(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
この種のクランクシャフトの焼き入れ方法として例えば特許文献1に記載されたものが提案されている。この特許文献1に記載された技術では、
図13に示すように、半円状またはアーチ状をなすいわゆる半開放鞍型の加熱コイル101をワークWであるクランクシャフト側のジャーナル部またはピン部に近接させ、ワークW側を回転させながら焼き入れを施す方法で、一般にエロテルム方式と称されている。
【0003】
この方法では、加熱コイル101とワークとWが相対回転して、加熱と温度低下とを交互に繰り返しながら徐々にワークW側の温度が上昇することになるので、加熱時間が長くなるとともに、ワークW側での余分な蓄熱も発生することになり、冷却に要する時間も長くなる。
【0004】
そこで、
図14に示すように、ループ状の加熱コイル102のなかにワークWを位置決めして、ワークWを回転させることなく焼き入れ処理を施すワーク固定方式を前提として、
図15に示すように、加熱コイル103を実質的に直列二段に重ね合わせたものが提案されるに至っている。
【0005】
図14の方式では、加熱コイル102がワーク軸心方向と直交する方向(径方向)で二分されており、この半割り形状の加熱コイル102同士を突き合わせることでワークWをほぼ一周する通電ループが形成されるようになっていて、ここではこの方式を半割り1ターン方式または半割り1ループ方式と称するものとする。
【0006】
これに対して、
図15の方式では、
図14と同様に半割り形状の加熱コイル103同士を突き合わせることを前提とした上で、加熱コイル103がワークWを二周して直列2ループの通電ループが形成されるようになっていて、ここではこの方式を半割り2ターン方式または半割り2ループ方式と称するものとする。
【0007】
この半割り2ターン方式または半割り2ループ方式と称する方式では、加熱コイル103そのものが半割り形状であることを前提に、ワークWを二周する通電ループを形成する必要があるため、半割り形状の加熱コイル103同士を突き合わせた上で、
図15の接点部Qに相当する位置にてそれぞれ図示外のクランプ手段にてクランプすることにより、半割り形状のコイル103同士の連続性ひいては通電ループの連続性を確保することになる。
【0008】
この方式によれば、ワークを二周する通電ループが形成されるので加熱効率が良く、また接点部が通電ループの外側で且つワークから比較的離れた位置となるので、ワークに対する磁束変化の影響が小さくなる利点があるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、
図14に示したような半割り1ターン方式または半割り1ループ方式と称される方式では、クランクシャフトのジャーナル部またはピン部にメタル潤滑を目的とした油穴が形成されている場合には、当該部位での表面積あるいは断面積変化によりジャーナル部またはピン部の内部での電流密度(または磁束密度)が変化して、加熱温度にむらができやすい。そのために、焼き入れ幅、焼き入れ深さ、焼き入れ後の硬さ等の焼き入れ品質の均一化を図る上で限界がある。
【0011】
また、二つの加熱コイルを突き合わせることでクランクシャフトのジャーナル部またはピン部の周囲を囲繞する方式であるため、とかく加熱コイル同士の突き合わせ面での電流密度(または磁束密度)が減少しやすく、加熱温度にむらができやすい。そのために、上記と同様に焼き入れ幅、焼き入れ深さ、焼き入れ後の硬さ等の焼き入れ品質の均一化を図る上で限界がある。
【0012】
そして、
図15に示したような半割り2ターン方式または半割り2ループ方式と称される方式では、ワークを二周する通電ループが形成される点でのみ
図14の半割り1ターン方式または半割り1ループ方式と称されるものと異なっているだけであるから、この
図15に示した半割り2ターン方式または半割り2ループ方式と称される方式においても
図14に示した方式のものと同様の課題を残している。
【0013】
その上、
図15に示したような半割り2ターン方式または半割り2ループ方式と称される方式のものでは、
図15の接点部Qをクランプ手段にて加圧クランプする必要があるため、クランプ力による加熱コイル103の撓み変形を無視することができず、さらなる改善の余地を残している。
【0014】
例えば、クランプ力を受けて加熱コイル103が撓み変形すると、直列2ループの通電ループを形成している加熱コイル103間のクリアランス、ひいては加熱コイル103同士の離間距離(加熱コイル間クリアランスを隔てた二つの加熱コイルによる有効コイル幅)が変化してしまい、焼き入れ幅、焼き入れ深さ、焼き入れ後の硬さ等の焼き入れ品質への影響が危惧される。特にクランクシャフトのジャーナル部あるいはピン部には先に述べたような油穴が形成されているため、上記のような加熱コイル103の撓み変形を十分に考慮しないと相対的に表面積または断面積の小さな油穴の開口部近傍への過加熱(過剰な熱量の投与)を招くおそれがある。
【0015】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、クランクシャフトのジャーナル部またはピン部を焼き入れを施すにあたり、それらのジャーナル部またはピン部に形成される油穴の存在が焼き入れ品質に影響しないように考慮された焼き入れ
装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、
クランクシャフトのジャーナル部またはピン部を囲繞する半円状のアーチ部とそのアーチ部の両端から径方向外周側に延設されたストレート部とを有する半割状の一対の加熱コイル同士を突き合わせるようにして対向配置することで処理対象となるクランクシャフトのジャーナル部またはピン部を囲繞し、
上記ジャーナル部またはピン部に形成された油穴の軸線方向を上記一対の加熱コイルにおけるストレート部の長手方向に揃えた状態で、上記加熱コイルに通電することによりジャーナル部またはピン部に対して高周波誘導加熱による焼き入れ処理を施す
装置である。
【0017】
その上で、上記一対の加熱コイルは、
素片間クリアランスを隔てて互いに重ね合わされて、上記ジャーナル部またはピン部を囲繞する半円状のアーチ部とそのアーチ部の両端から径方向外周側に延設されたストレート部とをそれぞれに有
する第1,第2のコイル素片と、上記それぞれの加熱コイルを形成している第1のコイル素片と第2のコイル素片との間であって且つ少なくともアーチ部の周囲に介装され、第1のコイル素片と第2のコイル素片との間の素片間クリアランスを規制しているスペーサと、上記第1,第2のコイル素片のストレート部に付帯していて、第1のコイル素片同士および第2のコイル素片同士をそれぞれ接続するための接点部と第1のコイル素片と第2のコイル素片とを接続するための接点部と、を有していて、上記一対の加熱コイル同士を正規位置にて対向配置し且つ上記接点部をクランプ手段にて第1,第2のコイル素片同士の重ね合わせ方向にクランプした時には、第1のコイル素片同士および第2のコイル素片同士がそれぞれ直列に接続されるともに、第1のコイル素片と第2のコイル素片とが直列に接続されて、一対の加熱コイル全体として上記ジャーナル部またはピン部を二周する通電ループが形成されるようになっている。
さらに、上記一対の加熱コイル同士の突き合わせ部のうちジャーナル部またはピン部に形成された油穴の開口部に臨む部分に逃げ凹部を形成されていて、
上記油穴の開口部と逃げ凹部とのなす距離が、上記ジャーナル部またはピン部の外周面のうち油穴の開口部以外の部分と一対の加熱コイルとのなす距離よりも大きく設定されているものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、とかく電流密度(または磁束密度)が減少しやすい加熱コイル同士の突き合わせ面の方向とジャーナル部またはピン部に形成された油穴の軸線方向とを一致させた状態で
、しかも加熱コイルの撓み変形を考慮して処理を施すため、実質的に加熱コイルのアーチ部とストレート部とのなす外隅部をジャーナル部またはピン部に形成された油穴の開口部近傍を臨ませた状態で処理が施されることになる。これにより、ジャーナル部またはピン部に形成された油穴の開口部近傍は元々他の部位に比べて相対的に表面積または断面積が小さいために、上記電流密度(または磁束密度)の減少に伴い相対的に熱投与量が減少したとしても加熱条件に大きな影響を及ぼすことはなく、油穴の開口部近傍においても他の部位とほぼ同じ条件で処理を施すことができ、ジャーナル部またはピン部の円周方向での焼き入れ品質の均一化とその向上が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜
図12は本発明に係るクランクシャフトの焼き入れ
装置を実施するためのより具体的な形態を示す図で、
図1,2は処理対象となるクランクシャフト1の概略を示し、
図3は上記クランクシャフト1に対する焼き入れ処理を司る焼き入れ機の焼き入れヘッド10の構造を示している。
【0021】
図1,2は4気筒タイプのクランクシャフト1の一例を示しており、周知のように、このクランクシャフト1は、シリンダヘッド対し軸受メタルを介して回転可能に支持される軸受支持される複数のジャーナル部1と、各ジャーナル部2の軸心から所定量だけオフセットした位置に設けられた複数のピン部3、および複数のカウンタウエイト4等とから構成されていて、各ピン部3には軸受メタルを介して図示外のコネクティングロッドが連結されることになる。
【0022】
そして、このクランクシャフト1には、
図1,2に示すような斜めの油穴5のほか、各ジャーナル部2およびピン部3を径方向に貫通する油穴6が形成されていて、シリンダブロック側から各ジャーナル部2およびピン部3での軸受部に必要な潤滑油が供給されることになる。なお、上記斜めの油穴5のほか各ジャーナル部2およびピン部3の径方向に貫通形成された油穴6のうち一部の油穴6の開口部は事後的に栓体によって閉塞されることもある。
【0023】
このようなクランクシャフト1における各ジャーナル部2およびピン部3に対しては、後述する焼き入れヘッド10によって焼き入れ処理が施されることになる。
【0024】
図3の焼き入れヘッド10は、加熱コイル13または14を有して互いにほぼ同構造をなす第1の焼き入れユニット11と第2の焼き入れユニット12とからなり、双方の加熱コイル13,14同士が直接接触しないように微小間隙を隔てつつ処理対象物を挟んで対向配置することで焼き入れ処理を施すようになっていて、実質的に焼き入れヘッド10としては処理対象物を挟んで二分割された半割り構造のものとして形成されている。
【0025】
図3に示すように、第1,第2の焼き入れユニット11,12では、略矩形状をなすコイル支持体15または16の長辺部側に絶縁処理を施しつつ長尺バー状の加熱コイル13または14をそれぞれに支持させてある。
図4は
図3のうち加熱コイル13,14のみを抜き出した状態を示しており、それぞれの加熱コイル13,14は、上側の第1のコイル素片17と下側の第2のコイル素片18とを、微小な素片間クリアランスを隔てつつ且つ絶縁処理を施した上で、上下二段にわたって重ねて配置したものである。そして、第1,第2のコイル素片17,18共に、半円状をなすアーチ部19と、そのアーチ部19の両端から径方向外周側に延設されたストレート部20とを有していて、
図5,6に拡大して示すように、第1,第2のコイル素片17,18同士の間、特にアーチ部19の周囲には、先に述べた第1,第2のコイル素片17,18同士の間に微小な素片間クリアランスCを確保するべく絶縁材製のスペーサ21を介装してある。つまり、第1,第2のコイル素片17,18同士のなす距離はスペーサ21にて規制されて、それらの第1,第2のコイル素片17,18同士の間にはスペーサ21の厚みに相当する微小な素片間クリアランスCが確保されている。
【0026】
図4に示すように、第1の焼き入れユニット11側では、加熱コイル13を形成している上側の第1のコイル素片17の左端に連続する接点部22と下側の第2のコイル素片18に連続する接点部23とが延長形成されていて、それらの接点部22,23同士の間には絶縁体24が介装されている。同様に、加熱コイル13を形成している下側の第2のコイル素片18の右端に連続する接点部25が絶縁体26ともに延長形成されていて、それらの接点部22,23同士の間には絶縁体24が介装されている。さらに、上側の第1のコイル素片17の右端に連続する正極としての電極板27が延長形成されている。
【0027】
その一方、第2の焼き入れユニット12側では、加熱コイル14を形成している上側の第1のコイル素片17の左端に連続する接点部28と下側の第2のコイル素片18に連続する接点部29とが延長形成されている。同様に、加熱コイル14を形成している上側の第2のコイル素片17の右端に連続する二つで一組の接点部30が延長形成されている。さらに、下側の第2のコイル素片18の右端に連続する負極としての電極板31が延長形成されている。なお、
図4の接点部28,29および接点部30には
図9,10に示すようにぞれぞれの絶縁体28a,29a,30aが付帯しているが、
図4では図示省略してある。
【0028】
図7は
図3に示した第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた状態を、
図8は
図7のうち加熱コイル13,14のみを抜き出した状態をそれぞれ示している。これらの
図7,8から明らかなように、第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた際には、第2の焼き入れユニット12側の接点部28,29同士の間に第1の焼き入れユニット11側の一対の接点部22,23が進入して互いに重合するようになっている。同様に、第2の焼き入れユニット12側の接点部30,30同士の間に第1の焼き入れユニット11側の接点部25が進入して互いに重合するようになっている。
【0029】
そして、第2の焼き入れユニット12側の接点部28,29同士を後述するクランパにてクランプすることにより、接点部28,29同士の間に第1の焼き入れユニット11側のもう一方の接点部22,23が挟み込まれて、接点部22,28同士および接点部23,29同士が互いに圧接して導通するようになっている。すなわち、第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた際には、上記接点部22,28同士の導通をもってそれぞれの加熱コイル13,14の上側の第1のコイル素片17,17同士が、同様に上記接点部23,29同士の導通をもってそれぞれの加熱コイル13,14の下側の第2のコイル素片18,18同士が、それぞれに機械的且つ電気的に接続されることになる。
【0030】
同様に、上記のように第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた際には、第2の焼き入れユニット12側の接点部30,30同士の間に第1の焼き入れユニット11側のもう一方の接点部25が進入して互いに重合することは先に述べた通りである。そして、接点部30,30同士を後述するクランパにてクランプすることにより、接点部30,30同士の間にもう一方の接点部25が挟み込まれて、接点部30,25同士が互いに圧接して導通するようになっている。すなわち、第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた際には、上記接点部30,25同士の導通をもって、第2の焼き入れユニット12における上側の第1のコイル素片17と、第1の焼き入れユニット11における下側の第1のコイル素片18とが機械的且つ電気的に接続されるようになっている。
【0031】
より詳しくは、
図9の(A)は
図4のA1−A1線に沿う断面図を、同図の(B)は
図8のB1−B1線に沿う断面図をそれぞれ示していて、
図4の状態から第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた上でクランパ32にてクランプするとにより、
図9の(A)の状態から同図(B)の導通状態へと変化することになる。
【0032】
同様に、
図10の(A)は
図4のA2−A2線に沿う断面図を、同図の(B)は
図8のB2−B2線に沿う断面図をそれぞれ示していて、
図4の状態から第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた上でクランパ33にてクランプするとにより、
図10の(A)の状態から同図(B)の導通状態へと変化することになる。
【0033】
さらに、
図3,4から明らかなように、第1の焼き入れユニット11における上側の第1のコイル素片17の右端には正極としての電極板27が、第2の焼き入れユニット12における下側の第2のコイル素片18の右端には負極としての電極板31がそれぞれ延長形成されていることは先に述べた通りである。そして、第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた際には、これらの電極板27,31同士が正対することになる。そして、
図3,4および
図7,8に示すように、電極板27,31同士の間に相手側電極34,35を挟み込んだ上で、
図9,10の(B)と同様に図示外のクランパにて電極板27,31同士をクランプすることにより、上記第1,第2の焼き入れユニット11,12における加熱コイル13,14間に所定の高周波電流が印加されるようになっている。
【0034】
したがって、半割り状の第1,第2の焼き入れユニット11,12からなる焼き入れヘッド10では、先に
図15に基づいて説明したように、第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせることで、加熱コイル13,14がワークWを二周して直列2ループの通電ループが形成されることになる。
【0035】
ここで、
図3のほか
図5,6に示すように、第1,第2のコイル素片17,18のアーチ部19同士の間にはスペーサ21が介装されていることは先に述べた通りであるが、そのスペーサ21には放射状に複数の冷却液噴射穴36を形成してあり、各冷却液噴射穴36には
図3に示す冷却液供給パイプ37から油等の冷却液が供給・循環されるようになっている。そして、後述するように、加熱コイル13,14による加熱処理に続き、必要に応じて加熱部位に冷却液を噴射することができるようになっている。
【0036】
図11は、
図1,2に示したクランクシャフト1のジャーナル部2またはピン部3を処理対象とするべく、
図3に示した半割状の第1,第2の焼き入れユニット11,12からなる焼き入れヘッド10の突き合わせ状態での水平断面図を模式的に示している。さらに、
図12は
図11の全断面図を示している。ここでは、便宜上、処理対象となるジャーナル部2またはピン部3をワークWと称するものとする。
【0037】
先に述べたように、処理対象となるワークWを囲繞するように半割状の第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた上で、
図9の接点部28,22同士、接点部29,23同士および
図10の接点部30,26,30同士のほか、
図7,8に示す一対の電極板27,31と相手側電極34,35とをクランパ32,33等にてクランプする。これにより、第1,第2の焼き入れユニット11,12の加熱コイル13,14が実質的にワークWを二周して、
図15に示すようにワークWの周囲には当該ワークWを二周するような通電ループが形成されることになる。そして、
図7,8に示した電極板27,31間に所定の高周波電流を印加して高周波誘導加熱による加熱処理を施す。
【0038】
この場合において、
図15に示したように、ワークWの周囲には当該ワークWを二周するような通電ループが形成されているので、効率良く加熱処理が行える。また、
図9,10に示したそれぞれの接点部がワークWから比較的離れた位置にあるので、ワークWに対する磁束変化の影響が少なくて済むという利点がある。さらに、
図9,10のほか
図12に示すように、
図9の接点部28,22同士、接点部29,23同士および
図10の接点部30,26同士をクランパ32または33にてクランプすることにより、第1,第2のコイル素片17,18におけるストレート部20が撓み変形し、特に当該ストレート部20のうち接点部28,22同士、接点部29,23同士および接点部30,26同士に近い部分ほど第1,第2のコイル素片17,18同士の間の素片間クリアランスCが小さくなるように撓み変形することになる。
【0039】
ワークWを所定時間加熱処理したならば、加熱コイル13,14への通電を断つ一方、代わって
図5,6に示したようにスペーサ21に形成されている冷却液噴射穴36からワークWの加熱部位に対して冷却液を所定時間噴射して、ワークWの加熱部位を急冷する。これにより、ワークWには所定の処理幅で且つ所定の深さで焼き入れ処理が施されることになる。
【0040】
この場合において、
図1,2のほか
図11に示したように、ワークWたるジャーナル部2やピン部3にはそれらを径方向に貫通する油穴6が形成されていることは先に述べた。この油穴6の近傍部位ではその油穴6の開口面積分だけ他の部位と比べて相対的に表面積または断面積が少なくなっており、したがってジャーナル部2やピン部3の全周に均等に加熱処理を施すと油穴6の開口している部位では相対的に過剰な熱量の投与が行われていわゆる過加熱となる可能性がある。
【0041】
そこで、本実施の形態では、
図11に示すようにワークWに形成されている油穴6の軸線方向が第1,第2の焼き入れユニット11,12同士の突き合わせ面のうちアーチ部19を除いた部分での長手方向を指向するように、つまり油穴6の軸線方向が第1,第2のコイル素片17,18におけるストレート部20の長手方向を指向するようにに揃えた状態で処理を施すものとする。
【0042】
この状態では、とかく電流密度(または磁束密度)が減少しやすいとされている第1,第2のコイル素片17,18におけるストレート部20,20同士の突き合わせ面の方向とワークWたるジャーナル部2またはピン部3に形成された油穴6の軸線方向とを一致させた状態にほかならない。そのため、第1,第2のコイル素片17,18におけるアーチ部19とストレート部20とのなす外隅部をジャーナル部2またはピン部3に形成された油穴6の開口部近傍を臨ませた状態で処理が施されることになる。これにより、ジャーナル部2またはピン部3に形成された油穴6の開口部近傍は元々他の部位に比べて相対的に表面積または断面積が小さいために、上記電流密度(または磁束密度)の減少に伴い相対的に熱投与量が減少したとしても加熱条件に大きな影響を及ぼすことはない。その結果として、油穴6の開口部近傍においても他の部位とほぼ同じ条件で処理を施すことができ、ジャーナル部2またはピン部3の円周方向での焼き入れ品質の均一化とその向上が図れることになる。
【0043】
その上で、
図11に示すように、加熱コイル13,14を形成している第1,第2のコイル素片17,18におけるアーチ部19とストレート部20とのなす外隅部(コーナー部)に比較的大きな面取りを施してき(面取り部を符号38aで示す)、第1,第2の焼き入れユニット11,12同士を突き合わせた状態では、油穴6の開口部と正対する位置に、上記面取り部38a同士に突き合わせによって略三角形の逃げ凹部38が形成されるようにする。なお、上記面取り部38aは
図5,6に顕著に描かれている。
【0044】
こうすることにより、ワークWたるジャーナル部2やピン部3のうち油穴6が開口している部分では上記逃げ凹部38と正対していることになり、結果として油穴6の開口部と加熱コイル13,14(第1,第2のコイル素片17,18)とのなす距離が他の部位に比べて相対的に大きくなる。そのため、上記油穴6の開口部の分だけ表面積または断面積が小さい当該油穴6の開口部の周囲への熱投与量(入熱量)が相対的に小さくなり、当該油穴6の開口部の周囲においても他の部位とほぼ同じ条件で加熱処理することが可能となる。
【0045】
ここで、
図9,10のほか
図12に示すように、
図9の接点部28,22同士、接点部29,23同士および
図10の接点部30,26同士をクランパ32または33にてクランプすることにより、第1,第2のコイル素片17,18におけるストレート部20が撓み変形し、特に当該ストレート部20のうち接点部28,22同士、接点部29,23同士および接点部30,26同士に近い部分ほど第1,第2のコイル素片17,18同士の間の素片間クリアランスCが小さくなるように撓み変形することは先に述べた。
【0046】
そして、上記のようにワークWたるジャーナル部2やピン部3のうち油穴6が開口している部分では上記逃げ凹部38と正対していることにより、第1,第2のコイル素片17,18同士の間の素片間クリアランスCが小さくなるように当該第1,第2のコイル素片17,18が撓み変形したとしても、上記焼き入れ品質への影響を回避でき、先の述べたように当該油穴6の開口部の周囲においても他の部位とほぼ同じ条件で加熱処理することが可能となる。したがって、第1,第2のコイル素片17,18の撓み変形に対する特段の対策は不要となる。
【0047】
言い換えるならば、加熱コイル13,14の逃げ凹部38に相当する部分、すなわち
図11,12のR部においても上記撓み変形の影響を受けて、第1,第2のコイル素片17,18同士の間の素片間クリアランスCがわずかに小さくなって、そのクリアランス縮小分だけ第1,第2のコイル素片17,18による加熱処理幅が小さくなるが、この加熱処理幅の縮小化もまた、上記油穴6の開口部の周囲への熱投与量(入熱量)が相対的に小さくなることに寄与している。
【0048】
すなわち、
図9の接点部28,22同士、接点部29,23同士および
図10の接点部30,26同士でのクランプ力を受けて第1,第2のコイル素片17,18におけるストレート部20が撓み変形することに伴い、素片間クリアランスCを隔てた第1,第2のコイル素片17,18による加熱処理幅(有効コイル幅)が他の部位に比べて相対的に小さくなるものの、この加熱処理幅が小さくなる部分に対してジャーナル部2またはピン部3に形成された油穴6の開口部近傍を臨ませた状態で処理を施すため、ジャーナル部2またはピン部3に形成された油穴6の開口部近傍は元々他の部位に比べて相対的に表面積または断面積が小さいために、上記加熱処理幅の減少が加熱条件に大きな影響を及ぼすことはなく、加熱コイルの撓み変形に対する対策が不要になるだけでなく、焼き入れ品質の均一化が図れるようになる。
【0049】
このように本実施の形態によれば、クランクシャフト1のジャーナル部2またはピン部3に焼き入れ処理を施すにあたり、油穴6が開口している部分とそうでない部分とでほぼ均等に処理することができるため、焼き入れ品質が向上することになる。
【0050】
ここで、クランクシャフト1の複数のジャーナル部2のなかには上記のような油穴6が形成されていないものとある。このような油穴6を有しないジャーナル部2に対して焼き入れ処理を施す場合には、互いに突き合わせた第1,第2の焼き入れユニット11,12に対してジャーナル部2側をクランクシャフト1ごと回転させながら処理を行うものとする。こうすることにより、油穴6を有しないジャーナル部2についてもその全周について均一に焼き入れ処理を施すことが可能となる。