(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記積分値は、前記ブレーキパッドが前記ディスクから離脱してから前記ピストンのロールバック量以上となる距離を前記推進部材が移動するのに要する移動量に対応した値である請求項1乃至5のいずれかに記載のディスクブレーキ装置。
前記ブレーキパッドが前記ディスクから離脱したことは、前記電動モータの電流値が第1の所定値以下となってから前記電動モータの電流値の微分値の絶対値が第2の所定値以下となったことによって検知する請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を
図1〜
図9に基づいて詳細に説明する。
図1には、本実施形態に係るディスクブレーキ装置1が搭載されるブレーキシステムが示されている。ディスクブレーキ装置1は、
図1に示すように、後輪に制動力を発生させる駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2、2と、駐車ブレーキに係る制御手段としての駐車ブレーキ制御装置4とから構成されている。そして、ブレーキシステムは全体として、ディスクブレーキ装置1の他に、前輪に制動力を発生させるディスクブレーキ10、10と、ドライバがブレーキ操作を行うブレーキペダル11の踏み込みにより液圧を発生するマスタシリンダ13と、マスタシリンダ13に補給するためのブレーキ液を貯留するリザーバ14と、ディスクブレーキ10、10及び駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2、2にブレーキ液を供給するための液圧発生装置3と、前輪側のディスクブレーキ10、10及び後輪側の駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2、2とを連通するブレーキ液通路15、16とを備えている。
【0010】
駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2には、電動モータ5によって作動する電動駐車ブレーキ機構37が設けられている。電動モータ5は、駐車ブレーキ制御装置4により制御される。駐車ブレーキ制御装置4には、電動モータ5、5へ供給した電流値を検出するモータ電流検出手段6、6が設けられている。そして、駐車ブレーキ制御装置4には、ドライバからの駐車ブレーキ要求を検出する駐車ブレーキスイッチ7が電気的に接続されている。駐車ブレーキ制御装置4は、駐車ブレーキスイッチ7からの停車状態を保持するためのアプライ信号、または、停車状態を解除するためのリリース信号により、後述する制御を行うようになっている。
【0011】
駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2は、
図2に示すように、ディスクロータ20を挟んでその両側に配置された一対のインナ及びアウタブレーキパッド21、22と、該インナ及びアウタブレーキパッド21、22をディスクロータ20の両面に押圧させて制動力を発生するキャリパ23とを備えている。該駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2は、キャリパ浮動型として構成されており、一対のインナ及びアウタブレーキパッド21、22及びキャリパ23は、車両の非回転部(例えば、ナックル等)に固定されたキャリア25にディスクロータ20の軸方向に移動可能に支持されている。
【0012】
キャリパ23は、キャリパ本体26とこのキャリパ本体26に内包されるピストン32とを有している。キャリパ本体26は、ディスクロータ20よりも車両内側に配置されるインナブレーキパッド21へ対向する基端側にシリンダ部27が形成され、ディスクロータ20よりも車両外側のアウタブレーキパッド22へ対向する先端側に爪部28が形成されている。シリンダ部27は、インナブレーキパッド21側となる一端が開口して、他端が底壁29を有する有底のシリンダ30が形成される。
【0013】
シリンダ30内には、ピストンシール31を介してピストン32が摺動可能に設けられている。ピストン32は、内部が凹部33となったカップ形状となっており、外底部32aがインナブレーキパッド21と対向するようにシリンダ30内に収められている。また、外底部32aには、インナブレーキパッド21からディスクロータ軸方向に突出する突起部21aが係合する溝部32bが形成されている。この溝部32bがインナブレーキパッド21の突起部21aと係合することで、ピストン32がキャリパ本体26に対して相対回転しないように規制されている。ピストン32の凹部33には、後述する推進部材44が当接する内底部33aが設けられている。また、凹部33の内周面には、ピストン32と後述する推進部材44との相対回転を規制するための軸方向溝部33bが形成されている。
【0014】
シリンダ30内におけるピストン32とシリンダ30の底壁29との間は、液圧室35として画成される。液圧室35には、マスタシリンダ13から液圧発生装置3を経由した液圧がシリンダ部27に設けられた流入口(図示略)から供給される。また、ピストン32の外側面とシリンダ30との間にはシリンダ30内への異物の侵入を防ぐダストブーツ36が介装されている。
【0015】
キャリパ本体26のシリンダ30の底部側には、シリンダ30の底壁29を挟んで電動駐車ブレーキ機構37が備えられている。該電動駐車ブレーキ機構37は、ピストン32を推進するピストン推進機構37Aと、電動モータ5を停止した状態で、推進したピストン32の位置を保持するピストン保持機構37Bとを有する。
【0016】
ピストン推進機構37Aは、先端側に雄ねじ部を有して基端側に電動モータ5からの回転力を増力する減速機構(図示略)の回転力が伝達されるスピンドル41と、このスピンドル41に螺合される雌ねじ部を有してピストン32の凹部33内に配置される推進部材44とから構成されている。
【0017】
スピンドル41は、シリンダ30の底壁29に設けた開口部40からシリンダ30内へ延びてシリンダ30内でシリンダ30の軸線上に配置されている。開口部40の内周面には、スピンドル41との間をシールするシール部材42が設けられている。このシール部材42は、シリンダ30内の液圧室35の液密性を維持する。スピンドル41は、シリンダ30の底壁29に配置したニードル軸受(スラスト軸受)43により回動可能に支持される。
【0018】
推進部材44には、その外周部に径方向に突出する複数の突起部44aが設けられる。この突起部44aは、ピストン32の凹部33の内周面に設けた軸方向溝部33bにそれぞれ係合される。これにより、推進部材44は、ピストン32に対して回転不能となり、スピンドル41が回転することにより軸方向に移動自在、すなわち直動可能にピストン32に支持されて、ピストン32を推進することになる。推進部材44には、ピストン32の内底部33aに当接可能な当接部44bが形成されている。当接部44bは、略円錐形状に形成されてすり鉢状の内底部33aに当接してピストン32を推進するようになっている。当接部44bと内底部33aとの間は、電動駐車ブレーキ機構37の作動時以外の通常ブレーキ操作時や非ブレーキ操作時に、所定のクリアランス量をもって隙間が形成されることになっている。ここで、所定のクリアランス量は、駐車ブレーキのリリース作動時に推進部材44を所定位置まで後退させることで設定される。このときの推進部材44の後退量が大きすぎると、次の駐車ブレーキ作動時に時間を要してしまう。一方、推進部材44の後退量が小さすぎると、車両走行中のディスクロータ20の面振れによりインナブレーキパッド21を介してピストン32が後退しようとしても推進部材によりその後退が妨げられ、結果的にディスクロータとブレーキパッドが接触状態となる、いわゆる、引き摺りが発生してしまう。本実施形態においては、後述する制御によってピストン32と推進部材44とのクリアランス量を適正にしている。
【0019】
ピストン保持機構37Bは、スピンドル41と推進部材44との螺合部44Aにより構成されている。この螺合部44Aは、スピンドル41の回転力によって推進部材44が直動可能であるが、推進部材44に加わる軸力によってはスピンドル41が回転しない、いわゆる逆作動性が悪いものとなっている。したがって、駐車ブレーキによって停車状態を維持するため、ピストン推進機構37Aによって推進されたピストン32は、ピストン保持機構37Bである螺合部44Aによってそのピストン位置が保持されるようになっている。
【0020】
なお、本実施形態においては、ピストン保持機構37Bを逆作動性が悪い螺合部44Aにより構成したが、これに限らず、駐車ブレーキの作動中には減速機構等のリリース方向への回転を規制すると共に、駐車ブレーキの解除時には電動モータ5のリリース方向への回転に伴って減速機構等のリリース方向への回転を許容する機構であれば、ラチェット機構やウォームギア等で構成してもよい。
【0021】
駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2が、通常ブレーキすなわちサービスブレーキとして用いられる場合には、以下のように作動する。運転者によりブレーキペダル11が操作されると、マスタシリンダ13から液圧が、液圧発生装置3及びシリンダ部27に設けられたポートを経由して駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2のシリンダ30内の液圧室35に供給される。このとき、電動モータ5は停止した状態となっているので、スピンドル41に螺合された推進部材44が軸方向に移動することはなく、ピストン32は、液圧の上昇に伴ってピストンシール31を弾性変形させながら前進(ディスクロータ20に近づくほうへ移動)してインナブレーキパッド21をディスクロータ20に押圧する。このピストン32の押圧力の反力により、キャリパ本体26は、車両内側に移動して爪部28を介してアウタブレーキパッド22をディスクロータ20へ押圧することで液圧に応じた制動力が発生する。
【0022】
一方、ブレーキペダル11の操作が解除されると、駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2の液圧室35の液圧は解放される。すると、ピストン32は、ピストンシール31の弾性復元力によりが後退し、これに応じて一対のインナ及びアウタブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離間して、制動力が解除される。
【0023】
次に、駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2は、駐車ブレーキとして用いられる場合には、以下のように作動する。駐車ブレーキで停車状態を保持する場合には、駐車ブレーキスイッチ7がアプライ側に操作される。すると、駐車ブレーキ制御装置4は、電動モータ5を駆動してスピンドル41をアプライ方向に回転させる。このスピンドル41のアプライ方向への回転により、推進部材44が直動(前進)してピストン32の凹部33の底部に当接し、ピストン32と推進部材44とが一体となって前進する。これにより、通常ブレーキ時と同様に制動力(停車状態保持力)が発生する。そして、駐車ブレーキ制御装置4は、所定の制動力が発生したときに電動モータ5を停止する。すると、駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2は、ピストン保持機構37Bによりピストン32を所定の制動力が発生している状態に保持して、駐車ブレーキを作動状態とする。このとき、ピストン32に当接しているピストンシール31は、ピストン32の前進に伴って弾性変形するが、上述の通常ブレーキとは異なり、ピストンシール31に液圧が付加されないため、その弾性変形量は、通常ブレーキ時の弾性変形量に比べて小さいものとなっている。
【0024】
一方、駐車ブレーキを解除する場合には、駐車ブレーキスイッチ7がリリース側に操作される。すると、駐車ブレーキ制御装置4は、電動モータ5をリリース方向に回転させる。駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2は、ピストン保持機構37Bによるピストン32の保持が解除されると共に、スピンドル41がリリース方向に回転して推進部材44が後退していく。この推進部材44後退によりその後は、推進部材44が元の位置に戻ると同時に電動モータ5のリリース方向の回転が停止され、これにより駐車ブレーキが解除される。このとき、ピストン32はピストンシール31の弾性変形が復元する位置まで後退する。
【0025】
この駐車ブレーキの解除時には、以下に示す、第1〜3実施形態のリリース制御が行われるようになっている。第1〜3実施形態の各制御フローのルーチンは、駐車ブレーキの解除の完了、すなわちリリース完了判定がされて、状態ステータスが非ロック状態となるまで行われるようになっている。
【0026】
[第1実施形態]
ここで、駐車ブレーキを解除する際に適切なピストン32と推進部材44とのクリアランス量を得るための駐車ブレーキ制御装置4における第1実施形態に係る制御フローを
図3に基づいて詳細に説明する。なお、この制御フローは、駐車ブレーキ制御装置4の状態ステータスがロック状態となっているときに行われる。
【0027】
まず、ステップS1では、駐車ブレーキスイッチ7がリリース側に押されて駐車ブレーキのリリース作動(電動モータ5をリリース方向に回転させる)が開始するか否かが判定され、成立した場合には、電動モータ5をリリース方向に回転させる電流値が供給される。その後、ステップS2に進み、状態ステータスをリリース中とする。一方、ステップS1が不成立の場合にはルーチンを終了し、状態ステータスをロック状態のままとする。
ステップS2では、電動モータ5へ供給される電流値のモータ電流値検出手段6による計測が開始され、その後、電流値が所定の間隔で随時計測される。ステップS3では、計測されたモータ電流値から順次モータ回転速度の推定を開始する。これは、
図4に示すモータ回転速度−モータ電流値(トルク)特性線図(N−T特性線図)に基づいてモータ回転速度を推定する。なお、上記N−T特性線図は、
図4に示すように電動モータ5へ印加する電圧によって可変となっており、上記モータ回転速度を推定する際に、電動モータ5へ印加する電圧を駐車ブレーキ制御装置4によって測定する。そして、測定した電圧に応じたN−T特性線図を選択し、選択したN−T特性線図からモータ回転速度を推定するようになっている。ここでは、モータ回転速度を推定する方法として、ブラシ付モータのモータを回転させたときに発生するブラシの電流リップルを監視してリップルを計測する等の手段も考えられる。
【0028】
ステップS4では、モータ電流値が閾値A1より大きくなったかを判定し、成立するまでこのステップS4の判定を継続し、成立した場合にはステップS5に進む。ステップS5では、モータ電流値が閾値A1以下になったかを判定し、成立するまでこのステップS5の判定を継続し、成立した場合にはステップS6に進む。ここで、
図5のタイムチャートのモータ電流値Aとモータ位置Pとに示されているように、電動モータ5は、電流値を供給しても、すぐに回転せず、回転させるためにある程度の大きさ、すなわち閾値A1以上の電流値が必要となっている。そして、電動モータ5が回転し始めると、電流値は閾値A1以下に低下していくことになる。上記ステップS4,S5の処理によって、電動モータ5が回転し始めたことを検出している。また、上記閾値A1は、電動モータ5が回転し始めるための電流値よりも若干小さい値が実験的、または、電動モータの特性から設定されている。
【0029】
次に、ステップS6では、モータ電流値が閾値A2以下になったかを判定し、成立するまでこのステップS6の判定を継続し、成立した場合にはステップS7に進む。ここで、閾値A2は、上記閾値A1よりも小さく、一対のインナまたはアウタブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱するときの電流値よりも若干大きな電流値が設定されている。上記ブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱するときの電流値は、予め実験的に求められており、閾値A2は、誤差を含めて若干大きな電流値が設定されている。
ステップS7では、随時計測されたモータ電流値の微分値(変化量)の絶対値(以下、電流微分絶対値という)が所定値ΔA1以下、本実施形態においては、所定値ΔA1が0に設定されており、電流微分絶対値が0となったか否かが判定されて、成立するまでこのステップS7の判定を継続し、成立した場合にはステップS8に進む。このステップS6における判定結果が成立した時点で、一対のインナまたはアウタブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱した(制動力が解除された)と判断する。ここで、電動モータ5がリリース方向に回転し続けて、一対のインナ及び/またはアウタブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱すると、その回転はほぼ無負荷回転となる。このため、モータ電流値が無負荷電流値となり、電流微分絶対値は、0または0付近の状態が継続されるようになる。上記所定値ΔA1は、電動モータ5が無負荷回転となったこと検出するために0(誤差を踏まえて不感帯を設けてもよい)として設定されている。
【0030】
次に、ステップS8では、電流微分絶対値が0(所定値△A1以下)に到達した時点から以降のモータ回転速度を積分してその積分値を計数する。そして、ステップS9では、ステップS8において計数したモータ回転速度の積分値が所定値X1を超えたか否かを判定し、成立するまでステップS8での計数とステップS9の判定とを継続する。ステップS9でモータ回転速度の積分値が所定値X1を超えて成立した場合には、ステップS10に進んで電動モータ5が停止され、その後、ステップS11でモータ回転速度の積分値をクリアする。これをもって、リリース完了が判定され、駐車ブレーキ制御装置4の状態ステータスは非ロック状態となる。ここで、上記所定値X1は、ピストン32のロールバック量以上となる距離を前記ピストンが移動するのに要する推力部材44の移動量に対応したモータ回転速度の積分値として設定されている。詳細には、通常ブレーキ時の液圧付加されたピストンシール31によるピストン32の所定のロールバック量と、インナ及びアウタブレーキパッド21、22が高温となったときに生じる熱膨張量の最大値と、車両走行時におけるディスクロータ20の面ブレ量の最大値とを考慮して、パッドの引き摺りが発生しないようなピストン32と推進部材44とのクリアランス量となるものとして設定されている。なお、積分値は、積分相当の値であればよく、例えば、時定数の大きなローパスフィルタを道いて計測してもよい。
【0031】
駐車ブレーキ制御装置4における第1実施形態に係る制御のタイムチャートを
図5に基づいて上記した
図4の制御フローチャートの各ステップに対応させて説明する。
【0032】
(A)の時点では、電動モータ5は停止されており、(B)の時点で駐車ブレーキスイッチ7がリリース側に押される。すると、ステップS1の判断によって電動モータ5に対してリリース方向の電流が供給され始める。このとき、駐車ブレーキ制御装置4の制御状態を示す状態ステータスが、ロック状態からリリース中となる。
【0033】
(B)時点から(D)時点にかけて、電動モータ5を回転させるためのトルクを大きくするため、モータ電流値が増加していく。このとき、電動モータ5は、回転していない状態であり、(D)時点で電動モータ5がリリース方向に回転し始めると、モータ電流値がピーク値となる。そして、電流値の上昇率を示すモータ電流微分値は、(B)時点から増加してピーク値を過ぎた後、急速に減少して(D)時点で0に近づく。この間で、ステップS4のモータ電流値が閾値A1より大きくなったか否かの判定が行われ、ステップS4が成立する(C)時点以降にステップS5のモータ電流値が閾値A1以下か否かの判定を開始している。
【0034】
(D)時点から(G)時点にかけて、電動モータ5は、ピストン32を介してブレーキ力の負荷を受けながらリリース方向へ回転する。電動モータ5がリリース方向へ回転するのに伴って徐々にブレーキ力の負荷が減少していくので、モータ電流値は(D)時点のピーク値から減少し始めて0に近づいていく。この間に、そして、このリリース中に上記ステップS5の判断条件であるモータ電流値が閾値A1以下となり、(E)時点で電動モータ5が回転し始めていることを判定する。
【0035】
この後、さらに、上記ステップS6の判断条件であるモータ電流値が閾値A2以下となり、かつ、上記ステップS7の判断条件である電流微分絶対値が所定値以下となる(G)時点で一対のインナ及びアウタブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱(制動力が抜けた)した状態となったものと判定する。なお、本実施の形態においては、確実にブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱した状態を判定するために、ステップS6とステップS7との2つの判断条件を用いている。しかし、これに限らず、いずれか一方の判断条件で判定を行うようにしてもよい。すなわち、インナまたはアウタブレーキパッド21,22がディスクロータ20から離脱したと判断する条件として、ステップS6のリリース中にモータ電流値が閾値A2以下となった(F)時点としてもよい。また、ステップS6の判定を行わずに、ステップS7のみの電流微分絶対値が0(所定値ΔA1以下)となった時点としてもよい。また、駐車ブレーキ付きディスクブレーキ2に推力センサを設け、この推力センサを使用して制動力を監視し、インナおよびアウタブレーキパッド21,22がディスクロータ20を挟んで制動力が発生している(D)時点から離脱(制動力が抜けた)した(G)時点を検出するようにしてもよい。
【0036】
(G)の時点からは、電動モータ5は、リリース方向に回転し続けるが、一対のインナ及びアウタブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱しているので、その回転はほぼ無負荷回転となる。このため、モータ電流値が無負荷電流値となり、電流微分絶対値は、0付近の状態が継続される。このため、ステップS7で判定される(G)時点、すなわち、リリース中に電流微分絶対値が0(所定値ΔA1以下)となったときから、モータ回転速度の積分を開始(ステップS8)する。
【0037】
リリース中に(G)時点から(H)時点にかけて、モータ回転速度を積分しておき、積分値(
図5の斜線部(X))が、予め算出されたピストン32の所定のロールバック量以上に相当する所定値X1に到達したことがステップS9で判定されると、(H)の時点で電動モータ5が停止され(ステップS10)、駐車ブレーキのリリース完了となる。そして、駐車ブレーキ制御装置4の状態ステータスが、リリース中から非ロック状態となる。
【0038】
このように、本実施の形態においては、ブレーキパッド21,22の少なくとも一方がディスクロータ20から離脱したことを検知してから、モータ回転速度の積分値が予め算出されたピストン32の所定のロールバック量以上に相当する所定値X1に到達したとき、電動モータ5が電流値に基づく所定量(モータ回転速度の積分値が所定値X1となる)分駆動したときに、電動モータ5を停止するようにしている。このため、駐車ブレーキのリリース動作の終了に伴うピストンと推進部材とのクリアランス量を適正にすることができる。これにより、駐車ブレーキ作動時の応答性が損なわれることなく、また、ブレーキ引き摺りを抑制することが可能となる。
【0039】
[第2実施形態]
次に、駐車ブレーキ制御装置4における第2実施形態に係る制御フローを
図6に基づいて詳細に説明する。まず、ステップS11では、駐車ブレーキのリリース作動が開始されたか否かが判定され、成立した場合には、電動モータ5への電流供給を開始してステップS12に進み、不成立の場合にはルーチンが終了する。
ステップS12では、電動モータ5へ供給される電流値のモータ電流値検出手段6による計測が開始され、その後、電流値が所定の間隔で随時計測される。ステップS13では、随時計測されたモータ電流値の微分値が算出される。
【0040】
次に、ステップS14では、電流微分絶対値が所定値ΔA2以下となったか否かが判定されて、成立した場合にはステップS15に進み、不成立の場合にはルーチンを終了する。ステップS15では、電流微分絶対値が所定値ΔA2以下に到達した時点からタイマカウントが開始される。ステップS16では、タイマカウンタが所定時間に到達したか否かが判定される。ここで、所定値ΔA2は、第1実施形態と同様に、ブレーキパッド21、22の少なくとも一方がディスクロータ20から離脱して電動モータ5が無負荷回転となったこと検出するため0よりも若干大きな値に設定されている。また、上記所定時間T1は、ピストン32のロールバック量以上となる距離を推進部材44が移動するのに要する時間として設定されている。詳細には、通常ブレーキ時の液圧付加されたピストンシール31によるピストン32の所定のロールバック量と、インナ及びアウタブレーキパッド21、22が高温となったときに生じる熱膨張量の最大値と、車両走行時におけるディスクロータ20の面ブレ量の最大値とを考慮して、パッドの引き摺りが発生しないようなピストン32と推進部材44とのクリアランス量となる推進部材44の移動時間として設定されている。
【0041】
ステップS16の判定では、所定時間T1が制御周期よりも十分に大きな時間となっているため、すぐには成立とはならないので、不成立としてステップS17に進むことになる。ステップS17では、再度、電流微分絶対値が所定値ΔA2以下か否かが判定される。このステップS17が成立の場合には、ステップS16に戻って時間判定を行い、不成立、すなわち、電流微分絶対値が所定値ΔA2よりも大きくなっている場合には、ステップS18でタイマカウンタをクリアしてステップS14に戻る。ここで、再度、電流微分絶対値を判定するのは、リリースが開始されてから実際にブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱するまで間、電流微分絶対値が所定値ΔA2以下となることが数回あり、この場合には、所定値ΔA2以下となっている時間が、所定時間T1よりも少ない時間となる。このため、ステップS16の判定に係る所定時間T1の間に、電流微分絶対値が所定値ΔA2よりも大きくなった場合には、時間の計数を中止して判定をやり直すようにしている。
【0042】
最終的に、ステップS16の判定が成立した場合には、ステップS19及びS20に進み、電動モータ5を停止して、タイマカウンタをクリアする。このステップS16における判定が成立した時点で、一対のインナ及びアウタブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱してパッドの引き摺りが発生しないようなピストン32と推進部材44とのクリアランス量となる位置まで推進部材44が移動したと判断する。
【0043】
次に、駐車ブレーキ制御装置4における第2実施形態に係る制御フローのタイムチャートを
図7に基づいて説明する。なお、第2実施形態に係る制御フローのタイムチャートにおいて(A)時点〜(B)時点までは第1実施形態に係る制御のタイムチャートと同様のため、ここでの説明を省略する。
【0044】
(B)の時点において、電流微分絶対値が所定値ΔA2以下となるためステップS15の処理でタイマカウントが開始されるが、すぐに、電流微分絶対値が所定値ΔA2より大きくなるため、タイマカウントが終了してステップS14での電流微分絶対値の判定を継続する。
【0045】
次に、(C)の時点で、再び、電流微分絶対値が所定値ΔA2以下となるためステップS15の処理でタイマカウントが開始されるが、すぐに、(D)の時点で電流微分絶対値が所定値ΔA2より大きくなるため、タイマカウントが終了してステップS14での電流微分絶対値の判定を継続する。
【0046】
最終的に、(E)の時点で電流微分絶対値が所定値ΔA2以下となるためステップS15の処理でタイマカウントが開始される。(E)の時点以降は、ブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱して電動モータ5が無負荷回転となるので、ステップS16及びS17の処理で、タイマカウンタをカウントし続ける。(F)の時点において、ステップS16で所定時間T1を越えて、判定が成立することで、電動モータ5を停止が停止され(ステップS10)、駐車ブレーキのリリース完了となる。そして、駐車ブレーキ制御装置4の状態ステータスが、リリース中から非ロック状態となる。
【0047】
このように、本実施形態においては、電流微分絶対値に基づいてブレーキパッド21,22がディスクロータ20から離脱して、ピストン32のロールバック量以上となる距離を前記推進部材44が移動するのに要する所定時間T1に到達したとき、電動モータ5が電流値に基づく所定量(電流微分絶対値が閾値ΔA2となってから所定時間T1となる)分駆動したときに、電動モータ5を停止するようにしている。このため、駐車ブレーキのリリース動作の終了に伴うピストンと推進部材とのクリアランス量を適正にすることができる。これにより、駐車ブレーキ作動時の応答性が損なわれることなく、また、ブレーキ引き摺りを抑制することが可能となる。
【0048】
[第3実施形態]
次に、駐車ブレーキ制御装置4における第3実施形態に係る制御フローを
図8に基づいて詳細に説明する。まず、ステップS31では、駐車ブレーキのリリース作動が開始か否かが判定され、成立した場合には、電動モータ5へ電流を供給し、ステップS22に進み、不成立の場合にはルーチンが終了する。ステップS32では、電動モータ5へ供給される電流値のモータ電流値検出手段6による計測が開始され、その電流値が所定の間隔で随時計測される。ステップS33では、随時計測されたモータ電流値が下降傾向にあるか否かを、モータ電流値の微分値が正の値か負の値かで判定し、成立するまでこのステップS6の判定を継続する。モータ電流値が下降傾向にある場合は、上述したように、電動モータ5が回転し始めている状態となっているので、このステップS33では、電動モータ5が回転し始めているか否かが判定されることになる。ステップS33の判定が成立すると、ステップS34に進み、モータ電流値が閾値A3以下になったかを判定し、成立するまでこのステップS34の判定を継続する。ここで、閾値A3は、一対のインナ及びアウタブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱するときの電流値が設定されている。上記ブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱するときの電流値は、予め実験的に求められており、閾値A3は、誤差を考慮した電流値が設定されている。
【0049】
次に、ステップS34の判定が成立すると、ステップS35に進み、ステップS35では、モータ電流値が閾値A3以下になった時点から以降のモータ電流値を積分してその積分値を計数する。そして、ステップS36では、ステップS35において計数したモータ電流値の積分値が所定値Y1を超えたか否かを判定し、成立するまでステップS35での計数とステップS36の判定とを継続する。ステップS36でモータ電流値の積分値が所定値Y1を超えて成立した場合には、ステップS37に進んで電動モータ5が停止され、その後、ステップS38でモータ電流値の積分値をクリアする。これをもって、リリース完了が判定され、駐車ブレーキ制御装置4の状態ステータスは非ロック状態となる。ここで、上記所定値Y1は、ピストン32のロールバック量以上となる距離を前記推進部材44が移動するのに要する推力部材44の移動量に対応したモータ電流値の積分値として設定されている。詳細には、通常ブレーキ時の液圧付加されたピストンシール31によるピストン32の所定のロールバック量と、インナ及びアウタブレーキパッド21、22が高温となったときに生じる熱膨張量の最大値と、車両走行時におけるディスクロータ20の面ブレ量の最大値とを考慮して、パッドの引き摺りが発生しないようなピストン32と推進部材44とのクリアランス量となるものとして設定されている。
【0050】
次に、駐車ブレーキ制御装置4における第3実施形態に係る制御フローのタイムチャートを
図9に基づいて説明する。なお、第3実施形態に係る制御フローのタイムチャートにおいて(A)時点〜(B)までは第1及び2実施形態に係る制御フローのタイムチャートと同様のためここでの説明を省略する。
【0051】
(C)の時点において、モータ電流値の微分値が正の値となったときに、ステップS34の判定が成立して電動モータ5が回転し始めていることが判別される。そして、(D)の時点でモータ電流値が閾値A3以下になったときに、ステップS34の判定が成立してブレーキパッド21、22がディスクロータ20から離脱したことが判別される。
【0052】
次に、(D)時点から(E)時点にかけて、ステップS35の処理でモータ電流値を積分して、該積分した値(
図9の斜線部Y1)がピストン32の所定のロールバック量に相当する所定値Y1以上に到達したことがステップS36で判定されると、(E)の時点でステップS37及びS38の処理によって、電動モータ5が停止され、モータ電流値の積分値がクリアされて駐車ブレーキのリリース完了となる。そして、駐車ブレーキ制御装置4の状態ステータスが、リリース中から非ロック状態となる。
【0053】
このように、本実施形態においては、モータ電流値に基づいてブレーキパッド21,22がディスクロータ20から離脱して、モータ電流値の積分値がピストン32のロールバック量以上となる距離を前記推進部材44が移動するのに要する所定値Y1に到達したとき、すなわち、電動モータ5が電流値に基づく所定量(モータ電流値の積分値が所定値Y1となる)分駆動したときに、電動モータ5を停止するようにしている。このため、駐車ブレーキのリリース動作の終了に伴うピストンと推進部材とのクリアランス量を適正にすることができる。これにより、駐車ブレーキ作動時の応答性が損なわれることなく、また、ブレーキ引き摺りを抑制することが可能となる。
【0054】
以上説明したように、上記実施形態に係るディスクブレーキ装置1では、リリース方向への電動モータ5の駆動に際して、インナ及びアウタブレーキパッド21、22と、ピストン32とのクリアランス量を過不足することなく最適なものにすることができる。また、モータ電流値により、駐車ブレーキのリリース動作時の最適な電動モータ5の駆動時間を設定できるので、外的な影響(例えば、機械的な構造上のバラツキや温度特性等)を受けることはない。
【0055】
上述した各実施形態のディスクブレーキ装置は、ディスクの両面に配置されるブレーキパッドを液圧シリンダ内に設けられたピストンにより押圧するキャリパと、該キャリパに設けられ電動モータによりピストンを推進させる推進部材を有するピストン推進機構と、推進したピストンを保持するピストン保持機構と、前記電動モータの駆動を制御する制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記ピストン保持機構によるピストンの保持を解除するべく前記電動モータを駆動した後に、前記ブレーキパッドが前記ディスクから離脱したことを検知してから、前記電動モータの電流値に基づく所定量分該電動モータを駆動したとき、該電動モータの駆動を停止するものとなっている。
【0056】
上記ディスクブレーキ装置によれば、駐車ブレーキのリリース動作の終了時点でのピストンと推進部材とのクリアランス量を適正にすることができる。
【0057】
上述した第1、3実施形態のディスクブレーキ装置は、前記電動モータを駆動する所定量が、前記ブレーキパッドが前記ディスクから離脱したことの検知以降の前記電動モータの電流値に基づく検出値の積分値となっている。
【0058】
上記ディスクブレーキ装置によれば、電動モータの電流値に基づく検出値の積分値を計数するので、電動モータの位置や推進部材の位置を検出するための特別なセンサを設ける必要がなく、ディスクブレーキ装置の構造が複雑化せず、製造が容易となる。
【0059】
上述した第1、3実施形態のディスクブレーキ装置は、前記電動モータの電流値が、実電流値または電流指令値となっている。
【0060】
上述した第1実施形態のディスクブレーキ装置は、前記検出値が、前記電動モータの回転速度となっている。
【0061】
上述した第1実施形態のディスクブレーキ装置は、前記電動モータの回転速度が、前記電流値が前記電動モータへの印加電圧によって補正されて算出されるようになっている。
【0062】
上述した第3実施形態のディスクブレーキ装置は、前記検出値が、電流値となっている。
【0063】
上述した各実施形態のディスクブレーキ装置は、前記所定値が、前記ブレーキパッドが前記ディスクから離脱してから前記ピストンのロールバック量以上となる距離を前記ピストンが移動するのに要する移動量に対応した値となっている。
【0064】
上述した第2実施形態のディスクブレーキ装置は、前記電動モータを駆動する所定量が、前記ブレーキパッドが前記ディスクから離脱してから前記ピストンのロールバック量以上となる距離を前記ピストンが移動するのに要する所定時間となっている。
【0065】
上述した各実施形態のディスクブレーキ装置は、前記ブレーキパッドが前記ディスクから離脱したことが、前記電動モータの電流値が所定値以下となったことによって検知される。
【0066】
上記ディスクブレーキ装置によれば、ブレーキパッドがディスクから離脱したことを検出するための特別なセンサを設ける必要がなく、ディスクブレーキ装置の構造が複雑化せず、製造が容易となる。
【0067】
上述した各実施形態のディスクブレーキ装置は、前記ブレーキパッドが前記ディスクから離脱したことは、前記電動モータの電流値が所定値以下となってから前記電動モータの電流値の微分値の絶対値が所定値以下となったことによって検知する。