特許第6017269号(P6017269)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017269
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   F04C18/02 311V
   F04C18/02 311Q
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-246636(P2012-246636)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-95326(P2014-95326A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】515294031
【氏名又は名称】ジョンソンコントロールズ ヒタチ エア コンディショニング テクノロジー(ホンコン)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽部 恭介
(72)【発明者】
【氏名】小野口 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】島田 敦
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−169687(JP,A)
【文献】 特開平05−202871(JP,A)
【文献】 特開昭57−212302(JP,A)
【文献】 特開平08−035494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロールの台板に形成される渦巻き状の固定ラップと、
前記固定スクロールに対して旋回運動する旋回スクロールに形成されて前記固定ラップに噛み合う渦巻き状の旋回ラップと、
前記渦巻き状の中心部において前記台板に開口し、前記固定ラップと前記旋回ラップの間に形成される圧縮室で圧縮された被圧縮流体を当該圧縮室から吐出する吐出ポートと、
を有し、
前記旋回スクロールは、
前記圧縮室で圧縮された前記被圧縮流体の圧力が所定の設計圧力になる第1基準状態と、
前記中心部に形成される前記圧縮室の容積が最小になる第2基準状態と、の各状態を順に繰り返しながら旋回運動し、
前記吐出ポートは、
前記旋回スクロールが前記第1基準状態のときの前記旋回ラップの前記渦巻き状の外方を臨む側の外側曲線と、
前記旋回スクロールが前記第2基準状態のときの前記旋回ラップの前記中心部を臨む側の内側曲線と、
前記旋回スクロールが前記第2基準状態から前記第1基準状態へ移行するときに移動する前記旋回ラップの前記外側曲線の移動する領域の前記中心部の側と、
前記固定ラップの前記中心部を臨む側の内側曲線と、
で囲まれた領域に形成されていることを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
前記旋回ラップおよび前記固定ラップは、
極座標形式で動径r、偏角θ、代数螺旋の係数a、および代数螺旋の指数kによって、
r=a×θの式で表される代数螺旋曲線を用いた渦巻き状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記台板は、前記吐出ポートが形成される箇所が他の箇所よりも肉薄に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、冷凍機器の冷凍サイクルでは、蒸発温度がマイナス45〜マイナス30℃程度であり、圧縮機の吸込圧力と吐出圧力の比が大きく、高圧縮比運転となる。冷凍サイクルにスクロール圧縮機を使用した場合、このような高圧縮比運転に対応するには、スクロールラップで形成される吸込開始時の圧縮室の最大容積と、吐出時(圧縮完了時)の圧縮室の最小容積の比(以下、設計容積比という)を大きくすること、が要求される。設計容積比を運転に適する値で充分に大きくすることによって、スクロール圧縮機の運転効率を向上させることができる。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1には、「行程容積が5〜25cmの範囲で、圧縮室が吐出口に連通開始する際の最小密閉空間の平面面積と吐出口の開口面積との比が5.0〜8.0の範囲内にある。」と記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−107441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているスクロール圧縮機の圧縮室は、最小密閉空間を鏡板に投影した投影面積に対する、吐出ポートを鏡板に投影した投影面積を小さくすることで性能向上を図っている。
しかしながら、その効果は、設計容積比を拡大することによる性能向上の効果が、吐出ポートの流路損失抵抗の損失の増加分を上回ったことによって生じるものであり、吐出ポートの投影面積が縮小したことによって増大する流路損失抵抗を抑制することは考慮されていない。このような流路損失抵抗を抑制することによって、スクロール圧縮機の効率をさらに向上することができる。
【0006】
そこで、本発明は、外形を拡大することなく、吐出ポートの流路損失抵抗を低減するとともに高圧縮比運転を実現可能に設計容積比を拡大できるスクロール圧縮機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため本発明は、固定スクロールの台板に形成される渦巻き状の固定ラップと、前記固定スクロールに対して旋回運動する旋回スクロールに形成されて前記固定ラップに噛み合う渦巻き状の旋回ラップと、前記渦巻き状の中心部において前記台板に開口し、前記固定ラップと前記旋回ラップの間に形成される圧縮室で圧縮された被圧縮流体を当該圧縮室から吐出する吐出ポートと、を有し、前記旋回スクロールは、前記圧縮室で圧縮された前記被圧縮流体の圧力が所定の設計圧力になる第1基準状態と、前記中心部に形成される前記圧縮室の容積が最小になる第2基準状態と、の各状態を順に繰り返しながら旋回運動し、前記吐出ポートは、前記旋回スクロールが前記第1基準状態のときの前記旋回ラップの前記渦巻き状の外方を臨む側の外側曲線と、前記旋回スクロールが前記第2基準状態のときの前記旋回ラップの前記中心部を臨む側の内側曲線と、前記旋回スクロールが前記第2基準状態から前記第1基準状態へ移行するときに移動する前記旋回ラップの前記外側曲線の移動する領域の前記中心部の側と、前記固定ラップの前記中心部を臨む側の内側曲線と、で囲まれた領域に形成されているという特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、外形を拡大することなく、吐出ポートの流路損失抵抗を低減するとともに高圧縮比運転を実現可能に設計容積比を拡大できるスクロール圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】スクロール圧縮機の構造を示す断面図である。
図2】圧縮機構部の圧縮動作原理を説明する図である。
図3】(a)〜(d)は固定スクロールの中心部の拡大図である。
図4】(a)は旋回スクロールが第1基準状態、第2基準状態のときの旋回ラップの巻き始め端の位置と、旋回スクロールが第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態へ移行するときに旋回ラップの外側曲線が描く軌跡を同一図面に示した図、(b)は吐出ポートの形状を示す図である。
図5】(a)、(b)は加工工具によって加工された吐出ポートの形状を示す図である。
図6】(a)は固定スクロールを固定ラップの側から見た平面図、(b)は(a)に示すSec1−Sec1での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、スクロール圧縮機の構造を示す断面図、図2は圧縮機構部の圧縮動作原理を説明する図である。また、図3の(a)〜(d)は固定スクロールの中心部の拡大図である。
【0012】
図1に示すように、本実施例のスクロール圧縮機1(密閉型電動圧縮機)は、高圧チャンバ方式の密閉型スクロール圧縮機であって冷凍機器の冷凍サイクルに使用され、広範囲に亘る運転条件の下で使用される。
スクロール圧縮機1は、例えば、横置きに設置され、それぞれ渦巻状のラップ6a,5cが立設された旋回スクロール6及び固定スクロール5を有する圧縮機構部3と、この圧縮機構部3を駆動する電動機4と、が筒状横長の密閉容器2に収納されて構成される。
以下、旋回スクロール6に立設するラップを旋回ラップ6a、固定スクロール5に立設するラップを固定ラップ5cと称する。
密閉容器2は、円筒状の側面ケース2aに蓋部2b,2cが端部に溶接されて構成されている。一方の蓋部2bには、横方向に延設される管状の吸入口接続部2dと、高圧縮比運転時における吐出ガスの温度上昇を防ぐことを目的に、旋回ラップ6aおよび固定ラップ5cで形成される圧縮室11に液冷媒を注入する液インジェクション冷却部50が形成されている。
以下、吸入口接続部2dが形成される蓋部2bの側を上流側、他方の蓋部2cの側を下流側とする。
また、圧縮機構部3は密閉容器2の上流側に配置され、電動機4は密閉容器2の下流側に配置される。さらに、電動機4より下流側には遮蔽板20で仕切られた油室20aが形成され、油室20aに潤滑油13が貯留されている。
【0013】
電動機4は、固定子4aおよび回転子4bを含んで構成される。固定子4aは密閉容器2に圧入、焼嵌めなどにより固定され、回転子4bは固定子4aの内部に回転可能に配置されている。また、回転子4bには、主軸部7aと偏心部7bからなるクランク軸7が取り付けられ、回転子4bの回転によってクランク軸7が回転するように構成される。
クランク軸7の主軸部7aは密閉容器2の軸方向に延設される棒状部材であり、主軸部7aの軸中心が回転子4bの回転中心と同軸になるように、クランク軸7が回転子4bに固定される。また、偏心部7bは軸中心が主軸部7aの軸中心と適宜偏心して構成されている。
【0014】
固定スクロール5は、基部を構成する台板5dと、台板5dから旋回スクロール6の側に向かって壁状に形成される渦巻状のラップ(固定ラップ5c)と、を有する。
台板5dは、側面ケース2aに溶接等によって固定されているフレーム9の上流側にボルト8などの締結部材で固定されて取り付けられる。
【0015】
旋回スクロール6は台板5dとフレーム9の間に形成される中間圧室14に収納され、基部を構成する台板6dと、固定スクロール5の側に向かって壁状に形成される渦巻状のラップ(旋回ラップ6a)が、固定スクロール5の台板5dに形成される固定ラップ5cと噛み合うように構成される。
フレーム9の中心部は、固定スクロール5の側に凹部が形成され、この凹部によって固定スクロール5の台板5dと旋回スクロール6の台板6dの間に空間(中間圧室)が形成される。
【0016】
また、旋回スクロール6は、電動機4の回転子4bに取り付けられているクランク軸7の偏心部7bに取り付けられて回転可能に構成されている。
クランク軸7は、主軸部7aが主軸受9aを介してフレーム9に回転自在に支持され、偏心部7bは主軸部7aの回転にともなって中間圧室14内で偏心回転するように構成される。ここでいう偏心回転は、偏心部7bの軸中心が主軸部7aの軸中心の周りを公転する回転とする。
クランク軸7の下流側は、遮蔽板20に取り付けられた副軸受16によって、主軸部7aが回転自在に支持される。
【0017】
クランク軸7の中心部には潤滑油13が流通する給油通路7cが軸方向に形成され、さらに、副軸受16には、潤滑油13を吸い上げて副軸受16および主軸受9aに潤滑油13を供給する給油管7dが装着されている。
油室20aに貯留されている潤滑油13は、中間圧室14と、後記する吐出圧室2fと、の圧力差によって給油管7dに吸い上げられて給油通路7cを流通し主軸受9a、副軸受16などに供給される(差圧給油方式)。
【0018】
旋回スクロール6は、クランク軸7の偏心部7bに取り付けられ、クランク軸7の回転によって偏心部7bとともに偏心回転する。また、旋回スクロール6とフレーム9の間にはオルダムリング12が配置されている。オルダムリング12は、旋回スクロール6の下流側に取り付けられ、フレーム9に形成された係合溝90に係合される。このオルダムリング12は、クランク軸7の偏心部7bの偏心回転によって旋回スクロール6が自転することを防止するとともに旋回スクロール6を公転運動させる機能を有する。
【0019】
図2に示すように、固定スクロール5(図1参照)の台板5dの下流側の面には、渦巻状の溝からなるガス通路5bが形成されており、固定ラップ5cはガス通路5bの壁面として形成されている。また、ガス通路5bの渦巻状の外周の端部には台板5dの上流側が開口するように吸込口5aが形成され、ガス通路5bの渦巻状の中心部には、固定スクロール5の上流側に形成される空間(吐出圧室2f(図1参照))と連通する吐出孔(吐出ポート5e)が開口している。
【0020】
旋回スクロール6(図1参照)の旋回ラップ6aは、図2においてはハッチングした部分で示され、ガス通路5bに渦巻状に沿って収容されて固定ラップ5cと噛み合うように配置され、クランク軸7の偏心部7b(図1参照)の偏心回転で、ガス通路5bの内部を渦巻状に回転(旋回運動)するように構成される。
そして、ガス通路5bにおいて固定ラップ5cと旋回ラップ6aに挟まれた閉じた空間が圧縮室11となり、ガス通路5bにおいて吸込口5aを介して開放された空間が吸込室10となる。
【0021】
このように、図1に示す圧縮機構部3は、旋回スクロール6の旋回ラップ6aと固定スクロール5の固定ラップ5cが噛み合って構成される。そして、電動機4で駆動されるクランク軸7の回転にともなって旋回スクロール6が旋回運動すると、旋回スクロール6の旋回ラップ6aおよび固定スクロール5の固定ラップ5cによって渦巻状の中心に向かって移動しながら圧縮室11が形成される。
圧縮室11は渦巻状の中心に行くほど容積が減少し、吸込口5aからガス通路5bに吸入された被圧縮流体(冷媒等)を圧縮する。そして、圧縮室11で圧縮された被圧縮流体は、渦巻状の中心部から吐出ポート5eを介して吐出圧室2fに吐出される。
【0022】
さらに、吐出圧室2fに吐出された被圧縮流体は、遮蔽板20に形成される冷媒ガス流路孔20bを通って、下流側の蓋部2cを貫通するように備わる吐出パイプ2eから供給先(図示しない熱交換器等)に供給される。
【0023】
固定スクロール5に形成される吸込口5aには、供給源(図示せず)から供給される被圧縮流体を導入するための吸込パイプ2gが接続される。吸込パイプ2gは、吸入口接続部2dを貫通し、先端部2g1が吸込口5aに差し込まれて取り付けられる。
また、吸込パイプ2gの内側には圧入部材2hが備わっている。圧入部材2hは管状に形成され、吸込パイプ2gの先端部2g1を内側から全周に亘って押圧して先端部2g1を吸込口5aの周壁5a1に圧着させて吸込パイプ2gを固定スクロール5に固定する。
【0024】
図2に示すように、固定ラップ5cは、吐出ポート5eが形成される中心部から吸込口5aが形成される外方に向かう渦巻き状に形成され、旋回ラップ6aは、固定ラップ5cと噛み合うような渦巻き状に形成される。
【0025】
本実施例の旋回ラップ6aおよび固定ラップ5cは、極座標形式で動径r、偏角θ、代数螺旋の係数a、代数螺旋の指数kとしたとき、次式(1)で示される代数螺旋を基本渦巻曲線として形成される。

r=a×θ (1)

また、旋回ラップ6aおよび固定ラップ5cは、吐出ポート5eが形成される中心部側の端部(以下、巻き始め部という)の肉厚を、吸込口5a側の端部(以下、巻き終り部という)の肉厚よりも厚くするために、巻き始め部の側の係数a、または、指数kが巻き終り部の側よりも大きくなるように設定されている。
【0026】
例えば、巻き終り部から巻き始め部に向かって、係数a、または、指数kが漸増する構成とすれば、旋回ラップ6aおよび固定ラップ5cの肉厚を、巻き終り部から巻き始め部に向かって連続的に変化させることができ、巻き始め部の肉厚を巻き終り部の肉厚よりも厚くすることができる。
【0027】
そして、図1に示す電動機4の駆動によってクランク軸7の偏心部7bが偏心回転すると、オルダムリング12の作用によって、旋回スクロール6が固定スクロール5に対して旋回運動する。このとき、固定ラップ5cおよび旋回ラップ6aの間に形成される圧縮室11は旋回スクロール6の旋回運動にともなって、容積を減少しながら中心部に向かって移動する。
【0028】
そして圧縮室11が容積を減少しながら固定スクロール5の中心部に向かって移動するのにともなって、吸込口5aから吸い込まれた被圧縮流体が圧縮されながら圧縮室11とともに固定スクロール5の中心部に向かって移動し、吐出ポート5eから吐出圧室2f(図1参照)に吐出される。
【0029】
例えば、図2図3の(a)に示すように、旋回ラップ6aの巻き始め部側の端部(巻き始め端6aS)が固定ラップ5cの中心側の曲線(内側曲線5cIN)に接し、固定ラップ5cの巻き始め部側の端部(巻き始め端5cS)が旋回ラップ6aの中心側の曲線(内側曲線6aIN)に接する状態のとき、固定スクロール5の中心部には、旋回ラップ6aの内側曲線6aINと固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれた中心部側の圧縮室11が形成される。また、この中心部側の圧縮室11の外方には、旋回ラップ6aの外側の曲線(外側曲線6aOUT)と固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれた圧縮室11と、旋回ラップ6aの内側曲線6aINと固定ラップ5cの外側の曲線(外側曲線5cOUT)に囲まれた圧縮室11と、が形成される。
【0030】
以降、固定スクロール5の最も中心側に形成される圧縮室11を内側圧縮室11aと称し、内側圧縮室11aと固定ラップ5cまたは旋回ラップ6aを隔てた外方に形成される圧縮室11を外側圧縮室11bと称する。
また、中心側の曲線は、固定ラップ5cおよび旋回ラップ6aを形成する曲線のうち中心部を臨む側(内周側)を形成する曲線とし、外側の曲線は、固定ラップ5cおよび旋回ラップ6aを形成する曲線のうち外方を臨む側(外周側)を形成する曲線とする。
【0031】
旋回ラップ6aの巻き始め端6aSが固定ラップ5cの内側曲線5cINに接し、固定ラップ5cの巻き始め端5cSが旋回ラップ6aの内側曲線6aINに接する状態で旋回ラップ6aが旋回動作した所定の時点で、旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTと固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれた外側圧縮室11bで圧縮される被圧縮流体の圧力が、所定の設計容積比のときの圧力(設計圧力)になる。この状態を、旋回スクロール6の第1基準状態とする。図3の(a)は、旋回スクロール6が第1基準状態になったときの旋回ラップ6aを示す。
なお、ここでいう設計圧力は、吸込室10の容積に対する圧縮室11の容積の比が設計容積比となったときに圧縮室11で圧縮される被圧縮流体の圧力であり、スクロール圧縮機1(図1参照)の設計値として予め設定されている値である。
また、設計容積比は、前記したように吸込開始時の圧縮室の最大容積と、吐出時(圧縮完了時)の圧縮室の最小容積の比であり、スクロール圧縮機1(図1参照)の設計値として予め設定されている値である。
【0032】
図2に示すように、旋回スクロール6が第1基準状態から旋回運動すると、旋回ラップ6aの巻き始め端6aSは固定ラップ5cの内側曲線5cINに沿って移動し、図3の(b)に示すように、旋回ラップ6aの巻き始め端6aSが固定ラップ5cの巻き始め端5cSに到達する。その後、旋回ラップ6aの巻き始め端6aSは固定ラップ5cの内側曲線5cINから離反する。
【0033】
旋回ラップ6aの巻き始め端6aSが固定ラップ5cの内側曲線5cINから離反する直前の状態では、旋回スクロール6が第1基準状態のときに形成されている内側圧縮室11aは微小になり、外側圧縮室11bは容積が縮小する。この状態から旋回ラップ6aが旋回運動すると、旋回ラップ6aの巻き始め端6aSが固定ラップ5cの内側曲線5cINから離反し、内側圧縮室11aと2つの外側圧縮室11bが連通して内側圧縮室11aの容積が増大する。
よって、旋回ラップ6aの巻き始め端6aSが固定ラップ5cの内側曲線5cINから離反する直前の状態は、内側圧縮室11aの容積が最小になる状態(最小容積形成状態)であり、本実施例において、旋回スクロール6の第2基準状態とする。図3の(b)は、旋回スクロール6が第2基準状態になったときの旋回ラップ6aを示す。
【0034】
図3の(b)に示す第2基準状態から旋回スクロール6が旋回運動すると、旋回ラップ6aの巻き始め端6aSが固定ラップ5cの内側曲線5cINから離反する。そして、図3の(c)に示すように、旋回スクロール6が第1基準状態または第2基準状態のときに形成された2つの外側圧縮室11bが連通して、固定ラップ5cの内側曲線5cINと旋回ラップ6aの内側曲線6aINに囲まれた内側圧縮室11aが形成される。さらに、内側圧縮室11aの外方に、旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTと固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれた外側圧縮室11bと、旋回ラップ6aの内側曲線6aINと固定ラップ5cの外側曲線5cOUTに囲まれた外側圧縮室11bと、が形成される。図3の(c)には、旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTと固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれた外側圧縮室11bが図示されている。
【0035】
この状態から旋回スクロール6が旋回運動すると、図2図3の(d)に示すように、旋回ラップ6aの巻き始め端6aSが固定ラップ5cの内側曲線5cINに接し、さらに、固定ラップ5cの巻き始め端5cSが旋回ラップ6aの内側曲線6aINに接する状態(中間状態)となる。そして、旋回スクロール6は、この中間状態から旋回運動して第1基準状態に移行する。
このように、旋回スクロール6は、第1基準状態、第2基準状態、および中間状態を順次繰り返すように固定スクロール5に対して旋回運動する。
【0036】
そして、本実施例の吐出ポート5eの形状は、旋回運動する旋回ラップ6aの内側曲線6aINおよび外側曲線6aOUTの形状に応じて決定される。
【0037】
例えば、旋回スクロール6が第1基準状態のとき、旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTと固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれた外側圧縮室11bで圧縮される被圧縮流体の圧力は設計圧力であり、この状態の被圧縮流体を吐出ポート5eから吐出することによって、スクロール圧縮機1(図1参照)は、設計圧力の被圧縮流体を吐出することができる。
一方、旋回スクロール6が第2基準状態になった後で、旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTと固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれて形成される外側圧縮室11bと、旋回ラップ6aの内側曲線6aINと固定ラップ5cの外側曲線5cOUTに囲まれた外側圧縮室11bは、旋回スクロール6が第1基準状態になるまでにその容積がそれぞれ縮小する。したがって、旋回スクロール6が第1基準状態になるまで、2つの外側圧縮室11bに吐出ポート5eが開口しない構成が好ましい。
【0038】
図4の(a)は旋回スクロールが第1基準状態、第2基準状態のときの旋回ラップの巻き始め端の位置と、旋回スクロールが第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態へ移行するときに旋回ラップの外側曲線が描く軌跡を同一図面に示した図、(b)は吐出ポートの形状を示す図である。
なお、図4の(a)の破線は、旋回スクロール6が第1基準状態のときの旋回ラップ6aを示し、一点鎖線は、旋回スクロール6が第2基準状態のときの旋回ラップ6aを示す。また、二点鎖線は、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態へ移行するときに旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTが描く軌跡を示し、網目部分は、外側曲線6aOUTが移動する領域を示す。
【0039】
例えば、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態へ移行するときに移動する旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTが描く軌跡よりも中心部の側に吐出ポート5eが形成される構成であれば、旋回スクロール6が第1基準状態になる前の状態で、吐出ポート5eの外側圧縮室11b側は旋回ラップ6aで閉塞され、外側圧縮室11bに吐出ポート5eは開口しない。
そこで本実施例では、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態へ移行するときに移動する旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTが描く軌跡よりも中心部の側に吐出ポート5eが形成される構成とする。
つまり、図4の(a)に網目部分で示される領域よりも中心部の側に吐出ポート5eが形成される構成とする。
【0040】
例えば、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態へ移行するときに移動する旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTが描く軌跡(網目部分の領域)の中心部側を結んだ形状に吐出ポート5eの端辺の一部が形成される構成とすればよい。
【0041】
さらに、旋回スクロール6が第1基準状態のときに外側圧縮室11bの被圧縮流体が設計圧力になるため、旋回スクロール6が第1基準状態となる位置に旋回ラップ6aが移動した直後から被圧縮流体が吐出する構成が好ましい。つまり、旋回スクロール6が第1基準状態のときには外側圧縮室11bに吐出ポート5eが開口せず、旋回スクロール6が第1基準状態のときから旋回運動した直後で外側圧縮室11bに吐出ポート5eが一気に開口する構成であることが好ましい。そこで、旋回スクロール6が第1基準状態のときには、吐出ポート5eの外側圧縮室11b側が旋回ラップ6aで閉塞される構成とする。具体的に、旋回スクロール6が第1基準状態のときの旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTよりも旋回ラップ6aの側に吐出ポート5eが形成される構成とする。つまり、図4の(a)に破線で示される外側曲線6aOUTよりも旋回ラップ6aの側に吐出ポート5eが形成される構成とする。
【0042】
この構成によって、旋回スクロール6が第1基準状態のときには吐出ポート5eの外側圧縮室11b側が旋回ラップ6aで閉塞され、外側圧縮室11bの被圧縮流体が吐出されない構成することができる。さらに、旋回スクロール6が第1基準状態のときの旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTに沿った形状に吐出ポート5eの端辺の一部が形成されていると、旋回スクロール6が旋回運動したときに、吐出ポート5eの端辺と旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTがずれて吐出ポート5eが速やかに開口する。よって、旋回スクロール6が第1基準状態のときの旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTに沿った形状(破線で示す外側曲線6aOUTに沿った形状)に吐出ポート5eの端辺の一部が形成されている構成が好ましい。
【0043】
また、旋回スクロール6が第2基準状態のとき、吐出ポート5eが開口していない外側圧縮室11b(つまり、旋回ラップ6aの内側曲線6aINと固定ラップ5cの外側曲線5cOUTに囲まれた外側圧縮室11b)の容積が最小になる。したがって、当該外側圧縮室11bで圧縮される被圧縮流体の圧力も最高になる。
そこで、旋回スクロール6が第2基準状態のときは当該外側圧縮室11bに吐出ポート5eが開口せず、旋回スクロール6が第2基準状態のときから旋回運動したときに、この外側圧縮室11bに吐出ポート5eが開口する構成が好ましい。
【0044】
例えば、旋回スクロール6が第2基準状態になったときの旋回ラップ6aの内側曲線6aINよりも旋回ラップ6aの側に吐出ポート5eが形成される構成が好適である。つまり、図4の(a)に一点鎖線で示される内側曲線6aINよりも旋回ラップ6aの側に吐出ポート5eが形成される構成が好適である。
この構成によって、旋回スクロール6が第2基準状態のとき、旋回ラップ6aの内側曲線6aINと固定ラップ5cの外側曲線5cOUTに囲まれた外側圧縮室11bと吐出ポート5eとが旋回ラップ6aによって遮断さる。したがって、旋回スクロール6が第2基準状態のとき、当該外側圧縮室11bで圧縮された被圧縮流体の吐出を防止できる。
【0045】
さらに、旋回スクロール6が第2基準状態のときの旋回ラップ6aの内側曲線6aINに沿った形状に吐出ポート5eの端辺の一部が形成されていると、旋回スクロール6が旋回運動したときに、吐出ポート5eの端辺と旋回ラップ6aの内側曲線6aINがずれて吐出ポート5eが速やかに開口する。よって、旋回スクロール6が第2基準状態のときの旋回ラップ6aの内側曲線6aINに沿った形状(一点鎖線で示す内側曲線6aINに沿った形状)に吐出ポート5eの端辺の一部が形成されている構成が好ましい。
【0046】
前記したように、吐出ポート5eは、旋回スクロール6が第1基準状態のときの旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTに沿った形状に端辺の一部が形成され、旋回スクロール6が第2基準状態のときの旋回ラップ6aの内側曲線6aINに沿った形状に端辺の一部が形成されている構成が好ましい。また、吐出ポート5eは、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態に移行するときに移動する旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTが描く軌跡よりも中心部の側に形成されることが好ましい。つまり、図4の(a)に網目部分で示す、旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTが移動する領域よりも中心部の側に形成されることが好ましい。
【0047】
また、図3の(a)に示すように、旋回スクロール6が第1基準状態のときに、旋回ラップ6aの内側曲線6aINと固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれて形成される内側圧縮室11aの被圧縮流体が吐出するように、吐出ポート5eは、旋回スクロール6が第1基準状態のときの内側圧縮室11aの位置も開口するように構成されることが好ましい。
【0048】
以上のことから、図4の(b)に太い実線で囲まれた斜線部で示す形状に吐出ポート5eが形成されることが好ましい。
なお、旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTが描く軌跡よりも中心部の側は、外側曲線6aOUTが移動する領域よりも中心部の側とする。つまり、吐出ポート5eは、外側曲線6aOUTが移動する領域の中心部の側を結んだ形状を端辺の一部とし、当該領域と重ならないように形成されることが好ましい。
【0049】
図4の(b)に示す形状を呈する吐出ポート5eの端辺のうち、P1で示される部分は、旋回スクロール6が第1基準状態のときの旋回ラップ6aの外側曲線6aOUT(破線)に沿って形成される部分であり、P2で示される部分は、固定ラップ5cの内側曲線5cIN(実線)に沿って形成される部分である。また、P3で示される部分は、旋回スクロール6が第2基準状態のときの旋回ラップ6aの内側曲線6aIN(一点鎖線)に沿って形成される部分であり、P4で示される部分は、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態へ移行するときに移動する旋回ラップ6aの外側曲線6aOUT(二点鎖線)が移動する領域の中心部の側を結んだ形状に形成される部分である。
【0050】
このように、本実施例のスクロール圧縮機1(図1参照)において、吐出ポート5eは図4の(b)に示すように、旋回スクロール6が第1基準状態のときの旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTと、旋回スクロール6が第2基準状態のときの旋回ラップ6aの内側曲線6aINと、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態へ移行するときに移動する旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTが描く軌跡の中心部の側と、固定ラップ5cの内側曲線5cINと、で囲まれた領域に形成される。
【0051】
この構成によると、旋回スクロール6が第1基準状態になったときには、旋回ラップ6aの内側曲線6aINと固定ラップ5cの外側曲線5cOUTに囲まれて形成される外側圧縮室11b(図3の(a)参照)および旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTと固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれて形成される外側圧縮室11b(図3の(a)参照)に吐出ポート5eが開口せず、外側圧縮室11bの被圧縮流体が吐出されない。
そして、旋回スクロール6が第1基準状態のときから旋回運動した時点で、旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTと固定ラップ5cの内側曲線5cINに囲まれて形成される外側圧縮室11bに吐出ポート5eが開口し、外側圧縮室11bで圧縮された被圧縮流体が吐出される。
【0052】
旋回スクロール6が第1基準状態のとき、外側圧縮室11bで圧縮される被圧縮流体の圧力は設計圧力であるため、旋回スクロール6が第1基準状態のときから旋回運動した時点で外側圧縮室11bに吐出ポート5eが開口すると、圧縮機構部3(図1参照)は設計圧力の被圧縮流体を吐出できる。また、外側圧縮室11bで圧縮される被圧縮流体の圧力が設計圧力になるまで、圧縮機構部3から被圧縮流体が吐出されることが回避される。このことによって、設計容積比を低下させることなく、また、外側圧縮室11bで圧縮される被圧縮流体の圧力が設計圧力になったときには、被圧縮流体の吐出経路を好適に確保できる。つまり、図4の(b)に示す形状の吐出ポート5eとすることによって、設計容積比を拡大することができる。
【0053】
また、この構成によると、旋回スクロール6が第2基準状態になったときには、旋回ラップ6aの内側曲線6aINと固定ラップ5cの外側曲線5cOUTに囲まれて形成される外側圧縮室11b(図3の(b)参照)に吐出ポート5eが開口せず、当該外側圧縮室11bの被圧縮流体が吐出されない。
したがって、充分に圧縮されていない被圧縮流体が圧縮機構部3から吐出されることが回避され、設計容積比を低下させることなく充分に圧縮された被圧縮流体を吐出する圧縮機構部3(図1参照)とすることができる。
【0054】
また、この構成によると、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態に移行しているときには、旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTと固定ラップ5cの内側曲線5cINで囲まれて形成される外側圧縮室11bに吐出ポート5eが開口しないため、外側圧縮室11bで圧縮された被圧縮流体が圧縮機構部3(図1参照)から吐出されない。したがって、外側圧縮室11bの被圧縮流体が設計圧力まで圧縮される前に吐出されることがなく、充分に圧縮された被圧縮流体を吐出する圧縮機構部3とすることができる。
【0055】
以上のように、図4の(b)に示す太い実線で囲まれた斜線部で示す形状に吐出ポート5eが形成されることによって、設計圧力まで充分に圧縮されない状態の被圧縮流体が圧縮機構部3(図1参照)から吐出されることが防止され、設計容積比の低下を抑制できる。また、吐出ポート5eの開口面積を広くすることができるため、被圧縮流体が設計圧力まで圧縮されたときには、被圧縮流体の吐出経路を好適に確保できる。
また、このような形状の吐出ポート5eは、ガス通路5b(図2参照)が形成される領域に形成されるため、固定スクロール5(図2参照)が拡大することなく吐出ポート5eが形成される。
したがって、スクロール圧縮機1(図1参照)の外形を拡大することなく、被圧縮流体の吐出経路を好適に確保でき、吐出ポート5eに生じる流路損失抵抗を低減できる。
【0056】
図5の(a)、(b)は加工工具によって加工された吐出ポートの形状を示す図である。また、図6の(a)は固定スクロールを固定ラップの側(つまり、スクロール圧縮機の下流側)から見た平面図、(b)は(a)に示すSec1−Sec1での断面図である。
本実施例の吐出ポート5eは、図4の(b)に示すように、旋回スクロール6が第1基準状態のときの旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTよりも旋回ラップ6aの側で、旋回スクロール6が第2基準状態のときの旋回ラップ6aの内側曲線6aINよりも旋回ラップ6aの側で、かつ、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態に移行するときに移動する旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTの軌跡よりも中心部の側に形成されることが好ましい。
【0057】
しかしながら、圧縮機構部3(図1参照)の吐出ポート5eは、例えば、エンドミル等の加工工具による穴あけ加工で固定スクロール5の台板5d(図1参照)に形成される場合がある。
このように、加工工具としてエンドミルなどが使用される場合、エンドミルの径より小さな形状の開口はかなり困難な加工になる。
そこで、例えば、図4の(b)に示すように形成される吐出ポート5eの領域内で、図5の(a)に示すように、エンドミルの径よりも細い部分が生じる端部がエンドミルの径となる形状の吐出ポート5eであってもよい。図5の(a)には、旋回スクロール6が第2基準状態のときの旋回ラップ6aの内側曲線6aINで決定される端辺(P3)と、旋回スクロール6が第2基準状態から中間状態を経て第1基準状態に移行するときに移動する旋回ラップ6aの外側曲線6aOUTの軌跡で決定される端辺(P4)と、からなる端部(端部Pt34とする)がエンドミルの径で加工されて曲線部C1が形成されている例が示されている。
また、図5の(b)に示すように、より小さな径のエンドミル(またはドリル)で曲線部C1よりもさらに先端を孔加工して小さな径の曲線部C2が形成され、図4の(b)に示す吐出ポート5eの形状に近づける構成としてもよい。
【0058】
このように、吐出ポート5eの端部に、エンドミル等の加工工具の径によって決定される曲線部C1や小さな曲線部C2が形成されることによって、吐出ポート5eの加工容易性が確保されるとともに、吐出ポート5eの開口面積を広げることができる。そして、吐出ポート5eの開口面積が広がることによって、吐出ポート5eで生じる流路損失抵抗が低減される。
【0059】
また、図6の(a)に示すように、吐出ポート5eは固定スクロール5の台板5dに開口する開口部として形成されるが、図6の(b)に示すように、台板5dの厚みt1が厚い場合には、例えば、台板5dの固定ラップ5cが形成されない一面の吐出ポート5eの位置に、当該吐出ポート5eが開口する領域よりも大きな領域の凹部(例えば、丸孔5d1)が、台板5dの厚みt1よりも浅い深さd1で形成される構成であってもよい。つまり、台板5dは、吐出ポート5eが形成される位置が、他の箇所よりも肉薄に形成される構成であってもよい。
このような構成の台板5dとすれば、エンドミル等の加工工具で加工される吐出ポート5eの位置では台板5dの厚みが薄く(t1−d1)なり、エンドミル等の加工工具による加工精度及び加工効率を向上させることができる。
【0060】
なお、本発明は前記した実施例に限定されるものではない。例えば、前記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
【0061】
例えば、図4の(b)に示す吐出ポート5eの形状は、固定ラップ5cおよび旋回ラップ6aの形状によって決定されるものであり、図4の(b)に示す形状は一例に過ぎない。前記したように、本実施例における吐出ポート5eの形状は、旋回ラップ6aの内側曲線6aINおよび外側曲線6aOUTの形状と、固定ラップ5cの内側曲線5cINの形状と、旋回ラップ6aの移動にともなって外側曲線6aOUTが描く軌跡の形状と、によって決定される。
【0062】
また、例えば、図4の(b)に斜線で示す領域の内側に2つ以上の開口部が開口して形成される吐出ポート5eであってもよい。
【0063】
また、図2等に示す固定ラップ5cおよび旋回ラップ6aの形状も一例に過ぎず、本発明は任意の形状の固定ラップ5cおよび旋回ラップ6aを備えるスクロール圧縮機1(図1参照)に適用可能である。
【0064】
この他、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
例えば、本実施例では旋回スクロール6が第2基準状態になると、図3の(b)に示すように、中心部に形成される内側圧縮室11aが微小になる。しかしながら、旋回ラップ6aの巻き始め端6aSや固定ラップ5cの巻き始め端5cSの形状によっては、内側圧縮室11aが消滅する構造とすることも可能である。この場合であっても、旋回ラップ6aの巻き始め端6aSが固定ラップ5cの内側曲線5cINから離反すると、内側圧縮室11aは2つの外側圧縮室11bと連通して容積が増大する。したがって、旋回スクロール6が第2基準状態のとき内側圧縮室11aは容積が最小になる。
【符号の説明】
【0065】
1 スクロール圧縮機
5 固定スクロール
5c 固定ラップ
5cIN 内側曲線
5cOUT 外側曲線
5d 台板
5e 吐出ポート
6 旋回スクロール
6a 旋回ラップ
6aIN 内側曲線
6aOUT 外側曲線
11 圧縮室
11a 内側圧縮室(中心部に形成される圧縮室)
図1
図2
図3
図4
図5
図6