【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、船舶推進用の主機(舶用主機)としては、排気ターボ過給機を備えた舶用ディーゼルエンジンが多用される。
自動車用ディーゼルエンジンと異なり、このような構成の舶用主機では、例えば2サイクルディーゼルエンジンの場合、単体熱効率に優れているため、排気ターボ過給機を通過した後の排ガス温度が最高で約250℃程度まで低くなる傾向がある。脱硝触媒は250〜420℃、好ましくは320〜400℃の温度域で高活性を示すチタン・バナジウム系を採用するが、尿素水からアンモニアへ改質するための時間・助走距離を必要とし、尿素水噴射ノズルは触媒の排気上流にできる限り離して配置する構成となる。
排ガス温度が低い場合には、尿素水からアンモニアへの改質過程で、ビウレット、シアヌル酸他多様な固体副生成物が生じる。これらの固体副生成物は尿素が分解を始める温度レベル(約133℃)から、シアヌル酸が分解を始める温度レベル(320〜360℃)の範囲内で生成されるものとみられる。
特許文献3によれば、脱硝触媒に対して尿素水を排気管に直接噴霧した場合の現象について、次のとおり記されている。「ノズルから滴下された尿素水は、滴下される際にパイプ内を流通する排気ガスの熱により蒸発し、パイプ内にアンモニアガスが生成される。そして、アンモニアにより窒素酸化物が還元されて脱硝装置において窒素酸化物が脱硝される。尿素水は排気ガスの流速とパイプ内の温度が適度である場合は、尿素水をパイプの内部で十分に蒸発して拡散することができる。反対に燃焼装置の燃焼が弱まったような状態では、排気ガスの流速が小さく温度が下がるので、尿素水の蒸発が適度に行われず、ノズルから尿素水が滴下する。」「ノズルから尿素水が滴下する際に、尿素水がノズルの先端部で固化し、ノズルが閉塞することがあった。また、尿素はパイプ内の温度が下がると重合反応により、シアヌル酸等の副生物を生成する。シアヌル酸が生成してパイプの内周壁に付着すると、窒素酸化物の還元剤となるアンモニアの生成量が減少し、下流側にある脱硝装置の脱硝性能が低下してしまう。すなわち、尿素水の滴下量が多く、パイプの下流(底壁部)に尿素水が溜まると、パイプの周壁は外気と接していることから、パイプの内部と温度差があって、パイプの底壁部に滴下した尿素水がパイプの内周面を冷やしてシアヌル酸を生成することになる。」
頻繁な負荷変動の中で運航する船舶では、常に理想の排ガス温度・触媒温度を維持することは困難である。尿素水を排気管に直接噴射したのでは固体副生成物の生成が避けられず、排気管を船舶停泊時ごとに開放して保守することは困難であるから、固体副生成物の排気管への堆積を回避することが課題である。また、これら固体副生成物を保守不完全により放置しておくと時間の経過とともに固体副生成物が成長し、排気管が閉塞してしまうおそれがある。
【0006】
一方、排ガス脱硝のために必要なチタン・バナジウム系脱硝触媒は、前述のとおり排ガス温度が320〜400℃の温度域で高活性を示すが、排ガス温度が320℃未満では、排ガス中の硫黄酸化物(SOx)とアンモニアから生成される重硫酸アンモニウム(酸性硫安)により脱硝触媒が被毒され、250℃レベルでは脱硝装置の性能劣化が著しい。
この問題を回避するため、舶用2サイクルディーゼル機関でも400℃レベルの排ガス温度が期待できる過給機上流側に脱硝装置を配置することがまず考えられるが、脱硝装置の熱容量が大きいため、過給機の応答性が低下、発停時や負荷変動時に排気ターボ過給機が追従せず、掃排気系にハンチングを生じ、機関性能に著しい影響を与え、船舶の安全航行に支障を来たす可能性がある。また、チタン・バナジウム系脱硝触媒の使用温度域としては一般的に400℃レベルの排ガス温度が上限値であり、これ以上の温度域での使用を継続すると触媒のシンタリング(焼結)により失活し、触媒寿命が低下する可能性がある。これらの理由により過給機上流側に脱硝装置を配置するシステムは実用化されていない。
特許文献4では、ディーゼルエンジン特に舶用2サイクルディーゼル機関の排気ターボ過給機下流に配置され、アンモニアを還元剤とする脱硝装置に関して、低温で短期間使用された脱硝触媒であれば、再度昇温すれば酸性硫安により脱硝触媒の活性が低下した状態からもとの活性状態に再生することができる特性を脱硝装置として実用化するために、触媒を収める脱硝装置本体を複数の流路に分割し、各流路で入口部にダンパーを設け、また各流路入口ダンパーの内側で触媒上流側に昇温・再生用の高温ガス注入ノズルを設け、この高温ガスはディーゼル機関の排気ターボ過給機の上流側の排気管より抽気して用いることを提案している。しかしながら、前述したようにアンモニアを還元剤とする舶用排ガス脱硝装置が安全性の点で求められていないことから、特許文献4の提案では不十分である。
【0007】
舶用ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物が一部の海域で厳格に規制される国際的な方向性が定められる状況において、その海域では使用燃料を従来の硫黄分4.5%以下の残渣油という規定から硫黄分0.1%以下の留出油という規定に代え、NOx規制値を現行から80%削減するという動きになっている。
排ガス温度の低いディーゼルエンジンにも使用可能な舶用排ガス脱硝装置を提供するには、排気ターボ過給機の下流に脱硝装置を配置して排ガス温度が250℃程度の低温でも酸性硫安による脱硝触媒の被毒を回避するという課題と、還元剤として含有量32.5%尿素水を用いるという課題の2つの課題の解決を迫られている。前者の課題は、硫黄分0.1%以下の留出油を使用することで解決の糸口がみつかるが、後者の課題が残っている。
【0008】
また、例えば、排ガス脱硝システムを備えた船舶が排ガスNOx規制が厳格とされている海域(排ガス規制海域(ECA;Emission Control Area))を航行する場合のようにNOx規制が行われる場合には、尿素水からアンモニアを生成するリアクタを動作させるために、排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスをリアクタへと導く排ガスバイパス経路へと排ガスが導かれるが、排ガスNOx規制が行われない場合には、脱硝の必要がないため排ガスバイパス経路に排ガスが導かれない。この場合、排気ターボ過給機に導かれる排ガス量は、排ガスバイパス経路に排ガスを導く場合に比べて多くなる。これにより、排気ターボ過給機の能力が増大してエンジンの最適掃気圧力を超えてしまうおそれがある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量に応じて掃気圧力を制御することができる排ガス脱硝システムおよびこれを備えた船舶ならびに排ガス脱硝システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の排ガス脱硝システムおよびこれを備えた船舶ならびに排ガス脱硝システムの制御方法は以下の手段を採用する。
本発明の参考例としての排ガス脱硝システムは、舶用ディーゼルエンジンの排ガスによって駆動される排気ターボ過給機と、尿素水からアンモニアを生成するリアクタと、該リアクタ内に尿素水を供給する尿素水噴射ノズルと、前記排気ターボ過給機の下流側の排ガス通路に設けられ、前記リアクタから供給されたアンモニアを用いて排ガス脱硝を行う脱硝触媒部と、前記2サイクルディーゼルエンジンから前記排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスを前記リアクタへと導く排ガスバイパス経路と、該排ガスバイパス経路によって前記リアクタへと導かれる排ガスまたは前記リアクタ内の排ガスを、前記尿素水噴射ノズルによって前記尿素水が供給される前に加熱するリアクタ用排ガス加熱手段とを備えていることを特徴とする。
【0010】
排ガスバイパス経路によって、舶用ディーゼルエンジンから排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスがリアクタに導かれることとしたので、リアクタ内の反応温度を上昇させることができる。これにより、尿素水からアンモニアへの改質過程で生じる固体副生成物の生成を抑制することができ、尿素水噴射ノズルの閉塞を防止することができ、かつ排気管に固体副生成物を持ち込まない構造となっているので排気管の閉塞を防止することができる。
また、排気ターボ過給機に供給される排ガスを一部抽気することによって排気ターボ過給機を通過する排ガス量が低下するので、排気ターボ過給機のタービン仕事が減少してエンジンに供給される空気量が低下するため、排ガス温度を更に上昇させることができる。これにより、さらに固体副生成物の生成を抑制することができる。
さらに、リアクタ用排ガス加熱手段によってリアクタへ導かれる排ガスまたはリアクタ内の排ガスを加熱することとしたので、リアクタ内の反応温度を上昇させることができる。これにより、起動時のようにエンジン出口排ガス温度が低いときであっても、所望の反応温度を得ることができる。
なお、リアクタ用排ガス加熱手段としては、典型的には、バーナや電気ヒータが挙げられる。また、リアクタ用排ガス加熱手段の設置位置としては、リアクタ内、排ガスバイパス経路、排ガスバイパス経路に分岐する前のメイン排ガス経路等が挙げられる。
また、リアクタ用排ガス加熱手段として電気ヒータを用いるとともに、排気タービン軸の回転によって発電するハイブリッド過給機から電気ヒータへ電力を供給する構成としても良い。
【0011】
さらに、本発明の参考例としての排ガス脱硝システムにおいて、前記リアクタ用排ガス加熱手段は、前記リアクタ内の温度が所定値以下の場合に起動され、前記所定値を超える場合には停止されることを特徴とする。
【0012】
排ガスバイパス経路から導かれる排ガスの温度が所定値以上となった場合には、所望のリアクタ内反応温度が得られるので、リアクタ用排ガス加熱手段を起動させる必要はない。そこで、リアクタ内の温度に基づいてリアクタ用排ガス加熱手段の起動停止を切り替えることとした。これにより、リアクタ用排ガス加熱手段によって消費されるエネルギー(バーナ用燃料や電気ヒータ用電力)を節約することができる。
【0013】
また、本発明の排ガス脱硝システムは、舶用ディーゼルエンジンの排ガスによって駆動される排気ターボ過給機と、尿素水からアンモニアを生成するリアクタと、該リアクタ内に尿素水を供給する尿素水噴射ノズルと、前記排気ターボ過給機の下流側の排ガス通路に設けられ、前記リアクタから供給されたアンモニアを用いて排ガス脱硝を行う脱硝触媒部と、前記舶用ディーゼルエンジンから前記排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスを前記リアクタへと導く排ガスバイパス経路と、
該排ガスバイパス経路を流れる排ガスの流量を調整するバイパス制御弁と、該排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量に応じて、前記舶用ディーゼルエンジンの掃気圧力を制御する掃気圧力制御手段とを備え、前記掃気圧力制御手段は、前記排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量が減少した場合、前記掃気圧力を
適正値に維持するように減少させ、前記排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量が増大した場合、前記掃気圧力を
適正値に維持するように増大させるように制御することを特徴とする。
【0014】
例えば、排ガス脱硝システムを備えた船舶が排ガスNOx規制が厳格とされている海域(排ガス規制海域(ECA;Emission Control Area))を航行する場合のようにNOx規制が行われる場合には、リアクタを動作させるために排ガスバイパス経路へと排ガスが導かれるが、排ガスNOx規制が行われない場合には、脱硝の必要がないため排ガスバイパス経路に排ガスが導かれない。この場合、排気ターボ過給機に導かれる排ガス量は、排ガスバイパス経路に排ガスを導く場合に比べて多くなる。これにより、排気ターボ過給機の能力が増大してエンジンの最適掃気圧力を超えてしまうおそれがある。そこで、本発明では、排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量に応じて掃気圧力を制御する掃気圧力制御手段を設けることとした。
【0015】
さらに、本発明の排ガス脱硝システムでは、前記排気ターボ過給機は、容量可変とされており、前記掃気圧力制御手段は、前記排気ターボ過給機の容量を制御することによって掃気圧力を制御することを特徴とする。
【0016】
排気ターボ過給機としては、VG(Variable Geometry)ターボ等の可変ノズル過給機や、固定タービンノズルに導かれる排ガス流路面積を切り替える形式の過給機、或いは、容量の異なる複数台の過給機を備え、運転台数が可変とされた過給機システムが用いられる。掃気圧力を適正値に制御するために、排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量に応じて排気ターボ過給機の容量を変化させる。具体的には、排ガスバイパス経路へ排ガスを流す場合は、排気ターボ過給機へ流れる排ガス量が減少するので排気ターボ過給機の容量を減少させ、排ガスバイパス経路へ排ガスを流さない場合は、排気ターボ過給機へ流れる排ガス量が増大するので排気ターボ過給機の容量を増大させる。
【0017】
さらに、本発明の排ガス脱硝システムでは、前記排気ターボ過給機は、排気タービン軸の回転力によって発電する一方で、該排気タービン軸の回転を付勢する発電機モータを備えたハイブリッド排気ターボ過給機とされており、前記掃気圧力制御手段は、前記発電機モータの発電量を制御することによって掃気圧力を制御することを特徴とする。
【0018】
掃気圧力を適正値に制御するために、排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量に応じてハイブリッド排気ターボ過給機の発電量を変化させる。具体的には、排ガスバイパス経路へ排ガスを流す場合は、排気ターボ過給機へ流れる排ガス量が減少するので発電機モータの発電量を減少させ、排ガスバイパス経路へ排ガスを流さない場合は、排気ターボ過給機へ流れる排ガス量が増大するので発電機モータの発電量を増大させる。
【0019】
さらに、本発明の排ガス脱硝システムでは、前記舶用ディーゼルエンジンからの排ガスが前記排気ターボ過給機をバイパスして流れる過給機バイパス経路が設けられ、前記掃気圧力制御手段は、前記過給機バイパス経路を流れる排ガス量を調整することによって掃気圧力を制御することを特徴とする。
【0020】
掃気圧力を適正値に制御するために、排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量に応じて過給機バイパス経路を流れる排ガス量を変化させる。具体的には、排ガスバイパス経路へ排ガスを流す場合は、排気ターボ過給機へ向かう排ガス量が減少するので過給機バイパス経路へ流れる排ガス量を減少させ(好ましくは流量をゼロとし)、排ガスバイパス経路へ排ガスを流さない場合は、排気ターボ過給機へ向かう排ガス量が増大するので過給機バイパス経路へ流れる排ガス量を増大させる。
【0021】
また、本発明の参考例としての排ガス脱硝システムは、舶用ディーゼルエンジンの排ガスによって駆動される排気ターボ過給機と、尿素水からアンモニアを生成するリアクタと、該リアクタ内に尿素水を供給する尿素水噴射ノズルと、前記排気ターボ過給機の下流側の排ガス通路に設けられ、前記リアクタから供給されたアンモニアを用いて排ガス脱硝を行う脱硝触媒部と、前記舶用ディーゼルエンジンから前記排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスを前記リアクタへと導く排ガスバイパス経路と、該排ガスバイパス経路によって前記リアクタへと導かれる排ガスまたは前記リアクタ内の排ガスを、前記尿素水噴射ノズルによって前記尿素水が供給される前に加熱するリアクタ用排ガス加熱手段とを備え、前記排気ターボ過給機は、排気タービン軸の回転力によって発電する一方で、該排気タービン軸の回転を付勢する発電機モータを備えたハイブリッド排気ターボ過給機とされ、前記ハイブリッド排気ターボ過給機へ流れる排ガスを加熱するバーナを備えていることを特徴とする。
【0022】
ハイブリッド排気ターボ過給機へ流れる排ガスを加熱するバーナを設けることにより、エンジンからの排ガス温度が低い起動時であっても、ハイブリッド排気ターボ過給機の下流側に位置する脱硝触媒部へ導かれる排ガス温度を上昇させることができる。
また、エンジン負荷が低い場合には排気エネルギーが小さいので、ハイブリッド排気ターボ過給機による掃気圧力の上昇が見込めない場合がある。本発明では、エンジン負荷が所定値以下となった場合に、バーナによって排ガスを加熱することにより掃気圧力を所望値まで上昇させる。これにより、バーナを補助ブロワの代替として用いることができる。
また、バーナの起動停止によってエンジンの掃気圧力を適正に制御することができる。つまり、脱硝が行われる場合には、リアクタ起動のために排ガスバイパス経路へ排ガスが導かれてハイブリッド排気ターボ過給機へ導かれる排ガス流量が相対的に減少するので、掃気圧力が適正値を下回るおそれがある。このような場合にはバーナを起動させ、掃気圧力を適正値まで上昇させる。
また、電力需要に対して発電量が少ないときは、バーナを起動させることによってハイブリッド排気ターボ過給機の発電量を増大させることができる。
【0023】
また、本発明の参考例としての排ガス脱硝システムは、舶用ディーゼルエンジンの排ガスによって駆動される排気ターボ過給機と、尿素水からアンモニアを生成するリアクタと、該リアクタ内に尿素水を供給する尿素水噴射ノズルと、前記排気ターボ過給機の下流側の排ガス通路に設けられ、前記リアクタから供給されたアンモニアを用いて排ガス脱硝を行う脱硝触媒部と、前記舶用ディーゼルエンジンから前記排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスを前記リアクタへと導く排ガスバイパス経路とを備え、該排ガスバイパス経路に対して並列かつ切替可能に設けられ、排ガスによって駆動されて発電するパワータービンが設けられたパワータービン用経路を備えていることを特徴とする。
【0024】
パワータービン用経路を、排ガスバイパス経路に対して並列かつ切替可能に設けることにより、脱硝を行わない場合には排ガスバイパス経路からパワータービン用経路に排ガス流れを切り替えることができる。これにより、排気ターボ過給機へ導かれる排ガス流量の変動を抑えることができる。また、パワータービン用経路を流れる排ガスによってパワータービンを起動して電力を得ることができる。
【0025】
また、本発明の船舶は、上記のいずれかの排ガス脱硝システムを備え、前記舶用ディーゼルエンジンは、推進用主機とされていること特徴とする。
【0026】
上記のいずれかの排ガス脱硝システムを備えた船舶とすることにより、排ガス規制海域(ECA;Emission Control Area)の内外で脱硝システムの起動停止が円滑に実現される。
【0027】
また、本発明の参考例としての排ガス脱硝システムの制御方法は、舶用ディーゼルエンジンの排ガスによって駆動される排気ターボ過給機と、尿素水からアンモニアを生成するリアクタと、該リアクタ内に尿素水を供給する尿素水噴射ノズルと、前記排気ターボ過給機の下流側の排ガス通路に設けられ、前記リアクタから供給されたアンモニアを用いて排ガス脱硝を行う脱硝触媒部と、前記舶用ディーゼルエンジンから前記排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスを前記リアクタへと導く排ガスバイパス経路と、該排ガスバイパス経路によって前記リアクタへと導かれる排ガスまたは前記リアクタ内の排ガスを、前記尿素水噴射ノズルによって前記尿素水が供給される前に加熱するリアクタ用排ガス加熱手段とを備えた排ガス脱硝システムの制御方法であって、前記リアクタ用排ガス加熱手段を、前記リアクタ内の温度が所定値以下の場合に起動し、前記所定値を超える場合には停止することを特徴とする。
【0028】
排ガスバイパス経路によって、舶用ディーゼルエンジンから排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスがリアクタに導かれることとしたので、リアクタ内の反応温度を上昇させることができる。これにより、尿素水からアンモニアへの改質過程で生じるシアヌル酸の発生を抑制することができるので、尿素水噴射ノズルや排気管の閉塞を防止することができる。
また、排気ターボ過給機に供給される排ガスを一部抽気することによって排気ターボ過給機を通過する排ガス量が低下するので、排気ターボ過給機のタービン仕事が減少してエンジンに供給される空気量が低下するため、排ガス温度を更に上昇させることができる。これにより、さらにシアヌル酸の生成を抑制することができる。
さらに、リアクタ用排ガス加熱手段によってリアクタへ導かれる排ガスまたはリアクタ内の排ガスを加熱することとしたので、リアクタ内の反応温度を上昇させることができる。これにより、起動時のように排ガス温度が低くリアクタ内温度が低いときであっても、所望の反応温度を得ることができる。
排ガスバイパス経路から導かれる排ガスの温度が所定値以上となった場合には、所望のリアクタ内反応温度が得られるので、リアクタ用排ガス加熱手段を起動させる必要はない。そこで、リアクタ内の温度に基づいてリアクタ用排ガス加熱手段の起動停止を切り替えることとした。これにより、リアクタ用排ガス加熱手段によって消費されるエネルギー(バーナ用燃料や電気ヒータ用電力)を節約することができる。
【0029】
また、本発明の排ガス脱硝システムの制御方法は、舶用ディーゼルエンジンの排ガスによって駆動される排気ターボ過給機と、尿素水からアンモニアを生成するリアクタと、該リアクタ内に尿素水を供給する尿素水噴射ノズルと、前記排気ターボ過給機の下流側の排ガス通路に設けられ、前記リアクタから供給されたアンモニアを用いて排ガス脱硝を行う脱硝触媒部と、前記舶用ディーゼルエンジンから前記排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスを前記リアクタへと導く排ガスバイパス経路と
、該排ガスバイパス経路を流れる排ガスの流量を調整するバイパス制御弁とを備えた排ガス脱硝システムの制御方法であって、前記排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量が減少した場合、前記舶用ディーゼルエンジンの掃気圧力を
適正値に維持するように減少させ、前記排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量が増大した場合、前記掃気圧力を
適正値に維持するように増大させるように制御することを特徴とする。
【0030】
例えば、排ガス脱硝システムを備えた船舶が排ガスNOx規制が厳格とされている海域(排ガス規制海域(ECA;Emission Control Area))を航行する場合のようにNOx規制が行われる場合には、リアクタを動作させるために排ガスバイパス経路へと排ガスが導かれるが、排ガスNOx規制が行われない場合には、脱硝の必要がないため排ガスバイパス経路に排ガスが導かれない。この場合、排気ターボ過給機に導かれる排ガス量は、排ガスバイパス経路に排ガスを導く場合に比べて多くなる。これにより、排気ターボ過給機の能力が増大してエンジンの最適掃気圧力を超えてしまうおそれがある。そこで、本発明では、排ガスバイパス経路へ流れる排ガス量に応じて掃気圧力を制御することとした。
【0031】
また、本発明の参考例としての排ガス脱硝システムの制御方法は、舶用ディーゼルエンジンの排ガスによって駆動される排気ターボ過給機と、尿素水からアンモニアを生成するリアクタと、該リアクタ内に尿素水を供給する尿素水噴射ノズルと、前記排気ターボ過給機の下流側の排ガス通路に設けられ、前記リアクタから供給されたアンモニアを用いて排ガス脱硝を行う脱硝触媒部と、前記舶用ディーゼルエンジンから前記排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスを前記リアクタへと導く排ガスバイパス経路と、該排ガスバイパス経路によって前記リアクタへと導かれる排ガスまたは前記リアクタ内の排ガスを、前記尿素水噴射ノズルによって前記尿素水が供給される前に加熱するリアクタ用排ガス加熱手段とを備えた排ガス脱硝システムの制御方法であって、前記排気ターボ過給機は、排気タービン軸の回転力によって発電する一方で、該排気タービン軸の回転を付勢する発電機モータを備えたハイブリッド排気ターボ過給機とされ、バーナによって、前記ハイブリッド排気ターボ過給機へ流れる排ガスを加熱することを特徴とする。
【0032】
ハイブリッド排気ターボ過給機へ流れる排ガスを加熱するバーナを設けることにより、エンジンからの排ガス温度が低い起動時であっても、ハイブリッド排気ターボ過給機の下流側に位置する脱硝触媒部へ導かれる排ガス温度を上昇させることができる。
また、エンジン負荷が低い場合には排気エネルギーが小さいので、ハイブリッド排気ターボ過給機による掃気圧力の上昇が見込めない場合がある。本発明では、エンジン負荷が所定値以下となった場合に、バーナによって排ガスを加熱することにより掃気圧力を所望値まで上昇させる。これにより、バーナを補助ブロワの代替もしくは補助手段として用いることができるため、補助ブロワの台数低減もしくは容量低減ができる。
また、バーナの起動停止によってエンジンの掃気圧力を適正に制御することができる。つまり、脱硝が行われる場合には、リアクタ起動のために排ガスバイパス経路へ排ガスが導かれてハイブリッド排気ターボ過給機へ導かれる排ガス流量が相対的に減少するので、掃気圧力が適正値を下回るおそれがある。このような場合にはバーナを起動させ、掃気圧力を適正値まで上昇させる。
また、電力需要に対して発電量が少ないときは、バーナを起動させることによってハイブリッド排気ターボ過給機の発電量を増大させることができる。
【0033】
また、本発明の参考例としての排ガス脱硝システムの制御方法は、舶用ディーゼルエンジンの排ガスによって駆動される排気ターボ過給機と、尿素水からアンモニアを生成するリアクタと、該リアクタ内に尿素水を供給する尿素水噴射ノズルと、前記排気ターボ過給機の下流側の排ガス通路に設けられ、前記リアクタから供給されたアンモニアを用いて排ガス脱硝を行う脱硝触媒部と、前記舶用ディーゼルエンジンから前記排気ターボ過給機に供給される排ガスの一部を抽気した排ガスを前記リアクタへと導く排ガスバイパス経路とを備えた排ガス脱硝システムの制御方法であって、前記排ガスバイパス経路に対して並列かつ切替可能に設けられ、排ガスによって駆動されて発電するパワータービンが設けられたパワータービン用経路を備え、排ガス脱硝を行う場合には前記排ガスバイパス経路に排ガスを流し、排ガス脱硝を行わない場合には前記パワータービン用経路に排ガスを流すことを特徴とする。
【0034】
パワータービン用経路を、排ガスバイパス経路に対して並列かつ切替可能に設けることにより、脱硝を行わない場合には排ガスバイパス経路からパワータービン用経路に排ガス流れを切り替えることができる。これにより、排気ターボ過給機へ導かれる排ガス流量の変動を抑えることができる。また、パワータービン用経路を流れる排ガスによってパワータービンを起動して電力を得ることができる。