特許第6016899号(P6016899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016899
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】硫化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/22 20060101AFI20161013BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20161013BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20161013BHJP
【FI】
   C01B17/22
   H01M10/0562
   H01M4/58
【請求項の数】5
【全頁数】4
(21)【出願番号】特願2014-513152(P2014-513152)
(86)(22)【出願日】2012年5月29日
(65)【公表番号】特表2014-518838(P2014-518838A)
(43)【公表日】2014年8月7日
(86)【国際出願番号】EP2012060014
(87)【国際公開番号】WO2012163900
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年5月18日
(31)【優先権主張番号】102011076572.7
(32)【優先日】2011年5月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513159239
【氏名又は名称】ロックウッド リチウム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Rockwood Lithium GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ペーター リットマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ヴィーテルマン
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ リシュカ
(72)【発明者】
【氏名】ディーター ハウク
(72)【発明者】
【氏名】ベアンハート フューガー
(72)【発明者】
【氏名】アーミン シュトル
(72)【発明者】
【氏名】ディアク ダヴィドフスキ
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−163356(JP,A)
【文献】 特表2010−540396(JP,A)
【文献】 特開2012−176866(JP,A)
【文献】 Hans-Jorg Deiseroth et al.,"Li6PS5X: A Class of Crystalline Li-Rich Solids With an Unusually High Li+ Mobility",Angewandte Chemie. International Edition,2008年,Vol.47,p.755-758
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 17/00−17/98
C01D 15/00−15/10
H01M 4/00−4/98
H01M 10/00−10/667
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化リチウムの製造方法であって、
リチウムアリール及びリチウムアミドからなる群から選択されるリチウム含有強塩基を硫化水素と、非プロトン性有機溶剤中で−20〜120℃の温度範囲内で不活性条件下で反応させることを特徴とする、硫化リチウムの製造方法。
【請求項2】
チウムジイソプロピルアミド又はリチウムヘキサメチルジシラジドを使用する、請求項記載の方法。
【請求項3】
非プロトン性有機溶剤として、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素又はエーテル系溶剤又はこれらの溶剤の混合物を使用する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
溶剤として、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル又はTHFを使用する、請求項記載の方法。
【請求項5】
該反応を0〜80℃の温度範囲内で行う、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化リチウムの新規製造方法及びその使用に関する。
【0002】
硫化リチウムは現在、Liイオン伝導性固体(ガラス、ガラスセラミック又はLiアルジロダイト(Li-Argyrodite)のような結晶質生成物)の合成用の原料として又はリチウム/硫黄電池におけるカソード材料として関心がある。リチウム/硫黄電池は、リチウムイオン電池と比較して、明らかにより高いエネルギー密度を有し、それゆえ、エレクトロモビリティ(Elektromobilitaet)の分野における潜在的な使用にとって大きな関心がある。
【0003】
Gmelins Handbuch der anorg. Chemie, Lithium, 補遺巻(1969)には、硫化リチウムの以下の製造方法が記載されている:
・リチウム金属及び硫黄を混ぜ合わせる(Zusammenreiben);
・液体アンモニア中での硫化アンモニウム又は硫黄とリチウム金属との反応;
・エタノール中でのリチウムエトキシドとH2Sとの反応。
【0004】
これらの全ての方法の場合に、多少のポリ硫化物含有生成物混合物が生じ、これらは部分的には費用をかけて精製しなければならない。そして、硫酸リチウムを炭素又は水素で約500℃の温度で還元することが知られている。EP 0 802 159 A1の文献には、130〜445℃の温度範囲内での気相中での水酸化リチウムと硫化水素との反応が記載されている。US 4,126,666 A1の文献にも、500〜700℃の温度範囲内での気相中での炭酸リチウムと硫化水素との反応が記載されている。
【0005】
US 3,615,191 A1及びUS 3,642,436 A1の文献からは、更に、テトラヒドロフラン(THF)のようなエーテル系溶剤中でのリチウム金属又は水素化リチウムと硫化水素との反応が知られている。これらの反応の場合に、硫化リチウム(Li2S)と硫化水素リチウム(LiSH)との混合物が生じる。望ましくないLiSHは、180℃〜200℃での熱処理によりLi2S及び硫化水素へ変換することができない。
【0006】
最後に、EP 1 460 039 A1の文献からは、水酸化リチウム又は炭酸リチウムを硫化水素と、溶剤としてのn−メチルピロリドン中で130℃で反応させて、まず最初にLiSHを得て、次いで200℃でLi2Sを得ることが知られている。EP 1 681 263 A1の文献では、非プロトン性有機溶剤中での水酸化リチウムと硫化水素との反応により得られたLi2Sの精製のために、これを有機溶剤で100℃を超える温度で洗浄することが提案されている。
【0007】
本発明には、高い純度の硫化リチウムを、できるだけ経済的で単純な反応条件下で製造することができる、単純な方法を示すという課題が課された。
【0008】
本発明によれば、前記課題は、リチウム含有強塩基を硫化水素と、非プロトン性有機溶剤中で、不活性条件下で−20〜120℃の温度範囲内で、好ましくは0〜80℃の温度範囲内で反応させる方法により解決される。不活性条件は、本発明の意味で、空気及び空気水分を排除するための保護ガス下での操作であると理解される。
【0009】
そのためには、硫化水素ガスが、非プロトン性溶剤中のLi含有強塩基の溶液中へ導入される。該反応は、室温で自発的に始まり、かつ発熱である(exotherm)。該硫化リチウムは、白色固体として沈殿し、かつ該反応の終了後に、ろ過及び乾燥により単離することができる。該リチウム含有強塩基は、リチウムアルキル、リチウムアリール又はリチウムアミドからなる群から選択され、かつ以下の式に従い反応する:
2R−Li + H2S → Li2S + 2RH
2R2N−Li + H2S → Li2S + 2R2NH。
【0010】
単離された該材料は、X線回折図において所望のLi2Sの線のみを示し、LiSHのような副生物は検出され得ない。
【0011】
好ましくは、使用されるLi含有強塩基は、炭化水素中のブチルリチウム若しくはヘキシルリチウム又は多様な非プロトン性溶剤中の有機リチウムアミド、好ましくはリチウムジイソプロピルアミド若しくはリチウムヘキサメチルジシラジドの商業的に入手可能な物質又は溶液である。
【0012】
典型的な非プロトン性溶剤は、脂肪族及び芳香族の炭化水素、好ましくはヘキサン又はトルエン、並びに脂肪族又は環状のエーテル、好ましくはジエチルエーテル、THFの群から選択されるエーテル系溶剤又はこれらの溶剤の混合物である。
【0013】
技術水準と比べた本発明による方法の利点は、それゆえ次の通りである:
・商業的に入手可能な出発物質の使用;
・Li金属又はLiHのような空気及び水分に感受性の固体を用いる操作の回避;
・適度な温度での反応実施、それにより、加熱又は冷却のための追加のエネルギーが不要である;
・ろ過及び乾燥のような単純な方法による生成物の単離;
・LiSHを破壊するための加熱のような更なる精製工程を回避する、純相の生成物の取得。
【0014】
本発明により得られる硫化リチウムは、ガルバニ電池における正極材として、Liイオン伝導性固体の合成に、特にガラス、ガラスセラミック又は結晶質生成物の合成に及び特に好ましくはLiアルジロダイトの合成に、使用される。
【0015】
例1:硫化水素からの硫化リチウムの製造
温度センサ、ガス導入管(浸漬管)及びガス導出部(ガスメーター及びガススクラバーを経る)を取り付け、不活性化された3l平面すり合わせタイプのジャケット式反応器中に、アルゴン雰囲気下で、n−ブチルリチウム(ヘキサン中2.4M)1000g(1449ml、3.47モル、1.0当量)を装入し、引き続き、更に380mlのヘキサンを添加する。撹拌しながら、該反応溶液を10℃に冷却する。引き続き、10〜15℃で3hかけて、全部で59g(38.7l、1.73モル、0.5当量)の硫化水素を、浸漬管を経て該反応溶液中へ導通する。その際に、無色の固体が沈殿するようになる。該反応懸濁液を、撹拌しやすく維持するために、全部で更に550mlのヘキサンを添加する。ガス導入が終わった後に、反応器内容物を室温(22℃)に加温し、更に2h撹拌する。引き続き、該反応懸濁液を、G3フィルターを通してろ過し、残っている無色の固体を、複数に分けたヘキサンで念入りに洗浄する。得られた固体を、高真空中で室温で恒量まで乾燥させ、引き続き粉末X線回折法(XRD)により分析する。純相の硫化リチウムが得られた。