地をも含むものであっても良い。このとき、培地は、ダルベッコ社製の改変イーグル培地、EBM2等を用いることができるが、これらには限定されない。
【0107】
特に好ましくは、本実施形態にかかるキットは、細胞遊走因子として、G−CSF、またはbFGFを、好ましくは50〜150ng/mlの濃度としたものを、キットの構成部材として含む。また、細胞遊走因子に加えて、培地に添加する成分として、ヒト自己血清あるいはウシ胎児血清をキットの構成部材として含んでもよい。これらの血清は、培地の体積に対して、5〜20vol%の濃度で添加するように構成される。キットは、第一実施形態から第五実施形態における装置及び方法の説明に沿って、製造し、使用することができる。
【0108】
本実施形態に係る膜分取培養キットによれば、膜分取培養器及び分取に用いる細胞遊走因子を用い、第一実施形態で詳述した幹細胞分取方法をより速やかに実施することができる。
【0109】
本発明は、第八実施形態によれば、分離膜である。
本実施形態による分離膜は、疎水性ポリマーからなる基材膜と、ビニルピロリドン系ポリマー、ポリエチレングリコール系ポリマー、およびビニルアルコール系ポリマーから選択される1以上の親水性ポリマーが、前記基材膜の表面に共有結合によって結合されてなる機能層とを備えてなる分離膜であって、前記機能層を構成する親水性ポリマーの重量が、前記分離膜全体の重量の、1.5重量%から35重量%である分離膜である。
【0110】
膜の孔を閉塞させたり、また水系培養液によって溶出したり、有機溶剤残存による細胞への悪影響が懸念されるため、本発明においては、共有結合法による膜表面修飾を行うことが好ましい。即ち、所望の孔径で高開孔率で開口させた基材膜を、ビニルピロリドン系ポリマー、および/またはエチレングリコール系ポリマー、および/またはビニルアルコール系ポリマー、及び場合により、アルコールを添加した処理水溶液に浸漬したあと、高エネルギー線を照射することで、基材膜の表面修飾を行うことができる。
【0111】
本発明の分離膜の基材膜となるポリマーには、疎水性ポリマーが好適に用いられる。本発明において、疎水性ポリマーとは、20℃の水100gに対する溶解度が、0.001g未満であるポリマーを指す。具体的には、疎水性ポリマーは、スルホン系ポリマー、アミド系ポリマー、カーボネート系ポリマー、エステル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、オレフィン系ポリマー及びイミド系ポリマーからなる群から選択されるポリマーであってよいが、これに限定されるものではない。ただし、これら基材膜を構成する疎水性ポリマーの吸水率により、表面改質条件を変えることによって、より効率的にタンパク質や細胞の付着抑制性を付与することが出来る。
【0112】
基材膜は、2つの領域を分離するための膜であれば、孔が開いている必要は無い。物質透過のためには例えば透析膜のように40から80nmの孔が開いているもの、細胞分離の為には1から10μmの孔が開いているものなど、使用目的に合わせて孔径を選択すれば良い。特に本発明の分離膜は、細胞の走化性を利用した分離に好適に使うことが可能であって、この場合は3〜8μmの孔径が使いやすい。
【0113】
これらの基材膜を構成するポリマーは総じて疎水性が強く、タンパク質や細胞などを多く付着する傾向がある。特に活性化したタンパク質や血小板、付着性細胞は、膜表面に付着しやすいため、均一に、一定量以上表面改質、すなわち親水性ポリマーの共有結合が必要であるという結論に到った。
【0114】
ビニルピロリドン系ポリマーとは、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン・ビニルアルコール共重合体、ビニルピロリドン・スチレン共重合体、ビニルピロリドン・ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体およびこれらの変性ポリマーよりなる群から選ばれるポリマーで有り、エチレングリコール系ポリマーは、側鎖にエステル基を含む物も含まれる。ビニルアルコール系ポリマーは、鹸化度によって様々な種類の物が入手できるが、限定する物ではない。本発明ではこれらのポリマーを、親水性ポリマーと表現する。ただし、これら膜表面修飾のための親水性ポリマーは、水溶性であることが好ましい。そのために、例えば、数平均分子量が、1万から100万のポリマーを用いることができるが、水溶性であればこのような分子量には限定されない。
【0115】
本発明において、水溶性のポリマーとは、2 0 ℃ の水1 0 0 g に対する溶解度が1 g 以上、好ましくは1 0 g 以上であるポリマーをいう。本発明に係る分離膜が、このような水溶性ポリマーを含有していることが、タンパク質、血小板や付着性細胞などの付着抑制の観点から好ましい。表面の適度な親水性と疎水性のバランスが、タンパク質や血小板の付着抑制のために重要なのではないかと考えられている。実際に、より親水性の強い水溶性ポリマーが存在した場合には、タンパク質、血小板や付着性細胞などの付着抑制効果がさらに向上することがわかった。
【0116】
分離膜に含有される水溶性ポリマー量は、分離膜全体の重量の、1.5重量%以上が好ましく、より好ましくは5重量% 以上である。また、含有量が多すぎても効果は変わらなくなるため、40重量%以下が好ましく、より好ましくは35 重量% 以下である。
【0117】
さらに、親水性ポリマーが、水溶性ユニットとエステル基のユニットを持つ共重合体であれば、1 分子のなかで適度な親水性と疎水性のバランスが取れるので好適である。したがって、共重合体としては、グラフト共重合体よりもブロック共重合体や交互共重合体、ランダム共重合体が好適に用いられる。これは、グラフト重合体では、主鎖にグラフトしたユニット部分がタンパク質などと接触する機会が多いため、共重合体としての特性よりも、グラフト鎖部分の特性が大きく影響するためと考えられる。また、ブロック共重合体よりも交互共重合体、ランダム共重合体がより好ましい。ブロック共重合体では、それぞれのユニットの特性がはっきりと分かれるためであると考えられる。1 分子のなかでの親水性と疎水性のバランスという点では、ランダム共重合体および交互共重合体から選ばれる少なくとも一つを有する共重合体が好適に用いられる。エステル基含有ポリマー中のエステル基ユニットのモル比は0 . 3 以上、0 . 7 以下が好ましい。エステル基ユニットのモル比が0 . 3 未満であれば、エステル基の付着抑制効果が低減する。また、0. 7 を超えると、水溶性ユニットの効果が低減する。
【0118】
分離膜表面に存在する表面改質ポリマーである親水性ポリマーの存在量は、例えば、元素分析や核磁気共鳴(NMR)測定、ESCAと全反射赤外分光法(以下ATRと記すことがある)を組み合わせることによって知ることができる。これは、ESCAは、表面の約10nmまでの深さを測定するものであり、ATRは表面測定ではあるが、数μmまでの深さの組成を測定するものであることによる。ポリスルホン分離膜を例に挙げると、膜中の任意の箇所におけるポリスルホンユニットの存在量に対する親水性ポリマーの存在量の比をユニット量比とすると、ESCAで得られたユニット量比の値が、ATRで得られた値よりも30%以上大きければ、本発明でいう膜表面のエステル基含有ポリマー存在量が、膜内部よりも30%以上大きいとすることができる。なお、各測定の値は3点の平均値とする。
【0119】
次に、本実施形態を、成形体の表面改質方法の観点から説明する。成形体の表面改質方法は、疎水性ポリマーからなる成形体を、ビニルピロリドン系ポリマー、ポリエチレングリコール系ポリマー、およびビニルアルコール系ポリマーから選択される1以上の親水性ポリマーを10〜2000ppm含有し、かつ、場合により、アルコールを0.01〜0.2重量%含有する処理水溶液に浸漬する浸漬工程と、浸漬工程により得られた成形体に高エネルギー線を照射して、成形体表面をタンパク付着抑制性、細胞付着抑制性に改質する改質工程とを備える。かかる成形体の表面改質方法は、成形体が特定の基材膜の場合には、上記で説明した分離膜の製造方法ということもできる。この方法は、簡便かつ少量で実施できるため好適な方法である。
【0120】
ここでいう疎水性ポリマーからなる成形体は、膜に限定されず、特定の形状を有する成形体であればよい。膜を用いる場合には、上記分離膜の構成において基材膜として説明したものであってよく、その場合には、分離膜の製造方法となる。
【0121】
処理水溶液は、疎水性ポリマーからなる成形体を浸漬するための水溶液である。処理水溶液においては、ビニルピロリドン系ポリマー、ポリエチレングリコール系ポリマー、およびビニルアルコール系ポリマーから選択される1以上の親水性ポリマーを、合計の濃度で、10〜5000ppmとなるように含むことがましく、10〜2000ppmがより好ましい。なお、具体的な濃度は、親水性ポリマーの種類によって異なる場合がある。親水性ポリマー溶液の濃度が低いと、疎水性ポリマーからなる成形体を充分にコーティングできない場合がある。また、濃度が高すぎると、たとえば成形体が膜である場合には、孔を閉塞したり、溶出物が増えたり、分離膜性能の低下が引き起こされたりする場合が多い。なお、後述のようにアルコールを添加することで、さらに効率的に表面改質を行うことが出来るため、より低濃度を設定できる。
【0122】
また、表面修飾を効率的に行うために、疎水性ポリマーからなる成形体の素材の吸水率により、処理水溶液の組成を変えることが好ましい。ここで、本発明において、疎水性ポリマーからなる成形体の吸水率とは、成形体の素材を30〜100μmの膜厚である膜にした場合に、精製水で洗浄後、乾燥した膜を、23℃の水に24時間浸漬し、この間の重量増加率を測定する。この重量増加率が吸水率である。また、成形体が分離膜の場合は、200μm以下の膜厚であればそのまま精製水で洗浄後乾燥し、23℃の水に24時間浸漬し、この間の重量増加率から算出できる。
【0123】
疎水性ポリマーからなる成形体の吸水率が2%以下である場合は、この処理水溶液に更にアルコールを添加することが好ましい。アルコールを共存させることで、疎水性ポリマーからなる成形体の表面を一様に覆うことができるためである。添加するアルコールとしては、残存した場合の安全性を考慮するとエタノールが好ましいが、これに限定するものではない。例えば、グリセリンのような多価アルコールを用いることも可能である。添加するアルコールの濃度は、処理水溶液全体の重量の1重量%以下が好ましく、安全のためには0.5重量%以下、さらには0.1重量%以下が好ましい。アルコールを用いて吸着効率を高めておくことで、効率的に表面改質を行うことが出来るため、より低濃度の親水性ポリマーの使用でも同程度の表面改質を実現することができる。すなわち、親水性ポリマーの使用量を減らすことが出来、生産時のコスト低減に効果がある。
【0124】
いっぽう、疎水性ポリマーからなる成形体の吸水率が2%を超える場合は、処理水溶液にアルコールを入れる必要は無い。
浸漬する工程においては、成形体の全部を処理水溶液に浸漬してもよく、表面改質を行いたい成形体の部分のみを処理水溶液に浸漬しても良い。
【0125】
改質工程において用いる高エネルギー線としては、UV,電子線、γ線、X線を用いることができる。電子線またはγ線が反応率を高めやすいことからより好ましい。また、残留毒性の少なさや簡便さの点からは、γ線や電子線を用いることが好ましい。照射する線量は、5〜35kGyが好ましく、特に培養装置全体を例えば滅菌線量として認められている25kGy相当の線量で照射することで、表面修飾と滅菌を同時に実施することも可能である。しかしながら、照射線量が100kGy以上であると、生産性が悪くなり、ポリマーの分解などが起きるため、好ましくない。
【0126】
なお、高エネルギー線を照射する際に、酸素が存在すると、酸素ラジカルなどが発生し、疎水性ポリマーからなる成形体が分解してしまうことが知られている。従って、放射線照射する際の成形体周囲の酸素濃度は10体積% 以下であることが望ましい。
【0127】
第八実施形態による分離膜は、高い付着抑制性を有するので、水処理用分離膜や生体成分分離膜として好適に用いることができる。また、本実施形態による改質方法は、膜のみならず、各種成形体にも適用することができ、容易に高い効率で表面改質を実施することができる。かかる表面改質方法は、特に、血液浄化用モジュールに適する。ここで、血液浄化用モジュールとは、血液を体外に循環させて、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいい、人工腎臓や外毒素吸着カラムなどがある。
【0128】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0129】
[TaxiScanによる歯髄幹細胞の遊走に有効な遊走因子の比較]
real time水平化学走化性分析はイヌ4代目の歯髄幹細胞CD31
−SP細胞を用いた。TAXIScan−FL(Effector Cell Institute,東京)は、6μmの孔のあいたsilicon及びガラスプレートの間に、細胞の大きさに最適化(8μm)したチャンネルを形成し、チャンネル内の一端に細胞(10
5cells/mlを1μl)を注入した。10ng/μlの各種遊走因子を一定濃度勾配に形成させるように1μlずつ反対側にいれた。遊走のvideo像から、30分ごとの遊走細胞数を4時間まで計測した。
図6(a)は遊走因子による遊走能の違いを時間経過で示す。BDNFは非常に早く歯髄幹細胞が遊走し、2時間でプラトーに達した。SDF−1およびbFGFも比較的早く遊走が進んだ。GDNF、VEGF、MMP3、G−CSFともに徐々に遊走細胞が増加し、4時間後には、PDGF、GM−CSF以外、ほぼ同一の遊走細胞数となった。
【0130】
[TaxiScanによる歯髄幹細胞の遊走に有効な遊走因子の濃度]
TAXIScan−FLのマイクロチャンネルにイヌ4代目の歯髄幹細胞CD31
−SP細胞を10
5cells/mlを1μl注入し、G−CSFの濃度を、0、0.1、1、5、10、20、40、100ng/μlで1μlずつ、反対側にいれ、遊走のvideo像から、30分ごとの遊走細胞数を1時間半まで計測した。
図6(b)はG−CSFの濃度の違いによる遊走能の違いを時間経過で示す。10ng/μlが最も遊走細胞数が多く、ついで、5、40、20、100、1、0.1ng/μlの順に、遊走細胞数の減少がみられた。
【0131】
[TaxiScanによる歯髄幹細胞の遊走に有効な血清の濃度]
TAXIScan−FLのマイクロチャンネルにヒトの歯髄幹細胞を10
5cells/mlを1μl注入し、ヒト血清の濃度を、0、5、10、15、20%で1μlずつ、反対側にいれ、遊走のvideo像から、3時間ごとの遊走細胞数を24時間まで計測した。さらに、ヒト血清10%および20%と、100ng/mlのGCSFおよびSDF−1を用いた場合における遊走能を比較した。
図7(a)は血清の濃度の違いによる遊走能の違いを時間経過で示す。20%が最も遊走細胞数が多く、ついで、15、10、5%の順に、遊走細胞数の減少がみられた。
図7(b)はG−CSF、SDF−1による遊走能の時間経過で示す。G−CSF、SDF−1は20%血清よりも遊走細胞数が多かった。
【0132】
[歯髄幹細胞の分取]
細胞非接着性にコートしたセルカルチャー・インサートのPET膜(2×10
5ポア/cm
2、ポアサイズが3μm)を底面に取り付けた、底面の直径6.4mm、開口部の直径11.0mm、高さ17.5mmの、PET製の上部構造体と、底面の直径15.0mm、開口部の直径15.0mm、高さ22.0mmの、ポリスチレン製の下部構造体とから構成される、膜分取培養器を組み立てた。PET膜表面にはあらかじめ、膜部分への細胞付着抑制性付与のため、ポリビニルピロリドンーポリ酢酸ビニル共重合体(ビニルピロリドン/ 酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“コリドンVA64“))1000ppm 水溶液に、0.1%エタノールを添加した水溶液に浸漬し、封止した上でγ線25kGyを照射して修飾して分離膜を調製した。この上部構造体の膜上部に、1×10
5cells/250μlのイヌ新鮮初代歯髄細胞を播種し、下部構造体に10%イヌ血清を含むダルベッコ社製の改変イーグル培地(DMEM)中にG−CSFあるいはSDF−1を最終濃度で100ng/ml入れた。6時間後に培地交換し、G−CSFを取り除いてさらに10%イヌ血清を含むDMEM中で培養した。
図8(a)、(b)および(c)に遊走し、付着、さらに増殖した歯髄幹細胞の位相差顕微鏡像を示す。いずれの遊走因子においても、星状で突起を有する細胞が付着し、フローサイトメトリーでCD31
−SP細胞、CD105
+細胞あるいはCXCR4
+細胞を分取した場合と同様に、増殖することが明らかとなった。
【0133】
[分取した歯髄幹細胞の特徴化]
膜分取培養器でG−CSFおよびSDF−1を用いて膜分取した上記歯髄幹細胞を3代継代後、2%血清を含むDMEM中に1×10
6cells/mlで細胞を分散させ、各種幹細胞表面抗原マーカーの抗体(CD29、CD31、CD34、CD44、CD73、CD90、CD105、CD146、CD150、CXCR4)を用いて4℃で30分ラベル後、フローサイトメトリーを行った。すなわち、マウスIgG1 negative control(AbD Serotec Ltd.)、マウスIgG1 negative control (fluorescein isothiocyanate, FITC) (MCA928F) (AbD Serotec)、マウスIgG1 negative control(Phycoerythrin−Cy5、PE−Cy5)(MCA928C)(AbD Serotec),マウスIgG1 negative control(Alexa 647)(MRC OX−34)(AbD Serotec)、以下に対する抗体:CD29(PE−Cy5)(MEM−101A)(eBioscience)、CD31(FITC)(Qbend10)(Dako)、CD34(Allophycocyanin,APC)(1H6)(R&D Systems,Inc.)、CD44(Phycoerythrin−Cy7,PE−Cy7)(IM7)(eBioscience),CD73(APC)(AD2)(BioLegend),CD90(FITC)(YKIX337.217)(AbD Serotec)、anti−human CD105(PE) (43A3) (BioLegend)CD146(FITC)(sc−18837)(Santa Cruz,Biotech,Santa Cruz,CA,USA),CD150(FITC)(A12)(AbD Serotec)、CXCR4(FITC)(12G5)(R&D)を用いて90分、4℃でラベルした。コントロールとして、フローサイトメトリーで分取したイヌ歯髄CD105
+細胞を用いた。
【0134】
表1は、上記膜分取培養器で分取培養した歯髄幹細胞の3代目のフローサイトメトリーによる幹細胞の表面抗原の発現を示す表である。イヌ歯髄CD105
+細胞と同様に、膜分取培養器で分取した細胞はG−CSFを用いた場合、CD105陽性率が95.1%であり、SDF−1を用いた場合、89.5%であった。また、CD29、CD44、CD73、CD90は両画分とも95%以上で、幹細胞・前駆細胞が多く含まれると考えられた。また、CXCR4については、フローサイトメトリーで分取したイヌ歯髄CD105
+細胞に比べて半分であり、さらに、CD31、CD146は、ほぼ陰性であった。
【0135】
【表1】
【0136】
ついで、totalRNAをTrizol(Invitrogen)を用いて、G−CSFを用いた膜分取歯髄幹細胞の3代目から分離し、ReverTra Ace−α(Toyobo)にてFirst−strand cDNAを合成し、Light Cycler−Fast Start DNA master SYBR Green I(Roche Diagnostics)でラベル後、幹細胞マーカー(CXCR4,Sox2,Stat3,Bmi1)のreal timeRT−PCRをLight Cycler(Roche Diagnostics)にて、95℃で10秒,62℃で15秒,72℃で8秒のプログラムで行った。さらに、血管誘導因子および神経栄養因子として、matrix metalloproteinase(MMP)−3、VEGF−A,granulocyte−monocyte colony−stimulating factor(GM−CSF)、NGF、BDNFを用いた。コントロールとして、歯髄CD105
+細胞および未分取の歯髄検体細胞を用い、β−actinで標準化した。
【0137】
表2は、幹細胞マーカー、血管誘導因子、および神経栄養因子のreal time RT−PCR解析に用いるプライマーを示す。
【表2】
【0138】
表3に、G−CSFを用いたイヌ膜分取歯髄幹細胞および歯髄CD105
+細胞の3代目の、real time RT−PCRによる幹細胞マーカー、血管誘導因子、および神経栄養因子のmRNAの、歯髄検体細胞と比較した場合の値を示す。血管誘導因子・神経栄養因子のVEGF、GDNFはほぼ同様の発現量を示し、GM−CSF、MMP3は膜分取細胞が10以上高く、BDNFおよびNGFはCD105陽性細胞の方が高い発現がみられた。幹細胞マーカーCXCR4およびBmi1は膜分取細胞の方が非常に高く、Stat3発現はほぼ同等で、Sox2は膜分取細胞の方がやや低かった。
【0139】
【表3】
【0140】
[in vitroにおける多分化能]
三代目から五代目において歯髄膜分取細胞の血管、神経への分化誘導を行った。結果を
図9に示す。
図9(a)に示すように、膜分取歯髄幹細胞は血管内皮細胞への分化能を示した。また、
図9(b)に示すように、膜分取歯髄幹細胞はneurosphere形成を示した。
【実施例2】
【0141】
[膜分取歯髄幹細胞の抜髄後根管内自家移植による歯髄再生]
イヌ(Narc,Chiba,Japan)永久歯完全根尖完成歯を全部歯髄除去し、細胞画分を移植して歯髄を再生させる実験的モデルを確立した。sodium pentobarbital(Schering−Plough,Germany)で全身麻酔後、上顎第二切歯及び下顎第三切歯の完全歯髄除去を行い、根尖部を#70K−file(MANI.INC,Tochigi,Japan)を用いて0.7mmに拡大した。根尖側に実施例2で膜分取した歯髄幹細胞を、歯冠側にG−CSFを移植した。即ち、5x10
5個の、四代目の膜分取歯髄幹細胞をcollagen TE(新田ゼラチン,Osaka,Japan)とともにDiIラベリング後、根管内の下部に自家移植した。根管上部は更にcollagen TEとともに最終濃度15ng/μlのG−CSFを移植した。窩洞はリン酸亜鉛セメント(Elite Cement,GC,Tokyo,Japan)及びボンディング材(Clearfil Mega Bond,Kuraray)で処理した後、コンポジットレジン(Clearfil FII,Kuraray,Kurashiki,Japan)で修復した。コントロールとして、歯髄CD105陽性細胞を用いた。14日後に標本を作製した。形態分析のために4%paraformaldehyde(PFA)(Nakarai Tesque,Kyoto,Japan)で4℃一晩固定し、10%蟻酸にて脱灰後、paraffin wax(Sigma)に包埋した。paraffin切片(厚さ5μm)をhematoxylin−eosin(HE)染色し、形態学的に観察した。
【0142】
図10(a)は、G−CSF及び膜分取歯髄幹細胞自家移植による歯髄再生を示す図である。
図10(b)は、
図10(a)における四角で囲ったエリア(b)の拡大図である。
図10(c)は、
図10(a)における四角で囲ったエリアCの拡大図である。
図10(a)、
図10(b)及び
図10(c)に示すように、膜分取歯髄幹細胞をG−CSFとともに移植すると、歯髄様組織が14日までに形成された。
図10(b)に示すように、再生組織中の細胞は、紡錘形あるいは星状であり、正常歯髄組織の細胞(
図10(d))に類似していた。
図10(c)に示すように、象牙芽細胞様細胞は、根管の象牙質壁に付着し、細管内に突起を伸ばしていた。
【実施例3】
【0143】
[ヒト膜分取歯髄幹細胞]
膜分取培養器(1×10
5ポア/cm
2、ポアサイズが8μm)を用い、1×10
5cells/100μlのヒト新鮮初代歯髄細胞を膜上部に播種した。膜下部構造体には、10%ヒト血清のみ、あるいは10%ヒト血清を含むDMEM中にG−CSFを10ng/mlあるいは100ng/ml入れた。22時間後に培地交換してG−CSFを取り除いてさらに10%ヒト血清を含むDMEM中で培養した。
図11に遊走し、付着、さらに増殖した歯髄幹細胞の位相差顕微鏡像を示す。
図12(a)、(b)、(c)に示すように、10%ヒト血清、G−CSF10ng/mlおよび100ng/mlいずれにおいても、星状で突起を有する細胞が付着し、フローサイトメトリーでCD31
−SP細胞、CD105
+細胞あるいはCXCR4
+細胞を分取した場合と同様に、増殖することが明らかとなった(
図12(d)、(e))。
【実施例4】
【0144】
[膜分取組織幹細胞]
本発明にかかる膜分取培養器(1×10
5ポア/cm
2、ポアサイズが8μm)を用い、1×10
5cells/100μlのブタ歯髄細胞、骨髄細胞、脂肪細胞を膜上部に播種し、膜下部構造体に10%ウシ胎児血清を含むDMEM中にG−CSFを100ng/ml入れ、22時間後に培地交換してG−CSFを取り除いてさらに10%ウシ胎児血清を含むDMEM中で培養した。
図13(a)、(b)、(c)に示すように、歯髄、骨髄、脂肪とも、星状で突起を有する細胞が付着し、
図13(d)に示すように、フローサイトメトリーでCD31
−SP細胞、CD105
+細胞を分取した場合と同様に、増殖することが明らかとなった。
【実施例5】
【0145】
[1. TAXIScanによる歯髄幹細胞の遊走に有効な遊走因子の比較]
ヒト未分取の歯髄細胞を用いて、TAXIScan-FL (Effector Cell Institute, 東京)によるReal time水平化学走化性分析を行った。6μmの孔のあいたsilicon及びガラスプレートの間に、細胞の大きさに最適化(8μm)したチャンネルを形成し、チャンネル内の一端に細胞(10
5 cells/mlを1 μl)を注入した。10ng/μlの各種遊走因子(BDNF, GDNF,NGF,PDGF,G-CSF,SDF-1,bFGF,VEGF,LIFおよびGM-CSF)を一定濃度勾配に形成させるように1 μlずつ反対側にいれた。遊走のvideo像から、3時間ごとの遊走細胞数を15時間まで計測した。さらに、遊走因子としてG-CSFおよびbFGFを用いて、10%ウシ胎児血清を添加した場合の遊走能の変化を検討した。
【0146】
種々の遊走因子を用いた場合の遊走能の測定結果を、
図14に示す。種々の遊走因子による遊走能の違いを時間経過でみると、BDNF,GDNF,NGF,PDGF,G-CSFにおいて、遊走細胞が多くみられた。SDF-1,bFGF,LIFにおいても、比較的多く遊走細胞がみられた。GM-CSFではあまり遊走がみられなかった。よって、以後、臨床で用いられる基準(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令:GMP)を満たす薬剤が容易に入手でき、日本で薬事認可済みのG-CSFおよびbFGFを遊走因子として比較検討した。
【0147】
G-CSFおよびbFGFによる遊走能の測定結果を、
図15に示す。G-CSFおよびbFGF を添加した場合、10%血清のみの場合よりも遊走能が高く、G-CSFおよびbFGFのそれぞれに10%血清を添加するとさらに遊走が促進された。中でも、G-CSFの方がbFGFより遊走を促進することが明らかとなった。この結果から、膜遊走分取には、G-CSFに10%血清を添加して行うことが有効であることがわかった。
【0148】
上記のように、幹細胞マーカーの発現は、G-CSF 10ng/mlで分取した膜分取細胞は、フローサイトメーターで分取したCD105
+細胞と比較して、類似した幹細胞マーカー発現率であった。G-CSF 100ng/mlで分取した膜分取細胞は、CD105
+細胞と比較して、CXCR4、G-CSFR 発現率が高く、幹細胞がより多く含まれていることが示唆された。また、G-CSF100ng/mlでの膜分取細胞は、CD105
+細胞と比較して、より高い細胞増殖能、遊走能を有していた。さらに、血管新生因子、神経栄養因子のmRNA発現についてもG-CSF 100ng/mlで分取した時、最も高い発現を示すことがわかった。発明者らは、歯髄CD105
+細胞が、血管誘導能、神経誘導能が高く、歯髄再生能が高いことをすでに報告しているが、G-CSF 100ng/mlで分取した膜分取細胞についてもCD105
+細胞と同様に歯髄・象牙質再生に有用であることが、本実験の結果により示唆された。
【0149】
[2. 膜分取器を用いた歯髄幹細胞分取のための播種細胞数]
膜分取器としては、上部構造として、セルカルチャー・インサート(ポリカーボネート基材膜(Polycarbonate Membrane)Transwell(登録商標) Inserts、2x10
5ポア/cm
2、ポアサイズ 8 μm、底面の直径6.4 mm、開口部の直径11.0 mm、高さ17.5 mm) (Corning)を、下部構造として24 well plate (直径15.0 mm、開口部の直径15.0 mm、高さ22.0 mm) (Falcon)に挿入して用いた。ただし、ポリカーボネート基材膜への細胞非接着性付与のため、ポリビニルピロリドンーポリ酢酸ビニル共重合体(ビニルピロリドン/ 酢酸ビニル( 6 / 4 ) 共重合体( B A S F 社製、“コリドンV A 6 4 “ )) 1000ppm 水溶液に、0.1%エタノールを添加した水溶液に浸漬し、封止した上でγ線25kGyを照射して修飾し、分離膜を調製した。ポリビニルピロリドンーポリ酢酸ビニル共重合体が、基材膜表面に共有結合されるが、ポリマー自身の安全性は高く、同時に用いたエタノールについてもγ線照射によって分解されて低濃度化することなどから、この表面修飾の安全性は高い。この分離膜上部に、ヒト2代目歯髄細胞を2x10
4cells/100μl、1x10
5cells/100μl播種し、下部構造体の24 well中に10%ヒト血清を含むダルベッコ社製の改変イーグル培地 (DMEM) 中にG-CSFを最終濃度で100 ng/ml入れ、48時間後にG-CSFを取り除き、10%ヒト血清を含むDMEMに培地交換し、24 well下部に付着した細胞数を、位相差顕微鏡下で測定した。
【0150】
その結果、分取細胞率は、2x10
4cells/100μlで5 %、1x10
5cells/100μlで1 %であった。かかる結果より、細胞数によって細胞の分取効率が異なることが示唆された。
【0151】
[3. 膜分取器を用いた歯髄幹細胞分取のための遊走因子作用時間]
膜分取器の分離膜上部にヒト2代目歯髄細胞を2x10
4cells/100μl播種し、下部構造体の24 well中に、10%ヒト血清を含むDMEM中にG-CSFを最終濃度で100 ng/ml入れ、12、24、48時間、72時間後に24 well下部に付着した細胞数を位相差顕微鏡下で測定した。
【0152】
G-CSF作用時間を12、24、48、72時間として、それぞれにおいて付着細胞数を測定した結果、12時間後では分取細胞率は0.3%、24時間後では1.7%、48時間後では5%、72時間後でも5%であった。
【0153】
[4. 膜分取器を用いた歯髄幹細胞分取のためのG-CSF濃度]
膜分取器の分離膜上部に、ヒト2代目歯髄細胞を2x10
4 cells/100μl 播種し、下部構造体の24 well中に、10%ヒト血清を含むダルベッコ社製の改変イーグル培地 (DMEM) 中にG-CSFを最終濃度で0, 10, 100, 500 ng/ml入れた。48時間後にG-CSFを取り除き、10%ヒト血清を含むDMEMに培地交換し、24 well下部に付着した細胞数を位相差顕微鏡下で測定した。さらに培養して、70 %コンフルエント後に継代した。
【0154】
各種濃度のG-CSFを用いて膜分取した上記歯髄幹細胞を6代継代後、フローサイトメトリーを用いて、幹細胞表面抗原マーカー発現率を測定した。すなわち、2%血清を含むDMEM中に1x10
6 cells/mlで細胞を分散させ、幹細胞マーカー抗体を用いて4℃で30分ラベル後、フローサイトメトリーを行った。すなわち、マウスIgG1 negative control (AbD Serotec Ltd.)、ハムスターIgG (PE-cy7) (eBio299Arm) (eBioscience)、ラットIgG2b (PE-cy7) (RTK4530) (Biolegend)、マウスIgG1 (APC) (NOPC-21) (Biolegend)、マウスIgG1 (RPE) (SFL928PE) (AbD Serotec)、マウスIgG1 (Alexa647) (F8-11-13) (AbD Serotec)、マウスIgG2a (FITC) (S43.10) (MACS)、マウスIgG1 (FITC) (MOPC-21) (Biolegend)、以下に対する抗体:CD29 (Phycoerythrin, PE-cy7) (eBio299Arm) (eBioscience)、CD31 (PE) (WM59) (BD Pharmingen)、CD44 (PE-cy7) (IM7) (eBioscience)、CD73 (APC) (AD2) (Biolegend)、CD90 (Alexa647) (F15-42-1) (AbD Serotec)、CD105 (PE) (43A3) (Biolegend)、CD146 (Alexa647) (OJ79c) (AbD Serotec)、CXCR4 (FITC) (12G5) (R&D Systems)、G-CSFR (CD114) (FITC) (38660)を用いて90分、4℃でラベルした。コントロールとして、フローサイトメトリーで分取したヒト歯髄CD105
+細胞および未分取のヒト歯髄検体細胞を用いた。
【0155】
ついで、total RNAをTrizol (Invitrogen)を用いて、各種濃度のG-CSFを用いた膜分取細胞の6代目から分離し、ReverTra Ace-α TOYOBO)にてFirst-strand cDNAを合成し、Light Cycler-Fast Start DNA master SYBR Green I (Roche Diagnostics)でラベル後、血管誘導因子、神経栄養因子のreal time RT-PCRをLight Cycler (Roche Diagnostics) にて、95℃で10秒、65℃で15秒、72℃で8秒のプログラムで行った。血管誘導因子および神経栄養因子として、granulocyte-monocyte colony-stimulating factor (GM-CSF)、matrix metalloproteinase (MMP)-3、VEGF-A、brain-derived neurotrophic factor (BDNF)、nerve growth factor (NGF)、neurotrophin-3 (NT-3)のプライマー (表4)を用いた。コントロールとして、歯髄CD105
+細胞および未分取のヒト歯髄検体細胞を用い、β-actinで標準化した。
【0156】
【表4】
【0157】
さらに、in vitroにおいて、7代目の歯髄膜分取細胞の血管、神経、脂肪、象牙質・骨への分化誘導を通法に従い、行った。また、各種G-CSF濃度により分取したヒト膜分取細胞の、ヒト10%血清あるいはG-CSF 100 ng/ml刺激による細胞増殖能、および10 %ヒト血清およびG-CSF 100 ng/mlによる細胞遊走能を比較した。
【0158】
Plateに付着、さらに増殖した歯髄幹細胞を位相差顕微鏡像にて観察した。6代目未分取のヒト歯髄検体細胞、6代目ヒト歯髄CD105+細胞、10%血清のみで膜分取して培養7日後の膜分取細胞、G-CSF 10 ng/ml+10%血清にて膜分取して培養7日後の膜分取細胞、G-CSF 100 ng/ml+10%血清にて膜分取して培養7日後の膜分取細胞、G-CSF 500 ng/ml+10%血清にて膜分取して培養7日後の膜分取細胞について、位相差顕微鏡像を得た。10 %ヒト血清、G-CSF 0, 10 ng/ml, 100 ng/ml, 500 ng/mlいずれの濃度を用いた場合でも、星状で突起を有する細胞の付着、増殖がみられた。付着細胞数を測定したところ、G-CSF 100 ng/ml では分取細胞率が5%であり、ついで500 ng/mlで4%、10 ng/mlで3%、0 ng/mlで2%であった。
【0159】
次に、フローサイトメトリーによる幹細胞表面マーカーの解析を、表5に示す。フローサイトメトリーで幹細胞マーカー発現率を比較したところ、CD29、CD44、CD73、CD90は、ほぼ陽性で差がみられなかった。CD105は未分取ヒト歯髄検体細胞では19%であるのに対し、G-CSF 10 ng/mlおよび100 ng/mlにおいて、コントロールのCD105
+細胞と同様に90%以上であった。また、G-CSF 500 ng/mlおよび0 ng/mlで膜分取したものでは、CD105発現率はそれぞれ、67%および58%と低かった。CXCR4は、未分取ヒト歯髄検体細胞では4.5%、CD105
+細胞では8%、G-CSF 0 ng/mlでは5%と低い発現率であった。これに対し、G-CSF 100 ng/mlでは最も高く15%であり、G-CSF 10 ng/ml、500 ng/mlでも10%以上であった。一方、G-CSFのレセプターであるG-CSFRは、CD105
+細胞18%に対し、G-CSF 100 ng/mlは最も高く76%であり、G-CSF 500 ng/ml、10 ng/mlの順に減少がみられた。以上のことから、CD105、CXCR4およびG-CSFRの陽性率が最も高いG-CSF 100 ng/mlで膜分取した細胞が、幹細胞・前駆細胞を最も多く含む可能性が示唆された。
【0160】
【表5】
【0161】
G-CSF 100 ng/mlでの膜分取細胞を用いて多分化能を検討した。G-CSF濃度(100 ng/ml)により分取した膜分取細胞の血管誘導能、神経誘導能を、位相差顕微鏡画像により調べた。膜分取細胞ではCD105
+細胞と同様に、マトリゲル上で6時間後に索状構造がみられ、血管内皮細胞への分化能を示した。未分取ヒト歯髄検体細胞では、長時間観察しても索状構造形成はみられなかった。未分取のヒト歯髄検体細胞では、ほとんど認められなかったが、G-CSF 100 ng/mlでの膜分取細胞は誘導14日でCD105
+細胞と同様にneurosphere形成がみられた。G-CSF濃度(100 ng/ml)により分取した膜分取細胞の脂肪誘導能を、光学顕微鏡画像により調べた。脂肪誘導はすべての細胞画分において観察されたが、脂肪マーカーmRNAの発現量は未分取のヒト歯髄検体細胞と比較して高かった。非常に好適なG-CSF濃度(100 ng/ml)により分取した膜分取細胞の骨・象牙質誘導能を、光学顕微鏡画像により調べた。骨・象牙質誘導もすべての細胞画分において観察された。骨・象牙質マーカーmRNA発現量は未分取のヒト歯髄検体細胞に比較して、膜分取細胞では発現量が低かった。
【0162】
Real time RT-PCRにより血管誘導因子および神経栄養因子のmRNA発現を解析した結果を、表6に示す。
【表6】
【0163】
未分取のヒト歯髄検体細胞と比較して、血管誘導因子・神経栄養因子のGM-CSF、MMP3は膜分取細胞がいずれの濃度でも10倍以上高く、VEGF、BDNF、GDNF、NGFおよびNT-3はCD105
+細胞とほぼ同様あるいは2倍(G-CSF 100 ng/mlでの膜分取細胞において)の発現量を示し、未分取のヒト歯髄検体細胞に比べて高い発現がみられた。幹細胞マーカーについては、Sox2が膜分取細胞において発現量が10倍以上高く、Oct4、Nanog、Rex1についてはCD105
+細胞とほぼ同様あるいは2倍(G-CSF 100 ng/mlでの膜分取細胞において)の発現量であった。
【0164】
ヒト血清による細胞増殖能の比較(*p<0.05)のグラフを
図16に示す。血清に対する増殖能は、すべての細胞画分において有意差は認められなかった。G-CSF (100ng/ml)による細胞増殖能の比較(**p<0.01, *p<0.05 : vs 未分取ヒト歯髄検体細胞、
##p<0.01 : vs 歯髄CD105
+細胞)を、
図17に示す。G-CSFに対する増殖能は、G-CSF 100 ng/ml、500 ng/mlでの膜分取細胞が最も高く、未分取のヒト歯髄検体細胞およびCD105
+細胞に比べて、有意差がみられた。濃度の異なるG-CSFに対する細胞遊走能の比較(**p<0.01, *p<0.05 : vs 未分取ヒト歯髄検体細胞、
##p<0.01,
#p<0.05 : vs 歯髄CD105
+細胞)を
図18に示す。G-CSFによる遊走能は、G-CSF 100 ng/mlでの膜分取細胞が最も高く、未分取のヒト歯髄検体細胞およびCD105
+細胞に比べて有意差がみられた
【0165】
[5.マウス下肢虚血モデルを用いた in vivoにおける血管新生能]
マウス下肢虚血モデルを作製し、虚血部位に未分取のヒト歯髄検体細胞、G-CSF100 ng/mlでの膜分取細胞、CD105
+細胞を移植し、14日後に血流量をレーザードップラー解析し、血管新生は、凍結切片を作製して、BS-1 lectin染色による免疫組織学的解析を行った。
【0166】
レーザードップラー解析の結果、検体細胞の移植では、血流量の改善があまり認められなかったが、膜分取細胞を移植することで、CD105+細胞を移植した時と同様に顕著な血流量の改善が認められた。また、凍結切片を作製し、BS-1 lectin染色を行うと、膜分取細胞の移植によって、CD105
+細胞の移植時と同様に血管新生が認められた。
【0167】
[6. SCIDマウスを用いたin vivoにおける歯髄再生能]
ヒト抜去歯をスライス後、一端をセメントで封鎖し、未分取のヒト歯髄検体細胞、G-CSF100 ng/mlでの膜分取細胞、CD105
+細胞をScaffoldとしてコラーゲンと共に注入し、SCIDマウスの皮下に移植して、3週間後、歯髄再生能を比較した。形態をHE染色にて、神経再生能および、血管新生能を各々、PGP9.5、BS1 lectin染色、Ki67染色により免疫組織学的に解析した。移植細胞の局在については、ヒト特異的遺伝子Alu に対するin situ hybridizationによって解析した。さらに、再生歯髄組織における歯髄特異的マーカーmRNA発現を正常歯髄組織と比較した。
【0168】
HE染色の結果、ヒト膜分取細胞の移植によって、CD105
+細胞の移植時と同様に歯髄様組織の形成が認められた。一方、未分取の検体細胞の移植では、歯髄様組織の形成は少量であった。また、BS1 lectin、PGP9.5染色の結果、膜分取細胞の移植によって、CD105
+細胞の移植時と同様に血管新生、神経再生が認められた。また、移植細胞の増殖はほとんどみられず、Aluのin situ hybridizationの結果、再生歯髄様組織を形成しているのは、宿主のマウス細胞であることが明らかとなった。
【0169】
再生歯髄様組織が歯髄であることをmRNA発現レベルで調べた結果を、表7に示す。
【表7】
【0170】
歯髄特異的マーカーであるTRH-DE、歯髄において発現が高いことが報告されている、Syndecan、Tenascin Cの発現が正常歯髄と同様であり、歯根膜、脂肪組織、骨・象牙質マーカーmRNAの発現は認められなかった。このことから、膜分取細胞の移植によって認められた再生歯髄様組織は歯髄であることが明らかとなった。
【実施例6】
【0171】
[歯髄、骨髄、脂肪幹細胞膜分取法]
[1. 膜分取器を用いた歯髄、骨髄、脂肪幹細胞分取]
骨髄、脂肪細胞から膜分取法によって歯髄細胞と同様に幹細胞を分取できるかを検討した。膜分取器としては、上部構造として、セルカルチャー・インサート(ポリカーボネート基材膜(Polycarbonate Membrane)Transwell(登録商標)Inserts、2x10
5ポア/cm
2、ポアサイズ8 μm、底面の直径6.4 mm、開口部の直径11.0 mm、高さ17.5 mm) (Corning)を、下部構造として24 well plate (直径15.0 mm、開口部の直径15.0 mm、高さ22.0 mm) (Falcon)に挿入して用いた。ポリカーボネート基材膜は、細胞が接着しないように表面コート処理した。ポリカーボネート基材への、細胞非接着性付与のため、ポリビニルピロリドンーポリ酢酸ビニル共重合体(ビニルピロリドン/ 酢酸ビニル( 6 / 4 ) 共重合体( B A S F 社製、“コリドンV A 6 4 “ )) 1000ppm 水溶液に、0.1%エタノールを添加した処理水溶液にポリカーボネート基材膜を浸漬し、封止した上でγ線25kGyを照射して修飾する表面コート処理を予め行って分離膜を調製した。この分離膜上部に、ブタ2代目歯髄、骨髄、脂肪細胞を1.5x10
4cells/100 μl播種し、下部構造体の24 well中に10%FBSを含むダルベッコ社製の改変イーグル培地 (DMEM) 中にG-CSFを最終濃度で100 ng/ml入れ、24時間後にG-CSFを取り除き、10%FBSを含むDMEMに培地交換して培養し、70 %コンフルエント後に継代した。
【0172】
その結果、歯髄幹細胞分取時と同様の条件で、骨髄、脂肪細胞においても分離膜下部に細胞が分取されることがわかった。
【0173】
[2. 幹細胞表面抗原マーカー陽性率の測定]
ブタ歯髄、骨髄、脂肪膜分取細胞を5代継代後、フローサイトメトリーを用いて、幹細胞表面抗原マーカー陽性率を測定した。2%FBSを含むPBS中に1x10
6 cells/mlで細胞を分散させ、幹細胞マーカー抗体を用いて4℃で60分間ラベル後、フローサイトメトリーを行った。具体的には、マウスIgG1 negative control (AbD Serotec Ltd.)、ハムスターIgG (PE-cy7) (eBio299Arm) (eBioscience)、ラットIgG2b (PE-cy7) (RTK4530) (Biolegend)、マウスIgG1 (APC) (NOPC-21) (Biolegend)、マウスIgG1 (RPE) (SFL928PE) (AbD Serotec)、マウスIgG1 (Alexa647) (F8-11-13) (AbD Serotec)、マウスIgG2a (FITC) (S43.10) (MACS)、マウスIgG1 (FITC) (MOPC-21) (Biolegend)、以下に対する抗体:CD29 (Phycoerythrin, PE-cy7) (eBioHMb1-1) (eBioscience)、CD31 (PE) (LCI-4) (AbD Serotec)、CD44 (PE-cy7) (IM7) (eBioscience)、CD73 (APC) (AD2) (Biolegend)、CD90 (Alexa647) (F15-42-1) (AbD Serotec)、CD105 (FITC) (MEM-229) (Abcam)、CXCR4 (FITC) (12G5) (R&D Systems)、G-CSFR (CD114) (Alexa 488) (S1390) (Abcam)を用いて60分、4℃でラベルした。ラベル後、Hepesを終濃度0.01M、FBSを2%になるように添加したHank’s Bufferを加え、フローサイトメトリーを行った。陰性コントロールとして、未分取の歯髄、骨髄、脂肪検体細胞を用いた。
【0174】
フローサイトメトリーによる幹細胞マーカー発現率の比較結果を、表8に示す。
【表8】
【0175】
CD29、CD44、CD73、CD90は、ほぼ陽性で膜分取細胞と未分取の検体細胞の間で差は認められなかった。CD105は未分取検体細胞では歯髄、骨髄、脂肪細胞でそれぞれ、14.7 %、22.3 %、25.9 %であったのに対し、膜分取細胞ではそれぞれ、70.8 %、73.2 %、61.7 %といずれも未分取検体細胞と比較して陽性率が高かった。また、CXCR4は、未分取検体細胞では歯髄、骨髄、脂肪において5.9 %、4.1 %、2.8 %であったのに対し、膜分取細胞は、14.1 %、14.2 %、7.0 %と陽性率が高かった。さらに、G-CSFの受容体であるG-CSFRについても、未分取検体細胞において23.7 %、21.9 %、23.6 %であったのに対し、膜分取細胞では74.2 %、48.5 %、49.5 %と陽性率が高かった。以上のことから、膜分取法によって、骨髄、脂肪細胞から歯髄細胞と同様にCD105、CXCR4およびG-CSFRの陽性率が高い、幹細胞・前駆細胞を分取できることがわかった。
【0176】
[3. 血管新生因子、神経栄養因子、幹細胞マーカーmRNA発現の解析]
ついで、Real time RT-PCRにて血管新生因子、神経栄養因子、幹細胞マーカーmRNA発現の解析を行った。total RNAをTrizol (Invitrogen)を用いて、5代継代した歯髄、骨髄、脂肪膜分取細胞とそれぞれの未分取検体細胞から抽出し、DNase (Roche) 処理後、ReverTra Ace-α(TOYOBO)にてFirst-strand cDNAを合成し、Light Cycler-Fast Start DNA master SYBR Green I (Roche Diagnostics)でラベル後、血管新生因子、神経栄養因子、幹細胞マーカーのreal time RT-PCRをLight Cycler (Roche Diagnostics) にて、95℃で10秒、65℃または60℃で15秒、72℃で8秒のプログラムで行った。血管新生因子および神経栄養因子、幹細胞マーカーとして用いたプライマーを表9に示す。granulocyte-monocyte colony-stimulating factor (GM-CSF)、vascula endothelin growth factor (VEGF)-A、matrix metalloproteinase (MMP)-3、chemokine (C-X-C motif) receptor (CXCR)-4、brain-derived neurotrophic factor (BDNF)、glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)、nerve growth factor (NGF)、nanog homeobox (Nanog)、SRY (sex determining region Y)-box 2 (Sox2)、signal transducer and activator of transcription (STAT)-3、telomerase reverse transcriptase (Tert)、Bmi1 polycomb ring finger oncogene (Bmi-1) のプライマーは、β-actin で標準化した。
【0177】
【表9】
【0178】
血管誘導因子および神経栄養因子のmRNA発現を解析した結果を、表10に示す。膜分取細胞は、未分取の検体細胞と比較して、GM-CSF、MMP3、BDNFは約5〜10倍発現量が高く、VEGF、GDNF、NGFはCD105
+細胞とほぼ同様あるいは2倍(G-CSF 100 ng/mlでの膜分取細胞において)の発現量を示し、未分取の歯髄検体細胞に比べて高い発現がみられた。
【0179】
【表10】
【0180】
[4. 血管誘導能、細胞増殖能、細胞遊走能の解析]
in vitroにおいて、5代目の歯髄、骨髄、脂肪膜分取細胞の血管誘導能、細胞増殖能、細胞遊走能を調べた。血管誘導能については、EGM-2 (Lonza) 培地に分散した細胞をmatrigel上で三次元培養し、管腔形成能を比較した。細胞増殖能については、10%FBSあるいはG-CSF 100 ng/ml刺激による細胞増殖能をテトラカラーワン (生化学バイオビジネス)を用いて測定した。また、G-CSFに対する細胞遊走能を、TAXIScan-FLによるReal time水平化学走化性分析を行った。すなわち、6 μmの孔のあいたsilicon及びガラスプレートの間に、細胞の大きさに最適化(8 μm)したチャンネルを形成し、チャンネル内の一端にブタ歯髄、骨髄、脂肪膜分取細胞、未分取の各種検体細胞 (10
5cells/mlを1 μl)を注入した。10 ng/μlの各種遊走因子を一定濃度勾配が形成させるように1 μlずつ反対側にいれた。遊走のvideo像から、3時間ごとの遊走細胞数を24時間まで計測した。
【0181】
血管誘導については、膜分取細胞は、歯髄、骨髄、脂肪由来のいずれもmatrigel上で5時間後に索状構造がみられ、血管内皮細胞への分化能を示した。一方、未分取検体細胞では、長時間観察しても索状構造形成は見られなかった。
【0182】
ウシ胎児血清による細胞増殖能を表すグラフを
図19に、G-CSFによる細胞増殖能を表すグラフを
図20に示す。FBS、G-CSFによる細胞増殖能は、いずれも膜分取細胞において、未分取の検体細胞と比較して高かった。G-CSFによる細胞遊走数を測定したグラフを
図21に示す。G-CSFによる細胞遊走能は、いずれの未分取検体細胞と比較しても膜分取細胞の遊走能が最も高いことがわかった。
【実施例7】
【0183】
[歯髄および脂肪新鮮組織からの直接的な幹細胞膜分取法]
歯髄、脂肪組織から、酵素消化せずに、直接的に、膜分取法によって細胞と同様に幹細胞を分取できるかを検討した。膜分取器としては、上部構造として、セルカルチャー・インサート(表面修飾されたポリカーボネート基材膜Transwell(登録商標) Inserts、2x10
5ポア/cm
2、ポアサイズ8 μm、底面の直径6.4 mm、開口部の直径11.0 mm、高さ17.5 mm) (Corning)を、下部構造として24 well plate (直径15.0 mm、開口部の直径15.0 mm、高さ22.0 mm) (Falcon)に挿入して用いた。なお、このポリカーボネート基材膜も、上記実施例6と同様に、事前に細胞非付着性の処理を行い、分離膜を調製して、膜分取装置に組み込んだ。このポリカーボネート膜上部に、細切したイヌ新鮮歯髄組織あるいは脂肪組織を静置させ、下部構造体の24 well中に10%FBSを含むダルベッコ社製の改変イーグル培地 (DMEM) 中にG-CSFを最終濃度で100 ng/ml入れ、24時間後にG-CSFを取り除き、10%FBSを含むDMEMに培地交換して培養し、70 %コンフルエント後に継代した。
【0184】
24時間後に遊走付着した歯髄幹細胞および脂肪幹細胞を
図23に示す。その結果、検体細胞から分取時と同様の条件で、歯髄組織および脂肪組織においても膜下部に細胞が分取されることがわかった。
【実施例8】
【0185】
次に、本発明に係る分離膜の実施例と比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0186】
[1.測定方法]
(1)X線光電子分光法(ESCA)測定
分離膜の内表面および外表面を各3点測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。測定装置、条件としては、以下の通りとした。
測定装置: ESCLAB220iXL
励起X線: monochromatic AlKa1,2線(1486.6eV)
X線径: 0.15mm
光電子脱出角度:90°(試料表面に対する検出器の傾き)
【0187】
また、元素分析法によって本発明の分離膜を分析することによって、分離膜表面の親水性ポリマーの量は、例えば窒素量(a(原子数%))と硫黄量(b(原子数%))の値などから、算出することが出来る。なお、ポリアクリロニトリルの場合は2200cm
−1付近のニトリル基由来のC ≡ Nのピークの強度( A C N ) と、A C O の比を上記と同様にしてフィルムで検量線を作成し、内部の酢酸ビニルユニット量比を求めた。
【0188】
( 2 ) 赤外吸収スペクトルによる親水性ポリマー分布の測定方法
分離膜を超純水でリンスした後、室温、0 . 5 T o r rにて1 0 時間乾燥させた。この乾燥分離膜の表面をJ A S C O 社製I R T − 3 0 0 0の顕微A T R 法により測定した。測定は視野領域( アパーチャ) を1 0 0 μ m × 1 0 0 μmとし、積算回数を1 点につき3 0 回、アパーチャを3 μ m ずつ動かし、縦横各5 点、の計2 5 点で測定を行った。また、表面改質を行っていない膜とのサスペクトルの測定から、親水性ポリマーの付着量を算出した。
【0189】
(3)膜のヒト血小板付着試験方法
円筒状に切ったFalcon( 登録商標)チューブ(18 m m Φ 、N o . 2 0 5 1 ) に分離膜を評価すべき面が、円筒内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩液で洗浄後、生理食塩液で満たした。健常者ボランティアの静脈血を採血後、直ちにヘパリンを5 0 U / m l になるように添加した。前記円筒管内の生理食塩液を廃棄後、前記血液を、採血後1 0 分以内に、円筒管内に1 . 0 m l 入れて3 7 ℃ にて1 時間振盪させた。その後、中空糸膜を10 m l の生理食塩液で洗浄し、2 . 5 重量% グルタルアルデヒド生理食塩液で血液成分の固定を行い、2 0 m l の蒸留水にて洗浄した。洗浄した分離膜を常温0 . 5 T o r r にて1 0 時間減圧乾燥した。この分離膜を走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、P t − P d の薄膜を中空糸膜表面に形成させて、試料とした。この分離膜の内表面をフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡( 日立社製S 8 0 0 ) にて、倍率1 5 0 0 倍で試料の内表面を観察し、1 視野中( 4 . 3 × 10
3 μm
2 ) の付着血小板数を数えた。中空糸長手方向における中央付近で、異なる1 0 視野での付着血小板数の平均値を血小板付着数( 個/ 4 . 3 × 1 0
3 μm
2 ) とした。
【0190】
血小板付着抑制性が良好な材料としては、血小板付着数が40(個/4.3 × 10
3 μm
2)以下、さらには20(個/4.3×10
3μm
2) 以下、好ましくは10(個/4.3×10
3μm
2)以下である。
【0191】
(4)細胞透過性評価
BD社製セルカルチャー・インサートに、本発明分離膜を貼り付けたものを用い、間葉系幹細胞『 Mesenchymal Stem Cell 』プロモセル社を用い分化培養培地として#C-28011 Mesenchymal Stem Cell Adipogenic Differentiation Medium, Ready-to-use(間葉系幹細胞増殖培地)を、改変BD社製セルカルチャー・インサート下部に入れ、上部には上記細胞をと培養用培地(Mesenchymal Stem Cell Expansion Media, Human/Mouse, StemXVivo)を入れ、さらに下部の培地にG?CSFを最終濃度で100 ng/ml入れ37℃のCO
2インキュベーター中で12時間放置した。このときに、上部から下部シャーレへ落下した細胞数を、位相差顕微鏡を用いて計測した。
【0192】
PET膜、ポリカーボネート膜、PP膜、ポリスルホン膜、ポリアミド膜の吸水率は、ポリアミド膜が4.2%で、2%を越えていたのに対し、それ以外は2%以下であった。なお、ポリマー吸水率は、用いた基材膜を23℃24時間水中に浸漬し、重量増加量をもって吸水率とした。
【0193】
吸水率に従い、ポリカーボネートからなる膜、及びポリアミド膜(「ナイロン66」)を用いて、下記表記載条件にしたがった表面処理を実施した。用いた膜は、「セルカルチャー・インサート」の膜の部分に適宜張り替え、G-CSF遊走因子による細胞遊走によって、下部シャーレに透過付着した細胞数をカウントした。PETからなる膜を用いた場合では、エタノール(EtOH)添加系において、細胞の付着性は抑制されており、下部シャーレに落下付着した細胞は多くなっていることがわかった。同様にポリアミド膜においては、EtOHを添加していない系で細胞付着抑制性が発現されていることがわかる。
【0194】
なお、表面への親水性ポリマーの結合量については、元素分析法、ESCA、IR法によって適宜分析し求めた。用いた親水性ポリマーは以下の通りとした。
PVP:ポリビニルピロリドン(K90,K30)東京化成品
PVA:ポリビニルアルコール(クラレ社製)
VA64:ポリビニルピロリドン/ポリ酢酸ビニル共重合体(BASF社製コリドンVA64)
【0195】
[ポリカーボネート膜への処理結果]
孔径8μmのポリカーボネート膜が使われているセルカルチャー・インサートを用い、各条件の水溶液に浸漬し、封止した上でγ線25kGyを照射して表面改質した。膜上部に、ヒト間葉系幹細胞を1x10
4cells/100μl播種し、24 well下部に付着した細胞数を、位相差顕微鏡下で測定し、分離性能を評価した。結果を以下の表11に示す。
【0196】
【表11】
【0197】
[ポリアミド膜への処理結果]
孔径8μmのポリアミド膜をセルカルチャー・インサートの膜部分に張り替え、各条件の水溶液に浸漬し、封止した上でγ線25kGyを照射して表面改質した。膜上部に、ヒト間葉系幹細胞を1x10
4cells/100μl播種し、24 well下部に付着した細胞数を、位相差顕微鏡下で測定し、分離性能を評価した。結果を以下の表12に示す。
【0198】
【表12】
【0199】
[親水性ポリマーの影響]
孔径8μmのポリカーボネート膜が使われているセルカルチャー・インサートを用い、各条件の水溶液に浸漬し、封止した上でγ線25kGyを照射して表面改質した。膜上部に、ヒト間葉系幹細胞を1x10
4cells/100μl播種し、24 well下部に付着した細胞数を、位相差顕微鏡下で測定し、分離性能を評価した。結果を以下の表13に示す。
【0200】
【表13】
【0201】
[血小板付着性の確認]
PETからなる孔の開いていないフィルムを用いて各条件で血小板付着数を計測した。結果を以下の表14に示す。
【0202】
【表14】
【0203】
[ポリカーボネート膜への処理結果]
孔径5μmのポリカーボネート膜が使われているセルカルチャー・インサートを用い、各条件の水溶液に浸漬し、封止した上でγ線25kGyを照射して表面改質した。膜上部に、ヒト2代目歯髄細胞を2x10
4cells/100μl播種し、下部構造体の24 well中に10%ヒト血清を含むダルベッコ社製の改変イーグル培地 (DMEM) 中にG-CSFを最終濃度で100 ng/ml入れ、48時間後にG-CSFを取り除き、10%ヒト血清を含むDMEMに培地交換し、24 well下部に付着した細胞数を、位相差顕微鏡下で測定した。結果を表15に示す。
【表15】
【0204】
[ポリアミド膜への処理結果]
次に、孔径5μmのポリアミド膜をセルカルチャー・インサートの膜部分に張り替え、各条件の水溶液に浸漬し、封止した上でγ線25kGyを照射して表面改質した。上記と同様にして得た結果を、表16に示す。
【0205】
【表16】