特許第6016907号(P6016907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6016907水再分散性エポキシポリマー粉体および同粉体を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016907
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】水再分散性エポキシポリマー粉体および同粉体を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20161013BHJP
   C08L 51/08 20060101ALI20161013BHJP
   C08F 283/10 20060101ALI20161013BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20161013BHJP
   C08F 2/20 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   C08L63/00 A
   C08L51/08
   C08F283/10
   C08J3/12 101
   C08J3/12CFC
   C08F2/20
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-517018(P2014-517018)
(86)(22)【出願日】2012年6月13日
(65)【公表番号】特表2014-520196(P2014-520196A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】US2012042114
(87)【国際公開番号】WO2012177448
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2015年5月29日
(31)【優先権主張番号】61/500,167
(32)【優先日】2011年6月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン,リン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,リン
(72)【発明者】
【氏名】セカラン,マネシュ,エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】ラドラー,マイケル,ジェイ.
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−286504(JP,A)
【文献】 特開2007−146100(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0197831(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00−63/10
C08F 283/00
C08F 283/02−283/14
C08F 2/00−2/60
C08J 3/00−3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂粒子を含む水性再分散性エポキシポリマー粉体であって、
前記エポキシ樹脂粒子が、
(a)エポキシ樹脂、
(b)各エポキシ樹脂粒子周囲のアルカリ可溶性ポリマーシェルであって、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するのに重合されるモノマーの合計重量に基づいて少なくとも5重量パーセントでかつ40重量パーセント以下の、カルボン酸モノマーおよび無水物モノマーから選択されるモノマーから製造されるポリマーを含み、およびフォックスの式により算出された場合に少なくとも60℃のガラス転移温度を有する、アルカリ可溶性ポリマーシェル、並びに
(c)分散助剤
を含み、
エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした合計重量に基づいて、これらの3つの各成分を一緒にした重量パーセントが100重量パーセントとなるような、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤の重量パーセントで、前記エポキシ樹脂が50重量パーセントより多くかつ88重量パーセント以下の濃度で存在し、前記アルカリ可溶性ポリマーシェルが10から48重量パーセント未満の範囲の濃度で存在し、並びに前記分散助剤が2から25重量パーセントの濃度で存在する、
水性再分散性エポキシポリマー粉体。
【請求項2】
前記水性再分散性ポリマー粉体が、9−11の範囲のpHを有する水性液体中に分散された際に、コールターカウンター粒子サイズおよびカウント分析器を使用して、ISO 13320−2009に従ってレーザー回折により測定された場合に、前記エポキシ樹脂粒子が、2マイクロメートル以下の平均粒径を有することによりさらに特徴付けられる、請求項1記載の水性再分散性エポキシポリマー粉体。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした合計重量に基づいて、少なくとも75重量パーセントの濃度で存在することによりさらに特徴付けられる、請求項1記載の水性再分散性エポキシポリマー粉体。
【請求項4】
1分あたり10℃の加熱および冷却速度を使用して、ASTM D7426−08により測定された場合に、前記エポキシ樹脂が20℃以下のガラス転移温度を有することによりさらに特徴付けられる、請求項1記載の水性再分散性ポリマー粉体。
【請求項5】
前記アルカリ可溶性ポリマーシェルが、メチルメタクリレートとメタクリル酸とのコポリマーを含み、およびフォックスの式により算出された場合、少なくとも100℃のガラス転移温度を有することによりさらに特徴付けられる、請求項1記載の水性再分散性エポキシポリマー粉体。
【請求項6】
前記分散助剤が、ポリビニルアルコールを、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤の合計重量に基づいて、少なくとも5重量パーセントの濃度で含むことによりさらに特徴付けられる、請求項1記載の水性再分散性エポキシポリマー粉体。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂が−40℃から50℃の範囲のガラス転移温度を有し、前記アルカリ可溶性ポリマーシェルがアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸からなる群から選択され、かつ前記アルカリ可溶性ポリマーシェルが、フォックスの式を使用して算出された場合に100℃より高いガラス転移温度を有するように選択される、重合されたモノマーからなるポリマーを含み、前記分散助剤が、ポリビニルアルコールを、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤の合計重量に基づいて、少なくとも5重量パーセントの濃度で含むことによりさらに特徴付けられる、請求項1記載の水性再分散性エポキシポリマー粉体。
【請求項8】
請求項1記載の水性再分散性エポキシポリマー粉体を製造するための方法であって、
(a)水性相中にエポキシ樹脂を分散させて、エポキシ樹脂粒子の重量に対して50重量パーセントより多いエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂粒子の当初エポキシ樹脂分散物を形成する工程、
(b)次の重合工程(c)の前の時点、または次の重合工程(c)と同時の時点のいずれかまたはその組み合わせにおいて、重合工程(c)の際に、当初エポキシ分散物中に存在するように、選択した不飽和モノマーを導入する工程であって、前記不飽和モノマーの少なくとも5重量パーセントでかつ40重量パーセント以下が、カルボン酸モノマーおよび無水物モノマーから選択される工程、
(c)フリーラジカル開始剤を前記当初エポキシ樹脂分散物に供給し、並びに前記不飽和モノマーを重合して各エポキシ樹脂粒子周囲のアルカリ可溶性ポリマーシェルにするように、前記分散物、フリーラジカル開始剤およびモノマーを攪拌しながらフリーラジカル重合をもたらす条件に供する工程、並びに
(d)アルカリ可溶性ポリマーシェルを有する前記エポキシ樹脂粒子から水性相を除去して、水性再分散性エポキシポリマー粉体を取得する工程を含み、
(i)分散助剤が、工程(a)−(d)のいずれかの前または最中の1つ以上の時点で、エポキシ樹脂または分散物に添加され、
(ii)前記アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成する得られたポリマーが、フォックスの式により算出された場合に少なくとも60℃のガラス転移温度を有するように、工程(b)における前記不飽和モノマーが選択され、並びに
(iii)得られた水性再分散性エポキシポリマー粉体が、50重量パーセントより多くかつ88重量パーセント以下の濃度のエポキシ樹脂、10から48重量パーセント未満の範囲の濃度のアルカリ可溶性ポリマーシェル、および2から25重量パーセントの合計の分散助剤を有するように、エポキシ樹脂、不飽和モノマーおよび分散助剤の量が選択され、ここでエポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤の前記濃度が、それぞれ、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした重量パーセントが100重量パーセントとなるようなエポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした合計重量に対して相対的である、
方法。
【請求項9】
前記不飽和モノマーの少なくとも一部分が、工程(a)の前に前記エポキシ樹脂と混合される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
不飽和モノマーの少なくとも一部分が、工程(c)中に、前記当初エポキシ分散物中に供給される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
メチルメタクリレートが、工程(a)の前に前記エポキシ樹脂に添加され、およびメタクリル酸が、工程(a)後で工程(c)中もしくは工程(c)前に、不飽和モノマーとして添加される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
工程(a)が、エポキシ樹脂を軟化状態で提供し、および前記軟化エポキシ樹脂を、せん断を適用しつつ水性相に供給して、前記エポキシを分散させることを含む、請求項8記載の方法。
【請求項13】
9−11の範囲のpHを有する水性媒体に再分散すると、2ミクロン以下の平均粒径を有するエポキシ粒子の分散物を生じる、水性再分散性エポキシポリマー粉体を工程(d)において形成することによりさらに特徴付けられる、請求項8記載の方法。
【請求項14】
工程(d)が、固結防止剤を導入しながら、前記エポキシ樹脂粒子をスプレー乾燥することを必要とする、請求項8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水再分散性エポキシポリマー粉体を製造するための方法、ならびに、得られた水再分散性エポキシポリマー粉体およびエポキシポリマー粒子の分散物に関する。
【背景技術】
【0002】
水再分散性ポリマー(RDP)粉体は、水性流体と混合した状態で解離し、水性流体中でポリマー分散物を形成する、ポリマー粒子の乾燥粉体である。ポリマーバインダーの水RDP粉体は、得られた材料の最終的な特性を向上する目的において、セメント系材料、例えば、モルタル、グラウトおよびコンクリートの乾燥配合物における、有用な添加剤である。エポキシは、例えば、堅牢性を向上し、透水性を低下させ、および/または、セメント系材料における化学物質および汚れに対する抵抗性を向上するためのセメント系配合物への望ましい添加剤である。エポキシは、液体状の分散物としてセメント系配合物に添加され得る。ただし、輸送、配合および取扱いの便宜のために、水RDP粉体の形態でのエポキシ添加剤を、乾燥セメント配合物に含ませることが望ましい。エポキシ樹脂のRDP粉体は、このような材料に関する要望にも関わらず周知ではない。エポキシポリマーをまさに含むエポキシ樹脂を含むそれらRDP粉体は、他のポリマー(典型的には、エマルジョンポリマー化されたポリマー)にブレンドされた、少量(50wt%以下)のエポキシ樹脂を含む。
【0003】
米国特許出願公開第20100197831号は、50wt%以下のエポキシポリマーを含むポリマーの組み合わせの、水再分散性粉体を開示する。このポリマー粉体は、非エポキシポリマーを乳化重合し、その後、エマルジョンポリマーにエポキシ樹脂を添加し、得られたポリマーブレンド粒子を粉体として単離することにより調製される。
【0004】
米国特許出願公開第20010024644号は、モノマーの乳化重合によるポリマー粒子の分散物を調製し(その10重量パーセントまではエポキシ官能性を含むことができる)、50wt%以下の非共重合性の二官能性エポキシをエマルジョン粒子内に包含させるための方法を開示する。得られたエマルジョン粒子は、単離されて、水再分散性ポリマー粉体を形成し得る。
【0005】
欧州特許出願公開第723975号は、50重量パーセント以下のエポキシド基含有エチレン性不飽和コモノマーを含むコポリマーを含む水再分散性ポリマー粉体を開示する。
【0006】
これらの参考文献に欠けているのは、RDP粒子重量に基づいて、50wt%より多いエポキシ樹脂を含むRDP粉体を形成するための方法である。このようなRDP粉体は、乾燥粉体の形態でのエポキシ樹脂の集中輸送に望ましいであろう。これらの参考文献にさらに欠けているのは、エポキシ樹脂が、RDP粉体として単離される時の温度より低い、もしくは、さらに使用時の温度より低いガラス転移温度を有する、RDP粉体粒子重量に基づいて、50wt%より多いエポキシ樹脂を含むRDP粉体を形成するための方法、または、このようなRDP粉体を調製するための方法である。このようなRDP粉体は、集中輸送および、セメント系配合物へのエポキシの素早い解離のために非常に望ましいであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第20100197831号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第20010024644号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第723975号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明は、前述の望ましい特性を有するエポキシRDP粉体(または、単に「エポキシRDP」)を調製するための方法を驚くべきことに提供することにより、公知技術に対する進歩を提供する。具体的には、本発明の方法は、エポキシRDP粒子の合計重量に基づいて、50wt%より多いエポキシ樹脂を含むエポキシRDPを調製する方法に付随する課題を、例えば、RDPの形成を可能にする分散助剤およびシェル形成性ポリマーの種類および濃度の適切な組み合わせを見いだすことにより克服した。さらに、本発明の望ましい実施形態は、RDPとして単離される温度で、エポキシが液体状であるようなエポキシRDPの形成を可能にする方法を、さらに提供する。さらに、本発明の方法は、単離および再分散中に安定であるが、セメント系配合物に配合された際に、バインダーとして使用するために、エポキシを容易に放出するようなエポキシRDPを調製するための方法を提供する。これらの成果は、一部において、分散された樹脂粒子を得るために、まず、エポキシ樹脂を溶解するための乳化重合されたシードラテックスの形成を必要とせずに、分散された樹脂粒子周囲のアルカリ可溶性シェルを製造することが可能であるという、驚くべき発見による。更なる発見は、スプレー乾燥および、RDP粉体として保存中における粒子間の拡散から、エポキシ樹脂を保護することが可能であるが、アルカリ環境、例えば、セメント系配合物に配合された際に、エポキシを放出することが可能な、エポキシ粒子周囲のアルカリ可溶性シェルの製造方法である。
【0009】
第1の態様では、本発明は、エポキシ樹脂粒子を含む水性再分散性エポキシポリマー粉体であって、前記エポキシ樹脂粒子が、(a)エポキシ樹脂、(b)各エポキシ樹脂粒子周囲のアルカリ可溶性ポリマーシェルであって、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するのに重合されるモノマーの合計重量に基づいて少なくとも5重量パーセントおよび40重量パーセント以下の、カルボン酸モノマーおよび無水物モノマーから選択されるモノマーから製造されるポリマーを含み、かつフォックスの式により算出された場合に少なくとも60℃のガラス転移温度を有する、アルカリ可溶性ポリマーシェル、並びに(c)分散助剤を含み、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした合計重量に基づいて、これらの3つの各成分を一緒にした重量パーセントが100重量パーセントとなるような、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤の重量パーセントで、前記エポキシ樹脂が50重量パーセントより多くかつ90重量パーセント以下の濃度で存在し、前記アルカリ可溶性ポリマーシェルが10から50重量パーセントの範囲の濃度で存在し、前記分散助剤が2から25重量パーセントの濃度で存在する、水性再分散性エポキシポリマー粉体である。
【0010】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の水性分散性エポキシポリマー粉体を製造する方法であって、(a)水性相中にエポキシ樹脂を分散させて、エポキシ樹脂粒子の重量に対して50重量パーセントより多いエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂粒子の当初エポキシ樹脂分散物を形成する工程、(b)次の重合工程(c)の前の時点、または次の重合工程(c)と同時の時点のいずれかまたはその組み合わせにおいて、重合工程(c)の際に、当初エポキシ分散物中に存在するように、選択した不飽和モノマーを導入する工程であって、前記不飽和モノマーの少なくとも5重量パーセントかつ40重量パーセント以下が、カルボン酸モノマーおよび無水物モノマーから選択される工程、(c)フリーラジカル開始剤を前記当初エポキシ樹脂分散物に供給し、前記不飽和モノマーを重合して各エポキシ樹脂粒子の周囲のアルカリ可溶性ポリマーシェルにするように、前記分散物、フリーラジカル開始剤およびモノマーを攪拌しながらフリーラジカル重合をもたらす条件に供する工程、並びに(d)アルカリ可溶性ポリマーシェルを有するエポキシ樹脂粒子から水性相を除去して、水性再分散性エポキシポリマー粉体を取得する工程を含み、(i)分散助剤が、工程(a)−(d)のいずれかの前または最中の1つ以上の時点で、エポキシ樹脂または分散物に添加され、(ii)工程(b)における前記不飽和モノマーが、前記アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成する得られたポリマーが、フォックスの式により算出された場合に少なくとも60℃のガラス転移温度を有するように選択され、並びに(iii)得られた水性再分散性エポキシポリマー粉体が、50重量パーセントより多くかつ90重量パーセント以下の濃度のエポキシ樹脂、10から50重量パーセントの範囲の濃度のアルカリ可溶性ポリマーシェル、および2から25重量パーセントの合計の分散助剤を有するように、エポキシ樹脂、不飽和モノマーおよび分散助剤の量が選択され、ここでエポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤の前記濃度が、それぞれ、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした重量パーセントが100重量パーセントとなるようなエポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした合計重量に対して相対的である、方法である。
【0011】
第3の態様では、本発明は、第1の態様の水性再分散性エポキシポリマー粉体の分散物であり、該分散物は水溶液中に分散されたエポキシ樹脂粒子を含むエポキシ粒子を含み、前記エポキシ樹脂粒子は、(a)エポキシ樹脂、(b)各エポキシ樹脂粒子周囲のアルカリ可溶性ポリマーシェルであって、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するのに重合されるモノマーの合計重量に基づいて少なくとも5重量パーセントおよび40重量パーセント以下の、カルボン酸モノマーおよび無水物モノマーから選択されるモノマーから製造されるポリマーを含み、かつフォックスの式により算出された場合に少なくとも60℃のガラス転移温度を有する、アルカリ可溶性ポリマーシェル、並びに(c)分散助剤を含み、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした合計重量に基づいて、これらの3つの各成分を一緒にした重量パーセントが100重量パーセントとなるように、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤の重量パーセントで、前記エポキシ樹脂が50重量パーセントより多くおよび90重量パーセント以下の濃度で存在し、前記アルカリ可溶性ポリマーシェルが10から50重量パーセントの範囲の濃度で存在し、および分散助剤が2から25重量パーセントの濃度で存在する、分散物である。
【0012】
本発明の方法は、本発明のエポキシRDPを製造するのに有用である。本発明のエポキシRDPは、乾燥ブレンド可能な成分として、セメント系配合物中にエポキシバインダーを配合するのに有用である。本発明の分散物は、本発明のエポキシRDPを製造する方法における中間工程として、およびより一般には、バインダー組成物として双方で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
「ASTM」は、ASTM Internationalを意味し、ASTMにより公開されている番号で試験方法を指定するのに使用される。「ISO」は、国際標準化機構を意味し、ISO試験法番号を特定するのに使用される。試験番号は、試験番号の後ろのハイフンで結んだ接尾辞を使用する日付によって特に断らない限り、本願明細書の優先日前に公開された最新の試験を意味する。「複数(Multiple)」は、2つ以上を意味する。「および/または」は、「および、または別の方法として」を意味する。全ての範囲は、特に断らない限り、終点を含む。
【0014】
材料の「ガラス転移温度」または「Tg」は、1分あたりに10℃の加熱および冷却速度を使用して、ASTM D7426−08により測定された場合の、ガラス転移温度の値を意味する。
【0015】
本願明細書での分散物における粒子に関する粒径は、コールターカウンター粒子サイズおよびカウント分析器を使用して、ISO 13320−2009に従うレーザー回折により測定された場合の、平均体積−平均粒径に関して与えられる。
【0016】
本願明細書では、「エポキシRDP粒子の合計重量」は、「エポキシRDP粒子中のエポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした重量」と互換性である。
【0017】
水性再分散性エポキシポリマー粉体(「エポキシRDP」)
本発明は、乾燥再分散性粉体の形態において、高濃度のエポキシ樹脂を提供する要求を満たす、新規なエポキシRDPを提供する。エポキシRDPは、セメント系配合物のためのバインダー添加剤として、特に有用なように設計される。エポキシRDPの設計は、アルカリ配合物における、粒子間の拡散に由来するエポキシ樹脂由来の不可逆的な凝集から、エポキシ粒子を保護するために、各エポキシ粒子周囲に保護アルカリ可溶性ポリマーシェルを持たせることである。エポキシRDPは、エポキシ樹脂、各粒子周囲のアルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を含むエポキシ樹脂粒子を含む。
【0018】
エポキシ樹脂は、エポキシRDP粒子の合計重量に基づいて、50重量パーセント(wt%)より多く、好ましくは65wt%以上、さらにより好ましくは75wt%以上の濃度で存在し、85wt%以上の濃度で存在することができ、90wt%以下の濃度である。このような高濃度のエポキシ樹脂は、本エポキシRDPの発明者らに知られるいずれのRDP粉体でも前例がない。
【0019】
エポキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)は、本発明の最も幅広い範囲において制限されない。ただし、エポキシ樹脂は、典型的に、セ氏100度(℃)以下、好ましくは90℃以下、さらにより好ましくは75℃以下、さらにより好ましくは50℃以下のTgを有するであろう。より低いTgのエポキシ樹脂が、より高いTgのエポキシ樹脂と比較して、バインダーとして配合物に分布された場合により素早く拡散するため、およびそれらはより低い温度、さらに室温以下でも塗膜形成するため望ましい。しかし、より低いTgの樹脂は、RDP粒子間でより容易に拡散する傾向があり、エポキシ粉体の効果的な再分散を不可能にする、粒子の不可逆的な凝集の原因となるために、RDPとして単離するのがより大きな課題である。このことは、RDPの形成中、RPDの保存中に液状であるエポキシ樹脂に関して、特に課題であり、最も大きな課題は、エポキシ樹脂がRDPの配合および保存の両方の際に液体状である場合である。この課題は、エポキシRDP粒子における比較的高濃度のエポキシ樹脂によって、本発明のエポキシRDPにおいて強調される。粒子間のエポキシ樹脂の拡散は、本発明の範囲のエポキシ樹脂濃度がRDP形態において知られていないことの一つの理由であると考えられる。本発明の驚くべき態様の1つは、エポキシRDPにおけるエポキシ樹脂が、25℃以下、さらに20℃以下、さらに0℃以下のTgを有することができ、したがって、高エポキシ樹脂濃度の本発明のエポキシRDP粒子でさえも、粒子の再分散性を維持しながら、エポキシRDPの形成およびエポキシRDPの保存中に液体状のエポキシ樹脂であることができることである。一般に、エポキシ樹脂のTgは、主として−40℃以上である。市販のエポキシ樹脂が、この値より高いTgを有する傾向があるためである。
【0020】
本発明に使用するのに適切なエポキシ樹脂としては、脂肪族、芳香脂肪族および芳香族のエポキシ化合物があげられる。芳香族性を有するエポキシ樹脂は、より容易に利用でき、より望ましい化学的および物理的特性を有する傾向にあるため、特に望ましい。エポキシ樹脂は、フリーラジカル重合に、樹脂を供するであろうエチレン性不飽和を含まない。エポキシ樹脂は、1つの分子あたりに少なくとも2つのエポキシド基を有する。本発明に使用するのに特に望ましいエポキシ樹脂としては、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンまたはメチルエピクロロヒドリンとの縮合物(「ビスフェノールA型樹脂」)および、ビスグリシジルオキシフェニルメタンの混合物を一般に含むビスフェノールFに基づくエポキシ樹脂(「ビスフェノールF型樹脂」)があげられる。エポキシ樹脂は、硫黄を含まないことができ、望ましくは硫黄を含まない。
【0021】
エポキシRDPにおけるエポキシ樹脂の粒子は、さらに、エポキシ樹脂周囲のアルカリ可溶性ポリマーシェルを含む。アルカリ可溶性シェルは、複数の目的に役立つと考えられる。アルカリ可溶性シェルは、1つの粒子から別の粒子への拡散からエポキシ樹脂を保護することにより、粒子の不可逆的な凝集を不可能にするのに役立つと考えられる。シェルが、粒子において、エポキシ樹脂とブレンドされているのではなく、粒子周囲に戦略的に配置されているため、粒子は、乳化重合された粒子内にブレンドされたエポキシ樹脂を含む現在の技術のエポキシRDP粒子におけるより、非常に低濃度のシェル(および、したがって、非常に高濃度のエポキシ樹脂)を含み得る。アルカリ可溶性ポリマーシェルは、さらに、エポキシがセメント系(または他のアルカリ)配合物において、バインダーとしての使用が望まれる場合、エポキシを放出するための手段として役立つ。水性アルカリ組成物中に本発明のエポキシRDP粒子を分散させると、アルカリ可溶性シェルは弱まり、エポキシ樹脂を放出して組成物中に拡散させる。
【0022】
アルカリ可溶性シェルは、粒子が塩基(アルカリ)に曝されるまで、粒子からのエポキシ樹脂の解離または拡散に対するバリアを形成する、粒子におけるエポキシ樹脂コア周囲のポリマーシェルである。アルカリ可溶性シェルは、エポキシ拡散に対するバリアとして作用する場合、酸官能性を有する。塩基に曝されると、酸官能性が中和され、その結果、水溶液中のシェルポリマーは膨潤し、および望ましくはある程度溶解し、これにより、エポキシ樹脂コアを保護するシェルポリマーのバリア特性が弱くなる。結果として、塩基への暴露は、シェルのバリア特性を弱くするか、またはさらに無くし、コア中のエポキシ樹脂の放出の引き起こすことができ、例えば、アルカリ溶液において、バインダーとして作用する。好ましくは、0.8から1.5当量の塩基が、シェルにおける酸官能性を十分に中和し、水溶液でのシェルポリマーの膨潤および/または解離を引き起こすのに使用される。
【0023】
そのアルカリ溶解特性を達成するために、アルカリ可溶性ポリマーシェルは、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するのに重合されるモノマーの合計重量に基づいて、少なくとも5wt%、好ましくは10wt%以上、さらにより好ましくは15wt%以上、およびさらにより好ましくは、20wt%以上のカルボン酸モノマーおよび無水物モノマーから選択されるモノマーから製造されたポリマーを含む。同時に、アルカリ可溶性ポリマーシェルは、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するのに重合されたモノマーの合計重量に基づいて、40wt%以下、好ましくは30wt%以下のカルボン酸および無水物モノマーから選択される共重合されたモノマーを有する。適切なカルボン酸モノマーとしては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸があげられるが、メタクリル酸が最も好ましい。適切な無水物モノマーとしては、メタクリル酸無水物、マレイン酸無水物およびイタコン酸無水物があげられる。望ましくは、カルボン酸モノマーおよび無水物モノマーの選択は、カルボン酸モノマーを含むか、または、カルボン酸モノマーからなり、最も好ましくは、メタクリル酸を含むか、または、メタクリル酸からなる。
【0024】
アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するのに共重合される残りのモノマーは、望ましくは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、スチレン、置換スチレン、アクリロニトリル、ビニルアセテート、1から12個の炭素のアルキル基を有する他のアルキルアクリレートからなる群から選択される。モノマーは、フォックス式を使用して算出された場合に、60℃以上、好ましくは75℃以上、さらにより好ましくは90℃以上、さらにより好ましくは100℃以上のガラス転移温度(Tg)を有するアルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するように選択される。特にアルカリ可溶性ポリマーシェルをある程度可塑化し得る分散助剤等の成分の存在下では、アルカリ可溶性ポリマーシェルが、エポキシRDP粒子の単離中に、粒子の不可逆的な凝集に抵抗する高いTgを有することが望ましい。アルカリ可溶性ポリマーシェルのTgを、フォックス式:
【数1】
を使用して算出する。式中、Tgcopolymerは、アルカリ可溶性ポリマーシェルコポリマーのTgであり、wfは、アルカリ可溶性ポリマーシェルコポリマーにおけるモノマー「i」の重量分率であり、Tgは、モノマー「i」から製造されたホモポリマーのガラス転移温度であり、総和は、全てのモノマー「i」に関する。
【0025】
アルカリ可溶性ポリマーシェルは、望ましくは、1モルあたり2,500グラム(g/モル)以上、好ましくは5,000g/モル以上の重量平均分子量を有し、同時に望ましくは、500,000g/モル以下、一般に250,000g/モル以下、および典型的に100,000g/モル以下の重量平均分子量を有する。アルカリ可溶性ポリマーシェルの重量平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィーにより決定する。
【0026】
1つの望ましいアルカリ可溶性ポリマーシェルは、アルカリ可溶性ポリマーシェルコポリマーを形成するために共重合されるモノマーの合計に基づくwt%により、5から40wt%の、カルボン酸および無水物から選択されるモノマーと、30から95wt%の、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレートおよびスチレンから選択されるモノマーと、0から30wt%のカルボン酸のヒドロキシアルキルエステルまたはアクリルアミドもしくはメタクリルアミドとのコポリマーである。
【0027】
特に望ましいアルカリ可溶性ポリマーシェルは、メタクリル酸とメチルメタクリレートとのコポリマーを含むか、または、さらにメタクリル酸とメチルメタクリレートとのコポリマーからなる。このようなコポリマーにおいて、共重合されるメタクリル酸の濃度は、望ましくは5wt%以上、好ましくは10wt%以上、さらにより好ましくは15wt%以上、およびさらにより好ましくは、20wt%以上であり、一方同時に望ましくは、60wt%以下、好ましくは50wt%以下、および典型的には、40wt%以下である。コポリマーの残部は、共重合されるメチルメタクリレートである。
【0028】
アルカリ可溶性シェルは、エポキシRDP粒子の表面周囲に主に配置され、これにより、粒子内のエポキシ樹脂を効果的に保護する。したがって、アルカリ可溶性シェルの濃度は、エポキシ樹脂の濃度以下とすることができ、さらにエポキシRDP粒子の不可逆的な凝集を不可能にする。アルカリ可溶性シェルは、エポキシRDP粒子の合計重量に対して、典型的には、50wt%未満、好ましくは40wt%以下、より好ましくは30wt%以下、さらにより好ましくは25wt%以下の濃度で存在し、同時に望ましくは、10wt%以上、好ましくは15wt%以上、およびさらにより好ましくは、20wt%以上の濃度で存在する。
【0029】
分散助剤が、エポキシRDPとあわせて存在する。分散助剤は、1つ以上の材料の別のものへの分散を容易にする材料である。本発明の場合、分散助剤は、水性相中に油相を分散するのを容易にする。具体的には、分散助剤は、水性相中にエポキシ樹脂粒子を分散するのを容易にする。分散助剤は、エポキシRDPを調製するための本発明の方法に有用であり得る。代替的にまたは追加的に、分散助剤は、水溶液中にエポキシ粒子を分散するのを容易にするためにエポキシRDPに含まれる添加剤として有用であり得る。適切な分散助剤としては、界面活性剤(アニオン性、カチオン性および/または非イオン性)があげられる。最も望ましい分散助剤は、ポリビニルアルコール(PVOH)、好ましくは部分的に加水分解されたPVOHである。PVOHに加えて、またはPVOHの代替物として適切な他の分散助剤としては、セルロース誘導体、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルビニルエーテルのポリマー、ポリビニルピロリドン、および、モノマー酸、例えば、アクリル酸のコポリマーがあげられる。望ましくは、分散助剤は、エチレンオキシド基を含む界面活性剤を5wt%未満の量で含む。このような界面活性剤は、アルカリ可溶性シェルの保護特性を妨害し得るためである。
【0030】
分散助剤は、エポキシRDP中に、エポキシRDP粒子の合計重量に対するwt%で、2wt%以上、好ましくは5wt%以上、さらにより好ましくは7wt%以上の濃度で存在し、10wt%以上の濃度で存在することができ、一方同時に、一般に、25wt%以下、好ましくは20wt%以下、およびより好ましくは、15wt%以下の濃度で存在する。
【0031】
本発明の特に望ましいRDPは、エポキシRDP粒子の合計重量に対して、5wt%以上、好ましくは7wt%以上の濃度の分散助剤としてのPVOHを含むか、または、これからなり、10wt%以上の濃度で存在することができ、一方同時に望ましくは、20wt%以下、好ましくは15wt%以下の濃度で存在する。
【0032】
水性再分散性ポリマー粉体の再分散性特性は、エポキシRDPが、水性媒体に分散して、微粒子の分散物を形成可能であることを意味し、この分散物は、本発明の分散物でもある。これは、例えば、微粒子に再分散不可能な不可逆的に凝集した粒子の粉体とは対照的である。本発明のエポキシRDPは、9−11の範囲のpHで水性媒体(好ましくは、水)に分散された場合、5マイクロメートル以下、好ましくは2マイクロメートル以下、さらにより好ましくは1マイクロメートル以下、さらにより好ましくは1マイクロメートル未満、およびさらにより好ましくは、750ナノメートル以下の、および500ナノメートル以下であり得る、粒径を有するエポキシ粒子の分散物を形成する。特に、形成される分散物のpHは、必ずしも9−11の範囲のpHに収める必要はなく、むしろ、効果的な再分散を確保するために、エポキシRDP粒子のアルカリ可溶性シェルにおける酸を中和するために、当初水性媒体には十分な塩基が存在すべきである。本発明の再分散されたエポキシRDP粒子に関するエポキシの粒径についての下限は不明であるが、粒子は、一般に、1ナノメートルより大きい、およびより典型的には、10ナノメートル以上の粒径を有する。
【0033】
特に、その再分散されていない乾燥形態における本発明のエポキシRDPは、再分散されたエポキシ粒子のエポキシ粒径より大きく見える、エポキシ粒径を有し得る。粉体の形態では、エポキシ粒子は、互いに会合して粒子のクラスターを形成する傾向がある。本発明の有益な特徴は、これらの粒子のクラスターが、水溶液中で解離して、互いに不可逆的に凝集したままではなく、微粒子の分散物への再分散を可能にすることである。
【0034】
固結防止剤が、多くの場合、本発明のエポキシRDPとあわせて分散される。固結防止剤は、エポキシ粒子を単離するためにエポキシ分散物をスプレー乾燥する際に、有用である。典型的な固結防止剤としては、無機充填剤、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク、アルミナ水和物、ベントナイト、スルホアルミン酸カルシウムおよびシリカがあげられる。エポキシRDP中の固結防止剤の濃度は、エポキシRDPの合計重量に対して、典型的には50wt%以下、好ましくは20wt%以下、より好ましくは15wt%以下、さらにより好ましくは10wt%以下、およびさらにより好ましくは、5wt%以下である。エポキシRDPは、固結防止剤を含まないことができるが、エポキシRDPの合計重量に対して、一般には0.5wt%以上、好ましくは2wt%以上、およびより好ましくは、5wt%以上を含む。
【0035】
本発明の特に望ましいエポキシRDPは、−40℃から50℃(50℃の値を含むこともできるし、または含まないこともできる)ガラス転移温度を有するエポキシ樹脂、アクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸からなる群から選択され、および、アルカリ可溶性シェルポリマーが、フォックスの式を使用して算出された場合に、100℃より高いガラス転移温度を有するように選択される、重合されたモノマーからなるポリマーを含むアルカリ可溶性ポリマーシェルを含み、RDP内において、分散助剤が、ポリビニルアルコールを、エポキシRDPの合計重量に基づいて、少なくとも5wt%の濃度で含むことを特徴とする。このエポキシRDPの特に望ましい実施形態では、アルカリ可溶性ポリマーシェルは、メタクリレートとメチルメタクリレートとのコポリマーである。
【0036】
本発明のエポキシRDPは、セメント系成分と配合して、エポキシ修飾セメントを形成するのに特に有用である。乾燥エポキシRDPは、セメント成分と乾燥ブレンドされて、水の添加前に容易なブレンドを確保し得る。水は、粘度の増加をもたらし、ブレンドおよび混合の困難性の向上を伴う傾向がある。水を添加すると、エポキシRDP中のエポキシ粒子は、セメント成分周囲に再分散し、溶液のアルカリ環境は、粒子周囲のアルカリ可溶性ポリマーシェルに、エポキシを放出させて、セメント配合物全体にわたってバインダーとして作用させる。
【0037】
本発明のエポキシRDPに関する特に望ましい使用は、モルタルの調製に使用するための、エポキシRDP、セメントおよび砂を含む、1成分乾燥混合システムとしての使用である。1成分乾燥混合システムからのモルタルの調製は、この1成分乾燥混合システムへの水の添加を単に必要とするだけである。ついで、モルタルは、基材に適用され得る。更なるまたは別の硬化剤は、乾燥混合システムまたはモルタルのいずれにも必要でない。高いアルカリ含量の水和セメントは、エポキシRDPにおけるエポキシ基の架橋を促進し、ひいては、別の硬化添加剤を必要とする公知の3パートシステムに匹敵する曲げ強度を、得られたモルタルに提供する。
【0038】
再分散性エポキシポリマー粉体を調製するための方法
本発明の方法は、本発明のエポキシRDPを調製する。本発明の方法の特徴的な特色は、水性相におけるエポキシ樹脂の分散物の直接的な形成であり、これは、エポキシRDPを形成するために、十分に小さなエポキシ樹脂粒子を得るために乳化重合中またはその後に、ラテックス粒子中にエポキシ樹脂を分散させることを必要とする他の方法とは対照的である。結果として、本方法のエポキシRDP粒子およびエポキシRDPは、従来技術の乳化重合法のものよりも、高い濃度のエポキシ樹脂を含む。
【0039】
本発明の方法は、水性相中にエポキシ樹脂を分散して、エポキシ樹脂粒子の当初水性分散物(「当初エポキシ樹脂分散物」)を形成する工程を必要とする。エポキシ樹脂RDPを形成するための前駆物質である先行技術における他のエポキシ分散物とは異なり、分散されたエポキシ樹脂粒子は、水性相中に直接分散されて、分散されたエポキシ樹脂粒子を形成する。分散されたエポキシ樹脂粒子は、エポキシ樹脂分散物を形成する工程中に、乳化重合されたポリマーを含まないことができる。実際に、当初エポキシ樹脂分散物におけるエポキシ樹脂粒子は、エポキシ樹脂粒子の合計重量に基づいて、50wt%より多い、好ましくは65wt%以上、さらにより好ましくは75wt%以上のエポキシ樹脂であり、85wt%以上、90wt%以上、およびさらに、95wt%以上のエポキシ樹脂であり得る。水性相は、単に水であり得る。
【0040】
本発明の方法に使用するのに適したエポキシ樹脂は、本発明のエポキシRDPについて適切な、本願明細書において前述のものと同様である。
【0041】
本発明の最も広い範囲において、エポキシ樹脂を水性相中に分散して、当初エポキシ樹脂分散物を形成する方法は、重要ではない。エポキシ樹脂を微粉に挽くか、または、粉砕し(例えば、低温粉砕)、その微粉を水性相中に分散するのが適切である。ただし、分散前にエポキシ樹脂を挽くか粉砕する必要を回避して、水性相中にそれを分散しながら、エポキシ樹脂を直接小さな粒子に壊す(すなわち、エポキシ樹脂を直接水性相中に分散する)のが望ましい。水性相中にエポキシ樹脂を直接分散することは、一般に、エポキシ樹脂を軟化した状態にし、それをせん断下で水性相と混合することにより達成される。せん断は、水性相中にそれらの粒子を分散させる場合、エポキシ樹脂を粒子に壊すのに役立つ。エポキシ樹脂を軟化した状態にすることは、せん断下で樹脂を粒子に破壊するのを容易にする。エポキシ樹脂は、その分子が、互いに関して流動することが可能である場合に、「軟化した状態」にある。より軟化した、より流動的なエポキシ樹脂は、分散中により容易に粉砕される。
【0042】
軟化した状態のエポキシ樹脂を提供するための1つの方法は、そのTgより高い温度でエポキシ樹脂を提供することである。したがって、本発明の方法の間に、水性相中でそれを分散する際に、そのTgより高い温度で、エポキシ樹脂を提供することが望ましい。さらに、水性相中にエポキシ樹脂を分散する際に、分散工程全体にわたって、軟化した状態でエポキシを維持するために、エポキシ樹脂のTgより高い温度で水性相を提供し、さらに維持するのが望ましいことがあり得る。軟化した状態でエポキシ樹脂を分散するのがより容易であるため、液体状のエポキシ樹脂、特に、エポキシ樹脂を軟化するために加熱するコストおよび複雑性を避けるために、雰囲気温度で液体状の樹脂が、エポキシ樹脂分散物を形成するのに望ましい。したがって、50℃以下のTgを有するエポキシ樹脂、特に25℃以下、20℃以下、およびさらに0℃以下のTgを有するものが、本発明の第1の工程で、エポキシ樹脂分散物を形成するのに特に望ましいが、その理由は、それらが任意の他の種類のさらなる加熱または軟化を必要とすることなく、典型的に本質的に軟化した状態であるためである。
【0043】
軟化した状態のエポキシ樹脂を提供するための別の方法は、エポキシ樹脂に可塑剤を添加することである。可塑剤は、ポリマー分子を溶媒和することにより、ポリマーの流動性を向上させる任意の分子である。したがって、エポキシ樹脂は、それが本発明の方法中で、水性相中に分散される際に、可塑剤を伴っていてもよい。望ましくは、可塑剤は、「一過性の(fugitive)可塑剤」である。一過性の可塑剤は、エポキシRDPとしてエポキシ粒子を単離する前または単離中、好ましくは単離前に、その可塑化作用を停止することを意味する。可塑剤は、エポキシ樹脂から(例えば、エバポレーションにより)放出されることによる一過性の可塑剤であることができる。別の特に望ましい一過性の可塑剤は、アルカリ可溶性シェルの重合中にコモノマーとして作用し、重合すると、可塑剤としての効果が低くなるモノマー性の可塑剤である。エポキシ樹脂には、一過性の可塑剤、非一過性の可塑剤、一過性の可塑剤と非一過性の可塑剤との組み合わせを含むことができ、または、エポキシ樹脂が分散されて、当初エポキシ分散物を形成する場合、可塑剤を全く含まなくてもよい。
【0044】
当初エポキシ分散物を形成する前にエポキシ樹脂に添加される可塑剤の濃度は、望ましくは50wt%以下、好ましくは40wt%以下、より好ましくは20wt%以下、さらにより好ましくは10wt%以下、さらにより好ましくは5wt%以下、およびさらにより好ましくは2wt%以下、またはさらに1wt%以下である。エポキシ樹脂は、可塑剤を全く含まないことができる。一過性の可塑剤は、一般に、非一過性の可塑剤より高い濃度で存在することができる。非一過性の可塑剤は、分散物から単離される際に、エポキシ粒子が不可逆的に凝集するような望ましくない程度に、エポキシ樹脂および/またはアルカリ可溶性ポリマーシェルを軟化する可能性を有する。したがって、非一過性の可塑剤は、望ましくは5wt%以下、好ましくは2wt%以下、さらにより好ましくは1wt%以下の濃度で存在する。最も望ましくは、エポキシ樹脂は、当初分散物を形成する前に、非一過性の可塑剤を含まない。
【0045】
エポキシ樹脂を、水性相中に、バッチ、半連続的または連続的処理を使用して分散させる。バッチ処理としては、混合しながら、水性相とエポキシ樹脂とを共に添加することにより、単一の容器においてエポキシ樹脂分散物を調製することがあげられる。水性相にエポキシ樹脂を、混合しながら添加するのが一般的であるが、水性相およびエポキシ樹脂の両方が、混合しながら容器に共に添加されることができ、または、まず、エポキシ樹脂が添加され、混合しながら水性相が添加されることができる。エポキシ樹脂および水性相を、混合することなく添加することも可能であり、2つの成分が一旦一緒にされ、ついで、それらを共に混合して、分散物を形成することも可能である。水性相およびエポキシ樹脂の両方が、一連の流れにおいて共に混合されて、エポキシ樹脂分散物を製造する、連続的な方法により、エポキシ樹脂分散物を形成することが望ましい。
【0046】
当初エポキシ樹脂分散物を連続的に製造する1つの望ましい方法は、例えば、米国特許第4123403号に教示される機械的分散による。機械的分散処理では、水性相および有機相が、一方の相を他方に分散する、典型的には、高内相(high internal phase)エマルジョンまたは高内相分散物を形成する、高せん断ミキサーにより共に供給される。高内相エマルジョンおよび分散物は、連続相内に分散された内相を、74体積パーセントより多く有し、この体積パーセントは、エマルジョンまたは分散物の体積の合計に対する。本発明の方法の文脈において、エポキシ樹脂(典型的には、すりつぶされた粉体または軟化した状態での樹脂のいずれかとして)、水性相は、高せん断ミキサーに供給されて、水性相中にエポキシ樹脂の分散物を製造し得る。水性相中におけるエポキシ樹脂の高内相分散物が一般に製造され、これは例えば、分散物の粘度を低下させる必要があれば、更なる水性相により希釈され得る。機械的分散の特に望ましい利点は、非常に均一な粒径(狭い粒径分布)を有する、分散された粒子を有する分散物を製造し得ることである。さらに、非常に均一な粒径は、2マイクロメートル以下、1マイクロメートル以下であり得る。(例えば、エポキシ樹脂のTgより高い温度での処理、可塑剤、例えば、モノマー性可塑剤の添加、または、エポキシ樹脂のTgより高い温度での処理と可塑剤の添加との組み合わせによる、)軟化したエポキシ樹脂について、機械的分散処理を使用して、当初エポキシ樹脂分散物を調製するのが望ましい。
【0047】
小さなエポキシ粒径が、当初エポキシ樹脂分散物において望ましい。この方法は、最終的に、本発明のエポキシRDPを製造する。このため、得られたエポキシRDPが、水性相に再分散して、本発明のエポキシRDPに関して記載のエポキシ粒径(5マイクロメートル以下、好ましくは2マイクロメートル以下、さらにより好ましくは1マイクロメートル以下、さらにより好ましくは1マイクロメートル未満、およびさらにより好ましくは、750ナノメートル以下であり、500ナノメートル以下であり得る)を有するエポキシ分散物を製造するのが望ましい。したがって、当初エポキシ樹脂分散物中のエポキシ樹脂粒子は、水性相中での処理により調製されるエポキシRDPの再分散により形成される分散物におけるエポキシ樹脂粒子の粒径より大きくあるべきでない。したがって、当初エポキシ樹脂分散物中のエポキシ粒子は、望ましくは5マイクロメートル以下、好ましくは2マイクロメートル以下、さらにより好ましくは1マイクロメートル以下、さらにより好ましくは1マイクロメートル未満、およびさらにより好ましくは、750ナノメートル以下であり、500ナノメートル以下であり得る粒径を有する。所望の粒径を作製するのに十分小さい粒径に、エポキシを壊すのに十分なせん断を適用することにより、当初エポキシ樹脂を作製する。一般により小さい粒子が、形成するために、より高いせん断を必要とする。
【0048】
当初エポキシ樹脂分散物を調製するのに、多くの場合、分散助剤を使用することを必要とする。分散助剤は、水性相において、エポキシ樹脂粒子を安定化するのに役立ち得る。分散助剤は、分散前のエポキシ樹脂に、エポキシ樹脂を分散する前の水性相に、添加されることができ、または、エポキシ樹脂と水性相とが混合されている場合、当初エポキシ分散物に添加されることができる。当初エポキシ樹脂分散物を安定化するのに適切な分散助剤としては、エポキシRDPに関して、上記教示のそれらの分散助剤があげられる。望ましくは、当初エポキシ樹脂分散物の形成前または形成中に添加される任意の分散助剤は、PVOHを含むか、PVOHからなる。当初エポキシ樹脂分散物の形成前または形成中に添加される場合、分散助剤は、エポキシ樹脂の合計重量に対して、典型的には15wt%以下、好ましくは10wt%以下の濃度で存在し、および、6wt%以下、さらに5wt%以下、4wt%以下の濃度で存在し得る。望ましい一実施形態は、エポキシ樹脂の合計重量に対するwt%で、7.5wt%のPVOHを使用して、エポキシ樹脂の当初分散物を形成する。
【0049】
エポキシRDPに関して前述のアルカリ可溶性ポリマーシェルは、当初エポキシ分散物中でモノマーを重合することにより、エポキシ樹脂粒子の周囲に重合される。このため、この方法は、アルカリ可溶性ポリマーシェルの重合の際に、当初エポキシ分散物中に存在するように、選択された不飽和モノマーを導入することを必要とする。不飽和モノマーの添加は、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するためのモノマーの重合前もしくは重合と同時のいずれかの時点、または、これら時点の組み合わせで起こり得る。
【0050】
不飽和モノマーの全部または不飽和モノマーの一部分は、当初エポキシ分散物を形成する前に、エポキシ樹脂と混合され得る。当初エポキシ分散物を形成する前に、エポキシ樹脂に添加される不飽和モノマーは、エポキシ樹脂に親和性であり、当初エポキシ分散物を形成するのを容易にするために、エポキシ樹脂をさらに可塑化するのが望ましい。不飽和モノマーが当初エポキシ分散物のエポキシ樹脂粒子に存在する場合、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するための不飽和モノマーの重合は、重合を受けるモノマーが、1ミクロン以下の粒径を有する分散された粒子に存在する、ミニエマルジョン重合の種類である。このミニエマルジョン重合の1つの特徴的な特色は、粒子における材料のその過半部分が、乳化重合を受けるモノマーではなくエポキシ樹脂であることである。可塑化不飽和モノマーをエポキシと混合することは、少なくとも2つの利点を提供する。第一に、それはエポキシ樹脂を軟化して、水性相中でのエポキシ樹脂の直接的な分散を容易にする。第二に、それは得られたエポキシ樹脂分散物全体にわたって非常に均一な程度に、アルカリ可溶性シェル形成性モノマーを分布させる手段を提供する。これにより、この方法において、後に、エポキシ樹脂粒子周囲のより均一なアルカリ可溶性シェル形成をもたらすと考えられる。可塑化不飽和モノマーは、望ましくは、エポキシ樹脂を可塑化する、アクリレートおよびメタクリレートモノマーからなる群から選択される。特に望ましい可塑化モノマーは、メチルメタクリレートである。
【0051】
不飽和モノマーの全部または不飽和モノマーの一部分は、当初エポキシ分散物を形成した後に、当初エポキシ分散物中に混合され得る。その点について、不飽和モノマーは、エポキシ粒子周囲のアルカリ可溶性シェルを形成するための不飽和モノマーの重合前または重合中に、当初エポキシ分散物中に混合され得る。このため、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するための重合のための不飽和モノマーは、当初エポキシ分散物を形成する前、当初エポキシ分散物を形成した後ではあるが重合の開始前、当初エポキシ分散物を形成した後であってかつ重合しながら、または、これらの添加の選択肢の任意の組み合わせで、添加され得る。
【0052】
重合されてアルカリ可溶性ポリマーシェルとなる不飽和モノマー、例えば、当初エポキシ樹脂分散物の形成においてエポキシ樹脂と一緒にされる任意のモノマー、および、当初エポキシ樹脂分散物中に供給されるモノマーの合計量は、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するために重合されるモノマーの合計重量に基づいて、少なくとも5wt%、好ましくは10wt%以上、さらにより好ましくは15wt%以上、およびさらにより好ましくは、20wt%以上の、カルボン酸モノマーおよび無水物モノマーから選択されるモノマーを含む。同時に、アルカリ可溶性ポリマーシェルは、アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するために重合されるモノマーの合計重量に基づいて、40wt%以下、好ましくは30wt%以下の、カルボン酸および無水物モノマーから選択される共重合されたモノマーを含む。アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するために共重合される残りのモノマーは、望ましくは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、スチレン、置換スチレン、アクリロニトリル、ビニルアセテート、1から12個の炭素のアルキル基を有する他のアルキルアクリレートからなる群から選択される。モノマーは、フォックス式を使用して算出された場合、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも75℃、さらにより好ましくは少なくとも90℃、さらにより好ましくは少なくとも100℃のTgを有するアルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するように選択される。不飽和モノマーの1つの望ましい組み合わせは、アルカリ可溶性ポリマーシェルコポリマーを形成するのに共重合されるモノマーの合計に基づくwt%で、5から40wt%の、カルボン酸および無水物から選択されるモノマー、30から95wt%の、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレートおよびスチレンから選択されるモノマー、ならびに、0から30wt%の、カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルまたはアクリルアミドもしくはメタクリルアミドからなる。
【0053】
アルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するのに使用される不飽和モノマー(当初エポキシ樹脂分散物の形成前もしくは形成中に添加される任意の不飽和モノマー、ならびに、当初エポキシ樹脂分散物に添加される任意の不飽和モノマーを含む)は、望ましくは、メタクリル酸およびメチルメタクリレートを含み、さらにメタクリル酸およびメチルメタクリレートからなる。メタクリル酸の濃度は、不飽和モノマーの合計重量に基づいて、望ましくは、5wt%以上、好ましくは10wt%以上、さらにより好ましくは15wt%以上、およびさらにより好ましくは、20wt%以上であり、一方同時に望ましくは、60wt%以下、好ましくは50wt%以下、および典型的には40wt%以下である。不飽和モノマーの残部は、望ましくは、メチルメタクリレートである。メチルメタクリレートの一部分または全部は、望ましくは、エポキシ樹脂に、当初エポキシ樹脂分散物の形成前または形成中に含まれ、好ましくは、当初エポキシ分散物の形成前に含まれる。典型的に、当初エポキシ分散物に添加される不飽和モノマーは、アルカリ可溶性ポリマーシェルの重合の進行にわたって徐々に添加される。
【0054】
方法は、望ましくは、当初エポキシ分散物の形成前または形成中に、不飽和モノマーとしてメチルメタクリレートを、エポキシ樹脂に添加する工程を含む。同時に、方法は、望ましくは、不飽和モノマーとしてメタクリル酸を、好ましくは、当初エポキシ分散物の形成後、および、フリーラジカル開始剤の添加中または添加前、ならびに、アルカリポリマーシェルの重合中または重合前に添加する工程を含む。不飽和モノマーは、このようにして添加されるこれら2つのモノマーのみからなることができる。例えば、メチルメタクリレートは、当初エポキシ分散物を形成する前に添加されることができ、一方、メチルメタクリレートは、アルカリ可溶性ポリマーシェルの重合中に添加され得る。
【0055】
フリーラジカル開始剤は、不飽和モノマーの添加前、添加中または添加後に、当初エポキシ樹脂分散物中に供給され、この混合物は、各エポキシ樹脂粒子周囲において、不飽和モノマーを重合してアルカリ可溶性ポリマーシェルにするように、攪拌しながらフリーラジカル重合をもたらす条件に供される。フリーラジカル開始剤は、当初エポキシ樹脂分散物の分散されたエポキシ樹脂粒子周囲における不飽和モノマーの重合を引き起こすのに役立つ。適切なフリーラジカル開始剤としては、熱および/または酸化還元誘発開始剤、好ましくは、水溶性のものがあげられる。適切な熱的に誘発される開始剤としては、例えば、過硫酸塩(例えば、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸アンモニウム)があげられる。適切な酸化還元開始剤としては、酸化剤(例えば、過硫酸塩および有機過酸化物)と、還元剤(例えば、ホルムアルデヒドスルホキシレートナトリウム)と、酸化還元触媒、例えば、硫酸鉄(II)との組み合わせがあげられる。「フリーラジカル重合をもたらす条件」は、添加されるフリーラジカル開始剤の種類により決まる。例えば、熱的に誘発される開始剤は、そのフリーラジカル分解温度(開始温度)より高い温度で、不飽和モノマーの存在下で分解して、フリーラジカル重合を誘発する。熱的に誘発される開始剤は、当初エポキシ分散物、不飽和モノマーおよび開始剤の混合物に、開始剤の開始温度および混合物の雰囲気温度に応じて、フリーラジカル重合をもたらす条件を達成する、熱を加える必要がある場合がある。酸化還元開始剤は、共に混合された場合に反応して、重合開始フリーラジカルを形成する、適切な還元剤と酸化剤とのペアの存在を必要とする。
【0056】
フリーラジカル開始剤の量は、不飽和モノマー重量に対するwt%で、一般に、0.01wt%以上、好ましくは0.1wt%以上であり、一方同時に一般に、2wt%以下である。
【0057】
アルカリ可溶性シェルを有するエポキシ粒子を含む得られたエポキシ樹脂分散物は、本発明の分散物である。
【0058】
アルカリ可溶性ポリマーシェルを有する得られたエポキシ樹脂粒子、例えば、エポキシRDPを、連続的な水性相を除去することにより単離する。水性相の除去は、任意の方法、例えば、フリーズドライもしくはスプレー乾燥(噴霧化)または両方の組み合わせで行われ得る。アルカリ可溶性シェルを有するエポキシ粒子を含む分散物をスプレー乾燥することにより、エポキシRDPを単離するのが好ましい。エポキシ樹脂粒子の不可逆的な凝集を防止するのを助けるために、スプレー乾燥工程中に、エポキシ樹脂粒子に、固結防止剤を導入するのが一般的である。固結防止剤は、任意の方法、例えば、スプレー乾燥前の分散物との混合、または、例えば、分散物を含むチャンバにブローすることによるスプレー乾燥中の分散物との混合において、添加され得る。適切な固結防止剤としては、無機充填剤、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク、アルミナ水和物、ベントナイト、スルホアルミン酸カルシウムおよびシリカがあげられる。一般に、エポキシ樹脂粒子に添加される固結防止剤の濃度は、分散物の固形分重量に対するwt%で、0.5wt%以上、好ましくは2wt%以上、さらにより好ましくは5wt%以上であり、および同時に一般に、50wt%以下、好ましくは20wt%以下、およびより好ましくは、15wt%以下である。
【0059】
分散助剤も、アルカリポリマーシェルモノマーを供給および重合しながら、エポキシ樹脂粒子をスプレー乾燥しながら、または、両方をしながら添加され得る。望ましくは、エポキシ樹脂粒子をスプレー乾燥する時に、分散助剤を添加する。スプレー乾燥時に添加される分散助剤は、エポキシRDP粒子が水溶液に添加される際に、エポキシ樹脂粒子の再分散を容易にするはずである。スプレー乾燥中に添加され得る適切な分散助剤としては、エポキシRDPに関して既に特定したものがあげられる。スプレー乾燥処理中に、エポキシ樹脂粒子にPVOHを添加するのが特に望ましい。スプレー乾燥処理中に添加される、PVOHの所望の濃度は、望ましくは、エポキシ樹脂重量の合計重量に対して、10−15wt%である。
【0060】
本発明の方法全体の間に添加される分散助剤の合計量は、本発明のエポキシRDPに関して記載した通りである。具体的には、分散助剤の合計量は、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした合計重量に対するwt%で、2wt%以上、好ましくは5wt%以上、さらにより好ましくは10wt%以上であり、一般には25wt%以下、好ましくは20wt%以下、およびより好ましくは、15wt%以下の濃度で存在する。本発明の方法は、望ましくは、一つの分散助剤として、または唯一の分散助剤として、PVOHの合計量を、エポキシRDP粒子の合計重量に対して、5wt%以上、好ましくは10wt%以上、および望ましくは、20wt%以下、好ましくは15wt%以下の濃度で添加する工程を含む。
【0061】
スプレー乾燥処理中に単離されて、得られたエポキシRDPは、本発明のエポキシRDPである。
【0062】
本発明の方法は、望ましくは、−40℃から50℃(50℃を含むか、または含まない)の範囲におけるガラス転移温度を有するエポキシ樹脂、得られたアルカリ可溶性ポリマーシェルが、フォックスの式を使用して算出された場合に、100℃より高いガラス転移温度を有するように、アクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸およびフマル酸からなる群から選択されるアルカリ可溶性ポリマーシェルを形成するのに使用されるモノマー、並びにポリビニルアルコールを、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤の合計重量に基づいて、少なくとも5wt%の濃度で含む分散助剤を特徴とする。この方法の特に望ましい実施形態では、アルカリ可溶性シェルを形成するのに使用されるモノマーは、メタクリル酸とメチルメタクリレートとの組み合わせである。
【0063】
本発明は、さらに、水溶液に分散されたエポキシ樹脂粒子を含むエポキシ粒子の分散物であって、このエポキシ樹脂粒子は、エポキシ樹脂と、個々のエポキシ樹脂粒子周囲のアルカリ可溶性ポリマーシェルとを含む。エポキシ樹脂およびアルカリ可溶性ポリマーシェルは、本発明のエポキシRDPに関して記載された通りである。本発明の範囲内にあるエポキシ粒子の分散物は、本発明の方法中に形成される水性相を除去する前のアルカリ可溶性シェルを含むエポキシ粒子の分散物を含む。本発明のエポキシRDPを、水性相中に再分散することにより形成される分散物も、本発明の分散物として適する。
【0064】
下記の実施例は、本発明の実施形態をさらに説明する。
【実施例】
【0065】
実施例1
当初エポキシ分散物の調製
Cowlesブレードを備えた300ミリリットルのPARR反応器中に、ASTM D−1652による500−560エポキシド当量、ASTM D−1652による7.7−8.6のエポキシドパーセンテージ、ASTM D−1652による1キログラムあたりに1780−2000ミリモルのエポキシド含量、41℃のTgを有するエポキシ樹脂50.0グラム(例えば、Dowエポキシ樹脂(DER)661)および、1モルあたり約31,000グラムの重量平均分子量を有するPVOHの27wt%水溶液18.5グラム(例えば、Mowiol(商標)4−88 ポリビニルアルコール、Mowiolは、Hoechst Aktiengesellschaftの商標である。)を添加する。反応器を密封し、100℃に加熱し、ついで、1分あたりに1830回転で、10分間攪拌する。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプを使用して、30ミリリットル(mL)の水を、1分あたりに1ミリリットル(mL/分)の速度で、反応器中の溶液に添加する。加熱を停止し、水の添加速度を、10mL/分に、5分間にわたって増加させて、反応器および溶液を冷却しながら、さらに50mLの水を添加する。溶液が50℃に達する時、攪拌を停止し、190マイクロメートルのフィルタを通して、得られた当初エポキシ分散物を単離する。得られた当初エポキシ分散物は、エポキシ樹脂および分散助剤の合計重量に基づいて、91wt%のエポキシ樹脂であり、298ナノメートルの粒径を有し、分散物の合計重量に基づいて33wt%の固形分である。
【0066】
アルカリ可溶性ポリマーシェルの重合およびスプレー乾燥
丸底フラスコ中に、100グラムの当初エポキシ分散物を添加し、60℃に維持しながら窒素ガスでパージする。攪拌しながら、2.5ミリグラムの硫酸第一鉄を、1wt%水溶液として添加する。6.60グラムのメチルメタクリレートと、1.65グラムのメタクリル酸とを予め混合し、混合物を、反応器に30分間にわたって注入する。同時に、tert−ブチルペルオキシドの5wt%水溶液、および、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムの5wt%水溶液を、フリーラジカル開始剤として、反応器中に、モノマー重量に対して、各成分を合計で1wt%添加するように、45分間にわたって供給する。60℃で60−90分間、反応を維持し、ついで、25℃に冷却させ、190マイクロメートルのフィルタを通してろ過する。得られた分散物は、エポキシ樹脂、分散助剤およびアルカリ可溶性ポリマーシェルを一緒にした合計に対するwt%で、77wt%のエポキシ樹脂、8wt%の分散助剤(PVOH)および、15wt%の、メタクリル酸とメチルメタクリレートとのコポリマーを含むアルカリ可溶性シェルを含む、エポキシ樹脂粒子を含む。得られた分散物は、307ナノメートルの粒径を有する。
【0067】
Mobile Minorスプレー乾燥器に取り付けられた2液ノズル噴霧器に、得られた分散物をポンプ注入する。ノズルへの空気圧を、50%フローで、100キロパスカルで固定する。これは、1時間あたり6キログラムのエアフローと同等である。注入口の温度を120−140℃に固定し、排出口温度を50℃に設定した窒素ガス環境中で、エポキシ分散物をスプレー乾燥する。固結防止剤として、カオリンクレイ粉体(例えば、Kamin(商標)HG−90、Kaminは、Kamin LLCの商標である。)を、分散物の固形分重量に対して、8wt%の濃度で添加する。得られたエポキシRDPを、40℃で乾燥させる。
【0068】
得られたRDPを、9−11のpHの水に、10ミリリットルの水に0.1グラムのRDPを添加することにより再分散させ、1モルの水酸化ナトリウム溶液を、1−2滴添加し、1分間ボルテックスする。エポキシ粒子は再分散して、310nmの粒径を有する分散物を形成する。
【0069】
エポキシRDPのTg分析は、本質的に修飾されていないエポキシ樹脂を有するコア−シェル構造を裏付ける、ニートエポキシ樹脂の5℃以内のエポキシTgを示す。さらに、粒子同士を不可逆的に凝集することのない、スプレー乾燥処理によるエポキシ樹脂粒子の単離は、粒子が接触する際に、粒子間のエポキシ樹脂が混ざり合うのを不可能にするシェルが、エポキシ樹脂粒子の周囲に存在することを裏付ける。エポキシ粒子は、酸性水溶液におけるよりも、アルカリ水溶液に容易に再分散するが、このことは、シェルがアルカリ水溶液中に可溶化することと一致し、アルカリ可溶性シェルがエポキシ樹脂コア周囲にあることを示す。
【0070】
実施例1は、本発明のエポキシRDPを製造する本発明の方法を説明する。この方法は、非イオン性の分散助剤を使用して、エポキシ樹脂を水性相中に直接分散する。分散助剤は、当初エポキシ樹脂分散物の形成中にのみ導入される。エポキシRDPは、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした合計重量に対して、77wt%の濃度のエポキシ樹脂、15wt%の濃度のアルカリ可溶性ポリマーシェル、および、8wt%の濃度の分散助剤を有する。
【0071】
実施例2
当初エポキシ分散物の調製
Cowlesブレードを備えた300ミリリットルのPARR反応器中に、50.0グラムのエポキシ樹脂のブレンド:25.0グラムの実施例1のエポキシ樹脂、およびASTM D−1652による82−192エポキシド当量、ASTM D−1652による22.4−23.6のエポキシドパーセンテージ、ASTM D−1652による1キログラムあたり5200−5500ミリモルのエポキシド含量、−19℃のガラス転移温度を有する液体状のエポキシ樹脂25.0g(例えば、Dowエポキシ樹脂(DER)331)を添加する。エポキシ樹脂の得られたブレンドは、7℃のTgを有する。3.5グラムのアニオン性分散助剤(E−SPERSE(商標)100、水溶液中60wt%固形分;E−Sperseは、Ethox Chemicals, LLCの商標である。)を添加する。反応器を密封し、100℃に加熱し、ついで、1分あたりに1830回転で、10分間攪拌する。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)ポンプを使用して、20ミリリットル(mL)の水を、1分あたり1ミリリットル(mL/分)の速度で、反応器中の溶液に添加する。加熱を停止し、水の添加速度を、10mL/分に、6分間にわたって増加させて、反応器および溶液を冷却しながら、さらに60mL以上の水を添加する。溶液が50℃に達する時、攪拌を停止し、190マイクロメートルのフィルタを通して、得られた当初エポキシ分散物を単離する。得られた当初エポキシ分散物は、エポキシ樹脂および分散助剤の合計重量に基づいて、96wt%のエポキシ樹脂であり、330ナノメートルの粒径を有する。分散物は、分散物の合計重量に基づいて、36wt%の固形分である。
【0072】
アルカリ可溶性ポリマーシェルの重合およびスプレー乾燥
丸底フラスコ中に、50グラムの当初エポキシ分散物を添加し、50℃に維持しながら窒素ガスでパージする。混合しながら、2.5ミリグラムの硫酸第一鉄を、水溶液として添加する。3.27グラムのメチルメタクリレートと、0.82グラムのメタクリル酸とを予め混合し、この混合物を、反応器に30分にわたって注入する。同時に、tert−ブチルペルオキシドおよびヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムの水溶液を、フリーラジカル開始剤として、実施例1に関して記載のように、反応器に45分にわたって供給する。50℃で120分間、反応を維持し、ついで、25℃に冷却させ、190マイクロメートルのフィルタを通してろ過する。得られた分散物は、エポキシ樹脂、分散助剤およびアルカリ可溶性ポリマーシェルを一緒にした合計に対するwt%で、78wt%のエポキシ樹脂、3wt%の分散助剤および、メタクリル酸とメチルメタクリレートとのコポリマーを含むアルカリ可溶性シェル19wt%を含む、エポキシ樹脂粒子を含む。得られた分散物は、335ナノメートルの粒径を有する。
【0073】
スプレー乾燥前に、固体状のPVOH分散助剤(エポキシ重量に対して10wt%)を添加する。このPVOHは、実施例1に記載のものと同様である。Mobile Minorスプレー乾燥器に取り付けられた2液ノズル噴霧器に、得られた分散物をポンプ注入する。ノズルへの空気圧を、50%フローで、100キロパスカルで固定する。これは、1時間あたり6キログラムのエアフローと同等である。注入口の温度を120−140℃に固定し、排出口温度を40℃に設定した窒素ガス環境中で、エポキシ分散物をスプレー乾燥する。固結防止剤として、カオリンクレイ粉体(例えば、Kamin(商標)HG−90、Kaminは、Kamin LLCの商標である。)を、分散物の固形分重量に対して、8wt%の濃度で添加する。得られたエポキシRDPを、40℃で乾燥させる。
【0074】
得られたRDPを、pH11の水に、実施例1の記載と同様の方法で再分散させる。エポキシ粒子は再分散して、330ナノメートルの粒径を有する分散物を形成する。
【0075】
エポキシRDPのTg分析は、本質的に修飾されていないエポキシ樹脂を有するコア−シェル構造を裏付ける、ニートエポキシ樹脂の5℃以内のエポキシTgを示す。さらに、粒子同士を不可逆的に凝集することのない、スプレー乾燥処理によるエポキシ樹脂粒子の単離は、粒子が接触する際に、粒子間のエポキシ樹脂が混ざり合うのを不可能にするシェルが、エポキシ樹脂粒子の周囲に存在することを裏付ける。エポキシ粒子は、酸性水溶液におけるよりも、アルカリ水溶液に容易に再分散する。このことは、シェルがアルカリ水溶液中に可溶化することと一致し、アルカリ可溶性シェルがエポキシ樹脂コア周囲にあることを示す。
【0076】
実施例2は、7℃の平均Tgを有するエポキシ樹脂組成物を使用する、本発明のエポキシRDPを製造する本発明の方法を説明する。この方法は、アニオン性の分散助剤を使用して、エポキシ樹脂を水性相中に直接分散させる。分散助剤は、当初エポキシ樹脂分散物の形成中と、最終的なエポキシRDPを単離するためのスプレー乾燥時との両方で添加される。エポキシRDPは、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性ポリマーシェルおよび分散助剤を一緒にした合計重量に対して、72wt%の濃度のエポキシ樹脂、18wt%の濃度のアルカリ可溶性ポリマーシェル、および、10wt%の濃度の分散助剤(PVOH+E−Sperse100)を有する。
【0077】
実施例3
当初エポキシ分散物の調製
40グラムのメチルメタクリレート中に、150グラムの、実施例1で使用したエポキシ樹脂を溶解する。100グラムの得られた溶液を、ポリエチレンビーカーに添加し、18グラムのPVOH水溶液(28wt%固形分、PVOHは、実施例1で使用されるものと同様)および、0.5グラムのHitenol BC−10重合性アニオン性界面活性剤(100%活性;Hitenol BCは、Montellow, Inc.から入手可)を添加する。鋸歯状のブレードで、1分あたりに3000回転で、おおよそ2分間混合する。混合を継続しながら、15−20mLの水を、3mL/分の速度で添加して、濃厚なペースト/ゲルを得る。さらに3分間混合を継続する。合計175mLの水が添加されるまで、20mL/分の速度で、水を添加し続ける。その結果物は、水中油の分散物である当初分散物であり、そこでは油相がエポキシ樹脂とメチルメタクリレートモノマーとの組み合わせである。おおよそ25℃で、当初分散物を調製する。当初分散物は、406ナノメートルの粒径を有する。
【0078】
アルカリ可溶性ポリマーシェルの重合およびスプレー乾燥
窒素パージ、還流冷却器、温度計およびスターラーを備える重合フラスコ中に、この当初分散物を移す。攪拌しながら、5グラムのメタクリル酸を、当初分散物に添加する。ついで、攪拌を継続しながら、0.6mLの、1wt% 硫酸第一鉄水溶液を添加し、得られた混合物を60°に加熱する。10mLの、2.6wt% ホルムアルデヒドスルホキシレートナトリウム水溶液、および、10mLのtert−ブチルヒドロペルオキシド水溶液(10mLの水中70wt%の、0.5グラム)を、1時間の期間にわたって添加する。全1時間の添加が完了したら、60℃で45分間混合を継続して、アルカリ可溶性シェルを有するエポキシ樹脂の分散物を形成する。得られた分散物は、406ナノメートルの粒径を有する。
【0079】
Mobile Minorスプレー乾燥器に取り付けられた2液噴霧器により、アルカリ可溶性シェルを有するエポキシ樹脂の分散物をポンプ注入する。ノズルへの空気圧を、50%フローで、100キロパスカルで固定する。これは、1時間あたり6キログラムのエアフローと同等である。注入口の温度を140℃に固定し、排出口温度を50℃に設定した窒素ガス環境中で、エポキシ分散物をスプレー乾燥する。固結防止剤として、カオリンクレイ粉体(例えば、Kamin(商標)HG−90、Kaminは、Kamin LLCの商標である。)を、合計固形分重量の10wt%に対応する濃度で添加する。得られたエポキシRDPを、40℃で乾燥させる。
【0080】
得られたエポキシRDPは、粒子の可逆的な凝集により、10−20マイクロメートルの平均粉体粒径を有する。pH11の水中に、1wt%溶液で、エポキシRDP粉体を分散させ、30秒で2回ボルテックスをすると、このエポキシRDPは、410ナノメートルの分散されたエポキシ粒径を有するように再分散する。
エポキシRDPのTg分析は、本質的に修飾されていないエポキシ樹脂を有するコア−シェル構造を裏付ける、ニートエポキシ樹脂の5℃以内のエポキシTgを示す。さらに、粒子同士を不可逆的に凝集することのない、スプレー乾燥処理によるエポキシ樹脂粒子の単離は、粒子が接触する際に、粒子間のエポキシ樹脂が混ざり合うのを不可能にするシェルが、エポキシ樹脂粒子の周囲に存在することを裏付ける。このエポキシ粒子は、酸性水溶液におけるよりも、アルカリ水溶液に容易に再分散する。このことは、シェルがアルカリ水溶液中に可溶化することと一致し、アルカリ可溶性シェルがエポキシ樹脂コア周囲にあることを示す。
【0081】
実施例3は、水性相中に樹脂を直接分散する前に、モノマーをエポキシ樹脂とブレンドする工程を含む本発明の方法を説明する。分散助剤は、エポキシ樹脂の当初分散物の形成中にのみ添加される。実際例3は、76wt%のエポキシ樹脂、19wt%のアルカリ可溶性ポリマーシェル、および、5wt%の分散助剤を有し、水に再分散された場合、410ナノメートルの粒径を有する本発明のエポキシRDPを、さらに説明する。
【0082】
実施例4
当初エポキシ分散物の調製
ASTM D−1652による82−192エポキシド当量、ASTM D−1652による22.4−23.6のエポキシドパーセンテージ、ASTM D−1652による1キログラムあたり5200−5500ミリモルのエポキシド含量、−18℃のガラス転移温度を有する液体状のエポキシ樹脂75グラム(例えば、DER331エポキシ樹脂)を、18グラムのメチルメタクリレートと、ポリエチレンビーカー中でブレンドする。35グラムの、28wt% PVOH水溶液(PVOHは、実施例1で使用されるものと同様)および、0.5グラムのHitenol BC−10重合性アニオン性界面活性剤(100%活性;Hitenol BCは、Montellow, Inc.から入手可)を添加する。鋸歯状のブレードで、1分あたりに3000回転で、おおよそ2分間混合する。混合を継続しながら、15−20mLの水を、3mL/分の速度で添加して、濃厚なペースト/ゲルを得る。さらに3分間混合を継続する。合計175mLの水が添加されるまで、20mL/分の速度で、水を添加し続ける。その結果物は、水中油の分散物であり、油相がエポキシ樹脂とメチルメタクリレートモノマーとの組み合わせである、当初分散物である。おおよそ25℃で、この分散物を調製する。得られた分散物は、720ナノメートルの粒径を有する。
【0083】
アルカリ可溶性ポリマーシェルの重合およびスプレー乾燥
窒素パージ、還流冷却器、温度計およびスターラーを備える重合フラスコ中に、当初分散物を移す。攪拌しながら、7グラムのメタクリル酸を、当初分散物に添加する。1mLの、1wt% 硫酸第一鉄水溶液を添加し、得られた混合物を70℃に加熱する。10mLの、5wt% ホルムアルデヒドスルホキシレートナトリウム水溶液、および、10mLの、10mLの水中70wt% tert−ブチルヒドロペルオキシド、0.5グラムの水溶液を、1時間の期間にわたって添加する。全1時間の添加が完了したら、60℃で45分間混合を継続する。アルカリ可溶性シェルを有するエポキシ樹脂の分散物を形成する。得られた分散物は、720ナノメートルの粒径を有する。分散された粒子の組成は、エポキシRDP粒子の合計重量に基づいて、68wt%のエポキシ樹脂、23wt%のアルカリ可溶性シェル、および、9wt%の分散助剤である。
【0084】
アルカリ可溶性シェルを有するエポキシ樹脂の得られた分散物を、10固形のPVOH(実施例2で使用されるのと同じPVOH)と混合し、Mobile Minorスプレー乾燥器に取り付けられた2液噴霧器により、得られた混合物をポンプ注入する。ノズルへの空気圧を、50%フローで、100キロパスカルで固定する。これは、1時間あたり6キログラムのエアフローと同等である。注入口の温度を140℃に固定し、排出口温度を40℃に設定した窒素ガス環境中で、エポキシ分散物をスプレー乾燥する。固結防止剤として、カオリンクレイ粉体(例えば、Kamin(商標)HG−90、Kaminは、Kamin LLCの商標である。)を、合計固形分重量の10wt%に対応する濃度で添加する。得られたエポキシRDPを、40℃で乾燥させる。
【0085】
得られたエポキシRDPは、粒子の可逆的な凝集により、10−20マイクロメートルの平均粉体粒径を有する。pH9−11の水中に、1wt%溶液で、このエポキシRDP粉体を分散させ、30秒で2回ボルテックスをすると、このエポキシRDPは、1600nm以下の分散されたエポキシ粒径を有するように再分散する。
【0086】
エポキシRDPのTg分析は、本質的に修飾されていないエポキシ樹脂を有するコア−シェル構造を裏付ける、ニートエポキシ樹脂の5℃以内のエポキシTgを示す。さらに、粒子同士を不可逆的に凝集することのない、スプレー乾燥処理によるエポキシ樹脂粒子の単離は、粒子が接触する際に、粒子間のエポキシ樹脂が混ざり合うのを不可能にするシェルが、エポキシ樹脂粒子の周囲に存在することを裏付ける。エポキシ粒子は、酸性水溶液におけるよりも、アルカリ水溶液に容易に再分散する。このことは、シェルがアルカリ水溶液中に可溶化することと一致し、アルカリ可溶性シェルがエポキシ樹脂コア周囲にあることを示す。
【0087】
実施例4は、水性相中に樹脂を直接分散する前に、モノマーをエポキシ樹脂とブレンドする工程を含む本発明の方法を説明する。分散助剤は、エポキシ樹脂の当初分散物の形成中と、最終的なエポキシRDPを単離するためのスプレー乾燥時との両方で添加される。実際例4は、66wt%のエポキシ樹脂、17wt%のアルカリ可溶性シェル、および、17wt%の分散助剤の組成を有し、実施例1のように9−11のpHを有する水に再分散された場合、1600ナノメートル以下の平均粒径を有する本発明のエポキシRDPを、さらに説明する。さらに、実施例4は、エポキシRDPを調製するための方法、および、エポキシ樹脂、アルカリ可溶性シェルおよび分散助剤の合計重量に対するwt%で、50wt%より多く、20℃で液体であるエポキシ樹脂を含むエポキシRDPを説明する。
【0088】
実施例5:1成分乾燥混合物およびそれら由来のモルタル
実施例5は、実施例1のRDPを含む1成分乾燥混合システムである。比較例A−Cは、別のシステムを提供する。比較例Aは、パートA(液体状のビスフェノールAエポキシ分散物(エポキシ重量平均分子量<700g/モル)、パートB(イソホロンジアミン溶液)および、パートC(非晶質シリカとセメントとの乾燥混合物)を含む、商品名Sika Armatec 110 EpoCem(商標)(EPOCEMは、Sika Agの商標である。)で市販される、別々の硬化剤を含む典型的な3−パートシステムである。
【0089】
表1の記載に従って、4つのモルタルを調製する。
【0090】
【表1】
【0091】
砂、セメントおよびポリマーを共に、プラスチックバッグ中で一緒にすることにより乾燥混合システムを調製し、バッグを密封し、ついで、2分間十分に振る。Hobartミキサー(モデルN−50、スピード1)混合ボウル中で、2分間にわたって、乾燥混合を水にゆっくり添加することにより、乾燥混合物からモルタルを調製する。モルタルを、30秒間混合させる。混合ブレードを取り外し、スパチュラを使用して1分間手で混ぜ合わせる。ついで、混合ブレードを再度取り付け、Hobartミキサーで1分間混合する。湿ったこてでモルタルを均一に満たし、10分間カバーする。ついで、Hobartミキサーで、さらに15秒間混合し、希薄、良好または濃厚として、モルタル粘度を特徴付ける。
【0092】
ASTM C580−02(2008)に従って、モルタルの曲げ強度を特徴付ける。Humboldt Test Equipment(Schiller Park、Illinois、USA)から入手できる、標準的な型(51mm×51mm×254mm)を組み立てる。型の半分を、モルタルで満たし、ついで、ゴムコンパウンドタンパー(152mm×13mm×25mm、Humboldt Test Equipmentから入手可)で、空洞部分を押し出す。型の充填を終了し、再度詰める。金属スパチュラを使用して、モルタルの表面を平坦にする。型をポリエステルフィルムで覆い、72時間固まらせ、ついで、サンプルを離型し、さらに4日間、それを固まらせる。United Floor Model Smart−1 Machines Model SFTM−150KN(United Testing System, Inc.)を使用し、1キロニュートンの荷重計および229mmのスパンを使用して、曲げ強度を特徴付ける。1分あたり3.429mm(0.135インチ/分)のたわみ速度を達成するために、破損するまで、サンプルに荷重をかける。
【0093】
表2は、実施例5および比較例A−Cの評価を示す。実施例5および比較例A−Cのモルタルからの特性比較は、更なる硬化剤なしに、本発明のRDPを使用する1成分乾燥混合システムから調製されたモルタルの驚くべき望ましい性能を説明する。
【0094】
【表2】
【0095】
実施例5の2成分モルタルは、レオロジー調整剤なしに、良好な作業性(粘度)を有しながら、比較例Aの3パートモルタルと同様の曲げ強度を有する。その上、実施例5および比較例Aは、7日間にわたる固化中に同様の収縮を示したことに留意すべきである。対照的に、比較例Bは、より高い粘度およびより低い曲げ強度のために、より低い作業性を示した。比較例Cは、固まらずまたは硬化せず、曲げ強度は、エポキシ相によることを示した。実施例5および比較例A−Cは、モルタル用途における本発明のエポキシRDPの使用における、能力および価値を明らかにする。