(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム弾性を有する軟質材料であって、加硫工程を必要とせず、熱可塑性樹脂と同様に成形加工およびリサイクルが可能な熱可塑性エラストマーが幅広い分野で多用されている。
【0003】
例えば、1,3−ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエン単量体の重合体、または、共役ジエン単量体と、当該共役ジエン単量体と共重合可能なスチレンのようなビニル芳香族単量体と、の共重合体は、耐衝撃性透明樹脂またはポリオレフィンおよびポリスチレン樹脂の改質剤として非常に重要である。
【0004】
また、上記共役ジエン系重合体に含まれるオレフィン性二重結合部分に水素を付加させた水添重合体は、耐候性に優れるという特徴を有する。この特徴を活かし、水添重合体は、自動車部品、家電部品、電線被覆、医療用部品、雑貨、履物などに使用されている。
【0005】
一般的に、上記共役ジエン系重合体は、アルキルリチウムなどを開始剤としたリビングアニオン重合によって製造される。さらに、水添重合体を得る場合には、重合後に周期律表第VIII族もしくは第IV族金属を触媒としてオレフィン性二重結合部分に水素添加反応(以下、「水素化反応」とも言う。)を行う。
【0006】
オレフィン性二重結合を有する重合体を水素化させる方法については様々な方法が報告されており、例えば、周期律表第VIII族金属、特に、ニッケルまたはコバルトの化合物とアルキルアルミニウム化合物等の適当な還元剤を組み合わせた触媒を使用した水素化の方法が知られている。他にも、周期律表第IV族金属であるチタンの化合物、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)チタン化合物と、アルキルアルミニウム化合物等の適当な還元剤を組み合わせた触媒を使用し、共役ジエン系重合体の不飽和二重結合を水素化する方法が知られている。
【0007】
以上のように、熱可塑性エラストマー、特に、上記したような共役ジエン系重合体や、その水添重合体には、重合開始剤や水素添加触媒などに由来する金属残渣が含まれることになる。重合体溶液中の金属残渣は、製品のブツ、表面肌荒れ、着色、濁りなど様々な品質低下に繋がるため、製造工程で効率的に除去しなければならない。
【0008】
そこで、重合体溶液中に残存する金属残渣を除去する方法として、いくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1では、噛み合せ構造を有する回転分散機を用いて、重合体溶液と水とを激しく混合することによって、重合体溶液中のリチウム残渣を除去する方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献2では、酸化剤とジカルボン酸を用いてニッケルをはじめとする周期律表第VIII族金属の残渣を除去する方法が開示されている。さらに、特許文献3では、ケイ酸塩に吸着させる方法が開示されている。上記以外にも、リチウムや周期律表第VIII族金属の除去については、これまでに多数の先行文献で開示されている。
【0010】
一方、チタン残渣を除去する方法に関してはこれまで殆ど報告されていなかった。例えば、特許文献4に、無機酸とアルコールと水とを用いてチタンおよびリチウム残渣を除去する技術が開示されている。また、特許文献5には、有機酸とアルコールと水とを用いたチタンおよびリチウム残渣の除去が開示されている程度である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0019】
〔重合体の製造方法)
本実施形態の重合体の製造方法は、
少なくともリチウム及び/又はチタンを含有する重合体溶液を調製する工程1と、
前記重合体溶液に対して、0.1〜20容積倍の水と、下記式(1)で表される酸化合物と、を添加混合することによって混合液を得る工程2と、
前記混合液から水相を除去して精製重合体溶液を得る工程3を含む。
【化2】
ここで、上記式(1)において、R
1、R
2、及びR
3は、互いに独立に、C、H、O、及びNから選ばれる元素で構成される置換基であり、R
1、R
2、及びR
3は同一であっても、異なっていても構わない。上記式で表される酸化合物は、分子内に少なくとも酸素原子を4個以上含む。
以下、各工程について詳述する。
【0020】
〔工程1〕
本実施形態の重合体の製造方法において、工程1は、少なくともリチウム及び/又はチタンを含有する重合体溶液を調製する工程である。
【0021】
(リチウム及び/又はチタンを含有する重合体溶液)
本実施形態で精製される重合体溶液は、少なくとも、リチウム若しくはチタン又はこれらの両方を含有するものであり、さらにアルミニウムを含んでいてもよい。重合体溶液を調製する方法は、特に限定されないが、例えば、リチウム系重合開始剤によって重合した共役ジエン系重合体に、チタン化合物と各種還元剤とから成る触媒下で水素化反応を行い、水素化された共役ジエン系共重合体溶液を調製する方法が挙げられる。また、本実施形態では、精製される重合体溶液として水素化反応前の共役ジエン系重合体溶液を調製することもできる。
【0022】
なお、本実施形態で用いられる重合体溶液の溶媒としては、水を添加したときに水相と分離でき、且つ、重合反応や水素化反応の際のいずれの反応物とも反応しない不活性な溶媒が好ましく、具体的には、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンのような脂環族炭化水素類;およびジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類を例示することができ、これらの中から選択して単独または混合して使用することができる。
【0023】
前記共役ジエン系重合体は当分野で一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、具体的には、重量平均分子量500〜1,000,000である共役ジエンホモポリマー、または共役ジエン単量体とビニル芳香族系単量体とのランダム、テーパー若しくはブロック共重合体などを使用することができる。また、これらの共役ジエン単位の不飽和二重結合に対して水素添加した共重合体が使用できる。
【0024】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めることができる。
【0025】
使用可能な共役ジエン単量体は、特に限定されないが、具体的には、1,3−ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、フェニルブタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエンなどのような4〜12個の炭素原子を含有する共役ジエン系化合物を使用することができ、この中でも、1,3−ブタジエンおよびイソプレンを使用することが好ましい。共役ジエン単量体と共重合が可能なビニル芳香族系単量体は、特に限定されないが、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、アルコキシ基で置換されたスチレン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ビニルナフタレンおよびアルキル基で置換されたビニルナフタレンなどのようなビニルアリル化合物を使用することができ、この中でも、スチレンおよびα−メチルスチレンを使用することが好ましい。
【0026】
共役ジエン単量体とビニル芳香族系単量体を混合して共重合体を製造する場合の質量比は特に限定されないが、共役ジエン単量体とビニル芳香族系単量体の質量比が5:95〜95:5であることが好ましい。共役ジエン単量体の使用量が質量比で5以上であれば、耐衝撃性が良好で、さまざまな用途に使用が可能となる。また、質量比で95以下であれば、製品加工性が良好となる。そのため前記範囲を維持することが好ましい。
【0027】
このような共役ジエン系重合体は当分野で一般的に使用される重合法により製造することができる。例えば、本実施形態では有機リチウム化合物を開始剤として利用したアニオン重合を行うことができる。有機リチウム化合物は、特に限定されないが、具体的には、n−ブチルリチウムやs−ブチルリチウムなどを使用することができる。このような開始剤の使用量は当分野で一般的に使用されるものであり、目的とする高分子の分子量により自由自在に調節が可能である。
【0028】
(水素化反応)
得られた重合体に対して、その後、水素化反応を行うことで水素化された共役ジエン系重合体を製造することができる。
【0029】
前記水素化反応に使用されるチタン化合物としては当分野で一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、具体的には、シクロペンタジエニルチタン化合物が挙げられ、例えば、シクロペンタジエニルチタンハロゲン化物、シクロペンタジエニル(アルコキシ)チタンジハロゲン化物、ビス(シクロペンタジエニル)チタンジハロゲン化物、ビス(シクロペンタジエニル)チタンジアルキル化物、ビス(シクロペンタジエニル)チタンジアリル化物およびビス(シクロペンタジエニル)チタンジアルコキシ化合物などの中から、単独または混合して使用することができる。
【0030】
前記チタン化合物は、共役ジエン系重合体100g当り0.01〜20mmol使用することが好ましく、重合体100g当り0.05〜5mmol使用することがより好ましい。触媒として使用するチタン化合物の使用量が0.01mmol以上であれば、水添反応が効率よく進行し、生産性に優れる。また、20mmol以下であれば、十分な触媒添加量となり、経済性がよく、さらに反応後に触媒除去のために過量の化学物質を使用することも抑制される。そのため、前記範囲を維持することが好ましい。
【0031】
前記チタン化合物と共に使用することができる還元剤としては、当分野で一般的に使用される還元剤であれば特に限定されないが、具体的には、アルキルアルミニウム化合物、アルキルマグネシウム化合物、有機リチウム化合物、金属ヒドリドなどが挙げられ、単独でも複数種を組み合わせても使用することができる。
【0032】
上記チタン系触媒を用いた水素添加反応としては、特に限定されないが、具体的には、国際特許出願第00/08069号、米国特許第4,501,857号、第4,673,714号、第4,980,421号、第5,753,778号、第5,910,566号、第6,020,439号などに記載された方法を用いて実施することができる。
【0033】
前記水素化反応は不活性溶媒中で行うことができる。ここで、不活性溶媒とは重合反応や水素化反応の際のいずれの反応物とも反応しない溶媒を意味し、特に限定されないが、具体的には、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンのような脂環族炭化水素類;およびジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類を挙げることができ、これらの中から選択して単独または混合して使用することができる。
【0034】
工程1における重合体溶液中の重合体濃度は特に限定されないが、5〜50質量%が好ましく、10〜25質量%であることがより好ましい。重合体濃度が前記範囲内であると、取り扱いし易い重合体溶液粘度に調整でき、且つ、生産性が良好となるので好ましい。
【0035】
一方、水素化反応は、重合体溶液を水素やヘリウム、アルゴン、窒素のような不活性気体雰囲気下で一定温度に維持した後、撹拌または未撹拌状態で水素化触媒を添加し、水素ガスを一定圧力で注入することで行うことが好ましい。さらに、水素化反応の温度は30〜150℃、圧力は2〜30kg/cm
2の範囲で行うことが好ましい。
【0036】
水素化反応の温度が前記範囲内であると、反応性が向上して十分な反応収率を得ることができ、また、高分子の熱劣化による副反応が抑制できる。水素化反応の圧力が前記範囲内であると、反応速度が向上して反応時間が短くなり、また、反応器に投資する費用を抑制でき、経済的に好ましい。
【0037】
以下、重合体溶液、例えば、上述のとおり水素化反応が完了した共役ジエン系重合体溶液から、残留したリチウム残渣やチタン残渣を除去する工程として、工程2および工程3について説明する。
【0038】
〔工程2〕
本実施形態の重合体の製造法において、工程2は、工程1で得られた重合体溶液、例えば、水素化された共役ジエン系重合体溶液に対して、水と、下記式(1)で表される酸化合物とを添加混合することによって混合液を得る工程である。
【0039】
(水の添加量)
本実施形態においては、水の添加量は、重合体溶液に対して0.1〜20容積倍である。0.2〜10容積倍であることがより好ましく、0.5〜5容積倍であることがさらに好ましい。水の添加量が前記範囲内であると、重合体溶液中に含まれるリチウム残渣やチタン残渣が除去され易く、また、排水量を少なくすることができる。
【0040】
(酸化合物)
さらに本実施形態においては、水とともに、下記式(1)で表される酸化合物を添加する。
【化3】
【0041】
前記式(1)において、R
1、R
2、及びR
3は、互いに独立に、C、H、O、及びNから選ばれる元素で構成される置換基であり、C、H、及びOから選ばれる元素で構成される置換基であることが好ましい。このような、置換基とすることにより、排水による環境汚濁が軽減される。
【0042】
また、式(1)で表される酸化合物は、リチウム残渣やチタン残渣の除去効果の観点から、分子中に2つ以上のカルボキシル基を有し、かつ少なくとも酸素原子を4個以上含むことが好ましい。
【0043】
酸化合物中の水酸基(ただし、カルボキシル基の−OH基は除く)の数は、特に限定されないが、0個又は1個であることが好ましい。酸化合物の水酸基の数が上記範囲であることにより、リチウム残渣やチタン残渣の除去効率が上昇し、且つ、酸化合物が重合体溶液中に残存し難くなるので好ましい。
【0044】
また、酸化合物中に含まれる総酸素原子数は4個以上であることが好ましく、5個以上がより好ましく、7個以上がさらに好ましい。総酸素原子数が上記範囲であることにより、リチウム残渣やチタン残渣の除去効率が上昇し、且つ、酸化合物が重合体溶液中に残存し難くなるので好ましい。
【0045】
さらに、酸化合物中に含まれる総炭素原子数は20個以下が好ましく、3〜10個がより好ましく、6〜8個がさらに好ましい。総炭素原子数が上記範囲であることにより、リチウム残渣やチタン残渣の除去効率が上昇し、且つ、酸化合物が重合体溶液中に残存し難くなるので好ましい。
【0046】
本実施形態において、酸化合物は、上記式で表されるものであれば特に限定されないが、リチウム残渣やチタン残渣の除去効果の点から、α−ヒドロキシカルボン酸誘導体や2以上のカルボキシル基を有する多価カルボン酸類、多価カルボン酸誘導体を好適に使用することができ、中でも分子内にカルボキシル基を3つ以上有する酸化合物が好ましい。カルボキシル基を3つ以上有することにより、金属残渣が少なく、色調に優れた精製重合体溶液を得ることができる。
【0047】
具体的な酸化合物の例としては、特に限定されないが、例えば、マロン酸、ヒドロキシマロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、グルタル酸、アジピン酸、アコニット酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などが挙げられる。また、分子内にさらに窒素を含有する酸化合物としては、各種アミノ酸誘導体が挙げられ、例えば、エチレンジアミン四酢酸などが使用できる。
【0048】
(酸化合物の配合量)
前記酸化合物は、重合体溶液中に含有されるリチウム原子およびチタン原子などの金属原子の総モル数に対して、好ましくは0.1〜50倍モル、より好ましくは0.25〜20倍モル、さらに好ましくは0.5〜10倍モルで使用するのがよい。酸化合物を上記範囲で使用することで、リチウム残渣やチタン残渣を効果的に除去でき、さらに重合体溶液中への酸化合物の残存も減らすことができる。
【0049】
(添加方法)
前記酸化合物の添加方法は、特に限定されず、具体的には、水と酸化合物をあらかじめ混合し、水溶液としておき、それを重合体溶液に添加する方法や、重合体溶液と水とを混合した後に酸化合物を添加する方法などが挙げられる。この中でも、プロセスの簡素化の観点から、水と酸化合物との水溶液を重合体溶液に添加する方法が好ましい。この場合、酸化合物の水溶液濃度及び容積は特に限定されないが、重合体溶液、水、酸化合物水溶液を混合した後の水相の総量として、重合体溶液に対して、0.1〜20容積倍の範囲となるように調整することが好ましい。
【0050】
(混合方法)
工程2において、重合体溶液と水、酸化合物との混合方法は特に限定されず、例えば、スタティックミキサーのような駆動部を持たない静止型混合機や、撹拌翼を取り付けたストレージタンクなどで機械的に混合してもよい。中でも、特開平6−136034号公報に記載されているような噛み合せ構造を有する回転分散機を用いて、下記条件で混合することが好ましい。これにより効果的に重合体溶液からリチウム残渣やチタン残渣を除去することができる。
【0051】
すなわち、上記回転分散機の運転においては、P/V値を3×10
4(kw/m
3)以上とすることが好ましく、5×10
4(kw/m
3)とすることがより好ましく、1×10
5(kw/m
3)とすることがさらに好ましい。これにより、強力なせん断力を与えることができ、重合体溶液から金属残渣をより効果的に除去することができる。ここでP(kw)とは回転分散機の動力であり、混合時の消費電力を測定することで容易に求めることができる。V(m
3)は回転分散機における混合部の空間容積であり、溶液にせん断力を与える部分の空間容積である。さらに、周速(2πr・n)を好ましくは5(m/s)以上、より好ましくは7(m/s)、さらに好ましくは10(m/s)とする。ここで、r(m)とは、回転分散機におけるロータ最外歯の半径、n(s
−1)は回転分散機におけるロータの回転数である。上記条件で回転分散機による重合体溶液と水との混合を実施することで、0.01〜10(s)と短い平均滞留時間で、重合体溶液中に含まれる触媒由来の金属残渣を容易に除去することができる。また、上記以外にも、例えば、撹拌機、乳化機を含めたホモジナイザー、あるいはポンプ等でせん断力を加える方法や、ボールミルあるいはロッドミル等のミル、あるいは高圧粉砕ロール等で衝突力、摩擦力を加える方法でもよい。
【0052】
(酸化剤)
本実施形態においては、工程2において、重合体溶液に対して、さらに酸化剤を添加することができる。酸化剤の添加によってリチウム残渣やチタン残渣の水相への溶解を促進することができる。酸化剤としては、特に限定されないが、過酸化水素、有機過酸化物、オゾンなどが挙げられる。過酸化水素の使用方法としては特に限定されないが、30%程度の水溶液で少量添加しても効果を発揮する。過酸化水素を用いることにより、短時間で効率的に金属残渣を除去することができる。
【0053】
有機過酸化物としては、当分野で一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、具体的には、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイドなどが挙げられる。オゾンの使用方法としては特に限定されないが、一般的なオゾン発生装置を使用することができ、例えば、無声放電装置などが挙げられる。
【0054】
これら酸化剤の使用量としては、重合体溶液に残存するリチウム原子やチタン原子などの金属原子の総モル数に対して、0.1〜100倍モルが好ましく、0.5〜75倍モルがより好ましく、1.0〜50倍モルがさらに好ましい。酸化剤の添加量を上記範囲とすることで、リチウム残渣やチタン残渣の除去効率を向上でき、重合体溶液中への酸化剤の残存をさらに抑えることができる。
【0055】
なお、工程2において、重合体溶液にはアルコールを添加しないことが好ましい。具体的には、工程2における混合液中のアルコール濃度が500ppm以下であることが好ましい。これにより、重合体溶液と水相との分離が良好で、短時間での金属除去が可能で、且つ、廃液処理も容易な、優れた金属除去プロセスを提供することができる。なお、ここでいうアルコールとは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノールなどが挙げられる。特にカルボキシル基を含まないアルコールを添加しないことが好ましい。
【0056】
〔工程3〕
本実施形態の重合体の製造方法において、工程3は、前記混合液から水相を除去(分離)して精製された重合体溶液を得る工程である。工程3における水の分離方法に関しては当分野で一般的に使用されるものであれば特別に限定しないが、例えば、重合体溶液と水相から成る混合液を静置分離、遠心分離、向流抽出等により水相を除去する方法などが挙げられる。
【0057】
水相がリチウム及び/又はチタンを含むことが好ましい。これにより重合体溶液から金属残渣を容易に分離することができる。なお、水相に含まれる金属の量は、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析により求めることができる。
【0058】
(精製重合体溶液)
重合体溶液中に含まれる金属残渣が水相中へ移行するため、工程3により得られる精製重合体溶液は工程1で調製した重合体溶液と比べ金属残渣が除去されたものとなる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例に基づき詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
〔製造例1〕
アルキルリチウムを開始剤とした従来公知のアニオン重合法によって、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体(スチレン含量:30.0質量%、ブタジエン含量:70.0質量%、数平均分子量:50,000)のシクロヘキサン溶液を得た。得られた重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析(株式会社島津製作所社製、ICPS−7510。以下、同じ。)を通じて測定した結果、Li残渣の量は100ppmであった。
【0061】
〔製造例2〕
製造例1で得られたポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体400gを含むシクロヘキサン溶液2800gを、5リットルのオートクレーブ反応器に入れ400rpmで攪拌しながら60℃に加熱した。その後、トリエチルアルミニウム1.5mmolとビス(シクロペンタジエニル)チタンジクロライド0.8mmolとを添加して、10kg/cm
2の水素で加圧して水素化反応を行うことで水素化された重合体溶液を得た。このように水素化された重合体(高分子)をNMRで分析した結果、ポリブタジエンブロック内の98%以上の二重結合が水素化されたことを確認した。得られた重合体溶液中に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した結果、Ti残渣:102ppm、Li残渣:100ppm、Al残渣:101ppmであった。
【0062】
〔実施例1〕
製造例1で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのコハク酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で15分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0063】
〔実施例2〕
製造例1で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのリンゴ酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で15分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0064】
〔実施例3〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのコハク酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で15分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0065】
〔実施例4〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのリンゴ酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で15分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0066】
〔実施例5〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのエチレンジアミン四酢酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で15分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0067】
〔実施例6〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルの1,2,3−プロパントリカルボン酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で15分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0068】
〔実施例7〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのクエン酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で15分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0069】
〔実施例8〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのコハク酸とを、噛み合わせ構造を有する回転分散機(日鋼工業製 キャビトロン1010)により60℃、7600rpmの条件で0.1秒(sec)混合して混合液を得た。この時のP/V値は3×10
4(kw/m
3)、周速は28(m/s)であった。その後、得られた混合液を60℃に加温されたタンクに送り、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0070】
〔実施例9〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのリンゴ酸とを、噛み合わせ構造を有する回転分散機(日鋼工業製 キャビトロン1010)により60℃、7600rpmの条件で0.1秒(sec)混合して混合液を得た。この時のP/V値は3×10
4(kw/m
3)、周速は28(m/s)であった。その後、得られた混合液を60℃に加温されたタンクに送り、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0071】
〔実施例10〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の30%過酸化水素水と、チタン原子に対して2倍モルのコハク酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で10分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0072】
〔実施例11〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の30%過酸化水素水と、チタン原子に対して2倍モルの1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で10分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例12〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の30%過酸化水素水と、チタン原子に対して2倍モルのエチレンジアミン四酢酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で10分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0074】
〔比較例1〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのシュウ酸と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で15分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例2〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルの乳酸とを、噛み合わせ構造を有する回転分散機(日鋼工業製 キャビトロン1010)により60℃、7600rpmの条件で0.1秒(sec)混合して混合液を得た。この時のP/V値は3×10
4(kw/m
3)、周速は28(m/s)であった。その後、得られた混合液を60℃に加温されたタンクに送り、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0076】
〔比較例3〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍のイソプロパノールと、金属原子の総モル量に対して2倍モルのグリコール酸とを、噛み合わせ構造を有する回転分散機(日鋼工業製 キャビトロン1010)により60℃、7600rpmの条件で0.1秒(sec)混合して混合液を得た。この時のP/V値は25×10
4(kw/m
3)、周速は28(m/s)であった。その後、得られた混合液を60℃に加温されたタンクに送り、5分滞留させて重合体溶液相と水相との分離を試みたが、乳化状態であり分離できなかった。
【0077】
〔比較例4〕
製造例2で得られた重合体溶液と、該重合体溶液の2容積倍の水と、金属原子の総モル量に対して2倍モルのリン酸水素ビス(2−エチルヘキシル)と、を撹拌器付き混合器に入れ、60℃で15分間激しく撹拌させた後、5分滞留させて重合体溶液相と水相とを分離させた。分離状態は良好であった。水相を除去した後、重合体溶液を真空乾燥させ、固体状の重合体を得た。得られた固体状の重合体に含まれる金属の量を、誘導結合プラズマ(ICP,Inductivity coupled plasma)を用いた元素分析を通じて測定した。該測定結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
※:水の代わりにイソプロパノールを用いた。イソプロパノールの質量部を示す。
【0079】
なお、全実施例において、水相にはリチウム及び/または又はチタンが含まれていた。また、混合液中のアルコール濃度は500ppm以下であった。
【0080】
本出願は2012年4月26日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−101314、特願2012−101315)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。