特許第6017104号(P6017104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6017104青緑色発光蛍光体、発光素子、発光装置、及び白色光発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6017104
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】青緑色発光蛍光体、発光素子、発光装置、及び白色光発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/73 20060101AFI20161013BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20161013BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20161013BHJP
   C09K 11/59 20060101ALI20161013BHJP
   C09K 11/71 20060101ALI20161013BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20161013BHJP
【FI】
   C09K11/73CPX
   C09K11/08 J
   C09K11/64CPW
   C09K11/59CPR
   C09K11/71CPM
   H01L33/50
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-545391(P2016-545391)
(86)(22)【出願日】2016年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2016067792
【審査請求日】2016年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-136468(P2015-136468)
(32)【優先日】2015年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207089
【氏名又は名称】大電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】李 承周
【審査官】 吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−225822(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/107535(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/037120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/73
C09K 11/08
C09K 11/59
C09K 11/64
C09K 11/71
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Euを賦活剤として、バリウム元素を含む複数のアルカリ土類金属元素と、リン酸と、ハロゲン元素とから構成され、当該アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率が、60%より大きく95%より小さい蛍光体であって、
近紫外線を照射し、当該近紫外線の照射により励起されて青緑色の可視光を発光することを特徴とする
青緑色発光蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載の青緑色発光蛍光体において、
一般式Ba(Sr,Ca,Mg)(PO:Eu(Xはハロゲン元素であり、0<a<1.5、 9.5≦a+b+c≦10.5、5.4≦d≦6.6、1.8≦e≦2.2、0.6<b/(b+c)<0.95)で表されることを特徴とする
青緑色発光蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の青緑色発光蛍光体において、
前記ハロゲン元素の50モル%以上が塩素元素であることを特徴とする
青緑色発光蛍光体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の青緑色発光蛍光体において、
Sc、Y、La、Gd、Tb、Lu、Pr、Ce、Cr、V、Mn、Znからなる希土類及び遷移金属の群より選ばれた一種以上の共賦活元素を含むことを特徴とする
青緑色発光蛍光体。
【請求項5】
請求項4に記載の青緑色発光蛍光体を10〜90重量%含有し、BaMgAl10O17:Eu、(Ba,Sr)3MgSi3O8:Eu、Sr10(PO4)6Cl2:Eu、Sr2P2O7:Eu、Ca2PO4Cl:Eu、Ba2PO4Cl:Eu、及び(Ba,Sr,Ca)Al2O4:Euからなる青色蛍光体及び緑色蛍光体の群より選ばれた一種以上の蛍光体を含むことを特徴とする
青緑色発光蛍光体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の青緑色発光蛍光体を備えることを特徴とする
発光素子。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の青緑色発光蛍光体を備えることを特徴とする
発光装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の青緑色発光蛍光体と、赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを備え、
白色光を発光することを特徴とする
白色光発光装置。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の青緑色発光蛍光体であって430〜500nmの青緑色に発光する青緑色発光蛍光体から成る第一の蛍光体と、
500〜580nmの緑色乃至黄色に発光する第二の蛍光体と、
580〜700nmの赤色乃至深赤色に発光する第三の蛍光体と、
350〜430nmの近紫外光を発するLED素子とを備え、
前記LED素子からの光により前記第一の蛍光体、前記第二の蛍光体、及び、前記第三の蛍光体を直接的又は間接的に励起して発光させて、白色光を発光することを特徴とする
白色光発光装置。
【請求項10】
請求項9に記載の白色光発光装置において、
平均演色評価数(Ra)又は演色指数(CRI)が95以上であることを特徴とする
白色光発光装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の白色光発光装置において、
前記第二の蛍光体が、Eu賦活アルカリ土類ケイ酸塩系蛍光体又はアルカリ土類ケイ酸窒化物系蛍光体を含むことを特徴とする
白色光発光装置。
【請求項12】
請求項11に記載の白色光発光装置において、
前記第二の蛍光体が、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu (BOSE)、Si6-zAlzOzN8-z(βサイアロン)、(Ba,Sr)Si2O2N2、(Ba,Sr,Ca)MgAl10O17:Eu2+,Mn2+ (BAMN)、(Ca,Sr)8Mg(SiO4)4Cl2:Euの少なくともいずれかを含むことを特徴とする
白色光発光装置。
【請求項13】
請求項9又は請求項10に記載の白色光発光装置において、
前記第三の蛍光体が、Eu賦活アルカリ土類酸窒化物系蛍光体、Eu賦活アルカリ土類ケイ酸塩系蛍光体、又はMn賦活フッ化物錯体赤色蛍光体の少なくともいずれかを含むことを特徴とする
白色光発光装置。
【請求項14】
請求項13に記載の白色光発光装置において、
前記第三の蛍光体が、(Ba,Sr,Ca)3SiO5:Eu、(Ba,Sr,Ca)2(Si,Al)5N8:Eu、(Ca,Sr)AlSi(O,N)3、K2(Si,Ge,Ti)F6:Mn4+(KSF)、Li(Eu,RE)W2O8(但し、REは、Sc,Y,La,Gd,Luの少なくともいずれかを含む)(LEW)の少なくともいずれかを含むことを特徴とする
白色光発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近紫外線による励起によって青緑色の可視光を発光する蛍光体に関し、特に発光特性に優れた青緑色発光蛍光体及びそれを使用した発光素子、発光装置、及び白色光発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、その種類ごとに種々の発光波長を示すという特徴から、発光波長に応じて、様々な産業で幅広く利用されている。
【0003】
例えば、照明分野では、光の三原色(赤色、青色、緑色)を呈する蛍光体を混合することによって原理的に白色光を得ることができるが、照明用途としては、擬似的に太陽光に相当する照明を得るために、さらに演色性の高い白色光が求められている。そのため、光の三原色の中間領域にある発光色の光を、ブロードに発光できる蛍光体が必要とされている。
【0004】
このような蛍光体のうち現在ニーズの高いものとして、青色と緑色の中間領域にある青緑色の可視光を発光する青緑色発光蛍光体がある。青緑色発光蛍光体は、青緑色の可視光を発光することから、青色と緑色の波長領域間の発光スペクトルの谷間を補う蛍光体として重要とされている。さらに、十分な強度と半値幅があれば、青色蛍光体を置き換えて、より高演色性の白色光照明を実現するのもありうる。
【0005】
このような青緑色発光蛍光体としては、アルカリ土類金属、リン酸、ハロゲン、及びユーロピウムを構成元素に含有するハロリン酸塩蛍光体が知られているが、青緑色を呈するものの、輝度不足、高温特性不足、さらには半値幅が狭いという発光特性に関して改善すべき点が多々あった。
【0006】
このようなハロリン酸塩蛍光体の発光特性を改善すべく、構成元素としてアルカリ土類金属のうち特にストロンチウム(Sr)を高配合させることによって、発光特性の向上を目的とした各種の蛍光体が提案されている。
【0007】
例えば、従来の青緑色発光蛍光体としては、Sr:M(Mは、Eu及びSr以外の金属元素)の比率をa:b(a及びbは、a+b≦5であり且つ、a≧0.1又はb≧3の条件を満足する)とするものがある(特許文献1、2参照)。
【0008】
また、従来の青緑色発光蛍光体としては、(Sr,Ca):Baの比率をa:bとする(a及びbは、a+b=5−x (0.3≦x≦1.2)且つ、0.12≦b/(a+b)≦0.4の条件を満足する)ものがある(特許文献3参照)。また、従来の青緑色発光蛍光体としては、(Sr,Ca):Baの比率をa:bとする(a及びbは、a+b=5−x (0.3≦x≦1.2)且つ、0.05≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する)ものもある(特許文献4参照)。
【0009】
また、従来の青緑色発光蛍光体としては、Sr:Baの比率をa:bとする(a及びbは、a+b=5−x (0.3≦x≦1.2)且つ、0.1≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する)ものがある。(特許文献5参照)。また、従来の青緑色発光蛍光体としては、(Sr,Ca):Baの比率をa:bとする(a及びbは、a+b=5−x (0.3≦x≦1.2)且つ、0.05≦b/(a+b)≦0.6の条件を満足する)ものもある(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−253747号公報
【特許文献2】特開2010−21578号公報
【特許文献3】国際公開2012/114640号公報
【特許文献4】国際公開2011/105571号公報
【特許文献5】特開2011−225822号公報
【特許文献6】特開2011−225823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、従来の青緑色発光蛍光体では、ストロンチウム(Sr)を高配合させることに起因して、高温特性が悪化するという性能劣化が引き起こされていた。高温特性は、極めて重要な特性であり、高温特性が低い場合には、高温条件下での利用時に劣化しやすいことのみならず、耐久性が低いことに起因して、消耗も早く、結果として維持コストも高くなるという実用面でも問題がある。
【0012】
特に照明等の用途では、蛍光体に対してハイパワー及び持続稼動が高水準で要求されるため、蛍光体が高温条件下(例えば、100℃を超すような高温条件下)においても、強い発光強度(広い発光面積)を維持すること、すなわち、優れた高温特性が必要とされる。
【0013】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、優れた高温特性を発揮すると共に輝度及び半値幅の発光特性にも優れた青緑色発光蛍光体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ハロリン酸塩蛍光体の構成元素として、アルカリ土類金属に属するバリウム(Ba)に着目し、その配合率を、従来には無い比率で且つある範囲内で有意に高めて形成された蛍光体が、近紫外線の照射によって、従来よりも優れた高温特性、輝度及び半値幅を奏するブロードな青緑色の可視光を発光することを見出し、本発明を導き出した。
【0015】
すなわち、本願に開示する青緑色発光蛍光体は、Euを賦活剤として、バリウム元素を含む複数のアルカリ土類金属元素と、リン酸と、ハロゲン元素とから構成され、当該アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素の構成モル比率が、60%より大きく95%より小さい蛍光体であって、近紫外線を照射し、当該近紫外線の照射により励起されて青緑色の可視光を発光するものである。
【0016】
また、本願に開示する青緑色発光蛍光体は、必要に応じて、一般式Ba(Sr,Ca,Mg)(PO:Eu(Xはハロゲン元素であり、0<a<1.5、3.5≦b≦8.5、0≦c≦5.9、5.4≦d≦6.6、1.8≦e≦2.2、0.6<b/(b+c)<0.95)で表されるものである。
【0017】
また、本願に開示する発光素子は、上記青緑色発光蛍光体を備えるものである。また、本願に開示する発光装置は、上記青緑色発光蛍光体を備えるものである。また、本願に開示する白色光発光装置は、上記青緑色発光蛍光体と、赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを備えるものであり、必要に応じて、さらに青色蛍光体を備えることも可能である。また、本願に開示する白色光発光装置は、上記青緑色発光蛍光体であって430〜500nmの青緑色に発光する上記青緑色発光蛍光体から成る第一の蛍光体と、500〜580nmの緑色乃至黄色に発光する第二の蛍光体と、580〜700nmの赤色乃至深赤色に発光する第三の蛍光体と、350〜430nmの近紫外光を発するLED素子とを備え、前記LED素子からの光により前記第一の蛍光体、前記第二の蛍光体、及び、前記第三の蛍光体を直接的又は間接的に励起して発光させて、白色光を発光するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1〜3の蛍光体のX線回折パターンである。
図2】本発明の実施例4〜6の蛍光体のX線回折パターンである。
図3】比較例1〜3の蛍光体の蛍光体のX線回折パターンである。
図4】比較例4〜7の蛍光体の蛍光体のX線回折パターンである。
図5】本発明の実施例1〜3の蛍光体から得られた発光特性である。
図6】本発明の実施例4〜6の蛍光体から得られた発光特性である。
図7】本発明の実施例7〜9の蛍光体から得られた発光特性である。
図8】本発明の実施例10〜12の蛍光体から得られた発光特性である。
図9】本発明の実施例13〜15の蛍光体から得られた発光特性である。
図10】本発明の実施例16〜17の蛍光体から得られた発光特性である。
図11】本発明の実施例の蛍光体の発光面積とバリウム濃度依存性に関するグラフである。
図12】本発明の実施例及び比較例で得られた蛍光体についてのアルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率と結晶構造との相関関係を示すX線回折パターンである。
図13】本発明の実施例及び比較例で得られた蛍光体についてのEu濃度と発光面積との相関関係である。
図14】本発明の実施例4、7、14、比較例3、8、及び10で得られた蛍光体についてのEuの配合比率と温度特性との相関関係である。
図15】本発明の実施例5、16、17得られた青緑色発光蛍光体のCaの配合比率と発光波長との相関関係(a)、及び、本発明の実施例5、16、17、比較例3、11、及び12で得られた蛍光体から得られたCaの配合比率と温度特性との相関関係(b)である。
図16】本発明の実施例1〜17で得られた青緑色発光蛍光体の発光面積を示す。
図17】本発明の実施例1〜17で得られた青緑色発光蛍光体の色度範囲図である。
図18】本発明の実施例4及び17で得られた青緑色発光蛍光体と他の蛍光体とを組み合わせて構成された照明装置の発光スペクトル図である。
図19】本発明の青緑色発光蛍光体を用いた白色光発光装置の構成を説明するための説明図である。
図20】本発明の蛍光体(J18)のX線回折パターン(a)及び発光特性(b)である。
図21】本発明の青緑色発光蛍光体を用いた白色光発光装置の演色性を測定した結果である。
図22】本発明の青緑色発光蛍光体を用いた白色光発光装置の発光スペクトルの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る青緑色発光蛍光体は、Euを賦活剤として、バリウム元素を含む複数のアルカリ土類金属元素と、リン酸と、ハロゲン元素とから構成され、当該アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率が、60%より大きく95%より小さい蛍光体であって、近紫外線を照射し、当該近紫外線の照射により励起されて青緑色の可視光を発光するものである。
【0020】
励起源として照射される近紫外線とは、波長200nm以上の通常の近紫外線領域であれば特に限定されないが、例えば、波長領域370nm〜420nmの近紫外線を用いることができる。本発明に係る青緑色発光蛍光体は、この近紫外線を照射することによって、波長領域470nm〜490nmに発光ピークを有する演色性の高いブロードな発光スペクトルを示す青緑色の可視光が発光される。
【0021】
このように、本発明に係る青緑色発光蛍光体は、ブロードな発光スペクトルを示す青緑色の可視光を発光することから、他の公知の蛍光体と組み合わせることによって、太陽光に近い白色光源として発光素子や発光装置として利用することが可能となる。
【0022】
また、本発明によれば、このようなブロードな青緑色の可視光を優れた温度特性(高温特性)と共に得られるが、当該アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率が、60%以下、及び95%より大きい従来の蛍光体(上述した特許文献1〜6に開示された蛍光体のいずれもバリウム元素のモル比率は60%以下である)では、この優れた特性、特に温度特性が得られないことも本発明者は確認している(後述の実施例参照)。
【0023】
すなわち、蛍光体の高温特性に関して、当該アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率が、60%以下の場合には、蛍光体の発光面積は低値で変動しないものの、60%より大きい場合には、当該バリウム元素のモル比率の増加と共に蛍光体の発光面積は急上昇する。しかし、当該バリウム元素のモル比率が95%より大きい場合には、蛍光体の発光面積は急低下する。本発明に係る青緑色発光蛍光体は、高温条件下でも、熱による発光強度の低下が抑制され、高い耐熱性を示すことが確認されている(後述の実施例参照)。
【0024】
このように優れた効果を生じるメカニズムは未だ詳細には解明されていないが、本発明に係る青緑色発光蛍光体の構成元素に含まれるバリウム元素のモル比率が60%より大きく95%より小さいことによって、高配合のバリウム元素が他のアルカリ土類金属元素と原子間レベルで発光に良好な影響を与える相互作用が生じていると推察され、特に蛍光体に高い温度特性を発揮させるような特有の結晶構造が形成されているものと推察される。
【0025】
実際に、結晶構造の観点からも、アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率が、60%以下の場合では、X線回折パターンの2θ値が30°近傍において、(211)面、(112)面、及び(300)面に由来する3本の回折ピークを呈する結晶相(SCA相:Srを主体とする結晶構造)が示される一方で、当該バリウム元素のモル比率が60%より大きい場合では、(112)面及び(300)面に由来する2本の回折ピークを呈する結晶相(BCA相:Baを主体とする結晶構造)が示されていることから、結晶構造に変化が生じていることが確認されている(後述の実施例参照)。
【0026】
このような本発明に係る青緑色発光蛍光体の一つの態様としては、一般式Ba(Sr,Ca,Mg)(PO:Eu(Xはハロゲン元素であり、0<a<1.5、9.5≦a+b+c≦10.5、5.4≦d≦6.6、1.8≦e≦2.2、0.6<b/(b+c)<0.95)で表されるものが挙げられる。
【0027】
上記一般式で示される各構成元素の組成比は、出発原料の原料モル組成比から定められるものである。すなわち、上記一般式中に定義されたa、b、c、d、及びeは、各々、出発原料におけるEu、Ba、(Sr,Ca,Mg)、(PO)、及びXの原料モル組成比を表している。
【0028】
上記(Sr,Ca,Mg)という表記は、Sr、Ca、及びMgのうち少なくとも1つの元素を含有することを示す。すなわち、(Sr,Ca,Mg)という表記は、Sr、Ca及びMgのうちのいずれか1つの元素が含まれる場合もあり、Sr、Ca及びMgのうちの2種類の元素が含まれる場合もあり、Sr、Ca及びMgの全ての元素が含まれる場合もあることを示す。
【0029】
本発明に係る青緑色発光蛍光体は、発光領域のブロード化を促進するという観点から、Ca及びMgを含有することが好ましい。この点において、従来では、Caを含有することが、温度特性を低下させる一因にもなっていたが、本発明に係る青緑色発光蛍光体では、Caを含有する場合であっても、温度特性を維持しつつブロード化を促進できるという優れた特性を発揮することができる。
【0030】
また、本発明に係る青緑色発光蛍光体を構成するハロゲン元素の50モル%以上が塩素元素であることが好ましい。ハロゲン元素の50モル%以上が塩素元素であることにより、良好な発光面積と色度領域を確保するように発光特性が向上する。
【0031】
また、本発明に係る青緑色発光蛍光体は、Sc、Y、La、Gd、Tb、Lu、Pr、Ce、Cr、V、Mn、Znからなる希土類及び遷移金属の群より選ばれた一種以上の共賦活元素を含むことが好ましい。このような共賦活元素を含有することにより、半値幅や最大励起波長の向上及び良好な色度領域を生成することができる。
【0032】
例えば、本発明に係る青緑色発光蛍光体は、上記の青緑色発光蛍光体を10〜90重量%含有し、BaMgAl10O17:Eu、(Ba,Sr)3MgSi3O8:Eu、Sr10(PO4)6Cl2:Eu、Sr2P2O7:Eu、Ca2PO4Cl:Eu、Ba2PO4Cl:Eu、(Ba,Sr)2SiO4:Eu、及び(Ba,Sr,Ca)Al2O4:Euからなる青色蛍光体及び緑色蛍光体の群より選ばれた一種以上の蛍光体を含んで構成することができる。
【0033】
このような構成によって、50〜100nmという優れた半値幅(FWHM)を呈すると共に、色度値x=0.10〜0.25及び色度値y=0.05〜0.40からなる長方形の色度領域が形成されるという優れた発光特性が確認されている(後述の実施例参照)。
【0034】
このような優れた特性を有する本発明に係る青緑色発光蛍光体を合成する方法は、特に限定されないが、例えば、発光センターのEu源、アルカリ土類源、リン源、ハロゲン源を乾式或いは湿式法を用いて均一混合し、それを還元雰囲気で焼成することにより製造することができる。
【0035】
当該各原料化合物については、本発明に係る青緑色発光蛍光体の構成元素(例えば、Ba、Sr、Ca、Mg、P、ハロゲン元素、及びEu等)が少なくとも1つ含有されている化合物を、所望とする構成元素の青緑色発光蛍光体が得られるように(構成元素が漏れないように)用いれば、特に制限はされない。
【0036】
このような原料化合物の一例としては、青緑色発光蛍光体の構成元素を含有する酸化物、水酸化物、又は炭化物等を用いることができる。例えば、青緑色発光蛍光体の構成元素の1つであるバリウムの場合では、原料化合物の1つとしては、酸化バリウム、水酸化バリウム、又は炭酸バリウム等を用いることが可能である。その理由は、本発明に係る青緑色発光蛍光体を製造する際に、当該各原料化合物を熱処理するため、当該熱処理によって、最終的には当該各原料化合物から構成元素だけが残り、原料化合物の種類に依存することなく、本発明に係る青緑色発光蛍光体が形成されるためである。
【0037】
Eu源及びアルカリ土類源としては、Eu、Ba、Sr、Ca、Mgの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、及びハロゲン酸塩等が挙げられる。リン源としては、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸一水素アンモニウム、リン酸アルカリ土類塩、リン酸水素アルカリ土類塩、酸化リン、リン酸、縮合リン酸等が挙げられる。ハロゲン源としては、ハロゲン化アルカリ土類塩、ハロゲン化アルカリ土類水和物、ハロゲン化アンモニウム等が挙げられる。
【0038】
本発明に係る青緑色発光蛍光体の合成方法としては、例えば、セルフフラックス反応を主反応として合成することができる。即ち、原料化合物であるハロゲン源が焼成反応のフラックスとなり、本発明の優れた効果を損なわない範囲内で、各原料化合物を過剰に仕込むことによって本発明の優れた特性が得られやすくなる。当該過剰分による合成物の組成を事前に見極めておくことが望ましい。
【0039】
原料化合物としては、優れた特性が得られやすいように、例えば、無水BaCl2及びSrCl2を使用することもできるが、これに限定されず、例えば、水和物を使用することもできる。原料化合物の一例として、BaHPO4:SrHPO4=BaCl2:SrCl2という配合比率を設定することができる。
【0040】
本発明に係る青緑色発光蛍光体は、当該青緑色発光蛍光体を備える発光素子としても利用することができる。また、本発明に係る青緑色発光蛍光体は、当該青緑色発光蛍光体を備える発光装置としても利用することができる。特に、本発明に係る青緑色発光蛍光体は、当該青緑色発光蛍光体と、赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを備える白色光発光装置としても利用することができ、従来には無い演色性の高いブロードな白色光が得られることが確認されている。さらに、このような白色光発光装置において、本発明に係る青緑色発光蛍光体の配合率又は発光色(色度)を調整することによって、当該青緑色発光蛍光体に係る波長帯域及び波長強度を制御することとなり、得られる白色光の色温度を自在に調整することができる。当該調整によって、例えば、同じ白色光であっても、青みを帯びた蛍光色に近い白色光から、橙色を帯びた電球色に近い白色光まで、選択的に得ることが可能となる。
【0041】
また、本発明に係る発光装置の一態様としては、本発明に係る青緑色発光蛍光体と、近紫外光を発光する発光素子を含んで構成することができる。本発明に係る青緑色発光蛍光体が、近紫外光を発光する発光素子から近紫外線を照射されることによって、効率的に青緑色の可視光を発光する装置が形成される。このような本発明に係る発光装置は、その用途は特に限定されず、幅広い分野で利用することができ、例えば、植物育成用照明器具のような各種照明器具として利用することができる。
【0042】
さらに、本発明に係る白色光発光装置の一態様としては、本発明に係る青緑色発光蛍光体であって430〜500nmの青緑色に発光する青緑色発光蛍光体から成る第一の蛍光体と、500〜580nmの緑色乃至黄色に発光する第二の蛍光体と、580〜700nmの赤色乃至深赤色に発光する第三の蛍光体と、350〜430nmの近紫外光を発するLED素子とを備え、このLED素子からの光によりこの第一の蛍光体、この第二の蛍光体、及び、第三の蛍光体を直接的又は間接的に励起して発光させて、白色光を発光する構成とすることができる。
【0043】
第一の蛍光体としては、例えば、上記各実施例で得られた青緑色発光蛍光体を用いることができる。
【0044】
第二の蛍光体としては、緑色の波長帯域で発光する蛍光体であれば特に限定されないが、Eu賦活アルカリ土類ケイ酸塩系蛍光体又はアルカリ土類ケイ酸窒化物系蛍光体を含むものを用いることが好ましく、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu (BOSE)、Si6-zAlzOzN8-z (βサイアロン)、(Ba,Sr)Si2O2N2、(Ba,Sr,Ca)MgAl10O17:Eu2+,Mn2+ (BAMN)、(Ca,Sr)8Mg(SiO4)4Cl2:Eu等が挙げられる。
【0045】
第三の蛍光体としては、赤色乃至深赤色の波長帯域で発光する蛍光体であれば特に限定されないが、Eu賦活アルカリ土類酸窒化物系蛍光体、Eu賦活アルカリ土類ケイ酸塩系蛍光体、又はMn賦活フッ化物錯体赤色蛍光体の少なくともいずれかを含むものを用いることが好ましく、例えば、(Ba,Sr,Ca)3SiO5:Eu(例えば、Sr3SiO5:Eu (SSE))、(Ba,Sr,Ca)2(Si,Al)5N8:Eu、(Ca,Sr)AlSi(O,N)3、(Sr,Ca)AlN3:Eu (SCASN)、K2(Si,Ge,Ti)F6:Mn4+(KSF)、Li(Eu,RE)W2O8(但し、REは、Sc,Y,La,Gd,Luの少なくともいずれかを含む)(LEW)等が挙げられる。
【0046】
このような本発明に係る白色光発光装置は、高い演色性を示すことが確認されており、定量的にも、平均演色評価数(Ra)又は演色指数(CRI)が95以上であるという優れた特性を有することが確認されている。演色性とは、光源スペクトルが物体の色の見え方に及ぼす影響の尺度であり、演色性は、太陽光とのズレを数値化して、定量的に評価することができる(太陽光を基準値100とする)。即ち、平均演色評価数(Ra)又は演色指数(CRI)は、100に近づくほど演色性が高いと評価される。本発明に係る白色光発光装置は、このような優れた特性を有することから、高色域のバックライト用光源や、高演色の照明用光源として、幅広く利用することができる。
【0047】
さらに、本発明に係る白色光発光装置は、別途青色光を発光する光源を必要とせずに、本発明に係る青緑色発光蛍光体(BCA)に含まれる青緑色成分の程度に応じて白色光の色温度が変化することによって、白色装置が構成されるという優れた特性を有するものである。即ち、従来の青緑色発光蛍光体は、白色光発光装置の青緑色を補う用途として考えられてきたが、本発明に係る青緑色発光蛍光体では、青色蛍光体自体を置き換えることも可能とするものである。その一方で、本発明に係る白色光発光装置は、他の青色蛍光体をさらに用いることも可能であり、この場合には、青色蛍光体による純粋な青色と、本発明に係る青緑色発光蛍光体による青緑色が、重畳的に組み合わさることによって、さらに太陽光に近い白色光を得ることができる。さらに、本発明に係る白色光発光装置は、この青色と青緑色の配合割合を制御することによって、新たな青緑色を作成することができることとなり、多様な色温度の白色光源を作ることも可能となる(後述の実施例参照)。
【0048】
本発明の特徴を更に明らかにするため、以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
【0049】
(実施例1)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.5:8.0:1.5:6:2になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製坩堝に入れ、電気炉に大気中900℃で2時間保持後、粉砕・篩分けをし、さらに5%の水素ガスを含有した窒素雰囲気中、1150℃で5時間保持することにより焼成した。焼成物を水洗浄、乾燥、分級処理後、Eu0.5Ba8.0Sr1.5(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を得た。線源がCuKα線のX線回折装置(XRD6100、島津製作所社製)を用いてX線回折パターンを測定した。蛍光分光光度計(FP6500、JASCO社製)で400nm励起による発光特性を測定した。
【0050】
(実施例2)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.5:8.0:1.5:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.5Ba8.4Sr1.1(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0051】
(実施例3)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.6:7.7:1.7:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba7.7Sr1.7(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0052】
(実施例4)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.6:8.1:1.3:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba8.1Sr1.3(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0053】
(実施例5)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.6:6.5:2.9:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba6.5Sr2.9(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0054】
(実施例6)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.6:7.4:2.0:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba7.4Sr2.0(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0055】
(比較例1)
Baを含まない組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、SrCO3、SrHPO4、SrCl2を最終的なEu:Sr:P:Clのモル比が0.5:9.5:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.5Sr9.5(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0056】
(比較例2)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.5:2.2:7.3:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.5Ba2.2Sr7.3(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0057】
(比較例3)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.6:3.5:5.9:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba3.5Sr5.9(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0058】
(比較例4)
Srを含まない組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.6:9.4:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba9.4(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0059】
(比較例5)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.5:4.2:5.3:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.5Ba4.2Sr5.3(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0060】
(比較例6)
Ca及びMgを含む組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、CaCO3、Mg(OH)2、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:Ca:Mg:P:Clのモル比が0.3:5.0:3.0:1.5:0.2:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.3Ba5.0Sr3.0Ca1.5Mg0.2(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0061】
(比較例7)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.3:9.25:0.45:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.3Ba9.25Sr0.45(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0062】
上記の各実施例1〜6及び各比較例1〜7により得られた蛍光体の組成を以下の表に示す。また、上記の各実施例1〜6及び各比較例1〜7により得られた蛍光体のX線回折パターンを図1図4に示す。各実施例1〜6により得られた蛍光体の発光特性を図5及び図6に示す(図中、Jは実施例を指し、Hは比較例を指す)。
【0063】
【表1】
【0064】
(実施例7)
さらに、上記と同様にして、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.9:7.1:2.0:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.9Ba7.1Sr2.0(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0065】
(実施例8)
Caを含む組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、CaCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:Ca:P:Clのモル比が0.9:6.6:1.5:1.0:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.9Ba6.6Sr1.5Ca1.0(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0066】
(実施例9)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が1.0:5.7:3.3:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu1.0Ba5.7Sr3.3(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0067】
(実施例10)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が1.0:6.7:2.3:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu1.0Ba6.7Sr2.3(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0068】
(実施例11)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が1.2:6.3:2.5:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu1.0Ba6.7Sr2.3(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0069】
(実施例12)
Caを含む組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、CaCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:Ca:P:Clのモル比が1.0:6.7:2.1:0.2:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu1.0Ba6.7Sr2.1Ca0.2(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0070】
(実施例13)
Ca及びMgを含む組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、CaCO3、Mg(OH)2、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:Ca:Mg:P:Clのモル比が1.0:5.7:2.8:0.4:0.1:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu1.0Ba5.7Sr2.8Ca0.4Mg0.1(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0071】
(実施例14)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が1.5:7.2:1.3:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu1.5Ba7.2Sr1.3(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0072】
(実施例15)
Mgを含む組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、Mg(OH)2、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:Mg:P:Clのモル比が0.5:7.2:1.8:0.5:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.5Ba7.2Sr1.8Mg0.5(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0073】
(実施例16)
Caを含む組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、CaCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:Ca:P:Clのモル比が0.6:6.5:1.4:1.5:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba6.5Sr1.4Ca1.5(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0074】
(実施例17)
Caを含む組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、CaCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:Ca:P:Clのモル比が0.6:6.5:2.4:0.5:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba6.5Sr2.4Ca0.5(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0075】
(比較例8)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.9:3.2:5.9:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.9Ba3.2Sr5.9(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0076】
(比較例9)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が1.35:2.95:5.7:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu1.35Ba2.95Sr5.7(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0077】
(比較例10)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が1.5:2.95:5.55:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu1.5Ba2.95Sr5.55(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0078】
(比較例11)
Caを含む組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、CaCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:Ca:P:Clのモル比が0.6:3.4:4.5:1.5:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba3.4Sr4.5Ca1.5(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0079】
(比較例12)
Caを含む組成の蛍光体として、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、CaCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:Ca:P:Clのモル比が0.6:3.4:5.5:0.5:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.6Ba3.4Sr5.5Ca0.5(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0080】
(比較例13)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.9:3.7:5.4:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.9Ba3.7Sr5.4(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0081】
(比較例14)
原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、BaHPO4、SrHPO4、BaCl2、SrCl2を最終的なEu:Ba:Sr:P:Clのモル比が0.8:5.0:4.2:6:2になるように秤量し、後は上述の実施例1と同様に、Eu0.8Ba5.0Sr4.2(PO4)6Cl2に該当する青緑色発光蛍光体を製造し、そのX線回折パターン及び発光特性を得た。
【0082】
上記の各実施例7〜17及び各比較例8〜14により得られた蛍光体の組成を以下の表に示す。また、上記の各実施例7〜17により得られた蛍光体の発光特性を図7図10に示す(図中、Jは実施例を指し、Hは比較例を指す)。
【0083】
【表2】
【0084】
蛍光体にハイパワー及び持続稼働が要求される照明用途を想定し、150℃での発光性能が重要であることから、上記実施例1〜6及び比較例1〜7で得られた各々の蛍光体について、輝度、発光面積、維持率、150℃での発光面積、及び150℃での輝度を測定した。得られた結果を以下の表に示す。合わせて、各蛍光体におけるアルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率 [Ba](すなわち、モル比率(Ba)/モル比率(Sr+Ca+Mg))も示す。
【0085】
【表3】
【0086】
上記と同様に、上記実施例7〜17、及び比較例8〜14で得られた各々の蛍光体についても、輝度、発光面積、維持率、150℃での発光面積、及び150℃での輝度を測定した。
得られた結果を以下の表に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
(発光面積のバリウム濃度依存性)
上記実施例で得られた蛍光体の発光面積とバリウム濃度依存性に関するグラフを図11に示す。得られた結果から、アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率 [Ba](すなわち、モル比率(Ba)/モル比率(Sr+Ca+Mg))について、[Ba]>0.6の場合には、[Ba]の増大につれて、安定的に発光面積が増大し、[Ba]≧0.95の場合に発光面積が急低下したことが確認された。また、150℃での発光面積においても、[Ba]が0.6より大きく0.95より小さい範囲の組成が、熱による低下分が少なく、耐熱性に優れることが確認された。
【0089】
(X線回折パターンによるバリウム元素のモル比率と結晶構造との相関関係)
上記実施例及び比較例で得られた蛍光体について、アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率ごとのX線回折パターンを図12に示す。得られた結果から、アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率[Ba]が60%以下の場合では、X線回折パターンの2θ値が30°近傍において、(211)面、(112)面、及び(300)面に由来する3本の回折ピークを呈する結晶相(SCA相:Srを主体とする結晶構造)が示される一方で、60%より大きい場合では、(112)面及び(300)面に由来する2本の回折ピークを呈する結晶相(BCA相:Baを主体とする結晶構造)が示されたことが確認された。
【0090】
(ユーロピウムの配合比率と発光面積の相関関係)
上記実施例及び比較例で得られた蛍光体から得られたEuの配合比率と発光面積との相関関係を図13に示す。得られた結果から、Euの配合比率が0.3より低い場合には、初期特性が低くなった。また、Euの配合比率が1.5よりも高い場合には、温度特性が劣っていたことから、より優れた発光特性を得るためには、Euの配合比率は、0.3〜1.5であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜1.5 であることが好ましいことが確認された。
【0091】
(ユーロピウムの配合比率と温度特性の相関関係)
上記実施例4、7、14、比較例3、8、及び10で得られた蛍光体から得られたEuの配合比率と温度特性(150℃発光面積維持率)との相関関係を以下の表と共に図14に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
得られた結果から、ユーロピウムの配合比率によらずに、アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率[Ba]が高い場合には、良好な温度特性を発揮することが確認された。このように[Ba] が高い場合には、特にユーロピウムの配合比率が高い場合であっても、発光面積や輝度特性が高い割に、維持率が高く、実働時の発光特性に優れた蛍光体が得られると考えられる。
【0094】
(発光のチュニング・ブロード化)
上記実施例5、16、17、比較例3、11、及び12で得られた蛍光体から得られたCa及びMgの配合比率と温度特性との相関関係を以下の表に示す。また、実施例5、16、17得られた青緑色発光蛍光体のCaの配合比率と発光波長との相関関係を図15(a)に示す。さらに実施例5、16、17、比較例3、11、及び12で得られた蛍光体から得られたCaの配合比率と温度特性(150℃発光面積維持率)との相関関係を半値幅(FWMH)の結果と合わせて図15(b)に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
得られた結果から明らかなように、実施例で得られた青緑色発光蛍光体では、Ca及びMgを含有することによって優れた半値幅(FWMH)の特性が得られたことから、発光領域のブロード化を促進できることが確認された。従来では、Caを含有することが、温度特性を低下させる一因となっていたが、本発明の実施例に係る青緑色発光蛍光体では、Caを含有する場合であっても、温度特性を維持しつつブロード化を促進できるという優れた特性を発揮することが確認された。
【0097】
(発光面積の一覧)
上記実施例1〜17で得られた青緑色発光蛍光体の発光面積を図16に示す。上述した温度特性に関して、比較例よりも高い特性を考慮すれば、発光面積においても、実効値としては、図16で示された数値よりもさらに10%前後は有利であるという優れた発光特性が確認された。
【0098】
(青緑色の色度範囲)
上記実施例1〜17で得られた青緑色発光蛍光体の色度範囲を図17に示す。図17(a)で得られた色度範囲について、色度範囲CIE1931表色系で示したものを図17(b)に示す。得られた結果から、太陽光に近いスペクトルを達成するための青緑色発光蛍光体の色度範囲CIE1931表色系において、色度値x=0.10〜0.25及び色度値y=0.05〜0.40からなる長方形の色度領域が形成されるという優れた発光特性が確認された。すなわち、上記実施例の青緑色発光蛍光体を10〜90重量%含有し、BaMgAl10O17:Eu、(Ba,Sr)3MgSi3O8:Eu、Sr10(PO4)6Cl2:Eu、Sr2P2O7:Eu、Ca2PO4Cl:Eu、Ba2PO4Cl:Eu、(Ba,Sr)2SiO4:Eu、及び(Ba,Sr,Ca)Al2O4:Euからなる青色蛍光体及び緑色蛍光体の群より選ばれた一種以上の蛍光体を含んで構成できる。
【0099】
(擬似太陽光照明の用途)
擬似太陽光照明としての用途を確認するため、上記実施例4及び17で得られた青緑色発光蛍光体と、他の蛍光体を組み合わせた照明装置の発光スペクトル図を図18に示す(図中、BG1:実施例4、BG2:実施例17)。他の蛍光体としては、公知の蛍光体を用いて良い。赤色蛍光体としては、(Ba,Sr,Ca)3SiO5:Eu(例えば、Sr3SiO5:Eu (SSE))、(Ba,Sr,Ca)2(Si,Al)5N8:Eu、(Ca,Sr)AlSi(O,N)3(例えば、(Sr,Ca)AlN3:Eu (SCASN))、K2(Si,Ge,Ti)F6:Mn4+(KSF)、Li(Eu,RE)W2O8(但し、REは、Sc,Y,La,Gd,Luの少なくともいずれかを含む)(LEW)等が挙げられ、緑色蛍光体としては、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:Eu (BOSE)、Si6-zAlzOzN8-z (通称βサイアロンまたはβ-SiAlON)、(Ba,Sr)Si2O2N2、(Ba,Sr,Ca)MgAl10O17:Eu2+,Mn2+ (BAMN)、(Ca,Sr)8Mg(SiO4)4Cl2:Eu等が挙げられ、青色蛍光体としては、BaMgAl10O17:Eu、(Ba,Sr)3MgSi3O8:Eu、Sr10(PO4)6Cl2:Eu、Sr2P2O7:Eu、Ca2PO4Cl:Eu、Ba2PO4Cl:Eu等が挙げられる。
【0100】
得られた結果から、本実施例の青緑色発光蛍光体の発光によって、青色と緑色の間の発光スペクトルの谷が補われることとなり、太陽光に近いスペクトルを達成する擬似太陽光照明(白色光発光装置)が得られることが確認された。このような白色光発光装置において、上記実施例に係る青緑色発光蛍光体の配合率又は発光色を調整することによって、当該青緑色発光蛍光体に係る波長帯域及び波長強度を制御することができ、得られる白色光の色温度を自在に調整することができる。当該調整によって、例えば、同じ白色光であっても、青みを帯びた蛍光色に近い白色光から、橙色を帯びた電球色に近い白色光まで、選択的に得ることが可能となる。
【0101】
(高演色性の白色光発光装置の用途)
さらに、上記各実施例に係る青緑色発光蛍光体を用いた高演色性の白色光発光装置としての用途を確認した。このような白色光発光装置として、430〜500nmの青色乃至青緑色に発光する青緑色発光蛍光体(実施例1、12に係る青緑色発光蛍光体(BCA)(J1,J12)及び比較例1に係る青色発光蛍光体(H1))と、500〜580nmの緑色乃至黄色に発光するβサイアロン(又はBOSE)と、580〜700nmの赤色乃至深赤色に発光するSCASNと、350〜430nmの近紫外光を発するLED素子から構成した。
【0102】
この白色光発光装置は、図19に示すように、上記の各蛍光体を混合して形成される蛍光体樹脂混合物1と、チップ2と、リフレクタ3と、リードフレーム4と、ボンディングワイヤ5とを備えて構成した。この蛍光体樹脂混合物1については、次のように、3種類の蛍光体樹脂混合物A、B、Cを作製し、これら各蛍光体樹脂混合物から構成される3種類の白色光発光装置を作製した。
【0103】
(1)蛍光体樹脂混合物A:紫LED+(BCA(J12)+(H1))+β-SiAlON+SCASNの場合
LEDチップは市販品(400nm)を用いて、(BCA(J12):(H1)):β-SiAlON:SCASN=(50:50):12:20で市販されたシリコン樹脂に練りこみ、上記の図19に示した構成の白色光発光装置(白色LED発光装置)を得た。作製した白色光発光装置に電流印加し、発光スペクトルや演色性の評価を行った。
【0104】
(2)蛍光体樹脂混合物B:紫LED+(BCA(J1))+BOSE+SCASNの場合
LEDチップは市販品(400nm)を用いて、BCA(J1):BOSE:SCASN=100:12:18で市販されたシリコン樹脂に練りこみ、上記の図19に示した構成の白色光発光装置(白色LED発光装置)を得た。作製した白色光発光装置に電流印加し、発光スペクトルや演色性の評価を行った。
【0105】
(3)蛍光体樹脂混合物C:紫LED+BCA(J18)+β-SiAlON+SCASNの場合
さらに、上記の実施例に係る青緑色発光蛍光体(BCA)(J1、J12)以外の青緑色発光蛍光体を用いる白色光発光装置を作製した。先ず、上記各実施例と同様の方法で、白色光発光装置に用いる青緑色発光蛍光体Eu0.6Ba7.9Sr1.45Mg0.05(PO4)6Cl2(蛍光体J18と定義する)を合成した。
【0106】
(青緑色発光蛍光体Eu0.6Ba7.9Sr1.45Mg0.05(PO4)6Cl2(蛍光体J18)の製造)
即ち、原料として、Eu2O3、BaCO3、SrCO3、Mg2(OH)2CO3、(NH4)2HPO4、BaCl2・2H2O、 SrCl2・6H2Oを最終的なEu:Ba:Sr:Mg:P:Clのモル比が0.6:7.9:1.45:0.05:6:2になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。この混合物をアルミナ製坩堝に入れ、電気炉に大気中900℃で2時間保持後、粉砕・篩分けをし、さらに5%の水素ガスを含有した窒素雰囲気中、1150℃で5時間保持することにより焼成した。焼成物を水洗浄、乾燥、分級処理後、青緑色発光蛍光体(蛍光体J18)を得た。線源がCuKα線のX線回折装置(XRD6100、島津製作所社製)を用いてX線回折パターンを測定した結果を図20(a)に示す。また、JASCO製FP6500で400nm励起による発光特性を測定した結果を図20(b)に示す。
【0107】
次に、LEDチップは市販品(400nm)を用いて、BCA(J18):β-SiAlON:SCASN=100:17:50で市販されたシリコン樹脂に練りこみ、上記の図19に示した構成の白色光発光装置(白色LED発光装置)を得た。作製した白色光発光装置に電流印加し、発光スペクトルや演色性の評価を行った。
【0108】
上記の蛍光体樹脂混合物A、B、Cの各々を用いた白色光発光装置の演色性を測定した結果を以下の表7及び図21に示す。演色性とは、光源スペクトルが物体の色の見え方に及ぼす影響の尺度であり、演色性は、太陽光とのズレを数値化することによって定量評価することができる(太陽光を基準値100とする)。即ち、平均演色評価数(Ra)及び演色指数(CRI)は、100に近づくほど演色性が高いと評価される。なお、通常の室内照明では平均演色評価数(Ra)は80程度である。
【0109】
得られた結果から、上記の白色光発光装置は、青緑色を呈色する青緑色発光蛍光体(BCA)に含まれる青緑色成分の程度に応じて白色光の色温度が変化することによって、上記の蛍光体樹脂混合物B及びCの結果(色温度について、混合物B:昼白色、混合物C:暖白色)に示されるように、別途他の青色蛍光体を用いることなく、高演色性の白色光を実現できることが確認された。また、上記の白色光発光装置では、蛍光体樹脂混合物Aの結果に示されるように、得られた各青緑色発光蛍光体(BCA)に加えて、従来の青色蛍光体も混合して利用することが可能であることから、蛍光体の多様な組み合わせによって、さらに幅広い色温度範囲で高い演色性を有する白色光が得られるものである(例えば、青色蛍光体を選定して最適に混合することによって、色温度が10000Kになる冷白色光を呈する白色光発光装置も実現可能となる)。
【0110】
以下の表7及び図21では、R1、R2、R3、・・・R15は、特殊演色評価数と呼ばれて、各試験色の再現性を示しており、平均演色評価数(Ra)=(ΣR1〜8)/8、演色指数(CRI)=(ΣR1〜15)/15として算出した。また、図21では、比較例として、従来の市販の照明装置(Ra値85)に対して得られた結果も合わせて示す。
【0111】
【表7】
【0112】
得られた結果から、上記の蛍光体樹脂混合物A、B、Cを用いた白色光発光装置は、各々、平均演色評価数(Ra)又は演色指数(CRI)が95以上という極めて高い演色性を有することが確認された。さらに、図21に示された結果から、上記の蛍光体樹脂混合物A、B、Cを用いた白色光発光装置は、各々、比較例の従来の市販の照明装置(Ra値85)の結果と比べて、各色の特殊演色評価数(R1、R2、R3、・・・R15)が均一的に高値を維持しており、どの色に対しても安定的に高い演色性を発揮できるという優れた特性が確認された。
【0113】
また、上記の蛍光体樹脂混合物A、B、Cを用いた白色光発光装置の各々の発光スペクトルの結果を図22に示す。得られた結果から、白色光発光装置は、広い帯域にわたってなだらかで均一なスペクトルが示されたことから、優れた発光特性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0114】
1 蛍光体樹脂混合物
2 チップ
3 リフレクタ
4 リードフレーム
5 ボンディングワイヤ
【要約】
優れた高温特性を発揮すると共に輝度及び半値幅の発光特性にも優れた青緑色発光蛍光体の提供を目的とする。
青緑色発光蛍光体は、Euを賦活剤として、バリウム元素を含む複数のアルカリ土類金属元素と、リン酸と、ハロゲン元素とから構成され、当該アルカリ土類金属元素の全体に占めるバリウム元素のモル比率が、60%より大きく95%より小さい蛍光体であって、近紫外線を照射し、当該近紫外線の照射により励起されて青緑色の可視光を発光する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
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図18
図19
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図22