特許第6016927号(P6016927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016927
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】熱間圧延用ロール
(51)【国際特許分類】
   B21B 27/00 20060101AFI20161013BHJP
   C22C 37/00 20060101ALI20161013BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20161013BHJP
   C22C 38/36 20060101ALI20161013BHJP
   B22F 3/15 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   B21B27/00 C
   C22C37/00 A
   C22C38/00 301L
   C22C38/00 302E
   C22C38/36
   !B22F3/15 M
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-531205(P2014-531205)
(86)(22)【出願日】2012年9月19日
(65)【公表番号】特表2014-531982(P2014-531982A)
(43)【公表日】2014年12月4日
(86)【国際出願番号】EP2012068429
(87)【国際公開番号】WO2013041559
(87)【国際公開日】20130328
【審査請求日】2015年7月17日
(31)【優先権主張番号】11181778.9
(32)【優先日】2011年9月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】メンデレス カイハン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーン−エリック カールソン
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ヒューイット
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−254715(JP,A)
【文献】 特開2002−105580(JP,A)
【文献】 特開平1−241306(JP,A)
【文献】 特開平2−194144(JP,A)
【文献】 特開昭61−213348(JP,A)
【文献】 特開2001−20042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00−35/14
C22C 37/00−38/36
B22F 3/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディを含んでなる熱間圧延用のロール(101)であって、前記ボディのエンベロープ面(104)の少なくとも一部がその化学組成に関連して、以下の元素:
1〜3重量%の炭素(C)
3〜6重量%のクロム(Cr)
0〜7重量%のモリブデン(Mo)
0〜15重量%のタングステン(W)
3〜14重量%のバナジウム(V)
0〜10重量%のコバルト(Co)
0〜3重量%のニオブ(Nb)
0〜0.5重量%の窒素(N)
0.4〜0.7重量%のイットリウム(Y)、並びに
残りの鉄(Fe)および不可避の不純物からなり、Mo+0.5W=2〜10重量%である高速度鋼から作られることを特徴とする、ロール。
【請求項2】
前記ボディが
・軸線方向に延びるコア(102)、及び
・前記コア(102)の半径方向に外側に配置された軸線方向に延びるスリーブ(103)
を含んでなる、請求項1記載の熱間圧延用のロール(101)。
【請求項3】
前記スリーブ(103)が前記高速度鋼で作られている、請求項2記載の熱間圧延用のロール。
【請求項4】
前記スリーブが前記高速度鋼の粉末の圧密化で作られ、前記粉末を高熱及び高圧にさらして前記圧密化を引き起こす、請求項2又は3記載の熱間圧延用のロール(101)。
【請求項5】
前記コア(102)が鋳鋼又は鋳鉄又は鍛鋼で作られている、請求項2〜4のいずれか1項に記載の熱間圧延用のロール(101)。
【請求項6】
前記スリーブ(103)の材料が、<3μmである平均炭化物粒子サイズを有する炭化物粒子を提示することを特徴とする、請求項2〜5のいずれか1項に記載のロール。
【請求項7】
前記スリーブ(103)が等方性微細構造を有することを特徴とする、請求項2〜6のいずれか1項に記載のロール。
【請求項8】
前記スリーブ(103)が前記コア(102)上に焼嵌めされる、請求項2〜7のいずれか1項に記載の熱間圧延用のロール(101)。
【請求項9】
前記高速度鋼の前記イットリウム(Y)含有量が0.4重量%より多い、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱間圧延用のロール(101)。
【請求項10】
前記高速度鋼の前記イットリウム(Y)含有量が0.6重量%未満である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱間圧延用のロール(101)。
【請求項11】
前記高速度鋼の前記イットリウム(Y)含有量が0.45〜0.60重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱間圧延用のロール(101)。
【請求項12】
Mo+0.5W=5.0〜8.5重量%であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のロール(101)。
【請求項13】
前記高速度鋼の前記炭素(C)含有量が1.1〜1.4重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のロール(101)。
【請求項14】
前記高速度鋼の前記クロム(Cr)含有量が4.0〜5.0重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載のロール。
【請求項15】
前記高速度鋼の前記モリブデン(Mo)含有量が4.5〜5.5重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載のロール。
【請求項16】
前記高速度鋼の前記タングステン(W)含有量が6.0〜7.0重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載のロール。
【請求項17】
前記高速度鋼の前記バナジウム(V)含有量が3.0〜5.0重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載のロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して熱間圧延用のロールの分野に関する。さらに、本発明は特に熱間圧延用のワークロールの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の熱間圧延は、成形に付される金属の再結晶温度よりも高い温度で行われる金属成形プロセスである。このことは、圧延が高温で、典型的には700℃を超える温度で実施されることを意味する。圧延操作中のそのような高温は、熱間圧延で使用される機器に対して機械的課題をもたらす。高温は、ロール材料の硬度低下に関連する問題の原因となり、従ってロールの耐用年数の延長を可能にするためにロールの高温硬さは非常に重要である。
【0003】
高温に加えて、圧延シーケンスは、多くの場合、ロールを水にさらすことによって圧延された金属を冷却することを含んでなり、それによって大量の蒸気が形成される。蒸気は高温と組み合わされると、使用される圧延機器、特に圧延機器のワークロールの重度の酸化の原因となる。圧延ロールに使用される材料は、従って、その硬度と、同様に前記温度及び雰囲気での良好な磨滅/摩耗耐性とを失うことなく高温に耐える必要がある。
【0004】
伝統的に、熱間圧延用のワークロールは、高クロムニッケル鋳造合金から製造される。ほとんどの場合、今日の熱間圧延用のワークロールは複合ロールである。複合ロールは、たとえば延性鉄又は鋼などの好適な機械的特性を有するコア、並びに熱間圧延に充分な高温硬さ及び充分な耐摩耗性を有するスリーブを含んでなる。
【0005】
ロールの外層は1980年代の初めから非常に急速に開発され、Fe−C−Cr−W−Mo−Vを含有する鋳造合金の適用で頂点に達し、これは高クロム鋳鉄やNi−硬質鋳鉄に取って代わった。この組成の合金は、概して高速度鋼と呼ばれる。
【0006】
古典的な高速度鋼は、良好な高温硬さと良好な耐摩耗性の両方を示す。熱間圧延適用のために望ましい性質をさらに改善するために、高速度鋼の合金設計は、いわゆるM2鋼の組成に基づき、ここで、主な変更点は炭素及びバナジウム含有量が高いことである。そのような高速度鋼の典型的な組成は、以下の範囲内になる:1.5〜2.5%C、0〜6%W、0〜6%Mo、3〜8%Cr、及び4〜10%V。
【0007】
基本的に、圧延機プラントの本質的な目標は、圧延された金属の形状プロフィール及び表面粗さをできるだけ目標値に近く維持することである。以前使用されていた熱間圧延材料よりも良好な高速度鋼ロールの性能は、多量の非常に硬質で微細なMC共晶炭化物及び二次的に沈降する炭化物によって硬化されるベースマトリックスなどの高速度鋼の微細構造特性に関連する。
【0008】
熱間圧延におけるロール摩耗は、少なくとも:磨滅、酸化、付着、及び熱疲労を含む複数の表面劣化現象の同時操作によって特徴づけられる複雑なプロセスである。熱疲労は、ロール面付近の非常に薄い境界層の反復加熱及び冷却によって生じる応力に由来する。付着は、加工金属の微細溶接領域から生じてロールギャップの粘着ゾーンへと至る。当該技術分野では、共晶炭化物の体積分率の増加は、付着挙動に対して有益な影響を及ぼすことが知られている。
【0009】
熱間圧延間のロールの酸化は、ロール材料の摩耗挙動に著しい影響を及ぼす。なぜなら、この層は、平滑で付着性で連続的である限り、固体潤滑剤として作用し、また熱バリヤとして作用し、従ってロール面を劣化から保護するからである。
【0010】
米国特許第6095957号では、Fe−C−Mo−Nb−Vを含んでなる外層を有する熱間圧延用のロールが開示されている。この解決策は、外層のさらなる改善が可能であることを示唆する。
【0011】
米国特許第4941251号では、セラミックの外層を有する熱間圧延用のロールが開示されている。しかしながら、このセラミック層はもろく、ワークロールを機械加工して所望の最終寸法にするのが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6095957号
【特許文献2】米国特許第4941251号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以前から知られている熱間圧延用の複合ロールの前記欠点を防ぐことを目的とし、そしてさらに熱間圧延用の改善されたロールを提供することも目的とする。本発明の第1の目的は、高温、たとえば700℃で改善された耐摩耗性を有する熱間圧延用ロールのエンベロープ面を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によると、少なくとも第1の目的は、独立クレームで定義される特性を有する熱間圧延用の最初に定義されたロールによって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属クレームでさらに規定される。
【0015】
本発明によると、ボディを含んでなる最初に定義された種類の熱間圧延用のロールが提供され、このロールは、前記ボディのエンベロープ面の少なくとも一部が、その化学組成に関して以下の元素からなる高速度鋼で作られていることを特徴とする:1〜3重量%の炭素(C)、3〜6重量%のクロム(Cr)、0〜7重量%のモリブデン(Mo)、0〜15重量%のタングステン(W)、3〜14重量%のバナジウム(V)、0〜10重量%のコバルト(Co)、0〜3重量%のニオブ(Nb)、0〜0.5重量%の窒素(N)、0.2〜1重量%のイットリウム(Y)並びに残りの鉄(Fe)及び不可避な不純物、ここで、Mo+0.5W=2〜10重量%。この結果、高温で優れた耐摩耗性を有する前記ボディのエンベロープ面が得られる。
【0016】
本明細書全体にわたって「1つの実施形態(one embodiment)」又は「ある実施形態(an embodiment)」に関する言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、又は特性が、開示された対象の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体にわたるさまざまな箇所で見られる「1つの実施形態において」又は「ある実施形態」という語句は、かならずしも同じ実施形態を指すわけではない。さらに、特定の特徴、構造又は特性を、1以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせることができる。
【0017】
ある実施形態によると、前記スリーブは前記高速度鋼の粉末の圧密化で作られ、この粉末を高熱及び高圧に付して、前記圧密化を得る。粉末は、好ましくは前記元素を含んでなる溶融金属をアルゴンアトマイゼーションによって前記粉末にすることによって製造される。溶融金属のアルゴンアトマイゼーションを用いることによって、窒素ガスの使用によって窒化物が形成される窒素アトマイゼーションの使用と比較して、窒化物の量が最小限に抑えられる。
【0018】
前述のような粉末提供の技術的効果は、希土類元素イットリウムが粉末中に均一に分散されることである。本発明による高速度鋼がキャスティング法によって製造された場合、きわめて反応性に富む元素イットリウムが偏析し、均一に分布しない。高速度鋼ベースマトリックスにおけるイットリウムの均等な分布によって、形成される酸化物スケールが高速度鋼に効果的に付着する。添加されたイットリウムはさらに、酸化物スケールが飽和厚さまで急速に成長するようにスケールの成長速度論を変更し;酸化物スケールの成長速度は、この飽和厚さ以上に大幅に減少する。高温での耐摩耗性に対する有益な技術的効果は、高速度鋼のベースマトリックス中のイットリウムの微細分散のために、予想外に良好である。この技術的効果は、粉末冶金法を使用するイットリウムの添加から当業者が予想するものを上回る。
【0019】
本発明によると、前記高速度鋼の炭素(C)含有量は1〜3重量%の範囲内である。炭素の量は、高速度鋼の耐摩耗性に必要な炭化物を形成するために充分でなければならない。好ましくは、炭素の量は、充分な硬化性を有する高速度鋼を製造するために充分でなければならない。3%の上限は、最大炭素含有量を規定する;この限度を超えると、残留オーステナイトが形成される可能性がある。ある実施形態によると、炭素含有量は1.1〜1.4重量%の範囲内である。
【0020】
本発明によると、クロム(Cr)含有量は3〜6重量%の範囲内である。この区間は良好な硬化性をもたらし、同様に炭化物の必要な形成ももたらす。しかしながら、クロムが多すぎると残留オーステナイトが生じ、オーバーテンパリングの危険性が増大するので、6%の上限を超えてはならない。ある実施形態によると、Cr含有量は4.0〜5.0重量%の範囲内である。
【0021】
本発明によると、モリブデン(Mo)含有量は0〜7重量%の範囲内である。モリブデンの添加によって、炭化物の沈降による二次的硬化が起こり、このために高速度鋼の高温硬さ及び耐摩耗性が増大する。1つの実施形態によれば、Mo含有量は4.5〜5.5重量%の範囲内である。
【0022】
本発明によると、タングステン(W)含有量は0〜15重量%の範囲内である。タングステンの添加は、炭化物の沈降による二次的硬化を引き起こし、これによって高速度鋼の高温硬さ及び耐摩耗性が増大する。ある実施形態によると、W含有量は6.0〜7.0重量%の範囲内である。
【0023】
本発明によると、バナジウム(V)含有量は3〜14重量%の範囲内である。バナジウムの添加は、炭化物の沈降による二次的硬化を引き起こし、これは高速度鋼の高温硬さ及び耐摩耗性を増大させる。しかしながら、バナジウムが多すぎると、高速度鋼はもろくなるので、14%の上限を超えてはならない。ある実施形態によると、V含有量は3.0〜5.0重量%の範囲内であり、好ましくは3.0〜3.5重量%の範囲内である。
【0024】
本発明によると、前記高速度鋼のコバルト(Co)含有量は0〜10重量%の範囲内である。テンパリング耐性及び高温硬さはどちらも高温摩耗適用で使用される高速度鋼にとって非常に重要であるので、高速度鋼とコバルトとの合金を作ることによって改善する。コバルトの量も、残留オーステナイトの量に影響を及ぼすことによって、高速度鋼の硬度に対して影響を及ぼし、前記残留オーステナイトはテンパリングの間にマルテンサイトに容易に変換される。コバルトについて選択された区間は、この組成の高速度鋼について好適な区間であり、この場合、上限は科学的制約というよりむしろ経済上の妥協点である。本発明の1つの実施形態によると、Co含有量は0%であるか又は不純物レベルであり、一方、別の実施形態によると、8.0〜9.0重量%の範囲内である。
【0025】
本発明によると、高速度鋼は、0.2%〜1%の区間、たとえば0.4〜0.7重量%、好ましくは0.45〜0.60重量%の範囲内、たとえば0.4〜0.5重量%、たとえば0.4、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、及び0.50重量%のイットリウムを含有しなければならない。前記区間で規定されるイットリウム含有量は、酸化物スケールに対して前述のプラスの影響を及ぼす。特に、0.45〜0.60重量%の範囲内のイットリウム含有量は、高温摩耗に耐える高速度鋼の能力を非常に良好に増加させる。区間の0.2%の下限は、高温摩耗に対するイットリウムの重大なプラスの効果を特定することができる出発点を規定し、1%の上限は、高温摩耗に対するイットリウムの重大なプラスの効果を特定することができる区間の終点を示す。
【0026】
ある実施形態によると、前記ボディは、軸線方向に延びるコアと、前記コアから半径方向に外側に配置された軸線方向に延びるスリーブとを含んでなる。それによって、コアを構築して優れた伝熱及び機械的耐久性を提供することができ、一方、スリーブを配置して優れた耐摩耗性を提供することができる。
【0027】
ある実施形態によると、前記スリーブは前記高速度鋼で作られている。このことによって、前記スリーブの耐摩耗性は、耐摩耗性及び高温硬さなどの熱間圧延用の優れた特性を示す。
【0028】
ある実施形態によると、スリーブを形成する粉末を高熱(たとえば1150℃)及び高圧(たとえば1000バール)に長時間(たとえば2時間)さらして、粉末の圧密化を達成する。
【0029】
ある実施形態によると、圧密化粉末のスリーブを次いで900℃で軟化焼鈍ステップに付し、続いて10℃/時の冷却速度で700℃まで温度を下げ、その後スリーブを室温まで自然冷却させる。この軟化焼鈍ステップによって高速度鋼中の炭化物は球状化される。
【0030】
スリーブをその後好ましくは機械加工に付し、その後、1100℃での硬化(オーステナイト化)ステップと3回の後続焼鈍ステップでそれぞれ560℃にて60分間熱処理し、各ステップの間は室温まで自然冷却する。
【0031】
1つの実施形態によれば、前記コアは鋳鋼又は鍛鋼で作られている。鋳鋼又は鋳鉄又は鍛鋼で作られたコアは、機械加工及び熱処理して所望の機能を得るのが容易である。そのようなコアはさらに、費用効果的であり、製造が容易である。
【0032】
本発明によると、スリーブの微細構造は等方性である。その結果として、スリープ材料の摩耗特性が改善される。
【0033】
本発明によると、前記スリーブの材料は、<3μmである平均炭化物粒子サイズを有する炭化物粒子を含有することが好ましい。
【0034】
好ましい実施形態によると、前記スリーブは前記コアに焼嵌めされている。前記スリーブの前記コア上への焼嵌めを利用することによって、スリーブを容易に取り外し、交換することができ、それによって著しいコスト削減がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
発明の概念を、添付の図面及びグラフと関連した参照図を用いてさらに説明する。
図1図1は、複合ロールの斜視図である。
図2図2は、「ピン・オン・ディスク」試験機器の概略図である。
図3図3は、長手方向に対して垂直な、「ピン・オン・ディスク」評価から得られる典型的な溝の横断面を示す。
図4図4は、「ピン・オン・ディスク」実験における合金A、B及びCの室温及び650℃での溝深さを示す図である。
図5図5は、「ピン・オン・ディスク」実験における合金A、B及びCの650℃での1メートルあたりの体積減少を示す図である。
図6図6は、合金A、B及びCのHRCで表した硬度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
粉末冶金高速度鋼に基づく半完成品、部品及び切削工具の工業生産は35年前に始まった。最初の高速度鋼の粉末冶金生産は、熱間等静圧圧縮成形(HIP)及びアトマイズされた粉の圧密化に基づくものであった。通常、HIPステップに続いてHIP化鋼片の熱間鍛造を行った。この製造方法は依然として優位を占める高速度鋼製造のための粉末冶金法である。
【0037】
高速度鋼の粉末冶金加工に関する研究開発の本来の目的は、厳しい用途における高速度鋼の機能特性や性能を改善することであった。粉末冶金製造プロセスから得られる主な利点は、均一かつ等方性微細構造で偏析がないことである。従来型鋳鋼及び鍛鋼における粗く重度の炭化物偏析に関する周知の問題は、このように粉末冶金高速度鋼では回避される。
【0038】
従って、充分な量の炭素及び炭化物形成元素を用いた高速度鋼の粉末冶金製造方法の結果、炭化物の分散分布が得られ、これによって、従来通りに製造された高速度鋼に関連する低強度及び硬度の問題はかなりの程度まで解決される。
【0039】
図1は、熱間圧延用の複合ロール101を示す。ロール101は、軸線方向に延びるコア102と、前記コア102の半径方向に外側に配置された軸線方向に延びるスリーブ103によって形成されるエンベロープ面104を含んでなる。
【0040】
コア102は、良好な機械的特性及び良好な伝熱特性を有する材料で製造され、そのような材料の例は、延性鉄又は鋼である。コア102は、第1末端及び第2末端で支持ベアリングのための手段を含んでなる円筒形ジャーナルである。支持ベアリングによって、ワーキングロールを熱間圧延ミルに取り付けることが可能になる。前記第1末端と前記第2末端との間に、スリーブ103を前記コア102上に焼嵌めするために配置された長手方向領域が提供されている。
【0041】
スリーブ103は、スリーブ103を前記コア102上に焼嵌めするための寸法の内径を有する円筒形スリーブである。スリーブ103の壁厚は、伝熱及びワークロール耐用年数並びに幾何学的制約に関連した大きさである。本発明の好ましい実施形態において、スリーブの厚さは40ミリメートルである。
【0042】
本発明によると、スリーブ103は、その化学組成に関連して以下の元素からなる高速度鋼から作られている:1〜3重量%の炭素(C)、3〜6重量%のクロム(Cr)、0〜7重量%のモリブデン(Mo)、0〜15重量%のタングステン(W)、3〜14重量%のバナジウム(V)、0〜10重量%のコバルト(Co)、0〜3重量%のニオブ(Nb)、0〜0.5重量%の窒素(N)、0.2〜1重量%のイットリウム(Y)、並びに残りの鉄(Fe)及び不可避の不純物。0%の下限を有する元素は任意であり、従って除外することができることに注目すべきである。スリーブ103の製造は、前記粉末からボディを形成するための前記高速度鋼の粉末を含んでなる。この成形は、例えば、前記粉末をスリーブ103の形態のカプセル中に注ぐことを含んでもよく;カプセルを次いで排気させ、密封する。粉末を圧密化するために、カプセルをいわゆる熱間等静圧処理(HIP)ステップで熱及び圧力にさらす。
【0043】
本発明のある実施形態において、粉末混合物の提供は、前記元素を含んでなる溶融金属の前記粉末へのアルゴンガスアトマイゼーションのステップを含んでなる。本発明のある実施形態において、溶融高速度鋼のアルゴンガスアトマイゼーションによって、160μmの最大サイズの高速度鋼粒子が形成される。
【0044】
粉末を提供した後、スリーブを前記粉末から形成する。この成形は、例えば前記粉末をカプセル中に注ぐことを含んでもよく;カプセルを次いで、例えば、前記カプセルを排気させるために0.004mbar未満の圧力に24時間さらすことによって、排気させる。カプセルを次いで密封して、カプセル中の前記圧力を維持する。粉末の圧密化は、カプセルを高温、例えば約1150℃、及び高圧、例えば約1000barに長時間、例えば2時間さらすことによって達成される。この最後の圧密化ステップは熱間等静圧圧縮成形(HIP)と呼ばれる。
【0045】
軟化焼鈍ステップをHIPステップに続いて行い、好ましくはこの軟化焼鈍ステップを900℃で実施し、続いて10℃/時の冷却速度で700℃まで温度を低下させ、その後スリーブを室温まで自然に冷却させる。
【0046】
軟化焼鈍後、スリーブを機械加工、好ましくは1100℃での硬化(オーステナイト化)ステップとその後3回、それぞれ560℃で60分間の焼鈍ステップに付し、各ステップ間では室温まで自然に冷却させる。
【0047】
これらのその後のステップから得られるスリーブは、前述の偏析や粗い炭化物構造がなく非常に良好な均一性を示し、最も重要な効果は、イットリウム元素が高速度鋼のベースマトリックス中で均等に分布していることである。
【0048】
【表1】
【0049】
スリーブ103の材料の優れた特性を示すために、任意の元素なしで高速度鋼を設計した。表1を参照のこと。任意の元素を除外することによって、この方法により改善された高温摩耗が明確かつ簡潔に表示される。高温摩耗に関する簡単な評価方法「ピン・オン・ディスク」を後述する。
【0050】
表1は、実験で使用される高速度鋼の元素を示す。表1中の元素でスメルトを製造し、このスメルトから、アルゴンを使用したガスアトマイゼーションによって粉末を製造した。表1中の合金B及びCの粉末は<160μmの粒子サイズを有し、合金Aの粉末は<500μmの粒子サイズを有する。
【0051】
以下の説明では、本発明をさらに説明するために、実施した非限定的実験を詳細に記載する。
【0052】
試料の調製は、カプセルに粉末を充填することから始め、前記カプセルは直径73mmの螺旋型溶接管で作られていた。カプセルを次いで0.004mbar未満の圧力に24時間さらした。前記圧力を維持するためにカプセルを次いで密封した。
【0053】
カプセル中の粉末を圧密化するために、熱間等静圧圧縮成形操作を1150℃及び1000barで2時間実施した。試料を次いで900℃で軟化焼鈍ステップに付し、続いて10℃/時の冷却速度で温度を700℃まで低下させ、その後試料を室温まで自然に冷却させた。
【0054】
試料を次いで機械加工し、1100℃での硬化(オーステナイト化)ステップ及びそれぞれ560℃で60分間の3回のその後の焼鈍ステップで、その間で室温まで自然冷却させて、熱処理した。
【0055】
最終調製ステップは自動グラインダー/ポリッシャー中での試料の段階的な粉砕及び研磨を含んでなるものであった。最終研磨ステップの間、1μmのダイアモンド懸濁液を使用した。
【0056】
図2は、トライボロジー試験に使用される簡易試験セットアップを示す;このセットアップは、当該技術分野では「ピン・オン・ディスク」と呼ばれる。「ピン・オン・ディスク」トライボロジー試験の原理は以下の通りである;試料1を軸線5の周りで速度ωにて複数回回転させる。試料1の回転と同時に、力Fをピン2に加え、ピンが今度はボール3に同じ力Fを加える。ボール3はAl23で作られ、6mmの直径を有する。試料1の回転及びボール3に対する力Fによって、試料1に溝6が形成される。
【0057】
高温での摩耗挙動を評価するために、「ピン・オン・ディスク」セットアップの下方部分を、炉4中に収容する。従って、炉4は、試料1、ボール3及びピン2の下方部分を加熱して、所望の操作温度にすることができる。
【0058】
図3は、溝6の長手方向に対して垂直な溝6の横断面を示す。試料の研磨面から溝6の底部まで測定された深さdを試料の耐摩耗性の基準として使用する。耐摩耗性の別の形態は、断面積7であり、これは溝6の長手方向に対して垂直な試料1の研磨面の下の溝6の断面積と定義される。溝6のプロフィール及び深さdは、Veeco Wyko NT9100白色光干渉計を使用して評価した。
【0059】
前述の記載による一連の試料は、先に概略を記載した「ピン・オン・ディスク」手順に従って製造し、試験した。「ピン・オン・ディスク」結果を図3で示す。この試験における直線速度は20cm/sであり、加えられた力Fはそれぞれ5N及び20Nであり、試料を20000回転させた。
【0060】
図4で見られるように、イットリウムの添加によって、650℃で溝の深さが減少した;5.7μmに等しい溝深さdを有する合金A、1.9μmに等しい溝深さdを有する合金B及び3.7μmの溝深さdを有する合金Cを参照のこと。これは、本発明の方法によって製造された合金について高温で予想される耐摩耗性の増加を示す。0.5%のイットリウムを高速度鋼(合金B)に添加することによって、イットリウム(合金A)を含まない高速度鋼と比較しておよそ3倍の溝深さdの減少が起こった。また、1%のイットリウムを高速度鋼(合金C)に添加することによって、650℃で溝深さdが減少する。
【0061】
耐摩耗性のさらに典型的な基準は、1メートルあたりの体積減少(mm3/m)である。1メートルあたりの体積減少の算出は、横断面積7をトラックの長手方向にわたって積分し、溝の外周で割ることによって行う。図5では、1メートルあたりの体積減少を提示する;合金Aの体積減少は4.6×10-5mm3/mであり、合金Bの体積減少は1.8×10-5mm3/mであり、合金Cの体積減少は4×10-5mm3/mである。高速度鋼のイットリウム含有量とその1メートルあたりの体積減少との間の関係を図5に示す。図5から、0.5%のイットリウム含有量は、明らかに1メートルあたり最低の体積減少をもたらすと結論づけることができる。1%より高いイットリウム含有量も1メートルあたりの体積減少に対して有益な影響を及ぼす。この関係は、0.5%のイットリウム含有量が言外の高速度鋼の耐摩耗性において優れた増加をもたらすことを意味する。図中で表示されていないが、実施例D及びEも、イットリウムの添加により対応したプラスの影響を示すことに注意すべきである。
【0062】
本発明によると、高速度鋼のイットリウム含有量は0.2〜1重量%の範囲内である。高速度鋼のイットリウム含有量は0.4重量%超かつ0.7重量未満であるのが好ましくは、さらに好ましくは0.4〜0.6重量%、たとえば0.4〜0.5重量%、たとえば0.4、0.41、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49及び0.5である。
【0063】
図6で、試料の硬度を提示する。硬度は合金Aについては63HRCであり、硬度は合金Bについては57HRCであり、硬度は合金Cについては56HRCである。図6からの結論は、硬度がイットリウムの添加で減少することである。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、この減少についての1つの可能な説明は、イットリウムを含有する合金では利用可能な炭素が少なく、それによって硬度が減少するということである。このことは、図4中で、室温での高速度鋼の摩耗率が、高速度鋼の硬度によって主に支配されることを示す。室温では、摩耗率は硬度の減少とともに増加する。しかしながら、高温では、成長速度論や酸化物スケールの機械的特性などの他のメカニズムが摩耗を支配している。
【符号の説明】
【0064】
101 ロール
102 コア
103 スリーブ
104 エンベロープ面
1 試料
2 ピン
3 ボール
4 炉
5 軸線
6 溝
7 断面積
d 溝深さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6