【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の幾つかの実施形態に係る半径流入式軸流タービンは、
作動流体が持つエネルギーから動力を回収するための半径流入式の軸流タービンであって、
前記軸流タービンの軸方向に延在する回転軸と、
前記軸流タービンの径方向の外側に向かって動翼根本(ハブ)から動翼先端(チップ)まで延在する複数の動翼を有し、前記回転軸と一体的に回転するように構成されたタービンホイールと、
ハウジング内に流入する前記作動流体を前記回転軸の周方向に沿って旋回させるためのスクロール部と、前記スクロール部から前記径方向の内側に向かう前記作動流体の流れを前記軸方向に沿った向きに変向して前記動翼に導くためのベンド部とを有するハウジングとを備え、
前記ベンド部は、少なくとも、前記動翼の前縁のうちハブ側の部位よりも前記軸方向の上流側の領域において、ベンド形状のチップ側内壁面(ベンド部の内壁面のうち軸流タービン径方向外側のチップ側の部位)を有し、
前記チップ側内壁面の前記軸方向に沿った前記ベンド形状は、
前記ベンド形状の開始点の前記軸方向の位置をX=0とし、前記動翼先端における前記前縁の前記軸方向の位置をX=X
0とし、前記動翼先端における前記動翼の前記軸方向に沿った幅をWとしたとき、X
upst=X
0−0.5Wで表される前記軸方向における上流側位置とX
downst=X
0+0.5Wで表される前記軸方向における下流側位置との間の位置X
zにおいて最小曲率半径を有し、且つ、前記位置X
zよりも前記軸方向の上流側において、前記最小曲率半径よりも大きな曲率半径を有する。
【0011】
上記半径流入式軸流タービンでは、ベンド部のチップ側内壁面の軸方向に沿ったベンド形状が動翼前縁近傍の軸方向位置X
zにおいて最小曲率半径を有するので、ベンド部を流れる作動流体が軸方向位置X
zを通過する際、最小曲率半径に起因した遠心力によってチップ側からハブ側に亘って圧力分布(圧力勾配)が形成される。すなわち、最小曲率半径に起因した遠心力により、チップ側において作動流体の圧力が減少する一方、ハブ側で作動流体の圧力が上昇し、作動流体の上記圧力勾配が形成される。そのため、チップ側では、圧力減少に伴って、作動流体の速度(軸方向速度成分)が増大する。このように、チップ側において、動翼に作用する作動流体の相対速度ベクトルの軸方向速度成分が大きくなる結果、作動流体の流れの転向角(動翼に作用する作動流体の相対速度ベクトルと、動翼から流出する作動流体の相対速度ベクトルとがなす角度)は小さくなる。よって、流れの転向角の減少に伴ってチップ側における動翼の背側と腹側との圧力差が減少し、チップクリアランスを介した作動流体の漏れが抑制されてタービン効率は向上する。
なお、上記半径流入式軸流タービンにおいて、ベンド部の形状の変更という簡素な手法にてチップ漏れを効果的に抑制できるのは、位置X
zにて最小曲率半径を有するベンド部が、少なくとも、動翼の前縁のうちハブ側の部位よりも軸方向上流側の領域においてベンド形状のチップ側内壁面を有するためである。換言すれば、スクロール部からの作動流体の流れの変向に寄与できるような場所(動翼前縁のハブの上流側の領域)にベンド形状のチップ側内壁面が一部でも存在するからこそ、チップ側内壁面に沿って変向されながら流れる作動流体の軸方向速度成分を位置X
zの最小曲率半径に起因した遠心力を利用して増大させ、チップ側における流れの転向角を小さくすることができる。
【0012】
幾つかの実施形態では、前記動翼先端は、シール部材を介さずに前記ハウジングの内壁面に向かい合っており、前記動翼先端と前記ハウジングの前記内壁面との間には間隙が形成される。
このように、動翼のチップとハウジングの内壁面との間の間隙(チップクリアランス)にシール部材が存在しない場合においても、上記半径流入式軸流タービンでは位置X
zにおいて最小曲率半径を有するベンド部を用いることで、チップ漏れに起因したタービン効率の低下を抑制できる。そのため、タービン効率を維持しながらシール部材を省略することができる。例えば、ラビリンスシール等のシール部材がチップクリアランスに設けられることが多い比較的大型の軸流タービンにおいても、タービン効率を維持しながらシール部材を省略することができる可能性がある。シール部材を省略できれば、軸流タービンの製造コストを低減できることに加え、シール部材のメンテナンスも不要になる。
【0013】
幾つかの実施形態では、前記ベンド形状は、前記位置X
zの上流側の第1直線部と、前記位置X
zの下流側の第2直線部とが交差する不連続点を含み、前記位置X
zにおいて前記不連続点が前記最小曲率半径を有する。
このように、第1直線部と第2直線部との交点により位置X
zの最小曲率半径を実現することで、複雑な曲面形状により位置X
zの最小曲率半径を実現する場合に比べてベンド形状を大幅に簡素化でき、軸流タービンの加工コストを低減できる。また、複雑な曲面形状により最小曲率半径を実現する場合に比べて、最小曲率半径の実際に形成される位置X
zがベンド部の加工精度の影響を受けずに正確に定まるため、位置X
Zの最小曲率半径による所期のチップ漏れ抑制効果を確実に得ることができる。
【0014】
幾つかの実施形態では、前記ベンド部の前記ベンド形状は、少なくとも0≦X≦X
zの前記軸方向における位置範囲において大きさが異なる2以上の曲率半径を有し、前記位置範囲内において前記軸方向の上流側から下流側に向かって曲率半径が小さくなる順番で前記2以上の曲率半径が並ぶ。
この場合、上記位置範囲(0≦X≦X
z)において、上流側から下流側に向かってベンド形状の曲率半径が徐々に小さくなり、最下流側の軸方向位置X
zにおいてベンド形状の曲率半径は最小となる。これにより、軸方向位置X
zの最小曲率半径に起因した大きな遠心力によって形成される上述の圧力勾配を持つ作動流体を動翼に直接的に作用させることができる。その結果、動翼に作用する作動流体のチップ側における流れの転向角を効果的に小さくすることができる。よって、チップ漏れに起因したタービン効率の低下を効果的に抑制できる。
【0015】
幾つかの実施形態では、前記ベンド部の前記チップ側内壁面の一部は、該チップ側内壁面の他の部分から前記径方向の内側に突出するように前記位置X
zに設けられた凸部によって形成され、前記凸部の突起端が前記最小曲率半径を有する。
この場合、凸部の形状を変更することで最小曲率半径を容易に調整できる。また、凸部を有しないベンド部に比べて、より小さな最小曲率半径を凸部によって実現しやすく、チップ漏れに起因したタービン効率の低下を効果的に抑制できる。
【0016】
一実施形態では、前記凸部は、前記チップ側内壁面の前記他の部分から前記径方向の内側に向かって延在する環状板部を含み、前記環状板部の突起端のエッジが前記最小曲率半径を有する。
この場合、環状板部によって所望の最小曲率半径を有するベンド形状を簡単に実現することができる。
【0017】
一実施形態では、前記突起端は、前記動翼先端よりも前記径方向の外側に位置する。
この場合、凸部の突起端が動翼のチップよりも径方向外側に位置するため、凸部の後流に渦が形成されても、この渦による影響が動翼に及ぶことは実質的にない。よって、凸部により生じる渦に起因してタービン効率が低下してしまうことを防止しながら、最小曲率半径を有する凸部によるチップ漏れ抑制効果を享受できる。
【0018】
他の実施形態では、前記凸部は、前記動翼先端よりも軸方向の上流側に設けられ、前記突起端は、前記動翼先端よりも前記径方向の内側に位置し、前記ハウジングは、前記凸部を含む第1部分と、該第1部分の下流側の第2部分とに分割可能である。
この場合、凸部の後流に形成される渦に起因したタービン効率の低下が起こりうるものの、凸部の最小曲率半径によるチップ漏れ抑制効果に起因したタービン効率の向上を見込める。また、凸部を含む第1部分と、第1部分の下流側の第2部分とに分割可能なハウジングを採用することで、軸流タービンの組立て性を向上させることができる。
【0019】
幾つかの実施形態では、前記動翼のチップ面は、前記前縁から後縁に向けて前記動翼の翼長(翼高さ)が徐々に大きくなるように前記軸方向に対して傾斜しており、前記ハウジングの内壁面は、前記動翼の前記チップ面に沿って前記軸方向に対して傾斜している。
剥離は、動翼前縁上流側のハウジング(ケーシング)の内壁面の傾きの影響を強く受ける。しかし、本実施例では、動翼前縁上流側のケーシング形状は変えることなく、即ち剥離のリスクは従来のままであるにもかかわらずベンド部の最少曲率半径をさらに小さくでき、チップ漏れに起因したタービン効率の低下を効果的に防止できる。
【0020】
幾つかの実施形態では、前記ハウジングは、前記タービンホイールの出口に対応する前記軸方向の位置において、前記径方向の内側に突出する突出部を有する。
この場合、タービンホイール出口近傍において、チップクリアランスを介した作動流体のリーク経路がハウジングの突出部によって塞がれるので、作動流体のチップ漏れをより一層抑制できる。
【0021】
幾つかの実施形態では、前記動翼先端に対向する前記ハウジングの内壁面の前記軸方向に沿った形状は、前記ベンド部の上流側端の位置X=0と、前記動翼の前記動翼先端における後縁から距離D=1.5×Wだけ前記軸方向の下流側にずれた位置との間において、少なくとも一つの負の曲率半径を有する。
【0022】
本発明の幾つかの実施形態に係るターボチャージャは、
前記内燃機関からの排ガスによって駆動されるように構成された半径流入式の軸流タービンと、
前記軸流タービンによって駆動されて内燃機関への吸気を圧縮するように構成されたコンプレッサとを備えるターボチャージャであって、
前記軸流タービンは、
前記軸流タービンの軸方向に延在する回転軸と、
前記軸流タービンの径方向の外側に向かって動翼根本から動翼先端まで延在する複数の動翼を有し、前記回転軸と一体的に回転するように構成されたタービンホイールと、
ハウジング内に流入する前記作動流体を前記回転軸の周方向に沿って旋回させるためのスクロール部と、前記スクロール部から前記径方向の内側に向かう前記作動流体の流れを前記軸方向に沿った向きに変向して前記動翼に導くためのベンド部とを有するハウジングとを備え、
前記ベンド部は、少なくとも、前記動翼の前縁のうちハブ側の部位よりも前記軸方向の上流側の領域において、ベンド形状のチップ側内壁面を有し、
前記チップ側内壁面の前記軸方向に沿った前記ベンド形状は、
前記ベンド形状の開始点の前記軸方向の位置をX=0とし、前記動翼先端における前記前縁の前記軸方向の位置をX=X
0とし、前記動翼先端における前記動翼の前記軸方向に沿った幅をWとしたとき、X
upst=X
0−0.5Wで表される前記軸方向における上流側位置とX
downst=X
0+0.5Wで表される前記軸方向における下流側位置との間の位置X
zにおいて最小曲率半径を有し、且つ、前記位置X
zよりも前記軸方向の上流側において、前記最小曲率半径よりも大きな曲率半径を有する。
【0023】
上記ターボチャージャによれば、半径流入式軸流タービンのチップ側内壁面の軸方向に沿ったベンド形状が動翼前縁近傍の軸方向位置X
zにおいて最小曲率半径を有するので、ベンド部を流れる作動流体が軸方向位置X
zを通過する際、最小曲率半径に起因した遠心力によってチップ側(低圧側)からハブ側(高圧側)に亘って圧力分布が形成される。そのため、チップ側では、圧力減少に伴って作動流体の速度(軸方向速度成分)が増大し、作動流体の流れの転向角が小さくなる。よって、チップ側における動翼の背側と腹側との圧力差が減少し、チップクリアランスを介した作動流体の漏れが抑制されてタービン効率は向上する。
【0024】
本発明の幾つかの実施形態に係る半径流入式軸流タービンは、
作動流体が持つエネルギーから動力を回収するための半径流入式の軸流タービンであって、
前記軸流タービンの軸方向に延在する回転軸と、
前記軸流タービンの径方向の外側に向かって動翼根本から動翼先端まで延在する複数の動翼を有し、前記回転軸と一体的に回転するように構成されたタービンホイールと、
ハウジング内に流入する前記作動流体を前記回転軸の周方向に沿って旋回させるためのスクロール部と、前記スクロール部から前記径方向の内側に向かう前記作動流体の流れを前記軸方向に沿った向きに変向して前記動翼に導くためのベンド部とを有するハウジングとを備え、
前記ベンド部は、少なくとも、前記動翼の前縁のうちハブ側の部位よりも前記軸方向の上流側の領域において、ベンド形状のチップ側内壁面を有し、
前記チップ側内壁面の前記軸方向に沿った前記ベンド形状は、第1直線部と、該第1直線部に対して前記軸方向の下流側に位置する第2直線部と、前記第1直線部及び前記第2直線部とが交差する角部とを含む。
【0025】
上記半径流入式軸流タービンによれば、チップ側内壁面の軸方向に沿ったベンド形状が、第1直線部とその下流側の第2直線部とが交差する角部を有するため、この曲率半径が極めて小さい角部を作動流体が通過する際、角部に起因した遠心力によってチップ側(低圧側)からハブ側(高圧側)に亘って圧力分布が形成される。そのため、チップ側では、圧力減少に伴って作動流体の速度(軸方向速度成分)が増大し、作動流体の流れの転向角が小さくなる。よって、チップ側における動翼の背側と腹側との圧力差が減少し、チップクリアランスを介した作動流体の漏れが抑制されてタービン効率は向上する。また、主として第1直線部と第2直線部とで構成されるベンド部は加工が容易であり、軸流タービンの加工コストを低減できる。
なお、上記半径流入式軸流タービンにおいて、ベンド部の形状の変更という簡素な手法にてチップ漏れを効果的に抑制できるのは、作動流体の圧力勾配を生み出す角部を有するベンド部が、少なくとも、動翼の前縁のうちハブ側の部位よりも軸方向上流側の領域にチップ側内壁面を有するためである。換言すれば、スクロール部からの作動流体の流れの変向に寄与できるような場所(動翼前縁のハブの上流側の領域)にベンド形状のチップ側内壁面するからこそ、チップ側内壁面に沿って変向されながら流れる作動流体の軸方向速度成分を角部に起因した大きな遠心力を利用して増大させ、チップ側における流れの転向角を小さくすることができるのである。
【0026】
幾つかの実施形態では、前記ベンド形状の開始点の前記軸方向の位置をX=0とし、前記動翼先端における前記前縁の前記軸方向の位置をX=X
0とし、前記動翼先端における前記動翼の前記軸方向に沿った幅をWとしたとき、X
upst=X
0−0.5Wで表される前記軸方向における上流側位置とX
downst=X
0+0.5Wで表される前記軸方向における下流側位置との間の位置X
zに前記角部が配置される。
これにより、動翼に作用する作動流体におけるチップ側からハブ側に亘る圧力分布(圧力勾配)が角部に起因した遠心力によって適切に形成される。よって、チップ側における転向角の減少に起因して動翼の背側と腹側との圧力差が小さくなり、チップ漏れが効果的に抑制される。