(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記積層導電体は、半径方向の最も内側に配置される少なくとも1つの前記導電層が、前記コイル軸に平行な方向の高さ(H)において、他の前記導電層より長く突出するように形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の誘導加熱コイル。
前記積層導電体は、半径方向の最も外側に配置される少なくとも1つの前記導電層が、前記コイル軸に平行な方向の高さ(H)において、他の前記導電層より長く突出するように形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の誘導加熱コイル。
前記積層導電体は、半径方向の最も外側に配置される少なくとも1つの前記導電層が、前記コイル軸に平行な方向の高さ(H)において、半径方向の最も内側に配置される高さの異なる導電層を除く他の前記導電層より長く突出するように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の誘導加熱コイル。
前記積層導電体は、前記各導電層の前記コイル軸に平行な方向の高さ(H)が、半径方向の内側に配置された前記導電層より中央に配置された前記導電層に向かって徐々に短くなり、中央に配置された前記導電層より外側に配置された前記導電層に向かって徐々に長くなるように形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の誘導加熱コイル。
前記内側誘導加熱部および前記外側誘導加熱部の間の間隙には、外側加熱部の上側表面に冷却風を案内する導風部を有することを特徴とする請求項8に記載の誘導加熱コイル。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本願発明に係る誘導加熱コイルの実施の形態を説明する。各実施の形態の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(例えば、「上側」、「下側」、「X方向」、「Y方向」および「Z方向」など)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本願発明を限定するものでない。なお、本願明細書においては、誘導加熱コイルのコイル軸方向をZ方向とする。
【0017】
実施の形態1.
本願発明に係る実施の形態1の誘導加熱コイル10は、任意の加熱装置に採用することができるが、本願明細書では、典型例としてIHクッキングヒータなどの誘導加熱装置1に採用される誘導加熱コイル10について以下詳細に説明する。
【0018】
図1は、本願発明に係る誘導加熱コイル10を内蔵したIHクッキングヒータなどの誘導加熱装置1の全体斜視図であり、
図2は、
図1のII−II線から見た誘導加熱装置1の断面図である。
図3は、誘導加熱コイル10を上方から見た平面図である。
図1に示す誘導加熱装置1は、概略、ハウジング5と、その最上部に配設された強化ガラスなどからなるトッププレート6と、誘導加熱部7と、ユーザが加熱能力を調整するための操作部8とを有する。
【0019】
実施の形態1に係る誘導加熱部7は、
図2に示すように、ハウジング5内でトッププレート6の下方に配設された誘導加熱コイル10と(
図3)、放射状または半径方向に延びる複数のフェライト部材(高透磁率部材)12と、誘導加熱コイル10およびフェライト部材12を安定的に支持するコイル台14と、トッププレート6の下面の温度を測定するための温度センサ17とを有する。さらに誘導加熱装置1は、誘導加熱コイル10の両端子21,22間に高周波電圧を印加して、誘導加熱コイル10に高周波電流を供給する駆動部(たとえばインバータ回路)16と、操作部8で設定された加熱能力および温度センサ17で測定された実測温度に基づいて適当な高周波電圧を誘導加熱コイル10に印加するように駆動部16を制御する制御部(たとえばコントローラ)18とを有する。
【0020】
さらに
図2には、トッププレート6上に戴置された磁性体金属製鍋(被加熱体、以下単に「鍋」という)Kが簡略的に図示されており、鍋K内には食材が収容されている。誘導加熱装置1は、誘導加熱コイル10に高周波電流が流れたときに、その周囲において鍋Kおよびフェライト部材12を通る(
図2の破線で示す)連続した閉ループ高周波磁場が形成され、この高周波磁場により鍋Kに渦電流が形成され、鍋Kを効率よく加熱するものである。
【0021】
一般に、鍋Kに対する加熱効率を上げるためには、鍋Kと誘導加熱コイル10との間隔をできる限り狭小にする必要があるので、誘導加熱コイル10とトッププレート6との間隔も極力小さくすることが好ましい。
一方、誘導加熱コイル10に高周波電流を供給し、鍋Kを加熱する際、誘導加熱コイル10自体の巻線抵抗によるジュール熱(銅損)、加熱された鍋Kからのトッププレート6を介した輻射熱、および高周波磁場が形成され、電気抵抗によるジュール熱(鉄損)により高温となったフェライト部材12からの輻射熱に起因して、誘導加熱コイル10は実質的な温度に達するまで加熱される。そこで一般的な誘導加熱装置1においては、
図2の実線矢印で示すように、別途設けた冷却ファン(図示せず)による冷却風を、誘導加熱コイル10(フェライト部材12を含む)の下方から送ることにより冷却して、誘導加熱コイル10の温度を許容動作温度以下に維持する必要がある。
【0022】
ところが上述のように、鍋Kの加熱効率を上げるために、誘導加熱コイル10とトッププレート6との間隔がきわめて狭小に設計されており、冷却ファンによる冷却風が誘導加熱コイル10の上側表面に流れにくいため、誘導加熱コイル10の温度が相当に上昇する場合があり、誘導加熱コイル10に対する冷却効果のさらなる改善が望まれているところである。
【0023】
ここで、本願発明に係る誘導加熱コイル10の構造について、以下詳細に説明する。
図3は、誘導加熱装置1からトッププレート6を取り除いた後の誘導加熱コイル10を上方から見た平面図である。誘導加熱コイル10は、長尺状の積層導電体20をコイル軸(Z軸)の周りに沿って渦巻状に巻回して構成されたものであり、長尺状の積層導電体20の両端に端子21,22を有する。
【0024】
図4は、積層導電体20を渦巻状に巻回して誘導加熱コイル10を構成する前の長尺状の積層導電体20を示したものであり、
図5は、
図4に示す積層導電体20を垂直平面(
図4のXZ平面)で切断したときの断面図である。
図4に示す積層導電体20は、銅、アルミニウム、またはこれらの合金などの電気伝導率が高く、比較的に安価な金属からなり、積層導電体20の長尺方向に延びる複数の導電体が積層された導電層24と、複数の導電層24の間に形成された電気絶縁層25とから構成されている。すなわち各導電層24は、絶縁層25によって互いに絶縁され、好適には絶縁層25により包囲され、積層導電体20をコイル軸の周りに巻き回して構成された誘導加熱コイル10の巻き始めと巻き終わりの両端子21,22(
図3)以外では露出しないように構成されている。なお、
図5に示す各導電層24は矩形の断面形状を有するが、これに限定されるものではなく、長楕円形状を有するものであってもよい。
【0025】
図5(a)は、積層導電体20を半径方向の垂直平面で切断したときの断面図であり、
図5(b)は、積層導電体20を構成する、単一の導電層24および絶縁層25の断面図である。
図5(a)および(b)に示す積層導電体20において、各導電層24は、コイル軸に垂直な方向(X方向)の幅が0.1mmで、コイル軸に平行な方向(Z方向)の高さが1.36mmであり、各絶縁層25は、X方向の幅およびZ方向の高さが0.02mmで、14層の導電層24を包囲するものであり、積層導電体20全体のX方向の幅Wが1.96mm、Z方向の高さHが1.40mmであってもよい。各導電層24がコイル軸(Z軸方向)に沿って延びているため、
図4に示す長尺状の積層導電体20をコイル軸(Z軸)の周りに沿って渦巻状に巻回して構成された誘導加熱コイル10の上側表面付近で生じた熱は、各導電層24を介して下側表面に速やかに熱伝達され、下側表面に冷却風を当てることにより、誘導加熱コイル10全体を効率的に冷却することができる。また
図6は、
図3のVI−VI線から見た誘導加熱コイル10の概略断面図であり、この誘導加熱コイル10は積層導電体20をコイル軸の周りに8ターン巻回して構成されたものである。
【0026】
なお、各導電層24および各絶縁層25のX方向の幅W、Z方向の高さHおよびターン数は、上記した数値に限定されないが、本願発明によれば、
図5に示す積層導電体20のX方向の幅Wを、Z方向の高さHより大きくすることにより(W>H)、すなわち誘導加熱コイル10の上側表面付近で生じた熱を下側表面により迅速に熱伝達して、下側表面を冷却することにより、誘導加熱コイル10の冷却効率を改善するように構成されている。
【0027】
ところで、積層導電体20のX方向の幅Wについては、誘導加熱コイル10の巻線部分の最大直径をDとし、誘導加熱コイル10の巻き数をNターンとするとき、積層導電体20のX方向の幅Wは、D/2(加熱コイル10の半径)÷Nが最大値となる。一例として、ターン数Nが22ターンであり、誘導加熱コイル10の直径Dが180mmである場合、積層導電体20のX方向の幅Wは、180/2÷22=約4mmとなる。そして積層導電体20の各導電層24の幅W
0は、後述するように、導電体24のZ方向の高さHの20分の1以上であることが好ましいため、積層導電体20のZ方向のコイル高さHが2mmである場合、各導電層24の幅W
0は、0.1mmが最小となる。
【0028】
しかしながら、実際の誘導加熱コイル10には、
図14または
図16に示すように、温度センサ17を配置するスペースの確保、および加熱むらなどの原因となる磁束の集中を回避等の理由から、空隙が設けられていることがあり、積層導電体20が巻回されている部分は、誘導加熱コイル10の全体の約3分の2を占める場合が多い。たとえば、誘導加熱コイル10の半径が90mmであり、その約3分の2である60mmの範囲に積層導電体20が22ターン巻回されているとき、積層導電体20のX方向の幅Wは約2.7mm(=60÷22)となる。
【0029】
なお積層導電体20は、上記のように各導電層24と電気絶縁層25とを接合したものであってもよいが、導電材料からなる薄膜(導電層24に相当するもの)と、絶縁材料からなる薄膜(絶縁層25に相当するもの)とを、金属蒸着またはスパッタリングなどにより、交互に積層することにより作製してもよい。
【0030】
また前掲特許文献1に記載されたリッツ線は、多くの絶縁体を含むため、高さ方向の熱伝導性が良好でなく、しかも誘導加熱コイル10の上側表面
に対して最短経路で冷却風を案内しにくいことから、冷却効果が十分に得られなかった。しかしながら本願発明によれば、上述のとおり、鍋Kの加熱効率を上げるために、誘導加熱コイル10とトッププレート6とは近接して配置され、コイル台14の下方から冷却風を当てて冷却しているものの、積層導電体20全体のX方向の幅Wを、Z方向の高さHより大きくすることにより、誘導加熱コイル10全体を効率よく冷却することができる。
【0031】
実施の形態2.
図7〜
図9を参照しながら、本願発明に係る誘導加熱コイル10の実施の形態2について以下詳細に説明する。実施の形態2に係る誘導加熱コイル10は、概略、積層導電体20の高さHが表皮深さδの4倍以下となるように構成した点を除き、実施の形態1の誘導加熱コイル10と同様の構成を有するので、重複する内容については説明を省略する。
【0032】
一般に、高周波電流が導電体に流れるとき、電流密度が導電体の表面で高く、表面から離れるほど低くなる現象を表皮効果という。そして導電体の電流密度Jは深さδに対して、次式のように表される。
【0033】
【数1】
dは導電体の表面からの深さで、表皮深さδとは、高周波電流が表面電流J0の1/e(約36.8%)になる深さを云う。具体的には、導電層24の電気抵抗をρ、高周波電圧(高周波電流)の周波数をf、導電層24の透磁率をμ、導電層24の導電率をσとすると、表皮深さδは次式で求められる。
【0034】
【数2】
上述のとおり、導電層24は、導電率σが高く、安価な銅、アルミニウム、またはこれらの合金で形成することが好ましい。
【0035】
たとえば導電層24が銅からなるとき、その導電率σは約58.1×10
6S/mであるため、表皮深さδは、高周波電流の周波数fが20kHzの場合には0.467mmとなり、高周波電流の周波数fが25kHzの場合には0.418mmとなる。
【0036】
すなわち、誘導加熱コイル10の導電層24に流れる電流は、高さH方向において概ね指数関数的に電流が分布し、高周波電流の周波数fが20kHzのとき、誘導加熱コイル10の上側表面から表皮深さδだけ下方においては表面電流の1/e(約36.8%)の電流が流れ、2倍の表皮深さδだけ下方においては表面電流の1/e
2(約13.5%)の電流が流れ、3倍の表皮深さδだけ下方においては表面電流の1/e
3(約5.0%)の電流が流れる。
図7は、横軸に誘導加熱コイル10の高さH、すなわち誘導加熱コイル10の上側表面からの距離(コイル高さH)、縦軸に電流密度Jをプロットしたときのグラフである。
【0037】
図7に関連して、導電層24の高さHが異なる複数の誘導加熱コイル10について、同一条件で駆動したときに、誘導加熱コイル10の巻線抵抗による発熱量(ジュール熱または銅損)を測定してプロットしたところ、
図8のようなグラフを得た。すなわち導電層24の高さHを大きくするほど、導電層24の電気抵抗ρは小さくなるので、誘導加熱コイル10で生じる発熱量は減少するが、導電層24の高さHが表皮深さδの3倍以上になると、高周波電流の電流密度が極めて小さくなるため、誘導加熱コイル10で生じる発熱量はほぼ一定となる。換言すると、誘導加熱コイル10からの発熱量は一定値以下に維持するためには、導電層24の高さHが表皮深さδの3倍程度あれば十分であり、導電層24の高さHをそれ以上に大きくすることは、誘導加熱コイル10の構成材料に要するコストおよび重量を増大させるというデメリットが生じる。
【0038】
一方、積層導電体20のZ軸方向の高さHが異なる複数種類の誘導加熱コイル10を製作し、その上側表面の温度を測定してプロットしたところ、
図9のようなグラフを得た。
図8のグラフと同様、導電層24の高さHを大きくするほど、その電気抵抗が小さくなり、誘導加熱コイル10で生じる発熱量は減少するが、上述のとおり誘導加熱コイル10はその下側表面から冷却風を当てて冷却されるので、導電層24の高さHの増大に伴い、誘導加熱コイル10の上側表面に対する冷却効果は小さくなり、導電層24の高さHが表皮深さδの3倍を超えると、誘導加熱コイル10の上側表面の温度が上昇してしまう。つまり誘導加熱コイル10の上側表面の温度を示すグラフは、導電層24の高さHが表皮深さδのほぼ3倍であるときに極小点を有するので、誘導加熱コイル10の上側表面の温度を低く維持しつつ、かつ誘導加熱コイル10の構成材料を削減して、安価で軽量・薄型の誘導加熱コイル10を実現するためには、導電層24の高さHは表皮深さδのほぼ3倍程度であればよいことが分かる。
【0039】
ところで、
図5に示す各導電層24が、X方向に延びる幅W
0およびZ軸方向(コイル軸に平行な方向)の高さHを有するとき、幅W
0が高さHの20分の1以上である(W
0/H≧1/20)ことが望ましい。これは、たとえば円形断面を有する金属材料を圧延することにより1枚の平角状の導電層24を形成する場合、圧延比率(圧延前後の材料の厚みの比)は、銅を主成分とする金属材料を用いるときには1/10〜1/20程度であり、アルミニウムを主成分とする金属材料を用いるときには1/3〜1/6程度であることが望ましい。圧延比率が上記範囲を超えると、金属材料を入手しにくくなるばかりでなく、圧延による導電層24の製造コストが増大し、積層導電体20が非常に高価なものとなる。したがって、導電層24の幅W
0を導電層24の高さHの20分の1以上、逆に言えば、導電層24の高さHを導電層24の幅W
0の20倍以下とすることで、積層導電体20を形成する際の製造コストを削減する効果がある。
【0040】
したがって、導電層24のX方向の幅W
0が、たとえば0.2mmであるとき、Z方向の高さHは4mmが最大となるように構成すればよい。一方、高周波電流の周波数fが20kHzのとき、銅からなる導電層24の表皮深さδは、上述のように0.467mmであるところ、各導電層24の幅W
0が0.2mmであるとき、各導電層24のZ方向の高さHは最大で4mm(=0.2mm×20倍)となり、表皮深さδの約8.5倍(=4/0.467)となる。また、導電層24の高さHは、その幅W
0の3倍となるように構成した場合は、高さHは0.6mmとなり、表皮深さの約1.3倍(=0.6/0.467)となる。
【0041】
しかしながら、
図8に示すように、導電層24(加熱コイル)の高さHを表皮深さの4倍以上にすると、誘導加熱コイル10の巻線抵抗による発熱量が一定値に収束し、導電層24を構成する銅の容積(特に高さH)を大きくすることにより、誘導加熱コイル10の製造コストが増大することを考慮すれば、導電層24の高さHが表皮深さの4倍程度に設計すれば十分であると考えられる。
【0042】
ここで、誘導加熱コイル10を
図1の誘導加熱調理器1に適用する場合を考える。誘導加熱調理器に適用される誘導加熱コイル10に流す高周波電流の周波数fは、日本国の法令上、20kHz〜100kHzの範囲に制限されている。導電層24を構成する導電材料が銅である場合、高周波電流の周波数fの上記範囲での表皮深さδは、上記説明したように、0.209mm(100kHz)〜0.467mm(20kHz)となる。すなわち周波数fが20kHz〜100kHzの高周波電流を銅からなる導電層24に流すとき、導電層24の高さHが表皮深さの4倍となるように設計した場合、導電層24の高さHは、上記表皮深さδの範囲から、0.836mm〜1.868mmとなる。
【0043】
したがって本願発明によれば、上述のように、誘導加熱コイル10の冷却効率を改善するために、積層導電体20のX方向の幅W
は、Z方向の高さHより大きくするように構成されるが(W>H)、導電層24の幅Wは、高周波電流の周波数fが20kHzのとき1.868mmより大きく、周波数fが100kHzのとき0.836mmより大きくなるように設計される。すなわち本願発明によれば、積層導電体20のX方向の幅Wは、たとえば約1.9mmより大きく(高周波電流の最低周波数fが20kHzのとき)、誘導加熱コイル10の半径をターン数Nで割った値(D/(2N),D:誘導加熱コイル10の直径)以下となるように構成される。
【0044】
また、導電材料が銅である場合、表皮深さδは0.209mm(100kHz)〜0.467mm(20kHz)であるところ、上述のように、積層導電体20の製造コストを抑制するために、導電層24の幅W
0と高さHとの比(W
0/H)が所定の範囲(1/20≦(W
0/H)<1/10)に設定されると、導電層24の幅W
0は、0.042mm〜0.093mm(上記比が1/20のとき)となり、0.083mm〜0.187mm(上記比が1/10のとき)となる。つまり、実際に使用される高周波電流fの周波数範囲を考慮すると、導電層24の幅W
0は、約0.08〜0.2mm程度が好ましい。ただし、導電層24の幅W
0があまりに小さくなる場合には、
図4の導電層24のXZ平面で切断した断面積が小さくなり、その抵抗値が増大して電力損失の原因となるので、導電層24の積層数を増やすことが好ましい。さらに好適には、導電層24の構成材料の使用量や積層工程の削減を考慮し、導電層24の幅W
0を選択してもよい。
【0045】
このように実施の形態2によれば、導電層24の高さHを上記[数2]で示す表皮深さδの4倍以下に設計することにより、誘導加熱コイル10の冷却効果を実質的に改善するとともに、製造コストを最小限に抑え、軽量化および薄型化を実現することができる。
【0046】
実施の形態3.
図10〜
図12を参照しながら、本願発明に係る誘導加熱コイル10の実施の形態3について以下詳細に説明する。実施の形態3に係る誘導加熱コイル10は、概略、積層導電体20を構成する少なくとも1つの導電層24の高さHが他の導電層24より高くなるように構成されている点を除き、実施の形態1または2の誘導加熱コイル10と同様の構成を有するので、重複する内容については説明を省略する。
【0047】
図10は、コイル中心に最も近い積層導電体20の
図5と同様の断面図であって、導電層24に流れる電流が集中する部分にハッチングを付したものである。すなわち
図10は、ハッチングを付した導電層24の領域において一定値以上の電流が流れることを示すものである。また、
図11は、積層導電体20を8ターン巻回して構成された誘導加熱コイル10の
図6と同様の断面図であって、各積層導電体20において電流が集中して流れる部分を示すものである。
図10および
図11に示すように、誘導加熱コイル10の最も内側に巻回された積層導電体20においては、電流はコイル軸(コイル中心)に接近した導電層24に集中して流れる一方、誘導加熱コイル10の最も外側に巻回された積層導電体20においては、電流は周縁側に隣接する導電層24に集中して流れる。
【0048】
いずれにしても各積層導電体20の最も内側または外側に配置された導電層24において、より多くの電流が流れ、より多くのジュール熱(銅損)が発生する。そこで実施の形態3に係る誘導加熱コイル10は、
図12(a)および
図12(b)に示すように、最も内側に配置された少なくとも1つの導電層24(およびこれを狭持する絶縁層25を含む)が、その他の導電層24より突出して下方に延びるように構成することにより、突出した導電層24をヒートシンクとして機能させ、誘導加熱コイル10の下方から当てる冷却風により効率的に冷却することができる。すなわち実施の形態3によれば、発熱量の多い導電層24を突出させて、その側面にも冷却風を当てることにより、誘導加熱コイル10の冷却効果を改善しようとするものである。
【0049】
具体的には、誘導加熱コイル10の上側表面において、各導電層24を一定のレベルに揃え、内側の導電層24の高さH
1を表皮深さδの4倍以下に設定しつつ、その他の導電層24の高さH
0を高さH
1より短くすることにより、冷却効果が高く、材料コストを節約して、安価で軽量の誘導加熱コイル10を実現することができる。高さH
0,高さH
1の具体的寸法は、所望する冷却効果、材料コストの低減、および軽量化に応じて適宜決定することができる。
【0050】
また
図12(c)および
図12(d)に示すように、最も内側および外側に配置された導電層24(およびこれを狭持する絶縁層25を含む)が、その他の導電層24より突出して下方に延びるように構成することにより、突出した導電層24をヒートシンクとして機能させ、誘導加熱コイル10の下方から当てる冷却風により効率的に冷却することができる。
【0051】
さらに
図12(e)に示すように、最も内側に配置された導電層24の高さH
0が最も長く、より内側に配置された導電層24に向かって段階的に(徐々に)短くなり、再び外側に配置された導電層24に向かって段階的に(徐々に)長くなるように構成することにより、電流が集中する部分にのみ導電層24を形成することにより、誘導加熱コイル10の冷却効果をより改善するとともに、材料コストをさらに低減し、軽量化を図ることができる。
【0052】
実施の形態4.
図13〜
図16を参照しながら、本願発明に係る誘導加熱コイル10の実施の形態4について以下詳細に説明する。実施の形態4に係る誘導加熱コイル10は、積層導電体20を互いに対して間隙30を設けて巻回する点を除き、実施の形態1〜3の誘導加熱コイル10と同様の構成を有するので、重複する内容については説明を省略する。
【0053】
図3に示す誘導加熱コイル10は積層導電体20を8ターン巻回したものであるが、
図13に示す誘導加熱コイル10は15ターン巻回したものであり、基本的構成は実施の形態1と同じであり、実施の形態1の変形例である。すなわち
図13の誘導加熱コイル10は、積層導電体20をコイル軸(Z軸)の周りに沿って渦巻状に巻回して構成されたものであり、内側端子21および外側端子22を有する。同様に、トッププレート6の下側表面の温度を測定する温度センサ17が、誘導加熱コイル10の中央に配置されている。
【0054】
図14は、実施の形態4に係る誘導加熱コイル10の平面図である。この誘導加熱コイル10は、一連の積層導電体20をコイル軸(Z軸)の周りに沿って渦巻状に巻回して構成された内側加熱部26と外側加熱部28とを有し、これらの間に間隙30が設けられている。また上記実施の形態1〜3と同様、誘導加熱コイル10は内側端子21および外側端子22を有し、誘導加熱装置1は、内側加熱部26と外側加熱部28との間であって、トッププレート6の下方に、サーミスタや赤外線センサなどの一対の温度センサ17が設けられている。また図示しないが、内側加熱部26の中央にも別の温度センサ17を配置してもよい。複数の温度センサ17を配設することにより、制御部18は、温度検出精度を向上させ、誘導加熱装置1としての安全性を高め、駆動部16が誘導加熱コイル10に供給する高周波電流を精度よく制御することができる。
【0055】
このように構成された誘導加熱コイル10を含む誘導加熱装置1によれば、鍋Kの温度検出精度を改善することができる。また、誘導加熱コイル10の下方から冷却風を当てるので、内側加熱部26と外側加熱部28との間の間隙30を介して流れる冷却風により、内側加熱部26と外側加熱部28を効率よく冷却することができる。また内側加熱部26と外側加熱部28との間の間隙30を設けることにより、誘導加熱コイル10全体で形成される磁界分布を半径方向において均一化することができ、鍋Kを均一に加熱することができる。
【0056】
図15は、実施の形態4に係る誘導加熱装置1の
図2と同様の断面図である。
図15に示す誘導加熱コイル10は、内側加熱部26と外側加熱部28との間の間隙30を流れる冷却風を外側加熱部28の上側表面に案内する導風部32を有する。この導風部32により、冷却風を外側加熱部28の上側表面に直接供給することができるため、誘導加熱コイル10の冷却効果を大幅に改善することができる。
【0057】
なお、実施の形態4に係る誘導加熱コイル10を構成する積層導電体20は、同様に、その高さHが幅Wより短く設計することが好ましい(W>H)。
【0058】
択一的には、誘導加熱コイル10は、一連の積層導電体20をコイル軸(Z軸)の周りに沿って渦巻状に巻回して構成された内側加熱部26および中央加熱部27、ならびに外側加熱部28を有していてもよい(
図16参照)。これにより誘導加熱コイル10の冷却機能をさらに改善し、半径方向の磁界分布をより均一化して、鍋Kをよりいっそう均一に加熱することができる。なお、間隙はスリットでも類似の効果が得られる。
【0059】
同様に、
図16に示す誘導加熱コイル10を構成する積層導電体20は、その高さHが幅Wより短くなるように設計し(W>H)、内側コイル26と外側コイル28の高さを異なる構成にしてもよい。こうして、誘導加熱コイル10の冷却効果が改善された、安価で軽い誘導加熱コイル10を実現することができる。
【0060】
実施の形態5.
図17を参照しながら、本願発明に係る誘導加熱コイル10の実施の形態5について以下詳細に説明する。実施の形態4に係る誘導加熱コイル10は、同心円状に渦巻状に巻回された内側加熱部26および外側加熱部28等の複数の加熱部から構成されるものであったが、実施の形態5に係る誘導加熱コイル10は、同心円状に巻回されない複数の加熱コイルを用いて構成される点を除き、実施の形態1〜4の誘導加熱コイル10と同様の構成を有するので、重複する内容については説明を省略する。
【0061】
図17は、実施の形態5に係る
誘導加熱コイル10の
図3と同様の平面図である。実施の形態5に係る
誘導加熱コイル10は、単一の中央加熱コイル40と、4つの周辺加熱コイル42a〜42dとを有する。中央加熱コイル40および各周辺加熱コイル42a〜42dはそれぞれ一対の入出力端子21,22を有する。また
誘導加熱コイル10には、中央加熱コイル40と周辺加熱コイル42a〜42dとの間であって、トッププレート6の下方には一対の温度センサ17が配設されている。また図示しないが、中央加熱コイル40の中央にも別の温度センサ17を配置してもよい。複数の温度センサ17を配設することにより、制御部18は、温度検出精度を向上させ、誘導加熱装置1としての安全性を高め、駆動部16が中央加熱コイル40および各周辺加熱コイル42a〜42dに供給する高周波電流を精度よく制御することができる。なお、中央加熱コイル40と各周辺加熱コイル42a〜42dの形状は同心円以外の形状であればよく、各周辺加熱コイル42a〜42dが扇形や三角形状の形状を有するものであっても、同様の効果が得られる。
【0062】
実施の形態5に係る中央加熱コイル40と各周辺加熱コイル42a〜42dとの間には、実施の形態4と同様、間隙30が設けられている。このように構成された中央加熱コイル40と各周辺加熱コイル42a〜42dを含む誘導加熱装置1によれば、これらの加熱コイル40,42a〜42dの下方から冷却風を当てるので、中央加熱コイル40と各周辺加熱コイル42a〜42dとの間の間隙30を介して流れる冷却風により、これらを効率よく冷却することができる。また中央加熱コイル40と各周辺加熱コイル42a〜42dとの間の間隙30を設けることにより、誘導加熱コイル10全体で形成される磁界分布を半径方向において均一化することができ、鍋Kを均一に加熱することができる。
【0063】
また実施の形態5によれば、誘導加熱装置1の駆動部16は、中央加熱コイル40および各周辺加熱コイル42a〜42dに高周波電流を供給するものであってもよいし、対向する周辺加熱コイル42a,42cおよび周辺加熱コイル42b,42dを直列または並列に接続して、中央加熱コイル40、周辺加熱コイル42a,42c、および周辺加熱コイル42b,42dに高周波電流を供給するものであってもよい。これにより加熱領域を部分的に変更することができる。たとえば、各周辺加熱コイル42a〜42dに供給する高周波電流を、中央加熱コイル40に供給する高周波電流より大きくして、フライパンの鍋肌(鍋側面)を強く加熱し、鍋底との温度差を少なくすることができる。逆に、制御部18は、中央加熱コイル40および各周辺加熱コイル42a〜42dからの加熱を一定に維持するように、それぞれに供給する高周波電流を調整するように駆動部16を制御することもできる。
【0064】
なお、実施の形態5に係る中央加熱コイル40および各周辺加熱コイル42a〜42dを構成する積層導電体20は、同様に、その高さHが幅Wより短く設計することが好ましい(W>H)。各周辺加熱コイル42a〜42dを構成する積層導電体20の高さH
Pと、中央加熱コイル40を構成する積層導電体20の高さH
Cは異なる長さになるように構成してもよい。これにより、実施の形態3と同様、材料コストを低減し、軽量化を図ることができる。