【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年3月21日に公益社団法人日本セラミックス協会2012年年会にて公開 平成24年5月23日に第29回強誘電体応用会議にて公開
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧電材料を得るためには、直流電界下で分極処理(DC分極)を施し、内部の自発分極の向きに方向性を与え、残留分極を保持させる必要がある。しかしながら、分極処理は、一定の温度下(60℃〜200℃)、材料に直流高電圧をある程度の時間(例えば、30分間)、印加し続けなければならず、研究開発においては手間がかかる処理である。また、工場で圧電材料を大量生産するにあたり、分極処理前の段階で、圧電性の大きさの程度を把握することができれば、品質管理の上で極めて有益である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、分極処理前の段階でも、圧電性の大きさの程度を把握することができる圧電材料の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を解決する本発明の圧電材料の評価方法は
、
板状の圧電材料の厚み方向に伝搬する縦波を該圧電材料の一方の端面から入力してから、該縦波が他方の端面で反射し該一方の端面に戻ってくるまでの縦波伝搬時間を計測し、該縦波伝搬時間と該圧電材料の厚みから縦波速度を取得する縦波速度取得ステップと、
前記圧電材料の厚み方向に伝搬する横波を該圧電材料の一方の端面から入力してから、該横波が他方の端面で反射し該一方の端面に戻ってくるまでの横波伝搬時間を計測し、該横波伝搬時間と該圧電材料の厚みから横波速度を取得する横波速度取得ステップと、
前記縦波速度と前記横波速度との比率を算出する比率算出ステップと、
前記比率から前記圧電材料の圧電性の大きさの程度を評価する評価ステップとを有することを特徴とする。
また、本発明の圧電材料の評価方法において、
前記圧電材料は、分極前圧電材料であり、
前記評価ステップが、前記分極前圧電材料における前記比率から、該分極前圧電材料が分極した後の圧電性の大きさの程度を推定するステップであってもよい。
また、本発明の圧電材料の評価方法において、
前記縦波速度取得ステップが、10MHz以上50MHz以下の周波数をもつ縦波を前記圧電材料に入力してから2往復目の前記縦波伝搬時間を計測し、前記縦波速度を取得するステップであり、
前記横波速度取得ステップが、10MHz以上50MHz以下の周波数をもつ横波を前記圧電材料に入力してから2往復目の前記横波伝搬時間を計測し、前記横波速度を取得するステップであってもよい。
また、本発明の圧電材料の評価方法において、
前記縦波速度取得ステップが、前記分極前圧電材料を用いて計測した前記縦波伝搬時間から、前記縦波速度として分極前縦波速度を取得するステップであり、
前記横波速度取得ステップが、前記分極前圧電材料を用いて計測した前記横波伝搬時間から、前記横波速度として分極前横波速度を取得するステップであり、
前記比率算出ステップが、前記分極前縦波速度と前記分極前横波速度との比率である分極前比率を算出するステップであり、
前記評価ステップが、圧電性の大きさの程度を表すファクターの一種類である電気機械結合係数を、前記分極前圧電材料と成分が同じ未分極の圧電材料を分極させた後の分極後圧電材料について求めておき、前記分極前比率と、該分極後圧電材料について求めておいた該電気機械結合係数の関係を表す検量線を用いて、該分極前圧電材料を分極させた後の電気機械結合係数を推定するステップであってもよい。
さらに、
圧電材料の厚み方向に伝搬する縦波が該圧電材料を伝搬する際の縦波速度を取得する縦波速度取得ステップと、
前記圧電材料の厚み方向に伝搬する横波が該圧電材料を伝搬する際の横波速度を取得する横波速度取得ステップと、
前記縦波速度と前記横波速度との比率を算出する比率算出ステップと、
前記比率から前記圧電材料の圧電性の大きさの程度を評価する評価ステップとを有することを特徴とする
圧電材料の評価方法であってもよい。
【0008】
ここにいう圧電材料には、例えば、圧電セラミックスや圧電単結晶等が含まれる。また、圧電性の大きさの程度を表すファクターとしては例えば、圧電セラミック円板の径方向振動モードでの電気機械結合係数(k
p)や圧電歪定数(d33)等があげられる。
【0009】
本発明の圧電材料の評価方法では、圧電性の大きさの程度を表すファクターは、圧電材料のDC分極後のものから得た値を用いる。したがって、未分極の圧電材料の圧電性の大きさの程度を評価する場合には、その圧電材料をDC分極させたものの検量線等の基準を用いて評価することになる。一方、未分極の圧電材料を分極させると、上記基準から求めた圧電性の大きさの程度を表すファクターと非常に近い値になることを本願発明者は鋭意研究の結果、突き止めた。このため、本発明の圧電材料の評価方法によれば、分極処理前の段階でも、圧電性の大きさの程度を把握することができる。
【0010】
なお、本発明の圧電材料の評価方法は、分極後の圧電材料にも適用することができる。また、前記縦波速度取得ステップと前記横波速度取得ステップの実施の順番はどちらが先であってもよく、あるいは同時に実施してもよい。
【0011】
また、本発明の圧電材料の評価方法において、前記圧電材料は、未分極や飽和分極していない(分極の状態が低程度や中程度である)圧電材料であってもよい。
【0012】
また、本発明の圧電材料の評価方法において、前記縦波速度取得ステップが、10MHz以上50MHz以下の周波数をもつ縦波の速度を取得するステップであり、
前記横波速度取得ステップが、10MHz以上50MHz以下の周波数をもつ横波の速度を取得するステップであってもよい。
【0013】
前記縦波速度取得ステップにおいても前記横波速度取得ステップにおいても、使用する周波数が10MHz未満であると、伝搬距離を10mm以上と長くしなければならず、厚みが1mm程度と薄い材料の計測が困難になる。一方、50MHzを越えると、波が減衰してしまい、正しい速度が得られにくくなる。
【0014】
なお、前記縦波速度取得ステップにおいて使用する周波数と、前記横波速度取得ステップにおいて使用する周波数は、同じであってもよいし、前者の方が後者よりも高くてもよいし、反対に低くてもよい。すなわち、両者を異ならせてもよい。
【0015】
さらに、本発明の圧電材料の評価方法において、前記評価ステップが、前記比率と圧電性の関係を表す検量線を用いて評価するステップであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の圧電材料の評価方法によれば、分極処理前の段階でも、圧電性の大きさの程度を把握することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、鉛系および非鉛系を含めた典型的な圧電材料の組成を示す図である。
【0020】
図1には、分極反転電界である抗電界の低いチタン酸ジルコン酸鉛系の圧電材料(soft PZT)、抗電界の高いチタン酸ジルコン酸鉛系の圧電材料(hard PZT)、ニオブ酸アルカリをジルコン酸ストロンチウムで少量置換した系の圧電材料(SZ)、チタン酸アルカリビスマス(NBT−KBT)系の圧電材料(KBT)、チタン酸アルカリ(ナトリウム)ビスマス(NBT)をチタン酸バリウム(BT)で一部置換した系の圧電材料(BT)、チタン酸鉛系の圧電材料(PbTiO
3)が示されている。これらの圧電材料のうち、SZ、KBT、BTが非鉛系圧電材料になる。
【0021】
圧電素子となる圧電材料は、研究開発段階では、直径15mm弱、厚さ0.5mm〜1.5mm程度の円板状の形状で焼成されることが多い。焼成された圧電材料は分極処理を施すことで圧電性能が付与される。
【0022】
図2は、
図1に示す各組成の圧電材料の分極条件を示す図である。
【0023】
分極処理では、圧電材料を高温度の絶縁オイルの中で直流高電圧を所定時間印加し続け、内部の自発分極の向きに方向性を与え、残留分極を持たせる。
図2には、印加する直流高電圧の電界強度(V/mm)、ならびに分極に必要な、直流高電圧印加時間(分極時間(分))および分極温度(℃)が示されている。
【0024】
図3は、分極処理前後の
図1に示す圧電材料における誘電・圧電特性を示した図である。
【0025】
この
図3には、分極処理前後の比誘電率(ε
r)が示されている。また、飽和分極処理後の電気機械結合係数(k
p(%))、圧電歪定数(d
33(μC/N))、周波数定数(f
cp(Hz・m))も示されている。なお、圧電歪定数は、圧電d定数とも呼ばれる。
【0026】
電気機械結合係数(k
p)は、電気的と機械的との相互変換能力を表す係数であり、生じた機械的エネルギと与えた電気的エネルギ、あるいは反対に、生じた電気的エネルギと与えた機械的エネルギの比の平方根で定義される圧電性の大きさの程度を表すファクターの一つである。
図3に示す電気機械結合係数(k
p)は、社団法人日本電子材料工業会標準規格EMAS−6100に準拠して求めた値である。
【0027】
圧電歪定数(d
33)は、材料の厚さ方向を3軸にとって、電極に発生した電荷(P)と厚さ方向に加えた応力(T)との係数(P/T)であって、これもまた圧電性の大きさの程度を表すファクターの一つである。なお、ここでの圧電歪定数(d
33)は、いわゆる33方向の応力当たりの発生電荷量の割合、すなわち電極面に垂直な厚み方向に分極されたものから発生する電荷を表すものであるが、他の方向、例えば、31方向(電極面にそった分極方向とは垂直な方向)の電界当たりの機械的変位割合を表す圧電歪定数(d
31)や、32方向の電界当たりの機械的変位割合を表す圧電歪定数(d
32)等であってもよい。
【0028】
なお、これらの電気機械結合係数(k
p)や圧電歪定数(d
33)は、分極前では残留分極が存在しないため取得できないファクターである。
【0029】
周波数定数(f
cp)は、圧電材料を伝搬する際の縦波速度(V
L)の1/2に相当する圧電性の大きさの程度を表すファクターの一つで、共振周波数と直径の大きさを乗じて求められる。
【0030】
なお、この他、圧電性の大きさの程度を表すファクターとしては、圧電g定数(g(V・m/N))、圧電h定数(h(V/m))、機械的品質係数(Qm)、ヤング率(E(N/m2))、ポアソン比(σ)等があげられる。
【0031】
本実施形態では、圧電材料を伝搬する際の、縦波速度(V
L)および横波速度(V
s)を、分極前後で求める。
【0032】
ここでの計測には、周波数30MHzの縦波、および20MHzの横波を発振可能な超音波発振器(オリンパス株式会社製35DL)を用いる。計測した圧電材料の形状は、直径15mm弱、厚さ0.5mm〜1.5mm程度の円板状である。
【0033】
図4は、超音波発振器を用いた計測の様子を示す概略図である。
【0034】
図4に示す圧電材料10は、未分極のものであるが、分極後は、上下の端面11,12がそれぞれ電極になる。上記超音波発振器のプローブPは直径10mmで高さ15mm程度の小型のものである。厚み方向に振幅を有する縦波の周波数は30MHzであり、プローブPを圧電材料10の上の端面11に当て、圧電材料を縦波が伝搬する時間を計測した。また、面方向に振幅を有する横波の周波数は20MHzであり、縦波と同じく、プローブPを圧電材料10の上の端面11に当て、圧電材料を横波が伝搬する時間を計測した。より具体的に説明すれば、各時間は、測定精度面から2往復目のパルスエコー間の伝搬時間とした。このように分極前後で縦波および横波それぞれが圧電材料を伝搬する時間を計測し、計測した時間と圧電材料の厚みから、縦波および横波の速度を算出した。なお、未分極測定時には、上下面に銀電極が存在してもよいし、存在しなくてもよい。また、分極測定時は厚み方向に分極されている。
【0035】
なお、縦波速度(V
L)や横波速度(V
s)を求めるにあたり使用する周波数は、10MHz以上50MHz以下の周波数であればよい。使用する周波数が10MHz未満であると、伝搬距離を長くしなければならず、厚みが薄い材料の計測が困難になる。一方、50MHzを越えると、波が減衰してしまい、正しい速度が得られにくくなる。
【0036】
図5は、分極前後の
図1に示す圧電材料を伝搬する際の、縦波速度(V
L)と横波速度(V
s)、ならびに分極前後の
図1に示す圧電材料のヤング率(E)とポアソン比(σ)を示した図である。
【0037】
ここでの各速度の単位は、m/秒である。この
図5から、縦波速度(V
L)は、分極前に比べて分極後は速くなる傾向にあり、横波速度(V
s)は、反対に、分極前に比べて分極後は遅くなる傾向にあることがわかる。
【0038】
また、ヤング率(E)は、
図5に示す値に10
10を乗じた値であり、その単位はN/m
2である。
【0039】
ヤング率(E)は式(1)より求めた。
【0041】
また、ポアソン比(σ)は式(2)より求めた。
【0043】
ただし、ρは円板形状の圧電材料の密度であり、V
Lは
図5に示す縦波速度であり、V
Sは
図5に示す横波速度である。
【0044】
図6(a)は、分極後の圧電材料を伝搬する際の縦波速度(V
L)と電気機械結合係数(k
p)との関係を表すグラフであり、同図(b)は、分極後の圧電材料を伝搬する際の横波速度(V
S)と電気機械結合係数(k
p)との関係を表すグラフである。
【0045】
図6(a)では、横軸が
図5に示す縦波速度(V
L)(m/s)であり、縦軸が
図3に示す電気機械結合係数(k
p)(%)である。また、同図(b)では、横軸が
図5に示す横波速度(V
S)(m/s)であり、縦軸が
図3に示す電気機械結合係数(k
p)(%)である。
【0046】
両図とも、圧電材料は、
図1に示す各組成の圧電材料であり、三角印のプロットはニオブ酸アルカリ系の圧電材料(SZ)を表し、バツ印のプロットはチタン酸アルカリビスマス系の圧電材料(KBT)を表し、四角印のプロットはチタン酸アルカリ(ナトリウム)ビスマス(NBT)をチタン酸バリウム(BT)で一部置換した系の圧電材料(BT)を表し、アスタリスク印のプロットは抗電界の高いチタン酸ジルコン酸鉛系の圧電材料(hard PZT)を表し、ダイヤ印のプロットは抗電界の低いチタン酸ジルコン酸鉛系の圧電材料(soft PZT)を表し、丸印のプロットはチタン酸鉛系の圧電材料(PbTiO
3)のうちの組成略称がPLT(ランタン(L)変性量が10mol%)の圧電材料(PLT)を表し、プラス印のプロットはチタン酸鉛系の圧電材料(PbTiO
3)のうちの組成略称がPT(ほぼ純粋のチタン酸鉛に近い組成)の圧電材料(PT)を表す(以下のグラフでも同じ)。
【0047】
また、実線の直線は、hard PZTとsoft PZTを合わせたチタン酸ジルコン酸鉛系の圧電材料における最小二乗法による回帰直線を表し、点線の直線は、ニオブ酸アルカリ系の圧電材料(SZ)における最小二乗法による回帰直線を表し、1点鎖線の直線は、チタン酸アルカリビスマス系の圧電材料(KBTおよびBT)における最小二乗法による回帰直線を表す。
【0048】
図7(a)は、分極後の圧電材料のヤング率(E)と電気機械結合係数(k
p)との関係を表すグラフであり、同図(b)は、分極後の圧電材料のポアソン比(σ)と電気機械結合係数(k
p)との関係を表すグラフである。
【0049】
図7(a)では、横軸が
図5に示したヤング率(E)(×10
10N/m
2)であり、縦軸が
図3に示す電気機械結合係数(k
p)(%)である。また、同図(b)では、横軸が
図5に示したポアソン比(σ)であり、縦軸が
図3に示す電気機械結合係数(k
p)(%)である。
【0050】
両図とも、実線の直線は、全圧電材料における最小二乗法による回帰直線を表す。
図7(a)から、電気機械結合係数(k
p)が高いものほど、ヤング率(E)は低いことがわかる。また、同図(b)から、電気機械結合係数(k
p)が高いものほど、ポアソン比(σ)も高いことがわかる。
【0051】
図8(a)は、分極後の圧電材料の縦波速度と横波速度の比と、電気機械結合係数(k
p)との関係を表すグラフである。
【0052】
この
図8(a)における縦波速度(V
L)と横波速度(V
S)は、
図5に示す分極後のものであり、縦波速度と横波速度の比として、ここではV
S/V
Lを算出する。また、電気機械結合係数(k
p)は、
図3に示す分極後のものである。実線の直線は、全圧電材料における最小二乗法による回帰直線を表し、検量線に相当する。このグラフにおける相関係数は−0.959である。
【0053】
図8(b)は、分極前の圧電材料の縦波速度と横波速度の比と、電気機械結合係数(k
p)との関係を推定したグラフである。ここでも実線の直線は、全圧電材料における最小二乗法による回帰直線を表し、検量線に相当する。
【0054】
この
図8(b)のグラフの作成にあたっては、まず、分極前の圧電材料の縦波速度と横波速度の比として、V
S/V
Lを算出する。次に、算出した速度比(V
S/V
L)の圧電材料と同じ組成の圧電材料における飽和分極後の電気機械結合係数(k
p)を、当該速度比(V
S/V
L)に対応付け、グラフにプロットする。この作業を、
図1に示す各組成の圧電材料総てについて行うことで完成したグラフが、
図8(b)に示すグラフである。
図8(b)に示す実線の直線は、全圧電材料における最小二乗法による回帰直線を表し、検量線に相当する。
【0055】
図8(a)に示すように、分極後においては、縦波速度と横波速度の比と、電気機械結合係数(k
p)とは良好な直線性を示しており、本願発明者は、分極前においても、この直線性は保たれていると推定し、
図5に示す分極前の圧電材料の縦波速度と横波速度の比を算出し、その算出結果を上述のようにしてプロットしてみたところ、
図8(b)に示すような良好な直線性が得られた。このグラフにおける相関係数は−0.891である。
【0056】
なお、縦波速度と横波速度の比は、V
L/V
Sであってもよい。
【0057】
図9は、
図8(b)に示すグラフに、
図8(a)に示す実線の直線を書き込んだものである。
【0058】
図9に示す実線の直線は、分極前の回帰直線を表し、点線の直線は、分極後の回帰直線を表す。
【0059】
図9からも明らかなように、分極前の圧電材料の縦波速度と横波速度の比と、電気機械結合係数(k
p)との関係は、良好な相関関係にあり、分極前であっても、分極後にしか測定できない電気機械結合係数(k
p)を十分に推定できることがわかる。
【0060】
本実施形態における圧電材料の評価方法では、未知の圧電材料(新規な組成の圧電材料)を形成した段階で、分極前に、
図4に示すようにして、縦波が未知の圧電材料を伝搬する際の縦波速度(V
L)を取得するとともに横波が該圧電材料を伝搬する際の横波速度(V
S)を取得する(縦波速度取得ステップ、横波速度取得ステップ)。
【0061】
次いで、取得した縦波速度(V
L)と横波速度(V
S)との比率(V
S/V
L)を算出する(比率算出ステップ)。
【0062】
続いて、算出した比率(V
S/V
L)から、
図8(b)に示すグラフを用いて、未知の圧電材料の圧電性の大きさの程度を評価する。
【0063】
なお、分極後の圧電材料であれば、電気機械結合係数(k
p)を算出しなくとも、
図8(a)に示すグラフを用いて圧電性の大きさの程度を評価することができる。さらに、飽和分極していない圧電材料、すなわち分極の状態が低程度や中程度である圧電材料についても、縦波速度と横波速度の比と、電気機械結合係数(k
p)との関係は良好な直線性を有しており、飽和分極していない圧電材料について、
図8(b)に示すようなグラフを用意しておけば、圧電性の大きさの程度を評価することができる。
【0064】
図10(a)は、分極後の圧電材料の縦波速度と横波速度の比と、圧電歪定数(d
33)との関係を表すグラフである。
【0065】
この
図10(a)における縦波速度(V
L)と横波速度(V
S)は、
図5に示す分極後のものであり、縦波速度と横波速度の比として、V
S/V
Lを算出する。また、圧電歪定数(d
33)は、
図3に示す分極後のものである。実線の直線は、全圧電材料における最小二乗法による回帰直線を表し、検量線に相当する。このグラフにおける相関係数は−0.87である。
【0066】
図10(b)は、分極前の圧電材料の縦波速度と横波速度の比と、圧電歪定数(d
33)との関係を推定したグラフである。
【0067】
ここでもまず、分極前の圧電材料の縦波速度と横波速度の比として、V
S/V
Lを算出する。そして、算出した速度比(V
S/V
L)の圧電材料と同じ組成の圧電材料における分極後の圧電歪定数(d
33)を、当該速度比(V
S/V
L)に対応付け、グラフにプロットする。この作業を、
図1に示す各組成の圧電材料総てについて行うことで完成したグラフが、
図10(b)に示すグラフである。
図10(b)に示す実線の直線は、全圧電材料における最小二乗法による回帰直線を表し、検量線に相当する。
【0068】
図10(a)に示すように、分極後においては、縦波速度と横波速度の比と、圧電歪定数(d
33)とは良好な直線性を示しており、本願発明者は、分極前においても、この直線性は保たれていると推定し、
図5に示す分極前の圧電材料の縦波速度と横波速度の比を算出し、その算出結果をプロットしてみたところ、
図10(b)に示すような良好な直線性が得られた。このグラフにおける相関係数は−0.87である。
【0069】
なお、縦波速度と横波速度の比は、V
L/V
Sであってもよい。
【0070】
圧電歪定数(d
33)においても、縦波速度と横波速度の比との関係は良好な相関関係にあり、分極前であっても、分極後にしか分からない圧電歪定数(d
33)を十分に推定できることがわかる。
【0071】
分極前の未知の圧電材料(新規な組成の圧電材料)の圧電歪定数(d
33)についての評価でも、上述の電気機械結合係数(k
p)についての評価と同様な方法で、圧電歪定数(d
33)についての評価を行うことができる。
【0072】
以上、本実施形態における圧電材料の評価方法について説明したが、近年、チタン酸ジルコン酸鉛等の鉛を含む材料は、人体に対して悪影響を与えるとして規制の対象になり、非鉛系圧電材料の研究開発が盛んに行われているものの、PZTに相当する高圧電性は実現できていない。本実施形態における圧電材料の評価方法は、非鉛系圧電材料開発において、PZTに相当する高圧電性をもつ材料探索の開発手法としても利用することができ、極めて有用な評価方法である。
【0073】
本実施形態では、圧電性の大きさの程度を表すファクターを推定できる例として、電気機械結合係数(k
p)を推定する例と、圧電歪定数(d
33)を推定する例を説明したが、これらに限らず、縦波速度と横波速度の比との関係は、圧電性の大きさの程度を表す他のファクターにも適用可能である。他のファクターとしては、例えば、異なる振動モードから得られる電気機械結合係数や圧電歪定数があげられる。すなわち、横振動モードから得られる電気機械結合係数(k
31)や圧電歪定数(d
31)、厚み縦振動モードから得られる電気機械結合係数(k
33)や圧電歪定数(d
33)、厚みすべり振動モードから得られる電気機械結合係数(k
15)や圧電歪定数(d
15)があげられる。
【0074】
また、検量線を用いた推定を行ったが、検量線に限らず、何らかの関係式を導き出して、推定することも可能である。
【0075】
さらに、ここでの説明では、圧電セラミックスを例にあげて説明したが、圧電セラミックスに限らず、一般的なセラミックスや単結晶、さらにそれらの厚膜等の材料にも縦波速度と横波速度の比との関係を用いて特性を推定することは可能である。