特許第6017211号(P6017211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6017211核酸ナノワイヤーの製造方法、該方法に使用される核酸、および該方法によって製造される核酸ナノワイヤー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017211
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】核酸ナノワイヤーの製造方法、該方法に使用される核酸、および該方法によって製造される核酸ナノワイヤー
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161013BHJP
   C07H 21/04 20060101ALI20161013BHJP
   C07D 209/56 20060101ALI20161013BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20161013BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07H21/04 A
   C07D209/56
   B82Y30/00
【請求項の数】12
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2012-159889(P2012-159889)
(22)【出願日】2012年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-18143(P2014-18143A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 健造
(72)【発明者】
【氏名】中村 重孝
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/066447(WO,A1)
【文献】 特開2012−121899(JP,A)
【文献】 特開2009−254279(JP,A)
【文献】 特開2005−058213(JP,A)
【文献】 特開2011−056337(JP,A)
【文献】 NATURE,1998年,vol.391,pp.775-778
【文献】 Polymer Preprints, Japan,2011年,vol.60 no.2,p.4959, 3Pb120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CiNii
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群であって、

1本鎖核酸群は、
1番目の1本鎖の核酸M1
2番目の1本鎖の核酸M2
3番目の1本鎖の核酸M3
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mn
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mz
(ただし、nは、0または2以上の偶数であってzより小さく、
n+1は、1以上の奇数であってzより小さく、
zは、1以上の整数である)
を含んでなり、

1番目の1本鎖の核酸M1は、
5’末端側の塩基配列m1aと3’末端側の塩基配列m2aとからなり、
2番目の1本鎖の核酸M2は、
5’末端側の塩基配列m3aと3’末端側の塩基配列m2bとからなり、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
5’末端側の塩基配列m3bと3’末端側の塩基配列m4aとからなり、
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mnは、(ただし、nは、0または2以上の偶数であってzより小さい)
5’末端側の塩基配列m(n+1)aと3’末端側の塩基配列mnbとからなり、
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、(ただし、n+1は、1以上の奇数であってzより小さい)
5’末端側の塩基配列m(n+1)bと3’末端側の塩基配列m(n+2)aとからなり、
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mzは、(ただし、zは、1以上の整数)
zが偶数である場合には、
5’末端側の塩基配列m(z+1)aと3’末端側の塩基配列mzbとからなり、
zが奇数である場合には、
5’末端側の塩基配列mzbと3’末端側の塩基配列m(z+1)aとからなり、

1番目の1本鎖の核酸M1は、
塩基配列m2aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m2bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
2番目の1本鎖の核酸M2は、
塩基配列m3aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m3bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
塩基配列m4aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m4bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mnは、
塩基配列m(n+1)aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m(n+1)bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、
塩基配列m(n+2)aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m(n+2)bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mzは、
塩基配列m(z+1)aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m1aの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、

上記の相補的な塩基配列の組は、それぞれの組のなかの少なくとも一方の塩基配列のなかの少なくとも1箇所に、次式I:
【化1】

(ただし、式I中、Raは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
R1及びR2は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
N−は、Nの一価基を表す。)

で表される人工塩基を、塩基配列中の核酸塩基として有し、
上記の相補的な塩基配列の組は、上記式Iで表される人工塩基に対して、相補的な塩基が位置すべき核酸の塩基配列の中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
上記の相補的な塩基配列の組は、上記式Iで表される人工塩基に対して、相補的な塩基が位置すべき塩基配列の中の位置の、3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【請求項2】
請求項1に記載された1本鎖核酸群において、
zが2であり、
1番目の1本鎖の核酸M1が、1本鎖の核酸Aであり、
5’末端側の塩基配列m1aが、5’末端側の塩基配列paであり、
3’末端側の塩基配列m2aが、3’末端側の塩基配列qaであり、
2番目の1本鎖の核酸M2が、1本鎖の核酸Bであり、
5’末端側の塩基配列m3aが、5’末端側の塩基配列pbであり、
3’末端側の塩基配列m2bが、3’末端側の塩基配列qbであって、

5’末端側の塩基配列paと3’末端側の塩基配列qaとからなる1本鎖の核酸Aと、
5’末端側の塩基配列pbと3’末端側の塩基配列qbとからなる1本鎖の核酸Bとからなり、

一本鎖の核酸Aと一本鎖の核酸Bにおいて、
塩基配列qaの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列qbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
塩基配列paの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列pbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、

一本鎖の核酸Aは、少なくとも塩基配列qaの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、次式I:
【化2】

(ただし、式I中、Raは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
R1及びR2は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
N−は、Nの一価基を表す。)

で表される人工塩基を有し、
一本鎖の核酸Bは、一本鎖の核酸Aの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Bの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
一本鎖の核酸Bは、一本鎖の核酸Aの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Bの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有し、

一本鎖の核酸Bは、少なくとも塩基配列pbの中の少なくとも1箇所の核酸塩基として、上記式Iで表される人工塩基を有し、
一本鎖の核酸Aは、一本鎖の核酸Bの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Aの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
一本鎖の核酸Aは、一本鎖の核酸Bの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Aの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【請求項3】
請求項1に記載された1本鎖核酸群において、
zが2であり、
1番目の1本鎖の核酸M1が、1本鎖の核酸Cであり、
5’末端側の塩基配列m1aが、5’末端側の塩基配列paであり、
3’末端側の塩基配列m2aが、3’末端側の塩基配列qaであり、
2番目の1本鎖の核酸M2が、1本鎖の核酸Dであり、
5’末端側の塩基配列m3aが、5’末端側の塩基配列pbであり、
3’末端側の塩基配列m2bが、3’末端側の塩基配列qbであって、

5’末端側の塩基配列paと3’末端側の塩基配列qaとからなる1本鎖の核酸Cと、
5’末端側の塩基配列pbと3’末端側の塩基配列qbとからなる1本鎖の核酸Dとからなり、

一本鎖の核酸Cと一本鎖の核酸Dにおいて、
塩基配列qaの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列qbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
塩基配列paの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列pbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、

一本鎖の核酸Cは、塩基配列qaの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、次式I:
【化3】

(ただし、式I中、Raは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
R1及びR2は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
N−は、Nの一価基を表す。)

で表される人工塩基を有し、
一本鎖の核酸Cは、塩基配列paの中の少なくとも1箇所の核酸塩基として、上記式Iで表される人工塩基を有し、

一本鎖の核酸Dは、一本鎖の核酸Cの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Dの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
一本鎖の核酸Dは、一本鎖の核酸Cの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Dの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【請求項4】
請求項1に記載された1本鎖核酸群において、
zが1であり、
1番目の1本鎖の核酸M1が、1本鎖の核酸Eであり、
5’末端側の塩基配列m1aが、5’末端側の塩基配列raであり、
3’末端側の塩基配列m2aが、3’末端側の塩基配列rbであって、

5’末端側の塩基配列raと3’末端側の塩基配列rbとからなる1本鎖の核酸Eからなり、

1本鎖の核酸Eにおいて、
塩基配列raの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列aの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
塩基配列rbの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列rbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、

一本鎖の核酸Eは、塩基配列raの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、次式I:
【化4】

(ただし、式I中、Raは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
R1及びR2は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
N−は、Nの一価基を表す。)

で表される人工塩基を有し、
一本鎖の核酸Eは、塩基配列rbの中の少なくとも1箇所の核酸塩基として、上記式Iで表される人工塩基を有し、

一本鎖の核酸Eは、一本鎖の核酸Eの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Eの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
一本鎖の核酸Eは、一本鎖の核酸Eの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Eの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【請求項5】
zが、1〜6の整数である、請求項1に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【請求項6】
1本鎖核酸の長さが、12〜120塩基の長さである、請求項1〜5のいずれかに記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群を、ハイブリダイズさせて、一本鎖核酸群に含まれる一本鎖核酸を単量体として含む、2本鎖核酸多量体を調製する工程、
調製された2本鎖核酸多量体に光照射して、ハイブリダイズした一本鎖核酸の分子間に、光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、
を含む、核酸ナノワイヤーの製造方法。
【請求項8】
光照射が、366nmの波長を含む光の光照射である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
光照射が、0.01〜30秒間の光照射である、請求項7〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
光照射が、0〜30℃の範囲の温度で行われる、請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
ハイブリダイズが、少なくとも70℃から30℃までの冷却の間、0.5〜4℃/時間の冷却速度で冷却してアニーリングを行う工程を含む、請求項7〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群をハイブリダイズした2本鎖核酸多量体が、光架橋されてなる、核酸ナノワイヤー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸ナノワイヤーの製造方法、該方法に使用される一本鎖核酸群、および該方法によって製造される核酸ナノワイヤーに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーに使用されるナノワイヤー、特に次世代半導体回路の微細化技術において使用される導電性ナノ配線として、DNAナノワイヤーが有望であると考えられている。DNAおよびRNAを含めた核酸は、天然の高分子であり、ポリエチレン、ポリエステル等のいわゆる合成高分子と比較して、長さおよび太さの制御の点で非常に有利である。また、DNAナノワイヤーは、塩基配列による選択性を利用したセンシング等の利用も期待される。
【0003】
ところが、よく知られているように、DNAは、長いゲノムDNAが細胞内の極めて小さな核の中にコンパクトに収納可能なほど柔軟である。そのために、DNAは、ナノワイヤーに要求される剛直性に乏しく、単に合成しただけでは、コンパクトに屈曲してしまい、そのままではナノワイヤーとしての要求を満たさない。そのため、DNAナノワイヤーの製造のために、種々の技術が開発されてきた。
【0004】
DNAナノワイヤーの製造方法として、酵素法、すなわち、短いODN(オリゴデオキシリボ核酸)をリガーゼによって繋げてゆく方法によって、DNAナノワイヤーを製造することが、提案されているが、酵素反応を使用することから酵素の至適条件を維持する必要があり、得られるDNAナノワイヤーの剛直性は、通常の二重らせんと同程度であって全く不十分である。
【0005】
非特許文献1では、G−quadplex構造を用いて、G−wireと呼ぶDNAナノワイヤーを構成する試みが開示されている。しかし、非特許文献1では、4本の鎖でDNAナノワイヤーを構成して剛直性を維持しようとするものとなっていることから、得られるG−wireの太さは二重らせんの4倍の太さとなってしまい、得られる長さも短くて、1μmに達しない程度に過ぎないという短所がある。
【0006】
非特許文献2では、DX tile構造に基づいて、DNAナノワイヤーを構成する試みが開示されている。しかし、非特許文献2では、網目構造を有し、複数の二重らせんを束ねて剛直性を維持しようとするものとなっていることから、得られる構造は、幅が数十nm程度と非常に太くなってしまい、さらに構造の制御が極めて難しく、製造の操作も複雑であるという短所がある。
【0007】
非特許文献3では、DNA origami技術を用いて、DNAナノワイヤーを構成する試みが開示されている。しかし、非特許文献3では、複数の二重らせんを束ねて剛直性を維持しようとするものとなっていることから、得られる構造は、幅が数十nm程度と非常に太くなってしまい、製造の操作も複雑であるという短所がある。
【0008】
このように、DNAナノワイヤーの剛直性を高めるために、複数の二重らせんDNA鎖を束ねると、DNAナノ配線に必要な細さが失われてしまう。また、DNAナノワイヤーを長くしようとすると、その製造の操作は複雑となり、時間を要し、種々の条件を微妙に調整する必要があり、その製造は容易ではないものとなる。このように、細さ、長さ、剛直性などの点で十分な特性を備えたDNAナノワイヤーを、容易かつ短時間に製造する方法は、存在していなかった。
【0009】
本発明者の研究グループによって、光応答性人工ヌクレオチドが開発され、特許出願が行われている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開公報WO2009/066447号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】"A new DNA nanostructure, the G-wire, imaging scaning probe microscopy", March T C, Vesenka J, Henderson E. 1995, Nucleic Acds Res, Feb 25;23(4); 969-700
【非特許文献2】"DNA-Template Self-Assembly of Protein and Highly Conductive Nanowire", Hao Yan, Sung Ha Park, Gleb Finkelstein, John Relf, Thomas H Labean, 2003, Science, September 26, vol301, p1882-1884
【非特許文献3】"Interconnecting Gold Islands with DNA Origami nanotubes", Baoquan Ding, hao Wu, Wei Xu, Zhao Zhao, Yan Liu, Hongbin Yu, Hao Yan, 2010, Nano Letter, Vol10, 5065-5069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、細さ、長さ、剛直性などの点で十分な特性を備えたDNAナノワイヤー(核酸ナノワイヤー)の新しい製造方法が求められていた。したがって、本発明の目的は、細さ、長さ、剛直性などの点で十分な特性を備えた核酸ナノワイヤーの新しい製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、核酸ナノワイヤーの製造方法について、鋭意研究を行ってきたところ、所定の相補的塩基配列を備えた一本鎖核酸群を単量体としてハイブリダイズさせて、これらの単量体が相補的塩基対を形成して、二重らせんとなった2本鎖多量体を伸長させて、この2本鎖多量体のなかの所定の位置にあらかじめ導入しておいたビニルカルバゾール構造を有する光応答性の人工塩基に光照射して、光架橋を形成させることによって、この2本鎖多量体が核酸ナノワイヤーとなることを見いだして、本発明に到達した。
【0014】
このようにして得られた核酸ナノワイヤーは、細さ、長さ、剛直性などの点で十分な特性を備えたものとなっており、永らく求められていたものであった。また、この核酸ナノワイヤーを製造するための光架橋は、上記光応答性の人工塩基を導入すれば、数秒程度の光照射で形成されるために、非常に簡便かつ迅速であり、複雑な操作を必要としない。そこで、本発明は、簡便かつ迅速な核酸ナノワイヤーの製造方法を新たに提供するものである。さらに、本発明は、この核酸ナノワイヤーの製造のために使用される1本鎖核酸の群を新たに提供するものである。
【0015】
したがって、本発明は、次の(1)〜 にもある。
(1)
核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群であって、

1本鎖核酸群は、
1番目の1本鎖の核酸M1
2番目の1本鎖の核酸M2
3番目の1本鎖の核酸M3
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mn
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mz
(ただし、nは、0または2以上の偶数であってzより小さく、
n+1は、1以上の奇数であってzより小さく、
zは、1以上の整数である)
を含んでなり、

1番目の1本鎖の核酸M1は、
5’末端側の塩基配列m1aと3’末端側の塩基配列m2aとからなり、
2番目の1本鎖の核酸M2は、
5’末端側の塩基配列m3aと3’末端側の塩基配列m2bとからなり、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
5’末端側の塩基配列m3bと3’末端側の塩基配列m4aとからなり、
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mnは、(ただし、nは、0または2以上の偶数であってzより小さい)
5’末端側の塩基配列m(n+1)aと3’末端側の塩基配列mnbとからなり、
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、(ただし、n+1は、1以上の奇数であってzより小さい)
5’末端側の塩基配列m(n+1)bと3’末端側の塩基配列m(n+2)aとからなり、
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mzは、(ただし、zは、1以上の整数)
zが偶数である場合には、
5’末端側の塩基配列m(z+1)aと3’末端側の塩基配列mzbとからなり、
zが奇数である場合には、
5’末端側の塩基配列mzbと3’末端側の塩基配列m(z+1)aとからなり、

1番目の1本鎖の核酸M1は、
塩基配列m2aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m2bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
2番目の1本鎖の核酸M2は、
塩基配列m3aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m3bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
塩基配列m4aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m4bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mnは、
塩基配列m(n+1)aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m(n+1)bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、
塩基配列m(n+2)aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m(n+2)bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mzは、
塩基配列m(z+1)aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m1aの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、

上記の相補的な塩基配列の組は、それぞれの組のなかの少なくとも一方の塩基配列のなかの少なくとも1箇所に、次式I:
【0016】
【化1】
【0017】
(ただし、式I中、Raは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
R1及びR2は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
N−は、Nの一価基を表す。)

で表される人工塩基を、塩基配列中の核酸塩基として有し、
上記の相補的な塩基配列の組は、上記式Iで表される人工塩基に対して、相補的な塩基が位置すべき核酸の塩基配列の中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
上記の相補的な塩基配列の組は、上記式Iで表される人工塩基に対して、相補的な塩基が位置すべき塩基配列の中の位置の、3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【0018】
(2)
1番目の1本鎖の核酸M1は、
塩基配列m2aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
2番目の1本鎖の核酸M2は、
塩基配列m3aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
塩基配列m4aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mnは、
塩基配列m(n+1)aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、
塩基配列m(n+2)aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mzは、
塩基配列m(z+1)aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有する、(1)に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【0019】
(3)
1番目の1本鎖の核酸M1は、
塩基配列m1aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
塩基配列m2aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
塩基配列m3bの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
塩基配列m4aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
・・・
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、
塩基配列m(n+1)bの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
塩基配列m(n+2)aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
最後の核酸の直前の核酸であるz−1番目の1本鎖の核酸Mz-1は、
塩基配列mzaの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
塩基配列m(z-1)bの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有する、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【0020】
(4)
(1)又は(2)に記載された1本鎖核酸群において、
zが2であり、
1番目の1本鎖の核酸M1が、1本鎖の核酸Aであり、
5’末端側の塩基配列m1aが、5’末端側の塩基配列paであり、
3’末端側の塩基配列m2aが、3’末端側の塩基配列qaであり、
2番目の1本鎖の核酸M2が、1本鎖の核酸Bであり、
5’末端側の塩基配列m3aが、5’末端側の塩基配列pbであり、
3’末端側の塩基配列m2bが、3’末端側の塩基配列qbであって、

5’末端側の塩基配列paと3’末端側の塩基配列qaとからなる1本鎖の核酸Aと、
5’末端側の塩基配列pbと3’末端側の塩基配列qbとからなる1本鎖の核酸Bとからなり、

一本鎖の核酸Aと一本鎖の核酸Bにおいて、
塩基配列qaの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列qbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
塩基配列paの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列pbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、

一本鎖の核酸Aは、少なくとも塩基配列qaの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、次式I:
【0021】
【化2】
【0022】
(ただし、式I中、Raは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
R1及びR2は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
N−は、Nの一価基を表す。)

で表される人工塩基を有し、
一本鎖の核酸Bは、一本鎖の核酸Aの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Bの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
一本鎖の核酸Bは、一本鎖の核酸Aの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Bの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有し、

一本鎖の核酸Bは、少なくとも塩基配列pbの中の少なくとも1箇所の核酸塩基として、上記式Iで表される人工塩基を有し、
一本鎖の核酸Aは、一本鎖の核酸Bの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Aの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
一本鎖の核酸Aは、一本鎖の核酸Bの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Aの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【0023】
(5)
(1)又は(3)に記載された1本鎖核酸群において、
zが2であり、
1番目の1本鎖の核酸M1が、1本鎖の核酸Cであり、
5’末端側の塩基配列m1aが、5’末端側の塩基配列paであり、
3’末端側の塩基配列m2aが、3’末端側の塩基配列qaであり、
2番目の1本鎖の核酸M2が、1本鎖の核酸Dであり、
5’末端側の塩基配列m3aが、5’末端側の塩基配列pbであり、
3’末端側の塩基配列m2bが、3’末端側の塩基配列qbであって、

5’末端側の塩基配列paと3’末端側の塩基配列qaとからなる1本鎖の核酸Cと、
5’末端側の塩基配列pbと3’末端側の塩基配列qbとからなる1本鎖の核酸Dとからなり、

一本鎖の核酸Cと一本鎖の核酸Dにおいて、
塩基配列qaの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列qbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
塩基配列paの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列pbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、

一本鎖の核酸Cは、塩基配列qaの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、次式I:
【0024】
【化3】
【0025】
(ただし、式I中、Raは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
R1及びR2は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
N−は、Nの一価基を表す。)

で表される人工塩基を有し、
一本鎖の核酸Cは、塩基配列paの中の少なくとも1箇所の核酸塩基として、上記式Iで表される人工塩基を有し、

一本鎖の核酸Dは、一本鎖の核酸Cの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Dの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
一本鎖の核酸Dは、一本鎖の核酸Cの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Dの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【0026】
(6)
(1)又は(2)に記載された1本鎖核酸群において、
zが1であり、
1番目の1本鎖の核酸M1が、1本鎖の核酸Eであり、
5’末端側の塩基配列m1aが、5’末端側の塩基配列raであり、
3’末端側の塩基配列m2aが、3’末端側の塩基配列rbであって、

5’末端側の塩基配列raと3’末端側の塩基配列rbとからなる1本鎖の核酸Eからなり、

1本鎖の核酸Eにおいて、
塩基配列raの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列aの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
塩基配列rbの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列rbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、

一本鎖の核酸Eは、塩基配列raの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、次式I:
【0027】
【化4】
【0028】
(ただし、式I中、Raは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
R1及びR2は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、C2〜C7のアルコキシカルボニル基、又は水素であり、
N−は、Nの一価基を表す。)

で表される人工塩基を有し、
一本鎖の核酸Eは、塩基配列rbの中の少なくとも1箇所の核酸塩基として、上記式Iで表される人工塩基を有し、

一本鎖の核酸Eは、一本鎖の核酸Eの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Eの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
一本鎖の核酸Eは、一本鎖の核酸Eの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Eの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【0029】
(7)
zが、1〜6の整数である、(1)に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
(8)
1本鎖核酸の長さが、12〜120塩基の長さである、(1)〜(7)に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群。
【0030】
さらに、本発明は、次の(11)〜 にもある。
(11)
(1)〜(8)のいずれかに記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群を、ハイブリダイズさせて、一本鎖核酸群に含まれる一本鎖核酸を単量体として含む、2本鎖核酸多量体を調製する工程、
調製された2本鎖核酸多量体に光照射して、ハイブリダイズした一本鎖核酸の分子間に、光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、
を含む、核酸ナノワイヤーの製造方法。
(12)
(4)に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群に含まれる1本鎖の核酸Aと1本鎖の核酸Bとを、単量体として、ハイブリダイズさせて、核酸A単量体と核酸B単量体を含む、2本鎖核酸AB多量体を調製する工程、
調製された2本鎖核酸AB多量体に光照射して、2本鎖核酸AB多量体を構成する核酸A単量体および核酸B単量体の分子間に光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、
を含む、核酸ナノワイヤーの製造方法。
(13)
(5)に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群に含まれる1本鎖の核酸Cと1本鎖の核酸Dとを、単量体として、ハイブリダイズさせて、核酸C単量体と核酸D単量体を含む、2本鎖核酸CD多量体を調製する工程、
調製された2本鎖核酸CD多量体に光照射して、2本鎖核酸CD多量体を構成する核酸C単量体および核酸D単量体の分子間に光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、
を含む、核酸ナノワイヤーの製造方法。
(14)
(6)に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群に含まれる1本鎖の核酸Eを、単量体として、ハイブリダイズさせて、核酸E単量体を含む、2本鎖核酸EE多量体を調製する工程、
調製された2本鎖核酸EE多量体に光照射して、2本鎖核酸EE多量体を構成する核酸E単量体の分子間に光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、
を含む、核酸ナノワイヤーの製造方法。
(15)
光照射が、366nmの波長を含む光の光照射である、(11)〜(14)のいずれかに記載の製造方法。
(16)
光照射が、0.01〜30秒間の光照射である、(11)〜(15)のいずれかに記載の製造方法。
(17)
光照射が、0〜30℃の範囲の温度で行われる、(11)〜(16)のいずれかに記載の製造方法。
(18)
ハイブリダイズが、少なくとも70℃から30℃までの冷却の間、0.5〜4℃/時間の冷却速度で冷却してアニーリングを行う工程を含む、(11)〜(17)のいずれかに記載の製造方法。
(19)
(11)〜(18)のいずれかに記載の製造方法によって製造された核酸ナノワイヤー。
【0031】
さらに、本発明は、次の(21)〜 にもある。
(21)
(1)〜(8)のいずれかに記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群をハイブリダイズした2本鎖核酸多量体が、光架橋されてなる、核酸ナノワイヤー。
(22)
(4)に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群に含まれる1本鎖の核酸Aと1本鎖の核酸Bとをハイブリダイズした2本鎖核酸AB多量体が、光架橋されてなる、核酸ナノワイヤー。
(23)
(5)に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群に含まれる1本鎖の核酸Cと1本鎖の核酸Dとをハイブリダイズした2本鎖核酸CD多量体が、光架橋されてなる、核酸ナノワイヤー。
(24)
(6)に記載の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群に含まれる1本鎖の核酸Eをハイブリダイズした2本鎖核酸EE多量体が、光架橋されてなる、核酸ナノワイヤー。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、核酸ナノワイヤーを提供する。本発明による核酸ナノワイヤーは、直径が核酸の二重らせんの直径となるために、核酸ナノワイヤーとして実現可能な最小の直径を有しており、理論的に最も細いナノワイヤーとなっている。また、本発明による核酸ナノワイヤーは、高い剛直性と、十分な長さを備えている。このように、本発明は、細さ、長さ、剛直性などの点で十分な特性を備えた核酸ナノワイヤーを提供するものであり、永らく求められていた核酸ナノワイヤーを提供するものである。
【0033】
また、本発明によれば、このように優れた核酸ナノワイヤーを簡便かつ迅速に製造することができる。本発明は、永らく求められていた、核酸ナノワイヤーの実用的な製造方法を、提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1CNVKを含むODNを2種類用いた核酸ナノワイヤーの変性PAGE結果写真である。
図2図2は核酸ナノワイヤーのAFM写真である。
図3図3は核酸ナノワイヤーのAFMによる高低差分析プロファイルである。
図4図4は多数の核酸ナノワイヤーのAFM写真である。
図5図5は核酸ナノワイヤーの長さ分布を示すヒストグラムである。
図6図6CNVKを含むODNと天然のDNA配列を用いた核酸ナノワイヤーの変性PAGE結果写真である。
図7図7CNVKを含むODNと天然のRNA配列を用いた核酸ナノワイヤーの変性PAGE結果写真である。
図8図8CNVKを2箇所に含むODNを用いた核酸ナノワイヤーの変性PAGE結果写真である。
図9図9は光照射時間を変えた核酸ナノワイヤーの長さ分布を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施他の形態に限定されるものではない。
[核酸ナノワイヤーの製造方法の概要]
本発明に係る核酸ナノワイヤーの製造方法は、
核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群を、ハイブリダイズさせて、一本鎖核酸群に含まれる一本鎖核酸を単量体として含む、2本鎖核酸多量体を調製する工程、
調製された2本鎖核酸多量体に光照射して、ハイブリダイズした一本鎖核酸の分子間に、光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、
を含む、核酸ナノワイヤーの製造方法にある。
【0036】
[核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群]
上記の核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群とは、
1番目の1本鎖の核酸M1
2番目の1本鎖の核酸M2
3番目の1本鎖の核酸M3
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mn
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mz
(ただし、nは、0または2以上の偶数であってzより小さく、
n+1は、1以上の奇数であってzより小さく、
zは、1以上の整数である)
を含んでなるものである。
【0037】
本発明では、これらの1本鎖核酸が、ハイブリダイズの操作によって、相補的塩基対を形成して、いわば単量体として重合して、二重らせんとなり、2本鎖多量体を形成する。使用される1本鎖核酸の分子の種類には、z番目まで分子の種類がある。使用される1本鎖核酸の分子の種類の数、すなわちzには、原理的には上限がないが、例えば、zは1〜100、1〜50、1〜20、1〜10、1〜8、1〜6、1〜5、1〜4、1〜3、1〜2の範囲の整数とすることができる。より少ない種類の材料で効率的に核酸ナノポリマーを生産するためには、zが小さいほうが好ましいが、所望の機能や複雑度を付与するために、所望のzを採用して核酸ナノポリマーを製造することができる。上記M2、M3、MnおよびMn+1、あるいはn、n+1は、説明のために用いたパラメータであり、これらの記載の存在によって、zの値の範囲が、制限されるものではない。
【0038】
また、このzの数によって規定される、使用される1本鎖核酸の分子の種類の数とは別に、同じ塩基配列を有する1本鎖核酸の分子のなかに、一定の割合で、任意の修飾を行った修飾分子を混合して、核酸ナノワイヤーに特定の性質を付与することもできる。
【0039】
[1本鎖核酸の塩基配列の相補性]
上記の1本鎖核酸は、その塩基配列について、
1番目の1本鎖の核酸M1は、
5’末端側の塩基配列m1aと3’末端側の塩基配列m2aとからなり、
2番目の1本鎖の核酸M2は、
5’末端側の塩基配列m3aと3’末端側の塩基配列m2bとからなり、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
5’末端側の塩基配列m3bと3’末端側の塩基配列m4aとからなり、
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mnは、(ただし、nは、0または2以上の偶数であってzより小さい)
5’末端側の塩基配列m(n+1)aと3’末端側の塩基配列mnbとからなり、
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、(ただし、n+1は、1以上の奇数であってzより小さい)
5’末端側の塩基配列m(n+1)bと3’末端側の塩基配列m(n+2)aとからなり、
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mzは、(ただし、zは、1以上の整数)
zが偶数である場合には、
5’末端側の塩基配列m(z+1)aと3’末端側の塩基配列mzbとからなり、
zが奇数である場合には、
5’末端側の塩基配列mzbと3’末端側の塩基配列m(z+1)aとからなる、
という構成を有しており、これらが、それぞれ、塩基配列の相補性に関して、
1番目の1本鎖の核酸M1は、
塩基配列m2aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m2bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
2番目の1本鎖の核酸M2は、
塩基配列m3aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m3bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
塩基配列m4aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m4bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mnは、
塩基配列m(n+1)aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m(n+1)bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、
塩基配列m(n+2)aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m(n+2)bの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mzは、
塩基配列m(z+1)aの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列m1aの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列である、
という相補性の関係を有している。
【0040】
このような相補性の関係にある塩基配列を備えることによって、1本鎖核酸は、その本来の相補性に基づいて、ハイブリダイズの操作によって、これらの核酸M1、M2、M3、・・・、Mn、Mn+1、Mzが、順に二重らせんを形成して、この一群の1本鎖核酸を1周期とする繰り返し構造をとりつつ棒状に伸長して、2本鎖多量体というべき構造を形成する。
【0041】
1本鎖核酸群において、zが2である場合には、例えば、
1番目の1本鎖の核酸M1は、5’末端側の塩基配列paと3’末端側の塩基配列qaとからなる1本鎖の核酸Aであり、
2番目の1本鎖の核酸M2は、5’末端側の塩基配列pbと3’末端側の塩基配列qbとからなる1本鎖の核酸Bであり、
この一本鎖の核酸Aと一本鎖の核酸Bにおいて、塩基配列qaの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列qbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、塩基配列paの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列pbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列である、
という相補性の関係を有している。
【0042】
このようにzが2である場合には、1本鎖核酸AおよびBは、その本来の相補性に基づいて、ハイブリダイズの操作によって、ABABAB・・・という順に二重らせんを形成して、このABを1周期とする繰り返し構造をとりつつ棒状に伸長して、2本鎖AB多量体というべき構造を形成する。相補性による多量体形成については、例えば、一本鎖核酸CおよびDを使用した場合でも、同様である。
【0043】
1本鎖核酸群において、zが1である場合には、例えば、
1番目の1本鎖の核酸M1が、1本鎖の核酸Eであり、
5’末端側の塩基配列m1aが、5’末端側の塩基配列raであり、
3’末端側の塩基配列m2aが、3’末端側の塩基配列rbであって、
5’末端側の塩基配列raと3’末端側の塩基配列rbとからなる1本鎖の核酸Eからなり、
1本鎖の核酸Eにおいて、塩基配列raの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列aの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列であり、塩基配列rbの5’末端から3’末端への配列が、塩基配列rbの3’末端から5’末端への配列と、相補的な塩基配列である、という相補性の関係を有している。
【0044】
このようにzが1である場合には、1本鎖核酸Eは、その本来の相補性に基づいて、ハイブリダイズの操作によって、EEEEEE・・・という順に二重らせんを形成して、このEを1周期とする繰り返し構造をとりつつ棒状に伸長して、2本鎖EE多量体というべき構造を形成する。
【0045】
本発明においては、使用される1本鎖核酸の長さは、このような相補性に基づいて、2本鎖多量体を形成し得る長さの塩基配列であれば、特に制限はない。1本鎖核酸の長さは、例えば、12〜120塩基、12〜60塩基、14〜50塩基、16〜40塩基、16〜32塩基、18〜28塩基、18〜24塩基、とすることができる。それぞれの種類の1本鎖核酸の長さは、上記の相補性の関係を満たすものであれば、同じであってもよく、異なっていてもよい。好適な実施の態様において、同じ長さの1本鎖核酸を、使用することができる。1本鎖核酸の中の5’末端側および3’末端の各塩基配列は、上記の相補性の関係を満たすものであれば、同じであってもよく、異なっていてもよい。好適な実施の態様において、同じ長さの塩基配列を、使用することができる。
【0046】
[ビニルカルバゾール構造を有する光応答性の人工塩基]
本発明において、一本鎖の核酸は、光架橋を形成させるために、次式I:
【0047】
【化5】
【0048】
で表される人工塩基が、核酸中でジエステル結合したヌクレオチドの塩基部分として、天然の核酸塩基の塩基部分に置換されて、導入されている。
【0049】
Raは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、又は水素であり、好ましくは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、又は水素であり、さらに好ましくは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、又はアルコキシカルボニル基である。アルコキシカルボニル基は、好ましくはC2〜C7、さらに好ましくはC2〜C6、さらに好ましくはC2〜C5、さらに好ましくはC2〜C4、さらに好ましくはC2〜C3、特に好ましくはC2のものを使用することができる。
【0050】
R1及びR2は、それぞれ独立に、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、又は水素であり、好ましくは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、又は水素であり、さらに好ましくは、シアノ基、アミド基、カルボキシル基、又はアルコキシカルボニル基である。アルコキシカルボニル基は、好ましくはC2〜C7、さらに好ましくはC2〜C6、さらに好ましくはC2〜C5、さらに好ましくはC2〜C4、さらに好ましくはC2〜C3、特に好ましくはC2のものを使用することができる。
【0051】
上記のN−は、Nの一価基を表し、この部分が五単糖の1位にグリコシド結合して、人工塩基として導入されている。すなわち、次式II:
【0052】
【化6】
【0053】
で表されるリボヌクレオチド、または、次式III:
【0054】
【化7】
【0055】
で表されるデオキシリボヌクレオチドが、リン酸ジエステル結合によって、核酸の塩基配列中に導入されて、次式IV:
【0056】
【化8】
【0057】
で表される核酸(ただし、Rbは、式Iの基が塩基部分として導入されたリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドが、リン酸ジエステル結合によって塩基配列中に導入された核酸の鎖を表す)となっている。なお、別途説明しているように、1本鎖の核酸に導入される式Iの人工塩基の数は、1個に限られるものではない。
【0058】
上記ビニルカルバゾール構造を有する光応答性の人工塩基を導入した核酸と、それに相補的な塩基配列を有する核酸とをハイブリダイズさせて、二重らせんを形成させることができ、形成した二重らせんに光照射を行うと、ハイブリダイズした相手方の核酸の配列中において、光反応性の人工塩基と相補的に対応して塩基対となるべき塩基から1塩基分だけ3’末端側にある塩基と、光架橋を形成する。
【0059】
この光応答性の人工塩基が光架橋を形成可能である相手方の塩基は、ピリミジン環を有する塩基である。一方で、この光応答性の人工塩基は、プリン環を有する塩基とは光架橋を形成しない。すなわち、この光応答性の人工塩基は、天然の核酸塩基としては、シトシン、ウラシル、及びチミンに対して光架橋を形成し、一方で、グアニン及びアデニンに対しては光架橋を形成しないという、強い特異性を有している。したがって、本発明においては、それぞれの1本鎖核酸の相補的な関係は、光応答性の人工塩基に関して、この条件を満たすようになっている。一方、ハイブリダイズした相手方の核酸の配列中において、この光応答性の人工塩基と塩基対となるべき塩基の位置にある塩基については、相補鎖による2重らせんの形成を妨げない限りは、特段の制約がなく、どのような塩基であってもよく、例えば、天然の核酸塩基としては、シトシン、ウラシル、チミン、グアニン及びアデニンのいずれであっても使用することができる。
【0060】
[1本鎖核酸への光応答性の人工塩基の導入の態様]
本発明の1本鎖核酸群のなかの上述した相補的な塩基配列の組は、それぞれの組のなかの少なくとも一方の塩基配列のなかの少なくとも1箇所に、上記式Iで表される人工塩基を、塩基配列中の核酸塩基の塩基部分として、有している。このように、人工塩基が導入されることによって、上述した相補的な塩基配列の組の全てを、それぞれ、光架橋によって共有結合的に結合することができる。また、このような光架橋の形成のために、上記の相補的な塩基配列の組は、上記式Iで表される人工塩基に対して、相補的な塩基が位置すべき核酸の塩基配列の中の位置に、相補鎖による2重らせんの形成を妨げない限りは、どのような核酸塩基を有していてもよく、上記の相補的な塩基配列の組は、上記式Iで表される人工塩基に対して、相補的な塩基が位置すべき塩基配列の中の位置の、3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有するものとなっている。
【0061】
本発明の好適な実施の態様において、本発明の1本鎖核酸群においては、その全ての種類の1本鎖核酸の分子に、上記ビニルカルバゾール構造を有する光応答性の人工塩基を核酸塩基の塩基部分として導入されたものとすることができる。また、これとは別な好適な実施の態様において、本発明の1本鎖核酸群においては、その全ての種類の1本鎖核酸の分子のうちの半数に、上記ビニルカルバゾール構造を有する光応答性の人工塩基を核酸塩基の塩基部分として導入されたものとすることができ、残りの半数には光応答性の人工塩基を核酸塩基の塩基部分として導入される必要がないものとすることができる。
【0062】
好適な実施の態様において、本発明の1本鎖核酸群においては、次の条件(J):
1番目の1本鎖の核酸M1は、
塩基配列m2aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
2番目の1本鎖の核酸M2は、
塩基配列m3aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
塩基配列m4aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
・・・
n番目の1本鎖の核酸Mnは、
塩基配列m(n+1)aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、
塩基配列m(n+2)aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
最後の核酸であるz番目の1本鎖の核酸Mzは、
塩基配列m(z+1)aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
これらの1本鎖の核酸は、それぞれの1本鎖の核酸の塩基配列と相補的な塩基配列を有する1本鎖の核酸に含まれる上記式Iで表される人工塩基に対して、相補的な塩基が位置すべき核酸の塩基配列の中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
これらの1本鎖の核酸は、上記式Iで表される人工塩基に対して相補的な塩基が位置すべき塩基配列の中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、という条件(J)
を、満たすものとすることができる。
【0063】
この条件(J)は、例えば、zが2である場合には、上述した1本鎖核酸AおよびBの場合にあたり、1本鎖の核酸Aは、少なくとも塩基配列qaの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、上記式Iで表される人工塩基を有し、1本鎖の核酸Bは、1本鎖の核酸Aの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Bの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、1本鎖の核酸Bは、1本鎖の核酸Aの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Bの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有し、一本鎖の核酸Bは、少なくとも塩基配列pbの中の少なくとも1箇所の核酸塩基として、上記式Iで表される人工塩基を有し、1本鎖の核酸Aは、1本鎖の核酸Bの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Aの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、1本鎖の核酸Aは、一本鎖の核酸Bの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Aの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、というものとなる。このような条件が満たされれば、必要な光架橋は形成されるのであるから、剛直性などの所望に応じて、式Iで表される人工塩基をさらに導入することもできる。
【0064】
好適な実施の態様において、、本発明の1本鎖核酸群においては、次の条件(K):
1番目の1本鎖の核酸M1は、
塩基配列m1aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
塩基配列m2aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
3番目の1本鎖の核酸M3は、
塩基配列m3bの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
塩基配列m4aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
・・・
n+1番目の1本鎖の核酸Mn+1は、
塩基配列m(n+1)bの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
塩基配列m(n+2)aの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
最後の核酸の直前の核酸であるz−1番目の1本鎖の核酸Mz-1は、
塩基配列mzaの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
塩基配列m(z-1)bの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、式Iで表される人工塩基を有し、
これらの1本鎖の核酸は、それぞれの1本鎖の核酸の塩基配列と相補的な塩基配列を有する1本鎖の核酸に含まれる上記式Iで表される人工塩基に対して、相補的な塩基が位置すべき核酸の塩基配列の中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、
これらの1本鎖の核酸は、上記式Iで表される人工塩基に対して相補的な塩基が位置すべき塩基配列の中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、という条件(K)
(ただし、条件(K)においては、zが2以上の偶数である)
を、満たすものとすることができる。
【0065】
この条件(K)は、例えば、zが2である場合には、上述した1本鎖核酸CおよびDの場合にあたり、一本鎖の核酸Cは、塩基配列qaの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、上記式Iで表される人工塩基を有し、一本鎖の核酸Cは、塩基配列paの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、上記式Iで表される人工塩基を有し、一本鎖の核酸Dは、一本鎖の核酸Cの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Dの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、一本鎖の核酸Dは、一本鎖の核酸Cの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Dの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、というものとなる。この場合には、一本鎖の核酸Cの中に2箇所の人工塩基が導入され、1本鎖の核酸Dのなかには人工塩基が導入される必要がないものとなっている。このような条件が満たされれば、必要な光架橋は形成されるのであるから、剛直性などの所望に応じて、式Iで表される人工塩基をさらに導入することもできる。したがって、さらに、1本鎖の核酸Dのなかに人工塩基が導入されてもよい。
【0066】
この条件(K)は、例えば、zが1である場合には、上述した1本鎖核酸Eの場合にあたり、一本鎖の核酸Eは、塩基配列raの中の少なくとも1箇所の核酸塩基の塩基部分として、上記式Iで表される人工塩基を有し、一本鎖の核酸Eは、塩基配列rbの中の少なくとも1箇所の核酸塩基として、上記式Iで表される人工塩基を有し、一本鎖の核酸Eは、一本鎖の核酸Eの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Eの中の位置に、どのような核酸塩基を有していてもよく、一本鎖の核酸Eは、一本鎖の核酸Eの中の上記式Iで表される人工塩基と相補的な塩基が位置すべき核酸Eの中の位置の3’末端側の隣の位置の塩基として、ピリミジン環を有する核酸塩基を有する、というものとなる。この場合には、1本鎖の核酸Eの中に少なくとも1箇所の人工塩基が導入されたものとなっており、必要な光架橋の形成はなされるが、剛直性などの所望に応じて、式Iで表される人工塩基をさらに導入することもできる。
【0067】
[核酸ナノワイヤーの製造方法の態様]
上述のように、本発明に係る核酸ナノワイヤーの製造方法は、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群を、ハイブリダイズさせて、一本鎖核酸群に含まれる一本鎖核酸を単量体として含む、2本鎖核酸多量体を調製する工程、調製された2本鎖核酸多量体に光照射して、ハイブリダイズした一本鎖核酸の分子間に、光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、を含む方法によって、製造することができる。
【0068】
上述した1本鎖の核酸AおよびBの場合には、これらの工程は、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群に含まれる1本鎖の核酸Aと1本鎖の核酸Bとを、単量体として、ハイブリダイズさせて、核酸A単量体と核酸B単量体を含む、2本鎖核酸AB多量体を調製する工程、調製された2本鎖核酸AB多量体に光照射して、2本鎖核酸AB多量体を構成する核酸A単量体および核酸B単量体の分子間に光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、というものとなる。
【0069】
また、上述した1本鎖の核酸CおよびDの場合には、これらの工程は、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群に含まれる1本鎖の核酸Cと1本鎖の核酸Dとを、単量体として、ハイブリダイズさせて、核酸C単量体と核酸D単量体を含む、2本鎖核酸CD多量体を調製する工程、調製された2本鎖核酸CD多量体に光照射して、2本鎖核酸CD多量体を構成する核酸C単量体および核酸D単量体の分子間に光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、というものとなる。
【0070】
また、上述した1本鎖の核酸Eの場合には、これらの工程は、核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群に含まれる1本鎖の核酸Eを、単量体として、ハイブリダイズさせて、核酸E単量体を含む、2本鎖核酸EE多量体を調製する工程、調製された2本鎖核酸EE多量体に光照射して、2本鎖核酸EE多量体を構成する核酸E単量体の分子間に光架橋を形成して、核酸ナノワイヤーを得る工程、というものとなる。
【0071】
[ハイブリダイズ]
核酸ナノワイヤー製造用1本鎖核酸群のハイブリダイズは、1本鎖の核酸をハイブリダイズさせて配列特異的に二重らせんを形成させるために用いられる公知の手順と条件によって、行うことができる。好ましい実施の態様において、1本鎖の核酸が十分に解離する温度まで加熱し、例えば、88〜96℃、89〜95℃、90〜94℃の範囲の温度に加熱し、例えば、30〜600秒、60〜300秒の範囲の時間、それを保持して十分に解離させて、次に配列特異的なアニーリングが生じるように徐冷し、例えば、少なくとも70℃から30℃までの冷却の間、あるいは少なくとも70℃から25℃までの冷却の間、あるいは少なくとも70℃から4℃までの冷却の間、例えば、0.5〜4℃/時間、0.7〜2℃/時間、0.8〜1.2℃/時間の冷却速度で徐冷して、アニーリングを行うことによって、ハイブリダイズを実施することができる。好適な実施の態様において、冷却は、光照射を行う温度に到達するまで、行うことができる。
【0072】
[光照射]
光架橋を形成させるための光照射は、一般に330〜370nmの範囲、好ましくは330〜360nmの波長を含む光を使用することができる。また、好適な実施の態様において、366nmの波長を含む光、特に好ましくは、366nmの単波長のレーザー光を使用することができる。光架橋反応を進行させるためには、一般に0〜50℃、好ましくは0〜40℃、さらに好ましくは0〜30℃の範囲の温度、例えば0〜25℃、4〜30℃、4〜25℃の範囲の温度で光照射を行うことができる。好適な実施の態様において、1本鎖の核酸としてDNAを使用する場合に、例えば、0〜30℃、4〜25℃、0〜10℃、0〜6℃、0〜5℃、0〜4℃の範囲の温度で光照射を行うことができる。好適な実施の態様において、1本鎖の核酸としてRNAを使用する場合に、例えば、0〜30℃、4〜30℃、4〜25℃、10〜30℃、15〜30℃、20〜30℃、20〜25℃の範囲の温度で光照射を行うことができる。この光架橋は、光反応を使用しているために、光照射時のpH、塩濃度などに特段の制約がない点で有利である。この光架橋の形成は、光照射によって極めて迅速に進行するために、光照射の時間は、酵素反応などと比較して、極めて短時間で十分であり、例えば、0.01〜30秒間、0.01〜20秒間、0.01〜20秒間、0.05〜10秒間、0.1〜10秒間、0.1〜5秒間、0.1〜1秒間などの光照射時間とすることができる。この光架橋の形成は、極めて短時間で生じる一方で、本発明では、この光照射時間の長短の制御によって、核酸ナノワイヤーの長さを、制御することができる。光照射時間を長くすることによって、核酸ナノワイヤーの長さを長くすることができる。光照射によって生じる光架橋は、共有結合であって、十分に安定であり、例えば、核酸二重らせんが完全に解離してしまうような強い変性条件下においても、切断されることはない。
【0073】
[核酸ナノワイヤー]
本発明の核酸ナノワイヤーは、その直径は、約2nmとなっており、核酸二重らせんと同じ細さとなっていることから、核酸ナノワイヤーとして原理的に考えられる最も小さい直径を、達成している。本発明の核酸ナノワイヤーの長さは、1μmよりも小さな長さのものから、5μmを超える十分な長さのものまでを得ることができる。この長さは、光照射によって制御することができる。本発明の核酸ナノワイヤーは、棒状(直線状)の構造物として得られていることが、AFM観察によって明らかとなっており、高い剛直性を備えている。同条件で、DNA二重らせんをAFM観察した場合には、紐状に屈曲して絡まっていることが通常であるので、本発明の核酸ナノワイヤーが、視野の分子のほぼ全てが棒状(直線状)のワイヤーとして観察されるほどに高い剛直性を備えていることは、驚くべきことである。また、従来からDNAナノワイヤーが、次世代半導体回路の微細化技術において使用される導電性ナノ配線として、有望であると考えられている理由は、π電子を有する環構造が二重らせんの中心にスタッキングされて導電性を発揮することにある。本発明の核酸ナノワイヤーにおいては、導入された人工核酸塩基は、ビニルカルバゾール構造を有しており、すなわち、π電子のスタッキングの連続性を損なわないものとなっている。したがって、本発明の核酸ナノワイヤーは、次世代半導体回路の微細化技術において使用される導電性ナノ配線として、有利なものとなっている。
【実施例】
【0074】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0075】
[製造例1]
[ビニルカルバゾール構造の人工塩基を塩基部分に有するODNの合成]
上記式Iの人工塩基を塩基部分に有する核酸として、次の式V:
【0076】
【化9】
【0077】
で表されるヌクレオチド(CNVK)を塩基配列中に有するODN(オリゴデオキシリボヌクレオチド)を製造するために、次のScheme 1 にしたがって合成を行った。合成は、特許文献1(国際公開公報WO2009/066447号)に開示された手順にしたがって行った。
【0078】
【化10】
【0079】
上記Scheme 1に沿って、carbazoleから3-Iodocarbazole (1)を、さらに3-Cyanovinylcarbazole (2)を、さらに3-Cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside-3’,5’-di-(p-toluoyl)ester (3)を、さらに3-Cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside (4)を、さらに5’-O-(4,4’-dimethoxytrityl)-3-Cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside (5)を、さらに[5’-O-(4,4’-dimethoxytrityl)-3-Cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside-3’-O-(cyano ethoxy-N,N-diisopropylamino)phosphoramidite (6)を、順に合成した。得られた(6)のアミダイト体を、DNA/RNAシンセサイザー(Applied Biosystems社製、ABI3400)によって、アミダイト法によるDNA合成に使用して、3−シアノビニルカルバゾール−1’−β−デオキシリボシド (CNVK)を含有する種々のODN(ODN containing 3-cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside (CNVK))を合成した。合成後、28%アンモニア水を用いて55 ℃で8時間脱保護を行った。その後、HPLCにて精製を行い、質量分析により目的配列であることを確認した。得られたODN配列を、次の表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例1]
[核酸ナノワイヤーの合成(タイプ1)]
1本鎖核酸A(ODN A)と1本鎖核酸B(ODN B)を用いて、CNVKを含むODNを2種類用いて作成したタイプ(Type1)の核酸ナノワイヤーを、以下のように合成した。この合成の流れを、次のScheme 2に示す。
【0082】
Scheme 2に示されているように、ODN AおよびODN Bでは、CNVKに対して相補的塩基対をつくるべき位置の塩基として、T又はGを有しており、CNVKはこの塩基の3’末端側に隣接する塩基であるTに対して、光架橋(矢印で示す)を形成する。
【0083】
【化11】
【0084】
CNVKを含むODN A 12.5 μMとCNVKを含むODN B 12.5 μMをバッファー(100 mM NaCl, 10 mM MgCl2, 20 mM Tris-acetate(pH7.0), 1 mM EDTA, 2% Triton-X)中でアニーリングを行った。アニーリングは最初90 ℃で5分間加熱し、70 ℃から4 ℃まで1時間に1 ℃づつ下がるように行った。その後、UV-LED照射機を用い366 nm光を4 ℃で0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 1, 2, 5秒間照射して光反応物を得た。得られた光反応物の変性PAGE解析結果を図1に示す。
【0085】
[変性PAGE結果]
図1は、次の条件で行った変性PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)の結果である。
・サンプル条件 光照射後のサンプルを8M尿素入りのホルムアミドで10倍希釈
・ゲル 8M 尿素、25%ホルムアミド、15%アクリルアミド
・泳動条件 150 Vで120分間泳動
・染色 10000倍希釈したSYBRgoldで20分間染色
【0086】
図1の各レーンは、左端のレーン(レーン1)から右端のレーン(レーン10)まで、次の通りである。
Lane 1. 25 bp DNA Lader (25 merごとにバンドが現れるラダー)
Lane 2. 光照射を行っていないサンプル
Lane 3. 光照射0.1秒のサンプル
Lane 4. 光照射0.2秒のサンプル
Lane 5. 光照射0.3秒のサンプル
Lane 6. 光照射0.4秒のサンプル
Lane 7. 光照射0.5秒のサンプル
Lane 8. 光照射1秒のサンプル
Lane 9. 光照射2秒のサンプル
Lane 10. 光照射5秒のサンプル
【0087】
変性PAGE解析結果より光照射前(光照射0秒)では変性条件下で単量体の原料しか確認できないが、光照射を行うことによって、バンドが高分子量側にシフトしていっていることが確認できた。これは光照射によるクロスリンク形成によって1本鎖のDNA鎖(単量体)同士がつなぎとめられており、変性条件下でも安定な多量体構造が生じていることが確認された。次にどのような構造が出来ているのかを確認するためにAFM測定を行った。光照射後のサンプルを水もしくはテトラヒドロキシフラン(THF)で50倍希釈した後に3-Aminopropytriethoxysilaneで表面をコートしたMICAに5 μl滴下し、2分間静置、1 mlの水でwashした後、窒素を吹きかけ水分を取り除いてゆき、AFM(原子間力顕微鏡、NanoScope 3D, Veeco)による測定を行った。AFMは大気中で測定を行った。AFM測定結果を図2及び図3に示す。
【0088】
[AFM測定結果]
図2は、5μm×5μmのスキャンサイズのAFM結果を示す写真である。この5μmの正方形の視野を上下左右に4分割したなかの左上のあたる視野に、わずかにたわんだ棒状(ワイヤー状)の構造物が確認される。このワイヤー構造物をほぼ直角に横切る線分が、5μmの正方形の視野の上方中央から左下に示されており、ワイヤーをはさんでこの線分の2箇所に、矢印を付した。
【0089】
この線分に沿って、Z軸(高低差)をプロファイルした結果が、図3である。図3にも、図2の矢印と同じ箇所に、矢印を付した。図3の結果から、矢印の間であって、ちょうどワイヤーが存在する位置に、高さ約2nmのピークが存在すること、すなわち、高さ約2nmの構造物が存在することが確認される。これは、DNA-DNAの二重螺旋構造(B型の二重螺旋)の高さ2 nmとおおよそ一致するため、目的とする構造の核酸ナノワイヤーが得られていることが、確認された。
【0090】
図4は、さらに多数の核酸ナノワイヤーについてのAFM結果を示す写真である。図4の視野や10μm×10μmの正方形であり、視野の右下のバーは、1μmを示す。核酸ナノワイヤーは種々の長さのものが確認され、いずれも棒状に伸びた構造をとっており、剛直性あるワイヤーとなっていることが、確認された。同条件で、DNA二重らせんを観察した場合には、紐状に屈曲して絡まっていることが通常であるので、視野の分子のほぼ全てが剛直性あるワイヤーとして観察されることは、驚くべきことである。
【0091】
図5は、図4のAFM結果から、核酸ナノワイヤーの長さの分布を求めて得られたヒストグラムである。横軸はワイヤーの長さ、縦軸はその長さの分布数を示している。ワイヤーの長さは、1μmに満たないものから5μmを超えるものまで存在し、この条件での平均の長さは2.13μmだった。
【0092】
[実施例2]
[核酸ナノワイヤーの合成(タイプ2)]
CNVKを2箇所に含む1本鎖核酸C(ODN C)と、CNVKを含まない天然の核酸塩基のみからなる1本鎖DNAとを用いて、CNVKを2箇所に含むODNを1種類と天然DNAを用いて作成したタイプ(Type2)の核酸ナノワイヤーを、以下のように合成した。この合成の流れを、次のScheme 3に示す。
【0093】
Scheme 3に示されているように、この場合には、CNVKに対して相補的塩基対をつくるべき位置の塩基として、C又はGを有しており、CNVKはこの塩基の3’末端側に隣接する塩基であるTに対して、光架橋(矢印で示す)を形成する。
【0094】
【化12】
【0095】
CNVKを含まない天然のDNA配列(5’-TGAGGTAGTAGTTTGTGCTGTT-3’) (ODN Dに相当する)12.5 μMと、CNVKを含むODN C 12.5 μMをバッファー(100 mM NaCl, 10 mM MgCl2, 20 mM Tris-acetate(pH7.0), 1 mM EDTA, 2% Triton-X)中でアニーリングを行った。アニーリングは最初90 ℃で5分間加熱し、70 ℃から4 ℃まで1時間に1 ℃づつ下がるように行った。その後、UV-LED照射機を用い366 nm光を4 ℃で0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 1, 2, 5秒間照射した光反応物を得た。得られた光反応物の変性PAGE解析結果を図6に示す。
【0096】
[変性PAGE結果]
図6は、図1と同じ条件で行った変性PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)の結果である。
【0097】
図6の各レーンは、左端のレーン(レーン1)から右端のレーン(レーン10)まで、次の通りである。
Lane 1. 25 bp DNA Lader (25 merごとにバンドが現れるラダー)
Lane 2. 光照射を行っていないサンプル
Lane 3. 光照射0.1秒のサンプル
Lane 4. 光照射0.2秒のサンプル
Lane 5. 光照射0.3秒のサンプル
Lane 6. 光照射0.4秒のサンプル
Lane 7. 光照射0.5秒のサンプル
Lane 8. 光照射1秒のサンプル
Lane 9. 光照射2秒のサンプル
Lane 10. 光照射5秒のサンプル
【0098】
この結果から、天然の配列を有するDNAとCNVKを含むODNとでも光照射によって光架橋を形成して多量体構造となっていることが確認できた。そして、天然の塩基配列(DNA)とCNVKを2つ含むODNとでも核酸ワイヤーの合成が可能だということが示された。
【0099】
[実施例3]
[核酸ナノワイヤーの合成(タイプ3)]
CNVKを2箇所に含む1本鎖核酸C(ODN C)と、CNVKを含まない天然の核酸塩基のみからなる1本鎖RNAとを用いて、CNVKを2箇所に含むODNを1種類と天然RNAを用いて作成したタイプ(Type3)の核酸ナノワイヤーを、以下のように合成した。この合成の流れを、次のScheme 4に示す。
【0100】
Scheme 4に示されているように、この場合には、CNVKに対して相補的塩基対をつくるべき位置の塩基として、C又はGを有しており、CNVKはこの塩基の3’末端側に隣接する塩基であるUに対して、光架橋(矢印で示す)を形成する。
【0101】
【化13】
【0102】
CNVKを含まない天然のRNA配列(5’-UGAGGUAGUAGUUUGU GCUGUU-3’) 12.5 μMと、CNVKを含むODN C 12.5 μMをバッファー(100 mM NaCl, 5 mM MgCl2, 20 mM Tris-acetate(pH7.0), 1 mM EDTA, 2% Triton-X)中でアニーリングを行った。アニーリングは最初90 ℃で5分間加熱し、70 ℃から25 ℃まで1時間に1 ℃づつ下がるように行った。その後、UV-LED照射機を用い366 nm光を25 ℃で0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 1, 2, 5, 10秒間照射した光反応物を得た。得られた光反応物の変性PAGE解析結果を図7に示す。
【0103】
[変性PAGE結果]
図7は、図1と同じ条件で行った変性PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)の結果である。
【0104】
図7の各レーンは、左端のレーン(レーン1)から右端のレーン(レーン11)まで、次の通りである。
Lane 1. 10 bp DNA Lader (10 merごとにバンドが現れるラダー)
Lane 2. 光照射を行っていないサンプル
Lane 3. 光照射0.1秒のサンプル
Lane 4. 光照射0.2秒のサンプル
Lane 5. 光照射0.3秒のサンプル
Lane 6. 光照射0.4秒のサンプル
Lane 7. 光照射0.5秒のサンプル
Lane 8. 光照射1秒のサンプル
Lane 9. 光照射2秒のサンプル
Lane 10. 光照射5秒のサンプル
Lane 11. 光照射10秒のサンプル
【0105】
この結果から、天然の配列を有するRNAとCNVKを含むODNとでも光照射によって光架橋を形成して多量体構造となっていることが確認できた。そして、天然の塩基配列(RNA)とCNVKを2つ含むODNとでも核酸ワイヤーの合成が可能だということが示された。また、実験で使用したRNAは20 mer前後の天然の配列であり、生体内ではmiRNA程度の長さにあたることから、本発明が、核酸ナノワイヤーを用いたSNPsの検出にも利用可能であることが示された。
【0106】
[実施例4]
[核酸ナノワイヤーの合成(タイプ4)]
CNVKを2箇所に含む1本鎖核酸E(ODN E)を用いて、CNVKを2箇所に含むODNを1種類のみ用いて作成したタイプ(Type4)の核酸ナノワイヤーを、以下のように合成した。この合成の流れを、次のScheme 5に示す。
【0107】
Scheme 5に示されているように、この場合には、CNVKに対して相補的塩基対をつくるべき位置の塩基として、A又はTを有しており、CNVKはこの塩基の3’末端側に隣接する塩基であるTに対して、光架橋(矢印で示す)を形成する。
【0108】
【化14】
【0109】
CNVKを2箇所に含むODN E (5’- CTTCCGGACNVKGCATGTACACNVKG -3’)25 μMをバッファー(100 mM NaCl, 10 mM MgCl2, 20 mM Tris-acetate(pH7.0), 1 mM EDTA, 2% Triton-X)中でアニーリングを行った。アニーリングは最初90 ℃で5分間加熱し、70 ℃から4 ℃まで1時間に1 ℃づつ下がるように行った。その後、UV-LED照射機を用い366 nm光を4 ℃で0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 0.9, 1 秒間照射した。得られた光照射サンプルの変性PAGE解析を行った。変性PAGE解析結果を図8に示す。
【0110】
[変性PAGE結果]
図8は、図1と同じ条件で行った変性PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)の結果である。
【0111】
図8の各レーンは、左端のレーン(レーン1)から右端のレーン(レーン12)まで、次の通りである。
Lane 1. 10 bp DNA Lader (10 merごとにバンドが現れるラダー)
Lane 2. 光照射を行っていないサンプル
Lane 3. 光照射0.1秒のサンプル
Lane 4. 光照射0.2秒のサンプル
Lane 5. 光照射0.3秒のサンプル
Lane 6. 光照射0.4秒のサンプル
Lane 7. 光照射0.5秒のサンプル
Lane 8. 光照射0.6のサンプル
Lane 9. 光照射0.7のサンプル
Lane 10. 光照射0.8のサンプル
Lane 11. 光照射時間0.9秒のサンプル
Lane 12. 光照射時間1秒のサンプル
【0112】
この結果から、CNVKを2箇所に含むODNを1種類のみ用いた場合にも、光照射によって光架橋を形成して多量体構造となっていることが確認できた。そして、CNVKを2箇所に含むODNを1種類のみ用いた場合にも核酸ワイヤーの合成が可能だということが示された。
【0113】
[実施例5]
[光照射時間による核酸ナノワイヤーの長さの制御]
上記の実施例1の核酸ナノワイヤーの合成(タイプ1)において、AFM測定をさらに行って、光照射時間を変えた試料に対して、図5と同様のヒストグラムを作成した。この結果を、図9に示す。
【0114】
図9のヒストグラムは、左端から順に、0.5秒(左端)、1秒(中央)、5秒(右端)の光照射時間によって製造した核酸ナノワイヤーを、実施例1の図5と同様に測定して、長さ(横軸)ごとに分布数(縦軸)を示したヒストグラムである。平均の長さは、それぞれ、0.73μm(0.5秒)、2.08μm(1秒)、2.13μm(5秒)となっていた。図9に示されるように、光照射時間を長くすることによって、核酸ナノワイヤーの長さ分布は、長さが長くなるように移動していった。このように、光照射時間によって、得られる核酸ナノワイヤーの長さを制御できることが、明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、細さ、長さ、剛直性などの点で十分な特性を備えた核酸ナノワイヤーを、簡便且つ短時間で、得ることができる。本発明は、産業上有用な発明である。
図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]