(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017230
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】剥離部材
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
G03G15/20 530
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-190899(P2012-190899)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-48440(P2014-48440A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(72)【発明者】
【氏名】谷川 直成
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和夫
【審査官】
佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−030945(JP,A)
【文献】
特開2007−034019(JP,A)
【文献】
特開2003−263059(JP,A)
【文献】
特開2007−034017(JP,A)
【文献】
特開2008−122520(JP,A)
【文献】
特開2007−102248(JP,A)
【文献】
特開2011−123273(JP,A)
【文献】
特開2001−042663(JP,A)
【文献】
特開2001−235959(JP,A)
【文献】
特開2007−226140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真装置の定着部材から用紙を剥離する剥離部材であって、
少なくとも前記定着部材に接触または近接する通紙方向上流側の端部に非粘着性樹脂フィルムが貼付されてなる金属薄板からなる金属板と、該金属板の反通紙面側に設けられた金属厚板からなる支持部材とを備えてなり、
前記金属板の通紙面において、通紙方向下流側の端部の末端には前記非粘着性樹脂フィルムが貼付されておらず、前記通紙方向上流側の端部から、前記通紙方向下流側の端部における前記末端以外の部分までは、通紙方向に前記非粘着性樹脂フィルムが貼付されており、前記末端を含む前記通紙方向下流側の端部が用紙が摺接しない形状に変形していることを特徴とする剥離部材。
【請求項2】
前記金属板の通紙方向下流側の端部は、反通紙面側に曲げられていることを特徴とする請求項1記載の剥離部材。
【請求項3】
前記金属板の通紙方向下流側の端部は、反通紙面側に折り曲げられていることを特徴とする請求項2記載の剥離部材。
【請求項4】
前記折り曲げる角度は、通紙面に対して1〜30度であることを特徴とする請求項3記載の剥離部材。
【請求項5】
前記非粘着性樹脂フィルムは、純水との接触角が80度以上の樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項記載の剥離部材。
【請求項6】
前記非粘着性樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、およびテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂フィルムであることを特徴とする請求項5記載の剥離部材。
【請求項7】
前記非粘着性樹脂フィルムは、シリコーン系粘着剤を介して前記金属板に貼付されてなることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項記載の剥離部材。
【請求項8】
前記シリコーン系粘着剤は、ジメチルポリシロキサン生ゴムを含むものであることを特徴とする請求項7記載の剥離部材。
【請求項9】
前記金属薄板は前記金属厚板よりも板厚さが薄いことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項記載の剥離部材。
【請求項10】
前記金属薄板の板厚さが50〜300μmであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項記載の剥離部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複写機やレーザービームプリンタなどの電子写真装置に設置される定着ローラや定着ベルトなどの定着部材から用紙を剥離する剥離部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンタなどの電子写真装置には、感光ドラム上に形成された静電潜像をトナーなどの現像剤を用いて用紙上に現像し、その後定着させるために加熱定着装置が設けられている。加熱定着装置は、現像剤を加熱溶融するとともに加圧することで用紙に定着させるための定着ローラや定着ベルトなどの定着部材を有している。
【0003】
定着部材や、定着部材に用紙を加圧する加圧ローラなどには、用紙がローラなどに巻き付き円滑な動作の妨げになるのを防ぐために、現像剤が定着された用紙をローラなどから剥離するシート状の剥離部材が用いられている(特許文献1参照)。
図4に示すように、特許文献1などに記載の従来の剥離部材11は、定着部材に近接する金属板12の先端部12aにシリコーン系粘着剤を介してフッ素樹脂フィルム13が折り返し貼付されており、その先端部12aをローラなどの外周面近傍に設置し、用紙の端をすくい上げることにより、ローラなどに用紙が巻き付くことを防いでいる。金属板12は薄板であり、支持部材14に固定支持されることで剥離部材11を構成している。
【0004】
また、このようなフッ素樹脂フィルムを貼付されてなる剥離部材は、例えば、特許文献2に記載の製造方法・装置などを用いて製造されている。この製造方法・装置では、皺や気泡の存在を極力抑えつつ、定着部材に近接する金属板の先端部にフッ素樹脂フィルムを折り返し貼付することができる。
【0005】
一方、特許文献3では、支持部材を設けずに一枚の金属板を折り曲げることで剛性を向上させた剥離部材が知られている。また、特許文献3では、余剰幅を有する金属板にフッ素樹脂フィルムを貼付した後に、金属板端部を切断して、通紙面全面に隙間なくフッ素樹脂フィルムを張り付けた構成とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−235959号公報
【特許文献2】特開2005−181999号公報
【特許文献3】特開2007−34019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような金属板にフッ素樹脂フィルムを貼付してなる構成の剥離部材では、フッ素樹脂フィルムの貼付代が必要となる(例えば、
図4の12c)。特許文献2の製造方法・装置を利用することで、定着部材に近接する側である通紙方向上流側の端部については、折り返しての貼付が可能であり金属露出部が発生しないが、反対側である金属板の通紙方向下流側の端部については、貼付代が残り、通紙方向においてこの貼付代の部分が金属露出部となる。
【0008】
特許文献3のように、金属板へのフッ素樹脂フィルムの貼り付け後に該金属板を切断することで、金属露出部の除去も可能ではあるが、生産性が大幅に低下し、好ましくない。また、金属板のみで構成される剥離部材は、剛性に劣り、広い用途(例えば、定着部材と接触する態様など)には対応できないおそれがある。
【0009】
また、電子写真装置に採用される現像剤は、発色性を向上させるため、トナーの構成要素の一つであるバインダー樹脂も、透明度の高いポリエステル系に移行している。このポリエステル系バインダー樹脂をもつトナーは、非常に粘着性が高い。上記の金属露出部に、このようなトナーが付着する、または、フッ素樹脂フィルムの境部にはみ出したシリコーン系粘着剤に紙粉などが付着すると、画質が劣化するおそれや、用紙がトナーや紙粉に引っ掛かりジャミングするおそれがある。
【0010】
特許文献1や特許文献2における剥離部材では、フッ素樹脂フィルムに張力をかけずに金属板に貼付しているため、シリコーン系粘着剤がはみ出すということはない。しかし、長期間の使用や予期せぬ事象によってフッ素樹脂フィルムの境部においてシリコーン系粘着剤が僅かにはみ出すおそれがある。また、金属露出部(貼付代)の幅も数mm程度である。しかし、近年における電子写真装置の高解像度化、印字速度の高速化、コンパクト化、両面コピー機能の内蔵による用紙の流れの複雑化などにより、この僅かな金属露出部の存在や粘着剤のはみ出しであっても、所望の動作品質や画質を維持できないおそれがある。
【0011】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、金属板にフッ素樹脂等の非粘着性樹脂フィルムを貼付してなる構成の剥離部材において、簡易な構造で、金属板の金属露出部にトナーや紙粉などが付着することを防止でき、優れた紙剥離性能を長期間維持できる剥離部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の剥離部材は、電子写真装置の定着部材から用紙を剥離する剥離部材であって、少なくとも上記定着部材に接触または近接する通紙方向上流側の端部に非粘着性樹脂フィルムが貼付されてなる金属板と、該金属板の反通紙面側に設けられた支持部材とを備えてなり、上記金属板の通紙面において、通紙方向下流側の端部の末端には上記非粘着性樹脂フィルムが貼付されておらず、上記通紙方向上流側の端部から、上記通紙方向下流側の端部における上記末端以外の部分までは、通紙方向に上記非粘着性樹脂フィルムが貼付されており、上記末端を含む上記通紙方向下流側の端部が用紙が摺接しない形状に変形していることを特徴とする。
【0013】
ここで「近接する」とは、用紙が定着部材に巻き付くのを防ぐことができる程度に、金属板の一辺が定着部材に接近配置されていることをいう。なお、定着部材とは、未定着の用紙上の現像剤を加熱と同時に加圧することで用紙上に定着させる工程において、用紙と接触可能なローラ状、フィルム状またはベルト状などの種々形状を有する部材をいう。例えば、定着ローラや加圧ローラなどである。
【0014】
上記金属板の通紙方向下流側の端部は、反通紙面側に曲げられていることを特徴とする。また、上記金属板の通紙方向下流側の端部は、反通紙面側に折り曲げられていることを特徴とする。また、上記折り曲げる角度は、通紙面に対して1〜30度であることを特徴とする。
【0015】
上記非粘着性樹脂フィルムは、純水との接触角が80度以上の樹脂フィルムであることを特徴とする。
【0016】
上記非粘着性樹脂フィルムは、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAと記す)樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPと記す)樹脂、およびテトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(以下、ETFEと記す)樹脂から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂フィルムであることを特徴とする。
【0017】
上記非粘着性樹脂フィルムは、シリコーン系粘着剤を介して金属板に貼付されてなることを特徴とする。特に、上記シリコーン系粘着剤は、ジメチルポリシロキサン生ゴムを含むものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の剥離部材は、金属板に非粘着性樹脂フィルムを貼付してなる構成の剥離部材において、金属板の金属露出部となる部分(末端)を含む通紙方向下流側の端部が、反通紙面側に折り曲げられることなどにより、用紙と摺接しない形状に変形しているので、金属露出部にトナーや紙粉などが付着することを防止できる。この結果、画像の汚れや、用紙のジャミングを防止でき、近年における電子写真装置で要求される動作品質や画質を維持できる。
【0019】
また、金属板端部の変形を、反通紙面側に折り曲げる変形とすることで、簡易な構造であり、容易に加工可能である。また、金属板と支持部材の構造を大きくは変更しないため、この折り曲げた金属板について従来の製造装置での非粘着性樹脂フィルムの貼付が可能であり、生産性を維持できる。
【0020】
また、上記非粘着性樹脂フィルムが、PTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、およびETFE樹脂から選ばれる少なくとも一つのフッ素樹脂フィルムであるので、トナーの付着防止効果が非常に高く、用紙との低摩擦特性に優れる。また、上記非粘着性樹脂フィルムは、シリコーン系粘着剤を介して金属板に貼付されてなるので、金属板に強固に接着でき、定着温度においても接着効果が維持でき、高温耐久性に優れる。また、粘着剤によるクッション効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】本発明の剥離部材の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の剥離部材を用いた定着装置を
図1に基づいて説明する。
図1は剥離部材を用いたヒートローラ方式の定着装置の概要図である。定着装置は、ヒータ6aが内蔵され、矢印A方向に回転する定着ローラ6と、この定着ローラ6に接触して矢印B方向に回転する加圧ローラ7と、定着ローラ6および加圧ローラ7が接触して形成されるニップ部8の付近に配置される剥離部材1とから構成される。用紙9上に形成されたトナー像がニップ部8で定着されて定着された画像となる。ニップ部8を通過した用紙9を定着ローラ6から剥離できるように、剥離部材1が定着ローラ6に接触または近接する位置に設けられている。
【0023】
本発明の剥離部材の一例を
図2および
図3に基づいて説明する。
図2は剥離部材の斜視図であり、
図3は剥離部材の側面図である。
図2に示すように、剥離部材1は、平面形状が略長方形である金属板2と、この金属板2を支持固定する支持部材5とを備えてなる。図中の黒矢印が通紙方向であり、金属板2の長手方向と通紙方向とは直交している。金属板2において、支持部材5に支持固定される面の反対面が通紙面となる。剥離部材1における金属板2の通紙方向上流側の端部2aを、定着ローラに接触または近接する位置に配置して、定着ローラから剥がれた用紙の端部を拾い取る(
図1参照)。本発明の剥離部材1は、定着部材に近接等する金属板の端部2aの反対側である、最後に用紙が摺接する端部2bを変形させ、該部分に用紙が摺接しない様にしていることに特徴を有する。
【0024】
図3に示すように、金属板2の表面にシリコーン系粘着剤3を介して非粘着性樹脂フィルム4が貼付されている。非粘着性樹脂フィルム4は、少なくとも金属板の用紙と接触する部分に貼付されていればよい。非粘着性樹脂フィルム4により、トナーなどの現像剤が溶融状態で摺接しても付着することを防止できる。
【0025】
図2および
図3に示す態様では、非粘着性樹脂フィルム4は、定着部材に接触または近接する通紙方向上流側の端部2aを覆うように折り返して貼付されている。また、通紙方向上流側の端部2aから、通紙方向下流側の端部2bにおける末端2c以外の部分まで、通紙方向に隙間なく貼付されている。一方、通紙方向下流側の端部2bの末端2cは、非粘着性樹脂フィルム4を貼付する際の貼付代であり、該末端2cには非粘着性樹脂フィルム4が貼付されておらず、金属露出部となっている。
【0026】
なお、端部2aを覆わずに、通紙面のみに非粘着性樹脂フィルム4を貼付した構成とすることもできる。また、金属板2の長手方向両端部には、非粘着性樹脂フィルムが貼付されていない部分があるが、非粘着性樹脂フィルム4の長手方向幅が用紙幅よりも大きくトナー付着などのおそれはない。
【0027】
剥離部材1は、末端2cを含む通紙方向下流側の端部2bを用紙が摺接しない形状に変形させている。変形の態様は、剥離部材以外の定着装置構造との関係を考慮し、用紙が摺接しない様な形状であれば、任意の態様とできる。簡易な構造で用紙との摺接を防止できることから、反通紙面側に曲げることが好ましい。曲げる場合、端部2bを曲面状に曲げる、または、1段もしくは複数段に折り曲げることができる。加工が容易であることから、
図2および
図3に示すように、1段に折り曲げることが好ましい。
【0028】
また、折り曲げる際の折り曲げ角度θは、通紙面に対して1〜30度であることが好ましい。5〜25度がより好ましく、5〜15度がさらに好ましい。通紙面に対して1〜30度の範囲にすることで、折り曲げ後において、折り曲げ端部を含む金属板表面への非粘着性樹脂フィルムの貼付を既存の製造装置を用いて行なうことができる。1度未満であると、用紙との接触を防止できないおそれがあり、30度をこえると、折り曲げ端部を含む金属板表面への非粘着性樹脂フィルムの貼付が困難となるおそれがある。
【0029】
折り曲げる通紙方向下流側の端部2bは、金属板2において支持部材5との接合部から通紙方向下流側に突出する部分である。この端部2bの通紙方向長さW
1は、貼付代である末端2cの長さW
2以上であればよい。この関係により、非粘着性樹脂フィルム4が、通紙面(平面)をこえて折り曲げ部まで貼付され、用紙と摺接する通紙面(平面)において、通紙方向での金属露出部が生じない。また、金属板2の通紙方向長さをW(折り曲げ端部を含む)とする場合、W
1/W=1/2〜1/15の範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明の剥離部材1は、金属露出部となる金属板2の通紙方向下流側の端部2bが反通紙面側に折り曲げなどされているので、この端部2bにおいてシリコーン系粘着剤3のはみ出しが生じた場合でも、該部分に用紙が摺接せず、紙粉の付着を防止できる。また、フルカラー電子写真装置において、発色性を向上させるため、カラートナーの構成要素の一つであるバインダー(結着)樹脂として、透明度が高く、粘着性も高いポリエステル系バインダー樹脂などを用いる場合でも、用紙と摺接する通紙面(平面)において、通紙方向での金属露出部が生じておらずトナーの付着を防止できる。
【0031】
金属板2の材質としては、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス鋼などを用いることができる。特に、ステンレス鋼であれば錆びることがなく、加工が容易であり安価なため好ましい。また、金属板2の板厚さは50〜300μmの範囲が好ましい。50μm未満では剥離力が確保されないおそれや、ジャミング時に変形するおそれがある。300μmをこえると剥離すべき用紙が、金属板の先端部に突き当たり、ジャミングの発生原因となるおそれがある。
【0032】
金属板2は、ローラの軸方向長さと略同じ長さの接触幅Lを有している。接触幅が大きいことによってローラに対する単位面積当たりの接触圧力が小さくなりローラ表面の局部的な摩耗が防止できる。なお、ローラの軸方向長さと略同じ長さとは、上記効果が得られる程度の長さをいい、具体的には少なくともローラの軸方向長さの半分程度以上であって、ローラの軸方向長さと同じか僅かに長ければよい。
【0033】
図3に示すように、金属板2の通紙方向上流側の端部2aの厚さ方向を、エッジのない曲面とすることが好ましい。この端部の厚さ方向を曲面とすることで、定着ローラや定着ベルトなどの定着部材に対して定圧以上の圧接状態になった場合でも定着部材の表面を傷付けることがない。上記曲面は金属板を所定形状に加工した後で機械加工してもよいが、カッティングと同時に加圧成形することができるプレスカットにより加工することが望ましい。
【0034】
支持部材5の材質としては、金属板2と同様に、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス鋼などを用いることができる。金属板と同様の理由でステンレス鋼が好ましい。また、支持部材5を構成する金属厚板の板厚さは、金属板を取付ける取付強度を十分に確保するために、0.8mm以上が好ましい。
【0035】
図2および
図3に示すように、支持部材5はL字に曲げた金属厚板であり、支持部材5の長手方向の左右には、剥離部材を定着装置本体に固定するための穴5aが設けられている。金属板2と支持部材5とは、溶接などにより接合されている。金属板2の形状変化による端部2aの水平精度の劣化を防止するため、長手方向に平行にスポット部を設けたレーザースポット溶接により接合することが好ましい。
【0036】
非粘着性樹脂フィルムは、現像剤の付着が防止できる程度に非粘着性特性を有する樹脂フィルムであり、具体的には純水との接触角が80度以上の樹脂フィルムを指す。なお、本発明における接触角は、室温23−26℃、湿度50−60%の雰囲気下で、樹脂フィルム表面に純水5μlを滴下し、滴下1秒後の接触角を、ゴニオメーター式測定器(エルマ光学社製:接触角測定器G−1)を用いて測定した値である。
【0037】
純水との接触角が80度以上の樹脂フィルムとしては、ポリエチレン樹脂フィルム(81度)、ポリプロピレン樹脂フィルム(91度)、および、PTFE樹脂(115度)、PFA樹脂(109度)、FEP樹脂(114度)、ETFE樹脂(96度)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(84度)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂(85度)、ポリビニリデンフルオライド樹脂(82°)、ポリビニルフルオライド樹脂(80度)などの公知のフッ素樹脂からなるフィルムが使用できる。
【0038】
特に、PTFE樹脂、PFA樹脂、FEP樹脂、またはETFE樹脂からなるフッ素樹脂フィルムは、接触角が96度以上でありカラートナーに対する非粘着性にも優れており、また、耐熱性も十分に有しているので本発明の剥離部材に好適である。
【0039】
フッ素樹脂フィルムとしては、フッ素樹脂が100%もしくは主成分のフィルム(シート)であり、ビレットからのスカイブ品やペースト押出しによるもの、溶融押出しによるもの等を用いることができる。トナーに対する非粘着性を低下させないためには、フッ素樹脂フィルムは、配合材を含まないナチュラル材であることが好ましい。
【0040】
フッ素樹脂等の非粘着性樹脂フィルム4の厚さは10〜200μmの範囲が好ましく、より好ましい範囲は40〜80μmである。10μm未満の厚さでは、現像剤との摩擦によって破れが生じるおそれや、僅かな摩耗によって金属板が露出するおそれがある。また、金属板への貼付工程で皺になりやすく、取り扱いが困難になる。200μmをこえる厚さになると用紙剥離性が低下する。
【0041】
なお、トナーに対する非粘着特性を確保可能な範囲であれば、非粘着性樹脂フィルムをケッチェンブラックやアセチレンブラックなどのカーボン微粉末を配合した非粘着性樹脂から形成することによって、静電気による用紙剥離性の低下を防止することもできる。
【0042】
金属板への非粘着性樹脂フィルムの貼付は、粘着剤、特に、上述したにシリコーン系粘着剤を貼付面に介在させて行なうことが好ましい。例えば、金属板への貼付面にシリコーン系粘着剤が予め付けられた非粘着性樹脂フィルムを用いる。シリコーン系粘着剤を介在させることで、金属板に強固に接着され定着温度においても接着効果が維持でき、粘着剤によるクッション効果も期待できる。その他、接着効果を高めるため、金属板への貼付面に、例えば、コロナ放電処理、スパッタエッチング処理、プラズマエッチング処理、金属ナトリウムによるTOS処理、紫外線照射処理などの表面処理を施すことが好ましい。
【0043】
シリコーン系粘着剤としては、例えば、SiO
2単位と(CH
3)
3SiO単位とからなる共重合体とジオルガノポリシロキサン生ゴムを縮合させて得た粘着剤が挙げられる。このシリコーン系粘着剤を用いることにより、非粘着性樹脂フィルムを金属板に強固に接着可能であり、定着温度(例えば、200℃以上)においても接着効果が維持できる。また、粘着剤層を薄くすることができ、粘着剤層によって剥離部材の厚さが剥離機能を損なうほど厚くなることがない。シリコーン系粘着剤層の厚さは5〜50μmの範囲の厚さであればよい。5μmより薄いと接着効果が十分に得られない。また、50μmより厚いと剥離部材の厚さが相対的に厚くなることにより用紙剥離性が低下するおそれがある。
【0044】
また、金属板への非粘着性樹脂フィルムの貼付は、粘着剤を介在させずに行なうこともできる。例えば、金属板の貼付面をプラズマエッチング処理などで粗面化した後、非粘着性樹脂フィルムを加熱圧着する方法が挙げられる。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
図2の形状の剥離部材を作製した。まず、厚さ200μmのステンレス(SUS304CSP)からなる金属薄板を長さ300mm、幅40mmにカットして、定着ローラに近接する端部の反対側の端部2bを、長さ300mm、幅5mmにわたって反通紙面側へ10度の角度で折り曲げた金属薄板を準備した。この金属薄板の切断面に生じたバリを丁寧に取り除いた。次に、厚さ1mmのステンレス(SUS304CSP)からなる金属厚板を長さ360mm、幅40mmにカットして内10mmをL字形状に90度曲げ、さらに左右にφ8の穴を設けた。この金属厚板に上記金属薄板をレーザー溶着した。その際、金属薄板の定着ローラに近接する部位2aは、金属厚板より5mm突出した状態で溶着した。
【0046】
この金属薄板に非粘着性樹脂フィルムとしてジメチルポリシロキサン生ゴムを含むシリコーン系粘着剤付きのPTFEフィルム(NTN精密樹脂社製ベアリーFL9004,PTFE厚さ50μm,粘着剤厚さ30μm,接触角100度(測定方法は上述のとおり))を、特許文献2に記載の製造装置を用いて貼付した。
【0047】
すなわち、金属薄板の一主面に該金属薄板の長手方向長さより短い粘着剤付PTFEフィルム(長さ290mm)を、該PTFEフィルムの長手方向両端部を引っ張ることなく、上記金属薄板の長手方向両端面に金属下地が露出するように、該PTFEフィルムの幅方向に未貼付部分を残して、かつ上記PTFEフィルムの長手方向に加圧しながら貼付し、次いで上記PTFEフィルムの幅方向未貼付部分を上記金属薄板の先端縁2aから他の主面に該PTFEフィルムの長手方向両端部を引っ張ることなく、折り返し仮貼付し、さらに上記仮貼付した部分を、PTFEフィルムの長さ方向の略中央部を起点として長手方向に加圧しながら貼付して、他の主面に固着させる工程を経ることにより剥離部材を作製した。5mm幅で約10度の角度で曲げた金属薄板の端部2bには、約2mmの金属露出部(2c)が発生していた。
【0048】
この実施例1の剥離部材をヒートローラ方式の試験用複写機(定着温度190℃、A4複写速度57枚/分)の定着部にセットし、画像比率30%のラインチャートを原稿とし、A4普通紙を用いて、5,000枚の連続通紙による複写試験を30,000枚まで行なった。5,000枚毎に試験機を止め、複写済みの用紙を目視によって画像低下の有無を確認した。さらに剥離部材を定着部から取り外し、PTFEフィルムの摩耗、トナー付着の有無を確認した。
【0049】
試験の結果、実施例1の剥離部材は、30,000枚の通紙試験終了まで画像低下がみられず、通紙試験終了後に確認したPTFEフィルムには損傷はなかった。また、金属露出部についても、金属薄板を曲げたことにより、用紙が摺接せずトナー付着は確認されなかった。
【0050】
[比較例1]
図4の形状の剥離部材を作製した。実施例1と同じ幅で、変形していない金属薄板を準備して、この金属薄板に実施例1と同じサイズのジメチルポリシロキサン生ゴムを含むシリコーン系粘着剤付きのPTFEフィルム(NTN精密樹脂社製ベアリーFL9004)を、実施例1と同じ方法で金属薄板表面に貼付した。金属薄板の反定着ローラ側の端部12bには、約2mmの金属露出部(12c)が発生していた。
【0051】
この剥離部材を実施例1で用いた試験用複写機にセットし、実施例1と同一の連続通紙による複写試験を行なった。試験の結果、比較例1の剥離部材は、5,000枚後の確認において、金属薄板の金属露出部にトナーの付着が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の剥離部材は、簡易な構造で、金属板の金属露出部にトナーや紙粉などが付着することを防止でき、優れた紙剥離性能を長期間維持できるので、電子写真装置に設置される定着ローラや定着ベルトなどの定着部材から用紙を剥離するための剥離部材として利用できる。特に、近年における高解像度化、印字速度の高速化、コンパクト化、両面コピー機能の内蔵による用紙の流れの複雑化などが図られた電子写真装置における剥離部材としても好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 剥離部材
2 金属板
3 シリコーン系粘着剤
4 非粘着性樹脂フィルム
5 支持部材
6 定着ローラ
7 加圧ローラ
8 ニップ部
9 用紙