(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017534
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】抗真菌剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/10 20060101AFI20161020BHJP
C07K 7/56 20060101ALN20161020BHJP
C07K 5/12 20060101ALN20161020BHJP
C12P 21/04 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
C07K1/10
!C07K7/56
!C07K5/12
!C12P21/04
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-503064(P2014-503064)
(86)(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公表番号】特表2014-510116(P2014-510116A)
(43)【公表日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】EP2012055284
(87)【国際公開番号】WO2012136498
(87)【国際公開日】20121011
【審査請求日】2015年1月14日
(31)【優先権主張番号】61/471,218
(32)【優先日】2011年4月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505371232
【氏名又は名称】クセリア ファーマシューティカルズ エーピーエス
【氏名又は名称原語表記】Xellia Pharmaceuticals ApS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】グネス、セルビ
(72)【発明者】
【氏名】ハルヴォルセン、ハラルド
【審査官】
濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−324695(JP,A)
【文献】
Org. Process Res. Dev., 2009, 13 (2), pp 310-314
【文献】
Chem. Eur. J., 2009, Vol. 15, p. 9394-9403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00
C07K 5/00
C07K 7/00
C12P 21/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミカファンギン又はその塩を製造するためのワンポット方法であって、以下の順序の工程、すなわち、
a)式(III)の化合物又はその塩を、ヒドロキシベンゾトリアゾール類及びエチル−2−シアノ−2−(ヒドロキシイミノ)アセタートからなる群から選択されるカップリング添加剤と溶媒中で混合する工程、
【化1】
b)カップリング試薬を、工程a)で得られた混合物に添加する工程であって、前記カップリング試薬がカルボジイミドである工程、
c)塩基及び式(II)の化合物又はその塩を、工程b)で得られた混合物に添加する工程を含む方法。
【化2】
【請求項2】
前記カップリング添加剤が、1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カップリング添加剤が、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾールである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記カップリング添加剤が、エチル−2−シアノ(ヒドロキシイミノ)アセタートである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記カップリング試薬が、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)又はその塩である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カップリング試薬が、EDCの塩酸塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程a)で使用される溶媒が、DMFである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程c)で使用される塩基が、DIPEAである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基が、化学式IIの化合物を添加する前に、工程b)で得られた混合物に添加される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記塩基が、化学式IIの化合物を添加した後で、工程b)で得られた混合物に添加される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程c)で得られたミカファンギン塩が沈殿される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程c)で得られたミカファンギン塩が、貧溶媒を使用することにより沈殿される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記貧溶媒が、酢酸エチルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程c)で得られたミカファンギン塩が、メタノール及びアセトンを添加することにより反応を停止させた後で沈殿される、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミカファンギン又はその塩を調製するための改善された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミカファンギンは、式(I)により表わされる、抗真菌活性を有するエキノキャンディンである。
【0003】
【化1】
ミカファンギンは、ニューモカンジンA0、1−[(4R,5R)−4,5−ジヒドロキシ−N2−[4−[5−[4−(ペンチルオキシ)フェニル]−3−イソオキサゾリル]ベンゾイル]−L−オルニチン]−4−[(4S)−4−ヒドロキシ−4−[4−ヒドロキシ−3−(スルホオキシ)フェニル]−L−トレオニン]としても知られている。更に、ミカファンギンナトリウムは、FK−463として知られている。ケミカルアブストラクツにより割り当てられている登録番号は、ミカファンギンの場合は235114−32−6であり、ミカファンギンナトリウムの場合は208538−73−2である。
【0004】
ミカファンギンの抗真菌活性は、1,3−β−D−グルカンシンターゼを阻害し、したがって真菌細胞溶解をもたらす能力によるものである。したがって、ミカファンギンは、種々の感染症、特に、例えばアスペルギルス(Aspergillus)、クリプトコックス(Cryptococcus)、カンジダ(Candida)、ムコール(Mucor)、アクチノミセス(Actinomyces)、ヒストプラスマ(Histoplasma)、皮膚糸状菌(Dermatophyte)、マラセジア(Malassezia)、及びフザリウム(Fusarium)の菌株により引き起こされる感染症の治療に有用である。ミカファンギンは、カンジダにより引き起こされる感染症の治療及び予防に使用される、承認薬Mycamine(登録商標)及びFunguard(登録商標)の有効成分である。
【0005】
ミカファンギンは、エキノキャンディン系の2番目に承認された抗真菌剤であり、今や、重篤な真菌感染症の化学療法に世界中で使用されている。
ミカファンギン及びその調製は、藤沢薬品工業に付与された特許文献1に開示されている。ミカファンギンを調製する方法は、一般論文である非特許文献1にも開示されている。従来技術に開示されている方法によると、ミカファンギンは、真菌コレオフォマ・エンペトリ(Coleophoma empetri)F−11899から単離された天然産物FR−901379から得ることができる。FR−901379を酵素的に脱アシル化し、その後4−[5−(4−ペンチルオキシ)フェニル)イソオキサゾール−3−イル]安息香酸のアミドカップリングにより、ミカファンギンを生成することができる。
【0006】
ミカファンギンを調製する方法は、Fromtlingら(上記参照)にも開示されている。FR−901379の脱アシル化後に得られるペプチドコアを、Fromtlingらに従って、活性化された側鎖1−[4−[5−(4−ペンチルオキシ)フェニル)イソオキサゾール−3−イル]ベンゾイル]ベンゾトリアゾール3−オキシドにより再アシル化する。
【0007】
ミカファンギンナトリウムを製造するための種々の方法は、非特許文献2にも開示されている。
ミカファンギン生産の向上は、特許文献2に記載されている。この方法は、単離されたミカファンギン側鎖、つまり1−[4−[5−(4−ペンチルオキシ)フェニル)イソオキサゾール−3−イル]ベンゾイルオキシ]−1H−1,2,3−ベンゾトリアゾールを、脱アシル化ミカファンギンペプチドコアに付加する工程も含む。
【0008】
非特許文献3には、最適化された産業的ミカファンギン生産方法が開示されており、この方法は活性化ミカファンギン側鎖を単離することも含む。
上記で参照した従来技術に開示されているミカファンギンを調製する方法の場合は全て、全公知方法が、ミカファンギンペプチドコア、つまりFR−901379との反応の前に活性化ミカファンギン側鎖を分離することを前提としていることを共通の特徴とする。したがって、従来技術の方法は全て、単離形態の活性化ミカファンギン側鎖を介して進行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6107458号明細書
【特許文献2】米国特許第7199248号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ohigashiら、「Process Development of Micafungin,a Novel Lipopeptide Antifungal Agent」、Journal of Synthetic Organic Chemistry、日本、64巻、12号、2006年12月
【非特許文献2】Hashimotoら、The Journal of Antibiotics(2009年)62巻、27〜35頁
【非特許文献3】Ohigashiら、Organic Process Research&Development、2005年、9巻、179〜184頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ミカファンギンを調製するための、改善された、産業的に効率化された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、1つの態様によると、ワンポット法でのミカファンギン側鎖の活性化及び上記ミカファンギン側鎖のミカファンギンペプチドコアへのカップリングを含む方法を使用することにより達成される。すなわち、本発明の方法は、その関連反応混合物から活性化ミカファンギン側鎖を単離することなく、ミカファンギンペプチドコアをアシル化することを含む。別の態様では、本発明は、1つの反応混合物中で、ミカファンギン側鎖を活性化し、ミカファンギンコアペプチドとカップリングさせることを含む。したがって、活性化ミカファンギン側鎖を単離する工程を必要としない方法が提供される。
【0013】
ミカファンギン側鎖としての酸性化合物を、ミカファンギンコアとしてのペプチドコアにカップリングすると、種々の望ましくない副生成物がもたらされる場合がある。Ohigashiら、2006年(上記参照)を参照すると、ミカファンギンコアには多数の官能基が存在するため、アシル化反応では副反応を抑制する必要があることが、特に考察されている。更に、Ohigashiら、2006年には、この方法では中間体の精製条件を最適化する必要性があることが教示されている。従来技術の教示にも関わらず、本発明者らは、驚くべきことに、ミカファンギン側鎖のカップリングを活性化し、活性化ミカファンギン側鎖を単離する別の分離工程を必要とせずに、ミカファンギンコアに直接カップリングすることができ、不純物生成が最小限である良好な結合が達成されたことを発見した。本発明の方法は、活性化ミカファンギン側鎖の分離を前提とする従来技術の方法と比較して有利である。例えば、ワンポット方法は、分離工程を省略することによりプロセス所要時間がより短くなるという点で産業的観点からより効率的である。加えて、活性化ミカファンギン側鎖がより良好に利用されるため、分離/精製工程による生成物の喪失がなく、全体的により良好な収率がもたらされることになる。
【0014】
より詳しくは、本発明は、以下の順序の工程を含む、ミカファンギン又はその塩を製造するためのワンポット方法を提供する:
a)式(III)の化合物又はその塩を、
【0015】
【化2】
ヒドロキシベンゾトリアゾール類(hydroxybenzotriazols)及びエチル−2−シアノ−2−(ヒドロキシイミノ)アセタートからなる群から選択されるカップリング添加剤と溶媒中で混合する工程、
b)カップリング試薬を、工程a)で得られた混合物に添加する工程であって、上記カップリング試薬がカルボジイミドである工程、
c)塩基及び式(II)の化合物又はその塩を、工程b)で得られた混合物に添加する工程。
【0016】
【化3】
本発明の1つの実施形態によると、カップリング添加剤は、1−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾールである。
【0017】
本発明の別の実施形態によると、カップリング添加剤は、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾールである。
本発明の更なる実施形態によると、カップリング添加剤は、エチル−2−シアノ(ヒドロキシイミノ)アセタートである。
【0018】
本発明の別の実施形態によると、カップリング試薬は、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)又はその塩であり、好ましくは、EDCの塩酸塩である。
【0019】
本発明の別の実施形態によると、上記の工程a)で使用される溶媒は、DMFである。
本発明の更に別の実施形態によると、本発明の工程c)で使用される塩基は、DIPEAである。
【0020】
本発明の更に別の実施形態によると、塩基は、化学式IIの化合物を添加する前に、工程b)で得られた混合物に添加される。
本発明の更に別の実施形態によると、塩基は、化学式IIの化合物を添加した後で、工程b)で得られた混合物に添加される。
【0021】
本発明の更に別の実施形態によると、工程c)で得られたミカファンギン塩は、沈殿される。
本発明の更に別の実施形態によると、工程c)で得られたミカファンギン塩は、貧溶媒を使用して沈殿される。
【0022】
本発明の更に別の実施形態によると、工程c)で得られたミカファンギン塩は、酢酸エチルを使用して沈殿される。
本発明の更に別の実施形態によると、工程c)で得られたミカファンギン塩は、メタノール及びアセトンを添加することにより反応を停止させた後で沈殿される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1に記載の反応、つまりミカファンギン側鎖及びHOBtに代表されるカップリング添加剤の個別反応を示す反応スキームを示す図である。
【
図2】実施例2に記載の反応、つまりミカファンギンペプチドコア及び
図1に示されている反応の生成物の個別反応を示す反応スキームを示す図である。
【
図3】実施例3及び実施例4に記載の反応、つまり、ミカファンギン側鎖の活性化及びミカファンギンペプチドコアとの反応を、本発明によるワンポット方法で実施する反応の反応スキームを示す図である。
【
図4a】実施例2に開示されている段階的プロセスの生成物のクロマトグラムを表わす図である。
【
図4b】実施例3に開示されているワンポット方法の生成物のクロマトグラムを表わす図である。
【
図4c】実施例4に開示されているワンポット方法の生成物のクロマトグラムを表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明によると、ミカファンギンは、以下の構造を含む任意の化合物又はその塩である。
【0025】
【化4】
「その塩」という表現は、ミカファンギンの調製及び/又は精製のために有用であり得るミカファンギンの任意の塩、又は医薬製剤の有効成分として有用なミカファンギンの任意の薬学的に許容される塩を包含することが意図されている。この点で、ミカファンギンの塩の非限定的なリストは、ナトリウム塩、カリウム塩、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)塩等である。
【0026】
本発明によると、ミカファンギンは、まずa)ミカファンギン側鎖をカップリング添加剤と混合し、b)その後、カップリング試薬を、工程a)の混合物に添加し、最後にc)この混合物に、塩基及び上記に示されている式IIの化合物、つまりミカファンギンペプチドコアを添加することにより、ワンポットで調製される。
【0027】
酸性形態のミカファンギン側鎖は、化学名4−[5−(4−ペンチルオキシ)フェニル]イソオキサゾール−3−イル]安息香酸を有する化合物である。ケミカルアブストラクツにより割り当てられている登録番号は179162−55−1であり、Fujisawaにより割り当てられた名称は、FR−195752である。この化合物は、本明細書ではミカファンギン側鎖とも呼ばれ、酸性形態は、式IIIにより表わすことができる。
【0028】
【化5】
ミカファンギンペプチドコアは、式IIにより表わされる。
【0029】
【化6】
用語「ミカファンギンペプチドコア」は、本明細書で使用される場合、式IIの化合物の塩も包含することが意図されている。例えば、上記の化合物のナトリウム塩は、FR−179642としても知られている(Fromtlingら、Drugs of the Future、1998年、23巻、12号、1273〜1278頁)。
【0030】
ミカファンギンでは、ミカファンギン側鎖は、アミド結合によりミカファンギンペプチドコアに結合されている。アミド結合を形成するための、すなわちカルボン酸及びアミンを反応させるための種々の方法は、従来技術に開示されており、ペプチドの合成に使用されている。ほとんどの場合、アミド結合の形成には、カップリング試薬及びカップリング添加剤を使用したカルボン酸の活性化を使用することが必要である。Madeleine M.Joullie及びKenneth M.Lassen、Arkivoc、2010年(viii)、189〜250頁、並びにEric Valeur及びMark Bradley、2009年、Chem.Soc.Rev.、38巻、606〜631頁を参照されたい。非常に単純なペプチド構造が、ワンポット法でのアミド結合形成により調製されている例も存在する。水性エタノール混合液中でペプチドを調製するための方法である、Puら、2009年、Organic Process Research&Development、13巻、321〜314頁を参照されたい。
【0031】
しかしながら、従来技術には、ミカファンギンペプチドコア等の複雑な分子のアミン基をカルボン酸とカップリングするためのワンポット法は、全く示唆されていない。
本明細書で使用される場合、用語「ミカファンギンペプチドコア」又は「ミカファンギンコア」は、上記に示されている式IIにより表わされるFR−901379からパルミトイル部分を酵素的に脱アシル化することにより生じる化合物である。Fujisawaは、ミカファンギンペプチドコアにFR−179642という名称を割り当て、ミカファンギンペプチドコアのナトリウム塩にはFR−133303という名称を割り当てた。ケミカルアブストラクツにより割り当てられているこの化合物の登録番号は、168110−44−9である。本明細書で使用される場合、ミカファンギンペプチドコアは、この化合物並びにこの化合物の塩、例えばナトリウム塩FR−133303を包含することが意図されている。
【0032】
本発明によるワンポット法の最初の工程は、ミカファンギン側鎖及びカップリング添加剤の混合である。上記のように混合した後、カップリング試薬を混合物に添加すると、ミカファンギン側鎖の活性化及び反応添加剤との反応が生じる。
【0033】
用語「カップリング添加剤」は、本明細書で使用される場合、活性化ミカファンギン側鎖の反応性を増強し、ミカファンギンペプチドコアの一級アミンとのカップリングを促進する任意の化合物を表わす。カップリング添加剤を使用する利点は、副生成物の形成が低減されることである。
【0034】
非常に多くのカップリング添加剤が存在する(Valeur及びBradleyによる、Chem.Soc.Rev.、2009年、38巻、606〜631頁を参照)。用語ヒドロキシベンゾトリアゾール類は、ヒドロキシベンゾトリアゾール、ヒドロキシアザベンゾトリアゾール類(hydroxyazabenzotriazols)、及びその置換誘導体を包含することが意図されている。例えば、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール、6−クロロ−1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等である。
【0035】
本発明の方法によると、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)及びエチル2−シアノ−2−(ヒドロキシイミノ)アセタート(Oxyma Pure(商標)、CAS番号3849−21−6、以降、Oxyma)が有用であることが示されている。上記カップリング添加剤を使用すると、不純物形成が低減され、所望のミカファンギンの収率が高くなる。
【0036】
用語「カップリング試薬」は、本発明により使用される場合、カップリング添加剤の存在下で、ミカファンギン側鎖のカルボン酸を活性化することが可能であり、それによりミカファンギンコア構造のアミンとの反応を促進する任意の化合物である。
【0037】
本発明によるカップリング試薬としては、以下の式:Ra−N=C=N−Rbにより表されるカルボジイミド誘導体を使用することができ、式中、Ra及びRbは、同じであるか又は異なっており、各々独立して脂肪族基、ヘテロ脂肪族基、炭素環基、又は複素環基であり、上記基は全て任意に置換されている。本発明の1つの態様によると、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)が、カップリング試薬として使用される。本方法の好ましい態様によると、EDCの塩酸塩が、カップリング試薬として使用される。
【0038】
カルボジイミドをカップリング試薬として使用することができることは、従来技術において公知である。例えば、Valeur及びBradley、Chem.Soc.Rev 2008年6月を参照されたい。ミカファンギン側鎖の負荷電酸素は、求核基として理想的に作用し、ジイミド基の中央炭素を攻撃するであろう。カップリング添加剤としてOxymaを使用し、カップリング試薬としてEDCを使用する本発明の方法が以下に示されている。スキーム1を参照されたい。
【0039】
ワンポット反応に好適な溶媒には、極性非プロトン有機溶媒が含まれる。好適な溶媒の非限定的なリストには、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等、及びそれらの混合物が含まれる。
【0040】
ワンポット反応に好適な塩基には、ミカファンギンペプチドコアのアミン基にプロトンを付加することができる有機又は無機塩基が含まれる。好適な塩基の非限定的リストには、DIPEA、NaHCO
3、Na
2CO
3等が含まれる。
【0041】
ミカファンギン側鎖の活性化に好適な温度は、0℃〜40℃、好ましくは20℃〜30℃である。
ミカファンギン側鎖のミカファンギンペプチドコアへのカップリングに好適な温度は、−5℃〜10℃、好ましくは0℃である。また、上記温度は、塩基を添加する前に達成されていることが好ましい。
【0042】
ワンポット法の好適な総反応時間は、約4時間〜20時間である。好ましくは、ミカファンギン側鎖の活性化には2〜4時間、活性化ミカファンギンのミカファンギンペプチドコアへのカップリングには、90分〜2時間である。
【0043】
カップリング試薬は、カップリング添加剤及びミカファンギン側鎖を混合した後に添加されることが重要である。
下記の反応スキーム1は、本発明のワンポット方法中に生じるミカファンギン側鎖の活性化及び活性化ミカファンギン側鎖のミカファンギンペプチドコアとの反応を示す。
【0044】
【化7】
ミカファンギン側鎖をミカファンギンペプチドコアにカップリングした後、その生成物をミカファンギンの塩として沈殿させてもよい。用語「ミカファンギン塩」は、この点では、任意の薬学的に活性な塩であってもよく、又はミカファンギンの更なる精製に有用な塩であってもよい。後者の場合、ミカファンギンの塩は、例えば、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)塩であってもよい。ミカファンギンの任意の薬学的に許容される塩は、本発明により調製されたミカファンギン生成物を使用して、更に調製されていてもよい。有用な薬学的に許容される塩は、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選択されていてもよい。
【0045】
本発明により調製されたミカファンギンは、任意に、当業者に周知の方法を使用して更に精製されていてもよい。本発明の1つの実施形態によると、本発明の工程c)の生成物は、ミカファンギンのDIPEA塩に変換され、その後ミカファンギンのナトリウム塩等の、ミカファンギンの薬学的に許容される塩に変換され、クロマトグラフィーにより更に精製される。
【0046】
本発明により調製されているミカファンギンは、ヒト及び動物を含む哺乳動物の感染症の治療及び予防に有用な医薬組成物の製造に使用することができる。上記医薬組成物は、当技術分野で周知の標準的技術を使用して調製することができる。この医薬組成物は、滅菌等の従来の医薬品操作に供することもできる。
【0047】
例えば、医薬組成物は、単独で又は別の有効成分と組み合わせて、薬学的に許容される賦形剤と共に、所定量の精製ミカファンギンを含む用量単位の形態に調製されていてもよい。用語「薬学的に許容される賦形剤」は、その必要性のある患者に対する、医薬組成物に含まれるミカファンギンの送達を達成又は増強するのに好適な1つ又は複数の製剤物質を指す。「薬学的に許容される賦形剤」は、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、及び緩衝剤等のアジュバントの存在により表わすこともできる。ラクトースは、特に凍結乾燥形態のミカファンギンに好適な安定剤の例である。当業者であれば、ミカファンギンのような抗真菌性化合物を含む医薬製剤の調製に利用可能な種々の医薬賦形剤を十分に認知しているであろう。本発明による組成物は、非経口投与、例えば静脈内投与を可能にするように調製することができる。
【0048】
本発明による組成物を必要とする患者に、ミカファンギンの好適な用量を投与することができる。ヒト又は哺乳動物に好適な1日用量は、患者の状態及び他の要因に応じて広く変動する場合がある。1日用量は、当業者であれば日常的な方法を使用して決定することができ、それらは、Mycamine(登録商標)を投与する場合、感染症の治療及び予防に一般的に使用される。
【0049】
当業者であれば、以下の例から、本発明の多数の利点を認識するであろう。下記の実験及び結果は、非限定的な例に過ぎないことが更に理解されるべきである。
実施例1:活性化ミカファンギン側鎖の生成
FR−195752(10.0g)及びHOBt(5.2g)(12%の水を含む)を、DMF(142ml)に懸濁し、5分間撹拌した。EDC HCl(6.6g)を懸濁物に添加した。反応混合物を25℃で4時間撹拌した。反応混合物を、426mlのアセトニトリル(ACN)に注ぎ、25℃で18時間撹拌した。白色懸濁物をろ過し、フィルタ上で2時間乾燥させた。単離収量は12.6g(95%)であり、HPLC純度は98.0%であった。
【0050】
実施例2:活性化ミカファンギン側鎖のミカファンギンペプチドコアへのカップリング
FR−179642(10.0g)を、25℃で10分間撹拌することにより乾燥DMF(200ml)に懸濁した。混合物を0℃に冷却した。ミカファンギン側鎖(4.50g)及び実施例1に記載の活性化された酸を添加し、その後DIPEA(2.25ml)を添加した。物質は全て5分後に溶解し、混合物を0℃で90分間撹拌した。メタノール(50ml)及びアセトン(100m)の混合物を添加し、温度を10℃に上昇させた。混合物を、この温度で60分間撹拌した。酢酸エチル(1000ml)を、2.5時間にわたってゆっくりと添加した。その結果生じた懸濁物を15時間撹拌し、微細な粗ガラス焼結フィルタ板を備えたAldrich社製の1000mlガラス加圧フィルタを使用した加圧ろ過により生成物を収集した。ろ過ケーキを、酢酸エチル(1500ml)で洗浄し、フィルタ上で15分間乾燥させた。25℃の減圧キャビネットで更に3時間乾燥させることにより、12.8g(86%)の白色固形物を得た。
【0051】
実施例3:ミカファンギン側鎖の活性化及びミカファンギンペプチドコアへのカップリング
FR−195752(394mg)及びHOBt水和物(197mg)を、25℃でDMF(15ml)に懸濁した。EDC HCl(166mg)を添加し、混合物を、25℃で4時間撹拌した。混合物を0℃に冷却し、DIPEA(0.223ml)を添加し、その後FR−179642(1.00g)を添加した。混合物を0℃で90分間撹拌した。メタノール(2.5ml)及びアセトン(5ml)の混合物を添加し、混合物を10℃に加熱し、60分間撹拌した。酢酸エチル(100ml)を30分間にわたって添加し、その結果生じた懸濁物を10℃で16時間撹拌した。固形生成物を、ろ過で収集し、酢酸エチル(150ml)で洗浄し、フィルタ上で15分間乾燥させた。25℃の減圧キャビネットで更に2時間乾燥させることにより、1.47g(収率98%)の白色固形物を得た。HPLC純度は96.6%であった。
【0052】
実施例4:ミカファンギン側鎖の活性化及びミカファンギンペプチドコアへのカップリング
FR−195752(2.06g)及びOxyma(834mg)を、25℃でDMF(60ml)に懸濁した。EDC HCl(1.07g)を添加し、混合物を、25℃で2時間撹拌した。反応混合物は、鮮やかな黄色溶液になった。黄色溶液を0℃に冷却し、DIPEA(1.1ml)を添加し、その後FR−179642(5.00g)を添加した。混合物を0℃で90分間撹拌した。メタノール(15ml)及びアセトン(30ml)の混合物を添加し、混合物を10℃に加熱し、60分間撹拌した。酢酸エチル(300ml)を30分間にわたって添加し、その結果生じた懸濁物を10℃で20時間撹拌した。固形生成物を、ろ過で収集し、酢酸エチル(100ml)で洗浄し、フィルタ上で15分間乾燥させた。25℃の減圧キャビネットで更に2時間乾燥させることにより、6.68g(収率90%)の白色に近い固形物を得た。
【0053】
実施例5:実施例2〜4のクロマトグラムの比較
実施例2〜4の粗生成物のHPLCクロマトグラムを、HPLC(逆相クロマトグラフィー)により分析した。表1は、3つの異なる方法を比較するHPLCクロマトグラムの結果を示す(
図4a〜4cを参照)。実施例2は、段階的プロセスであり、実施例3及び4は、それぞれHOBt及びOxymaをカップリング添加剤として使用したワンポット法である。Oxymaは、粗生成物のクロマトグラムには存在しない。反応混合物では、Oxymaは、8.5分に出現する。
【0054】
【表1】
方法3及び4は、より少ない溶媒が使用されているため、より効率的であり、活性化された酸の分離が回避されるため、反応時間が低減される。ワンポット法における重量比での収率は、顕著に優れており、従来技術の方法の場合には82%に過ぎなかったのと比較して、実施例3及び4では、それぞれ98%及び95%である。これらの例から明らかなように、本出願によるワンポット法は、段階的な従来技術の方法と同様に純粋なミカファンギンの生産を可能にするが、
図4a〜cに示されているように、収率はより良好であり、粗生成物の純度は、ほぼ同じである。