【実施例】
【0074】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0075】
[製造例1]
[ビニルカルバゾール構造の人工塩基を塩基部分に有するODNの合成]
上記式Iの人工塩基を塩基部分に有する核酸として、次の式V:
【0076】
【化9】
【0077】
で表されるヌクレオチド(
CNVK)を塩基配列中に有するODN(オリゴデオキシリボヌクレオチド)を製造するために、次のScheme 1 にしたがって合成を行った。合成は、特許文献1(国際公開公報WO2009/066447号)に開示された手順にしたがって行った。
【0078】
【化10】
【0079】
上記Scheme 1に沿って、carbazoleから3-Iodocarbazole (1)を、さらに3-Cyanovinylcarbazole (2)を、さらに3-Cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside-3’,5’-di-(p-toluoyl)ester (3)を、さらに3-Cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside (4)を、さらに5’-O-(4,4’-dimethoxytrityl)-3-Cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside (5)を、さらに[5’-O-(4,4’-dimethoxytrityl)-3-Cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside-3’-O-(cyano ethoxy-N,N-diisopropylamino)phosphoramidite (6)を、順に合成した。得られた(6)のアミダイト体を、DNA/RNAシンセサイザー(Applied Biosystems社製、ABI3400)によって、アミダイト法によるDNA合成に使用して、3−シアノビニルカルバゾール−1’−β−デオキシリボシド (CNVK)を含有する種々のODN(ODN containing 3-cyanovinylcarbazole-1’-β-deoxyriboside (
CNVK))を合成した。合成後、28%アンモニア水を用いて55 ℃で8時間脱保護を行った。その後、HPLCにて精製を行い、質量分析により目的配列であることを確認した。得られたODN配列を、次の表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例1]
[核酸ナノワイヤーの合成(タイプ1)]
1本鎖核酸A(ODN A)と1本鎖核酸B(ODN B)を用いて、
CNVKを含むODNを2種類用いて作成したタイプ(Type1)の核酸ナノワイヤーを、以下のように合成した。この合成の流れを、次のScheme 2に示す。
【0082】
Scheme 2に示されているように、ODN AおよびODN Bでは、
CNVKに対して相補的塩基対をつくるべき位置の塩基として、T又はGを有しており、
CNVKはこの塩基の3’末端側に隣接する塩基であるTに対して、光架橋(矢印で示す)を形成する。
【0083】
【化11】
【0084】
CNVKを含むODN A 12.5 μMと
CNVKを含むODN B 12.5 μMをバッファー(100 mM NaCl, 10 mM MgCl
2, 20 mM Tris-acetate(pH7.0), 1 mM EDTA, 2% Triton-X)中でアニーリングを行った。アニーリングは最初90 ℃で5分間加熱し、70 ℃から4 ℃まで1時間に1 ℃づつ下がるように行った。その後、UV-LED照射機を用い366 nm光を4 ℃で0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 1, 2, 5秒間照射して光反応物を得た。得られた光反応物の変性PAGE解析結果を
図1に示す。
【0085】
[変性PAGE結果]
図1は、次の条件で行った変性PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)の結果である。
・サンプル条件 光照射後のサンプルを8M尿素入りのホルムアミドで10倍希釈
・ゲル 8M 尿素、25%ホルムアミド、15%アクリルアミド
・泳動条件 150 Vで120分間泳動
・染色 10000倍希釈したSYBRgoldで20分間染色
【0086】
図1の各レーンは、左端のレーン(レーン1)から右端のレーン(レーン10)まで、次の通りである。
Lane 1. 25 bp DNA Lader (25 merごとにバンドが現れるラダー)
Lane 2. 光照射を行っていないサンプル
Lane 3. 光照射0.1秒のサンプル
Lane 4. 光照射0.2秒のサンプル
Lane 5. 光照射0.3秒のサンプル
Lane 6. 光照射0.4秒のサンプル
Lane 7. 光照射0.5秒のサンプル
Lane 8. 光照射1秒のサンプル
Lane 9. 光照射2秒のサンプル
Lane 10. 光照射5秒のサンプル
【0087】
変性PAGE解析結果より光照射前(光照射0秒)では変性条件下で単量体の原料しか確認できないが、光照射を行うことによって、バンドが高分子量側にシフトしていっていることが確認できた。これは光照射によるクロスリンク形成によって1本鎖のDNA鎖(単量体)同士がつなぎとめられており、変性条件下でも安定な多量体構造が生じていることが確認された。次にどのような構造が出来ているのかを確認するためにAFM測定を行った。光照射後のサンプルを水もしくはテトラヒドロキシフラン(THF)で50倍希釈した後に3-Aminopropytriethoxysilaneで表面をコートしたMICAに5 μl滴下し、2分間静置、1 mlの水でwashした後、窒素を吹きかけ水分を取り除いてゆき、AFM(原子間力顕微鏡、NanoScope 3D, Veeco)による測定を行った。AFMは大気中で測定を行った。AFM測定結果を
図2及び
図3に示す。
【0088】
[AFM測定結果]
図2は、5μm×5μmのスキャンサイズのAFM結果を示す写真である。この5μmの正方形の視野を上下左右に4分割したなかの左上のあたる視野に、わずかにたわんだ棒状(ワイヤー状)の構造物が確認される。このワイヤー構造物をほぼ直角に横切る線分が、5μmの正方形の視野の上方中央から左下に示されており、ワイヤーをはさんでこの線分の2箇所に、矢印を付した。
【0089】
この線分に沿って、Z軸(高低差)をプロファイルした結果が、
図3である。
図3にも、
図2の矢印と同じ箇所に、矢印を付した。
図3の結果から、矢印の間であって、ちょうどワイヤーが存在する位置に、高さ約2nmのピークが存在すること、すなわち、高さ約2nmの構造物が存在することが確認される。これは、DNA-DNAの二重螺旋構造(B型の二重螺旋)の高さ2 nmとおおよそ一致するため、目的とする構造の核酸ナノワイヤーが得られていることが、確認された。
【0090】
図4は、さらに多数の核酸ナノワイヤーについてのAFM結果を示す写真である。
図4の視野や10μm×10μmの正方形であり、視野の右下のバーは、1μmを示す。核酸ナノワイヤーは種々の長さのものが確認され、いずれも棒状に伸びた構造をとっており、剛直性あるワイヤーとなっていることが、確認された。同条件で、DNA二重らせんを観察した場合には、紐状に屈曲して絡まっていることが通常であるので、視野の分子のほぼ全てが剛直性あるワイヤーとして観察されることは、驚くべきことである。
【0091】
図5は、
図4のAFM結果から、核酸ナノワイヤーの長さの分布を求めて得られたヒストグラムである。横軸はワイヤーの長さ、縦軸はその長さの分布数を示している。ワイヤーの長さは、1μmに満たないものから5μmを超えるものまで存在し、この条件での平均の長さは2.13μmだった。
【0092】
[実施例2]
[核酸ナノワイヤーの合成(タイプ2)]
CNVKを2箇所に含む1本鎖核酸C(ODN C)と、
CNVKを含まない天然の核酸塩基のみからなる1本鎖DNAとを用いて、
CNVKを2箇所に含むODNを1種類と天然DNAを用いて作成したタイプ(Type2)の核酸ナノワイヤーを、以下のように合成した。この合成の流れを、次のScheme 3に示す。
【0093】
Scheme 3に示されているように、この場合には、
CNVKに対して相補的塩基対をつくるべき位置の塩基として、C又はGを有しており、
CNVKはこの塩基の3’末端側に隣接する塩基であるTに対して、光架橋(矢印で示す)を形成する。
【0094】
【化12】
【0095】
CNVKを含まない天然のDNA配列(5’-TGAGGTAGTAGTTTGTGCTGTT-3’) (ODN Dに相当する)12.5 μMと、
CNVKを含むODN C 12.5 μMをバッファー(100 mM NaCl, 10 mM MgCl
2, 20 mM Tris-acetate(pH7.0), 1 mM EDTA, 2% Triton-X)中でアニーリングを行った。アニーリングは最初90 ℃で5分間加熱し、70 ℃から4 ℃まで1時間に1 ℃づつ下がるように行った。その後、UV-LED照射機を用い366 nm光を4 ℃で0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 1, 2, 5秒間照射した光反応物を得た。得られた光反応物の変性PAGE解析結果を
図6に示す。
【0096】
[変性PAGE結果]
図6は、
図1と同じ条件で行った変性PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)の結果である。
【0097】
図6の各レーンは、左端のレーン(レーン1)から右端のレーン(レーン10)まで、次の通りである。
Lane 1. 25 bp DNA Lader (25 merごとにバンドが現れるラダー)
Lane 2. 光照射を行っていないサンプル
Lane 3. 光照射0.1秒のサンプル
Lane 4. 光照射0.2秒のサンプル
Lane 5. 光照射0.3秒のサンプル
Lane 6. 光照射0.4秒のサンプル
Lane 7. 光照射0.5秒のサンプル
Lane 8. 光照射1秒のサンプル
Lane 9. 光照射2秒のサンプル
Lane 10. 光照射5秒のサンプル
【0098】
この結果から、天然の配列を有するDNAと
CNVKを含むODNとでも光照射によって光架橋を形成して多量体構造となっていることが確認できた。そして、天然の塩基配列(DNA)と
CNVKを2つ含むODNとでも核酸ワイヤーの合成が可能だということが示された。
【0099】
[実施例3]
[核酸ナノワイヤーの合成(タイプ3)]
CNVKを2箇所に含む1本鎖核酸C(ODN C)と、
CNVKを含まない天然の核酸塩基のみからなる1本鎖RNAとを用いて、
CNVKを2箇所に含むODNを1種類と天然RNAを用いて作成したタイプ(Type3)の核酸ナノワイヤーを、以下のように合成した。この合成の流れを、次のScheme 4に示す。
【0100】
Scheme 4に示されているように、この場合には、
CNVKに対して相補的塩基対をつくるべき位置の塩基として、C又はGを有しており、
CNVKはこの塩基の3’末端側に隣接する塩基であるUに対して、光架橋(矢印で示す)を形成する。
【0101】
【化13】
【0102】
CNVKを含まない天然のRNA配列(5’-UGAGGUAGUAGUUUGU GCUGUU-3’) 12.5 μMと、
CNVKを含むODN C 12.5 μMをバッファー(100 mM NaCl, 5 mM MgCl
2, 20 mM Tris-acetate(pH7.0), 1 mM EDTA, 2% Triton-X)中でアニーリングを行った。アニーリングは最初90 ℃で5分間加熱し、70 ℃から25 ℃まで1時間に1 ℃づつ下がるように行った。その後、UV-LED照射機を用い366 nm光を25 ℃で0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 1, 2, 5, 10秒間照射した光反応物を得た。得られた光反応物の変性PAGE解析結果を
図7に示す。
【0103】
[変性PAGE結果]
図7は、
図1と同じ条件で行った変性PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)の結果である。
【0104】
図7の各レーンは、左端のレーン(レーン1)から右端のレーン(レーン11)まで、次の通りである。
Lane 1. 10 bp DNA Lader (10 merごとにバンドが現れるラダー)
Lane 2. 光照射を行っていないサンプル
Lane 3. 光照射0.1秒のサンプル
Lane 4. 光照射0.2秒のサンプル
Lane 5. 光照射0.3秒のサンプル
Lane 6. 光照射0.4秒のサンプル
Lane 7. 光照射0.5秒のサンプル
Lane 8. 光照射1秒のサンプル
Lane 9. 光照射2秒のサンプル
Lane 10. 光照射5秒のサンプル
Lane 11. 光照射10秒のサンプル
【0105】
この結果から、天然の配列を有するRNAと
CNVKを含むODNとでも光照射によって光架橋を形成して多量体構造となっていることが確認できた。そして、天然の塩基配列(RNA)と
CNVKを2つ含むODNとでも核酸ワイヤーの合成が可能だということが示された。また、実験で使用したRNAは20 mer前後の天然の配列であり、生体内ではmiRNA程度の長さにあたることから、本発明が、核酸ナノワイヤーを用いたSNPsの検出にも利用可能であることが示された。
【0106】
[実施例4]
[核酸ナノワイヤーの合成(タイプ4)]
CNVKを2箇所に含む1本鎖核酸E(ODN E)を用いて、
CNVKを2箇所に含むODNを1種類のみ用いて作成したタイプ(Type4)の核酸ナノワイヤーを、以下のように合成した。この合成の流れを、次のScheme 5に示す。
【0107】
Scheme 5に示されているように、この場合には、
CNVKに対して相補的塩基対をつくるべき位置の塩基として、A又はTを有しており、
CNVKはこの塩基の3’末端側に隣接する塩基であるTに対して、光架橋(矢印で示す)を形成する。
【0108】
【化14】
【0109】
CNVKを2箇所に含むODN E (5’- CTTCCGGA
CNVKGCATGTACA
CNVKG -3’)25 μMをバッファー(100 mM NaCl, 10 mM MgCl
2, 20 mM Tris-acetate(pH7.0), 1 mM EDTA, 2% Triton-X)中でアニーリングを行った。アニーリングは最初90 ℃で5分間加熱し、70 ℃から4 ℃まで1時間に1 ℃づつ下がるように行った。その後、UV-LED照射機を用い366 nm光を4 ℃で0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 0.9, 1 秒間照射した。得られた光照射サンプルの変性PAGE解析を行った。変性PAGE解析結果を
図8に示す。
【0110】
[変性PAGE結果]
図8は、
図1と同じ条件で行った変性PAGE(ポリアクリルアミド電気泳動)の結果である。
【0111】
図8の各レーンは、左端のレーン(レーン1)から右端のレーン(レーン12)まで、次の通りである。
Lane 1. 10 bp DNA Lader (10 merごとにバンドが現れるラダー)
Lane 2. 光照射を行っていないサンプル
Lane 3. 光照射0.1秒のサンプル
Lane 4. 光照射0.2秒のサンプル
Lane 5. 光照射0.3秒のサンプル
Lane 6. 光照射0.4秒のサンプル
Lane 7. 光照射0.5秒のサンプル
Lane 8. 光照射0.6のサンプル
Lane 9. 光照射0.7のサンプル
Lane 10. 光照射0.8のサンプル
Lane 11. 光照射時間0.9秒のサンプル
Lane 12. 光照射時間1秒のサンプル
【0112】
この結果から、
CNVKを2箇所に含むODNを1種類のみ用いた場合にも、光照射によって光架橋を形成して多量体構造となっていることが確認できた。そして、
CNVKを2箇所に含むODNを1種類のみ用いた場合にも核酸ワイヤーの合成が可能だということが示された。
【0113】
[実施例5]
[光照射時間による核酸ナノワイヤーの長さの制御]
上記の実施例1の核酸ナノワイヤーの合成(タイプ1)において、AFM測定をさらに行って、光照射時間を変えた試料に対して、
図5と同様のヒストグラムを作成した。この結果を、
図9に示す。
【0114】
図9のヒストグラムは、左端から順に、0.5秒(左端)、1秒(中央)、5秒(右端)の光照射時間によって製造した核酸ナノワイヤーを、実施例1の
図5と同様に測定して、長さ(横軸)ごとに分布数(縦軸)を示したヒストグラムである。平均の長さは、それぞれ、0.73μm(0.5秒)、2.08μm(1秒)、2.13μm(5秒)となっていた。
図9に示されるように、光照射時間を長くすることによって、核酸ナノワイヤーの長さ分布は、長さが長くなるように移動していった。このように、光照射時間によって、得られる核酸ナノワイヤーの長さを制御できることが、明らかになった。