特許第6017027号(P6017027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017027
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20161013BHJP
   H01T 13/39 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   H01T13/20 B
   H01T13/39
   H01T13/20 E
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-517538(P2015-517538)
(86)(22)【出願日】2014年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2014083267
(87)【国際公開番号】WO2015093481
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2015年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-264292(P2013-264292)
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】特許業務法人鳳国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】角力山 大典
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−089353(JP,A)
【文献】 特開2013−037806(JP,A)
【文献】 特開平10−106716(JP,A)
【文献】 特開平05−054953(JP,A)
【文献】 特開2008−027870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01T 13/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、前記中心電極との間でギャップを形成する接地電極と、を有するスパークプラグであって、
前記中心電極と前記接地電極との少なくとも一方は、軸部と、前記軸部の一面に接合された電極チップと、を有し、
前記軸部は、銅を含む材料で形成される第1芯部と、前記第1芯部よりも耐食性に優れる材料で形成され前記第1芯部の少なくとも一部を被覆する第1外層と、を有し、
前記電極チップは、貴金属を含む材料で形成され前記電極チップの外表面を形成する第2外層と、前記第2外層よりも熱伝導率が高い材料で形成され前記第2外層に少なくとも部分的に被覆される第2芯部と、を有し、
前記第1芯部と前記第2芯部とは、拡散接合部によって接合され、
前記第1外層と前記第2外層とは、レーザ溶融部によって接合され、
前記第1芯部と前記第2芯部との前記拡散接合部の前記軸線方向の範囲の少なくとも一部は、前記第1外層と前記第2外層との前記レーザ溶融部の前記軸線方向の範囲に重なっている、
スパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグであって、
前記第2外層は、白金と、イリジウムと、ロジウムと、ルテニウムと、パラジウムと、金と、の6つの貴金属のいずれか1つを主成分として含む材料、または、前記6つの貴金属のいずれか1つと銅との合金を主成分として含む材料で形成されている、スパークプラグ。
【請求項3】
請求項2に記載のスパークプラグであって、
前記第2外層は、融点が摂氏1840度以上の酸化物を含有する、スパークプラグ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記第1芯部と前記第2芯部とは、同じ材料で形成されている、スパークプラグ。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記中心電極は、軸線方向に延びる前記軸部と、前記軸部の先端に接合される前記電極チップと、を有し、
前記電極チップは、略円柱形状をなし、
前記電極チップの外径を外径Dとし、前記第2外層のうち前記第2芯部の外周面を被覆する部分の径方向の厚さを厚さsとしたときに、前記厚さsは、0.03mm以上、かつ、外径D/3以下である、スパークプラグ。
【請求項6】
請求項に記載のスパークプラグであって、
前記第2外層のうち前記第2芯部の先端部を被覆する先端部分の前記軸線方向の厚さtは、0.1mm以上、かつ、0.4mm以下である、スパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関に、スパークプラグが用いられている。スパークプラグは、ギャップを形成する電極を有している。電極としては、例えば、電極の消耗を抑制するために、貴金属チップを有する電極が利用されている。また、中心電極の温度上昇を抑制するために、銅芯が埋設された軸に、貴金属チップを接合する技術が提案されている。この技術によれば、貴金属チップの温度上昇が抑制されるので、貴金属チップの消耗を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−36462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、長期間の使用によって、貴金属チップが消耗する場合があった。貴金属チップが消耗すると、適切な放電ができなくなる場合があった。このような課題は、中心電極に限らず、接地電極にも共通する課題であった。
【0005】
本開示は、電極の消耗を抑制する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、例えば、以下の態様または適用例を開示する。
[態様]
中心電極と、前記中心電極との間でギャップを形成する接地電極と、を有するスパークプラグであって、
前記中心電極と前記接地電極との少なくとも一方は、軸部と、前記軸部の一面に接合された電極チップと、を有し、
前記軸部は、銅を含む材料で形成される第1芯部と、前記第1芯部よりも耐食性に優れる材料で形成され前記第1芯部の少なくとも一部を被覆する第1外層と、を有し、
前記電極チップは、貴金属を含む材料で形成され前記電極チップの外表面を形成する第2外層と、前記第2外層よりも熱伝導率が高い材料で形成され前記第2外層に少なくとも部分的に被覆される第2芯部と、を有し、
前記第1芯部と前記第2芯部とは、拡散接合部によって接合され、
前記第1外層と前記第2外層とは、レーザ溶融部によって接合され、
前記第1芯部と前記第2芯部との前記拡散接合部の前記軸線方向の範囲の少なくとも一部は、前記第1外層と前記第2外層との前記レーザ溶融部の前記軸線方向の範囲に重なっている、
スパークプラグ。
【0007】
[適用例1]
中心電極と、前記中心電極との間でギャップを形成する接地電極と、を有するスパークプラグであって、
前記中心電極と前記接地電極との少なくとも一方は、軸部と、前記軸部の一面に接合された電極チップと、を有し、
前記軸部は、銅を含む材料で形成される第1芯部と、前記第1芯部よりも耐食性に優れる材料で形成され前記第1芯部の少なくとも一部を被覆する第1外層と、を有し、
前記電極チップは、貴金属を含む材料で形成され前記電極チップの外表面を形成する第2外層と、前記第2外層よりも熱伝導率が高い材料で形成され前記第2外層に少なくとも部分的に被覆される第2芯部と、を有する、
スパークプラグ。
【0008】
この構成によれば、第2芯部を通じて第2外層から軸部に熱を逃がすことができるので、第2外層の温度上昇を抑制できる。この結果、第2外層の消耗を抑制できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載のスパークプラグであって、
前記第2外層は、白金と、イリジウムと、ロジウムと、ルテニウムと、パラジウムと、金と、の6つの貴金属のいずれか1つを主成分として含む材料、または、前記6つの貴金属のいずれか1つと銅との合金を主成分として含む材料で形成されている、スパークプラグ。
【0010】
この構成によれば、第2外層の消耗を、適切に、抑制できる。
【0011】
[適用例3]
適用例2に記載のスパークプラグであって、
前記第2外層は、融点が摂氏1840度以上の酸化物を含有する、スパークプラグ。
【0012】
この構成によれば、第2外層の消耗を適切に抑制できる。
【0013】
[適用例4]
適用例1から3のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記第1芯部と前記第2芯部とが直接に接合されている、スパークプラグ。
【0014】
この構成によれば、第1芯部と第2芯部とを通じて第2外層の温度上昇を適切に抑制できるので、第2外層の消耗を抑制できる。
【0015】
[適用例5]
適用例4に記載のスパークプラグであって、
前記第1芯部と前記第2芯部とは、同じ材料で形成されている、スパークプラグ。
【0016】
この構成によれば、第1芯部と第2芯部との接合を容易に実現できる。
【0017】
[適用例6]
適用例1から5のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記中心電極は、軸線方向に延びる前記軸部と、前記軸部の先端に接合される前記電極チップと、を有し、
前記電極チップは、略円柱形状をなし、
前記電極チップの外径を外径Dとし、前記第2外層のうち前記第2芯部の外周面を被覆する部分の径方向の厚さを厚さsとしたときに、前記厚さsは、0.03mm以上、かつ、外径D/3以下である、スパークプラグ。
【0018】
この構成によれば、第2外層の消耗を適切に抑制できる。
【0019】
[適用例7]
適用例6に記載のスパークプラグであって、
前記第2外層のうち前記第2芯部の先端部を被覆する先端部分の前記軸線方向の厚さtは、0.1mm以上、かつ、0.4mm以下である、スパークプラグ。
【0020】
この構成によれば、第2外層の消耗を適切に抑制できる。
【0021】
[適用例8]
適用例6または7に記載のスパークプラグであって、
前記軸部と前記電極チップとは、レーザ溶接を含む接合方法によって接合されており、
前記第1芯部と前記第2芯部との接合部の前記軸線方向の範囲の少なくとも一部は、前記第1外層と前記第2外層とが溶融して形成された溶融部の前記軸線方向の範囲に重なっている、スパークプラグ。
【0022】
この構成によれば、軸部と電極チップとの接合強度の低下を抑制できる。
【0023】
なお、本明細書に開示の技術は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグ、スパークプラグを搭載する内燃機関、スパークプラグの製造方法、等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態のスパークプラグの一例の断面図である。
図2】中心電極20の先端部の断面図である。
図3】中心電極の別の実施形態の構成を示す断面図である。
図4】参考例の中心電極20zの構成を示す断面図である。
図5】第2厚さtに対する第1温度T1と第2温度T2と熱伝導率Tcとの関係の概略を示すグラフである。
図6】第1厚さsに対する第1温度T1と熱伝導率Tcとの関係の概略を示すグラフである。
図7】点火システム600のブロック図である。
図8】電極チップを有する接地電極の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
A.実施形態:
A−1.スパークプラグの構成:
図1は、実施形態のスパークプラグの一例の断面図である。図示されたラインCLは、スパークプラグ100の中心軸を示している。図示された断面は、中心軸CLを含む断面である。以下、中心軸CLのことを「軸線CL」とも呼び、中心軸CLと平行な方向を「軸線方向」とも呼ぶ。中心軸CLを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、中心軸CLを中心とする円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLと平行な方向のうち、図1における下方向を先端方向D1と呼び、上方向を後端方向D2とも呼ぶ。先端方向D1は、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、図1における先端方向D1側をスパークプラグ100の先端側と呼び、図1における後端方向D2側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。
【0026】
スパークプラグ100は、絶縁体10(以下「絶縁碍子10」とも呼ぶ)と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、導電性の第1シール部60と、抵抗体70と、導電性の第2シール部80と、先端側パッキン8と、タルク9と、第1後端側パッキン6と、第2後端側パッキン7と、を備えている。
【0027】
絶縁体10は、中心軸CLに沿って延びて絶縁体10を貫通する貫通孔12(以下「軸孔12」とも呼ぶ)を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、アルミナを焼成して形成されている(他の絶縁材料も採用可能である)。絶縁体10は、先端側から後端方向D2に向かって順番に並ぶ、脚部13と、第1縮外径部15と、先端側胴部17と、鍔部19と、第2縮外径部11と、後端側胴部18と、を有している。第1縮外径部15の外径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。絶縁体10の第1縮外径部15の近傍(図1の例では、先端側胴部17)には、後端側から先端側に向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部16が形成されている。第2縮外径部11の外径は、先端側から後端側に向かって、徐々に小さくなる。
【0028】
絶縁体10の軸孔12の先端側には、中心軸CLに沿って延びる棒状の中心電極20が挿入されている。中心電極20は、軸部200と、軸部200の先端に接合された電極チップ300と、を有している。軸部200は、先端側から後端方向D2に向かって順番に並ぶ、脚部25と、鍔部24と、頭部23と、を有している。電極チップ300は、脚部25の先端に、接合されている。電極チップ300と、脚部25の先端側の部分とは、絶縁体10の先端側で、軸孔12の外に露出している。軸部200の他の部分は、軸孔12内に配置されている。鍔部24の先端方向D1側の面は、絶縁体10の縮内径部16によって、支持されている。また、軸部200は、外層21(「第1外層21」とも呼ぶ)と芯部22(「第1芯部22」とも呼ぶ)とを有している。芯部22の後端部は、外層21から露出し、軸部200の後端部を形成する。芯部22の他の部分は、外層21によって被覆されている。ただし、芯部22の全体が、外層21によって覆われていても良い。
【0029】
外層21は、芯部22よりも耐食性に優れる材料、すなわち、内燃機関の燃焼室内で燃焼ガスに曝された場合の消耗が少ない材料を用いて形成されている。外層21の材料としては、例えば、ニッケル(Ni)、または、ニッケルを主成分として含む合金(例えば、インコネル(「INCONEL」は、登録商標))が用いられる。ここで、「主成分」は、含有率が最も高い成分を意味している(以下、同様)。含有率としては、重量パーセントで表される値が、採用される。芯部22は、外層21よりも熱伝導率が高い材料、例えば、銅を含む材料(例えば、純銅、または、銅を含む合金)で形成されている。
【0030】
絶縁体10の軸孔12の後端側には、端子金具40が挿入されている。端子金具40は、導電材料(例えば、低炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。端子金具40は、後端側から先端方向D1に向かって順番で並ぶ、キャップ装着部41と、鍔部42と、脚部43と、を有している。キャップ装着部41は、絶縁体10の後端側で、軸孔12の外に露出している。脚部43は、絶縁体10の軸孔12に挿入されている。
【0031】
絶縁体10の軸孔12内において、端子金具40と中心電極20との間には、電気的なノイズを抑制するための、円柱状の抵抗体70が配置されている。抵抗体70と中心電極20との間は、導電性の第1シール部60が配置され、抵抗体70と端子金具40との間には、導電性の第2シール部80が配置されている。中心電極20と端子金具40とは、抵抗体70とシール部60、80とを介して、電気的に接続される。シール部60、80を用いることによって、積層される部材20、60、70、80、40間の接触抵抗が安定し、中心電極20と端子金具40との間の電気抵抗値を安定させることができる。なお、抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子(例えば、B23−SiO2系のガラス)と、セラミック粒子(例えば、TiO)と、導電性材料(例えば、Mg)と、を用いて形成されている。シール部60、80は、例えば、抵抗体70と同様のガラス粒子と、金属粒子(例えば、Cu)と、を用いて形成されている。
【0032】
主体金具50は、中心軸CLに沿って延びて主体金具50を貫通する貫通孔59を有する略円筒状の部材である。主体金具50は、低炭素鋼材を用いて形成されている(他の導電材料(例えば、金属材料)も採用可能である)。主体金具50の貫通孔59には、絶縁体10が挿入されている。主体金具50は、絶縁体10の外周に固定されている。主体金具50の先端側では、絶縁体10の先端(本実施形態では、脚部13の先端側の部分)が、貫通孔59の外に露出している。主体金具50の後端側では、絶縁体10の後端(本実施形態では、後端側胴部18の後端側の部分)が、貫通孔59の外に露出している。
【0033】
主体金具50は、先端側から後端側に向かって順番に並ぶ、胴部55と、座部54と、変形部58と、工具係合部51と、加締部53と、を有している。座部54は、鍔状の部分である。胴部55の外周面には、内燃機関(例えば、ガソリンエンジン)の取付孔に螺合するためのネジ部52が形成されている。座部54とネジ部52との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌め込まれている。
【0034】
主体金具50は、変形部58よりも先端方向D1側に配置された縮内径部56を有している。縮内径部56の内径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。主体金具50の縮内径部56と、絶縁体10の第1縮外径部15と、の間には、先端側パッキン8が挟まれている。先端側パッキン8は、鉄製でO字形状のリングである(他の材料(例えば、銅等の金属材料)も採用可能である)。
【0035】
工具係合部51の形状は、スパークプラグレンチが係合する形状(例えば、六角柱)である。工具係合部51の後端側には、加締部53が設けられている。加締部53は、絶縁体10の第2縮外径部11よりも後端側に配置され、主体金具50の後端(すなわち、後端方向D2側の端)を形成する。加締部53は、径方向の内側に向かって屈曲されている。
【0036】
主体金具50の後端側では、主体金具50の内周面と、絶縁体10の外周面と、の間に、環状の空間SPが形成されている。本実施形態では、この空間SPは、主体金具50の加締部53および工具係合部51と、絶縁体10の第2縮外径部11および後端側胴部18と、に囲まれた空間である。この空間SP内の後端側には、第1後端側パッキン6が配置されている。この空間SP内の先端側には、第2後端側パッキン7が配置されている。本実施形態では、これらの後端側パッキン6、7は、鉄製でC字形状のリングである(他の材料も採用可能である)。空間SP内における2つの後端側パッキン6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。
【0037】
スパークプラグ100の製造時には、加締部53が内側に折り曲がるように加締められる。そして、加締部53が先端方向D1側に押圧される。これにより、変形部58が変形し、パッキン6、7とタルク9とを介して、絶縁体10が、主体金具50内で、先端側に向けて押圧される。先端側パッキン8は、第1縮外径部15と縮内径部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。以上により、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁体10との間を通って外に漏れることが、抑制される。また、主体金具50が、絶縁体10に、固定される。
【0038】
接地電極30は、主体金具50の先端(すなわち、先端方向D1側の端)に接合されている。本実施形態では、接地電極30は、棒状の電極である。接地電極30は、主体金具50から先端方向D1に向かって延び、中心軸CLに向かって曲がって、先端部31に至る。先端部31は、中心電極20の先端面315(先端方向D1側の表面315)との間でギャップgを形成する。また、接地電極30は、主体金具50に、電気的に導通するように、接合されている(例えば、抵抗溶接)。接地電極30は、接地電極30の表面を形成する母材35と、母材35内に埋設された芯部36と、を有している。母材35は、例えば、インコネルを用いて形成されている。芯部36は、母材35よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅)を用いて形成されている。
【0039】
A−2.中心電極の先端部の構成:
図2は、中心電極20の先端部の断面図である。図の左部は、互いに接合される前の軸部200と電極チップ300とを示している。図中では、軸部200と電極チップ300とは、同軸上に配置されている。図の右部は、互いに接合された軸部200と電極チップ300とを示している。いずれの断面も、中心軸CLを含む断面である。
【0040】
まず、接合前の電極チップ300の構成について、説明する。電極チップ300は、中心軸CLを中心とする略円柱形状をなしている。電極チップ300は、電極チップ300の外表面を形成する第2外層310と、第2外層310に部分的に被覆された芯部320(「第2芯部320」とも呼ぶ)と、を有している。第2外層310は、貴金属(例えば、イリジウム(Ir)や白金(Pt))を含む材料で形成されている(以下、「貴金属層310」とも呼ぶ)。芯部320は、貴金属層310よりも熱伝導率が高い材料(例えば、銅(Cu))で形成されている。
【0041】
芯部320は、中心軸CLを中心とする略円柱形状をなしている。貴金属層310は、中心軸CLを中心とする略円筒状の部分である筒部313と、中心軸CLを中心とする略円盤形状の部分である先端部311と、を有している。筒部313は、芯部320の外周面323を被覆している。先端部311は、筒部313の先端側に接続されており、芯部320の先端面321を被覆している。また、先端部311の先端側の表面315(すなわち、電極チップ300の先端面)は、スパークプラグ100(図1)が完成した場合に、ギャップgを形成する。以下、表面315を、「放電面315」とも呼ぶ。芯部320の後端面326は、貴金属層310から外部に露出している。芯部320の後端面326と貴金属層310の後端面316とは、略同一平面上に配置されている。
【0042】
このような構成の電極チップ300の製造方法としては、種々の方法を採用可能である。例えば、以下の方法を採用可能である。貴金属層310の材料を、凹部を有するカップ状に成形し、その凹部の内に芯部320の材料を配置する。そして、凹部の内に芯部320の材料が配置された部材を、圧延によって引き延ばす。そして、引き延ばされた部材のうちの余剰部分を切断することによって、電極チップ300を形成する。
【0043】
また、以下の方法を採用してもよい。貴金属層310の材料を、円筒状に成形し、その円筒孔の内に芯部320の材料を挿入する。そして、円筒孔の内に芯部320の材料が配置された部材を、圧延によって引き延ばす。次に、引き延ばされた部材を切断することによって、所定長の円柱部材を取得する(筒部313と芯部320とに対応する)。そして、円柱部材の一端に、貴金属層310の材料で形成された円盤(先端部311に対応する)をレーザ溶接によって接合することによって、電極チップ300を形成する。
【0044】
また、以下の方法を採用してもよい。貴金属層310の材料を、焼成することによって、図2に示す形状、すなわち、容器形状に、成形する。そして、容器形状の凹部に、芯部320の材料を配置し、焼成することによって、電極チップ300を形成する。また、以下の方法を採用してもよい。貴金属層310の材料で凹部を有する容器形状の未焼成の成形体を成形し、その成形体の凹部に芯部320の材料を配置する。そして、両者を同時焼成することによって、電極チップ300を形成する。
【0045】
次に、接合前の軸部200の先端部の構成について、説明する。軸部200の先端部では、芯部22の全体が、外層21に被覆されている。また、軸部200は、先端方向D1に向かって外径が小さくなる縮径部220を、有している。縮径部220の先端方向D1側には、先端面211が形成されている。先端面211上に、電極チップ300の後端面316、326が、接合される。
【0046】
図2の右部には、接合された軸部200と電極チップ300とが示されている。図中の矢印LZ1は、接合(ここでは、レーザ溶接)に利用されるレーザ光の概略を示している。レーザ光LZ1は、軸部200と、軸部200の先端面211上に配置された電極チップ300と、の境界(図示省略)に、全周に亘って、照射される。このようなレーザ光LZ1の照射により、軸部200と電極チップ300とを接合する溶融部230が形成される。溶融部230は、溶接時に溶融した部分である。図2の実施形態では、溶融部230は、軸部200の外層21と、電極チップ300の貴金属層310と芯部320とに、接触している。溶融部230は、軸部200の外層21と、電極チップ300の貴金属層310と芯部320とを、接合する。
【0047】
図3は、中心電極の別の実施形態の構成を示す断面図である。図2の中心電極20との差異は、電極チップ300の芯部320が、中心電極20aの芯部22a(「第1芯部22a」とも呼ぶ)と、直接に接合されている点である。図3の中心電極20aは、軸部200aと電極チップ300とを有している。電極チップ300は、図2の電極チップ300と、同じである。図3の中心電極20aは、図2の中心電極20の代わりに、利用可能である。
【0048】
図3の左部は、図2の左部と同様に、互いに接合される前の軸部200aと電極チップ300とを示している。図3の右部は、図2の右部と同様に、互いに接合された軸部200aと電極チップ300とを示している。いずれの断面も、中心軸CLを含む断面である。
【0049】
接合前の軸部200aの外観形状は、図2の軸部200の外観形状と、ほぼ同じである。また、軸部200aの先端面211a上には、芯部22aが露出している。先端面211a上では、芯部22aが、外層21a(「第1外層21a」とも呼ぶ)に囲まれている。先端面211a上に、電極チップ300の後端面316、326が配置される場合、電極チップ300の貴金属層310は、軸部200aの外層21aと接触し、電極チップ300の芯部320は、軸部200aの芯部22aと接触する。
【0050】
図3の右部には、接合された軸部200aと電極チップ300とが示されている。図中の矢印LZ2は、溶接に利用されるレーザ光の概略を示している。レーザ光LZ2は、軸部200aと、軸部200aの先端面211a上に配置された電極チップ300と、の境界(図示省略)に、全周に亘って、照射される。このようなレーザ光LZ2の照射により、軸部200aの外層21aと電極チップ300の貴金属層310とを接合する溶融部230aが形成される。
【0051】
また、図3の実施形態では、電極チップ300を軸部200aに接合するために、レーザ溶接に加えて、拡散接合も行われる。具体的には、電極チップ300に軸部200aに向かう荷重を印加した状態で、電極チップ300と軸部200aとが加熱される。この結果、電極チップ300の芯部320と軸部200aの芯部22aとが、直接に接合される。図中の接合部240は、拡散接合によって形成された接合部であり、2つの芯部320、22aを接合している。なお、レーザ溶接の後に拡散接合を行ってもよく、この代わりに、拡散溶接の後にレーザ溶接を行ってもよい。
【0052】
このように、接合部240は、軸部200aの芯部22aと電極チップ300の芯部320とを接合する部分である。そして、溶融部230aは、軸部200aの外層21aと電極チップ300の貴金属層310とが溶融して形成された部分である。さらに、軸線方向の位置に着目する場合、図3に示すように、接合部240の軸線方向の範囲である第1範囲Raは、溶融部230aの軸線方向の範囲である第2範囲Rbに重なっている。換言すれば、接合部240は、溶融部230aが形成されている範囲内に、形成されている。なお、接合部240の軸線方向の第1範囲Raは、接合部240の先端方向D1側の端から後端方向D2側の端までの範囲である。溶融部230aの軸線方向の第2範囲Rbは、溶融部230aの先端方向D1側の端から後端方向D2側の端までの範囲である。
【0053】
仮に第1範囲Raが第2範囲Rbから離れている場合、接合部240が溶融部230aから離れた位置に形成され得る。この場合、電極チップ300を軸部200aに接合した後の中心電極20aの内部で、接合部240と溶融部230aとの間に、電極チップ300と軸部200aとの未接合の部分である隙間が形成され得る(図示省略)。このような隙間が中心電極20aの内部に形成されると、隙間が形成されない場合と比べて、中心電極20aの接合強度が低くなり得る。図3の実施形態のように第1範囲Raが第2範囲Rbに重なる場合には、そのような隙間が形成されることを抑制でき、電極チップ300と軸部200aとの接合強度の低下を抑制できる。なお、第1範囲Raの一部が第2範囲Rbの外であってもよい。一般的には、第1範囲Raの少なくとも一部が第2範囲Rbに重なっていることが好ましい。この構成によれば、中心電極20aの内部に隙間が形成されることを抑制でき、電極チップ300と軸部200aとの接合強度の低下を抑制できる。ただし、第1範囲Raの全体が、第2範囲Rbの外であってもよい。
【0054】
また、図3の実施形態では、接合部240の外周側の縁が、溶融部230aに接触している。図示を省略するが、接合部240の外周側の縁は、周方向の全周に亘って、溶融部230aに接触している。従って、中心電極20aの内部に上述の隙間が生じることを抑制でき、電極チップ300と軸部200aとの接合強度の低下を更に抑制できる。ただし、周方向の一部の範囲で、接合部240の縁が溶融部230aから離れていても良い。いずれの場合も、拡散接合を用いずに、レーザ溶接のみで、接合部240と溶融部230aとを形成してもよい。
【0055】
図4は、参考例の中心電極20zの構成を示す断面図である。この中心電極20zは、後述する評価試験で、参考例として用いられる。図2の中心電極20との差異は、電極チップ300の代わりに、芯部が省略された電極チップ300zが利用される点だけである。図4の中心電極20zは、軸部200と電極チップ300zとを有している。軸部200は、図2の軸部200と、同じである。
【0056】
図4の左部は、図2の左部と同様に、互いに接合される前の軸部200と電極チップ300zとを示している。図4の右部は、図2の右部と同様に、互いに接合された軸部200と電極チップ300zとを示している。いずれの断面も、中心軸CLを含む断面である。
【0057】
接合前の電極チップ300zの外観形状は、図2の電極チップ300の外観形状と、ほぼ同じである。電極チップ300zは、図2の貴金属層310と同じ材料を用いて形成されている。電極チップ300zの後端面306zは、軸部200の先端面211に接合される。
【0058】
図4の右部には、接合された軸部200と電極チップ300zとが示されている。図中の矢印LZ3は、溶接に利用されるレーザ光の概略を示している。レーザ光LZ3は、軸部200と、軸部200の先端面211上に配置された電極チップ300zと、の境界(図示省略)に、全周に亘って、照射される。このようなレーザ光LZ3の照射により、軸部200と電極チップ300zとを接合する溶融部230zが形成される。溶融部230zは、電極チップ300zと、軸部200の外層21と、を接合している。
【0059】
図2図4中には、電極チップ300、300zの要素の寸法を表す符号が示されている。外径Dは、電極チップ300、300zの外径を示している。第1厚さsは、筒部313の径方向の厚さである。第2厚さtは、貴金属層310の先端部311の中心軸CLと平行な方向の厚さである。全長Ltは、電極チップ300の中心軸CLと平行な方向の長さである。筒長Lsは、貴金属層310の筒部313の中心軸CLと平行な方向の長さである。これらの寸法は、電極チップ300の消耗を抑制するように決定されることが好ましい。例えば、第1厚さsと第2厚さtとは、以下に説明する関係を考慮して決定されることが好ましい。
【0060】
図5は、第2厚さtに対する第1温度T1と第2温度T2と熱伝導率Tcとの関係の概略を示すグラフである。横軸は、第2厚さtを示し、縦軸は、パラメータT1、T2、Tcのそれぞれの大きさを示している。第1温度T1は、放電面315の温度である。第2温度T2は、芯部320の先端面321の温度である。熱伝導率Tcは、電極チップ300から軸部200、200aへ熱が移動する場合の熱伝導率である。電極チップ300の全長Ltが固定されている場合、第2厚さtが大きいほど、貴金属層310が大きくなり、そして、芯部320の長さLsが短くなるので、電極チップ300から軸部200、200aへ熱が逃げにくくなる、すなわち、熱伝導率Tcが低くなる。従って、放電や燃料の燃焼によって電極チップ300の温度が上昇する場合に、第2厚さtが大きいほど、第1温度T1は高くなる。図中の第1融点Tm1は、貴金属層310の融点である。貴金属層310の溶融を抑制するためには、第2厚さtが小さいことが好ましく、第2厚さtが、第1温度T1が第1融点Tm1となる厚さtUよりも小さいことが、特に好ましい。
【0061】
また、第2厚さtが小さいほど、芯部320の先端面321は、放電面315に近い。従って、第2厚さtが小さいほど、芯部320の先端面321の第2温度T2が高くなる。図中の第2融点Tm2は、芯部320の融点である。芯部320の溶融を抑制するためには、第2厚さtが大きいことが好ましく、第2厚さtが、第2温度T2が第2融点Tm2となる厚さtLよりも大きいことが、特に好ましい。
【0062】
図6は、第1厚さsに対する第1温度T1と熱伝導率Tcとの関係の概略を示すグラフである。横軸は、第1厚さsを示し、縦軸は、パラメータT1、Tcのそれぞれの大きさを示している。電極チップ300の外径Dが固定されている場合、第1厚さsが大きいほど、芯部320の外径が小さいので、電極チップ300から軸部200、200aへ熱が逃げにくくなる、すなわち、熱伝導率Tcが低くなる。従って、放電や燃料の燃焼によって電極チップ300の温度が上昇する場合に、第1厚さsが大きいほど、第1温度T1は高くなる。貴金属層310の溶融を抑制するためには、第1厚さsが小さいことが好ましく、第1厚さsが、第1温度T1が第1融点Tm1となる厚さsUよりも小さいことが、特に好ましい。
【0063】
B.評価試験:
B−1.第1評価試験:
スパークプラグのサンプルを用いた第1評価試験では、放電を繰り返した場合のギャップgの距離の増加量が評価された。ギャップの距離は、ギャップg(図1)の中心軸CLと平行な方向の距離である。以下の表1は、サンプルの構成と、ギャップgの距離の増加量と、評価結果と、を示している。
【0064】
【表1】
【0065】
第1評価試験では、中心電極の3つの構成(図2図4の中心電極20、20a、20z)と、電極チップ300の芯部320の3つの材料(銅(Cu)と銀(Ag)と金(Au))と、の組合せが互いに異なる7個のサンプルが、評価された。上記の表1では、芯部320の3つの材料にそれぞれ対応する3つの表が、区切って示されている。3つの表の間では、参考例の中心電極20zのデータは、共通である。
【0066】
評価試験に用いられた7個のサンプルの間では、スパークプラグの構成のうちの中心電極以外の構成は、共通であり、図1に示す構成と同じであった。例えば、以下の構成は、7個のサンプルの間で共通であった。
接地電極30の母材35の材料 :インコネル600
接地電極30の芯部36の材料 :銅
軸部200、200aの外層21の材料 :インコネル600
軸部200、200aの芯部22の材料 :銅
電極チップ300、300zの外径D :0.6mm
電極チップ300、300zの全長Lt :0.8mm
貴金属層310、電極チップ300zの材料 :白金
筒部313の第1厚さs(中心電極20、20aのみ):0.2mm
先端部311の厚さt(中心電極20、20aのみ) :0.2mm
ギャップgの距離の初期値 :1.05mm
【0067】
評価試験は、以下のように行われた。すなわち、1気圧の空気中にスパークプラグのサンプルを配置し、300Hzで100時間に亘って放電を繰り返した。放電は、端子金具40と主体金具50との間に放電用の電圧を印加することによって、行われた。この放電の繰り返しを行う前と後のぞれぞれのギャップgの距離を、ピンゲージで、0.01mm刻みで、測定した。そして、測定された距離の差を、増加量として算出した。表1では、A評価は、増加量が0.04mm以下であることを示し、B評価は、増加量が0.04mmよりも大きいことを示している。
【0068】
表1に示すように、芯部320を有する中心電極20、20aの評価結果(すなわち、A評価)は、芯部320を有さない中心電極20zの評価結果(すなわち、B評価)と比べて、良好であった。この理由は、電極チップ300の芯部320が、放電によって生じた熱を電極チップ300から軸部200、200aへ逃がすことによって、電極チップ300の昇温を抑制したからだと推定される。また、芯部320の材料に拘わらず、芯部320を有する中心電極20、20aの評価結果は、良好であった。この理由は、芯部320の3つの材料(銅、銀、金)のそれぞれの熱伝導率が、貴金属層310(白金)の熱伝導率よりも高いからだと推定される。
【0069】
また、図2の中心電極20を用いる場合よりも、図3の中心電極20aを用いる場合の方が、ギャップgの距離の増加量が小さい傾向があった。この理由は、以下のように推定される。すなわち、外層21の成分(ニッケル、鉄、クロム、アルミニウム等)を含む部分(例えば、図2の溶融部230)は、芯部320、22と比べて、熱伝導率が低い。図3の中心電極20aでは、電極チップ300の芯部320は、外層21の成分を含む部分を介さずに、軸部200aの芯部22aに直接に接合されている。従って、芯部320は、電極チップ300から軸部200aへ適切に熱を逃がすことができる。この結果、図3の中心電極20aを用いることによって、ギャップgの距離の増加量を小さくできると推定される。
【0070】
また、中心電極20aを用いる場合、電極チップ300の芯部320の材料が、軸部200aの芯部22の材料と同じ銅であるサンプルでは、他のサンプルと比べて、ギャップgの距離の増加量が小さかった。この理由は、同じ材料を用いることによって2つの芯部320、22aを適切に接合でき、この結果、電極チップ300の昇温を、適切に、抑制できたからだと推定される。
【0071】
B−2.第2評価試験:
スパークプラグのサンプルを用いた第2評価試験では、スパークプラグのサンプルが装着された内燃機関を運転した場合のギャップgの距離の増加量が評価された。以下の表2は、サンプルの構成と、ギャップの距離の増加量と、評価結果と、を示している。
【0072】
【表2】
【0073】
第2評価試験では、第1評価試験で評価された7個のサンプルとそれぞれ同じ構成の7個のサンプルが、評価された。上記の表2では、電極チップ300の芯部320の3つの材料にそれぞれ対応する3つの表が、区切って示されている。3つの表の間では、参考例の中心電極20zのデータは、共通である。
【0074】
評価試験は、以下のように行われた。すなわち、内燃機関としては、直列4気筒、排気量2000ccのものが用いられた。そして、5600rpmの回転速度での運転を20時間に亘って継続した。この運転を行う前と後のぞれぞれのギャップgの距離を、ピンゲージで測定した。そして、測定された距離の差を、増加量として算出した。表2では、A評価は、増加量が0.3mm以下であることを示し、B評価は、増加量が0.3mmよりも大きいことを示している。
【0075】
表2に示すように、芯部320を有する中心電極20、20aの評価結果(すなわち、A評価)は、芯部320を有さない中心電極20zの評価結果(すなわち、B評価)と比べて、良好であった。この理由は、電極チップ300の芯部320が、燃焼によって生じた熱を電極チップ300から軸部200、200aへ逃がすことによって、電極チップ300の昇温を抑制したからだと推定される。また、芯部320の材料に拘わらず、芯部320を有する中心電極20、20aの評価結果は、良好であった。この理由は、芯部320の3つの材料(銅、銀、金)のそれぞれの熱伝導率が、貴金属層310(白金)の熱伝導率よりも高いからだと推定される。
【0076】
また、図2の中心電極20を用いる場合よりも、図3の中心電極20aを用いる場合の方が、ギャップgの距離の増加量が小さい傾向があった。この理由は、図3の中心電極20aでは、電極チップ300の芯部320が軸部200aの芯部22aに直接に接合されているので、芯部320は、電極チップ300から軸部200aへ適切に熱を逃がすことができるからだと推定される。
【0077】
また、中心電極20aを用いる場合、電極チップ300の芯部320の材料が、軸部200aの芯部22の材料と同じ銅であるサンプルでは、他のサンプルと比べて、ギャップgの距離の増加量が小さかった。この理由は、同じ材料を用いることによって2つの芯部320、22aを適切に接合でき、この結果、電極チップ300の昇温を、適切に、抑制できたからだと推定される。
【0078】
B−3.第3評価試験:
スパークプラグのサンプルを用いた第3評価試験では、第2厚さtと、放電を繰り返した場合のギャップgの距離の増加量と、放電面315の白金の濃度と、の関係が評価された。以下の表3は、芯部320の材料と、第2厚さtと、ギャップの距離の増加量と、放電面315の白金(Pt)の濃度と、評価結果と、の関係を示している。
【0079】
【表3】
【0080】
第3評価試験では、中心電極として、図2の中心電極20が用いられた。電極チップ300の芯部320の材料としては、3つの材料(銅(Cu)と銀(Ag)と金(Au))が評価された。上記の表3では、3つの材料にそれぞれ対応する3つの表が、区切って示されている。第2厚さtとしては、0.05、0.1、0.2、0.4、0.6(mm)の5つの値が、各材料毎に、評価された。このように、第3評価試験では、15個のサンプルが、評価された。
【0081】
15個のサンプルのそれぞれの接地電極30(図1)のうちのギャップgを形成する部分には、白金で形成された貴金属チップが設けられている(図示省略)。また、15個のサンプルの間では、スパークプラグの構成のうちの中心電極以外の構成は、共通であり、図1に示す構成と同じであった。中心電極20、ひいては、スパークプラグの構成は、第2厚さtが異なる点と、接地電極30に貴金属チップが追加されている点と、を除いて、第1評価試験で評価されたサンプルの構成と、同じであった。例えば、以下の構成は、15個のサンプルの間で共通であった。
接地電極30の母材35の材料 :インコネル600
接地電極30の芯部36の材料 :銅
軸部200、200aの外層21の材料 :インコネル600
軸部200、200aの芯部22の材料 :銅
電極チップ300、300zの外径D :0.6mm
電極チップ300、300zの全長Lt :0.8mm
貴金属層310の材料 :白金
筒部313の第1厚さs :0.2mm
ギャップgの距離の初期値 :1.05mm
【0082】
評価試験の内容は、第1評価試験と同じである。すなわち、1気圧の空気中にスパークプラグのサンプルを配置し、300Hzで100時間に亘って放電を繰り返した。ギャップgの距離の増加量は、放電の繰り返しを行う前と後のぞれぞれのギャップgの距離の差である(単位はmm)。白金の濃度は、放電の繰り返しを行った後の放電面315における白金の濃度である(単位は、アトミックパーセント)。白金の濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyser)のWDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)を用いて、測定された。通常は、放電面315における白金の濃度は、100at%である。しかし、芯部320が溶融した場合には、溶融した芯部320の成分(ここでは、銅)が放電面315に移動することによって、放電面315での白金の濃度が低下し得る。表3では、A評価は、ギャップgの距離の増加量が0.04mm以下であり、かつ、白金の濃度が90at%以上であることを示している。B評価は、ギャップgの距離の増加量が0.04mmよりも大きい、または、白金の濃度が90at%未満であることを、示している。
【0083】
表3に示すように、第2厚さtが大きいほど、ギャップgの距離の増加量が大きかった。この理由は、図5で説明したように、第2厚さtが大きいほど、放電面315の第1温度T1が、放電によって生じた熱によって高くなるからだと、推定される。
【0084】
また、第2厚さtが小さい場合に、白金の濃度が低くなった。この理由は、図5で説明したように、第2厚さtが小さい場合に芯部320が溶融したからだと推定される。
【0085】
なお、A評価が得られた第2厚さtは、0.1、0.2、0.4(mm)であった。これらの値のうちの任意の値を、第2厚さtの好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の下限として採用可能である。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用可能である。例えば、第2厚さtの好ましい範囲としては、0.1mm以上、かつ、0.4mm以下の範囲を採用可能である。
【0086】
B−4.第4評価試験:
スパークプラグのサンプルを用いた第4評価試験では、第1厚さsと、放電を繰り返した場合のギャップgの距離の増加量と、の関係が評価された。以下の表4は、芯部320の材料と、第1厚さsと、ギャップgの距離の増加量と、評価結果と、の関係を示している。
【0087】
【表4】
【0088】
第4評価試験では、中心電極として、図2の中心電極20が用いられた。電極チップ300の芯部320の材料としては、3つの材料(銅(Cu)と銀(Ag)と金(Au))が評価された。上記の表4では、3つの材料にそれぞれ対応する3つの表が、区切って示されている。第1厚さsとしては、0.02、0.03、0.05、0.1、0.2、0.25(mm)の6つの値が、各材料毎に、評価された。このように、第4評価試験では、18個のサンプルが、評価された。
【0089】
18個のサンプルの接地電極30(図1)には、ギャップgを形成する部分に白金で形成された貴金属チップが設けられている(図示省略)。また、18個のサンプルの間では、スパークプラグの構成のうちの中心電極以外の構成は、共通であり、図1に示す構成と同じであった。中心電極20、ひいては、スパークプラグの構成は、第1厚さsが異なる点と、接地電極30に貴金属チップが追加されている点と、を除いて、第1評価試験で評価されたサンプルの構成と、同じであった。例えば、以下の構成は、18個のサンプルの間で共通であった。
接地電極30の母材35の材料 :インコネル600
接地電極30の芯部36の材料 :銅
軸部200、200aの外層21の材料 :インコネル600
軸部200、200aの芯部22の材料 :銅
電極チップ300、300zの外径D :0.6mm
電極チップ300、300zの全長Lt :0.8mm
貴金属層310、電極チップ300zの材料 :白金
先端部311の厚さt :0.2mm
ギャップgの距離の初期値 :1.05mm
【0090】
評価試験の内容は、第1評価試験と同じである。すなわち、1気圧の空気中にスパークプラグのサンプルを配置し、300Hzで100時間に亘って放電を繰り返した。ギャップgの距離の増加量は、放電の繰り返しを行う前と後のぞれぞれのギャップgの距離の差である(単位はmm)。表4では、A評価は、ギャップgの距離の増加量が0.04mm以下であることを示している。B評価は、ギャップgの距離の増加量が0.04mmよりも大きいことを示している。
【0091】
表4に示すように、第1厚さsが大きいほど、ギャップgの距離の増加量が大きかった。この理由は、図6で説明したように、第1厚さsが大きいほど、放電面315の第1温度T1が、放電によって生じた熱によって高くなるからだと、推定される。
【0092】
なお、A評価が得られた第1厚さsは、0.02、0.03、0.05、0.1、0.2(mm)であった。これらの値のうちの任意の値を、第1厚さsの好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の下限として採用可能である。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用可能である。例えば、第1厚さsとしては、0.02mm以上の値を採用可能である。また、第1厚さsとしては、0.2mm以下の値を採用可能である。
【0093】
なお、貴金属層310の温度は、貴金属層310に対する芯部320の大きさが小さいほど、高くなり易い。例えば、貴金属層310の温度は、電極チップ300の外径Dに対する第1厚さsが大きいほど、高くなり易い。従って、第4評価試験から得られる第1厚さsの好ましい範囲を、外径Dに対する第1厚さsの比率を用いて規定することができる。例えば、第4評価試験では、外径Dは、0.6mmである。従って、A評価が得られた第1厚さsの外径Dに対する割合は、1/30、1/20、1/12、1/6、1/3である。これらの値のうちの任意の値を、第1厚さsの好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の下限として採用可能である。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用可能である。例えば、第1厚さsとしては、外径Dの1/30以上の値を採用可能である。また、第1厚さsとしては、外径Dの1/3以下の値を採用可能である。
【0094】
B−5.第5評価試験:
スパークプラグのサンプルを用いた第5評価試験では、外径Dと、第1厚さsと、放電を繰り返した場合のギャップgの距離の増加量と、の関係が評価された。以下の表5は、芯部320の材料と、外径Dと、第1厚さsと、ギャップgの距離の増加量と、増加量の閾値と、評価結果と、の関係を示している。
【0095】
【表5】
【0096】
第5評価試験では、中心電極として、図2の中心電極20が用いられた。電極チップ300の芯部320の材料としては、3つの材料(銅(Cu)と銀(Ag)と金(Au))が評価された。上記の表5では、3つの材料にそれぞれ対応する3つの表が、区切って示されている。外径Dとしては、0.3、0.6、0.9、1.8、3.6(mm)の5つの値が、各材料毎に、評価された。第1厚さsとしては、外径Dの1/3の値と、それよりも大きい値と、の2つの値が、各外径D毎に評価された。閾値は、ギャップgの距離の増加量の評価基準である。閾値は、外径Dに応じて、予め決定されている(外径Dが大きいほど、閾値が大きい傾向がある)。このように、第5評価試験では、30個のサンプルが、評価された。
【0097】
30個のサンプルのそれぞれの接地電極30(図1)のギャップgを形成する部分には、白金で形成された貴金属チップが設けられている(図示省略)。また、30個のサンプルの間では、スパークプラグの構成のうちの中心電極以外の構成は、共通であり、図1に示す構成と同じであった。中心電極20、ひいては、スパークプラグの構成は、外径Dと第1厚さsとが異なる点と、接地電極30に貴金属チップが追加されている点と、を除いて、第1評価試験で評価されたサンプルの構成と、同じであった。例えば、以下の構成は、30個のサンプルの間で共通であった。
接地電極30の母材35の材料 :インコネル600
接地電極30の芯部36の材料 :銅
軸部200、200aの外層21の材料 :インコネル600
軸部200、200aの芯部22の材料 :銅
電極チップ300、300zの全長Lt :0.8mm
貴金属層310の材料 :白金
先端部311の厚さt :0.2mm
ギャップgの距離の初期値 :1.05mm
【0098】
評価試験の内容は、第1評価試験と同様である。すなわち、1気圧の空気中にスパークプラグのサンプルを配置し、300Hzで放電を繰り返した。放電を繰り返す時間は、外径Dが0.3、0.6、0.9mmである場合には100時間であり、外径Dが1.8mmである場合には200時間であり、外径Dが3.6mmである場合には800時間であった。ギャップgの距離の増加量は、放電の繰り返しを行う前と後のぞれぞれのギャップgの距離の差である(単位はmm)。A評価は、ギャップgの距離の増加量が閾値以下であることを示している。B評価は、ギャップgの距離の増加量が閾値よりも大きいことを示している。
【0099】
表5に示すように、外径Dが大きいほど、ギャップgの距離の増加量が小さかった。この理由は、外径Dが大きいほど、貴金属層310の体積が大きいので、貴金属層310の昇温が抑制されるからだと、推定される。
【0100】
また、外径Dが同じ場合、第1厚さsが大きいほど、ギャップgの距離の増加量が大きかった。この理由は、図6で説明したように、第1厚さsが大きいほど、放電面315の第1温度T1が、放電によって生じた熱によって高くなるからだと、推定される。
【0101】
また、表5に示すように、0.6mm以上の種々の外径Dにおいて、第1厚さsが外径Dの1/3の値である場合には、評価結果が良好であった。具体的には、ギャップgの距離の増加量が0.04mm以下であった。また、外径Dが0.3mmである場合には、ギャップgの距離の増加量が0.04mmを超えた。しかし、第1厚さsが外径Dの1/3の値である場合には、増加量を0.10mm以下に抑えることができた。このように、第4評価試験で検討した第1厚さsの好ましい範囲は、種々の外径Dに適用可能である。
【0102】
なお、第1厚さsを外径Dの1/3の値に小さくすることによって評価結果が向上した外径Dは、0.3、0.6、0.9、1.8、3.6(mm)であった。従って、これらの値のうちの任意の値を、外径Dの好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の下限として採用可能である。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用可能である。例えば、外径Dとしては、0.3mm以上の値を採用可能である。また、外径Dとしては、3.6mm以下の値を採用可能である。
【0103】
B−6.第6評価試験:
第6評価試験では、電極チップ300のサンプルを用いて、厚さsと、冷熱サイクルに起因する電極チップ300のクラックの有無と、の関係が評価された。以下の表6は、芯部320の材料と、第1厚さsと、クラックの有無と、評価結果と、の関係を示している。
【0104】
【表6】
【0105】
電極チップ300の芯部320の材料としては、3つの材料(銅(Cu)と銀(Ag)と金(Au))が評価された。上記の表6では、3つの材料にそれぞれ対応する3つの表が、区切って示されている。第1厚さsとしては、0.02、0.03、0.05、0.1、0.2(mm)の5つの値が、各材料毎に、評価された。このように、第5評価試験では、15個のサンプルが、評価された。なお、以下の構成は、15個のサンプルの間で共通であった。
電極チップ300、300zの外径D :0.6mm
電極チップ300、300zの全長Lt :0.8mm
貴金属層310の材料 :白金
先端部311の厚さt :0.2mm
【0106】
第6評価試験では、電極チップ300(図2)のサンプルの後端面316、326に、インコネル600の板が、軸部200と同様に、溶接された。そして、窒素を充填したチャンバー内にサンプルを配置し、サンプルを加熱する処理と、加熱を緩和してサンプルを冷却する処理と、のサイクルを繰り返した。1回のサイクルでは、加熱の処理は、1分間行われ、冷却の処理は、1分間行われた。加熱の処理では、電極チップ300の温度は、摂氏1100度に上昇し、冷却の処理では、電極チップ300の温度は、摂氏200度に低下した。このような加熱と冷却のサイクルを、1000回繰り返した。そして、1000回の繰り返しの後に、電極チップ300を観察し、電極チップ300にクラックが生じているか否かを確認した。例えば、加熱時の芯部320の膨張によって、貴金属層310にクラックが生じ得る。表6では、A評価は、クラックが生じなかったことを示し、B評価は、クラックが生じたことを示している。
【0107】
表6に示すように、第1厚さsが小さい場合に、クラックが生じた。この理由は、第1厚さsが小さい場合には、貴金属層310が、芯部320の膨張に耐えられなかったからだと推定される。
【0108】
なお、A評価が得られた第1厚さsは、0.03、0.05、0.1、0.2(mm)であった。これらの値のうちの任意の値を、第1厚さsの好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の下限として採用可能である。また、これらの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用可能である。例えば、第1厚さsとしては、0.03mm以上の値を採用可能である。また、第1厚さsとしては、0.2mm以下の値を採用可能である。
【0109】
また、第1厚さsの好ましい範囲を、第4評価試験と第6評価試験とを組み合わせることによって、決定可能である。例えば、第1厚さsとしては、0.03mm以上、0.2mm以下の値を採用可能である。
【0110】
B−7.第7評価試験:
図7は、第7評価試験に用いられた点火システム600のブロック図である。この点火システム600は、高周波電力をスパークプラグのギャップに供給して高周波プラズマを生成することによって、混合気へ着火する。このような点火システム600で利用されるスパークプラグは、高周波プラズマプラグとも呼ばれる。高周波プラズマプラグとしては、図1図2図3で説明したスパークプラグ100を採用可能である。以下、スパークプラグ100が点火システム600に接続されていることとして、点火システム600の説明を行う。なお、評価試験では、スパークプラグ100の代わりに、後述するスパークプラグのサンプルが用いられた。
【0111】
点火システム600は、スパークプラグ100と、放電用電源641と、高周波電源651と、混合回路661と、インピーダンスマッチング回路671と、制御装置681と、を備えている。放電用電源641は、スパークプラグ100に対して高電圧を印加し、スパークプラグ100のギャップgにて火花放電を生じさせる。放電用電源641は、バッテリ645と、点火コイル642と、イグナイタ647と、を備えている。点火コイル642は、コア646と、コア646に巻かれた一次コイル643と、コア646に巻かれ一次コイル643よりも巻き数が多い二次コイル644と、を備えている。一次コイル643の一端はバッテリ645に接続され、一次コイル643の他端はイグナイタ647に接続されている。二次コイル644の一端は、一次コイル643のバッテリ645側の端に接続され、二次コイル644の他端は、混合回路661を介して、スパークプラグ100の端子金具40に接続されている。
【0112】
イグナイタ647は、いわゆるスイッチ素子であり、例えば、トランジスタを含む電気回路である。イグナイタ647は、制御装置681からの制御信号に応じて、一次コイル643とバッテリ645との間の導通をオンオフ制御する。イグナイタ647が、導通をオンにすると、バッテリ645から一次コイル643に電流が流れ、コア646の周囲に磁界が形成される。その後、イグナイタ647が、導通をオフにすると、一次コイル643を流れる電流が遮断され、磁界が変化する。この結果、一次コイル643には、自己誘導によって、電圧が生じ、二次コイル644には、相互誘導によって、より高い電圧が生じる(例えば、5kVから30kV)。この高電圧(すなわち、電気エネルギー)が、二次コイル644から混合回路661を介してスパークプラグ100のギャップgに供給されて、ギャップgにて火花放電が生じる。
【0113】
高周波電源651は、スパークプラグ100に対して比較的高周波数(例えば、50kHz〜100MHz)の電力(本実施形態では、交流電力)を供給する。高周波電源651と混合回路661との間にはインピーダンスマッチング回路671が設けられている。インピーダンスマッチング回路671は、高周波電源651側の出力インピーダンスと混合回路661側の入力インピーダンスとを整合するように構成されている。
【0114】
混合回路661は、放電用電源641と高周波電源651との一方から他方へ電流が流れることを抑制しつつ、放電用電源641からの出力電力と高周波電源651からの出力電力との双方をスパークプラグ100に供給する。混合回路661は、放電用電源641とスパークプラグ100とを接続するコイル662と、インピーダンスマッチング回路671とスパークプラグ100とを接続するコンデンサ663と、を備えている。コイル662は、放電用電源641からの比較的低周波数の電流が流れることを許容し、高周波電源651からの比較的高周波数の電流が流れることを抑制する。コンデンサ663は、高周波電源651からの比較的高周波数の電流が流れることを許容し、放電用電源641からの比較的低周波数の電流が流れることを抑制する。尚、二次コイル644をコイル662の代わりとして用い、コイル662を省略してもよい。
【0115】
図7の点火システム600では、放電用電源641からの電力によりギャップgにおいて生じた火花に、高周波電源651からの高周波電力が供給されることで、高周波プラズマが発生する。制御装置681は、放電用電源641からスパークプラグ100に電力が供給されるタイミングと、高周波電源651からスパークプラグ100に電力が供給されるタイミングと、を制御する。制御装置681としては、例えば、プロセッサとメモリとを有するコンピュータを採用可能である。
【0116】
スパークプラグのサンプルを用いた第7評価試験では、図7の点火システム600を用いて放電を繰り返した場合の中心電極20(図2)の電極チップ300の消耗体積が評価された。サンプルの電極チップ300の第2外層310は、貴金属に酸化物を添加した材料で形成されている(主成分は、貴金属である)。以下の表7は、添加された酸化物の組成と、酸化物の融点と、消耗体積と、評価結果と、を示している。
【0117】
【表7】
【0118】
第7評価試験では、第2外層310に添加された酸化物の組成が互いに異なる5個のサンプルが、評価された。5個のサンプルの間では、スパークプラグの構成のうちの酸化物の組成以外の構成は、共通であった。具体的には、中心電極の構成としては、図2の構成を採用した。接地電極としては、図1の接地電極30と同じ構成の棒状の部分(「軸部30」と呼ぶ)に電極チップを溶接して得られる部材を採用した(図示省略)。接地電極の電極チップは、中心電極20の電極チップ300の先端面315から先端方向D1側に離れた位置であって、軸部30の後端方向D2側の表面のうちの軸線CLと交差する位置に、固定された。放電用のギャップは、中心電極20の電極チップ300と接地電極の電極チップとによって形成された。また、抵抗体70(図1)と第2シール部80とは省略された。この代わりに、第1シール部60が、貫通孔12内で、中心電極20と端子金具40とを接続した(端子金具40の脚部43は、中心電極20に向かって延長された)。スパークプラグのサンプルの他の部分の構成は、図1に示す構成と同じであった。例えば、以下の構成は、5個のサンプルの間で共通であった。
接地電極の母材35の材料 :インコネル600
接地電極の芯部36の材料 :銅
接地電極の電極チップの材料 :白金
軸部200の外層21の材料 :インコネル600
軸部200の芯部22の材料 :銅
電極チップ300の第2外層310の材料:イリジウム+酸化物
第2外層310の材料への酸化物の添加量:7.2体積%(vol%)
電極チップ300の第2芯部320の材料:銅
電極チップ300の外径D :1.6mm
電極チップ300の全長Lt :3.0mm
筒部313の第1厚さs :0.2mm
先端部311の第2厚さt :0.2mm
ギャップgの距離の初期値 :0.8mm
【0119】
評価試験は、以下のように行われた。すなわち、0.4MPaの窒素中にスパークプラグのサンプルを配置し、図7の点火システム600を用いて、30Hzで10時間に亘って放電を繰り返した。バッテリ645の電圧は、12Vであった。また、高周波電源651による交流電力の周波数は、13MHzであった。放電は、端子金具40と主体金具50との間に放電用の電圧を印加することによって、行われた。この放電の繰り返しを行うことによって電極チップ300が消耗する。表7の消耗体積は、消耗による電極チップ300の体積の減少量である。消耗体積は、以下のように算出された。試験前の電極チップ300の外形状と、試験後の電極チップ300の外形状とを、X線CTスキャンによって特定する。そして、特定された2つの外形状の体積の差分を、消耗体積として算出した。表7では、A評価は、消耗体積が0.35mm以下であることを示し、B評価は、消耗体積が0.35mmを超えたことを示している。
【0120】
表7に示すように、5個のサンプルのそれぞれの酸化物は、Sm、La、Nd、TiO、Feであった。これらの酸化物の融点は、2325、2315、2270、1840、1566(摂氏の温度)であった。そして、酸化物の融点が高いほど、消耗体積が小さかった。このように、電極チップ300の第2外層310が酸化物を含むことによって、第2外層310、ひいては、電極チップ300の消耗を抑制できた。このように、電極チップ300の第2外層310は、表7に示す5つの酸化物の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0121】
また、表7の融点と消耗体積とが示すように、酸化物の融点が高いほど、消耗を抑制できた。この理由は、以下のように推定される。放電によって生じる熱によって第2外層310の温度は上昇する。第2外層310の温度上昇によって、酸化物が溶融し得る。酸化物が溶融すると、酸化物が流れて移動することによって、酸化物が添加されていない場合と同様に貴金属が消耗し得る。ここで、酸化物の融点が高い場合には、融点が低い場合と比べて、酸化物が溶融し難い。従って、酸化物の融点が高いほど、第2外層310(ひいては、電極チップ300)の消耗を抑制できる。
【0122】
表7に示すように、融点が摂氏1566度である酸化物(ここでは、Fe)を添加する場合、消耗体積は、0.61mmであった。融点が摂氏1840度である酸化物(ここでは、TiO)を添加する場合、消耗体積は、0.35mmであった。これらの2つの酸化物の間で融点が高くなるように酸化物を変更することによって、消耗体積を40%以上も低減できた((0.61−0.35)/0.61=0.426)。そして、酸化物の融点が摂氏1840度よりも高い場合には、消耗体積を更に低減できた。このように、電極チップ300の第2外層310が、融点が摂氏1840度以上である酸化物を含むことによって、電極チップ300の消耗を大幅に抑制できた。具体的には、第2外層310は、Sm、La、Nd、TiOの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0123】
また、表7に示すように、種々の酸化物が、電極チップ300の消耗を抑制できた。一般的には、第7評価試験で評価された酸化物に代えて、他の酸化物を採用する場合にも、電極チップ300の消耗を抑制できると推定される。特に、表7に示すように、種々の金属酸化物が、電極チップ300の消耗を抑制できた。従って、第7評価試験で評価された金属酸化物に限らず、他の種々の金属酸化物が、電極チップ300の消耗を抑制できると推定される。いずれの場合にも、酸化物の融点が高い場合には、酸化物の融点が低い場合と比べて、電極チップ300の消耗を抑制できると推定される。
【0124】
なお、消耗体積が0.35mm以下であるA評価が得られた融点は、2325、2315、2270、1840(摂氏の温度)であった。これらの4つの値のうちの任意の値を、電極チップ300の第2外層310に含まれる酸化物の融点の好ましい範囲(下限以上、上限以下の範囲)の下限として採用可能である。例えば、酸化物の融点の好ましい範囲として、摂氏1840度以上の範囲を採用してもよい。また、上記の4つの値のうちの下限以上の任意の値を、上限として採用可能である。例えば、融点の好ましい範囲としては、摂氏2325度以下の範囲を採用してもよい。なお、融点が更に高い場合にも、酸化物の添加によって電極チップ300の消耗を抑制できると推定される。例えば、実用的な酸化物としては、融点が摂氏3000度以下の酸化物を採用してもよい。
【0125】
また、酸化物を含む第2外層310を有する電極チップ300において、第1厚さs(図2)が、上記の好ましい範囲内であることが好ましい。この構成によれば、第2外層310の消耗を適切に抑制できると推定される。また、第2厚さtが、上記の好ましい範囲内であることが好ましい。この構成によれば、第2外層310の消耗を適切に抑制できると推定される。ただし、第1厚さsと第2厚さtとの少なくとも一方が、対応する好ましい範囲の外であってもよい。
【0126】
C.変形例:
(1)電極チップ300の芯部320の材料としては、銅と銀と金とに限らず、第2外層310と比べて熱伝導率が高い種々の材料を採用可能である。例えば、純ニッケルを採用可能である。いずれの場合も、第2外層310よりも熱伝導率が高い材料で芯部320を形成することによって、第2外層310の昇温(すなわち、消耗)を抑制できる。従って、銅と銀と金とに限らず第2外層310よりも熱伝導率が高い材料を芯部320の材料として用いる場合に、第1厚さsの上述の好ましい範囲を適用できると推定される。
【0127】
また、電極チップ300から軸部200、200aへの熱の移動のし易さは、第1厚さsと、外径Dに対する第1厚さsの割合と、に応じて大きく変化すると推定される。従って、第1厚さsの上記の好ましい範囲は、第1厚さsと、外径Dに対する第1厚さsの割合と、以外の構成に拘わらずに、適用可能と推定される。例えば、外径Dと、全長Ltと、第2外層310の材料と、芯部320の材料と、第2厚さtと、の少なくとも1つが上記の電極チップ300のサンプルとは異なる場合にも、第1厚さsの上記の好ましい範囲を適用できると推定される。
【0128】
(2)電極チップ300の芯部320が第2外層310から熱を受ける場合の芯部320の温度は、芯部320の先端面321と第2外層310の放電面315との間の距離、すなわち、第2厚さtに応じて大きく変化すると推定される。従って、第2厚さtの上記の好ましい範囲は、第2厚さt以外の構成に拘わらずに、適用可能と推定される。例えば、外径Dと、全長Ltと、第2外層310の材料と、芯部320の材料と、第1厚さsと、の少なくとも1つが上記の電極チップ300のサンプルと異なる場合にも、第2厚さtの上記の好ましい範囲を適用できると推定される。
【0129】
(3)上述のように、電極チップ300の消耗は、第1厚さsと、外径Dに対する第1厚さsの割合と、第2厚さtと、から大きな影響を受ける。従って、外径Dの上記の好ましい範囲は、第1厚さsと、外径Dに対する第1厚さsの割合と、第2厚さtと、以外の構成に拘わらずに、適用可能と推定される。例えば、全長Ltと、第2外層310の材料と、芯部320の材料と、の少なくとも1つが上記の電極チップ300のサンプルと異なる場合にも、外径Dの上記の好ましい範囲を適用できると推定される。特に、第1厚さsと、外径Dに対する第1厚さsの割合と、第2厚さtとのそれぞれが、上記の好ましい範囲内にある場合には、外径Dの上記の好ましい範囲を適切に適用できると推定される。
【0130】
(4)電極チップ300の芯部320の形状としては、中心軸CLを中心とする略円柱形状に限らず、種々の形状を採用可能である。例えば、上記各実施形態では、芯部320の先端面321が中心軸CLと垂直な平面であるが、芯部320の先端面が湾曲していてもよい。いずれの場合も、芯部320の表面のうち、芯部320の先端方向D1側から後端方向D2を向いて芯部320を観察した場合に観察され得る部分を、芯部320の先端面として採用可能である。そして、芯部320のうちの先端面を形成する部分を先端部として採用可能である。また、第2外層310のうち芯部320の先端部を被覆する先端部分の軸線方向の厚さtとしては、芯部320の先端面と、第2外層310の先端側の部分の外表面と、の間の中心軸CLと平行な方向の距離のうちの最小値を採用可能である。
【0131】
また、第2外層310のうち芯部320の外周面を被覆する部分の径方向の厚さsとしては、略円柱形状の電極チップ300の中心軸(上記各実施形態では、スパークプラグ100の中心軸CLと同じ)を中心とする円の径方向の厚さを採用可能である。ここで、芯部320の外周面としては、芯部320の表面のうち、上記の先端面と、後述する後端面と、を除いた残りの部分を採用可能である。芯部320の後端面としては、芯部320の表面のうち、芯部320の後端方向D2側から先端方向D1を向いて芯部320を観察した場合に観察され得る部分を、採用可能である。図2の例では、芯部320と溶融部230との境界部分が、芯部320の後端面に対応する。なお、第2外層310のうちの芯部320の外周面を被覆する部分の径方向の厚さが、その外周面上の位置に応じて変化してもよい。この場合、第1厚さsとしては、その変化する厚さのうちの最小値を採用可能である。
【0132】
(5)電極チップ300の第2外層310の材料としては、白金(Pt)限らず、種々の貴金属を含む材料を採用可能である。ここで、白金(Pt)と、イリジウム(Ir)と、ロジウム(Rh)と、ルテニウム(Ru)と、パラジウム(Pd)と、金(Au)とのそれぞれの耐食性は、良好である。従って、これらの貴金属のいずれか1つを主成分として含む材料を採用すれば、第2外層310の消耗を適切に抑制できる。なお、特定の元素と他の元素とを含む材料に加えて、特定の元素のみを含む材料も、特定の元素を主成分として含む材料と呼ぶことができる。
【0133】
また、第2外層310の材料としては、貴金属と銅との合金を主成分として含む材料を採用してもよい。例えば、上述の6つの貴金属(Pt、Ir、Rh、Ru、Pd、Au)のいずれか1つと銅との合金を主成分として含む材料を採用してもよい。このような材料を採用する場合にも、第2外層310の消耗を適切に抑制できると推定される。また、貴金属を主成分として含む材料、または、貴金属と銅との合金を主成分として含む材料で形成される第2外層310が、更に、融点が摂氏1840度以上の酸化物を含有してもよい。この場合、第2外層310の消耗を更に抑制できると推定される。ただし、酸化物を省略してもよい。
【0134】
(6)軸部200、200aの外層21、21aの材料としては、Niを含む材料に限らず、芯部22よりも耐食性に優れる種々の材料を採用可能である。例えば、ステンレス鋼を採用してもよい。
【0135】
(7)スパークプラグの構成としては、図1で説明した構成に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、接地電極30のうちのギャップgを形成する部分に、貴金属チップが設けられていてもよい。貴金属チップの材料としては、電極チップ300の第2外層310の材料と同様に、貴金属を含む種々の材料を採用可能である。
【0136】
また、電極チップ300と同じ構成の電極チップを、接地電極のギャップgを形成する部分に設けてもよい。図8は、電極チップを有する接地電極の実施形態を示す概略図である。図中には、電極チップ300bを有する接地電極30bの先端部31bの断面図が示されている。接地電極30bは、図2の電極チップ300と同じ構成の電極チップ300bと、図1の接地電極30と同じ構成の棒状の部分34(「軸部34」と呼ぶ)と、を有している。接地電極30bの要素のうち、図1図2に示す要素と同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する。図の左部は、互いに接合される前の軸部34と電極チップ300bとを示している。図の右部は、互いに接合された軸部34と電極チップ300bとを示している。いずれの断面も、中心軸CLを含む断面である。
【0137】
図8の右部の矢印LZbは、接合(ここでは、レーザ溶接)に利用されるレーザ光の概略を示している。レーザ光LZbは、軸部34と、軸部34の表面上に配置された電極チップ300bと、の境界(図示省略)に、全周に亘って、照射される。このようなレーザ光LZbの照射により、軸部34と電極チップ300bとを接合する溶融部353が形成される。溶融部353は、溶接時に溶融した部分である。図8の実施形態では、溶融部353は、軸部34の母材35と、電極チップ300bの第2外層310と芯部320とに、接触している。溶融部353は、軸部34の母材35と、電極チップ300bの第2外層310と芯部320とを、接合する。
【0138】
このような接地電極30bを採用することによって、芯部320を通じて第2外層310から軸部34に熱を逃がすことができる。従って、第2外層310の温度上昇を抑制できる。この結果、第2外層310の消耗を抑制できる。なお、溶融部353が、電極チップ300bの芯部320から離間していてもよい。この場合も、芯部320を通じて第2外層310から軸部34へ熱を逃がすことが可能であるので、第2外層310の消耗を抑制できる。例えば、溶融部353は、第2外層310と軸部34の母材35とを接合してもよい。また、中心電極の電極チップと接地電極の電極チップとの間で、構成(例えば、材料、寸法、形状等)が異なっていても良い。また、接地電極30bを採用する場合に、中心電極の電極チップとして図4の電極チップ300zを採用してもよく、また、貴金属チップを有さない中心電極を採用してもよい。
【0139】
なお、接地電極30bの構成(例えば、材料、寸法、形状等)としては、中心電極20、20aの構成として説明した上記の構成と同様の構成を、採用可能である。例えば、軸部34の芯部36の少なくとも一部を被覆する母材35(外層に対応する)の材料としては、芯部36よりも耐食性に優れる材料(例えば、ニッケル、または、ニッケルを主成分として含む合金)を採用することが好ましい。軸部34の芯部36の材料としては、母材35よりも熱伝導率が高い材料、例えば、銅を含む材料(例えば、純銅、または、銅を含む合金)を採用することが好ましい。
【0140】
電極チップ300bの第2外層310の材料としては、貴金属を含む種々の材料を採用可能である。例えば、白金と、イリジウムと、ロジウムと、ルテニウムと、パラジウムと、金と、のいずれか1つを主成分として含む材料を採用することが好ましい。電極チップ300bの芯部320の材料としては、電極チップ300bの第2外層310と比べて熱伝導率が高い材料を採用することが好ましい。例えば、銅と銀と銅と純ニッケルとの少なくとも1つを含む材料を採用することが好ましい。
【0141】
また、電極チップ300bの第2外層310の材料としては、貴金属と銅との合金を主成分として含む材料を採用してもよい。例えば、上述の6つの貴金属(Pt、Ir、Rh、Ru、Pd、Au)のいずれか1つと銅との合金を主成分として含む材料を採用してもよい。このような材料を採用する場合にも、第2外層310の消耗を適切に抑制できると推定される。また、貴金属を主成分として含む材料、または、貴金属と銅との合金を主成分として含む材料で形成される第2外層310が、更に、融点が摂氏1840度以上の酸化物を含有してもよい。この場合、電極チップ300bの第2外層310の消耗を更に抑制できると推定される。ただし、酸化物を省略してもよい。
【0142】
また、軸部34の表面のうちの電極チップ300bとの接合面に芯部36が露出し、電極チップ300bの芯部320と、軸部34の芯部36とが、直接に接合されてもよい。この構成によれば、芯部320と芯部36とを通じて第2外層310の温度上昇を適切に抑制できる。さらに、軸部34の芯部36と、電極チップ300bの芯部320とが、同じ材料で形成されていてもよい。この構成によれば、芯部36と芯部320との接合を容易に実現できる。
【0143】
また、接地電極30bの電極チップ300bのパラメータD、Lt、s、tの好ましい範囲としては、中心電極20、20aの電極チップ300のパラメータD、Lt、s、tの上記の好ましい範囲を、それぞれ採用可能である。上記の好ましい範囲を採用することによって、接地電極30bの電極チップ300bの消耗を抑制できると推定される。
【0144】
(8)上述したように、第1芯部と第1外層とを有する軸部(「芯付き軸部」とも呼ぶ)と、第2芯部と第2外層とを有する電極チップ(「芯付きチップ」とも呼ぶ)とは、中心電極と接地電極との少なくとも一方に適用可能である。そして、芯付き軸部と芯付きチップとを有する中心電極(例えば、図2図3の中心電極20、20a)は、種々のスパークプラグに適用可能である。また、芯付き軸部と芯付きチップとを有する接地電極(例えば、図8の接地電極30b)は、種々のスパークプラグに適用可能である。例えば、中心電極と接地電極とによって形成されるギャップ(例えば、図1のギャップg)で生じる火花によって内燃機関の燃焼室内の混合気に直接的に点火するスパークプラグを採用してもよい。また、図7で説明したように、ギャップで生じる火花と高周波プラズマとを用いて混合気に点火するスパークプラグを採用してもよい。また、絶縁体によって形成された空間内に中心電極と接地電極との間のギャップが配置されるプラズマジェットプラグを採用してもよい。プラズマジェットプラグは、ギャップで生じた火花によって空間内でプラズマを生成し、生成したプラズマを空間から燃焼室内へ噴出することによって、混合気に点火する。
【0145】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本開示は、内燃機関等に使用されるスパークプラグに、好適に利用できる。
【符号の説明】
【0147】
5...ガスケット、6...第1後端側パッキン、7...第2後端側パッキン、8...先端側パッキン、9...タルク、10...絶縁碍子(絶縁体)、11...第2縮外径部、12...貫通孔(軸孔)、13...脚部、15...第1縮外径部、16...縮内径部、17...先端側胴部、18...後端側胴部、19...鍔部、20、20a、20z...中心電極、20s1...先端面(表面)、21、21a...第1外層、22、22a...第1芯部、23...頭部、24...鍔部、25...脚部、30、30b...接地電極、31...先端部、35...母材、36...芯部、40...端子金具、41...キャップ装着部、42...鍔部、43...脚部、50...主体金具、51...工具係合部、52...ネジ部、53...加締部、54...座部、55...胴部、56...縮内径部、58...変形部、59...貫通孔、60...第1シール部、70...抵抗体、80...第2シール部、100...スパークプラグ、200、200a...軸部、211、211a...先端面、220...縮径部、230、230a、230z...溶融部、240...接合部、300、300b、300z...電極チップ、306z...後端面、310...第2外層(貴金属層)、311...先端部、313...筒部、315...表面(放電面)、316...後端面、320...第2芯部、321...先端面、323...外周面、326...後端面、641...放電用電源、642...点火コイル、643...一次コイル、644...二次コイル、645...バッテリ、646...コア、647...イグナイタ、651...高周波電源、661...混合回路、662...コイル、663...コンデンサ、671...インピーダンスマッチング回路、681...制御装置、CL...中心軸(軸線)、D1...先端方向、D2...後端方向、SP...空間、g...ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8