(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016829
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】配管の応力解析方法、及び、応力解析装置
(51)【国際特許分類】
G01L 1/00 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
G01L1/00 M
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-35014(P2014-35014)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-161510(P2015-161510A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】首藤 紳伍
(72)【発明者】
【氏名】時吉 巧
(72)【発明者】
【氏名】姫野 太充
(72)【発明者】
【氏名】大山 博之
【審査官】
公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−064572(JP,A)
【文献】
特開2012−107896(JP,A)
【文献】
特開2002−032419(JP,A)
【文献】
特開2010−185786(JP,A)
【文献】
特開2013−180740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00
G01N 25/16
G01M 5/00
G06F 17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱媒体が流れる配管の応力解析方法であって、
前記配管の設計情報に基づいて解析条件を設定する解析条件設定工程と、
前記配管の冷態時における外観形状を測定する第1の測定工程と、
前記配管の外観形状について、前記解析条件から得られる設計値と前記第1の測定工程で得られる実測値との差が第1の閾値以内になるように、前記解析条件を最適化する最適化工程と、
前記最適化された解析条件に基づいて応力解析を実施する解析工程と
を備えることを特徴とする配管の応力解析方法。
【請求項2】
前記解析条件は、前記外観形状に関する外観形状パラメータと、前記配管のその他の特徴に関する非外観形状パラメータとを含み、
前記設計値は前記外観形状パラメータに基づいて得られ、
前記最適化工程は、前記非外観形状パラメータの変化率が、前記解析条件から得られる初期値から所定範囲内になるように、前記解析条件を最適化することを特徴とする請求項1に記載の配管の応力解析方法。
【請求項3】
前記配管は、少なくとも1つの拘束支持部材によって支持されており、
前記外観形状パラメータは、少なくとも前記拘束支持部材による支持態様に関する情報を含むことを特徴とする請求項2に記載の配管の応力解析方法。
【請求項4】
前記配管の稼動時における外観形状を測定する第2の測定工程と、
前記最適化された解析条件に基づいて、前記配管の稼動時における外観形状を推定する推定工程と
を更に備え、
前記最適化工程は、前記配管の外観形状について、前記第2の測定工程で得られる実測値と前記推定工程で得られる推定値との差が第2の閾値以内になるように、前記解析条件を最適化することを特徴とする請求項1に記載の配管の応力解析方法。
【請求項5】
前記配管の応力分布に関する目的関数を設定する目的関数設定工程と、
前記解析工程の解析結果が前記目的関数になるように前記解析条件を算出する解析条件算出工程と
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の配管の応力解析方法。
【請求項6】
加熱媒体が流れる配管の応力解析装置であって、
前記配管の外観形状を測定する測定部と、
前記配管の設計情報に基づいて解析条件を設定する解析条件設定部と、
前記解析条件を最適化する最適化部と、
前記最適化された解析条件に基づいて、前記配管の応力解析を実施する解析部と
を備え、
前記測定部は、前記配管の冷態時における外観形状を測定し、
前記最適化部は、前記配管の外観形状について、前記解析条件から得られる設計値と前記測定部で得られた冷態時における実測値との差が第1の閾値以内になるように、前記解析条件を最適化することを特徴とする配管の応力解析装置。
【請求項7】
前記解析条件は、前記外観形状に関する外観形状パラメータと、前記配管のその他の特徴に関する非外観形状パラメータとを含み、
前記設計値は前記外観形状パラメータに基づいて得られ、
前記最適化部は、前記非外観形状パラメータの変化率が、前記解析条件から得られる初期値から所定範囲内になるように、前記解析条件を最適化することを特徴とする請求項6に記載の配管の応力解析装置。
【請求項8】
前記配管は、少なくとも1つの拘束支持部材によって支持されており、
前記外観形状パラメータは、少なくとも前記拘束支持部材による支持態様に関する情報を含むことを特徴とする請求項7に記載の配管の応力解析装置。
【請求項9】
前記最適化された解析条件に基づいて、前記配管の稼動時における外観形状を推定する推定部を更に備え、
前記測定部は、前記配管の稼動時における外観形状を測定し、
前記最適化部は、前記配管の外観形状について、前記推定部で得られる推定値と前記測定部で得られる稼動時における実測値との差が第2の閾値以内になるように、前記解析条件を最適化することを特徴とする請求項6に記載の配管の応力解析装置。
【請求項10】
前記配管の応力分布に関する目的関数を設定する目的関数設定部と、
前記解析部の解析結果が前記目的関数になるように前記解析条件を算出する解析条件算出部と
を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の配管の応力解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高温蒸気などの加熱媒体が流れる配管の応力解析方法、及び、該方法を実施するための応力解析装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントや原子力発電プラントでは、加熱媒体である蒸気を生成するボイラと、該蒸気の供給先であるタービンとが、高温配管によって接続されている。この種の配管はクリープ損傷を含む種々の要因によって亀裂などの欠陥が生じるため、定期的に検査を実施し、その結果に応じたメンテナンス計画を立てることで、重大な故障・事故の未然防止を図っている。配管の検査方法としては様々な手法が開発されており、例えば特許文献1には、配管部材の周方向に沿った複数位置で変位測定を行うことで歪みを評価し、配管全体の変形及び負荷荷重を測定する技術が開示されている。
尚、その他の検査方法としては、超音波探傷試験(Ultrasonic Test:UT)法やTOFD(Time of Flight Diffraction)法などのような非破壊検査法も知られている。
【0003】
ところで、この種の配管は全長が長い(例えば約100m)。そのため、効率的に信頼性のある検査結果を得るためには、応力解析によって予め大きな応力が作用する位置を検査箇所として選定することが行われている。従来、このような応力解析は配管の設計情報に基づいて行われていた。しかしながら、現実に稼働している配管は、経年劣化や仕様変更等によって設計当初の仕様に一致しない場合がある。そのため、応力解析結果が現実の応力分布からズレてしまい、正確な検査箇所の選定が難しい場合があった。
【0004】
このような課題を解決するための一例として、特許文献2がある。特許文献2では、配管のハンガ点(拘束支持位置)における変位を実測し、その実測した変位量をクリープ変形と共に考慮することで、当該ハンガ点における荷重の算出を行う。これにより、現実の配管状態を反映させた応力解析が可能となり、検査位置の選定精度を改善できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−18899号公報
【特許文献2】特開2002−62199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献2では、ハンガ点という配管の特定部位のみの変位に基づいて応力解析を行っている。ハンガ点は配管に応力を作用させる一要因ではあるが、他の要因を考慮することは、解析精度の更なる向上に貢献することが期待される。すなわち、特許文献2は依然として解析精度の向上の余地が残されている。
【0007】
本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり、加熱媒体が流れる配管について、精度のよい応力解析が可能な配管の応力解析方法及び該方法を実施するための応力解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る配管の応力解析方法は上記課題を解決するために、加熱媒体が流れる配管の応力解析方法であって、前記配管の設計情報に基づいて解析条件を設定する解析条件設定工程と、前記配管の冷態時における外観形状を測定する第1の測定工程と、前記配管の外観形状について、前記解析条件から得られる設計値と前記第1の測定工程で得られる実測値との差が第1の閾値以内になるように、前記解析条件を最適化する最適化工程と、前記最適化された解析条件に基づいて応力解析を実施する解析工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、配管の外観形状について設計値と実測値との差(変位差)が第1の閾値以内になるように、設計情報に基づいて設定された解析条件を最適化する。これにより、現実の配管の外観形状が設計当初に対して所定変位を有している場合であっても、現実の配管形状に応じた適切な解析条件が得られるため、精度のよい応力解析を行うことができる。
【0010】
前記解析条件は、前記外観形状に関する外観形状パラメータと、前記配管のその他の特徴に関する非外観形状パラメータとを含み、前記設計値は前記外観形状パラメータに基づいて得られ、前記最適化工程は、前記非外観形状パラメータの変化率が、前記解析条件から得られる初期値から所定範囲内になるように、前記解析条件を最適化してもよい。
本態様によれば、解析条件を外観形状パラメータ及び非外観形状パラメータを含み、外観形状パラメータに基づいて最適化の基準となる設計値を求めて最適化を実施する。その際、非外観形状パラメータの変化率に制限を設けることによって、最適化によって、設計情報に含まれる初期値からかけ離れた現実的でない解析結果が導かれることを回避できる。これにより、効率的に妥当な解析結果を得ることができ、解析処理全体に要する時間の効率化を図ることができる。
【0011】
この場合、前記配管は、少なくとも1つの拘束支持部材によって支持されており、前記外観形状パラメータは、少なくとも前記拘束支持部材による支持態様に関する情報を含んでもよい。
本態様によれば、外観形状パラメータとして拘束支持部材による支持態様に関する情報を含むことにより、拘束支持部材の態様が設計当初から変化又は変更されている場合であっても、現実の外観形状に基づいた最適化によって加味することができる。
尚、「支持態様に関する情報」とは、配管における拘束支持部材の位置、拘束形式、支持形式などの外観形状として識別可能な情報であって、上述の外観形状パラメータの下位概念に含まれる。
【0012】
前記配管の稼動時における外観形状を測定する第2の測定工程と、前記最適化された解析条件に基づいて、前記配管の稼動時における外観形状を推定する推定工程とを更に備え、前記最適化工程は、前記配管の外観形状について、前記第2の測定工程で得られる実測値と前記推定工程で得られる推定値との差が第2の閾値以内になるように、前記解析条件を最適化してもよい。
本態様によれば、冷態時の外観形状に基づいて最適化された解析条件について、稼動時においても現実の配管の振る舞いと整合するように最適化する。これにより、より現実の配管に近い解析条件に基づいて応力解析を実施することができ、更なる精度向上を図ることができる。
尚、「稼動時」とは、配管に加熱媒体が流れている時を意味しており、より好ましくは配管の作動状態が平衡状態に到達している時を意味する。
【0013】
前記配管の応力分布に関する目的関数を設定する目的関数設定工程と、前記解析工程の解析結果が前記目的関数になるように前記解析条件を算出する解析条件算出工程とを更に備えてもよい。
本態様によれば、応力解析結果から意図する応力分布を得るための解析条件を算出することができる。これにより、特定の応力分布を実現するための具体的なメンテナンス計画を立案することができる。
【0014】
本発明の一態様に係る配管の応力解析装置は上記課題を解決するために、加熱媒体が流れる配管の応力解析装置であって、前記配管の外観形状を測定する測定部と、前記配管の設計情報に基づいて解析条件を設定する解析条件設定部と、前記解析条件を最適化する最適化部と、前記最適化された解析条件に基づいて、前記配管の応力解析を実施する解析部とを備え、前記測定部は、前記配管の冷態時における外観形状を測定し、前記最適化部は、前記配管の外観形状について、前記解析条件から得られる設計値と前記測定部で得られた冷態時における実測値との差が第1の閾値以内になるように、前記解析条件を最適化することを特徴とする。
【0015】
前記解析条件は、前記外観形状に関する外観形状パラメータと、前記配管のその他の特徴に関する非外観形状パラメータとを含み、前記設計値は前記外観形状パラメータに基づいて得られ、前記最適化部は、前記非外観形状パラメータの変化率が、前記解析条件から得られる初期値から所定範囲内になるように、前記解析条件を最適化してもよい。
この場合、前記配管は、少なくとも1つの拘束支持部材によって支持されており、前記外観形状パラメータは、少なくとも前記拘束支持部材による支持態様に関する情報を含んでもよい。
【0016】
前記最適化された解析条件に基づいて、前記配管の稼動時における外観形状を推定する推定部を更に備え、前記測定部は、前記配管の稼動時における外観形状を測定し、前記最適化部は、前記配管の外観形状について、前記推定部で得られる推定値と前記測定部で得られる稼動時における実測値との差が第2の閾値以内になるように、前記解析条件を最適化してもよい。
【0017】
前記配管の応力分布に関する目的関数を設定する目的関数設定部と、前記解析部の解析結果が前記目的関数になるように前記解析条件を算出する解析条件算出部とを更に備えてもよい。
【0018】
これらの態様に係る解析装置は、上述の配管の解析方法(上記各種態様を含む)を好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、加熱媒体が流れる配管について、精度のよい応力解析が可能な配管の応力解析方法及び該方法を実施するための応力解析装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】解析対象である配管の構成例を示す模式図である。
【
図2】配管を支持する各拘束支持部材の設計仕様を示す図である。
【
図3】実施例1に係る応力解析装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】実施例1に係る応力解析装置によって実施される応力解析方法を工程毎に示すフローチャートである。
【
図5】実施例1で得られる解析条件に基づいた配管の変位分布を従来技術と比較して示すグラフ図である。
【
図6】実施例1で得られる解析条件に基づいた配管の応力分布を従来技術と比較して示すグラフ図である。
【
図7】実施例2に係る応力解析装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】実施例2に係る応力解析装置によって実施される応力解析方法を工程毎に示すフローチャートである。
【
図9】目的関数を実施例1の解析結果である応力分布と共に示すグラフ図である。
【
図10】配管について発生応力と破断時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0022】
本実施例では、応力解析装置10を用いて応力解析方法を実施することにより、解析対象である加熱媒体が流れる配管1について応力解析する場合を例に説明する。応力解析装置10は、例えばコンピュータ等の電子演算機に読み込まれた応力解析プログラムを実行することによって、後述する応力解析方法を実行する。
【0023】
尚、このような応力解析プログラムは電子演算装置が備えるハードディスクやメモリなどの記憶装置に記憶して適宜読み出すようにしてもよいし、CD、DVD、Blue−Ray Disc、USBメモリ、フロッピー(登録商標)ディスクなどの外部記憶媒体に記憶されて適宜読み込むようにしてもよい。
【0024】
まず
図1を参照して解析対象について具体的に説明する。
図1は本実施例に係る応力解析装置10の解析対象である配管1の構成例を示す模式図である。配管1は、火力発電プラントの設備内において、図不示のボイラとタービンとを接続する高温配管である。ボイラで生成された高温蒸気は配管1を介してタービンに供給される。
【0025】
配管1は、ストレート形状、エルボ形状などの様々な配管部材が溶接によって接合されて構成されており、複数の位置において拘束支持部材によって設備の壁面などに支持されている。
図1の例では、4種類の拘束支持部材(スプリングハンガSH、コンスタントハンガCH、コールドスプリングCS及び強制拘束SPC)が用いられており、それぞれ異なるシンボルで図示されている。
【0026】
配管1を支持する各拘束支持部材の設計仕様を
図2に示す。
図2では、各拘束支持部材について、種類、個数が規定されており、スプリングハンガSHに関してはバネ定数及び取付荷重、コンスタントハンガCHに関しては取付荷重、コールドスプリングCSに関しては切取長さ、強制拘束SPCに関してはx方向、y方向、z方向における各強制変位が規定されている。
【0027】
(実施例1)
図3は本実施例に係る応力解析装置10の構成を示すブロック図である。応力解析装置10は、入力部12と、測定部14と、記憶部16と、演算処理部18と、出力部20とを備えており、典型的には上述したようにコンピュータなどの電子演算機として構成される。
【0028】
入力部12は演算処理に必要な各種データを入力可能なデバイスを広く含んでよく、例えばキーボード、マウス、タッチパネル、音声認識デバイス等である。
【0029】
測定部14は、配管1の外観形状を測定する任意の測定機器であって、例えば配管1に対して多方向から光源光を照射すると共に、その反射波を受信することにより、拘束支持部材を含む配管1の形状を3次元測定可能なデバイスである。本実施例では特に、測定部14は配管1の外観形状を測定することで、配管1の延在方向の各ポイントにおける径方向中心座標を算出することで、配管1の延在パターンを特定できるように構成されている。
【0030】
尚、測定部14は解析装置10の外部機器であってもよい。この場合、測定部14は測定データを送受信可能な通信手段を介して解析装置10に内蔵されたインターフェイスに接続されることで、測定結果を取得するとよい。また測定部14の測定結果を各種記録媒体に記録し、解析装置10の本体に読み込ませるようにしてもよい。
【0031】
記憶部16はハードディスクやメモリなどの解析処理に必要な各種データ及びプログラムを記憶する記憶媒体である。
【0032】
演算処理部18はCPUなどの演算処理ユニットであり、配管1の設計情報に基づいて解析条件を設定する解析条件設定部22と、解析条件を最適化する最適化部24と、該最適化された解析条件に基づいて応力解析を実施する解析部26と、前記最適化された解析条件に基づいて、配管1の稼動時における外観形状を推定する推定部28とを備える。
尚、上述した演算処理部18の構成要素は機能ブロックであり、同様の機能・作用を発揮できる限りにおいて、各構成要素は統合又は分離されていてもよい。
【0033】
出力部20は演算処理の出力である診断結果や、演算処理で必要に応じてオペレータに対して所定情報の入力を促すための表示を行うデバイスを広く含んでよく、例えば各種ディスプレイ等の画像表示装置である。
【0034】
続いて、上記構成を有する応力解析装置10によって実施される応力解析方法について具体的に説明する。
図4は
図3の応力解析装置10によって実施される応力解析方法を工程毎に示すフローチャートである。
【0035】
まず応力解析装置10は、オペレータによって入力部12が操作されることによって入力された配管1の設計情報を取得する(ステップS101)。解析条件設定部22は、当該取得した設計情報に基づいて解析条件を設定する(ステップS102:解析条件設定工程)。補足して説明すると、ステップS102で設定される解析条件は、従来と同様に設計情報に基づいたものであり、後述する最適化工程によって最適化される基礎となるものである。
【0036】
ここでステップS102で設定される解析条件は、外観形状に関する外観形状パラメータと、配管のその他の特徴に関する非外観形状パラメータとを含んで構成されている。外観形状パラメータは測定部14によって直接的に測定可能な外観形状に関するパラメータであって、例えば配管1自体の形状や、拘束支持部材の支持位置などの支持態様を含んでいる。一方、非外観形状パラメータは測定部14によって直接的に測定不能なパラメータであって、例えば配管1に使用されている材料や、拘束支持部材による支持位置におけるバネ定数や取付荷重などが含まれる。
【0037】
続いて、測定部14によって冷態時の配管1について外観形状を3次元測定する(ステップS103)。本実施例では、上述したように配管1に対して多方向から光源光を照射すると共に、その反射波を受信することにより、拘束支持部材を含む配管1の形状を3次元測定する。測定結果は、通信手段を介して演算処理部18に取り込まれ、後述する処理に使用される。
【0038】
続いて、最適化部24は、配管の外観形状について、ステップS102で設定した解析条件から得られる設計値と、ステップS103で得られる実測値との差が第1の閾値L1以内になるように、解析条件を最適化する(ステップS104)。設計値は、解析条件に含まれる外観形状パラメータに基づいて求められ、より具体的には、配管1の延在方向に沿った径方向中心座標分布として配管形状が特定される。一方、実測値は3次元測定結果に基づいて、設計値に対応するように、配管1の延在方向に沿った径方向中心座標分布として配管形状が特定されたものである。
【0039】
ステップS104では、このように算出した設計値と実測値との差分(変位差)を算出し、当該差分が予め設定された第1の閾値L1(例えば50mm)以内になるように、合わせ込みを行うことにより最適化が実施される。例えば、配管の各ポイントにおいて、互いに対応する設計値と実測値のx方向成分をそれぞれx1、x2とすると、その差|x1−x2|≦L1が満たされるように、解析条件が最適化される。y方向、及び、z方向についても同様である。
【0040】
本実施例では更に、ステップS104で実施される最適化では、解析条件のうち非外観形状パラメータの変化率が、ステップS102で設定された解析条件から得られる初期値から所定範囲内になるように、制限条件が加えられる。例えば、非外観形状パラメータである、スプリングハンガSHのバネ定数や、スプリングハンガSH及びコンスタントハンガCHの取付荷重、コールドスプリングCSの切取長さなどの変化率が±10%以内になるように制限条件が設定される。
【0041】
このように最適化に制限条件を加えることによって、設計情報に含まれる初期値からかけ離れた現実的でない解析結果が導かれることを回避できる。その結果、効率的に妥当な解析結果を得ることができるので、解析処理全体に要する時間の効率化を図ることができる。
【0042】
続いて測定部14によって稼動時の配管1について外観形状を3次元測定する(ステップS105)。ここで「稼動時」とはボイラで生成された蒸気が配管1を流れており、稼動状態が平衡状態に達している場合を意味している。稼動時は高温であるため、熱膨張によって形状や応力分布が変化しており、冷態時とは異なる状態にある。ステップS105では、稼動時における配管1について、ステップS103と同様の手順に従って3次元測定が実施される。
【0043】
続いて推定部28はステップS104で最適化された解析条件に基づいて、稼動時における配管1の外観形状を推定する(ステップS106)。すなわち、冷態時に対応する解析条件から、冷態時と稼動時の温度差に基づいて、配管1の形状変化をシミュレートすることによって、推定を行う。このように特定の解析条件を基礎としながら温度変化による形状変化を推定する手法について公知技術が多数存在するため、ここでは詳しい説明を省略することとする。
【0044】
続いて最適化部24は、配管1の外観形状について、ステップS105で得られる実測値とステップS106で得られる推定値との差が第2の閾値L2(例えば50mm)以内であるか否かを判定する(ステップS107)。例えば、配管1の各ポイントにおいて、稼動時における実測値のx成分をx1´、推定値のx成分をx2´とすると、その差|x1´−x2´|≦L1であるか否かが判定される(y方向、及び、z方向についても同様である)。つまり、ステップS104で最適化された解析条件に基づいて稼動時の形状を推定し、その推定結果を実測値と比較することによって、最適化された解析条件の妥当性を評価する。
【0045】
差が第2の閾値L2以内である場合(ステップS107:YES)、ステップS104で最適化された解析条件が妥当であるとして、最適化部24は解析条件を決定する(ステップS109)。一方、差が第2の閾値L2より大きい場合(ステップS107:NO)、最適化部24はステップS104で最適化された解析条件が妥当でないとして、最適化を再実施する(ステップS108)。この最適化の再実施は、差が第2の閾値L2以内になるまで繰り返されることによって、最終的に妥当な解析条件が得られる。
【0046】
これにより、冷態時の外観形状に基づいて最適化された解析条件について、稼動時においても現実の配管の振る舞いと整合するように最適化する。これにより、より現実の配管に近い解析条件に基づいて応力解析を実施することができ、更なる精度向上を図ることができる。
【0047】
このようにして解析条件が決定されると、解析部は当該決定された解析条件に基づいて応力解析処理を実施し(ステップS110)、その結果が出力部から出力される(ステップS111)。
【0048】
続いて
図5及び
図6を参照して、上述の応力解析結果について検証する。
図5は、解析条件に基づいて算出される延在方向に沿った各ポイントにおける配管1の変位分布を、従来方法で用いられる解析条件によるものと比較して示すグラフであり、
図6は解析条件に基づいて算出される延在方向に沿った各ポイントにおける配管1の応力分布を従来方法で用いられる解析条件によるものと比較して示すグラフである。
図5(a)、
図5(b)、
図5(c)は、それぞれx方向、y方向、z方向における算出結果を示している。
尚、
図5及び
図6における比較対象は、上述した最適化を行うことなく設計情報のみに基づく解析条件によって得られる変位分布である。
【0049】
まず
図5に示されているように、x方向、y方向、z方向のいずれにおいても、本実施例と従来方法との間には、明確な変位差が確認できた。更に
図6に示す応力分布を参照すると、従来方法によって得られた応力ピークの位置と、本実施例によって得られた応力ピークの位置が異なっている(具体的には、従来方法では符号Aで示す位置が最も応力が大きいが、本実施例では符号Bで示す位置が最も応力が大きい位置になっている)。これは、配管の応力分布に基づいて検査位置を選定する際に、選択される位置が異なることを意味している。発明者らが実際に配管1の応力分布を測定した結果と比較すると、従来方法に比べて本実施例によって得られた応力分布、特に応力ピークの位置が正確であることが確認された。これは、本実施例による応力解析が従来方法に比べて高精度であることを意味している。
【0050】
以上説明したように、本実施例によれば、配管1の外観形状について設計値と実測値との差(変位差)が第1の閾値L1以内になるように、設計情報に基づいて設定された解析条件を最適化する。これにより、現実の配管の外観形状が設計当初に対して所定変位を有している場合であっても、現実の配管形状に応じた適切な解析条件が得られるため、精度のよい応力解析を行うことができる。その結果、加熱媒体が流れる配管について、精度のよい応力解析が可能な配管の応力解析方法及び該方法を実施するための応力解析装置を提供することができる。
【0051】
(実施例2)
続いて、実施例2に係る応力解析装置10´について説明する。
図7は実施例2に係る応力解析装置10´の構成を示すブロック図であり、
図8は
図7の応力解析装置10´によって実施される応力解析方法を工程毎に示すフローチャートである。尚、以下の説明では、実施例1と共通する構成には共通の符号を付すこととし、重複する説明は適宜省略することとする。
【0052】
応力解析装置10´は、上述の実施例1の構成を備え、更に、配管1の応力分布に関する目的関数を設定する目的関数設定部30と、解析部26の解析結果が前記目的関数になるように解析条件を算出する解析条件算出部32とを備える。
【0053】
まず出力部20は上述の実施例1によって求められた解析結果を出力し(ステップS201)、応力解析装置10´のオペレータは当該解析結果に基づいて目的関数を入力する(ステップS202)。
図9は実施例1の解析結果である応力分布と目的関数を示すグラフ図であり、
図10は配管1について発生応力σ(MPa)と破断時間tR(h)との関係を示すグラフである。
図10によれば、発生応力が大きくなるに従い、破断時間が短くなることが示されている。すなわち、配管1の長寿命化を図るためには、発生応力を低減する必要がある。そこで本実施例では、
図9に示すように、解析結果として得られた応力分布が、オペレータの想定に比べて大きいために、より低い応力分布にして長寿命化を図るべく目的関数を設定する場合を示している。
【0054】
尚、本実施例で入力される目的関数は、
図9に示すような配管1の全体に亘る応力分布であってもよいし、所定ポイントにおける応力値を特定するものであってもよい(例えば、解析結果で判明した応力ピーク位置を所定位置に変更するように目的関数を設定してもよい)。
【0055】
続いて解析条件算出部32は、ステップS202で入力された目的関数に基づいて解析条件を検索する(ステップS203)。ここで解析条件の検索とは、第1実施形態で解析条件に基づいて応力分布を求めた各工程を逆演算することを意味する。これにより、目的関数で指定された応力分布を実現するための解析条件が算出され、当該結果が出力部に出力される(ステップS204)。このように出力された解析条件は、配管1の応力分布を目的関数にするための条件であるため、当該条件を考慮することで、長寿命化を実現するためのメンテナンス計画の立案に活用することができる。
【0056】
以上説明したように、本実施例によれば、応力解析結果から意図する応力分布を得るための解析条件を算出することができる。これにより、特定の応力分布を実現するための具体的なメンテナンス計画を立案することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えばボイラ等に使用される加熱媒体が流れる配管の応力解析方法、及び、該方法を実施するための応力解析装置の技術分野に関する。
【符号の説明】
【0058】
1 配管
10 応力解析装置
12 入力部
14 測定部
16 記憶部
18 演算処理部
20 出力部
22 解析条件設定部
24 最適化部
26 解析部
28 推定部
30 目的関数設定部
32 解析条件算出部