(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の過活動膀胱の予防又は改善剤、頻尿の予防又は改善剤(以下、これらをまとめて「本発明の予防・改善剤」ともいう)、及びATP放出抑制剤は、前記式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする。
【0013】
式(1)で表される化合物は、リナロールである。式(1)で表される化合物には、光学異性体が存在する(Chirality,2010 Jan,22(1),110-9参照)。本発明において、式(1)で表される化合物にはこれらの異性体が包含され、各異性体を単独又は混合して用いることができる。
【0014】
式(2)で表される化合物は、リナロールオキシドである。式(2)で表される化合物には、光学異性体が存在する(Chirality,2010 Jan,22(1),110-9参照)。また、式(2)で表される化合物には、下記に示す構造異性体が存在する。本発明において、式(2)で表される化合物にはこれらの異性体が包含され、各異性体を単独又は混合して用いることができる。
【0016】
式(3)で表される化合物は、ミルセンである。
【0017】
式(4)で表される化合物は、ボルネオールである。式(4)で表される化合物には、光学異性体が存在する(Biochem. Pharmacol.,2005 Apr 1,69(7),1101-11参照)。本発明において、式(4)で表される化合物にはこれらの異性体が包含され、各異性体を単独又は混合して用いることができる。
【0018】
前記式(1)〜(4)で表される化合物の製造方法に特に制限はなく、通常の有機化学的合成により得ることもできるし、天然物由来の材料から抽出や精製等したものであってもよい。また、試薬として市販されているものを式(1)〜(4)で表される化合物として用いることもできる。
式(1)で表される化合物は、例えば、香料化学総覧II(廣川書店、1980年、P541)に記載の方法を参考に、メチルヘプテノンにアセチレンを、ナトリウムアミド(NaNH
2)存在下で縮合させてデヒドロリナロールとし、これをエーテル溶液中、金属ナトリウムで還元することにより得られる。
式(2)で表される化合物は、例えば、香料化学総覧II(廣川書店、1980年、P695)に記載の方法を参考に、リナロールを過モノフタル酸などの有機過酸化物で酸化し、生成物を加熱することにより得られる。この方法では、まず式(2)で現されるリナロールモノエポキサイドが生成し、異性化により上記4つのフラノイド型又はピラノイド型の異性体が単離される。
【0019】
式(3)で表される化合物は、例えば、香料化学総覧II(廣川書店、1980年、P395)に記載の方法を参考に、リナロールを銅触媒上、130〜140℃で通過させて脱水することにより得られる。
式(4)で表される化合物は、例えば、香料化学総覧II(廣川書店、1980年、P605)に記載の方法を参考に、ショウノウを金属ナトリウムとアルコールで還元することにより得られる。
【0020】
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤には、前記式(1)〜(4)の化合物のいずれかを単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0021】
前述のように、過活動膀胱患者では膀胱伸展時のATP放出量が増大していること、ラットの膀胱にATPを投与すると、排尿筋過活動が誘発され排尿間隔が短縮すること、が報告されている。さらに、ATP受容体(P2X3)のアンタゴニストをラット静脈内へ投与すると、排尿間隔が延長されるとの報告もなされている(J. Chin. Med. Assoc.,2007年,第70巻,p.439-444)。これらの報告から、過活動膀胱患者に見られる膀胱伸展時のATP放出量の増大を抑制することで、過活動膀胱及びその症状である頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁を予防・改善し得ると考えられる。
後記実施例でも示すように、前記式(1)〜(4)の化合物は、膀胱の伸展刺激による膀胱上皮細胞からのATP放出を抑制する作用を有する。そのため、これらの化合物は、膀胱上皮細胞からのATPの放出を抑制し、過活動膀胱及びその症状である頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁を予防・改善するために使用することができる。
上記使用は、治療的使用(即ち医療行為)であっても非治療的使用(非医療的な行為)であってもよい。また、上記使用の対象は、ヒト、非ヒト動物、又はそれらに由来する検体であり得る。なお、前記「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処理行為を含まない概念である。
【0022】
前記式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物を有効成分とする過活動膀胱又は頻尿の予防・改善剤、及びATP放出抑制剤は、上記使用の具体的態様の1つであり、治療的用途(医療用途)、非治療用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。具体的には、医薬品、医薬部外品等としての使用することができる他、各種の飲食品、飼料、ペットフード等に有効成分としてこれらの剤を配合することもできる。
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤は、液状、固形状、乳液状、ペースト状、ゲル状、パウダー状(粉末状)、顆粒状、ペレット状、スティック状等、ヒトや動物に適用されうる各種剤型をとることができる。
また、本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤は、有効成分である前記式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物のみからなるものであってもよいし、効果に影響を与えない範囲で他の成分を含有するものであってもよい。
【0023】
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤を医薬品、医薬部外品に適用する場合、前記式(1)〜(4)の化合物を有効量含有させ、必要により添加剤を配合して各種剤形に調製することができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、腸溶剤、トローチ剤、ドリンク剤等の経口医薬として、又は、注射剤、坐剤、経皮吸収剤、外用剤等といった非経口医薬として調製することができる。これらの形態のうち、好ましい形態は経口医薬である。
種々の剤型に調製するには、添加剤を用いて常法に従って製造すればよい。添加剤は、通常用いられているものを使用することができる。添加剤の例としては、薬学的に許容される賦形剤(ソルビトール、グルコース、乳糖、デキストリン、澱粉等の糖類、炭酸カルシウム等の無機物、結晶セルロース、蒸留水、ゴマ油、とうもろこし油、オリーブ油、菜種油等)、液体担体(蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール等のアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、油性担体(各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィン、ロウ類等)、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、崩壊剤、滑沢剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、矯臭剤、細菌抑制剤等が挙げられる。
【0024】
本発明の予防・改善剤、ATP放出抑制剤を飲食品、飼料、ペットフード等に適用する場合、食用又は飲料用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して提供することができる。さらに、前記飲食品は、一般飲食品の他、過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品、栄養機能食品又は特定保健用食品等の機能性飲食品の形態とすることができる。
飲食品の例としては、パン、麺類等に代表される小麦粉加工食品、お粥、炊き込みご飯等の米加工食品、ビスケット、ケーキ、ゼリー、チョコレート、せんべい、アイスクリーム等の菓子類、豆腐、その加工食品等の大豆加工食品、清涼飲料、果汁飲料、乳飲料、炭酸飲料等の飲料類、ヨーグルト、チーズ、バター、牛乳等の乳製品、醤油、ソース、味噌、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、ハム、ベーコン、ソーセージ等の蓄肉、蓄肉加工食品、はんぺん、ちくわ、魚の缶詰等の水産加工食品、調理油ならびにフライ用油等が挙げられる。また、錠剤(タブレット)、カプセル等の錠剤食、濃厚流動食、自然流動食、半消化態栄養食、成分栄養食、ドリンク栄養食等の経口経腸栄養食品、機能性食品等の形態としてもよい。
飼料としては、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
【0025】
これらの飲食品は、本発明の予防・改善剤又はATP放出抑制剤を含有し、これに食品原料、例えば、甘味剤、着色剤、抗酸化剤、ビタミン類、香料、ミネラル等の添加剤、タンパク質、脂質、糖質、炭水化物、食物繊維等を適宜組み合わせて、常法に従って調製することができる。
【0026】
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤における前記有効成分の配合量は、その使用形態により異なるが、医薬品、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合は、固形分濃度として0.001質量%以上が好ましく、0.003質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上がさらに好ましく、90質量%以下が好ましく、50質量%がより好ましい。あるいは、0.001〜90質量%が好ましく、0.003〜90質量がより好ましく、0.01〜90質量がさらに好ましく、0.01〜50質量%がよりさらに好ましい。飲食品やペットフード等に配合する場合は、固形分濃度として0.001質量%以上が好ましく、0.003質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上がさらに好ましく、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。あるいは、0.001〜50質量%が好ましく、0.003〜50質量がより好ましく、0.01〜50質量がさらに好ましく、0.01〜10質量%がよりさらに好ましい。
【0027】
本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤の投与又は摂取量は、個体の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って適宜選択、決定できる。例えば、成人(60kg)の1日の投与又は摂取量としては、前記有効成分の乾燥物換算として、0.001mg以上が好ましく、1mg以上がより好ましく、100mg以上がさらに好ましく、80000mg以下が好ましく、40000mg以下がより好ましく、15000mg以下がさらに好ましい。あるいは、0.001〜80000mgが好ましく、1〜40000mgがより好ましく、100〜15000mgがさらに好ましい。また、本発明の予防・改善剤及びATP放出抑制剤は、1日1回〜数回に分け、又は任意の期間及び間隔で摂取・投与され得る。
【0028】
上記医薬品、医薬部外品又は食品の摂取又は投与対象として特に限定されないが、過活動膀胱、及びその主な症状である頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁等の予防、改善、治療を目的とするヒトやヒト以外の哺乳動物が好ましい。なお、摂取又は投与対象には、過活動膀胱の症状が認められるヒトやヒト以外の哺乳動物、及びそのおそれがあるヒトやヒト以外の哺乳動物、その疾患・症状の予防を期待するヒトやヒト以外の哺乳動物も含まれる。
【0029】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の予防又は改善剤、ATP放出抑制剤、製造方法、方法及び使用を開示する。
【0030】
<1>前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、過活動膀胱の予防又は改善剤。
【0031】
<2>前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、頻尿の予防又は改善剤。
<3>前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、尿意切迫感の予防又は改善剤。
<4>前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、切迫性尿失禁の予防又は改善剤。
【0032】
<5>過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善がATP放出抑制によるものである、<1>〜<4>のいずれか1項記載の予防又は改善剤。
<6>前記有効成分の含有量が固形分換算で0.001質量%以上であり、0.003質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、90質量%以下であり、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい、<1>〜<5>のいずれか1項記載の予防又は改善剤。
【0033】
<7>前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、ATP放出抑制剤。
【0034】
<8>前記有効成分の含有量が固形分換算で0.001質量%以上であり、0.003質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、90質量%以下であり、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい、<7>項記載のATP放出抑制剤。
【0035】
<9> 前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を、過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善剤として使用する方法。
<10> 過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善剤としての、前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の使用。
<11> 過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善のための、前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の非医薬的(非治療的)な使用。
<12> 過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善剤の製造のための、前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の使用。
<13> 過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善のために用いる、前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物。
<14> 前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を投与することを含む、過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁の予防又は改善方法。
【0036】
<15>ATPの放出を抑制することで過活動膀胱、頻尿、尿意切迫感、又は切迫性尿失禁を予防又は改善する、<9>〜<14>項のいずれか記載の化合物、使用又は方法。
<16>前記予防又は改善剤中の、前記有効成分の含有量が固形分換算で0.001質量%以上であり、0.003質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、90質量%以下であり、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい、<9>〜<15>項のいずれか記載の化合物、使用又は方法。
<17>前記化合物を食品又は飲料の形態で適用する、<9>〜<16>項のいずれか記載の化合物、使用又は方法。
【0037】
<18> 前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を、ATP放出抑制剤として使用する方法。
<19> ATP放出抑制剤としての、前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の使用。
<20> ATP放出の抑制のための、前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の非医薬的(非治療的)な使用。
<21> ATP放出抑制剤の製造のための、前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の使用。
<22> ATP放出抑制のために用いる、前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物。
<23> 前記式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を投与することを含む、ATP放出の抑制方法。
【0038】
<24>前記ATP放出抑制剤中の、前記有効成分の含有量が固形分換算で0.001質量%以上であり、0.003質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、90質量%以下であり、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい、<18>〜<23>項のいずれか記載の化合物、使用又は方法。
<25>前記化合物を食品又は飲料の形態で適用する、<18>〜<24>項のいずれか記載の化合物、使用又は方法。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
調製例1 式(1)で表される化合物
リナロール(和光純薬工業より入手、純度98%(DL体))を99.5%エタノールに濃度3%(w/v)になるように溶解し、用いた。
【0041】
調製例2 式(2)で表される化合物
リナロールオキシド(東京化成工業より入手、純度98%)を99.5%エタノールに濃度3%(w/v)になるように溶解し、用いた。
【0042】
調製例3 式(3)で表される化合物
ミルセン(SIGMA-ALDRICHより入手、純度95%)を99.5%エタノールに濃度3%(w/v)になるように溶解し、用いた。
【0043】
調製例4 式(4)で表される化合物
ボルネオール(SIGMA-ALDRICHより入手、純度97%)を99.5%エタノールに濃度3%(w/v)になるように溶解し、用いた。
【0044】
実施例1 ATP放出抑制試験
[膀胱上皮細胞]
ヒト膀胱上皮癌細胞であるHT−1376(ATCC社より入手)を使用した。細胞情報を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
[培地]
Earle’s(Invitrogen社製)に、10%FCS(ウシ胎仔血清)、ピルビン酸ナトリウム(0.055g/500mL)、L−グルタミン(0.146g/500mL)を添加したものを使用した。
【0047】
1.低浸透圧刺激によるATP放出
96wellプレートに、4.0×10
4cells/wellとなるようにHT−1376を播種し、上記培地で37℃、5%CO
2条件下で、24時間培養した。培地を吸引除去して、等浸透圧液(組成を表2に示す)で細胞を2回洗浄した。調製例1〜4で調製した各化合物を下記表3に示す濃度となるよう添加した等浸透圧液を、75μL/well加えて、37℃、5%CO
2環境下で60分インキュベートした。その後、調製例1〜4で調製した各化合物を下記表3に示す濃度となるよう添加した低浸透圧液(組成を表2に示す)を75μL/well添加し、37℃、5%CO
2環境下で60分インキュベートした。低浸透圧刺激により培地中に放出されたATP量を測定するため、細胞培養液50μLをサンプルとして回収した。
また、等浸透圧液及び低浸透圧液に式(1)〜(4)の化合物を添加しない以外は上記と同様にして細胞培養を行い、回収した培養液をコントロールサンプルとした。
【0048】
【表2】
【0049】
2.ATP放出量の測定
回収したサンプル溶液中のATP濃度を、ATP Bioluminescent Assay Kit(SIGMA社製)を用いてルシフェリン・ルシフェラーゼ法により測定した。サンプル溶液と、ATP Bioluminescent Assay Kit中のTP Assay Mix solutionとを等量で混合し、撹拌後にホタルルシフェラーゼ活性を1秒間測定してATP量を測定した。同様に、コントロールサンプル中のATP量を測定した。
ルシフェリン・ルシフェラーゼ法によるATP濃度の測定では、サンプル溶液中に含まれている式(1)〜(4)のいずれかの化合物にクエンチング効果がある場合、ATP濃度が低く計算されてしまう。そこで、下記式(A)により、測定したサンプル中のATP量をATP添加回収率で補正した値を、ATP放出率とした。なお、ATP添加回収率とは、既知ATP量を含有する溶媒に式(1)〜(4)の化合物を添加した場合の、該溶媒中における既知ATP量の測定可能割合をいい、式(A)におけるATP添加回収率は、溶媒対照(化合物添加なし)のATP量に対する相対値とした。結果を表3に示す。
式(A)
ATP放出率=式(1)〜(4)のいずれかの化合物を添加したサンプル中のATP量/{(ATP添加回収率)×(コントロールサンプル中のATP量)}
【0050】
参考例1
式(1)〜(4)の化合物にかえて、下記構造式で表されるリモネンを用いた以外は、実施例1と同様にしてATP放出抑制試験を行った。
【0051】
【化3】
【0052】
なお、リモネンは、リモネン(和光純薬工業より入手、純度95%以上)を99.5%エタノールに濃度3%(w/v)になるように溶解し、用いた。
結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示すように、前記式(1)〜(4)のいずれかの化合物を添加したサンプルのATP放出率は、コントロールと比較して有意な差が見られた。すなわち、等浸透圧から低浸透圧へと浸透圧を変化させて膀胱上皮細胞を伸展させると、前記式(1)〜(4)の化合物を添加しないコントロールサンプルではATPの放出が亢進するのに対し、前記式(1)〜(4)のいずれかの化合物を添加したサンプルでは、このATP放出が抑制された。また、参考用化合物リモネンを添加したサンプルでは、濃度0.003%でも、コントロールと比較してATP放出率に有意な差は見られなかった。
これらの結果から、前記式(1)〜(4)の化合物は、膀胱上皮細胞の伸展時に亢進するATP放出を抑制する作用を有することが確認された。