(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
鉄道車両構体は、床面を形成する台枠と、この台枠の車体幅方向の両端部に台枠に設置されると共に車体の側面を形成する側構体と、台枠の車体長手方向の両端部に設置される妻構体と、側構体および妻構体の上端部に配置されると共に車体の屋根を形成する屋根構体とから構成されている。
この台枠には、台枠の長手方向の両端部に台枠の幅方向に沿って設けられている端梁と、端梁から台枠の長手方向の中央部よりに端梁に沿う方向に設置される枕梁と、枕梁と端梁とを接続する態様で備えられる中梁と、台枠の幅方向の端部に備えられる側梁と、から構成される。台車からの駆動力や制動力が作用する枕梁や、連結器を介して牽引力や制動力などが作用する中梁等から構成される台枠は、高い剛性と強度とを備える。
【0003】
例えば、複数の鉄道車両が編成された編成車両が線路上に置かれた大きくて重たい障害物に衝突した場合、まず、編成車両の先頭車が障害物に衝突して、次に、編成車両をなす各車両の長手方向の端部同士が衝突する。鉄道車両の台枠は、上記のとおり強固な剛性を備えているため、衝突した場合に塑性変形しにくい。このため、隣接する鉄道車両同士が衝突した際に、台枠が大きく塑性変形しないで、乗員および乗客の生存空間を確保して安全を維持する機能を備えるが、衝突エネルギを吸収して乗員および
乗客等へ作用する衝撃を緩和する十分な備えを有していない。
【0004】
こうした衝突に伴う衝撃を緩和するため、押出加工によって製作された2枚の面板とこれら面板を接続するリブとから構成されるエネルギ吸収部材、および前記エネルギ吸収部材の押出方向を車両の長手方向に沿う方向に配置して台枠の長手方向の端部に備えられた衝撃吸収構造が提案されている(特許文献1)。
一方、鉄道車両構体の端部に沿ってエネルギ吸収部材を設置する衝撃吸収構造が提案されている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の衝撃吸収構造においては、衝撃吸収構造を設置するための空間を、乗員および乗客のための空間(以後、「客車スペース」と呼ぶ)とは別に設けることが必要となり、客車スペースや車両の設計自由度が制限を受ける場合がある。
【0007】
特許文献1に係る技術では、エネルギ吸収部材が車両長手方向に沿って線(棒)状に配置されている。そのため、衝突緩和性能を向上するためにはエネルギ吸収部材を長くする必要があるが、一定以上の長さのエネルギ吸収部材を使用した場合、エネルギ吸収時にエネルギ吸収部材の全体座屈が発生する虞がある。したがって、特許文献1に係る技術では、特に全体座屈が生じた場合には所定のエネルギを吸収することが困難となることがある。
【0008】
また、特許文献1に係る技術では、ある長さのエネルギ吸収部材を用いて所定のエネルギを吸収するには、エネルギ吸収部材の断面積を大きくする必要がある。そのため、エネルギ吸収部材が圧潰を開始するときのピーク荷重が高くなりやすく、ピーク荷重が大きくなりすぎる場合には、衝突に伴う衝撃を十分に緩和することができず、衝撃によって客車スペースに損傷が発生する場合がある。
【0009】
さらに、特許文献1に係る技術では、衝撃吸収構造を設置するために、車両長手方向に非常に大きな空間が必要となる場合がある。
【0010】
特許文献2に係る技術では、例えば、台枠の長手方向の端部に配設された衝撃緩和構造(熱処理等によって機械的性質を軟質に変更して衝撃時に圧潰する部材)と、台枠の長手方向の中央部に配設される剛性の高い構造部材(客車スペース)と、を準備し、これらを接続して一体の台枠を構成している。側構体、屋根構体も台枠と同様に構成されている。このため、台枠、側構体および屋根構体の各部を製作する際には、熱処理等によって圧潰しやすい機械的性質を備える衝撃緩和構造を製作する工程に加えて、衝撃緩和構造と剛性の高い構造部材(客車スペース)とを溶接等で接続する工程が生じるため、製作コストが大きくなる懸念がある。
【0011】
そこで、衝撃吸収構造、あるいはそれを備えた鉄道車両構体において、エネルギ吸収部材の全体座屈を防止して効率的に衝撃を吸収することと衝撃のピーク荷重が大きくならない衝撃吸収構造を設置すること、さらに、衝撃緩和構造を備える際の工程に係る製作コストの増大を抑制する点において解決すべき課題がある。
【0012】
本発明の目的は、かかる従来技術の事情を鑑みてなされたものであり、衝撃吸収構造の設置に必要な空間を小さくすることができ、客車スペースを構成する部材での損傷発生を抑制することができ、全体座屈およびピーク荷重の増大を抑制でき、さらに製作コストを大きくすることのない信頼性の高い衝撃吸収構造、およびこのような衝撃吸収構造を備えた鉄道車両構体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、床面をなす台枠と、前記台枠の幅方向の両端部に立設される側構体と、前記台枠の長手方向の両端部に立設される妻構体と、前記側構体および前記妻構体の上端部に配設される屋根構体と、からなる鉄道車両構体において、前記側構体と前記屋根構体と前記台枠との長手方向の端部と、前記妻構体の周縁部と、の間に挟まれる態様で備えられるとともに衝突時に圧潰して衝突エネルギを吸収する衝撃吸収構造と、を備えることを特徴とする衝撃吸収構造を備えた鉄道車両構体によって達成される。
【0014】
さらに、上記目的は、側構体および屋根構体および台枠とから構成される鉄道車両構体の長手方向の端部に環状に備えられる端部枠と前記端部枠と前記鉄道車両構体の長手方向の端部に取り付けられる妻構体の周縁部との間に挟まれる態様で備えられるエネルギ吸収部材と、
から構成される衝撃吸収構造であって、前記端部枠は、前記側構体の長手方向に沿う態様で配設される側板と、前記妻構体に沿う態様で備えられる底板と、から構成されるL型断面を有しており、前記エネルギ吸収部材は、前記側板と前記底板に当接される態様で、前記端部枠に沿って離散的に備えられており、鉄道車両が障害物と衝突したときに前記エネルギ吸収部材が圧潰することによって衝突エネルギを吸収することを特徴とする衝撃吸収構造によって達成できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明である衝撃吸収構造およびそれを備えた鉄道車両構体によれば、側構体および屋根構体および台枠と、妻構体と、の間の従来利用されていないスペースを、衝撃吸収構造の設置場所として利用しているため、衝撃吸収構造の設置に必要な空間を小さくすることができ、客車スペースを構成する部材での損傷発生を抑制することができ、全体座屈およびピーク荷重の増大を抑制でき、さらに製作コストを大きくすることのない信頼性の高い衝撃吸収構造、およびこのような衝撃吸収構造を備えた鉄道車両構体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明による側構体と妻構体との間に衝撃吸収構造を備える鉄道車両構体の一例を説明する。
【0018】
図1は鉄道車両構体の例を示した模式図である。鉄道車両構体1は、床面を形成する台枠2、屋根を形成する屋根構体3、台枠2と屋根構体3とを連結し車両長手方向に対して左右の面を形成する側構体4(一方のみを図示)、車両長手方向において台枠2、屋根構体3および側構体4で囲まれて成る車両両端を閉鎖する面を形成する妻構体5(一方のみを図示)から形成されている。側構体4には、窓や出入口の開口が形成されている。
図2は、
図1に示した鉄道車両構体1の妻構体の正面図である。妻構体5の中央部には、隣り合う車両間で乗員・乗客が車両間を移動するための貫通路への出入口となる通路口としての開口部6が設けられている。妻構体5の周縁部には後述する端部枠50が配設されており、妻構体5は端部枠50を介して側構体4、屋根構体3、台枠2と接続される。
【実施例1】
【0019】
図3は、
図2のB部の拡大図であり実施例1の衝撃吸収構造において、側構体と妻構体との接続部に備えられる端部枠を説明する斜視図である。本発明に係る端部枠50は、底板102および側板104からなるL形断面を有す
る部材からなる。端部枠50は、鉄道車両構体1の長手方向の端部の全周、つまり、側構体3と屋根構体4と台枠2の長手方向の端部に、端部枠50をなす底板102が接続される態様で備えられる。
側板104の車外側の面は屋根構体3および側構体4の車外側の面とほぼ同一面に配設されており、端部枠50をなす底板102は妻構体5の車内側の面に略平行に配設されるとともに、妻構体5の車内側の面から鉄道車両構体1の長手方向に側板104の幅寸法104A(
図3参照)だけ鉄道車両構体1の長手方向中央部よりの位置に配設されている。L型断面を有す
る端部枠50は、底板102と側板104とを接合して製作しても良いし、底板102と側板104とを一体に押出成型した形材であっても良い。
【0020】
衝撃吸収構造10は、塑性変形することによって衝撃(衝突)エネルギを吸収するエネルギ吸収部材110Aを、端部枠50をなす底板102および側板104の両者に沿う態様で(以下、端部枠50の内側と記す)に、隣り合うエネルギ吸収部材110A,110A間に潰れ代130を設けるように、端部枠50の長手方向に対して離散的に配置した構造を特徴としている。衝撃吸収構造10を構成するエネルギ吸収部材110Aは、圧潰荷重によって潰れる際に圧潰方向に対して交差する方向に膨らむように変形するため、隣り合うエネルギ吸収部材110A同士が干渉して圧潰が阻害されないように、隣り合うエネルギ吸収部材110Aに潰れ代130(間隔)を設けている。
【0021】
上記端部枠50は、
図2に示した鉄道車両構体1をなす妻構体5の周縁部に沿って一巡するように配置され、枠体を形成している。
【0022】
図3に示すように、衝撃吸収構造10をなすエネルギ吸収部材110Aは、ボルト等からなる締結部品120によって妻構体5に固定される。
【0023】
図4は、妻構体に固定される衝撃吸収構造であり、
図2のB部拡大図におけるC−C断面図である。端部枠50の底板102と側構体4との両方に接続する補強8が、側構体4の高さ方向に離散的に備えられる。同様に、端部枠50をなす底板102と屋根構体3(台枠2)との双方に接続する補強8が、水平方向に離散的に備えられる。これら補強8は、隣接する鉄道車両の妻構体5同士が衝突した時に、端部
枠50が側構体3(屋根構体4、台枠2)から分離することなく、エネルギ吸収部材
110Aを介して端部
枠50に伝達される衝撃力を受けとめ、エネルギ吸収部材
110Aの圧潰を促進することができる十分な強度を備える。さらに、6面体からなる鉄道車両構体1を組み立てる際に、台枠2と側構体3と屋根構体4とからなる筒体を製作した後に、エネルギ吸収
部材110Aを介して妻構体5を接続する場合、筒体の長手方向の端部に端部
枠50が環状に備えられるので剛性が高く、容易に妻構体5を備えることができる効果も奏する。なお、後述する実施例においても、補強8は備えられており、補強8が備えられる形態や効果も本実施例と同様である。
締結部品120は、端部枠50をなす底板102およびエネルギ吸収部材110Aを貫通し、妻構体5に係合している。端部枠50をなす底板102およびエネルギ吸収部材110Aを構成する面板の中で圧潰方向(締結部品120の長手方向)に垂直な面板には、締結部品120が貫通するための孔が設けられている。この孔の内径は、締結
部品120の外径より大きく設定されている。
【0024】
エネルギ吸収部材110Aのエネルギ吸収挙動は圧潰方向に平行な面板の変形挙動によって決定されるため、締結部品120が貫通する孔(締結部品120とねじ係合をしてはいない)はエネルギ吸収挙動に対して殆ど影響を及ぼさない。また、締結部品120には、端部枠50と妻構体5が離れる方向に力が作用する場合では、締結部品120の頭部の作用によって前記力に対する抗力(端部枠50と妻構体5が離れないように引っ張る力)が発生するが、端部枠50と妻構体5が押し合う方向に力が作用する場合では抗力が発生しない。
【0025】
すなわち、隣接する車両同士が衝突して妻構体5に衝撃荷重が作用してエネルギ吸収部材110Aを圧潰する際に、締結部品120には当該圧縮荷重に対する抗力は発生しないので、エネルギ吸収部材110Aは圧潰する過程で衝突エネルギを吸収することができる。
【0026】
エネルギ吸収部材110Aの断面形状は、面板とこれら面板とを接続するリブ(面板)で形成されるものを図示しているが、圧潰方向に平行な面が変形するものであればその断面形状は任意である。また、エネルギ吸収部材110Aを押し出し成形によって製作する場合、その押し出し方向を圧潰方向に沿う方向としてもよいし、圧潰方向に交差する方向としてもよい。なお、
図4は、鉄道車両構体1の長手方向の中心線に対して、一方の側(左側)の側構体4と妻構体5との接続部に配設された端部枠50の断面を示している。
【0027】
図5に、
図4に示した衝撃吸収構造10が衝突エネルギを吸収する過程を示す。
図5に示すように、鉄道車両の衝突時に、車両間で対向する妻構体5の面A同士が衝突して、妻構体5がエネルギ吸収部材110Aを端部枠50の内側(鉄道車両の長手方向)に押し込む。この過程で、エネルギ吸収部材110Aが圧潰することによって衝突エネルギが吸収される。つまり、妻構体5の周縁部が端部枠50をなす側板104に案内される態様で、妻構体5と底板102との間に配設されるエネルギ吸収部材110Aを圧潰するので、エネルギ吸収部材110Aが確実に衝突エネルギを吸収することができる。
【0028】
エネルギ吸収部材110Aが妻構体5の周縁部に枠体をなす態様で備えられる端部
枠50に平面状、且つ、離散的に配置されている。このため、エネルギ吸収部材110Aが鉄道車両構体1の台枠2の長手方向の端部に鉄道車両構体1の長手方向に沿って直線状(棒状)に配置されている場合とは異なり、エネルギ吸収部材110Aが全体座屈して所定の衝突エネルギが吸収できない事象が発生することを抑制でき、所定の衝突エネルギを吸収することができる。すなわち、圧潰方向に対して長さが短い複数のエネルギ吸収部材110Aが車端部の周縁に沿って環状に配置されているので、エネルギ吸収部材110Aには全体座屈が発生しにくいという特徴がある。環状に多くのエネルギ吸収部材110Aを配置できるので、衝突エネルギを十分に吸収することができる。
【実施例2】
【0029】
図6は、実施例2の衝撃吸収構造を説明する図である。実施例2に係る衝撃吸収構造の端部枠50は、
図6に示すように実施例1の
図3と同様に1枚の底板102および1枚の側板104で形成されるL形断面を有す端部枠50に、エネルギ吸収部材110Aを、潰れ代130を設けるように前記形材の長手方向に対して離散的に配置した構造を特徴としている。
【0030】
さらに
図6ではエネルギ吸収部材110Aの厚さ寸法(圧潰方向に沿う寸法)を様々に設定することによって、エネルギ吸収時に厚さ寸法が大きいエネルギ吸収部材(
図6に示した例では上側の部材110A)が先に妻構体5によって圧縮されて塑性変形し、引き続いて厚さ寸法の小さいエネルギ吸収部材(
図6に示した例では下側の部材110A)が妻構体5によって圧縮されて塑性変形する。
【0031】
図7は、実施例2の衝撃吸収構造において、衝突時の荷重履歴を説明する模式図である。
図6に示す構造によって、従来の衝撃吸収構造が示す荷重−変位線(実線)と比較して、本発明の衝撃吸収構造の荷重−変位線(破線)が示すように、エネルギ吸収部材の変形時の初期ピーク荷重を大きく低減することが可能となる。
【実施例3】
【0032】
図8および
図9は、実施例3の衝撃吸収構造において、妻構体と端部枠との接合構造を説明する断面図である。衝撃吸収構造10は、端部枠50もしくは妻構体5に、エネルギ吸収部材110Aの圧潰方向にガイド140A,140Bを設けた構造である。ガイド140Aは、端部枠50を構成する底板102に鉄道車両構体1の長手方向に沿う方向に、エネルギ吸収部材110Aおよび妻構体5を貫通する態様で備えられる。同様に、ガイド140Bは妻構体5に、エネルギ吸収部材110Aおよび底板102(端部枠50の一部)を貫通する態様で備えられる。ガイド140A、140Bは妻構体5の周縁部に沿って、底板102または妻構体5に離散的に備えられる。
ガイド140A、140Bを設置することにより、特に、曲線を走行する鉄道車両の妻構体5同士が衝突する際に、エネルギ吸収部材110Aの圧潰過程において、妻構体5、端部枠50およびエネルギ吸収部材110Aの接合面が鉄道車両の長手方向に交差する方向(幅方向、高さ方向)にずれることを抑制できるので、ガイド140A、140Bに沿って底板102または妻構体5が確実にエネルギ吸収部材110Aを圧潰するので衝突エネルギを吸収することが可能となる。さらに、妻構体5と端部枠50を接合する際に、予めエネルギ吸収部材110Aをガイド140A,140Bに取り付けておくことにより、エネルギ吸収部材110Aの位置合わせが容易になるという利点を持つ。
【0033】
なお、
図8および
図9に示す構造では、妻構体5もしくは端部枠50、およびエネルギ吸収部材110Aを構成する面板の中で、圧潰方向に対して交差する面板にはガイド140A,140Bを通すための孔を設ける必要があるが、締結部品120を通すための貫通孔と同様に、エネルギ吸収挙動に殆ど影響を及ぼさない。また、ガイド140A,140Bは、締結部品120と同様にエネルギ吸収部材110Aによる衝突エネルギの吸収を阻害しない。
【実施例4】
【0034】
図10は、実施例4の衝撃吸収構造において、妻構体と端部枠との接合構造を説明する断面図である。衝撃吸収構造10は、その断面形状に示すように、妻構体5の周縁部から側構体4の方向に、鉄道車両構体1の長手方向に沿う態様で延伸する延伸部5bと、この延伸部5bに連続する態様で側構体4の反対の方向に突出する突出部5aとを備えている。
エネルギ吸収部材110Aは、妻構体5の面Bと延伸部5bとの双方に沿う部位に設置されている。妻構体5の周縁部に延伸部5bを備えるとともに、この部位にエネルギ吸収部材110Aを備えることによって、台枠2、側構体3および屋根構体4に備えられる端部枠50はL型断面を備える必要が無くなる。このため、これら台枠2と側構体3、あるいは、側構体3と屋根構体4など複数の構体等に跨る接続部において、L型断面を有す端部枠50を環状に配設するためのすり合わせ作業(連続した環状に配置するための合わせ作業)を省略することができるので、鉄道車両構体1の製作に係る製作工数を小さくすることができる。
【0035】
さらに、妻構体5の周縁部の一方の面から突出する態様で延伸部5bを備えるとともに他方の面から突出する態様で延伸部5aが備えられるので、妻構体5の周縁部の剛性を高くすることができる。このため、直線走行時はもとより曲線走行時に隣接する鉄道車両の妻構体5同士が衝突する場合であっても、妻構体5の剛性が高いので、妻構体5の延伸部5bが端部枠50に案内されて移動する過程でエネルギ吸収部材110Aを確実に圧潰することができる。また、妻構体5の面より突出する突出部5aを備えることにより、妻構体5同士が衝突した際に、一方の鉄道車両構体1の妻構体5に備えられる突出部5aが、他方の鉄道車両構体1の妻構体に備えられる突出部5aに衝突するので、突出部5aの近傍に配設されるエネルギ吸収部材110Aの圧潰が促進されて、衝突エネルギを効率的に吸収することができる。
【0036】
なお、
図10に示す構造では、車両構体端部の周囲に沿って妻構体5に設けられた突出部5aが、通常走行時における妻構体の剛性の向上や車両製作時における位置決めの容易化といった利点を有する。
【実施例5】
【0037】
図11は、実施例5の衝撃吸収構造において、妻構体と端部枠との接合構造を説明する断面図である。衝撃吸収構造10をなす端部枠50は、側構体4の車外側の面とほぼ同一面をなす態様で配設される側板104と、側板104の側構体4の近傍に接続するとともに妻構体5に沿う態様で備えられる底板102と、から構成されており、略L字型の長手方向の垂直断面形状を有す。
エネルギ吸収部材110Aの寸法L2(
図11参照)を、側板104の鉄道車両構体1の長手方向に沿う寸法L1より小さく設定するとともに、側板104の鉄道車両構体1の中心部よりの面に沿う態様で妻構体5を備える。妻構体5は、L1寸法とL2寸法との差であるΔ寸法だけ、鉄道車両構体1の長手方向の中央部寄りに備えられるとともに、妻構体5の端面5aが側板104に重なる態様で備えられる。
【0038】
端部
枠50の側板104が、妻構体5の端面5aに重なる態様で備えられることにより、鉄道車両が曲線を走行中に生じる衝突であって妻構体5と端部枠50の間で締結部品120にせん断力(鉄道車両構体1の幅方向(高さ方向)、あるいは、枕木方向の力)が作用する場合においても、妻構体5が側板104に初期貫入量Δ寸法の領域で重なって案内されるので、妻構体5とエネルギ吸収部材110Aの当接面がずれることがなく、確実にエネルギ吸収部材110が圧潰されて効率よく衝突エネルギを吸収することが可能となる。
【実施例6】
【0039】
図12は、実施例6の衝撃吸収構造において、妻構体と端部枠との接合構造を説明する断面図である。衝撃吸収構造10は、その断面形状に示すように、締結部品120がエネルギ吸収部材110Aを貫通することなく、エネルギ吸収部材110Aと端部枠50の底板102とを接合すると共に、エネルギ吸収部材110Aと妻構体5とを締結部品120で締結した構造である。
【0040】
エネルギ吸収部材110Aを妻構体5と端部枠50の各々と接合することにより、実施例1から実施例5の衝撃吸収構造よりも、締結部品120の締結力を増加させることができるため、当該衝撃吸収構造を備えた車端部は、実施例1から実施例5の衝撃吸収構造を備えた車端部よりも信頼性の高い構造となる。本構造であれば、衝突時に、エネルギ吸収部材110の圧潰を促進できると共に、衝突エネルギを効率よく吸収することができる。
【実施例7】
【0041】
図13は、実施例7の衝撃吸収構造において、妻構体と端部枠との接合構造を説明する断面図である。衝撃吸収構造10は、その断面形状に示すように、締結部品120の頭部を妻構体に設けられた溝150の内側に配置した状態で、妻構体5と端部枠50を接合した構造である。溝150を備えた妻構体5は、押出加工等を用いて容易に作製できるため、実施例1〜6に記載の衝撃吸収構造と比較して妻構体の加工工数を削減することが可能となり、さらに、衝突時にエネルギ吸収部材110Aの圧潰を促進できると共に、衝突エネルギを効率よく吸収することができる。なお、
図13は妻構体に設けた溝を示しているが、端部枠に溝を設けてもよい。
【実施例8】
【0042】
図14は、実施例8の鉄道車両構体の例を示した模式図であり、
図15は
図14に示した鉄道車両構体を車端側から車両長手方向に見た模式図である。
実施例8として示す実施形態は、上記実施例1から実施例7のいずれかに記載の衝撃吸収構造を、鉄道車両構体1の長手方向の車端部に設置した実施形態である。エネルギ吸収部材110Aは、側構体4の車外側とほぼ同じ同一面に備えられる側板104に覆われるため、外観の意匠性を損ねることはない。これにより、端部枠50が車両構体端部を構成する機能と衝突エネルギを吸収する機能とを併せ持つことができ、衝撃吸収構造を省スペース化することができるため、客車スペースを増加させることや車両の設計自由度を高めることが可能となる。
【0043】
上記実施例8に示す鉄道車両構体1においては、端部枠50に沿って配置するエネルギ吸収部材110Aの数と位置を調整することにより、鉄道車両構体1の中で剛性や強度の低い構体を構成する部材での損傷の発生を防止しながら、十分な衝突エネルギを吸収することが可能となる。
【0044】
例えば
図14において、台枠2や側構体4が屋根構体3よりも強度や剛性が高い場合には、
図15に示すように、鉄道車両構体1の上側よりも、鉄道車両構体1の下側に多くのエネルギ吸収部材110Aを配置する。鉄道車両構体1の下部にエネルギ吸収部材110Aを高い密度で配置することにより、屋根構体3よりも台枠2や側構体4に高い荷重が作用する状態で衝突エネルギを吸収することができるため、屋根構体3を構成する部材での損傷の発生を防止しながら十分な衝突エネルギを吸収することが可能となる。
【実施例9】
【0045】
図16は、実施例9の鉄道車両構体の例を示した模式図である。実施例8に記載の鉄道車両構体1の妻構体5の中央部に設けられた通路口6において、通路口6の周縁を形成する通路口枠60と幌枠70とを車両長手方向にエネルギ吸収部材110Bを介して接合した衝撃吸収構造を配置した実施形態である。
鉄道車両構体1の妻構体5と側構体4との接続部に備えられる端部枠50に配設されるエネルギ吸収部材110Aは、実施例1から実施例8で説明した態様で備えられている。
【0046】
上記実施例9に示す鉄道車両構体1においては、鉄道車両構体1が障害物と衝突したときには、先に通路口枠60に配置されたエネルギ吸収部材110Bが幌枠によって圧縮されて塑性変形し、引き続いて端部枠50に配置されたエネルギ吸収部材110Aが妻構体によって圧縮されて塑性変形する。その結果、実施例8に記載の鉄道車両構体1よりもエネルギ吸収部材の変形時の初期ピーク荷重を低減すると同時に、より多くの衝突エネルギを吸収することが可能となる。
【実施例10】
【0047】
図17は、実施例10の鉄道車両構体の例を示した模式図である。実施例10として示す実施形態は、実施例8に記載の鉄道車両構体において、車端部から車両長手方向の車両中央側に、台枠2に取り付けられたエネルギ吸収部材110Cを含むクラッシャブルゾーン90を配置した実施形態である。クラッシャブルゾーン90は、鉄道車両構体1よりも剛性や強度の低い部材で構成される。鉄道車両構体1の妻構体5と側構体4との接続部に備えられる端部枠50に配設されるエネルギ吸収部材110Aは、実施例1から実施例8で説明した態様で備えられている。
【0048】
上記実施例10に示す鉄道車両構体1においては、鉄道車両構体1が障害物と衝突したときには、先に端部枠50に配置されたエネルギ吸収部材110Aが妻構体に圧縮されて塑性変形し、引き続いて台枠に取り付けられたエネルギ吸収部材110Cを含むクラッシャブルゾーン90が塑性変形する。
【0049】
その結果、実施例8に記載の鉄道車両よりも多くの衝突エネルギを吸収することが可能となると同時に、軽微な衝突の際にはクラッシャブルゾーン90を変形させることなく衝突エネルギを吸収することが可能となる。
また、軽微な衝突の場合であって、エネルギ吸収部材110Aのみが圧潰し、クラッシャブルゾーン90が圧潰しない場合、小さい費用でエネルギ吸収部材110Aのみを交換すれば済むものである。
【実施例11】
【0050】
図18は、実施例11の鉄道車両構体の例を示した模式図である。実施例11として示す実施形態は、実施例9ならびに実施例10に記載の鉄道車両の車端部を組み合わせた実施形態である。すなわち、車端部から車両長手方向の車内中央側に向かって、通路口枠60と幌枠70とをエネルギ吸収部材110Bを介して接合することによって形成される衝撃吸収構造と、端部枠50と妻構体5とをエネルギ吸収部材110Aを介して接合することによって形成される衝撃吸収構造と、台枠2に取り付けられたエネルギ吸収部材110Cを含むクラッシャブルゾーン90とを配置した実施形態である。
【0051】
上記実施例11に示す鉄道車両においては、鉄道車両が障害物と衝突したときには、通路口枠60に設置されたエネルギ吸収部材110B、端部枠50に設置されたエネルギ吸収部材110Aおよび台枠2に設置されたエネルギ吸収部材110Cが順次塑性変形することによって、衝突エネルギを吸収することが可能となる。
【0052】
図19は、実施例11の衝撃吸収構造において、衝突時の荷重履歴を説明する模式図である。エネルギ吸収部材の変形時の初期ピーク荷重を低減することが可能となる。同時に、圧潰量に応じて変形する箇所が限定されるため、例えば軽微な衝突に対しては、通路口枠60や端部枠50に取り付けられたエネルギ吸収部材110Aのみが変形し、保守の際は当該箇所のエネルギ吸収部材と締結部材のみを交換すれば良い。
【0053】
上記の各実施例では、エネルギ吸収部材の内側の空間には他の部材が入っていないが、エネルギを吸収する部材を配置してもよい。例えば、発泡アルミニウムやハニカムパネルなどを配置すると、さらなるエネルギ吸収量の増加を実現できる。
【0054】
上記に記載された端部枠は、押出加工によって作製できるので、製作が容易である、信頼性が高いといった利点を持つ。
【0055】
上記に記載された衝撃吸収構造は、軽微な衝突に対しては、エネルギ吸収部材と締結部品のみを交換すれば良いため、保守が容易であるという利点を持つ。
【0056】
上記に記載された衝撃吸収構造は、鉄道車両構体を構成する部材の中で、側構体および屋根構体および台枠の端部もしくは妻構体の周縁を形成する枠部材の形状を変更することによって実施できるため、鉄道車両構体に特別大きな改造をする必要がないという利点を持つ。
【0057】
本発明に係る衝撃吸収構造は、鉄道車両に限らず、複数の車両が連結された運用に供される新交通システム、モノレールなどにも適用できる。