特許第6017443号(P6017443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6017443磁気共鳴イメージング装置および照射磁場分布計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017443
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置および照射磁場分布計測方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   A61B5/05 351
   A61B5/05 311
【請求項の数】17
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-542937(P2013-542937)
(86)(22)【出願日】2012年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2012078088
(87)【国際公開番号】WO2013069513
(87)【国際公開日】20130516
【審査請求日】2015年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2011-244740(P2011-244740)
(32)【優先日】2011年11月8日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-234424(P2012-234424)
(32)【優先日】2012年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145735
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 尚隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公輔
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 将宏
【審査官】 松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/113062(WO,A1)
【文献】 特開2008−5899(JP,A)
【文献】 特開2010−221026(JP,A)
【文献】 特開2007−283104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/20−33/58
Google Scholar
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象に高周波磁場を照射する送信部及び前記検査対象から核磁気共鳴信号を受信する受信部を備えた撮像部と、前記受信部が取得した核磁気共鳴信号を処理し、画像再構成を含む演算を行う演算部と、前記撮像部による撮像を制御する制御部とを備えた磁気共鳴イメージング装置であって、前記送信部は2以上のチャンネルを持つ送信コイルを備え、
前記制御部は、前記送信コイルの全部又は一部である複数チャンネルについて、1チャンネル又は2以上のチャンネルの組合せで照射した画像を取得する画像取得シーケンスと、前記複数チャンネル全体で照射したときの全体照射磁場分布を計測する照射磁場分布計測シーケンスとを有し、
前記演算部は、前記照射磁場分布計測シーケンスで取得したデータを用いて前記全体照射磁場分布を算出する第1の照射磁場分布算出部と、前記画像取得シーケンスで取得した複数の画像データと前記全体照射磁場分布とを用いて、前記複数チャンネルを構成するチャンネル毎のチャンネル照射磁場分布を算出する第2の照射磁場分布算出部と、を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記第2の照射磁場分布算出部は、前記複数チャンネル全体の画像(全体画像)の位相と、前記複数チャンネルのうち一部のチャンネルの画像(部分照射画像)の位相と、前記全体照射磁場分布とを用いて、前記チャンネル射磁場分布を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算部は、一部のチャンネルで照射した画像を複数用いて、前記全体画像を合成する画像合成部を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像取得シーケンスと前記照射磁場分布計測シーケンスは、同一パルスシーケンスであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記照射磁場分布計測シーケンスは、ダブルアングル法(DAM)、フィッティング法及びアクチュアルフリップアングル法(AFI)に基くパルスシーケンスのいずれかであることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記照射磁場分布計測シーケンスは、送信部による高周波磁場プリパルスの印加と、前記高周波磁場プリパルスの印加からの経過時間が異なる複数の信号取得シーケンスを含むことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像取得シーケンスは、複数のチャンネルのうちの一つのチャンネルで照射するパルスシーケンスを含み、当該パルスシーケンスは照射に用いるチャンネルを変えながらチャンネルの数と同数繰り返され、
前記第2の照射磁場分布算出部は、チャンネル毎に取得した画像と前記複数のチャンネル全体で照射した画像とを用いて、前記チャンネル照射磁場分布を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像取得シーケンスは、複数のチャンネルのうちの一つのチャンネルを除く残りのチャンネルで照射するパルスシーケンスを含み、当該パルスシーケンスは、除くチャンネルを変えながらチャンネルの数と同数繰り返され、
前記第2の照射磁場分布算出部は、前記一つのチャンネルを除くパルスシーケンスで取得した画像と前記複数のチャンネル全体で照射した画像(全体画像)とを用いて、前記一つのチャンネルの画像の位相と前記全体画像の位相との位相差を算出し、当該位相差と前記全体照射磁場分布とを用いて、前記チャンネル照射磁場分布を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記画像取得シーケンスは、複数のチャンネルを2分割し、分割後のチャンネル数が1になるまで分割を繰り返したときの、各分割ステージのチャンネル群およびチャンネルの全部又は一部を用いて照射した複数の画像を取得するシーケンスからなり、
前記第2の照射磁場分布算出部は、チャンネル群の画像データと、チャンネルの画像データとを用いて、前記チャンネル照射磁場分布を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
請求項2又は3に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算部は、一部のチャンネルの部分照射画像の位相と前記全体画像の位相との位相差、及び、前記一部以外のチャンネルの部分照射画像の位相と前記全体画像の位相との位相差の差分が、所定の閾値以上または未満であることを画素ごとに判定する判定部を備え、前記判定部の判定結果により、前記チャンネル照射磁場分布の再計算を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置
【請求項11】
請求項10に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記判定部が、前記位相差の差分が所定の閾値未満である判断したとき、前記制御部は前記撮像部による撮像を繰り返し、前記演算部は前記位相差の差分が所定の閾値未満であると判断された画素について照射磁場強度の再計算を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
請求項10に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記判定部が、前記位相差の差分が所定の閾値未満である判断したとき、前記演算部は、照射磁場分布の計算に用いた部分画像のチャンネルの組み合わせを変更し、前記位相差の差分が所定の閾値未満であると判断された画素について照射磁場強度の再計算を行うことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、前記画像取得シーケンスを、前記照射磁場計測シーケンスの直前に実行することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、前記画像取得シーケンスを、前記照射磁場計測シーケンスのTR後に実行することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記制御部は、被検体の画像を取得する第2の画像取得シーケンスを有し、
前記演算部は、前記チャンネル射磁場分布を用いて、前記第2の画像取得シーケンスで照射する高周波磁場の振幅と位相の組をチャンネル毎に算出するシミング部を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項16】
磁気共鳴イメージング装置の複数チャンネルからなる送信コイルの照射磁場分布を計測する方法であって、
送信コイルのチャンネルの全部又は一部である複数ャンネルについて、1のチャンネル又は少なくとも1のチャンネルを除くチャンネルを用いて照射を行い、画像データを取得する画像取得ステップと、
前記複数ャンネルを全て用いて照射した場合の全体照射磁場分布を取得する照射磁場分布取得ステップと、
前記画像取得ステップで取得した画像データと、前記照射磁場分布取得ステップで取得した全体照射磁場分布とを用いて、前記複数のチャンネルを構成する個々のチャンネルのチャンネル照射磁場分布を算出する算出ステップと、
を含む照射磁場分布計測方法。
【請求項17】
請求項16に記載の照射磁場分布計測方法であって、
前記複数のチャンネルを全て用いて照射を行い、チャンネル全体の画像データを取得するステップ、または、前記画像取得ステップで取得した画像データを用いてチャンネル全体の画像データを合成するステップ、
を含むことを特徴とする照射磁場分布計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に係り、特に被検体に高周波磁場を照射する照射コイルの照射磁場分布を計測する機能を備えたMRI装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、均一な静磁場中に被検体を配置した状態で、被検体に高周波磁場パルスを印加することによって生じた核磁気共鳴信号を計測し、核磁気共鳴信号の演算により被検体の画像を再構成する装置である。被検体を配置する静磁場として高磁場の磁場発生装置を用いることにより、高いSNの画像を得ることができる。
【0003】
近年、超電導磁石の開発に伴い、3T以上の高磁場を実現できる高磁場MRI装置が普及している。高磁場MRIでは、高いSNが得られるが、腹部撮像等で画像にムラが発生する問題がある。このムラの原因の一つとして、被検体の組織内の原子スピンを励起する高周波磁場パルス(送信RFパルスという)の磁場分布(B1分布)の不均一がある。一般に、励起のための高周波磁場の共鳴周波数は、静磁場強度に比例するため、高磁場MRIでは、従前の高周波磁場よりも高い周波数の磁場を照射する必要がある。その場合、生体内での高周波磁場の波長が生体(特に腹部)の大きさと同じスケールとなる。このため、高周波磁場の位相が生体内の位置によって変化し、画像ムラとなって現れる。
【0004】
この高周波磁場の不均一を解決するための技術としてRFシミングがある。RFシミングでは、複数のチャンネルを持つ送信RFコイルを用い、それぞれのチャンネルに与えるRFパルスの強度と位相を独立に制御することでB1分布の不均一を低減する。各チャンネルに与えるRFパルスの強度と位相を決定するためには、被検体毎、撮像部位毎に各チャンネルのB1分布が必要であり、B1分布の計測方法が種々提案されている。
【0005】
B1分布を計測する一般的な方法は、Double Angle法(DAM)と呼ばれる手法であり、任意のフリップ角のRFパルスを用いて撮像した画像と、その2倍のフリップ角のRFパルスとを用いて撮像した画像との演算によりB1を計測する(非特許文献1)。また、プリパルス印加直後に取得した画像と、プリパルスを印加せずに取得した画像の比をとることでB1分布を計算する手法(非特許文献2)や、同じフリップ角のRFパルスで、TRの異なる一組のパルスシーケンスを用いて画像データを得、これら画像データの信号の比とTRの比を用いて、B1分布を算出する手法(Actual Flip Angle法:AFI)(非特許文献3)も提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Insko EK,Bolinger L著、「Mapping of the radiofrequency field」Journal of magnetic resonance.Series A 1993;103:82-85
【非特許文献2】H-P.Fautz,M.Vogel,P.Gross,A.Kerr,and Y.Zur著、「B1 mapping of coil arrays for parallel transmission」、Proc.Intl.Soc.Mag.Reson.Med.16(2008)1247
【非特許文献3】Yarnykh VL著、「Actual Flip-Angle Imaging in the Pulsed Steady State:A Method for Rapid Three-Dimensional Mapping of the Transmitted Radiofrequency Field」、Magn.Reson.Med.2007;57:192-200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したRFシミングでは、送信RFコイルのチャンネル毎に照射磁場分布を計測する必要があるが、上述した方法を適用して、チャンネル毎に照射磁場分布をする場合、磁場分布計測はチャンネル数に比例して増加する。またチャンネル毎に照射磁場分布を計測した場合、関心領域内に磁場強度が小さい領域が多数存在するため、高精度に測定することが困難である。
【0008】
そこで本発明は、多チャンネルの送信RFコイルの各チャンネルの照射磁場分布を高速で得ることを課題とする。またチャンネル毎に照射磁場分布を計測する場合の精度の低下を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、2以上のチャンネルを持つ送信コイルを有するMRI装置において各チャンネルの照射磁場分布を算出するためのものであって、送信コイルの全部又は一部である複数チャンネルについて、1チャンネル又は2以上のチャンネルの組合せで照射した画像を取得し、複数チャンネル全体で照射したときの全体照射磁場分布を取得し、取得した全体照射磁場分布と、各チャンネルの画像及び複数チャンネル全体の画像とから算出される位相差とを用いて、各チャンネルのチャンネル照射磁場分布を算出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的時間のかかる照射磁場分布計測は、送信コイル全体に対し1回行うだけでよく、計測した照射磁場分布と、画像データ間の演算により、各チャンネルの照射磁場分布を得ることができるので、照射磁場分布計測に必要な時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明が適用されるMRI装置の全体概要を示す図
図2】第一実施形態から第四実施形態に共通する制御部の機能ブロック図
図3】本発明のMRI装置の動作の一実施形態を示すフローチャート
図4】第一実施形態のB1分布計測のためのパルスシーケンスを示す図
図5】第一実施形態におけるB1分布算出の概念を説明する図で、(a)はチャンネル数が2の場合、(b)はチャンネル数が3以上の場合を示す。
図6】第二実施形態におけるB1分布算出の概念を説明する図
図7】第三実施形態のB1分布計測のためのパルスシーケンスを示す図
図8】第三実施形態のB1分布算出の概念を説明する図
図9】第四実施形態におけるチャンネルの分割を説明する図
図10】第五実施形態及び第六実施形態に共通する制御部の機能ブロック図
図11】第五実施形態の処理手順を示すフローチャート
図12】第六実施形態の処理手順を示すフローチャート
図13図12の処理手順の一部を示すフローチャート
図14】第六実施形態におけるB1分布算出の概念を説明する図で、(a)はステップS143の計算、(b)はステップS105の計算を示す。
図15】実施例の結果を示す図で、(a)、(b)は実施例で求めたチャンネルC1、C2のB1分布を示す図、(c)、(d)は比較例で求めたチャンネルC1、C2のB1分布を示す図。
図16】(a)〜(d)は、それぞれ図15のラインプロファイルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態のMRI装置は、被検体(1)に高周波磁場を照射する送信部(5)及び被検体から核磁気共鳴信号を受信する受信部(6)を備えた撮像部(2〜6)と、受信部が取得した核磁気共鳴信号を処理し、画像再構成を含む演算を行う演算部(7、8)と、撮像部による撮像を制御する制御部(4、8)とを備える。送信部は2以上のチャンネルを持つ送信コイル(14a)を備える。
【0013】
制御部は、送信コイルの全部又は一部である複数チャンネルについて、1チャンネル又は2以上のチャンネルの組合せで照射した部分照射画像を取得する画像取得シーケンス(301、302)と、複数チャンネル全体で照射したときの照射磁場分布を計測する照射磁場分布計測シーケンス(310)とを有する。画像取得シーケンスは、複数チャンネル全体で照射した画像を取得する画像取得シーケンス(303)を含んでいてもよい。
【0014】
演算部は、照射磁場分布計測シーケンスで取得したデータを用いて複数チャンネル全体の照射磁場分布を算出する第1の照射磁場分布算出部と、画像取得シーケンスで取得した複数の画像データと第1の照射磁場分布算出部が算出した複数チャンネル全体の照射磁場分布とを用いて、複数チャンネルを構成するチャンネル毎の照射磁場分布を算出する第2の照射磁場分布算出部と、を備える。
【0015】
第2の照射磁場分布算出部は、具体的には、一部のチャンネル照射で得た画像(部分照射画像)の位相と、チャンネル全体の画像(全体画像)の位相と、第1の照射磁場分布算出部が算出した照射磁場分布とを用いて、チャンネル毎の照射磁場分布を算出する。チャンネル全体の画像は、複数チャンネル全体で照射する画像取得シーケンス(303)がある場合には、当該画像取得シーケンスで取得した画像を用いてもよいし、複数の部分照射画像を合成したものであってもよい。
【0016】
画像取得シーケンスと照射磁場分布計測シーケンスは、好ましくは、同一パルスシーケンスである。同一パルスシーケンスとすることにより、画像データ間の演算において、画像データに含まれる静磁場不均一をキャンセルすることができる。
【0017】
照射磁場分布計測シーケンスは、例えば、ダブルアングル法(DAM)、フィッティング法及びアクチュアルフリップアングル法(AFI)に基くパルスシーケンスのいずれか、或いは、マルチTI法に基くパルスシーケンスである。マルチTI法に基くパルスシーケンスを採用した場合、第1の照射磁場分布算出部は、例えば、複数の信号取得シーケンスによりそれぞれ得られた画像データの画素毎に連立方程式を解くことにより、画素毎の照射磁場強度を求め、照射磁場分布を算出することができる。
【0018】
画像取得シーケンスは、種々の態様を取ることができる。また画像取得シーケンスと照射磁場計測シーケンスとを実行する順序は、画像取得シーケンスを照射磁場計測シーケンスの直前に実行してもよいし、画像取得シーケンスを、照射磁場計測シーケンスのTR後に実行してもよい。
【0019】
以下、図面を参照して、本発明のMRI装置の実施形態をさらに説明する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0020】
図1は、本発明が適用されるMRI装置の一実施形態を示すブロック図である。このMRI装置は、静磁場発生部2と、傾斜磁場発生部3と、送信部5と、受信部6と、信号処理部7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えている。
【0021】
静磁場発生部2は、被検体1が置かれる空間に均一な静磁場を発生するものであり、永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源(不図示)からなる。静磁場発生源は、垂直磁場方式であれば、被検体1の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に、均一な静磁場を発生させるように、配置されている。
【0022】
傾斜磁場発生部3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの直交3軸方向に傾斜磁場を印加する傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成る。後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X、Y、Zの3軸方向に所望の傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加することができる。傾斜磁場の印加の仕方によって、被検体の撮像スライスを選択的に励起し、また励起領域から発生するエコー信号に位置情報を加えることができる。
【0023】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御部で、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信部5、傾斜磁場発生部3、および受信部6に送る。
【0024】
送信部5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。送信コイルは、本実施形態では、複数の給電点(チャンネル)を有し、供給される高周波の強度と位相を調整できるように構成されている。高周波発振器11、変調器12及び高周波増幅器13は、各チャンネルに対応して複数備えられている。図1では、2つの給電点がある場合を示しているが、給電点の数は2に限定されない。
【0025】
高周波発振器11から出力されたRFパルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調されたRFパルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。シーケンサ4からのタイミングと変調器12による変調は、後述するB1分布の計測結果を反映して制御される。
【0026】
受信部6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された受信コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、信号処理部7に送られる。
【0027】
なお図1では、送信用の高周波コイル14aと受信用の高周波コイル14bが、別個に設けられている構成を示しているが、一つの高周波コイル(マルチプルコイルを含む)が送信用及び受信用を兼ねる構成とすることも可能である。
【0028】
信号処理部7は、CPU8と、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有する。受信部6からのデータがCPU8に入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0029】
CPU8は、図2に示すように、信号処理部7の演算部70としての機能のほかに、装置の各要素を制御する制御部80としての機能を有し、制御部80の一機能であるシーケンス制御部81がシーケンサ4を介して、種々のパルスシーケンスを実行させる。パルスシーケンスは、予めプログラムとして組み込まれている。本実施形態では、被検体の画像を得るためのパルスシーケンス(画像取得シーケンス)のほかに、送信コイルによる高周波磁場分布(B1分布)を計測するためのB1分布計測シーケンスを備えている。
【0030】
信号処理部7(演算部70)は、ディジタル化されたエコー信号に対し、補正計算やフーリエ変換などの演算を行い画像再構成する画像再構成部71、必要に応じて画像の合成を行う画像合成部72、各チャンネルで取得したこのB1分布計測シーケンスの計測結果を用いて、B1分布の計算を行う磁場分布算出部(73、74)、送信コイルに与えられる高周波パルスの位相や振幅の計算を行うRF算出部75を備え、制御部80はRF算出部75の計算結果に基づき、送信コイルに与えられる高周波パルスの位相や振幅を制御する。
【0031】
磁場分布算出部は、複数の送信コイル全体で照射した場合の照射磁場分布を算出する第1照射磁場分布算出部73と、第1照射磁場分布算出部73が算出した照射磁場分布及び画像再構成部71や画像合成部72が作成した画像データを用いて、複数の送信コイルの一部のチャンネルで照射した場合の照射磁場分布を算出する第2照射磁場分布算出部74とを備えている。RF算出部75は、照射磁場分布算出部が算出したチャンネル毎の照射磁場分布に基づき高周波パルスの[位相や振幅を調整するシミング部を含んでいる。
【0032】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理部7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0033】
なお、図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生部2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0034】
上述した構成のMRI装置の撮像手順の一実施形態を図3に示す。図示するように、撮像手順は、B1分布計測のためのパルスシーケンスの実行(S200)、ステップS200のパルスシーケンスにより得られたデータを用いたチャンネル毎のB1分布の算出(S210)、被検体の画像等を取得するための撮像シーケンス(本撮像シーケンス)の計算(S220)、本撮像シーケンスの実行(S230)、撮像シーケンスで収集したデータを用いた画像再構成(S240)、その他の判断ステップ(S250、S260)を含んでいる。ステップS200及びS240で実行されるパルスシーケンスは、シーケンサ4に組み込まれており、実行に必要なパラメータ等を操作部25を介して設定したり、CPU(演算部)8の演算結果に従って修正したりすることができる。
【0035】
本実施形態の主な特徴は、B1分布計測のためのパルスシーケンス(S200)及びそれから得たデータを用いたB1分布の算出(S210)にある。以下、その実施形態を説明する。
【0036】
<第一実施形態>
本実施形態が採用する画像取得シーケンスは、複数のチャンネルのうちの一つのチャンネルで照射するパルスシーケンスであり、照射に用いるチャンネルを変えながらチャンネルの数と同数繰り返す。この場合、第2の照射磁場分布算出部は、チャンネル毎に取得した部分照射画像と全体画像とを用いて、チャンネル毎の照射磁場分布を算出する。
【0037】
すなわち、本実施形態では、ステップS200において、チャンネル数がnの送信コイルについて、一つのチャンネル毎にRF照射して画像データを取得するとともに、全チャンネルでRF照射して全体画像データを取得する。また全チャンネルでRF照射した場合のB1分布を計測する。ステップS210では、チャンネル数分の画像データ(個別画像データ)と、送信コイル全体としての画像データ(全照射画像データ)と、送信コイル全体としてのB1分布(全照射B1分布)が収集される。
【0038】
図4に、チャンネル数が2である場合の、ステップS200で実行されるパルスシーケンスの一例を示す。このパルスシーケンスは、図示するように、第1のチャンネルC1を用いてRF照射し、画像を取得するパルスシーケンス(画像取得シーケンス)301と、第2のチャンネルC2を用いた画像取得シーケンス302と、第1及び第2のチャンネルC1、C2(全チャンネル)を同時に用いた画像取得シーケンス303と、全チャンネル(C1+C2)を同時に用いてRF照射したときのB1分布を計測するためのパルスシーケンス310とからなる。全チャンネルを用いたRF照射は、QD照射とすることが望ましい。
【0039】
B1分布計測パルスシーケンス310は、計測手法によって異なるが、本実施形態では、プリパルス後のTIが異なる複数の画像間の演算によってB1分布を求める手法(マルチTI法と呼ぶ)に基くパルスシーケンスを用いる。具体的には、1回のプリパルス311印加後に、TI(プリパルス印加から実効TEまでの経過時間)が異なる複数の画像取得シーケンス312を行う。プリパルス311は、例えば非選択性のRFパルスで、フリップ角の大きい、例えば90度パルスである。複数の画像取得シーケンス312は、プリパルス311によって励起された核スピンが縦緩和しない間に実行され、TIの異なる複数のk空間データ(画像データ)を収集する。ここでは、B1分布計測パルスシーケンス310に先だって行われる画像取得シーケンス301〜303と区別するために、シーケンス312を信号取得シーケンスと呼ぶ。
【0040】
マルチTI法は、TIの異なる複数のk空間データ間で連立方程式を解くか、或いは複数のk空間データ間の行列演算を行って、B1分布を算出するものであり、演算には、少なくとも3つのk空間データを必要とする。図4に示す実施形態では、3以上のk空間データとして、プリパルス311の直前に実行した画像取得シーケンス303の画像データと、プリパルス後にTIを異ならせて2回の信号取得シーケンス312を実行して得た2以上の画像データとを用いる場合を示している。信号取得シーケンス312は3回以上でもよい。
【0041】
各画像取得シーケンス301〜303及び信号取得シーケンス312は、同種のパルスシーケンスであることが好ましく、具体的には、グラディエントエコー系のパルスシーケンス、特に撮像時間短縮のため、繰り返し時間(TR)が短く、フリップ角(FA)の小さいパルスシーケンスが好ましい。画像取得シーケンス301〜303では、それぞれ、一つのk空間を満たすデータセット(k空間データ)が収集される。
【0042】
また画像取得シーケンス301〜303及び信号取得シーケンス312で取得するk空間データのマトリクスサイズは64×64程度でよい。これにより、極めて短時間、具体的には200ms程度の計測時間で全k空間データを取得することができる。
【0043】
次に、ステップS200で得たデータを用いたB1分布の算出について説明する。
【0044】
<全体のB1分布の算出>
B1分布計測パルスシーケンス310で得たデータから、全チャンネルでRF照射したときのB1分布を算出する。前述したように、マルチTI法によるB1分布算出方法には、連立方程式を解く手法と行列演算を解く手法とがあるが、ここでは行列演算による手法を説明する。
【0045】
まず、複数の信号取得シーケンス312でそれぞれ得られたk空間データを逆フーリエ変換することにより画像データを得る。プリパルス311印加後にk番目(k=1,2,・・・n)の信号取得シーケンスで取得した信号から再構成した画像の注目画素の信号強度は、k番目のTIをTIkとすると、次式(1)で与えられる。
【0046】
式中、式(1)中、Sseqは、プリパルスの後の信号取得シーケンスによって決まる信号強度を表し、aは設定したプリパルスのフリップ角を表し、TIはプリパルス印加からk空間中心の信号を収集するまでの時間を表し、T1は組織に依存する縦緩和時間を表す。
【0047】
一方、プリパルス311の直前の画像取得シーケンス303によって得られた画像の同じ注目画素の信号強度は、式(1)においてa=0とした場合と同じであるため、式(2)で与えられる。
【0048】
式(1)を式(2)で除算し、自然対数を取ると、式(3)のように、log(1-cos(B1・a))と(−TIk/T1)の線形結合で表わすことができる。
【0049】
各信号取得シーケンスから得られたTIの異なる画像について同様の計算をすると、式(4)の行列式が得られる。
【0050】
ここで、Sは1×nの行列、Aは2×nの行列、Xは1×2の行列である。Wi(i=1,2,3・・・n)はそれぞれのTIに対する重みを示し、任意に設定することができる。行列Aの擬似逆行列pinvAを左から掛けることで、式(4)を解くことができ、次式(5)のようにB1を求めることができる。
【0051】
<各チャンネルのB1分布の算出>
画像取得シーケンス301、302、303でそれぞれ収集したk空間データを逆フーリエ変換し、第1チャンネル、第2チャンネル及び全チャンネルの画像データを得る。これら画像データについて、各画素の位相を求める。位相は画像データの実部と虚部とのアークタンジェントから算出することができる。第1チャンネルの画素の位相(第1チャンネル画像の位相ともいう)をφ1、第2チャンネルの画素の位相(第2チャンネル画像の位相ともいう)をφ2、全チャンネルの画素の位相(全チャンネル画像の位相ともいう)をφtotalとする。
【0052】
次に全チャンネル画像の位相と第1チャンネル画像の位相との差分(φtotal−φ1)、及び、全チャンネル画像の位相と第2チャンネル画像の位相との差分(φtotal−φ2)を求める。これら差分をそれぞれα、βとする。全チャンネルのB1は、第1チャンネルの照射分布と第2チャンネルの照射分布とを合成したものであり、各チャンネルの照射分布を一つの画素における磁場強度T1、T2で示した場合、図5(a)に示す複素平面上のベクトル(複素数)として表すことができる。合成した磁場強度(T1+T2)の位相と第1チャンネルの磁場強度T1の位相との差はα、合成した磁場強度の位相と第2チャンネルの磁場強度T2の位相との差はβである。
【0053】
図5(a)において、合成した磁場強度(T1+T2)は、全チャンネルのB1として求められているので、未知数である各チャンネルの磁場強度T1、T2は、次式(6)、(7)により算出することができる。
【0054】
この計算を第1チャンネル及び第2チャンネルの画像データの各画素について行うことにより、各チャンネルのB1分布を求めることができる。
【0055】
本実施形態によれば、データ収集時間が極めて短い画像取得パルスシーケンスと、送信コイル全体のみのB1分布計測とを行うことにより、チャンネル毎のB1分布を求めることができ、B1分布計測時間を大幅に短縮することができる。またB1分布計測は、信号値の高い送信コイル全体のデータを用いるので、高精度の計測を行うことができる。特にQD照射することによりB1が低い領域を極力小さくすることができ、精度を向上することができる。
【0056】
また従来法DAMを用いて2チャンネルのB1分布を作成する場合の撮像時間は、画像データのマトリクスサイズを64×64、パルスシーケンスの繰り返し時間TRを5000msとすると、約20分必要であるが、本実施形態の場合には、2.5秒に短縮することができる。
【0057】
なお以上の説明では、チャンネル数が2つである場合を例に説明したが、チャンネル数が3以上の場合にも、本実施形態を同様に適用することができる。チャンネル数がn(n=3以上の整数)の場合は、一つのチャンネルCi(iは1〜nのいずれか)で照射することにより取得した画像Iiと、それ以外のチャンネルC1〜Cn(但しCiを除く)でそれぞれ照射することにより取得した画像を次式(8)により合成した画像Icとを用いる。
【0058】
これら2つの画像の画素毎にそれぞれの位相を求め、全チャンネル照射の画像の位相との差分を求める。ここで、一つのチャンネルの画像Iiを第1チャンネルC1の画像とし、合成画像Icを第2チャンネルC2の画像とみなせば、図5(b)に示す関係が得られ、位相差α、βと全チャンネル照射の磁場強度(T1+T2+・・・Tn)を用いて、上記式(6)によりチャンネルCiの照射磁場分布を算出することができる。この計算を1〜nの全てのチャンネルについて行うことにより、全てのチャンネルのB1分布が算出される。
【0059】
また以上の実施形態では、マルチTI法として、プリパルス311直前の画像取得シーケンス303及びプリパルス311後のTIの異なる複数の信号取得シーケンス312で得た画像データを用いてB1分布を算出する場合を示したが、プリパルス311後のTIの異なる複数の信号取得シーケンス312で得た画像データを用いて、連立方程式を解くことによりB1分布を算出してもよい。その場合の計算は、次のようになる。
【0060】
TIが異なる複数の信号取得シーケンス312で取得した画像の信号は、信号取得シーケンス312のTI、2TI、3TIに設定した場合、次式(9)〜(11)で表わされる。
【0061】
ここで、次式(12)、(13)で定義されるX及びYを用いると、式(9)〜(11)は式(14)〜(16)と書き換えることができる。
式(14)〜(16)の連立方程式を解くことにより、式(17)、(18)によりX、Yを求めることができ、式(17)及び式(12)からB1を求めることができる(式(19))。
【0062】
さらに、B1分布計測のためのパルスシーケンスの実行時間(計測時間)はマルチTIに比べ長いが、マルチTI法以外の手法、例えば、公知のダブルアングル法(DAM)や、Actual Flip Angle法(AFI)でB1分布計測を行うことも可能である。DAMの場合には、プリパルス311及びそれ以降のパルスシーケンスの代わりに、任意のフリップ角のRF照射とその2倍のフリップ角のRF照射でそれぞれ得た画像を用い、これら画像間の演算によりB1を算出する。AFIの場合は、同じフリップ角のRFパルスで、TRの異なる一組のパルスシーケンスを用いて画像データを得、これら画像データの信号の比とTRの比を用いて、B1を算出する。これらの手法については、前掲の非特許文献1、3に記載されているので詳細は省略する。
【0063】
<第二実施形態>
本実施形態が採用する画像取得シーケンスは、複数のチャンネルのうちの一つのチャンネルを除く残りのチャンネルで照射するパルスシーケンスであり、除くチャンネルを変えながらチャンネルの数と同数繰り返す。この場合、第2の照射磁場分布算出部は、一つのチャンネルを除くパルスシーケンスで取得した画像と全体画像とを用いて、一つのチャンネルの画像の位相と全体画像の位相との位相差を算出し、当該位相差と第1の照射磁場分布算出部が算出した照射磁場分布とを用いて、チャンネル毎の照射磁場分布を算出する。
【0064】
すなわち、本実施形態のB1分布計測のためのパルスシーケンスも、複数の画像取得シーケンスと、B1分布計測シーケンスとからなることは、第一実施形態と同じである。本実施形態では、各チャンネルのB1分布計算において、1チャンネル毎の画像データではなく、1チャンネルを除く残りのチャンネルで照射した場合の画像データを用いることが特徴である。
【0065】
このため本実施形態では、ステップS200において、画像取得シーケンスを1チャンネルの照射ではなく、1チャンネルを除く残りのチャンネルの照射により実行する。即ち、チャンネル数がn個の送信コイルの場合、1チャンネルを除く、(n−1)個のチャンネルを用いた画像取得シーケンス301を、除外するチャンネルを1〜nまで変えてn回実行し、n個の画像データを得る。
【0066】
nチャンネル全部を用いて画像取得シーケンスを実行すること、及び、プリパルス311照射後に複数の信号取得シーケンスを実行することは第一実施形態と同様であり、最終的に、(n−1)個のチャンネルを用いた画像データをn個、全チャンネルで照射した画像データ、及び、全チャンネルで照射した場合のB1分布を得る。全チャンネルのB1分布を得るためのパルスシーケンスは、上述したプリパルスを用いるマルチTI法に限定されず、DAMやAFIを用いてもよいことは第一実施形態と同様である。
【0067】
次に、これらの画像データとB1分布を用いて、各チャンネルのB1分布を算出する。まず、チャンネルk(kは1〜nのいずれか)の照射位相φkと全チャンネルで照射した場合の照射位相φtotの差αkを式(20)より求める。また全チャンネルで照射した場合の照射位相φtotとチャンネルk以外のチャンネルで照射した場合の照射位相φ−kの差βkを式(21)より求める。
【0068】
式中、Φtotは全チャンネルで照射した画像データ(画素値)、Φ−kはチャンネルk以外のチャンネルで照射した画像データ(画素値)であり、画像取得シーケンスにより収集されている。
【0069】
図6に示すように、チャンネルkの照射強度Tkと、チャンネルk以外のチャンネルの照射強度T−kと、全チャンネルの照射強度Ttotとの関係は、前二者の複素数の和が全チャンネルの照射強度Ttotになる。3つの複素数0、Tk、Ttotで形成される三角形において、Ttotの絶対値、位相αk、βkが測定できるため、三角形を決定すること、即ちTkを求めることができる。Tkの絶対値は式(6)、(7)と同様の式を用いて求めることができる。この計算を各画素について行うことにより、チャンネルkのB1分布を求めることができる。全てのチャンネルについて同様の計算を行うことにより、全てのチャンネルのB1分布を求めることができる。
【0070】
本実施形態によれば、第一実施形態と同様に、比較的時間を要するB1分布計測は1回行うだけで、全てのチャンネルのB1分布を求めることができ、全体としてのB1分布計測時間を大幅に短縮することができる。また本実施形態では、1チャンネル毎に画像データを得るのではなく、1チャンネルのみを除くチャンネルで画像データを取得するので、データ中にB1が小さい領域を少なくすることができ高いSNを達成することができる。従って、本発明は、3以上のチャンネルを有する送信コイルのB1分布計測に好適である。
【0071】
なお、本実施形態では、画像取得シーケンスとして、(n−1)チャンネルの照射を行った画像取得シーケンスを行う場合を説明したが、(n−1)チャンネルの画像データを、1チャンネルの画像データから合成することも可能である。この場合には、ステップS200の画像取得シーケンスは、第一実施形態と同様に、1チャンネル毎に画像取得シーケンスを行い、各チャンネルの画像を得る。ステップS210において、上述の式(20)、(21)による計算をするに先だって、各チャンネルの画像を合成し、(n−1)チャンネルの画像を作成する。この画像データと、全チャンネルの画像およびB1分布を用いて、各チャンネルのB1分布を算出することは、上述のとおりである。
【0072】
<第三実施形態>
すなわち、第一実施形態及び第二実施形態では、B1分布計測のステップS200において、個々のチャンネルを照射する画像取得シーケンスとは別に、全チャンネル照射の画像取得シーケンス303を行う場合を説明したが、本実施形態では、全チャンネル照射の画像取得シーケンスを省略し、個々のチャンネルの画像取得シーケンスで得た画像を用いて全照射画像を合成する。以下、第一実施形態及び第二実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0073】
図7に、ステップS200で実行されるパルスシーケンスの一例を示す。図中、図4と同じ要素は同じ符号で示している。ここでも説明を簡単にするために、チャンネル数が2である場合を示しているが、チャンネル数は3以上であってもよい。図8に、本実施形態のS200とS210を概念的に示す。図8では、チャンネル数が3の場合を示している。
【0074】
図示するように、本実施形態においても、各チャンネルC1、C2・・・で照射して、或いは1チャンネルを除く残りのチャンネルで照射して画像を取得するシーケンス301、302、30nを実施するが、全チャンネルで照射する画像取得シーケンスは省かれる。その後、B1分布計測に必要なシーケンス310を実行する。図7においても、一例として、マルチTI法に基くパルスシーケンス310を示しているが、これに限定されない。
【0075】
これらパルスシーケンスの結果、各チャンネル或いは(n−1)チャンネルの画像(チャンネル数の画像)と、信号取得シーケンス312で得られた、TIの異なる複数の画像が得られる。ステップS210では、全チャンネル照射のB1分布の算出、個々のチャンネルのB1分布の算出を行うことは第一及び第二実施形態と同様であるが、本実施形態では、これらの計算に先だって、各チャンネルの画像を合成し、全チャンネルの画像を得る。合成は、1チャンネル毎の画像Ikを得ている場合には式(22)により、(n−1)チャンネル毎の画像Iiを得ている場合には式(23)により行う。
【0076】
本実施形態によれば、ステップS200において、全チャンネル照射の画像取得シーケンス(図4の303)を省くことができるので、B1分布計測のためのパルスシーケンスに必要な時間を短縮することができる。
【0077】
<第四実施形態>
本実施形態は、複数のチャンネルを2組に分割し、各組のB1分布を算出する処理を、組を構成するチャンネル数が1になるまで繰り返すことが特徴である。
【0078】
本実施形態が採用する画像取得シーケンスは、複数のチャンネルを2分割し、分割後のチャンネル数が1になるまで分割を繰り返したときの、各分割ステージのチャンネル群およびチャンネルを用いて照射した複数の画像を取得するシーケンスからなる。この場合、第2の照射磁場分布算出部は、チャンネル群の画像データと、チャンネルの画像データと、全照射画像とを用いて、チャンネル毎の照射磁場分布を算出する。
【0079】
本実施形態の概要を、チャンネル数が8の場合を例として、図9に示す。8チャンネルC1〜C8を2分割し、チャンネルC1〜C4の群701と、チャンネルC5〜C8の群702に分け、これらチャンネル群について、例えば第一実施形態や第二実施形態と同様にして、各チャンネル群701、702のB1分布を計測する。またチャンネル群701、702をさらに2分割し、これら2分割したチャンネル群7011、7012、7021、7022についても、同様に各チャンネル群のB1分布を計測する。最終的に、群を構成するチャンネルが一つになるまで繰り返す。
【0080】
2分割する前の全チャンネル700で照射した場合の画像データは、2分割した各チャンネル群701、702の画像データを合成することで得ることができる。また、最初に分割した群701、702から後段の分割群では、分割前の群(701)の画像データと分割後の一方の群(7011)の画像データから、一方(7011)及び他方(7012)の群のB1分布を算出することができる。
【0081】
従って、画像取得シーケンスは全てのチャンネル群及びチャンネルについて行う必要はなく、分割数の半分でよい。図9において、画像取得シーケンスにより画像データを取得するチャンネル群又はチャンネルは実線で囲み、画像取得シーケンスによる画像データ取得を省略できるチャンネル群又はチャンネルは点線で囲んでいる。ステップS200では、これら実線で囲ったチャンネル群又はチャンネルを用いた画像取得シーケンスを行い、ステップS210で、上述したように群毎にB1分布を算出する。なお、画像取得シーケンス後に実施する全チャンネル照射のB1分布計測は、第一及び第二実施形態と同様である。
【0082】
以上、第一から第四実施形態まで、全チャンネルの画像(全体画像)と1チャンネルの画像(部分画像)あるいは(n−1)個のチャンネルの画像(部分画像)との位相差を利用して、式(6)、(7)により磁場強度Tを算出する実施形態を説明したが、これらの実施形態では、各チャンネルのB1分布算出に画像の位相情報を用いるため、画像のSNが低い領域では精度が低下する可能性がある。また式(6)、(7)からわかるように、位相差「α−β」或いは「αk−βk」が0やπに近い場合、式が発散し、式(6)、(7)を用いた磁場強度の計算ができなくなる。以下の実施形態では、チャンネル毎のB1分布を算出するステップS310において、画像のSNRが低い領域における精度の低下や計算が発散するのを防止するための手段を備えていることが特徴である。
【0083】
すなわち、演算部は、一つの部分照射画像の位相と前記全体画像の位相との位相差及び他の部分照射画像の位相と前記全体画像の位相との位相差の差分が所定の閾値以上又は以下であることを画素毎に判定する判定部を備える。
【0084】
特に、以下説明する第五及び第六実施形態は、演算部が、一部のチャンネルの部分照射画像の位相と全体画像の位相との位相差(αまたはαk)、及び、前記一部以外のチャンネルの部分照射画像の位相と前記全体画像の位相との位相差(βまたはβk)の差分(α−βまたはαk−βk)が、所定の閾値以上または以下であることを画素ごとに判定する判定部を備え、判定部の判定結果により、照射磁場分布の再計算を行うことが特徴である。
【0085】
図10に、第五及び第六実施形態に共通するCPU8の機能ブロック図を示す。図10に示す機能ブロック図において、図2と同じ構成要素は同じ符号で示し、その説明は省略する。図示するように、演算部70は判定部741を備えている。判定部741は、第2照射磁場分布算出部が、画像の位相差をもとに各チャンネルのB1分布を算出する際に、画像のSNや、求めた画像の位相差でB1分布算出が可能か否かを判定する。その結果、画像のSNではB1分布算出の精度が低下する、あるいは求めた位相差ではB1分布算出の計算が発散する、と判定された場合には、制御部80を介して、シーケンス制御部81や第1照射磁場分布算出部73による再計測や再計算を行う。以下、判定部741による判定後の処理が異なる実施形態を説明する。
【0086】
<第五実施形態>
本実施形態でも、判定部741が位相差の差分「α−β」或いは「αk−βk」の値が0或いはπに近いか否かを判断することは第五実施形態と同様である。本実施形態では、あるチャンネルについて差分が0またはπに近い場合、そのチャンネルについて照射するRFパルスの位相を変えて画像を再計測させる。
【0087】
本実施形態の処理手順を、図11に示す。
まず各チャンネルの画像データを取得する(ステップS101)。画像データは、第一実施形態のように、各チャンネルの画像データでもよいし、第二実施形態のように、1チャンネルを除く残りのチャンネルの画像データでもよいし、第四実施形態のように、全チャンネルを2分割したチャンネル群の画像データでもよい。また複数チャンネルの画像を合成したデータでもよい。ここでは、説明を簡単にするために、チャンネル毎の画像データである場合を例に説明する。
【0088】
次に一つのチャンネルの画像データ(部分照射画像)と、当該一つのチャンネル以外の画像を合成した合成画像(部分照射画像)と、全チャンネルの画像データとを用いて、画素毎に照射位相の差分α、βを求める(ステップS102)。この位相差分α、βの差或いは和を求め、その値が次式(24)を満たすか否かを判定する(ステップS103)。
【0089】
|α−β|<θ、或いは、π−θ<|α−β|<π+θ (24)
(式中、θは予め設定した閾値)
判定の結果、位相差分|α−β|が式(24)を満たし磁場強度計算が失敗することが予測される場合、ステップS102における計算の対象としたチャンネルjについて、励起RFパルスの位相を異ならせて再度、画像を取得する(ステップS104)。再計測の場合のRF位相は、例えば、1回目の計測のときの位相±π/2とする。
【0090】
再取得したチャンネルjの画像とチャンネルj以外のチャンネルの合成画像について、式(24)を満たすと判定された画素について、再度全チャンネル画像の位相との位相差α及びβを再計算し(ステップS102)、式(6)、(7)により磁場強度を算出する(ステップS105)。
【0091】
全ての画素について、式(6)、(7)により照射磁場強度を算出した後(ステップS106)、他のチャンネルについても同様の処理を行い、全てのチャンネルのB1分布を得る(ステップS107)。
【0092】
なおステップS101において、1チャンネルを除く残りのチャンネルの画像データを取得した場合には、上記α、βを式(20)、(21)のαk、βkに当てはめて、同様の処理を行えばよい。
【0093】
本実施形態によれば、SNの低い領域がある場合や、式が発散する位相差である場合にも、式の発散を回避し、精度よく各チャンネルのB1分布を求めることができる。
【0094】
<第六実施形態>
本実施形態は、判定部741の判定結果によって、B1分布算出に用いるチャンネルの組み合わせを変化させることが特徴である。
【0095】
本実施形態の処理手順の一部を、図12及び図13に示す。図12において、図11と同じステップは同一の符号で示している。本実施形態では、第五実施形態のステップS104(再計測ステップ)の代わりにステップS120が含まれることが特徴である。図13図12に示すステップS120の詳細を示している。
【0096】
本実施形態でも、各チャンネルの部分照射画像及び各チャンネル以外のチャンネルの合成画像を取得すること(S101)、全チャンネル画像(全体画像)の位相と各チャンネルの部分照射画像あるいは合成画像の位相との位相差(α、β)を算出すること(S102)、及び、式(24)の判定を行うこと(ステップS103)は第五実施形態と同じである。
【0097】
判定部741による判定の結果、位相差分|α−β|が式(24)を満たし磁場強度計算が失敗することが予測される場合、1つのチャンネルjの画像と当該1つ以外のチャンネルの画像を用いた計算を、2つのチャンネル(例えばjとj+1)の画像と当該2つ以外のチャンネルの画像を用いて再計算する(ステップS120)。このため、まずステップS101で取得した各チャンネルの画像を用いて、2つのチャンネルの画像と当該2つ以外のチャンネルの画像を合成する(ステップS121)。次いで、これら2つの画像について、全体画像の位相との位相差を算出し(S122)、これら位相差と全チャンネルで照射した場合の磁場強度とを用いて、式(6)、(7)により2つのチャンネルで照射した場合の磁場強度を算出する(S123)。
【0098】
例えば、ステップS103でチャンネル1の磁場強度計算が発散する場合、図14(a)に示すように、チャンネル1及びチャンネル2で照射した画像と全体画像との位相差α1、β1と、全チャンネルで照射した場合の磁場強度Ttotalから、式(6)、(7)により、チャンネル1、2で照射した場合の磁場強度T(1+2)を計算する。
【0099】
ステップS143で算出した2つのチャンネルで照射した場合の磁場強度を用いて、これを各チャンネルの磁場強度に分解する。具体的には、例えば、図14(b)に示すように、2つのチャンネル(ここではチャンネル1とチャンネル2を例示)の合成画像の位相と、チャンネル1の画像の位相及びチャンネル2の画像の位相との差分α2、β2をそれぞれ算出し(ステップS124)、これら位相差分α2、β2と、ステップS143で算出された2つのチャンネルで照射した場合の磁場強度T(1+2)とを用いて、式(6)、(7)により、チャンネル1の磁場強度T1を計算する(ステップS105)。
【0100】
ステップS140における計算は、判定ステップS103で式(24)を満たすと判定された画素についてだけ行えばよく、他の画素については、直接ステップS105で磁場強度を計算する。これにより、磁場強度計算に失敗すると判定された画素を含む場合にも、精度よく磁場強度を算出することができる。また再計算のためのステップS140は、問題となる画素についてのみ行えばよいので計算量が大幅に増加することを防止できる。
【0101】
他のチャンネルについても、同様のステップS101〜S108及びS120を行うことは第五実施形態と同様である。
【0102】
本実施形態によれば、SNの低い領域がある場合や、式が発散する位相差である場合にも、式の発散を回避し、精度よく各チャンネルのB1分布を求めることができる。且つ再計測を行う必要がないのでB1分布計測の全体的な時間を短縮することができる。
【0103】
以上、図3に示すMRI装置の処理手順のうち、B1分布計測のためのパルスシーケンスを実行するステップS200及びステップS200で収集したデータを用いてB1分布を算出ステップS210の詳細を実施形態毎に説明したが、各実施形態は種々の変更や追加が可能である。例えば、画像取得シーケンスや信号取得シーケンスは、二次元パルスシーケンスのみならず、三次元パルスシーケンスでもよく、その場合は、所定のボリュームのB1分布を取得することができる。また上記実施形態では、複数チャンネルを備えた送信コイルの全チャンネルで照射した時の画像データとB1分布を得るものとして説明したが、全チャンネルは、送信コイルを構成するチャンネルの全てである必要はなく、送信コイルの一部を構成する複数のチャンネルを全チャンネルとし、当該複数のチャンネルを構成する個々のチャンネルのB1分布を計測する場合にも、上記実施形態を適用することができる。
【0104】
次に以上のように求めた各チャンネルのB1分布を用いた撮像(本撮像)について説明する。
本撮像に際し、制御部は、チャンネル毎に算出した照射磁場分布を用いてRFシミングを行う。具体的には、制御部は、被検体の画像を取得する第3の画像取得シーケンス(本撮像シーケンス)を有し、演算部は、第2の照射磁場分布算出部が算出したチャンネル毎の照射磁場分布を用いて、第3の画像取得シーケンスで照射する高周波磁場の振幅と位相の組をチャンネル毎に算出するシミング部を備える。
【0105】
各チャンネルのB1分布を用いた撮像の手順は、従来の撮像と同じであるが、以下、図3のフローに戻り簡単に説明する。
【0106】
撮像に先だって、ステップS210で算出されたB1分布を用いたRFパルスの調整を行う。RFコイルのチャンネル数がnとして、各チャンネル毎に求めたB1分布をB1k(r)とし、各小型RFコイルに供給される高周波信号の振幅および位相をAk、φkとしたとき、全体としての磁場分布B1total(r)は式(25)で表わすことができる。
式(25)の振幅及び位相の組(Ak, φk)を変化させて、磁場分布B1total(r)(rは実空間座標の位置)として、均一な磁場分布B1(r)を与える振幅及び位相の組を求める(S220)。この計算は、公知の非線形最適化アルゴリズムを用いて解くことができ、例えば、式(25)で求めたB1total(r)と目標とする磁場分布との平均2乗誤差の平方根を最小化する最適化アルゴリズムを用いて振幅及び位相の組(Ak, φk)を求めることができる。
【0107】
求めた振幅及び位相の組を各小型RFコイル(1チャンネルに相当するコイル)に設定する。具体的には、シーケンサ4および変調器12により、RFコイルの各チャンネルに供給される高周波パルスの振幅とタイミングとが調整される。
【0108】
設定した振幅及び位相を用いて、所望の撮像を行い、画像を再構成する(ステップS230、S240)。ステップS200、210で計測したB1分布は、計測を行った被検体の部位に依存するので、被検体や撮像部位が変化した場合には、B1分布の再計測を行う(S250)。即ち、ステップS200に戻り、B1分布の計測と、その結果を反映した各小型RFコイルの振幅及び位相の設定を行う。一方、部位に変更がない場合、或いは、部位の移動が、設定した振幅及び位相をそのまま用いてもよい程度の移動である場合には、撮像が終わるまで(S260)同じ照射条件で撮像を継続する。このように被検体や撮像部位が変わったときのみにB1分布計測を行うことにより、B1分布計測の回数を少なくすることができ、検査のスループットを向上させることができる。
【実施例】
【0109】
実施例として、2チャンネルの送信コイルを用いて、第一実施形態の手法を用いて、B1分布計測を行った。比較例として、実施例と同じマルチTI法を用い、チャンネル毎にB1分布計測を行った。結果を図15図16に示す。図16は、図15のラインプロファイルであり、各図において、(a)、(b)は実施例の結果、(c)、(d)は比較例の結果を示す。チャンネル毎にB1分布計測を行った比較例では、B1が低い領域で計算誤差が大きかったのに対し、実施例ではB1が低い領域の値が改善され、全体として精度が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、RFパルスの磁場分布計測(B1分布計測)を極めて短時間で行うことができる。従って、撮像部位の変化に応じて、リアルタイムでB1分布計測とその結果に基づくRFパルスの制御を行うことができるので、撮像時間延長による被検体への負担を軽減し、且つ被検体の体内の磁場の影響を受けやすい高磁場MRIにおいて、その影響を排除した診断能の高い画像を提供することができる。
【符号の説明】
【0111】
2 静磁場発生部、3 傾斜磁場発生部、4 シーケンサ、5 送信部、6 受信部、7 信号処理部、8 CPU(演算部、制御部)、11 高周波発振器、12 変調器、13 増幅器、14a 高周波コイル(送信コイル)。
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