特許第6016934号(P6016934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6016934流動体のずり速度を求める方法、そのプログラム及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6016934
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】流動体のずり速度を求める方法、そのプログラム及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/16 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   G01N11/16 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-541246(P2014-541246)
(86)(22)【出願日】2013年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2013055518
(87)【国際公開番号】WO2014132412
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000127570
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087826
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀人
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【弁理士】
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【弁理士】
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 悠
(72)【発明者】
【氏名】出雲 直人
(72)【発明者】
【氏名】菅野 将弘
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−533477(JP,A)
【文献】 特開2005−009862(JP,A)
【文献】 特開2011−069754(JP,A)
【文献】 特開2003−121331(JP,A)
【文献】 出雲直人,“新方式レオメータにより得られる各種液体の粘性〈振動式レオメータRV‐10000〉”,計測技術,日本,2013年 2月 5日,Vol.41, No.3,Page.33-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00 − 11/16
G01N 3/00 − 3/62
G01N 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル液中に浸漬した一対の振動子を、コイルを備えた電磁駆動部によって振動させ、前記振動子の振幅が設定された振幅値となるように前記コイルに駆動電流を流し、前記駆動電流を測定してサンプル液の粘度を算出する音叉振動式粘度計における、サンプル液に発生するずり速度を求める方法であって、
サンプル液の粘度を取得する粘度取得工程と、
駆動電流から振動子の接液部中心における駆動力を求める駆動力取得工程と、
駆動力と振動子の接液面積からサンプル液に働くずり応力を求めるずり応力取得工程と、を有し、
ずり速度をずり応力と粘度の比から求めることを特徴とするずり速度の測定方法。
【請求項2】
前記駆動力取得工程は、振動子の接液部中心における駆動力は、
前記電磁駆動部で発生する力を、磁束密度、駆動電流及びコイル長の積から求める第一工程と、
電磁駆動部で発生する力を、振動子の支点となる板バネの最薄肉部中心を基準とし、電磁駆動部中心までの距離と振動子の接液部中心までの距離の比で除する第二工程と、
から求めることを特徴とする請求項1に記載のずり速度の測定方法。
【請求項3】
サンプル液中に浸漬した一対の振動子を、コイルを備えた電磁駆動部によって振動させ、前記振動子の振幅が設定された振幅値となるように前記コイルに駆動電流を流し、前記駆動電流を測定してサンプル液の粘度を算出する音叉振動式粘度計であって、
サンプル液の粘度を取得する粘度取得手段と、
駆動電流から振動子の接液部中心における駆動力を求める駆動力取得手段と、
駆動力と振動子の接液面積からサンプル液に働くずり応力を求めるずり応力取得手段と、を有し、
ずり速度をずり応力と粘度の比から求めることを特徴とする音叉振動式粘度計。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載のずり速度の測定方法を、コンピュータプログラムで記載し、それを実行可能にしたことを特徴とする、ずり速度計算プログラム。
【請求項5】
サンプル液中に浸漬した回転子でサンプル液を層流状態で回転流動させ、回転子がサンプル液中で一定の回転数を維持するのに必要となるトルクを測定して、サンプル液の粘度を算出する回転式粘度計における、サンプル液に発生するずり速度を求める方法であって、
サンプル液の粘度を取得する粘度取得工程と、
測定した前記トルク値をサンプル液に働くずり応力として取得するずり応力取得工程と、を有し、
ずり速度をずり応力と粘度の比から求めることを特徴とするずり速度の測定方法。
【請求項6】
サンプル液中に浸漬した一の振動子を回転方向に共振させ、該振動子が一定の振幅を維持するのに必要となるトルクを測定して、サンプル液の粘度を算出する回転振動式粘度計における、サンプル液に発生するずり速度を求める方法であって、
サンプル液の粘度を取得する粘度取得工程と、
測定した前記トルク値をサンプル液に働くずり応力として取得するずり応力取得工程と、を有し、
ずり速度をずり応力と粘度の比から求めることを特徴とするずり速度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動体の物性評価に関するずり速度を求める方法に関し、特に流動体のずり速度の計算方法、そのプログラム及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流動体の物性を評価するのに重要な要素である粘度ηは、図1に示すように、直交座標による流体空間に、x方向に二枚の平行な平板Pと平板Qを配置し、平板Pを固定し、平板Qをx方向に一定速度で動かした場合の速度勾配であるずり速度Dと、この速度の差のために発生する、平板PQ間の流れ方向に平行な平面に単位面積当りに働く摩擦力であるずり応力Sと、を用いて、式(1)で表されることが知られている。式(1)は、流動体の粘度ηは流動体に発生するずり応力Sとずり速度Dの比として求まることを意味している。
η=S/D ・・・(1)
【0003】
ここで、特に、ずり速度Dの変化により粘度ηが変化する非ニュートン流体では、ずり速度Dを変化させた時の流動体の振舞いが変わるため、その流動体の物性設計上、ずり速度の測定が不可欠であり、粘度の測定に併せて取得したい値となる。
【0004】
これに対し、流動体の物性を評価する装置としては、従来から、毛細管式、落体式、回転式、振動式の粘度計が利用されている。
【0005】
毛細管式は、サンプル液が一定の流路を流れる時間を計測することで粘度の測定を行っている。落体式は、サンプル液中の金属球の落下時間より粘度を測定を行っている。このため、いずれの方式も、時間から粘度を間接的に測定しているため、ずり速度を求めることができない測定方法である。
【0006】
次に、振動式では、サンプル液中を振動子が往復運動するので、流動体に加わるずり速度が時間変化に対して一定値とならない。このため、ずり速度を決定できない測定方法として認識されている(音叉振動式については特許文献1及び特許文献2、回転振動式については非特許文献1を参照)。
【0007】
次に、回転式では、回転子が、サンプル液中で一定の回転数を維持するのに必要となるトルクを測定して粘度を求めており、回転子の回転数がずり速度に比例するとの考え方からずり速度を決定している。
【0008】
具体的に、コーン・プレート式回転粘度計では、図2に示すように、平板31を静止させた状態で、サンプル液9中に浸漬した円錐ロータ32(回転子)を回転数N[rpm]で回転させたとき、ロータ32の半径をRとすれば、サンプル液9に発生するずり速度Dは任意の半径rにおいて式(2)となり、ずり速度Dは、rに無関係で、円錐面のどの位置でも回転数Nと円錐角φで求まるとしている(非特許文献2)。
D=(2πNr/60)×(1/rφ)=(2πN/60)×(1/φ)
・・・(2)
【0009】
共軸二重円筒型回転粘度計では、図3に示すように、外筒33を静止させた状態で、サンプル液9中に浸漬した内筒34(回転子)を回転数N[rpm]で回転させたとき、外筒33の半径をRc、内筒34の半径をRb,高さhとすれば、サンプル液9に発生するずり速度Dは式(3)となり、ずり速度Dは、回転数Nと円錐角φで求まるとしている(非特許文献2)。
D=0.2094N/{1−(Rb/Rc)}・・・(3)
【0010】
即ち、回転式は、ずり速度は、回転子の回転数Nと回転子の形状φ又はRb,Rcから求められるため、ずり速度を求められる測定方法として認識されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−149861号公報
【特許文献2】特開平2005−9862号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】JIS Z8803(2011年)
【非特許文献2】レオロジー用語解説 東機産業ホームページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、ずり速度が求められるとされている回転式粘度計であっても、上述のように、ずり速度は、粘度計装置の幾何学的形状と回転子の回転数から仮定的に求めているにすぎない。即ち、流動体の実際の挙動が反映された理想的な値が得られているわけではないという問題がある。
【0014】
本発明は、従来技術の問題を解決するために、新規な方法により流動体のずり速度を求めることを提案し、併せてそのプログラム及び装置を提供することで、より実態に近い流動体の物性解明に貢献しようとするものである。
【発明を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、請求項1では、サンプル液中に浸漬した一対の振動子を、コイルを備えた電磁駆動部によって振動させ、前記振動子の振幅が設定された振幅値となるように前記コイルに駆動電流を流し、前記駆動電流を測定してサンプル液の粘度を算出する音叉振動式粘度計における、サンプル液に発生するずり速度を求める方法であって、サンプル液の粘度ηを取得する粘度取得工程と、駆動電流Iから振動子の接液部中心における駆動力Fを求める駆動力取得工程と、駆動力Fと振動子の接液面積Aからサンプル液に働くずり応力Sを求めるずり応力取得工程と、を有し、ずり速度Dをずり応力Sと粘度ηの比から求めることを特徴とする。
【0016】
請求項2では、請求項1に記載のずり速度の測定方法において、前記駆動力取得工程は、振動子の接液部中心における駆動力Fは、前記電磁駆動部で発生する力F1を、磁束密度B、駆動電流I及びコイル長Lの積から求める第一工程と、電磁駆動部で発生する力F1を、振動子の支点となる板バネの最薄肉部中心を基準とし、電磁駆動部中心までの距離と振動子の接液部中心までの距離の比αで除する第二工程と、から求めることを特徴とする。
【0017】
請求項3では、サンプル液中に浸漬した一対の振動子を、コイルを備えた電磁駆動部によって振動させ、前記振動子の振幅が設定された振幅値となるように前記コイルに駆動電流を流し、前記駆動電流を測定してサンプル液の粘度を算出する音叉振動式粘度計であって、サンプル液の粘度ηを取得する粘度取得手段と、駆動電流Iから振動子の接液部中心における駆動力Fを求める駆動力取得手段と、駆動力Fと振動子の接液面積Aからサンプル液に働くずり応力Sを求めるずり応力取得手段と、を有し、ずり速度Dをずり応力Sと粘度ηの比から求めることを特徴とする。
【0018】
請求項4では、請求項1又は2に記載のずり速度の測定方法を、コンピュータプログラムで記載し、それを実行可能にしたことを特徴とする。
【0019】
請求項5では、サンプル液中に浸漬した回転子でサンプル液を層流状態で回転流動させ、回転子がサンプル液中で一定の回転数を維持するのに必要となるトルクτ測定して、サンプル液の粘度を算出する回転式粘度計における、サンプル液に発生するずり速度を求める方法であって、サンプル液の粘度ηを取得する粘度取得工程と、測定した前記トルク値をサンプル液に働くずり応力Sとして取得するずり応力取得工程と、を有し、ずり速度Dをずり応力Sと粘度ηの比から求めることを特徴とする。
【0020】
請求項6では、サンプル液中に浸漬した一の円筒状振動子を回転方向に共振させ、該振動子が一定の振幅を維持するのに必要となるトルクτ測定して、サンプル液の粘度を算出する回転振動式粘度計における、サンプル液に発生するずり速度を求める方法であって、サンプル液の粘度ηを取得する粘度取得工程と、測定した前記トルク値をサンプル液に働くずり応力Sとして取得するずり応力取得工程と、を有し、ずり速度Dをずり応力Sと粘度ηの比から求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回転式、回転振動式、特に音叉振動式の粘度計において、実測値から流動体のずり速度を求める新規な方法を提供でき、音叉振動式の粘度計において、併せてそのプログラム及び装置を提供することで、装置の幾何学的形状によらない、流動体の挙動が反映された、より実態に近い流動体の物性解明に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】粘度の定義式を導く模式図
図2】コーン・プレート型回転式粘度計の測定部の概略図
図3】共軸二重円筒型回転式粘度計の測定部の概略図
図4】本実施例に係る音叉振動式粘度計の構成図
図5】同音叉振動式粘度計の制御駆動系のブロック図
図6】本発明に係る音叉振動式粘度計におけるずり速度測定のフローチャート
図7】同粘度計でニュートン流体を測定したときのずり速度とずり応力との関係を表示したグラフ
図8】同粘度計で非ニュートン流体を測定したときのずり速度とずり応力との関係を表示したグラフ
図9】同粘度計で複数のニュートン流体を測定したときのずり速度と粘度との関係を表示したグラフ
図10】回転振動式粘度計の測定部の概略図
図11】本発明に係る回転式粘度計及び回転振動式粘度計に共通するずり速度測定方法のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0024】
図4は、本発明に係る音叉振動式粘度計の構成図であり、粘度計本体のうちの駆動機構部10の構成概略図である。粘度計本体及び駆動機構部10の詳細な構成は、特許文献2に記載されている。
【0025】
駆動機構部10中、符号1,1は、サンプル液9中に浸漬される一対の振動子であり、セラミック部材や金属部材等の薄肉平板状の板材から形成され、先端に円形状の拡大部が設けられている。この拡大部が、サンプル液9との接液部1aとなる。一対の振動子1,1は、厚み方向の中心軸がサンプル液9中で同一平面上に位置するように配置される。
【0026】
符号7はサンプル液が充填される容器、符号3は温度センサである。符号4,4は先端に振動子1,1が固設された板バネ、符号8は板バネ4,4が固定される中央支持部材であり、振動子1,1が容器7内のサンプル液中に一定の深さでもって浸かるように構成されている。
【0027】
符号2bは電磁コイル,符号2aはフェライト磁石であり、電磁コイル2bとフェライト磁石2aとからなるムービングマグネット方式の電磁駆動部2により、板バネ4,4の先端に設けられた振動子1,1が、設定された振幅値で振動するように構成されている。符号5は渦電流損検出非接触型の変位センサであり、振動子1,1の振幅値を測定する。
【0028】
次に、図5は、本発明に係る音叉振動式粘度計の制御駆動系のブロック図である。
【0029】
符号12はPWM変調回路、符号13は正弦波発生回路、符号14は比較器、符号15は制御器、符号16はI/V変換器、符号17,19はA/D変換器、符号18は演算処理部である。
【0030】
サンプル液9中に浸漬された振動子1,1は、設定された振幅値で振動するように演算処理部18から駆動信号が出され、正弦波生成回路13を介して生成された駆動電流が電磁駆動部2の電磁コイル2bに通電されて板バネ4,4に印加される。これにより、振動子1,1が逆位相で振動し、共振状態を形成する。この振動子1,1の振幅値が変位センサ5により検出され、検出された振幅値の信号が入力された比較器14で設定振幅値と比較され、振動子1,1が設定振幅値で振動するように制御器15から信号が出力され、フィードバック制御が行われる。振動子1,1が設定振幅値で振動するようになると、その時に電磁コイル2bに通電された駆動電流Iが検出される。そして、この駆動電流Iが、I/V変換器16及びA/D変換器17を介して演算処理部18に入力され、サンプル液9の粘度が算出される。粘度の算出過程については、特許文献1に記載されている。また、温度センサ3の入力信号は、温度用A/D変換器19を介して、演算処理部18に入力される。
【0031】
演算処理部18と比較器14との間には、PWM変調回路12が接続されており、比較器14に入力される振幅値を演算処理部18からの指令によりパルス幅変調することで、設定振幅値が任意に変更され、測定中に振動子1,1の振幅が変化し、サンプル液9に発生するずり速度が変更される。
【0032】
演算処理部18には、メモリ21,表示部22,キースイッチ部23(いずれも図示せず)等が接続されており、ユーザは、係るキースイッチ部23から、測定条件の設定が行える。測定条件とは、一例として、測定時間、振幅変化の設定(振幅の下限値及び上限値の入力や振幅の時間割の変化量の決定、振幅を上昇させるか,下降させるか又は往復させるか)などである。この詳細は、国際特許出願2012/074654に記載されている。
【0033】
次に、上記構成の音叉振動式粘度計を用いて、サンプル液9の、新規なずり速度を求める方法を詳細に説明する。演算処理部18では、以下の各工程の演算を行う。
【0034】
(ずり応力取得工程)
音叉振動式粘度計では、振動子1がサンプル液9中でサイン波での往復運動を行うときに、往復運動に必要なエネルギーが、サンプル液9中で振動子1を動かすのに必要な力(トルク)として測定される。即ち、この振動子1の接液部1aの中心1oにおける駆動力Fを、振動子1の接液面積A(接液部1aの面積)で割ると、サンプル液9と振動子1間に発生するずり応力Sを求めることができる(式(4))。接液面積Aは、装置構成から既知の値となる。
S=F/A・・・(4)
ずり応力取得工程で必要となる駆動力Fは、駆動力取得工程から得る。
【0035】
(駆動力取得工程)
振動子の接液部中心1oにおける駆動力Fは、電磁駆動部2で発生する力F1を、振動子1の支点となる板バネ4の最薄肉部4aの上下方向中心を基準とし、電磁駆動部2の上下方向中心までの距離d1と振動子の接液部中心1oまでの距離d2の比(てこ比)αで除すことで求められる(式(5))。てこ比αは、装置構成から既知の値となる。
F=F1/α・・・(5)
電磁駆動部2で発生する力F1は、コイル22の磁束密度B、コイル22に流れる駆動電流I及びコイル22のコイル長Lの積から求められる(式(6))。磁束密度B、コイル長Lは、装置構成から既知の値となる。
F1=BIL・・・(6)
ここで、駆動電流Iを実効値として扱えば、振動子の接液部中心1oにおける駆動力Fは、式(6)で電磁駆動部2で発生する力F1を算出する第一工程と、得られたF1値を式(5)に代入して得る第二工程から、式(7)で求められる。
F=BIL/α・・・(7)
【0036】
(粘度取得工程)
サンプル液9の粘度ηは、上述の測定により得られる。予めサンプル液9の粘度ηが既知である場合には、キースイッチ部23から入力しても良い。或いは、メモリ21に予め記録したものを読みだしても良い。
【0037】
以上のようにして、サンプル液9の粘度値ηが既知となれば、式(1)、式(4)及び式(7)より、サンプル液9に発生するずり速度Dは、式(8)で求めることができる。
D=BIL/αηA・・・(8)
【0038】
図6は、本発明に係る音叉振動式粘度計におけるずり速度測定方法のフローチャートである。
【0039】
測定を開始すると、ステップS1に進み、粘度取得工程から、サンプル液9の粘度ηの値を取得する。測定による場合は、測定開始から値が安定となったと判断したときの粘度ηを取得するのが好ましい。測定によらない場合は、入力値或いはメモリ21から読みだした値を取得する。次に、ステップS2に進み、駆動電流Iを測定し、駆動力取得工程から、振動子の接液部中心1oにおける駆動力Fを測定し、値を取得する。次に、ステップS3に進み、ずり応力取得工程から、ずり応力Sを算出し、値を取得する。次に、ステップS4に進み、取得した粘度ηとずり応力Sとの比から、ずり速度Dを算出し、値を取得する。次に、ステップS5に進み、振動子1の設定振幅値を変更し、ステップS1へ戻る。設定振幅値が設定した終了値となれば、ステップS6に進み、サンプル液9を他のサンプル液に変更し、ステップS1へ戻る。サンプル液の変更の必要がなければ、ステップS7に進み、流動曲線グラフ等を出力し、測定を終了する。
【0040】
ステップS7で出力されるグラフは、例えばサンプル液9のずり速度D、ずり応力S、粘度η、駆動力F、振動子1の振幅値、温度センサ3で測定されたサンプル液9の温度、から任意の値を、横軸、縦軸に任意に指定して出力することができる。また、複数のサンプル液のデータを一にまとめて出力することも可能である。
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。なお、測定に使用した音叉振動式粘度計の接液面積Aは0.000304[mm]、てこ比αは3.81、コイル22の磁束密度Bは0.308[Web/m]、コイル長Lは4[m]、であった。
【0042】
(実施例1)
サンプル液9はニュートン流体であるイオン交換水(25[℃]一定条件下)45mlを用いた。測定条件は、測定時間11分、振幅の下限値0.2mm、上限値1.2mm、振幅の時間割の変化量Δ0.2mm/分、振幅は上昇ののち下降させ、往復させた。また、イオン交換水(25[℃])の粘度は既知(JIS Z8803に準拠)であるため、値を入力して測定を行った。この結果得られたずり速度を、横軸にずり速度[1/s]、縦軸に粘度[mPa・s]として線描したものを図7に示す。
【0043】
(実施例2)
サンプル液9は非ニュートン流体である肌用保湿クリーム(25[℃]一定条件下)45mlを用いた。測定は、測定時間15分、振幅下限値0.07mm、振幅上限値1.2mm、振幅変化量0.07,0.1,0.2,0.4,0.6,0.8,1.0,1.2mmを1分毎に変化させた。振幅は上昇ののち、下降させ、往復させた。粘度は測定開始後 、各振幅1分後の粘度値を取得した。この結果得られたずり速度を、横軸にずり速度[1/s]、縦軸に粘度[mPa・s]として線描したものを図8に示す。
【0044】
(実施例3)
サンプル液9はニュートン流体であるイオン交換水に続き、標準液JS20、JS200、JS2000、JS14000(いずれも25[℃]一定条件下)45mlを用いた。測定条件は、実施例1と同様に行った。また、いずれの粘度も既知(JIS Z8803に準拠)であるため、値を入力して測定を行った。この結果得られたずり速度を、横軸に粘度[mPa・s]、縦軸にずり速度[1/s]として、各液で線描したものを図9に示す。
【0045】
以上により、本発明によるずり速度を求める方法では、実測値である、駆動力F(駆動電流I)及び測定による場合は粘度ηからずり速度を求めているので、装置の幾何学的形状によらない、流動体の挙動が反映されたずり速度を求めることができ、より実態に近い流動体の物性解明に貢献することができる。
【0046】
次に、回転式粘度計における、新規なずり速度を求める方法を詳細に説明する。
【0047】
コーン・プレート式回転粘度計では、図2のとおり、同一中心軸をもつ平板31・円錐ロータ32間に満たされたサンプル液9を、回転子となる円錐ロータ32を回転数N[rpm]で回転させて層流状態で回転流動させ、平板31に作用するトルクτを検出し、粘度を算出する。粘度の算出過程については、非特許文献1に記載されている。そして、この実測されるトルクτは、サンプル液9に発生するずり応力Sと同値であることから、ずり応力Sの値はトルクτを測定することで取得できる。
【0048】
共軸二重円筒型回転粘度計では、図3のとおり、同一中心軸をもつ外筒33・内筒34間に満たされたサンプル液9を、回転子となる内筒34を回転数N[rpm]で回転させて層流状態で回転流動させ、外筒33の円筒面に作用するトルクτを検出し、粘度を算出する。装置構成の詳細及び粘度の算出過程については、非特許文献1に記載されている。そして同様に、この実測されるトルクτは、サンプル液9に発生するずり応力Sと同値であることから、ずり応力Sの値はトルクτを測定することで取得できる。
【0049】
即ち、サンプル液9の粘度ηを上述の測定によって取得し(粘度取得工程)、ずり応力Sの値(トルクτの値)を取得すれば(ずり応力取得工程)、前述の式(1)から、S=τとして、サンプル液9に発生するずり速度Dは、実測のトルクτと既知の粘度ηの比で求めることができる(式(9))。
D=τ/η・・・(9)
【0050】
なお、回転子が平板31、外筒33であるタイプのものであっても、他方要素に作用するトルクτを測定することで式(9)から同様にずり速度Dが求められることは言うまでもない。
【0051】
次に、回転振動式粘度計における、新規なずり速度を求める方法を詳細に説明する。
【0052】
回転振動式粘度計では、図10に示すとおり、サンプル液9中に浸漬した円筒状の振動子35を回転方向に共振させ、円筒状振動子35が一定の振幅を維持するのに必要となるトルクτを検出し、粘度を算出する。装置構成の詳細及び粘度の算出過程については、非特許文献1に記載されている。
【0053】
即ち、上述の回転式粘度計と同様に、サンプル液9の粘度ηを上述の測定によって取得或いは既知である場合は入力により取得し(粘度取得工程)、ずり応力Sの値(トルクτの値)を取得すれば(ずり応力取得工程)、サンプル液9に発生するずり速度Dは、式(9)で求めることができる。
【0054】
図11は、本発明に係る回転式粘度計及び回転振動式粘度計に共通するずり速度測定方法のフローチャートである。
【0055】
測定を開始すると、ステップS101に進み、粘度取得工程から、サンプル液9の粘度ηを測定し、その値を取得する。次に、ステップS102に進み、ずり応力取得工程から、トルクτを測定し、その値をずり応力Sとして取得する。次に、ステップS103に進み、取得した粘度ηとずり応力Sとの比から、ずり速度Dを算出し、値を取得する。次に、ステップS104に進み、回転式粘度計であれば回転数を変更し、回転振動式粘度計であれば振幅を変更し、ステップS101へ戻る。回転数/振幅を変更する必要がなければ、ステップS105に進み、サンプル液9を他のサンプル液に変更し、ステップS101へ戻る。サンプル液の変更の必要がなければ、ステップS106に進み、流動曲線グラフ等を出力し、測定を終了する。
【0056】
ステップS106で出力されるグラフは、例えばサンプル液9のずり速度D、ずり応力S、粘度η、から任意の値を、横軸、縦軸に任意に指定して出力する。また、複数のサンプル液のデータを一にまとめて出力することも可能である。
【0057】
以上により、本願発明の方法は、音叉振動式粘度計に限らず適用が可能であり、回転式粘度計、回転振動式粘度計でも同様の発想によってずり速度を求めることができる。回転式粘度計及び回転振動式粘度計は、いずれも円錐ロータ32,内筒34,円筒状振動子35を回転させる装置構成であり、その回転を維持するために必要なトルクτが実測される。よって、式(9)から、ずり速度Dは、実測のトルクτと既知の粘度ηの比で求めることができる。
【0058】
即ち、回転式粘度計及び回転振動式粘度計においても、装置の幾何学的形状によらない、流動体の挙動が反映されたずり速度を求める方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 振動子
1a 接液部
1o 接液部中心
2 電磁駆動部
2a フェライト磁石
2b 電磁コイル
3 温度センサ
4 板バネ
4a 最薄肉部
5 変位センサ
7 容器
8 中央支持部材(板ばね固定)
9 サンプル液
10 駆動機構部
32 回転子である円錐ロータ
34 回転しである円筒
35 円筒状振動子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11