特許第6017350号(P6017350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017350
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年10月26日
(54)【発明の名称】水晶振動素子
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20161013BHJP
【FI】
   H03H9/19 E
   H03H9/19 F
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-39077(P2013-39077)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-168145(P2014-168145A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104722
【氏名又は名称】京セラクリスタルデバイス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 康平
(72)【発明者】
【氏名】湯村 雅俊
【審査官】 鬼塚 由佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−249099(JP,A)
【文献】 特開2012−74860(JP,A)
【文献】 特開2001−85970(JP,A)
【文献】 特開2011−205516(JP,A)
【文献】 特開2007−158486(JP,A)
【文献】 特開2009−135830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の水晶片と、
この水晶片の主面に設けられる楕円形状の凸部と、
この水晶片の両主面に設けられ前記凸部を覆う励振電極と、
この水晶片の一方の端部に設けられ、前記励振電極と接続する引き回しパターンとを備え、
前記励振電極が、水晶片の短辺側を向く辺が曲線状に形成されつつ長辺側を向く辺が直線状に形成され、
前記水晶片の一方の主面に設けられる凸部が前記水晶片の他方の主面に設けられる凸部よりも同じ短径でかつ長い長径となって構成されることを特徴とする水晶振動素子。
【請求項2】
平板状の水晶片と、
この水晶片の主面に設けられる楕円形状の凸部と、
この水晶片の両主面に設けられ前記凸部を覆う励振電極と、
この水晶片の一方の端部に設けられ、前記励振電極と接続する引き回しパターンとを備え、
前記励振電極が、水晶片の短辺側を向く辺が曲線状に形成されつつ長辺側を向く辺が直線状に形成され、
前記水晶片の一方の主面に設けられる凸部が前記水晶片の他方の主面に設けられる凸部よりも短い短径でかつ長い長径となって構成されることを特徴とする水晶振動素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶デバイスに用いられる水晶振動素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水晶デバイスには水晶片に金属膜からなる励振電極を設けて構成された水晶振動素子が用いられている。
この水晶片は、例えば、ATカットの水晶ウェハを従来周知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術を用いることで形成することができる。
このような水晶振動素子は、四角形に形成され主面に凸部が形成された水晶片と、この水晶片の両主面中央に設けられる楕円形状の励振電極と、この励振電極と接続され水晶片の一方の端部に設けられる引き回しパターンとから構成されている。
ここで、水晶片の主面には四角形状の凸部が設けられており、この凸部の平面中心が水晶片の平面中心に合わせて設けられている。
また、励振電極は、水晶片に設けられた凸部の平面内に設けられており、平面中心を凸部の平面中心と一致させた位置に設けられている(例えば、特許文献1参照)。
なお、凸部と励振電極とが楕円形状となる水晶振動素子も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
このような水晶振動素子は、ウェットエッチングにより凸部の側面が水晶の軸方向によって異なる傾斜角度を有した形状となる。この傾斜角度がついている部分を残差と呼んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−135830号公報
【特許文献2】特開2012‐74860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水晶振動素子は、励振電極で振動エネルギーを最大にして、水晶片の縁付近で振動エネルギーを閉じ込めるのが理想状態となる。
しかしながら、水晶片に形成される凸部には、凸部の形成の際に生じるウェットエッチングによる残渣が形成されるので、均一な厚みが形成されず、不要な振動を発生させるものと考えられる。これにより、水晶片に楕円形状の凸部を形成した上に励振電極を形成した場合、温度変化によるCI値(クリスタルインピーダンス値)の変動が発生しやすくなっていた。この変動は、CIディップと呼ばれ、周波数温度特性をグラフ化した場合に、所定の温度範囲においてCI値変動が大きく現れた状態となる。
【0005】
そこで、本発明は、安定した低いCI値を得る水晶振動素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、水晶振動素子であって、平板状の水晶片と、この水晶片の主面に設けられる楕円形状の凸部と、この水晶片の両主面に設けられ前記凸部を覆う励振電極と、この水晶片の一方の端部に設けられ、前記励振電極と接続する引き回しパターンとを備え、前記励振電極が、水晶片の短辺側を向く辺が曲線状に形成されつつ長辺側を向く辺が直線状に形成され、前記水晶片の一方の主面に設けられる凸部が前記水晶片の他方の主面に設けられる凸部よりも同じ短径でかつ長い長径となって構成されることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、水晶振動素子であって、平板状の水晶片と、この水晶片の主面に設けられる楕円形状の凸部と、この水晶片の両主面に設けられ前記凸部を覆う励振電極と、この水晶片の一方の端部に設けられ、前記励振電極と接続する引き回しパターンとを備え、前記励振電極が、水晶片の短辺側を向く辺が曲線状に形成されつつ長辺側を向く辺が直線状に形成され、前記水晶片の一方の主面に設けられる凸部が前記水晶片の他方の主面に設けられる凸部よりも短い短径でかつ長い長径となって構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このような水晶振動素子では、水晶片の両主面に設ける凸部の形状について、水晶片の一方の主面に設けられる凸部が、水晶片の他方の主面に設けられる凸部よりも同じ短径でかつ長い長径となって構成されるので、従来よりも凸部に形成されるエッチング残渣による厚みのばらつきが減少することで不要な振動の発生を防ぎ、CIディップのない安定したCI値温度特性を得ることができる。
【0009】
このような水晶振動素子では、水晶片の両主面に設ける凸部の形状について、水晶片の一方の主面に設けられる凸部が、水晶片の他方の主面に設けられる凸部よりも短い短径でかつ長い長径となって構成されるので、従来よりも凸部に形成されるエッチング残渣による厚みのばらつきが減少することで不要な振動の発生を防ぎ、CIディップのない安定したCI値温度特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は本発明の実施形態に係る水晶振動素子の一例を示す模式図であり、(b)は水晶片の短辺側を誇張して示した側面図であり、(c)は水晶片の長辺側を誇張して示した側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る水晶振動素子の変形例を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る水晶振動素子のCI値温度特性の一例を示すグラフである。
図4】本発明の実施形態に係る水晶振動素子との比較に用いた水晶振動素子を示し、(a)は水晶振動素子の平面図であり、(b)は側面図であり、(c)は他の水晶振動素子の平面図である。
図5】本発明の実施形態に係る水晶振動素子との比較に用いた水晶振動素子のCI値温度特性の一例を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態に係る水晶振動素子との比較に用いた他の水晶振動素子のCI値温度特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」という。)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各構成要素について、状態をわかりやすくするために、誇張して図示している。また、水晶片の主面という場合、水晶片に現れる平面のうち最も広い面とこの広い面と並行する面を主面とする。
【0012】
図1(a)〜(c)に示すように、本発明の実施形態に係る水晶振動素子11は、四角形状で凸部が設けられた水晶片1とこの水晶片1の両主面に設けられる励振電極2と、この励振電極2と接続し水晶片1の一方の端部へ引き回されている引き回しパターン3とから構成されている。
この本発明の実施形態に係る水晶振動素子11は、水晶片1の長辺の中心を通る中心線と水晶片1の短辺の中心を通る中心線との交点が水晶片1の平面中心C1であり、凸部の平面中心C2と水晶片の平面中心C1とが一致させて形成され、励振電極2の平面中心C3が水晶片1の引き回しパターン3が設けられない短辺側にずらして形成されている。
【0013】
水晶片1は、例えばATカットの水晶ウェハから四角形状でかつ平板状に形成されている。
なお、この水晶片1は、長辺がX軸と平行であり、短辺がZ´軸と平行であり、厚みがY´軸方向と平行に形成されている。
また、図1(a)〜(c)に示すように、この水晶片1の両主面には、凸部1a,1bが設けられている。これら凸部1a,1bの平面中心C2は、平面視における水晶片1の投影面の中心C1に一致した位置となっている。
【0014】
また、水晶片1の両主面に設けられる凸部1a,1bは、楕円形状に形成されており、楕円の長径を水晶片11の長辺と平行となり、楕円の短径を水晶片11の短辺と平行となるように設けられる。
ここで、水晶片1の一方の主面に設けられる凸部1bは、水晶片1の他方の主面に設けられる凸部1aよりも同じ短径でかつ長い長径となるように設けられる。つまり、凸部1bは、凸部1aに対して長く形成された状態となる。
【0015】
この水晶片1は、従来周知のフォトリソグラフィ技術とエッチング技術を用いて形成することができる。なお、水晶片1は、側面に水晶の結晶面が形成されている。なお、水晶片1の側面に形成される残渣は省略する。
なお、水晶片1は、引き回しパターン3が設けられる端部をX軸の+X方向とし、反対側の端部を−X方向としている。
【0016】
このとき、図1(b)に示すように、Z軸方向において凸部1aは、凸部1aの内側に入り込む傾斜角度が付いた残渣が側面に生じており、Z軸方向に沿ったこの側面と反対側では、外側にはみ出る傾斜角度がついた残渣が側面生じている。
これに対し、凸部1bは、凸部1aの内側に入り込む傾斜角度が付いた残渣が生じている側面と対向する位置に外側にはみ出る傾斜角度がついた残渣が側面生じており、凸部1aの外側にはみ出る傾斜角度がついた残渣が生じている側面と対向する位置に、凸部1bの内側に入り込む傾斜角度が付いた残渣が側面に生じている。
【0017】
このような凸部1aと凸部1bとを有する本発明の実施形態に係る水晶振動素子11は、凸部1aと凸部1bとに生じた残渣による厚みの異なる部分について、その厚みの異なるZ軸方向の長さ部分を△W1としたとき、このZ軸方向の長さ部分△W1を従来よりも小さくすることができる。
したがって、従来よりも凸部に形成されるエッチング残渣による厚みのばらつきが減少するので不要な振動の発生を防ぐことができる。これにより、本発明の実施形態に係る水晶振動素子10は、CIディップのない安定したCI値温度特性を得ることができる。
【0018】
なお、凸部1aと凸部1bとは、変形例として、図2に示すように、水晶片1の一方の主面に設けられる凸部1bが、水晶片1の他方の主面に設けられる凸部1aよりも短い短径でかつ長い長径となるように設けて水晶振動素子12を構成しても良い。つまり、凸部1bは、凸部1aに対して細くかつ長く形成された状態となる。
このように構成しても従来よりも凸部に形成されるエッチング残渣による厚みのばらつきが減少するので不要な振動の発生を防ぐことができる。これにより、本発明の実施形態に係る水晶振動素子10は、CIディップのない安定したCI値温度特性を得ることができる。
【0019】
図1(a)に示すように、励振電極2は、凸部1a,1bを覆うように水晶片1上に設けられている。この励振電極2は、水晶片1の短辺側を向く辺が曲線状に形成されて、水晶片1の長辺側を向く辺が直線状に形成されている。
前記凸部1a,1bを覆って設けられるこの励振電極2は、楕円形状を用いて形成しても良く、楕円形状のうち短径側を直線に形成した形状で構成しても良い。
【0020】
引き回しパターン3は、水晶片1の一方の端部に設けられ、励振電極2と接続している。この引き回しパターン3は、水晶片1の主面の縁に沿って設けられている。
【0021】
例えば、引き回しパターン3は、2つ一対の接続パッド3aと引き回し配線3bとから構成されている。接続パッド3aは、水晶片1の両主面の角部に並んで設けられており、1つの接続パッド3aが一方の主面に設けられた励振電極2と引き回し配線3bを介して接続し、他の接続パッド3aが他方の主面に設けられた励振電極2と引き回し配線3bを介して接続している。
また、引き回し配線3bは、水晶片1の主面の縁に沿って直線で形成されており、励振電極2から接続パッド3aまで設けられている。
【0022】
このように構成される本発明の実施形態に係る水晶振動素子11は、例えば、図3に示すようにCIディップが発生せず、CI値が約40Ωから50Ωの間に入る値となり、安定したCI値温度特性を得ることができた。
【0023】
これに対し、例えば、図4(a)及び(b)に示すように、水晶片1の両主面に楕円形状の凸部を設け、水晶片1の一方の主面の凸部より他方の主面の凸部の短径と長径とを大きく形成した水晶振動素子21を検討した。
この水晶振動素子21は、図4(b)に示すように、水晶片の両主面に設けられた凸部に生じた残渣による厚みの異なる部分について、その厚みの異なるZ軸方向の長さ部分を△W2及び△W3としたとき、このZ軸方向の長さ部分△W2と△W3との距離は異なって対称性がなくなっており、△W2と△W3とを合わせた長さが本発明の実施形態に係る水晶振動素子11の厚みの異なるZ軸方向の長さ部分△W1+△W1よりも長くなっている。
この水晶振動素子21の場合、図5に示すように、−10℃のあたりで急激にCI値が増加するCIディップが発生した。
【0024】
また、例えば、図4(c)に示すように、水晶片の両主面に楕円形状の凸部を設け、水晶片の一方の主面の凸部と他方の主面の凸部とを同一形状で形成した水晶振動素子22を検討した。
この水晶振動素子21の場合、図6のように、CIディップは発生しなかったが、CI値が約80Ωから100Ωの間に入る値となった。
なお、図4図5図6の横軸において、「Temp(℃)」は温度を意味し、縦軸において、「CI(Ω)」はCI値を意味する。
【0025】
これにより、本発明の実施形態に係る水晶振動素子11は、CIディップのない安定したCI値温度特性を得ることができる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。
【符号の説明】
【0027】
11,12 水晶振動素子
1 水晶片
1a,1b 凸部
2 励振電極
3 引き回しパターン
C1,C2,C3 平面中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6