【実施例】
【0027】
(実験1)紫外線照射による皮膚ストレス蓄積量の試験
(1)日光曝露(紫外線)によるストレス負荷
健康な男女12名を被験者として試験を実施した。
日光曝露前の頬部の皮膚から角層をテープストリッピング(角層テープ:アサヒテクノラボ製)で剥離採取した。採取後、被験者は非連続的に1〜5日間、スポーツ観戦や海などで日常より強い日光を浴びた(日焼けする程度であるが、日光の照射強度や時間は非コントロール)。日光曝露後1〜2日目、3〜4日目、7〜8日目に、同様にして、頬部皮膚から角層をテープストリッピングで剥離採取した。また日光曝露後1〜2日目の日焼けの程度を、皮膚色測定装置 CM-508D(MINOLTA社)を用いて測定した。
【0028】
(2)皮膚角層中タンパク質抽出方法
各角層テープ1枚につき500μlのT-PER Tissue Protein Extraction Reagent (Thermo Scientific製)を入れ、約0.8gのガラスビーズを加えて25分間ボルテックスし、角層を破砕し、角層からタンパク質を抽出した。
【0029】
(3)皮膚角層タンパク質の定量
回収したタンパク質溶解液のタンパク質量をPierce BCA Protein Assay Kit (Thermo Scientific製)を用いて定量した。
【0030】
(4)MIFの定量
上記の破砕液から、MIF量をhuman MIF Duo set(R&D systems)を用いて常法に従い測定した。
【0031】
(5)結果
ア.日光による日焼けと角層中MIF量の変動
角層中の、日光曝露後の単位角層タンパク質あたりのMIF量(以下、MIF量という)の変動を
図1に示す。日光曝露の影響は7〜8日後も角層に残存することが確認された。
【0032】
イ.日焼けの程度と角層中MIF量の関係
皮膚色測定の結果から、日焼けの程度を次の2群に分けて、MIF量との関係を確認した。
日焼け強群(皮膚が黒くなった):ΔL*(試験後−試験前)<−1
日焼け弱群(皮膚に変化なし) :ΔL*(試験後−試験前)≧−1
角層中の、日光曝露後のMIF量の変動を
図2に示す。
図2からL*値が低下した(皮膚が黒くなった)日焼け強群は、日焼け弱群と比較してMIFの発現量が高いことが確認された。またMIFの発現量は、日光曝露7日目においても顕著に高かった。
【0033】
ウ.日焼けによる発赤の程度と角層中MIF量の関係
被験者を、日光曝露後に炎症を呈した(発赤した)者と発赤しなかった者の2群に分けたときの、角層中のMIF量の変動を
図3に示す。MIF量は日光曝露後7日目まで高値を示しており、日光曝露による影響は7日目まで残っていることがわかった。
また発赤はMIF値を上昇させた。
【0034】
以上の結果から日光曝露の影響は7〜8日経過後も皮膚に残存しストレスとして蓄積していることが確認できた。
【0035】
(実験2)界面活性剤での洗浄による皮膚ストレス蓄積量の試験
(1)硫酸ドデシルナトリウムによる過酷洗浄試験
健常な肌を有する男性9名の皮膚を10%硫酸ドデシルナトリウム(SDS)水溶液(コントロール:精製水により洗浄)で洗浄し、皮膚にストレスを与えた。
前腕内側部に10%SDS水溶液0.2gを塗布し、指で100往復させた後、37℃の精製水500mlで洗い流した。この操作を5回/日×2日間実施した。
【0036】
(2)サンプル採取方法
実験1と同様に角層テープ(アサヒテクノラボ製)により前腕内側部の皮膚から角層を採取した。苛酷洗浄試験終了後4日目に被験者1人あたり、角層テープ30枚を用いて同一洗浄箇所の角層採取を行い、角層の深部試料を採取した。
【0037】
(3)皮膚角層中タンパク質抽出方法
実験1と同様に、各角層テープ1枚につき500μlのT-PER Tissue Protein Extraction Reagent (Thermo Scientific製)を入れ、約0.8 gのガラスビーズを加えて25分間ボルテックスし、角層を破砕し、角層からタンパク質を抽出した。
【0038】
(4)皮膚角層タンパク質の定量
タンパク質溶解液のタンパク質量をPierce BCA Protein Assay Kit (Thermo Scientific製)を用いて定量した。
【0039】
(5)MIFの定量
上記の破砕液から、MIF量をhuman MIF Duo set(R&D systems)を用いて定法に従い測定した。
【0040】
(6)結果
MIF量分析結果を
図4に示す。
SDSのような界面活性剤が皮膚に浸透すると刺激として認識され、角層にMIFが蓄積されることがわかった。従って角層のMIF量を測定することで、皮膚深部のストレス履歴を測定することができることが確認できた。
【0041】
(実験3)有機溶媒による皮脂の除去と皮膚ストレス蓄積量の試験
(1)アセトン/ジエチルエーテル溶液による皮脂の溶出とストレス蓄積試験
健常な肌を有する女性3名の皮膚をアセトン/ジエチルエーテル等量混合液で洗浄し、皮脂を除去し皮膚にストレスを与えた。
前腕内側に上下があいたガラス製ロート(径3cm)をゴムバンドで固定し、アセトン(WAKO
特級)/ジエチルエーテル(WAKO特級)等量混合液をロート内にピペットマンで2ml注入し、シェーカーの上に両腕を置いて20分間処置した。次いで、ロート内のアセトン/ジエチルエーテル等量混合液をスポイトで除いた後、水道水を注入し、シェーカーの上に両腕を置き5分間処置した(脱脂処置)。翌日、同一部分に再度脱脂処置を行い、乾燥皮膚を作成した。また、対照として同様の処理を水道水で操作した。脱脂処理によって皮膚の保湿性が低下し、皮膚は皮脂が回復するまで外気により継続的なストレスに晒されることとなる。
【0042】
(2)持続的なストレスの存在の確認
経表皮水分蒸散量(TEWL)を、上記処理の前日、1、5、8、12、16日に測定し、皮膚におけるストレスの状態を確認した。TEWLはキーストン社のDelfinを用いて2回ずつ測定した平均値を解析に用いた。対照との比較でTEWLが高い場合ストレスが蓄積しているものと評価した。
【0043】
(3)MIF測定サンプル採取方法
実験1と同様に角層テープ(アサヒテクノラボ製)により前腕内側部の皮膚から角層を採取した。洗浄試験終了後4日目に被験者1人あたり、角層テープ深さ方向に4枚を用いて同一洗浄箇所の角層採取を行い、角層の深部試料を採取した。
【0044】
(4)皮膚角層中タンパク質抽出方法
実験1と同様に、各角層テープ1枚につき500μlのT-PER Tissue Protein Extraction Reagent (Thermo Scientific製)を入れ、約0.8 gのガラスビーズを加えて25分間ボルテックスし、角層を破砕し、角層からタンパク質を抽出した。
【0045】
(5)皮膚角層タンパク質の定量
タンパク質溶解液のタンパク質量をPierce BCA Protein Assay Kit (Thermo Scientific製)を用いて定量した。
【0046】
(6)MIFの定量
上記の破砕液から、MIF量をhuman MIF Duo set(R&D systems)を用いて定法に従い測定した。
【0047】
(7)結果
ア.ストレスの持続状態
TEWLの経時変化を
図4に示す。TEWL値は、アセトン/ジエチルエーテル洗浄後急激に上昇し16日経過後も対照と比して高い値を示した。これは、皮膚の皮脂が除去された影響が16日間ストレスとして残存していることを意味している。
イ.MIF量の分析結果
MIF量分析結果を
図5に示す。
皮脂の除去操作直後のMIF値は、対照と大きな差はなかったが、5日目から上昇し、16日経過後も高い値を示した。これは皮脂の除去により外界刺激がより強く認識され、角層にMIFが蓄積されることがわかった。従って角層のMIF量を測定することで、皮膚深部のストレス履歴を測定することができることが確認できた。
【0048】
(実験4)外界のストレスを常に受けている顔面と比較的ストレスを受けていない前腕部や臀部皮膚のMIFを測定し、皮膚に蓄積されているストレスの程度を評価した。
【0049】
試験方法
(1)試料の採取
健常な肌を有する男女30名より、頬、前腕、臀部よりテープストリッピング法によって角層サンプルを採取した。
【0050】
(2)MIFの測定
実験1と同様に、処理し、タンパク質を抽出し、タンパク質量とMIF量を測定し、単位タンパク質量当たりのMIF量として
図7に示した。なお表記は平均値±S.E.で示した。
図7の結果から明らかなように、MIFの測定結果は日常的なストレスの高い顔面(頬)で特に高く、露出の少ない臀部では顕著に低かった。以上の結果からMIFは皮膚の日常的なストレスを評価する指標とすることができることが明らかとなった。
【0051】
(実験5)標本集団の角層のMIF量を測定し、ヒストグラムを作成した。
【0052】
試験方法
(1)試験試料の採取
無作為に選抜した女性458名を対象として、頬部よりテープストリッピング法によって角層サンプルを採取した。サンプルは1部位より1枚採取した。
【0053】
(2)MIFの測定
実験1と同様に、処理し、タンパク質を抽出し、タンパク質量とMIF量を測定し、単位タンパク質量当たりのMIF量として解析した。標本集団の角層のMIF量のヒストグラムを
図8に示す。
【0054】
図8に示したとおり、MIFの発現量は、0.1pg/μg total proteinから2pg/μg total proteinを超える値までの広い範囲で分布している。平均値は0.46pg/μg total proteinであった。平均値0.46pg/μg total protein 以上の値をMIFの発現量が大きいと判断しても良いし、0.3pg/μg total proteinの累積度数が約50%なので、0.3pg/μg total protein を超える値を、MIFの発現量が大きいと判断しても良いと考える。いずれにしても、MIFの発現量が大きいほど、ヒト皮膚のストレス蓄積量は大きいと判断できる。
【0055】
(実験6)ヒト皮膚のストレス蓄積量に関するアンケート結果と、MIF量の対比
実験5の標本集団から、無作為に195名を抽出し、ヒト皮膚のストレス蓄積量に関するアンケートを実施し、その結果とMIFの発現量を対比した。
【0056】
(1)肌の敏感性のアンケート
被験者に、被験者の肌が、「非敏感」、「やや敏感」、「敏感」の3種類のうちのいずれであるか選択させた。
下記敏感性の10の要因を被験者に提示し、非敏感(敏感ではない)、やや敏感(やや敏感である)、敏感(敏感である)のいずれに該当するか被験者に自己判断させた。
1 化粧品を使って赤みやかゆみを感じることがある
2 清涼感の高い(スーッとした)化粧品が肌にあわないことがある
3 エタノールが入った化粧品が肌にあわないことがある
4 香水や香料が入った化粧品が肌に合わないことがある
5 肌が弱いので化粧品を慎重に選んでいる
6 マッサージなど物理的な刺激によって肌の状態が悪くなることがある
7 普段の生活でも紫外線を浴びたりすると肌が赤くなったり、ヒリヒリしやすい
8 汗をかいた後にかゆみがでることがある
9 化粧品や洗剤があわずに赤みやかゆみがでる
10 化粧品の肌トラブルにより通院した経験がある
「敏感」を選択する者は、ヒト皮膚のストレス蓄積量が高く、「非敏感」を選択する者はヒト皮膚のストレス蓄積量が低いと予想した。
【0057】
(2)肌の敏感性のアンケート結果とMIF量の関係
上記(1)の肌の敏感性のアンケート結果(非敏感74名、やや敏感101名、敏感20名)とMIF量の関係を
図9に示す。
自己の肌が非敏感であるとした回答者のMIF発現量の平均値は0.5pg/μg total protein(SD0.6、SE0.1)、やや敏感であるとした回答者のMIF発現量の平均値は0.4pg/μg total protein(SD0.4、SE0.0)であった。一方、自己の肌が敏感とした回答者のMIF発現量は、0.8pg/μg total protein(SD0.8、SE0.2)であった。肌が敏感であると自己申告した人のMIF発現量は、他と比較して突出して高い。
MIF発現量を測定することで敏感肌であるか否かを容易に検査できることが明らかとなった。