特許第6017324号(P6017324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017324
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】車両の動力伝達制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/10 20120101AFI20161013BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20161013BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20161013BHJP
   B60K 6/36 20071001ALI20161013BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20161013BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20161013BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20161013BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20161013BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20161013BHJP
【FI】
   B60W10/10 900
   B60K6/547ZHV
   B60K6/48
   B60K6/36
   B60K6/387
   B60W10/02 900
   B60W20/30
   B60W20/40
   B60L11/14
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-6049(P2013-6049)
(22)【出願日】2013年1月17日
(65)【公開番号】特開2014-136496(P2014-136496A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2016年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】592058315
【氏名又は名称】アイシン・エーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 寛
【審査官】 有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−201116(JP,A)
【文献】 特開2002−227995(JP,A)
【文献】 特開2005−207487(JP,A)
【文献】 特開2004−245154(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/070707(WO,A1)
【文献】 特開2000−224710(JP,A)
【文献】 特開2006−097740(JP,A)
【文献】 特開2014−097688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20─ 6/547
B60W 10/00─20/50
B60K 17/00─17/08
B60L 1/00─ 3/12
B60L 7/00─13/00
B60L 15/00─15/42
F16H 59/00─61/12
F16H 61/16─61/24
F16H 61/66─61/70
F16H 63/40─63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関(E/G)と電動機(M/G)とを備えた車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、
内燃機関側変速段として複数の内燃機関走行変速段(1速〜5速)と、電動機側変速段として複数の電動機走行変速段(Low、High)とを備えた変速機(T/M)であって、
前記内燃機関の出力軸(A1)から動力が入力される入力軸(A2)と、
前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸(A4、A5)と、
前記電動機と連結されて前記電動機との間で動力伝達可能な中間軸(A3)と、
それぞれが前記中間軸に相対回転不能に設けられるとともに、それぞれが前記複数の内燃機関走行変速段のうち一部の変速段のそれぞれに対応し且つそれぞれが前記複数の電動機走行変速段のそれぞれに対応する、複数の共用固定ギヤ(G2i、G4i)と、
それぞれが前記出力軸に相対回転可能に設けられ、且つ、それぞれが対応する前記共用固定ギヤと常時歯合する複数の共用遊転ギヤ(G2o、G4o)と、
それぞれが前記入力軸又は前記出力軸に相対回転不能に設けられるとともに、それぞれが前記複数の内燃機関走行変速段のうち前記一部の変速段以外の残りの変速段のそれぞれに対応する、1つ又は複数の内燃機関走行固定ギヤ(G1i、G35i)と、
それぞれが前記出力軸又は前記入力軸に相対回転可能に設けられ、且つ、それぞれが対応する前記内燃機関走行固定ギヤと常時歯合する1つ又は複数の内燃機関走行遊転ギヤ(G1o、G3o、G5o)と、
前記複数の共用遊転ギヤの全てが前記出力軸に対して相対回転可能な第1状態、及び、前記複数の共用遊転ギヤのうちの何れか1つのみが前記出力軸に対して相対回転不能且つ残りの1つ又は複数の前記共用遊転ギヤが前記出力軸に対して相対回転可能な第2状態、を選択的に実現する第1切替機構(S2、ACT2)と、
前記1つ又は複数の内燃機関走行遊転ギヤの全てが前記出力軸及び前記入力軸のうちそれぞれの対応する軸に対して相対回転可能な第3状態、及び、前記1つ又は複数の内燃機関走行遊転ギヤのうちの何れか1つのみが前記対応する軸に対して相対回転不能且つ残りの1つ又は複数の前記内燃機関走行遊転ギヤがそれぞれの前記対応する軸に対して相対回転可能な第4状態、を選択的に実現する第2切替機構(S1、S4、ACT1、ACT4)と、
前記中間軸が前記入力軸と連結されて前記入力軸との間で動力伝達可能な第5状態、及び、前記中間軸が前記入力軸と連結されず前記入力軸との間で動力伝達不能な第6状態、を選択的に実現する第3切替機構(S3、ACT3)と、
を備えた変速機(T/M)と、
前記内燃機関の出力軸(A1)と前記変速機の入力軸(A2)との間に介装されたクラッチ(C/D)であってクラッチが伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチ(C/D、ACT5)と、
前記車両の走行状態に基づいて、前記内燃機関の出力軸の駆動トルクである内燃機関駆動トルク、前記電動機の出力軸の駆動トルクである電動機駆動トルク、前記第1、第2、第3切替機構、及び、前記クラッチを制御する制御手段(ECU)と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であり、
前記制御手段は、
前記車両の走行状態に基づいて、目標の前記内燃機関側変速段として前記複数の内燃機関走行変速段及び内燃機関側ニュートラルのうちから何れか一つを設定し、及び、目標の前記電動機側変速段として前記複数の電動機走行変速段及び電動機側ニュートラルのうちから何れか一つを設定するように構成され、
前記制御手段は、
前記目標内燃機関側変速段が前記内燃機関側ニュートラルに設定された場合、
前記第2切替機構を前記第3状態に制御し且つ前記第3切替機構を前記第6状態に制御することによって前記内燃機関側ニュートラルを実現するとともに、前記目標電動機側変速段が前記電動機側ニュートラルに設定されているときには前記第1切替機構を前記第1状態に制御することによって前記電動機側ニュートラルを実現し、前記目標電動機側変速段が前記複数の電動機走行変速段の何れか一つに設定されているときには前記第1切替機構を前記目標電動機側変速段の前記共用遊転ギヤが前記出力軸に対して相対回転不能となる前記第2状態に制御することによって前記目標電動機側変速段を実現し、
前記目標内燃機関側変速段が前記複数の内燃機関走行変速段のうち前記一部の変速段の何れか一つに設定された場合、
前記第2切替機構を前記第3状態に制御し且つ前記第3切替機構を前記第5状態に制御し且つ前記第1切替機構を前記目標内燃機関側変速段の前記共用遊転ギヤが前記出力軸に対して相対回転不能となる前記第2状態に制御することによって、前記目標内燃機関側変速段を実現し、且つ、前記目標電動機側変速段に設定されている、前記目標内燃機関側変速段と前記共用固定ギヤ及び前記共用遊転ギヤを共用する前記電動機走行変速段を実現し、
前記目標内燃機関側変速段が前記複数の内燃機関走行変速段のうち前記残りの変速段の何れか一つに設定された場合、
前記第2切替機構を前記目標内燃機関側変速段の前記内燃機関走行遊転ギヤが前記対応する軸に対して相対回転不能となる前記第4状態に制御し且つ前記第3切替機構を前記第6状態に制御することによって前記目標内燃機関側変速段を実現するとともに、前記目標電動機側変速段が前記電動機側ニュートラルに設定されているときには前記第1切替機構を前記第1状態に制御することによって前記電動機側ニュートラルを実現し、前記目標電動機側変速段が前記複数の電動機走行変速段の何れか一つに設定されているときには前記第1切替機構を前記目標電動機側変速段の前記共用遊転ギヤが前記出力軸に対して相対回転不能となる前記第2状態に制御することによって前記目標電動機側変速段を実現するように構成され、
前記制御手段は、
前記目標内燃機関側変速段が現在実現されている現在内燃機関側変速段から変更される内燃機関側変速要求が発生し、且つ、前記目標電動機側変速段が現在実現されている現在電動機側変速段から変更される電動機側変速要求であって前記目標電動機側変速段が前記複数の電動機走行変速段のうちの何れか一つから前記複数の電動機走行変速段のうちの他の一つの変速段に変更される電動機側変速要求が発生した場合、前記現在電動機側変速段を用いて前記電動機の駆動トルクを前記変速機の出力軸に伝達しながら前記内燃機関側変速段を前記現在内燃機関側変速段から前記目標内燃機関側変速段に変更し、その後、実現された前記目標内燃機関側変速段を用いて前記内燃機関の駆動トルクを前記変速機の出力軸に伝達しながら前記電動機側変速段を前記現在電動機側変速段から前記目標電動機側変速段に変更する第1パターン、或いは、前記現在内燃機関側変速段を用いて前記内燃機関の駆動トルクを前記変速機の出力軸に伝達しながら前記電動機側変速段を前記現在電動機側変速段から前記目標電動機側変速段に変更し、その後、実現された前記目標電動機側変速段を用いて前記電動機の駆動トルクを前記変速機の出力軸に伝達しながら前記内燃機関側変速段を前記現在内燃機関側変速段から前記目標内燃機関側変速段に変更する第2パターン、を経て、前記目標内燃機関側変速段及び前記目標電動機側変速段を実現する通常制御を実行するように構成され、
前記制御手段は、
前記内燃機関側変速要求が、前記複数の内燃機関走行変速段の前記一部の変速段のうちで前記現在電動機側変速段が実現された状態では実現され得ない変速段である特定変速段(2速)より高速側の変速段から前記特定変速段への変速要求であり、且つ、前記電動機側変速要求が、前記現在電動機側変速段から前記現在電動機側変速段より低速側の変速段への変速要求であり、且つ、前記車両を加速させるために前記車両の運転者によって操作される加速操作部材(AP)の操作量の増加勾配が第1所定値(A1)以上の場合、前記通常制御に代えて第1特殊制御を実行し、前記第1特殊制御では、前記電動機側変速段を前記現在電動機側変速段から変更することなく前記現在電動機側変速段を用いて前記電動機の駆動トルクを前記変速機の出力軸に伝達しながら、前記内燃機関側変速段を、前記現在内燃機関側変速段に維持し、又は、前記現在内燃機関側変速段より低速側であり且つ前記目標内燃機関側変速段である前記特定変速段より高速側の変速段に変更するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記内燃機関側変速要求が、前記特定変速段より高速側の変速段から前記特定変速段への変速要求であり、且つ、前記電動機側変速要求が、前記現在電動機側変速段から前記現在電動機側変速段より低速側の変速段への変速要求であり、且つ、前記加速操作部材の操作量の増加勾配が前記第1所定値よりも大きい第2所定値(A2)以上の場合、前記第1特殊制御に代えて第2特殊制御を実行し、前記第2特殊制御では、前記内燃機関側変速段の前記目標内燃機関側変速段である前記特定変速段への変速作動、及び、前記電動機側変速段の前記目標電動機側変速段への変速作動を同時期に行うように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記第1特殊制御実行中において、前記変速機の出力軸に伝達される前記電動機の駆動トルクを徐々に低減するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記中間軸(A3)は中空円筒状を呈し、
前記中間軸の内部空間に前記入力軸(A2)が挿入されることによって、前記中間軸と前記入力軸とが同軸的且つ相対回転可能に配置された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記変速機の出力軸が、前記変速機の入力軸(A2)と平行に配置された第1出力軸(A4)と、前記変速機の入力軸と平行に配置された第2出力軸(A5)とから構成され、
複数の前記残りの変速段のうちの一部の変速段の前記内燃機関走行遊転ギヤ(G1o、G5o)が前記第1出力軸に設けられ、複数の前記残りの変速段のうちの前記一部の変速段以外の残りの変速段の前記内燃機関走行遊転ギヤ(G3o)が前記第2出力軸に設けられた、車両の動力伝達制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記入力軸に設けられた前記1つ又は複数の内燃機関走行固定ギヤのうちで、前記第1出力軸に設けられた前記内燃機関走行遊転ギヤ及び前記第2出力軸に設けられた前記内燃機関走行遊転ギヤの両方と常時歯合するものが存在する、車両の動力伝達制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備え、且つクラッチを備えた車両に適用されるものに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変速段を有し且つトルクコンバータを備えていない変速機と、内燃機関の出力軸と変速機の入力軸との間に介装されてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能なクラッチと、車両の走行状態に応じてアクチュエータを用いてクラッチトルク及び変速機の変速段を制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。係る動力伝達制御装置は、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【0003】
また、近年、動力源としてエンジンと電動機(電動モータ)とを備えた所謂ハイブリッド車両が開発されてきている(例えば、特許文献2を参照)。以下、内燃機関の駆動トルクを「EGトルク」と呼び、電動機の駆動トルクを「MGトルク」と呼ぶ。また、内燃機関側の変速段を「EGギヤ」と呼び、電動機側の変速段を「MGギヤ」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−97740号公報
【特許文献2】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0005】
以下、AMTを搭載したハイブリッド車両(以下、「AMT付ハイブリッド車両」と呼ぶ。)であって、複数のEGギヤと複数のMGギヤとを備えたものを想定する。複数のEGギヤの間では、内燃機関側の減速比(変速機の出力軸の回転速度に対する内燃機関の回転速度の割合)が異なり、複数のMGギヤの間では、電動機側の減速比(変速機の出力軸の回転速度に対する電動機の回転速度の割合)が異なる。
【0006】
この構成では、EGギヤの変速要求があった場合、現在のMGギヤでMGトルクを変速機の出力軸に伝達しながら(以下、「MGアシスト」と呼ぶ)EGギヤの変速が実行され得、同様に、MGギヤの変速要求があった場合、現在のEGギヤでEGトルクを変速機の出力軸に伝達しながら(以下、「EGアシスト」と呼ぶ)MGギヤの変速が実行され得る。従って、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求が同時にあった場合においても、「現在のMGギヤでMGアシストしながらEGギヤの変速を実行し、その後、変更後のEGギヤでEGアシストしながらMGギヤの変速を実行する」第1パターン、又は、「現在のEGギヤでEGアシストしながらMGギヤの変速を実行し、その後、変更後のMGギヤでMGアシストしながらEGギヤの変速を実行する」第2パターンを経ることによって、EGギヤ及びMGギヤの両方に係る変速作動中に亘って、途切れのないトルクアシストを行うことが可能となる。
【0007】
本出願人は、このような複数のEGギヤと複数のMGギヤとを備えたAMT付ハイブリッド車両に使用される変速機として、変速機の全長(軸方向の長さ)の短縮等を目的として、「複数対のギヤトレイン(固定ギヤと遊転ギヤ)が、複数のEGギヤのうちの一部と、複数のMGギヤと、で共用される構成」を既に提案している(特願2012−249451を参照)。
【0008】
具体的には、この変速機は、EGギヤとして複数のEG走行変速段と、MGギヤとして複数のMG走行変速段とを備えている。この変速機は、
「内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸」と、
「車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸」と、
「電動機と連結されて電動機との間で動力伝達可能な中間軸」と、
「それぞれが中間軸に相対回転不能に設けられるとともに、それぞれが複数のEG走行変速段のうち一部の変速段のそれぞれに対応し且つそれぞれが複数のMG走行変速段のそれぞれに対応する、複数の共用固定ギヤ」と、
「それぞれが出力軸に相対回転可能に設けられ、且つ、それぞれが対応する共用固定ギヤと常時歯合する複数の共用遊転ギヤ」と、
「それぞれが入力軸又は出力軸に相対回転不能に設けられるとともに、それぞれが複数のEG走行変速段のうち前記一部の変速段以外の残りの変速段のそれぞれに対応する、1つ又は複数のEG走行固定ギヤ」と、
「それぞれが出力軸又は入力軸に相対回転可能に設けられ、且つ、それぞれが対応する前記EG走行固定ギヤと常時歯合する1つ又は複数のEG走行遊転ギヤ」と、
「複数の共用遊転ギヤの全てが出力軸に対して相対回転可能な第1状態、及び、複数の共用遊転ギヤのうちの何れか1つのみが出力軸に対して相対回転不能且つ残りの1つ又は複数の共用遊転ギヤが出力軸に対して相対回転可能な第2状態、を選択的に実現する第1切替機構」と、
「1つ又は複数のEG走行遊転ギヤの全てが出力軸及び入力軸のうちそれぞれの対応する軸に対して相対回転可能な第3状態、及び、1つ又は複数のEG走行遊転ギヤのうちの何れか1つのみが対応する軸に対して相対回転不能且つ残りの1つ又は複数のEG走行遊転ギヤがそれぞれの前記対応する軸に対して相対回転可能な第4状態、を選択的に実現する第2切替機構」と、
「中間軸が入力軸と連結されて入力軸との間で動力伝達可能な第5状態、及び、中間軸が入力軸と連結されず入力軸との間で動力伝達不能な第6状態、を選択的に実現する第3切替機構」と、を備える。
【0009】
この変速機では、車両の走行状態に基づいて、目標EGギヤとして、複数のEG走行変速段及びEG側ニュートラルのうちから何れか一つが設定され、目標MGギヤとして、複数のMG走行変速段及びMG側ニュートラルのうちから何れか一つが設定される。
【0010】
この変速機では、目標EGギヤが、EG側ニュートラルに設定された場合、第2切替機構を第3状態に制御し且つ第3切替機構を第6状態に制御することによって、EG側ニュートラルが実現される。この場合において、目標MGギヤがMG側ニュートラルに設定されているときには、第1切替機構を第1状態に制御することによってMG側ニュートラルが実現される。一方、この場合において、目標MGギヤが複数のMG走行変速段の何れか一つに設定されているときには、第1切替機構を「目標MGギヤの共用遊転ギヤが出力軸に対して相対回転不能となる第2状態」に制御することによって、目標MGギヤが実現される。
【0011】
目標EGギヤが、複数のEG走行変速段のうち「一部の変速段」の何れか一つに設定された場合、第2切替機構を第3状態に制御し且つ第3切替機構を第5状態に制御し且つ第1切替機構を「目標EGギヤの共用遊転ギヤが出力軸に対して相対回転不能となる第2状態」に制御することによって、目標EGギヤが実現される。この場合、目標EGギヤと「共用固定ギヤ及び共用遊転ギヤ」を共用するMG走行変速段(この変速段が目標MGギヤとして設定されている)が自動的に実現される。
【0012】
目標EGギヤが、複数のEG走行変速段のうち「残りの変速段」の何れか一つに設定された場合、第2切替機構を「目標EGギヤのEG走行遊転ギヤが対応する軸に対して相対回転不能となる第4状態」に制御し且つ第3切替機構を第6状態に制御することによって、目標EGギヤが実現される。この場合において、目標MGギヤがMG側ニュートラルに設定されているときには、第1切替機構を第1状態に制御することによってMG側ニュートラルが実現される。一方、この場合において、目標MGギヤが複数のMG走行変速段の何れか一つに設定されているときには、第1切替機構を「目標MGギヤの共用遊転ギヤが出力軸に対して相対回転不能となる第2状態」に制御することによって、目標MGギヤが実現される。
【0013】
この変速機では、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求が同時にあった場合、上述した「第1のパターン」又は「第2のパターン」を経て、変更後の目標EGギヤ及び目標MGギヤが実現される(通常制御)。これにより、EGギヤ及びMGギヤの両方に係る変速作動中に亘って、途切れのないトルクアシストを行うことが可能となる。
【0014】
ところで、この変速機の構成では、何れのMGギヤが実現された状態でも、複数のEG走行変速段の「一部の変速段」のうちで実現され得ない変速段が存在する。以下、複数のEG走行変速段の「一部の変速段」のうちで現在のMGギヤが実現された状態では実現され得ない変速段を「特定変速段」と呼ぶ。
【0015】
運転者の加速要求(車両のアクセル開度の増加)に起因して、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求が同時に発生し、且つ、EGギヤの変速要求が「特定変速段より高速側の変速段から特定変速段への変速要求」であり、MGギヤの変速要求が「現在のMGギヤから現在のMGギヤより低速側の変速段への変速要求」である場合を想定する。
【0016】
EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求の組み合わせが上記の組み合わせ(以下、「特定の組み合わせ」と呼ぶ)の場合、上記「通常制御」の実行によって目標EGギヤである特定変速段を実現するためには、MGギヤの「現在のMGギヤ」から「より低速側の変速段」への切り替えが不可避的に実行される必要がある。加えて、このMGギヤの切り替えが行われている間に亘って、EGギヤが目標EGギヤ(=特定変速段)より高速側の変速段に維持される必要がある。このため、この間に亘って、EGトルクに基づく駆動力が、目標EGギヤが実現されている状態と比べて不足する。更には、この間に亘って、MGトルクをゼロに維持する必要がある。
【0017】
以上のことから、MGギヤの切り替えが行われている間に亘って、車両全体としての駆動力(EGトルクに基づく駆動力+MGトルクに基づく駆動力)が不足する。運転者の加速要求度合が比較的高い場合、このような駆動力の不足が運転者に感知され易い。以上、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」の場合であって且つ運転者の加速要求度合が比較的高い場合において、このような駆動力の不足の発生を抑制することが望まれているところである。
【0018】
本発明の目的は、「複数対のギヤトレイン(固定ギヤと遊転ギヤ)が、複数のEGギヤのうちの一部と、複数のMGギヤと、で共用される構成」を備えた車両の動力伝達制御装置であって、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」の場合であって且つ運転者の加速要求度合が比較的高い場合において、駆動力の不足の発生を抑制できるものを提供することにある。
【0019】
本発明による動力伝達制御装置の特徴は、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」の場合であり、且つ、加速操作部材の操作量の増加勾配(アクセル開度増加勾配)が第1所定値以上の場合、上記通常制御に代えて第1特殊制御が実行されることにある。第1特殊制御では、MGギヤを現在のMGギヤから変更することなく現在のMGギヤを用いてMGアシストを行いながら、EGギヤが、現在のEGギヤに維持され、又は、「現在のEGギヤより低速側且つ目標EGギヤ(=特定変速段)より高速側の変速段」に変更される。
【0020】
第1特殊制御では、目標EGギヤ及び目標MGギヤが実現されない一方で、MGギヤの切り替えが行われない。従って、EGギヤが目標EGギヤ(=特定変速段)より高速側の変速段に維持されている間に亘って、途切れのないMGアシストが継続され得る。加えて、目標EGギヤが実現された状態に対する「EGトルクに基づく駆動力の不足分」が、MGアシスト中のMGトルクの増加によって補償され得る。従って、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」の場合であって且つ運転者の加速要求度合が比較的高い場合において、駆動力の不足の発生が抑制され得る。以上、第1特殊制御は、「運転者の加速要求度合が比較的高い場合において、目標EGギヤ及び目標MGギヤを実現することよりも、途切れのないトルクアシストを行いながら駆動力の不足の発生を抑制することを優先する制御」であるといえる。
【0021】
上記本発明に係る動力伝達制御装置においては、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」の場合であり、且つ、加速操作部材の操作量の増加勾配が第1所定値より大きい第2所定値以上の場合、上記第1特殊制御に代えて第2特殊制御が実行されることが好適である。第2特殊制御では、EGギヤの目標EGギヤ(=特定変速段)への変速作動、及び、MGギヤの目標MGギヤへの変速作動が同時期に行われる。
【0022】
第2特殊制御では、EGギヤ及びMGギヤの切り替えが同時期に行われる短期間に亘って、EGアシスト及びMGアシストの何れも実行することができない。換言すれば、短期間に亘ってトルクアシストを行うことができない。一方、この短期間の経過後は、目標EGギヤ及び目標MGギヤが共に実現されているので、運転者の加速要求度合に応じた大きい駆動力を直ちに獲得することができる。以上、第2特殊制御は、「運転者の加速要求度合が非常に高い場合において、途切れのないトルクアシストを行うことよりも、可及的速やかに目標EGギヤ及び目標MGギヤを実現して大きい駆動力を獲得することを優先する制御」であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置(特に、変速機)の概略構成図である。
図2図1に示した変速機において、EGギヤとして「N」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図3図1に示した変速機において、EGギヤとして「1速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図4図1に示した変速機において、EGギヤとして「2速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図5図1に示した変速機において、EGギヤとして「3速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図6図1に示した変速機において、EGギヤとして「4速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図7図1に示した変速機において、EGギヤとして「5速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図8図1に示したクラッチについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
図9図1に示したシフトレバーの操作パターンの一例を示した図である。
図10】車速及びアクセル開度と、目標EGギヤとの関係を規定したマップを示したグラフである。
図11】EGギヤMGギヤの両方の変速要求があった場合において、本発明の実施形態によって通常制御が実行される際の処理の流れを示すフローチャートである。
図12】(4速、High)→(3速、High)→(2速、Low)の変速要求があった場合における、図10に示したマップ上での対応位置の推移を示した図である。
図13】(4速、High)→(3速、High)→(2速、Low)の変速要求があった場合において、通常制御が実行された場合の変速作動の一例を示すタイムチャートである。
図14】EGギヤMGギヤの両方の変速要求があった場合において、本発明の実施形態によって通常制御、第1特殊制御、及び第2特殊制御の選択がなされる際の処理の流れを示すフローチャートである。
図15】EGギヤMGギヤの両方の変速要求があった場合において、本発明の実施形態によって第1特殊制御が実行される際の処理の流れを示すフローチャートである。
図16】(4速、High)→(3速、High)→(2速、Low)の変速要求があった場合において、第1特殊制御が実行された場合の変速作動の一例を示すタイムチャートである。
図17図16に示した例の変形例を示すタイムチャートである。
図18】EGギヤMGギヤの両方の変速要求があった場合において、本発明の実施形態によって第2特殊制御が実行される際の処理の流れを示すフローチャートである。
図19】(4速、High)→(3速、High)→(2速、Low)の変速要求があった場合において、第2特殊制御が実行された場合の変速作動の一例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)の概略構成を示している。本装置は、トルクコンバータを備えない変速機T/Mと、クラッチC/Dとを備え、アクチュエータACT1〜ACT5を用いてC/Dのクラッチトルク及びT/Mの変速段を制御する、所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)である。本装置を搭載した車両は、動力源としてエンジンE/Gとモータジェネレータ(電動モータ)M/Gとを備えた、所謂AMT付ハイブリッド車両である。
【0026】
E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、フライホイールF/W、及び、クラッチC/Dを介して、T/Mの入力軸A2と同軸的に接続されている。
【0027】
変速機T/Mは、後述するように、複数のE/G側の変速段(以下、「EGギヤ」と呼ぶ)と、複数のM/G側の変速段(以下、「MGギヤ」と呼ぶ)と、を備える。T/Mは、入力軸A2と、中間軸A3と、第1出力軸A4と、第2出力軸A5とを備える。軸A2〜A5は全て互いに平行に配置されている。中間軸A3は中空円筒状を呈しており、中間軸A3の内部空間に入力軸A2が挿入されることによって、中間軸A3と入力軸A2とが同軸的且つ相対回転可能に配置されている。第1出力軸A4は、軸A4に固定された第1最終駆動ギヤGf1、及び、最終被動ギヤGfoを介して、車両の駆動輪(図示せず)と動力伝達可能に接続されている。第2出力軸A5は、軸A5に固定された第2最終駆動ギヤGf2、及び、最終被動ギヤGfoを介して、車両の駆動輪と動力伝達可能に接続されている。
【0028】
変速機T/Mは、複数の固定ギヤG1i、G2i、G35i、G4iと、複数の遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5o、GRoと、複数のスリーブS1、S2、S3、S4と、を備える。固定ギヤG1i、G35iはそれぞれ、入力軸A2に相対回転不能に設けられている。固定ギヤG2i、G4iはそれぞれ、中間軸A3に相対回転不能に設けられている。遊転ギヤG1o、G2o、G4o、G5oはそれぞれ、第1出力軸A4に相対回転可能に設けられており、固定ギヤG1i、G2i、G4i、G35iとそれぞれ常時歯合する。遊転ギヤG3o、GRoはそれぞれ、第2出力軸A5に相対回転可能に設けられており、固定ギヤG35i、遊転ギヤG1oとそれぞれ常時歯合する。「固定ギヤG1i及び遊転ギヤG1o」、「固定ギヤG2i及び遊転ギヤG2o」、「固定ギヤG35i及び遊転ギヤG3o」、「固定ギヤG4i及び遊転ギヤG4o」、「固定ギヤG35i及び遊転ギヤG5o」はそれぞれ、前進用のEGギヤとしての1速〜5速に対応している。即ち、固定ギヤG35iは、3速用の固定ギヤと5速用の固定ギヤとを兼用している。「固定ギヤG1i、遊転ギヤG1o、及び遊転ギヤGRo」は、後進用のEGギヤ(1速のみ)に対応している。
【0029】
スリーブS1、S2は第1出力軸A4に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられている。S1は、軸方向の位置に応じて、G1oのピースP1及びG5oのピースP5と選択的に係合(スプライン嵌合)可能となっている。S2は、軸方向の位置に応じて、G2oのピースP2及びG4oのピースP4と選択的に係合(スプライン嵌合)可能となっている。スリーブS3は、中間軸A3に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられている。S3は、軸方向の位置に応じて、固定ギヤG2iのピースPPと係合(スプライン嵌合)可能となっている。スリーブS4は第2出力軸A5に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられている。S4は、軸方向の位置に応じて、G3oのピースP3及びGRoのピースPRと選択的に係合(スプライン嵌合)可能となっている。以下、後進用のEGギヤについての説明は省略する。
【0030】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。M/Gの出力軸は、ギヤGm1、Gm2を介して、固定ギヤG4i(従って、中間軸A3)と動力伝達可能に接続されている。従って、「固定ギヤG2i及び遊転ギヤG2o」、「固定ギヤG4i及び遊転ギヤG4o」はそれぞれ、MGギヤとしての「Low(1速)」、「High(2速)」にも対応している。
【0031】
以上のように、T/Mは、EGギヤとして5つの変速段(1速〜5速)を備え、MGギヤとして2つの変速段(Low、High)を備える。T/Mでは、「固定ギヤG2i及び遊転ギヤG2o」が「EGギヤの2速」及び「MGギヤのLow」で共用され、「固定ギヤG4i及び遊転ギヤG4o」が「EGギヤの4速」及び「MGギヤのHigh」で共用されている。
【0032】
変速機T/MのEGギヤ及びMGギヤの変更・設定は、アクチュエータACT1〜ACT4によってスリーブS1〜S4の軸方向の位置を制御することで実行される。EGギヤを変更することで、EG側の減速比(最終被動ギヤGfoの回転速度に対する入力軸A2の回転速度の割合)が変更される。「1速」から「5速」に向けて、EG側減速比は次第に小さくなっていく。同様に、MGギヤを変更することで、MG側の減速比(最終被動ギヤGfoの回転速度に対するM/Gの入力軸の回転速度の割合)が調整される。「Low」より「High」の方が、MG側減速比が小さい。
【0033】
図2図7はそれぞれ、EGギヤが、N(EG側ニュートラル)、1速、2速、3速、4速、5速の場合に対応する動力伝達経路を示す。以下、E/Gの出力軸A1の駆動トルクを「EGトルク」と呼び、M/Gの出力軸の駆動トルクを「MGトルク」と呼ぶ。各図において、太い実線は、実現されたEGトルクの動力伝達経路を示し、太い破線は、実現され得るMGトルクの動力伝達経路を示す。また、「ギヤが実現された」とは、「T/M内でそのギヤに対応する動力伝達経路が形成された」ことを意味する。
【0034】
図2に示すように、EGギヤが「N」の場合、スリーブS1、S3、S4のそれぞれが中立位置にあり、スリーブS1、S3、S4の何れも、対応するピースに係合しない。この結果、EGギヤの動力伝達経路が形成されない。この場合において、MGギヤが「N(MG側ニュートラル)」のとき、スリーブS2が中立位置にあり、スリーブS2が対応するピースに係合しない。この結果、MGギヤの動力伝達経路が形成されない。MGギヤが「Low」のとき、スリーブS2がピースP2と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG2oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となる。この結果、MGギヤの「Low」の動力伝達経路が形成される。MGギヤが「High」のとき、スリーブS2がピースP4と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG4oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となる。この結果、MGギヤの「High」の動力伝達経路が形成される。以上、EGギヤが「N(EG側ニュートラル)」の場合、MGギヤとして、「N(MG側ニュートラル)」、「Low」、「High」が選択的に実現される。
【0035】
図3に示すように、EGギヤが「1速」の場合、スリーブS1のみが(中立位置からずれて)ピースP1と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG1oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となる。スリーブS3、S4は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「1速」の動力伝達経路が形成される。EGギヤが「1速」の場合も、EGギヤが「N」の場合と同様、スリーブS2の軸方向位置に応じて、MGギヤとして、「N(MG側ニュートラル)」、「Low」、「High」が選択的に実現される。
【0036】
図4に示すように、EGギヤが「2速」の場合、スリーブS2が(中立位置からずれた)ピースP2と係合する位置にあり、且つ、スリーブS3が(中立位置からずれた)ピースPPと係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG2oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となり、且つ、中間軸A3が入力軸A2に対して相対回転不能となる。スリーブS1、S4は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「2速」の動力伝達経路が形成される。この場合、スリーブS2がピースP2と係合する位置に固定されるため、MGギヤが「Low」に自動的に固定される。
【0037】
図5に示すように、EGギヤが「3速」の場合、スリーブS4のみが(中立位置からずれて)ピースP3と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG3oが第2出力軸A5に対して相対回転不能となる。スリーブS1、S3は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「3速」の動力伝達経路が形成される。EGギヤが「3速」の場合も、EGギヤが「N」の場合と同様、スリーブS2の軸方向位置に応じて、MGギヤとして、「N(MG側ニュートラル)」、「Low」、「High」が選択的に実現される。
【0038】
図6に示すように、EGギヤが「4速」の場合、スリーブS2が(中立位置からずれた)ピースP4と係合する位置にあり、且つ、スリーブS3が(中立位置からずれた)ピースPPと係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG4oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となり、且つ、中間軸A3が入力軸A2に対して相対回転不能となる。スリーブS1、S4は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「4速」の動力伝達経路が形成される。この場合、スリーブS2がピースP4と係合する位置に固定されるため、MGギヤが「High」に自動的に固定される。
【0039】
図7に示すように、EGギヤが「5速」の場合、スリーブS1のみが(中立位置からずれて)ピースP5と係合する位置にあり、従って、遊転ギヤG5oが第1出力軸A4に対して相対回転不能となる。スリーブS3、S4は中立位置に維持される。この結果、EGギヤの「5速」の動力伝達経路が形成される。EGギヤが「5速」の場合も、EGギヤが「N」の場合と同様、スリーブS2の軸方向位置に応じて、MGギヤとして、「N(MG側ニュートラル)」、「Low」、「High」が選択的に実現される。
【0040】
以上、T/Mにおいて、各EGギヤに対して実現可能なMGギヤ(Low、Highのみ、N(MG側ニュートラル)を除く)について表1にまとめた。表1において「○」は「実現可能」を示し、「×」は「実現不可能」を示す。表1で注目すべきことは、T/Mの構成では、「EGギヤの2速」と「MGギヤのHigh」の組み合わせ、並びに、「EGギヤの4速」と「MGギヤのLow」の組み合わせ、が実現できないことである。
【0041】
【表1】
【0042】
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT5により調整される。なお、このクラッチC/Dは、運転者によって操作されるクラッチペダルを備えていない。
【0043】
以下、クラッチC/Dの原位置(クラッチディスクがフライホイールから最も離れた位置)からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークCStと呼ぶ。クラッチC/Dが「原位置」にあるとき、クラッチストロークCStが「0」となる。図8に示すように、クラッチストロークCStを調整することにより、クラッチC/Dが伝達可能な最大トルク(クラッチトルクTc)が調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0044】
再び、図1を参照すると、本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSE1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサSE2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサSE3と、車両の速度(車速)を検出する車速センサSE4と、を備えている。
【0045】
また、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサSE1〜SE4、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1〜ACT5を制御することで、C/DのクラッチストロークCSt(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/MのEGギヤ及びMGギヤを制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御するとともに、インバータ(図示せず)を制御することでM/Gの出力軸の駆動トルクを制御する。
【0046】
以上、本装置は、複数のEGギヤ(1速〜5速)と複数のMGギヤ(Low、High)とを備えるとともに、ハイブリッド車両に適用されるAMTであり、「複数対のギヤトレイン(G2i及びG2o、G4i及びG4o)が、複数のEGギヤのうちの一部(2速及び4速)と、複数のMGギヤ(Low、High)と、で共用される構成」を備えている。
【0047】
本装置では、EV走行モードと、EG走行モードと、HV走行モードとが選択的に実現される。EV走行モード、EG走行モード、及びHV走行モードのうち何れが実現されるかは、例えば、車速、アクセル開度等の車両の走行状態に基づいて決定される。
【0048】
EV走行モードでは、E/Gが停止し、MGトルクのみ(MGギヤ:Low又はHigh)を利用して車両が走行する。クラッチC/Dは分断状態(Tc=0)に調整される。EG走行モードでは、MGトルクがゼロに維持され、且つ、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルクのみ(EGギヤ:1速〜5速の何れか)を利用して車両が走行する。HV走行モードでは、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルク(EGギヤ:1速〜5速の何れか)及びMGトルク(MGギヤ:Low又はHigh)の両方を利用して車両が走行する。
【0049】
EV走行モード及びHV走行モードでは、MGトルクはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。EG走行モード及びHV走行モードでは、EGトルクはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。
【0050】
本装置では、車両の運転者によりシフトレバーSLが操作されることによって、EGギヤ及びMGギヤの変更・設定が実行されるようになっている。図9に示すように、シフトレバーSLの位置としては、例えば、「D(ドライブ)レンジ」、「M(マニュアル)レンジ」、「N(ニュートラル)レンジ」、及び「R(リバース)レンジ」が規定される。「Dレンジ」、及び「Mレンジ」は、両方とも前進用EGギヤ(1速〜5速)に対応し、それぞれ「自動モード」、及び「手動モード」に対応する。「Nレンジ」はニュートラル(N)に対応し、「Rレンジ」は後進用EGギヤに対応する。
【0051】
本装置では、シフトレバーSLが「自動モード」に対応する位置(例えば、Dレンジ)にある場合、ECU内のROMに記憶された変速マップ(図10を参照)と、車速及びアクセル開度等の車両の走行状態とに基づいて、目標EGギヤ(1速〜5速)が選択される。一方、シフトレバーSLが「手動モード」に対応する位置(例えば、Mレンジ)にある場合、シフトレバーSLの位置移動に応じて、目標EGギヤ(1速〜5速)がシーケンシャルに選択される。他方、目標MGギヤ(Low、High)も、車速及びアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて選択される。T/Mでは、以上のように設定された目標EGギヤ及び目標MGギヤが実現されるようにACT1〜ACT5(従って、スリーブS1〜S4の位置、及び、クラッチトルク)が逐次制御されていく。
【0052】
加えて、図10に示す微細なドットで示した領域は、MGギヤの「Low」を用いたEV走行領域を示す。車速及びアクセル開度の組み合わせがこの領域内に対応する場合、目標MGギヤが「Low」に固定され、且つ、目標EGギヤが「N」に固定される。従って、本装置では、アクセル開度が比較的小さい範囲内で車両が発進される場合、MGギヤの「Low」を用いたEV走行が実行される。
【0053】
(EGギヤの変速作動)
目標EGギヤが現在実現されているEGギヤ(以下、「現在EGギヤ」と呼ぶ)から変更された場合(EGギヤの変速要求)、EGギヤの変速作動が実行される。EGギヤの変速作動には、クラッチC/Dの作動、スリーブS1〜S4の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整が含まれる。典型的には、EGギヤの変速作動では、先ず、現在EGギヤが実現されている状態にてクラッチトルクがゼロに向けて(且つ、EGトルクがアイドリングに相当する微小値に向けて)減少される。次いで、クラッチトルクがゼロ(且つ、EGトルクが微小)の状態にてスリーブS1〜S4の係合状態が「現在EGギヤの係合状態」から「目標EGギヤの係合状態」へと変更されて(EGギヤの切り替え)、目標EGギヤが実現される。そして、目標EGギヤが実現された状態にてクラッチトルク(及びEGトルク)が増大される。EGギヤの変速作動の開始とは、EGギヤの変更に関連して実行される「クラッチC/Dの作動、スリーブS1〜S4の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整」のうちで最も早く開始されたものの開始に対応し、EGギヤの変速作動の終了とは、EGギヤの変更に関連して実行される「クラッチC/Dの作動、スリーブS1〜S4の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整」のうちで最も遅く終了したものの終了に対応する。EGギヤの変速作動中とは、EGギヤの変速作動の開始から終了までの間の期間を指す。
【0054】
(MGギヤの変速作動)
目標MGギヤが現在実現されているMGギヤ(以下、「現在MGギヤ」と呼ぶ)から変更された場合(MGギヤの変速要求)、MGギヤの変速作動が実行される。MGギヤの変速作動には、クラッチC/Dの作動、スリーブS2、S3の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整が含まれる。典型的には、MGギヤの変速作動では、先ず、現在MGギヤが実現されている状態にてMGトルクがゼロに向けて減少される。次いで、MGトルクがゼロの状態にてスリーブS2の係合状態が「現在MGギヤの係合状態」から「目標MGギヤの係合状態」へと変更されて(MGギヤの切り替え)、目標MGギヤが実現される。そして、目標MGギヤが実現された状態にてMGトルクが増大される。MGギヤの変速作動の開始とは、MGギヤの変更に関連して実行される「クラッチC/Dの作動、スリーブS2、S3の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整」のうちで最も早く開始されたものの開始に対応し、MGギヤの変速作動の終了とは、MGギヤの変更に関連して実行される「クラッチC/Dの作動、スリーブS2、S3の作動、E/Gトルクの調整、M/Gトルクの調整」のうちで最も遅く終了したものの終了に対応する。MGギヤの変速作動中とは、MGギヤの変速作動の開始から終了までの間の期間を指す。
【0055】
(MGアシスト及びEGアシスト)
本装置では、EGギヤの変速要求があった場合、現在MGギヤ(Low又はHigh)でMGトルクをT/Mの出力軸(具体的には、第1出力軸A4)に伝達しながら(以下、「MGアシスト」と呼ぶ)EGギヤの変速作動が実行される。これにより、EGギヤの変速作動中に亘ってMGトルクを利用して途切れのないトルクアシストを行うことができる。
【0056】
同様に、MGギヤの変速要求があった場合、現在EGギヤ(1速〜5速の何れか)でEGトルクをT/Mの出力軸(具体的には、第1出力軸A4又は第2出力軸A5)に伝達しながら(以下、「EGアシスト」と呼ぶ)MGギヤの変速作動が実行され得る。これにより、MGギヤの変速作動中に亘ってEGトルクを利用して途切れのないトルクアシストを行うことができる。以下、説明の便宜上、EGギヤとMGギヤの組み合わせを「(EGギヤ、MGギヤ)」で示す。例えば、EGギヤが1速でMGギヤがLowの場合、(1速、Low)と示す。
【0057】
(EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求が同時にあった場合の通常制御)
本装置では、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求が同時にあった場合、原則的には、図11にフローチャートによって示す通常制御が実行される。通常制御では、「先ず、現在MGギヤでMGアシストしながらEGギヤが現在EGギヤから目標EGギヤへ変更され(ステップ1105)、その後、実現された目標EGギヤでEGアシストしながらMGギヤが現在MGギヤから目標MGギヤへ変更される(ステップ1110)」第1パターン、或いは、「先ず、現在EGギヤでEGアシストしながらMGギヤが現在MGギヤから目標MGギヤへ変更され(ステップ1105)、その後、実現された目標MGギヤでMGアシストしながらEGギヤが現在EGギヤから目標EGギヤへ変更される(ステップ1110)」第2パターン、が実行される。第1パターン(EGギヤの変速作動→MGギヤの変速作動)、或いは、第2パターン(MGギヤの変速作動→EGギヤの変速作動)を経ることによって、EGギヤ及びMGギヤの両方に係る変速作動中に亘って、(車両の加速中において)途切れのないトルクアシストを行うことが可能となる。
【0058】
具体的には、例えば、(N、Low)→(3速、High)、並びに、(4速、High)→(1速、Low)の場合、第1パターンが採用される。これにより、途切れのないトルクアシストが可能となる。これらの例に対して第2パターンが採用されたとすると、MGギヤの変速作動(Low→High)の際にEGアシストを行うことができない。
【0059】
他方、例えば、(1速、Low)→(4速、High)、並びに、(3速、High)→(N、Low)の場合、第2パターンが採用される。これにより、途切れのないトルクアシストが可能となる。(1速、Low)→(4速、High)の場合に対して第1パターンが採用されたとすると、EGギヤの変速作動(1速→4速)の際にMGアシストを行うことができない。(3速、High)→(N、Low)の場合に対して第1パターンが採用されたとすると、MGギヤの変速作動(High→Low)の際にEGアシストを行うことができない。
【0060】
(EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求が同時にあった場合の特殊制御)
ところで、このT/Mの構成では、上述のように、MGギヤとしてLow及びHighの何れが実現されていても、複数のEGギヤのうちで実現され得ない変速段が存在する。具体的には、Lowの場合には「4速」が実現され得ず、Highの場合には「2速」が実現され得ない(上記表1の「×」を参照)。
【0061】
以下、運転者の加速要求(アクセル開度の増加)に起因して、「2速より高速側(3速、4速、又は5速)から2速へのEGギヤの変速要求」と「HighからLowへのMGギヤの変速要求」とが同時に発生した場合を想定する。以下、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求の上記の組み合わせを「特定の組み合わせ」と呼ぶ。
【0062】
EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」の場合、上記「通常制御」の実行によって目標EGギヤである「2速」を実現するためには、MGギヤの「High」から「Low」への切り替えが不可避的に実行される必要がある。加えて、このMGギヤの切り替えが行われている間に亘って、EGギヤが「2速」より高速側(3速、4速、又は5速)に維持される必要がある。このため、この間に亘って、EGトルクに基づく駆動力が、「2速」が実現されている状態と比べて不足する。更には、この間に亘って、MGトルクをゼロに維持する必要がある。従って、少なくともMGギヤの切り替えが行われている間に亘って、車両全体としての駆動力(EGトルクに基づく駆動力+MGトルクに基づく駆動力)が不足する。
【0063】
以下、上記の場合の一例として、運転者の加速要求に起因して、(4速、High)→(3速、High)→(2速、Low)の変速要求があった場合について考察する。図12は、この場合における「車速及びアクセル開度の組み合わせ」が図10に示したマップ上を移動する様子を示す。この場合において、「特定の組み合わせ」となるEGギヤ及びMGギヤの変速要求は、SLによって「自動モード」が選択されている場合において、「車速及びアクセル開度の組み合わせ」が「3速」の領域から「2速」の領域に移行するタイミングで発生する。
【0064】
図13は、(4速、High)→(3速、High)→(2速、Low)の変速要求があった場合において、上記「通常制御」が実行された場合の変速作動の一例を示す。図13において、実線は実際の状態を示し、破線は目標の状態を示す(後述する図16図17、及び図19においても同様)。
【0065】
図13に示す例では、時刻t1以前にて車両が(4速、High)でEG走行している場合において、アクセル開度が増加したことに起因して、時刻t1にて(4速、High)→(3速、High)の変速要求が発生し、その後の時刻t2にて(3速、High)→(2速、Low)の変速要求が発生している。ここで、時刻t2が、「特定の組み合わせ」となるEGギヤ及びMGギヤの変速要求に対応している。
【0066】
この例では、時刻t2より後の時刻t3〜t4において、EGギヤの「4速→3速」の切り替え(スリーブS2〜S4の移動)が行われている。このため、時刻t3〜t4に亘ってクラッチトルクがゼロ(及び、EGトルクがアイドリングに相当する微小値)に維持されている。この時刻t3〜t4では、MGギヤの「High」でMGアシストが行われている(MGトルク>0)。
【0067】
その後、時刻t5〜t6において、MGギヤの「High→Low」の切り替え(スリーブS2の移動)が行われている。このため、時刻t5〜t6に亘ってMGトルクがゼロに維持されている。この時刻t5〜t6では、EGギヤの3速でEGアシストが行われている(EGトルク>0、クラッチトルク>0)。
【0068】
その後、時刻t7〜t8において、EGギヤの「3速→2速」の切り替え(スリーブS2〜S4の移動)が行われている。このため、時刻t7〜t8に亘ってクラッチトルクがゼロ(且つ、EGトルクがアイドリングに相当する微小値)に維持されている。この時刻t7〜t8では、MGギヤの「Low」でMGアシストが行われている(MGトルク>0)。
【0069】
このように、図13に示す例では、「EGギヤの4速から3速への変速作動」(t3〜t4)ではMGアシストが行われ、「MGギヤのHighからLowへの変速作動」(t5〜t6)ではEGアシストが行われ、「EGギヤの3速から2速への変速作動」(t7〜t8)ではMGアシストが行われている。従って、EGギヤ及びMGギヤの両方に係る変速作動中に亘って、(車両の加速中において)途切れのないトルクアシストを行うことが可能となる。
【0070】
しかしながら、図13に示す例では、MGギヤのHighからLowへの切り替えが行われている間(t5〜t6)に亘って、EGギヤが「2速」より高速側(この例では、3速)に維持されている。このため、この間に亘って、EGトルクに基づく駆動力(EGアシストの大きさ)が、「2速」が実現されている状態と比べて不足する。更には、この間に亘って、MGトルクがゼロに維持されている。従って、少なくともMGギヤの切り替えが行われている間(t5〜t6)に亘って、車両全体としての駆動力(EGトルクに基づく駆動力+MGトルクに基づく駆動力)が不足する。なお、この駆動力の不足は、図13の「駆動力」の欄における「破線に対する実線のずれ量」に相当する。
【0071】
運転者の加速要求度合(従って、アクセル開度の増加勾配)が比較的高い場合、このような駆動力の不足が運転者に感知され易い。EGギヤ及びMGギヤの変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」の場合であって且つ運転者の加速要求度合が比較的高い場合において、このような駆動力の不足の発生を抑制することが望まれる。そこで、本装置では、このような場合において、上述した通常制御に代えて、第1特殊制御又は第2特殊制御が実行される。以下、この点に関して本装置が実行する処理の流れについて、図14に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0072】
図14に示すように、先ず、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求が同時にあったか否かが判定され(ステップ1405)、両方の変速要求が同時にない場合(ステップ1405にて「No」)にはこの処理が終了される。両方の変速要求が同時にあった場合(ステップ1405にて「Yes」)、両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」であるか否かが判定される(ステップ1410)。
【0073】
両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」ではない場合(ステップ1410にて「No」)、上述した図11に示した通常制御が実行される(ステップ1415)。これにより、上述したように、EGギヤ及びMGギヤの両方に係る変速作動中に亘って、途切れのないトルクアシストを行うことが可能となる。
【0074】
一方、両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」である場合(ステップ1410にて「Yes」)、更に、「特定の組み合わせ」となるEGギヤ及びMGギヤの変速要求が発生した時点でのアクセル開度増加勾配に応じて、場合分けがなされる。即ち、この時点でのアクセル開度増加勾配が第1所定値A1(>0)未満である場合(ステップ1420にて「No」)、上述した図11に示した通常制御が実行される(ステップ1415)。一方、この時点でのアクセル開度増加勾配が第1所定値A1以上且つ第2所定値A2(A2>A1)未満である場合(ステップ1420、1425にて「Yes」)、通常制御に代えて第1特殊制御が実行される(ステップ1430)。更に、この時点でのアクセル開度増加勾配が第2所定値A2以上である場合(ステップ1420にて「Yes」、ステップ1425にて「No」)、通常制御及び第1特殊制御に代えて第2特殊制御が実行される(ステップ1435)。以下、先ず、図15を参照しながら第1特殊制御について説明する。
【0075】
第1特殊制御では、MGギヤは、現在実現されているMGギヤである「High」から変更されず、EGギヤは、現在実現されているEGギヤに維持される、又は、「現在実現されているEGギヤより低速側且つ2速より高速側の変速段」に変更される(ステップ1505)。EGギヤの変速作動の間に亘って、MGギヤの「High」を用いてMGアシストが行われる。そして、EGギヤの「2速」が実現された状態に対する「EGトルクに基づく駆動力の不足分」が、MGトルクによって補償される(ステップ1510)。以下、この点について、図16を参照しながら説明する。
【0076】
図16は、図13に示した例と同じ状況、即ち、(4速、High)→(3速、High)→(2速、Low)の変速要求があった場合において、通常制御に代えて第1特殊制御が実行される場合の作動の一例について示す。図16の時刻t1〜t4はそれぞれ、図13の時刻t1〜t4に対応している。
【0077】
図16に示す例は、「特定の組み合わせ」となるEGギヤ及びMGギヤの変速要求が発生している時刻t2より後の時刻t3〜t4にて、EGギヤの「4速→3速」の切り替えが行われている点において、図13に示す例と一致する。一方、図16に示す例は、その後において、MGギヤの「High→Low」の切り替え、並びに、EGギヤの「3速→2速」の切り替えが行われていない点において、図13に示す例と相違する。なお、図16に示す例では、時刻t3〜t4にてEGギヤの「4速→3速」の切り替えが行われているが、時刻t2以降に亘って、EGギヤが「4速」(即ち、「特定の組み合わせ」となるEGギヤ及びMGギヤの変速要求が発生した時点で実現されているEGギヤ)に維持されてもよい。
【0078】
このように、図16に示す例では、目標EGギヤ(=2速)及び目標MGギヤ(=Low)が実現されない一方で、MGギヤの切り替えが行われない。従って、EGギヤが目標EGギヤ(=2速)より高速側の変速段に維持されている間(図16に示す例では、4速又は3速が実現されている間)に亘って、途切れのないMGアシストが継続され得る。加えて、2速が実現された状態に対する「EGトルクに基づく駆動力の不足分」が、MGトルクによって補償され得る(時刻t4以降において、「駆動力」の欄における「破線に対する実線のずれ量」が、図13に示す例に対して図16に示す例の方が小さいことを参照)。
【0079】
このように、第1特殊制御では、EGギヤ及びMGギヤの両方の変速要求の組み合わせが「特定の組み合わせ」の場合であって且つ運転者の加速要求度合が比較的高い場合(A1≦アクセル開度増加勾配<A2)において、通常制御が実行される場合と比べて、駆動力の不足の発生が抑制され得る。この点において、第1特殊制御は、「運転者の加速要求度合が比較的高い場合において、目標EGギヤ及び目標MGギヤを実現することよりも、途切れのないトルクアシストを行いながら駆動力の不足の発生を抑制することを優先する制御」であるといえる。
【0080】
上述のように、第1特殊制御では、2速が実現された状態に対する「EGトルクに基づく駆動力の不足分」がMGトルク(>0)によって補償される状態が継続する(図16の時刻t4以降を参照)。このようにMGトルク(>0)が発生している状態が長時間に亘って継続すると、M/Gに電力を供給するバッテリの充填量が低下する、或いは、M/G及びバッテリの温度が過剰に高くなる等の恐れがある。この観点に基づき、図17に示すように、MGトルク(>0)が発生している状態がある程度継続した時点(図17では、時刻t9)以降、MGトルクを徐々に低減してもよい。
【0081】
MGトルクの低減を開始する時期、並びに、MGトルクの低減勾配は、例えば、バッテリの充電量、バッテリの温度、M/Gの温度、E/Gの冷却水の温度、車速、アクセル開度等に基づいて決定され得る。
【0082】
次に、図18を参照しながら第2特殊制御について説明する。第2特殊制御では、EGギヤの目標EGギヤ(=2速)への変速作動、及び、MGギヤの目標MGギヤ(=Low)への変速作動が同時期に行われる(ステップ1805)。以下、この点について、図19を参照しながら説明する。
【0083】
図19は、図13に示した例に対してアクセル増加勾配が大きい状況において(4速、High)→(3速、High)→(2速、Low)の変速要求があった場合において、通常制御に代えて第2特殊制御が実行される場合の作動の一例について示す。図19の時刻t1〜t4はそれぞれ、図13の時刻t1〜t4に対応している。図19に示す例では、アクセル増加勾配が大きいことに起因して、時刻t1〜t2の間隔、即ち、(4速、High)→(3速、High)の変速要求が発生する時点と、(3速、High)→(2速、Low)の変速要求が発生する時点との間の間隔が狭くなっている。
【0084】
図16に示す例では、「特定の組み合わせ」となるEGギヤ及びMGギヤの変速要求が発生している時刻t2より後の時刻t3〜t4にて、EGギヤの「4速→2速」の切り替え、並びに、MGギヤの「High→Low」の切り替えが同時期に行われている。このため、時刻t3〜t4に亘って、クラッチトルクがゼロ(且つ、EGトルクが微小値)、及びMGトルクがゼロに維持されている。
【0085】
このように、図19に示す例では、EGギヤ及びMGギヤの切り替えが同時期に行われる時刻t3〜t4という短期間に亘って、EGアシスト及びMGアシストの何れも実行することができない。換言すれば、短期間に亘ってトルクアシストを行うことができない。一方、この短期間の経過後は、目標EGギヤ(=2速)及び目標MGギヤ(=Low)が共に実現されているので、運転者の加速要求度合に応じた大きい駆動力を直ちに獲得することができる。この点において、第2特殊制御は、「運転者の加速要求度合が非常に高い場合において、途切れのないトルクアシストを行うことよりも、可及的速やかに目標EGギヤ及び目標MGギヤを実現して大きい駆動力を獲得することを優先する制御」であるといえる。
【0086】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、中空円筒状の中間軸A3の内部空間に入力軸A2が挿入されることによって、中間軸A3と入力軸A2とが同軸的且つ相対回転可能に配置されている。これにより、T/Mの全長(軸方向の長さ)を短くできることに加え、T/Mを小型化できる。これに対し、中間軸が、入力軸に対して偏心して平行に且つ相対回転可能に配置されてもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、M/Gの出力軸が(ギヤGm1、Gm2を介して)中間軸A3に固定された固定ギヤG4iと接続されているが、M/Gの出力軸が(ギヤGm1、Gm2を介して)中間軸A3に固定されたその他のギヤに接続されてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、T/Mの出力軸として、第1出力軸A4と、第2出力軸A5とが備えられている。これにより、ギヤトレイン(固定ギヤ及び遊転ギヤ)がMGギヤと共用されていない複数のEGギヤ(具体的には、1速、3速、5速)の遊転ギヤが設けられる対象となる出力軸を2つに分けることができる。この結果、T/Mの全長(軸方向の長さ)を短くできる。これに対し、T/Mの出力軸として単一の出力軸を備え、ギヤトレイン(固定ギヤ及び遊転ギヤ)がMGギヤと共用されていない複数のEGギヤ(具体的には、1速、3速、5速)の遊転ギヤの全てがその単一の出力軸に設けられてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、入力軸A2に設けられた単一の固定ギヤG35iが、3速用の固定ギヤと5速用の固定ギヤとを兼用している。これにより、T/Mの全長(軸方向の長さ)を短くできる。これに対して、入力軸A2に、3速用の固定ギヤと5速用の固定ギヤとが個別に設けられてもよい。
【0090】
加えて、上記実施形態では、MGギヤと共用される複数のEGギヤとして2つのEGギヤ(具体的には、2速、4速)が設けられているが、MGギヤと共用される複数のEGギヤとして3つ以上のEGギヤが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0091】
T/M…変速機、E/G…エンジン、C/D…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、A1…エンジンの出力軸、A2…変速機の入力軸、A3…中間軸、A4、A5…変速機の出力軸、ACT1〜ACT4…変速機アクチュエータ、ACT5…クラッチアクチュエータ、ECU…電子制御ユニット
図1
図2
図3
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