【文献】
鳥居 由季子,HEP(Habitat Evaluation Procedure:ハビタット評価手続),i・net,国土環境株式会社,2004年 7月,Vol.9,pp.10-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
現況における潜在的及び顕在的な生態系ポテンシャル並びにハビタットに関する評価を行うことにより、生態系の保全及び回復目標を提示するための生態系保全及び回復の評価システムであって、
少なくとも、評価対象となる地域の敷地広さ、土地利用状況、緑被率、コアとなる生物生息域までの距離、及びサブコアとなる生物生息域までの距離を評価項目として、これらの評価項目について、潜在的な生態系ポテンシャルである現地環境総評点を算出する現地環境総評点算出手段と、
少なくとも、評価対象となる敷地内の緑地構成、低茎草の種類、高茎草・蔓性植生・低木の種類、高木の種類、水域の水生植物、面積を評価項目として、これらの評価項目について、当初における実際の生態系ポテンシャルである当初ハビタット総評点を算出する当初ハビタット総評点算出手段と、
前記現地環境総評点が所定値以上の場合に、生態系保全回復への取り組みを実施すると判定する生態系保全回復取組判定手段と、
生態系保全回復への取り組みを実施すると判定した場合に、前記当初ハビタット総評点以上の目標ハビタット総評点を設定する目標ハビタット総評点設定手段と、
を備えたことを特徴とする生態系保全及び回復の評価システム。
前記当初ハビタット総評点算出手段は、前記評価項目毎に、少なくとも、依存植物種数、面積を入力値とし、必要に応じて、重み指数及び階層バランス指数を入力値に加えた演算を行って当初ハビタット評点を算出すると共に、算出した当初ハビタット評点の総和として当初ハビタット総評点を算出することを特徴する請求項1に記載の生態系保全及び回復の評価システム。
前記当初ハビタット総評点又は前記目標ハビタット総評点の少なくとも一方が所定値以上の場合に、当初生物多様性調査及び対策後生物多様性調査を実施すると判定する生物多様性調査実施判定手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生態系保全及び回復の評価システム。
前記生態系保全及び回復の評価対象となる生物は、少なくとも鳥類及び蝶類を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の生態系保全及び回復の評価システム。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策のように環境保全が問題となる中、緑地整備計画や緑化計画のコンセプトとして生物多様性に注目が集まっており、水辺や多様な植栽の設置により、多数の固有種が存在する、豊かな自然環境の実現が望まれている。このため、従来、生態系評価を行うための技術が種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、生息生物種群の多様性の向上効果を定量的に予測するための生物多様性向上効果予測システムに関するものである。この生物多様性向上効果予測システムでは、入力情報として、都市緑化の対象とするエリアについて、現況の植生環境情報や緑化計画に基づく計画実現後の植生環境情報が含まれている。そして、演算処理装置により、それぞれの現況および計画後の植生環境分析情報、種群多様性予測分析情報を取得して分析を行い、植生環境向上情報を出力する。また、計画前後の種群ごとの生息予測分析および種群多様性予測分析に基づいて、分析結果の差分図を形成し、種群多様性向上情報として、種群生息可能性向上評価マップや種群多様性向上評価マップを出力する。
【0004】
特許文献2に記載された技術は、生息適性が異なる複数の生物について、生息のしやすさを総合的に評価する生態系ネットワーク評価方法に関するものである。この生態系ネットワーク評価方法は、対象領域のリモートセンシングデータから、樹林によって被覆される土地区画である樹林パッチ、草地によって被覆される土地区画である草地パッチ、水辺に存在する緑地からなる土地区画である水辺緑地パッチを抽出する抽出工程と、それぞれの樹林パッチに対応した樹林利用性生物のハビタット適性指数を算出する樹林利用性生物ハビタット適性指数算出工程と、それぞれの草地パッチに対応した草地利用性生物のハビタット適性指数を算出する草地利用性生物ハビタット適性指数算出工程と、それぞれの水辺緑地パッチに対応した水辺緑地利用性生物のハビタット適性指数を算出する水辺緑地利用性生物ハビタット適性指数算出工程とを有している。
【0005】
特許文献3に記載された技術は、調査地域の環境及び社会に及ぼすリスクを回避するために、開発計画の初期及び調査地域に不足している環境設計等の環境方針・計画に必要な環境情報を提示する環境評価システムに関するものである。この環境評価システムは、地域緑地評価、環境リスク評価、地域活動評価の3つの大項目を設定し、地域緑地評価では調査地域の行政資料及び調査データから得られた人口・世帯数などの消費活動から推計した環境容量から見た必要緑地面積と調査地域の実面積との比較値と緑地率から希少性を評価し、この評価結果を環境リスク評価の優先度を設定する情報とする。そして、環境リスク評価では、各評価項目について調査地域の分布範囲とデータを地図情報として生成すると共に、リスクレベルを算出して、この評価項目を当初設定した優先度に基づき環境リスクの高い分布範囲の環境保全レイアウトを行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の生態系評価を行うための技術は、現況の生態系を評価し、生物多様性の向上効果を予測するに留まり、生物多様性に対する取り組みの判断とその手段を決定するシステムとはなっていない。
【0008】
例えば、特許文献1に記載された従来の技術は、植生群の分布と生物多様性との関連を予測するシステムとなっているものの、生息動物の食餌等における依存関係を考慮したものではない。一方で、特定の生物種と、その生息環境に関するデータ群は存在するが、鳥類や蝶類などをとりまとめて多様性を評価するものではない。すなわち、特許文献1に記載された従来の技術は、生態系の保全や回復の取り組み決定後の具体的な評価までをシステム化したものではない。
【0009】
また、特許文献2に記載された従来の技術は、リモートセンシングデータのみを用いて生態系ネットワークを評価しているが、生存する生物が依存する植物種レベル等を評価対象としていない。このため、効果的かつ効率的に生態系の保全や回復に取り組むことができるとは言い難い。
【0010】
また、特許文献3に記載された従来の技術は、環境リスクを評価するに留まり、生態系の保全及び回復を提示することはできない。このため、効果的かつ効率的に生態系の保全や回復に取り組むことができるとは言い難い。
【0011】
このように、従来の生態系評価を行うための技術では、現況の生態系評価に基づいて、生態系の保全及び回復に対する取り組みから維持管理までのアクションに対するロジックが存在しないため、机上における理想的な評価を行うことはできるものの、現実的な生態系の保全及び回復に対する提言を行うことはできない。また、緑化と生物多様性という観点において、対象生物群と最も関連の深い食餌植物との関係を無視したのでは、整備緑地の評価と生態系保全性や生物多様性に関する評価との間に相関性を得ることが難しい。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、現況の生態系ポテンシャルに基づいて、生態系保全及び回復への取り組みをシステマチックに行い、生態系保全及び回復への取り組み後の評価を可能とした生態系保全及び回復の評価システムを提供することを目的とする。また、本発明は、特に鳥類と蝶類という親近感のある身近な生物群の誘致を対象とすることにより、他の生物群の相乗的な誘致を期待すると共に、総合的に生物多様性を確保することが可能な生態系保全及び回復の評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の生態系保全及び回復の評価システムは、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明の生態系保全及び回復の評価システムは、現況における潜在的及び顕在的な生態系ポテンシャル並びにハビタットに関する評価を行うことにより、生態系の保全及び回復目標を提示するための生態系保全及び回復の評価システムであって、現地環境総評点算出手段と、当初ハビタット総評点算出手段と、生態系保全回復取組判定手段と、目標ハビタット総評点設定手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0014】
現地環境総評点算出手段は、少なくとも、評価対象となる地域の敷地広さ、土地利用状況、緑被率、コアとなる生物生息域までの距離、及びサブコアとなる生物生息域までの距離を評価項目として、これらの評価項目について、潜在的な生態系ポテンシャルである現地環境総評点を算出するための手段である。当初ハビタット総評点算出手段は、少なくとも、評価対象となる敷地内の緑地構成、低茎草の種類、高茎草・蔓性植生・低木の種類、高木の種類、水域の水生植物、面積を評価項目として、これらの評価項目について、当初における実際の生態系ポテンシャルである当初ハビタット総評点を算出するための手段である。生態系保全回復取組判定手段は、現地環境総評点が所定値以上の場合に、生態系保全回復への取り組みを実施すると判定するための手段である。目標ハビタット総評点設定手段は、生態系保全回復への取り組みを実施すると判定した場合に、当初ハビタット総評点以上の目標ハビタット総評点を設定するための手段である。
【0015】
また、当初ハビタット総評点算出手段は、評価項目毎に、少なくとも、依存植物種数、面積を入力値とし、必要に応じて、重み指数及び階層バランス指数を入力値に加えた演算を行って当初ハビタット評点を算出すると共に、算出した当初ハビタット評点の総和として当初ハビタット総評点を算出することが可能である。
【0016】
また、当初生物多様性調査及び対策後生物多様性調査を実施する場合に、前記各手段に加えて、当初生物多様性評点算出手段と、目標ハビタット総評点調整手段とを備えた構成とすることが可能である。
【0017】
当初生物多様性評点算出手段は、生息する生物の種数に基づいて、当初生物多様性評点を算出するための手段である。目標ハビタット総評点調整手段は、設定された目標ハビタット総評点となるように、予め優先順位が付与されている所定の評価項目について、当該優先順位に応じてそれぞれ評点を調整するための手段である。
【0018】
また、当初ハビタット総評点又は目標ハビタット総評点の少なくとも一方が所定値以上の場合に、当初生物多様性調査及び対策後生物多様性調査を実施すると判定する生物多様性調査実施判定手段を備えた構成とすることが可能である。
【0019】
また、生態系保全及び回復の評価対象となる生物は、少なくとも鳥類及び蝶類を含むことが好ましい。
【0020】
このような構成からなる生態系保全及び回復の評価システムでは、緑地整備計画や緑化計画時において、現況における潜在的及び顕在的な生態系ポテンシャルやハビタットに関する評価を行い、当該環境において最適な生態系の保全及び回復を行うために目標とすべき取組方法を提示することが可能な一連のシステムとなる。
【0021】
また、生態系の保全及び回復への取り組みを行う場合に、生態系調査により生物多様性を評価し、さらに生物多様性とハビタットとの相関性を評価することが可能である。この際、特定の生物群として、我が国における鳥類及び蝶類の普通種群を対象として、その食餌植物に関する現況や、目標とするハビタットを評価することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の生態系保全及び回復の評価システムによれば、現況の生態系ポテンシャルに基づいて、生態系の保全及び回復に対する取り組みがシステマチックに行われ、取り組み後の生物多様性を的確に評価することが可能となる。
【0023】
また、鳥類及び蝶類という親近感のある身近な生物群を評価対象に組み込むことにより、他の生物群の相乗的な誘引を期待することができ、総体的には、本評価システムの実施により、対象地域全体における生物多様性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<生態系保全及び回復の評価システムの概要>
以下、図面を参照して、本発明の生態系保全及び回復の評価システムの実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係る生態系保全及び回復の評価システムの構成を示すブロック図、
図2は本発明の実施形態に係る生態系保全及び回復の評価システムの概要を示す説明図である。
【0026】
なお、以下の説明において、各手段は、コンピュータにおいて、CPU等のハードウエア資源と協働することにより、それぞれの目的に応じた情報の演算又は加工を実現するためのプログラムにより構成される。また、プログラムとは、RAM等に記憶され、CPU等のハードウエア資源で実行されることにより、その機能を発揮するソフトウエアだけではなく、同等の機能を発揮することが可能な論理回路も含む概念である。
【0027】
本発明の実施形態に係る生態系保全及び回復の評価システム10(以下、評価システム10と略記する場合がある)は、
図2に示すように、当初現地環境調査を行うために現地環境評点表を作成し、当初ハビタット評価を行うために当初ハビタット評点表を作成し、生態系の保全・回復に対する取組評価を行う。これらの調査及び評価等において、
図1に示すように、現地環境総評点算出手段100と、当初ハビタット総評点算出手段110と、生態系保全回復取組判定手段120と、目標ハビタット総評点設定手段130が、それぞれの機能手段となる。
【0028】
さらに、
図2に示すように、生態系の保全・回復に取り組む場合に、当初生物多様性調査を行うために当初生物多様性調査評点表を作成し、生態系保全・回復計画を立案して、目標ハビタット評価設定を行うために目標ハビタット評点表を作成する。これらの評価等において、
図1に示すように、当初生物多様性評点算出手段150と、目標ハビタット総評点調整手段180とが、それぞれの機能手段となる。
【0029】
その後、作成された設計を反映して、生態系の保全・回復対策を実施し、実施後の対応として、生物環境の維持管理、教育・啓蒙、対策後ハビタット評価、対策後生物多様性調査を行う。
【0030】
本実施形態の評価システムでは、
図2に示す各ステップの特性に応じて、現地調査を行ってデータを採取したり、採取したデータ等を用いて各機能手段により演算を行ったり、あるいは現地調査と各機能手段を用いた演算を組み合わせたりすることにより、各ステップを実施する。この際、リモートセンシングデータを用いて、緑地の広さ、利用態様、緑被率、生物生息域までの距離等を把握することができる。
【0031】
<生態系保全及び回復の具体的構成例>
本発明の実施形態に係る生態系保全及び回復の評価システム10は、
図1に示すように、コンピュータ及びその付属機器により構成されるシステムであって、主要な構成要素として、中央制御手段11、ROM12、RAM13、HDD14、入力装置17、出力装置18を備えており、さらに、本発明の本質的な機能手段として、現地環境総評点算出手段100、当初ハビタット総評点算出手段110、生態系保全回復取組判定手段120、目標ハビタット総評点設定手段130を備えている。また、本実施形態の生態系保全及び回復の評価システム10は、生物多様性調査実施判定手段140、当初生物多様性評点算出手段150、目標ハビタット総評点調整手段160を備えることが可能である。
【0032】
<中央制御手段>
中央制御手段11は、本実施形態の評価システム10を総合的に制御するための手段であり、例えばCPU及びその周辺機器により構成されており、CPU等がROM12等に記憶されたプログラムに従って動作することにより、制御機能を発揮することができるようになっている。
【0033】
<ROM/RAM>
ROM12は、本実施形態の評価システム10を構成する各機器を制御するためのプログラムデータや数値データを記憶するための機器で、例えば半導体メモリ等で構成される。また、RAM13は、プログラムや各種データを一時的に記憶する一時記憶領域として機能する機器である。
【0034】
<HDD>
HDD14は、大容量の記憶装置として機能するもので、本実施形態の評価システム10では、蝶類の食草・食樹データベース210、鳥類の食餌植物データベース220、特定・要注意外来生物データベース230等、種々のデータベースが格納されている。
【0035】
<入力装置>
入力装置17は、本実施形態の評価システム10に対して、種々のデータを入力するための装置で、入力I/F15を介してバスラインに接続されている。この入力装置17は、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、タッチ入力タブレット等からなる。
【0036】
<出力装置>
出力装置18は、本実施形態の評価システムで生成した種々のデータを出力するための装置で、出力I/F16を介してバスラインに接続されている。この出力装置18は、例えば、液晶表示装置、プリンタ等からなる。
【0037】
<現地環境総評点算出手段>
現地環境総評点算出手段100は、少なくとも、評価対象となる地域の敷地広さ、土地利用状況、緑被率、コアとなる生物生息域までの距離、及びサブコアとなる生物生息域までの距離を評価項目として、これらの評価項目について、潜在的な生態系ポテンシャルである現地環境総評点を算出するためのプログラムからなる。
【0038】
現地環境総評点算出手段100において、現地環境総評点の算出基準となる評価項目は、上述したように、評価対象となる地域の敷地広さ、土地利用状況、緑被率(水域を含む)、コアとなる生物生息域までの距離、及びサブコアとなる生物生息域までの距離であるが、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、他の評価項目を加えてもよい。
【0039】
図3は、現地環境評点表の一例を示す説明図である。
図3に示すように、各評価項目では、それぞれ複数の属性に応じて評点が設定されており、評価項目毎にそれぞれ入力された属性に対応する評点と、その合計点である総評点とが算出される。現地環境総評点算出手段100における算出結果は、表示装置の表示画面に表示したり、プリンタにより印刷したりすることができる。
【0040】
なお、コアとなる生物生息域とは、評価対象となる地域において30ha規模以上の緑地(水域を含む)のことであり、サブコアとなる生物生息域とは、評価対象となる地域において1,000m
2以上30ha未満規模の以上の緑地(水域を含む)又はコリドー(河川・街路樹道)のことである。
【0041】
<当初ハビタット総評点算出手段>
当初ハビタット総評点算出手段110は、少なくとも、評価対象となる敷地内の緑地構成、低茎草の種類、高茎草・蔓性植生・低木の種類、高木の種類、水域の水生植物、面積を評価項目として、これらの評価項目について、当初における実際の生態系ポテンシャルである当初ハビタット総評点を算出するためのプログラムからなる。また、評価項目は上述したものに限られず、生物増殖要素等の他の評価項目を加えてもよい。
【0042】
この当初ハビタット総評点算出手段110では、蝶類の食草・食樹データベース210、鳥類の食餌植物データベース220、特定・要注意外来生物データベース230を参照して、低茎草の種類、高茎草・蔓性植生・低木の種類、高木の種類、水域の水生植物に関する評点算出を行う。
図6〜
図8に、当初ハビタット総評点算出手段110で参照する蝶類の食草・食樹データベース210、鳥類の食餌植物データベース220、特定・要注意外来生物データベース230の構成例を示す。なお、蝶類の食草・食樹データベース210は、蝶類幼虫の食餌対象となる植物、蝶類成虫の吸密等の対象となる植物が対象データとなる。
【0043】
当初ハビタット総評点算出手段110において、当初ハビタット総評点の算出基準となる評価項目は、上述したように、評価対象となる敷地内の緑地構成、低茎草の種類、高茎草・蔓性植生・低木の種類、高木の種類、水域の水生植物、面積であるが、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、水域の水生動物及び生物増殖要素等、他の評価項目を加えてもよい。
【0044】
当初ハビタット総評点算出手段110における当初ハビタット総評点の算出では、評価項目毎に、少なくとも、依存植物種数、面積を入力値とし、必要に応じて、重み指数及び階層バランス指数を入力値に加えた演算を行って当初ハビタット評点を算出すると共に、算出した当初ハビタット評点の総和として当初ハビタット総評点を算出することが可能である。
【0045】
図4を参照して、当初ハビタット総評点算出手段110における当初ハビタット総評点の算出の概念を説明する。
図4は、当初ハビタット総評点の算出の概念を説明する説明図である。当初ハビタット総評点算出手段110では、
図4に示すように、低茎草、高茎草・蔓植物・低木、高木の各評価項目については、それぞれ、質、量、重み付け、及び階層バランスを考慮した演算を行い、水生植物の評価項目については、質及び量を考慮した演算を行うことにより、各評価項目の当初ハビタット評点を算出し、これらの総和を当初ハビタット総評点とする。
【0046】
具体的には、低茎草、高茎草・蔓植物・低木、高木の評価項目については、それぞれ、依存植物種数と、植被面積と、重み指数と、階層バランス指数との積を求めて、各項目の当初ハビタット評点を算出する。また、水生植物の評価項目については、水生植物種数と、水域面積との積を求めて、当初ハビタット評点を算出すする。なお、重み指数及び階層バランス数は、評価対象となる地域の特性等に基づいて、適宜設定することができる。
【0047】
ここで、依存植物とは、例えば、蝶の普通種の幼虫及び成虫の吸密植物と、鳥が採餌する実や種子類を産生する植物のことである。当初ハビタット総評点算出手段110における算出結果は、表示装置の表示画面に表示したり、プリンタにより印刷したりすることができる。
【0048】
また、当初ハビタット総評点算出手段110では、
図5に示すように、各評価項目について、それぞれ複数の属性に応じて評点を設定し、評価項目毎にそれぞれ入力された属性に対応する評点と、その合計点である総評点とに基づいて、当初ハビタット総評点を算出してもよい。
図5は、当初ハビタット評点表の一例を示す説明図である。
【0049】
なお、低茎草とは、草丈が概ね50cm以下の草本植物で、草原を形成する植物のことであり、高茎草とは、草丈が概ね50cm以上の草本植物で、藪を形成する植物のことであり、蔓性植物とは、他の植物や壁面に絡んで生育し、藪を形成する植物のことであり、低木とは、樹高が概ね2m以下で、藪を形成する植物のことであり、高木とは、樹高が概ね2m以上で、樹林を形成する植物のことである。また、生物増殖要素とは、いわゆるエコアップ、エコスタックのことであり、生物を意図的に増やすことを目的として設置された仕掛けのことをいう。この生物増殖要素は、例えば、枯れ立木、石積、砂場等からなる。
【0050】
<生態系保全回復取組判定手段>
生態系保全回復取組判定手段120は、現地環境総評点が所定値以上の場合に、生態系保全回復への取り組みを実施すると判定するためのプログラムからなる。生態系保全回復取組判定手段120では、例えば、現地環境総評点が50点以上の場合に、生態系の保全及び回復を行う必要があり、取組を実施すべきであると判定する。なお、判定の基準値は、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、適宜変更することができる。
【0051】
<目標ハビタット総評点設定手段>
目標ハビタット総評点設定手段130は、生態系保全回復への取り組みを実施すると判定した場合に、当初ハビタット総評点以上の目標ハビタット総評点を設定するためのプログラムからなる。例えば、
図5に示すように、当初ハビタット総評点が56点の場合には、目標ハビタット総評点設定手段130の機能により、目標ハビタット総評点を80点に設定する。なお、目標ハビタット総評点は、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、適宜変更することができる。
【0052】
<生物多様性調査実施判定手段>
生物多様性調査実施判定手段140は、当初ハビタット総評点又は目標ハビタット総評点の少なくとも一方が所定値以上の場合に、当初生物多様性調査及び対策後生物多様性調査を実施すると判定するためのプログラムからなる。この生物多様性調査実施判定手段140は、本発明に係る生態系保全及び回復の評価システムの付加的構成要素である。
【0053】
目標ハビタット総評点設定手段130では、例えば、当初ハビタット総評点又は目標ハビタット総評点の少なくとも一方が80点以上の場合に、当初生物多様性調査及び対策後生物多様性調査を実施すると判定する。なお、当初生物多様性調査及び対策後生物多様性調査の実施判定に用いる当初ハビタット総評点又は目標ハビタット総評点の基準値は、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、適宜変更することができる。
【0054】
<当初生物多様性評点算出手段>
当初生物多様性評点算出手段150は、少なくとも、生息する生物の種数に基づいて、当初生物多様性評点を算出するためのプログラムからなる。この当初生物多様性評点算出手段150は、本発明に係る生態系保全及び回復の評価システムの付加的構成要素である。本実施形態では、当初生物多様性評点の算出対象となる生物は、少なくとも鳥類及び蝶類を含んでいる。なお、当初生物多様性評点の算出対象となる生物は、鳥類及び蝶類以外にも、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、両生類、爬虫類、哺乳類、蝶類以外の昆虫類等を対象としてもよい。
【0055】
図9は、当初生物多様性調査評点表の一例を示す説明図である。
図9に示すように、各評価項目では、それぞれ複数の属性に応じて評点が設定されており、評価項目毎にそれぞれ入力された属性に対応する評点と、その合計点である総評点とが算出される。当初生物多様性評点算出手段150における算出結果は、表示装置の表示画面に表示したり、プリンタにより印刷したりすることができる。
【0056】
当初生物多様性評点算出手段150における入力データは、例えば、ルートセンサス法を基本とし、1回の調査時間は午前中の3時間とする。また、鳥類調査及び蝶類調査では、例えば、冬期と夏期に各1回ずつ、計2回の調査を行う。また、その他の動物調査は、鳥類調査及び蝶類調査の際に合わせて実施する。この際、調査の便宜のため、例えば、体長約10mm以上若しくは開翅長約20mm以上の動物を対象とすることが好ましい。なお、調査回数及び調査時期等は、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、適宜変更することができる。
【0057】
<目標ハビタット総評点調整手段>
目標ハビタット総評点調整手段160は、設定された目標ハビタット総評点となるように、予め優先順位が付与されている所定の評価項目について、当該優先順位に応じてそれぞれ評点を調整するためのプログラムからなる。この目標ハビタット総評点調整手段160は、本発明に係る生態系保全及び回復の評価システムの付加的構成要素である。
【0058】
目標ハビタット総評点調整手段160では、目標ハビタット総評点が設定値である80点となるように、予め優先順位が付与されている評価項目についてそれぞれ加算する評点を調整する。例えば、予め、対象敷地緑被率、緑被率の構成、低茎草の種類、エコスタック他の評価項目に対して、この順に優先順位を付与し、目標ハビタット総評点が設定値となるように、各評価項目についてそれぞれ評点を調整する処理が行われる。すなわち、
図10に示すような目標ハビタット評点表が作成されるように、対象敷地緑被率、緑被率の構成、低茎草の種類、エコスタック等の評価項目について、加算する評点を調整して設定する。
【0059】
図10は、目標ハビタット評点表の一例を示す説明図である。
図10に示すように、各評価項目では、それぞれ複数の属性に応じて評点が設定されており、評価項目毎にそれぞれ入力された属性に対応する評点と、その合計点である総評点とが算出される。目標ハビタット総評点調整手段160における算出結果は、表示装置の表示画面に表示したり、プリンタにより印刷したりすることができる。
【0060】
目標ハビタット総評点調整手段160で作成する目標ハビタット評点表における低茎草、高茎草、蔓性植物、低木、高木の定義は、上述した当初ハビタット総評点算出手段110における定義と同様である。また、目標ハビタット総評点調整手段160で参照するデータベースは、上述した当初ハビタット総評点算出手段110で参照するデータベースと同様である。また、目標ハビタット総評点調整手段160では、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、他の評価項目を加えてもよい。
【0061】
<生物環境の維持管理>
生物環境の維持管理には、植生管理と水域管理とがある。この生物環境の維持管理は、生態系保全及び回復を行う現地の状況に応じて、適宜、メンテナンスガイドを行うことにより実施する。
【0062】
また、生物環境の維持管理では、植生管理情報データベース及び水域管理情報データベースを参照して、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じた適宜な植生管理情報及び水域管理情報を出力するための生物環境維持情報提示手段170を備えることが可能である。この生物環境維持情報提示手段170(生物環境維持管理プログラム)の機能により、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、利用者に対して適宜な植生管理情報及び水域管理情報を提示する(
図2参照)。
【0063】
植生管理情報及び水域管理情報は、表示装置の表示画面に表示したり、プリンタにより印刷したりすることができる。
図11は、植生管理情報データベースの構成例を示す説明図、
図12は、水域管理情報データベースの構成例を示す説明図である。植生管理情報データベース及び水域管理情報データベースは、他のデータベースと同様に、HDD14に格納される。植生管理情報データベースは、植生管理情報と、その提示時期を関連付けて構成したデータベースであり、各情報を所定の提示時期に提示することができる。また、水域管理情報データベースは、水域管理情報と、その提示時期を関連付けて構成したデータベースであり、各情報を所定の提示時期に提示することができる。
【0064】
生物環境維持情報提示手段170を備えた場合には、生物環境維持情報提示手段170の機能により植生管理情報データベース及び水域管理情報データベースを参照して、各データベースで規定した提示時期に、該当する管理情報を提示する。管理情報の提示は、上述したように、表示装置の表示画面に表示し、あるいはプリンタにより印刷することにより実施される。
【0065】
<教育・啓蒙>
教育・啓蒙は、生態系保全及び回復を行う現地の状況に応じて、適宜、現地で維持管理や教育啓蒙に関わる人のためにガイドを行うことにより実施する。
【0066】
また、教育・啓蒙では、教育・啓蒙情報データベースを参照して、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じた適宜な教育・啓蒙情報を出力するための教育・啓蒙情報提示手段180を備えることが可能である。この教育・啓蒙情報提示手段180(教育・啓蒙情報提示プログラム)の機能により、生態系保全及び回復の評価対象となる地域の特性に応じて、利用者に対して適宜な教育・啓蒙情報をする(
図2参照)。
【0067】
教育・啓蒙情報は、表示装置の表示画面に表示したり、プリンタにより印刷したりすることができる。
図13は、教育・啓蒙情報データベースの構成例を示す説明図である。教育・啓蒙情報データベースは、他のデータベースと同様に、HDD14に格納される。教育・啓蒙情報データベースは、教育・啓蒙情報と、その提示時期を関連付けて構成したデータベースであり、各情報を所定の提示時期に提示することができる。
【0068】
教育・啓蒙情報提示手段180を備えた場合には、教育・啓蒙情報提示手段180の機能により、教育・啓蒙情報データベースを参照して、当該データベースで規定した提示時期に、該当する管理情報を提示する。管理情報の提示は、上述したように、表示装置の表示画面に表示し、あるいはプリンタにより印刷することにより実施される。
【0069】
<対策後ハビタット評価/対策後生物多様性調査>
さらに、本発明に係る生態系保全及び回復の評価システム10では、生態系保全及び回復に対する対策を行ってから所定期間(例えば、1年間)経過後及びその後、定期的に対策後ハビタット評価及び対策後生物多様性調査を行うことが好ましい。この対策後ハビタット評価及び対策後生物多様性調査に基づいて、生態系保全及び回復に対する取り組みを見直すことができる。
【0070】
なお、対策後ハビタット評価には、上述した当初ハビタット総評点算出手段110と同様の機能を有する対策後ハビタット総評点算出手段190を用いることができ、対策後生物多様性調査には、上述した当初生物多様性評点算出手段150と同様の機能を有する対策後生物多様性評点算出手段200を用いることができる(
図2参照)。