特許第6016997号(P6016997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6016997
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】隊列走行制御システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/09 20060101AFI20161013BHJP
   G08G 1/097 20060101ALI20161013BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20161013BHJP
   B60R 21/00 20060101ALN20161013BHJP
【FI】
   G08G1/09 H
   G08G1/097 A
   G08G1/16 A
   !B60R21/00 628B
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-154180(P2015-154180)
(22)【出願日】2015年8月4日
【審査請求日】2016年3月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515213711
【氏名又は名称】先進モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】青木 啓二
【審査官】 東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−243591(JP,A)
【文献】 特開2001−283372(JP,A)
【文献】 特開2010−213044(JP,A)
【文献】 特開2007−088583(JP,A)
【文献】 特開2002−222485(JP,A)
【文献】 特開2001−357491(JP,A)
【文献】 特開2003−217074(JP,A)
【文献】 特開2000−322689(JP,A)
【文献】 特開2014−120133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 − 1/16
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両が車車間通信装置を用いて隊列を組んで走行する隊列走行制御システムにおいて、各車両は車車間通信装置におけるデータ送信を停止する手段と、車両の制動装置の動作を開始する手段を有し、前記隊列を構成する一の車両の車車間通信装置に故障が発生し前記一の車両からの送信を受信できなくなった前記一の車両の直前または直後の車両は、車車間通信装置によるデータ送信を停止し且つ車両の制動装置の動作を開始し、次いで、前記直前または直後の車両からの送信を受信できなくなった前記直前または直後の車両の直前または直後の車両は、車車間通信装置によるデータ送信を停止し且つ車両の制動装置の動作を開始し、以後隊列を組む全車両が車車間通信装置によるデータ送信を停止し且つ車両の制動装置の動作を開始するまで上記操作を繰り返すことを特徴とする隊列走行制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車両が隊列を組んで走行する隊列走行で車両の走行状態を制御する走行制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、交通流の改善を図るとともに空気抵抗の低減による燃費向上を図るため、複数の車両を短い車間距離で一列で隊列走行させる技術が注目されている。
このような隊列走行を実現する隊列走行制御技術として、下記特許文献1のシステムが提案されている。このシステムでは隊列の各後続車両の各々が車車間通信を用いて得られた先行車の走行情報を用いて車間距離制御をおこなうことで隊列走行が実現されている。
この方式によれば、先頭車が受けた外乱に対して、各後続車がすばやく応答するので車間距離の誤差が小さく制御できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−162282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のシステムによる隊列走行では、車車間通信が機能しない場合、例えば、先行車から後続車への送信機能が瑕疵した場合、あるいは自車の受信機能が瑕疵した場合、先行車の走行情報が後続車両に伝わらないため、先行する車両が急激に加速もしくは減速した場合、後続車の車間距離制御性能が著しく低下し、最悪の場合先行車に追突してしまう事態が発生する。
そこで本発明は、隊列内の任意の車両の車車間通信機能に瑕疵が発生した場合、自動的に車車間通信機能の失陥を検出するとともに、隊列内のすべての車両がほぼ同時に減速を開始し停止する手段により車車通信機能の喪失による隊列内での追突を事前に防止する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、本発明の隊列走行制御システムは安全に複数の車両が隊列を組んで走行できる隊列走行制御システムであって、隊列を組む各車両は車車間通信装置におけるデータ送信を停止する手段と、車両の制動装置の動作を開始する手段を有し、前記隊列を構成する一の車両の車車間通信装置に故障が発生し前記一の車両からの送信を受信できなくなった前記一の車両の直前または直後の車両は、車車間通信装置によるデータ送信を停止し且つ車両の制動装置の動作を開始し、次いで、前記直前または直後の車両からの送信を受信できなくなった前記直前または直後の車両の直前または直後の車両は、車車間通信装置によるデータ送信を停止し且つ車両の制動装置の動作を開始し、以後隊列を組む全車両が車車間通信装置によるデータ送信を停止し且つ車両の制動装置の動作を開始するまで上記操作を繰り返す

【0006】
また本発明は、車車間通信における受信機能失陥の検出では自車両Vnの前を走行する先行車の内、自車に最も近い車両Vn-1又は自車から後続する車両のうち、自車に最も近い車両Vn+1からの走行状態情報を所定時間内に受信できない場合、受信機能失陥とする手段を有する。
【0007】
また本発明は、隊列内の他の車両から送信される走行情報が自車両の直前および直後の車両からの送信されてくる走行情報かを識別するため、送信データに自車両が先頭車から何番目の車両かを示す自己認証データを付与して送信する。
【0008】
また本発明は、車車間通信の受信機能失陥が検出された場合、自車の走行情報を他の車両に伝えるために一定周期で送信をおこなう送信機能を強制的に停止する手段を有する。
【0009】
また本発明は、車車間通信の受信機能失陥が検出された場合、自車を停止させるためにブレーキ制御装置に減速指令を与える手段を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る隊列走行制御システムによれば、一定の速度で走行する隊列走行において、先行車の走行状態情報を獲得する車車間通信の受信機能が検出されるとともに隊列内のすべての車両が減速をおこない停止するため、車車間通信の機能失陥をしらずに隊列走行を継続し、先頭車の前方に障害物が発生し、隊列内のすべての車両が急停止しなければならない状態が発生し、車車間通信機能失陥により隊列内で追突が発生するのを事前に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】隊列走行における隊列間の車車間通信情報の流れ図である。
図2】隊列走行制御システムにおける車間距離制御の構成図である。
図3】実施形態における隊列走行制御システムの構成図である。
図4】実施形態における車車間通信装置の構成図である。
図5】車車間通信装置における受信データ異常処理ソフト図である。
図6】巡回冗長検査方式を用いた送信データ構成図である
図7】受信異常処理ソフトの作動状態図である
図8】隊列内各車両間の車車間通信シーケンス図である。
図9】受信機能失陥発生時からの隊列走行制御状態遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、複数の車両が隊列を組んで隊列走行する隊列走行制御システムの安全性を実現するもので、図1に隊列走行制御における隊列内の各車両間の走行情報の流れを示す。
隊列走行では自車の走行状態を示す速度や加速度情報を車車間通信により一定の周期で隊列内の他の車両へ送信を行っている。
【0013】
図2に隊列走行制御システムにおける車間距離制御の構成図を示す。
隊列内の各車両間の車間距離制御において、一定速度で隊列走行を行っている場合、目標の車間距離CS7と実際の車間距離CS8との誤差を検出し、この誤差が最少になるようにエンジン駆動力やブレーキ制動力を制御すればよいが、先頭車が道路上に発生した障害物との衝突を防ぐため、ブレーキを作動し減速を始めた場合、車間距離のフィードバックでは先行車と自車との減速度の差により先行車との車間距離が急速に縮まってしまい、先行車に追突してしまう危険が発生する。
【0014】
このため、隊列走行制御では車車間通信を用いて自車の加速度および速度を隊列内の他の車両に送出するとともに、後続車両は先行車Vn-1からの加速度CS1および速度CS4と自車の加速度CS2と速度CS5の誤差CS3とCS6に応じてエンジン駆動力CS11とブレーキ制動力CS12を制御している。
【0015】
従って先行車の車車間通信異常により走行情報が送出できない場合や後続車の車車間通信異常により先行車からの走行情報を受信できなかった場合、車間距離情報だけの車間距離制御となり衝突の危険が生じる。
【0016】
図3に隊列走行における隊列走行制御システムのブロック図を示す。隊列走行制御システムは隊列内の各車両は他車両からの走行情報を受信するとともに自車両の走行情報を他の車両に送信するためのアンテナ1、車車間通信装置2、先行車との車間距離を検出する車間距離センサ4、自車の加速度状態を検出する加速度センサ5、自車の速度を検出する速度センサ6、車間距離制御計算を行う車間距離制御装置3、車両の駆動力制御をおこなうエンジン出力制御装置7および車両の減速度を制御するブレーキ制御装置8からなる。
【0017】
車車間通信装置2はアンテナ1と電気信号線により接続され、図6に示すように自車両の走行情報及び隊列ID、隊列順番ID等を他車両と1対1の個別通信ではなく、他の車両に同時に送出すると共に、他車両から送出される走行情報等を受け取る機能を有する。
【0018】
図4に本発明の実施形態における車車間通信装置のブロック図を示す。車車間通信装置2は受信異常を検出する受信異常検出器21、車車間通信の搬送波を出力する発信器23、車間距離制御装置3からの送信データに基づいて搬送波を変調するための変調器24、搬送周波数と変調信号を合成する合成器25、合成器25からの変調された搬送周波数をアンテナ1より送信開始するための送信遮断器26、他の車両からの受信電波がない場合一定周期で変調された搬送波をアンテナ1より送信するためのCSMA送信制御器27、アンテナ1で受信し、搬送波から変調信号を分離する復調器28および復調信号から受信データを抽出する受信データ抽出器29より構成される。
【0019】
次に本発明である車車間通信受信異常時に隊列走行全体を停止させる方法について、図5の実施形態における車車間通信装置2の受信異常検出器21における受信異常処理のソフトフローチャートにて説明する。
【0020】
受信異常処理は車車間通信の受信異常を検出し受信異常が発生した場合、送信を停止すると共に車間距離制御装置にブレーキ作動の開始を指示もので、受信異常時間を計測する受信データ異常タイマーMのカウントUP用ステッップS210、受信データの正しさを判定するステップS211、受信正常データの送信先を検出するS212、受信異常が所定時間以上経過した場合車車間通信の送信停止処理するステッップS213および受信正常処理をおこなうステップS214から構成されている。
【0021】
受信異常処理はCSMA送信制御器27による送信周期TNとほぼ同一の周期で実行され、まずステップS210にて無条件で受信データ異常タイマーMをカウントUPする。このタイマーMは受信データ異常の継続時間を計測するために使用される。
【0022】
次にステッップS211にて受信データが正しく受信されているかを判定する。実施形態では通信分野において広く用いられている巡回冗長検査方式を用いてS211aにて受信データが正しく受信されているかをチェックする。
【0023】
図6は車車間通信装置2より送信される送信データ構成をしめしたもので車間距離制御に使用されるデータにCRC値と呼ばれるデータ検証用データを付加して送信される。
【0024】
送信されたデータの確かさを検証後、ステップS211bにて受信データが正しければステップS212を実行する。もし正しくなければステップS213にて受信データ異常処理をおこなう。
【0025】
次にステップS212にて受信したデータが隊列内のどの車両から送信されたデータかを検出する。ステップS212aでは受信自車Vnの直前の車両Vn−1からの送信されたデータかを検出する。またステップS212bでは車両Vn+1からの受信かどうかを検出する。受信データの送信元車両の検出は図6に示す受信データ内の隊列内順番IDを識別することにより実施される。
【0026】
ステップS213では受信データ異常タイマーMをチェックし、受信データ異常タイマーMが所定時間以上経過した場合、車車間通信器故障と判定し、ステップS213aにて送信遮断器26に送信停止指示を送出する。さらにステップS213bにて車間距離制御装置にブレーキ動作指示を出力する。
【0027】
次にステップS214にて車両Vn−1およびVn+1からの受信データが正しい場合の処理を説明する。車両Vn−1およびVn+1からの受信データが正しい場合、ステップS214aにて受信データ異常タイマーMを初期化しゼロにリセットする。又ステップS214bにて送信遮断器26に送信許可指示を送出する。
【0028】
図7にて受信異常処理の状態遷移を示す。
(a)は受信データ異常タイマーMの動作状況、(b)は車両Vn-1、Vn+1からの正常受信タイミングを示す。車両Vn-1又はVn+1から正常な受信した場合はタイマーMはリセットされないが、車両Vn-1およびVn+1の両方から正常なデータを受信した場合、タイマーMはリセットされる。車両Vn-1およびVn+1の両方から正常データが受信されない場合、異常タイマーMは所定の値をオーバし、(c)に示すように車車間通信器2の送信停止指示が発生する。
【0029】
隊列内の任意の車両の車車間通信送信故障が発生した場合の他の車両の車車間通信の状態を図8にて説明する。
車両Vn-1、VnおよびVn+1それぞれに装着された車車間通信器2よりCSMA送信制御器27の送信タイミング制御に基づいて、送信周期TPにて走行情報および隊列順番IDが送信パルスPTTの間他の車両に送信されている。
車両Vn-1の送信時間PTTに送出されたデータは同時刻に車両Vnの受信器で受信される。
【0030】
ここでRSn−1は車両Vn-1からのデータを正しく受信したことを表す。同様にRSn+1は車両Vn+1からのデータを正しく受信したことを表す。
【0031】
車両Vnが車両Vn-1からの送信データを時刻Toに受信した後、車両Vn-1の車車間通信の送信機能が失陥すると、車両Vnでは時刻T0から所定の時間TNS後に送信を停止する。この結果、車両Vn+1では車両Vnからの送信データRSnを最後に受信した時刻T1から所定時間TR後に送信を停止する。
【0032】
図9に4台の車両による隊列走行時、隊列の3番目の車両の車車間通信の受信機能が失陥した場合の隊列走行の制御状態遷移を示す。
3号車の車車通信受信故障が時刻t0に発生すると2号車または4号車からの受信がないため時間TR後の時刻t1に自車の受信故障を検出し、送信を停止するとともに減速を開始する。2号車では時刻t1に3号車の送信データを受信した後、3号車からの受信がないため時間TR後の時刻t2に2号車の車車間受信故障と判定し、2号車は車車間通信の送信を停止するとともに減速を開始する。
【0033】
一方4号車においても2号車と同様、時刻t1に3号車の送信データを受信した後、3号車からの受信がないため時間TR後の時刻t2に4号車の車車間受信故障と判定し、4号車は車車間通信の送信を停止するとともに減速を開始する。
更に1号車において、時刻t2に2号車の送信データを受信した後、2号車からの受信がないため時間TR後の時刻t3に1号車の車車間受信故障と判定し、1号車は車車間通信の送信を停止するとともに、減速を開始する。
この結果、3号車の車車間通信の受信故障発生後、RT×3時間後に4台すべてが減速を開始する。
【0034】
以上のように、車車間通信異常を検出後、自車の車車間通信の送信を停止することにより、隊列内のすべての車両が停止する。
【符号の説明】
【0035】
1…アンテナ、2…車車間通信装置、3…車間距離制御装置、4…車間距離センサ、5…加速度センサ、6…速度センサ、7…エンジン出力制御装置、8…ブレーキ制御装置、21…受信異常検出器、23…発信器、24…変調器、25…合成器、26…送信遮断器、27…CSMA送信制御器、29…受信データ抽出器、ID…隊列、CS7…目標の車間距離、CS8…実際の車間距離、Vn-1、Vn、Vn+1…車両、CS1…加速度、CS4…速度、CS2…自車の加速度、CS5…自車の速度CS3…加速度の誤差、CS6…速度の誤差、CS11…エンジン駆動力、CS12…ブレーキ制動力。
【要約】      (修正有)
【課題】複数の車両が車車間通信により隊列を形成して走行する隊列走行制御システムにおいて、隊列内の任意の車両の車車間通信装置の故障に対し、隊列内のすべての車両を停止させる安全性の高い隊列走行制御システムを提供する。
【解決手段】複数の車両V1、V2・・・が他の車両の走行状態を獲得する車車間通信装置を用いて隊列走行する隊列走行制御システムにおいて、隊列内の任意の車両Vnの車車間通信が故障した時、故障車両Vnの前方車両Vn-1又は後続車両Vn+1からの受信データ異常を検出する手段と、受信データ異常を検出した場合、自車両の車車間通信の送信を停止する手段と、ブレーキ装置を作動する手段あるいはエンジン出力を減少する手段により、隊列内のすべての車両を停止することで車両間の衝突を防止する。
【選択図】図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図1