(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1実施形態である極低温冷凍機を示す断面図である。本実施形態では、極低温冷凍機
としてギフォード・マクマホン(GM)型冷凍機を例に挙げて説明する。
【0017】
本実施
形態によるGM型冷凍機は、ガス圧縮機1とコールドヘッド2とを有する。コールドヘッド2は、ハウジン
グ23とシリンダ部10とを有する。
【0018】
ガス圧縮機1は、排出配管1bが接続された吸気口から作動ガスを吸い込み、これを圧縮した後に吐出口に接続された供給配管1aに高圧の作動ガスを供給する。作動ガスとしては、ヘリウムガスを用いることができる。
【0019】
本実施形態では2段式のGM型冷凍機を示しており、よってシリンダ部10は第1段目シリンダ10aと第2段目シリンダ10bの二つのシリンダを有している。第1段目シリンダ10aの内部には、第1段目ディスプレーサ3aが挿入装着される。また、第2段目シリンダ10bの内部には、第2段目ディスプレーサ3bが挿入装着される。
【0020】
この第1段目及び第2段目ディスプレーサ3a,3bは相互に連結されており、各シリンダ10a,10bの内部でシリンダの軸方向に往復運動可能な構成とされている。この各ディスプレーサ3a,3bの内部にはガス流路が形成されており、このガス流路内には蓄冷材4a,4bが充填されている。
【0021】
また、上部に位置する第1段目シリンダ10aは、上方(Z1方向)に向けて延出する駆動軸33bが設けられている。この駆動軸33bは、後述するスコッチヨーク機構22に接続されている。
【0022】
第1段目シリンダ10a内の第2段目シリンダ10b側の端部(
図1に矢印Z2で示す方向側の端部)には、第1段目膨張室11aが形成されている。また、第1段目シリンダ10aの他方の端部(
図1に矢印Z1で示す方向側の端部)には、上部室13が形成されている。更に、第2段目シリンダ10b内の第1段目シリンダ10a側とは反対側の端部(
図1に矢印Z2で示す方向側の端部)には、第2段目膨張室11bが形成されている。
【0023】
上部室13と第1段目膨張室11aは、ガス流路L1、第1段目蓄冷材4a、及びガス流路L2を介して接続されている。なお、ガス流路L1は第1段目ディスプレーサ3aの上部に形成されており、第1段目蓄冷材4aは第1段目ディスプレーサ3aの内部に形成された作動ガスのガス流路内に配設されている。更に、ガス流路L2は、第1段目ディスプレーサ3aの下部に形成されている。
【0024】
また、第1段目膨張室11aと第2段目膨張室11bは、ガス流路L3、第2段目蓄冷材4b、ガス流路L4を介して接続されている。なお、ガス流路L3は第2段目ディスプレーサ3bの上部に形成されており、ガス流路L4は第2段目ディスプレーサ3bの下部に形成されている。
【0025】
第1段目シリンダ10aの外周面で、第1段目膨張室11aと対向する位置には、第1段目冷却ステージ6が取り付けられている。また、第2段目シリンダ10bの外周面で、第2段目膨張室11bと対向する位置には、第2段目冷却ステージ7が取り付けられている。
【0026】
上記の第1段目及び第2段目ディスプレーサ3a,3bは、スコッチヨーク機構22(請求項に記載の駆動機構に相当する)により第1段目及び第2段目シリンダ10a,10b内を図中上下方向(矢印Z1,Z2方向)に移動する。
図2は、スコッチヨーク機構22を拡大して示している。
【0027】
スコッチヨーク機構22は、クランク14とスコッチヨーク32とを有した構成とされている。
【0028】
クランク14は、モータ15の回転軸(以下、駆動回転軸15aという)に固定される。このクランク14は、駆動回転軸15aの取り付け位置から偏心した位置に偏心ピン14aを設けた構成とされている。従って、クランク14を駆動回転軸15aに取り付けると、駆動回転軸15aと偏心ピン14aは偏心した状態となる。
【0029】
スコッチヨーク32は、駆動軸33a,33b、ヨーク板36、及びころ軸受37等により構成されている。ヨーク板36の中央上下位置には、駆動軸33が上下方向に延出するよう配設されている。
【0030】
駆動軸33aはヨーク板36から上方(Z1方向)に延出し、ハウジング23内に設けられた摺動軸受17aに摺動可能に支承されている。更に、駆動軸33aの上端部の所定範囲は後述するアシスト空間41(アシスト室48)内に挿入されている。
【0031】
また、駆動軸33bはヨーク板36から下方(Z2方向)に延出しており、ハウジング23内に設けられた摺動軸受17bに摺動可能に支承されている。よって、各駆動軸33a,33bが摺動軸受17a,17b内で摺動することにより、スコッチヨーク32はハウジング23内で上下方向(図中矢印Z1,Z2方向)に往復移動する。
【0032】
また、ヨーク板36には、横長窓39が形成されている。この横長窓39は、駆動軸33a,33bの延出する方向に対して直行する方向(
図2中、矢印X1,X2方向)に延在するよう形成されている。
【0033】
この横長窓39内には、ころ軸受37が配設されている。ころ軸受37は、横長窓39内で転動可能な構成とされている。また、ころ軸受37の中心位置には、偏心ピン14aと係合する係合孔38が形成されている。
【0034】
従って、偏心ピン14aをころ軸受37に係合した状態でモータ15が駆動し駆動回転軸15aが回転すると、偏心ピン14aは円弧を描くように回転し、これによりスコッチヨーク32は図中矢印Z1,Z2方向に往復移動する。この際、ころ軸受37は、横長窓39内を図中矢印X1,X2方向に往復移動する。
【0035】
スコッチヨーク32の下部に配設された駆動軸33bは、第1段目ディスプレーサ3aに接続されている。よって、スコッチヨーク32が図中矢印Z1,Z2方向に往復移動することにより、第1段目ディスプレーサ3a及びこれに接続された第2段目ディスプレーサ3b
も第1段目及び第2段目シリンダ10a,10b内で矢印Z1,Z2方向に往復移動する。
【0036】
上記のように、スコッチヨーク機構22の駆動はモータ15が駆動することにより行われる。よって、各ディスプレーサ3a,3bに負荷が印加され、駆動軸33a,33bのZ1,Z2方向に対する移動抵抗が大きくなった場合、これはモータ負荷トルクとしてモータ15に印加される。
【0037】
ここで、ヨーク板36から上方に延出する駆動軸33aに注目する。ハウジング23のこの駆動軸33aと対応する位置にはアシスト室48が形成されており、このアシスト室48の内部にはアシスト空間41が形成されている。このアシスト空間41は、駆動軸33aの上端部とハウジング23との間に形成される空間である。駆動軸33aは、このアシスト空間41内で図中矢印Z1,Z2方向に移動可能な構成とされている。
【0038】
また、アシスト空間41のスコッチヨーク機構22に近い端部で、かつ摺動軸受17aの配設位置より若干上部位置には、スリッパーシール35が設けられている。よって、アシスト空間41と、ハウジング23の内部空間とは、スリッパーシール35により気密に画成された構成となっている。また駆動軸33aは、この気密状態を維持しつつアシスト空間41内で移動可能な構成とされている。従って、駆動軸33aとアシスト室48はピストン・シリンダ機構を構成する。
【0039】
このアシスト空間41には分岐配管40が接続されるが、分岐配管40の詳細については後述するものとする。
【0040】
次に、
図1に戻りバルブ機構となるロータリバルブRVについて説明する。ロータリバルブRVは、作動ガスの流路において圧縮機1と上部室13との間に設けられている。このロータリバルブRVは作動ガスの流路を切り換えることにより、ガス圧縮機1の吐出口から吐出された作動ガスを上部室13内に導く給気用バルブ(V1)と、上部室13内の作動ガスをガス圧縮機1の吸気口に導く排気用バルブ(V2)として機能する。
【0041】
ロータリバルブRVは、ステータバルブ8とロータバルブ9とを有する。ロータバルブ9は、ハウジング23内に回転可能に支持されている。
【0042】
ステータバルブ8は、ピン19によりハウジング23に回転しないように固定されている。これに対し、ロータバルブ9にはスコッチヨーク機構22の偏心ピン14aが接続されており、偏心ピン14aが回転することによりロータバルブ9はステータバルブ8に対して回転する構成とされている。よって、ロータリバルブRVもモータ15を駆動源としてロータバルブ9を回転駆動する構成とされている。
【0043】
また、ハウジング23には、一端が上部室13に接続されると共に、他端がロータリバルブRVに接続されるガス流路21が形成されている。ロータリバルブRVを構成するロータバルブ9の回転に伴い給気用バルブV1が開くことにより、ガス圧縮機1の吐出側吐出口と上部室13は連通され、ガス圧縮機1の吐出口から供給配管1aを介して高圧の作動ガスが上部室13に供給される。
【0044】
一方、ロータバルブ9の回転に伴い排気用バルブV2が開くと、ガス流路21とガス圧縮機1の吸気口が連通し、寒冷を発生させて低圧となった作動ガスが排出配管1bを介してガス圧縮機1の吸気口に流入する。
【0045】
モータ15によりロータバルブ9が回転すると、上部室13への作動ガスの供給(給気)動作と、上部室13からの作動ガスの回収(排気)動作が繰り返し実施される。作動ガスの供給及び回収の繰り返しと、ディスプレーサ3a,3bの往復駆動とは、共にクランク14の回転に同期している。そこで、作動ガスの供給と回収の繰り返しの位相と、各ディスプレーサ3a,3bの往復駆動の位相とを適当に調節することにより、第1段目及び第2段目膨張室11a,11b内で作動ガスが断熱膨張して寒冷が発生する。
【0046】
ここで、ハウジング23に形成されたアシスト空間41及びこれに接続される分岐配管40について、更に詳細に説明する。
【0047】
なお以下の説明では、
図1に示したGM冷凍機の基本構成を示した
図3を用いて説明するものとする。
図3に示すGM冷凍機は、図示及び説明の便宜を図るために1段式のGM冷凍機を示しており、またロータリバルブRVも給気用バルブV1及び排気用バルブV2を簡略化して図示している。
【0048】
更に、
図1ではスコッチヨーク機構22の下部に各ディスプレーサ3a,3bが配設された構成とされていたが、
図3ではスコッチヨーク機構22の上部(矢印Z1方向側)にディスプレーサ3が配設された構成とされている。即ち、
図3に示すGM冷凍機は
図1に示すGM冷凍機を上下反転させた構成とされている。
【0049】
一般に、GM冷凍機は使用される機器の構造に対応させ、種々の姿勢で機器に取り付けられる。よって、
図3に示されるように、GM冷凍機を上下反転させた使用態様も多く実施される(例えば、クライオポンプ等)。
【0050】
なお
図3においては、クランク14,偏心ピン14a,モータ15,及びころ軸受37等の図示は省略している。
【0051】
図3は、シリンダ部10内でディスプレーサ3が可動し、膨張室11の容積が最大になった状態を示している。この状態からディスプレーサ3を上動(矢印Z1方向に移動)させる場合、給気用バルブV1は閉じられ排気用バルブV2が開くことにより、膨張室11内の作動ガスはディスプレーサ3内に配設された蓄冷材4内を通り、ガス流路21及びロータリバルブRV(排気用バルブV2)等を介してガス圧縮機1の吸気口に流入する。
【0052】
冷却効率を高めるために蓄冷材4はディスプレーサ3内に高密度に配設されており、よって作動ガスが蓄冷材4内を通過する際の圧力損失は大きくなる。この圧力損失による荷重は、駆動軸33bを介してスコッチヨーク機構22に伝達され、このスコッチヨーク機構22を駆動するモータ15にモータ負荷トルクとして印加される。
【0053】
また
図3に示すようにスコッチヨーク機構22の上部にディスプレーサ3を配設した構成では、上動する際に、ディスプレーサ3の自重もスコッチヨーク機構22に印加される。よって、このスコッチヨーク機構22の自重も、モータ負荷トルクとしてモータ15に印加される。
【0054】
更に、GM冷凍機の能力が大きくなり大型化が図られた場合、これに伴いロータリバルブRVも大型化する。よって、大型化することによりシールに必要な押力により発生する摺動抵抗も増大したロータバルブ9を回転させる必要があり、これもモータ負荷トルクとしてモータ15に印加される。
【0055】
このようにモータ15には、大きなモータ負荷トルクが印加される。そして、所定値以上のモータ負荷トルクが印加された場合、モータ15に同期脱出(スリップ)が発生し、正常なサイクル運転を行うのが不可能となる可能性があることは前述した通りである。
【0056】
しかしながら、本実施形態に係るGM冷凍機には、前記したようにハウジング23の駆動軸33aと対応する位置にアシスト空間41が形成されている。駆動軸33aは、このアシスト空間41内でディスプレーサ3の移動方向(図中矢印Z1,Z2方向)に移動可能な構成とされている。
【0057】
このアシスト空間41には、分岐配管40が接続されている。分岐配管40は、ガス圧縮機1と給気用バルブV1とを接続する供給配管1aを分岐させた配管である。よって、分岐配管40を介してアシスト空間41には、ガス圧縮機1で生成された高圧の作動ガスが供給される。
【0058】
ここで、分岐配管40及びアシスト空間41を設けたことによる作用について説明する。
【0059】
前記のように、ガス圧縮機1で生成された高圧の作動ガスは分岐配管40に供給される。また、分岐配管40は給気用バルブV1の上流側で分岐されているため、アシスト空間41には分岐配管40を介して高圧の作動ガスが常時供給される構成となっている。
【0060】
また、前記のようにアシスト空間41のスコッチヨーク機構22に近い端部にはスリッパーシール35が設けられており、アシスト空間41の内壁と駆動軸33aとの間をシールしている。よって、アシスト空間41とハウジング23の内部空間は気密に画成された構成となっており、分岐配管40からアシスト空間41に供給された高圧の作動ガスがハウジング23の内部空間にリークするようなことはない。
【0061】
従って、アシスト空間41に高圧の作動ガスが供給されると、駆動軸33aは上方向に移動付勢される。前記のように駆動軸33aは、スコッチヨーク機構22を介してディスプレーサ3に接続されている。よって、アシスト空間41に供給された作動ガスの圧力により、ディスプレーサ3は上方向に向けて(膨張室11の容積が小さくなる方向に向けて)移動付勢される。
【0062】
即ち、アシスト空間41に供給された作動ガスの圧力は、スコッチヨーク機構22によりディスプレーサ3が上方向に向けて移動付勢する際、これをアシストするアシスト力として作用する。このアシスト力により、モータ15に印加されるモータ負荷トルクは低減される。
【0063】
このように本実施形態に係るGM冷凍機では、アシスト空間41に供給された作動ガスによりモータ負荷トルクが低減されるため、蓄冷材4内を流れる作動ガスによる圧力損失が大きい場合、またディスプレーサ3の自重がモータ15に印加される場合、又GM冷凍機の出力の増大に伴いロータリバルブRVが大型化したような場合であっても、モータ15に同期脱出(スリップ)が発生することを防止することができる。
【0064】
また本実施形態では、分岐配管40はハウジング23の外部に設けられており、ハウジング23の外部から直接アシスト空間41に接続される構成とされている。具体的には、ハウジング23のアシスト空間41と対応する位置にはガス流通孔23aが形成されており、分岐配管40がガス流通孔23aの外側端部と連通するよう、分岐配管40の端部はハウジング23に固定されている。
【0065】
このように、分岐配管40はハウジング23の外部に配設され、ハウジング23の外部からアシスト空間41に接続されることにより、ハウジング23内にアシスト空間41とガス圧縮機1を接続する配管を設ける構成に比べ、ハウジング23の構成を簡単化することができる。
【0066】
また、ハウジング内に内部にアシスト空間とガス圧縮機を接続する配管を設けるには、ロータリバルブRVを構成するステータバルブ,ロータバルブ,及びハウジング23等に作動ガスが流れるガス流路を形成する必要があり、またシールを行う箇所も増えるためにGM冷凍機の構造が複雑化すると共に内部でリークが発生するリスクが増大する。
【0067】
しかしながら、本実施形態に係るGM冷凍機のように、ハウジング23の外部から直接アシスト空間41に分岐配管40を接続する構成とすることにより、GM冷凍機の構成を簡単化することができ、また内部でリークが発生するリスクを低減することができる。
【0068】
図7は、
図3に示す本実施形態に係るGM冷凍機のモータ15に印加されるモータ負荷トルクを示している(図中矢印Aで示す。以下、このトルクを本願モータ負荷トルクという)。また参考例として、従来のGM冷凍機に印加されるモータ負荷トルクも合わせて図示している(図中矢印Bで示す。以下、このトルクを従来モータ負荷トルクという)。
図7において、横軸は運転角度(クランク角度)を示しており、縦軸はモータ負荷トルクを示している。また運転角度は、膨張室11の容積が最も大きいときの角度を0°としている。なお、従来のGM冷凍機としては、分岐配管及びアシスト空間を設けてない点を除き、他の構成は本実施形態に係るGM冷凍機と同じ構成のものを用いた。
【0069】
運転角度が0°から約180°の範囲では、本願モータ負荷トルクAは従来モータ負荷トルクBよりも小さくなっている。これは、本実施形態に係るGM冷凍機では、前記のようにアシスト空間41に供給された作動ガスの圧力がディスプレーサ3を上方向に向けて移動付勢するアシスト力として作用し、これによりモータ15に印加されるモータ負荷トルクは低減されることに起因している。
【0070】
これに対し、運転角度が約180°から約360°の範囲では、本願モータ負荷トルクAは従来モータ負荷トルクBよりも大きくなっている。これは、本実施形態に係るGM冷凍機では、アシスト空間41に対して作動ガスは常時供給されるため、ディスプレーサ3が矢印Z2方向に移動する場合(膨張室11の容積が大きくなる方向にディスプレーサ3が移動する場合)においては逆にモータ負荷として印加されることになる。
【0071】
ここで、モータ負荷トルクのトルクピーク値(モータ負荷トルクの最も大きな値)に注目すると、いずれのモータ負荷トルクA,Bも、運転角度が約90°においてピークを有している。本願モータ負荷トルクのトルクピーク値をP1とし、従来モータ負荷トルクのトルクピーク値をP2とするとP2>P1となっており、本願モータ負荷トルクのトルクピーク値P1は従来モータ負荷トルクのトルクピーク値P2に対して約3/5程度に低減している。
【0072】
モータ15において最も同期脱出が発生しやすいのは、モータ負荷トルクが最も大きいピーク時である。よって
図7に示す結果より、GM冷凍機に分岐配管40とアシスト空間41を設けることにより、ピーク時におけるモータ負荷トルクが低減されることが実証された。よって、本実施形態に係るGM冷凍機によれば、モータ15に同期脱出(スリップ)が発生することを確実に防止することが可能となる。
【0073】
一方、運転角度が約180°から約360°の範囲では、本願モータ負荷トルクAは従来モータ負荷トルクBよりも大きくなっている。これは、モータ15及びスコッチヨーク機構22がディスプレーサ3を移動させようとする方向と、アシスト空間41に供給された作動ガスによるアシスト力の作用方向が逆方向になることによる。これにより、本実施形態においては、運転サイクル中のモータ負荷トルクのピーク値を抑制することができる。
【0074】
図8は、本実施形態に係るGM冷凍機の姿勢を各種変更した場合における、アシスト空間41内の圧力(アシスト空間圧力)と同期脱出電圧との関係を示している。
【0075】
なお、同図に示すアシスト空間圧力−同期脱出電圧特性は、
図1に示すようなディスプレーサがスコッチヨーク機構の下部に位置するGM冷凍機の特性である。
【0076】
またGM冷凍機の姿勢としては
図1に示す状態を0°とし、これより90°回転させた状態、150°回転させた状態、及び180°回転させた状態の各状態を選定し、それぞれについ
てアシスト空間圧力と同期脱出電圧を調べた。このGM冷凍機の姿勢を示す各角度を、以下の説明では姿勢角度というものとする。
【0077】
ここで上記の同期脱出電圧とは、モータ15の出力トルクとモータ15に要求されている必要トルクが等しくなっているときに当該モータ15に印加されている電圧をいう。
【0078】
モータ15の出力トルクは、印加する電圧の増大に比例して増大する。また必要トルクとは、GM冷凍機を正常に運転するためモータ15に要求されるトルク(例えば、ディスプレーサ3a,3bやスコッチヨーク機構22等を駆動するトルク等)である。
【0079】
モータ15への印加電圧が十分に高いときは、モータ15の出力トルクが必要トルクを上回るため同期脱出が発生することはない。従って、同期脱出電圧が低い場合は、GM冷凍機を運転する際の必要トルクが小さい状態であり、外乱等(例えばディスプレーサ3a,3bで発生する瞬間的な摩擦の増大等)が発生しても、必要トルクが出力トルクを上回ることはない。
【0080】
これに対して同期脱出電圧が高い場合は、上記の外乱が発生すると必要トルクが出力トルクを超えてしまい、同期脱出が発生するおそれがある。即ち、同期脱出電圧が高い状態は、同期脱出が発生しやすい状態である。よって、GM冷凍機を安定して運転しようとする場合、同期脱出電圧が高い状態は望ましい状態ではない。
【0081】
上記の事項に基づき
図8を見ると、アシスト空間圧力が0.63MPaである状態は、アシスト空間41に分岐配管40から作動ガスが供給されていない状態(即ち、従来のGM冷凍機と等価の状態)である。この時、殆どの各姿勢角度においても同期脱出電圧は最も高くなっており、同期脱出が発生しやすい状態となっていることが分かる。
【0082】
更に、姿勢角度0°と姿勢角度180°を比較すると、姿勢角度180°の方が姿勢角度0°に対して同期脱出電圧が高く、同期脱出が発生しやすい状態であることが分かる。これは、ディスプレーサ3の自重の負荷がモータ15にモータ負荷トルクとして印加されていることによるものである。
【0083】
また、アシスト空間41内のアシスト空間圧力を漸次増大させていくと、姿勢角度0°の場合は途中で膨張室11を膨張する際の負荷が勝り、1MPa近傍を境にして同期脱出電圧は上昇する。また、姿勢角度180°の場合は、上記のように自重分の負荷があるため、測定範囲で一様にアシスト空間41の加圧と共に同期脱出電圧が低くなる。更に、姿勢角度90°,150°の場合は、アシスト空間圧力の増大に伴い同期脱出電圧が漸次減少することが分かる。
【0084】
従って、
図8に示す結果より、アシスト空間圧力を1.6MPa以上1.8MPa以下に設定することにより、姿勢角度に拘わらず同期脱出電圧の低減を図ることができることが分かる。
【0085】
次に、本発明の第2乃至4実施形態について
図4乃至
図6を用いて説明する。
【0086】
なお、
図4乃至
図6において、先の説明に用いた
図1乃至
図3に示した構成と対応する構成については同一符号を付して、その説明は省略する。
【0087】
図4は、第2実施形態であるGM冷凍機を示す構成図である。
【0088】
本実施形態に係るGM冷凍機は、供給配管1aから分岐しアシスト空間41に接続される分岐配管40に減圧機構42を設けたことを特徴としている。減圧機構42は、分岐配管40を流れてくる高圧の作動ガスの圧力を減圧するものである。この減圧機構42としては、オリフィス、絞り弁等を用いることができる。
【0089】
このように分岐配管40に減圧機構42を設けることにより、アシスト空間41内のアシスト空間圧力を適切な一定値に保つことができ、モータ15に対するアシスト力の安定化を図ることができる。
【0090】
図5は、第3実施形態であるGM冷凍機を示す構成図である。
【0091】
本実施形態に係るGM冷凍機は、供給配管1aから分岐しアシスト空間41に接続される分岐配管40に圧力調整バルブ44を設けたことを特徴としている。この圧力調整バルブ44はアシスト空間41の圧力を調整することができるバルブである。また、圧力調整バルブ44には制御部45が接続されており、この制御部45は、アシスト空間41が予め規定された圧力になるように当該圧力調整バルブを制御する。よって、この圧力調整バルブ44を設けることにより、アシスト空間41内のアシスト空間圧力を調整することが可能になる。
【0092】
図8を用いて説明したように、GM冷凍機はその姿勢角度により同期脱出電圧が異なる。よって、分岐配管40に圧力調整バルブ44を設け、各姿勢角度に応じたアシスト力を発生するよう圧力調整バルブ44を調整することにより、モータ15に同期脱出が発生することを確実に防止することができる。
【0093】
図6は、第4実施形態であるGM冷凍機を示す構成図である。
【0094】
前記の第1乃至第3実施形態に係るGM冷凍機では、ガス圧縮機1の吐出口側に配設された供給配管1aを分岐させた分岐配管40を設け、これをアシスト空間41に接続する構成としていた。即ち、第1乃至第3実施形態に係るGM冷凍機では、アシスト空間41に供給する高圧の作動ガスの高圧流体源をガス圧縮機1としていた。
【0095】
これに対して本実施形態に係るGM冷凍機では、アシスト空間41に供給する高圧の作動ガスの高圧流体源をバッファタンク46としたことを特徴としている。このバッファタンク46の内部には、高圧の作動ガスが充填されている。
【0096】
このバッファタンク46とハウジング23に形成されたアシスト空間41は、アシスト配管47(請求項に記載の供給配管に相当する)により接続されている。よって、バッファタンク46内の高圧の作動ガスは、アシスト空間41内に供給される。
【0097】
また、バッファタンク46内に充填されている作動ガスの圧力は、モータ15に対して所定のアシスト力を付与しうる圧力とされている。従って、バッファタンク46及びアシスト配管47を設けることによっても、モータ15に同期脱出が発生することを抑制することができる。
【0098】
また、バッファタンク46はハウジング23の外部に配設されており、アシスト配管47もアシスト空間41にハウジング23の外部から接続される構成とされている。よって、
本実施形態に係るGM冷凍機においても、モータ15をアシストする構成としても、ハウジング23やロータリバルブRVの構造が複雑化するようなことはない。
【0099】
なお、バッファタンク46内に充填する高圧ガスは作動ガスに限定されるものではなく、アシスト力を発生することが可能な流体であれば、他の流体を用いることも可能である。
【0100】
また本発明は、駆動軸を用いてディスプレーサを駆動する各種の極低温冷凍機に広く適用が可能なものである。
【0101】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【0102】
実施の形態では、駆動軸とハウジングとの間にスリッパーシールを設ける例について説明したが、これに限られず、他のシール機構を採用することができる。また、必ずしもシール機構を設けなくてもよい。駆動軸とハウジングとの間にシール機構がない場合には、アシスト空間41に供給された作動ガスは、ハウジング23のガス圧縮機1の吸気口に連通する空間に流入する。そのため、冷凍機のシリンダには流入しないため、直接、冷凍能力には影響を与えない。