【文献】
Biophysical Journal,2010年 1月,Vol.98, Issue3, Supplement1,p.599a-600a,3108-Pos
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による、一つの例示的なナノポア検知システムの概略図である。
【
図2】
図2は、脂質二重膜を通じて差し込んだ一つの例示的なナノポアの拡大概略図である。
【
図3】
図3は、一つの例示的な電流トレースと、シグネチャイベントの拡大された電気的マークと、アンジッピングイベントと移行イベントの概略図を含んでいる。
【
図4】
図4(A)〜(D)は、本発明によるプローブであるP
155によるmiR−155の一つの例示的な検出を図解している。
【
図5】
図5(a)及び(b)は、ナノポアセンサを用いたmiRNAの定量化で使用した発明を図説している。
【
図6】
図6(a)及び(b)は、miRNAと類似の配列との識別で使用した発明を図説している。
【
図7】
図7(a)〜(f)は、肺癌患者の血漿におけるmiR−155の検出で使用した発明を図説している。
【
図8】
図8A〜Gは、ナノポアにおける、特定のプローブを有する単一miRNA分子の捕捉を示している。
【
図9】
図9A〜Bは、プローブ配列の最適化による検出感度の向上を示している。
【
図10】
図10A〜Dは、1もしくは2つの異なるヌクレオチドを含むlet−7 miRNAの識別を示している。
【
図11】
図11A〜Hは、肺癌患者の血漿におけるmiR−155の検出を示している。
【
図13】
図13は、mir−155・P
155のシグネチャイベントの電圧に依存する頻度を示している。
【
図14】
図14は、他の合成miRNA成分の存在下での、P
155(100nM)を用いて検出されたmiR−155シグネチャイベントの頻度を示している。
【
図15】
図15は、Let−7a・P
aのハイブリッド及びLet−7b・P
aのハイブリッドによって形成されるシグネチャイベント数の時間ヒストグラムを示している。
【
図16】
図16A〜Bは、イベント時間に基づく、完全マッチ(陽性)イベント及びミスマッチ(陰性)イベントの分離についてのシミュレーションを示している。
【
図17】
図17は、mir−155及びP
155の移行頻度を示している。
【
図18】
図18A〜Fは、miRNA/プローブの複合体の図、ペプチド−PNAプローブのP7bの移行についてのイベント、+180mVでの溶液において、遊離したmiRNA let−7b(プローブなし)では遮断イベントが観察できないこと、let−7b/P7bの複合体のトラップについてのシグネチャイベント、Let−7bとは異なる2つのヌクレオチドを有するLet−7cが、プローブのP7bのPNAに結合できず、従って
図A1cに示されるようにシグネチャイベントを生じないこと、Let−7b(完全マッチ、重なりのない2つの離れたクラスター)及びLet−7c(2つのミスマッチ、完全に重なった2つのクラスター)に結合するP7bについての時間−振幅の特性の比較を示している。
【
図19】
図19A〜Cは、短鎖の3′末端にヘアピンを有するHP−C30を使用した場合に、新しい種類の3レベルの電流パターンが観察されたこと、短鎖の3′末端にストレプトアビジンが結合されたSA−C30を使用した場合にも、新しいマルチレベルの電流パターンが観察されたこと、2つのDNAを結合する短鎖のオリゴヌクレオチドを使用した場合に、その複合体がナノポア中で2工程で逐次アンジッピングされうることを示している。
【0016】
図面の説明
図1は、本発明の一実施形態による、一つの例示的なナノポア検知システムの概略図である。
【0017】
図2は、脂質二重膜を通じて差し込んだ一つの例示的なナノポアの拡大概略図である。
【0018】
図3は、一つの例示的な電流トレースと、シグネチャイベントの拡大された電気的マークと、アンジッピングイベントと移行イベントの概略図を含んでいる。
【0019】
図4(A)〜(D)は、本発明によるプローブであるP
155によるmiR−155の一つの例示的な検出を図解している:
図4(A)は、異なるタイプのブロックを示す電流トレースである。それらのブロックプロフィールと相応の分子プロセスは、パネルB、C及びDに示されている;
図4(b)/(b′)は、遊離したmiR−155もしくはP
155分子がポアを通じて移行することによって発生される一つの例示的なスパイク様の短いブロックである;
図4(c)/(c′)は、miR−155・P
155ハイブリッドのアンジッピングと、ナノ空隙内でのmiR−155の閉じ込めと、miR−155の移行とによって一連に生成される複数のコンダクタンスレベルを有する拡大された長いブロックである;
図4(d)/(d′)は、アンジッピングせずにcis側入口から出るトラップされたmir−155・P
155ハイブリッドによって生成される単独のコンダクタンスレベルを有する一つの例示的な長いブロックである。
【0020】
図5(a)及び(b)は、ナノポアセンサを用いたmiRNAの定量化で使用した発明を図説している。(a).100nMのP
155の存在下での種々の濃度のmiR−155での電流トレース。ポアと相互作用するmiR−155・P
155に関するシグネチャイベントを、赤色の矢印で印している。(b).miR−155濃度[miR−155]とシグネチャイベントの頻度(f
sig)との間の相関。有意性(p<0.01)は、任意の2種類のmiR−155濃度での検出の間で妥当である。f
sig−[miR−155]曲線は、式1を使用して当てはめている。
【0021】
図6(a)及び(b)は、miRNAと類似の配列との識別で使用した発明を図説している。(a).プローブP
a(+120mV)を使用したlet−7a及びlet−7bの検出のための電流トレース。(b).let−7a・P
a、let−7b・P
a、let−7a・P
b及びlet−7b・P
bのためのシグネチャイベントの時間(τ
sig)。
【0022】
図7(a)〜(f)は、肺癌患者の血漿におけるmiR−155の検出で使用した発明を図説している。(a)〜(d).シグネチャイベントは、健全なボランティア(a)及び肺癌患者(b)からの全血漿RNAについての電流トレースにおいて、100nMのP
155プローブの存在下で見出されたが、P
155((c)及び(d))の不在下では観察されなかった。それらのトレースは、1MのKCl中で+100mVで記録された。(e).6人の健全な個体(N1〜N6)及び肺癌を保有する6人の患者(P1〜P6)からのmiR−155シグネチャイベントの頻度(f
sig)。各サンプルを、独立したナノポアを用いてn回(n≧4)測定した。データは、平均±SDとして示した。患者の状態は以下の通りである。(P1)転移性肺扁平上皮癌;(P2)再発小細胞癌;(P3)早期段階の小細胞癌、化学療法と放射線の後の状況;(P4)早期段階の小細胞癌、化学療法の後の状況;(P5)末期段階の非小細胞癌、切除と化学療法の後の状況;(P6)末期の腺癌、化学療法の後の状況。(f).ナノポアセンサとqRT−PCRで測定された、健全なグループ(左)及び肺癌患者グループ(右)における相対miR−155レベル。平均と一緒にSDを示した。
【0023】
図8A〜Gは、ナノポアにおける、特定のプローブを有する単一miRNA分子の捕捉を示している。(A).miRNA・プローブのハイブリッドの分子図;(B).cis側溶液中の100nMのmiR−155/P
155の存在下での逐次発生したナノポア電流ブロック。記録溶液は、10mMのTris(pH8.0)で緩衝された1MのKClを含有していた。それらのトレースは、+100mVで記録した。同定された電流パターンと相応する分子メカニズムとを、パネルc、f及びgに示した。枠に入れたブロックは、パネルc及びdに示したマルチレベル電流パターンを示した;(c).ポア内にトラップされ、アンジッピングされ、引き続き、アンジッピングされたP
155とmiR−155の該ポアを通じた連続的な移行が行われる、miR−155・P
155ハイブリッドによって発生された、+100mVでのマルチレベルの長いブロック;(d).+150mV及び+180mVでの特徴的なマルチレベルの長いブロック;(e).cis側溶液中に存在する種々の濃度のmiR−155及びP
155で約6時間の電気記録の後のcis側溶液とtrans側溶液におけるqRT−PCRで検出したmiR−155レベル(補足情報中の文);(f).アンジッピングせずにcis側入口からポアを出たトラップされたmir−155・P
155ハイブリッドによって発生されたシングルレベル電流パターン;(g).ハイブリダイズしていないmiR−155又はP
155のcis側溶液からの移行によって発生されたスパイク状の短いブロック。
【0024】
図9A〜Bは、プローブ配列の最適化による検出感度の向上を示している。(A).(左)+100mVで1MのKClにおいてモニタリングした、プローブP
5'-C30(上部)、P
3'-C30(中央)及びP
155(下部)とハイブリダイズしたmiR−155についてのシグネチャイベントの頻度を示す電流トレース、(右)種々のプローブを用いたmiR−155検出についてのシグネチャイベントの発生頻度定数(第5表)。有意性(p<0.005)は、任意の2種類のプローブを用いた結果の間で妥当である。(B).(左)10〜100nMの範囲のターゲット濃度についての[miR−155]−f
155相間、(右)0.1〜100pMといったよりかなり低いターゲット濃度について、0.5M/3M(cis/trans)のKCl非対称溶液において測定された[miR−155]−f
155相間。有意性(p<0.01)は、任意の2種類のmiR−155濃度での検出の間で妥当であった。
【0025】
図10A〜Dは、1もしくは2つの異なるヌクレオチドを含むlet−7 miRNAの識別を示している。let−7a、let−7b及びlet−7cの配列は、第3表に示した。(a).+120mVでのプローブP
a又はP
bを使用したlet−7a及びlet−7bの検出。(左)電流トレースと、(右)シグネチャイベント時間(τ
sig)の比較;(b).+100mVでのプローブP
a又はP
cを使用したlet−7a及びlet−7cの検出。(左)電流トレースと、(右)シグネチャイベント時間(τ
sig)の比較;データは、第6表に示した。(c).ミスマッチを有さない(陽性)及びミスマッチを有する(陰性)miRNA・プローブのハイブリッドについてのイベントの区別のための受信者操作特性(ROC)。(中抜き四角):let−7a・P
a/let−7b・P
a、(中抜き丸):let−7b・P
b/let−7a・P
b、(中塗り四角):let−7a・P
a/let−7c・P
a及び(中塗り丸):let−7c・P
c/let−7a・P
c;(d).ROC曲線下の面積(AUC)と、完全マッチイベント及びミスマッチイベントの間の時間比との間の相関。(中塗り丸):パネルcにおけるROC曲線から測定されたAUC(第7表)、(中抜き丸):シミュレートされたデータセットを基礎としてROC分析から計算されたAUC(
図16及び第8表)。それらのイベントは、指数分布した時間で発生した。完全マッチイベント(陽性)とミスマッチイベント(陰性)の時間比は、それぞれ1、2、3、4、5及び10であった。
【0026】
図11A〜Hは、肺癌患者の血漿におけるmiR−155の検出を示している。(a)〜(d).シグネチャイベントは、健全なボランティア(a)及び肺癌患者(b)からの全血漿RNAについての電流トレースにおいて、100nMのP
155プローブの存在下で見出されたが、P
155((c)及び(d))の不在下ではシグネチャイベントは観察されなかった。それらのトレースは、1MのKCl中で+100mVで記録した。(e).スパイクインされた(spiked-in)合成miR−39の存在下での、6人の健全な個体(番号1〜番号6)及び肺癌を保有する6人の患者(番号7〜番号12)からのmiR−155シグネチャイベントの頻度(f
155)。(f).(e)で使用した全てのサンプルからのP
39(第3表中の配列を参照)により検出されたmiR−39シグネチャイベントの頻度。各サンプルを、独立したナノポアを用いてn回(n≧4)測定した。データは、平均±SDとして示した。患者の状態は以下の通りであった。(番号7)転移性肺扁平上皮癌;(番号8)再発小細胞癌;(番号9)早期段階の小細胞癌、化学療法と放射線の後の状況;(番号10)早期段階の小細胞癌、化学療法の後の状況;(番号11)末期段階の非小細胞癌、切除と化学療法の後の状況;(番号12)末期の腺癌、化学療法の後の状況。(g).パネルe及びfから計算されたf
155/f
39。(h).ナノポアセンサとqRT−PCRで測定された、健全なグループ及び肺癌グループにおける相対miR−155レベルの箱ひげ図。箱は、25パーセンタイルと75パーセンタイルとの間の間隔を印している。箱の内側黒い線は、中央値を示している。ひげは、5パーセンタイルと95パーセンタイルとの間の間隔を示している。中塗りの丸は、5パーセンタイルと95パーセンタイルの外側のデータ点を示している。データは、第9表に示した。
【0027】
図12A〜Dは、ブロック時間のヒストグラムを示している。(a).mir−155・P
155のハイブリッドによって発生したシグネチャブロック。(b).シグネチャブロックにおける短いレベル3状態。(c)及び(d).miR−155(c)及びP
155(d)単独の移行による短いブロック。データは、1MのKCl中で+100mVで記録した電流トレースから得た。
【0028】
図13は、mir−155・P
155のシグネチャイベントの電圧に依存する頻度を示している。データは、1MのKClにおいて、100nMのP
155の存在下で10nM(中抜き三角)の及び25nM(中抜き四角)のmir−155を用いて記録された、そして5pMのP
155の存在下で10pMのmir−155を用いて(中抜き丸)記録された電流トレースから得られた。
【0029】
図14は、他の合成miRNA成分の存在下での、P
155(100nM)を用いて検出されたmiR−155シグネチャイベントの頻度を示している。3つの棒は、miR−155単独(50nM)を、Let−7a(50nM)の存在下でのmiR−155を、そしてLet−7a(50nM)とLet−7b(50nM)の両方の存在下でのmiR−155を表している。データは、1MのKCl中で+100mVで記録した電流トレースから得た。
【0030】
図15は、Let−7a・P
aのハイブリッド及びLet−7b・P
aのハイブリッドによって形成されるシグネチャイベント数の時間ヒストグラムを示している。データは、1MのKCl中で+120mVで記録した電流トレースから得た。(a).Let−7a・P
a (b).Let−7b・P
a 全てのRNA及びDNAの成分の濃度は、100nMであった。
【0031】
図16A〜Bは、イベント時間に基づく、完全マッチ(陽性)イベント及びミスマッチ(陰性)イベントの分離についてのシミュレーションを示している。(a).様々な時間の比率でのROC曲線。該分析に関与する2つの種類のイベントが400存在した;(b).2つの種類のイベントの様々なイベント数の比率でのROC曲線。時間の比率τ
P/τ
Nは3である。
【0032】
図17は、mir−155及びP
155の移行頻度を示している。データは、1MのKCl中で+100mVで記録した電流トレースから得た。2つのオリゴの濃度は、100nMであった。
【0033】
図18A〜Fは、以下を示す:
図18Aは、miRNA/プローブの複合体の図を示している。
図18Bは、ペプチド−PNAプローブのP7bの移行についてのイベントを示している。特徴的なイベントは3msにわたって継続し、そして電流は、+180mVで10pAにまで下がる。
図18Cは、+180mVでの溶液において、遊離したmiRNA let−7b(プローブなし)では遮断イベントが観察できないことを示している。
図18Dは、let−7b/P7bの複合体のトラップについてのシグネチャイベントを示している。
図18Eは、Let−7bとは異なる2つのヌクレオチドを有するLet−7cが、プローブのP7bのPNAに結合できず、従って図
18Dに示されるようにシグネチャイベントを生じないことを示している。殆ど全ての観察されたイベントは、プローブそれ自身によるものである。
図18Fは、Let−7b(完全マッチ、重なりのない2つの離れたクラスター)及びLet−7c(2つのミスマッチ、完全に重なった2つのクラスター)に結合するP7bについての時間−振幅の特性を比較している。
【0034】
図19A〜Cは、以下を示す:
図19Aでは、短鎖の3′末端にヘアピンを有するHP−C30を使用した場合に、新しい種類の3レベルの電流パターンが観察された。
図19Bでは、短鎖の3′末端にストレプトアビジンが結合されたSA−C30を使用した場合にも、新しいマルチレベルの電流パターンが観察された。
図19Cは、2つのDNAを結合する短鎖のオリゴヌクレオチドを使用した場合に、その複合体がナノポア中で2工程で逐次アンジッピングされうることを示している。2回のアンジッピングは、2つのレベル2の状態によって明らかに表すことができる。
【0035】
発明の詳細な説明
本発明は、エラー強さのあるナノポア検知システムであって、感度の高い、選択的な、かつ直接的な、miRNAなどの一本鎖オリゴヌクレオチドの検出、識別及び定量化を可能にする前記システムを提供する。さらに、本発明の検知技術は、また、miRNAファミリーのメンバーにおける単独のヌクレオチド差を見分けるのに使用することもできる。更に、本発明による技術は、患者の血液サンプルにおける癌マーカーの非侵襲性でかつ費用対効果の高い早期診断及び連続的なモニタリングのための可能性を含んでいる。
【0036】
miRNAなどのターゲットの一本鎖のオリゴヌクレオチドを検出するための本発明によるナノポア検知システムは、1)一本鎖のオリゴヌクレオチドの迅速な移行を可能にするナノポアと、2)二本鎖のオリゴヌクレオチドのアンジッピングを誘発する駆動力として予め決められた電圧を提供する電源と、3)ターゲットのオリゴヌクレオチドと混合されて前記ナノポア中にロードされるプローブ分子と、その際、ターゲットのオリゴヌクレオチドとプローブとのハイブリッドが前記ポア中でアンジッピングすると、一定の同定可能な電流シグナル変化が生じ、4)前記電流変化を検出するための手段とを含む。
【0037】
図1に関して、それは、一つの例示的なナノポア検知システムの概略図である。
図1に示されるように、検知チャンバ1は、cis側コンパートメント2とtrans側コンパートメント3とを含み、それらは仕切4によって隔たれている。両方のコンパートメントは、予め選択された、1MのKClなどの記録溶液で満たされている。仕切4は、その中央領域に開口部5を有し、その上に脂質二重膜が形成され、かつナノポア6が、該脂質二重膜を通じて差し込まれている。電源7は、前記の2つのコンパートメント中の一対の電極を通してロードされる電圧を与え、ピコアンペア増幅器などの電流デテクタ8が電流変化のモニタリングのために接続されている。試験において、ターゲットのオリゴヌクレオチド9とその相補的なプローブ10の混合物サンプルは、cis側コンパートメント2中にロードされる。
【0038】
図2に関して、それは、ナノポア6の拡大した概略図である。
図2に示されるように、ナノポア6は、円錐形又は漏斗形であり、それは2つの開口部、つまり広い端部にcis側開口部11と、下の狭い端部にtrans側開口部12とを有する。検出の間に、対になったオリゴヌクレオチド9/10は、ナノ空隙13中に捕捉される。次いで電圧は、狭窄部14でオリゴヌクレオチド9/10のアンジッピングを促し、その際、プローブ10は、まずβ−バレル15を通り抜け、trans側開口部12から出て、その後にターゲットのオリゴヌクレオチド9が通り抜ける。
【0039】
前記のナノポアは、広い開口部と狭い開口部とを有する円錐形もしくは任意の非対称形の任意のイオンチャネルであってよく、前記イオンチャネルは、平坦な脂質二重膜中に差し込まれており、より広い空隙に続いて狭いチャネルを有し、それにより、アンジッピングによる移行イベントを促進できる。前記のナノポアは、任意の存在するタンパク質イオンチャネル、例えば以下の例で採用されたα溶血素膜貫通型タンパク質又はシリコンなどの無生物材料を用いてナノテクノロジーの様式で作成された様々な合成ポアであってよい。
【0040】
本発明によるプローブは、マルチドメインの一本鎖分子であって、ターゲットのオリゴヌクレオチドと完全に相補的な中心ドメインと、その3′末端もしくは5′末端に少なくとも1つの末端伸長部、すなわちシグナルタグとを含み、その際、シグナルタグは両末端にあることが好ましい。本発明は、3′でタグ付けされたプローブは、5′でタグ付けされたプローブよりも好ましいことを示唆している。捕捉率に依存するプローブ指向性は、おそらく、ssDNAの塩基がその鎖の5′末端に向けて総じて傾いており
(38)、この非対称の塩基の配向により、5′末端よりも容易に3′末端からDNAが動くことによるものである。
【0041】
前記の末端伸長部(シグナルタグ)は、電圧により駆動される、ナノポアを通じたアンジッピングによる移行を支援するのに十分な長さを有する任意の荷電した一本鎖分子であってよい。前記のシグナルタグは、ポリ(dC)
n、ポリ(dA)
n及び/又はポリ(dT)
nなどのオリゴヌクレオチドであってよい荷電したポリマー鎖又は荷電したポリペプチドであってよい。例えば、α溶血素膜貫通型タンパク質ポアがナノポアとして使用される場合に、ポリ(dC)タグがポリ(dA)タグもしくはポリ(dT)タグよりも好ましく、さらに、ポリ(dC)
30は、シグネチャイベント(以下に議論される)の発生において、ポリ(dC)
8などのより短いタグを用いたものよりもさらに効率的である。捕捉率は、高電圧での検出、内腔中に設計された荷電プロフィールを有する工学ポアの使用
(33)、及びポアの両側の間での非対称の塩濃度での検出
(39)を含む他の効果的なアプローチと組み合わせるとさらに高めることができる。
【0042】
本発明は、また、オリゴヌクレオチドがナノポアを通じてアンジッピングし移行することによって引き起こされる電流変化をモニタリングすることによって一本鎖のオリゴヌクレオチドを検出及び識別する方法を提供する。
図1に図解される、デュアルコンパートメント式のナノポアシステムを用いた一本鎖のオリゴヌクレオチドの本発明による検出方法は、1)ターゲットのオリゴヌクレオチドと、前記ターゲット配列とマッチするその中心ドメインとその3′末端及び5′末端の少なくとも一方にタグ付けされた荷電された一本鎖分子とを有する予め設計されたプローブとを混合することで、サンプル混合物を得る工程と、2)前記混合物を、cis側コンパートメント中にロードする工程と、3)該システムに予め決められた電圧を与える工程と、4)予め決められた時間帯にわたって電流出力を記録する工程とを含んでいる。ターゲットのオリゴヌクレオチドとその相補的なプローブとのハイブリッドがナノポアを通じてアンジッピングし、移行することによって引き起こされる電流変化は、ユニークなシグネチャイベントであり、それは、ターゲットのオリゴヌクレオチドの検出及び識別に使用される。
図3に関して、それは、一つの例示的な検出の間に記録された一つの例示的な電流トレースと、シグネチャイベントの拡大された電気的マークと、アンジッピング−移行イベントの概略図を含んでいる。
【0043】
更なる説明
定義
本願で使用される場合に、用語"ROC曲線"は、受信者操作特性曲線を指す。ROC曲線は、選択性と感度との間の関連性の分析に使用した。ROC曲線は、プロットを上方領域とより下方の領域とに分離する。
【0044】
本願で使用される場合に、用語"AUC"は、ROC曲線下の面積を指す。AUCは、0.5〜1.0の間の範囲であってよい。AUC値がより高いと、分離結果がより良好である。
【0045】
本願で使用される場合に、用語"OCP"は、至適カットオフポイントを指す。一定の実施形態においては、OCPは、ROC曲線から計算することができる。一定の実施形態においては、OCPは、Youden指数の最大値でのカットオフ時間である。
【0046】
本願で使用される場合に、"Youden指数"という文言は、{感度+選択性−1}として定義される。Youden指数は、ROC曲線から計算され、0と1との間の範囲であってよい。長期分布と短期分布の完全な分離に導くカットオフ時間は、Youden指数=1となり、一方で、完全な重複は、Youden指数=0となる。一定の実施形態においては、Youden指数の最大値を生じるカットオフ時間の値、すなわち"至適"カットオフポイント(OCP)(Greiner et al., 2000 Preventive Veterinary Medicine 45, 23-41)は、最も正確な分離をもたらす。
【0047】
プローブ、ナノポア、そのプローブとナノポアを含むキット、及び関連の使用方法の説明
一つの広範な態様においては、当該発明は、プローブとターゲットとの相互作用から生ずるこれらのイベントを他のイベントと識別する"シグネチャ"電流遮断イベントを提供する、プローブ、ナノポア、該プローブ及びナノポアを含むキット並びに関連の使用方法に関する。この文脈においては、前記他のイベントは、"バックグラウンド"イベントと呼称する。バックグラウンドイベントには、制限されないが、プローブとターゲットではない核酸との相互作用、プローブとナノポア検出システム中に存在する他の成分、ナノポア検出システム中に存在する遊離の核酸などとの相互作用が含まれる。かかるシグネチャイベントのかかる特徴には、制限されないが、i)バックグラウンド電流ブロックとは異なる時間の電流ブロック、ii)バックグラウンド電流ブロックとは異なる数の別個の電流遮断レベル、iii)バックグラウンド電流ブロックとは異なる発生順序の電流遮断レベル、iv)バックグラウンド電流ブロックとは異なる、遮断レベルでの電流振幅、v)バックグラウンド電流ブロックとは異なる各遮断レベルの電流振幅、の少なくとも1つ又は(i)、(ii)、(iii)、(iv)もしくは(v)の任意の組み合わせが含まれる。一定の実施形態においては、シグネチャ遮断イベントは、バックグラウンド遮断イベントと、各遮断イベントの特徴的なバックグラウンドノイズにおける違いの点で識別できる。一定の実施形態においては、シグネチャイベントにおける別個の時間、数又は振幅は、バックグラウンドイベントにおいて観察されるものよりも大きい。一定の実施形態においては、シグネチャイベントにおける別個の時間、数又は振幅は、バックグラウンドイベントにおいて観察されるものよりも小さい。一定の実施形態においては、シグネチャイベントにおける別個の時間、数、順序又は振幅は、バックグラウンドイベントのそれらとは、統計学的に識別できる。一定の実施形態においては、前記のシグネチャイベントは、α溶血素(αHL)又はその工学変異体によって形成されたタンパク質ナノポアを平坦な脂質二重膜系中に含むナノポアシステムにおいて提供される。一定の実施形態においては、前記のシグネチャイベントは、脂質二重膜中に包埋された単独のタンパク質ナノポアを有する脂質二重膜のヒドロゲルで封入されて形成されたバイオチップ又はマイクロ液滴二重膜系において提供されうる。バイオチップ及びマイクロ液滴二重膜系は、説明されてきている(Shim and Gu; Stochastic Sensing on a Modular Chip Containing a Single-Ion Channel Anal. Chem. 2007, 79, 2207-2213; Bayley,H. et al. Droplet interface bilayers. Mol. Biosyst. 4, 1191-1208 (2008))。
【0048】
一定の実施形態においては、シグネチャイベントは、合成のナノポアにおいて提供されうる。合成のナノポアには、制限されないが、窒化ケイ素又はグラフェンを含むナノポアが含まれる。
【0049】
本願で提供されるプローブ分子は、その5′末端及び/又は3′末端の一方又は両方に末端伸長部を含む。理論にとらわれることを求めるものではないが、これらの末端伸長部は、有用な機能を提供すると考えられており、前記機能には、制限されないが、高い比率でのナノポア中へのプローブ/ターゲットの複合体のトラップ(すなわち、単位記録時間あたりの、単位ターゲット濃度あたりの、シグネチャイベントの数)が含まれる。トラッピング率は、直接的に感度を決める。同じターゲットの濃度と同じ記録時間においては、トラッピング率が高ければ検知結果はより正確となる。理論にとらわれることを求めるものではないが、また、これらの末端伸長部は、有用な機能を提供すると考えられており、前記機能には、制限されないが、プローブ/ターゲットの複合体の電圧により駆動される解離の誘導が含まれる。この解離機能は、混合物中でプローブとターゲットとの相互作用を他の成分から区別するのに使用でき、それにより選択性又は特異性が保証されるシグネチャイベントを生成する。
【0050】
プローブの末端伸長部は、任意の長さの荷電されたポリマーを含んでよい。一定の実施形態においては、前記ポリマーは、負に荷電した一本鎖の核酸であってよい。かかる核酸の末端伸長部の利点には、制限されないが、極めて低い合成費用及びpH、塩濃度及び温度により制御可能な荷電が含まれる。かかる核酸伸長部は、ホモポリマー、ヘテロポリマー、コポリマー又はそれらの組み合わせを含む。一定の実施形態においては、かかる核酸の末端伸長部の長さは、約1もしくは2ヌクレオチドから約50ヌクレオチドまでの範囲であってよい。なおも他の実施形態においては、前記の核酸伸長部は、約5ヌクレオチドから約40ヌクレオチドまでの長さの範囲であってよく、約15ヌクレオチドから約35ヌクレオチドまでの長さの範囲であってよく、又は約20ヌクレオチドから約35ヌクレオチドまでの長さの範囲であってよい。本願により提供される一つの例示的な末端伸長部は、ホモポリマーであるポリ(dC)
30である。しかしながら、制限されないが、CTCTCTCT…又はCATCATCAT…などのジヌクレオチドもしくはトリヌクレオチドのヘテロポリマーを含むヘテロポリマー配列も使用できる。一定の実施形態においては、非塩基(abase)を含むコポリマー又はポリエチレングリコール(PEG)を末端伸長部において使用することができる。末端伸長部におけるこれらのコポリマー又はそれらのドメインは、該プローブの末端伸長部に新たな機能を付与しうる。非塩基は、塩基を有さないヌクレオチドであるが、リン酸によって提供される負電荷を有する。非塩基の大きさは通常のヌクレオチドより狭いので、隣のヌクレオチドによって形成されるものとは異なるシグネチャイベントシグナルが生成することがある。PEGは荷電されていない。理論にとらわれることを求めるものではないが、核酸配列中のPEGドメインがポア中にトラップされるときに、それは駆動力を減じ、こうしてプローブ/ターゲットの複合体の解離を厳密に調節すると考えられている。
【0051】
プローブの末端伸長部は、また、ポリペプチドを含んでよい。アミノ酸の選択がより豊富であると、ポリペプチドの末端伸長部の配列及び官能性を、オリゴヌクレオチドの末端伸長部よりも多くの計画を可能にする。例えば、ポリペプチドの末端伸長部は、より高い識別が可能なプローブ/ターゲットのシグネチャイベントを生成するために、最適な位置に荷電アミノ酸の挿入を可能にする。理論にとらわれることを求めるものではないが、プローブ/ターゲットの複合体は、好適な電圧下で正に荷電したポリペプチド末端伸長部を含むプローブを用いて選択的にトラップされうるが、一方で、混合物中の全ての他の負に荷電した非ターゲットのオリゴヌクレオチドは、ポア中に入ることから阻まれ、こうして超選択的な検出がもたらされると考えられている。一定の実施形態においては、ポリペプチド末端伸長部は、正電荷を有してよい2つ、3つ、4つ又はそれより多くのアミノ酸残基(すなわち、リシン及び/又はアルギニン及び/又はヒスチジン)を含んでよい。一定の実施形態においては、前記プローブがターゲットのオリゴヌクレオチドにハイブリダイズしたときに正味の正電荷を提供するために、十分な数の正に荷電された残基がポリペプチド末端伸長部に含まれる。一定の実施形態においては、プローブがリシン、アルギニンもしくはヒスチジンなどの残基によって授けられた正電荷を有する末端伸長部を含むとき、関連のナノポアを基礎とする検出法の性能は、酸性条件下(すなわちpH値が7未満であるとき)に、又は残基がプロトン化される条件下で増強されうる。このように、かかるプローブは、約1〜約6.9のpH値で、1〜約6.0のpH値で、約1〜約5.5のpH値で、約3〜約5.5のpH値で、かつ同様のpH値で使用される。一定の実施形態においては、かかるポリペプチドの末端伸長部の長さは、約1もしくは2残基から約30残基までの範囲であってよい。なおも他の実施形態においては、前記のポリペプチド伸長部は、約5残基から約20残基までの長さの範囲であってよく、約8残基から約20残基までの長さの範囲であってよく、又は約8残基から約15残基までの長さの範囲であってよい。一つの例示的な実施形態においては、正に荷電したアルギニン残基及びリシン残基を含むHIV−TATポリペプチドは、末端伸長部として使用されうる。一定の実施形態においては、ターゲットのオリゴヌクレオチドに相補的なプローブの中心ドメインは、正電荷を有するアミノ酸を含む末端伸長部に共有結合されたペプチド核酸を含んでよい。一定の実施形態においては、ペプチド核酸を含む中心ドメインは、前記プローブがターゲットのオリゴヌクレオチドにハイブリダイズしたときに正味の正電荷を提供するために、正電荷を有するアミノ酸を含む末端伸長部と連結して使用される。一定の実施形態においては、制限されないが、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、チロキシンなどを含む芳香族側鎖を有するアミノ酸を含むポリペプチド末端伸長部は、ポリペプチド末端伸長部中に組み込まれてよい。理論にとらわれることを求めるものではないが、かかる芳香族アミノ酸は、芳香族スタッキングを通じてポアと相互作用でき、ナノポアを基礎とする検出方法で得られたシグネチャの有用な変化を提供すると考えられている。
【0052】
理論にとらわれることを求めるものではないが、十分な数の正に荷電したアミノ酸がポリペプチド末端伸長部に存在して、該末端伸長部を含むプローブがターゲットのオリゴヌクレオチドにハイブリダイズしたときにターゲットのオリゴヌクレオチド/プローブの複合体の正味の電荷がまだ正であるならば、前記のターゲットのオリゴヌクレオチド/プローブの複合体全体は、強力な双極子分子を形成するものと考えられている。プローブの双極子の正に荷電したペプチドドメインが両者とも正の電圧(cis側接地)によって押されて、trans側開口部にある負の環状部によって引き寄せられて、ポア中へのオリゴヌクレオチド/プローブの複合体のトラップが導かれると考えられている。正の電圧では、任意の他の遊離した核酸成分は、遊離したハイブリダイズされていない核酸によって運ばれる負電荷のためポアに入ることが妨げられる。これは遊離した核酸成分によりシグナルを大きく下げるため、観察される電流遮断イベントの大部分は、オリゴヌクレオチド/プローブの複合体のトラップによるか、プローブの移行によるものかのいずれかである。
【0053】
一定の実施形態においては、正味の正電荷を有するオリゴヌクレオチド/プローブの複合体は、ポアのtrans側開口部に負に荷電した環状部を有するナノポアに向かいうる。この文脈においては、ポアのtrans側開口部は、分子が出てくるポアの開口部であり、一方で、ポアのcis側開口部は、そこから分子が入る開口部である。これらの実施形態においては、ポアのtrans側開口部の負に荷電した環状部は、ポアのtrans側開口部で負に荷電した環状部を有するように適宜合成及び/又は誘導体化した任意のタイプのナノポアを使用することによって得ることができると解されるべきである。ポアのtrans側開口部に負に荷電した環状部を有するかかるナノポアには、制限されないが、タンパク質ナノポア及び合成ナノポアが含まれる。ポアのtrans側開口部に負に荷電した環状部を有するタンパク質のナノポアには、制限されないが、α溶血素タンパク質の工学変異体が含まれる。一定の実施形態においては、前記の工学されたα溶血素の変異体は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のα溶血素であって、K131D、K131E又はK131Hのアミノ酸置換を含むものを含んでよい。例示的なかつ制限されないスタフィロコッカス・アウレウスのα溶血素の野生型配列は、本願で提供され(配列番号20、核酸コーディング領域;配列番号21、タンパク質コーディング領域)、他でも入手できる(National Center for Bioinformatics又はGenBankのアクセッション番号M90536及びAAA26598)。例示的なかつ制限されないスタフィロコッカス・アウレウスのα溶血素の変異体であってK131D置換を含むものは、配列番号22として提供される。一定の実施形態においては、工学されたα溶血素の変異体は、ポアのtrans側開口部に負に荷電された環状部を提供する部分で誘導体化された適宜誘導体化された変異体を含んでよい。ポアのtrans側開口部に負に荷電された環状部を有するタンパク質ナノポアを提供するように置換又は誘導体化できる一つの例示的な野生型のスタフィロコッカス・アウレウスのα溶血素タンパク質は、これとともに配列番号21として提供されている。しかしながら、ポアの形成が可能な他の溶血素の変異体は、ポアのtrans側開口部に負に荷電された環状部を有するタンパク質ナノポアを提供するように置換又は誘導体化されていてよい。ポアのtrans側開口部に負に荷電された環状部を有する合成ナノポアも提供されている。一定の実施形態においては、ポアのtrans側開口部に負に荷電された環状部を有するかかる合成のナノポアには、制限されないが、ポアのtrans側開口部に負に荷電された環状部を提供する部分で適宜誘導体化された窒化ケイ素又はグラフェンのナノポアが含まれる。
【0054】
本願に提供されるプローブの中心ドメインは、ターゲット分子の捕捉のために使用される。一定の実施形態においては、前記の中心ドメインは、ターゲット配列と完全に相補性であるか又は部分的に相補性であってよい。一定の実施形態においては、中心ドメインは、天然ヌクレオチド(A、T、G、C(DNA)又はa、u、g、c(RNA))及び/又は人工ヌクレオチド、例えば制限されないが、イノシン、キサントシン、7−メチルグアノシン、ジヒドロウリジン及び5−メチルシチジンなどのヌクレオシドを含むオリゴヌクレオチドを含んでよい。一定の実施形態においては、中心ドメインは、ロックト核酸(LNA)又はペプチド核酸(PNA)を含んでよい。ロックト核酸は、RNA誘導体であって、リボース環が2′酸素と4′炭素との間にメチレン結合を含む誘導体を含む。ペプチド核酸(PNA)は、ヌクレオベース側鎖を有するペプチド骨格を含む。一定の実施形態においては、LNA又はPNAの中心ドメインは、天然ヌクレオベース(アデニン、グアニン、チミン、シトシン又はウラシル)及び/又は人工ヌクレオベース、例えば制限されないがヒポキサンチン、キサントシン、7−メチルグアニン、5,6−ジヒドロウラシル及び5−メチルシトシンを含んでよい。一定の実施形態においては、オリゴヌクレオチド、LNA又はPNAのコポリマーを含むプローブの中心ドメインが提供される。一定の実施形態においては、プローブの中心ドメインは、ターゲット核酸に対して相補的な、少なくとも約4、6、8、10、12、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25個のヌクレオチド又はヌクレオベース残基を有する。一定の実施形態においては、プローブの中心領域は、ターゲット核酸に対して相補的な、少なくとも約4、6、8、10、12、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25個のヌクレオチド又はヌクレオベース残基ないし約30、35、40又は50個のヌクレオチド又はヌクレオベース残基のいずれかを有する。一定の実施形態においては、配列内に挿入される合成ヌクレオチド又はヌクレオベースは、ターゲットとのハイブリダイゼーションエネルギーを正確に適合でき、こうして単独のヌクレオチドの多形、メチル化又はmiRNAとそのターゲットのメッセンジャーRNAとの間の相互作用などのターゲットの特徴が識別されうる。
【0055】
様々なターゲットの核酸又はオリゴヌクレオチドであって、プローブ、ナノポア、該プローブとナノポアを含むキット及び関連のプローブの使用方法によって、非ターゲットの核酸から検出及び識別できるものが本願に提供されている。一定の実施形態においては、前記のターゲットは、細胞、体液、組織、細菌又はウイルスからの核酸又はその断片であってよい。一定の実施形態においては、前記のターゲットは、PCR産物又は合成オリゴヌクレオチドであってよい。一定の実施形態においては、ターゲットは、ゲノムDNA、mRNA、未熟もしくは成熟のmiRNA、人工miRNA、非コーティングDNAもしくはRNA、核酸バイオマーカ又は合成アプタマーを含んでよい。一定の実施形態においては、miRNAターゲットは、血漿及びホルマリン固定された組織及びパラフィン包埋された組織などの任意の組織由来の生体流体からのRNA抽出を起源としうる。一定の実施形態においては、ターゲット核酸は、ターゲットタンパク質と結合される、核酸結合タンパク質、抗体又はアプタマーのいずれかと複合体形成された核酸断片を含んでよい。一定の実施形態においては、ターゲット核酸は、制限されないが薬剤を含む低分子量化合物と複合体形成された核酸断片を含んでよい。一定の実施形態においては、ターゲットは、突然変異を有する、単一のヌクレオチド多形を有する、又はメチル化及びリン酸化などの化学的修飾を有する配列を含んでよい。
【0056】
実施例
例1.肺癌のバイオマーカーであるmiR−155の検出
本発明は、さらに、肺癌のバイオマーカーであるmiR−155の検出のための一つの例示的なナノポア検知システムを提供する。前記ナノポア検知システムは、α溶血素膜貫通型タンパク質ポアと、miR−155のために予め設計されたプローブとを含む。プローブは、DNA多重ブロックコポリマーであって、ターゲットのmiR−155に対して相補的なその中心ドメインと、3′末端、5′末端又は両末端にシグナルタグとして機能する少なくとも1つのポリ(dC)
30伸長部とを有する前記コポリマーである。第1表に列記されるのは、miR−155の配列と、トリブロックコポリマーを有する例示的なプローブの配列であり、P
155が好ましい。
【0057】
第1表.miRNA及びそれらのプローブの配列
【表1】
【0058】
一つの例示的な検知プロセスの間に、miR−155/P
155の混合物は、ポアのcis側に添加され、一連の短期継続型の及び長期継続型の電流ブロックを有する電流トレースは、+100mVで1MのKCl中でモニタリングして、
図4aに示されるように記録できる。スパイク状の短いブロックは、
図4aにおいてbとして表示され
図4bにも示されているが、そのブロックは、220±21μsの時間を有し相対コンダクタンスg/g
0=0.16でポアコンダクタンスをほぼ完全に減じ、その際、g及びg
0は、ブロックのコンダクタンス及び非占有のナノポアのコンダクタンスである。時間とコンダクタンスの両方は、miR−155とP
155単独によるブロックのそれと類似しており、こうして混合物中の短いブロックは、
図4b′に図説されるポアを通じた一本鎖の遊離したmiR−155もしくはP
155の迅速な通過に関連している。
【0059】
短いブロックに対して、
図4aでc及びdとして表示される、記録における長いブロックは、250±58msにわたって持続する。
図4aにcとして表示される長いブロックの1つのタイプは、3つの順次のコンダクタンスレベル、レベル1→レベル2→レベル3(
図4cに示される)を特徴付けている。このタイプのブロックは、miR−155かP
155が単独で存在する場合には観察されず、それは、miR−155/P
155のハイブリッド(miR−155・P
155)に由来することを示している。レベル1は、コンダクタンスをほぼ完全にg/g
0=0.15にまで減じる。このコンダクタンスレベルは、miR−155・P
155がポア中により広い開口部(cis側)からトラップされ、その際、P
155の3′シグナルタグか5′シグナルタグのいずれかが最も狭いβ−バレルを占拠している配置と一致している(
図4c′のレベル1)。前記のβ−バレル中のシグナルタグは、電圧により駆動されるmiR−155・P
155のアンジッピングを誘導しうる。アンジッピング時間又はレベル1の時間は、ポア中でのDNAアンジッピングについて先に報告された時間規模に匹敵する。例えば50塩基対のdsDNAの+140mVでのアンジッピングのためには約435ms、そして10塩基対のヘアピンDNAの+90mVでのアンジッピングのためには約40ms。そのアンジッピング過程は、さらに、レベル1からレベル2への離散的な遷移によって実証された。レベル2は、410±20μs続き、そのコンダクタンスはg/g
0=0.42へと大きく増加する(
図1c′のレベル2)。この部分的なブロックは、β−バレル中を占めているオリゴヌクレオチドとして解釈できない。恐らく、miR−155・P
155のアンジッピングに引き続きP
155の移行があった後に、mir−155は、一時的にポアのナノ間隙中に閉じ込められうる。ナノ間隙中に留まる一本鎖のオリゴヌクレオチドはかかる部分的なブロックを生じうることが実証されている
(33),(34)。そのナノ間隙中にあるmiR−155分子は最終的にβ−バレルを横切って、レベル3を生じる。これは、コンダクタンスをg/g
0=0.08にまで完全に減じる(
図4c)。レベル3の時間は270±30μsであって、mir−155単独による短いブロックについての220μsと近く、+120mVでの75塩基のRNAの移行についての約400μsの時間スケール
(35)及び+120mVでの210塩基のRNAについての800μsの時間スケール
(36)と一致している。レベル3の時間は、電圧が上がると短くなり、さらに、このコンダクタンスレベルに関しては、一本鎖のオリゴヌクレオチドの移行を支援している。
【0060】
多重コンダクタンスの長いブロックに加えて、g/g
0=0.15での単独のコンダクタンスレベルを有する長いブロック(
図4aにdとして表示され、
図4dに示されている)も観察されている。このタイプの長いブロックは、捉えられたmiR−155・P
155がアンジッピングすることなくポアをcis側入口から出るときに生じうる。
【0061】
本発明は、特徴的な長いブロックが、ターゲットのmiRNAの単一分子を同定するためのシグネチャイベントとして役立ちうることを教示している。シグネチャイベントの頻度(f
sig)から、ターゲットのmiRNAは、式1を使用して定量化できる(補足材料における方法、以下の例2に提供される)
【数1】
【0062】
式1においては、[miR]
0及び[P]
0は、miRNAとプローブの初期濃度であり、k
onは、シグネチャイベントの発生率であり、かつK
dは、溶液中でのmiR・Pについての解離定数である。[miR]
0<<[P]
0である場合に、f
sig≒k
on[miR]
0である。電流トレースは、まさに、miR−155濃度が高まるほど、miR−155・P
155のシグネチャイベントの頻度が高まることを示している(
図5a)。f
sig−[miR−155]データは、式1を使用して、K
d=30nM及びk
on=3.6×10
6M
-1s
-1で当てはめることができる(
図5b)。文献
(8)によれば、循環しているmiRNAの平均濃度は、対照グループの68.1ng/mL(約10nM)に対して、肺癌グループについては158.6ng/mL(約25nM)であった。従って、10nMと25nMのmir−155でのf
sig値を比較した(
図5b)。分析により、2つのレベルのmiRNA濃度が分けられうることが示され(p<0.005)、それは、本発明による方法が、肺癌患者においてmiRNAレベルを区別して検出する見込みを有することを示唆している。
【0063】
本発明は、また、類似のmiRNA配列であるlet−7a及びlet−7bとを高度に識別するために、本発明によるナノポア検知システムを使用する一つの例示的な方法を提供する。let−7a及びlet−7bは、Let−7腫瘍抑制性miRNAファミリー
(4)-(6)のメンバーであり、かつ2つのLet−7メンバーは、位置17及び19で異なるヌクレオチドを有するに過ぎず、それらはlet−7aではアデニンであり、かつlet−7bではグアニンである。本発明によるプローブP
a及びP
bは、第2表中に列記される配列をそれぞれ有するlet−7aとlet−7bのために設計されている。
【0064】
第2表.let−7a及びlet−7b並びにそれらのプローブの配列
【表2】
【0065】
図6a及び
図6bに示されるように、P
aを使用して各miRNAを検出する場合に、let−7a・P
a(ミスマッチなし)についてのシグネチャイベントの時間(τ
sig)は、155±28msであり、一方で、let−7b・P
a(2ヌクレオチドのミスマッチを有する)についてのτ
sigは、48±11msにまで大きく短縮される(p<0.005)。同様に、P
bを使用して両方のmiRNAを検出する場合に、let−7b・P
b(ミスマッチなし)についてのτ
sigは、165±47msであり、
図6bに示されるように、let−7a・P
b(2ヌクレオチドのミスマッチを有する)についての24±2ms(p<0.005)よりもかなり長い。時間における有意差は、ミスマッチが、miRNAとプローブとの間のハイブリダイゼーション相互作用を大きく弱めることと解釈できる。同じ電界中に置かれた場合に、ミスマッチを含むハイブリッドは、完全にマッチしたハイブリッドよりもアンジッピングのためにより低いエネルギーしか必要としない。このように、本発明によるナノポア検知システムは、アンジッピング時間に基づき単独のミスマッチを識別可能であり、こうして、類似の配列及びSNPsを有するmiRNAを検出する見込みを裏付けている。
【0066】
本発明は、さらに、肺癌患者における血漿miR−155を、本発明によるナノポア検知システムで検出する一つの例示的な方法を提供する。その例示的な方法の間に、末梢血サンプルを、6人の肺癌患者と6人の健全なボランティアから地域のIRB承認をもって入手した。miRNAを含む全血漿RNAを、各血漿サンプル350μlからmiRVana PARISキット(Ambion)を用いて最終希釈容量100μlで抽出し、それらを次いでナノポアとRT−PCRアッセイ
(44)のために2つのアリコート(50μl)に分けた。一方のアリコートを、P
155と予備混合し、ナノポアチャンバ中の2mlの記録溶液に直接添加した。ナノポア電流は、血漿サンプルの存在下でさえも低レベルのノイズを保ち、そして別個の短いブロック及び長いブロック(赤い矢印で印した)は、対照グループ(
図7a)及び肺癌グループ(
図7b)の両方で同定できる。多重コンダクタンスと単独のコンダクタンスの両方を含む特徴的な長いブロックは、
図1aにおける合成miR−155RNAについてのものと同じコンダクタンスプロフィール及びそれと類似の特性を特徴としている。P
155の不在下で、かかるタイプの長いブロックは観察できない(
図7c及びd)が、短いブロックは、遊離したmiRNAなどの一本鎖のオリゴヌクレオチドの移行に関して見出された(
図7c及びd)。総合して、前記の特徴的な長いブロックは、miR−155・P
155のハイブリッドによるものとすることができ、単独のmiRNA分子検出のためのシグネチャイベントとして役立つ。
【0067】
肺癌患者グループにおける全てのサンプルについてのmiR−155シグネチャイベントの頻度f
sigは、1.15〜1.51分
-1の間で変動し、その平均は、1.40±0.16分
-1である(
図7e)。このレベルは、0.32〜0.70分
-1の範囲で、0.48±0.14分
-1を平均とする対照グループ(
図7e)におけるf
sigよりもかなり高かった。全てのサンプルは標準的な手順(補足材料における方法)に従って調製したので、2つのグループにおける相対miRNAレベルを比較するのは妥当であるべきである。健全な血漿における平均f
sigを1とした場合に、肺癌の血漿におけるmiR−155の倍数を2つの方法で比較した。
図7fは、肺癌患者における相対mir−155レベルが、ナノポアセンサを用いて2.79であった(p<0.001)ことを示している。比較によって、相対miR−155レベルは、RT−PCR法で4.72(p<0.02)であり、より大きなばらつきを有していた。従って、ナノポアとRT−PCRアッセイの両方は、1.69倍の差があるとはいえ、肺癌患者の血漿におけるmiR−155のかなりの上昇を示している。ナノポア法は、標識及び増幅を必要としないので、これが、ナノポアアッセイにおけるばらつきの少なさの理由かもしれない(
図7f)。総合して、工学プローブを用いるナノセンサは、臨床の肺癌患者における循環しているmiRNAを検出する能力を裏付けており、これは、独立したRT−PCR法によって検証されている。
【0068】
例2.補足情報
試料.
miRNA及びDNAプローブを含むオリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies(Coralville, IA)によって合成され、電気泳動精製された。試験前に、miRNAとDNAプローブの混合物を、90℃で5分にわたり加熱し、次いで徐々に室温へと冷却し、そして4℃で貯蔵した。RNアーゼ不含の水を使用してRNA溶液を調製した。
【0069】
ナノポア検出の設定と手法.
この節は、以前から十分に文書になっている(Shim,J.W., Tan,Q., & Gu,L.Q. Single-molecule detection of folding and unfolding of a single G-quadruplex aptamer in a nanopore nanocavity. Nucleic Acids Res. 37, 972-982 (2009))。簡単に言うと、記録装置は、テフロンフィルムで仕切られた2つのチャンバ(cis側及びtrans側)から構成されていた。1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロホスファチジルコリン(Avanti Polar Lipids)の平坦な脂質二重膜は、仕切の中心にある100〜150nmの穴にわたって形成された。cis側チャンバとtrans側チャンバの両方を、10mMのTrisで緩衝されかつpH8.0に滴定された対称的な1Mの塩溶液(KCl)で満たした。全ての溶液は、使用前に濾過している。単独のα溶血素タンパク質を、前記二重膜中にcis側から挿入することで、膜内に分子ポアを形成させた。miRNAとDNAプローブと臨床的なRNAサンプルを含む全てのオリゴヌクレオチドを、またcis側溶液へと添加した。ポア電流を記録するために、cis側溶液を接地し、そして電圧をtrans側溶液から与えた。この慣行において、正電圧は、負に荷電したDNAをポアを通じてcis側からtrans側へと移行させることを駆動できる。単一チャネル電流を、Axopatch 200A増幅器(Molecular Device Inc. Sunnyvale, CA)を用いて記録し、内蔵の4極ローパス・ベッセルフィルタを用いて5kHzでフィルタリングし、Clampex 9.0ソフトウェア(Molecular Device Inc.)を用いてDigidata 1332 A/Dコンバータ(Molecular Device Inc.)を通じて20kHzのサンプリング速度で収集した。それらのデータは、Clampfit 9.0ソフトウェア(Molecular Device Inc.)、Excelソフトウェア(MicroSoft)及びSigmaPlotソフトウェア(SPSS)を使用して解析した。
【0070】
遊離したmiRNA又はプローブのポアを通じた移行によって、非常に短い電流ブロック(約10
1〜10
2μs)が生じた。幾つかの短いブロックは、部分的に減じられたポアコンダクタンスを示しており、それは、5kHzでの記録のフィルタリングによるものであるか、又はトラップされたオリゴヌクレオチドがcis側溶液に戻ることによって形成されるかのいずれかが考えられる(Maglia,G., Restrepo,M.R., Mikhailova,E., & Bayley,H. Enhanced translocation of single DNA molecules through alpha-hemolysin nanopores by manipulation of internal charge. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 105, 19720-19725 (2008))。この実験では、これらの部分的なブロックを含む全ての短いブロックを、ヒストグラムの作成のために収集した。移行イベント(約10
1〜10
2μs)はシグネチャイベント(約10
1〜10
3ms)とは十分に識別されるので、本願では、短いイベントと長いイベントとの分離のための境界として簡便に1msを使用した。それらのデータは、少なくとも3つの別個の実験(n>3)に基づく、平均±SDとして示した。t検定において、p<0.05を、2つのグループ間での有意差と見なした。電気生理学実験は、22±2℃で行った。
【0071】
血漿からの全RNA抽出とqRT−PCRによるmiRNA定量化.
末梢血サンプルを、IRB承認をもってミズーリ大学Ellis Fischelがんセンターで取得した。EDTA保存剤を有する全血を室温で1600gで10分間にわたり遠心分離し、血漿を新しいチューブへと移した。miRNAを含有する全RNAを、350μlの血漿から、miRVana PARISキット(Ambion, Austin, TX, USA)を使用して製造元のプロトコールに従って抽出した。最終希釈容量は、100μlであった。
【0072】
サイバーグリーン(SYBR green)をベースとする定量化RT−PCRアッセイを、miRNA定量化のために使用した。簡潔には、miRNAを含む全RNAサンプル10μlを、ポリ(A)ポリメラーゼ(Ambion)によってポリアデニル化し、そしてSuperScript III リバーストランスクリプターゼ(Invitrogen)を使用して製造元の指示に従い、ポリ(T)アダプタープライマー(5’-GCGAGCACAGAATTAATACGACTCACTATAGGTTTTTTTTTTTTTTTVN-3’;配列番号10)を用いてcDNAへと逆転写した。リアルタイムPCRを、iQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を使用してmiR−155特異的フォワードプライマー(5’-TTAATGCTAATCGTGATAGGGGT-3’;配列番号11)と、リバースプライマーとしてのポリ(T)アダプターと相補的な配列(5’-GCGAGCACAGAATTAATACGAC-3’;配列番号12)を用いてiQ5 Real-time PCR system(Bio-Rad, USA)において実施した。そのPCRは、以下のとおり実施した:95℃での3分間の初期変性後に、95℃で15秒を40サイクルと、引き続き60℃で1分間を行った。miR−155の相対レベルを、2
-ΔCt法を使用して計算し、その際、健全な血漿のレベルを1と正規化した。データは、3つの独立した試験の平均±SDとして表し、その差は、スチューデントのt検定を使用することによって、p<0.05で統計的有意であると見なされた。
【0073】
ナノポア及びqRT−PCRのデータの、対照としてスパイクインされたC.エレガンス(C. elegans)のmiRNAであるmiR−39を用いた正規化.
ここで、ヒトのサンプルでのナノポアセンサーによるmiRNA検出能力の説得力のある実証をするために、対照として、スパイクインされた合成miRNAを導入した。検出におけるスパイクインされたRNAオリゴヌクレオチドは、ヒトゲノムに存在しないmiRNAであるC.エレガンスのmiR−39の配列と一致している。3.5μLの1nMの合成miR−39溶液を、各350μLの血漿サンプルへと、2×変性溶液(miRVana PARISキット)を血漿に添加した後に導入し、こうして血漿中のmiR−39濃度は10pMであった。変性溶液は、RNAが分解を受けることを内因性の血漿RNAアーゼの阻害により妨げる。各サンプルについて、miR−155とスパイクインされたmiR−39の両方を、ナノポアセンサとサイバーグリーンをベースとするqRT−PCRを使用して測定した。ナノポアデータと正規化の結果を、第9表に示した。ナノポア検出において、miR−155とmiR−39についてのプローブは、P
155とP
39であった。ここでまず、miR−155・P
155とmiR−39・P
39のそれぞれのハイブリッドのシグネチャイベントの頻度f
155及びf
39を測定した。f
39のばらつきは、RNA抽出後のサンプルの間でのmiR−39濃度の差を反映した。従って、2つの頻度の比f
155/f
39は、原則的にこのばらつきを排除すべきである。ここで最後に、6つの健全なサンプルの平均f
155/f
39(A
normal)を標準として使用し、各サンプルの相対miR−155レベルを、f
155/f
39をA
normalに正規化すること、すなわちf
155/f
39/A
normalによって計算した。
【0074】
miRNA濃度とシグネチャイベントの頻度との間の相関.
演繹法において、"miR"はmiRNAを表し、"P"はプローブを表し、K
dは、miR・Pについての平衡解離定数を表し、k
onは、miR・Pのシグネチャイベントの発生率定数を表し、そしてf
sigは、シグネチャイベントの頻度を表す。miRNAとプローブの混合物において、反応物であるmiR及びPと、生成物であるmiR・Pとの平衡が確認できる。
【0075】
【数2】
【0076】
K
dは、
【数3】
によって決定され、その式中、[miR]
0及び[P]
0は、miRNAとプローブの全濃度であり、かつ[miR・P]は、miR・Pの濃度である。こうして、[miR・P]と[miR]
0の関係は、
【数4】
である。
【0077】
ナノポア中でのmiR・Pのトラッピングとアンジッピングに関するキネティクスは、
【数5】
である。
【0078】
f
sigは、[miR・P]と線形に関連しているので、
【数6】
であり、式S2と式S3とから
【数7】
である。
【0079】
式S4は、f
sigが、ターゲットのmiRNAの全濃度である[miR]
0と正比例にないことを示している。しかしながら、[miR]
0が[P]
0よりもかなり小さい場合に、それはここでのmiRNA検出における場合であるが、式S4は、
【数8】
として単純化できる。
【0080】
この条件では、f
sigは、[miR]
0と比例している。式S4は、最終的にf
sigが飽和状態になるとも示唆している。これは、f
sigの大きさがmiR・Pの捕捉頻度であることと、miR・Pの最大濃度([miR・P])は、プローブの濃度([P]
0)よりも高くありえないことからである。
【0081】
trans側溶液中のmiR−155のRT−PCRを用いた同定.
モデルに示されるように(
図8)、miRNA・プローブの複合体がポア中でアンジッピングされると、別個のプローブとmiRNAとは、β−バレルを通じてtrans側溶液へと順次移行しうる。このモデルを検証するために、ここでRT−PCRを使用して、trans側溶液中のアンジッピングされたmiRNAを検出した。しかしながら、PCR法は、trans側のmiRNAが、アンジッピングされたmiRNAからであるか又はcis側溶液からtrans側溶液へと単に移行した遊離したmiRNA(ハイブリダイズしていない)からであるかを区別できない。従ってここで、cis側溶液中のmiRNAよりもさらに高い濃度のプローブが添加され、こうして、殆どのmiRNA分子は前記プローブと結合され、遊離したmiRNAは殆ど残らず、それにより遊離したmiRNAが、PCRの結果と干渉しうるtrans側溶液へと移行することが排除される。ここでのターゲットは、miR−155であり、そしてプローブは、P
155であった。ターゲット/プローブの濃度は、0.1/1000、1/1000及び10/1000(nM)であった。多くのポアに関する6時間にわたる二重膜記録の後に、cis側溶液とtrans側溶液の両方2μLを、ポリアデニル化、逆転写及びRT−PCRにかけて、上記の方法に示されるようにしてmiR−155の濃度を検出した。その間に、合成されたmiR−155の希釈列を行い、較正のための標準曲線を作成した。cis側のmiR−155とtrans側のmiR−155を、個別に測定した。miR−155/P
155の濃度が10/1000(nM)である場合に、trans側のRNAサンプルについての融解曲線のピークは、合成されたmiR−155と同じであった。miR−155の標準曲線に従って、trans側溶液中のmiR−155の濃度は、14、34及び63aM(10
-18M)であり、これにより、微量のmiR−155が、ポアのtrans側に運ばれたことが示された。
【0082】
注釈S1.
前駆miRNA(pre−miRNA)は、RNアーゼIIIに媒介された開裂のサインとしての2ヌクレオチドの3′突出部を有する約70ヌクレオチドのステムループ型のRNAである(Lee,Y., Jeon,K., Lee,J.T., Kim,S., & Kim,V.N. MicroRNA maturation: stepwise processing and subcellular localization. EMBO J 21, 4663-4670 (2002))。血漿の全RNA抽出物がpre−miRNAを含むかどうかは未知である。しかしながら、ここで、miR・Pについての捕捉率は、プローブ中のシグナルタグが非常に短いのであれば非常に低いことが実証された(
図9、
図16及び未公表のデータ)。従って、ここで、pre−miRNAは存在するものの、短い突出部によって、ナノポア中でのトラッピングが妨げられることが予想された。
【0083】
注釈S2.
ここでまた、ナノポアとqRT−PCR(補足情報において)によってmiRNAを分析するためにかかった時間を比較した。ここでのRT−PCR検出は、多くても16のサンプルを一度で、スパイクインを用いたのと用いないので各試験について三重反復試験を含めて試験できる。PCRには約5〜6時間がかかり、そこには、1時間のポリA反応と、1時間の逆転写と、2.5時間のqPCRと、サンプル添加のための1時間が含まれる。ナノポア法は、標識不要であり、増幅が必要なく、そして短い核酸断片について選択的である。しかし、最近のナノポアの設定では、一つのサンプルを一度で検出することが可能である。ヒトの血漿サンプルからのmiR−155についての平均記録時間は、約100イベントを収集して約90分であった。従って、高スループットのナノポア法は、進展が必要とされる。これは、合成のナノポアアレイ[Advanced Materials 18, 3149-3153 (2006)]とタンパク質ポア−合成ポアのハイブリッドシステム[Nat. Nanotechnol. 5, 874-877 (2010)]の両方が報告されているので可能である。
【0084】
第3表.調査されるmiRNA及びそれらのプローブの配列
【表3】
【0085】
第4表.miR−155・P155のハイブリッドによって生成されるシグネチャイベントと、miR−155かP155単独の移行によるスパイク状の短いブロックのコンダクタンス
【表4】
【0086】
a:g
0は、占有されていないα溶血素ポアのコンダクタンス。g
0=1MのKCl(pH8.0)中、+100mVで1380pS
【0087】
第5表.様々なプローブで検出されたシグネチャイベントの頻度と発生率
【表5】
【0088】
a:100nMのmiR−155とプローブの存在下での+100mVでの頻度。
b:f
sig≒k
on[miR−155]からの発生率定数、その際、[miR−155]=100nM。
【0089】
第6表.完全マッチのmiRNA・プローブのハイブリッドとミスマッチを有するものについてのシグネチャイベントの時間
【表6】
【0090】
第7表.1つのヌクレオチド差を有するmiRNA(let−7a及びlet−7c)の分離及び2つのヌクレオチド差を有するmiRNA(let−7a及びlet−7b)の分離のためのROC曲線下の面積(AUC)
【表7】
【0091】
a:受信者操作特性(ROC)曲線は、時間の分布全体を陽性成分と陰性成分とに分離する種々の可能性のあるカットオフポイントについての、偽陽性率(1−選択性)に対する真陽性率(感度)のプロットである。miRNA検出において、完全マッチのmiRNA・プローブのハイブリッドについてのイベントを"陽性"と示し、そしてミスマッチのハイブリッドについてのイベントを"陰性"と示した。分離精度は、ROC曲線下の面積(AUC)によって測定した。AUCが1であることは、完璧な分離を表し、0.5の面積は、分離能がないことを表す。AUCは、オンラインでワールドワイドウェブ上の無料ソフトウェアを使用して分析した(インターネットアドレス)rad.jhmi.edu/jeng/javarad/roc/JROCFITi.html。
【0092】
第8表.様々な時間比とイベント数比でのROC曲線下の面積(AUC)及び至適カットオフポイント(OCP)
【表8】
【0093】
a:AUCとOCPの両方とも、
図16A〜Bに示されるROC曲線から計算した。OCPは、Youden指数の最大値でのカットオフ時間である。Youden指数は、{感度+選択性−1}として定義され、ROC曲線から計算され、0と1との間の範囲である。長期分布と短期分布の完全な分離に導くカットオフ時間は、Youden指数=1となり、一方で、完全な重複は、Youden指数=0となる。Youden指数の最大値を生じるカットオフ時間の値、すなわち"至適"カットオフポイント(OCP)(Greiner et al., 2000 Preventive Veterinary Medicine 45, 23-41)は、最も正確な分離をもたらす。
b:τ
P/τ
N:"陽性"のデータセットと"陰性"のデータセットの時間比。各データセットは、200の指数分布した時間値を含んでいた。より長い平均時間を有するデータセットを"陽性"として示し、より短いものを"陰性"として示した。
c:N
P/N
N:"陽性"(N
P)のデータセットにおける、"陰性"のデータセットに対するイベント数比。τ
P/τ
Nは、このシミュレーションでは5であった。
【0094】
第9表.ナノポアセンサによって検出されたヒト血漿サンプル中のmiR−155とスパイクインされたmiR−39のレベル
【表9】
【0095】
a:相対miR−155レベルは、各サンプルのf
155/f
39を、表中で強調表示した0.239である、健全なサンプル1〜6の平均のf
155/f
39に正規化することによって得られた。
【0096】
例3.マイクロRNAのペプチド誘導型の選択的検出
原理的説明.
ここで長期の目的は、血漿又は組織からの全RNA抽出物においてターゲットmiRNAを正確に検出するためのナノポア単一分子センサを開発することである。前記のRNA抽出物は、多くの複雑な核酸成分を含んでおり、少なくともmiRNA(未熟な及び成熟のmiRNAの両方)、mRNA、tRNA、他のRNAを含む。全ての成分は、通常は、負電荷を有する。このように、ターゲットのmiRNAが印加電圧でポア中にトラップされうる場合に、任意の他の成分も駆動されて該ナノポアと相互作用することがあり、それによりターゲットのmiRNA/プローブの複合体によって生じたシグネチャイベントの認識と干渉する非特異的な電流シグナルが発生する。ここで、ターゲットのmiRNA/プローブの複合体だけをポア中にトラップできるが、どの他の核酸成分も前記ポアとの干渉から妨げられるため、従って選択性と感度の両方が大きく改善されたエラー強さのあるストラテジーが提供される。このストラテジーは、miRNAのペプチド誘導型の選択的検出と呼ばれる。
【0097】
方法.
ここで、
図18Aに示されるように、プローブとしてペプチド−PNA(ペプチド核酸)コポリマーを設計した。そのPNA配列(
図18Aで"PNA"で囲われる)は、側鎖のヌクレオベースを有するペプチド骨格であって、ターゲットのmiRNA(
図18A中の"miRNA(Let−7b,−7c)"で囲われる)の全配列又は部分配列と相補的な骨格を有し、こうして溶液中のターゲットのmiRNAを捕捉するための中心ドメインとして役立つ。これらの配列を以下に規定する:
プローブ
NH2-Tyr-Gly-Arg-Lys-Lys-Arg-Arg-Gln-Arg-Arg-Arg-AACCACACAA-COOH、ここで、プローブ全体はペプチド骨格(すなわち、プローブのAACCACACAA部分は、指摘されたAACCACACAAヌクレオベースを有するペプチド骨格を含む)を有する;配列番号17。
【0098】
プローブのPNA(中心ドメイン):
NH2-AACCACACAA-COOH、ここで、該分子は、指摘されたAACCACACAAヌクレオベースを有するペプチド骨格を含む(配列番号18)。
【0099】
HIV−TAT:
Tyr-Gly-Arg-Lys-Lys-Arg-Arg-Gln-Arg-Arg-Arg(配列番号19)。
【0100】
オリゴヌクレオチドプローブと対立して、新たなプローブのリポーター(又は末端伸長部)は、一連の正に荷電したアミノ酸を有するペプチド(
図18A中の"ペプチドリポーター"で囲われる)であり、そして中心ドメインは、ターゲットの核酸と相補的なヌクレオチドを含むペプチド核酸である。プローブのリポーター又は末端伸長部における正に荷電したアミノ酸が十分な数で存在する場合に、miRNA/プローブの複合体の正味の電荷は、依然として正であり、こうしてターゲットのmiRNAがプローブのPNA(ペプチド核酸)ドメインに結合する場合に、miRNA/プローブの複合体全体は、強力な双極子分子を形成する。ここで、ポアのtrans側開口部に負に荷電した残基の環状部を有するナノポアを工学した(S.アウレウス(S. aureus)のα溶血素であってK131D突然変異を含むもの)。野生型のS.アウレウスのα溶血素のペプチド配列(National Center for Bioinformaticsのアクセッション番号:AAA26598.1)は、以下の通りである:
ADSDINIKTGTTDIGSNTTVKTGDLVTYDKENGMHKKVFYSFIDDKNHNKKLLVIRTKGTIAGQYRVYSEEGANKSGLAWPSAFKVQLQLPDNEVAQISDYYPRNSIDTKEYMSTLTYGFNGNVTGDDTGKIGGLIGANVSIGHTLKYVQPDFKTILESPTDKKVGWKVIFNNMVNQNWGPYDRDSWNPVYGNQLFMKTRNGSMKAADNFLDPNKASSLLSSGFSPDFATVITMDRKASKQQTNIDVIYERVRDDYQLHWTSTNWKGTNTKDKWTDRSSERYKIDWEKEEMTN(配列番号21)
【0101】
変異体のS.アウレウスK131Dα溶血素ペプチド配列は、以下の通りである:
ADSDINIKTGTTDIGSNTTVKTGDLVTYDKENGMHKKVFYSFIDDKNHNKKLLVIRTKGTIAGQYRVYSEEGANKSGLAWPSAFKVQLQLPDNEVAQISDYYPRNSIDTKEYMSTLTYGFNGNVTGDDTG
DIGGLIGANVSIGHTLKYVQPDFKTILESPTDKKVGWKVIFNNMVNQNWGPYDRDSWNPVYGNQLFMKTRNGSMKAADNFLDPNKASSLLSSGFSPDFATVITMDRKASKQQTNIDVIYERVRDDYQLHWTSTNWKGTNTKDKWTDRSSERYKIDWEKEEMTN(配列番号22)
【0102】
従って、プローブの双極子の正に荷電したペプチドドメインが両者とも正の電圧(cis側接地)によって押されて、trans側開口部にある負の環状部によって引き寄せられて、ポアのβ−バレル中へのmiRNA/複合体のトラップが導かれる。正の電圧では、任意の他の遊離した核酸成分は、保有する負電荷のためポアに入ることが妨げられる。これは遊離したRNA成分によりシグナルを大きく下げ、最も観察されるイベントは、miRNA/プローブの複合体のトラップによるか、プローブの移行によるものかのいずれかである。ペプチドPNAプローブの使用は、ターゲットのmiRNAの選択的な検出を可能にする。
【0103】
結論.
図18Aは、miRNA/プローブの複合体の図を示している。囲われたmiRNAは、ターゲットのmiRNAであるLet−7bである。囲われたプローブであるP7bは、囲われた"ペプチドリポーター"部と、囲われた"PNA"(ペプチド核酸)部を有する。PNAは、Let−7bの捕捉のためであり、囲われた"ペプチドリポーター"は、HIV−TATの配列に相当する正に荷電した、アルギニン及びリシンを原因とする+8eを有するペプチドである。
図18Bは、ペプチド−PNAプローブのP7bの移行についてのイベントを示している。特徴的なイベントは3msにわたって継続し、そして電圧は、+180mVで10pAにまで下がる。
図18Cは、+180mVでの溶液において、遊離したmiRNA let−7b(プローブなし)では遮断イベントが観察できないことを示している。
【0104】
図18Dは、let−7b/P7bの複合体のトラッピングについてのシグネチャイベントを示している。これらのイベントは、特徴的に100msにわたって継続し、そして電流を、プローブに関するものとは完全に異なる+180mVで57pAにまで下がる。
図18Eは、Let−7bからの2種の異なるヌクレオチドを有するLet−7cが、プローブのP7bのPNAに結合でき
ず、従って
図18Dに示されるようにシグネチャイベントを生じないことを示している。殆ど全ての観察されたイベントは、プローブそれ自身によるものである。
【0105】
図18Fは、Let−7b(完全マッチ、重なりのない2つの離れたクラスター)及びLet−7c(2つのミスマッチ、完全に重なった2つのクラスター)に結合するP7bについての時間−振幅の特性を比較している。このことは、2つの異なるヌクレオチドを有する配列の類似したmiRNAを識別するにあたりほとんど100%の精度を示している。
【0106】
バイオセンシング用途のためのナノポアにおける様々な分子プロセスを理解するためのシグネチャイベントの利用も提供される。
図19Aにおいて、ここで、短鎖の3′末端にヘアピンを有するHP−C30を使用した場合に、新しいタイプの3つのレベルの電流パターンが確認された。そのレベル1とレベル2は、HP−C30のアンジッピングと、アンジッピングされた短鎖のナノ間隙からβ−バレルへの移行と一致している。しかしながら、レベル1′の時間は、ヘアピンを有さないターゲットと比較して、15±1.9msへと80倍だけ劇的に延長された。延長されたレベル1′は、β−バレルにおける通過(threading)の前にヘアピンのアンジッピングと一致している。アプタマーなどの多くのDNA又はRNA構造はヘアピンを含むので、ここでこのシステム及びシグネチャイベントは、これらの構造を調べるために、そしてそれらのタンパク質ターゲットとの結合相互作用を調べるために使用することができる。
図19Bにおいて、ここでまた、短鎖の3′末端にストレプトアビジンと結合されたSA−C30を使用した場合に、新しい多重レベルの電流パターンが裏付けられた。再び、完全に遮断されたレベル1と部分的に遮断されたレベル2は、SA−C30のアンジッピングと、アンジッピングされた短鎖のナノ間隙からβ−バレルへの移行と一致している。その電流は、負電圧によって強制的に回復されるまで数分にわたってレベル1′に留まった。長期のレベル1′は、SA−C30の短鎖がアンジッピング後にβ−バレル中に動くものの、その移行は結合された大きなストレプトアビジンによって抑えられることによって説明できる。この結果は、タンパク質検出のためにシグネチャイベントを使用する可能性を示している。
図19Cにおいて、ここで、前記複合体は、2つのDNAの結合に短いオリゴヌクレオチドを使用した場合に、ナノポア中で2つのステップにおいて逐次アンジッピングされうることが裏付けられた。2つのDNAのアンジッピングは、2つのレベル2状態によって明らかに表すことができる。
【0107】
結論.
ペプチド−PNAプローブは、1)ターゲットのmiRNAの選択的な検出、2)配列が類似したmiRNAの識別における大きく向上した精度を可能にする。
【0108】
本発明は、その特定の実施形態と関連づけて説明されているが、本発明によるデバイスには更なる変更が可能であると解される。本件特許出願は、発明のいかなる変更、使用もしくは適合も、一般に本発明の原理に従って、そして本発明の属する技術分野内で公知の又は通常の慣行に含まれかつ本願で先に示した及び以下の特許請求の範囲における必須の特徴に当てはまりうる本願開示からの逸脱を含めて対象に含めることを意図している。
【0109】
参考資料
【0110】
【0111】
【0112】