【文献】
Roudaut, Hermine; Traiffort, Elisabeth; Gorojankina, Tatiana; Vincent, Ludwig; Faure, Helene; Schoenfelder, Angele; Mann, Andre; Manetti, Fabrizio; Solinas, Antonio; Taddei, Maurizio; Ruat, Martial,Identification and mechanism of action of the acylguanidine MRT-83, a novel potent smoothened antagonist,Molecular Pharmacology,2011年,79(3),453-460
【文献】
Manetti, Fabrizio; Faure, Helene; Roudaut, Hermine; Gorojankina, Tatiana; Traiffort, Elisabeth; Schoenfelder, Angele; Mann, Andre; Solinas, Antonio; Taddei, Maurizio; Ruat, Martial,Virtual screening-based discovery and mechanistic characterization of the acylthiourea MRT-10 family as smoothened antagonists,Molecular Pharmacology,2010年,78(4),658-665
【文献】
Solinas, Antonio; Faure, Helene; Roudaut, Hermine; Traiffort, Elisabeth; Schoenfelder, Angele; Mann, Andre; Manetti, Fabrizio; Taddei, Maurizio; Ruat, Martial,Acylthiourea, acylurea, and acylguanidine derivatives with potent hedgehog inhibiting activity,Journal of Medicinal Chemistry ,2012年,55(4),1559-1571
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の過剰活性化に関連する腫瘍が、神経組織腫瘍(髄芽腫、原発性神経外胚葉性腫瘍、膠芽腫、髄膜腫および乏突起神経膠腫)、皮膚腫瘍(基底細胞癌腫、毛包上皮腫)、筋肉および骨組織の腫瘍(横紋筋肉腫、骨肉腫)またはその他の組織(腎臓、膀胱、前立腺、肺、胃、膵臓)の腫瘍であることを特徴とする、請求項8記載の式(I)の化合物。
神経変性型の障害がパーキンソン病、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、多発性硬化症または運動ニューロン疾患であることを特徴とする、請求項10に記載の式(I)の化合物。
脳発達に関連する疾患(全前脳症)の治療、脳血管発作および心血管発作ならびに乏突起神経膠細胞およびシュワン細胞の疾患の治療のための医薬品としての適用のための、請求項7に記載の式(I)の化合物。
活性物質として請求項1〜6のいずれか1つに記載の式(I)の少なくとも1つの化合物および少なくとも1つの医薬的に許容な賦形剤を含むことを特徴とする医薬組成物。
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)の新規な化合物、医薬としてのそれらの使用、特にヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の過剰活性化に関連する腫瘍を治療するため、神経変性型の障害を治療するため、脳の発達と関連がある疾患(全前脳症)のための医薬としてのそれらの使用、幹細胞の制御、脳血管発作および心血管発作ならびに乏突起神経膠細胞およびシュヴァン細胞の疾患の治療、ヒトまたは動物の幹細胞の再生を調節するためのインビトロでのそれらの適用、ならびに糖尿病の治療のための医薬としてのそれらの使用に関する。
【0002】
本発明はまた、活性成分として式(I)の少なくとも1つの化合物を含む医薬組成物にも関する。式(I)の化合物を放射性同位体でラベル化する方法、ラベル化された化合物および研究ツールとしてのそれらの使用もまた、本発明の一部を形成する。最後に、本発明はまた、Smoothened受容体のSmo結合部位のリガンドをスクリーニングおよび/または同定する方法、Smoothened受容体のアゴニストおよびアンタゴニストを同定する方法、ならびにSmoothened受容体を発現する腫瘍細胞のような細胞を同定する方法にも関する。
【0003】
ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達分子は、ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路を活性化する分泌自己タンパク分解性タンパク質である。このシグナル伝達経路は、多くの組織の形態形成、特に外胚葉および胚軸の形成、脳および毛包の発生や、細胞増殖において基本的な役割を演じ、おそらく、成人における組織の維持および修復に関与する(Inghamら, Genes Dev., 2001, 15, 3059-3087; Martiら, Trends Neurosci., 2002, 25, 89-96; Weschlerら, Annu. Rev. Neurosci., 2001, 24, 385-428)。
【0004】
ショウジョウバエで最初に証明されたヘッジホッグタンパク質および関連する伝達経路は、脊椎動物および無脊椎動物において保存されている。Hhの単一のホモログがショウジョウバエにおいて存在するが、Hhの3つのホモログであるソニック(Sonic) (Shh)、インディアン(Indian) (Ihh)およびデザート(Desert) (Dhh)が、哺乳動物においては存在する。これらの3つのホモログのうち、Shhは、発生中のその広範な発現プロファイルにより、最も広く研究されている。Shhは、腹側正中線に沿って幾つかの型のニューロン(脊髄運動ニューロン、ドパミン作動性またはコリン作動性ニューロン)の初期の表現型を特定すること、および腹側脊髄から乏突起神経膠細胞前駆体の生成を誘導することにより、神経管の腹側化に加担する。さらに、Shhは、GABA作動性およびドパミン作動性ニューロンの生存を誘導し、セロトニン作動性前駆体の運命を方向付け、毒素MPPにより引き起こされるドパミン作動性ニューロンの死を妨ぐ。最後に、それは、出生後初期の小脳における顆粒細胞前駆体の増殖を誘導する。ヘッジホッグファミリーのその他のメンバーは、それぞれ、骨組織(Ihh)、精巣および末梢神経(Dhh)の発生に加担する。さらに、Shhを用いて得られる結果は、DhhおよびIhhにもあてはめることができる。
【0005】
Shhは、そのタンパク質がそのC-末端部分に存在する酵素活性によって開裂される間に、一連の翻訳後の修飾を受ける前駆体の形で合成される。この自己タンパク分解は、活性な断片を示すC-末端断片(ShhC)およびN-末端断片(ShhN)を生じる。この反応の間に、ShhNのC-末端部分にコレステロール分子の付加も観察され、それがShhNの膜への定着を促進する。最後に、アセチルトランスフェラーゼは、N-末端側終端近くのシステイン残基上へのパルミテート分子の付加を可能にする。これらの事象が、生物学的に活性なShhタンパク質を生み出す。そのタンパク質の分泌は、タンパク質Dispatched(Disp)に依存し、その2つのイソフォーム、Disp 1および2が哺乳動物に存在する(Heretschら, 2010, Bioorg. Med. Chem. Lett. 18: 6613-6624)。
【0006】
可溶性ShhN断片は、2つの膜貫通タンパク質:Gタンパク質と共役した受容体のスーパーファミリのメンバーと同種の、Patched(Ptc)、トランスポータ型の構造を有する12回膜貫通領域を持ったタンパク質およびSmoothened(Smo)、7回膜貫通領域を持ったタンパク質を含む複合体によりその作用を伝達する。哺乳動物においては、Patchedの第2の型:Ptc2がある。
【0007】
そのリガンドShhの非存在下、PtcはSmoを阻害する。次いで、タンパク質Suppressor of Fused(SuFu)およびタンパク質PKAを含む非常に多くの因子に影響を与える細胞内カスケードが誘発される。SuFuはShhシグナル伝達経路の負の調節因子であり、それはGliファミリーの3つの転写因子と結合し、それらの活性を調節する。さらに、SuFuの欠失はその経路の活性化をもたらす。次いで、Gliファミリーの転写因子はリン酸化され、ユビキチン化され、次いでプロテアソームによってそれらの負の型(GliR)に開裂され、GliRは核内に入り込み、転写を不活性にする。ShhがPtcに結合すると、後者がSmoに与える阻害は、Gli転写因子の活性型(GliA)の核転座ならびにptcおよびgli1のような標的遺伝子の転写活性化を伴って高められる。
【0008】
タンパク質のヘッジホッグ相互作用タンパク質(Hip)は、タンパク質Ptcのそれに匹敵する親和性でShhに結合することができる(Traiffortら, J. Neurochem., 2010, 113: 576-590)。Hipは、Shhに結合することによって、Ptcによるシグナル伝達経路を活性化するために利用されるリガンドの量を減少させるので、該経路の負のモジュレーターと見なされる。CdoおよびBocは、免疫グロブリンおよびIII型のフィブロネクチン モチーフ(motif)を有する細胞表面タンパク質のファミリーに属する。これらのタンパク質は、Ptcに対してリガンドShhの提示を容易にすること、標的細胞の近くでモルフォゲンの量を増加させこと、および場合によりGliタンパク質の活性に影響を与えることによって、Shhシグナル伝達経路を正に調節する(Heretschら, 2010, Bioorg. Med. Chem. Lett 18: 6613-24: Scalesおよびde Sauvage, 2009, Trends Pharmacol. Sci. 30: 303-312)。
【0009】
胚発達中のヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の調節性の役割は、広く研究されている。Hhは、正常組織における維持および修復のプロセスと、増殖および分化の時空間的な調節とに関連し、そのことにより、発達中の組織が、適切な細胞型および適切な脈管形成および神経支配の程度をもって、正しいサイズに到達することを可能にする。それは、特に中枢神経系の発達に関与する(Dessaudら, 2008, Development, 135: 2489-503)。Hhシグナル伝達機能の本質的役割は、Shh変異体で観察される全前脳症のような、ヒト胎児におけるこのシグナル伝達経路の欠陥の劇的な結果により証明されている(Traiffortら, J. Biol. Chem., 2004, 279: 42889-42997)。
【0010】
より最近では、Shh経路が成人の脳において同定され、ここでは、分子のアミノ末端活性型が、成熟神経系の非常に多くの領域において発現されおり、この経路の新しい役割を示唆している。実際、特にそれは神経形成のニッチの確立および維持に関与し、成人の脳の神経またはグリア前駆細胞の増殖を調節する(Traiffortら, 2010, J. Neurochem., 113: 576-590)。それゆえ、Shhシグナル伝達経路の調節が、神経変性疾患の治療法の開発のための課題となる。研究は、パーキンソン病を有するラットにおける行動障害の減少において(Tsuboiら, Exp. Neurol., 2002, 173, 95-104)、または多発性硬化症を有するラットにおけるニューロンの再ミエリン化において(Mastronardi et al. 2004, J. Immunol. 172: 6418-26)、Shhタンパク質自身によってShhシグナル伝達経路の活性化の正の効果を既に立証している。さらに、SmoアゴニストによるShhシグナル伝達経路の活性化が、成体マウスにおいて神経組織発生の領域のレベルで神経前駆体細胞の増殖における増加を認めることが示されている(Macholdら, 2003, Neuron., 39: 937-950)。しかしながら、Smoアゴニストは、全部で少ししかなく、いまだに特徴付けが乏しい。
【0011】
Shhシグナル伝達経路の機能不全はまた、多くの癌と関連づけられている。実際に、Pctを不活性化する変異は、頭蓋顔面および大脳の奇形、特に種々の腫瘍、より具体的には皮膚レベルでの基底細胞癌腫および小脳レベルで髄芽種の高い発生率を特徴とする常染色体優性疾患であるゴーリン症候群または基底細胞母斑症候群と関連する。ヒトPtcまたはSmo遺伝子の変異も、中枢神経系の原発性神経外胚葉性腫瘍、主に髄芽腫(症例の30%)において、また基底細胞癌腫の散発的な形態においても(PtcおよびSmoについて症例のそれぞれ40%および20%)観察される。さらに、Shhの変異も、基底細胞癌腫と関連する。その他の型の腫瘍もまた、ヘッジホッグシグナル伝達経路の欠陥と関連付けられている。これらの腫瘍の位置は、胚発達中のこの経路の構成因子の発現部位と密接に相関する(Scalesおよびde Sauvage, 2009, Trends in Pharmacol. Sci., 30: 303-312)。列挙し得る限定しない例は、Ptc変異と関連する乳癌および髄膜腫、Gli変異と関連する膠芽腫、胃腸の癌、特に胃および結腸の原発性癌、前立腺および膀胱の癌、卵巣の線維腫および皮様嚢腫、横紋筋肉腫、小細胞肺癌、口腔扁平上皮癌である。
【0012】
多くの生理的および病的プロセスにおけるヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の極めて重要な役割のために、タンパク質Smoothened(Smo 1およびSmo 2)、Frizzled(Fz 1〜Fz 10)、Patched(Ptc 1およびPtc 2)、タンパク質Dispatched (Disp 1およびDisp 2)またはタンパク質Hipのようなこの経路の構成要素は、この経路を調節(活性化または阻害)することができ、そのことにより、インビトロおよび/または胎児もしくは成人におけるインビボでの発達[増殖、分化、遊走、生存(アポトーシス)]、ならびに/あるいは分化した細胞および幹細胞の活性を正もしくは負に調節できる新規な分子を開発するための標的となる。
【0013】
このような分子は、ヘッジホッグ経路の過剰活性化に関連する腫瘍の治療に役立つことが立証されている(Scalesおよびde Sauvage, 2009, Trends in Pharmacol. Sci., 30: 303-312)。それゆえ、このような分子は、神経組織腫瘍(髄芽腫、原発性神経外胚葉性腫瘍、膠芽腫、髄膜腫および乏突起神経膠腫)、皮膚腫瘍(基底細胞癌腫、毛包上皮腫)、筋肉および骨組織の腫瘍(横紋筋肉腫、骨肉腫、黒色腫)、ならびにその他の組織(腎臓、膀胱、前立腺、肺、胃、膵臓、胸部、肝臓)の腫瘍の治療に用いることができる。
【0014】
このような分子はまた、ヘッジホッグ経路の遮断を必要とする、神経変性型の障害(パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、多発性硬化症、運動ニューロン疾患)、およびヘッジホッグシグナル伝達経路の遮断が有益であり得る糖尿病のような疾患の治療においても有用である。
【0015】
このような分子はまた、- ヘッジホッグ経路の調節異常に関連する組織機能不全を含む- 多数の急性、亜急性もしくは慢性的な遺伝性または後天性の障害の内科的または外科的な治療(形成または再建外科、組織または臓器移植)において、神経組織[中枢神経系(脳)および末梢神経系(感覚ニューロン、運動ニューロン、交感ニューロン)]、骨、軟骨、精巣、肝臓、脾臓、腸、膵臓、腎臓、平滑筋および骨格筋、心臓、肺、皮膚および毛髪、粘膜、血液細胞ならびに免疫系の細胞のような組織の形成、再生、修復および/または活性増大を誘導するためにも有用である。これらの障害の限定しない例として、特に神経障害および関連する神経筋疾患、糖尿病、脱毛症、熱傷、潰瘍(皮膚および粘膜)、ならびに精子形成の障害が挙げられる。
【0016】
ヘッジホッグ経路の活性を調節できる種々の分子が同定されている。
まず第一に、ヘッジホッグタンパク質および誘導ポリペプチド(フラグメント、バリアントなど)、特にヘッジホッグタンパク質のアゴニストおよびアンタゴニスト(BIOGEN名義のPCT国際出願WO 01/98344);それらのサイズのために、これらタンパク質および誘導ポリペプチドは、血液脳関門を横断できず、したがって、特にヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の過剰活性化に関連する脳腫瘍の治療のために全身投与できない。さらに、このような分子は安定性が低く、製造および精製が困難である。逆に、Shhリガンド、ロボトニキニンおよび5E1モノクローナル抗体の効果を阻害する分子が存在する。
【0017】
Hhシグナル伝達経路は、さらなる下流で調節されることもできる。例えば、SmoへのPtcの阻害効果が調節され得る。まだ正確には理解されていないメカニズムにより、それはスタチンで増加され、オキシステロールで減じられる(Heretschら, Bioorg. Med. Chem. Lett., 2010, 18: 6613-6624)。天然物(フィサリンF)または合成品(GANT58、GANT61、HPI-1)もまた、核でのGli転写因子のDNAに対する結合を阻害することが知られている。
【0018】
しかしながら、たいていの研究は、Smoothened受容体のレベルで作用するモジュレーターの発見に集中されている:
- Hhシグナル伝達経路を阻害または活性化するヘテロ環有機分子(SAGおよび誘導体):CURIS名義のPCT国際出願WO 01/74344;Chenら, PNAS, 2002, 99, 14071-14076、
- Hhシグナル伝達経路を活性化する小分子、プルモルファミン:Wuら, Chemistry & Biology, 2004, 1229-1238、
- 窒素含有ヘテロ環分子:CURIS名義のPCT国際出願WO 01/19800、WO 01/26644およびWO 02/30421;Kamenetskyら, J. Biol., 2002, 1, 1-19、
【0019】
- 16位、17位または18位をアミンもしくはアミン誘導体で置換されたシュロソウ属の種(Veratrum spp.)に由来する植物ステロイド(ジェルビン(jervine)、シクロパミン(cyclopamine)およびシクロポシン(cycloposine))およびナス属の種(Solanum spp.)に由来する植物ステロイド(ソラニジン(solanidine))、ならびにコレステロール:JOHNS HOPKINS UNIVERSITY SCHOOL OF MEDICINE名義の米国特許US 6,432,970ならびにPCT国際出願WO 99/52534およびWO 01/27135;米国特許US 6,291,516;ONTOGENY INC.名義のPCT国際出願WO 00/41545;CURIS名義のPCT国際出願WO 02/30462;Taipaleら, Nature, 2000, 406, 1005-1009; Bermanら, Science, 2002, 297, 1559-1561)。しかし、10μMより高いシクロパミン濃度が細胞に対して毒性であると立証されたことが示された(Borzilloら, Curr. TopMed. Chem., 2005, 5(2), 147-157)。さらに、シクロパミンのインビボでの腫瘍増殖への効果は、腫瘍自体以外の活性と関連づけられ得るので、それらの効果は疑問を投げ掛けられている(Yauchら, 2008, Nature, 455: 406-410)。シクロパミンの誘導体(IPI-926)が、現在臨床のフェーズIIにある(Mahindrooら, J. Med. Chem., 2009, 52, 3829; Tremblayら, J. Med. Chem., 2009, 52: 14, 4400-4418)、
【0020】
- RU-486またはRU-38486ともよばれるミフェプリストン(17β-ヒドロキシ-11β-(4-ジメチルアミノフェニル)-17α-(プロピ-1-イニル)エストラ-4,9-ジエン 3-オン) (CNRS名義のフランス特許第2 8500 022号)、これについては、ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の活性の阻害活性が証明されている、
【0021】
クロロベンゾチオフェン型の合成活性化化合物(CAS No.: 364590-63-6)である、SAGの構造と類似の構造を有する分子SANT74およびSANT75は、Smo活性化剤のコンホメーションを効果的に制御するための安定な阻害剤であることでも知られている(Yangら, 2009年4月14日に出版されたThe Journal of Biological Chemistry)。
【0022】
【化1】
【0023】
つい最近、ヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害するその他の化合物も記載されている(PeukertおよびMiller-Moslin, 2010, ChemMedChem 5: 500-512; LowおよびDe Sauvage, 2010, J. Clin. Oncol.; NgおよびCurran, 2011, Nature Review Cancer):
【0024】
- ビスアミドベース阻害剤(GENENTECH INC.およびCURIS INC.名義のPCT国際出願WO2007/059157)およびピリジルベース阻害剤(GENENTECH INC.およびCURIS INC.名義のPCT国際出願WO2006/028958;GENENTECH INC.名義のUS特許第2009/0281089号)。ピリジルベース化合物の1つである、GDC-0449(臨床フェーズII)は、髄芽細胞腫転移を有する患者においての有効性が示されている。しかしながら、その患者はその分子に徐々に耐性を生じた。Smoのアスパラギン酸の変異体(D473H)が現れた。これが、Smoに結合し、この経路を阻害する該化合物の能力を妨害する。この化合物で処理した、髄芽細胞腫を有するマウスモデルで、同じアミノ酸の変異体が同定された(Yauchら, 2009, Science 326: 572-574)。
【0025】
- Novartis社によって開発された阻害剤。例えば、LDE225(臨床フェーズII)が、マウスのモデルで髄芽細胞腫を治療するために試験され、これらの腫瘍の退縮を誘導した。しかしながら、治療の間に耐性が観察された。研究は、Gli2の染色体増幅を含む、耐性のいくつかの機序、および、よりまれに、腫瘍増殖の再活性化をもたらすSmo受容体の点突然変異を明らかにした。ホスファチジルイノシトール 3-キナーゼ(PI3K)シグナル伝達の正の制御も同定された(Buonamiciら, 2010, Sci. Transl. Med., 51-70)。
【0026】
- BMS-833923 (XL-139)のようなBristol-Myers Squibb Inc.によって開発された阻害剤。
- Pfizer Products, Inc.社により記載された阻害剤(WO 2008/075196およびUS 2009/0005416)。PF-04449913が、現在、臨床フェーズIIにある。
- MERCK社により記載された阻害剤(Dessoleら, 2009, Bioorg. & Med. Chem. Lett. 19: 4191-4195)。
【0027】
- Novartisの化合物LEQ506およびMillennium社の化合物TAK-441も、今臨床フェーズIに入ったばかりである。
- アシル-ウレア、-チオウレアおよび-グアニジンベースの阻害剤も、ヘッジホッグ経路の調整剤として保護されている(CNRS名義のWO 2009/130422およびWO 2011/010013)。後者は、他の既存の分子と比較して、製造が容易であるという利点を有する。さらに、アシル-グアニジン誘導体は、水溶性である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明者らは、今、実用的要求、特に、合成が簡単でヒトの治療に用いることができる可能性があるという点においてより良く応答するヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の調整剤(刺激剤または阻害剤)である新規な化合物を提供することの目的を設定する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
この目的は、以下に記載され、本発明の第1の目的を構成する、式(I)の化合物によって達成され、これらの化合物は、Smoothened受容体の今までに同定された最も強力なアンタゴニストである(現在、臨床フェーズにある化合物より5〜30倍強力)。これらの分子はまた、GDC-0449およびLDE225分子のそれより、10〜30倍大きな親和性を示し、さらに、後者は、特定の患者での耐性出現に直面している(特に、Smoothened受容体上での変異体の出現に関連する耐性)。さらに、本発明の分子は、当業者に既知の慣用の方法と類似の合成方法により、容易に、一般的に3または4工程で製造される利点を有し、アシル-ウレア、-チオウレアおよびグアニジン化合物は、入手可能な原料から出発して容易に到達できる。塩基としてのグアニジン官能基は、塩化可能で、そのことは、水性媒体に良好な溶解性を有する化合物を製造することの有利性を有する。式(I)の全ての化合物は、当業者に周知の単純な化学反応を用いて、非常に都合よく得られる。
【0030】
本発明は、次の式(I)の化合物に関する:
【化2】
【0031】
(式中、
- R
1、R
2およびR
3は、同一または異なっていてもよく、互いに独立して、水素もしくはハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルキル、パーフルオロアルキル、アルコキシ、アルキルチオもしくはニトリル基を表し、該アルキル、パーフルオロアルキル、アルコキシおよびアルキルチオ基は、1〜6個の炭素原子を含むことができ、
- Xは、O、SまたはNHであり、好ましくは、XはNHであり、
- R
4およびR
7は、同一または異なっていてもよく、互いに独立して、水素もしくはハロゲン原子またはアルキル基を表し、
【0032】
- R
5は、ハロゲン原子またはアルキル、アルコキシ、アミノアルキル、チオアルキル(該アルキル、アルコキシ、アミノアルキルおよびチオアルキル基は、1〜6個の炭素原子を含み得る)もしくはヒドロキシを表す基R
6の少なくとも1つで置換された、
【0033】
【化3】
から選択される基の1つを表す)。
【0034】
本発明の意味において、以下の用語は以下の意味を有する:
- アルキル:1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜2個の炭素原子を有する、直鎖状または分枝鎖状の飽和脂肪族炭化水素基。用語「分枝鎖状の」とは、メチルまたはエチルのような少なくとも1つの低級アルキル基が、直鎖状アルキル鎖により保持されることを意味する。用語「低級」アルキルとは、1個または2個の炭素原子を有するアルキルを意味し、用語「高級アルキル」は、3〜6個の炭素原子を有する直鎖状または分枝鎖状のアルキル基を意味する。アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチルおよびn-ペンチル基が挙げられる。
【0035】
- ハロゲン原子は、臭素、塩素、ヨウ素またはフッ素原子を意味し、臭素、塩素およびフッ素の指定が好ましい。
- パーフルオロアルキルは、全ての水素原子がフッ素原子で置き換えられた上記で規定されるアルキル基を意味する。パーフルオロアルキル基の中で、トリフルオロメチルおよびパーフルオロエチル基が好ましい。
- アルコキシは、アルキル基が上記と同じ意味を有し得るO-アルキル基を意味する。アルコキシ基の例として、特に、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシおよびペントキシ基が挙げられる。
【0036】
- アルキルチオは、アルキル基が上記と同じ意味を有し得るアルキル-S基を意味する。アルキルチオ基の例として、特に、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオおよびペンチルチオ基が挙げられる。
- アミノアルキルは、アルキル基が上記と同じ意味を有し得るアルキル-N基を意味する。アミノアルキル基の例として、特に、アミノメチル、アミノエチル、イソプロピルアミノ、ブチルアミノおよびペンチルアミノ基が挙げられる。
【0037】
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、式(I)の化合物は、R
1、R
2およびR
3がアルコキシ基、好ましくはメトキシ基を表すものから選択される。
もう一つの好ましい実施態様によれば、R
4およびR
7は、水素もしくは塩素原子、メチル、エチルもしくはイソプロピル基を表す。
【0038】
もう一つの有利な実施態様によれば、R
6は、ハロゲン原子またはアルコキシもしくはアミノアルキル基を表し、該アルコキシもしくはアミノアルキル基は、1〜6個の炭素原子を含み得る。さらに好ましくは、R
6は、塩素もしくはフッ素原子、メトキシもしくはジメチルアミノ基を表す。
【0039】
式(I)の化合物として、特に、
- 次の式のN-(N-(3-(4-ベンゾイルベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩:
【0040】
【化4】
【0041】
- 次の式の
N-(2-メチル-5-(3-(3,4,5-トリメトキシベンゾイル)グアニジノ)フェニル)-9H-フルオレン-2-カルボキシアミド塩酸塩:
【化5】
【0042】
- 次の式の3,4,5-トリメトキシ-N-(N-(4-メチル-3-(4-(3-フェニルプロピル)ベンズアミド)フェニル)カルバムイミドイル)ベンズアミド塩酸塩:
【化6】
【0043】
- 次の式の3,4,5-トリメトキシ-N-(N-(4-メチル-3-(4-フェネチルベンズアミド)フェニル)カルバムイミドイル)ベンズアミド塩酸塩:
【化7】
【0044】
- 次の式の(E)-N-(N-(3-(4-シンナミルベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩:
【化8】
【0045】
- 次の式のN-(N-(3-(4-
スチリルベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩:
【化9】
【0046】
- 次の式のN-(N-(3-(4-ベンジルベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩:
【化10】
【0047】
- 次の式のN-(N-(3-(4-(ベンジルオキシ)ベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩:
【化11】
が挙げられる。
【0048】
本発明の式(I)の化合物は、当業者に既知の慣用の方法と類似の合成方法により、容易に、一般的に3または4工程で製造できる。
【0049】
初めに、中心フラグメントのフラグメント(VI)は、次のスキーム1により製造される。
【化12】
【0050】
それは、アシル-シアナミド(III)を得るために、水性媒体中でシアナミドに塩化ベンゾイル(II)を縮合し、そして、次にそれをアニリン(A)と縮合してグアニジン(IV)を得るという事項である。
次いで、塩基性媒体中で、グアニジンの塩基性官能基をBoc残基で保護し、ニトロ化合物(V)を得、次いで、水素化によりアミンへ還元し、中間体のアニリン(VI)を得る。
【0051】
次の反応スキーム2は、それらの式(I)において、基R
1= R
2 =R
3 = MeOを有する化合物の製造を示す。
酸の塩化物 (1a-h)は、文献(J. Med. Chem, 2001, 44, 3175; Chem. Eur. J. 2010, 16, 5848; Org. Lett. 2007, 9, 4571; Org. Biomol. Chem. 2008, 6, 3005; Adv. Cat. Synth. 2008, 350, 2065; J. Org. Chem. 2001, 66, 2874; J. Med. Chem. 2010, 53, 5770)に記載されたようにして製造される。
【0052】
次いで、中間体(VI)を、ほとんどの場合、市販の種々の酸塩化物(1a-h)と縮合し、ほとんどの場合、塩の形態(塩酸塩)で所期の化合物を得る(スキーム2)。
【0053】
【化13-1】
【0054】
【化13-2】
【0055】
本発明の式(I)の化合物は、ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路を負(阻害効果)または正(活性化効果)に調節する性質を有し、それゆえ、ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の過剰活性化または欠乏に関連する障害の治療を対象とした医薬組成物を製造するための活性物質として使用することができる。
【0056】
結果として、本発明はまた、医薬品としてのそれらの適用のための式(I)の化合物、特に、ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の過剰活性化に関連する腫瘍を治療するための医薬品としてのそれらの適用のための式(I)の化合物に関する。
【0057】
具体的には、本発明はまた:
- ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の過剰活性化に関連する腫瘍の治療を対象とした医薬品としての;特にそのような腫瘍は、特に、神経組織腫瘍(髄芽腫、原発性神経外胚葉性腫瘍、膠芽腫、髄膜腫および乏突起神経膠腫)、皮膚腫瘍(基底細胞癌腫、毛包上皮腫)、筋肉および骨組織の腫瘍(横紋筋肉腫、骨肉腫)、またはその他の組織(腎臓、膀胱、前立腺、肺、胃、膵臓)の腫瘍である、
- パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、アルツハイマー病、多発性硬化症または運動ニューロン疾患のような神経変性型の障害を治療するための医薬品としての、
【0058】
- 脳発達に関連する疾患(全前脳症)の治療、脳血管発作および心血管発作ならびに乏突起神経膠細胞およびシュワン細胞の疾患の治療を対象とする医薬品としての、
- ヒトまたは動物の幹細胞の再生(renewal)を制御または調節するためのインビトロで使用のための、
- 例えば、糖尿病のようなヘッジホッグシグナル伝達経路の調節が有利であり得るその他の障害を対象とした医薬品としての
式(I)の化合物に関する。
【0059】
用いられる薬量は、治療される障害、投与の経路および頻度、ならびに治療される種(ヒトまたは動物)の性質および重量に依存して変化するであろうし、それは、例えば、経口経路による大人において、1日当たり10 mg〜2 gまで変化され得る。
【0060】
さらに、本発明は、活性成分として、前で定義された式(I)の少なくとも1つの化合物と、少なくとも1つの医薬的に許容な賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物に関する。
本発明の医薬組成物において、1またはそれより多い式(I)の化合物は、好ましくは、約10 mg〜2 gの単位用量が投与されることを可能にする量で用いられる。
【0061】
当業者は、医薬組成物の投与経路との関連で、1またはそれより多い医薬的に許容な賦形剤を選択する。もちろん、当業者は、その場合に、用いられる前記の1またはそれより多い賦形剤が本発明の組成物の固有の特性と適合するように注意する。
さらに、医薬品または医薬組成物の形態(例えば、溶液、懸濁液、乳液、錠剤、カプセル剤、坐剤など)は、選択される投与経路に依存する。
【0062】
よって、本発明の意味において、医薬品または医薬組成物は、任意の適切な経路、例えば、経口的、経肛門、局所、全身、静脈内、筋肉内もしくは粘膜経路により、またはパッチあるいはリポソーム、マイクロ粒子、マイクロカプセルなどのカプセル化もしくは固定化した形態でのその他を用いる別の方法で投与できる。
【0063】
経口経路での投与に適切な賦形剤の限定しない例としては、タルク、乳糖、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ポリエチレングリコール、アクリル酸ポリマー、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、動物性、植物性もしくは合成油脂、パラフィン誘導体、グリコール、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、湿潤剤、抗凝集剤、分散剤、乳化剤、味覚矯正剤、浸透剤、可溶化剤などが、特に挙げられる。
【0064】
医薬品および医薬組成物を製剤化し、投与するための技術は、本明細書で考慮する当該技術において周知であり、特に、当業者は、著作物のRemington's Pharmaceutical Sciences (第21版)を参照することができる。
【0065】
本発明の式(I)の化合物は、これらのシグナル伝達経路の新しいモジュレーターの発見のためおよびSmoothened受容体もしくは関連受容体の異なるタイプを検出するための、およびこれらの種々のタイプを調節することができる分子を同定するための両方のツールとして非常に役立つことが判明する。
【0066】
それゆえ、本発明は、研究ツールとして、特にSmoothened受容体または関連受容体と相互作用する、例えば、Smo1結合部位またはSmo2結合部位に結合することによって相互作用することができる分子を同定するための、少なくとも1つの式(I)のラベル化された化合物の使用にも関する。
【0067】
実際に、本発明者らは、式(I)の化合物の構造的フラグメントの1つの端にマーカーを導入することが、多くの生物学的アッセイで特徴付けられるナノモル以下の親和性を示す放射性リガンドをもたらすことができることを全く予想外に見出した。
【0068】
式(I)の化合物のラベル化は、当該技術分野の慣用の方法により、
3H、
11C、
14C、
32P、
35S、
125I、
99mTc、
18F、
64Cu、
76Br、
124I、
13N、
15Oまたは
123Iのような放射性同位元素を組み込むことにより放射活性にすることができる。式(I)の化合物のラベル化は、当業者に既知の方法によって該化合物に蛍光体の固定化によっても構成される。該ラベル化体は、通常、検出される放射性原子の機能に応じて選択される放射線撮像装置を用いるか、または蛍光を測定することによって検出することができる。
【0069】
シグナル伝達経路のいくつかの放射性リガンドが文献に記載されているが、今もなおほとんど使用されていない。例えば、
3H SAG (Romingerら, JPET, 2009, 995-1005)、
3H-Hh-Ag1.5 (BorzilloおよびLippa., Curr. Top Med. Chem., 2005, 5(2), 147-57)、[
3H]GDC0449 (Dijkgraafら, 2011, Cancer Res. 435-444)またはAP-シクロパミン [
3H]-シクロパミン (Chenら, Genes Dev., 2002, 16: 2743-2748)のようなトリチウム
3Hまたはヨウ素
125Iでラベル化された放射性リガンド:
【0070】
【化14】
【0071】
ヘッジホッグタンパク質伝達経路の受容体、具体的にはSmoothened受容体のモジュレーターの作用機序のより深い解析のための、特異結合および/またはオートラジオグラフィーの実験を行うためのトリチウムでラベルされた物質を得る目的として、一連の類似体が研究された。実際、先行技術に以前記載されたラベル化合物は、容易に利用できない;それらは、多数の合成工程を要求する。さらに、前に記載された放射性リガンドの中で、AP-シクロパミン [
3H]-シクロパミンだけが、商業的に入手可能である。さらに、それは、本発明の化合物(化合物 (7d)に対してKd = 0.3 nM)と対照的に、低い親和性(約10 nMのKd) (Romingerら, JPET, 2009, 995-1005)を示す。
【0072】
具体的には、ラベル化された形態の式(I)の化合物は、次のために用いることができる:
- ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の過剰活性化に関連する腫瘍を検出するため、
【0073】
- Smoothened受容体または Frizzled受容体(Frizzled 1〜10)のような関連受容体、またはPatched (Patched 1およびPatched 2)、Dispatched (Dispatched 1およびDispatched 2)もしくはHip受容体のようなその他のようなヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の受容体の特異的結合部位のリガンドをスクリーニングおよび/または同定するため、ここで、ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の該受容体は、自然に発現されるか、または初代細胞、細胞株または健康なもしくは病理組織に安定的にまたは一過性にトランスフェクト(プラスミド遺伝子導入)または感染(ウイルスを用いることにより)され得る、
【0074】
- ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の受容体のアンタゴニスト(抗癌分子)または幹細胞に作用するヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の受容体のアゴニストである新しい分子をスクリーニングおよび/または同定するため、
- 初代細胞、細胞株または健康なもしくは病理組織でのヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の機能を解析するためのオートラジオグラフィーにおいて、
- 初代細胞、細胞株または健康なもしくは病理組織でのヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の受容体の薬理学的制御を研究するため。
【0075】
本発明のもう1つの目的は、式(I)の化合物がエチレン性2重結合を有しない基R
5で置換されているとき、ハロゲン化の予備段階を含む方法を用いて、トリチウム
3Hの雰囲気下、式(I)の化合物をトリチウム化する工程を含む、前で定義された式(I)の化合物を放射性同位体でラベル化する方法に関する。
【0076】
したがって、本発明のさらなる目的は、前記の放射性同位体でラベル化する方法によって得られる、その水素原子の少なくとも1つがトリチウム原子
3Hで置き換えられた式(I)の化合物に関する。トリチウム
3Hで放射性にラベル化された式(I)のこれらの化合物は、研究ツールとして、および前に列挙された種々の使用のために用いられることができる。
【0077】
以下のヘッジホッグ経路のモジュレーターをスクリーニングするための種々の方法が知られている:
- 初代株または初代培養物の細胞応答:細胞分化(C3H10T1/2)、細胞増殖(初代小脳顆粒細胞)を用いる方法;
- 標的受容体の膜貫通領域に作用する蛍光化合物[(ボディパイシクロパミン(bodipycyclopamine)(BC)]との競合を用いる方法(US 2007/0218775);
【0078】
- 関与するその経路のレポーター遺伝子を用いる方法(Taipaleら, 2000, Nature, 406, 1005-1009);
- 試験化合物の存在または非存在下、Ptc-Hh相互作用を測定することによるHh活性を検出する試験(US 2005/0282231);
- Smoの下流に作用するHh経路の阻害剤を同定するための、Sufuおよびレポーターに欠陥がある細胞を用いる試験(WO 2006/080894)。
【0079】
本発明はまた、次の工程を含む、Smoothened受容体のSmo結合部位(Smo1またはSmo2)のリガンドをスクリーニングおよび/または同定する方法に関する:
a) 複合体[Smo-式(I)の化合物]を得るために、Smoothened受容体と式(I)の少なくとも1つの化合物を接触させること;
b) Smoothened受容体、式(I)の前記化合物および試験分子を接触させること;
c) 工程b)で回収されるSmoothened受容体を複合体[Smo-式(I)の化合物]と比較することによって、前記Smoothened受容体と前記試験分子との間の相互作用を検出すること;および
d) Smoothened受容体との相互作用が測定される前記試験分子を選択すること。
【0080】
工程a)は、Smoothened受容体を発現する細胞または機能的Smoothened受容体を含む膜抽出物(特に、それらは、Rivoyreらにより記載された方法(FEBS Letters 579, 2005, 1529-1533)によって得ることができる機能的Smoothenedヒト受容体を有する酵母菌の膜抽出物であり得る)を用いて行うことができる。
【0081】
工程a)がSmoothened受容体を発現する細胞を用いて行われるとき、該受容体の発現は、構成的である(細胞によって自然に発現される受容体)か、または同種または異種のSmoothened受容体を発現するかまたは過剰発現するように細胞の形質転換から生じるかのいずれかである。このSmoothened受容体はまた、それに野生型受容体と異なる生化学的または薬理学的性質を与える突然変異を保有することができる。
【0082】
式(I)の任意の化合物が、本発明の方法を行うために用いられる;しかしながら、それは、特にSmoothened受容体に対する親和性との関連で、当業者により選択される。
工程a)は、液相中または適当な固体担体上で行われる;当業者は、例えば、Smoothened受容体が膜の抽出物の形態かまたは精製されたタンパク質の形態で用いられるかにより、これらの実施態様を選択し、適合させる。
【0083】
工程a)が液相中で行われるとき、液相スクリーニングの方法は、次の工程により行われる:
a) 複合体[Smo-式(I)の化合物]を得るために、Smoothened受容体と式(I)の少なくとも1つの化合物を接触させること;
b) Smoothened受容体、式(I)の前記化合物および試験分子を接触させること;
c) 1以上の試験分子および/または式(I)の前記化合物に任意に結合する前記Smoothened受容体を回収すること;
d) 工程c)で回収されるSmoothened受容体を複合体[Smo-式(I)の化合物]と比較することによって、前記Smoothened受容体と前記試験分子との間の相互作用を検出すること;および
e) 相互作用が測定される前記試験分子を選択すること。
【0084】
工程a)は、Smoothened受容体を含む膜抽出物を用いて行うことができ、次いで、それは、式(I)の化合物および試験分子と一緒にインキュベートされ、次いで、その混合物が遠心分離され、遠心分離後に得られるペレットを緩衝液中に再懸濁し、次いで、非特異的相互作用を除くために再度遠心分離される。次いで、蛍光の測定によるか、または式(I)の化合物のラベル化に依存する放射活性の測定によって、試験分子のSmoothened受容体上の固定が解析される:
【0085】
- 液相スクリーニングの方法の1つの変形によれば、式(I)の前記化合物は事前にラベル化される。Smoothened受容体と1以上の試験分子との間の相互作用を検出する工程d)は、工程c)で回収されるSmoothened受容体のラベル化(放射活性または蛍光により)を複合体[Smo-式(I)の化合物]のそれと比較することによって行われる;選択される分子は、工程c)で回収されるSmoothened受容体のラベル化が、複合体[Smo-式(I)の化合物]のそれより弱いものである。
【0086】
- 液相スクリーニングの方法のもう1つの変形によれば、複合体[Smo-式(I)の化合物]の位置を工程c)で回収されるSmoothened受容体のそれと比較することによるクロマトグラフィーによって、相互作用は検出される;位置が同じであれば、Smoothened受容体と試験分子との間の相互作用はない。逆に、位置の差は、相互作用を示し、そのときは、試験分子とSmoothened受容体との間の相互作用が実際にSmo結合部位で起きていることを確認することが必要である。
【0087】
もう1つの方法として、本発明のスクリーニングの方法の工程a)は、適当な固体担体上で行うことができる。
固体担体は、特に、試験分子に結合することを可能にする、酵素、抗体、ペプチド、微生物、生物組織、脂質、核酸等のような生物学的種を含む膜からなるバイオセンサー、およびリガンドのタンパク質受容体上の固定のような生体信号を、測定可能な物理的信号、例えば、電気化学的(電流測定、電位差測定、電気伝導度測定)、光学的(光)、圧電または熱量測定に変換するためのトランスデューサーを意味する。本件の場合、膜上に固定される生物学的種はSmoothened受容体である;並行して行われる2つの実験において、固体担体上のSmoothened受容体は、式(I)の化合物と、および式(I)の前記化合物と試験分子との混合物と接触され、これらの実験のそれぞれで得られる信号が比較され、信号の変更を誘導する分子が選択される。
【0088】
例として、前記固体担体は、その使用が、バイオセンサーの表面での質量の変化によってタンパク質とそのリガンドとの相互作用の可視化および特徴付け(親和性、結合および解離定数)を可能にする、プラズモン共鳴によって結合を検出するためのバイオセンサーである。この質量の変化は、バイオセンサーの表面上のプラズモン共鳴角(angle)の変化によって測定され、ラベル化されたまたは蛍光のリガンドを必要としない。
【0089】
固体担体上でのスクリーニングの方法が、Smoothened受容体を含む膜の抽出物を用いて行われるとき、これらの抽出物は脂溶性のバイオセンサーに注入することに固定され得る。脂溶性のバイオセンサーが用いられるとき、膜抽出物は、共有結合によって、膜受容体とリガンドとの相互作用をモニターすることができるデキストランに結合する脂溶性のグループに固定される(M.R. Pourshafieら, J. Microbiol. Meth., 2004, 58, 313-320; A. Wikstrom, Anal. Biochem., 2007, 362, 98-107)。
【0090】
したがって、本発明の1つの変形によれば、プラズモン共鳴によって結合を検出するためのバイオセンサーは、Biacore (GE Healthcare)からの「センサーチップL1」疎水性バイオセンサーのような脂溶性のバイオセンサーでり、その上にSmoothened受容体を含む膜の標本が注入によって固定される。
【0091】
固体担体上でのスクリーニングの方法が、精製されたSmoothened受容体を用いて行われるとき、該受容体はまた、リガンドが受容体に固定されるとき、その受容体が固定されている境界面の指標の変化を検出することからなる、表面プラズモン共鳴の測定を可能にするバイオセンサー上に固定され得る。
【0092】
もう一つの変形によれば、固体担体上でのスクリーニング方法はまた、Smo部位に結合しないSmoothened受容体のリガンドを同定することを可能にする;これらのリガンドの活性化または阻害作用は、以下に提示の方法によって特徴づけられる得る。
【0093】
本発明はまた、リガンド同定の方法に対して記載した工程に加えて、同定するリガンドをSmoothened受容体の活性化の後に細胞応答を示す細胞と接触させ、該細胞の該細胞応答を誘導することができるアゴニスト分子を選択する追加の工程を含む、Smoothened受容体のアゴニストを同定する方法に関する。
【0094】
Smoothened受容体の活性化の後に細胞応答を示す細胞は、アルカリホスファターゼの活性によって測定可能な細胞分化によってSmoothened受容体の活性化に応答する間葉細胞(例えばC3H10T1/2);細胞増殖によってSmoothened受容体の活性化に応答する初代小脳顆粒細胞;例えば、細胞応答がGliファミリーの転写因子をコードするもののような遺伝子の誘導またはヘッジホッグ経路によって活性化される、PatchedまたはHipに対するその他の遺伝子の誘導で構成され得ることに対する、成人脳の幹細胞または神経前駆細胞または成長の間の組織または成人に存在する、その他の前駆細胞の初代株または初代培養物から選択される。
【0095】
本発明はまた、次の工程を含むSmoothened受容体のアンタゴニストである分子を同定する方法に関する:
a) Smoothened受容体の活性化の後に細胞応答を示す細胞を、該細胞応答を誘導するように、式(I)の少なくとも1つの化合物と培養すること;
b) 工程a)の最後に得られる細胞を試験分子と接触させること;
c) 前記細胞の前記細胞応答の阻害を誘導する分子を選択すること。
【0096】
我々がSmoothened受容体のアンタゴニスト活性を試験することを望む分子は、特に、リガンド同定に対する本発明による前記の方法のいずれかによって同定される、Smoothened受容体のSmo結合部位に結合するリガンドであり得る。
本発明は、さらに、少なくとも機能的Smoothened受容体と式(I)の少なくとも1つの化合物とを含む、本発明による方法を行うためのキットに関する。機能的Smoothened受容体は、膜抽出物の形で存在するか、Smoothened受容体の活性化の後に細胞応答を示す細胞のいずれかに存在する。
【0097】
次のことを特徴付け同定するために、Smoothened受容体と式(I)の化合物との間の結合実験がまた使用され得る:
- Smo結合部位が活性である立体配座でSmoothened受容体を発現する新しい細胞型
- Smoothened受容体に関連する受容体のような、分化に関与する受容体。
【0098】
したがって、本発明は、次の工程を含む、Smoothened受容体を発現する、腫瘍細胞のような細胞を同定する方法に関する:
a) 試験される細胞を式(I)のラベル化された化合物と接触させること;
b) 試験される細胞のいずれの受容体とも結合しなかった式(I)の前記ラベル化された化合物を除くために、細胞を浄化すること;
c) ラベル化された細胞を検出すること。
【0099】
本化合物はまた、細胞分化、増殖、細胞死、遊走、細胞生存または細胞がまだ得ていない性質もしくは状態を獲得することを可能にするその他に関与する新しい受容体または受容体の新しいタイプを同定および特徴付けることに役立つことができる。
【0100】
前述の規定に加えて、本発明は、さらに、本発明による式(I)の化合物およびそのラベル体の合成、特徴付けおよび評価の実施例ならびに添付の図について言及する、以下に示される記載から明らかになるであろうその他の規定を含む。
【実施例】
【0105】
実施例1:本発明による種々の化合物の合成および特徴付けのためのプロトコール
反応は、Schlenk技法(標準)を用いて、不活性ガス(窒素)の雰囲気下で行った。溶媒は標準法によって乾燥し、使用前に窒素下で蒸留した。試薬は全て商業的に入手し、予備精製なしにそのまま用いた。
質量分析(ESI+)は、参照Agilent(登録商標)1100で販売されているLC/MSDスペクトロメータで記録された。核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、Bruker(登録商標)AC200装置、200 MHz (
1H)またはBruker(登録商標)AC400装置、400 MHz (
1H)で記録された。
【0106】
A/ 式IVの化合物の製造
3,4,5-トリメトキシ-N-(N-(4-メチル-3-ニトロフェニル)カルバムイミドイル)ベンズアミド(3)の製造
【化15】
【0107】
トルエン(50 mL)中の、シアナミド(2)(1.12 g, 4.77 mmol)および塩酸塩の形態の4-メチル-3-ニトロアニリン(A1)[1.08 g, 5.72 mmol, MeOH(10 mL)中のアニリンに1当量のHCl(Et
2O中2M)を加え、続いて真空下に濃縮して粉末を得ることによって製造]の溶液を、撹拌しながら6時間、還流下に加熱する。固体が形成する。沈殿を促進するために、Et
2O(50 mL)を加える。固体を濾過し、真空下に乾燥し、次いで、固体をH
2O(30 mL)中のNaHCO
3飽和水溶液に溶解する。水溶液をEt
2O(2×50 mL)で抽出する。有機相を食塩水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥し、濃縮して、ニトロ-グアニジン(3)(1.22 g, 66%)を得る。
【0108】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) d = 7.80 (brs, 1 H), 7.34-7.27 (m, 5 H), 3.90 (s, 9 H).
MW = C
18H
20N
4O
6に対して388 [ES/MS] m/z 389 [M + 1]
+
【0109】
B/ 式Vの化合物の製造
tert-ブチル (4-メチル-3-ニトロフェニルアミノ) (3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(4)の製造
【化16】
【0110】
THF(90 mL)中の塩基の形態のグアニジン(3)(3.16 g, 8.13 mmol)の溶液に、室温でTHF(10 mL)中のBoc
2O(1.77 g, 8.13 mmol)および触媒としてのDMAP(97 mg, 1 mmol)の溶液を滴下する。1時間撹拌後、出発化合物は消費された。溶媒を真空下に取り除き、残渣をEtOAc/Heptの混液:3/7で溶出するカラムクロマトグラフィーにより精製する。油状物の形態でBoc-グアニジン(4)(2.3 g, 58%)を得る。
【0111】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) d = 7.27 (s, 1 H), 7.09-7.04 (m, 3 H), 6.59 (m, 2 H), 3.82 (s, 3 H), 3.70 (s, 6 H), 2.17 (s, 4 H), 1.39 (s, 9 H).
MW = C
23H
28N
4O
8に対して488 [ES/MS] m/z 489 [M + 1]
+
【0112】
C/ 式VIの化合物の製造
tert-ブチル (3-アミノ-4-メチルフェニルアミノ) (3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(5)の製造
【化17】
【0113】
ボトル中、MeOH(80 mL)中のBoc ニトロ-グアニジン(4)(1.22 g, 2.5 mmol)およびPd/C 10% (100 mg)の混合物を、H
2下、50 psiで10時間撹拌する。出発物質は消滅した。触媒を濾過し、溶媒を真空下に取り除く。残渣をHept/EtOAcの混液:7/3で溶出するカラムクロマトグラフィーにより精製し、黄色の油状物として標記の化合物(5)(840 mg, 73%)を得る。
【0114】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) d = 7.27 (s, 1 H), 7.09-7.04 (m, 3 H), 6.59 (m, 2 H), 3.82 (s, 3 H), 3.70 (s, 6 H), 2.17 (s, 3 H), 1.39 (s, 9 H).
MW = C
23H
30N
4O
6に対して458 [ES/MS] m/z 459 [M + 1]
+
【0115】
D/ 式(6)および(7)の種々の化合物の製造
D-1) tert-ブチル(3-(4-ベンゾイルベンズアミド)-4-メチルフェニルアミノ) (3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(6a)の製造
【化18】
【0116】
CH
2Cl
2(3 mL)中の酸塩化物(1a)(73 mg, 0.3 mmol)の溶液を、0℃で、CH
2Cl
2(10 mL)中のBocグアニジン(5)(137 mg, 0.3 mmol)およびトリエチルアミン(0.1 mL, 0.66 mmol)の溶液に滴下する。反応混合物を一晩撹拌する。水(15 mL)およびCH
2Cl
2(10 mL)を加える。有機相を食塩水で洗浄し、乾燥し、真空下に濃縮する。残渣をHept/EtOAcの混液:3/2で溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製する。白色の固体の形態で、標記の化合物(6a)(142 mg, 70%, Mp 96℃)を得る。
【0117】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) d = 10.47 (brs, 1 H), 9.33 (brs, 1 H), 8.01-7.82 (m, 8 H), 7.55-7.53 (m, 3 H), 7.29-7.10 (m, 3 H), 3.82 (s, 3 H), 3.71 (s, 6 H), 2.41 (s, 3 H), 1.44 (s, 9 H).
【0118】
D-2) N-(N-(3-(4-ベンゾイルベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩(7a)の製造
【化19】
【0119】
AcOH (1 mL)および濃HCl(0.5 mL)の混合物中の Boc-グアニジン(6a)(85 mg, 0.127 mmol)の溶液を一晩撹拌する。反応混合物を真空下に濃縮し、Et
2O中に採取し、再度濃縮して、白色の固体(7a)(72 m, 94%, Mp 138℃)を得る。
【0120】
1H-NMR (MeOH, d4, 400 MHz) d = 8.16 (d, J = 8 Hz, 2 H), 7.93 (d, J = 8 Hz, 2 H), 7.85-7.34 (m, 9 H), 3.97 (m, 6 H), 3.89 (s, 3 H), 2.43 (s, 3 H).
MW = C
32H
30N
4O
6として566 [ES/MS] m/z 567 [M + 1]
+
【0121】
D-3) tert-ブチル (3-(9H-フルオレン-2-カルボキシアミド)-4-メチルフェニルアミノ) (3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(6b)の製造
【化20】
【0122】
CH
2Cl
2(3 mL)中の溶液状態の酸塩化物(1b)(82 mg, 0.3 mmol)を、CH
2Cl
2(10 mL)中のBoc-グアニジン(5)(137 mg, 0.3 mmol)およびトリエチルアミン(0.05 mL, 0.36 mmol)の溶液に滴下した。混合物を一晩撹拌し、次いで、水(5 mL)およびCH
2Cl
2(10 mL)を加える。有機相を食塩水で処理し、乾燥し、真空下に濃縮する。油状残渣をHept/Et
2Oの混液:3/2で溶出するカラムクロマトグラフィーにより精製し、標記の化合物(6b)(109 mg, 56%)を得る。
【0123】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) d = 10.47 (bs, 1 H), 9.37 (m, 1H), 8.07-7.02 (m, 13 H), 3.99 (s, 2 H), 3.81 (s, 3 H), 3.71 (s, 6 H), 2.41 (s, 3 H), 1.43 (s, 9 H)
【0124】
D-4) N-(2-メチル-5-(3-(3,4,5-トリメトキシベンゾイル)グアニジノ)フェニル)-9H-フルオレン-2-カルボキシアミド塩酸塩(7b)の製造
【化21】
【0125】
Boc化合物(6b)(100 mg, 0.154 mmol)をAcOH (1.1 mL)および濃HCl(0.55 mL)の混合物中に溶解する。混合物を室温で4時間撹拌する。溶媒を真空下に蒸発させ、固体残渣をEt
2O中に採取し、次いで濾過し、白色の固体(7b)(72 mg, 80%, Mp 241℃)を回収する。
【0126】
1H-NMR (DMSO, d6, 400MHz) d = 12.24 (brs, 1 H), 11.53 (brs, 1 H), 10.2 (s, 1 H), 9.42 (brs, 1 H), 8.95 (brs, 1 H), 8.23-7.40 (m, 12 H), 4.05 (s, 2 H), 3.91 (s, 6 H), 3.78 (s, 3 H), 2.35 (s, 3 H).
MW = C
32H
30N
4O
5として550 [ES/MS] m/z 551 [M + 1]
+
【0127】
D-5) tert-ブチル (4-メチル-3-(4-(3-フェニルプロピル)ベンズアミド)フェニルアミノ)(3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(6c)の製造
【化22】
【0128】
CH
2Cl
2(3 mL)中の酸塩化物(1c)(73 mg, 0.3 mmol)の溶液を、室温でCH
2Cl
2(10 ml)中のBoc-グアニジン(5)(137 mg, 0.3 mmol)およびトリエチルアミン(0.1 mL, 0.66 mmol)の溶液に加える。反応混合物を一晩放置する。水(8 mL)およびCH
2Cl
2 (10 mL)を加える。有機相を飽和NaCl溶液で洗浄する。次いで、有機相を乾燥し、真空下に濃縮する。残渣をEtOAc/Heptの混液:2/3で溶出するシリカゲルカラムで精製する。標記の化合物を白色の固体(6c)(132 mg, 65%)の形態で得る。
【0129】
1H-NMR (CDCl
3, 300MHz) d = 10.47 (brs, 1 H), 9.37 (brs, 1 H), 8.02-7.01 (m, 18 H), 3.81 (s, 3 H), 3.69 (s, 6 H) 2.72-2.64 (m, 4 H), 2.05-1.92 (m, 2 H), 1.42 (s, 9 H)
【0130】
D-6) 3,4,5-トリメトキシ-N-(N-(4-メチル-3-(4-(3-フェニルプロピル)ベンズアミド)フェニル)カルバムイミドイル)ベンズアミド塩酸塩(7c)の製造
【化23】
【0131】
AcOH(1.5 mL)および濃HCl(0.75 mL)の混合物中のBoc化合物(6c)(116 mg, 0.17 mmol)の溶液を室温で4時間撹拌する。次いで、溶媒を蒸発させ、残渣をEt
2O中に採取する。標記の化合物を白色の固体(80 mg, 82%, Mp 132℃)として回収する。
MW = C
34H
36N
4O
5として580 [ES/MS] m/z 581 [M + 1]
+
【0132】
D-7) tert-ブチル (4-メチル-3-(4-フェネチルベンズアミド)フェニルアミノ) (3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(6d)の製造
【化24】
【0133】
酸塩化物(1d)(80 mg, 0.33 mmol)の溶液を、室温でCH
2Cl
2(10 mL)中の塩基として用いられるBoc-グアニジン(5)(137 mg, 0.3 mmol)およびトリエチルアミン(0.06 mL, 0.45 mmol)の溶液に加える。 溶液を一晩撹拌し、CH
2Cl
2(10 mL)ならびにH
2O(10 mL)を加える。有機相を食塩水で洗浄し、乾燥し、真空下に濃縮する。残渣をEtOAc/Hept:2/3で溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、固体の形態で標記の化合物(6d)(150 mg, 75%, Mp 161℃)を得る。
【0134】
1H-NMR (CDCl
3, 300 MHz) d =10.47 (brs, 1 H), 9.37 (brs, 1 H), 8.02 -7.68 (m, 4 H), 7.29-7.01 (m, 11 H), 3.81 (s, 3 H), 3.68 (s, 6 H), 3.01-2.96 (m, 4 H), 2.37 (s, 3 H)1.42 (s, 9 H).
MW = C
38H
42N
4O
7として666 [ES/MS] m/z 667 [M + 1]
+
【0135】
D-8) 3,4,5-トリメトキシ-N-(N-(4-メチル-3-(4-フェネチルベンズアミド)フェニル)カルバムイミドイル)ベンズアミド塩酸塩(7d)の製造
【化25】
【0136】
AcOH(1.3 mL)および濃HCl(0.66 mL)の混合物中のBoc付加物(6d)(120 mg, 0.18 mmol)の溶液を室温で4時間撹拌する。溶媒を真空下に蒸発させ、残渣をEt
2O (10 mL)中に採取し、濾過し、白色の粉末(7d)(101 mg, 93%, Mp 186℃)を得る。
【0137】
1H-NMR (MeOH, d4, 300 MHz) d = 7.90 (d, 2 H J = 8 Hz), 7.52-7.16 (m, 12 H), 3.95 (s, 6 H), 3.87 (s, 3 H), 3.03-2.99 (m, 4 H), 2.38 (s, 3 H).
MW = C
33H
34N
4O
5として566 [ES/MS] m/z 567 [M + 1]
+
【0138】
D-9) tert-ブチル (3-(4-シンナミルベンズアミド)-4-メチルフェニルアミノ) (3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(6e)の製造
【化26】
【0139】
CH
2Cl
2(3 mL)中の酸塩化物(1e)(73 mg, 0.3 mmol)の溶液を、室温でCH
2Cl
2(10 ml)中のBoc-グアニジン(5)(137 mg, 0.3 mmol)およびトリエチルアミン(0.1 mL, 0.66 mmol)の溶液に加える。反応混合物を一晩放置する。水(8 mL)およびCH
2Cl
2(10 mL)を加える。有機相を飽和NaCl溶液で洗浄する。次いで、有機相を乾燥し、真空下に濃縮する。残渣をEtOAc/Heptの混液:1/4で溶出するシリカゲルカラムで精製する。標記の化合物を白色の固体(6e)(142 mg, 70%)の形態で得る。
【0140】
1H-NMR (CDCl
3, 300MHz) d = 10.47 (brs, 1 H), 9.36 (brs, 1 H), 8.02-7.01 (m, 17 H), 6.51-6.32 (m, 2 H), 3.81 (s, 3 H), 3.69 (s, 6 H), 3.62 (m, 2 H), 2.36 (s, 3 H), 1.42 (s, 9 H)
【0141】
D-10) (E)-N-(N-(3-(4-シンナミルベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩(7e)の製造
【化27】
【0142】
AcOH(1.5 mL)および濃HCl(0.75 mL)の混合物中のBoc化合物(6e)(122 mg, 0.15 mmol)の溶液を、室温で4時間撹拌する。次いで、溶媒を蒸発させ、残渣をEt
2O中に採取する。標記の化合物を白色の固体(7e)(101 mg, 91%, Mp 127℃)の形態で回収する。
【0143】
1H-NMR (MeOD, d4, 400MHz) d = 7.98-7.94 (m, 2 H), 7.52-7.28 (m, 12 H), 6.49-6.43 (m, 2 H), 3.95 (S, 6 H), 3.65 (s, 3 H), 3.66-3.64 (m, 2 H), 2.38 (s, 3 H).
MW = C
34H
34N
4O
5として578 [ES/MS] m/z 579 [M + 1]
+
【0144】
D-11) tert-ブチル (4-メチル-3-(4-スチリルベンズアミド)フェニルアミノ) (3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(6f)の製造
【化28】
【0145】
CH
2Cl
2(3 mL)中の酸塩化物(1f)の溶液を、CH
2Cl
2(10 mL)中のBocグアニジン(5)(137 mg, 0.3 mmol)およびトリエチルアミン(0.1 mL, 0.66 mmol)の溶液に加え、次いで、反応混合物を放置し一晩反応させる。次いで、水(10 mL)およびCH
2Cl
2(15 mL)を加える。有機相をデカント(decant)し、NaCl(水に飽和)溶液で洗浄し、乾燥し、蒸発させ、EtOAc/Hepの混液:3/7で溶出するシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、標記の化合物を白色の固体(6f)(130 mg, 65%, Mp 166℃)の形態で得る。
【0146】
1H-NMR (CDCl3, 300MHz) d = 10.47 (brs, 1 H), 9.35 (brs, 1 H), 8.02-7.09 (m, 17 H), 3.81 (s, 3 H), 3.71 (s, 6 H), 2.39 (s, 3 H), 1.43 (s, 9 H).
【0147】
D-12) N-(N-(3-(4-
スチリルベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩(7f)の製造
【化29】
【0148】
AcOH(3 mL)および濃HCl(1.5 mL)の混合物中のBoc化合物(6f)(120 mg, 0.18 mmol)の溶液を、室温で2時間撹拌する。次いで、溶媒を蒸発させ、残渣をEt
2O中に採取し、白色の固体(70 mg, 70%, Mp 221℃)を得る。
【0149】
1H-NMR (MeOD, d4, 300MHz) d = 8.02-7.29 (m, 16 H), 3.94 (s, 6 H), 3.87 (s, 3 H), 2.40 (s, 3 H).
MW = C
35H
32N
4O
5として564 [ES/MS] m/z 565 [M + 1]
+
【0150】
D-13) tert-ブチル (3-(4-ベンジルベンズアミド)-4-メチルフェニルアミノ) (3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(6g)の製造
【化30】
【0151】
CH
2Cl
2(3 mL)中の酸塩化物(1g)(73 mg, 0.3 mmol)の溶液を、室温でCH
2Cl
2(10 ml)中のBoc-グアニジン(5)(137 mg, 0.3 mmol)およびトリエチルアミン(0.1 mL, 0.66 mmol)の溶液に加える。混合物を放置し一晩反応させる。次いで、水(8 mL)およびCH
2Cl
2(10 mL) を加える。有機相を飽和NaCl溶液で洗浄し、次いで乾燥し、真空下に濃縮する。残渣をEtOAc/Heptの混液:1/8で溶出するシリカゲルカラムで精製する。標記の化合物を白色の固体(6g)(144 mg, 71%, Mp 105℃)の形態で得る。
【0152】
1H-NMR (CDCl
3, 300MHz) d = 10.47 (brs, 1 H), 9.35 (brs, 1 H), 8.01-7.07 (m, 16 H), 4.06 (s, 2 H), 3.80 (s, 3 H), 3.68 (s, 6 H), 2.31 (s, 3 H).
【0153】
D-14) N-(N-(3-(4-ベンジルベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩(7g)の製造
【化31】
【0154】
AcOH(1.5 mL)および濃HCl(0.75 mL)の混合物中のBoc化合物(7e)(103 mg, 0.15 mmol)の溶液を、室温で4時間撹拌する。次いで、溶媒を蒸発させ、残渣をEt
2O中に採取する。標記の化合物を白色の固体(7g)(85 mg, 90%, Mp 112℃)の形態で得る。
【0155】
1H-NMR (MeOD, d4, 400MHz) d = 7.95 (d, J = 8 Hz, 1 H), 7.53-7.23 (m, 12 H), 4.09 (s, 2 H), 3.36 (s, 6 H), 3.86 (s, 3 H), 2.39 (s, 3 H).
MW = C
32H
32N
4O
5として552 [ES/MS] m/z 553 [M + 1]
+
【0156】
D-15) tert-ブチル (3-(4-(ベンジルオキシ)ベンズアミド)-4-メチルフェニルアミノ) (3,4,5-トリメトキシベンズアミド)メチレンカルバメート(6h)の製造
【化32】
【0157】
CH
2Cl
2(3 mL)中の酸塩化物(1h)(73 mg, 0.3 mmol)の溶液を、室温でCH
2Cl
2(10 ml)中の Boc-グアニジン(5)(137 mg, 0.3 mmol)およびトリエチルアミン(0.1 mL, 0.66 mmol)の溶液に加える。混合物を放置し一晩反応させる。次いで、水(8 mL)およびCH
2Cl
2(10 mL)を加える。有機相を飽和NaCl溶液で洗浄し、次いで乾燥し、真空下に濃縮する。残渣をEtOAc/Heptの混液:1/4で溶出するシリカゲルカラムで精製する。標記の化合物を白色の固体(6h)(103 mg, 68%, Mp 94℃)の形態で得る。
【0158】
D-16) N-(N-(3-(4-(ベンジルオキシ)ベンズアミド)-4-メチルフェニル)カルバムイミドイル)-3,4,5-トリメトキシベンズアミド塩酸塩(7h)の製造
【化33】
【0159】
AcOH(1.5 mL)および濃HCl(0.75 mL)の混合物中のBoc化合物(6h)(116 mg, 0.18 mmol)の溶液を、室温で4時間撹拌する。次いで、溶媒を蒸発させ、残渣をEt
2O中に採取する。標記の化合物を白色の固体(7h)(80 mg, 82%, Mp 192℃)の形態で回収する。
【0160】
1H-NMR (MeOH, d6, 300MHz) d = 8.02-7.99 (m.2 H), 7.54-7.16 (m, 11 H), 5.23 (s, 2 H), 3.97 (s, 6 H), 3.88 (s, 3 H), 2.39 (s, 3 H)
MW = C
32H
32N
4O
6として568 [ES/MS] m/z 569 [M + 1]
+
【0161】
E/ 式(I)の化合物の放射性同位体でのラベル化
E-1) 化合物(7f)の化合物(7d)への水素化
【化34】
【0162】
MeOH中の塩酸塩の形態の化合物(7f)(5 mg, 0.08 mmol)およびPd/C(10%)を水素(バルーン)下で4時間撹拌する。次いで、混合物を濾過し、真空下に濃縮し、塩酸塩の形態の化合物(7d)を得る。
MW = C
33H
34N
4O
5として566 [ES/MS] m/z 567 [M + 1]
+および565 [M-1]
+
【0163】
E-2) 化合物(7f)の
3H-(7d)へのトリチウム化
【化35】
【0164】
5-mLのバルーンフラスコ中で、化合物(7f)(2.5 mg, 0.04 mmol)をMeOH(1 mL)中に溶解し、溶液を冷却(液体窒素)する。表面に触媒(Pd/C 10%)を分散する。フラスコ内が真空になった時点で、トリチウムガスを30 psiの圧力に達するまで導入する。反応混合物を3時間撹拌する。触媒を濾過し、過剰のトリチウムをMeOHと一緒に真空下で取り除く。精製なしに、生成物(7d)が直接得られる。
【0165】
化合物[
3H]-(7d)の特徴付け:
- 純度: > 98% (HPLC)
- 比放射能: 38.1 Ci/mmol (1.41 TBq/mmol)
- 濃度: 1.0 mCi/ml (37 MBq/ml)
【0166】
クロマトグラフデータ:
- HPLCカラム:Macherey + Nagel Nucleodur Gravit)' C8, (5 flm), 4.6×150 mm
- 移動相:A: 水 0.05% TFA; B: MeCN 0.05% TFA
- 勾配: 0分 30% B; 10分 95% B; 14分 95% B; 14分 95% B; 14.5分 30%
- 流速: 1.0 ml/分
- 試料: メタノール中1.30 mCi/ml (48.1 MBq/ml)
- 注入: 5.0 μl (6.5 μCi, 240 KBq)
- UV検出: 254 nm
- 温度: 30℃
- 放射線検出器: Berthold LB 513
- カクテル: Zinsser Quicksz int Flow 302
- 流速: 2.0 mL/分
- 保持時間: 7.17分 (UV); 7.30分 (放射線検出器) (2つの保持時間の違いは、2つの検出器の直列での設置による)。
【0167】
実施例2:式(I)の化合物のヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路に対する調節効果およびSmoothened受容体上へのそれらの固定の実証
本発明の式(I)の化合物のヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の阻害に対する効果を、合成活性剤:SAGによる多能性線維芽細胞C3H10T1/2細胞のヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の活性化後の多能性線維芽細胞のC3H10T1/2細胞株の分化をインビトロで分析することにより測定した。化合物Xの活性を、小脳顆粒細胞の初代培養物の成長からも評価した。この最後に言及した化合物のマウスSmoothened受容体への結合に対する能力が、Chenら, Genes Dev., 2002, 16, 2743に記載されたように、受容体の膜貫通領域に結合するシクロパミンから誘導された蛍光化合物のボディー(body)-シクロパミンとの競合によっても測定された。
【0168】
1- 材料と方法
C3H10T1/2細胞における、式(I)の化合物によるヘッジホッグ経路の阻害:
式(I)の試験化合物は、ジメチルスルホキシド中、10 nMまで溶解され、次いで、使用まで-20℃の温度で保管された。
C3H10T1/2多能性線維芽細胞株(ATCC)は、ATCCによって推奨される条件下で培養された。これらの細胞は、Chenら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2002, 99, 14071およびFrank-Kamenetskyら, J. Biol., 2002, 1, 10に記載の方法に従って、0.1 μMのSAGを用いて活性化された。
【0169】
SAGによる活性化は、前記細胞株の分化を引き起こし、該細胞がアルカリホスファターゼ(AP)を発現することを可能にする。したがって、アルカリホスファターゼ(AP)活性の測定によってヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路の活性を測定することができた。
【0170】
C3H10T1/2細胞を、ウエル当たり5×10
3 細胞の密度で96ウエルプレートに播種し、24時間後、培地として10%のウシ胎仔血清を有するDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)を用いて、0.1 μMのSAGの存在下、1 nM〜30 μMの範囲の濃度で試験化合物を添加した。試験は4反復で行った。次いで、プレートを5% CO
2の雰囲気下、37℃の温度で5〜6日間インキュベートした。次いで細胞を冷たいリン酸緩衝液(「リン酸緩衝血清(Serum)」:PBS)中で洗浄し、次いで、0.9%のNaClおよび0.2%のTriton X-100を含む50 μlの溶液中、4℃での超音波処理により溶解した。
【0171】
比較のため、ヘッジホッグタンパク質シグナル伝達経路のその他の既知の阻害剤の活性が、本発明による式(I)の種々の化合物を試験するために用いられたのと同じ条件で試験された:
- 次の式:
【化36】
に相当する、Incardonaら, Development, 1998, 125, 3553に記載のシクロパミン、
- 前記のMRT-83、および
【0172】
- 次の式:
【化37】
に相当する、例えばPanおよびDorsch; ACS Med. Chem. Lett., 2010, 1: 130-134に記載のLDE225。
【0173】
次いで、得られた溶解物中のアルカリホスファターゼ(AP)の測定が、Pepinskyらによって記載された方法(J. Biol. Chem., 1998, 273, 14037)に従って行われた。100 μmの反応緩衝液(200 mM Tris-HCL; pH 10.5; 0.4 Mの2-アミノ-2-メチルプロパノールおよび8 mMのMgCl
2)と50 μlの基質(4 mMのジナトリウム p-ニトロフェニル ホスフェート)を添加後、該溶解物を37℃で30〜60分間インキュベートし、次いで光学密度を415 nmの波長で読み取った。
【0174】
小脳顆粒細胞の前駆体の増殖における式(I)の化合物の活性:
顆粒細胞前駆体(GCP)は、生後8日(P8)のラット(IFFA- CREDO, France)の小脳から単離される。小脳を取り出し、小片に切断し、クレブス-リンゲル(Krebs-Ringer)緩衝液(120 mM NaCl, 5 mM KCl, 1 mM KH
2PO
4, 25 mM NaHCO
3, 15 mM グルコース, 0.04 mM フェノールレッド)中に置き、250 mg/mlのトリプシン(Sigma, France)が追加されたクレブス-リンゲルから構成される解離緩衝液中、室温で15分間インキュベートした。酵素的解離を、250 mg/mlのトリプシン阻害剤および80 mg/mlのDNase(Sigma, France)を含む、等容積のクレブス-リンゲル緩衝液を加えることによって停止した。該組織を100 gで10秒間遠心分離し、得られるペレットを再懸濁し、直径が減少している複数のパスツールピペットを用いて粉砕し、単離細胞の懸濁液を得る。この懸濁液を200 gで5分間遠心分離し、得られるペレットを、1 mMのピルベート、2 mM L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシンおよび1%のサプリメントN2、60 mg/ml N-アセチルシステインおよび100 mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA, Sigma, France)が補充されたNeurobasal培地中に再懸濁する。
【0175】
得られる小脳GCPsを、ウエル当たり2×10
5 細胞の密度で、前もってポリ-D-リジンで処理された96ウエルプレートに移す。他の試験化合物の存在または非存在下のSAGをすぐに加える。培養の終了前15時間にトリチウム化されたチミジン(
3H-チミジン)を加える。自動細胞収集器(Brandel, USA)を用いて、細胞をガラス繊維フィルター(GF/C)で吸引し、回収する。細胞に取り込まれた放射活性の量を、液体シンチレーションカウンター(Wallac, USA)中、シンチレーティング剤の存在下で定量した。
【0176】
式(I)の化合物のボディパイ-シクロパミン(BC)との競合:
ヒトSmo受容体で安定にトランスフェクトされたHEK293細胞株を用いる。実験は、Roudautら, Mol. Pharmacol. 79: 453-460, 2011に記載のプロトコールに従って行われた。式(I)の化合物によるボディパイ-シクロパミン(BC)の結合の阻害は、撮影され、Simple PCI 6.2ソフトウエア(Hamamatsu Corporation)を用いて定量化され、次いで、写真上に存在する核の表面積に言及される蛍光の減少によって測定される。
【0177】
トリチウム化された化合物
3H-(7d)の放射性(radio)-結合試験:
結合試験は、Smoothened受容体が豊富な膜で行われる。HEK-hSmo細胞株がこれらの膜の製造のために用いられた。細胞を洗浄し、氷冷のPBS中に回収した。100 g、4℃で7分間遠心分離後、ペレットを、その容積の10倍の、緩衝液1 ml当たり10 μlのプロテアーゼ阻害剤(PEAK, Sigma)を添加した氷冷緩衝液A(50 mM HEPES, pH 7.4, 1 mM EDTA)中に採取し、次いで、それをPolytron粉砕製粉機を用いて均質にする。核を細胞から取り出すことを可能にする、500 g、4℃で30分間の遠心分離後、上清を48 000 g、4℃で45分間、再度遠心分離する。ペレットをPEAKが加えられた緩衝液Aの2 ml中に採取し、次いで、その懸濁液をガラス円錐形粉砕製粉機(glass conical grinding mill)を用いて均質にし、23 Gニードルに通す。最後に、一定分量をエッペンドルフ型チューブに入れ、-80℃で保管する。標準の範囲を作成するために、調製品中の全タンパク質の濃度を、BSAを用いるローリー法により測定する。この濃度は10.9 mg/mlである。
【0178】
膜を、0.2%のBSAを含む緩衝液(50 mM HEPESおよび3 mM MgCl
2)中に再懸濁する。
3H-(7d)の結合の試験をポリプロピレンチューブ中で行う。膜(2 μのタンパク質)をコールド(cold)の試験化合物の存在または非存在下、最終容積400 μlで、3時間、37℃でインキュベートする。チューブを氷冷水中に浸け、続いて、濾過膜への
3H-(7d)の非特異的結合を減ずることができる0.3%のポリエチレンイミンで前もって処理したガラス繊維濾過膜(GF/C)による急速濾過によりインキュベーションを停止する。フィルター上に保持された放射活性を、液体シンチレーションカウンター中、3 mlのシンチレーティング剤の存在下に測定する。特異結合は、Romerら, Cancer Cell, 2004, 6, 229に記載されているGDC-0449の1 μMによって阻害することができる結合として定義され、ここで、GDC-0449は次の式に相当する:
【0179】
【化38】
【0180】
2- 式(I)の化合物の生物学的活性の結果
C3H10T1/2細胞における、式(I)の化合物によるヘッジホッグ経路の阻害:
式(I)の化合物ならびに参照化合物のシクロパミン、LDE225およびMRT-83を用いて得られた結果を、次の表1に示す。各化合物に対して、0.1 μMのSAGによるインキュベーション後、アルカリホスファターゼ(AP)活性の50%を阻害できる濃度(IC
50)を評価した。化合物(7d)および参照化合物を用いて得られた阻害曲線が
図1Aに示される。
【0181】
【表1】
【0182】
化合物(7d)の活性はまた、化合物MRT-10および種々のチオウレア化合物(次の化合物20〜27)と比較された。その結果を表2に集約する。
【0183】
【化39】
【0184】
【表2】
【0185】
SAGにより誘導されるラット小脳の顆粒前駆細胞の増殖に対する、選択された分子の親和性の測定:
小脳のPCGsは、Shhシグナル伝達経路の活性化に応答して増殖し、応答はSmoアンタゴニストによって阻害することができる(Rohatgiら, 2009, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106: 3196-201)。それゆえ、我々は、初代培養におけるラット小脳のPCGsの増殖を阻害することに対する化合物(7d)の能力を、増殖の過程の間に新たに合成されたDNAのマーカーのトリチウム化されたチミジンの取り込みを測定することによって解析した。SAGの濃度を増加させることは、ベースラインより上に、トリチウム化されたチミジンの取り込みにおける用量依存的な増加を引き起こす。化合物(7d)は、SAG(0.01μM)により誘導されるPCGsの増殖において、0.45 nMのIC
50で完全なアンタゴニストの性質を示す(
図1B)。LDE225、化合物MRT-83およびシクロパミンもまた、より弱い親和性であるが、この増殖を妨害し、それらのIC
50は、それぞれ3、6および103 nMである(表3)。
【0186】
Smoothened受容体に対するボディパイ-シクロパミン(BS)の結合に対しての選択された分子の親和性の測定:
化合物(7d)のSmoへの結合の性質を研究するため、我々は、この分子が、これらの膜貫通領域のレベルでSmoと相互作用する、ボディパイ-シクロパミン(BC)(b)の結合と競合できるかどうかを解析した。細胞を、異なる濃度の化合物(7d)、MRT-83、LDE225およびシクロパミンの存在または非存在下、BC(5 nM)と一緒に2時間インキュベートした。インキュベーションの最後に、細胞を固定し、蛍光顕微鏡において青色に核を可視化することができるDNAに対して高い親和性を有する蛍光分子のDAPIで染色する。試験された4つの分子は、ヒトSmo受容体を安定的に発現するHEK-hSmo細胞へのBCの結合を用量依存的に妨害する。化合物(7d)およびMRT-83の親和性は、非常に類似して高いことが観察される(
図1C)。これらの全てのデータは、化合物(7d)がヒトおよびマウスのSmo受容体の強力なアンタゴニストであることを立証する(表1)。
【0187】
【表3】
【0188】
IC
50値は、Shh-Light2細胞中にShhN(4 nM)によって誘導したGli-ルシフェラーゼ レポーターの活性(1)、SAG(0.1 μM)によって誘導されたC3H10T1/2細胞の分化に関連するアルカリホスファターゼ(AP)の活性(2)、SAG(0.01 μM)による誘導、続く
3H-チミジンの取り込みによるラット小脳のPCGsの増殖活性(3)およびHEK-hSmo細胞に発現させたヒトSmo受容体へのボディパイ-シクロパミン(BS)の結合(4)を測定すること(
図1の曲線)によって決定された。
実施された全ての実験は、インビトロでShh経路を調節することに対する式(I)の化合物の能力を強調する。それらの活性は、ボディパイ-シクロパミン(BS)の競合部位でのSmoothenedタンパク質への結合によって説明され得る。
【0189】
3- 放射性リガンド
3H-(7d)の結合特性に対する結果
放射性リガンド
3H-(7d)のヒトSmoothened受容体との結合の動態:
化合物(7d)は、我々にこの分子のトリチウム体:化合物
3H-(7d)を合成することを助長した、Hhシグナル伝達経路の非常に強力なアンタゴニストである。我々は、ヒトSmo受容体を安定的に発現するHEK293細胞(HEK-hSmo)の膜のホモジネートと化合物
3H-(7d)の結合の結合についての動態を研究することによって、この放射リガンドの性質の特徴付けを開始した。化合物
3H-(7d)の結合を、放射活性リガンドの固定濃度(0.35 nM)および受容体の固定量(2 μgのタンパク質)の存在下、25℃および37℃で5時間試験した。この実験において、化合物
3H-(7d)の特異的結合が平衡状態に達するためにかかる時間を決定する問題がある。25℃で5時間のインキュベーション後、平衡に達しなかった。37℃で3時間のインキュベーション後、平衡に達し、5時間のインキュベーション後、平衡は維持される(
図2)。5分のインキュベーションを超えると、化合物
3H-(7d)の非特異的結合(0.1 μMのGDC0449の存在下で定義される)は低く(全結合の0.4%)、実験を通して安定した状態を保つ。
【0190】
HEK-hSmo細胞の膜(2 μgのタンパク質)を、最終容積 0.4 mlのHEPES緩衝液(0.2% BSA)中で、0.35 nMの
3H-(7d)と一緒に5時間、25℃(青色)または37℃(桃色)でインキュベートした。非特異的結合を、1 μMの参照SmoアンタゴニストのGDC-0449存在下で評価した。GraphPad Prismによる特異的結合の解析は、37℃で33分および25℃で71分の半結合時間(half-association time)を与える。データは、3反復(代表的実験、n=2)の平均値±SEM である。
【0191】
化合物
3H-(7d)のヒトSmoothened受容体への結合の飽和の実験:
次に、化合物
3H-(7d)のHEK-hSmo系の細胞の膜に発現されたSmo受容体への結合の飽和を研究することによって、化合物
3H-(7d)の性質を特徴付けた。放射活性リガンドの増加濃度のインキュベーションの間の、固定量の受容体(2 μgのタンパク質)との平衡での特異的結合を測定する問題がある。1 μMのGDC-0449を用いて定義される、HEK-hSmo細胞の膜に発現されたSmo受容体への化合物
3H-(7d)の特異的結合の飽和は、
図3Aに示される。曲線の解析は、Scatchard表現によって視覚化された高い親和性の単一の結合部位:K
d = 0.3 ± 0.1 nMおよびB
max = 1086 ± 91 cpmを示す(
図3B)。
【0192】
化合物
3H-(7d)の結合が、本当にSmo受容体に特異的であることを確かめるため、我々はまた、ヒトSmo受容体をコードするcDNAでトランスフェクトされないHEK293細胞の膜を用いて、この飽和実験を行った。GDC-0449(1 μM)は、化合物
3H-(7d)のこれらの膜への結合に効果を有さない。それゆえ、化合物
3H-(7d)のHEK-hSmo細胞の膜への結合は、本当にSmo受容体特異的である。
【0193】
ヒトSmoothened受容体への化合物
3H-(7d)の結合の薬理学的解析:
HEK-hSmo系の細胞の膜に発現されたSmo受容体への化合物
3H-(7d)の結合の薬理学は、Smoのアンタゴニストおよびアゴニストの存在下に解析された。この実験において、受容体への結合に対して、コールドのリガンドは放射活性リガンドと競合し、受容体に対する各コールドリガンドの親和性(K
i)は、阻害曲線から推定されるIC
50値に基づいて解析される。コールドの化合物(7d)は、Smoへの化合物
3H-(7d)の結合の阻害に対して最も強力である(IC
50 = 1.5 nM)。化合物LDE225、GDC-0449およびMRT-83は、それぞれ4 nM、12 nMおよび11 nMのIC
50の値である。1 μMの濃度のGDC-0449は、化合物
3H-(7d)の特異的結合を完全に阻害する。1 μMのGDC-0449の存在下での各実験に対して、非特異的結合が定義された。シクロパミンおよび化合物Cur61414もまた、ずっと低い親和性、特にCur61414に対してマイクロモルオーダーのIC
50の値であるが、化合物
3H-(7d)の結合を阻害することができる (
図4)。アゴニストに対して、SAGは、ナノモルオーダーの親和性(IC
50 = 5 nM)を示すのに対して、プルモルファミンは活性でない(IC
50 > 1000)(
図5)。化合物に対して計算されたK
iの値が表3に提示される。
【0194】
【表4】
【0195】
IC
50およびK
iの値は、HEK-hSmo系の細胞に発現されたヒトSmo受容体への化合物
3H-(7d)の結合を測定することによって決定される。データは、2〜3の代表的実験の平均値±SEMである。