(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017425
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ヒトまたは動物の関節を修復するための装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/44 20060101AFI20161020BHJP
A61F 2/30 20060101ALI20161020BHJP
A61F 2/42 20060101ALI20161020BHJP
A61F 2/46 20060101ALI20161020BHJP
A61B 17/56 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
A61F2/44
A61F2/30
A61F2/42
A61F2/46
A61B17/56
【請求項の数】23
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-528488(P2013-528488)
(86)(22)【出願日】2011年9月20日
(65)【公表番号】特表2013-540473(P2013-540473A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】CH2011000221
(87)【国際公開番号】WO2012037698
(87)【国際公開日】20120329
【審査請求日】2014年9月17日
(31)【優先権主張番号】61/384,922
(32)【優先日】2010年9月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511206559
【氏名又は名称】スパインウェルディング・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SPINEWELDING AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】エシュリマン,マルセル
(72)【発明者】
【氏名】レーマン,マリオ
(72)【発明者】
【氏名】ベンガー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ゲーベル−メール,シュテファニー
【審査官】
胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−504118(JP,A)
【文献】
特表2007−519479(JP,A)
【文献】
特表2010−528681(JP,A)
【文献】
特表2008−541930(JP,A)
【文献】
特表2012−506264(JP,A)
【文献】
特表2012−506265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/44
A61B 17/56
A61F 2/30
A61F 2/42
A61F 2/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の滑膜関節を治療するための装置であって、前記関節は2つの関節面を含み、前記装置は、
少なくとも互いに制限された関節接合および平行移動が可能であり、熱可塑性特性を有する材料および振動エネルギを用いて前記関節面の各々に1つずつ固定されるように設けられた2つの関節部(1および2)を備え、熱可塑性特性を有する前記材料は、各関節部(1および2)の外側に配置され、前記装置はさらに、
前記2つの関節部(1および2)の間または周りに着脱可能に配置され、前記装置が少なくとも移植の間は一片を構成するように前記2つの関節部(1および2)を接続して剛性を有する非関節接合要素を形成する、一時的なコネクタ部(4)を備える、装置。
【請求項2】
前記関節部(1および2)は、キャリア板(11)の外面から突出する隆起部(10);前記キャリア板(11)の前記外面のコーティング;および前記キャリア板の外側の溝に配置される、または前記キャリア板の上もしくは内部の穿孔されたシースもしくはトンネル内に配置されるピン;の少なくとも1つに、熱可塑性特性を有する前記材料を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記関節部の全体が、熱可塑性特性を有する前記材料からなる、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
ヒトまたは動物の滑膜関節を治療するための装置であって、前記関節は2つの関節面を含み、前記装置は、
少なくとも互いに制限された関節接合および平行移動が可能であり、熱可塑性特性を有する材料および振動エネルギを用いて前記関節面の各々に1つずつ固定されるように設けられ、穿孔を含むシース(41)もしくはトンネル、またはキャリア板(11)の外側の溝を含む2つの関節部(1および2)と、
熱可塑性特性を有する前記材料の複数のピンであって、前記シースまたは前記トンネルまたは前記溝に押込まれ、熱可塑性特性を有する材料の液化のために振動させられて、隣接する骨組織に流れ込む複数のピンと、
一時的なコネクタ部(4)は、前記2つの関節部(1および2)の間または周りに着脱可能に配置され、前記2つの関節部(1および2)を接続して剛性を有する非関節接合要素を形成する、装置。
【請求項5】
前記関節部(1および2)の内側同士の間に配置された界面部(3)をさらに備える、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記界面部(3)は弾性を有し、前記2つの関節部(1および2)の前記内側の各々に固定され、前記コネクタ部(4)は、前記関節部(1および2)の前記内側同士の間に締付けられるか締付け可能であり、かつ前記界面部の弾性によって締付けられた位置で保持されるスプレッダである、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記界面部(3)は弾性を有するか剛性を有するか存在せず、前記一時的なコネクタ部(4)は、前記2つの関節部(1および2)を互いに締付けることが可能なクランプである、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
前記界面部(3)は、前記関節部(1および2)の前記内側に取付られずに配置される、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記一時的なコネクタ部(4)は剛性を有し、前記2つの関節部(1および2)同士の間に配置され、前記関節部(1および2)の各々に剛性的に取付けられ、前記一時的なコネクタ部(4)は少なくとも部分的に生物学的再吸収可能または生物学的分解可能な材料からなる、請求項1または請求項4に記載の装置。
【請求項10】
前記界面部(3)は生物学的再吸収可能または生物学的分解可能な材料からなる、請求項5〜8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
非ヒト動物患者の滑膜関節を治療するための方法であって、前記関節は2つの関節面を含み、前記方法は、
請求項1に記載の装置を提供するステップを備え、熱可塑性特性を有する前記材料は前記関節部(1および2)に組込まれ、前記方法はさらに、
軟骨下骨組織を少なくとも部分的に露出するように前記関節の前記関節面を準備するステップと、
準備した前記関節面同士の間に前記装置を押込み、同時に、熱可塑性特性を有する前記材料の少なくとも一部を液化するのに十分な時間だけ前記装置を振動させ、前記材料を露出した前記軟骨下骨組織に浸透させるステップと、
液化した前記材料を凝固させて、前記装置と露出した前記軟骨下骨組織との間に形状嵌合接続を構成するステップと、
前記関節の少なくとも制限された関節接合および平行移動を可能にするように、前記一時的なコネクタ部(4)を取外すステップとを備える、方法。
【請求項12】
前記関節を固定するステップと、前記関節を固定した状態から解放するステップとをさらに備え、前記固定するステップは、前記押込むステップの前に実行され、前記解放するステップは、前記構成するステップの後または前記取外すステップの後に実行される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
非ヒト動物患者の滑膜関節を治療するための方法であって、前記関節は2つの関節面を含み、前記方法は、
請求項1に記載の装置を提供するステップを備え、熱可塑性特性を有する前記材料は別個のピン(20)に含まれており、前記方法はさらに、
軟骨下骨組織を少なくとも部分的に露出するように前記関節の前記関節面を準備するステップと、
準備した前記関節面同士の間に前記装置を位置決めするステップと、
前記ピン(20)を前記関節部(1および2)の外側の間に、または前記関節部(1および2)に含まれる穿孔したシースもしくはトンネルに押込み、同時に、熱可塑性特性を有する前記材料の少なくとも一部を液化するのに十分な時間だけ前記ピン(20)を振動させ、前記材料を前記シースまたはトンネルの穿孔を通って流れさせて、露出した前記軟骨下骨組織に浸透させるステップと、
液化した前記材料を凝固させて、前記装置と露出した前記軟骨下骨組織との間に形状嵌合接続を構成するステップと、
前記関節の少なくとも制限された関節接合および平行移動を可能にするように、前記一時的なコネクタ部(4)を取外すステップとを備える、方法。
【請求項14】
前記関節を固定するステップと、前記関節を固定した状態から解放するステップとをさらに備え、前記固定するステップは、前記押込むステップまたは前記位置決めするステップの前に実行され、前記解放するステップは、前記構成するステップの後または前記取外すステップの後に実行される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記固定するステップでは、カニューレ挿入案内工具の遠面に設けられた鋭利な突出部が、一対の前記関節面の両側で骨表面に押入れられる、請求項12または請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記関節の前記関節面を準備する前記ステップは、少なくとも一対の対向する溝を準備するステップを含み、前記一対の各溝は前記関節面の各々に配置される、請求項11〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記コネクタ部(4)を取外す前記ステップは、前記関節から前記コネクタ部(4)を移植方向と反対の方向に引抜くステップを含む、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
装置を提供する前記ステップは、前記装置または前記コネクタ部(4)の近面を振動工具(5)の遠端に接続するステップを含み、前記コネクタ部(4)を取外す前記ステップは、前記振動工具(5)およびこれに接続された前記コネクタ部(4)を前記関節から引離すステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
装置を提供する前記ステップは、生物学的分解可能または生物学的再吸収可能な材料からなるコネクタ部(4)を提供するステップを含み、前記コネクタ部(4)を取外す前記ステップは、前記コネクタ部を前記関節内で生物学的に再吸収または生物学的に分解させるステップを含む、請求項11〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
最小侵襲手術技術を用いて実行される、請求項11〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記関節は蝶番関節であり、前記方法は横からのアプローチによって実行される、請求項11〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ヒト患者または非ヒト動物患者の滑膜関節を治療するためのシステムであって、前記関節は2つの関節面を含み、前記システムは、
請求項1に記載の装置を備え、熱可塑性特性を有する前記材料は前記関節部(1および2)に組込み可能であり、前記システムはさらに、
前記関節面同士の間に前記装置を押込み、同時に、熱可塑性特性を有する前記材料の少なくとも一部を液化してエネルギ伝達の後に露出した軟骨下骨組織に浸透させるのに十分な時間だけ前記装置を振動させるための手段と、
エネルギ伝達の後に凝固して、前記装置と露出した前記軟骨下骨組織との間に形状嵌合接続を構成し、
前記関節の少なくとも制限された関節接合および平行移動を可能にするように、前記一時的なコネクタ部(4)を取外すための手段とを備える、システム。
【請求項23】
ヒト患者または非ヒト動物患者の滑膜関節を治療するためのシステムであって、前記関節は2つの関節面を含み、前記システムは、
請求項10に記載の装置を備え、熱可塑性特性を有する前記材料は別個のピン(20)に含まれており、前記システムはさらに、
準備した前記関節面同士の間に前記装置を位置決めするための手段と、
前記ピン(20)を前記関節部(1および2)の外側の間に、または前記関節部(1および2)に含まれる穿孔したシースもしくはトンネルに押込み、同時に、熱可塑性特性を有する前記材料の少なくとも一部を液化してエネルギ伝達の後に前記シースまたはトンネルの穿孔を通って流れさせ、露出した軟骨下骨組織に浸透させるのに十分な時間だけ前記ピン(20)を振動させるための手段と、
エネルギ伝達の後に凝固して、前記装置と露出した前記軟骨下骨組織との間に形状嵌合接続を構成し、
前記関節の少なくとも制限された関節接合および平行移動を可能にするように、前記一時的なコネクタ部(4)を取外すための手段とを備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は医療技術の分野に属しており、ヒトまたは動物の関節、特にヒトの面関節などの小さな滑膜関節、ヒトの手や足の関節(指関節およびつま先関節を含む)、仙腸関節、胸鎖関節、胸肋関節または肋椎関節だけでなく、軟骨性連結、特に椎間関節をも修復するための方法および装置に向けられる。「関節を修復する」という表現は本明細書において、関節に装置を挿入して装置を関節の両関節面に締結することによる両関節面に関する手術という意味で使用され、手術後、関節は少なくとも制限された関節接合が可能になり、すなわち当該修復はいわゆる関節癒合(手術後の関節接合能力なし)ではなく、たとえば関節面再建(ほぼ完全な関節接合能力を維持または回復)である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
米国特許第5,571,191号(Fitz)はヒトの面関節の面再建のための方法および装置を開示している。当該装置は、連続する2つの手術工程において関節の関節突起に締結される2つの独立したキャップ状の部品を含み、当該部品の各々が人工関節面を構成している。国際公開第WO2008/034276号も、このような面再建のための方法および装置を開示している。上記の両方の場合において提案されているような手術については、治療すべき関節の関節面を、当該関節を脱臼させるか外すことによって、または関節包および関連の靭帯を大きく切除することによって、アクセスできるようにする必要がある。
【0003】
米国特許公開第2009/171394号(Abdou)は、関節面の各々に下部を切取った溝を設け、当該溝は互いに対向して配置され、カニューレによって溝に装置を挿入することによってヒトの面関節を外科的に治療するための方法および装置を開示している。カニューレおよび装置は、一対の対向する下部切取溝に適合した断面を有する。装置をまず圧入によって溝内に保持した後、オッセオインテグレーションを行う。装置は2つの装置部分を含み、このうちの一方が、一対の対向する下部切取溝の各々に嵌合する。装置部分は互いに別個であるか、剛性によってまたはエラストマー部分を介して互いに接続される。装置の種類の選択に応じて、手術後、治療した関節によって完全な関節接合(別個の装置部分)、制限された関節接合(装置部分同士の間のエラストマー接続)、または関節接合なし(剛性接続された装置部分)、すなわち関節癒合が可能になる。
【0004】
本明細書中にその全体が引用により援用されている国際公開第WO2010/045749号(WW Technology)は、適切に準備した関節の関節面同士の間に癒合装置を挿入し、熱可塑性特性を有し癒合装置上に適切に配置された材料のインシチュー(in situ)液化によって癒合装置を両関節面内にアンカー固定し、液化した材料を関節面の骨組織に浸透させ、当該材料は再凝固すると癒合装置と骨組織との間の押込嵌合接続を構成する、ヒトまたは動物の患者の小さな滑膜関節、特にヒトの面関節を癒合させるための装置および方法を記載している。インシチュー液化のためには、癒合装置に振動エネルギ(特に超音波振動)を印加することが好ましく、液化を所望の場所に限定することによって手術部位近傍の組織に過度の熱負荷がかからないようにするためには、熱可塑性材料(および好ましくは装置に含まれる他の材料)は損失がほとんどなく(内部液化なし)振動エネルギを伝達可能であるように選択され、これによって液化を振動要素(装置または装置部分)と対の要素(骨組織またはさらなる装置部分)との間の界面に限定し、当該界面は液化および浸透が望まれる場所に位置している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の要約
本発明の目的は、ヒトまたは動物の患者の関節、特に、たとえばヒトの面関節などの小さな滑膜関節、またはたとえばヒトの椎間関節などの軟骨性連結を修復するための方法および装置を提供することである。修復した関節は手術後に制限された関節接合から完全な関節接合が可能になる。関節の両関節面を同時に治療する。当該修復は、適切に準備した関節面同士の間に装置を挿入すること、および、熱可塑性特性を有し振動エネルギの印加によってインシチュー液化される材料を用いて、1つの手術工程のみで装置部分をこれら表面のいずれか一方に固定することを含む。
【0006】
これらおよび他の目的は、請求項において規定される発明によって達成される。
最新技術に関して上記で述べたように、装置を硬組織(ほとんどの場合骨組織であるが適切な骨置換材料も含む)内にアンカー固定するための、振動エネルギを用いた熱可塑性特性を有する材料の標的インシチュー液化は、当該装置が、振動工具と接触している近面から所望の液化の部位まで、すなわち振動装置またはその一部と対の要素(骨組織もしくはさらなる装置部分)との間の界面まで、できる限り少ない損失で振動エネルギを伝達可能であるように設計されれば、手術部位の組織に過度の熱負荷をかけずに達成可能である。このような効率的なエネルギ伝達は、装置と硬組織との間の界面における所望の液化の場合は、装置を単一の剛性振動器として設計し、装置全体を振動させることによって達成され、2つの装置部分同士の間の所望の液化の場合は、装置を2つの剛性部分を有するように設計し、一方の剛性部分を振動させて他方の部分は振動させないことによって達成される。この要件は、2つの装置部分が互いに関節接合可能であることを必要とする、すなわち2つの装置部分同士の間の剛性接続を禁止する、治療後の関節の少なくとも制限された関節接合の要件とは対照的である。
【0007】
上記2つの対照的な要件は、ヒトまたは動物の関節を修復するための装置を、互いに関節接合可能であり場合によっては平行移動可能である2つの関節部を含むように設計することによって、さらに、当該装置に、少なくとも移植の間は2つの関節部を剛性接続する一時的なコネクタ部を設けることによって、本発明に従って両立する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の好ましいグループの実施例では、本発明に係る装置は、2つの関節部と、関節部同士の間に配置されて関節部の各々に固定された弾性界面部と、一時的なコネクタ部としての、界面部の弾力によって関節部同士の間に着脱可能に締付けられたスプレッダとを含む。締付けられたスプレッダは、移植処置のために装置またはその一部に剛性を与え、装置の移植の直後に、または関節がスプレッダによって固定される初期の治癒段階の後の経過観察のための外科処置において取外されるか、生物学的再吸収または生物学的分解によって徐々に取除かれる。界面部は、関節接合を制限するために関節内に残るか、関節の関節接合が界面部によって制限される第1または第2の治癒段階の後に生物学的再吸収または生物学的分解によって徐々に取除かれる。
【0009】
第2のグループの例示的な実施例では、本発明に係る装置は、2つの関節部と、一時的なコネクタ部としての、2つの関節部を互いに締付けることによって関節部を接続して1つの剛性要素を形成することが可能なクランプとを含む。装置は、関節部同士の間に配置された界面部をさらに含み得る。界面部は弾性を有して関節部に固定されるか固定されず、または剛性を有して関節部に固定されず、すなわち関節部の互いの関節接合および/もしくは平行移動を可能にする。クランプおよび場合によって界面部は、第1の好ましいグループの実施例について述べたように、取外されるか、生物学的に再吸収または生物学的に分解される。
【0010】
第3のグループの例示的な実施例では、本発明に係る装置は、2つの関節部と、生物学的再吸収可能または生物学的分解可能な材料からなり、2つの関節部同士の間に配置され、2つの関節部のいずれか一方に剛性固定された剛性コネクタ部とを含む。コネクタ部は、生物学的再吸収可能または生物学的分解可能な材料を含む。コネクタ部は、移植後の治癒段階において生物学的再吸収または生物学的分解によって関節面同士の間から取除かれる。この治癒段階では、コネクタ部による関節の初期の固定が徐々に減少して最終的に関節部を互いに独立させ、すなわち、関節の関節接合能力が制限されないか、または関節部の関節面の形態によって構成されるような制限を受ける。代替的に、当初剛性を有するコネクタ部は、生物学的再吸収または生物学的分解によって部分的にのみ取除かれて、本発明に係る装置の第1または第2のグループの実施例について上記で述べたように、関節部同士の間に剛性または可撓性を有する界面部を残し得る。
【0011】
本発明に係る装置のすべての実施例は、移植処置の少なくとも直前、および特に移植処置の最中に、修復すべき関節の2つの関節面同士の間に押入れられる一片を構成する。つまり、移植のために、関節を広く開けたり脱臼させたりすることによって上記関節面をアクセスできるようにする必要がないため、上記関節面は最小侵襲手術に特に好適である。本発明に係る装置は皮質骨および海綿骨が通常よく発達している関節の関節面内にアンカー固定されるが、関節を開くことによって関節面に直接アクセスすることが必要でないということは、蝶番関節、特にたとえばヒトの手の指節間関節および中手指節関節などの小さな蝶番関節への横からのアプローチを可能にするだけでなく、有利なものにする。
【0012】
上述のように、本発明に係る装置の2つの関節部の各々は、熱可塑性特性を有する材料および振動エネルギを用いて、治療すべき関節の適切に準備した2つの関節面の一方の骨組織内に、または場合によっては関節の関節面に配置された骨置換材料内にアンカー固定される。ここで、振動エネルギは近面から装置またはその一部に伝達され、装置と関節の2つの関節面の骨組織(もしくは置換材料)との間の界面で、または装置部分同士の間の界面で液化が達成され、後者の界面は、関節の2つの関節面の骨組織(または置換材料)近傍にある。
【0013】
上記のアンカー固定技術の基礎になっているのは、硬組織(たとえば骨組織または対応する置換材料)内にインプラントを機械的に十分にアンカー固定するのに好適な機械的特性を有する熱可塑性材料のインシチュー液化である。当該材料は、液化状態では、硬組織の生来のまたは予め設けられた孔、空隙または他の構造に浸透可能な粘度を有する。許容できない熱負荷が組織にかからないように、比較的少量の材料のみが液化する。孔、空隙または他の構造に浸透した熱可塑性材料は、再凝固すると、硬組織との間に押込嵌合接続を構成する。
【0014】
組織の許容できる熱負荷および押込嵌合接続の好適な機械的特性と組合された好適な液化は、当初の弾性率が少なくとも0.5GPaであり、かつ溶融温度が最大で約350℃である熱可塑性特性を有する材料を用いることによって、かつ、そのような材料をたとえば移植面上に設け、好ましくはインプラントをインプラントよりも若干小さい開口部(たとえばボア)に挿入するか、インプラントをインプラントよりも元来は若干大きい開口部内で拡大することによって(拡大はたとえばインプラントの機械的な圧縮または座屈による)、当該材料が移植時に硬組織に押付けられることによって達成可能である。インプラントを硬組織内にアンカー固定するために、インプラントにたとえば超音波装置のソノトロードを印加することによって、好ましくは2〜200kHzの範囲内の周波数の振動(好ましくは超音波振動)をインプラントに印加する。比較的高い弾性率のため、熱可塑性材料はほとんど減衰なしで超音波振動を伝達することができるので、インプラントの内部液化およびしたがって不安定化が起こらず、すなわち、液化は熱可塑性材料が骨組織と接触している場所でのみ起こり、このため容易に制御可能であり、最小限に抑えることができる。
【0015】
熱可塑性特性を有する材料をインプラントの表面に設ける(たとえば米国特許第7,335,205号または米国特許第7,008,226号に開示)代わりに、熱可塑性特性を有する材料を穿孔したシースに設け、当該材料をシース内で液化させ、シースの穿孔を通じてインプラントの表面におよび硬組織の孔または空隙に押込む(たとえば米国特許第7,335,205号および米国特許第7,008,226号に開示)ことも可能であり、および/または熱可塑性特性を有する材料を2つのインプラント部分同士の間で液化させ、このうち一方の部分を振動させ、他方の部分を対の要素として作用させ、2つのインプラント部分同士の間の界面を硬組織のできる限り近傍に位置決めする(米国特許公開第2009/131947号および国際公開第WO2009/109057号に開示)ことも可能である。
【0016】
本発明に係る装置および方法に好適な熱可塑性特性を有する材料は熱可塑性ポリマーであり、たとえば、乳酸および/またはグリコール酸系ポリマー(PLA、PLLA、PGA、PLGAなど)、またはポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリカプロラクトン(PCL)、多糖類、ポリジオキサン(PD)、ポリ無水物、ポリペプチド、または対応する共重合体または上記ポリマーを成分として含む複合材料などの再吸収可能ポリマーであるか;ポリオレフィン(たとえばポリエチレン)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリアリールケトン、ポリイミド、ポリフェニルスルフィド、または液晶ポリマーLCP、ポリアセタール、ハロゲン化ポリマー、特にハロゲン化ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテル、または同等の共重合体または上記ポリマーを成分として含む複合材料などの再吸収不可能ポリマーである。
【0017】
分解可能な材料の具体的な実施例は、LR706 PLDLLA 70/30、R208 PLDLA 50/50、L210S、およびPLLA 100%Lなどのポリラクチドであり、すべてBohringerのものである。好適な分解可能なポリマー材料の一覧は、Erich Wintermantel und Suk-Woo Haa、「Medizinaltechnik mit biokompatiblen Materialien und Verfahren」、3. Auflage, Springer, Berlin 2002(以下「Wintermantel」と称する)の200頁にも見つけられ、PGAおよびPLAに関する情報については202頁以降、PCLに関する情報については207頁、PHB/PHV共重合体に関する情報については206頁、ポリジオキサノンPDSに関する情報については209頁参照。さらなる生物学的再吸収可能な材料についての説明は、たとえば、CA Bailey et al., J Hand Surg [Br] 2006 Apr; 31(2): 208-12に見つけられる。
【0018】
分解不可能な材料の具体的な実施例は、ポリエーテルケトン(PEEK Optima、グレード450および150、Invibio Ltd)、ポリエーテルイミド、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシメチレン、またはポリカーボネートウレタン(特にDSMのBionate、特にタイプ65Dおよび75D)である。ポリマーおよび応用例の概要の表がWintermantelの150頁に列挙されており、具体的な例は、Wintermantelの161頁以降(PE、Hostalen Gur 812, Hochst AG)、164頁以降(PET)、169頁以降(PA、すなわちPA6およびPA66)、171頁以降(PTFE)、173頁以降(PMMA)、180頁(PUR、表参照)、186頁以降(PEEK)、189頁以降(PSU)、191頁以降(POM、ポリアセタール、商標名Delrin、TenacはProtecの内部人工器官でも使用されている)に見つけられる。
【0019】
熱可塑性特性を有する材料は、異種の相またはさらなる機能を果たす化合物をさらに含み得る。特に、熱可塑性材料は、混合された繊維またはウィスカー(たとえばリン酸カルシウムセラミックスまたはガラス製)によって強化され得、それらは複合材料を表わす。熱可塑性特性を有する材料は、インシチューで膨張もしくは溶解する(孔を形成する)成分(たとえばポリエステル、多糖類、ヒドロゲル、リン酸ナトリウム)、インプラントを不透明にすることによってX線で見えるようにする化合物、またはインシチューで放出され、たとえば治癒および再生の促進などの治療効果を有する化合物(たとえば成長因子、抗生物質、炎症抑制剤もしくはリン酸ナトリウムや炭酸カルシウムなどの酸性分解の副作用に対抗する緩衝剤)をさらに含み得る。熱可塑性材料が再吸収可能である場合、このような化合物の放出が遅れる。
【0020】
使用される充填剤は、分解可能なポリマーにおいて使用される分解可能な骨刺激性充填剤を含み得、これは、β−リン酸三カルシウム(TCP)、ヒドロキシアパタイト(HA、結晶化度<90%)、またはTCP、HA、DHCP、バイオガラスの混合物(Wintermantel参照)を含む。分解不可能ポリマーに対する、一部のみが分解可能またはほぼ分解不可能な骨結合刺激充填剤は、バイオガラス、ヒドロキシアパタイト(結晶化度>90%)、HAPEX(登録商標)を含む。SM Rea et al., J Mater Sci Mater Med. 2004 Sept; 15(9): 997-1005参照。ヒドロキシアパタイトについては、L. Fang et al., Biomaterials 2006 Jul; 27(20): 3701-7、M. Huang et al., J Mater Sci Mater Med 2003 Jul; 14(7): 655-60、およびW. Bonfield and E. Tanner, Materials World 1997 Jan; 5 No. 1:18-20も参照。生物活性充填剤の実施例およびその説明は、たとえばX. Huang and X. Miao, J Biomater App. 2007 Apr; 21(4): 351-74、JA Juhasz et al. Biomaterials, 2004 Mar; 25(6): 949-55に見つけられる。粒状充填剤の種類には、粗いもの:5〜20μm(含有量は優先的に10〜25体積%)、サブミクロン(析出からのナノ充填剤、優先的にプレート状、アスペクト比>10、10〜50nm、含有量0.5〜5体積%)が含まれる。
【0021】
生物学的分解可能な充填ポリマー材料の具体的な例は、リン酸三カルシウムで充填されたPLLAまたは最大で30%の二相リン酸カルシウムで充填されたPDLLA 70%/30%(Bohringerの70%Lおよび30%D/L、LR706)である。
【0022】
アンカー固定機能を果たさない移植可能装置の一部または装置部分は任意の好適な材料(たとえばポリマー、金属、セラミックス、ガラス)からなり得る。当該材料は生物学的再吸収可能または不可能、生物学的分解可能または不可能であり得、熱可塑性特性を有し得るか有し得ない。このような材料を骨組織と接触させる場合、材料は好ましくは、さらなるオッセオインテグレーションのために設けられた表面、すなわち本質的に公知の表面構造および/またはコーティングを有する表面を有する。
【0023】
本発明に係る装置および方法は最小侵襲手術に特に好適であるが、開手術にも適用可能である。
【0024】
本発明を添付の図面に関連してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る装置の第1の好ましいグループの実施例の例であって、2つの関節部と、弾性界面部と、スプレッダの形態の一時的なコネクタ部とを含む完成した装置の三次元表現を示す図である。
【
図2】本発明に係る装置の第1の好ましいグループの実施例の例であって、2つの関節部と、弾性界面部と、スプレッダの形態の一時的なコネクタ部とを含む装置の、移植方向に垂直な断面II−IIを示す図である。
【
図3】本発明に係る装置の第1の好ましいグループの実施例の例であって、2つの関節部と、弾性界面部と、スプレッダの形態の一時的なコネクタ部とを含む装置の、移植方向と平行な断面III−IIIを示す図である。
【
図4】本発明に係る装置の第1の好ましいグループの実施例の例であって、2つの関節部と、弾性界面部と、スプレッダの形態の一時的なコネクタ部とを含む装置の、移植方向と平行な断面IV−IVを示す図である。
【
図5】本発明に係る装置の第1の好ましいグループの実施例の例であって、スプレッダのみを示す図である。
【
図6】コネクタ部が示されていない、第1の好ましいグループのさらなる例示的な実施例を示す図である。
【
図7】コネクタ部が示されていない、第1の好ましいグループのさらなる例示的な実施例を示す図である。
【
図8】たとえば
図1〜
図7に示す装置に適用可能な弾性界面部のさらなる実施例を示す図である。
【
図9】本発明に係る装置の第2のグループの実施例の例であって、2つの関節部と、界面部と、クランプの形態のコネクタ部とを含む装置(移植方向と平行に見た)を示す図である。
【
図10】
図9の装置のコネクタ部またはクランプを示す図である。
【
図11】本発明に係る装置の第2のグループの実施例のさらなる例であって、2つの関節部と、クランプの形態のコネクタ部とを含む装置(移植方向と平行に見た)を示す図である。
【
図12】
図11の装置のコネクタ部またはクランプを示す図である。
【
図13】本発明に係る装置の第3のグループの実施例の例であって、剛性を有し生物学的分解可能なコネクタ部によって剛性接続された2つの関節部を含む装置を示す図である。
【
図14】本発明に係る装置の第1のグループの実施例のさらなる例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好ましい実施例の説明
図1〜
図5は、本発明に係る装置の第1の好ましいグループの実施例の例を示す。当該装置は、2つの関節部1および2と、弾性界面部3と、スプレッダの形態のコネクタ部4とを含む。
図1は完成した装置の三次元表現であり、装置を移植するために用いられる振動工具5の遠端をさらに示す。
図2、
図3および
図4は、完成した装置の断面である(
図2は移植方向IDに垂直な切断線II−II、
図2および
図3は移植方向IDと平行な切断線III−IIIおよびIV−IVであり、切断線は
図1に示す)。
図5はコネクタ部のみの三次元表現である。
【0027】
関節部1および2は自身の内側(関節部の関節面)で互いに対向しており、自身の外側に、たとえば移植方向IDと平行に延在する突出隆起部10の形態の、熱可塑性特性を有する材料を含む。熱可塑性特性を有する材料からなる突出隆起部10は、下部を切取った溝(図示せず)内に、または異なる材料(たとえば金属やセラミック材料)からなるキャリア板11の粗いもしくは多孔質の表面部上に固定され得、骨組織と対向する自身の表面に、主面から突出する縁端または小さな尖端の形態のエネルギ指導子(energy director)を有し得る。関節部1および2全体を熱可塑性特性を有する材料で作製することも可能である。
【0028】
弾性界面部3は2つの関節部1と2との間に配置され、関節部1および2の内側に、すなわちキャリア板11の隆起部10を有する表面とは反対側の表面に固定される。界面部3は、特に関節部1および2の内側と垂直な方向において、またはキャリア板11同士の間で圧縮および伸張可能であり、それによってこれらキャリア板同士の間の距離だけでなく、場合によってはキャリア板同士の間の角度も変えることができる。界面部3はさらに、2つの関節部1と2との間、または2枚のキャリア板11同士の間の制限された平行移動を可能にするように変形可能であり得る。界面部3はたとえばエラストマー構造物(たとえば弾性壁を有するエラストマーまたは液体または気体充填容器からなる)である。
【0029】
コネクタ部4は関節部1と2との間に、またはキャリア板11同士の間に位置決めされるように設計され、装置の取扱および移植時に一般に発生する力が関節部をさらに広げることができないように、すなわち界面部3の弾力によってコネクタ要素4がキャリア板11同士の間で締付けられているのを解放することができないように、界面部3を伸張させるのに十分な高さをキャリア板11同士の間に有する。コネクタ部4は好ましくは、界面部3を近側および両側面で囲むU字形状を有する。U字形状のコネクタ部の中心部材は好ましくは、振動工具5の遠端を自身に取付けるための手段、たとえばこの工具の遠端に配置された突出部13が入る(たとえばねじ接続または圧入接続)ボア12を含む。代替的に、上記の取付手段は、たとえばコネクタ部4の突出部および工具5の対応するボア、または対応する一対の円錐およびテーパ状のボアである。取付手段は、工具5の振動をコネクタ部4に伝達可能なように、かつ、移植時の圧縮力だけでなく、アンカー固定工程の後にコネクタ部4を装置の移植された残りの部分(関節部1および2ならびに界面部3)から引離す際の引張荷重にも耐えることができるように設計される。
【0030】
アンカー固定工程の完了後のコネクタ部4の取外しを容易にするために、コネクタ部4の表面を、少なくとも関節部1および2と接触している場所において、コネクタ部の取外しの際のフレッチング(fretting)またはシーシング(ceasing)(圧力による高摩擦の相対運動)を受けない材料で作ることが勧められる。したがって、チタン製のキャリア板11については、コネクタ部4またはその対応する表面にたとえばステンレス鋼やアルミニウムなどの異なる材料を使用すること、またはあまり好適でない材料(たとえば関節部と同じ材料、たとえばチタン)からなるそのような表面をたとえばPEEKでコーティングすることが提案される。
【0031】
振動工具5は、好ましくは形状およびサイズがコネクタ部4の近面に適合された遠面と、振動源(たとえば超音波装置、場合によってはブースタを有する)に接続されるか接続可能な近端とを有する。
【0032】
たとえばヒトの面関節などの関節における
図1〜
図5の装置の移植は、以下の工程を含む。
【0033】
・少なくとも熱可塑性特性を有する材料を液化させて骨組織に浸透させる場所で、関節面の軟骨下骨を露出することによって関節の関節面を準備する。関節をたとえば散乱または非散乱構成で固定し、関節面と略平行な方向に2つのボア(二対の対向溝であって、各々が関節の各関節面にある)をドリルで開け、ボアを装置の隆起部10よりも若干小さいように寸法決めする。関節面のさらなる領域、たとえばキャリア板11と接触させる領域を剥皮して、キャリア板11の好ましくは対応して設けられた外面とのオッセオインテグレーションを向上させてもよい。
【0034】
・2つの関節部1および2と、界面部3と、関節部同士の間に締付けられたコネクタ部4とを含む装置を振動工具5の遠端に装着し、振動工具の近端を振動源に接続する。
【0035】
・依然として固定されている関節の準備した関節面同士の間の隙間の中にまたは隙間の入口に装置の遠端を配置して装置を位置決めし、熱可塑性特性を有する材料からなる隆起部を関節面のボアまたは溝にそれぞれ位置合わせする。
【0036】
・装置を2つの関節面同士の間の隙間に押込み、同時に振動工具を振動させることによって、装置を隙間内に進ませ、熱可塑性特性を有する材料を少なくとも当該材料が骨組織と押圧接触している場所で液化させ、液化材料を骨組織に浸透させる。
【0037】
・好ましくは押圧力を維持しつつ、振動源のスイッチを切って液化材料を再凝固させる。
【0038】
・振動工具5をコネクタ部4とともに関節から引離す。ここで、関節の固定を外し、移植した関節部を適切な散乱工具を用いて軽く散乱させること、ならびに/または関節部1および2の近面に作用する適切な工具を用いて牽引力に対抗することが有利であり得る。
【0039】
装置を関節に押入れること、および関節面の骨組織に押込まれる液化材料のいずれも、移植時に関節の関節面の相対位置を変えることができないように、少なくとも装置を関節に移植してアンカー固定する工程の間は関節を固定することが好ましい。このような関節の固定は、たとえば、カニューレ挿入案内工具の遠面を移植部位の骨表面に接して位置決めすることによって達成され、この遠面に設けられた鋭利な突出部が、一対の関節面の両側で骨表面に押入れられる。ここで、案内工具の軸方向のチャネルは好ましくは、装置を関節におよび関節内に案内するように適合されているだけでなく、移植のために関節を配置および準備するために用いる器具に、すなわち、たとえば関節を配置するために、修復すべき関節の関節面同士の間に遠端が押入れられた関節ファインダ、関節面を準備するためのドリルおよび/または切削工具(もしくは場合によってはドリルガイドや切削工具ガイド)などの器具に案内するように適合される。つまり、案内工具は、移植処置の第1の工程のいずれかで骨表面に固定され、最終工程のいずれかで取外され、その間、関節を固定し、手術に必要な工具を案内するように作用する。
【0040】
移植方法全体は好ましくは最小侵襲で、すなわちカニューレを用いて、または装置およびすべての必要な工具を移植部位まで案内する上記の案内工具を用いて実行される。本方法に好適な工具のセットは国際公開第WO2010/045749号(WW Technology)に開示されている。しかし、本発明に係る装置および方法は開手術にも使用可能である。
【0041】
図1〜
図5に関連して上記に説明した装置および移植方法は、たとえば以下の態様で本発明の基本的な考えから逸脱することなく変形可能であり、列挙する変形例はさまざまな方法で互いに組合せられ得る。
【0042】
・界面部3は円形ディスクの形状を有し、コネクタ部4は半円形状を有する。
・界面部3は、移植方向と平行に延在する中心線の両側で異なる厚みを有し、すなわち2つの関節部1および2は互いに角度が付けられる。
【0043】
・界面部は、たとえば異方的に充填されたマトリクス材料を含むことによって、より硬質な材料の異方性構造が組込まれたマトリクス材料を含むことによって、または異方性パターンの孔や空隙を含むことによって、異方性材料からなることによって異方性変形特性を有する(
図8も参照)。
【0044】
・界面部3は2つまたは3つ以上の部分を含み、コネクタ部4は1つのみの界面部3の周りではなく、これらの部分同士の間に延在する。
【0045】
・関節部1および2の関節面は平坦ではなくたとえば湾曲しており、一方の関節面の湾曲は他方の関節面の湾曲とは異なり得る。
【0046】
・一方の関節部の関節面は他方の関節部の関節面よりも大きい。
・熱可塑性特性を有する材料からなる2つまたは3つ以上の隆起部10を含む代わりに、各関節部1および2は、熱可塑性特性を有する材料からなる完全なまたは部分的なコーティングを含み、関節の関節面に溝は設けられない。
【0047】
・内部に装置がアンカー固定される骨組織の性質に応じて、隆起部10を収容するための溝を設けるために骨組織を除去しなくてもよい場合がある。このような場合、隆起部には、たとえば、骨組織を圧縮するか変位させることによって骨組織に溝を作るための移植方向と平行に方向付けられた鋭利な縁端が設けられ得る。
【0048】
・振動工具5の遠面は、振動をコネクタ部4だけでなく、付加的または代替的に関節部1および2の近面にも伝達するように適合される。
【0049】
・コネクタ部4は生物学的再吸収可能または生物学的分解可能な材料からなり、移植後に取出されず、徐々に再吸収または分解される。このような場合、コネクタ部4は装置の近面まで延在しなくてもよく、振動は、好ましくはコネクタ部4について上述したのと同様の態様で振動工具5に装着された関節部1および2の近面を通じて装置内に結合され得る。
【0050】
・コネクタ部4は振動工具に接続されず、対応する取出工具で把持される手段を含む。
・コネクタ部4は装置の移植直後に取外されず、第2の外科手術において取外され、取外工具は、振動工具5が移植のためにコネクタ部4に接続されるのと同じようにコネクタ部4に接続され得る。
【0051】
・熱可塑性特性を有する材料からなり関節部1および2の一体部分である隆起部10の代わりに、関節部1および2は穿孔したシースまたはトンネルを含み、熱可塑性特性を有する材料からなるピンが振動しながらこの中に押込まれる(
図13参照)。このような場合、振動するのは装置全体ではなくその一部のみ、すなわちピンであり、熱可塑性特性を有する材料の液化は、穿孔したシースまたはトンネルの内部の界面において振動しているピンと装置の剛性を有する残りの部分との間で達成され、液化材料は穿孔を通って隣接する骨組織に流れ込む。コネクタ部によって剛性を与えられ、かつ関節の関節面同士の間に位置決めされる装置の残りの部分は、ピンとともに振動することが防止される。熱可塑性材料からなる少なくとも2つのピンが、各関節部に1つずつ、好ましくは4つ必要であり、これらのピンはすべて、対応する叉状振動工具を用いて連続してまたは同時に振動し得る。
【0052】
・熱可塑性特性を有する材料からなりキャリア板11に取付られている隆起部10の代わりに、装置は熱可塑性特性を有する材料からなる別個のピンを含み、キャリア板は、関節の関節面に設けられた溝に対向して配置される対応の溝を含む(たとえば
図7参照)。ピンを骨組織内およびキャリア板内に同時にアンカー固定するために、ピンを、関節面と、関節の関節面同士の間に位置決めされた装置のキャリア板との間で振動させながら、ピンを押圧する。さらにこの場合、コネクタ部4によって生じる装置の剛性によって、ピンを位置決めしてアンカー固定しつつ装置を関節内にしっかりと保持することができ、ピン以外の装置部分の振動によるエネルギ損失を防止する。
【0053】
当業者であれば、
図1〜
図5の装置の例示的な実施例の上記に挙げた変形例のうちの好適な例を、さらなる図に図示され、かつこれらのさらなる図に関連して以下に説明する本発明に係る装置のさらなる実施例に容易に適合させるであろう。
【0054】
図6および
図7は、本発明に係る装置の第1の好ましいグループの実施例のさらなる2つの例を示す。図示される2つの装置の各々は、2つの関節部1および2と、2つの関節部同士の間に位置決めされて取付けられた弾性界面部3とを含む。
図6および
図7にはコネクタ部が図示されていないが、
図1〜
図5に示すのと同様の形状であることになっている。
【0055】
図6の装置は
図1〜
図5の装置と非常に類似しており、熱可塑性特性を有する材料からなる隆起部10は、長手方向に突出する小さな隆起または縁端15の形態のエネルギ指導子を有して図示されており、縁端15は、隆起の長さの一部に沿って延在し、この長さの方向において互いにずれている。
【0056】
図7の装置は、隆起部10の代わりに、キャリア板11の外面の溝21に収容されてこれらの溝から突出している、熱可塑性特性を有する材料からなるピン20を含む。
図6に示す隆起部10と同じく、ピン20には、ピンの長さの一部に沿って延在し、かつピンの長さに沿って互いにずれて配置された縁端15が設けられる。ピン20は上述のように溝21内に固定され、装置の移植は
図1〜
図5の装置について上記で述べたように実行される。代替的に、ピン20は別個の部品であり、移植のために、ピンのない装置を治療すべき関節の関節面同士の間にまず位置決めする。キャリア板11の外側の各溝21は、関節の準備した関節面の溝に対向する。そして、関節の関節面の一方の溝およびキャリア板11の対の溝21によって形成される各開口部にピンを押込みつつ、熱可塑性特性を有する材料の液化のためにピンを振動させて、一方の側の骨組織と接触している場所および他方の側のキャリア板11の材料と接触している場所でピンを液化させることによってピンを両側でアンカー固定する。
【0057】
図7に示すキャリア板11はたとえばチタン製であり、さらなるオッセオインテグレーションに好適な構造化されたまたは粗い外面を有する。このようなオッセオインテグレーションは、ピン20が生物学的再吸収可能または生物学的分解可能な材料からなり得るように、熱可塑性特性を有する材料を介した関節の骨組織内の装置のアンカー固定に取って代わり得る。
【0058】
図8は、たとえば
図1〜
図7に示す装置に好適な弾性界面部3の例を示す。界面部3は、実質的に平行な軸を有するボア22(または平行な列に並べられた他の空隙や孔、または1つの主方向を有する他の構成)を含む。この界面部3は、上記でさらに述べたように異方性特性を有し、ボア軸と平行に方向付けられた平面内に作用する剪断力および曲げ力よりも、ボア軸に垂直に方向付けられた平面内に作用する剪断力および曲げ力に対する耐性が低い。このように設けられた界面部によって、関節運動の運動範囲および極値に向かう運動抑制を生理学的に模倣することが可能になる。
【0059】
図9および
図10は、本発明に係る装置の第2のグループの実施例の例を示す。当該装置は、たとえば熱可塑性特性を有する材料からなる隆起部10およびキャリア板11を有する2つの関節部1および2を含み、関節部1および2の関節面同士の間に配置された界面部3と、クランプの形態のコネクタ部4とをさらに含む。
図9は移植方向と平行に見た完成した装置を示し、
図10はコネクタ部4のみを示す。本発明に係る装置の第1のグループの実施例とは対照的に、第2のグループの装置では、関節部1および2が、互いに離れるように広げられるのではなく、コネクタ部4によって互いに締付けられる。つまり、界面部3は剛性を有し、関節部のいずれか一方に取付られなくてもよく、または弾性を有し、両関節部に取付られていてもよいし取付られなくてもよい。
【0060】
図9の装置の関節部1および2は凹状の内側を有し、界面部3は、これら凹状の内側同士の間に収容された、弾性または非弾性材料からなる束縛されていない平坦化された球の形態の別個の要素を構成する。関節部1および2ならびに界面部3の関節面のこの特定の形態は、本発明に係る装置の第2のグループの実施例の条件ではない。これらの形態は、先の図に示した、または
図1〜
図5の装置について上記に列挙した例示的な変形例で説明した、いずれの形態にも対応し得る。
【0061】
図9および
図10の装置の一時的なコネクタ部4は、中心部材31と、中心部材に取付けられた2本の脚部材32とを有するU字形状である。コネクタ部4の部材は、脚部材32がキャリア板11の外側の隆起部10と平行に延在する溝30に嵌合するように寸法決めされ、一対の関節部1および2に押圧力を加えるようにさらに寸法決めされる。上述のように、コネクタ部4の中心部材31は好ましくは、振動工具の遠端、たとえばボア12に接続されるように設けられる。上記でさらに述べたように、一時的なコネクタ部4は、関節部1および2を関節の関節面の骨組織内にアンカー固定する工程の後に、コネクタ部を関節から引離すことによって取外される。ここで、関節部1および2を互いに押付けること、ならびに/または関節部1および2を関節に押込むことによって牽引に対抗することが有利であり得る。
【0062】
図11および
図12は、本発明に係る装置の第2のグループの実施例のさらなる例を示す。
図11は、2つの関節部1および2と、2つの関節部を互いに締付ける一時的なコネクタ部4とを含み、界面部を含まない完成した装置を示す。
図12はコネクタ部4のみを示す。本実施例のこのコネクタ部4は、中心部材31と、この場合は4本の脚部材32とを含み、脚部材32は、移植方向と平行に延在して関節部1および2の各々に2つずつあるボア33に嵌合し、2つの関節部1および2を互いに付勢する押圧力を加えるように寸法決めされて設けられる。コネクタ部4の移植および取外しは、先に説明した装置と同様の態様で行われる。
【0063】
図13は、本発明に係る装置の第3のグループの実施例の例を示す。この装置も、2つの関節部1および2と、自身が剛性を有することによって、かつ2つの関節部1および2のいずれか一方に剛性接続されることによって、関節部1および2を剛性接続する一時的なコネクタ部4とを含む。コネクタ部4は関節部1および2の関節面同士の間に配置され、急速な生物学的再吸収可能または生物学的分解可能または水溶性の材料からなるため、外科医によって取外される必要がない。
図13の装置は、振動工具に着脱可能に接続されるための2つのボア12を含む。
【0064】
関節運動を当初は阻止するため、たとえば関連の軟組織損傷および/または硬組織破砕(いま述べている態様で修復すべき関節損傷と同じ外傷に起因し得る、起こりうる付加的な損傷)を治癒するため、コネクタ部4に、その剛性をより長い期間(好ましくは2〜8週間)維持できる材料を用いることが有利であり得る。そのような長期の、しかし依然として一時的な関節阻止またはそのようなより長期のコネクタ部に好適なポリマーは、架橋の程度に応じて水溶性または生物学的分解可能な、たとえば乳酸およびグリコール酸の共重合体またはコラーゲン系ポリマーである。
【0065】
生物学的再吸収可能または生物学的分解可能な材料とは別に、コネクタ部4は、関節部1と2との間の弾性または可撓性接続の形態の可能な界面部を構成する再吸収不可能または分解不可能な領域(図示せず)をさらに含み得る。コネクタ部4の再吸収可能または分解可能な部分が再吸収または分解されると、この界面部によって関節部同士の間の関節接合および場合によっては平行運動が制限される。
【0066】
図14は、本発明に係る装置の第1のグループの実施例のさらなる例の断面(
図3と同様)を示す。すでに上記でさらに述べたように、本実施例では、熱可塑性特性を有する材料は、穿孔した(または有窓の)シース41またはトンネルに嵌合する複数の熱可塑性ピン40の形態で存在する。シース41またはトンネルは、キャリア板11の外面上で移植方向と平行に配置されてキャリア板から突出しているか、キャリア板内に配置されてキャリア板から突出していない。
図14では、熱可塑性ピンが穿孔したシース41の内部に位置決めされて示される。シースまたはトンネルの穿孔は関節部1および2の外側に配置され、熱可塑性ピン40の液化した材料がシース41またはトンネルの外部へ妨げられずに流れ出ることができ、治療すべき関節の関節面の骨組織に浸透できるように寸法決めされる。
【0067】
移植時、
図14の装置は、シース41内のピン40を用いてまたは用いずに、治療すべき関節の関節面同士の間に位置決めされる。そして、ピン40は振動しながらシースまたはトンネルに押込まれる。ピン材料はピンとシース41またはトンネルの内面との間の界面で、特に上記内壁およびピンのいずれか一方がエネルギ指導子を含む場所で液化し、穿孔を通って隣接する骨組織に浸透する。標的液化については、上記エネルギ指導子は好ましくは、穿孔の領域内でシースまたはトンネルの内面に配置される。
【0068】
図14に示す装置の移植は、
図6に示す、別個のピン20を含む装置について上記で述べたのとほぼ同じように行われる。
【0069】
本発明に係る装置の第2および第3のグループの実施例にも
図14に示すようなシースまたはトンネルを設け、
図14の装置について上記で述べたような方法でそれらを移植することももちろん可能である。