特許第6017422号(P6017422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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▶ エコール・ポリテクニーク・フェデラル・ドゥ・ローザンヌ(ウペエフエル)の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017422
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】赤血球結合療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20161020BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 9/127 20060101ALN20161020BHJP
   A61K 9/14 20060101ALN20161020BHJP
   A61K 9/10 20060101ALN20161020BHJP
   A61K 9/50 20060101ALN20161020BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20161020BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20161020BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   A61K39/395 C
   A61K39/395 L
   A61K39/395 N
   A61K39/395 D
   A61K45/00
   A61K47/48
   A61K37/465
   A61K37/48
   A61P43/00 121
   A61P37/06
   !A61K9/127
   !A61K9/14
   !A61K9/10
   !A61K9/50
   !C07K14/00
   !C07K16/28ZNA
   !C12N15/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】68
(21)【出願番号】特願2013-524170(P2013-524170)
(86)(22)【出願日】2011年8月9日
(65)【公表番号】特表2013-541504(P2013-541504A)
(43)【公表日】2013年11月14日
(86)【国際出願番号】US2011047078
(87)【国際公開番号】WO2012021512
(87)【国際公開日】20120216
【審査請求日】2014年8月8日
(31)【優先権主張番号】61/372,181
(32)【優先日】2010年8月10日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506067039
【氏名又は名称】エコール・ポリテクニーク・フェデラル・ドゥ・ローザンヌ(ウペエフエル)
【氏名又は名称原語表記】Ecole Polytechnique Federale de Lausanne (EPFL)
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・エイ・ハベル
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・コントス
(72)【発明者】
【氏名】カレン・ワイ・デイン
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−509572(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/078796(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原特異的免疫トレランスを誘導するための薬学的に許容される組成物であって、該組成物は、赤血球結合部分と組換え的に融合された、または化学的にコンジュゲートされた、寛容誘導抗原を含み、
ここで、該赤血球結合部分は、血液においてin situでヒト赤血球に非共有結合的に特異的に結合する能力を有し、さらに他の血液成分と比べ赤血球に対して高い親和性を有する、ペプチドリガンド、抗体、抗体フラグメント、一本鎖可変フラグメント(scFv)、またはアプタマーを含み、かつ
該寛容誘導抗原が、外来抗原をみ、ここで該外来抗原は、食物抗原である
組成物。
【請求項2】
リアック病を治療するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
食物抗原が、ピーナッツ、リンゴ、乳、キウイ、カラシナ、セロリ、エビ、コムギおよび/もしくは他の穀類、イチゴ、ならびに/またはバナナ由来である、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
食物抗原が、コンアラキン(Ara h 1)、アレルゲンII(Ara h 2)、ピーナッツアグルチニン、コングルチン(Ara h 6)、31kdaの主要アレルゲン/耐病性タンパク質ホモログ(Mal d 2)、脂質転移タンパク質前駆物質(Mal d 3)、主要アレルゲンMal d 1.03D(Mal d 1)、α−ラクトアルブミン(ALA)、ラクトトランスフェリン、アクチニジン(Act c 1、Act d 1)、フィトシスタチン、タウマチン様タンパク質(Act d 2)、キウェリン(Act d 5)、2Sアルブミン(Sin a 1)、11Sグロブリン(Sin a 2)、脂質転移タンパク質(Sin a 3)、プロフィリン(Sin a 4)、プロフィリン(Api g 4)、高分子量糖タンパク質(Api g 5)、Pen a 1アレルゲン(Pen a 1)、アレルゲンPen m 2(Pen m 2)、速筋トロポミオシンアイソフォーム、高分子量グルテニン、低分子量グルテニン、α−およびγ−グリアジン、ホルデイン、セカリン、アベニン、主要イチゴアレルギーFra a 1−E(Fra a 1)、プロフィリン(Mus xp 1)から選択される、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
赤血球結合部分と組換え的に融合された、または化学的にコンジュゲートされた寛容誘導抗原を含む、セリアック病を予防または治療するための医薬組成物であって、
ここで、該赤血球結合部分は、血液においてin situでヒトグリコホリンAに結合する、抗体、抗体フラグメント、または一本鎖可変フラグメント(scFv)を含み、かつ
該寛容誘導抗原が、セリアック病患者が望ましくない免疫応答を示す食物抗原を含む、
組成物。
【請求項6】
セリアック病を予防または治療するための請求項に記載の医薬組成物であって、該寛容誘導抗原が、組織トランスグルタミナーゼ、グリアジン、高分子量グルテニン、低分子量グルテニン、α−グリアジン、γ−グリアジン、ホルデイン、セカリン、もしくはアベニン、またはそれらの一部分を含む、組成物。
【請求項7】
非経口投与用に製剤化される、請求項1からのいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
該寛容誘導抗原が、共刺激分子の影響を受けることなくそれが特異的に結合する赤血球のアポトーシスの際に免疫系に提示される、請求項1からのいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、出典明示により本明細書に組み込まれる、2010年8月10日に出願された米国仮特許出願第61/372,181号の優先権を主張する。
【0002】
本技術分野は、医療用組成物および赤血球に結合するリガンドまたは抗体の使用に関する。具体的な使用には、免疫寛容化、薬物送達および癌治療がある。
【背景技術】
【0003】
治療薬剤の臨床効果は、標的組織および器官に影響を与えるその効力だけでなく、実行可能な送達様式により、予想することができる。最適な薬物送達プラットフォームは、患者および専門介護者の介入を最小限に抑えながら、作用に最適な濃度で療法剤の正味重量を送達および維持し、かつ作用に最適な細胞標的に送達するものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
赤血球(erythrocyte)(赤血球(red blood cell)とも呼ばれる)に特異的に結合するペプチドが発見されてきた。そうしたペプチドリガンドは、血液中に存在する他の因子の存在下でも赤血球に特異的に結合する。こうしたリガンドは様々な方法で使用することができる。一実施形態では、リガンドと治療薬との分子融合体(molecular fusion)の形成を行う。リガンドは体内で赤血球に結合するため、治療薬は赤血球に結合して赤血球と一緒に循環する。赤血球はヒトの場合、約90〜120日という長期間にわたり血流中を循環し、腫瘍血管床など疾患に関連する体内コンパートメント、ならびに肝臓および脾臓などの生理現象に関連する体内コンパートメントの多くを通過する。これらの特徴を使用すれば、治療薬送達に有用な、たとえば血液中の治療薬の循環を長時間持続させるのに有用な赤血球を作ることができる。
【0005】
さらに意外にも驚くべきことに、これらの赤血球親和性リガンドまたは類似の抗体を使用して、免疫寛容を引き起こすことができることが明らかになった。本実施形態では、寛容誘導抗原および赤血球親和性リガンドを含む分子融合体を作製する。融合体は、トレランスが観察されるまで、十分な量で、注射または他の方法で投与する。これに対し、従来の報告は、赤血球の表面に抗原が結合するにより免疫拒絶が引き起こされるとしていた。
【0006】
実施形態はまた、腫瘍を塞栓することにより癌を処置することも対象とする。腫瘍抗原および/または腫瘍微小血管抗原は、多く知られている。これらの抗原に特異的に結合する抗体は、容易に作製することができる。こうした腫瘍結合リガンドは、赤血球に結合するリガンド、すなわち、抗体(もしくはそのフラグメント)またはペプチド性リガンドと分子的に融合する。これらの融合体は、腫瘍部位で結合し、さらに赤血球にも結合するため、腫瘍への血液供給を遮断する。これらの実施形態および他の実施形態については、本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ERY1ファージの赤血球結合のフローサイトメトリー解析の散布図である。
図2】可溶性ビオチン化ERY1ペプチドを用いた親和性プルダウンのモンタージュ写真である。図A:ERY1ペプチドおよびミスマッチペプチドを用いて溶出したサンプルのストレプトアビジン−HRPウエスタンブロット;図B:全赤血球ライセートと比較した、ERY1ペプチドを用いて溶出したサンプルの抗マウスGYPAウエスタンブロット。
図3】細胞結合の図をプロットしたものである。
図4】静脈内投与後の血漿中MBP濃度、およびMBPと比較したERY1−MBPの濃度−対−時間を示す、ERY1−MBPの静脈内ボーラスの片対数プロットである。
図5】皮下投与後の血漿中MBP濃度;MBP−対−ERY1−MBPについての濃度−対−時間を示す、ERY1−MBPの皮下ボーラスを片対数プロットである。
図6】scFvの操作設計の模式図である;図A:scFvドメインのN末端からC末端への直線表記;図B:フォールディングされたscFvの構造;図C:化学的にコンジュゲートされたERY1ペプチドを有する、フォールディングされたscFvの構造。図6は、4回繰り返されるリンカー配列GGGGS(配列番号18)を含む。
図7】フローサイトメトリーにより判定された、結合した細菌を有する細胞の割合を示す棒グラフの図である;図(A)では、細菌表面のペプチドが、ERY50を除き、赤血球に結合するが、上皮293Tまたは内皮HUVECには結合しない;図(B)では、各ペプチドが複数のヒトサンプルに結合するが、マウス血液に結合しない。
図8】ERY1−OVA融合体が高親和性でマウス赤血球の赤道周辺に結合する、ERY1とオボアルブミン(OVA)との分子融合体の実験のスキームおよび結果を示す;図(a)オボアルブミン(OVA)へのERY1ペプチドのコンジュゲーションが、赤血球表面グリコホリンAに結合する模式図;図(b)フローサイトメトリーにより特徴付けられた、各OVAコンジュゲートおよび中間体の結合;黒塗りのヒストグラムはERY1−OVA;白抜きのヒストグラムはSMCC−OVA;点線のヒストグラムはMIS−OVA;ERY1=赤血球結合ペプチドWMVLPWLPGTLD(配列番号1)、MIS=ミスマッチペプチドPLLTVGMDLWPW(配列番号2)、SMCC=ERY1をOVAにコンジュゲートするのに使用したスルホスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート;図(c)フローサイトメトリーにより判定された、ERY1−OVAの低解離定数(R=0.97、単一部位結合)を証明する、ERY1−OVAの赤血球に対する平衡結合。
図9】ERY1をコンジュゲートした抗原の分子融合体の結合および循環に関する実験のスキームおよび結果を示す:この融合体は静脈内投与されると、循環している健康な赤血球およびエリプトーシス(eryptotic)の赤血球に生体特異的に結合し、特異的抗原提示細胞サブセットによる取り込みを誘導する;図(a)フローサイトメトリーにより判定された、非−注射マウス(白抜きのヒストグラム)と比較して、インビボで赤血球(CD45)集団に結合し、白血球(CD45)集団には結合しない、OVA(灰色の塗りのヒストグラム)およびERY1−OVA(黒塗りのヒストグラム);図(b)フローサイトメトリーにより判定された、循環しているエリプトーシス(eryptotic)の(アネキシン−V)赤血球、および健康な(アネキシン−V)赤血球に結合するERY1−OVA、およびそれらに結合しないOVA;図(c)フローサイトメトリー測定の幾何平均蛍光強度(n=2、R=0.98、1相指数関数的減衰(one−phase exponential decay))により判定された、循環赤血球に結合したERY1−OVAの細胞表面半減期;図(d)投与用量150μgで、ELISAにより判定された、時間依存性のERY1−OVA細胞表面濃度(n=2)。
図10】赤血球結合が血液学的挙動を変化させないことを示すプロット図である;10μgのOVA(白丸)あるいはERY1−OVA(黒丸)の投与後様々な時点で測定された、図(a)ヘマトクリット;図(b)平均血球容積、図(c)赤血球ヘモグロビン含有量。
図11】ERY1をコンジュゲートした抗原が、特異的抗原提示細胞サブセットによる取り込みを生体特異的に誘導する結果の棒グラフである:図(a)MIS−アロフィコシアニンと比較した、注射から12時間および36時間後での、MHCIICD11bCD11cおよびMHCIICD8αCD11cCD205脾臓樹状細胞(DC)によるERY1−アロフィコシアニンの増加した細胞取り込み;図(b)静脈内投与後36時間、MIS−アロフィコシアニンと比較した、肝実質細胞(CD45MHCIICD1d)および肝星細胞(CD45MHCIICD1d)によるが、肝臓のDC(CD45CD11c)またはクッパー(CD45MHCIIF4/80)細胞にはよらない、肝臓でのERY1−アロフィコシアニンの増加した細胞取り込み。(n=2、P≦0.05、**P≦0.01、***P≦0.001)。データは平均±標準偏差を表す。
図12】ERY1−OVAの分子融合体がインビボで、抗原特異的OTI CD8T細胞のクロスプライミング、およびアポトーシスの運命にある除去性増殖(apoptotic−fate deletional proliferation)を増強することを示す結果の図である;図(a)10μgのERY1−グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(ERY1−GST、左図)、10μgのOVA(中図)または10μgのERY1−OVA(右図)の静脈内投与から5日後の、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)標識された脾臓OTI CD8T細胞(CD3εCD8αCD45.2)の増殖;図(b)Aならびに同一の1μg用量試験からの、OTI CD8T細胞増殖の、用量依存的に定量された増殖集団、データは中央値±最小値〜最大値を表す(n=5、**P≦0.01、##P<0.01);図(c)OVA(中図)またはERY1−GST(左図)と比較した、ERY1−OVA(右図)投与時の、より大きなアネキシン−V集団を示す、OTI CD8T細胞の増殖世代;図(d)ERY1−OVAがOTI CD8T細胞アポトーシスを誘導したことを証明する、定量されたアネキシン−VOTI CD8T細胞の増殖世代、データは平均±標準偏差を表す(n=5、***P<0.0001)。すべてのデータは多重パラメーターフローサイトメトリーにより判定された。
図13】ERY1−OVAの分子融合体が抗原と接触した表現型に対してOTI CD8T細胞の増殖を誘導することを示す結果を、棒グラフで表した図である。図(a)1μgのOVAまたは1μgのERY1−OVAの投与から5日後の、脾臓でのCD44OTI CD8T細胞(CD3εCD8αCD45.2CD44)の定量(***P<0.0001);図(b)1μgのOVAまたは1μgのERY1−OVAの投与から5日後の、脾臓でのCD62LOTI CD8T細胞(CD3εCD8αCD45.2CD62Lの定量(P<0.05);図(c)10μgのOVAまたは10μgのERY1−OVAの投与から5日後の、脾臓でのCD44OTI CD8T細胞(CD3εCD8αCD45.2CD44)の定量(***P=0.0005);図(d)10μgのOVAまたは10μgのERY1−OVAの投与から5日後の、脾臓でのCD62LOTI CD8T細胞(CD3εCD8αCD45.2CD62Lの定量(***P<0.0001)。データは平均±標準偏差を表す(n=5)。
図14】赤血球結合が抗原チャレンジに対してトレランスを誘導することを示す結果の図である:図(a)実験群ならびにチャレンジ群および未処置対照群に関する実験プロトコルを示す、OTI CD8T細胞の養子移入トレランス(adoptive transfer tolerance)モデル(n=5);図(b)OTI CD8T細胞集団(CD3εCD8αCD45.2)のフローサイトメトリーによる検出;図(c)CD45.1マウスにおける、抗原チャレンジから4日後の、流入領域リンパ節(鼠径部および膝窩)でのOTI CD8T細胞集団の定量(**P<0.01);図(d)IFNγ発現OTI CD8T細胞のフローサイトメトリーによる検出;図(e)抗原チャレンジおよびSIINFEKLペプチド(配列番号3)による再刺激から4日後の、流入領域リンパ節でのIFNγ発現OTI CD8T細胞(**P<0.01);図(f)ELISAにより判定された、SIINFEKLペプチド(配列番号3)による再刺激から4日後の、リンパ節細胞培養培地におけるIFNγ濃度(**P<0.01);図(g)ELISAにより判定された、OVAによる再刺激から4日後の、リンパ節細胞培養培地におけるIL−10濃度(P<0.05)。データは中央値±最小値〜最大値を表す;図(h)19日目の、OVA特異的血清IgG力価(P<0.05)、データは平均±標準偏差を表す;図(i)は、実験群および対照群(それぞれn=4、3)の実験プロトコルを示す、OTIおよびOVA発現EL4胸腺腫(E.G7−OVA)の組み合わせの腫瘍トレランスモデル;図(j)養子移入から5日後の、血液中を循環する増殖していない(0世代)OTI CD8T細胞の定量、データは中央値±最小値〜最大値を表す(**P<0.01);図(k)OTIの養子移入から9日後に皮下注射された、E.G7−OVA腫瘍の増殖プロファイル、データは平均±標準偏差を表す(P<0.05)。
図15】C57BL/6マウスにおいて赤血球結合が抗原特異的液性応答をどの程度減弱するかを示す棒グラフである。C57BL/6マウスに1μgのOVAまたは1μgのERY1−OVAを6日間の間隔を置いて2回投与してから19日後の、血清中のOVA特異的IgGを検出する(P≦0.05)。
図16】8アームPEG−ERY1がインビトロおよびインビボで赤血球に結合する実験結果を表す;図(a)8アームPEG−ERY1(黒塗りのヒストグラム)はインビトロでのインキュベーション後にマウス赤血球に結合するが、8アームPEG−MIS(灰色の塗りのヒストグラム)または8アームPEG−ピリジルジスルフィドは結合しない;図(b)静脈内注射すると、8アームPEG−ERY1(黒塗りのヒストグラム)は循環赤血球に結合するが、8アームPEG−MIS(灰色の塗りのヒストグラム)は結合しない。
図17】フローサイトメトリーにより判定された、8アームPEG−ERY1(黒塗りの丸)および8アームPEG−MIS(白抜きの四角)の赤血球細胞表面半減期を示す実験結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書は、赤血球に特異的に結合するペプチドについて記載する。これらは、赤血球に特異的に結合する配列を有するペプチド性リガンドとして、または赤血球に特異的に結合する抗体もしくはそのフラグメントとして提供される。ペプチドは、治療薬、寛容抗原または標的化ペプチドとの分子融合体として調製してもよい。治療薬は、融合体の一部分である場合、インビボの長い循環半減期を有利に有し得る。免疫寛容は、融合体の使用およびトレランスが望まれる物質上の抗原の選択により引き起こすことができる。標的化ペプチドを有する融合体は、融合体を標的、たとえば腫瘍に誘導し、そこで赤血球結合リガンドが、赤血球を標的にリクルートすることにより腫瘍への血液の流れを減少させる、または完全に阻止する。
【0009】
したがって、タンパク質薬剤などの薬剤の循環半減期を延長するための、赤血球結合に関する分子設計を教示する。薬剤は、分子融合体、たとえば組換え融合体または化学的コンジュゲートとも呼ばれ、赤血球結合リガンドとのコンジュゲートとして形成してもよい。免疫寛容誘導のための分子設計も教示する。トレランスが求められるタンパク質抗原は、赤血球結合リガンドとのコンジュゲート、たとえば組換え融合体、または化学的コンジュゲート、たとえばポリマーまたはポリマーミセルもしくはポリマーナノ粒子コンジュゲート、として形成される。腫瘍塞栓術のための分子設計も教示する。赤血球結合リガンドは、腫瘍血管系のリガンドとのコンジュゲートとして形成され、腫瘍血管系を標的とすることで、腫瘍血管系内での赤血球結合を標的とする。
【0010】
赤血球に特異的に結合するペプチド性配列
赤血球に特異的に結合するペプチドが発見された。実施例1は、赤血球に特異的に結合するペプチド(ERY1)の発見について記載する。実施例8は、ヒト赤血球に特異的に結合する6種のペプチド(ERY19、ERY59、ERY64、ERY123、ERY141およびERY162)の発見について記載する。本発明の一実施形態は、ERY1のアミノ酸配列、もしくはヒト赤血球結合ペプチドのアミノ酸配列、またはそれらの保存的置換、あるいはそれらをコードする核酸を含む、実質的に純粋なポリペプチドである。こうしたポリペプチドは赤血球に特異的に結合するもので、赤血球に対するリガンドである。リガンドとは、標的分子に特異的に結合する化学部分をいう用語である。標的とは、使用者がリガンドと結合させようとする所定の分子、組織または部位をいう。したがって組織への標的送達とは、分子または細胞などの他の材料を目的の標的組織に送達することをいう。このため、実施形態は、赤血球への結合に使用される本明細書に開示されたリガンドの少なくとも1つを含む、分子または組成物を含む。ポリペプチドの赤血球への結合活性は、本明細書に記載するような以下の実験プロトコルだけで決定することができる。こうした方法を用いれば、一定の生理的条件下で、ERY1またはヒト赤血球結合ペプチドと比較して、ポリペプチドバリアントの結合力を決定することができ、たとえば、保存的置換、隣接する基の付加または除去、または水溶液に対する配列の溶解性を調節するための変化または付加により配列を作製することができる。
【0011】
実施例2に詳述するように、これらのペプチド性リガンドは、細胞形態を変化させず、かつ細胞質移行をせずに、赤血球細胞表面に結合した。リガンドは細胞表面全体に分布し、クラスター形成は認められない。グリコホリンA(GYPA)をERY−1の標的として同定した実施例3のように、リガンドの標的であった特定のタンパク質を同定することができる。ERY−1はマウス種およびラット種とのみ反応した(実施例4)。ヒト赤血球に特異的に結合したペプチド性リガンドはヒト赤血球に特異的であり、他の種には特異的ではなかった(実施例9)。
【0012】
精製された赤血球細胞表面タンパク質に対するスクリーニングではなく、全赤血球を含むナイーブペプチドライブラリーをスクリーニングして、親和性パートナー(affinity partner)を発見した。密度勾配遠心分離および十分な洗浄の使用の間、回転除去から逃れる非結合ファージの数を最小限に抑えるように細心の注意を払った。さらに、選択を停止して、スクリーニングプロセスの初期にクローンを解析して、高度に感染性のファージクローンが集団を支配しないようにした。非特異的結合現象を減らすため、また、血清中で好ましい結合特性を持つペプチドを選択するため(より重要と考えられる)、高濃度の血清アルブミン(50mg/mL)の存在下で37℃にて全スクリーニングプロセスを行った。最初の一連の実験(実施例1)では、クローン解析から、マウス赤血球細胞表面に対して高親和性ペプチド、WMVLPWLPGTLD(本明細書でERY1という配列番号1)を提示する1つのファージクローンが明らかになった(図1)。UniProtのBLASTアルゴリズムを用いて類似性を検索したところ、完全なペプチドに対して関連するタンパク質配列相同性は確認されなかった。他の実験(実施例8)では、表1〜2に示されるようにヒト赤血球に対する結合リガンドが確認された。6つの配列がヒト赤血球に特異的に結合した。ERY50と名付けた7番目の配列はヒト赤血球に結合するだけでなく、上皮/内皮細胞にも結合した。
【0013】
【表1】
【0014】
【表2】
【0015】
本発明の実施形態は、赤血球の表面に特異的に結合するペプチドを含む。配列は、最小長に最適化しなかった。こうした最適化は当該技術分野の技術の範囲内であり、本明細書に記載の技術を用いて実施してもよい。たとえば、Kenrickら(Protein Eng.Des.Sel.(2010)23(1):9−17)は、15残基のライブラリーからスクリーニングし、次いで7残基長の最小の結合配列を特定した。Getz(ACS Chem.Biol.,May 26,2011は、5残基長という小さな最小結合ドメインを特定した。赤血球結合ペプチドは、同じ配列の反復配列、たとえば、2〜20の反復配列に存在してもよい;当業者であれば、すべての範囲および明記した範囲内の値を意図していることをすぐに理解するであろう。さらに、ペプチドは、同じペプチド内にある、または単一の分子融合体の一部分である、2つ以上の異なる配列と組み合わせて存在してもよい。
【0016】
特異的結合を与える連続した残基の数は、約4〜12残基であると予想される。したがって、表2に掲載した長さが4個の連続した残基のペプチドの全部のほか、たとえば、5個、6個、7個または8個の連続した残基のペプチドもすべて開示する。この数は、他のペプチド性タンパク質結合リガンドに対する残基数に基づく。本発明の実施形態は、表1を含む本明細書に示した赤血球に結合する配列番号の1つに対する最小長の配列を含む。したがって、ある種の実施形態は、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号1およびそれらの保存的置換体からなる群から選択される配列の4〜12個の連続したアミノ酸残基のいくつかの連続したアミノ酸配列を含み、前記配列は赤血球に特異的に結合するペプチドまたは単離された(または精製された)ペプチドを含む組成物を対象とする。あるいは、連続した残基の数は、約5〜約18であるように選択してもよい;当業者であれば、たとえば、7、8、9、10または8〜18など、すべての範囲および明記した範囲内の値を意図していることをすぐに理解するであろう。赤血球結合配列は、たとえば、配列の少なくとも1個および2個以下のアミノ酸の保存的置換、または1、2もしくは3つの置換、または1〜5つの置換を有してもよい。さらにGiordanoにあるのと同様に、発見された配列のL−アミノ酸とD−アミノ酸との置換を頻繁に行ってもよい。いくつかの実施形態では、ペプチドまたは組成物は、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号1からなる群から選択される配列を必須としてなってもよい。ペプチドは長さを限定してもよく、たとえば、約10〜約100の多くの残基を有する;当業者であれば、たとえば、約10〜約50または約15〜約80など、すべての範囲および明記した範囲内の値を意図していることをすぐに理解するであろう。ペプチドと赤血球との平衡状態における結合の測定により判定した場合に約10μM〜0.1nMの解離定数を有するペプチドリガンドを含むペプチドの赤血球結合部分を提供してもよい;当業者であれば、たとえば、約1μM〜約1nMなど、すべての範囲および明記した範囲内の値を意図していることをすぐに理解するであろう。ペプチドは、治療薬をさらに含んでもよい。治療薬は、たとえば、タンパク質、生物製剤、抗体フラグメント、ScFv、またはペプチドであってもよい。ペプチドは、寛容誘導抗原、たとえば、タンパク質が欠損したヒトに使用されるヒトタンパク質(たとえば、第VIII因子または第IX因子などの血液因子)、非ヒト型グリコシル化を含むタンパク質、ヒトに天然には見出されない合成タンパク質、ヒト食物アレルゲンまたはヒト自己免疫抗原をさらに含んでもよい。
【0017】
他の研究者も、赤血球の表面に特異的に結合するペプチド性リガンドについて探索してきた。以前の研究では、細菌表面に提示された新規なペプチドライブラリーをスクリーニングする方法の使用により赤血球結合ペプチドの発見が試みられた(Hall,Mitragotriら,2007年)。その研究の中心は、赤血球に対して親和性を有するペプチドのナイーブライブラリーをスクリーニングするための新規な細菌のペプチドディスプレイシステムを確立し、ペプチドを使用して0.22μmの粒子を赤血球に結合することにあった。この課題を達成するいくつかのペプチドが同定されたことが報告されたものの、応用的な考察に必要な結合現象の特徴付けは十分に行われなかった。ペプチドの細胞結合特異性については報告されなかった。すなわち、ペプチドが他のどの細胞型に結合するかという問題が検討されなかった。ペプチドの細胞表面リガンドについても報告されなかった。ペプチド官能基を持たせた0.22μmの粒子で標識した赤血球を撮影した電子顕微鏡写真には、1個の細胞につき単一の粒子集合体を含む赤血球が示された。有望な結合部位の大部分は、細胞表面全体に広く分布していると予想され、かつ試験したリガンドがすべて小さな細胞領域に局在していることから、これらの結果は実験上のアーチファクトであることが示される。こうしたアーチファクトは、モル過剰で標識を行ったか、または他の要因の結果である可能性がある。最も重要なのは、インビボでのペプチド−粒子の赤血球結合または薬物動態の特徴付けを行わなかったことである。以上を総合すると、Hallらにより説明された結果は、赤血球に対するペプチドリガンドが療法剤の薬物動態を改善するツールとしてまたは他の医療方法または治療方法において、使用し得ることを示唆しない。
【0018】
特定の用途に応じて様々な長さのポリペプチドを使用することができる。一般に、ポリペプチドリガンド配列を含むポリペプチドは、インビボで赤血球と相互作用することができれば、特異的結合を示す。フォールドする可能性があるペプチドについては、本明細書に記載の方法を用いて試験してもよい。したがって、ある種の実施形態は、ポリペプチドリガンドを有するが、自然界に存在しないポリペプチドを対象とし、ある種の他の実施形態は、特定の長さ、たとえば、6〜3000残基、または12〜1000残基または12〜100残基または10〜50残基を有するポリペプチドを対象とする;当業者であれば、明記した範囲内のあらゆる値および範囲を意図していることをすぐに理解するであろう。
【0019】
ある種の実施形態は、様々なポリペプチド配列および/または精製されたもしくは単離されたポリペプチドを提供する。ポリペプチドとは、翻訳後修飾(たとえば、リン酸化またはグリコシル化)および/またはさらなるポリペプチドとの複合体形成、核酸および/もしくは糖質または他の分子とのマルチサブユニット複合体の合成に関係になく、アミノ酸残基鎖をいう用語である。したがって本明細書では、プロテオグリカンもポリペプチドという。本明細書で使用する場合、「機能性ポリペプチド」とは、表記の機能を促進することができるポリペプチドである。ポリペプチドは、いくつかの方法により作製することができ、その多くが当該技術分野において周知である。たとえば、ポリペプチドは、抽出(たとえば、単離された細胞から)、ポリペプチドをコードする組換え核酸の発現、または化学合成により得ることができる。ポリペプチドは、たとえば、組換え技術、およびコードされたポリペプチドの発現のために宿主細胞に導入される(たとえば、形質転換またはトランスフェクションにより)ポリペプチドをコードする発現ベクターを使用して、作製できる。
【0020】
活性を変化させずにアミノ酸配列に一般に行うことができる保存的変化には様々ある。これらの変化は、保存的置換または突然変異と呼ばれる;すなわち、特定の大きさまたは特性を有するアミノ酸のグループに属するアミノ酸を別のアミノ酸と置換することができる。アミノ酸配列の置換は、そのアミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選択してもよい。たとえば、無極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニンおよびチロシンが挙げられる。極性で中性のアミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンが挙げられる。正電荷を持つ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リジンおよびヒスチジンが挙げられる。負電荷を持つ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。こうした変化は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または等電点により判定した場合、見かけの分子量に実質的に影響を与えないと予想される。保存的置換は、配列の光学異性体と他の光学異性体との置換、具体的には配列の1つ以上の残基に関するDアミノ酸とLアミノ酸との置換をさらに含む。さらに、配列中のアミノ酸をすべてD異性体からL異性体に置換してもよい。例示的保存的置換には、正電荷が維持されるArgからLysへの置換およびその逆;負電荷が維持されるAspからGluへの置換およびその逆;遊離−OHが維持されるようなThrからSerへの置換;ならびに遊離NHが維持されるAsnからGlnへの置換があるが、これに限定されるものではない。さらに場合によっては、ポリペプチドまたは核酸フラグメントの機能を失わせずに、ポリペプチド配列または対応する核酸配列の点突然変異、欠失および挿入を行ってもよい。置換は、たとえば、1、2、3またはそれ以上の残基をさらに含んでもよい。本明細書に記載のアミノ酸残基は、アミノ酸の1文字表記または3文字略語を使用する。本明細書に使用した略語は、標準的なポリペプチド命名法、J.Biol.Chem.,(1969),243,3552−3559に従う。本明細書のアミノ酸残基の配列はすべて、左および右の方向性を、従来のアミノ末端からカルボキシ末端方向とする方式で表される。
【0021】
場合によっては、本明細書に示した配列に対するペプチドの同一性パーセントの判定が必要になる場合がある。こうした場合には、ペプチドまたはペプチドの一部分の残基数の観点から同一性パーセントを測定する。さらに、たとえば、90%同一のポリペプチドは、より大きなペプチドの一部分であってもよい。
【0022】
本明細書で使用する場合、ポリペプチドに関連する精製されたという用語とは、ポリペプチドが化学的に合成されており、したがって実質的に他のポリペプチドが混入していないこと、あるいは天然に伴う他の大部分の細胞成分(たとえば、他の細胞タンパク質、ポリヌクレオチドまたは細胞成分)から分離または精製されていることをいう。精製されたポリペプチドの例として、乾燥重量で少なくとも70%であり、天然に結合するタンパク質および天然の有機分子を含まないポリペプチドが挙げられる。このため、精製されたポリペプチドの調製物は、たとえば、そのポリペプチドの乾燥重量で少なくとも80%でも、少なくとも90%でも、または少なくとも99%でもよい。ポリペプチドはまた、ポリペプチドを精製したり、または目印を付けたり(たとえば、親和性マトリックス上に捕捉し、顕微鏡下で可視化する)しやすくするタグ配列(たとえば、ポリヒスチジンタグ、mycタグまたはFLAG(登録商標)タグ)を含むように操作されてもよい。このため、ポリペプチドを含む精製された組成物とは、他に記載がない限り、精製されたポリペプチドをいう。単離されたという用語は、本発明のポリペプチドまたは核酸がその天然の環境にないことを示す。したがって、本発明の単離された産物は、たとえば培養上清中に含まれていても、部分的に濃縮されていても、異種供給源から産生されても、ベクターにクローニングされていても、またはビヒクルと共に製剤化されていてもよい。
【0023】
ポリペプチドは、化学修飾を含んでもよい;この文脈でこの用語は、アミノ酸の天然の化学構造における変化をいう。こうした修飾は側鎖または末端に行い、たとえば、アミノ末端またはカルボキシル末端を変化させてもよい。いくつかの実施形態では、修飾は、ポリペプチドを他の材料に結合する、または治療薬を結合するのに使用すると都合がよい場合がある化学基を作るのに有用である。
【0024】
生物学の技術分野で一般に使用される特異的結合という用語は、非標的組織と比較して比較的高い親和性で分子が標的に結合することをいい、一般に静電的相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合等などの複数の非共有結合性相互作用が関係する。特異的結合相互作用は、抗体−抗原結合、酵素−基質結合および特異的に結合するタンパク質−受容体相互作用を特徴付けるものである;一方、こうした分子は、随時その標的以外の組織に結合することがあり、こうした結合は特異性がないとされ、特異的結合ではない。ペプチドERY1およびその誘導体、ならびにヒト赤血球結合ペプチドおよびその誘導体は、一部の環境で赤血球以外に結合する場合があり、こうした結合は非特異的であることが観察されたものの、ペプチドのより多くの結合が他の細胞またはタンパク質ではなく赤血球への結合であることが証明された。
【0025】
したがって、実施形態は、赤血球に特異的に結合し、かつ他の血液成分、たとえば、血液タンパク質、アルブミン、フィブロネクチン、血小板、白血球、典型的なヒトから採取した血液サンプル中に認められる実質的にすべての成分のうち1つ以上に特異的に結合しないリガンドを含む。血液サンプルの文脈では、「実質的にすべて」という用語は、典型的に存在する成分をいうが、他の体内吸収されるリガンドの力価を事実上低下させない非常に低濃度の付随的な成分を除外することをいう。
【0026】
抗体ペプチド
本明細書には、赤血球に結合するペプチドだけでなく、タンパク質、特に抗体、とりわけ一本鎖抗体も提示する。抗原に対する抗体の産生技術はよく知られている。この文脈で抗原という用語は、抗原に反応する宿主免疫系により認識される部位をいう。抗原の選択は、数ある技術分野の中でも抗体を産生する技術分野において公知である。実施形態は、分子融合体および本明細書に示した他の方法を用いた、これらのペプチドの使用を含む。本開示を読んだ当業者であれば、赤血球に特異的に結合する抗体を作製することができよう。実施例15〜17は、抗体もしくはそのフラグメントの作製に関する。
【0027】
本明細書では、ペプチドという用語をポリペプチドという用語と同義で使用する。抗体および抗体フラグメントはペプチドである。抗体フラグメントという用語は、抗体の抗原結合機能を保持する抗体の一部分をいう。フラグメントは、文字通り、より大きな抗体の一部分から作製してもよいし、あるいはその代わりに新規に(de novo)合成してもよい。抗体フラグメントは、たとえば、一本鎖可変フラグメント(scFv)である。scFvは、リンカーペプチド、たとえば、約10〜約50アミノ酸で連結された、免疫グロブリンの重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質である。リンカーは、VHのN末端をVLのC末端と連結でき、またはその逆もできる。scFvという用語は、二価のscFv、二重特異性抗体(diabody)、三重特異性抗体(triabody)、四重特異性抗体(tetrabody)および抗体フラグメントの他の組み合わせを含む。抗体は、パラトープと呼ばれる抗原結合部分を有する。ペプチドリガンドという用語は、パラトープの一部分ではないペプチドをいう。
【0028】
赤血球に特異的に結合するアプタマー
赤血球に結合するペプチドリガンドだけでなく、赤血球表面成分に対するヌクレオチドアプタマーリガンドも教示する。したがって、アプタマーは、本明細書に記載するように他の赤血球結合部分に対して作製および使用してもよい。DNAアプタマーおよびRNAアプタマーを使用して、非共有結合性の赤血球結合を提供してもよい。それらはヌクレオチドのみからなるため、スクリーニング手法が十分に確立しており、化学合成しやすいうえ、インビボでのクリアランスが速いことから副作用の毒性および/または免疫原性が限られているという点で、アプタマーは有望な生体分子の標的化部分となる(Keefe,Paiら,2010年)。さらに、ヌクレオチド−標的タンパク質相互作用の非標準的(non−canonical)性質により、インビボでの標的結合時に任意の増殖性(productive)アゴニストシグナル伝達が起こるが可能性が少なく、したがって免疫原性および毒性への寄与が低い。このため、多くのアプタマーに基づく分子が現在、白血病、黄斑変性症、血栓症および2型糖尿病などいくつかの臨床適応症に関するヒト臨床試験に入っている(Keefe,Paiら,2010年)。アプタマーはまた、癌化学療法および蛍光または放射性物質による腫瘍検出技術などの分野で、薬剤の正味重量をインビボで特定の組織に送達するための標的化剤としても使用されてきた(Rockey,Huangら,2011年;Savla,Taratulaら,2011年)。
【0029】
アプタマーは、特定の標的分子に結合するオリゴ核酸またはペプチドである。アプタマーは通常、大きなランダム配列プールからそれらを選択することにより目的の標的に結合するように作製される。アプタマーは、DNAアプタマー、RNAアプタマーまたはペプチドアプタマーに分類することができる。核酸アプタマーは、インビトロセレクション法、すなわち試験管内進化法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment:SELEX)法(Archemix,Cambridge,MA,USA)(Sampson,2003)を複数回繰り返して、小分子、タンパク質、核酸、細胞、組織および生体などの標的に特異的に結合するように操作された核酸種である。ペプチドアプタマーは典型的には、タンパク質の骨格に両端で結合する短い可変ペプチドドメインを有する。ペプチドアプタマーは、細胞内での他のタンパク質との相互作用を阻害するように設計されたタンパク質である。ペプチドアプタマーは、タンパク質の骨格に両端で結合する可変ペプチドループからなる。この二重の構造的制約により、ペプチドアプタマーの結合親和性が抗体に匹敵するように大きく高められる。可変ループ長は典型的には約10〜約20アミノ酸からなり、骨格は、十分な溶解性を有する小型のタンパク質である。たとえば細菌タンパク質チオレドキシン−Aは、その野生型タンパク質の−Cys−Gly−Pro−Cys−ループ(2つのシステイン側鎖がジスルフィド架橋を形成できる)である還元活性部位内に挿入される可変ループを備える、骨格タンパク質である。
【0030】
アプタマーを作製するためのいくつかの技術については、Luら,Chem Rev 2009年:109(5):1948〜1998、さらに米国特許第7,892,734号明細書、米国特許第7,811,809号明細書、米国特許出願公開第2010/0129820号明細書、米国特許出願公開第2009/0149656号明細書、米国特許出願公開第2006/0127929号明細書および米国特許出願公開第2007/0111222号明細書に詳述されている。実施例19には、本明細書に開示された実施形態に使用されるアプタマーを作製および使用するための材料および方法がさらに詳述される。
【0031】
分子融合体
分子融合体は、第1のペプチド性赤血球結合リガンドと第2のペプチドとの間で形成してもよい。融合体は、相互に、直接的または間接的にコンジュゲートされたペプチドを含む。ペプチドは、相互に、直接的にコンジュゲートしても、またはリンカーを介して間接的にコンジュゲートしてもよい。リンカーはペプチドでも、ポリマーでも、アプタマーでも、核酸でも、または粒子でもよい。粒子は、たとえばマイクロ粒子でも、ナノ粒子でも、ポリマーソーム(polymersome)でも、リポソームでも、またはミセルでもよい。ポリマーは、たとえば天然でも、合成でも、線状でも、または分岐でもよい。第1のペプチドおよび第2のペプチドを含む融合タンパク質は、ペプチドの分子融合体の一例であり、この融合タンパク質は、相互に直接結合したペプチドを含むか、あるいは、介在するリンカー配列および/またはさらなる配列を一端または両端に含む。リンカーとのコンジュゲーションは、共有結合を介したものでもよい。他の結合としてはイオン結合がある。方法は、分子融合体、または分子融合体を含む組成物を調製することを含み、該分子融合体は、赤血球に特異的に結合するペプチドおよび、治療薬、寛容抗原または他の物質を含むものである。
【0032】
分子融合体という用語またはコンジュゲートされたという用語は、共有結合、静電気的イオン的結合、電荷−電荷結合などの化学結合による直接的または間接的結合をいう。コンジュゲーションは、化学結合により維持される単位を作る。直接コンジュゲーションとは、介在するリンカーまたは化学基を用いたあるいは用いない、作用物質との化学結合をいう。間接コンジュゲーションとはキャリアとの化学結合をいう。キャリアは、作用物質を主として封入してもよく、たとえば、ポリマーソーム、リポソームもしくはミセルまたはある種のナノ粒子、または、作用物質をその表面に有してもよく、たとえば、金属ナノ粒子もしくはビーズ、あるいは、その両方に有してもよい、たとえば、作用物質のいくらかをその内部および外面に含む粒子。キャリアはまた、免疫寛容のための抗原を封入してもよい。たとえば抗原を封入するポリマーソーム、リポソームまたは粒子を作製してもよい。封入するという用語は、まったく露出されることなく効率的に全体を被覆することを意味し、たとえば、抗原または作用物質を封入するポリマーソームを作製してもよい。治療薬の例には、一本鎖可変フラグメント(scFv)、抗体フラグメント、小分子薬剤、生理活性ペプチド、生理活性タンパク質および生理活性生体分子がある。
【0033】
コンジュゲーションは、リンカーを使用してあるいは使用せずにペプチドを別の分子に共有結合することにより達成してもよい。こうしたコンジュゲートの形成は当業者の技術の範囲内であり、コンジュゲーションを達成するための様々な技術が知られており、個々の技術の選択は、コンジュゲートとされる材料により左右される。イオン性側鎖を含有し、すなわちアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、システイン、ヒスチジンまたはチロシン、かつポリペプチド配列の活性部分に含まれないアミノ酸の、ポリペプチドへの付加(CまたはN末端)は、それらの非プロトン化状態で、ポリマーに結合した反応基との様々なバイオコンジュゲーション反応に関与する強力な求核試薬、すなわちホモまたはヘテロ2官能性PEG、としての役割を果たす(たとえば、Lutolf and Hubbell,Biomacromolecules 2003;4:713−22, Hermanson,Bioconjugate Techniques,London. Academic Press Ltd;1996)。いくつかの実施形態では、可溶性のポリマーリンカーを使用し、薬学的に許容される形態で患者に投与してもよい。あるいは、薬剤をポリメロソーム(polymerosome)またはベシクル(vesicle)に封入してもよく、またはペプチドリガンドに共有結合してもよい。
【0034】
一実施形態は、非タンパク質治療薬と、赤血球に特異的に結合するペプチドリガンド、抗体、抗体フラグメントまたはアプタマーとのコンジュゲーションである。赤血球結合ペプチド法の応用は、ポリペプチド療法剤に限定されるものではなく、むしろ小分子およびポリマー粒子など他の薬剤製剤という形で現れている。小分子および医療におけるその応用の長い歴史の中で、循環半減期の短さおよびバイオアベイラビリティーの低さが常にそのインビボでの有効性を妨げてきた。ポリマーミセルおよびナノ粒子は比較的新しい世代の薬剤クラスであるが、細網内皮系の作用による高いクリアランス速度などの理由から、その薬物動態学的挙動は依然として不十分なままである(Moghimi and Szebeni,2003)。赤血球結合設計をこれらの他の薬剤クラスに広げて、それらの循環半減期を長くし、臨床的有効性を高めることができる。
【0035】
コンジュゲートは粒子を含んでもよい。赤血球結合ペプチドは、粒子に結合させてもよい。抗原、作用物質または他の物質は粒子中にあっても、または粒子上にあってもよい。ナノ粒子、ミセルおよび他の粒子の例については、たとえば、米国特許出願公開第2008/0031899号明細書、米国特許出願公開第2010/0055189号明細書、米国特許出願公開第2010/0003338号明細書に掲載されており、これらの明細書は、それらを本明細書で説明されるリガンドと組み合わせることを含む、あらゆる目的のため出典明示により本明細書に組み込まれる;ただし、矛盾する場合は、本明細書が優先する。実施例11および12は、ある種の粒子の作製について詳細に記載する。
【0036】
ナノ粒子は、平均直径約10nm〜約200nmを有する粒子の集合体として調製してもよく、調製方法により得られる多分散に応じて、明記した範囲、たとえば、約20〜約200nm、および約20〜約40nm、〜約70nmまたは〜約100nmの、すべての範囲および値を含む。ポリ(エチレングリコール)とポリ(乳酸)とのコポリマーから形成されたもの、ポリ(エチレンオキシド)とポリ(β−アミノエステル)とのコポリマーから形成されたもの、および血清アルブミンなどのタンパク質から形成されたものなど様々なナノ粒子系を利用してもよい。他のナノ粒子系も当業者に知られている。さらに、Devalapallyら,Cancer Chemother Pharmacol.,07−25−06;Langer etら,International Journal of Pharmaceutics,257:169〜180(2003年);およびTobioら,Pharmaceutical Research,15(2):270〜275(1998年)も参照されたい。
【0037】
軟骨組織結合リガンドを組み込んだ平均直径約200nmを超えるより大きな粒子を調製してもよく、これらの粒子は、ミクロンスケールに近づきつつあるため本明細書ではマイクロ粒子といい、ほぼ光学分解能の限界内にとどまる。たとえば、マイクロ粒子を作製するある種の技術については、米国特許第5,227,165号明細書、同第6,022,564号明細書、同第6,090,925号明細書および同第6,224,794号明細書に記載されている。
【0038】
ターゲティング能を利用するためにナノ粒子を機能化するには、たとえば、バイオコンジュゲーション技術を用いて共有結合により標的化ポリペプチドを粒子と結合させる必要があり、個々の技術の選択は、ポリペプチドが結合する粒子もしくはナノ粒子または他のコンストラクトにより左右される。一般に、ペプチドを他の材料に結合する多くのバイオコンジュゲーション技術がよく知られており、個々の材料に最も好適な技術を選択してもよい。たとえば、ポリペプチドをチオール反応分子に結合させる場合は、システインなど、ポリペプチド配列にさらなるアミノ酸を結合させてもよい。
【0039】
実施例18は、赤血球に特異的に結合する部分を含む多量体の分岐ポリマーの作製について詳述する。複数の異なる生理活性分子を提示できる多量体分子を作製するために、市販されている8アームPEGデンドリマーを化学修飾して、コンジュゲーション反応を容易にする反応基を含めた。8アームPEG−ピリジルジスルフィドは、小分子および/またはシステイン含有ペプチドもしくはタンパク質のチオレートと容易に反応するピリジルジスルフィド基を含有し、結合した生理活性部分と8アームPEG骨格との間でジスルフィド結合が生じた。8アームPEGの多量体構造により、その骨格と、様々なペプチドまたは分子とのコンジュゲーションが可能になり、したがってその結合された部分によって複数の活性を有するヘテロ官能性の生体分子が作製される。インビトロ(図16A)およびインビボ(図16B)で赤血球に結合できる、ヘテロ官能性の蛍光8アームPEGコンストラクトを作製した。この結合は、非特異的MISペプチドを持つコンジュゲートが赤血球にほとんど、あるいはまったく結合しないことを証明したため、ERY1ペプチドに特異的な配列であった。蛍光8アームPEG−ERY1−ALEXAFLUOR647が静脈内投与から5時間後に循環赤血球上で検出され、細胞表面における半減期が2.2時間を示したため、インビボでの結合は、長く続いた(図17)。自己免疫糖尿病マウスモデルにおけるトレランスの誘導を証明するため、ERY1および糖尿病抗原クロモグラニンA(CrA)の両方とコンジュゲートされた8アームPEGを作製した。8アームPEG−ピリジルジスルフィド骨格のモジュール性により、様々なチオール含有分子を、化学量論的に決定された量の分子を連続的に加えることにより共コンジュゲート(co−conjugate)することが可能になる。
【0040】
分子融合体はポリマーを含んでもよい。ポリマーは分岐状でも、または線状でもよい。分子融合体はデンドリマーを含んでもよい。コンジュゲートは可溶性であり、患者への導入後に生体内で利用されるので、一般に、可溶性親水性の生体適合性ポリマーが使用され得る。可溶性ポリマーの例には、少なくとも100、400または100〜400,000(すべての範囲およびこれらの明示的な各値の間の値を意図している)の分子量を有するポリビニルアルコール、ポリエチレンイミンおよびポリエチレングリコール(本用語はポリエチレンオキシドを含む)がある。この文脈では、溶解性とは、水または生理食塩水中で1リットル当たり少なくとも1グラムの溶解性をいう。また、生分解性ポリマー、たとえば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸とのコポリマー、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピランおよびポリシアノアシレートのドメインを使用してもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、ポリペプチド−ポリマー結合、たとえば、コンジュゲート、を調製し、精製された組成物として薬学的に許容される状態でまたは医薬品賦形剤と共に体内に導入する。導入の部位は、たとえば、全身であっても、または組織もしくは移植部位であってもよい。
【0042】
当業者であれば、当該技術で知られた技術を用いて融合タンパク質を調製することができる。実施形態は、融合タンパク質を調製すること、それらを単離すること、および、他の作用物質を用いてまたは用いずに薬学的に許容される形態で、たとえば、TGF−βのインターロイキンとの組み合わせで、それらを投与することを含む。実施形態は、細胞をトランスフェクトすることにより、細胞を操作してインビボで融合タンパク質を作製するためのベクターおよび方法を含み、細胞はインビトロ、エキソビボまたはインビボでトランスフェクトされるものであり、かつ細胞は、組織移植片またはそれと異なるメンバーであるものである。以下の米国特許出願は、融合タンパク質を作製する目的を含むあらゆる目的のため出典明示により本明細書に組み込まれ、矛盾が生じた場合は、本明細書が優先する:米国特許第5227293号明細書、同第5358857号明細書、同第5885808号明細書、同第5948639号明細書、同第5994104号明細書、同第6512103号明細書、同第6562347号明細書、同第6905688号明細書、同第7175988号明細書、同第7704943号明細書、米国特許出願公開第2002/0004037号明細書、米国特許出願公開第2005/0053579号明細書、米国特許出願公開第2005/0203022号明細書、米国特許出願公開第2005/0250936号明細書、米国特許出願公開第2009/0324538号明細書。
【0043】
分子融合体の実施形態は、たとえば、寛容誘導抗原、および患者の赤血球に特異的に結合し、それにより抗原を赤血球に結合する赤血球結合部分を含む分子融合体を含み、寛容誘導抗原を含む物質に免疫寛容を引き起こすのに効果的な量で分子融合体は投与されるものである。実施形態は、たとえば、赤血球に特異的に結合し、ポリマー、分岐ポリマーおよび粒子からなる群から選択されるキャリアに結合した赤血球結合部分を含む組成物を含み、キャリアは治療薬に結合しているものである。粒子は、たとえば、マイクロ粒子でも、ナノ粒子でも、ポリマーソームでも、リポソームでも、またはミセルでもよい。赤血球結合部分は、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号1、およびそれらの保存的置換体からなる群から選択される配列の少なくとも5個の連続したアミノ酸残基を含むペプチドを含んでもよく、前記配列は赤血球に特異的に結合するものである。赤血球結合部分は、抗体、抗体フラグメント、アプタマー、scFvまたはペプチドリガンドを含んでもよい。分子融合体の実施形態は、赤血球結合部分、および、寛容誘導抗原、抗体、抗体フラグメント、ScFv、小分子薬剤、粒子、タンパク質、ペプチドまたはアプタマーを含む。
【0044】
改善された薬物動態のための赤血球結合リガンド
多くの薬剤は血液循環系に全身的に送達されるため、効果的な薬物送達という問題に対する解決策は、多くの場合、血液中の薬剤を長時間にわたり維持することに焦点を当てる。このため、長時間にわたり血液中で生物学的に利用可能な状態にある、長時間循環型(長い半減期の)療法剤の開発は、有効性、安全性および経済的実現可能性の観点から操作された新世代の薬剤を代表する。
【0045】
本発明の実施形態は、赤血球結合ペプチドと治療薬との分子融合体を含む。赤血球に特異的に結合するペプチドと治療薬または他の物質との分子融合体は、治療薬/物質の循環時間(インビボでの血液中の循環半減期)を長くする。実施例5および6は、その実施例を提供する。長くなるのは、たとえば血清中半減期が約1.5倍から20倍長くなり、当業者であれば、たとえば、約3倍または約6倍または約3倍から約6倍など、すべての範囲および明記した範囲内の値を意図していることをすぐに理解するであろう。
【0046】
分子融合体は、たとえば、ペプチドの組換え体の添加または化学的コンジュゲーションにより、治療薬または結合される分子もしくは粒子の反応性部位にペプチドを加えることにより達成することができる。固相ペプチド合成法を用いて様々な末端反応基を持つ純粋なペプチドを高収率で合成できるため、ペプチドを療法剤に結合するコンジュゲーション戦略は複数存在する。この官能基化法はタンパク質を併用した組換え法と異なるが、効果(赤血球結合が循環半減期の延長につながる)は同じであると想定される。
【0047】
本発明の一実施形態は、治療薬の薬物動態パラメーターを改善するツールとして、赤血球に特異的に結合する短いペプチドリガンドを用いて、治療薬に機能を付与することを含む。この半減期の延長法は、治療薬剤設計の重要なパラメーター、すなわち、製造が簡素であること、モジュール性および延長効果を調整できることを考慮に入れている。標準的な組換えDNA技術を用いて、新しい機能性または変化した機能性を含むようにタンパク質をアミノ酸レベルで容易に変化させられる。一般に、製造のしやすさ、機能的な治療用タンパク質への正確なフォールディング、および当初の療法剤そのものに対し生物物理学的変化がほとんどないことなどの理由から、機能を得るには、より短いペプチドドメインの使用に依存することは、より大きなポリペプチドドメインを使用することより好ましい。ポリペプチド、たとえば、ERY1、ヒト赤血球結合リガンドまたは抗体もしくは抗体フラグメントは、赤血球に特異的に結合し、さらに、たとえば、治療薬の循環半減期で判定されるバイオアベイラビリティーを向上させるべく治療薬にコンジュゲートするように操作してもよい。
【0048】
本明細書に報告した結果は、インスリン、酢酸プラムリンチド、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、エリスロポエチン、1型インターフェロンα、インターフェロンα2a、インターフェロンα2b、インターフェロンβ1a、インターフェロンβ1b、インターフェロンγ1b、β−グルコセレブロシダーゼ、アデノシンデアミナーゼ、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、インターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン11、第VIIa因子、第VIII因子、第IX因子、エクセナチド、L−アスパラギナーゼ、ラスブリカーゼ、腫瘍壊死因子受容体およびエンフビルチドなどの治療薬の薬物動態パラメーターを改善する分子融合体を作製する機会を与える。
【0049】
受動的な半減期の改善法を作り出そうとする他の研究者らによる試みは、薬剤の見かけの流体力学的半径を増大させることに焦点を当てている。腎臓の糸球体濾過装置は、血液成分が濾過される体内の主要部位である。濾過の主な決定因子は、血液中の分子の流体力学的半径である;すなわち、より大きな分子より、より小さな分子(<80kDa)の方が血液から濾過される程度が大きい。研究者は、この一般化された規則を用いて、より大きな流体力学的半径を示し、その結果、より長い半減期を示すように、主にポリエチレングリコール(PEG)などの大きな分子量の水溶性ポリマーへの化学的コンジュゲーションにより薬剤を修飾してきた。この方法が効果を上げることは、臨床現場で提供される多くのPEG化タンパク質および小分子療法剤で明らかである(Pasut and Veronese,2009;Fishburn,2008)。特にグラフト体または融合体の流体力学的半径が増大すると、多くの場合、循環半減期を長くするには効果的であるとはいえ、(Gao,Liuら,2009年)、これらの方法は、製造および生物学的エフェクター機能の維持に際して課題を提示する。コンジュゲーション反応が不均一になると、主に部位非特定的な化学作用の利用に起因して、様々な生物活性を持つ複雑な産物の混合物を生じさせることがある。詳細な生化学的特徴付けは、多くの場合、均一な治療製品を維持するため精密な精製方法に従って実施される(Huang,Goughら,2009年;Bailon,Palleroniら,2001年;Dhalluin,Rossら,2005年)。さらに、分岐PEGなどの大きな部分をタンパク質の反応領域に結合させると、受容体親和性が低下することもある(Fishburn,2008年)。
【0050】
他の研究者による他の研究は、薬剤の循環を長くするため、アルブミンに結合する治療用タンパク質を可能にした(Dennis,2002;Walker,Dunlevyら,2010年)。腎臓濾過に関する前述と同じ一般的な規則を考慮して、Dennisらは、療法剤を血液中の別のタンパク質(血清アルブミンなど)に結合するように操作することにより療法剤の見かけの大きさを増大させると、薬剤クリアランス速度が低下するとの仮説を立てた。この方法では、薬剤は、血流に投与された場合に限り大きな分子サイズになる。親和性成熟した血清アルブミン結合ペプチドを抗体フラグメントに付加すると、マウスではその循環時間が24倍長くなった(Dennis,2002)。この方法は効果的であるものの、胎児性Fc受容体(FcRn)によるアルブミンの再利用の動態、および機能性のためのシステイン拘束性(cystein−constrained)環状ペプチドの使用によって複雑になる。Walkerらは、2002年にDennisにより得られた結果、すなわち血清アルブミン親和性をタンパク質に付与すると、その半減期が長くなるということを裏付けた。Walkerらが記載した方法は、タンパク質薬剤への大きな抗体フラグメントの組換え体添加を含むものであり、これが、構造上および製造上の複雑さの原因となり得る。DennisおよびWalkerの方法は、明確かつ効果的ではあるものの、機能性のため複雑な環状ドメインまたは大きなドメインを使用することから複雑である。Dennisらにより発見されたペプチドはアルブミンに対して高親和性を示すとはいえ、使用前に環状構造を正確に形成するという物理的制約を必要とする。よりかさ高いアプローチである、より大きな抗体フラグメントを融合するWalkerの方法は、もともと複雑なフォールディング構造を持つか、または発現収率が低いタンパク質に対応できない場合がある。
【0051】
一本鎖抗体
本発明の実施形態は、scFvと赤血球に特異的に結合するペプチドとの分子融合体である。scFvは治療薬として使用することができ、赤血球結合ペプチドとの組み合わせを使用してその循環半減期を延長し、体内コンパートメントにアクセスさせてもよい。組換え抗体および組換え抗体フラグメントは、生物製剤産業において療法剤として有望である(Sheridan,2010)。
【0052】
一本鎖可変フラグメント(scFv)抗体フラグメントは、全長IgGの全抗原結合ドメインを含むが、ヒンジおよび定常フラグメント領域がない(Maynard and Georgiou,2000)。scFvの組換え体構築は、可変重鎖(V)ドメインと可変軽鎖(V)ドメインを、グリシンおよびセリンのタンデムリピート(たとえば(GGGGS))(配列番号18)からなる短いポリペプチドリンカーで融合することを含む。scFvの単純性は治療用途に好ましいものであるが、その主な問題は、分子量が26〜28kDaと比較的小さいため、短い循環半減期を示すことである(Weisser and Hall,2009)。
【0053】
scFvの設計に一般に使用されるグリシン−セリンリンカーは元来非機能性であり、どちらかと言えば、正確なV−Vフォールディングを確保する物理的架橋として存在するため、本明細書では、血液中の赤血球に結合する機能を示すリンカードメインを試験した。このため、操作したscFvは、V−Vドメインによりそのネイティブ抗原に対する親和性、およびそのリンカードメインにおいて赤血球に対する親和性を示す、多機能性かつ二重特異性であり得る。赤血球への結合において、操作したscFvは、これと同じ機能性を有する別のモデルタンパク質について証明されているように、より長い循環半減期を示す。scFv抗体フラグメントは、本明細書に記載するようなリンカーを有してもよいし、または当業者に周知の他のリンカーを与えてもよい。代替の実施形態は、scFvのリンカー領域に操作した遊離システイン基を供給し、このシステインのチオールを使用して化学的コンジュゲーションにより赤血球結合リガンドに結合する。
【0054】
scFv抗体は、実施例7に詳述するように操作した。操作したscFv抗体の設計は、リンカードメインの長さ、並びに赤血球結合ペプチドの間隔の重要性に着目して行った。野生型バリアントを設計し、抗原と(GGGGS)リンカー(配列番号18)との結合を検証してから、20アミノ酸の最小リンカー長のリンカーを含む変異体を設計した(図6A)。このリンカードメインは、scFvの正確なフォールディングをその正確な三次構造に調節できるため(図6B)、2つのERY1を含む変異体を設計した。REP変異体は、リンカードメインの中央に正確な数のGly残基およびSer残基に挟まれたERY1ペプチドを含み、親の20アミノ酸リンカー長を維持している。疎水性のERY1ペプチドが線状にならずに、より短い集合したドメインにクラスター化し得る場合には、REPのリンカー長が短いと考えられ、結果として正確なフォールディングを妨げる恐れがある。こうした理由から、ERY1ペプチドが、32アミノ酸に延長した親リンカードメインの中央に付加されるようにINS変異体を設計した。ERY1ペプチドは遊離N末端を含むことが分かったため、制約のある(constrained)ポリペプチド立体構造におけるその存在が赤血球結合に影響するかどうかは、不明であった。この挙動の可能性を検討するため、合成ERY1ペプチドとの化学的コンジュゲーションによりscFvバリアントを作製した。これにより、ペプチドのN末端は遊離状態で、C末端はscFvにコンジュゲートしている(図6C)。
【0055】
この方法では、赤血球結合ペプチドの数、したがってscFvの赤血球結合能を、コンジュゲーション反応の間、化学量論的に調整することができる。そのため、本明細書に教示した赤血球結合ペプチドを含むようにScFvを操作することができる。実施形態は、1〜20の範囲の多くのリガンドを含むscFvを含む;当業者であれば、たとえば、2〜6など、すべての範囲および明記した範囲内の値を意図していることをすぐに理解するであろう。
【0056】
実施形態は、たとえば、scFvに結合したOVAに対してトレランスを引き起こすことを例示して、トレランスを引き起こすことについて詳細を記載した実施例17のように、トレランスを誘導する分子融合体を作製するため寛容誘導抗原にコンジュゲートしたscFvを含む。実施例17はまた、抗原の免疫認識エピトープと組換え技術で融合したscFvタンパク質コンストラクトを作製するための材料および方法についても詳述する。scFvは、赤血球の認識を対象とする。抗原は、本明細書に記載するような抗原、たとえば、寛容誘導抗原である。本明細書に報告された実施例は、マウスのTER119 scFvをコンストラクトの抗体ドメインとして使用したマウスモデルを用いた結果について記載する。TER119は、マウス赤血球に結合する抗体である。TER119抗体ドメインは、他の抗体ドメイン、たとえばヒトまたは他の動物の赤血球に対するドメインで置き換えてもよい。たとえば、10F7抗体ドメインを使用して、ヒト赤血球に結合できる抗体−抗原コンストラクトを作製してもよい。TER−119由来のscFvと、OVAの免疫優性(immunodominant)MHC−Iエピトープ、クロモグラニンAミメトープ(mimetope)1040−p31、およびプロインスリンを含む実施例17に報告されるような3種の抗原とのさらなる融合体を作製した。
【0057】
実施形態は、実施例10および13と同様に、腫瘍マーカーに結合し、腫瘍への血液の流れを遮断するscFvを含む。たとえば、scFvは、腫瘍マーカーに結合し、さらに赤血球結合ペプチドとの分子融合体の一部分であってもよい。これらのコンジュゲートを使用して、腫瘍への血液の流れを遮断することにより癌を処置してもよい。
【0058】
腫瘍血管系などの特定の部位への赤血球の結合
操作された療法剤が赤血球に結合する能力は、薬剤の半減期を長くするだけでなく、赤血球に選択的に結合して体内の特定の部位に局在化させるためにも有用である。固形癌(solid tumor)の処置では、肝動脈化学塞栓療法(TACE)を用いて腫瘍への血液供給を限定し、それにより腫瘍の増殖に必要な栄養素との接触を妨げる。TACEの処置は、腫瘍の血液供給の上流へのポリマー固体マイクロ粒子の外科的挿入を含む。マイクロ粒子が腫瘍血管床に到達すると、血管網に物理的に捕捉されることで、腫瘍への血液供給の遮断が引き起こされる(Vogl,Naguibら,2009年)。
【0059】
TACEの主題に従えば、本明細書の実施形態は、赤血球結合ペプチドを含むように腫瘍ホーミング療法剤を操作することにより、血液中に循環する自家赤血球を、腫瘍塞栓術のための天然のマイクロ粒子として使用する。この方法では、療法剤は腫瘍血管床に局在化し、血管に結合する通過赤血球をリクルートし、それにより腫瘍塊への血液の流れを限定し、遮断する。こうした処置は、古典的なTACEより侵襲性が低い;本薬剤は、単純に静脈内注射し、塞栓術粒子として血液中に既に存在する天然の赤血球を使用するためである。腫瘍結合または腫瘍ホーミングという用語は、腫瘍血管系または腫瘍細胞の血液コンパートメントから接触できる成分に結合するペプチドをいう。
【0060】
癌研究の分野では、特異的な腫瘍ホーミング療法剤の発見が知られている。腫瘍の生理活性標的化のパラダイムは、腫瘍環境で特異的に発現するタンパク質マーカーに対する結合に依拠している。これには、RGD依存性インテグリン、アミノペプチダーゼAおよびN、エンドシアリン、細胞表面ヌクレオリン、細胞表面アネキシン−1、細胞表面p32/gC1q受容体、細胞表面プレクチン−1、フィブロネクチンEDAおよびEDB、インターロイキン11受容体α、テネイシン−C、エンドグリン/CD105、BST−2、ガレクチン−1、VCAM−1、フィブリンならびに組織因子受容体があるが、これに限定されるものではない。(Fonsatti,Nicolayら,2010年;Dienst,Grunowら,2005年;Ruoslahti,Bhatiaら,2010年;Thijssen,Postelら,2006年;Schliemann,Roesli年,2010年;Brack,Silacciら,2006年;Rybak,Roesliら,2007年)。これらの分子のいずれかを標的とした療法剤は、赤血球結合ペプチドを腫瘍血管系に運び、特異的閉塞を引き起こすベクターであってもよい。
【0061】
一実施形態は、癌性細胞または腫瘍血管系もしくは腫瘍血管系の成分、たとえば、内皮下層(一部が腫瘍の血液にさらされている)のタンパク質または腫瘍内皮細胞の表面のタンパク質に特異的に結合する第2のリガンドとコンジュゲートされた、赤血球に特異的に結合する第1のリガンドである。リガンドは、患者、たとえば、血流に導入される薬学的に許容される組成物の一部分であってもよい。リガンドは赤血球に結合し、腫瘍ホーミングリガンドは、腫瘍もしくは腫瘍血管系部位またはそれに近い部位、あるいは癌性細胞に結合する。赤血球は標的化部位に集まり、たとえば、血管を塞栓することにより、標的部位の栄養素への接触を遮断する。塞栓術が赤血球の物理的大きさにより決定され、力学的であることを考慮すると、塞栓術は急速になされる。
【0062】
固形癌はその血管供給に大きく依存しており、その血管供給の増加を遮断するため、あるいは、その血管供給の流れを遮断するため、生体分子療法剤および材料療法剤が開発されてきた。一実施形態は、既知または未知の部位の原発腫瘍または転移において、固形癌の血管系を迅速に閉塞するために全身注射される生体分子製剤または生体分子−ナノ粒子製剤である。
【0063】
腫瘍塞栓術は、粒子および生体分子を用いた方法の使用などいくつかの方法で行われてきた。ポリビニルアルコールから作られるものを含むバイオマテリアル粒子は、直径が腫瘍微小血管、たとえば直径50〜500マイクロメートルより大きいもので、経カテーテル動脈塞栓術またはTACEで臨床使用するために開発されてきた(Maluccio,Coveyら,2008年)。同様のアプローチとして、主に肝細胞癌の処置に使用される肝動脈化学塞栓療法(TACE)において徐放のため粒子内に導入された化学療法薬がある(Gadaleta and Ranieri,2010年)。どちらの場合も、通常、透視下でインターベンショナルラジオロジストにより動脈循環に粒子が注射され、これらの粒子は、腫瘍血管系に流れ込み、それを閉塞し、流れを遮断する(Maluccio,Coveyら,2008年)。これらの局所アプローチを用いる場合、カテーテルの留置により直接標的となる腫瘍のみが処置され、粒子は血管中で容易に標的化できないため、既知または未知の部位の転移などの他の腫瘍は処置されない。最近になって、たとえば、正常な血管系に存在しない血栓症因子および腫瘍血管内皮のマーカーの両方を認識する二重特異性抗体を用いる、生体分子アプローチが検討されている。抗体は、腫瘍血管系に特異的に結合した後、蓄積し、腫瘍血管内で凝血の形成を惹起して血管を遮断する;この作用は、抗体が腫瘍を標的とした場合のみ誘導された(Huang,Molemaら,1997年)。これらの生体分子アプローチは、特異的腫瘍血管の特徴(signature)を同定できる場合に、点滴静注から原発腫瘍および二次腫瘍の両方を標的とする利点がある;ただし、このアプローチは、腫瘍に対して迅速に機械的閉塞を与えないという問題がある。
【0064】
本発明の実施形態は、患者の腫瘍を塞栓する方法であって、標的化部分に結合する赤血球結合部分を含む組成物を患者に投与することを含み、標的化部分が、腫瘍および腫瘍微小血管からなる群から選択される標的に方向付けられた抗体、抗体フラグメントまたはペプチドであり、かつ赤血球結合部分が、赤血球に特異的に結合するペプチド、抗体、抗体フラグメントまたはアプタマーを含むものである、方法を含む。ペプチドは、たとえば、本明細書に記載されているような配列であってもよい。
【0065】
抗原特異的免疫学的トレランス
治療薬の薬物動態学的挙動を改善するだけでなく、赤血球親和性が、抗原特異的トレランスを引き起こす方法に使用され得ることが発見されている。ある種の実施形態を、実施例に記載する。
【0066】
実施例14は、ヒト挙動を予測するマウス動物モデルでトレランスがどのように引き起こされたかを詳述する。簡単に言えば、マウス赤血球に結合するペプチド、ERY1が発見された。ERY1と試験用抗原、オボアルブミン(OVA)との分子融合体が作製された。この融合体はインビボで赤血球に特異的に結合し、血液または血管系の分子など他の分子には結合しなかった。長い循環半減期が観察された。ERY1−OVAの赤血球結合は、抗原提示細胞(APC)によるOVA免疫優性MHC Iエピトープ(SIINFEKL)の効率的なクロスプレゼンテーションおよび対応する反応性T細胞のクロスプライミングを起こすことが観察された。ERY1−OVAは、OVAよりも、非常に多くのアネキシン−Vの増殖するOT−I CD8T細胞を誘導した(図12d)ことから、最終的にクローン除去が生じるであろうアポトーシスの運命が示唆された。確立されたOT−Iチャレンジ対トレランスモデル(Liu,Iyodaら,2002年)(図14a)を用いて、ERY1−OVAが、非常に強力な細菌由来のアジュバントを用いても、ワクチン介在性抗原チャレンジに対してその後の免疫応答を妨げることが証明された。ERY1−OVAの静脈内投与の結果、LPSでの抗原チャレンジ前に非修飾OVAを投与したマウスと比較して(図14c)、流入領域リンパ節(図14図14bにゲーティング)および脾臓におけるOT−I CD8T細胞集団が顕著に減少したことから、除去性トレランスが証明された。ERY1−OVAを投与したマウスで示されたこの効果的なクローン除去は、OT−I CD8T細胞のクロスプライミングの増強という前述の観察結果を支持するものであり(図12)、さらにクロスプライミングが共刺激分子のAPC提示の非存在下で起こり、除去性トレランスを起こしたことも示す。ERY1−OVAの静脈内投与により、OVA処置マウスと比較して、第1の抗原投与から19日後、OVA特異的血清IgGのレベルは39.8倍低くなった(図15)。抗原特異的免疫トレランスの誘導をさらに検証するため、OT−Iチャレンジ対トレランスモデルをOVA発現腫瘍移植片モデルと組み合わせたところ(図14)、好ましい結果が得られた。この実施例に詳述された結果から、ERY1−OVAによる赤血球結合は、抗原特異的免疫トレランスを誘導することが証明される。これは、強力なアジュバントチャレンジ、および異種抗原を発現する移植された細胞移植片に応答して示された。さらに、トレランスは、直接的なCD4T細胞の制御に関係なく、循環赤血球上に存在する抗原との相互作用を介した反応性CD8T細胞の機能的不活性化および除去によっても達成された。ERY1、マウス赤血球結合ペプチド、を用いたこれらの詳細な実験から、いくつかの本明細書に教示されたヒト赤血球結合ペプチドを用いて、ヒトでも同様の結果が予測される。さらに、ペプチドリガンドが効果的であることが示されたため、他の赤血球結合リガンド、たとえば、抗体、抗体フラグメントまたはアプタマーとのコンジュゲートを用いても同様の結果が得られ得る。
【0067】
これに対し、従来の報告は、赤血球の表面への抗原の結合により免疫拒絶が引き起こされ、それによりワクチンを製造するとし、また、他の報告は、ワクチンを製造するため、赤血球内に封入された抗原を使用していた。たとえば、赤血球内に抗原を封入すると、それによりワクチンが製造される(Murrayら,Vaccine 24:6129〜6139(2006年))。あるいは、赤血球表面にコンジュゲートした抗原は免疫原性を持ち、ワクチンとして提案された(Chiarantini年,Vaccine 15(3):276〜280(1997年))。これらの参考文献は、赤血球送達アプローチが、アジュバントを含む通常のワクチンで得られるのと同様の免疫応答を誘導することを示す。肝臓でのクッパー(Kupfer)細胞によるクリアランスを高めるように赤血球表面を改変するためのいくつかの手段を教示する、国際公開第2011/051346号パンフレットのように、他の研究者らは、トレランスを誘導するには、赤血球内への配置が必要であると報告している。この同じ出願にはまた、グリコホリンAなどの赤血球表面タンパク質に結合する抗体も教示されているが、クッパー細胞によるそのクリアランスを高めるために、赤血球上に免疫複合体を作ることを目的としたものである。
【0068】
本明細書に記載された実施形態は、免疫寛容を引き起こす方法であって、寛容誘導抗原、および患者の赤血球に特異的に結合し、それにより抗原を赤血球に結合する赤血球結合部分を含む分子融合体を含む、組成物を投与することを含み、ここに、該分子融合体は寛容誘導抗原を含む物質への免疫寛容を引き起こすために効果的な量で投与されるものである方法を提供する。赤血球および患者は、赤血球に他の変化を引き起こす処置を受けなくてもよく、また、赤血球架橋、化学的共有結合コンジュゲーション、コーティング、およびペプチドの特異的結合以外の他の変化を受けなくてもよい。分子融合体は、抗原に直接共有結合した赤血球結合部分を含んでもよく、またはそれからなってもよい。分子融合体は、抗原に結合する粒子に結合した赤血球結合部分を含んでもよい。粒子は、マイクロ粒子、ナノ粒子、リポソーム、ポリマーソームまたはミセルを含んでもよい。寛容誘導抗原は、治療用タンパク質の一部分、たとえば、血液因子の産生欠如を患う患者に投与される血液因子を含んでもよい。実施形態は以下の例を含む:患者がヒトであり、寛容誘導抗原が、患者が遺伝的に欠損しているヒトタンパク質である例;患者がヒトであり、寛容誘導抗原が、非ヒトタンパク質の一部分を含む例;患者がヒトであり、寛容誘導抗原が、ヒトに天然には見出されない操作された治療用タンパク質の一部分を含む例;患者がヒトであり、寛容誘導抗原が、非ヒト型グリコシル化を含むタンパク質の一部分を含む例;寛容誘導抗原がヒト自己免疫疾患タンパク質の一部分を含む例;寛容誘導抗原が同種移植における抗原である例;寛容誘導抗原が、ヒトの食品からなる群から選択される物質の一部分を含む例;ならびに/または赤血球結合部分がペプチド、抗体および抗体フラグメントからなる群から選択される例。実施形態は、赤血球結合部分が配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号1およびそれらの保存的置換体からなる群から選択される配列の少なくとも5個の連続したアミノ酸残基を含むペプチドを含み、前記配列は赤血球に特異的に結合する、寛容化の材料および方法を含む。
【0069】
分子融合体は、抗原を赤血球の内側に配置するように選択しても、または外側に配置するように選択してもよい。特定の作用機序に拘束されるものではないが、以下の理論を提示する。ヒトの場合、赤血球の約1%がアポトーシス性(エリプトーシス性(eryptotic))になり、毎日除去され、多くの細胞およびそのタンパク質が、赤血球自己抗原に対するトレランスを維持するように処理される。ERY1ペプチドまたはヒト赤血球結合ペプチドの使用により赤血球に結合するように操作された抗原、赤血球結合一本鎖抗体もしくは抗体、赤血球結合アプタマー、または別の赤血球結合剤もまた、同じ寛容誘導応答を惹起させることができる。Millerらにより開発された現在の最新の方法(上記を参照)が、再投与のためドナー脾細胞を採取し、反応させる必要があるという点で煩雑であることを踏まえると、我々の非共有結合的赤血球結合法は、より簡素な代替法となる。ERY1−赤血球、もしくはヒト赤血球結合ペプチド−赤血球、または他の親和性生体分子(一本鎖抗体、抗体もしくはアプタマーなど)の相互作用は、インビボで抗原コンジュゲートまたは融合体を導入した後、自然に起こるため、操作された抗原は注射により単純に投与され、結合はin situで起こる。
【0070】
場合によっては、寛容誘導抗原は、トレランスが望まれる治療薬タンパク質から得る。例として、野生型のタンパク質薬剤、たとえば、ヒト第VIII因子または第IX因子(患者にこれらのタンパク質が欠損していたため、中枢性トレランスを確立できなかったもの);またはヒトに使用される非ヒトタンパク質薬剤が挙げられる。他の例として、製造のため非ヒトでグリコシル化されるタンパク質薬剤、または操作されたタンパク質薬剤、たとえば、望ましくない免疫応答を誘発し得る非ネイティブ配列を有するものが挙げられる。ヒトに天然には見出されない操作された治療用タンパク質である寛容誘導抗原の例には、操作された変異、たとえば、薬理学的特性を向上させるための変異を持つヒトタンパク質がある。非ヒト型グリコシル化を含む寛容誘導抗原の例には、酵母または昆虫細胞で産生されたタンパク質がある。
【0071】
実施形態は、ある頻度Xまたは用量Yでタンパク質を投与し、さらに、そのタンパク質由来の抗原をより低い頻度および/または用量、たとえば、0.2X以下の頻度、または0.2Y以下の用量で投与することを含む;当業者であれば、たとえば、0.01または005Xまたはその間のある範囲など、すべての範囲および明記した範囲内の値を意図していることをすぐに理解するであろう。
【0072】
実施形態は、タンパク質が欠損しているヒトに投与されるタンパク質由来の寛容誘導抗原を選択することを含む。欠損とは、タンパク質を投与される患者が自然にそのタンパク質を十分に生成しないことを意味する。さらに、タンパク質は、患者が遺伝的に欠損しているタンパク質であってもよい。こうしたタンパク質には、たとえば、アンチトロンビン−III、タンパク質C、第VIII因子、第IX因子、成長ホルモン、ソマトトロピン、インスリン、酢酸プラムリンチド、メカセルミン(IGF−1)、β−グルコセレブロシダーゼ、アルグルコシダーゼ−α、ラロニダーゼ(α−L−イズロニダーゼ)、イデュルスファーゼ(イズロネート−2−スルファターゼ)、ガルスルファーゼ、アガルシダーゼ−β(α−ガラクトシダーゼ)、α−1プロテイナーゼ阻害剤およびアルブミンがある。
【0073】
実施形態は、非ヒトタンパク質由来の寛容誘導抗原を選択することを含む。こうしたタンパク質の例には、アデノシンデアミナーゼ、膵リパーゼ、膵アミラーゼ、ラクターゼ、A型ボツリヌストキシン、B型ボツリヌストキシン、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ、パパイン、L−アスパラギナーゼ、ラスブリカーゼ、レピルジン、ストレプトキナーゼ、アニストレプラーゼ(アニソイル化プラスミノーゲンストレプトキナーゼ活性化因子複合体)、抗胸腺細胞グロブリン、マムシ科多価免疫Fab、ジゴキシン免疫血清Fab、L−アルギナーゼおよびL−メチオナーゼがある。
【0074】
実施形態は、ヒト同種移植抗原由来の寛容誘導抗原を選択することを含む。これらの抗原の例には、様々なMHCクラスIおよびMHCクラスIIハプロタイプタンパク質のサブユニット、ならびにRhCE、Kell、Kidd、DuffyおよびSsなどの少ない血液型抗原の単一アミノ酸多型がある。
【0075】
場合によっては、寛容誘導抗原は、患者が自己免疫応答を示しているか、または自己免疫応答を示す可能性がある自己抗原である。例として、プロインスリン(糖尿病)、コラーゲン(関節リウマチ)、ミエリン塩基性タンパク質(多発性硬化症)がある。ヒト自己免疫タンパク質である多くのタンパク質が存在する;言い換えれば、疾患を引き起こすタンパク質が公知であるかまたは通常の検査で確認できる、様々な自己免疫疾患が存在する。実施形態は、自己免疫タンパク質を同定するため患者を検査すること、および分子融合体に使用される抗原を作製すること、およびタンパク質に対する免疫寛容を引き起こすことを含む。実施形態は、以下のタンパク質の1つ以上に由来の抗原、または以下のタンパク質の1つ以上に由来の抗原を選択することを含む。1型糖尿病では、以下のいくつかの主要な抗原が同定されている:インスリン、プロインスリン、プレプロインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ−65(GAD−65)、GAD−67、インスリノーマ関連タンパク質2(IA−2)およびインスリノーマ関連タンパク質2β(IA−2β);他の抗原として、ICA69、ICA12(SOX−13)、カルボキシペプチダーゼH、Imogen 38、GLIMA 38、クロモグラニンA、HSP−60、カルボキシペプチダーゼE、ペリフェリン、グルコーストランスポーター2、肝細胞癌−腸−膵臓/膵臓関連タンパク質(hepatocarcinoma−intestine−pancreas/pancreatic associated protein)、S100β、グリア線維性酸性タンパク質、リジェネレーティングジーンII(regenerating gene II)、膵臓十二指腸ホームボックス1(pancreatic duodenal homeobox 1)、筋強直性ジストロフィーキナーゼ、膵島特異的グルコース−6−ホスファターゼ触媒サブユニット関連タンパク質およびSST Gタンパク質共役型受容体1〜5がある。橋本甲状腺炎およびグレーブス病などの甲状腺の自己免疫疾患には、主要な抗原として、チログロブリン(TG)、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)およびサイロトロピン受容体(TSHR)があり;他の抗原として、ナトリウムヨウ素共輸送体(NIS)およびメガリンがある。甲状腺関連眼疾患および皮膚症には、TSHRなどの甲状腺自己抗原だけでなく、抗原としてインスリン様成長因子1受容体がある。副甲状腺機能低下症には、主要な抗原としてカルシウム感受性受容体がある。アジソン病には、主要な抗原として、21−ヒドロキシラーゼ、17α−ヒドロキシラーゼおよびP450側鎖切断酵素(P450scc)があり;他の抗原として、ACTH受容体、P450c21およびP450c17がある。早期卵巣機能不全には、主要な抗原として、FSH受容体およびα−エノラーゼがある。自己免疫性下垂体炎、または下垂体自己免疫疾患には、主要な抗原として、下垂体特異的タンパク質因子(PGSF)1aおよび2があり;別の抗原には、2型ヨードチロニンデヨージナーゼがある。多発性硬化症には、主要な抗原として、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質およびプロテオリピドタンパク質がある。関節リウマチには、主要な抗原としてコラーゲンIIがある。免疫胃炎には、主要な抗原として、H,K−ATPアーゼがある。悪性貧血(pernicious angemis)には、主要な抗原として内因子がある。セリアック病には、主要な抗原として、組織トランスグルタミナーゼおよびグリアジンがある。白斑には、主要な抗原として、チロシナーゼならびにチロシナーゼ関連タンパク質1および2がある。重症筋無力症には、主要な抗原として、アセチルコリン受容体がある。尋常性天疱瘡およびバリアントには、主要な抗原として、デスモグレイン3、1および4があり;他の抗原として、ペンファキシン(pemphaxin)、デスモコリン、プラコグロビン、ペルプラキン(perplakin)、デスモプラキンおよびアセチルコリン受容体がある。水疱性類天疱瘡には、主要な抗原としてBP180およびBP230があり;他の抗原として、プレクチンおよびラミニン5がある。ジューリング疱疹状皮膚炎には、主要な抗原として、筋内膜および組織トランスグルタミナーゼがある。後天性表皮水疱症には、主要な抗原として、コラーゲンVIIがある。全身性硬化症には、主要な抗原として、マトリックスメタロプロテイナーゼ1および3、コラーゲン特異的分子シャペロン熱ショックタンパク質47、フィブリリン−1ならびにPDGF受容体があり;他の抗原として、Scl−70、U1 RNP、Th/To、Ku、Jo1、NAG−2、セントロメアタンパク質、トポイソメラーゼI、核小体タンパク質、RNAポリメラーゼI、IIおよびIII、PM−Slc、フィブリラリンならびにB23がある。混合性結合組織病には、主要な抗原として、U1snRNPを含む。シェーグレン症候群には、主要な抗原として、核抗原SS−AおよびSS−Bがあり;他の抗原として、フォドリン、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼおよびトポイソメラーゼがある。全身性紅斑性狼瘡には、主要な抗原として、SS−A、ハイモリティ・グループ・ボックス1(HMGB1)、ヌクレオソーム、ヒストンタンパク質および二本鎖DNAなどの核タンパク質がある。グッドパスチャー症候群には、主要な抗原として、コラーゲンIVなどの糸球体基底膜タンパク質がある。リウマチ性心疾患には、主要な抗原として心筋ミオシンがある。多腺性自己免疫症候群1型で明らかにされた他の自己抗原には、芳香族L−アミノ酸デカルボキシラーゼ、ヒスチジンデカルボキシラーゼ、システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ、トリプトファンヒドロキシラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、肝臓P450チトクロームP450 1A2および2A6、SOX−9、SOX−10、カルシウム感知受容体タンパク質ならびに1型インターフェロンのインターフェロンα、βおよびωがある。
【0076】
場合によっては、寛容誘導抗原は、患者が望ましくない免疫応答を示したことがある外来抗原である。例として、食物抗原がある。実施形態は、外来抗原を同定するため患者を検査すること、および抗原を含む分子融合体を作製すること、および抗原または食品に対する免疫寛容を起こすように患者を処置することを含む。こうした食品および/または抗原の例を提供する。例として、ピーナッツ由来のもの:コンアラキン(Ara h 1)、アレルゲンII(Ara h 2)、ピーナッツアグルチニン、コングルチン(Ara h 6);リンゴ由来のもの:31kdaの主要アレルゲン/耐病性タンパク質ホモログ(Mal d 2)、脂質転移タンパク質前駆物質(Mal d 3)、主要アレルゲンMal d 1.03D(Mal d 1);乳由来のもの:α−ラクトアルブミン(ALA)、ラクトトランスフェリン;キウイ由来のもの:アクチニジン(Act c 1、Act d 1)、フィトシスタチン、タウマチン様タンパク質(Act d 2)、キウェリン(kiwellin)(Act d 5);カラシナ由来のもの:2Sアルブミン(Sin a 1)、11Sグロブリン(Sin a 2)、脂質転移タンパク質(Sin a 3)、プロフィリン(Sin a 4);セロリ由来のもの:プロフィリン(Api g 4)、高分子量糖タンパク質(Api g 5);エビ由来のもの:Pen a 1アレルゲン(Pen a 1)、アレルゲンPen m 2(Pen m 2)、速筋トロポミオシンアイソフォーム;コムギおよび/または他の穀類由来のもの:高分子量グルテニン、低分子量グルテニン、α−およびγ−グリアジン、ホルデイン、セカリン、アベニン;イチゴ由来のもの:主要イチゴアレルギーFra a 1−E(Fra a 1)、バナナ由来のもの:プロフィリン(Mus xp 1)がある。
【0077】
ヒトおよび動物医薬に使用される多くのタンパク質薬剤は、患者にリスクとなる免疫応答を誘導し、薬剤の有効性を限定的なものにする。これは、操作されたヒトタンパク質、ヒトタンパク質の生成に先天性欠損のある患者に使用したヒトタンパク質、および非ヒトタンパク質で起こる場合がある。最初の投与の前にこれらのタンパク質薬剤の被投与者を寛容化することは都合がよいと考えられ、さらに最初の投与後、および免疫応答を示した後に、これらのタンパク質薬剤の被投与者を寛容化することも、都合がよいと考えられる。自己免疫の患者では、自己免疫を示す自己抗原が知られている。こうした場合には、自己免疫を示す前にリスクのある被検体を寛容化することが有利であると考えられ、さらに初期の自己免疫の生体分子指標を示した時点またはその後に、被検体を寛容化することも有利であると考えられる。たとえば、1型糖尿病の場合、膵臓のβ細胞の広範な破壊の前、およびグルコースホメオスタシスに関係する臨床疾患の発症の前に自己免疫の免疫学的指標が存在する。臨床疾患の発症の前これらの免疫学的指標を検出したら被検体を寛容化することは、有利であると考えられる。
【0078】
Millerらをリーダーとした最近の研究により、抗原をエキソビボで同種脾細胞に共有結合的にコンジュゲートしてマウスに静脈内投与すると、抗原特異的免疫トレランスが引き起こされることが示された(Godsel,Wang年,2001年;Luo,Pothovenら,2008年)。このプロセスは、ドナー脾臓の抗原提示細胞を採取すること、およびアミン−カルボン酸架橋反応スキームでそれらを化学的に反応させることを含む。この技術は、多発性硬化症(Godsel,Wangら,2001年)、初発1型糖尿病(Fife,Guleriaら,2006年)、および同種膵島移植(Luo,Pothovenら,2008年)のマウスモデルに抗原特異的トレランスを誘導するのに効果的であることが立証されている。寛容誘導応答に関与する正確なメカニズムは明らかにされていないが、主要な要件として、アポトーシスの抗原結合細胞に共刺激分子を発現してない抗原提示があることが提唱されている(Miller,Turleyら,2007年)。さらに、国際公開第2011/051346号パンフレットのように赤血球ゴースト内に抗原を封入し、赤血球をエキソビボで処理し、再注射することも検討されてきた。
【0079】
投与
本明細書に記載した本発明の多くの実施形態は、ヒトまたは他の動物患者に投与してもよい組成物について記載する。本発明の実施形態は、たとえば、赤血球または腫瘍または腫瘍血管系のほか、これらの組み合わせの抗原を認識する分子融合体、融合タンパク質、ペプチドリガンド、抗体、scFvを含む。これらの組成物は、好適な薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤と共に薬学的に許容される組成物として調製してもよい。
【0080】
赤血球に結合する組成物は、特異的に結合することができる。この特異性は、インビボでの組成物と赤血球との結合のほか、代替のエキソビボでのプロセスを可能にする。したがって、組成物は、患者の血管系に直接注射してもよい。それに代わるものとして、その後の赤血球との接触および取り込みのため、組織、たとえば、筋肉、皮膚または皮下への注射がある。
【0081】
本明細書に記載するような実施形態を送達するため、薬学的に許容されるキャリアまたは賦形剤を使用してもよい。賦形剤とは、治療薬に希釈剤または媒体として使用される不活性な物質をいう。薬学的に許容されるキャリアは一般に、治療のためにまたは製品として化合物が有用となるように化合物と一緒に使用する。一般に、任意の物質の場合、薬学的に許容されるキャリアは、動物に送達するためにその物質と組み合わせる材料である。通常の薬学的キャリア、水性基剤、粉末基剤または油性基剤、増粘剤および同種のものが必要であるか、または望ましいことがある。場合によっては、キャリアは、たとえば、液体送達のため不溶性化合物を可溶化するため送達に不可欠であり、活性を維持するため物質のpHを制御するための緩衝剤;または貯蔵容器内の物質の消失を防ぐための希釈剤がある。一方、他の場合には、キャリアは便宜上、たとえば、より投与に都合がよいような液体である。当業者に公知の方法により、本明細書に記載の化合物の薬学的に許容される塩を合成してもよい。したがって、薬学的に許容される組成物は、混入物を含まないように高度に精製され、生体適合性であり、かつ毒性がなく、患者への投与に適したキャリア、塩または賦形剤をさらに含むものである。水がキャリアの場合は、水を高度に精製し、混入物、たとえば、エンドトキシンを含まないように処理する。
【0082】
本明細書に記載の化合物は典型的には、目的の投与形態に関連して適切に選択され、かつ従来の医療慣行に沿った好適な薬学的希釈剤、賦形剤、増量剤またはキャリア(本明細書では薬学的に許容されるキャリアまたはキャリアという)との混合物として投与する。したがって送達可能な化合物は、経口投与、直腸投与、局所投与、静脈内注射、関節内注射または非経口(parentally)投与に好適な形態で製造してもよい。キャリアは固体または液体を含み、キャリアの種類は、用いられる投与の種類に基づき選択される。たとえば、丸剤の場合には、キャリアとして好適な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、着香剤、流動化剤および溶解剤を含めてもよい。たとえば、活性成分は、薬学的に許容される無毒の不活性な経口キャリア、たとえばラクトース、ゼラチン、寒天、デンプン、スクロース、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトールおよび同種のものと組み合わせてもよい。化合物は、カプセル剤、錠剤および散剤など固形剤形で経口投与しても、またはエリキシル剤、シロップ剤および懸濁剤など液体剤形で経口投与してもよい。また活性化合物は、無菌の液体剤形で非経口投与してもよい。生理的pHまたはモル浸透圧濃度を達成するため緩衝液を使用してもよい。
【実施例】
【0083】
実施例1:マウス赤血球を用いた赤血球結合ペプチドのスクリーニング
選択には、New England Biolabs(NEB)から市販されているPhDナイーブ12アミノ酸ペプチドファージライブラリーを使用した。スクリーニングの各ラウンドに、50mg/mLのBSA(PBSA−50)を含むPBS中、1011のインプットファージをマウス赤血球とインキュベートした。37Cで1時間後、非結合ファージを、パーコール(GE Life Sciences)を用いて1500gで15分間遠心分離により除去した。引き続き、低親和結合ファージを除去するためPBSA−50中で解離ステップを行った。選択プロセスの厳密性を高めるため、後のラウンドのスクリーニングでは解離の持続時間を長くし、温度を上昇させた。ラウンド1では、ファージの結合後に、洗浄および溶出の前に2分の解離ステップを室温で行った。ラウンド2では、ファージの結合後に、10分の解離を37℃で行った。ラウンド3および4では、2種の連続した解離ステップを37℃で行った。すなわち、ラウンド3では10分に続き15分、ラウンド4では10分に続き30分行った。赤血球結合ファージを0.2Mのグリシン、pH2.2で10分間溶出し、この溶液を0.15量の1Mのトリス、pH9.1で中和させた。全赤血球に対して4ラウンドの選択を行い、フローサイトメトリーで示されるように、ライブラリーを高親和性ファージクローンに実質的に濃縮した。感染またはプラーク形成単位を標準的な力価測定法により算出した。ファージサンプルを新鮮なLB培地に段階希釈し、10μLのファージ希釈液を200μLの対数期初期ER2738大腸菌(E.coli)(NEB)に加えた。室温で3分のインキュベーション後、この溶液を3mLの上層寒天に加え、混合し、IPTGおよびXGalを含むLBプレートに注いだ。37℃で一晩インキュベーション後、青色のコロニーをプラーク形成単位(pfu)と見なした。
【0084】
実施例2:マウス赤血球に対する結合の特徴付け
結果:顕微鏡観察から、ERY1ファージが細胞形態を変化させず、かつ細胞質移行をせずに、赤血球細胞表面に結合することが確認された。蛍光および位相差画像により、非選択ライブラリーと比較してERY1ファージの赤血球結合能が再確認された。高解像度共焦点イメージングからは、ERY1ファージが細胞表面全体に分布し(単一部位でクラスター化するのではなく)、細胞表面の赤道周辺に優先的に結合すること、および結合が赤血球間で均一であることが明らかになった(図1)。
【0085】
方法:すべてのサンプルについて、PBS−50中で1011のインプッファージをマウス赤血球とインキュベートした。37Cで1時間後、200gで3分間の遠心分離により非結合ファージを除去した。標準的な蛍光顕微鏡サンプルの場合は、PBSA−5を用いて1:20で希釈した抗M13コートタンパク質−PE抗体(Santa Cruz Biotechnology))と細胞を室温で1時間インキュベートした。細胞を200gで3分間回転させ、10μLのhard−set mounting medium(VECTASHIELD)に再懸濁し、顕微鏡用スライドに載せ、カバースリップでカバーし、可視化した。共焦点顕微鏡サンプルの場合は、細胞をウサギ抗fdバクテリオファージ(Sigma)および抗ウサギALEXAFLUORコンジュゲート(Invitrogen)とインキュベートした。

【0086】
実施例3:マウス赤血球に結合する分子標的の特徴付け
結果:ERY1ペプチドの分子標的の探索には、ビオチン化した可溶性ペプチドを用いた親和性プルダウン法を利用した。この方法により、赤血球膜上のERY1リガンドとしてグリコホリンA(GYPA)が明らかになった。ビオチン官能基を有するERY1ペプチドおよび光活性化型クロスリンカーと全赤血球をインキュベートして、ストレプトアビジンウエスタンブロットで検出したところ、単一の28kDaのタンパク質がペプチド−ビオチン複合体とコンジュゲートした(図2A)。この反応ライセートを十分に洗浄し、赤血球ライセートに非標識タンパク質が確実に残存しないようにストレプトアビジン磁性ビーズを用いて精製した。予想通り、ミスマッチペプチドは、どの赤血球タンパク質ともコンジュゲートしなかった。ミスマッチペプチドPLLTVGMDLWPW(配列番号2)は、ERY1と同じアミノ酸残基を含み、その疎水性分布(hydropathy topography)と一致するように設計した。この相互作用タンパク質の見かけの大きさの証明から、考えられるリガンドとしていくつかのより小さい1回膜貫通タンパク質、すなわち、グリコホリンが示唆された。架橋反応から精製された同じサンプルの抗GYPAウエスタンブロッティングにより、この候補ビオチン化タンパク質が実際にGYPAであることが確認された(図2B)。
【0087】
ERY1ファージとGYPAとの共局在を高解像度の共焦点顕微鏡により解析した。GYPAは自然に発現し、いくつかの膜および細胞骨格タンパク質を含む複合体の一部分として存在する(Mohandas and Gallagher,2008)。これは、GYPAの染色で視覚的に明らかになり、そのため細胞の赤道周辺では不均一性の標識が認められる。ERY1ファージによる標識も、非常に類似した染色分布が得られた。共局在解析におけるオーバーラップ係数が0.97と高いことから、ERY1ファージおよび抗GYPAが同じタンパク質に結合するという結論が裏付けられる。また、ライブラリーファージで標識しても、ファージの結合がなかった赤血球ではGYPAクラスター形成も認められたため、共局在がないことが明らかであった。
【0088】
方法:TGR樹脂上の標準的な固相f−moc化学を用いて、ERY1(HN−WMVLPWLPGTLDGGSGCRG−CONH)(配列番号19)ペプチドおよびミスマッチ(HN−PLLTVGMDLWPWGGSGCRG−CONH)(配列番号20)ペプチドを合成した。ペプチドは、95%トリフルオロ酢酸、2.5%エタンジチオール、2.5%水中で樹脂から切り離し、氷冷ジエチルエーテルで沈殿させた。精製は、C18逆相カラムを用いてWaters分取HPLC−MSで行った。
【0089】
ERY1およびミスマッチペプチドをMts−Atf−ビオチン(Thermo Scientific)に、製造者が推奨にようにコンジュゲートした。簡単に言えば、ペプチドをPBS/DMFに可溶化し、1.05当量のMts−atf−ビオチンと一晩4Cで反応させた。反応物を遠心分離により清澄化した後、PBSA−50中、1時間37Cでビオチン化ペプチドを赤血球とインキュベートし、細胞を新しいPBSで2回洗浄し、365nmにて室温で8分間UV照射した。細胞を音波処理により溶解させ、ライセートを、ストレプトアビジンコート磁性ビーズ(Invitrogen)を用いて精製した。溶出液をSDS−PAGEにかけ、PVDF膜に転写し、ストレプトアビジン−HRP(R&D Systems)または抗マウスGYPAでイムノブロットした。
【0090】
実施例4:他のマウス細胞および他の種由来の赤血球に対する、ERY1の結合の、またはERY1の結合がないことの、特徴付け
結果:一連の種間細胞株のフローサイトメトリーによるスクリーニングにより、ERY1ファージがマウスおよびラット赤血球に対して特異的であり、マウス白血球またはヒト細胞に測定できるほど結合しないことが証明された(図3)。これらのデータから、ERY1リガンドとして働く特異的膜タンパク質は、赤血球細胞にのみ認められ、骨髄またはリンパ系細胞系譜には認められないことが示唆された。さらに、このことにより、標的の遠心分離以外に事前の精製をほとんど行わずに新たに単離された血液を使用するスクリーニング方法の妥当性も立証された。
【0091】
方法:ファージ結合を判定するため、約1010のファージ粒子を使用して5×10細胞をPBSA−50中、37Cで1時間標識した。200gで4分の遠心分離後、細胞をPBSA−5に再懸濁し、1:20希釈にて室温で1時間抗ファージ−PEを加えた。最終の回転/洗浄サイクル後、細胞をPBSA−5に再懸濁し、フローサイトメーターで解析した。
【0092】
実施例5:モデルタンパク質による血管内薬物動態の特徴付け
結果:我々は、タンパク質の薬物動態に対するERY1ペプチドの作用の特徴付けを行うため、モデルタンパク質マルトース結合タンパク質(MBP)をERY1ペプチドとのN末端融合体として発現させた(ERY1−MBP)。血管内投与すると、このERY1−MBPバリアントは、野生型タンパク質と比較して循環の延長を示した(図4)。注射直後に取得した時点での血液サンプルから、どちらの製剤も初濃度、したがってその用量が同一であることが確認された。静脈内注射の4時間後から、ERY1−MBPは、非結合の生型MBPより統計学的に有意にゆっくりとした速度で循環から除去された。
【0093】
ERY1−MBPは野生型MBPと比較して、血清中半減期が3.28倍(シングルコンパートメントモデルの場合)から6.39倍(2−コンパートメントモデル)長くなること、さらに、クリアランスが2.14倍低下することが証明された。標準的な1−コンパートメント薬物動態モデルを用いて濃度解析を行ったところ、野生型バリアントおよびERY1バリアントの半減期はそれぞれ0.92時間および3.02時間であった。このデータは2−コンパートメントモデル(R≧0.98)にも正確に適合し、野生型バリアントおよびERY1バリアントのα半減期およびβ半減期はそれぞれ0.41時間および1.11時間、および2.62時間および3.17時間であった。したがって、本明細書に教示されたヒト赤血球結合ペプチドおよび他の赤血球結合リガンドによる半減期の延長を予想することができる。
【0094】
方法:標準的なプラスミド単離キットを用いて、クローン複製形態M13KE DNAを抽出した。得られたプラスミドをAcc651およびEagIで消化してgIII融合遺伝子を得、次いでpMAL−pIIIの同じ部位にライゲートし、本明細書でpMAL−ERY1と呼ぶプラスミドを得た。配列確認済みのクローンをBL21 大腸菌(E.coli)に発現させた。簡単に言えば、対数増殖中期のBL21培養物を最終濃度0.3mMになるようにIPTGで37Cにて3時間誘導した。20mMのトリス、20%スクロース、2mMのEDTAで10分間浸透圧ショック処理し、続いて5mMのMgSO中、4℃で15分間第2の処理を行い、ペリプラズムに発現したMBP融合体を細胞片から単離できるようにした。アミロースセファロースで融合タンパク質の精製を行い、SDS−PAGEにより純度を解析した。
【0095】
Swiss Vaud獣医局(Veterinary Office)は既にすべての動物処置を承認した。ケタミン/キシラジンによる麻酔下で、マウス尾を42℃の水で温め、150μgのタンパク質を100μL量で直接尾静脈に注射した。マウスを麻酔下で37℃に確実に維持するように注意した。尾の付け根を小刀で切開して血液を採取し、PBSA−5、10mMのEDTAで10倍希釈し、その後解析まで−20Cで保存した。サンドイッチELISAにより血液サンプルをMBP濃度について解析した。簡単に言えば、モノクローナルマウス抗MBPを捕捉抗体として、ポリクローナルウサギ抗MBPを一次抗体として、およびヤギ抗ウサギHRPを二次抗体として使用した。下記式1および式2を使用し、標準的な薬物動態コンパートメント解析を用いてPRISM4でデータを解析した
式1:標準的な1−コンパートメントモデル
【数1】
式中、Aはt時における体内の遊離薬剤の量、Aはゼロ時における薬剤の初期量である。
式2:標準的な2−コンパートメントモデル
【数2】
式中、Aはt時の中心コンパートメントにおける遊離薬剤の量である。
【0096】
実施例6:モデルタンパク質による皮下薬物動態の特徴付け
結果:ERY1−MBPバリアントは血管外投与すると、野生型タンパク質と比較して、循環の延長を示した(図5)。注射直後に取得した時点での血液サンプルから、どちらの製剤も初濃度、したがってその用量が同一であることが確認された。皮下注射後も、ERY1−MBPの血中濃度の上昇という同様の傾向が見られ、実験期間を通して維持された。血中濃度の解析から、ERY1−MBPバリアントは野生型MBPと比較して、バイオアベイラビリティーが1.67の上昇を示すことが明らかになった。したがって、本明細書に教示されたヒト赤血球結合ペプチドおよび他の赤血球結合リガンドにより半減期が延長される可能性がある。
【0097】
方法:標準的なプラスミド単離キットを用いてクローン複製形態M13KE DNAを抽出した。得られたプラスミドをAcc651およびEagIで消化してgIII融合遺伝子を得、次いでpMAL−pIIIの同じ部位にライゲートし、本明細書でpMAL−ERY1と呼ぶプラスミドを得た。配列確認済みのクローンをBL21 大腸菌(E.coli)に発現させた。簡単に言えば、対数増殖中期のBL21培養物を最終濃度0.3mMになるようにIPTGで37Cにて3時間誘導した。20mMのトリス、20%スクロース、2mMのEDTAで10分間浸透圧ショック処理し、続いて5mMのMgSO中、4Cで15分間第2の処理を行い、ペリプラズムに発現したMBP融合体を細胞片から単離できるようにした。アミロースセファロースで融合タンパク質の精製を行い、SDS−PAGEにより純度を解析した。
【0098】
Swiss Vaud獣医局(Veterinary Office)は既にすべての動物処置を承認した。イソフルランによる麻酔下で、150μgのタンパク質を100μL量で直接マウスの背部皮膚に注射した。マウスを麻酔下で37Cに確実に維持するように注意した。尾の付け根を小刀で切開して血液を採取し、PBSA−5、10mMのEDTAで10倍希釈し、その後解析まで−20Cで保存した。サンドイッチELISAにより血液サンプルをMBP濃度について解析した。簡単に言えば、モノクローナルマウス抗MBPを捕捉抗体として、ポリクローナルウサギ抗MBPを一次抗体として、およびヤギ抗ウサギHRPを二次抗体として使用した。下記式3を使用し、標準的な薬物動態コンパートメント解析を用いてPrism4でデータを解析した。
式3:バイオアベイラビリティー
【数3】
式中、AUCは血漿中濃度と時間のグラフの曲線下面積、s.c.は皮下およびi.v.は静脈内である。
【0099】
実施例7:scFv抗体のリンカードメインの操作
方法:フィブロネクチンのエキストラドメインAに対するscFvフラグメントをコードする遺伝子を注文し、DNA2.0(Menlo Park,CA,USA)で合成した:
5’ATGGCAAGCATGACCGGTGGCCAACAAATGGGTACGGAAGTGCAACTGCTGGAGTCTGGCGGTGGCCTGGTTCAGCCGGGTGGCAGCTTGCGCCTGAGCTGTGCGGCGTCTGGCTTCACCTTTAGCGTCATGAAAATGAGCTGGGTTCGCCAGGCACCAGGTAAAGGCCTGGAGTGGGTGTCGGCAATCAGCGGTTCCGGTGGTAGCACCTATTACGCTGACAGCGTGAAAGGCCGTTTTACGATTTCGCGTGATAACAGCAAGAACACGCTGTACTTGCAAATGAATAGCCTGCGTGCAGAGGACACGGCAGTGTACTATTGTGCGAAGAGCACTCACCTGTACTTGTTTGATTACTGGGGTCAAGGCACCCTGGTTACCGTTAGCAGCGGCGGTGGTGGCTCCGGTGGTGGTGGTAGCGGTGGCGGTGGTTCTGGTGGTGGCGGCTCTGAAATTGTCCTGACTCAGAGCCCTGGCACGCTGAGCCTGAGCCCGGGTGAGCGCGCGACGCTGAGCTGCCGTGCGAGCCAGTCCGTTAGCAACGCGTTCCTGGCTTGGTATCAACAGAAACCGGGTCAGGCCCCTCGCCTGCTGATTTACGGTGCCAGCTCCCGTGCGACGGGCATCCCGGACCGTTTTTCCGGCTCCGGTAGCGGCACCGACTTCACCCTGACCATCAGCCGCCTGGAGCCGGAGGATTTCGCGGTGTATTACTGCCAGCAAATGCGTGGCCGTCCGCCGACCTTCGGTCAGGGTACCAAGGTCGAGATTAAGGCTGCGGCCGAACAGAAACTGATCAGCGAAGAAGATTTGAATGGTGCCGCG−3’(配列番号21)。野生型scFvを含む発現プラスミドを構築する場合には、プライマーSK01およびSK02を使用して遺伝子をPCR増幅し、HindIII(5’末端)およびXhoI(3’末端)制限部位のほか、3’末端に2つの終止コドンを付加した。scFvのリンカー領域にERY1ペプチドを含むREP変異体scFvを構築する場合には、オーバーラップエクステンションPCRを使用した。プライマーSK01およびSK03を用い、scFvの5’半分に続きERY1遺伝子フラグメントを含む遺伝子フラグメントをPCRにより作製した。プライマーSK02およびSK04を用い、ERY1遺伝子フラグメント(前述のフラグメントに相補的(complimentary))に続きscFvの3’半分を含む遺伝子フラグメントをPCRにより作製した。標準的なキット(Zymo Research,Orange,CA,USA)を用いて、この遺伝子フラグメントをアガロース電気泳動後に精製し、PCRを用いて2つのフラグメントを融合した。SK01およびSK02プライマーを用いた最終の増幅PCRを行い、正しい制限部位および終止コドンを作製した。INS変異体scFvの構築については、プライマーSK03の代わりにSK05を使用し、SK04の代わりにSK06を使用したこと以外はREP変異体とちょうど同じようにした。最終的に完成したscFv遺伝子産物をそれぞれHindIIIおよびXhoI(NEB、Ipswich、MA、USA)で消化し、pSecTagA哺乳動物発現プラスミド(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)の同じ部位にライゲートした。
【0100】
【表3】
【0101】
配列確認済みのクローンを増幅し、ヒト胎児腎臓(HEK)293T細胞で発現させるためそのプラスミドDNAを精製した。発現プラスミドは、目的の組換えタンパク質を培地に分泌させるN末端シグナル配列を含む。発現から7日後、細胞をペレット状にし、培地を回収し、SUPERDEX 75カラム(GE Life Sciences,Piscataway,NJ,USA)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーによりscFvを精製した。
【0102】
C末端システインを含むERY1ペプチドを、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC、CAS番号64987−85−5,Thermo Scientific)をクロスリンカーとして使用して野生型scFvにコンジュゲートした。SMCCをジメチルホルムアミドに溶解させ、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中、30倍モル過剰でscFvに加えた。4Cで2時間後、反応物をZEBASPIN脱塩カラム(Thermo Scientific)で脱塩し、産物を5モル過剰のペプチドでERY1ペプチドと反応させた。4Cで2時間後、10kDaのMWCO透析チューブを用いて2日間4Cで反応物をPBSに対して透析した。コンジュゲートされたscFvをSDS−PAGE、ウエスタンブロッティングおよびMALDIにより解析した。
【0103】
実施例8:ヒト赤血球による赤血球結合ペプチドのスクリーニング
結果:ヒト赤血球に結合する7種の新規なペプチドを選択するため、大腸菌(E.coli)表面提示ライブラリーを利用した。白血球への非特異的結合を減らすため、高濃度の血清アルブミン(50mg/mL)を用いて4Cで洗浄した全血を用いてスクリーニングプロセスを行った。3つのラウンドで最初に、ペプチドライブラリーを血液とインキュベートしてから、細菌の結合した赤血球を十分な洗浄および密度勾配遠心分離により他の細胞から慎重に分離して濃縮した。その後、選択したペプチドをコードする細菌プラスミドを、緑色蛍光タンパク質バリアントを発現する細菌に形質転換した。これにより、赤血球に結合した緑色細菌をハイスループットFACSでソートできるようになり、回収された個々の細菌クローンについて、赤血球への結合をサイトメトリーによりアッセイした。表1に示すように7種の赤血球結合ペプチドを同定した。これらのペプチドは、UniProtのBLASTアルゴリズムを用いて既知のタンパク質に対して解析したところ、コンセンサスモチーフを含まず、関連するタンパク質配列の相同性も認められなかった。
【0104】
方法:大腸菌(E.coli)表面提示は10億を超える異なる細菌からなり、各々が骨格タンパク質のN末端に15merのランダムペプチド、外膜タンパク質Xの円順列バリアントeCPXを約1000コピー提示していた(Rice and Daugherty,2008)。選択の第1の3サイクルでは、ヒト赤血球に結合している細菌を共沈降を用いて選択し、続いて1ラウンドのFACSで選択した(Dane,Chanら,2006年)。eCPX表面提示ライブラリーを含む1011細胞の凍結したアリコートを解凍し、37℃で34μg/mLのクロラムフェニコール(Cm)および0.2%D−(+)−グルコースを補充したLuria Bertani(LB)ブロスで一晩増殖した。細菌を、Cmを補充したLBにて1:50で3時間サブカルチャーし、0.02%L−(+)−アラビノースで1時間誘導した。健常ドナーのヒト血液(B型)を5%HSA、2%FBSを含むPBS(HFS)で2回洗浄し、コニカルチューブに再懸濁し、1011細菌細胞と回転シェーカー(inversion shaker)で4℃にて1時間コインキュベートした。細胞浮遊液を500gで5分間遠心し、上清の非結合細菌を除去した。赤血球を50mLのHFSで3回洗浄し、LBに再懸濁して結合細菌を一晩増殖した。回収した細菌クローンを、Cmを補充したLB寒天プレートに蒔いてカウントした。2および3ラウンドでは、10および5×10の細菌を加え、上記のように1回洗浄し、70%パーコール(GE Life Sciences)グラジエントを用いて1000gで10分間赤血球を分離した。フローサイトメトリーのソーティングでは、選択されたeCPXライブラリー集団のプラスミドを、Zyppy Miniprepキットを用いて細菌細胞から抽出した。その後、GFPの誘導発現のため、これらのプラスミドを大腸菌(E.coli)MC1061/pLAC22Grn1に形質転換した。GFPの発現を1mMのIPTGで2時間、続いてペプチド表面発現を0.02%L−(+)−アラビノースで1時間、どちらも37Cで誘導した。FACSのサンプル調製は、上記に記載したのと同様の技術を用いて行い、赤血球に結合しているラウンド3の蛍光集団は、FACSAria(BD Biosciences)を用いてソートした。
【0105】
実施例9:ヒト赤血球に対する結合の特徴付け
結果:ヒト赤血球に結合した選択されたペプチドの特徴付けを行うため、個々のペプチドを提示している細菌を、複数の細胞型による結合アッセイに供した。7種のうち6種(ERY19、ERY59、ERY64、ERY123、ERY141およびERY162)のペプチドが、ヒト上皮293T細胞およびヒト内皮HUVEC(図7A)に対する結合と比較してヒト赤血球に特異的に結合した。加えて、ヒト血液型AおよびBに結合したが、マウス血液に結合しなかったペプチドがあることから(図7B)、これらのペプチドは、ヒト血液に特異的であるが、共通の血液型抗原に依存しないことが示唆された。ペプチドは、標準的な固相f−moc化学を用いて合成し、ナノ粒子にコンジュゲートし、上述の個々の細胞型に対する結合について解析する。赤血球表面への結合は、顕微鏡観察およびフローサイトメトリーの両方を用いて調べた。
【0106】
方法:特異性の特徴付けを行うため、ヒト赤血球(A型およびB型)、マウス赤血球、HEK293T細胞およびHUVECに対する結合について、配列決定された個々のクローンをサイトメトリーを用いて解析した。結合アッセイでは、10哺乳動物細胞を5×10細菌と4Cで1時間コインキュベートし、続いてHFS(5%HSA、2%FBSを含むPBS)で3回の洗浄後、AccuriA6で走査した。緑色細菌の結合した細胞の割合をFLOWJOソフトウェアを用いて計算した。
【0107】
実施例10:scFv抗体のリンカードメインの操作
腫瘍血管マーカーフィブロネクチンEDA(EDA)に対して操作したscFvを、ヒト赤血球に特異的に結合するペプチドとの融合体として作製することができる。実施例8の複数のペプチドまたは各々のペプチドを、2つのERY1を含むように設計した変異体と同様に(GGGGS)(配列番号18)リンカー領域または同等の領域に挿入する。したがって、REPおよびINS変異体(図6A)の配列中のERY1の代わりにペプチドERY19、ERY50、ERY59、ERY64、ERY123、ERY141、ERY162を加えることになる。ヒトERYペプチドは、骨格タンパク質eCPXのN末端につながっていることが分かったため、リンカー領域に挿入されたこれらのコンストラクトは、赤血球結合に影響を与える可能性がある。このことを検討するため、ERY1(図6C)と同様に合成ヒトERYペプチドとの化学的コンジュゲーションによりscFvバリアントを作製する。これにより、単独あるいは組み合わせて最適な数のERYペプチドをscFvに加えて赤血球結合を刺激することができる。
【0108】
実施例11:ポリマーナノ粒子およびミセルの薬物動態および体内分布の特徴付け
本発明の研究室は以前に、薬物送達および免疫調節に使用されるポリマーを用いたナノ粒子およびミセルを多く開発したことがある。この技術は、チオールを含む分子のナノ粒子への定量的な部位特異的コンジュゲーションを容易に行うことができるため強力である(van der Vlies,O’Neilら,2010年)。本研究室はまた、単一のミセル上に複数の化学基を提示するミセル製剤、および疎水性薬剤の制御送達を可能にする製剤も開発した(O’Neil,van der Vliesら,2009年;Velluto,Demurtasら,2008年)。本研究室はさらに、それらの製剤がリンパ節の抗原提示細胞を標的とするため、研究室のナノ粒子技術を免疫応答のモジュレーターとして使用することも検討してきた(Reddy,Rehorら,2006年;Reddy,van der Vliesら,2007年)。本明細書の材料および方法を組み合わせるミセル技術および粒子技術は、米国特許出願公開第2008/0031899号明細書、米国特許出願公開第2010/0055189号明細書、および米国特許出願公開第2010/0003338号明細書に記載されており、これらを本明細書に援用する。
【0109】
これらのナノ粒子およびミセルのプラットフォームにERY1ペプチドまたはヒト赤血球結合ペプチドを付加すると、それらの薬物動態学的挙動が改善され、それにより、循環する薬剤キャリアとしてのそれらの性能が高まる。ナノ粒子またはミセルの任意のバリアントへのERY1またはヒト赤血球結合ペプチドのコンジュゲーションは様々な反応スキームにより行うことができ、直交化学を用いて最終産物への検出分子のコンジュゲーションを行ってもよい。ERY1またはヒト赤血球結合ペプチド基の存在に起因する赤血球に対するナノ粒子またはミセルの結合の検証は、フローサイトメトリーおよび顕微鏡観察により確認することができ、マウスに投与後の様々な時点で検出分子を定量して、インビボでの特徴付けによる詳細な検証を行ってもよい。
【0110】
実施例12:腫瘍血管系を閉塞するためのポリマーナノ粒子およびミセルの操作
赤血球および腫瘍血管マーカーの両方に対する二重特異性を持つように設計された操作されたポリマーナノ粒子およびミセルを調製して、腫瘍血管床に赤血球の凝集現象を引き起こし、その血液供給を特異的に閉塞することができる。リンカー領域にシステインを含むフィブロネクチンEDAの修飾scFv、GPRPペプチドモチーフを含むフィブリノーゲン結合ペプチドの修飾scFv、および切断型組織因子融合タンパク質の修飾scFv(各々粒子に結合できるように操作されたシステインまたはビオチンを含む)など、いくつかの腫瘍標的化マーカーを評価して利用してもよい。これらの腫瘍標的化リガンドは、赤血球結合ペプチドまたはグリコホリンA scFvと組み合わせてナノ粒子およびミセルに二重標的化を達成するのに最適な比率でつなげてもよい。ジスルフィド結合またはアビジン−ビオチン相互作用により、複数のリガンドを粒子に結合することができる。検証のため、標準的なマウス固形癌モデルを利用することにより、マウスの背部皮膚にマウス腫瘍細胞を注射し、所定の期間増殖させ、この時点でマウスにナノ粒子またはミセルを投与してもよい。投与量および処置レジメンは、療法剤の薬物動態の特徴付け後に決定してもよい。さらに検証するには、処置後の様々な時点で処置群間の腫瘍容積を比較して、腫瘍塊のさらなる増殖を阻止する療法剤の能力を評価してもよい。赤血球による腫瘍血管系の遮断の詳細な確認は、腫瘍を有する生きたマウスを用いた灌流実験により評価してもよい。赤血球に対する療法剤の親和性と腫瘍血管閉塞との間で正の相関関係が観察されよう。
【0111】
実施例13:腫瘍血管系の閉塞のためのscFv抗体の操作
腫瘍血管マーカーEDAおよび赤血球に対して特異的である操作されたscFvは、腫瘍血管床に赤血球の凝集現象を引き起こし、その血液供給を特異的に閉塞することができる。EDAに対して修飾されたscFvは、融合体としてリンカー領域に、またはscFvとのコンジュゲートとして、ヒトERY結合ペプチドを含む。標準的なマウス固形癌モデルを利用することにより、マウスの背部皮膚にマウス腫瘍細胞を注射し、所定の期間増殖させ、この時点でマウスにナノ粒子またはミセルを投与してもよい。投与量および処置レジメンは、療法剤の薬物動態の特徴付け後に決定する。処置後の様々な時点で、処置群間の腫瘍容積を比較して、腫瘍塊のさらなる増殖を阻止する療法剤の能力を評価してもよい。赤血球による腫瘍血管系の遮断の確認は、腫瘍を有する生きたマウスを用いた灌流実験により評価してもよい。赤血球に対する療法剤の親和性は、腫瘍血管閉塞に相関する。
【0112】
実施例14:ERY1ペプチド−コンジュゲート抗原またはヒト赤血球結合ペプチド−コンジュゲート抗原との非共有結合的赤血球結合による抗原特異的免疫学的トレランスの誘導
我々は、赤血球に対する抗原の強力で特異的な生物物理学的結合を得るため、我々がファージディスプレイによりマウスグリコホリンAに特異的に結合することを発見した合成12アミノ酸ペプチド(ERY1)を使用した(Kontos and Hubbell,2010)。この研究では、モデル抗原OVAを、CD8T細胞集団がMHC I免疫優性OVAペプチドSIINFEKL(配列番号3)に特異的なT細胞受容体を発現するトランスジェニックマウス株(OT−I)と共に使用した。ERY1ペプチドをOVAに化学的にコンジュゲートして、高い親和性および特異性でマウス赤血球に結合するOVAバリアント(ERY1−OVA)を作製した(図8a)。高解像度供焦点顕微鏡観察から、ERY1結合に関して従来の観察結果が確認された(Kontos and Hubbell,2010)、すなわち細胞膜赤道周辺に局在するが、ERY1−コンジュゲートタンパク質の細胞内トランスロケーションがないことが確認された。ERY1と同一のアミノ酸を含むが、一次配列の順序を入れ換えたミスマッチペプチド(MIS−OVA)とコンジュゲートしたOVAバリアントは、無視できる程度の結合を示したため(図8b)、ERY1によるグリコホリンAへの結合は配列特異的であった。OVAペプチドをコンジュゲートするのに使用した架橋分子のみとコンジュゲートしたOVAは、赤血球に対して測定可能な親和性を何ら示さなかったことから、ERY1−OVA結合は、赤血球表面でのERY1ペプチドとグリコホリンAとの非共有結合性相互作用によるものであることが示唆された。さらに、ERY1−OVAは、高親和性で赤血球に結合し、平衡状態における結合の測定により判定すると、6.2±1.3nMという抗体と同様の解離定数(K)を示した(図8c)。
【0113】
マウスへの静脈内投与後、循環赤血球に対するERY1−OVAの結合をインビボで検証した。150μgのOVAまたはERY1−OVAの注射から30分後に採取した全血サンプルから、血液の複雑で不均一な環境および血管系の中でもERY1−OVAの特異的な赤血球結合能が確認された(図9a)。ERY1−OVAは、グリコホリンAとの結合を裏付けるように、赤血球(CD45)に結合するが、白血球(CD45)には結合しなかった。ERY1−OVAの結合は、赤血球のアポトーシス状態に関して偏ることなく、アネキシン−Vおよびアネキシン−VのCD45集団の両方に強く結合した(図9b)。OVAコンジュゲートの薬物動態研究から、ERY1−OVAの赤血球結合がインビボで長く続くものであり、細胞表面半減期が17.2時間を示すことが証明された(図9c)。ERY1−OVAは投与後、72時間という長時間にわたり赤血球に結合した状態が続いた。マウスでは、この期間に約13%の赤血球が除去される(Khandelwal and Saxena,2006)。インビボで赤血球に結合したERY1−OVAの定量により、10赤血球当たり0.174±0.005ngのOVAという比較的高い負荷が示された。
【0114】
OVAの負荷により赤血球機能に対して起こり得る任意の生理的作用を排除するため、ERY1−OVAまたはOVAの静脈内投与後の様々な時点で血液学的パラメーターの特徴付けを行った。ERY1−OVAによる赤血球結合はOVAの投与と比較して、ヘマトクリット、血球容積または赤血球ヘモグロビン量に検出可能な相違を惹起しなかった(図10)。これらの結果により、抗原とのグリコホリンAを介した赤血球結合は、その血液学的パラメーターを変化させなかったことが証明される。
【0115】
投与時の赤血球結合抗原の細胞標的を明らかにするため、ERY1(ERY1−アロフィコシアニン)またはMISペプチド(MIS−アロフィコシアニン)とコンジュゲートした強い蛍光を発するアロフィコシアニンタンパク質をマウスに静脈内注射した。投与から12時間後および36時間後の脾臓のDC集団のフローサイトメトリー解析により、MHCIICD11bCD11cDCによるERY1−アロフィコシアニンの取り込みがMIS−アロフィコシアニンと比較して9.4倍増強する一方、MHCIICD11bCD11cDCによるERY1−アロフィコシアニンおよびMIS−アロフィコシアニンの取り込みは同等であることが示された(図11a)。加えて、MHCIICD8αCD11cCD205脾臓DCは、MIS−アロフィコシアニンより3.0倍程度多くERY1−アロフィコシアニンを取り込むものの、絶対量は、脾臓の他のDC集団の場合より著しく低いことが明らかになった。非活性およびCD8αCD205脾臓のDCに対する抗原のこうした標的化は、これらの集団が、アポトーシス細胞による免疫寛容誘導に関係していることが広く知られているため、赤血球結合の寛容誘導の可能性を高め得る(Ferguson,Choiら,2011年;Yamazaki,Dudziakら,2008年)。肝臓では、ERY1−アロフィコシアニンはMIS−アロフィコシアニンと比較して、肝実質細胞(CD45MHCIICD1d;78.4倍)および肝星細胞(CD45MHCIICD1d;60.6倍)による取り込みも大きく増強した(図11b)。どちらの集団も、CD8T細胞除去性トレランスを誘発する抗原提示細胞として報告されている(Holz,Warrenら,2010年;Ichikawa,Mucidaら,2011年;Thomson and Knolle,2010)。興味深いことに、こうした取り込みは、赤血球および補体被覆粒子のクリアランスを助ける細網内皮系のメンバーとして働く肝臓DC(CD45CD11c)またはクッパー細胞(CD45MHCIIF4/80)では見られない。寛容誘導性の脾臓DCおよび肝臓細胞集団による赤血球結合抗原の取り込みの増大からは、非リンパ球肝細胞と標準的な脾臓細胞とのクロストークにより生じる抗原特異的T細胞欠損の相互に関係する複雑なメカニズムの可能性が示唆される。
【0116】
ERY1−OVAの赤血球結合は、APCによるOVA免疫優性MHC Iエピトープ(SIINFEKL)(配列番号3)の効率的なクロスプレゼンテーションおよび対応する反応性T細胞のクロスプライミングを起こすことが観察された。CFSE標識OT−I CD8T細胞(CD45.2)をCD45.1マウスに養子移入した。10μgのOVA、10μgのERY1−OVA、または10μgの無関係な赤血球結合抗原、ERY1−グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(ERY1−GST)の静脈内投与後5日にわたり、OT−I CD8T細胞の増殖について測定を行った。フローサイトメトリーで測定したfluor CFSEの希釈により判定すると、OT−I CD8T細胞の増殖(図12a)は、OVAと比較してERY1−OVAを投与されたマウスで著しく増強された(図12b)ことから、赤血球結合により、可溶性抗原と比較して抗原特異的CD8T細胞のクロスプライミングが増強された。同様の結果は、10倍低い1μgという抗原用量の投与によっても得られたことから、赤血球結合抗原により誘導されるOT−I CD8T細胞増殖の有効性の作用範囲が広いことが証明された。クロスプレゼンテーションおよびクロスプライミングの結果は、アポトーシス細胞由来抗原を貪食するAPCによるMHC Iの寛容誘導抗原提示に関する他の研究と一致する(Albert,Pearceら,1998年;Green,Fergusonら,2009年)。
【0117】
機能的なエフェクター表現型になるT細胞と増幅および除去されるT細胞とを区別するため、増殖するOT−I CD8T細胞はアポトーシス、したがって除去の特徴としてアネキシン−Vについて、解析された(図12c)。ERY1−OVAによりOVAと比較して、非常に多くのアネキシン−Vの増殖するOT−I CD8T細胞が誘導された(図12d)ことから、アポトーシスが不可避であり、最終的にクローン除去が生じるであろうことが示唆された。ERY1−OVA投与により誘導された同じ増殖するOT−I CD8T細胞は、1μgおよび10μgの用量の両方で抗原と接触した表現型を示し、CD44のアップレギュレーションおよびCD62Lのダウンレギュレーションを示した(図13)。増殖するCD8T細胞のこの表現型は、APCにより制御された抗原特異的T細胞受容体の結合が炎症応答を誘導できないと報告された他のOT−I養子移入モデルと一致する(Bursch,Richら,2009年)。
【0118】
確立されたOT−Iチャレンジ対トレランスモデル(Liu,Iyodaら,2002年)(図14a)を用いて、ERY1−OVAが、非常に強力な細菌由来のアジュバントを用いたワクチン介在性抗原チャレンジに対してその後の免疫応答を妨げることが証明された。我々は、寛容化するため、OT−I CD8(CD45.2)T細胞の養子移入から1日後および6日後、10μgのOVAあるいはERY1−OVAをCD45.1マウスに静脈内投与した。さらに9日後、移入したT細胞が除去され得るように、我々は次いで、皮内注射によりリポ多糖(LPS)をアジュバント添加したOVAを被投与マウスにチャレンジした。チャレンジから4日後、流入領域リンパ節および脾臓細胞のほか、その炎症応答の特徴付けにより、除去が実際に生じたかどうかを判定することができた。
【0119】
ERY1−OVAの静脈内投与の結果、流入領域リンパ節(図14図14bにゲーティング)および脾臓のOT−I CD8T細胞集団が、LPSによる抗原チャレンジの前に非修飾OVAを投与したマウス(図14c)と比較して顕著に減少したことから、除去性トレランスが証明された。ERY1−OVAで処置したマウス由来の流入領域リンパ節に含まれたOT−I CD8T細胞は、OVAで処置したマウスと比較して11倍を超えて減少し、抗原の静脈内注射をしなかったチャレンジ対照マウスより39倍減少した。脾臓細胞の応答も同様であった。ERY1−OVAを投与されたマウスに示されたこの効果的なクローン除去は、OT−I CD8T細胞のクロスプライミングの増強という前述の観察結果(図12)を支持するものであり、さらにクロスプライミングが、共刺激分子のAPC提示の非存在下で起こり、除去性トレランスを起こしたことを示す。
【0120】
抗原チャレンジ後の免疫応答をさらに評価するため、OT−I CD8T細胞によるインターフェロンγ(IFNγ)の発現から、常在性のリンパ節および脾臓細胞の炎症特性の特徴付けを行った(図14d)。OVAおよびLPSによるチャレンジ後、ERY1−OVAで予め処置したマウスのリンパ節のIFNγ発現細胞は、チャレンジ対照マウス(抗原を予め投与していない)と比較して53倍少なく、同用量のOVAで予め処置したマウスと比較して19倍を超えて減少した(図14e)ことから、チャレンジに対する寛容誘導による保護における赤血球結合の重要性が証明された。脾臓細胞の応答も同様であった。さらに、ERY1−OVAで予め処置したマウスのリンパ節および脾臓に存在する少ないOT−I CD8T細胞集団の中で、IFNγを発現する割合が低いことから、クローンの不活化が示唆された。さらに、ERY1−OVAで予め処置したマウスでは、SIINFEKLの再刺激時に流入領域リンパ節から単離された細胞で産生される総IFNγレベルの大きさも、実質的に低下し(図14f)、赤血球結合はIFNγレベルをOVAの投与と比較して16倍低下させ、チャレンジ対照と比較して115倍を超えて低下させた。特記される点として、この抑制性の現象は、インターロイキン−10(IL−10)発現のダウンレギュレーションとも相関関係にあり、ERY1−OVAで予め処置したマウス由来のリンパ節細胞に発現したIL−10は、OVAで予め処置したマウスおよびチャレンジ対照マウスと比較してそれぞれ38%および50%減少した(図14g)。Th1応答を抑制するAPCとT細胞とのコミュニケーションの文脈では、制御性CD4T細胞に発現されるサイトカインを考慮するのが一般的であり(Darrah,Hegdeら,2010年;Lee and Kim,2007年)、IL−10の発現は、チャレンジに対する減感作には不要であった。IL−10のダウンレギュレーションは同様に、CD8T細胞による免疫寛容誘導にも関係していると考えられてきた(Fife,Guleriaら,2006年;Arnaboldi,Roth−Walterら.,2009年;Saint−Lu,Tourdotら,2009年)。さらに、ERY1−OVAで処置したマウス血清中の抗原特異的なIgG力価が、可溶性OVAで処置したマウスと比較して100倍低下したため、赤血球結合は、抗原に対する液性免疫応答も実質的に減弱した(図14h)。赤血球結合に起因するOVA特異的なIgG力価の同様の低下は、非養子移入のC57BL/6(CD45.2)マウスでも見られた。1μgのOVAまたはERY1−OVAを7日間の間隔を置いて2回静脈内投与した後、ERY1−OVAで処置したマウスは、血清中のOVA特異的なIgGレベルが、第1の抗原投与から19日後39.8倍の低下を示した(図15)。抗原による赤血球の連結後のB細胞活性化におけるこの明らかな低下は、トレランスの誘導における非炎症性の抗原提示に関する現在の仮説を裏付けるものである(Miller,Turleyら,2007年;Green,Fergusonら,2009年;Mueller,2010年)。
【0121】
抗原特異的免疫トレランスの誘導をさらに検証するため、OT−Iチャレンジ対トレランスモデルをOVA発現腫瘍移植片モデルと組み合わせた(図14i)。以前の実験デザインと同様に、OT−I CD8T細胞の養子移入後に10μgのERY1−OVAまたは10μgのOVAを2回静脈内投与して、マウスを寛容化した。第1の抗原投与から5日後、ERY1−OVAを注射したマウスの血液の増殖していない(0世代)OT−I CD8T細胞は2.9倍減少したため、顕著なT細胞除去が検出された(図14j)。外部から投与される強力なアジュバントの非存在下で増殖するOT−I CD8T細胞の機能応答性を判定するため、養子移入から9日後、OVA発現EL−4胸腺腫細胞(E.G7−OVA)をマウスの背部皮膚に皮内注射した。赤血球結合抗原の寛容誘導の有効性を評価するため、用量およびスケジュールをチャレンジ対トレランスモデルと同様にして、腫瘍移植から6日後、腫瘍を持つマウスにLPSをアジュバント添加したOVAをチャレンジした。ERY1−OVAで処置したマウスではOVAで処置したマウスまたは未処置対照マウスと比較して、十分な腫瘍増殖が腫瘍移植から8日後まで持続的に観察された(図14k)ことから、ERY1−OVAによるOT−I CD8T細胞の増殖が、OVAに対する機能的な免疫非応答性を誘導することが確認された。腫瘍の大きさが移植から8日後に定常状態になったことは、ERY1−OVAによる除去性トレランスをまだ受けていないOT−I CD8T細胞が残存していたことを示唆し得る。
【0122】
動物
スイス獣医当局は既にすべての動物処置を承認した。インビボ結合研究には8〜12週齢の雌C57BL/6マウス(Charles River)をE.G7−OVA腫瘍の宿主として使用した。C57BL/6−Tg(TcraTcrb)1100Mjb(OT−I)マウス(Jackson Labs)をEPFL動物施設で飼育し、脾細胞単離には6〜12週齢の雌を使用した。OT−I CD8T細胞の養子移入およびトレランス誘導研究には、8〜12週齢の雌B6.SJL−PtprcPepc/Boy(CD45.1)マウス(Charles River)を対象宿主として使用した。
【0123】
ペプチドの設計および合成
ERY1
【化1】
ペプチドおよびミスマッチ(HN−PLLTVGMDLWPWGGSGCRG−CONH)(配列番号20)ペプチドは、TGR樹脂(Nova Biochem)を用いて自動リキッドハンドラー(CHEMSPEED)で標準的な固相f−moc化学により合成した。下線で示した配列は、我々が以前ファージディスプレイによりマウスグリコホリンAバインダーとして発見したERY1の12−mer配列である(Kontos and Hubbell,2010)。GGSG領域は、コンジュゲーションに使用されるシステイン残基とのリンカーとして機能した。隣接するアルギニン残基はpKaを低下させ、したがってシステイン残基の反応性を高める役割を果たした(Lutolf,Tirelliら,2001年)。ペプチドは、95%トリフルオロ酢酸、2.5%エタンジチオール、2.5%水を用いて樹脂から3時間かけて切断し、氷冷ジエチルエーテルで沈殿させた。精製は、C18逆相カラム(PerSpective Biosystems)を用いて分取HPLC−MS(Waters)で行った。
【0124】
ERY1−抗原のコンジュゲーション
ジメチルホルムアミドに溶解させた10モル当量のスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC、CAS番号64987−85−5、Thermo Scientific)を5mg/mLのエンドトキシンフリー(<1EU/mg)OVA(Hyglos GmbH)とPBS中、1時間室温で反応させた。2mLのZeba脱塩スピンカラム(Thermo Scientific)で脱塩後、3Mのグアニジン−HClに溶解させた10当量のERY1またはMISペプチドを加え、2時間室温で反応させた。このコンジュゲートを2mLのZeb脱塩スピンカラムを用いて脱塩し、0.2μmのフィルターで濾過滅菌し、作業アリコート(working aliquot)に分け、−20Cで保存した。タンパク質濃度は、BCAアッセイ(Thermo Scientific)により決定した。このスキームにより、ペプチドのシステイン側鎖と抗原のリジン側鎖とのコンジュゲーションが得られる。グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)をBL21エシェリキア・コリ(Escherichia coli)に発現させ、標準的なグルタチオンアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。十分なトリトン−X114(Sigma Aldrich)洗浄によりオンカラムエンドトキシン除去を行い、エンドトキシンの除去は、THP−1X Blue細胞(InvivoGen)で確認した。同じ反応手順を使用してERY1をGSTにコンジュゲートした。マレイミド活性化アロフィコシアニン(Innova Biosciences)をPBSに溶解させ、上記のようにERY1またはMISとコンジュゲートした。
【0125】
赤血球への結合の顕微鏡観察
単離されたばかりのマウス赤血球5×10を、10mg/mLのBSAを含むPBS中の100nMのERY1−OVAまたはOVAに37Cで1時間さらした。遠心分離および洗浄の後、1:200希釈ヤギ抗マウスグリコホリンA(Santa Cruz)およびウサギ抗OVA(AbD SEROTEC)で細胞を氷上にて20分間標識した。遠心分離および洗浄の後、1:200 ALEXAFLUOR488抗ヤギIgG(Invitrogen)およびAlexaFluor546抗ウサギIgG(Invitrogen)で細胞を氷上にて20分間標識した。最終の回転/洗浄サイクル後、細胞を固化固定し、63×油浸対物レンズを備えたZeiss LSM700共焦点倒立顕微鏡で画像を取得した。画像解析は、IMAGEJ(NIH)で行い、どちらの画像も同一の処理を行った。
【0126】
インビボでの結合および体内分布
150μgのERY1−OVAまたはOVAを含む0.9%食塩水(B.Braun)を100μLの量で8〜12週齢の雌C57BL/6マウスの尾に、イソフルランによる麻酔下で静脈内注射した。実験中は、加温パッドを用いてマウスを37Cに確実に維持するように注意した。所定の時点で、尾に小さな切れ目を入れて5μLの血液を採取し、10mMのEDTAを含むPBSに100倍希釈し、10mg/mLのBSAを含むPBSで3回洗浄し、フローサイトメトリーおよびELISAによりOVA含有量について解析した。OVAは、サンドイッチELISAにより定量し、捕獲用にマウスモノクローナル抗OVA抗体(Sigma)、検出用にポリクローナルウサギ抗OVA抗体(AbD SEROTEC)、最終検出用にヤギ抗ウサギ−IgG−HRP抗体(BioRad)を、続いてTMB基質(GE Life Sciences)を使用した。ADVIVA 2120 Hematology System(Siemens)で血液学的特徴付けを行った。赤血球結合ERY1−GSTは、標識細胞をヤギ抗GST(GE Healthcare Life Sciences)とインキュベートし、続いてAlexaFluor488ロバ抗ヤギ(Invitrogen)とインキュベーションすることにより検出し、フローサイトメトリーにより解析した。体内分布の研究では、上記のような8〜12週齢の雌C57BL/6マウスの尾静脈に20μgのERY1−APCまたはMIS−APCを静脈内注射した。マウスを所定の時点で屠殺し、脾臓、血液および肝臓を除去した。各器官をコラゲナーゼD(Roche)で消化し、ホモジナイズしてフローサイトメトリー染色のための単一細胞浮遊液を得た。
【0127】
T細胞の養子移入
CD8磁性ビーズネガティブ選択キット(Miltenyi Biotec)を製造者の指示通り用いて、OT−I(CD45.2)マウス脾臓由来のCD8T細胞を単離した。単離されたばかりのCD8OT−I細胞をPBSに再懸濁し、1μMのカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE、Invitrogen)で6分間室温にて標識し、10%FBS(Gibco)を含む等量のIMDMで反応を1分間クエンチした。細胞を洗浄し、カウントし、注射前に純粋なIMDMに再懸濁した。CFSE標識CD8OT−I細胞3×10を被注射CD45.1マウス尾静脈に静脈内注射した。短期増殖研究では、養子移入から24時間後に10μgのERY1−OVAまたはOVAを100μL量で注射した。抗原投与から5日後に脾細胞を採取し、フローサイトメトリーによる解析のため染色した。
【0128】
OT−Iのトレランスおよびチャレンジモデル
CFSE標識OT−I CD8T細胞3×10を上記のようにCD45.1被注射マウスに注射した。養子移入から1日後および6日後に、マウスの尾静脈に10μgのERY1−OVAまたはOVAを含む100μLの食塩水を静脈内投与した。養子移入から15日後、5μgのOVAおよび25ngの超高純度のエシェリキア・コリ(Escherichia coli)LPS(InvivoGen)を25μLでマウスの後肢の肉趾それぞれに皮内チャレンジした(Hock法、10μgのOVAおよび50ngのLPSの総投与量)。マウスをチャレンジから4日後に屠殺し、再刺激のため脾臓および流入領域リンパ節細胞を単離した。細胞内サイトカインのフローサイトメトリー解析では、細胞を1mg/mLのOVAまたは1μg/mLのSIINFEKL(配列番号3)ペプチド(Genscript)の存在下で3時間再刺激した。ブレフェルジンA(Sigma、5μg/mL)を加え、染色およびフローサイトメトリー解析の前に再刺激をさらに3時間続けた。分泌因子のELISA測定では、100μg/mLのOVAまたは1μg/mLのSIINFEKL(配列番号3)ペプチドの存在下で4日間細胞を再刺激した。細胞を回転させ、IFNγおよびIL−10のReady−Set−Goキット(eBiosciences)を製造者の指示通り使用してELISA解析のため培地を集めた。OVA特異的血清IgGを、OVAコートプレートでマウス血清を様々に希釈してインキュベートしてから、最後にヤギ抗マウスIgG−HRP(Southern Biotech)とインキュベートして検出した。
【0129】
OT−IのE.G7−OVAトレランスモデル
CFSE標識OT−I CD8T細胞1×10を、上記のように8〜12週齢の雌C57BL/6マウスに注射した。養子移入から1日後および6日後、10μgのERY1−OVAまたは10μgのOVAを含む100μLの食塩水をマウスの尾静脈に静脈内投与した。養子移入から5日後、フローサイトメトリーによるOT−I CD8T細胞増殖の特徴付けのため血液を採取した。OVA発現EL−4胸腺腫細胞(E.G7−OVA、ATCC CRL−2113)をATCCガイドライン通りに培養した。簡単に言えば、10%ウシ胎仔血清、10mMのHEPES、1mMのピルビン酸ナトリウム、0.05mMのβ−メルカプトエタノール、1%ピューロマイシン/ストレプトマイシン(Invitrogen Gibco)および0.4mg/mLのG418(PAA Laboratories)を補充したRPMI1640で細胞を培養した。注射の直前に、G418を含まない培地で細胞を増幅させ、回収時にHBSS(Gibco)に再懸濁した。養子移入から9日後、マウスをイソフルランで麻酔し、背部を剪毛し、両肩甲骨の間にE.G7−OVA細胞を皮内注射した。E.G7−OVA移植から4日後、腫瘍寸法を24時間毎にデジタルカリパスで測定し、腫瘍容積を楕円体(V=(π/6)l・w・h)として計算した。式中、Vは腫瘍の容積、lは長さ、wは幅、hは高さである)。養子移入から15日後、5μgのOVAおよび25ngの超高純度のエシェリキア・コリ(Escherichia coli)LPS(InvivoGen)を25μLでマウスの前肢の肉趾それぞれに皮内チャレンジした(10μgのOVAおよび50ngのLPSの総投与量)。
【0130】
抗体およびフローサイトメトリー
フローサイトメトリーには以下の抗マウス抗体:CD1d Pacific Blue、CD3ε PerCP−Cy5.5、CD8α PE−Cy7、CD11b PE−Cy7、CD11c Pacific Blue、ビオチン化CD45、CD45.2 Pacific Blue、CD45 Pacific Blue、IFNγ−APC、CD8α APC−eF780、CD44 PE−Cy5.5、CD62L PE、CD205 PE−Cy7、F4/80 PE、I−A/I−E MHCII FITC(すべてeBioscience)のほか、fixable live/dead色素(Invitrogen)、アネキシン−V−Cy5標識キット(BioVision)、ストレプトアビジン Pacific Orange(Invitrogen)および抗OVA−FITC(Abcam)を使用した。サンプルは、CyAn ADPフローサイトメーター(Beckman Coulter)で解析した。最初にPBSで細胞を洗浄し、live/dead色素にて20分間氷上で染色し、24G2ハイブリドーマ培地にて20分間氷上でブロッキングし、20分間氷上で表面染色し、2%パラホルムアルデヒドで20分間氷上にて固定し、0.5%サポニンの存在下で45分間氷上にて細胞内染色してから、解析の前に最後の洗浄を行った。アポトーシス染色の場合、解析の前にアネキシン−V−Cy5を5分加えた。CD45染色では、細胞をストレプトアビジンPacific Orangeで20分間氷上にて染色し、洗浄して解析した。
【0131】
粒子を用いた実施
免疫寛容誘導のため、ERY1ペプチドを、ERY1ペプチドおよび寛容誘導抗原の両方をコンジュゲートしたナノ粒子の形態でも実施した。
【0132】
ERY1とポリマーナノ粒子とのコンジュゲートであって、ペプチドまたはタンパク質抗原にもコンジュゲートされたコンジュゲートを形成するには、コンジュゲーションの変換を制御するため、化学量論量の各成分を連続して加えることができる。OVAとERY1またはミスマッチペプチドとの両方とコンジュゲートしたナノ粒子を形成するには、ペプチドを最初に3Mの水性グアニジンHClに溶解させ、0.5当量を、チオール反応性ピリジルジスルフィド基を含むナノ粒子に加えた。343nmの吸光度測定を行い、反応変換をモニターした。本反応では、この波長で高い吸光度を持つ非反応性ピリジン−2−チオン種が発生するためである。室温で2時間後、343nmの吸光度は安定し、OVAを3Mの水性グアニジンHClに溶解させ、2倍モル過剰でナノ粒子溶液に加えた。室温で2時間後、343nmの吸光度はより高い値に再び安定し、溶液中のペプチドおよびOVAの両方の濃度を算出した。この二機能性ナノ粒子を、セファロースCL6B充填カラムを用いたゲル濾過により非反応成分から精製された。0.5mLの各画分をフルオレサミンによりタンパク質および/またはペプチドについて解析し、ナノ粒子の大きさを動的光散乱(DLS)により評価した。
【0133】
抗原が、こうした反応を行うための遊離チオール基をまったく含まない場合、遊離チオール基を組換えDNA技術により導入して変異体を作製してもよく、その後変異体を組換え技術で発現させ、精製することができる。あるいは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を用いてナノ粒子と抗原との間でアミン−カルボン酸架橋を行うことができる。
【0134】
ERY1とポリマーミセルとのコンジュゲートであって、ペプチドまたはタンパク質抗原にもコンジュゲートされたコンジュゲートを形成するには、ポリマーナノ粒子で記載したのと同様の反応を使用することができる。ミセルは、当該コンジュゲーションスキームに望ましい官能基を含むように形成されるであろう。我々のナノ粒子およびミセルが多様な官能化学基を含むように合成し得ることを踏まえれば、ナノ粒子/ミセル−抗原−ERY1複合体の作製に利用するコンジュゲーションスキームには、多くの可能性が存在する。
【0135】
実施例15:マウス赤血球および/またはヒト赤血球に結合する抗体および抗体フラグメントの開発
抗原特異的免疫学的トレランスを誘導するため、赤血球に非共有結合的に結合する別の方法として、赤血球結合抗体を使用してもよい。最新のディスプレイプラットフォーム、以下に限定されるものではないが、バクテリオファージディスプレイ、酵母および大腸菌(E.coli)表面提示を使用した抗体ライブラリーのスクリーニングにより、赤血球表面タンパク質に対して高親和性を示す抗体を単離することができる。新規な赤血球結合抗体を発見したら、ERY1で行ったのと同様に結合に関する生化学的特徴付けを評価することができる。結合特性の向上した、より高い親和性の変異体を作製するには、最初のライブラリーのスクリーニングから赤血球に結合することが分かった抗体フラグメントに対し親和性成熟を行う。エラープローンPCRおよび部位特異的変異誘発などの標準的な組換えDNA技術を用いて、親結合配列から新しいライブラリーを作製する。次いで上記のような最新のディスプレイプラットフォームを用いて、親結合配列と比較して赤血球に対する親和性が増強された他の抗体フラグメントの親和性成熟ライブラリーを提示させる。
【0136】
親和性成熟はまた、マウス赤血球またはヒト赤血球に結合する既存の抗体で行ってもよい。ラットモノクローナルTER−119クローン抗体(Kinaら,Br J Haematol,2000年)は、まだ十分に明らかにされていない部位でマウス赤血球に結合するが、その特異性は、不均一な細胞集団から赤血球を除去するのに一般に使用されている。マウス赤血球に対する親和性の増強された新しい抗体を発見するには、全長抗体またはscFvなどの抗体フラグメントとしてのTER−119抗体の親和性成熟を行う。マウスモノクローナル10F7クローン抗体(Langloisら,J Immunol 1984年)は、ヒト赤血球細胞表面のヒトグリコホリンAに結合する。ヒト赤血球に対する親和性の増強された新しい抗体を発見するには、全長抗体またはscFvなどの抗体フラグメントとしての10F7抗体の親和性成熟を行う。
【0137】
我々は、TER−119抗体の一次配列を判定するため、TER−119ハイブリドーマから単離された抗体特異的cDNAを、遺伝子フラグメントを容易にシーケンシングできるプラスミドにクローニングした。遺伝子セグメントの複数の可変ドメインの増幅を可能にする抗体遺伝子のPCR増幅プロセスには、特定のプライマーセットを使用した(Krebberら,1997年;Reddyら,2010年)。抗体ドメインのDNA配列から、TER−119 IgG抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を決定することができた。我々は、TER−119 IgGのscFv体を構築するため、アセンブリーPCRを使用して、TER−119の可変重鎖、続いて(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)(配列番号18)リンカー、続いてTER−119の可変軽鎖を含む遺伝子を作製した。
【0138】
Superscript III First Strand Synthesis System(Invitrogen)を用いて、TER−119ハイブリドーマクローン由来のmRNAについて標準的な逆転写PCR(RT−PCR)を行い、クローンの相補(complimentary)DNA(cDNA)を作製した。次いで以下のプライマーセットを用いてPCRを行い、抗体の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)領域のDNA配列を特異的に増幅した。
【0139】
【表4】
【0140】
【表5】
【0141】
【表6】
【0142】
次いで、増幅したVH遺伝子およびVL遺伝子を制限エンドヌクレアーゼ(VLにはNcoIおよびNotI、VHにはNdeIおよびHindIII)で消化し、遺伝子フラグメントを、アガロース電気泳動後に標準的なキット(Zymo Research,Orange,CA,USA)を用いて精製し、クローニングプラスミドpMAZ360にライゲートした。VHまたはVLの遺伝子を含むプラスミドの配列決定を行い、アセンブリーPCRを用いて新しい遺伝子を構築し、下記のTER−119 scFv配列を得た。
5’−GAGGTGAAGCTGCAGGAGTCTGGAGGAGGCTTGGTGCAACCTGGGGGGTCTCTGAAACTCTCCTGTGTAGCCTCAGGATTCACTTTCAGGGACCACTGGATGAATTGGGTCCGGCAGGCTCCCGGAAAGACCATGGAGTGGATTGGAGATATTAGACCTGATGGCAGTGACACAAACTATGCACCATCTGTGAGGAATAGATTCACAATCTCCAGAGACAATGCCAGGAGCATCCTGTACCTGCAGATGAGCAATATGAGATCTGATTACACAGCCACTTATTACTGTGTTAGAGACTCACCTACCCGGGCTGGGCTTATGGATGCCTGGGGTCAAGGAACCTCAGTCACTGTCTCCTCAGCCGGTGGTGGTGGTTCTGGTGGTGGTGGTTCTGGCGGCGGCGGCTCCGGTGGTGGTGGATCCGACATTCAGATGACGCAGTCTCCTTCAGTCCTGTCTGCATCTGTGGGAGACAGAGTCACTCTCAACTGCAAAGCAAGTCAGAATATTAACAAGTACTTAAACTGGTATCAGCAAAAGCTTGGAGAAGCTCCCAAAGTCCTGATATATAATACAAACAATTTGCAAACGGGCATCCCATCAAGGTTCAGTGGCAGTGGATCTGGTACAGATTTCACACTCACCATCAGTAGCCTGCAGCCTGAAGATTTTGCCACATATTTCTGCTTTCAGCATTATACTTGGCCCACGTTTGGAGGTGGGACCAAGCTGGAAATCAAACGTACT−3’(配列番号76)。この配列は、翻訳されたタンパク質のN末端にTER−119クローンのVH領域、続いて(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)(配列番号18)リンカードメイン、続いて翻訳されたタンパク質のC末端にTER−119クローンのVL領域をコードする。TER−119 scFv遺伝子は、下記のVH領域に特異的なプライマーSK07およびSK08、ならびにVL領域に特異的なSK09およびSK10を用いてTER−119 cDNAを増幅することにより構築した。
【0143】
【表7】
【0144】
最終的に完成したscFv遺伝子産物をそれぞれSfiIおよびXhoI(NEB,Ipswich,MA,USA)で消化し、pSecTagA哺乳動物発現プラスミド(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)の同じ部位にライゲートした。
【0145】
ヒトグリコホリンAに結合する10F7 scFvを親和性成熟させるため、遺伝子を商業的に合成し、DNA2.0(Menlo Park,CA,USA)から以下の配列として得た:
5’−GTTATTACTCGCGGCCCAGCCGGCCATGGCGGCGCAGGTGAAACTGCAGCAGAGCGGCGCGGAACTGGTGAAACCGGGCGCGAGCGTGAAACTGAGCTGCAAAGCGAGCGGCTATACCTTTAACAGCTATTTTATGCATTGGATGAAACAGCGCCCGGTGCAGGGCCTGGAATGGATTGGCATGATTCGCCCGAACGGCGGCACCACCGATTATAACGAAAAATTTAAAAACAAAGCGACCCTGACCGTGGATAAAAGCAGCAACACCGCGTATATGCAGCTGAACAGCCTGACCAGCGGCGATAGCGCGGTGTATTATTGCGCGCGCTGGGAAGGCAGCTATTATGCGCTGGATTATTGGGGCCAGGGCACCACCGTGACCGTGAGCAGCGGCGGCGGCGGCAGCGGCGGCGGCGGCAGCGGCGGCGGCGGCAGCGATATTGAACTGACCCAGAGCCCGGCGATTATGAGCGCGACCCTGGGCGAAAAAGTGACCATGACCTGCCGCGCGAGCAGCAACGTGAAATATATGTATTGGTATCAGCAGAAAAGCGGCGCGAGCCCGAAACTGTGGATTTATTATACCAGCAACCTGGCGAGCGGCGTGCCGGGCCGCTTTAGCGGCAGCGGCAGCGGCACCAGCTATAGCCTGACCATTAGCAGCGTGGAAGCGGAAGATGCGGCGACCTATTATTGCCAGCAGTTTACCAGCAGCCCGTATACCTTTGGCGGCGGCACCAAACTGGAAATTAAACGCGCGGCGGCGGCCTCGGGGGCCGAGGGCGGCGGTTCT−3’(配列番号81)。
【0146】
上述の組換えDNA技術を用いてTER−119と同様の親和性成熟を10F7遺伝子に行い、ヒト赤血球に対して強化された結合をスクリーニングできる変異体のライブラリーを得る。
【0147】
実施例16:抗体コンジュゲート抗原との非共有結合的赤血球結合による抗原特異的免疫学的トレランスの誘導
抗体は、実施例14および本明細書の他の箇所で言及された標準的な架橋反応を用いて抗原とコンジュゲートしてもよい。精製された抗体−抗原コンジュゲートは、1型糖尿病、多発性硬化症、膵島移植の標準的なマウスモデルにおける抗原、およびOVAモデル抗原に対するトレランスの誘導を示す。
【0148】
OVAに対するトレランスの誘導を証明するには、OVA−抗体コンジュゲートまたはOVA−ナノ粒子−抗体コンジュゲートをマウスに静脈内投与あるいは血管外投与してもよい。投与後所定の日数で、マウスを屠殺し、解析のためリンパ節、脾臓および血液を採取する。脾細胞およびリンパ節由来の細胞を蒔き、OVAおよび/またはSIINFEKLペプチドにてエキソビボで3日間再刺激し、トレランスの確認された証拠である、それらによるIFNγ、IL−17a、IL−2およびIL−4の発現のダウンレギュレーション、ならびにTGF−β1のアップレギュレーションをELISAにより測定する。IFNγ、IL−17a、IL−2およびIL−4の細胞内染色は、OVAおよび/またはSIINFEKLペプチドによるエキソビボでの再刺激から6時間後、脾細胞およびリンパ節由来細胞のフローサイトメトリーを用いて行う。さらに、フローサイトメトリーを用いて、リンパ節、脾臓および血液由来細胞のCD4と、CD8と、制御性T細胞との発現プロファイルの特徴付けを行う。加えて、様々な時点でマウスから血液サンプルを採取してOVA抗原に対する液性抗体応答も測定する。エキソビボでの再刺激のバリアント実験を行って、全身性免疫トレランスが確立しているかどうかを判定する。マウスに上記のようにOVA−抗体コンジュゲートまたはOVA−抗体−ナノ粒子コンジュゲートを投与し、アジュバント(リポ多糖、完全フロイトアジュバント、ミョウバンまたはその他)と一緒に9日後にOVAを再投与し、OVA抗原に対する脾細胞の応答を上記のようにELISAおよび/またはフローサイトメトリーにより評価する。OVA−抗体コンジュゲートおよび/またはOVA−抗体−ナノ粒子製剤により、脾細胞はOVAおよびアジュバントによる第2のチャレンジに応答しなくなり、これは全身性免疫トレランスの効果的な確立を証明するための1つの方法である。OVA−抗体コンジュゲートおよび/またはOVA−抗体−ナノ粒子製剤による最初の投与後、トレランスをさらに証明するものとして、実施例14に詳細に記載した研究と同様にOT−I T細胞の養子移入など、遺伝子導入細胞株を用いてインビボで同様のチャレンジ実験を行ってもよい。自己免疫マウスモデルの免疫トレランスまたは療法剤分子の脱免疫化(deimmunization)を証明するため、本明細書に記載したようにOVAと関連する抗原に対する類似の抗体コンジュゲートを作製してもよい。
【0149】
実施例17:一本鎖抗体融合抗原との非共有結合的赤血球結合による抗原特異的免疫学的トレランスの誘導
一本鎖抗体フラグメント(scFv)は、赤血球に対する非共有結合バインダーとして使用してもよい。赤血球表面タンパク質に対して高親和性を示すScFvは、実施例13で考察したように最新のディスプレイプラットフォームを用いてscFvライブラリーをスクリーニングすることにより単離することができる。新規な赤血球結合抗体フラグメントを発見したら、ERY1ペプチドで行ったのと同様に結合の生化学的特徴付けを評価する。scFvは1本のポリペプチド鎖を有するため、標準的な組換えDNA技術を用いた部位特異的組換え法で抗原に融合される。抗原融合パートナーの性質に応じて、scFvを抗原のNまたはC末端に融合して二機能タンパク質種を作製する。抗原の主要組織適合性複合体(MHC)ペプチド認識配列が分かっている場合には、ペプチドをさらにscFvのリンカードメインに挿入して、ネイティブなscFvの末端を含む新しい二機能性抗体/抗原コンストラクトを作製する。
【0150】
OVAに対するトレランスの誘導を証明するには、OVA−scFvまたはOVA−ナノ粒子−scFvコンジュゲートをマウスに静脈内投与または血管外投与することができる。投与後所定の日数で、マウスを屠殺し、解析のためリンパ節、脾臓および血液を採取する。脾細胞およびリンパ節由来細胞を蒔き、OVAおよび/またはSIINFEKLペプチド(配列番号3)によりエキソビボで3日間再刺激し、トレランスの確認された証拠である、それらによるIFNγ、IL−17a、IL−2およびIL−4の発現のダウンレギュレーションとTGF−β1のアップレギュレーションとを、たとえば、ELISAにより測定する。IFNγ、IL−17a、IL−2およびIL−4の細胞内染色は、OVAおよび/またはSIINFEKLペプチド(配列番号3)によるエキソビボでの再刺激から6時間後、脾細胞およびリンパ節由来細胞のフローサイトメトリーを用いて行う。さらに、フローサイトメトリーを用いて、リンパ節、脾臓および血液由来細胞のCD4と、CD8と、制御性T細胞との発現プロファイルの発現プロファイルの特徴付けを行ってもよい。加えて、様々な時点でマウスから血液サンプルを採取してOVA抗原に対する液性抗体応答も測定する。エキソビボでの再刺激のバリアント実験を行って全身性免疫トレランスが確立しているかどうかを判定する。マウスに上記のようにOVA−scFvまたはOVA−ナノ粒子−scFvコンジュゲートを投与し、アジュバント(リポ多糖、完全フロイトアジュバント、ミョウバンまたはその他)と一緒に9日後にOVAを再投与し、OVA抗原に対する脾細胞の応答を上記のようにELISAおよび/またはフローサイトメトリーにより評価する。OVA−scFvおよび/またはOVA−scFv−ナノ粒子製剤により、脾細胞はOVAおよびアジュバントによる第2のチャレンジに応答しなくなり、それにより全身性免疫トレランスの効果的な確立が説明される。OVA−scFvおよび/またはOVA−scFv−ナノ粒子製剤による最初の投与後、トレランスを証明するため、実施例14に詳細に記載した研究と同様にOT−I T細胞の養子移入など、遺伝子導入細胞株を用いてインビボで同様のチャレンジ実験を行ってもよい。自己免疫マウスモデルの免疫トレランスまたは療法剤分子の脱免疫化を証明するため、本明細書に記載したようにOVAと関連する抗原に対する類似のscFv融合体を作製してもよい。
【0151】
標準的な組換えDNA技術を用いて、マウス赤血球に結合し、かつOVAの免疫優性MHC−Iエピトープ(SGLEQLESIINFEKL)(配列番号82)を提示する抗体コンストラクトを作製した。我々は最初に、オーバーラップエクステンションPCRを用いて、TER119配列の3’末端に相補的(complimentary)な重複5’ドメインと共に、SGLEQLESIINFEKL(配列番号82)ペプチドを含む末端3’ドメインをコードするDNAフラグメントを作製した。このDNAフラグメントをリバースプライマーとして、相補的(complimentary)なフォワード5’プライマーと共に使用して標準的なPCRで、TER119−SGLEQLESIINFEKL(配列番号82)をコードする下記全DNAフラグメント:
【化2】
を作製した。下線で示した配列は、SGLEQLESIINFEKLをコードする遺伝子セグメントを示す。このDNAフラグメントを組換え発現させるため哺乳動物および原核生物発現ベクターに挿入した。
【0152】
標準的な組換えDNA技術を用いて、マウス赤血球に結合し、かつクロモグラニンAミメトープ(mimetope)1040−p31(YVRPLWVRME)(配列番号84)を提示する抗体コンストラクトを作製した。オーバーラップエクステンションPCRを用いて、TER119配列の3’末端に相補的(complimentary)な重複5’ドメインと共に、YVRPLWVRME(配列番号84)ペプチドを含む末端3’ドメインをコードするDNAフラグメントを作製した。このDNAフラグメントをプライマーとして、相補的(complimentary)なフォワード5’プライマーと共に使用して標準的なPCRで、TER119−YVRPLWVRMEをコードする下記全DNAフラグメント:
【化3】
を作製した。下線で示した配列は、クロモグラニンA(1040−p31)ミメトープ(mimetope)(YVRPLWVRME)(配列番号84)をコードする遺伝子セグメントを示す。このDNAフラグメントを組換え発現させるため哺乳動物および原核生物発現ベクターに挿入した。
【0153】
標準的な組換えDNA技術を用いて、マウス赤血球に結合し、かつNODマウスの糖尿病の主要自己抗原マウスプロインスリンを提示する抗体コンストラクトを作製した。我々は最初に、オーバーラップエクステンションPCRを用いて、TER119配列の3’末端に相補的(complimentary)な重複5’ドメインと共に、全プロインスリンタンパク質を含む末端3’ドメインをコードするDNAフラグメントを作製した。このDNAフラグメントをプライマーとして、相補的(complimentary)フォワード5’プライマーと共に使用して標準的なPCRで、TER119−プロインスリンをコードする下記全DNAフラグメント:
【化4】
を作製した。下線で示した配列は、コンストラクトのプロインスリン遺伝子セグメントを示す。このDNAフラグメントを組換え発現させるため哺乳動物および原核生物発現ベクターに挿入した。
【0154】
実施例18:赤血球結合リガンドおよび他の機能を含む分岐ポリマーの合成
8アームPEG−チオアセテートを合成するため、8アームPEG−OH(Nektar)をトルエンに溶解させ、10当量のトリエチルアミン(Sigma Aldrich、CAS番号121−44−8)および10当量のメタンスルホニルクロリド(Sigma Aldrich、CAS番号124−63−0)とアルゴン下、室温で18時間反応させた。残渣を濾過し、濾液を減圧下で濃縮し、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、10当量のチオ酢酸カリウム(Sigma Aldrich、CAS番号10387−40−3)を加えた。室温で18時間後、残渣を濾過し、濾液を減圧下で濃縮し、ジエチルエーテルで沈殿させた。沈殿物を濾過し、減圧下で乾燥させて最終生成物を得た。
【0155】
8アームPEG−ピリジルジスルフィドを合成するため、8アームPEG−チオアセテートをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、シュレンク管中、1.05当量のナトリウムメトキシド(Sigma Aldrich、CAS番号124−41−4)でアルゴン下、室温にて1時間脱保護した。脱保護したチオールをチオレートに還元するため、この溶液に2当量のトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(TCEP、Thermo Scientific、CAS番号51805−45−9)および2当量の蒸留水を加えた。室温で2時間後、12当量の2,2’−ジチオジピリジン(アルドリチオール−2、Sigma Aldrich、CAS番号2127−03−9)を加え、溶液を室温で24時間撹拌した。次いで反応混合物を、MWCO3,500Daの透析チューブで5Lの蒸留水に対して48時間透析し、この間、蒸留水を4回交換した。25mMのTCEPを含む100mMのHEPES、pH8.0で還元して、8アームPEGにロードしたピリジルジスルフィドを定量し、343nmのUV−visスペクトルを測定してピリジン−2−チオン脱離基の存在をモニターした。
【0156】
8アームPEG−ピリジルジスルフィド−ALEXAFLUOR647の合成のため、8アームPEG−チオアセテートをDMFに溶解させ、シュレンク管中、1.05当量のナトリウムメトキシド(Sigma Aldrich、CAS番号124−41−4)でアルゴン下、室温で1時間脱保護した。脱保護したチオールをチオレートに還元するため、この溶液に2当量のトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィンヒドロクロリド(TCEP、Thermo Scientific、CAS番号51805−45−9)および等量の100mMのHEPES pH8.0を加えた。室温で2時間後、0.125当量(8アームの1アームに相当)のAlexaFluor647−C2−マレイミド(Invitrogen)を加えた。室温で2時間後、12当量の2,2’−ジチオジピリジン(アルドリチオール−2、Sigma Aldrich、CAS番号2127−03−9)を加え、溶液を室温で24時間撹拌した。次いで反応混合物を、MWCO3,500Daの透析チューブで5Lの蒸留水に対して48時間透析し、この間、蒸留水を4回交換した。25mMのTCEPを含む100mMのHEPES、pH8.0で還元して、8アームPEGにロードしたピリジルジスルフィドを定量し、343nmのUV−visスペクトルを測定してピリジン−2−チオン脱離基の存在をモニターした。
【0157】
チオール含有ペプチドと8アームPEG−ピリジルジスルフィドとのコンジュゲートは、3Mの水性グアニジン−HCl(Sigma Aldrich、CAS番号50−01−10)に溶解させた化学量論的な量のペプチドを、8アームPEG−ピリジルジスルフィドの水溶液に室温で加えて行った。343nmのUV−visスペクトルを測定し、ピリジン−2−チオン脱離基の存在を定量して、反応変換をモニターした。8アームPEG−ピリジルジスルフィドに2つ以上の分子がコンジュゲートされた場合、この反応手順を同じポットで新しい分子と繰り返した。コンジュゲーションが終了したら、反応混合物をZEBASPIN脱塩カラム(Thermo Scientific)で脱塩し、精製された生成物を適切な滅菌条件下で保存した。
【0158】
OVAに対するトレランスの誘導については、8アームPEG−ERY1/MIS−SIINFEKLコンジュゲート(SIINFEKL:配列番号3)をマウスに静脈内投与あるいは血管外投与することにより証明することができる。この試験を用いれば、ヒト特異的リガンドを使用してヒトにおけるトレランスの誘導も明らかにされるであろう。こうした証明では、投与後所定の日数で、マウスを屠殺し、解析のためリンパ節、脾臓および血液を採取する。脾細胞およびリンパ節由来細胞を蒔き、OVAおよび/またはSIINFEKL(配列番号3)ペプチドにてエキソビボで3日間再刺激し、トレランスの確認された証拠である、それらによるIFNγ、IL−17a、IL−2およびIL−4の発現のダウンレギュレーション、ならびにTGF−β1のアップレギュレーションをELISAにより測定する。IFNγ、IL−17a、IL−2およびIL−4の細胞内染色は、OVAおよび/またはSIINFEKL(配列番号3)ペプチドによるエキソビボでの再刺激から6時間後、脾細胞およびリンパ節由来細胞のフローサイトメトリーを用いて行う。さらに、フローサイトメトリーを用いて、リンパ節、脾臓および血液由来細胞のCD4と、CD8と、制御性T細胞との発現プロファイルの特徴付けを行う。加えて、様々な時点でマウスから血液サンプルを採取してOVA抗原に対する液性抗体応答も測定する。エキソビボでの再刺激のバリアント実験を行って全身性免疫トレランスが確立しているかどうかを判定する。上記のようにマウスに8アームPEG−ERY1/MIS−SIINFEKLコンジュゲート(SIINFEKL:配列番号3)を投与し、アジュバント(リポ多糖、完全フロイトアジュバント、ミョウバンまたはその他)と一緒に9日後にOVAを再投与し、OVA抗原に対する脾細胞の応答を上記のようにELISAおよび/またはフローサイトメトリーにより評価する。8アームPEG−ERY1−SIINFEKLコンジュゲート(SIINFEKL:配列番号3)製剤により、脾細胞はOVAおよびアジュバントによる第2のチャレンジに応答しなくなり、これは全身性免疫トレランスの効果的な確立を証明する方法である。8アームPEG−ERY1/MIS−SIINFEKLコンジュゲート製剤(SIINFEKL:配列番号3)による最初の投与後、トレランスをさらに証明するため、実施例14に詳細に記載した研究と同様にOT−I T細胞の養子移入など、遺伝子導入細胞株を用いてインビボで同様のチャレンジ実験を行ってもよい。自己免疫マウスモデルの免疫トレランスまたは療法剤分子の脱免疫化を証明するため、本明細書に記載したようにSIINFEKL(配列番号3)と関連する抗原に対する類似の8アームPEGコンストラクトを作製してもよい。
【0159】
実施例19:アプタマー−コンジュゲート抗原との非共有結合的赤血球結合による抗原特異的免疫学的トレランスの誘導
非共有結合的赤血球結合による免疫学的トレランスの誘導能力を測定するため、他の非抗体生体親和性試薬を用いた方法を行ってもよい。他のタンパク質ベースの親和性部分、たとえば、設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPin)(Steiner,Forrerら,2008年)、設計されたアルマジロリピートタンパク質(Parmeggiani,Pellarinら,2008年)、フィブロネクチンドメイン(Hackel,Kapilaら,2008年)およびシステイン−ノット(knottin)親和性骨格(Silverman,Levinら,2009年)などを、赤血球に対する結合親和性を示す部分についてスクリーニングする。
【0160】
赤血球に対する高親和性DNA/RNAアプタマーを発見するライブラリースクリーニングは、十分に確立した試験管内進化法(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichmen:SELEX)法(Archemix,Cambridge,MA,USA)を用いて行う(Sampson,2003)。高親和性で赤血球に結合する新規なDNA/RNA配列を発見したら、その3’または5’末端に追加の化学反応基を含むようにそれらを化学合成して、抗原および/またはポリマーミセル/ナノ粒子とコンジュゲートする。化学合成したアプタマーは、たとえば、ナノ粒子または抗原またはナノ粒子−抗原複合体のいずれかに存在するCOOH基とのEDC/NHSコンジュゲーション化学によりコンジュゲートされる反応性NH2基を有しており、赤血球結合アプタマー、および抗原または抗原−ナノ粒子を含む単一のバイオコンジュゲートを形成する。アプタマー、抗原および/または抗原−ナノ粒子の直交反応基およびコンジュゲーションスキームの両方を変更させて、様々な化学的コンジュゲーション技術が試みられている。
【0161】
OVAに対するトレランスの誘導を証明するには、OVA−アプタマーまたはOVA−ナノ粒子−アプタマーコンジュゲートをマウスに静脈内投与あるいは血管外投与する。投与後所定の日数で、マウスを屠殺し、解析のためリンパ節、脾臓および血液を採取する。脾細胞およびリンパ節由来細胞を蒔き、OVAおよび/またはSIINFEKLペプチド(配列番号3)によりエキソビボで3日間再刺激し、トレランスの確認された証拠である、それらによるIFNγ、IL−17a、IL−2およびIL−4の発現のダウンレギュレーション、ならびにTGF−β1のアップレギュレーションをELISAにより測定する。IFNγ、IL−17a、IL−2およびIL−4の細胞内染色は、OVAおよび/またはSIINFEKL(配列番号3)ペプチドによるエキソビボでの再刺激から6時間後、脾細胞およびリンパ節由来細胞のフローサイトメトリーを用いて行う。さらに、フローサイトメトリーを用いて、リンパ節、脾臓および血液由来細胞のCD4と、CD8と、制御性T細胞との発現プロファイルの特徴付けを行う。加えて、様々な時点でマウスから血液サンプルを採取してOVA抗原に対する液性抗体応答も測定する。エキソビボでの再刺激のバリアント実験を行って全身性免疫トレランスが確立しているかどうかを判定する。マウスに上記のようにOVA−抗体またはOVA−抗体−ナノ粒子コンジュゲートを投与し、アジュバント(リポ多糖、完全フロイトアジュバント、ミョウバンまたはその他)と一緒に9日後にOVAを再投与し、OVA抗原に対する脾細胞の応答を上記のようにELISAおよび/またはフローサイトメトリーにより評価する。我々は、我々のOVA−抗体および/またはOVA−抗体−ナノ粒子製剤により、脾細胞がOVAおよびアジュバントによる第2のチャレンジに応答しなくなり、それにより全身性免疫トレランスの効果的な確立が説明されると予想する。我々のOVA−アプタマーおよび/またはOVA−アプタマー−ナノ粒子製剤による最初の投与後、トレランスを証明するため、実施例14に詳細に記載した研究と同様にOT−I T細胞の養子移入など、遺伝子導入細胞株を用いてインビボで同様のチャレンジ実験を行う。自己免疫マウスモデルの免疫トレランスまたは療法剤分子の脱免疫化を証明するため、本明細書に記載したようにOVAと関連する抗原に対する類似のアプタマーコンストラクトを作製する。
【0162】
さらなる開示
本発明の種々の実施形態について記載する。実施形態は、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号1およびそれらの保存的置換体からなる群から選択される配列の少なくとも5個の連続したアミノ酸残基を含む単離されたペプチドであり、前記配列は赤血球に特異的に結合する。実施形態は、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、および配列番号1からなる群から選択される配列の少なくとも1個および2個以下のアミノ酸のDからLへの置換を有する1つ以上の残基を含むペプチドであるか、または配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、および配列番号1からなる群から選択される配列の少なくとも1個および2個以下のアミノ酸の保存的置換を有する。実施形態は、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号1およびそれらの保存的置換体からなる群から選択される配列の少なくとも5個の連続したアミノ酸残基を含むペプチドであり、前記配列は赤血球に特異的に結合する。ペプチドは、たとえば、約10〜約80個の多くの残基を有してもよい。ペプチドは、たとえば、インスリン、酢酸プラムリンチド、成長ホルモン、インスリン様成長因子−1、エリスロポエチン、1型インターフェロンα、インターフェロンα2a、インターフェロンα2b、インターフェロンβ1a、インターフェロンβ1b、インターフェロンγ1b、β−グルコセレブロシダーゼ、アデノシンデアミナーゼ、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、インターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン11、第VIIa因子、第VIII因子、第IX因子、エクセナチド、L−アスパラギナーゼ、ラスブリカーゼ、腫瘍壊死因子受容体およびエンフビルチドからなる群から選択される治療薬をさらに含んでもよい。ペプチドは、抗体、抗体フラグメントおよび一本鎖抗原結合ドメイン(ScFv)からなる群のメンバーをさらに含んでいてもよい。ペプチドは、たとえば、遺伝性疾患により欠損しているタンパク質、非ヒト型グリコシル化タンパク質、非ヒトタンパク質、ヒトに天然には見出されない合成タンパク質、ヒト食物抗原、ヒト移植抗原およびヒト自己免疫抗原からなる群から選択される寛容誘導抗原をさらに含んでいてもよい。ペプチドは、赤血球に特異的に結合する1つ以上の配列を有してもよく、配列は、同じ配列の反復でも、または前記結合を行う様々な配列を混合したものでもよい。
【0163】
一実施形態は、免疫寛容を引き起こす方法であって、寛容誘導抗原、および患者の赤血球に特異的に結合し、それにより抗原を赤血球に結合する赤血球結合部分を含む分子融合体を含む組成物を投与することを含み、分子融合体は、寛容誘導抗原を含む物質に免疫寛容を引き起こすのに効果的な量で投与する方法である。一実施形態は、分子融合体が、抗原に直接共有結合した少なくとも1つの赤血球結合部分からなる方法であり、たとえば、融合タンパク質は、その結合部分および抗原を含む。一実施形態は、分子融合体が、抗原に結合するまたは抗原を含む粒子に結合した少なくとも1つの赤血球結合部分を含み、たとえば、粒子はマイクロ粒子、ナノ粒子、リポソーム、ポリマーソームおよびミセルからなる群から選択される方法である。一実施形態は、寛容誘導抗原が治療用タンパク質の一部分を含む、たとえば、タンパク質は第VIII因子または第IX因子を含む事例である。一実施形態は、寛容誘導抗原が非ヒトタンパク質の一部分を含む事例である。一実施形態は、タンパク質がアデノシンデアミナーゼ、L−アスパラギナーゼ、ラスブリカーゼ、抗胸腺細胞グロブリン、L−アルギナーゼおよびL−メチオナーゼを含む事例である。一実施形態は、患者がヒトであり、寛容誘導抗原が自然界に見出されないタンパク質の一部分を含む方法である。一実施形態は、患者がヒトであり、寛容誘導抗原が、非ヒト型グリコシル化を含むタンパク質のグリカンを含む事例である。一実施形態は、寛容誘導抗原が、ヒト移植抗原の少なくとも一部分を含む事例である。一実施形態は、寛容誘導抗原が、たとえば、プレプロインスリン、プロインスリン、インスリン、GAD65、GAD67、IA−2、IA−2β、チログロブリン、甲状腺ペルオキシダーゼ、サイロトロピン受容体、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、プロテオリピドタンパク質、コラーゲンII、コラーゲンIV、アセチルコリン受容体、マトリックスメタロプロテイン1および3、分子シャペロン熱ショックタンパク質47、フィブリリン−1、PDGF受容体α、PDGF受容体βならびに核タンパク質SS−Aからなる群から選択されるヒト自己免疫疾患タンパク質の一部分を含む事例である。一実施形態は、寛容誘導抗原が、たとえば、コンアラキン(Ara h 1)、アレルゲンII(Ara h 2)、ピーナッツアグルチニン(Ara h 6)、α−ラクトアルブミン(ALA)、ラクトトランスフェリン、グルテイン、低分子量グルテイン、α−およびγ−グリアジン、ホルデイン、セカリンならびにアベニンからなる群から選択されるヒトの食品の一部分を含む事例である。一実施形態は、赤血球結合部分がペプチドリガンド、抗体、抗体フラグメントおよび一本鎖抗原結合ドメイン(ScFv)からなる群から選択される事例である。一実施形態は、scFvが10F7の一部分または全部、たとえば、10F7の軽鎖および/もしくは10F7の重鎖の1つ以上、ならびに/または、10F7の軽鎖および/もしくは10F7の重鎖のより高い親和性のバリアントを含む事例である。一実施形態は、赤血球結合部分が、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号1およびそれらの保存的置換体からなる群から選択される配列の少なくとも5個の連続したアミノ酸残基を含むペプチドリガンドを含み、前記配列は赤血球に特異的に結合する方法である。
【0164】
一実施形態は、寛容誘導抗原、および患者の赤血球に特異的に結合し、それにより抗原を赤血球に結合する赤血球結合部分を含む分子融合体を含む組成物である。1つの例は、赤血球結合部分が抗原に共有結合する事例である。別の例は、分子融合体が、抗原に結合する粒子、たとえば、マイクロ粒子、ナノ粒子、リポソーム、ポリマーソームまたはミセルに結合した赤血球結合部分を含む事例である。寛容誘導抗原の例として、治療用タンパク質の一部分、非ヒトタンパク質の一部分、ヒトで天然には見出されないタンパク質の一部分(そのタンパク質の全部、すなわち、すべてのタンパク質)、非ヒト型グリコシル化を含むタンパク質のグリカン、ヒト自己免疫抗原の一部分、ヒトの食品の一部分が挙げられる。一実施形態は、赤血球結合部分がペプチドリガンド、抗体、抗体フラグメントおよび一本鎖抗原結合ドメイン(ScFv)、たとえば、10F7の全部または一部分からなる群から選択される組成物である。赤血球結合部分は、配列番号11、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号1およびそれらの保存的置換体からなる群から選択される配列の少なくとも5個の連続したアミノ酸残基を含むペプチドリガンドを含んでもよく、前記配列は赤血球に特異的に結合する。赤血球結合部分は、ペプチドと赤血球との平衡状態における結合の測定により判定した場合、約10μM〜0.1nMの解離定数を有するペプチドリガンドを含む部分であってもよい。
【0165】
別の例は、合成ポリマー、分岐合成ポリマーおよび粒子からなる群から選択される実体に結合した、赤血球に特異的に結合する赤血球結合部分を含む組成物である。粒子は、たとえば、マイクロ粒子、ナノ粒子、リポソーム、ポリマーソームおよびミセルであってもよい。組成物は、寛容誘導抗原、治療薬または腫瘍ホーミングリガンドをさらに含んでもよい。
【0166】
実施形態は、患者の腫瘍を塞栓する方法であって、赤血球結合部分および腫瘍ホーミングリガンドの分子融合体を含む組成物、または組成物を含む薬物を患者に投与することを含み、腫瘍ホーミングリガンドは、腫瘍および腫瘍血管系からなる群から選択される標的に特異的に結合するように調節された抗体、抗体フラグメント、一本鎖抗原結合ドメイン(ScFv)またはペプチドリガンドであり、かつ赤血球結合部分は、赤血球に特異的に結合するペプチドリガンド、抗体、抗体フラグメント、scFv、またはアプタマーである、方法を含む。腫瘍ホーミングリガンドの例として、アミノペプチダーゼA、アミノペプチダーゼN、エンドシアリン、細胞表面ヌクレオリン、細胞表面アネキシン−1、細胞表面p32/gC1q受容体、細胞表面プレクチン−1、フィブロネクチンEDA、フィブロネクチンEDB、インターロイキン11受容体α、テネイシン−C、エンドグリン/CD105、BST−2、ガレクチン−1、VCAM−1、フィブリンおよび組織因子受容体が挙げられる。赤血球部分は、たとえば、ペプチドリガンド、scFvまたは抗体もしくはフラグメントを含んでもよい。
【0167】
一実施形態は、赤血球に特異的に結合するペプチドリガンドを含む一本鎖抗原結合ドメイン(scFv)である。ペプチドは、scFvに結合していても、またはリンカー部分に配置されていてもよい。1つ以上のペプチドリガンドを含んでもよい。
【0168】
本明細書に言及した特許出願、特許および刊行物はすべて、あらゆる目的のため本明細書に援用する。矛盾がある場合は、本明細書が優先する。
【0169】
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