特許第6016917号(P6016917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016917
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/22 20060101AFI20161013BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20161013BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20161013BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20161013BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20161013BHJP
   B29C 47/06 20060101ALI20161013BHJP
   B29K 27/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   C08F214/22
   C08F220/26
   C08J5/00
   C08J5/18
   B32B27/30 D
   B29C47/06
   B29K27:00
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-522609(P2014-522609)
(86)(22)【出願日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】JP2013067215
(87)【国際公開番号】WO2014002935
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年1月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-145517(P2012-145517)
(32)【優先日】2012年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】堺 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 民人
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 慎太郎
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/084483(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/22
B29C 47/06
B32B 27/30
C08F 220/26
C08J 5/00
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンと、下記式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られるフッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形する成形体の製造方法
【化1】
(式(1)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'は、主鎖が原子数1〜19で構成される分子量472以下の原子団である。)
【請求項2】
前記式(1)で表わされる化合物が、下記式(2)で表わされる化合物である請求項1に記載の成形体の製造方法
【化2】
(式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'''は、主鎖が原子数1〜18で構成される分子量456以下の原子団である。)
【請求項3】
前記式(1)で表わされる化合物が、アクリロイロキシエチルコハク酸およびカルボキシエチルアクリレートから選択される少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の成形体の製造方法
【請求項4】
前記フッ化ビニリデン系共重合体のインヘレント粘度が、0.3〜5.0dl/gである請求項1〜3のいずれか一項に記載の成形体の製造方法
【請求項5】
前記フッ化ビニリデン系共重合体の赤外線吸収スペクトルを測定した際の下記式(I)で表される吸光度比(AR)が、0.01〜3.0の範囲である請求項1〜4のいずれか一項に記載の成形体の製造方法
R=A1700-1800/A3023 ・・・(I)
(式(I)において、A1700-1800は1700〜1800cm-1の範囲に検出されるカルボニル基の伸縮振動に由来の吸光度であり、A3023は3023cm-1付近に検出されるCHの伸縮振動に由来の吸光度である。)
【請求項6】
前記成形体が、シート、フィルム、ストランド、繊維またはチューブである請求項1〜5のいずれか一項に記載の成形体の製造方法
【請求項7】
前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とを有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の成形体の製造方法
【請求項8】
前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とが、共押出により成形された請求項7に記載の成形体の製造方法
【請求項9】
前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とを、ラミネートすることにより成形された請求項7に記載の成形体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形体に関し、詳しくは特定のフッ化ビニリデン系共重合体から得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン系樹脂は、耐薬品性、耐候性、耐汚染性等に優れ、各種フィルムないしシート等の成形材料、あるいは塗料、バインダー基剤として用いられている。また、フッ化ビニリデン系樹脂からなる層は、優れた耐候性、耐油性に加えて耐油透過性にも優れているため、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等との他の熱可塑性樹脂からなる層との積層により、自動車のガソリンタンクからエンジンへの給油用チューブ等を形成することが提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。なお、前述の積層は、フッ化ビニリデン系樹脂の優れた耐油性、耐油透過性と、他の熱可塑性樹脂の優れた機械的特性を調和させるために採用される。
【0003】
しかしながら、フッ化ビニリデン系樹脂をはじめとするフッ素系樹脂は、その優れた耐汚染性からもわかる通り、他の熱可塑性樹脂との接着性が乏しい。このため、上記従来技術においては、フッ素系樹脂の表面処理(特許文献1)、接着剤層の挿入(特許文献2)、無水マレイン酸等によるフッ素樹脂のγ線照射グラフトによる樹脂の表面処理(特許文献3および4)等の手段が採られているが、充分な接着性が得られているとは云い難い。
【0004】
他方、基材との接着性を改善するために、フッ化ビニリデンと不飽和二塩基酸のモノエステルとの共重合体(例えば、特許文献5参照)も提案されている。しかしながら、特許文献5では、該フッ化ビニリデン共重合体は、溶液状態で、塗料、接着剤あるいはバインダーを形成するために開発されたものである。また、フッ化ビニリデンと不飽和二塩基酸のモノエステルとの共重合体からなる樹脂シート(例えば、特許文献6参照)も提案されているが、特許文献5、6では、フッ化ビニリデンと不飽和二塩基酸のモノエステルとの共重合体を成形した際の耐着色性については検討が充分にされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−31877号公報
【特許文献2】特開平6−15790号公報
【特許文献3】特開2005−162330号公報
【特許文献4】特開2005−207582号公報
【特許文献5】特開平6−172452号公報
【特許文献6】国際公開第2009/084483号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、他の熱可塑性樹脂との接着性に優れ、成形性、耐着色性が改善されたフッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、特定のフッ化ビニリデン系共重合体は、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の成形体は、フッ化ビニリデンと、下記式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られるフッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'は、主鎖が原子数1〜19で構成される分子量472以下の原子団である。)
前記式(1)で表わされる化合物が、下記式(2)で表わされる化合物であることが好ましく、アクリロイロキシエチルコハク酸およびカルボキシエチルアクリレートから選択される少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。
【0011】
【化2】
【0012】
(式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'''は、主鎖が原子数1〜18で構成される分子量456以下の原子団である。)
前記フッ化ビニリデン系共重合体のインヘレント粘度が、0.3〜5.0dl/gであることが好ましい。
【0013】
前記フッ化ビニリデン系共重合体の赤外線吸収スペクトルを測定した際の下記式(I)で表される吸光度比(AR)が、0.01〜3.0の範囲であることが好ましい。
R=A1700-1800/A3023 ・・・(I)
(式(I)において、A1700-1800は1700〜1800cm-1の範囲に検出されるカルボニル基の伸縮振動に由来の吸光度であり、A3023は3023cm-1付近に検出されるCHの伸縮振動に由来の吸光度である。)
前記成形体としては、シート、フィルム、ストランド、繊維またはチューブが挙げられる。
【0014】
前記成形体は、前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とを有することが好ましい。
【0015】
前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とが、共押出により成形されることが好ましい。
【0016】
前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とを、ラミネートすることにより成形されることも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の成形体は、特定のフッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られ、該共重合体が他の熱可塑性樹脂との接着性に優れるため、本発明の成形体はフッ化ビニリデン系共重合体から形成される層と、他の熱可塑性樹脂から形成される層との多層構造を有する場合には、層間の接着性に優れる。また、特定のフッ化ビニリデン系共重合体は、成形性、耐着色性が従来のフッ化ビニリデン系共重合体と比べて改善されているため、本発明の成形体は好適に製造される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明の成形体は、フッ化ビニリデンと、下記式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られるフッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる。
【0019】
〔フッ化ビニリデン系共重合体〕
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデンと、下記式(1)で表わされる化合物とを共重合して得られる。
【0020】
【化3】
【0021】
(式(1)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'は、主鎖が原子数1〜19で構成される分子量472以下の原子団である。)
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、前記式(1)で表わされる化合物由来の構成単位とを有する重合体である。また、さらに他のモノマーに由来する構成単位を有していてもよい。
【0022】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、前記式(1)で表わされる化合物由来の構成単位を有するため、他の樹脂との接着性に優れる。前記式(1)で表わされる化合物としては、下記式(2)で表わされる化合物が好ましい。前記式(1)で表される化合物を用いたフッ化ビニリデン系共重合体は、接着性官能基として機能するカルボキシル基がフッ化ビニリデンポリマー主鎖からスペーサーを介して存在するため、カルボキシル基の配置の自由度が高い。そのため、該官能基がその接着性付与能力を発揮しやすい配置を取ることが容易であり、接着性に優れると本発明者は推定した。
【0023】
【化4】
【0024】
(式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であり、X'''は、主鎖が原子数1〜18で構成される分子量456以下の原子団である。)
前記式(1)、(2)において、前記R1、R2、R3は、それぞれ独立に水素原子、塩素原子または炭素数1〜5のアルキル基であるが、重合反応性の観点から、特にR1、R2は立体障害の小さな置換基であることが望まれ、水素または炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、水素またはメチル基であることがより好ましい。
【0025】
前記式(1)において、前記X'で表わされる原子団の分子量は472以下であるが、172以下であることが好ましい。また、前記X'で表わされる原子団の分子量の下限としては特に限定はないが、通常はX'が‐CH2‐の態様、すなわち分子量としては14である。
【0026】
さらに、前記式(2)において、前記X'''で表わされる原子団の分子量は456以下であるが、156以下であることが好ましい。また、前記X'''で表わされる原子団の分子量の下限としては特に限定はないが、通常はX'''が‐CH2‐の態様、すなわち分子量としては14である。
【0027】
前記X'またはX'''で表わされる原子団の分子量が前述の範囲であると、重合性の観点から好ましい。
前記式(1)において、前記X'で表わされる原子団としては、主鎖が原子数1〜19で構成され、原子数1〜14で構成されることが好ましく、1〜9で構成されることがより好ましい。
【0028】
また、前記式(2)において、前記X'''で表わされる原子団としては、主鎖が原子数1〜18で構成され、原子数1〜13で構成されることが好ましく、1〜8で構成されることがより好ましい。
【0029】
主鎖の原子数が前記範囲内であると、重合性の観点から好ましい。
なお、前記式(1)および(2)において、主鎖の原子数とは、X'またはX'''の右側に記載されたカルボキシル基と、左側に記載された基(R12C=CR3−CO−、[式(1)])、(R12C=CR3−COO−、[式(2)])とを、最も少ない原子数で結ぶ鎖の、骨格部分の原子数を意味する。
【0030】
なお、実施例で用いたアクリロイロキシエチルコハク酸(2−Acryloxyethyl succinate)(AES)、カルボキシエチルアクリレート(2−Carboxyethyl acrylate)(CEA)の主鎖の原子数は以下の通りである。
【0031】
AESは、式(1)で表わされる化合物、式(2)で表わされる化合物に相当する。式(1)で表わされる化合物がAESである場合には、X'で表わされる原子団は‐OCH2CH2O‐(CO)‐CH2CH2‐である。該原子団の主鎖の原子数は、該直鎖の骨格部分の原子数である。すなわち、カルボニル基を構成する酸素原子や、メチレン基を構成する水素原子は主鎖の原子数としては数えない。すなわち、該直鎖の骨格部分は‐OCCO‐C‐CC‐であり、その原子数は7である。同様に式(2)で表わされる化合物がAESである場合には、X'''で表わされる原子団の主鎖は原子数が6である。
【0032】
CEAは、式(1)で表わされる化合物、式(2)で表わされる化合物に相当する。式(1)で表わされる化合物がCEAである場合には、X'で表わされる原子団の主鎖は原子数が3であり、式(2)で表わされる化合物がCEAである場合には、X'''で表わされる原子団の主鎖は原子数が2である。
【0033】
また、アクリロイロキシエチルフタル酸の主鎖の原子数は、以下の通りである。アクリロイロキシエチルフタル酸は、下記式(B)で表わされる化合物であり、式(1)で表わされる化合物、式(2)で表わされる化合物に相当する。式(1)で表わされる化合物がアクリロイロキシエチルフタル酸である場合には、X'で表わされる原子団は下記式(B')で表わされる。該原子団の主鎖の原子数は、該原子団に結合するカルボキシル基と左側に記載された基(CH2=CH−CO−)とを最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数である。すなわち、下記式(B')では、カルボキシル基と左側に記載された基(CH2=CH−CO−)とを結ぶ鎖の骨格部分の原子数としては式(B'−1)で表わされる原子数7、または(B'−2)で表わされる原子数11が考えられるが、この場合には主鎖の原子数とはより原子数の小さい7である。同様に式(2)で表わされる化合物がアクリロイロキシエチルフタル酸である場合には、X'''で表わされる原子団の主鎖は原子数が6である。
【0034】
また、カルボキシル基を複数有する化合物の場合には主鎖の原子数は、以下の通りである。例えば、カルボキシル基を複数有する化合物においては、それぞれのカルボキシル基に対して、前記左側に記載された基と、カルボキシル基とを、最も少ない原子数で結ぶ鎖が存在するが、その中で最も骨格部分の原子数が小さい値を、主鎖の原子数とする。すなわち、カルボキシル基を2個有する化合物においては、各カルボキシル基(以下、便宜上カルボキシル基A、カルボキシル基Bとする)において、左側に記載された基と、カルボキシル基とを最も少ない原子数で結ぶ鎖が存在するが、例えば左側に記載された基と、カルボキシル基Aとを最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数が3であり、左側に記載された基と、カルボキシル基Bとを最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数が6である場合には、該化合物において主鎖の原子数は3である。具体例として、下記式(C)で表わされる化合物について説明する。下記式(C)で表わされる化合物は、式(1)で表わされる化合物、式(2)で表わされる化合物に相当する。式(C)で表わされる化合物はカルボキシル基を2個有している。式(1)で表わされる化合物が、式(C)で表わされる化合物である場合には、左側に記載された基(CH2=CH−CO−)とカルボキシル基とを最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数としては、(C−1)で表わされる原子5、(C−2)で表わされる原子数7が考えられるが、この場合にはより骨格部分の原子数が小さい5を主鎖の原子数とする。同様に式(2)で表わされる化合物が式(C)で表わされる化合物である場合には、X'''で表わされる原子団の主鎖は原子数が4である。
【0035】
【化5】
【0036】
なお、本発明において、(メタ)アクリル、(メタ)アクリレートはそれぞれ、アクリルおよび/またはメタクリル、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
前記式(2)で表わされる化合物としては、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸が挙げられ、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸が、フッ化ビニリデンとの共重合性に優れるため好ましい。
【0037】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、前記式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位を0.01〜10モル%(但し、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位との合計を100モル%とする)有することが好ましく、0.02〜7モル%有することがより好ましく、0.03〜4モル%有することが特に好ましい。また、フッ化ビニリデンに由来する構成単位を、90〜99.99モル%有することが好ましく、93〜99.98モル%有することがより好ましく、96〜99.97モル%有する事が特に好ましい。
【0038】
なお、本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体中の、式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位の量、およびフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量は、通常はフッ化ビニリデン系共重合体の1H NMRスペクトル、もしくは中和滴定により求めることができる。
【0039】
また、前記他のモノマーとしては、例えばフッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体あるいはエチレン、プロピレン等の炭化水素系単量体、前記式(1)と共重合可能な単量体が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロメチルビニルエーテルに代表されるペルフルオロアルキルビニルエーテル等を挙げることができる。前記式(1)と共重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルに代表される(メタ)アクリル酸アルキル化合物等が挙げられる。なお、前記他のモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0040】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体が、前記他のモノマーに由来する構成単位を有する場合には、該共重合体を構成する全モノマー由来の構成単位を100モル%とすると、該他のモノマーに由来する構成単位を0.01〜10モル%有することが好ましい。
【0041】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデンおよび前記式(1)で表わされる化合物、必要に応じて前記他のモノマーを共重合することにより得られる。
【0042】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体を共重合する方法としては、特に限定はないが通常は、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の方法で行われる。後処理の容易さ等の点から水系の懸濁重合、乳化重合が好ましく、水系の懸濁重合が特に好ましい。
【0043】
水を分散媒とした懸濁重合においては、メチルセルロース、メトキシ化メチルセルロース、プロポキシ化メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチン等の懸濁剤を、共重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマー)100質量部に対して0.005〜1.0質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部の範囲で添加して使用する。
【0044】
重合開始剤としては、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルヘプタフルオロプロピルペルオキシジカーボネート、イソブチリルペルオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)ペルオキサイド、ジ(ペルフルオロアシル)ペルオキサイド、t−ブチルペルオキシピバレート等が使用できる。その使用量は、共重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマー)を100質量部とすると、0.05〜5質量部、好ましくは0.15〜2質量部である。
【0045】
また、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジエチル、アセトン、エタノール、n−プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、四塩化炭素等の連鎖移動剤を添加して、得られるフッ化ビニリデン系共重合体の重合度を調節することも可能である。連鎖移動剤を使用する場合には、その使用量は通常、共重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマー)を100質量部とすると、0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜3質量部である。
【0046】
また、共重合に使用する全モノマー(フッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマー)の仕込量は、単量体の合計:水の質量比で通常は1:1〜1:10、好ましくは1:2〜1:5である。
【0047】
重合温度Tは、重合開始剤の10時間半減期温度T10に応じて適宜選択され、通常はT10−25℃≦T≦T10+25℃の範囲で選択される。例えば、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートのT10はそれぞれ、54.6℃および40.5℃(日油株式会社製品カタログ参照)である。したがって、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートを重合開始剤として用いた重合では、その重合温度Tはそれぞれ29.6℃≦T≦79.6℃および15.5℃≦T≦65.5℃の範囲で適宜選択される。重合時間は特に制限されないが、生産性等を考慮すると100時間以下であることが好ましい。重合時の圧力は通常加圧下で行われ、好ましくは2.0〜8.0MPa‐Gである。
【0048】
上記の条件で水系の懸濁重合を行うことにより、容易にフッ化ビニリデンおよび、式(1)で表わされる化合物、必要に応じて共重合される他のモノマーを共重合することができ、本発明フッ化ビニリデン系共重合体を得ることができる。
【0049】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、インヘレント粘度(樹脂4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度。以下、同様)が0.3〜5.0dl/gの範囲内の値であることが好ましく、0.5〜4.0dl/gの範囲内の値であることがより好ましく、0.5〜3.0dl/gの範囲内の値であることが特に好ましい。上記範囲内の粘度であれば、成形体の機械的強度に優れ、かつ押出し成形等の成形が容易であり好ましい。
【0050】
インヘレント粘度ηiの算出は、フッ化ビニリデン系共重合体80mgを20mlのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解して、30℃の恒温槽内でウベローテ粘度計を用いて次式により行うことができる。
【0051】
ηi=(1/C)・ln(η/η0
ここでηは重合体溶液の粘度、η0は溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド単独の粘度、Cは0.4g/dlである。
【0052】
また、フッ化ビニリデン系共重合体は、赤外線吸収スペクトルを測定した際の下記式(I)で表される吸光度比(AR)が、0.01〜3.0の範囲であることが好ましく、0.05〜2.0であることがより好ましく、0.08〜1.5であることが特に好ましい。前記範囲内では、フッ化ビニリデン系共重合体の接着性および成形性に優れるため好ましい。なお、該重合体の赤外線吸収スペクトルの測定は、該重合体に熱プレスを施すことにより製造したフィルムについて、赤外線吸収スペクトルを測定することにより行われる。具体的には、フッ化ビニリデン系共重合体を、200℃で熱プレスして、プレスシート30mm×30mmを作製し、該プレスシートのIRスペクトルを、赤外分光光度計FT-730(株式会社堀場製作所製)を用いて、1500cm-1〜4000cm-1の範囲で測定することにより行われる。
【0053】
R=A1700-1800/A3023 ・・・(I)
上記式(I)において、A1700-1800は1700〜1800cm-1の範囲に検出されるカルボニル基の伸縮振動に由来の吸光度であり、A3023は3023cm-1付近に検出されるCHの伸縮振動に由来の吸光度である。ARはフッ化ビニリデン系共重合体中のカルボニル基の存在量を示す尺度となる。
【0054】
また、本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体中の式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位のランダム率が、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることが特に好ましい。詳細については不明であるが、ランダム率が前記範囲内であると高分子鎖の均一性が向上しカルボキシル基がより効果的にその接着性付与能力を発揮できるようになるため好ましい。
【0055】
なお、本発明において、ランダム率とは、本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体中に存在する、式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位がどの程度重合体鎖中に分散しているかを示す指標である。ランダム率が低いほど式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位が連続して存在する、言い換えると式(1)で表わされる化合物同士が重合した鎖(以下、式(1)で表わされる化合物由来の重合体鎖とも記す。)を有する傾向があることを意味する。一方、ランダム率が高いほど、式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位が独立して存在する、言い換えると式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位が連続せずに、フッ化ビニリデン由来の構成単位と結合する傾向がある。
【0056】
本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体のランダム率は、式(1)で表わされる化合物由来の重合体鎖の存在量[モル%]を、式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位の存在量[モル%]で除することにより求めることができる(ランダム率[%]=式(1)で表わされる化合物由来の重合体鎖の存在量[モル%]/式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位の存在量[モル%]×100)。なお、前記モル%では、フッ化ビニリデン由来の構成単位の存在量を100モル%とする。また、式(1)で表わされる化合物由来の重合体鎖の存在量は、19F NMRスペクトルにより求めることができ、式(1)で表わされる化合物に由来する構成単位の存在量は、例えば1H NMRスペクトル法や中和滴定法により求めることができる。
【0057】
例えば本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体が、フッ化ビニリデンとカルボキシエチルアクリレートとの共重合体である場合には、ランダム率は以下の方法で求めることができる。19F NMRスペクトルでは、カルボキシエチルアクリレート単位に隣接するCF2ピークは、−94ppm付近に観察される。該ピークと、スペクトル中の全てのピークの積分比より、カルボキシエチルアクリレート鎖のモル%が決定される。ランダム率は、該カルボキシエチルアクリレート鎖のモル%と、1H NMRスペクトルや中和滴定法等により求めた重合体中の全カルボキシエチルアクリレート由来の構造単位のモル%との比(ランダム率[%]=カルボキシエチルアクリレート鎖のモル%/全カルボキシエチルアクリレート由来の構造単位のモル%×100)として求めることができる。
【0058】
ランダム率が前記範囲内である本発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体を製造する方法としては、例えば前述の懸濁重合等を行う際に、連続的に式(1)で表わされる化合物を添加する方法が挙げられる。
【0059】
〔成形体〕
本発明の成形体は、前記フッ化ビニリデン系共重合体を粉体またはペレットを溶融成形することにより得られる。
【0060】
本発明の成形体としては、前記フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層のみからなる単層の成形体であっても、前記フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層と、他の材料から形成される層とを有する多層構造の成形体であってもよい。なお、いずれの場合であっても、本発明の成形体の製造の際には、前記フッ化ビニリデン系共重合体は溶融成形される。本発明の溶融成形とは、前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融した状態を経て成形することを意味する。具体的な溶融成形方法としては、特に限定はされないが、押出成形、射出成形、トランスファー成形、ブロー成形、圧縮成形、回転成形などが挙げられる。また、他の材料から形成される層を有する場合には、該層は溶融成形によって形成されてもよく、他の方法によって形成されてもよい。
【0061】
前記他の材料としては、金属、紙、木材、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の樹脂等が挙げられるが、フッ化ビニリデン系共重合体との接着性の観点から、金属、樹脂が好ましく、樹脂がより好ましい。
【0062】
なお、他の材料は、各種添加剤等と共に用いられてもよい。例えば他の材料が、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の樹脂である場合には、樹脂のみで用いても、樹脂組成物として用いてもよい。
【0063】
また、他の材料が金属である場合には、他の材料から形成される層は、金属基板であってもよく、前記フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層上に、蒸着により形成される金属膜であってもよい。また、前記フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層上に、スパッタリング、ラミネート等により金属膜、金属層を形成してもよく、インサート成型によって、成形体を得てもよい。
【0064】
また、前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形する際には、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の樹脂や、添加剤と共に、溶融成形を行ってもよい。すなわち、前記フッ化ビニリデン系共重合体を含む組成物を溶融成形してもよい。
【0065】
前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の樹脂としては、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでも用いることができる。前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、エチレン・ポリビニルアルコール共重合体、ポリ芳香族ビニル樹脂、塩素含有樹脂、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外のフッ素含有樹脂、アクリル樹脂等を用いることができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂等を用いることができる。これらの樹脂としては、一種単独でも、二種以上を用いてもよい。
【0066】
前記ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体などが挙げられる。また、ポリオレフィン系のエラストマーも用いることもできる。なお、本発明において、ポリオレフィンとは、オレフィン由来の繰り返し単位を、50モル%以上有する重合体であり、他のモノマー由来の繰り返し単位を有していてもよい。ポリオレフィンとしては、オレフィン由来の繰り返し単位を、70モル%以上有することが好ましく、90モル%以上有することがより好ましい。
【0067】
前記ポリエステルとしては、ポリ乳酸(以下、PLAとも記す。)、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルが挙げられる。また、軟質のポリエステルエラストマーを用いることもできる。
【0068】
前記ポリアミドとしては、ナイロンが挙げられる。ナイロンとしては、重縮合反応によって得られるナイロン(n‐ナイロン)や、共縮重合反応によって得られるナイロン(n,m‐ナイロン)等を用いることができる。n‐ナイロンとしては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12等が挙げられ、n,m‐ナイロンとしては、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロンMXD6等を用いることができる。また、軟質のポリアミドエラストマーを用いることもできる。
【0069】
前記フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層、他の材料から形成される層には、各種添加剤が含まれていてもよい。
添加剤としては、成形体の種類や用途によって適宜選択することが可能であり、例えば熱安定剤、可塑剤、無機フィラー、触媒失活剤、熱線吸収剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、結晶核剤、カップリング剤、顔料、染料などが挙げられる。
【0070】
可塑剤としては、公知の可塑剤から適宜選択して使用することが可能である。該可塑剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンオキサイド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、エリトリトール、グリセリン、乳酸、脂肪酸、澱粉、フタル酸エステルなどを例示することができる。これらは必要に応じて、混合物で用いてもよい。
【0071】
本発明の成形体が、多層構造の成形体である場合には、その層構造としては特に限定は無いが、フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層/他の材料から形成される層の二層構造、フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層/他の材料から形成される層/フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層の三層構造、フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層/他の材料から形成される層/フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層/他の材料から形成される層の四層構造等が挙げられる。多層構造の成形体に、フッ化ビニリデン系共重合体が有する、耐候性、耐油性を付与する為には、少なくとも片方の表面層が、フッ化ビニリデン系共重合体から形成される層であることが好ましい。
【0072】
本発明の成形体の形状としては特に限定がなく、従来フッ化ビニリデン系重合体が押出成形、射出成形、トランスファー成形、ブロー成形、圧縮成形、回転成形などの溶融成形により加工されて用いられていた各用途に用いることができる。本発明の成形体としては、例えばシート、フィルム、ストランド、繊維またはチューブであることが好ましい。
【0073】
本発明の成形体の製造方法としては、特に限定はなく、その成形体の形状、多層構造の有無等に応じて適宜選択することが可能である。
本発明の成形体の製造における原料の形態としては、特に限定は無いが、溶融成形時の成形機への樹脂供給量の安定化や、押出量の安定化の観点から、ペレットを溶融成形することが好ましい。すなわち、前記フッ化ビニリデン系共重合体を、まずペレット状に溶融成形した後に、該ペレットを溶融成形することにより、所望の成形体を製造することが好ましい。
【0074】
本発明の成形体としては、前記フッ化ビニリデン系共重合体の有する優れた接着性を利用した、前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とを有する成形体が好ましい。該成形体の製造方法としては、前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とを、共押出により製造してもよく、前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とを、ラミネートすることにより製造してもよい。
【0075】
前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とを有するシート、フィルム等を製造する場合には、前記フッ化ビニリデン系共重合体または該共重合体を含む組成物を単独で溶融押出することにより、シート、フィルムを製造し、別途作成した前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂からなるシート、フィルム上に接着剤層を介してまたは熱融着によって接合(ラミネート)することにより製造してもよく、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂からなるシート、フィルム上に、前記フッ化ビニリデン系共重合体または該共重合体を含む組成物を溶融押出すること、すなわち押出ラミネートにより、製造してもよく、前記フッ化ビニリデン系共重合体または該共重合体を含む組成物を単独で溶融押出することにより、シート、フィルムを製造し、該シート、フィルム上に、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂を溶融押出すること、すなわち押出ラミネートにより、製造してもよい。また、前記フッ化ビニリデン系共重合体または該共重合体を含む組成物および前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂を共押出することにより、シート、フィルムを製造してもよい。共押出を行う際には、例えば押出樹脂数に応じた数の単軸または二軸等の押出機と、層の数に応じた多層Tダイを用いることにより行うことができる。
【0076】
前記フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層と、前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂から形成される層とを有するチューブ等を製造する場合には、各層を別々に作成した後に、一体化することが通常困難であるため、例えば、前記フッ化ビニリデン系共重合体または該共重合体を含む組成物および前記フッ化ビニリデン系共重合体以外の熱可塑性樹脂を共押出することにより、チューブを製造してもよい。共押出を行う際には、例えば押出樹脂数に応じた数の単軸または二軸等の押出機と、層の数に応じた環状ダイ(必要に応じてマンドレル)を用いることにより行うことができる。
【0077】
本発明の成形体の具体的な寸法としては、特に限定は無いが、例えば成形体がフッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層のみからなるシートである場合には、通常は厚さが0.2〜5mmであり、成形体が積層構造のシートである場合には通常は、フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層の厚さが0.01〜3mmであり、シート全体の厚さとしては0.2〜5mmである。また、成形体がフッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層のみからなるフィルムである場合には、通常は厚さが0.001〜0.2mmであり、成形体が積層構造のフィルムである場合には通常は、フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層の厚さが0.001〜0.1mmであり、フィルム全体の厚さとしては0.002〜0.5mmである。また、成形体がフッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層のみからなるチューブである場合には、通常は該層の厚さが0.1〜100mmであり、成形体が積層構造のチューブである場合には通常は、フッ化ビニリデン系共重合体を溶融成形することにより得られる層の厚さが0.01〜10mmであり、チューブを構成する各層を合計した厚さとしては0.2〜100mmである。また、チューブの内径としては通常は0.1〜500mmである。
【実施例】
【0078】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0079】
〔製造例1〕
(フッ化ビニリデン‐カルボキシエチルアクリレート共重合体の製造)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を1000g、セルロース系懸濁剤としてメトローズSM−100(信越化学工業(株)製)を0.6g、カルボキシエチルアクリレート(CEA)を0.2g、50wt%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート−フロン225cb溶液を6g、フッ化ビニリデン400g、酢酸エチル16gを仕込み、26℃まで1時間で昇温した。
【0080】
その後、26℃を維持し、70g/lのカルボキシエチルアクリレート水溶液を0.05g/minの速度で徐々に添加した。カルボキシエチルアクリレートは、初期に添加した量を含め、全量3.1gを添加した。
【0081】
重合は、カルボキシエチルアクリレート水溶液添加終了と同時に停止し、昇温開始から合計14.8時間行った。
重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデン‐カルボキシエチルアクリレート共重合体の重合体粉末を得た。
【0082】
重合体の収率は65%、得られた重合体のインヘレント粘度は0.95dl/g、得られた重合体の吸光度比(AR)は0.48であった。
前記重合体粉末の1H NMRスペクトルを下記条件で求めた。
【0083】
装置:Bruker社製。 AVANCE AC 400FT NMRスペクトルメーター
測定条件
周波数:400MHz
測定溶媒:DMSO−d6
測定温度:25℃
重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびカルボキシエチルアクリレートに由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルで、主としてカルボキシエチルアクリレートに由来する4.19ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルとの積分強度に基づき算出した。
【0084】
得られたフッ化ビニリデン系共重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、99.6モル%であり、カルボキシエチルアクリレートに由来する構成単位の量(モル%)(CEA量)は、0.4モル%であった。
【0085】
〔製造例2〕
(フッ化ビニリデン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体の製造)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を1000g、セルロース系懸濁剤としてメトローズSM−100(信越化学工業(株)製)を0.6g、アクリロイロキシエチルコハク酸(AES)を0.2g、50wt%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート−フロン225cb溶液を6g、フッ化ビニリデン400g、酢酸エチル8gを仕込み、26℃まで1時間で昇温した。
【0086】
その後、26℃を維持し、100g/lのアクリロイロキシエチルコハク酸水溶液を0.05g/minの速度で徐々に添加した。アクリロイロキシエチルコハク酸は、初期に添加した量を含め、全量1.48gを添加した。
【0087】
重合は、アクリロイロキシエチルコハク酸水溶液添加終了と同時に停止し、昇温開始から合計7.7時間行った。
重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体の重合体粉末を得た。
【0088】
重合体の収率は35%、得られた重合体のインヘレント粘度は1.29dl/g、得られた重合体の吸光度比(AR)は0.68であった。
前記重合体粉末の1H NMRスペクトルを製造例1と同様な方法で測定した。
【0089】
重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびアクリロイロキシエチルコハク酸に由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルで、主としてアクリロイロキシエチルコハク酸に由来する4.18ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.23ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルとの積分強度に基づき算出した。
【0090】
得られたフッ化ビニリデン系共重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、99.7モル%であり、アクリロイロキシエチルコハク酸に由来する構成単位の量(モル%)(AES量)は、0.3モル%であった。
【0091】
〔製造例3〕
(フッ化ビニリデン単独重合体の製造)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を1040g、セルロース系懸濁剤としてメトローズSM−100(信越化学工業(株)製)を0.2g、n−プロピルパーオキシジカーボネート2g、フッ化ビニリデン400g、酢酸エチル8gを仕込み、26℃まで1時間で昇温した。
【0092】
重合は、昇温開始から22時間行った。
重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン単独重合体の重合体粉末を得た。
重合体の収率は92%、得られた重合体のインヘレント粘度は1.10dl/gであった。
【0093】
〔製造例4〕
(フッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体の製造)
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を1040g、セルロース系懸濁剤としてメトローズSM−100(信越化学工業(株)製)を0.8g、50wt%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート−フロン225cb溶液を8g、フッ化ビニリデン396g、マレイン酸モノメチル4g、酢酸エチル2.5gを仕込み、28℃まで1時間で昇温した。
【0094】
重合は、昇温開始から45時間行った。
重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体の重合体粉末を得た。
重合体の収率は85%、得られた重合体のインヘレント粘度は1.10dl/gであった。
【0095】
〔製造例5〕
(フッ化ビニリデン単独重合体およびフッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体の混合物の製造)
製造例3で得られたフッ化ビニリデン単独重合体の重合体粉末と、製造例4で得られたフッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体の重合体粉末とを、重量比で1:1の割合で混合することにより、フッ化ビニリデン単独重合体およびフッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体の混合物を得た。
【0096】
〔製造例6〕
(フッ化ビニリデン単独重合体およびフッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体の混合物の製造)
製造例3で得られたフッ化ビニリデン単独重合体の重合体粉末と、製造例4で得られたフッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体の重合体粉末とを、重量比で9:1の割合で混合することにより、フッ化ビニリデン単独重合体およびフッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体の混合物を得た。
【0097】
〔YI(イエローインデックス)の測定〕
上記製造例1〜4で得られた重合体粉末および製造例5および6で得られた混合物について、以下の方法でYIを測定した。
【0098】
210℃で2分間、重合体粉末(製造例1〜4)または混合物(製造例5および6)を、予備加熱した後、プレス圧5MPaで2分間保持する事により5cm×5cm×0.1cmの試験片を作製した。
【0099】
230℃で2分間、重合体粉末(製造例1〜4)または混合物(製造例5および6)を、予備加熱した後、プレス圧5MPaで2分間保持する事により5cm×5cm×0.1cmの試験片を作製した。
【0100】
得られた各試験片のYIを、日本電色工業株式会社製color meter ZE6000を用いてASTM D1925に準ずる方法で測定した。
なお、YIの値が大きい程黄色味が強い事を示す。
【0101】
また、230℃でプレスを行い得られた試験片(プレスフィルム)について、発泡の有無を目視にて観察した。
【0102】
〔HF発生量の測定〕
上記製造例1〜4で得られた重合体粉末および製造例5および6で得られた混合物について、以下の方法でフッ化水素の発生量を測定した。
【0103】
重合体粉末(製造例1〜4)または混合物(製造例5および6)を、プレス(25℃、100kg/cm2)して固めて、0.5gを石英製ボートに秤取り、電気管状炉で230℃、2時間加熱した。流量100ml/minで空気を流して、発生ガスを炭酸アルカリ水に吸収後、フッ素イオン(F-)をイオンクロマトグラフィー(IC)で定量した。フッ素イオンの量から、発生したHF量を算出し、重合体粉末(製造例1〜4)または混合物(製造例5および6)1g当たりのHF発生量を算出した。
【0104】
重合体粉末(製造例1〜4)の製造条件および、重合体粉末(製造例1〜4)および混合物(製造例5および6)の物性を表1、2に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
〔製造例7〕
(オレフィン樹脂組成物(1)の調製)
高密度ポリエチレン(HDPE樹脂)(株式会社プライムポリマー製、ハイゼックス3300F)80重量%、エチレン‐グリシジルメタクリレート‐酢酸ビニル共重合体(住友化学株式会社製、ボンドファスト2B)20重量%を供給し、シリンダー温度170〜210℃としダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットしてオレフィン樹脂組成物(1)のペレットを作製した。
【0108】
〔製造例8〕
(オレフィン樹脂組成物(2)の調製)
高密度ポリエチレン(HDPE樹脂)(株式会社プライムポリマー製、ハイゼックス2100J)70重量%、エチレン‐アクリル酸‐グリシジルメタクリレート共重合体(アルケマ(ARKEMA)製、LOTADER GMA AX8900)30重量%を供給し、シリンダー温度170〜210℃としダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットしてオレフィン樹脂組成物(2)のペレットを作製した。
【0109】
〔実施例1〕
(フッ化ビニリデン系共重合体のペレットの製造)
製造例1で得られたフッ化ビニリデン‐カルボキシエチルアクリレート共重合体の重合体粉末を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することにより、ペレットを得た。
【0110】
なお、シリンダー温度を170〜250℃とし、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットすることによりペレットを作製した。得られたペレットの外観は乳白色であった。
【0111】
(共押出による積層シートの製造)
第一の押出機に前記フッ化ビニリデン‐カルボキシエチルアクリレート共重合体のペレットを、第二の押出機にオレフィン樹脂組成物(1)のペレットを供給し、第一の押出機と第二の押出機を接続したマルチマニホルードTダイから溶融樹脂を共押出して、表面を120℃に保ったキャストロール上に第1層(フッ化ビニリデン‐カルボキシエチルアクリレート共重合体からなる層)側を接触させて冷却し、厚み10μmの第1層(フッ化ビニリデン‐カルボキシエチルアクリレート共重合体からなる層)および厚み50μmの第2層(オレフィン樹脂組成物(1)からなる層)を備える積層シートを得た。
【0112】
〔実施例2〕
(フッ化ビニリデン系共重合体のペレットの製造)
製造例2で得られたフッ化ビニリデン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体の重合体粉末を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することにより、ペレットを得た。
【0113】
なお、シリンダー温度を170〜250℃とし、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットすることによりペレットを作製した。得られたペレットの外観は乳白色であった。
【0114】
(共押出による積層シートの製造)
第一の押出機に前記フッ化ビニリデン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体のペレットを、第二の押出機にオレフィン樹脂組成物(1)のペレットを供給し、第一の押出機と第二の押出機を接続したマルチマニホルードTダイから溶融樹脂を共押出して、表面を120℃に保ったキャストロール上に第1層(フッ化ビニリデン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体からなる層)側を接触させて冷却し、厚み10μmの第1層(フッ化ビニリデン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体からなる層)および厚み50μmの第2層(オレフィン樹脂組成物(1)からなる層)を備える積層シートを得た。
【0115】
〔実施例3〕
(フッ化ビニリデン系共重合体のペレットの製造)
製造例2で得られたフッ化ビニリデン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体の重合体粉末を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することにより、ペレットを得た。
【0116】
なお、シリンダー温度を170〜250℃とし、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットすることによりペレットを作製した。得られたペレットの外観は乳白色であった。
【0117】
(フッ化ビニリデン系共重合体からなる単層シートの製造)
スクリュー径40mmの押出機を用いて、前記フッ化ビニリデン‐アクリロイロキシエチルコハク酸共重合体のペレットを、シリンダー温度190〜240℃で溶融混練した。溶融物を温度230℃に設定したTダイから押し出し、表面を120℃に保ったキャストロール上に接触させて冷却して、厚み100μmのフッ化ビニリデン系共重合体からなる単層シートを作製した。
【0118】
(オレフィン系樹脂組成物からなる単層シートの製造)
単軸の押出機を用いて、前記オレフィン樹脂組成物(2)のペレットをシリンダー温度170〜240℃で溶融混練した。溶融物を温度230℃に設定したTダイから押し出し、表面を120℃に保ったキャストロール上に接触させて冷却して、厚み50μmのオレフィン樹脂組成物(2)からなる単層シートを作製した。
【0119】
(ラミネートによる積層シートの製造)
前記フッ化ビニリデン系共重合体からなる単層シートと、オレフィン樹脂組成物(2)からなる単層シートとを、熱圧着フィルム用ラミネーターを用いてラミネート温度180℃、ロール速度1m/min、接圧2kg/cm2で熱圧着し、積層シートを作製した。
【0120】
〔比較例1〕
(フッ化ビニリデン単独重合体のペレットの製造)
製造例3で得られたフッ化ビニリデン単独重合体の重合体粉末を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することにより、ペレットを得た。
【0121】
なお、シリンダー温度を170〜250℃とし、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットすることによりペレットを作製した。得られたペレットの外観は乳白色であった。
【0122】
(共押出による積層シートの製造)
第一の押出機に前記フッ化ビニリデン単独重合体のペレットを、第二の押出機にオレフィン樹脂組成物(1)のペレットを供給し、第一の押出機と第二の押出機を接続したマルチマニホルードTダイから溶融樹脂を共押出して、表面を120℃に保ったキャストロール上に第1層(フッ化ビニリデン単独重合体からなる層)側を接触させて冷却し、厚み10μmの第1層(フッ化ビニリデン単独重合体からなる層)および厚み50μmの第2層(オレフィン樹脂組成物(1)からなる層)を備える積層シートを得た。
しかしながら、該積層シートでは、第1層と、第2層とが実質的に接着されていなかった。
【0123】
〔比較例2〕
(フッ化ビニリデン単独重合体のペレットの製造)
製造例3で得られたフッ化ビニリデン単独重合体の重合体粉末を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することにより、ペレットを得た。
【0124】
なお、シリンダー温度を170〜250℃とし、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットすることによりペレットを作製した。得られたペレットの外観は乳白色であった。
【0125】
(フッ化ビニリデン単独重合体からなる単層シートの製造)
スクリュー径40mmの押出機を用いて、前記フッ化ビニリデン単独重合体のペレットを、シリンダー温度190〜240℃で溶融混練した。溶融物を温度230℃に設定したTダイから押し出し、表面を120℃に保ったキャストロール上に接触させて冷却して、厚み100μmのフッ化ビニリデン単独重合体からなる単層シートを作製した。
【0126】
(オレフィン系樹脂組成物からなる単層シートの製造)
単軸の押出機を用いて、前記オレフィン樹脂組成物(2)のペレットをシリンダー温度170〜240℃で溶融混練した。溶融物を温度230℃に設定したTダイから押し出し、表面を120℃に保ったキャストロール上に接触させて冷却して、厚み50μmのオレフィン樹脂組成物(2)からなる単層シートを作製した。
【0127】
(ラミネートによる積層シートの製造)
前記フッ化ビニリデン単独重合体からなる単層シートと、オレフィン樹脂組成物(2)からなる単層シートとを、熱圧着フィルム用ラミネーターを用いてラミネート温度180℃、ロール速度1m/min、接圧2kg/cm2で熱圧着し、積層シートを作製した。
しかしながら、該積層シートでは、第1層と、第2層とが実質的に接着されていなかった。
【0128】
〔比較例3〕
(フッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体のペレットの製造)
製造例4で得られたフッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体の重合体粉末を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することによりペレットを得た。得られたペレットの外観は濃褐色であった。続いて、該ペレットを用いて、押出成形によるシートの製造を試みたが、発泡、表面荒れ、筋引きが生じ、連続的な運転が困難であり、その後の評価を中止した。
【0129】
〔比較例4〕
(混合物のペレットの製造)
製造例5で得られた混合物を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することにより、ペレットを得た。
【0130】
なお、シリンダー温度を170〜250℃とし、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットすることによりペレットを作製した。得られたペレットの外観は褐色であった。
【0131】
(共押出による積層シートの製造)
第一の押出機に前記混合物のペレットを、第二の押出機にオレフィン樹脂組成物(1)のペレットを供給し、第一の押出機と第二の押出機を接続したマルチマニホルードTダイから溶融樹脂を共押出して、表面を120℃に保ったキャストロール上に第1層(混合物からなる層)側を接触させて冷却し、厚み10μmの第1層(混合物からなる層)および厚み50μmの第2層(オレフィン樹脂組成物(1)からなる層)を備える積層シートを得た。
【0132】
〔比較例5〕
(混合物のペレットの製造)
製造例5で得られた混合物を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することにより、ペレットを得た。
【0133】
なお、シリンダー温度を170〜250℃とし、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットすることによりペレットを作製した。得られたペレットの外観は褐色であった。
【0134】
(混合物からなる単層シートの製造)
スクリュー径40mmの押出機を用いて、前記混合物のペレットを、シリンダー温度190〜240℃で溶融混練した。溶融物を温度230℃に設定したTダイから押し出し、表面を120℃に保ったキャストロール上に接触させて冷却して、厚み100μmの混合物からなる単層シートを作製した。
【0135】
(オレフィン系樹脂組成物からなる単層シートの製造)
単軸の押出機を用いて、前記オレフィン樹脂組成物(2)のペレットをシリンダー温度170〜240℃で溶融混練した。溶融物を温度230℃に設定したTダイから押し出し、表面を120℃に保ったキャストロール上に接触させて冷却して、厚み50μmのオレフィン樹脂組成物(2)からなる単層シートを作製した。
【0136】
(ラミネートによる積層シートの製造)
前記混合物からなる単層シートと、オレフィン樹脂組成物(2)からなる単層シートとを、熱圧着フィルム用ラミネーターを用いてラミネート温度180℃、ロール速度1m/min、接圧2kg/cm2で熱圧着し、積層シートを作製した。
【0137】
〔比較例6〕
(混合物のペレットの製造)
製造例6で得られた混合物を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することにより、ペレットを得た。
【0138】
なお、シリンダー温度を170〜250℃とし、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットすることによりペレットを作製した。得られたペレットの外観は薄褐色であった。
【0139】
(共押出による積層シートの製造)
第一の押出機に前記混合物のペレットを、第二の押出機にオレフィン樹脂組成物(1)のペレットを供給し、第一の押出機と第二の押出機を接続したマルチマニホルードTダイから溶融樹脂を共押出して、表面を120℃に保ったキャストロール上に第1層(混合物からなる層)側を接触させて冷却し、厚み10μmの第1層(混合物からなる層)および厚み50μmの第2層(オレフィン樹脂組成物(1)からなる層)を備える積層シートを得た。
【0140】
〔比較例7〕
(混合物のペレットの製造)
製造例6で得られた混合物を、同方向回転二軸押出機を用いて溶融押出することにより、ペレットを得た。
【0141】
なお、シリンダー温度を170〜250℃とし、ダイからストランド状に溶融押出し、冷水中で冷却した後カットすることによりペレットを作製した。得られたペレットの外観は薄褐色であった。
【0142】
(混合物からなる単層シートの製造)
スクリュー径40mmの押出機を用いて、前記混合物のペレットを、シリンダー温度190〜240℃で溶融混練した。溶融物を温度230℃に設定したTダイから押し出し、表面を120℃に保ったキャストロール上に接触させて冷却して、厚み100μmの混合物からなる単層シートを作製した。
【0143】
(オレフィン系樹脂組成物からなる単層シートの製造)
単軸の押出機を用いて、前記オレフィン樹脂組成物(2)のペレットをシリンダー温度170〜240℃で溶融混練した。溶融物を温度230℃に設定したTダイから押し出し、表面を120℃に保ったキャストロール上に接触させて冷却して、厚み50μmのオレフィン樹脂組成物(2)からなる単層シートを作製した。
【0144】
(ラミネートによる積層シートの製造)
前記混合物からなる単層シートと、オレフィン樹脂組成物(2)からなる単層シートとを、熱圧着フィルム用ラミネーターを用いてラミネート温度180℃、ロール速度1m/min、接圧2kg/cm2で熱圧着し、積層シートを作製した。
【0145】
〔剥離強度の測定〕
実施例、比較例で得られた積層シートを長さ100mm、幅20mmに切り出し、JIS K6854−1に準じて引張試験器(ORIENTEC社製「STA−1150」 UNIVERSAL TESTING MACHINE)を使用し、ヘッド速度10mm/分で90度剥離試験を行った。
【0146】
実施例、比較例で得られた積層シートの剥離強度を表3に示す。
【0147】
【表3】
【0148】
前記実施例、比較例の結果より、本願発明の成形体は、フッ化ビニリデン単独重合体を用いた場合と比べて、層間の接着性に優れる。また、本願発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体と比べて、YI(イエローインデックス)が低く、耐着色性に優れている。さらに、本願発明に用いられるフッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデン‐マレイン酸モノメチル共重合体と比べて、HF発生量が小さく、発泡も確認できないため、成形性にも優れている。