(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016790
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】台形波形励起による容量性結合リアクタにおけるプラズマ励起方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20161013BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20161013BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20161013BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20161013BHJP
C23C 16/509 20060101ALI20161013BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
H05H1/46 M
H01L21/31 C
H01L21/205
H01L21/302 101B
C23C16/509
H01L21/265 F
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-519082(P2013-519082)
(86)(22)【出願日】2011年7月12日
(65)【公表番号】特表2013-539156(P2013-539156A)
(43)【公表日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】EP2011061894
(87)【国際公開番号】WO2012007483
(87)【国際公開日】20120119
【審査請求日】2014年7月3日
(31)【優先権主張番号】10169735.7
(32)【優先日】2010年7月15日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513008384
【氏名又は名称】エコール ポリテクニック
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ブース,ジャン−ポール
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,エリック
【審査官】
林 靖
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0241762(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0255800(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0057222(US,A1)
【文献】
Shahid Rauf,Effect of bias voltage waveform on ion energy distribution,Journal of Applied Physics,米国,American Institute of Physics,2000年 6月 1日,Vol. 87, No. 11,pp. 7647-7651
【文献】
Partterson M. M., et. al,Arbitrary substrate voltage wave forms for manipulating energy distribution of bombarding ions during plasma processing,Plasma Source Science and technology,英国,IOP Publishing,2007年 2月15日,Vol. 16,pp. 257-264
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00−1/54
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
H01L 21/302
H01L 21/304
H01L 21/461
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
G21B 1/00−1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を含んだ容量性結合反応プラズマ・リアクタの少なくとも一つの電極を励起するための方法であって、
ランプアップ、高プラトー、ランプダウン、及び低プラトーの期間を有する台形波形を持ったRF電圧を印加することにより前記電極を励起し、
前記台形波形の前記ランプアップの期間及び/又は前記ランプダウンの期間を調整することにより、プラズマ密度と前記基板に向かうイオン種及び中性種のフラックスをコントロールし、
前記台形波形の前記高プラトーと前記低プラトーとの相対的な期間を調整することにより、前記基板におけるイオンエネルギー分布関数をコントロールし、
前記台形波形は、前記高プラトーの期間が前記低プラトーの期間よりも短い電圧ピーク波形と、前記高プラトーの期間が前記低プラトーの期間よりも長い電圧トラフ波形と、を備えている、方法。
【請求項2】
前記台形波形の繰返し率を調整することにより、前記プラズマ密度を更にコントロールすることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記台形波形の電圧振幅を調整することにより、前記プラズマ密度及び/又は前記基板におけるイオンエネルギー分布関数を更にコントロールすることを特徴とする、請求項1、又は2に記載の方法。
【請求項4】
電圧ピーク波形及び電圧トラフ波形を適用することにより、前記基板上の薄膜の成長をアモルファス成長とナノ結晶成長との間に調整することを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ランプアップの前記期間と前記ランプダウンの前記期間が、1〜10nsの間であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ランプアップの前記期間と前記ランプダウンの前記期間が、5〜10nsの間であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記台形波形の振幅が50〜1000vの間であることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記台形波形の持続期間が10〜1000nsの間であることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記台形波形の前記高プラトーの期間と前記低プラトーの期間とを連続的又は個別に変化させることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記容量性結合反応プラズマ・リアクタが2つの電極を備え、
プラズマと電極との間のDCシース電圧の、各電極における割合を、前記台形波形の前記高プラトーと前記低プラトーとの相対的な期間を調整することにより決定することを特徴とする、請求項1〜9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
RF電圧波形の修正フィードバック法を採用することにより、電極表面における前記台形波形を確保することを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記基板をパワード電極上又はアンパワード電極上に配置することを特徴とする、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記容量性結合反応プラズマ・リアクタが太陽電池、集積マイクロエレクトロニクス回路、又はフラットパネルディスプレイの製造に用いられることを特徴とする、請求項1〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
基板を含んだ容量性結合反応プラズマ・リアクタの少なくとも一つの電極を励起するための波形ジェネレータを有するシステムであって、前記波形ジェネレータが、
ランプアップ、高プラトー、ランプダウン、及び低プラトーの期間を有する台形波形を備えたRF電圧を印加することにより前記プラズマ・リアクタを励起し、
プラズマ密度と前記基板に向かうイオン種及び中性種のフラックスとをコントロールするために、前記台形波形の前記ランプアップの期間及び前記ランプダウンの期間を調整するように構成され、
前記台形波形の前記高プラトーと前記低プラトーとの相対的な期間を調整することにより、前記基板におけるイオンエネルギー分布関数をコントロールし、
前記台形波形は、前記高プラトーの期間が前記低プラトーの期間よりも短い電圧ピーク波形と、前記高プラトーの期間が前記低プラトーの期間よりも長い電圧トラフ波形と、を備えているシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
基板を含んだ容量性結合反応プラズマ・リアクタ(capacitively coupled reactive plasma reactor)の少なくとも一つの電極を励起するための方法及びシステムが開示されている。
【0002】
本発明は、以下の分野に対して有効に適用することができる。
・例えば、光起電性太陽電池の製造用の、ケイ素、及び/又は、ゲルマニウム、及び/又は、炭素の、アモルファス,微結晶及びナノ結晶合金の薄膜のプラズマ強化化学蒸着(PECVD)、並びに、フラットパネルディスプレイ及び集積回路の製造用の、SiO2,Si3N4等からなるその他の薄膜の蒸着、
・FPDの製造,集積回路の製造及びフォトニック素子の製造用の、Si,SiO2,Si3N4及び金属等からなる薄膜のプラズマエッチング、
・イオン注入,表面改質及び硬化等のような、その他のプラズマ表面改質処理。
【0003】
一般に、マイクロエレクトロニックス及びソーラーパネルの製造を含む分野における薄膜の蒸着,エッチング及び改質のために、例えば0.1〜200MHzの周波数で、容量性結合高周波(RF)電力によって励起される平行板リアクタが広く採用されている。
【0004】
通常の正弦波励起(sinusoidal excitation)を採用した平行板容量性プラズマ・リアクタにおける基板の大面積プラズマ処理(蒸着又はエッチング)においては、プラズマ密度、従って、蒸着速度又はエッチ速度は、印加される高周波電圧(radiofrequency voltage)を増加させることにより専ら加速させることができる。このことは、同時に、基板に衝突するイオンの平均エネルギーを増加させる。ケイ素薄膜のPECVDのような多くの応用分野においては、過剰なイオンエネルギーが基板又は蒸着された膜を傷付けるため、低電圧のみを用いることができ、その結果、処理速度を制限してしまうこととなる。更に、従来の正弦波励起リアクタにおけるイオンエネルギー分布関数(IEDF)の形状は、複雑で、典型的には鞍形であって、コントロールすることができない。
【0005】
歴史的にみて、様々なジェネレータ(generators)を同期させることなく正弦波形が用いられていて、当初は単一周波数の、最近になって二周波数又は三周波数の正弦波形が用いられている。基板の最適な処理のためには、基板の表面に到達するイオンのエネルギーを、イオンフラックス(ion flux)とは無関係に完全にコントロールすることが必要とされる。例えば、エッチングのためには高イオンエネルギーが必要とされるのに対し、ケイ素蒸着のためには、イオンエネルギーは、約数十電子ボルトの閾値より低く維持しなければならない。
【0006】
イオンフラックス及びエネルギーの独立制御は、RF周波数を変えることにより達成され、より高い周波数でシース・インピーダンス(sheath impedance)は低くなり、より高いプラズマ密度にすると、より高いイオンフラックスになり、一定のRF入力パワーの場合には、より低いイオンエネルギーとなる。然しながら、等しい面積の平行電極を有する対称リアクタにおいては、二つの電極の前のシースの等価(equivalence)が残るので、双方の電極は等しいイオン衝撃を受ける。実在波効果(standing wave effects)に起因して、大面積高周波数リアクタにおいては、更なる問題が起こり、ウェーハー全体に亘る処理を不均一にさせてしまう。
【0007】
国際公開WO2009/115135は、等しい電圧振幅の二つの周波数f+2fを用いて二つのシースの対称性を破り、その二つ周波数間の位相遅れを変えることにより二つのシース間の電圧の分圧を連続的にコントロール可能にすべきことが提案されている。
【0008】
Patterson,M.M.,H.Y. Chu及びA.E. Wendt著の「Arbitrary substrate voltage wave forms for manipulating energy distribution of bombarding ions during plasma processing」、Plasma Sources Science & Technology,2007,16(2):p.257〜264において、著者は、誘導結合プラズマ(ICP)又はヘリコン(helicon)のようなデカップルド・プラズマソース(decoupled plasma source)における基板でのイオンエネルギー分布のコントロールを、パワーアンプ(power amplifier)と組み合わさったプルグラム可能な波形ジェネレータを用いて基板に印加される高周波バイアスの波形をテーラリング(tailoring)することにより達成することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2009/115135
【0010】
【非特許文献1】Patterson,M.M.,H.Y. Chu及びA.E. Wendt著の「Arbitrary substrate voltage wave forms for manipulating energy distribution of bombarding ions during plasma processing」、Plasma Sources Science & Technology,2007,16(2):p.257〜264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、プラズマエッチ及び蒸着処理のいっそう好ましい最適化のために、平行板リアクタにおける同時プラズマ発生と、単一エネルギーの又はより複雑なイオンエネルギー分布関数(IEDF)の制御とで、従来技術を改良することを提案するものである。
【0012】
本発明の目的は、容量性結合反応プラズマ・リアクタにおいて電気的非対称性効果を適用することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、低温で蒸着される薄膜の成長モードを完全にコントロールすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の少なくとも好適な実施形態おいては、本発明によれば、基板を含んだ容量性結合反応プラズマ・リアクタの少なくとも一つの電極を励起するための方法が提供される。本発明によれば、台形波形を持ったRF電圧を印加することにより電極を励起させて、プラズマ密度と基板に向かうイオン種(ionic species)及び中性種(neutral species)のフラックスとを、台形波形のランプアップの期間(duration of ramp−up)及び/又はランプダウンの期間(duration of ramp−down)を調整することによりコントロールする。
【0015】
本発明によるプラズマは、コントロール可能な周期的台形波形で生成され且つ維持させることができる。
【0016】
本発明によれば、台形波形とは、台形の実現可能な近似形態を有するシグナルを意味する。その台形波形は、好ましくは、ランプアップと高プラトー(high plateau)とランプダウンと低プラトー(low plateau)とを含んでいる。
【0017】
本発明によれば、非正弦波形を用いて、イオン衝撃エネルギーからプラズマ密度とイオン種及び中性反応種のフラックスをデカップルする(decouple)(即ち、独立に制御する)プラズマ励起方法が提供される。
【0018】
換言すると、本発明により提案される技術は、イオンエネルギー制御からプラズマ密度制御をデカップリングすることを可能にして、最低イオンエネルギーで、基板に向かう可能な最高の粒子フラックスを許容し且つ基板におけるイオンエネルギー分布のコントロールにおける多大な適応性、即ち、最適な工程品質を齎す。プラズマ蒸着とエッチ処理の双方における多数の応用が有益である。更に、リアクタの比表面(specific surfaces)に向かうイオンエネルギーのそのようなコントロールによって、リアクタの最適なプラズマ洗浄が可能となる。
【0019】
高イオンエネルギー無しで、基板に向かう高イオンフラックス及び高中性フラックスを、例えば、a−Si:H PECVD処理のために発生させることができ、従って、膜の品質を維持しながらの高速度蒸着を可能にさせる。
【0020】
本発明による方法によって、今後、nc−Si:H又はμc−Si:H PECVDにおいて別の処理レジーム(process regime)を用いることが可能となる。このレジームは、低圧と、より低濃度(SiH4/H2)のガス混合物と、高いプラズマ密度とを含み、標準的な方法と比較して、リアクタにおいて蒸着速度を速めると共にダスト生成を少なくさせることが明らかにされている。
【0021】
有益なことに、基板におけるイオンエネルギー分布関数(ion energy distribution function)は、台形波形の高プラトーと低プラトーとの相対的な期間を調整することによりコントロールされる。
【0022】
本発明によれば、プラズマ密度は、台形波形の繰返し率を調整することによりコントロールすることができる。
【0023】
有益なことに、基板におけるプラズマ密度及び/又はイオンエネルギー分布関数は、台形波形の電圧振幅を調整することにより更にコントロールすることもできる。
【0024】
ランプアップの期間とランプダウンの期間は、1〜10ns、好ましくは、5〜10nsの間にすることができる。本発明は、従来技術における正弦波増加(sinusoidal increase)というよりはむしろ直線ランプ(linear ramp)を用いることを開示し、それは、一定の振幅につき電子に供給されるパワーを最適化させる。
【0025】
好都合なのは、台形波形の振幅は、50〜1000vの間である。
【0026】
RF電圧のパルス繰返しは、プラズマ密度の決定においても役に立つ。好ましくは、台形波形の持続期間は、10〜1000nsの間である。
【0027】
基板において多くの時間帯に亘って平均化された何らかの任意の効果的なイオンエネルギー関数を達成するために、台形波形の高プラトーの期間と低プラトーとを連続的又は個別に変化させる。
【0028】
本発明によれば、プラズマと電極との間のDCシース電圧の、各電極における割合は、台形波形の高プラトーと低プラトーとの相対的な期間を調整することにより決定される。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、電極表面における台形波形は、RF電圧波形の修正フィードバック法を用いることにより得ることができる。従って、電極に付加されるシグナルの波形は、正確に決定される。
【0030】
本発明による方法は、基板をパワード電極(powered electrode)上又はアンパワード電極(unpowered electrode)上に配置してもよいという利点を有している。
【0031】
本発明によれば、パワード電極又はアンパワード電極を衝撃させること(bombarded)ができ、不必要な蒸着を減少させて、従って、基板に対する蒸着前駆体(deposition precursors)の供給を増進させる。
【0032】
本発明の別の側面によれば、基板上の薄膜の成長を、台形波形と該台形波形のコンプリメント(complement)とを適用することにより、アモルファス成長とナノ結晶成長又はマイクロ結晶成長との間で調整する。有益なことに、本発明による台形波形が、オリジナル波形をそれのコンプリメントに単に変化させるだけで、蒸着された膜構造をアモルファスから微結晶へ切り替えることを可能にさせるものであることが観察された。
【0033】
有益的には、容量性結合反応プラズマ・リアクタは、大面積対称プラズマ・リアクタであってもよい。そのようなリアクタは、光起電性太陽電池の製造において特に用いられる。
【0034】
本発明の別の側面によれば、基板を含んだ容量性結合反応プラズマ・リアクタの少なくとも一つの電極を励起させるための波形ジェネレータを含んだシステムが提供される。この波形ジェネレータは、台形波形を持ったRF電圧を印加することによりプラズマ・リアクタを励起し、
プラズマ密度と基板に向かうイオン種及び中性種のフラックスとをコントロールするために、台形波形のランプアップの期間及び/又はランプダウンの期間、電圧振幅及び繰返し周波数を調整するように構成されている。
【0035】
本発明の上述した及びその他の目的、並びに、特徴及び利点については、添付図面を参照して以下に記載した、本発明の好ましい実施形態の詳細な説明から更に明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本発明による、波形ジェネレータによって励起される容量性結合プラズマ・リアクタの概略図である。
【
図2】
図2は、本発明による台形波形を示したグラフである。
【
図3】修正フィードバックシステムを含んだテーラード励起波形コントロールシステム(tailored excitation waveform control system)を示した図である。
【
図4】
図4a及び
図4bは、本発明によりテスト・リアクタにおいて実現される実際の電圧波形とそれらのコンプリメントとを示したグラフである。
【
図5】
図5a及び
図5bは、本発明による、電圧波形とそれらのコンプリメントとの理想例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1に概略的に示した容量性結合プラズマ・リアクタは、処理チャンバ1と、パワード電極(powered electrode)2と、アンパワード電極(unpowered electrode)3を有している。ジェネレータGからの高周波電力が、阻止コンデンサ(blocking capacitor)C1を介してパワード電極2に印加される。処理される基板4は、パワード電極2上、又は、アースされた又はアンパワード電極3上に配置することができる。プラズマ5は、パワード電極2と基板4との間の処理チャンバ1の容積内で発生される。
【0038】
全てのプラズマ・リアクタにおいて、バルク・プラズマ(bulk plasma)とそれを取り囲む全ての面(電極、基板及び処理チャンバ壁)との間で、所謂シース(sheaths)6,7が形成される。それらシースは、主として容量性である高インピーダンスを持っている。それは、プラズマ5を介して流れる電流を制限し、従って、電極によって吸収されるパワーを決定するシース・インピーダンスである。電極に印加されるRF電圧の大部分は、各電極の前の二つのシース6,7の間で分圧される。中央プラズマ(central plasma)は、高伝導性を有し、従って、低電圧差を単にサポートする。従って、シースは、大きなRF電場を含んでいる。シースの非線形特性が、このRF電場を調整(rectify)して、大きなDC電場を生じさせて、陽電気を帯びたイオンをプラズマから離れるように加速させ且つ高エネルギーでリアクタ表面に衝突させる。
【0039】
一方の電極が他方の電極よりもかなり小さい場合には、その一方の電極の前のシースは小さい静電容量を有する。システムを流れる電流が保存されるので、同一のRF電流は両シースを流れざるを得ず、従って、RF電圧は小さい電極の前のシースを多く横切る。シースを流れるコンダクタンス電流(conductance current)は、シースを横切る電圧の非線形関数(non−linear function)であり、整流効果(rectifying effect)があって、阻止コンデンサ(blocking capacitor)がチャージアップする(charge up)。これは、所謂DCバイアス効果であり、小さい電極において高エネルギーイオン衝撃を生じさせ、大きい電極において低エネルギーイオンを生じさせる。
【0040】
然しながら、大面積リアクタにおいては、二つの電極は、必然的に非常に小さい寸法を有し、RF電圧は、二つのシース6,7の間で殆ど等しく分圧されて、均等なエネルギーイオン衝撃を両側、即ち、基板と反対側の電極との双方に生じさせる。
【0041】
本発明による技術は、
図2に示したように、正弦波信号を電極に印加される可変台形波形で置き換えるというものである。
【0042】
台形波形は、ランプアップ(ramp−up)期間t
1と、高プラトー(high plateau)期間t
2と、ランプダウン(ramp−down)期間t
3と、低プラトー(low plateau)期間t
4を有している。
【0043】
プラズマを横切る総電圧、従って、二つのシースを横切る総電圧は、振幅Vで、典型的には、50〜1000Vだけ与えられる。イオン化をコントロールする、従って、プラズマの密度と基板に向かうフラックス(flux)とをコントロールする電子の加熱は、ランプアップ時t
1とランプダウン時t
3中、典型的には、1〜10ns中に起こる。スルーレート(slew rate)(V/t
1又はt
3)が速ければ速いほど、容量性シース6,7を流れることが許容される電流が大きくなり、電子がより効率的に加熱され、プラズマの密度が高くなる。定在波効果と不均一性とを阻止するために、最適時間を5〜10nsの範囲内にすることができる。プラズマ密度も、全体的なパルス繰返し率、1/(t
1+t
2+t
3+t
4)によって決定される。好ましくは、t
1+t
2+t
3+t
4は、20〜100nsの範囲内である。
【0044】
二つのシース6,7を横切るVの分圧は、定電圧期間t
2,t
4の相対的期間によって決定される。t
1が極わずかである場合(例えば、<5ns)、t
4は長く(例えば、100ns)で、電圧の大部分がパワード電極の前のシースを横切って発現し、従って、この電極は高エネルギーイオンを受け、他方の電極は、最低限のエネルギーイオン衝撃に晒される。従って、基板がアンパワード電極の上に在る場合には、最適な薄膜Siの蒸着状態を達成することができる(イオン及び中性膜先駆物質(neutral film precursors)の高フラックス、低エネルギー)。
【0045】
逆に、基板がパワード電極上に在る場合には、その電極は高エネルギーイオンを受ける。そのような状態は、水素化アモルファスゲルマニウムのような、大きなイオン衝撃が必要とされる或る種の薄膜蒸着にとっても好適であるが、一般的なエッチング応用にとっても好適である。実際に、t
2とt
4とを変えることにより、基板におけるイオンエネルギーの完全なコントロールが可能となる。t
2とt
4が等しい場合には、波形は対称で、二つのシースは同等である。問題となっている処理ために最適であると看做すことができる、多くの時間帯に亘って平均化された何らかの任意の効果的なイオンエネルギー関数(IEDF)を達成するために、t
2とt
4とを処理の時間スケールで連続的に変化させるという、より複雑な変形例を想定することができる。
【0046】
図3は、薄膜の蒸着中における波形テーラリング(waveform tailoring)を可能にするプラズマ・リアクタ・システムの実施形態に関するものである。そのような実施形態は、例えば、薄膜太陽電池のような大面積デバイスにおけるnc−Si:HのPECVDのために実施する場合に、特に、実際の光起電性デバイスに必要とされる膜厚を考慮した場合に、有用である。標準的な無線周波数(RF)PECVD技術によって蒸着する場合には、高速蒸着のためにはプラズマへのより高い注入パワーが必要とされ、そのため成長表面のイオン衝撃(IB)を増大させて且つ材料の品質を低下させるという事実があるため、nc−Si:Hの蒸着速度は制限される。
【0047】
本発明は、基板におけるシースポテンシャル(sheath potential)を低減させ、nc−Si:HのPECVD中に基板イオン衝撃エネルギーをコントロールし、こうして、ナノ結晶成長を促進又は抑制することを可能にする。
【0048】
本発明の原則を具体化する実施形態は、
図3に示した実験的な機構(experimental setup)を用いることにより実現される。基板11は、パワード電極側を除く、処理チャンバ13の壁をも構成しているアンパワード電極12上に配置される。
【0049】
図3は、100mmの直径と19mmの電極間距離を有し、その結果、約2.25のA
substrate+walls/A
electrodeの面積電極非対称となったパワード電極10を示している。この非対称性によって、パワード電極10と壁+アンパワード電極との間のシースの均等でない分布を介して基板におけるイオン衝撃エネルギーを抑制する。本発明による電気的非対称性効果は、大面積で更に有効であり、それ故、対称リアクタに更に有効である。Ar=35sccm、SiF
4=1.4sccm及びH
2=1.4sccmのガス流量混合物を用いる。このガス化学物質は、例えば2.5A/sの蒸着率で、広範囲の蒸着条件に亘って非常に高い結晶体積分率(crystalline volume fraction)を持つnc−Si:H材料を生じさせることが知られているので選択される。
【0050】
基板温度と電極温度は、それぞれ、150℃と100℃であり、15MHzのパルス繰返し率を用いる。
【0051】
RF電極において所望の波形を生じさせるために、修正フィードバックシステムを用いる。理想的な台形波形は、テクトロニクスAFG3101プログラム制御可能波形ジェネレータ(Tektronix AFG3101 programmable waveform generator)14によって発生させられ、アンプ15(Amplifier Research Model 150A220,150W)による電気増幅及び結合コンデンサC2を介した伝播の後に、RFフィードスル―(RF feedthrough)に存在する電圧波形を高電圧プローブとオシロスコープ16とを用いて測定する。この信号のフーリエ変換を実施して、所望の信号と比較し、こうして、パワード電極において電圧ピーク又は電圧トラフ(trough)を生じさせるのに必要な原信号のコンピュータ17による算出を可能にさせる。修正後の典型的な電圧波形が
図4aと
図4bに示され、修正した結果のピーク(
図4a)とトラフ(
図4b)とが示されている。
図4a(4b)に示した実験的台形波形は、ゼロになる傾向にある高(低)プラトーの期間を示している。
【0052】
RF電極に現れるDCバイアスも示されていて、それは、シースの分布において起こり得る膨大なシフトを示している。
【0053】
電圧「ピーク」は、高プラトーの期間が低プラトーの期間よりも短い波形に関係する。電圧「トラフ」波形は、電圧「ピーク」波形のコンプリメント(complement)である。
【0054】
パワード電極におけるDCバイアスポテンシャルの劇的なシフトは、電圧波形を「ピーク」から「トラフ」へ単にインバートさせた時に観察され、それはシース電圧の非対称分布を示している。基板面におけるイオン衝撃エネルギーを増進又は抑制することにより、(「トラフ」又は「ピーク」を夫々用いて)プラズマ強化化学蒸着による薄いケイ素膜の成長を、夫々高イオン衝撃エネルギーと低イオン衝撃エネルギーのためのアモルファス成長とナノ結晶成長との間で切り替えることができる。成長モードの変化は分光エリプソメトリー(spectroscopic ellipsometry)を用いて、イン・サイチュ(in−situ)で観察することができる。この結果は、平均のイオン衝撃エネルギーの衝撃減少がナノ結晶成長(<100mTorr)を許容するのに十分でない、十分低い圧力で観察することができる。
【0055】
図5a及び
図5bは、RF電極において出現することの可能な電圧波形の理想例に関するものである。両波形の繰返し率は10MHzである。
図5aに示された例は、150Vのピークトゥピーク電圧振幅(peak−to−peak voltage amplituide)と、5nsの立ち上り時間(rise time)t
1と、上限電圧レベルプラトー時間t
2=10nsと、5nsの立下がり時間(fall time)t
3と、下限電圧レベルプラトー時間t
4=80nsを備えた波形を示している。対称リアクタにおいては、そのような波形の結果、RFパワード電極(例えば、
図1に示した電極2)に出現するシース電圧が大きな割合となり、同じ周波数及び電圧振幅での正弦波励起と比較して、基板ホルダー(例えば、
図1に示したアンパワード電極3)におけるイオン衝撃エネルギーが減少することとなる。
図5bに示された例は、150Vのピークトゥピーク電圧振幅と、5nsの立ち上り時間t
1と、上限電圧レベルプラトー時間t
2=80nsと、5nsの立下がり時間t
3と、下限電圧レベルプラトー時間t
4=10nsを備えた波形を示している。対称リアクタにおいては、そのような波形の結果、基板ホルダー(例えば、
図1に示したアンパワード電極3)に出現するシース電圧の割合が大きくなり、こうして、同じ周波数及び電圧振幅での正弦波励起と比較してイオン衝撃エネルギーを増加させる。
【0056】
本発明は、大面積基板の処理用のプラズマ・リアクタを励起するための新規な方法に関する。通常の正弦波(シングル又はマルチ周波数)高周波電圧信号を、一定の電圧期間(20〜100ns)によって分けられる迅速なライジングランプ(rising ramp)とドロッピングランプ(dropping ramp)(期間1〜10ns、振幅50〜1000V)から成る台形波形によって置き換える。この波形は、最適なプラズマ加熱(プラズマ密度のコントロール、従って、処理された基板に向かう反応ニュートラル及びイオンのフラックスのコントロール)と波形を変えることによる基板におけるイオンエネルギー分布関数(IEDF)の最適なコントロールとの双方を可能にさせる。特に、それは、高いイオン及びニュートラルフラックスであるが最少のエネルギーで、基板のプラズマ処理を可能にさせ、高光起電性太陽電池の製造用の高品質ケイ素薄膜の高速PECVDを可能にさせる。IEDFをコントロールすることは、集積マイクロエレクトロニクス回路及びフラットパネルディスプレイの製造におけるような、大面積プラズマエッチングの応用にも有益である。
【0057】
上述した開示がよく理解されれば、様々な変更及び修正が当業者に明らかになるであろう。特許請求の範囲は、そのような変更及び修正の全てを包含するように解釈される。