(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6016981
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】ケースナット
(51)【国際特許分類】
F16B 37/04 20060101AFI20161013BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20161013BHJP
F16B 33/06 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
F16B37/04 W
F16B37/00 E
F16B37/04 X
F16B33/06 E
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-101601(P2015-101601)
(22)【出願日】2015年5月19日
【審査請求日】2015年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 元嗣
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 義浩
(72)【発明者】
【氏名】藤本 孝典
(72)【発明者】
【氏名】市川 裕康
(72)【発明者】
【氏名】加藤 勝久
(72)【発明者】
【氏名】宇津野 隆治
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 尚廣
【審査官】
鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−017756(JP,A)
【文献】
実開昭64−053611(JP,U)
【文献】
実開平02−098203(JP,U)
【文献】
特開昭63−230311(JP,A)
【文献】
実開平01−180006(JP,U)
【文献】
特開平07−190035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディに溶接されるケース本体の内部に、ナットを遊動可能に収納したケースナットであって、
前記ナットは、ナット本体と、該ナット本体の外側表面にインサート成形された樹脂製の絶縁部材とからなり、
前記絶縁部材は、その外周部のうち前記ボディと当接する側に、複数の突起を備えたことを特徴とするケースナット。
【請求項2】
前記ケース本体には、ボルトを挿通するボルト孔を形成したことを特徴とする請求項1記載のケースナット。
【請求項3】
前記絶縁部材は、樹脂頭部と、前記突起が形成された樹脂フランジ部とを備えるものとし、該樹脂頭部を前記ボディに形成されたガイド孔に遊動可能に挿入したことを特徴とする請求項1記載のケースナット。
【請求項4】
前記樹脂頭部の各側面は、その中央部を各々軸芯方向に凹ませた形状であることを特徴とする請求項3記載のケースナット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボディに溶接されるケース本体の内部に、ナットを遊動自在に収納したケースナットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の製造工程において、シートをスライドさせるためのスライドレールを自動車のボディに固定する際には、締結部材としてボルトとナットとが用いられる(特許文献1)。ナットはボディ側に取付けられており、スライドレールをボディに当接させた上で、スライドレール側からボルトをねじ込むことにより、締結が行われる。しかしながら、ボディの形状は車種によって様々であることから、ボルトとナットとの間に軸ズレが生じ、締結作業性が低下する問題や、また建付けのバラつきが発生するといった問題がある。このような問題を解決するために、例えば特許文献2に示すようなケースナットが締結部材として用いられる。ケースナットとは、ボディに溶接されるケース本体の内部に、ナットを遊動自在に収納したものである。これにより、スライドレールをボディに固定する際に、遊動自在に収納されたナットが、ボルトとナットとの間の軸ズレを吸収することにより、容易に締結が可能となる。
【0003】
しかしながら、ボディには高い耐食性が求められるため、下地処理として電着塗装処理を行うことが通常であり、従来のようにケースナットがボディ側に取付けられた状態で電着塗装処理を施した場合には、ボディとナットとが共に金属製であるために通電し、ナットにも電着塗料が析出してしまう結果、ナットがボディに固着し、遊動しなくなってしまう問題があった。
【0004】
この問題に対しては、ナット表面を樹脂皮膜によりコーティングして絶縁を図る方法が考えられるが、樹脂皮膜は薄いため、充分な絶縁効果を得ることができない。さらに、電着塗装処理により残存した電着塗料が高温乾燥されることによって、ナットがボディに強固に固着してしまう問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−254089号公報
【特許文献2】実開昭64−53611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は前記した従来の問題点を解決し、ケース本体内部に揺動自在に収納されたナットが電着塗装処理によって固着することのないケースナットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明は、ボディに溶接されるケース本体の内部に、ナットを遊動可能に収納したケースナットであって、前記ナットは、ナット本体と、該ナット本体の外側表面にインサート成形された樹脂製の絶縁部材とからなり、前記絶縁部材は、その外周部のうち前記ボディと当接する側に、複数の突起を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のケースナットにおいて、前記ケース本体には、ボルトを挿通するボルト孔を形成したことを特徴とするものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のケースナットにおいて、前記絶縁部材は、樹脂頭部と、前記突起が形成された樹脂フランジ部とを備えるものとし、該樹脂頭部を前記ボディに形成されたガイド孔に遊動可能に挿入したことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のケースナットにおいて、前記樹脂頭部の各側面は、その中央部を各々軸芯方向に凹ませた形状であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るケースナットは、ボディに溶接されるケース本体の内部に、ナットを遊動可能に収納したケースナットであって、ナットは、ナット本体と、このナット本体の外側表面にインサート成形された樹脂製の絶縁部材とからなるものとした。これにより、電着塗装処理時にナット本体が絶縁されるため、ナットがボディと固着することを防止することが可能となる。さらに、絶縁部材は、その外周部のうちボディと当接する側に、複数の突起を備えるものとした。これにより、絶縁部材とボディとの間に空間部が形成されることとなり、この空間部から電着塗料が下方に流動することから、液溜まりが発生せず、また絶縁部材はボディと点接触するため、高温乾燥後にナットがボディに強固に固着することを防止することが可能となり、使用時には振動により容易にナットがボディから分離し、ケース本体内部で遊動可能となる。
【0012】
請求項4に係る発明によれば、樹脂頭部の各側面は、その中央部を各々軸芯方向に凹ませた形状とした。これにより、各側面とボディとの間に形成される電着塗料抜け経路がより広くなるため、電着塗装処理時に電着塗料が下方により流動し易くなり、液溜まりが生じにくくなると同時に、各側面とボディとの接触面積が減少することから、高温乾燥後にナットがボディに強固に固着することをより効果的に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本実施形態におけるナットを示す斜視図である。
【
図4】本実施形態のナットを示す上面図及び
図3中のA−A’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。なお、
図2に示す状態でナット3についての説明を行うものとし、またこのナット3は、上下反対とした状態で、
図1及び
図6に示すようにケース本体2内に収納されるものである。本発明のケースナットは、
図1に示すように、自動車のボディ1に溶接される金属製のケース本体2と、このケース本体2の内部に遊動可能に収納されたナット3とからなるものであり、ボディ1の耐食性を高めるために、
図1の状態で下地処理として電着塗装処理が施されるものである。なお、ケース本体2の天井面には、ボルト12を挿通するためのボルト孔13が形成されている。また、前記ナット3は、
図2乃至
図5に示すように、下面に平坦部16を備えた金属製の六角ナット本体4と、この六角ナット本体4の外側表面にインサート成形された樹脂製の絶縁部材5とにより構成されるものとした。
【0015】
絶縁部材5は、
図2のように四角柱状であり、かつ各側面の中央部を各々軸芯方向に凹ませるよう湾曲させた形状を有する樹脂頭部6と、円状の樹脂フランジ部7とからなる。また、この樹脂頭部6は、
図1のようにボディ1に形成されたガイド孔8に遊動可能に挿入されるものとした。さらに、樹脂フランジ部7の外周部のうち、
図1のようにボディ1と当接する側には、高さ約1mmの突起9を、
図2のように等間隔に4つ形成するものとした。このように、六角ナット本体4の外側表面にインサート成形により絶縁部材5を設けることにより、電着塗装処理時のナット本体4の絶縁を図り、これによりナット3がボディ1と固着することを防止することが可能となる。さらに、樹脂フランジ部7の外周部のうち、ボディ1と当接する側に計4つの突起9を形成したことにより、樹脂フランジ部7とボディ1との間には、空間部10が形成されることとなる。そして、この空間部10から電着塗料が下方に流動することで、液溜まりの発生を防止することができると同時に、突起9はボディ1と点接触するため、高温乾燥後にナット3がボディ1に強固に固着することを防止することも可能となる。また、樹脂頭部6の各側面の中央部を各々軸芯方向に凹ませたことにより、
図1に示す各側面とボディ1との間に形成される電着塗料抜け経路11がより広くなるため、電着塗料が下方により流動し易くなり、液溜まりが生じにくくなる。さらに、各側面とボディ1との接触面積が減少することから、高温乾燥後にナット3がボディ1に強固に固着することをより効果的に防止することが可能となる。
【0016】
なお、前記突起9の高さは、本実施形態においては約1mmとしたが、電着塗料が下方に流動する間隔であればこれに限定されるものではない。また、突起9の形成数もこれに限定されず、例えば等間隔に3つ形成することにより、ボディ1との接触面積をより小さいものとすることもできる。なお、樹脂頭部6及び樹脂フランジ部7の形状も本実施形態に限定されず、例えば円柱状の樹脂頭部としたり、また正方形状の樹脂フランジ部とする等、その形状は製造工程により適宜変更しても差し支えない。さらに、本実施形態においては、六角ナット本体4の外側表面に絶縁部材5を設けるものとしたが、その他の形状のナット本体にも本発明を適用することができる。
【0017】
本実施形態において、絶縁部材5はナイロン6により構成するものとした。これは、ナイロン6の融点が260℃と高く、電着塗装処理による高温に耐え得るからである。また、ナイロン6は高強度樹脂であるため、廻り止めとして機能するとともに、繰り返しの締結、リタップにも耐え得るものとなる。さらに、締結時には金属間接触によって異音が度々発生することが通常であるが、本発明のように絶縁部材5をナイロン6により構成することで、異音が発生することもない。なお、絶縁部材5の材質は耐アルカリ性であり、180℃の電着塗装処理に耐え得る材質(即ち、好ましくは融点が240℃以上の材質)であれば良く、例えばポリフェニレンサルファイド等により構成することもできる。
【0018】
また、前記のように絶縁部材5を樹脂製とすることにより、成形自由度が増加するとともに、軽量なものとすることができる。さらに、比較的煩雑に扱われるナット類において、樹脂製であれば傷等の発生を憂慮することなく使用することができるという利点もある。
【0019】
図3のように、フランジ部7の外周下面側をテーパ状に形成することが好ましく、これにより
図1において電着塗料が下方により流動し易いものとなる。
【0020】
このように構成された本発明のケースナットの使用方法について、以下に説明する。
図1の状態で電着塗装処理が施され、さらに高温乾燥がなされた後であっても、ナット3はボディ1に強固に固着していないため、振動により容易にナット3がボディ1から分離し、ケース本体2内部で遊動可能となる。そこで、
図6のように、スライドレール14をケース本体2に当接させた状態で、ワッシャ15を介してボルト12を六角ナット本体4にねじ込むことにより、次第にナット3が持ち上げられ、
図6に示す締結後の状態となる。このように、ケース本体2の内部に遊動自在に収納されたナット3が、ボルト12とナット3との間の軸ズレを吸収することにより、容易にスライドレール14をボディ1に固定することが可能となる。
【0021】
また、六角ナット本体4の外側表面に樹脂製の絶縁部材5をインサート成形することから、締結後における軸力低下の恐れが懸念されるため、
図3のように六角ナット本体4下面の平坦部16と、フランジ部7の外周下面側との間に段差を設けるものとした。これにより、
図6のように、締結後はケース本体2の天井面と六角ナット本体4の平坦部16とが接触して金属間で締結が行われることとなり、ゆるみを防止することが可能となる。なお、この平坦部16の直径は、ボルト12とナット3との軸ズレが最大となった場合でもボルト孔13とのラップ量を確保できるよう、最大径とすることが好ましい。
【0022】
また、ボルト12が挿入され易いよう、六角ナット本体4の入口部はテーパ状に形成することが好ましい。さらに、ナット3とケース本体2の天井面との間隔を、電着塗料が流動可能であり、かつナット3が揺動可能な範囲で最小幅とすることにより、ナット3の視認性を向上させることがより好ましい。
【符号の説明】
【0023】
1 ボディ
2 ケース本体
3 ナット
4 六角ナット本体
5 絶縁部材
6 樹脂頭部
7 樹脂フランジ部
8 ガイド孔
9 突起
10 空間部
11 電着塗料抜け経路
12 ボルト
13 ボルト孔
14 スライドレール
15 ワッシャ
16 平坦部
【要約】
【課題】ケース本体内部に揺動自在に収納されたナットが電着塗装処理によって固着することのないケースナットを提供すること。
【解決手段】ボディ1に溶接されるケース本体2の内部に、ナット3を遊動可能に収納したケースナットであって、ナット3は、六角ナット本体4と、この六角ナット本体4の外側表面にインサート成形された樹脂製の絶縁部材5とからなり、絶縁部材5は、その外周部のうちボディ1と当接する側に、複数の突起9を備えるものとした。
【選択図】
図1