【文献】
山田祐輔 他,スマートタップネットワークを用いた家電の電力消費パターン解析に基づく人物行動推定,電子情報通信学会技術研究報告,社団法人電子情報通信学会,2011年 7月 7日,Vol.111,No.134,p.25−30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも商用電源を含む電力源と、複数の電気機器と、その電気機器に接続されているスマートタップと、メモリを備える生活空間内の人物の行動を推定する人物行動推定装置と、該人物行動推定装置が上記スマートタップを介して接続するネットワークとを備えるオンデマンド型電力制御システムであって、
前記人物行動推定装置が、電気機器の電力消費パターンから得られた特徴量を、事前に電気機器毎に得られた学習データの特徴量と比較して、上記電気機器の状態を推定し、その推定した電気機器の状態に基づいて上記電気機器の人為確率の初期値を推定する人為確率の初期値推定手段と、
前記メモリから上記電気機器の人為確率の初期値と当該機器の尤度マップを呼び出し、その尤度マップから選択したサンプルの複数人物位置を参照して、その複数人物位置と当該機器の人為確率を掛けて当該機器の重みを算出する処理を全てのサンプルに行い、時刻が最終時刻になるまで各時刻での複数人物位置の確率を推定する人物位置推定手段と、
上記人為確率および複数人物位置確率から該人為確率の再計算を複数人分の混合正規分布で演算して行い、該再計算の値が収束するまで上記人為確率の再計算を行い、その値が収束した時に人為確率および複数人物位置確率を出力する人為確率の再推定手段とを備えることを特徴とするオンデマンド型電力制御システム。
前記人物行動推定装置が、人物が機器に対して人為的に操作を行った確率である人為確率と、位置に対して人物が存在する確率である人物位置確率から人物の行動を推定することを特徴とする請求項1に記載のオンデマンド型電力制御システム。
前記人物行動推定装置が、各電気機器の電力消費パターンのみから作動状態の特徴量データを求め、そのデータから得られた人為確率を初期値とし、人物位置と人為確率を繰り返し計算によって求めることで、これら双方を推定することを特徴とする請求項2に記載のオンデマンド型電力制御システム。
前記作動状態の特徴量データが電気機器のid、その機器の作動状態およびその機器の特徴量から構成されていることを特徴とする請求項3に記載のオンデマンド型電力制御システム。
前記電気機器の電力消費パターンが、移動や停留の人物状態のシークエンスで機器の操作を行うことで、電気機器の状態、運転モードの変化により生じることを特徴とする請求項4に記載のオンデマンド型電力制御システム。
前記人為確率の初期値推定手段が、前記電気機器のある状態遷移が人為的操作である確率をあらかじめ与えておくことで、電気機器の状態の確率から人為確率の初期値を推定できることを特徴とする請求項1に記載のオンデマンド型電力制御システム。
前記人物位置推定手段が、時刻tにおける人物の二次元位置を、1回前の時刻t-1の繰り返し計算により得られる人為確率により、人物の移動位置を推定することを特徴とする請求項1に記載のオンデマンド型電力制御システム。
前記人物位置推定手段が、前記人為確率を電気機器の位置と人物位置との関係に基づく尤度マップを用いて演算することを特徴とする請求項8乃至10に記載の何れか1項に記載のオンデマンド型電力制御システム。
前記尤度マップが、部屋の間取り、前記障害物と電源スイッチの位置・距離及び電気機器の位置に基づき前記画素値を表していることを特徴とする請求項12に記載のオンデマンド型電力制御システム。
少なくとも商用電源を含む電力源と、複数の電気機器と、その電気機器に接続されているスマートタップと、メモリを備える生活空間内の人物の行動を推定する人物行動推定装置と、該人物行動推定装置が上記スマートタップを介して接続するネットワークとを備えるオンデマンド型電力制御システムにおける上記人物行動推定装置として、コンピュータを動作させるプログラムであって、
前記人物行動推定装置が人為確率の初期推定値設定手段と、人物位置推定手段と、人物確率の再推定手段とを備えており、
前記人為確率の初期推定値設定手段が、電気機器の電力消費パターンから得られた特徴量を、事前に電気機器毎に得られた学習データの特徴量と比較して、上記電気機器の状態を推定し、その推定した電気機器の状態に基づいて上記電気機器の人為確率の初期値の推定を演算する処理と、
前記人物位置推定手段が、前記メモリから上記電気機器の人為確率の初期値と当該機器の尤度マップを呼び出し、その尤度マップから選択したサンプルの複数人物位置を参照して、その複数人物位置と当該機器の人為確率を掛けて当該機器の重みを算出する処理を全てのサンプルに行い、時刻が最終時刻になるまで各時刻での複数人物位置の確率の推定を演算する処理と、
前記人物確率の再推定手段が、上記人為確率および複数人物位置確率から該人為確率の再計算を複数人分の混合正規分布で演算して行い、該再計算の値が収束するまで上記人為確率の再計算を行い、その値が収束した時に人為確率および複数人物位置確率を出力する処理とをコンピュータに実行させるプログラム。
【背景技術】
【0002】
オンデマンド型電力制御システムは、家庭やオフィスのエネルギー・マネージメントを実現するためのもので、このシステムは、供給者主体の“プッシュ型”の電力ネットワークをユーザー、消費者主導型の“プル型”に180度切り替えようというものである。このシステムは、家庭の中から様々な機器の電力要求、例えばエアコンや照明等の要求に対して、ホーム・サーバが「電気機器のどの要求がもっとも重要なのか」ということを、ユーザーの利用形態から類推し、優先度の高い重要な電気機器から電力を供給するように制御、即ちオンデマンド型電力制御を行うシステムである。以下、このオンデマンド型電力制御であるEnergy on Demand制御を「EoD制御」と呼び、そのシステムを「EoD制御システム」と呼ぶ。このEoD制御システムは京都大学の松山隆司教授が提唱している。
上記システムを使用することによる最大のメリットは、需要サイドから省エネ、CO
2排出削減が実現可能になることである。例えば、利用者があらかじめ電気料金を20%カットするという指示をホーム・サーバにセットすると、EoD制御により20%カットした電力しか流さないという利用者主体の取組みが可能になり、省エネ、CO
2排出の削減が実現できるシステムである。
【0003】
上記EoD制御システムとして、稼働している電気機器の機能と住人と電気機器との位置関係を推定し、そして、電気機器の稼働状況とに基づいて、家庭内の住人の人数および住人の行動を推定する推定手段を備えるホームネットワークが知られている(特許文献1参照)。詳細には、上記ホームネットワークは、家庭内に配置されたn個の電気機器と、そのn個の電気機器にコンセントから電力を供給するとともに、その電気機器の電力使用状況および配置位置を検出するn個のモジュールと、そのモジュールから送信されたn個の電気機器の電力使用状況に基づいて、実際に稼働しているm個の電気機器の稼働状況を検出し、上記n個のモジュールから送信されたn個の配置位置に基づいて上記稼働しているm個の電気機器の相互の位置関係を検出する検出手段と、検出された相互の位置関係と稼働しているm個の電気機器の稼働状況とに基づいて、稼働しているm個の電気機器の稼働状況の実現性を判定して家庭内の住人の人数を推定する推定手段を備えるものである。
【0004】
なお、上記モジュールは、今日では「スマートタップ」(以下、「ST」という。)と呼ばれており、このSTは、電力の測定を行う電圧・電流センサー、電力制御のための半導体リレー、通信のためのZigBeeモジュールおよびこれら全体の制御や内部処理を行うDSP内蔵のマイコンから構成されており、20kHzという高速データサンプリングによって電流、電圧波形を詳しく計測できる(非特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1の推定手段は、上記モジュールに各電気機器が何の電気機器であるかを事前に入力するために、煩わしい入力操作が必要であり、また、壁面に設けられたコンセントにICタグを取り付け、上記モジュールにICタグリーダを備えることで、電気機器の相互の位置関係を測定して、家庭内の住人の人数および住人の行動を推定するものである。そこで、上記推定手段は人物行動推定手段に相当しているので、以下、人物行動推定手段と呼ぶ。この人物行動推定手段は、電気機器の入力操作、ICタグの取り付け、ICタグリーダの設置などの煩わしい作業を行うにも拘わらず、得られる情報が電気機器の相互の位置関係により家庭内の住人の人数および住人の行動を認定するだけの、限定された情報しか入手できないとの問題点が指摘されている。
【0006】
そこで、上記問題点を解決するために、STを使って計測している電気機器が何であるかを認識する手法が提案されている(非特許文献2参照)。この手法は、ST内で電流波形の特徴を表す少数の特徴量を抽出してサーバに送信し、サーバ上で得られた特徴量を用いて電気機器を認識する。家庭用の商用電源は交流であり、
図7のヘアドライヤーと掃除機の電圧・電流の波形が示すように、電気機器を使用している間の電流・電圧の波形は、常にその値や極性が変化しているので、電気機器の種類によって電流と電圧の位相差や波形の形を比較することで、上記手法は電気機器を認識することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の人物行動推定手段は、上述したように、得られる情報が電気機器の相互の位置関係により家庭内の住人の人数および住人の行動を推定するだけの、限定された情報しか入手できないとの問題点が指摘されている。ところで、2011年3月の東日本大震災による福島第1原子力発電所の損壊により、政府は、電力不足対策の柱である東京電力と東北電力管内の夏場ピーク時の節電目標について、前年比で15%程度を削減するとの方針を示した。このことも相俟って、ユーザーには、ユーザーの生活の質(Quality of Life)(以下、「QoL」という。)が損なわれずに電気機器の電力を少しでも節電したいという気運が高まっている。このQoLが損なわれずに電気機器の電力を節電するためには、QoLを保ちつつ消費電力をどこまで削減できるかが重要で、そのためには各電気機器の固有の特徴量と電力消費パターンから家庭内での電気機器を利用する人物の行動が推定できれば、消し忘れの照明の消灯、消し忘れの電気機器の停止などを行うことができる。また、上記特徴量と電力消費パターンを用いて使用した電気機器を特定し、その特定された電気機器の作動状態(スイッチのON、OFFや強、中、弱など)から家庭内での人物の行動が推定できるならば、QoLを担保しながら節電することもできる。
【0010】
それ故に、本発明は、上記従来の課題に鑑み、電気機器の相互の位置関係で人数を推定するのではなく、電気機器の特徴量および電力消費パターンから家庭内での人物の行動を推定できるEoD制御システム、EoD制御システムプログラムおよびそのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
本発明の請求項1に係る発明の人物行動推定装置は、少なくとも商用電源を含む電力源と、複数の電気機器と、その電気機器に接続されているスマートタップと、メモリを備える生活空間内の人物の行動を推定する人物行動推定装置と、該人物行動推定装置が上記スマートタップを介して接続するネットワークとを備えるオンデマンド型電力制御システムであって、前記人物行動推定装置が、電気機器の電力消費パターンから得られた特徴量を、事前に電気機器毎に得られた学習データの特徴量と比較して、上記電気機器の状態を推定し、その推定した電気機器の状態に基づいて上記電気機器の人為確率の初期値を推定する人為確率の初期値推定手段と、前記メモリから上記電気機器の人為確率の初期値と当該機器の尤度マップを呼び出し、その尤度マップから選択したサンプルの人物位置を参照して、その人物位置と当該機器の人為確率を掛けて当該機器の重みを算出する処理を全てのサンプルに行い、時刻が最終時刻になるまで各時刻での人物位置の確率を推定する人物位置推定手段と、上記人為確率および人物位置確率から該人為確率の再計算を行い、該再計算の値が収束するまで上記人為確率の再計算を行い、その値が収束した時に人為確率および人物位置確率を出力する人為確率の再推定手段とを備えることを特徴とする。
本発明の請求項2に係る発明の人物行動推定装置は、前記人物行動推定装置が、人物が機器に対して人為的に操作を行った確率である人為確率と、位置に対して人物が存在する確率である人物位置確率から人物の行動を推定することを特徴とする。
本発明の請求項3に係る発明の人物行動推定装置は、前記人物行動推定装置が、各電気機器の電力消費パターンのみから作動状態の特徴量データを求め、そのデータから得られた人為確率を初期値とし、人物位置と人為確率を繰り返し計算によって求めることで、これら双方を推定することを特徴とする。
本発明の請求項4に係る発明の人物行動推定装置は、前記作動状態の特徴量データが電気機器のid、その機器の作動状態およびその機器の特徴量から構成されていることを特徴とする。
本発明の請求項5に係る発明の人物行動推定装置は、前記電気機器の電力消費パターンが、移動や停留の人物状態のシークエンスで機器の操作を行うことで、電気機器の状態、運転モードの変化により生じることを特徴とする。
本発明の請求項6に係る発明の人物行動推定装置は、前記電気機器の特徴量が、消費電力の平均と分散であることを特徴とする。
本発明の請求項7に係る発明の人物行動推定装置は、前記人為確率の初期値推定手段が、前記電気機器のある状態遷移が人為的操作である確率をあらかじめ与えておくことで、電気機器の状態の確率から人為確率の初期値を推定できることを特徴とする。
本発明の請求項8に係る発明の人物行動推定装置は、前記人物位置推定手段が、時刻tにおける人物の二次元位置を、1回前の時刻t-1の繰り返し計算により得られる人為確率により、人物の移動位置を推定することを特徴とする。
本発明の請求項9に係る発明の人物行動推定装置は、前記人物位置推定手段が、人物位置確率を推定するために時系列フィルタを用いたことを特徴とする。
本発明の請求項10に係る発明の人物行動推定装置は、前記時系列フィルタが、パーティクルフィルタ、カルマンフィルタ又は移動平均フィルタであることを特徴とする。
本発明の請求項11に係る発明の人物行動推定装置は、前記人物位置推定手段が、前記人為確率を電気機器の位置と人物位置との関係に基づく尤度マップを用いて演算することを特徴とする。
本発明の請求項12に係る発明の人物行動推定装置は、前記尤度マップが、実際の居住空間を対象に、電気機器の電源スイッチを押すことができる人物の存在確率を画素値で表したものであることを特徴とする。
本発明の請求項13に係る発明の人物行動推定装置は、前記尤度マップが、障害物があった場合に人の手が届かない範囲の画素値を0として計算を行うことを特徴とする。
本発明の請求項14に係る発明の人物行動推定装置は、前記尤度マップが、前記電気機器をリモコンで操作可能な場合には、広い範囲を小さい画素値で割り当ていることを特徴とする。
本発明の請求項15に係る発明の人物行動推定装置は、前記尤度マップが、前記電気機器を複数箇所から操作可能な場合には、その操作可能な複数の狭い範囲を大きい画素値で割り当ていることを特徴とする。
本発明の請求項16に係る発明の人物行動推定装置は、前記尤度マップが、部屋の間取り、前記障害物と電源スイッチの位置・距離及び電気機器の位置に基づき前記画素値を表していることを特徴とする。
本発明の請求項17に係る発明の人物行動推定装置は、前記人物推定装置が人物が複数の場合には複数人分の混合正規分布で演算することを特徴とする。
本発明の請求項18に係る発明のプログラムは、少なくとも商用電源を含む電力源と、複数の電気機器と、その電気機器に接続されているスマートタップと、メモリを備える生活空間内の人物の行動を推定する人物行動推定装置と、該人物行動推定装置が上記スマートタップを介して接続するネットワークとを備えるオンデマンド型電力制御システムにおける上記人物行動推定装置として、コンピュータを動作させるプログラムであって、前記人物行動推定装置が人為確率の初期推定値設定手段と、人物位置推定手段と、人物確率の再推定手段とを備えており、前記人為確率の初期推定値設定手段が、電気機器の電力消費パターンから得られた特徴量を、事前に電気機器毎に得られた学習データの特徴量と比較して、上記電気機器の状態を推定し、その推定した電気機器の状態に基づいて上記電気機器の人為確率の初期値の推定を演算する処理と、前記人物位置推定手段が、前記メモリから上記電気機器の人為確率の初期値と当該機器の尤度マップを呼び出し、その尤度マップから選択したサンプルの人物位置を参照して、その人物位置と当該機器の人為確率を掛けて当該機器の重みを算出する処理を全てのサンプルに行い、時刻が最終時刻になるまで各時刻での人物位置の確率の推定を演算する処理と、前記人物確率の再推定手段が、上記人為確率および人物位置確率から該人為確率の再計算を行い、該再計算の値が収束するまで上記人為確率の再計算を行い、その値が収束した時に人為確率および人物位置確率を出力する処理とをコンピュータに実行させることを特徴とする。
本発明の請求項19に係る発明のプログラムは、請求項1に記載の人物行動推定装置としてコンピュータを動作させるプログラムであって、前記人物行動推定装置が、人物が機器に対して人為的に操作を行った確率である人為確率と、位置に対して人物が存在する確率である人物位置確率から人物の行動の推定の処理をコンピュータに実行させる。
本発明の請求項20に係る発明のプログラムは、請求項1に記載の人物行動推定装置としてコンピュータを動作させるプログラムであって、前記人物行動推定装置が、各電気機器の電力消費パターンのみから作動状態の特徴量データを求め、そのデータから得られた人為確率を初期値とし、人物位置と人為的操作を繰り返し計算によって求めることで、これら双方を推定する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
本発明の請求項21に係る発明のプ記録媒体は、請求項18に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な媒体であることを特徴とする。
本発明の請求項22に係る発明のプ記録媒体は、請求項19に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な媒体であることを特徴とする。
本発明の請求項23に係る発明の記録媒体は、請求項20に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な媒体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のオンデマンド型電力制御システムの人物行動推定装置は、ユーザーが電気機器を使用する日々の生活を通じて家庭内での人物の行動を推定できるので、電力の使用計画を立てたり、次に使いそうな電気機器の予測をすることによって、必要な電気機器に優先的に電力を供給したり、必要のない無駄な電気を消したりなどができる。例えば、ユーザーの必要とする電気機器に優先的に電力供給を行い、消し忘れの照明を消灯し、消し忘れの電気機器を停止できるので、電力の節電に大いに役立つ装置である。
スマートマンションルームにおいて、実際に被験者が生活する生活実験を行った結果は、上記人物行動推定装置は家庭内での人物の行動を推定できることが実証された。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、本発明のEoD制御システムの通信ネットワークの構成を説明する。
図1は、本発明のEoD制御システムの通信ネットワークの構成を示す概略図である。本発明のEoD制御システム50は、一般家庭において設置されており、人物行動推定装置、ST11、電気機器(以下、単に「機器」という。)および電力制御装置30から構成されている。上記人物行動推定装置は、Local Area Network(以下、「LAN」という。)を介してST11に有線又無線LANで接続されている。LANは本発明の一例であってそれに限定されるものではなく、本発明はWiFi、PLC、ZigBee、特定小電力無線などのネットワークを介してSTに接続しても良い。そのSTは、各機器の電源コンセントを介して接続されている。従って、上記STはLANを介して上記人物行動推定装置と通信可能である。
【0015】
さらに、人物行動推定装置には、知識データベース(知識DB)10が直接接続または内蔵されるメモリを用いて、人物行動推定装置の内部に構築してもよい。商用電源からの電力は、電力制御装置30を介して人物行動推定装置および各機器に供給される。
なお、本発明のEoD制御システムの電力源として商用電源を説明するが、これに限定するものではなく太陽光発電および燃料電池を電力源として用いても良い。また、本発明のEoD制御システム50の設置場所として一般家庭を説明するが、これに限定するものではなくオフィスなどのSTが設置できる場所であれば何れの場所であっても良い。そして、本発明のEoD制御システムのSTとして電源コンセントに接続する外付けタイプを説明するが、これに限定するものではなく電源コンセントに埋め込まれた内蔵タイプであっても良い。
【0016】
図2は、
図1に示したEoD制御システム50の電力系ネットワークの構成を示す概略図である。
図1を参照して説明したように、EoD制御システム50は、電力制御装置30を含み、この電力制御装置30には、商用電源32が接続されている。また、電力制御装置30は、例えば、複数のブレーカ(図示せず)によって構成され、1つのメインブレーカと複数のサブブレーカとを含む。商用電源32からの電力(交流電圧)は、メインブレーカの1次側に与えられ、メインブレーカの2次側から複数のサブブレーカに分配される。ただし、商用電源32は、商用電流を供給/停止するためのスイッチ(図示せず)を介してメインブレーカの1次側に接続される。このスイッチは、人物行動推定装置の切り替え信号に従ってON/OFFされる。
【0017】
また、上述した人物行動推定装置および複数の機器は、電力制御装置30の出力側すなわちサブブレーカの2次側に接続される。図示は省略するが、人物行動推定装置は、自身に設けられる差し込みプラグを、壁ソケット等に差し込むことにより電力制御装置30からの電力を需給可能に接続され、複数の機器は、上記STが差し込みプラグである入力コンセントと出力コンセントを備えており、該入力コンセントから商用電源32の電力が送られ、上記出力コンセントに接続される複数の機器のコンセントを介して複数の機器に電力を需給可能に接続されている。
上述したように、本発明のEoD制御システムは、
図2に示す電力ネットワークのみならず、
図1に示した通信ネットワークも構築されている。
【0018】
図3は、商用電源に接続されて壁に配置されたコンセント、STおよび機器の接続関係を説明する説明図である。
図3を参照して、機器である冷蔵庫201は、差し込みプラグを備えるコンセント202と、配線203とから構成されており、冷蔵庫201のコンセント202が上記STの出力コンセント114に着脱される。壁40にはコンセント41が配置されており、このコンセント41の差込口411は、家庭内の電力系統を介して商用の電力が供給される。差し込みプラグである入力コンセント113が上記差込口411に着脱される。
【0019】
STの構造に関しては、既述したように、電力の測定を行う電圧・電流センサー、電力制御のための半導体リレー、通信のためのZigBeeモジュール(以下、「通信部材」という。)およびこれら全体の制御や内部処理を行うマイコンから構成された公知のものを用いている。STは、入力コンセント113を介して供給された機器の消費電力をリアルタイムに測定し、上記通信部材を介してその消費電力を人物行動推定装置に送信する。
【0020】
図4は、モデルハウスに各電気機器を設置するためのSTを配置した位置を示す間取り図である。
間取り図のサイズは538cm×605cmの約33m
2の広さである。
図4に示されるように、TV、エアコン、湯沸かしポット、コーヒーメーカー、炊飯器、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、掃除機、ドライヤなどの一般の家庭で使用する機器が備えられている。STの位置は
図4中に「ST」として表されており、各機器にはSTが設けられている。このうちリモコンがある機器は、TV、エアコン、リビング照明と2個の台所照明、寝室照明およびビデオである。移動する機器を用いる時に使用するSTは、5個の空きコンセントとしている。移動する機器は、ドライヤ、掃除機、携帯充電器、ノートPC、空気清浄機、電動歯ブラシ、ナイトスタンドである。
図4に示す数字は、表1で示すid欄の番号でありname欄の機器の名称を表している。
表1は各機器が取りうる作動状態(0〜3)を示す表である。
【0021】
【表1】
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【0022】
ところで、一般に「人物の行動」とは、連続した複数の動作と、その人物の停留や移動といった人物状態のシーケンスとして定義される。本発明では、日常の生活空間内において、動作の多くは機器の操作を伴っていることに着目し、動作を機器の人為的な操作の系列、人物状態を人物が動作を行う位置であるとして行動を定義する。
つまり、本発明が解決すべき問題は、以下の二点となる。
(1)機器に対する人為的操作の検出
(2)人物位置の推定
図5は人物の状態と機器の操作の関係を示す関係図である。
図6は機器の状態と電力消費パターンの関係を示す関係図である。
図5に示すように人物は移動や停留といった人物状態のシークエンスで機器の操作を行う。機器を操作すると、
図6に示すように機器の状態、運転モードが変化し、ある機器が何時、何処で、どれだけの電力を消費したかを示す、一日の機器の電力消費のパターンとして観測される。この一日の電力消費のパターンを機器の「電力消費パターン」と定義して以下に用いる。
なお、以下に述べる人物行動推定装置が行う処理はオフラインの状態で行うもので、人物行動推定装置は、STから送信された電力消費パターンを処理して人物位置zの確率分布
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と機器が操作している確率の集合
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を推定結果として出力された人物の行動経路を示す処理をオフラインで行っている。
【0023】
図7は、ヘアドライヤーと掃除機の電圧・電流の波形を示す波形図であり、その左図はヘアドライヤーの波形で、その右図は掃除機の波形である。
図7に示すように機器毎の電圧波形(太線)及び電流波形(細線)は、機器によって異なるために、これらの波形から電力の平均と分散を分析することで機器を特定することができる。
表2は、各機器とその作動状態0〜3(スイッチのON、OFFや強、中、弱など)、および消費電力の平均と分散(以下、この平均と分散を「特徴量」という。)の値を表しており、この特徴量は、学習データとして後述する人為確率の初期値推定の処理で用いられる。表1の状態0、状態1、状態2、状態3は、表2の機器の作動状態0〜3と同じ意味であり、機器が取りうる作動状態を表している。表2から分かるように、作動状態の変化により特徴量が変化していること、そして機器毎に特徴量の値が異なることが分かる。この機器(id)の作動状態と特徴を表す表2を「作動状態の特徴量データ」と定義して用いる。
【表2】
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【0024】
機器の位置情報が与えられているとき、ある人物が各機器に対して人為的に操作を行ったタイミングが分かれば、その時に人物がその機器の近くに居たことが分かり、それらを時系列で繋げることで、人物の移動軌跡を推定することができる。しかし、機器には、人為的な操作による状態変化だけではなく、自動的な状態変化や連続的な負荷変動なども存在するため、電力消費パターンのみから人為的な操作を見分けることは難しい。このとき、人物の位置情報を推定できれば、人物が機器から近い場所に居れば人為的な操作が可能であり、遠い場所に居れば操作できないことがわかり、人為的な操作とそうでない状態変化とを見分けることができる。それを見分けるためには、人物が機器に対して時刻tに人為的に操作を行った確率である「人為確率
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」と、人物がある位置Z
tから機器を操作することができる確率である「人物位置確率
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」を理解する必要がある。以下に「人為確率
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」と「人物位置確率
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」を説明する。
【0025】
ある機器
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に対して、時刻
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に人為的操作を行ったかどうかを
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と表す。
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(1)
また、時刻
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における人物位置を
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、時刻
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までの
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の電力消費パターンを
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としたとき、人物が
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に対して人為的操作を行った確率(以下、「人為確率」という。)
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は次式のように表される。
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(2)
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【0026】
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は人物が機器
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を操作したときに電力消費パターン
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が得られる確率であり、
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は人物位置の確率分布(以下、「人物位置確率」という。)、
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は人物がある位置
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から
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を操作することができる確率である。この式によって、人物位置確率
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が分かれば、人為確率
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を推定することができることがわかる。
一方、機器の数を
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として、全ての機器について時刻
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に人為的操作を行ったかどうかを集合
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で表し、時刻
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までの人為的操作の系列を
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としたとき、人物位置はベイズの定理により次式のように求めることができる。
【0027】
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(3)
ただし、
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は確率変数
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と無関係なので
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を正規化定数
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とおいて、
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と表す。ここで、
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は人物位置
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から各機器に対する人為確率であり、次式のように計算できる。
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(4)
【0028】
ここで、人為的操作が行われていない機器への影響は人物位置と無関係なので、一様分布として一定の確率
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を与えている。また、式(3)の
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は、時刻
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までの観測から推定される人物位置であり、人物の移動軌跡がマルコフ性を持つことを仮定すると、次式のように変形することができる。
【0029】
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(5)
ここで
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は人物の移動モデルであり、
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は、一時刻前の人物位置確率である。式(3)、式(5)は時系列フィルタの式であり、式(4)に示す人為操作の確率と移動モデルが与えられれば、時系列フィルタであるパーティクルフィルタ、カルマンフィルタ又は移動平均フィルタによって効率的に解くことができる。例えばパーティクルフィルタにより、人為的操作
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がわかれば、人物位置
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を求めることが出来ると言える。
【0030】
これらのことから、この問題は人為的操作
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がわかれば、人物位置
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を求めることができ、また人物位置
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がわかれば、人為的操作
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を求めることができるという相互依存性をもっていることがわかる。
本発明の人物行動推定装置は、各機器の電力消費パターンのみから上記作動状態の特徴量データを求め、そのデータから得られた人為的操作の特徴量を初期値として、人物位置と人為的操作を繰り返し計算によって求めることで、これら双方を推定できる。
【0031】
図8は、
図1に示す人物行動推定装置が備える機能を示す機能ブロック図である。
人物行動推定装置は、人為確率の初期値推定手段120、人物位置推定手段122および人為確率の再推定手段124とから構成されている。
この人物行動推定装置1は、(1)人為確率の初期値推定手段120がSTから受けた機器の電力消費パターンを、メモリに格納された機器の特徴量と操作確率を比較することで、その機器の人為確率の初期値を設定する機能を備えており、(2)人物位置推定手段122が上記初期値とメモリに格納されている間取り図、機器の配置、各位置での機器操作確率、人物移動モデルに基づき、時系列フィルタを用いて人物位置を推定する機能を備えており、(3)人為確率の再推定手段124が上記推定された人物位置に基づいて、その機器が操作された人為確率を推定し、その推定した人為確率を上記人物位置推定手段122に入力して、その推定された人物位置を人為確率の再推定手段124に入力して、上記の人物位置の推定処理と人為確率の再推定の処理が収束するまで処理して、人物位置と人為確率を出力する機能を備えている。
図8の(1)人為確率の初期値推定手段120、(2)人物位置推定手段122および(3)人為確率の再推定手段124が行う確率の演算処理を以下に説明する。
【0032】
(1)人為確率の初期値推定手段
人為確率の初期値推定手段120の確率の演算処理を説明する。
初期推定においては、各機器
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の電力消費パターン
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のみを用いて、人為操作の確率(人為確率)を式(6)に基づいて推定する。
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(6)
各機器は、機器固有の動作モードをもち、その動作モードが人為的操作や自動制御によって遷移していく。つまり、このような状態遷移ごとによって人為的操作と自動操作を定義することができる。時刻
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から時刻
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で状態
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から状態
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に遷移したときに、それが人為的操作による遷移である確率を
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とする。また、時刻
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のときに家電の状態が
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である確率を
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とすると、この家電の人為確率は次式のように与えられる。
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(7)
ある状態遷移が人為的操作である確率
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をあらかじめ与えておくとすると、家電の状態の確率
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から人為的確率の初期値を推定できる。
【0033】
各スマートタップで観測された電力消費パターンがどの家電に対応しているかは、事前に非特許文献2に記載の技術で認識するものとする。このとき、機器の状態の推定は、一定時間区間の消費電力の平均と分散を用いて行った。全ての機器について、あらかじめ各状態の消費電力の平均値と分散値を各状態に対するサンプル値として数多く学習しておく。家電
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が状態
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であるときの消費電力の平均値を
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、分散値を
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とし、これらを平均0、分散1となるよう正規化したものを
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とする。状態毎に
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個のデータを選択して学習データとし、またそれとは異なるランダムに抽出した
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個のデータを未知データとし、最近傍法で未知データの状態を推定し、精度評価を行う。これにより、機器
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の状態を
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とすると、推定された状態
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に対して、真の状態
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である確率
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を得ることができる。機器
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の電力消費パターン
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を計測したとき、そこから消費電力の正規化した平均値
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と分散値
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を学習データと比較し状態
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を推定する。このとき、最近傍法による推定結果を
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とすると、時刻
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に状態
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である確率は、
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である。
【0034】
式(6)によって人為確率を推定するには、全ての状態の組み合わせについて
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を推定する必要があるが、実際には簡単のために最も確率の高い状態についてのみ計算する。
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(8)
また、さらに人為確率がしきい値
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より小さい場合には、人物位置推定を簡単にするため人為確率を0とみなすようにフィルタリングする。
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(9)
ここで、
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となる家電と時刻の組み合わせ
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をイベント系列
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とし、人為操作が行われた可能性がある時刻と機器の組合せを表す。
【0035】
(2)人物位置推定手段
人物位置推定手段122の確率の演算処理を説明する。
式(3)、(4)、(5)に従って、推定された人為確率
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から人物位置
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を推定する方法について述べる。求めるべき内部状態は時刻
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における人物の二次元位置
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であり、これを1回前の時刻(t-1)の繰り返し計算によって得られる人為確率
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により、人物の移動位置を推定する。
式(3)より、
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を正規化定数とすると時刻
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における人物位置確率
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は次式のように推定できる。
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(10)
また、式(4)、式(5)より、
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(11)
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(12)
【0036】
ここで、システムモデル
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は人物の移動モデルであり、本発明の人物行動推定装置では二次元正規分布
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とした。また、観測モデルは、式(11)に示すように推定された人為確率
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と、位置
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から家電
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を操作できるかどうかの確率
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から推定する。
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は、家電
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の位置
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からの距離に対する正規分布によって
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と与えた。ただし、壁などによって遮蔽されている場所は0となるようにあらかじめ尤度マップとして与えた。
【0037】
式(10)、(11)、(12)に従って人物位置確率
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を推定するためにパーティクルフィルタを用いた。パーティクルフィルタとは、ある確率分布をそれに従って発生させた多数のサンプル(粒子)を用いて近似して推定する手法である。事前分布
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に従うサンプル集合を
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、事後分布
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に従うサンプル集合を
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とする。
【0038】
[初期化]初期値としてランダムなサンプル集合
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を生成する。
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とする。
[予測]システムモデルに従い、時刻
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における予測サンプル
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を生成する。ただし、
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は二次元正規分布
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に従う乱数とする。
[フィルタ]各予測サンプル
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について、観測モデルに従い重み
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を次式のように計算する。
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(13)
ここで、
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は、式(11)に従って算出する。
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から
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をそれぞれの重み
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に比例する割合で
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個復元抽出し、
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とする。なお、
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のときは前時刻の分布から予測される事前分布
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がそのまま事後分布
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となるため、
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としてこの処理を省略できる。この
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が事後分布を近似するサンプル集合となる。
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なら、
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として予測の手順から繰り返す。
【0039】
ここで、上記尤度マップの具体的な事例を
図9〜
図13を参照して説明する。
上記尤度マップは、実際の居住空間を対象に、電気機器の電源スイッチを押すことができる人物の存在確率を画素値で表したものである。
図9はIHコンロの尤度マップを、
図10はテレビの尤度マップを、
図11はリビング照明の尤度マップを、
図12は洗面所照明の尤度マップを、
図13は廊下照明の尤度マップを示す図である。これらの尤度マップの画素値は、スイッチの位置、間取り図、機器の配置、人の手の長さに基づいて計算されたものである。画面が白い(画素値が大きい)ほど人物がその位置にいる確率が大きく、黒いほど人物がその位置にいる確率が小さいことを表している。
図4の機器の配置位置を示す間取り図を参照しながら、
図9から
図13の各機器の尤度マップを説明する。
図9のIHコンロ(
図4の「44」を参照)の尤度マップは、手で操作できる人物の位置の狭い範囲は白く、そこから離れるにつれて黒く変化しており、そして、壁のある場所が黒であることが分かる。
図10のテレビ(
図4の「1」を参照)の尤度マップは、リモコンにより操作するために、IHコンロのように狭い範囲で白くはなく、広い範囲で灰色の円形がテレビから離れるにつれ黒ずんでいくのが分かる。
図11のリビング照明(
図4の「11」を参照)の尤度マップは、リモコンで操作できるので、人物が操作できる範囲が灰色であるが壁がある場所は黒くなっているのが分かる。
図12の洗面所照明(
図4の「16」を参照)の尤度マップは、
図9のIHコンロと類似しており、手で操作できる人物の位置の狭い範囲は白く、そこから離れるにつれて黒く変化しており、そして、壁のある場所が黒であることが分かる。
図13の廊下照明の尤度マップは、玄関口(
図4の「15」参照)とリビング口(
図4の「15」参照)の2カ所に両切りスイッチが設置されているので、玄関口とリビング口の2カ所が白くなっており、壁、棚などの障害物がある場所は真っ黒なことが分かる。リビング口のスイッチの例に見られるように、障害物があっても人の手が届く範囲として、人物の手の長さを例えば65cm以内であれば手が届く範囲として画素値の計算を行っている。
以上の説明から分かるように、尤度マップの画素値は、壁、棚などの動かない障害物がある場合には黒く、リモコンの場合には広い範囲で灰色に、両切りスイッチの場合には2カ所が白くなるように、実際の居住空間における機器の使用状況に基づいて計算されている。
【0040】
(3)人為確率の再推定手段
人為確率の再推定手段124の確率の演算処理を説明する。
式(2)に従って、各時刻における人物位置確率を用いて、人為確率の再推定を行う方法について述べる。式(2)では、可能性のある人物位置全てについて積分で推定する必要があるが、ここでは処理を簡単にするために、最も確率の高い最適な人物位置
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を求めることにより、確率の低い位置に関する計算を除外して再推定を行う。
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を求める方法としては、尤度による重み付き平均を用いて各時刻における期待値として求める方法が実時間トラッキングなどではよく用いられるが、今回求めたいものが人物の移動軌跡であるので、時刻間の繋がりを考慮し、経路上の確率の積が最大となる人物位置の経路を最適なパスとして推定した。これは、パーティクルフィルタでのサンプルの個数を
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個として以下のように定式化できる。
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(14)
【0041】
すなわち、これを満たす
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を求めればよい。それらの番号を持つサンプル列が求めるべき状態の推定値
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となる。具体的には、各サンプルにひとつ前の時刻のどのサンプルから派生したサンプルであるかという履歴を持たせ、
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においてもっとも重みが大きいサンプルの履歴をたどっていけばそれが
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となる。この最適パスを用いて、次式によって人為確率を更新する。
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(15)
【0042】
再び人為確率が閾値
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以下となる家電、時刻にたいして式(9)と同様にフィルタリングするとともに、イベント系列
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から閾値
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以下となる組み合わせを除外して更新する。
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(16)
ここで、人為確率
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が推定できたので、
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として人物位置推定と人為確率の再推定を
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が収束するまで繰り返す。収束したときの繰り返し回数を
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とすると、このとき得られているイベント系列
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が
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から得られる人為的操作をの系列といえる。また、最終的な確率分布
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から求まる最適パス
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が人物の移動軌跡である。
【0043】
図14は、本発明の人物行動推定装置の全体処理を示すフロー図である。ステップS1で人為確率の初期値推定の処理を、ステップS3(人物が一人)又はステップS7(人物が複数)で人物位置推定の処理を、ステップS11で人為確率の再推定の処理を行う。
図15は、上述したステップS1の人為確率の初期値推定の処理のフロー図である。
図15に示すように、ステップS11で機器の電力消費パターンを計測して得られた消費電力の平均値と分散値を、事前に各機器の状態毎に得られた消費電力の平均値と分散値の学習データと比較し,その機器の状態を推定する。ステップS13で上記機器の推定された状態を式(7)に入力して人為確率の初期値を推定して、その初期値を人為確率としてメモリに格納する。
【0044】
図16は、上述したステップS3の人物位置推定処理(人物が一人)のフロー図である。
図16に示すように、ステップS31で、ランダムな人物位置のN個のサンプルを生成して初期値とし、それを初期の事後サンプル集合とする(時刻を初期時刻とする(t:=1))。ステップS33で、時刻(t-1)の事後サンプルのそれぞれのサンプルを人物の移動モデルに従って移動させ、時刻tの予測サンプル集合を生成する。ステップS35で、(1)上記予測サンプル集合からサンプルjを一つ選択する。ステップS37で、(2a)機器を一つ選択して、ステップS39で、(2b)メモリから当該機器の尤度マップと、当該機器の時刻tにおける人為確率を呼び出して、ステップS41で、(2c)当該機器の尤度マップから選択したサンプルの人物位置を参照して、その人物位置と当該機器の人為確率を掛けて当該機器の重みを算出して、(1)へ進む。
【0045】
図17に示すように、ステップS43で、(3)選択する機器を変えながら、上記(2a)、(2b)、(2c)の処理を全ての機器に対して行って算出した重みを全て足して、選択サンプルjの重み
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を算出する。ステップS45で、選択するサンプルを変えながら上記(1)〜(3)の処理を全てのサンプルに対して行う。ステップS47で、予測サンプル集合の各サンプルについてN×サンプルの重み
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の比の個数だけサンプルを複製して、時刻tの事後サンプル集合を生成する。ステップS49で、時刻tが最終時刻かを判断し、ステップS51で、Yesと判断されると処理を終了する。ステップS51で、Noと判断されるとステップS53で、時刻をt+1としてステップS33へ戻る。
【0046】
図18は、上述したステップS11の人為確率の再推定処理のフロー図である。
図18に示すように、ステップS111で、式(14)を満たす人物の経路上の位置jを求め、式(15)により人為確率を更新する。ステップS113で、式(16)に基づいて、イベント系列E
(i)から人為確率が閾値T
0以下となる組合せを除外してイベント系列を更新する。ステップS115で、前回の人為確率の結果の値と同じ値で収束しているかどうかを判断して、Yesであれば処理を終了し、NoであればステップS31に戻る。
【0047】
図19は、上述したステップS7の人物位置推定処理(人物が複数)のフロー図である。
図19に示すように、ステップS71で、ランダムな人物位置のN個のサンプルを生成して初期値とし、それを初期の事後サンプル集合とし、その時刻を初期時刻とする(t:=1)。ステップS73で、時刻(t-1)の事後サンプルのそれぞれのサンプルを人物の移動モデルに従って移動させ、時刻tの予測サンプル集合を生成する。ステップS75で、(1)上記予測サンプル集合からサンプルjを一つ選択し、ステップS77で、(2a)機器を一つ選択して、ステップS79で、(2b)メモリから当該機器の尤度マップと、当該機器の時刻tにおける人為確率を呼び出す。ステップS81で、(2c)当該機器の尤度マップから選択したサンプルの人物位置を参照して、その人物位置と当該機器の人為確率を掛けて当該機器の重みを算出して、(3)へ進む。
【0048】
図20に示すように、ステップS83で、(3)選択する機器を変えながら、上記(2a)、(2b)、(2c)の処理を全ての機器に対して行って算出した重みを全て足して、選択サンプルjの重み
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を算出する。ステップS85で、選択するサンプルを変えながら上記(1)〜(3)の処理を全てのサンプルに対して行う。ステップS87で、予測サンプル集合の各サンプルについてN×サンプルの重み
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の比の個数だけサンプルを複製して、時刻tの事後サンプル集合を生成して(4)へ進む。
図21に示すように、ステップS95で、各サンプルの初期対応付け確率と前フレームの対応付け確率を求めて、ステップS97で、M人分の混合正規分布を推定して、ステップS99で、その推定値が収束しているかを判断し、ステップS101で、Yesであれば処理を終了し、Noであれば各サンプルの対応付け確率を更新してステップS97に戻り、推定値が収束するまで同じ処理を繰り返す。
【0049】
(生活実験)
本発明の人物位置推定装置1が、スマートマンションルームにて電力消費パターンから家庭内での人物の行動が推定できることを実証するために、以下の生活実験を行った。
住む人数は1人ずつ交代で計3人、STは26個設置した。そのうち、21個には機器を固定し、STから機器のコンセントを抜き差ししないものとした。機器は、
図4に示した位置に配置した。
【0050】
生活リズムとしては、昼間外出し、夜〜朝にかけて在宅するものとした。それ以外には特に制約を設けない。これを一人につき3日間、3人の被験者について行った。3人には室内でどのような行動をしたのか、どの機器を使ったのかなどを記録してもらった。3日間は連続の場合とそうでない場合がある。3人の被験者をそれぞれ被験者A、B、Cとする。それぞれの基本的な情報は以下の通りである。
・被験者A:20代男性、学生、2日間+1日間
・被験者B:20代女性、学生、1日間×3
・被験者C:20代男性、学生、3日間
【0051】
各被験者の電力消費パターンから、1時間毎のおおよその消費電力を被験者別に採取した。その電力消費パターン(図示せず)から被験者Aは22時頃に帰宅し、3時頃に就寝、外出するのは12時頃であり、被験者Bは睡眠時間が丁度7時間程の日が多く、被験者Cは朝よりも夜に長く多く電力を使用する、といった生活の傾向がわかる。
【0052】
(人物位置推定結果)
図22は、人物位置推定手段により得られた人物位置の確率分布を示す図である。
図22は、左上が(a)、右上が(b)、左下が(c)、右下が(d)を表している。
図22(a)は電気機器のeventが発生した時刻である。電気機器の操作された可能性が高いため、分布がその回りに集まっている。
図22(b)はその後少し時間がたったところである。人物の移動モデルに基づいて、分布が全方向に向けて少し広がっている様子がわかる。
図22(c)はそれからさらに何もeventが起こらず十分な時間が経った後の分布の様子である。また、
図22(d)は電気機器においてeventが発生したが、電気機器8周辺での分布密度が低かったため、電気機器のまわりだけではなく、全体にも分布が残っている様子である。これは被験者Bの1日目を解析した結果の一部である。
【0053】
次に、人物位置推定の結果として、被験者Cについて、3日目の夜帰宅してから朝外出するまでの推定結果を
図23に示す。これは位置推定を1度行った確率分布
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から求めた最適な経路を順に描いたものである。小さな黒い丸が20フレーム毎の人物の推定位置である。併せて描いてある数字の書いた大きな黒い丸がこの推定を行うのに用いたevent系列E
(0)に含まれるeventが発生した電気機器とその位置である。この大きな黒丸と実太線の矢印で接続されているのが,そのeventの時刻における推定位置である。
全体としての分布の様子をみるために、横軸を時間、縦軸を分布の分散としたグラフを
図24に示す。
図24は、分布の分散とeventが発生した時刻を示すパーティクルの位置の分散図である。分布の分散は簡易的にx方向の分散とy方向の分散で大きい方とした。これは被験者Bの1日目を解析した結果の一部である。
【0054】
図25は、人物確率交信手段123が繰り返し計算によって得た行動の経路を示す行動経路図である。
図25(a)が初期event集合E
(0)と
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による経路、
図25(b)が同じ時刻でのE
(1)と
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による人物の行動経路である。
この
図25(b)は、人物行動推定装置が人物位置zの確率分布
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と電気機器が操作している確率の集合
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を推定結果として出力された人物の行動経路を示しており、人物行動推定装置は家庭内での人物の行動を推定できることを実証している。