(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017528
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ノズルアプローチ時の干渉回避機能を備えたレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20161020BHJP
B23K 26/02 20140101ALI20161020BHJP
【FI】
B23K26/00 Q
B23K26/00 M
B23K26/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-263248(P2014-263248)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-120516(P2016-120516A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(72)【発明者】
【氏名】時任 宏彰
【審査官】
豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−328868(JP,A)
【文献】
特開平3−71988(JP,A)
【文献】
特開平1−218780(JP,A)
【文献】
特開昭62−279093(JP,A)
【文献】
特開平3−110091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に対して接離可能に構成されかつレーザ光を照射する加工ノズルと、
前記加工ノズルと被加工物との間の距離を検出するギャップセンサと、
前記ギャップセンサの検出値に基づいて前記加工ノズルと前記被加工物との間の距離を制御するギャップ制御を行いつつ、前記加工ノズルの動作を制御して前記被加工物に対するレーザ加工を行う制御装置と、を具備するレーザ加工装置であって、
前記制御装置は、前記加工ノズルが予め定めた加工開始位置よりも高い位置にあるときに、前記加工ノズルと前記被加工物との間の距離がギャップ制御を開始できる設定値となったことを前記ギャップセンサが検出したら、前記被加工物に対する前記加工ノズルのアプローチを停止する、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記アプローチを停止した後に、前記加工ノズルを前記被加工物から離れる方向に移動させる退避動作を行う、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御装置は、レーザ加工を行うための加工プログラムにおいて、前記アプローチを停止させたときの指令ブロックの次の指令ブロックをサーチして、該次の指令ブロックからレーザ加工を続行する、請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御装置は、レーザ加工を行うための加工プログラムにおいて、前記アプローチを停止させたときの指令ブロックに関する情報を記憶し、該情報をオペレータに通知する機能を備えた、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物と加工ノズルとの間の距離が変更可能に構成されたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にレーザ加工においては、レーザ光を照射する加工ノズルと被加工物(ワーク)との間の距離(ギャップ)を所定値に維持するギャップ制御を実行しながら加工を行っている。このギャップ制御の例として、例えば特許文献1には、ワークとの距離を検出するギャップセンサをノズルに設け、ギャップセンサからの信号に基づいてならい制御を行う旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−343255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ギャップ制御では、加工ノズルをワークに接近させるアプローチ動作中は、ギャップを測定するギャップセンサの検出範囲内にワーク表面が入るまでは、ギャップセンサは最大値を出力し続けている。一方、ギャップを制御する制御軸(加工ノズルを駆動する軸等)の速度は通常、ギャップセンサの検出値と動作速度を決定するゲイン設定値とによって算出されるが、アプローチ動作には高速性が求められるために、アプローチ動作中はゲインは大きな値に設定される。或いは、加工ノズルがワーク表面付近のある一定の高さに下降するまでは、ギャップセンサの検出値によらずに設定されたアプローチ動作速度(センサ検出値とゲイン設定値から算出される速度よりも速い速度)によって、高速に下降させる場合もある。
【0005】
しかし、上述のようにアプローチ速度が高速の状態で、加工ノズルと被加工物との間の障害物の存在や、ワーク異常(ワークの過度の傾きや反り)が検出されても、加工ノズルの駆動軸の減速が間に合わずに加工ノズルが障害物等と衝突・干渉し、加工ノズルが破損する虞がある。
【0006】
特許文献1に記載の技術は、アプローチ動作中にセンサでワーク表面の接近を検出し、加工ノズルがワークへ接近したことを検出し、ワークへの接近前後でギャップ制御動作のゲイン切り替えるものと解される(つまり、アプローチ完了前はゲインを大きく保持し、ワーク接近に伴いゲインを小さくする)。しかし、これらの操作は加工ノズルのアプローチ動作時間の短縮を行うことを目的としており、ノズルがワークに接近していくことを検出するとはしているが、ノズルとワークの干渉回避は考慮されていない。また、加工ノズル軸の位置検出器の出力に基づく実際の機械位置についても考慮されていない。
【0007】
そこで本発明は、加工ノズルのアプローチ時の干渉回避機能を備えたレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願第1の発明は、被加工物に対して接離可能に構成されかつレーザ光を照射する加工ノズルと、前記加工ノズルと被加工物との間の距離を検出するギャップセンサと、前記ギャップセンサの検出値に基づいて前記加工ノズルと前記被加工物との間の距離を制御するギャップ制御を行いつつ、前記加工ノズルの動作を制御して被加工物に対するレーザ加工を行う制御装置と、を具備するレーザ加工装置であって、前記制御装置は、前記加工ノズルが予め定めた加工開始位置よりも高い位置にあるときに、前記加工ノズルと前記被加工物との間の距離がギャップ制御を開始できる設定値となったことを前記ギャップセンサが検出したら、前記被加工物に対する前記加工ノズルのアプローチを停止する、レーザ加工装置を提供する。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記制御装置は、前記アプローチを停止した後に、前記加工ノズルを前記被加工物から離れる方向に移動させる退避動作を行う、レーザ加工装置を提供する。
【0010】
第3の発明は、第2の発明において、前記制御装置は、レーザ加工を行うための加工プログラムにおいて、前記アプローチを停止させたときの指令ブロックの次の指令ブロックをサーチして、該次の指令ブロックからレーザ加工を続行する、レーザ加工装置を提供する。
【0011】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記制御装置は、レーザ加工を行うための加工プログラムにおいて、前記アプローチを停止させたときの指令ブロックに関する情報を記憶し、該情報をオペレータに通知する機能を備えた、レーザ加工装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、加工ノズルと被加工物(ワーク)との間の距離がギャップ制御を開始できる設定値となったときに、加工ノズルの位置が予め定めた加工開始位置より高い位置にあるときは、ワークの異常や障害物の存在が推測されるので、加工ノズルのアプローチを制御装置によって停止させることができる。従って、加工ノズルがワーク又は障害物に干渉・衝突することを自動的に回避することができ、レーザ加工の効率化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の好適な実施形態に係るレーザ加工装置の主要部の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1のレーザ加工装置を用いた処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】加工ノズルを他の加工点にスキップさせた例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の好適な実施形態に係るレーザ加工装置の主要部の概略構成を示す図である。レーザ加工装置10は、レーザ光を照射する加工ノズル12と、加工ノズル12の動作を制御する制御装置14とを有し、加工ノズル12は少なくとも1つのサーボモータ16によって、テーブル18上に配置された被加工物(ワーク)20に対して、加工ノズル軸方向(図示例ではワーク表面に略垂直なZ方向)、並びにZ方向に直交しかつ互いに直交するX方向及びY方向に可動に構成されている。
【0015】
制御装置14は、レーザ加工装置10でワーク20を加工するための加工プログラムをメモリ等(図示省略)から読み出す加工プログラム読み出し部22と、該加工プログラムに含まれている、ワーク20の加工経路に関する加工経路指令を解析する加工経路指令解析部24と、加工経路上の複数の点の間の補間処理を行う補間処理部26と、加工経路指令解析部24の解析結果及び補間処理部26の処理結果に基づいて加工ノズル12の移動指令を作成して出力する移動指令出力部28とを有する。
【0016】
移動指令出力部28から出力された移動指令は、サーボ制御回路30に送られ、サーボ制御回路30は、該移動指令に基づいてサーボモータ16に接続されたサーボアンプ32を制御する。これにより、加工ノズル12はワーク20に設定された所定の加工経路に沿って移動することが可能となる。また加工ノズル12の機械位置(例えばレーザ加工装置12の固定位置に設定した座標系における加工ノズル12の位置)は、サーボモータ16に設けられたエンコーダ等の位置検出器34によって検出することができる。具体的には、位置検出器34は、レーザ加工装置10の適所(例えばテーブル18の角部36)を基準位置(原点)とした加工ノズル12の機械位置を検出することができる。
【0017】
加工ノズル12は、ワーク20の表面と加工ノズル12(の先端)との距離(ギャップ)gを検出するギャップセンサ38を備え、ギャップセンサ38の検出値(検出信号)は、センサ回路40を介して、制御装置14のA/D変換部42にてA/D変換される。また制御装置14は、A/D変換部42にてA/D変換されたセンサ出力に基づいてギャップgを制御するためのギャップ制御指令をサーボ制御回路30に送るギャップ制御回路44と、サーボ制御回路30に送られる指令を、3路スイッチ46等を用いて移動指令出力部28からの移動指令又はギャップ制御指令のいずれかに切り替える制御切替部48とを有する。
【0018】
レーザ加工装置10では、ギャップセンサ38により検出された加工ノズル12とワーク20との間の距離を、ギャップ制御回路44が所定のレーザ加工用のギャップ距離に維持するギャップ制御を行いつつ、加工ノズル12からレーザ光を照射してワーク20の加工を行う。以下、
図2のフローチャートを参照しつつ、本実施形態に係るレーザ加工装置における操作の一例を説明する。
【0019】
先ずステップS1において、上述の位置検出器34を用いて、加工ノズル12(加工ノズル軸)の機械位置の監視を開始する。次に、ステップS2において、ワーク20に対する加工ノズル12のアプローチ動作を開始する。このアプローチ動作は、加工ノズル12の先端とワーク20の表面とのギャップgが、ギャップ制御を開始できる所定の設定値(例えば5mm〜20mm)となるまで続行される(ステップS3)。
【0020】
ギャップgがギャップ制御を開始できる設定値になったら、ステップS4において、ステップS1で監視している加工ノズル12の機械位置が、予め定めた加工開始位置(加工開始高さ)よりも上方にあるか否かを判断する。ここで加工開始位置とは、例えば
図1に示す位置50にように、ワーク20に傾き、反りや変形等がない正常な場合に、加工ノズル12(の先端)がワーク20等に干渉(衝突)せずにギャップgが設定値となり得る位置を意味する。換言すれば、加工開始高さは、所望のレーザ加工が実施できない程度の異常がワーク20にない場合に、ギャップgが設定値となるときの加工ノズル12の機械位置に相当する位置、又はこれに所定のマージンを付与した位置として設定される。
【0021】
ギャップgが所定の設定値になったときに加工ノズル12の機械位置が所定の加工開始位置又は加工開始位置より下方にあれば、ワーク20は正常な状態にあると判断できるので、ステップS5に進んで加工ノズル12のアプローチ動作を継続し、アプローチが完了したら、加工ノズル12の先端からレーザを照射し、ワーク20のレーザ加工を開始する(ステップS6)。
【0022】
一方、ステップS4において加工ノズル12の機械位置が所定の加工開始位置より上方(反ワーク側)である場合は、例えば、
図1に示す反り部52のような形状異常がワーク20に存在しているか、ワーク20が正常な姿勢から過度に傾斜しているか、他の障害物が加工ノズル12とワーク20との間に存在していることを意味するので、制御装置14はレーザ加工を実行できない異常があると判断し、ステップS7に進んで加工ノズル12の送り(アプローチ動作)を自動的に停止する。この時点でオペレータは、障害物を除去したり、ワーク20を別のワークに交換したりする等の、適切な措置を採ることができる。
【0023】
このように、加工ノズル12をワーク20にアプローチさせた後で加工ノズル12からレーザ光を射出してレーザ加工を開始するときのノズル位置(高さ)を制御装置14に予め設定しておき、加工ノズル12を移動させるモータ16に設けた位置検出器34からの位置情報と、制御装置14に予め設定したレーザ加工を開始するときのノズル位置(加工開始位置)を常に比較し、設定した機械位置より上(反ワーク側)でギャップセンサ38が反応した場合には、障害物の存在、ワーク20の過度な反り、形、傾き等、レーザ加工を実行できない異常状態が検出されたと判断できるので、加工ノズル12の軸(ここではZ方向の送り軸)を停止させることにより、加工ノズル12とワーク20等との干渉・衝突や、これに起因する加工ノズル12の破損等を回避することができる。
【0024】
ここで任意ではあるが、ステップS7の後に、加工プログラムを一時休止(中断)し、加工ノズル12を所定の退避位置まで上昇(反ワーク側、すなわちワークから離れる方向に移動)させる退避動作を(好ましくは自動的に)制御装置14が行うステップS8を追加してもよい。このように、障害物やワーク20の異常を検出したら加工プログラムを中断し、加工ノズル12の軸の送りを停止させ、その後、加工ノズル12を任意の距離だけ上昇させるか、或いは所定の退避位置(レファレンス点)に退避させることにより、オペレータが障害物等を除去するための安全な作業空間を自動的に確保することができる。また、以下に説明する、障害物等を検出したときの加工プログラムの指令ブロックを回避して、次の加工開始点をサーチして加工を継続する動作を行う場合の動作時間を短縮することもできる。
【0025】
また任意ではあるが、ステップS7又はS8の後に、ワーク20の異常等を検出したとき(加工ノズル12のアプローチを停止させたとき)の加工プログラムにおける指令ブロックに関する情報を適当なメモリ等に記憶し、さらに該指令ブロックに関する情報を適当な画面に表示したり音声として出力したりする等、オペレータに異常発生時の指令ブロックに関する情報を通知する処理を(好ましくは自動的に)制御装置14が行うステップS9を追加してもよい。このように、障害物等を検出したときに加工ノズル12の干渉回避のために加工プログラムの実行を中断したり、障害物等の発生部位を回避して加工プログラムの実行を継続し、一連の加工が終了した後に異常発生部位を追加工したりする場合、オペレータに加工プログラム上での異常発生部位を通知できるようにすることにより、オペレータが行う追加工の段取り工程に要する時間や労力を低減することができる。
【0026】
またさらに任意ではあるが、加工ノズル12を所定の退避位置まで上昇させた後(ステップS8又はS9の後)に、制御装置14が好ましくは自動的に、加工プログラムにおいて、異常を検出したとき(加工ノズル12のアプローチを停止させたとき)の指令ブロックの次の指令ブロックをサーチし、該次の指令ブロックからレーザ加工を続行するステップS10を追加してもよい。
【0027】
図3は、ステップS10に関する処理の一例を説明する図である。ステップS8での処理によって加工ノズル12が退避位置まで上昇したら、制御装置14が加工プログラム内の異常検出時の指令ブロックの次の指令ブロック(例えば、反り部52とは異なるワーク20の部位54の切断加工や穴開け加工等を指令するブロック)をサーチし、加工ノズル12を部位54の上方に移動させる。その後、
図2に示す処理を繰り返す。このように、障害物等を検出して加工ノズル12の軸の送りを停止させた後で加工ノズル12を任意の距離だけ上昇させ、制御装置14が加工プログラムの次の指令ブロックをサーチして、該次の指令ブロックから加工を実施することにより、ワーク20の障害物発生部位だけを回避した加工を自動的に継続することができる。
【0028】
なお上述の実施形態では、固定されたテーブル18(ワーク20)に対して加工ノズル12が可動であるが、加工ノズル12をワーク20に対する接離方向(Z方向)にのみ可動とし、テーブル18をX方向及びY方向に(すなわちX−Y面内で)可動としてもよい。或いは、加工ノズル12を固定し、テーブル18をX、Y及びZ方向に可動に構成することも可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 レーザ加工装置
12 加工ノズル
14 制御装置
16 サーボモータ
18 テーブル
20 ワーク
22 加工プログラム読み出し部
24 加工経路指令解析部
26 補間処理部
28 移動指令出力部
30 サーボ制御回路
32 サーボアンプ
34 位置検出器
36 基準位置
38 ギャップセンサ
40 センサ回路
42 A/D変換部
44 ギャップ制御回路
46 3路スイッチ
48 制御切替部