(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016818
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】鋳塊の電磁鋳造用の底部開放型の導電性冷却式るつぼ
(51)【国際特許分類】
B22D 11/041 20060101AFI20161013BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
B22D11/041 D
C01B33/02 E
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-558053(P2013-558053)
(86)(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公表番号】特表2014-510641(P2014-510641A)
(43)【公表日】2014年5月1日
(86)【国際出願番号】US2012028064
(87)【国際公開番号】WO2012125367
(87)【国際公開日】20120920
【審査請求日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】61/452,408
(32)【優先日】2011年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592041683
【氏名又は名称】コンサーク コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】CONSARC CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】グラハム・エイ・キオー
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−188632(JP,A)
【文献】
特開平10−094861(JP,A)
【文献】
特開2010−017749(JP,A)
【文献】
特開2008−194700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/01,11/04−11/059,
11/11,27/02,
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳塊の電磁鋳造用の底部開放型の導電性冷却式るつぼであって、
装填物をその内部に送給して前記装填物を加熱及び溶解させ、引き続き、るつぼの開放底部位置に鋳塊を形成させるるつぼ容積部にして、導電性の、水冷される長穴セグメント化壁から形成され、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁が、前記るつぼの開放底部位置に、導電性の、水平な無長穴連続外周壁部分を有するるつぼ容積部と、
前記るつぼ容積部の高さの一部分を包囲する少なくとも1つの誘導コイルにして、前記少なくとも1つの誘導コイルを通して交流が流れると前記るつぼ容積部内の装填物を誘導加熱及び溶融させる誘導コイルと、
を含み、
前記るつぼの底部領域の、前記水平な無長穴連続外周壁に隣り合う領域で、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の外側周囲に、前記導電性の、水平な無長穴連続外周壁部分に誘起された循環電流が前記るつぼの開放底部位置に形成された鋳塊を加熱することに起因するランアウト発生を防止する導電性の底部磁気遮蔽体を配置したことを特徴とする、鋳塊の電磁鋳造用の底部開放型の導電性冷却式るつぼ。
【請求項2】
前記底部磁気遮蔽体が、銅製の平坦な矩形環状体を含む請求項1に記載する鋳塊の電磁鋳造用の底部開放型の導電性冷却式るつぼ。
【請求項3】
前記底部磁気遮蔽体が水冷される請求項1又は2に記載する鋳塊の電磁鋳造用の底部開放型の導電性冷却式るつぼ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの誘導コイルが、前記るつぼ容積部の高さ部分に相互に隣り合って配置された上方及び下方の各誘導コイルを含み、前記上方及び下方の各誘導コイルが内側コイル磁気遮蔽体により互いに分離される請求項1〜3の何れかに記載する鋳塊の電磁鋳造用の底部開放型の導電性冷却式るつぼ。
【請求項5】
底部開放型の冷却式るつぼ内で鋳塊を電磁鋳造する方法であって、
導電性の、水冷される長穴セグメント化壁から構成したるつぼ容積部にして、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁が、るつぼの開放底部位置に導電性の、水平な無長穴連続外周壁を有するるつぼ容積部に鋳塊用装填材料を供給するステップ、
前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の高さの外側の一部分の周囲に少なくとも1つの磁束場を発生させ、前記磁束場がるつぼ容積部に貫入することによりるつぼ容積部内の鋳塊用装填材料を誘導加熱及び溶融させ、かくしてるつぼ容積部内に鋳塊用装填材料の溶融塊を形成させるステップ、
鋳塊用装填材料の溶融塊をるつぼ容積部内で少なくとも部分的に固化させてるつぼの開放底部位置に鋳塊を形成するステップ、
前記導電性の、水冷される、水平な無長穴連続外周壁領域に隣り合う、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の内側への少なくとも1つの前記磁束場の貫入を抑止することにより、前記導電性の、水平な無長穴連続外周壁部分に誘起された循環電流が前記るつぼの開放底部位置に形成された鋳塊を加熱することに起因するランアウト発生を防止するステップ、を含む方法。
【請求項6】
前記導電性の、水冷される、水平な無長穴連続外周壁領域に隣り合う、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の内側への少なくとも1つの前記磁束場の貫入を抑止するステップが、前記るつぼの底部領域の、前記無長穴連続外周壁領域に隣り合う領域で、前記水冷される長穴セグメント化壁の外側周囲に銅製の平坦な矩形環状体を位置決めするステップを更に含む請求項5に記載する方法。
【請求項7】
前記銅製の平坦な矩形環状体を冷却するステップを更に含む請求項6に記載する方法。
【請求項8】
前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の高さの外側の一部分の周囲に少なくとも1つの磁束場を発生させるステップが、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の外側部分を包囲する上方及び下方の各誘導コイルの各々に交流電流を流すことにより第1及び第2の各磁束場を発生させるステップを更に含み、前記上方及び下方の各誘導コイルが相互に隣り合って配置され且つ内側コイル磁気遮蔽体により相互に分離される請求項5に記載する方法。
【請求項9】
底部開放型の冷却式るつぼを、シール自在の炉容器で包囲するステップを更に含む請求項5〜8の何れかに記載する方法。
【請求項10】
前記導電性の、水冷される、水平な無長穴連続外周壁領域に隣り合う、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の内側への少なくとも1つの前記磁束場の貫入を抑止するステップが、前記るつぼの底部領域の、前記無長穴連続外周壁領域に隣り合う領域で、前記水冷される長穴セグメント化壁の外側周囲に銅製の平坦な矩形環状体を位置決めするステップを更に含む請求項8に記載する方法。
【請求項11】
前記銅製の平坦な矩形環状体を冷却するステップを更に含む請求項10に記載する方法。
【請求項12】
底部開放型の冷却式るつぼ内でシリコン鋳塊を電磁鋳造する方法であって、
導電性の、水冷される長穴セグメント化壁から構成したるつぼ容積部にして、るつぼの開放底部位置に導電性の、水平な無長穴連続外周壁領域を有するるつぼ容積部にシリコン材料を供給するステップ、
前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の高さの外側の一部分の周囲に少なくとも1つの磁束場を発生させ、前記磁束場がるつぼ容積部に貫入することによりるつぼ容積部内のシリコン材料を誘導加熱及び溶融させ、かくしてるつぼ容積部内に溶融シリコン材料を形成させるステップ、
溶融シリコン材料をるつぼ容積部内で少なくとも部分的に固化させてるつぼの開放底部位置でシリコン鋳塊とするステップ、
前記導電性の、水冷される、水平な無長穴連続外周壁領域に隣り合う、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の内側への少なくとも1つの前記磁束場の貫入を抑止することにより、前記導電性の、水平な無長穴連続外周壁部分に誘起された循環電流が前記るつぼの開放底部位置に形成された鋳塊を加熱することに起因するランアウト発生を防止するステップ、
を含む方法。
【請求項13】
前記導電性の、水冷される、水平な無長穴連続外周壁領域に隣り合う、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の内側への少なくとも1つの前記磁束場の貫入を抑止するステップが、前記るつぼの底部領域の、前記無長穴連続外周壁領域に隣り合う領域で、前記水冷される長穴セグメント化壁の外側周囲に銅製の平坦な矩形環状体を位置決めするステップを更に含む請求項12に記載する方法。
【請求項14】
前記銅製の平坦な矩形環状体を冷却するステップを更に含む請求項13に記載する方法。
【請求項15】
前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の高さの外側の一部分の周囲に少なくとも1つの磁束場を発生させるステップが、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の外側部分を包囲する上方及び下方の各誘導コイルの各々に交流電流を流すことにより第1及び第2の各磁束場を発生させるステップを更に含み、前記上方及び下方の各誘導コイルが相互に隣り合って配置され且つ内側コイル磁気遮蔽体により相互に分離される請求項12〜14の何れかに記載する方法。
【請求項16】
底部開放型の冷却式るつぼを、シール自在の炉容器で包囲するステップを更に含む請求項12〜15の何れかに記載する方法。
【請求項17】
前記導電性の、水冷される、水平な無長穴連続外周壁領域に隣り合う、前記導電性の、水冷される長穴セグメント化壁の内側への少なくとも1つの前記磁束場の貫入を抑止するステップが、前記るつぼの底部領域の、前記無長穴連続外周壁領域に隣り合う領域で、前記水冷される長穴セグメント化壁の外側周囲に銅製の平坦な矩形環状体を位置決めするステップを更に含む請求項15又は16に記載する方法。
【請求項18】
前記銅製の平坦な矩形環状体を冷却するステップを更に含む請求項17に記載する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は2011年3月14日付で提出され、本明細書での引用によりその全体が本明細書に含まれるものとする米国仮特許出願第61/452,408号の利益を主張するものである。本発明は、鋳造過程で底部開放型の導電性冷却式るつぼを用いる鋳塊の電磁鋳造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳塊は底部開放型の導電性冷却式るつぼ内に堆積させた装填材を加熱及び溶融させることで鋳造され得る。例えば、原鉱あるいは加工鉱形態の装填材料は、るつぼ内に送給され、このるつぼ内で材料の溶融塊の固化物の一部としての溶融塊(溶融物)状態に維持され得、形成された鋳塊としてるつぼの底部開口から排出される。材料は電磁鋳造法のために少なくとも溶融(液体)状において導電性を有するべきである。装填材料は溶融及び加熱されることでその不純物が、例えば、溶融物から蒸発する、あるいは溶融物を貫いて上昇してるつぼ内の溶融物の表面に湯垢として浮き出ることで浄化され得る。
【0003】
上述した如く、固体状の材料は必ずしも導電性を有する必要性は無い。例えばケイ素の電磁鋳造法では、導電性ケイ素の溶融塊がるつぼ内に形成された後、室温の非導電性の固形ケイ素材料がるつぼ上部に装填され得る。“Method and Apparatus for Casting Conductive and Semiconductive Materials”と題する米国特許第4,572,812号には基本的な連続ケイ素電磁鋳造法が記載され、その全てはここでの参照により本明細書の一部とする。
【0004】
前記米国特許第4,572,812号(以下、“812特許”とも称する)には、底部開放型の導電性冷却式るつぼの長孔付き外壁(複数の縦方向部材から形成される)を取り巻く、その端子を高周波(RF)電源に接続した単一の誘導加熱コイルを用いる電磁鋳造法が開示される。
【0005】
底部開放型の導電性冷却式るつぼは、加熱、溶融及びまたは固化の各過程が真空あるいはプロセスガス環境下に達成されるよう、包囲チャンバ内に組み込まれ得る。その他の好適な冷却装置では、るつぼを出る鋳塊との熱的相互作用により、周囲温度になるまでの鋳塊の経時冷却率が制御される。
【0006】
他の電磁鋳造法では、るつぼの外側高さの一部の周囲において、積層(隣り合わせ)構成とした2つまたは2つ超の誘導コイルが利用され得る。底部開放型の導電性冷却式るつぼ100は、例えば、
図1(a)、
図1(b)、
図1(c)に示される如く、縦方向長孔114(図で実線で示す如き)で相互分離する複数の縦方向部材112から形成される長孔付きの壁を含み、るつぼの外側高さ部分の一部の周囲を2つの別個の誘導コイル116a及び116bが包囲する。長孔で分離された各縦方向部材は本例では銅等の好適材料から形成され、るつぼの上部及び底部の各位置で連結され得る。各縦方向部材は大抵の場合るつぼ上部位置で連結され、各縦方向部材と水冷回路との間の連結を提供する場合がある。るつぼ上部の前記連結位置は通常は溶融物からかなり遠いため、るつぼ内装填材料への誘導結合に対する物質的悪影響は生じない。他方、るつぼ底部はもっと小型のるつぼでは大抵の場合連結されないが、ずっと大型のるつぼの場合はより一般的に使用され、連結部は各縦方向部材の底部に対する支持を提供する。電磁鋳造法ではるつぼの各長孔は、少なくとも、るつぼ内の溶融物の誘導加熱を支援し且つ鋳塊を、それが固化境界部120(
図1(c)に略示される如き)に形成された後にるつぼ底部を出るまでの漸次冷却を容易化するに十分な長さを有する。前記縦方向部材間の各長孔がるつぼ底部
114aまで伸延せず、従って銅製(本例では)の(水平)連結部材117が底部に形成される場合、誘導コイル116b内の交流流れで生じる電磁場により、るつぼを出る際の負荷(鋳塊)に極めて近い位置に循環電流が誘起される傾向のあることが分かった。
【0007】
前記循環電流の近さ故に、前記鋳塊は臨界位置、即ち、るつぼを出る際にその常固化縁部の外縁に至る液状ケイ素通路が出現して湯漏れの危険性を高め得るところの臨界位置で発熱する。かくして液状ケイ素は非制御状態下に炉包囲体の底部に流入し、補助ヒーター、緩衝装置、機械部品を損傷させる。各コイルは、異なる周波数で作動する別個の交流(AC)電源に接続され得る。例えば、コイル116aはコイル116bのそれより少ない周波数で作動され得る。各コイルにおける交流流れが磁束場を確立し、前記磁束場はるつぼの各長孔(電気絶縁物質を充填した)を貫き、るつぼ内に配置された導電性材料を電磁的に加熱及び溶融させる。全ての導電性冷却式るつぼと同様、るつぼ壁を構成する複数の縦方向部材112は冷却(代表的には内部循環水により)され、かくして溶融塊はこの壁に接触すると凝固する。これにより壁材料による溶融塊汚染が防止される。溶融塊の上方部分は、誘導コイルにより生じる磁場と、溶融物における誘導電流との相互作用で発生するローレンツ力により少なくとも部分的に支持され、かくして前記壁と溶融物の液体との間には低接触圧領域が形成され、あるいはそれらは分離しさえする。
【0008】
異なる周波数で多数の誘導コイルを作動させる利点は、各コイルを横断する端子電圧が低下する一方、るつぼ内材料への誘導エネルギー移行水準は尚、高水準となることである。これは、シリコン電磁鋳造法の幾つかにおける如く、溶融材料の酸化を防止する酸化防止用被覆剤をるつぼ内で使用する場合に特に有益である。端子電圧が低い場合、上述した分離領域における溶融物と壁との間に発生する、るつぼを構成する縦方向部材の局部的溶融やそれら縦方向部材からるつぼ内の溶融材料への不純物移行を生じさせ得る放電現象が緩和される。各コイルを横断する端子電圧が高いほど放電リスクは大きくなる。この点は、るつぼの内側断面積が、るつぼ内の溶融物に十分な誘導エネルギーを送るための高コイル端子電圧を必要とする程十分大きい場合に最も重要である。一般に、るつぼの内側断面積が略180平方インチ(約1.16cm
2)を超える場合、異なる周波数で作動する多数のコイルを使用する場合は、コイルの端子電圧が少なくとも600ボルトとなる一方で、600ボルトあるいはそれ以上の端子電圧下に作動するコイルを使用した場合におけると同等の誘導エネルギーが溶融物に移行され、かくして上述した如き放電による溶融塊汚染問題が回避される利益がある。
【0009】
底部開放型の導電性冷却式るつぼは、その高さ部分が、下方の誘導コイル116bの下端よりも下方に距離h
1伸延する。一般にるつぼの壁を構成する縦方向部材112は、るつぼの開放底部に向けて外側に傾斜(テーパ付け)され、形成された鋳塊の移動を容易化する。
図1(a)に示す2コイル構成では、前記外側方向への傾斜は上方及び下方の各誘導コイルの隣り合う端子間から開始され得、かくしてテーパ距離h
2が確立される。
【0010】
ある電磁鋳造法では、内側コイル磁気遮蔽体118をコイル116a及び116bの隣り合う端部間に位置付けることで、それら2つのコイル各々の電流により確立される磁束場同士の相互連結(及び相互干渉)を防止させ得る。発生する磁束の代表的パターンが
図1(a)に点線で表される。磁束場116a’は上方の誘導コイル116aを通過する交流により確立され、磁束場116b’は下方の誘導コイル116bを通過する交流により確立される。磁束場116b’はるつぼの底部開口の下方に伸延する。この構成上、形成され、るつぼの底部から出る鋳塊の外周部には異常部が生じる。るつぼの銅製の底部連結部材(水平)117を包囲する電磁場の一部が循環電流を誘起させ、この循環電流が、個体シリコンは比較的高温下でも尚、部分的に導電性を有するという事実に基づき、負荷の表面を局部的に加熱する。これにより、固化温度勾配が部分的に変化して負荷の内部応力が増大し、更にはランアウト(プロセスを停止させ且つ設備を損傷させ得る)の恐れが高まり得る。
【0011】
図1(d)にはるつぼ底部付近の熱的異常部が断面図で示される。図中、点線はシリコン鋳塊鋳造時の代表的な各温度範囲(輪郭)を表す。表示した数値範囲、例えば、“20−19 キロワット(kW)/立方メートル(m
3)”は、シリコン鋳塊鋳造時における代表的な断面部分における、1m
3当たりの(容積)抵抗損範囲が20〜19キロワットであることを表す。ある領域内での抵抗損の大きさはその領域における温度を象徴する。局部的加熱によるシリコン鋳塊が受ける悪影響は斜線で示す各異常部分範囲で強調表示され、底部連結部材(水平)117に隣り合う斜線部範囲が加熱の影響(抵抗損)の比較的強い部分であり、その周囲の網目線部範囲は加熱の影響がもっと小さい部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国仮特許出願第61/452,408号
【特許文献2】米国特許第4,572,812号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
鋳塊の電磁鋳造炉用の底部開放型の導電性冷却式るつぼの銅製の底部連結部材(水平)部分における磁束が延長されることによって前記るつぼの底部開口周囲に発生する異常部を排除することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1様相によれば、鋳塊の電磁鋳造炉用の底部開放型の導電性冷却式るつぼ内の材料を誘導加熱及び溶融する装置及び方法が提供される。底部開放型の導電性冷却式るつぼは、壁の長穴、るつぼ底部の銅製の連結部材(水平)、るつぼの開放底部、の各下端部付近に底部磁気遮蔽体を含む。
本発明の他の様相によれば、電磁鋳造用の底部開放型の導電性冷却式るつぼが提供される。るつぼは誘導加熱及び溶融する装填物をその内部に供給し得るるつぼ容積部を有する。溶融物はるつぼ容積部内で少なくとも部分的に固化して鋳塊となり、るつぼの開放底部から排出される。るつぼ容積部は、導電性の、水冷され且つ長穴でセグメント化された壁(以下、長穴セグメント化壁と称する)により形成される。長穴セグメント化壁はるつぼの開放底部位置で長穴のない連続する外周壁(以下、無長穴連続外周壁と称する)に接続し、るつぼ容積部の外側高さの一部分を包囲する1つまたは1つ超の誘導コイルが、るつぼ容積部内の装填物を誘導加熱及び溶融させる。るつぼ底部の、前記導電性の無長穴連続外周壁に隣り合う部分の、長穴セグメント化壁の外周部の周囲には導電性の底部磁気遮蔽体が配置される。
【0015】
本発明の他の様相によれば、底部開放型の導電性冷却式るつぼ内で鋳塊を鋳造する電磁鋳造法が提供される。前記方法において、導電性の、水冷される長穴セグメント化壁から構成したるつぼ容積部にして、るつぼの開放底部位置に導電性の無長穴連続外周壁を有するるつぼ容積部に鋳塊用装填材料を供給し、長穴セグメント化壁の高さの外側の一部分の周囲に磁束場を発生させ、前記磁束場をるつぼ容積部に貫入させることによりるつぼ容積部内の鋳塊用装填材料を誘導加熱及び溶融させ、かくしてるつぼ容積部内に鋳塊用装填材料の溶融塊を形成させ、鋳塊用装填材料の溶融塊をるつぼ容積部内で少なくとも部分的に固化させてるつぼの開放底部位置で鋳塊とし、前記無長穴外周壁領域に隣り合う、長穴セグメント化壁の内側への前記磁束場の貫入が抑止される。
本発明のその他様相は本明細書及び付随する請求の範囲に記載の通りである。
【発明の効果】
【0016】
鋳塊の電磁鋳造炉用の底部開放型の導電性冷却式るつぼの、銅製の底部連結部材(水平)部分の磁束が延長することにより前記るつぼの底部開口周囲に発生する異常部が排除された関連装置及び方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1(a)】
図1(a)は、電磁鋳造法で使用し得る、底部開放型の導電性冷却式るつぼの縦方向略断面図である。
【
図1(b)】
図1(b)は、形成後にるつぼ底部を出る鋳塊を表す、
図1(a)に略示した底部開放型の導電性冷却式るつぼの縦方向略断面図である。
【
図1(c)】
図1(c)は、電磁鋳造中におけるるつぼ内の溶融塊及び固化塊の一例を表す、
図1(b)に略示した底部開放型の導電性冷却式るつぼの縦方向略断面図である。
【
図1(d)】
図1(d)は、底部開放型の導電性冷却式るつぼの周囲方向に沿って水平な底部連結部材を有する底部開口の下方に磁束が延長することにより、
図1(a)に示するつぼの開放底部位置に発生する異常部の詳細を示す部分断面図である。
【
図2】
図2は、電磁鋳造法で使用するための、本発明の底部開放型の導電性冷却式るつぼの1実施例における略斜視図である。
【
図3】
図3は、形成後にるつぼ底部を出る鋳塊を表す、
図2に示す底部開放型の導電性冷却式るつぼの縦方向略断面図である。
【
図4】
図4は、各誘導コイルにAC電力を給電した場合の代表的な磁束場パターンを表す、
図2に示す底部開放型の導電性冷却式るつぼの縦方向略断面図である。
【
図5(a)】
図5(a)は、本発明の1例において使用可能な底部磁気遮蔽体の1例の平面図及び側面図である。
【
図5(b)】
図5(b)は、本発明の1例において使用可能な底部磁気遮蔽体の1例の平面図及び側面図である。
【
図6】
図6は、
図1(d)に示す異常部を排除する底部磁気遮蔽体を含む本発明の底部開放型の導電性冷却式るつぼの部分断面詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、“導電性材料”とは、固形状態では必ずしも導電性を有する必要はないが、溶融状態では導電性である、諸純度の配合物をベースとするシリコン等の材料を含むものとする。
図2〜
図4には、電磁鋳造法で使用するための本発明の底部開放型の導電性冷却式るつぼ10の1例が示される。各図に示す特定例では2コイル構成が使用される。
【0019】
本発明の1実施例において、底部開放型の導電性冷却式るつぼは37+1/8インチ(約94.3cm)の全高h
3を有し、上方側長L
1が13+3/4インチ(約36.4cm)、傾斜した底部側長L
2が14インチ(約35.6cm)、
図3に示す如く、内側コイル磁気遮蔽体18位置から開始されてるつぼ底部へと傾斜状態で伸延する高さh
2が13+1/2インチ(約34.3cm)の四角形状の内側容積を形成するよう構成した60個の水冷式の縦方向部材12(長穴付き壁セグメント)を含む。電気絶縁された長穴14は全高h
4が26+3/4インチ(約67.9cm)であり、各長穴の底部は、
図3に示す如く、るつぼの底部から1インチ(約2.54cm)の距離h
5の位置で終端する。各長穴の底部
14aは底部連結部材17の位置で終端する。長穴セグメント化壁と底部連結部材とは好適な導電性材料から形成される。
【0020】
本発明の前記実施例では底部磁気遮蔽体20は、
図5(a)および
図5(b)に示すが如く、側長L
3が16+3/4インチ(約42.5cm)、環状幅L
4が6インチ(約15cm)、厚さL
5が1/4インチ(約0.63cm)の、銅製の平坦な矩形環状体を含む。底部磁気遮蔽体はるつぼの底部から2+1/2インチ(約6.27cm)の高さh
6の位置で組み付けられ、かくして、底部連結部材を有する長穴の底部終端から約1+1/2インチ(約3.8cm)の距離上方に位置決めされる。つまり矩形環状体は、るつぼ底部の、底部連結部材に隣り合う領域における長穴セグメント化壁にして、導電性で且つ無長穴連続外周壁とも称し得る壁の外側周囲に配置される。
【0021】
上述した底部磁気遮蔽体は好適な磁気遮蔽体の一例である。本発明では底部磁気遮蔽体は誘導電流をるつぼ外の場所に伝導させる任意構成において形成され得、かくして銅製の底部連結部材(水平)が誘導磁界を受けず、負荷直近部に電流が伝送されないため、そうでない場合には発生する熱的悪影響が緩和される。底部磁気遮蔽体は、導電性の、無長穴連続外周壁領域(底部連結部材17)に隣り合う長穴付き壁への磁束場
16b’の貫入を抑止する。底部磁気遮蔽体は、例えば、この底部磁気遮蔽体に取り付けたまたは内部の通路にして、冷却用媒体循環装置への接続用の好適な送給端部22a及び戻り端部22bを有する導管22等の通路を通して冷却用媒体を循環させることで冷却され得る。
【0022】
本発明のるつぼ10の1用途は、不活性雰囲気下に運転される、随意的な、シール可能な電磁鋳造炉内にるつぼを組み込むシリコン電磁鋳造法である。誘導コイル16a及び16bがるつぼ容積部の外側周囲に組み付けられ、各コイル間の、シールされた炉容器の内部に内側コイル磁気遮蔽体18が位置決めされ、前記2つの各コイルはるつぼの高さの一部分の周囲で積層(隣り合う)状態下に配列される。シールされた容器内のるつぼの開放上部内に固形シリコン装填物を送給させ得る好適な装填物送給装置を使用できる。非導電性の固形装填物は先ず、斯界に既知の如き補助加熱装置及び方法により、るつぼ内に十分な導電性の溶融シリコンが形成されるまで加熱及び溶融され得、かくして溶融物は各誘導コイルを流れる交流により更に誘導加熱され、るつぼを出る鋳塊90が成長して伸びるに従い、溶融物に固形装填物が追加供給され得る。るつぼの底部出口位置(シールした炉容器の内部あるいは外部の何れか)の温度制御装置を利用して、鋳塊の固化進行時の温度を制御し得る。鋳塊90はるつぼ及びシールされた炉容器から抜き出される際は鋳塊支持部材30上に支持される。鋳塊支持部材30はグラファイトから形成され得、炉内での固形シリコン装填物の初期加熱及び溶融における加熱要素として使用され得る。鋳塊支持部材30の底部には、るつぼ底部からの鋳塊の垂直落下速度を制御する垂直引き込み装置32が装着される。
【0023】
るつぼ内の、初期状態で固形のシリコン装填物を補助加熱装置により溶融させた後、上方誘導コイル16aの各端子間を横断する電圧を印加して当該コイルによる15kHz時の誘導電力出力を約750kWまで引き上げることで、溶融物に誘導エネルギーを提供させ得る。引き続き、あるいは前記電圧印加との組み合わせにおいて、下方誘導コイル16bの各端子間を横断する電圧を印加して当該コイルによる35kHz時の誘導電力出力を約300kWまで引き上げることで、更なる誘導エネルギーを溶融物に提供させ得る。上方誘導コイル16aの端子への印加電圧を最大約600ボルト、下方誘導コイル16bの端子への印加電圧を最大約600ボルトとした場合に上述した誘導エネルギー出力が達成されるため、先に説明した溶融物汚染問題を回避するために前記各端子電圧は約600ボルト未満に限定される。
【0024】
図6には、本発明の代表的利益が、るつぼの底部付近の部分断面熱流れ図において示される。
図6の、るつぼ外部に底部磁気遮蔽体20を本発明における如く配置した場合、底部磁気遮蔽体を用いない
図1(d)と比較して、各コイルに、例えば
図1(d)におけるそれと同一電流を流した場合に底部連結部材(水平)17が誘導磁界の影響から遮断され、本発明における底部磁気遮蔽体の使用によって熱の悪影響が緩和されることが各点線輪郭部で示される。
【0025】
本発明の上述のシリコン電磁鋳造法は、鋳塊形成用の鋳塊形成材溶融物となる鋳塊用装填材料を好適に選択することでシリコン以外の材料を使用できる。
本発明の前記各実施例では2コイル式の底部開放型の導電性冷却式るつぼを例示したが、底部磁気遮蔽体を、最下部のコイル、各長
穴14
aの下端部、及び、2コイル構成に関して先に説明した如き底部開口に対して位置付けることで、本発明をるつぼの外側を包囲する単一コイルあるいは2つ以上の複数のコイルを用いるるつぼに適用可能である。
本発明の底部開放型の導電性冷却式るつぼの前記各実施例を、四角形断面を有する内側容積を有するるつぼを例示したが、本発明は円形断面の内側容積等を有するその他構成のるつぼに対して適用し得る。
ここで、“連続的な電磁鋳造法”とは、例えば、所望高さに製造された鋳塊がるつぼ底部を出た後に鋳造工程が停止され、かくして、鋳造法が継続されて次の鋳塊が製造される以前に、製造された鋳塊が配置換えされる間欠的電磁鋳造法を含むものとする。
以上、本発明を実施例を参照して説明したが、本発明の内で種々の変更をなし得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0026】
112 縦方向部材
114 長穴
116a 上方誘導コイル
116b 下方誘導コイル
117 底部連結部材
118 内側コイル磁気遮蔽体
20 底部磁気遮蔽体
22a 送給端部
22b 戻り端部
30 鋳塊支持部材
32 装置
90 鋳塊