(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分岐状ポリマーが、コア部と、該コア部から伸びる乳酸−ε−カプロラクトン共重合体からなるアーム部を少なくとも3つ有する星型ポリマーである、請求項1に記載の分岐状ポリマー。
ペンタエリスリトール残基又はジペンタエリスリトール残基をコア部として有し、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールの水酸基とアーム部を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体のカルボキシル基がエステル結合により連結している構造を有する星形ポリマーである、請求項1又は2に記載の分岐状ポリマー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れた柔軟性及び生体内分解吸収性を併せ持つ分岐状ポリマー、及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体からなるアーム部を少なくとも3つ有し、且つ重量平均分子量が15万以上の分岐状ポリマー(特に、星型ポリマー)により構成されるフィルムは柔軟性に優れており、しかも一定期間経過後には生体内で速やかに分解吸収される特性を備えさせ得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の生分解性高分子化合物及びその製造方法を提供する。
項1.乳酸−ε−カプロラクトン共重合体からなるアーム部を少なくとも3つ有し、且つ重量平均分子量が15万以上である、分岐状ポリマー。
項2.前記分岐状ポリマーが、コア部と、該コア部から伸びる乳酸−ε−カプロラクトン共重合体からなるアーム部を少なくとも3つ有する星型ポリマーである、項1に記載の分岐状ポリマー。
項3.ペンタエリスリトール残基又はジペンタエリスリトール残基をコア部として有し、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールの水酸基とアーム部を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体のカルボキシル基がエステル結合により連結している構造を有する星形ポリマーである、項1又は2に記載の分岐状ポリマー。
項4.下記一般式(1)又は(2)で示される化合物である、項1〜3のいずれかに記載の分岐状ポリマー。
【化1】
[一般式(1)中、n1〜n4は、同一又は異なって0〜4の整数を示し、x1〜x4は、同一又は異なって0又は1を示し、R1〜R4は、同一又は異なって乳酸−ε−カプロラクトン共重合体又は水素原子を示し、且つR1〜R4の少なくとも3つは乳酸−ε−カプロラクトン共重合体を示す。]
【化2】
[一般式(2)中、m1〜m8は、同一又は異なって0〜4の整数を示し、y1〜y8は、同一又は異なって0又は1を示し、R5〜R10は、同一又は異なって、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体又は水素原子を示し、且つR5〜R10の少なくとも3つは乳酸−ε−カプロラクトン共重合体を示す。]
項5.130℃以下の反応温度において、3価以上の多価アルコールの存在下でラクチドとε−カプロラクトンの開環重合を行うことにより得られ、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体からなるアーム部を少なくとも3つ有し、且つ重量平均分子量が15万以上である分岐状ポリマー。
項6.項1〜5のいずれかに記載の分岐状ポリマーを含む、医療用材料。
項7.前記医療用材料が、人工硬膜、人工血管、軟骨用基材及び癒着防止膜からなる群より選択される少なくとも1種の医療用インプラントである、項6に記載の医療用材料。
項8.乳酸−ε−カプロラクトン共重合体からなるアーム部を少なくとも3つ有し、且つ重量平均分子量が15万以上である分岐状ポリマーの製造方法であって、
3価以上の多価アルコールの存在下でラクチドとε−カプロラクトンの開環重合を行う工程を含み、
且つ反応温度が130℃以下である、前記製造方法。
項9.医療用材料の製造のための、項1〜5のいずれかに記載の分岐状ポリマーの使用。
項10.医療用インプラントの移植が求められる疾患を有する患者を治療する方法であって、当該疾患部位に、項1〜5のいずれかに記載の分岐状ポリマーを含む医療用インプラントを挿入する工程を含む、治療方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分岐状ポリマーは、優れた柔軟性と生体内での分解吸収性を併せ持つものである。特に、本発明の分岐状ポリマーは、従来医療用材料として一般的に使用されている直鎖状の乳酸−ε−カプロラクトンと同様の生体内での分解挙動を保持しながらも、従来の生分解性高分子化合物では実現し得なかった優れた柔軟性を有していることから、人工硬膜や人工血管といった柔軟性が求められる医療用インプラントの材料として特に好適である。更に、本発明の製造方法によれば、前記特性を有する分岐状ポリマーを効率よく調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.分岐状ポリマー
本発明の分岐状ポリマーは、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体からなるアーム部を3つ以上有する分岐状の構造を備えるものである。当該分岐状ポリマーにおいて、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体からなるアーム部の数については、3以上であればよいが、好ましくは3〜10、更に好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6が挙げられる。
【0010】
また、本発明の分岐状ポリマーのアーム部を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体において乳酸は、L−乳酸、D−乳酸、もしくはL−乳酸とD−乳酸の混合体のいずれであってもよいが、好ましくはL‐乳酸である。また、アーム部を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体は、交互共重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれであってもよいが、好ましくはランダム共重合体である。
【0011】
本発明の分岐状ポリマーにおいて、アーム部を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体中の乳酸/ε−カプロラクトンのモル比は、例えば35/65〜65/35、好ましくは40/60〜60/40、更に好ましくは45/55〜55/45が挙げられる。本発明の分岐状ポリマーにおける3以上のアーム部は、各々同一の組成の乳酸−ε−カプロラクトン共重合体から構成されていてもよく、また各々異なる組成の乳酸−ε−カプロラクトン共重合体から構成されていてもよい。
また、本発明の分岐状ポリマーにおいて、アーム部を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体1本当たりの重量平均分子量としては、後述する分岐状ポリマー全体の重量平均分子量を充足できることを限度として特に制限されないが、例えば3万〜10万、好ましくは3.1万〜9万、更に好ましくは3.2万〜7.5万が挙げられる。ここで、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて直鎖ポリスチレンを標準物質として用いて計測される値である。また、本発明の分岐状ポリマーにおける3以上のアーム部は、重量平均分子量が各々同一であってもよく、また重量平均分子量が各々異なっていてもよい。
【0012】
また、本発明の分岐状ポリマーの重量平均分子量は15万以上であり、好ましくは16万〜50万、更に好ましくは19万〜45万が挙げられる。ここで、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて直鎖ポリスチレンを標準物質として用いて(GPC:具体的な条件は後述する実施例において記載される)により計測される値である。分岐状ポリマーの重量平均分子量を前記範囲とすることにより、人工硬膜、人工血管等の医療用インプラントの材料として用いた場合、より一層優れた柔軟性や生体内分解吸収性を担保することができる。
【0013】
本発明の分岐状ポリマーの構造については、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体からなるアーム部を3つ以上有し、これらのアーム部がコア部に連結している分岐状ポリマーであることを限度として特に制限されず、星型、櫛型、H型、ボトルブラシ型、スターバースト型等のいずれであってもよい。高い柔軟性と優れた生体内分解吸収性を一層良好に兼ね備えさせるという観点から、本発明の分岐状ポリマーの構造として、好ましくは星型が挙げられる。
【0014】
本発明の分岐状ポリマーにおけるコア部の構造については、特に制限されず、当該分岐状ポリマーの構造に応じて適宜設計すればよい。例えば、分岐状ポリマーにおけるコア部として、3価以上の多価アルコールの残基、又は3価以上の多価アミンの残基が挙げられる。前記分岐状ポリマーにおけるコア部が3価以上の多価アルコールの残基で構成される場合、当該多価アルコールの水酸基がアーム部を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体のカルボキシル基とエステル結合により連結した構造になる。また、前記分岐状ポリマーにおけるコア部が3価以上の多価アミンの残基で構成される場合、当該多価アミンのアミノ基がアーム部を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体のカルボキシル基とアミド結合により連結した構造になる。
【0015】
前記分岐状ポリマーにおけるコア部を構成する化合物として、具体的には、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビトール、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート);グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの単糖類;ラクトース、スクロース、マルトース等の二糖類等の3価以上の多価アルコールが挙げられる。また、3価以上の多価アミンとして具体的には、トリエチレンテトラミン、ポリオキシエチレントリアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリアミノプロパンが挙げられる。
【0016】
本発明の分岐状ポリマーの好適な例として、ペンタエリスリトール残基、又はジペンタエリスリトール残基をコア部として有する星型ポリマー、即ちペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールの各水酸基を重合開始点とし、ラクチドおよびε−カプロラクトンの開環重合を行うことで得られる、アーム部を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体のカルボキシル基がコア部の水酸基とエステル結合により連結した構造の星型ポリマーが挙げられる。
【0017】
また、前記分岐状ポリマーの好適な例として、下記一般式(1)又は(2)で示される星型ポリマーが例示される。
【0020】
一般式(1)中、n1〜n4は、同一又は異なって0〜4の整数を示す。n1〜n4として、好ましくは0〜2の整数、更に好ましくは0が挙げられる。
【0021】
一般式(1)中、x1〜x4は、同一又は異なって0又は1を示す。x1〜x4として、好ましくは0が挙げられる。
【0022】
また、一般式(1)中、R1〜R4は、同一又は異なって、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体又は水素原子を示し、且つR1〜R4の少なくとも3つは乳酸−ε−カプロラクトン共重合体を示す。一般式(1)で示される星型ポリマーの好適な例として、R1〜R4の全てが乳酸−ε−カプロラクトン共重合体であるものが挙げられる。なお、R1〜R4を構成する少なくとも3つの乳酸−ε−カプロラクトン共重合体は、各々同じ分子量のものであってもよく、また各々異なる分子量のものであってもよい。R1〜R4を構成する少なくとも3つの乳酸−ε−カプロラクトン共重合体について、その分子量、共重合体の構成成分である乳酸の光学異性体の種類等については、前記の通りである。なお、R1〜R4を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体は一般式(1)中の酸素原子と共にエステル結合を形成することによって連結している。
【0023】
一般式(2)中、m1〜m8は、同一又は異なって0〜4の整数を示す。m1〜m3及びm6〜m8として、好ましくは0〜2の整数、更に好ましくは0が挙げられる。m4及びm5として、好ましくは1〜3の整数、更に好ましくは1が挙げられる。
【0024】
一般式(2)中、y1〜y8は、同一又は異なって0又は1を示す。y1〜y8として、好ましくは0が挙げられる。
【0025】
また、一般式(2)中、R5〜R10は、同一又は異なって、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体又は水素原子を示し、且つR5〜R10の少なくとも3つは乳酸−ε−カプロラクトン共重合体を示す。一般式(1)で示される星型ポリマーとして、R5〜R10の内、少なくとも4つが乳酸−ε−カプロラクトン共重合体であるものが好ましく、少なくとも5つが乳酸−ε−カプロラクトン共重合体であるものが更に好ましく、これらの全てが乳酸−ε−カプロラクトン共重合体であるものが特に好ましい。なお、R5〜R10を構成する少なくとも3つの乳酸−ε−カプロラクトン共重合体は、各々同じ分子量のものであってもよく、また各々異なる分子量のものであってもよい。R5〜R10を構成する少なくとも3つの乳酸−ε−カプロラクトン共重合体について、その分子量、共重合体の構成成分である乳酸の光学異性体の種類等については、前記の通りである。なお、R5〜R10を構成する乳酸−ε−カプロラクトン共重合体は、一般式(1)中の酸素原子と共にエステル結合を形成することによって連結している。
【0026】
2.製造方法
本発明の分岐状ポリマーは、コア部として3価以上の多価アルコールを使用する場合、コア部を構成する化合物の水酸基を重合開始点として利用し、ラクチドとε−カプロラクトンの開環重合により調製することができる。また、コア部として3価以上の多価アミンを使用する場合には、予め片末端にカルボキシル基等の反応性官能基を有する乳酸‐ε−カプロラクトン共重合体を調製し、その後コア部を構成する化合物の水酸基やアミノ基等とのカップリング反応によって結合させることにより調製してもよい。本発明においては、反応効率が高いことから、開環重合により分岐状ポリマーを調製する方法が好適な例として挙げられる。
【0027】
ラクチドとε−カプロラクトンの開環重合により分岐状ポリマーを得る方法として、好適には、3価以上の多価アルコールの存在下でラクチドとε−カプロラクトンの開環重合を行う工程を含み、且つ反応温度が130℃以下であることを特徴とする方法が挙げられる。ここで、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体、3価以上の多価アルコールについては前述の通りである。
【0028】
ラクチドとε−カプロラクトンを開環重合させる際に、従来公知の触媒を用いることもできる。ラクチドとε−カプロラクトンの開環重合に使用される触媒としては、例えば、2−エチルヘキサン酸スズ、オクチル酸スズ(II)、トリフェニルスズアセテート、酸化スズ、酸化ジブチルスズ、シュウ酸スズ、塩化スズ、ジブチルスズジラウレート、トリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド、トリエチルアルミニウム、チタン酸テトラブチル、ビスマス等の金属触媒、有機オニウム塩等の有機塩基触媒等が挙げられる。これらの中でもスズを含む金属触媒が好ましく、より具体的には2−エチルヘキサン酸スズが好適な例として挙げられる。
【0029】
本発明の製造方法において前記触媒を使用する場合の使用量は、乳酸とε−カプロラクトンの開環重合反応を触媒し得る量であれば特に限定されないが、金属触媒の場合は金属換算で30〜150ppmが挙げられ、より具体的には、例えば2−エチルヘキサン酸スズを用いる場合であればスズ換算で50〜130ppm、好ましくは70〜110ppmが挙げられる。また、有機塩基触媒の場合はモノマーに対して0.1〜2.0mol%が例示される。
【0030】
本発明の分岐状ポリマーの製造方法において、開環重合を行う際の反応温度は130℃以下であり、好ましくは90〜130℃、更に好ましくは120〜130℃が挙げられる。このような温度条件下で反応を行うことにより、適切な重量平均分子量と柔軟性を備えた分岐状ポリマーを調製することができる。また、開環重合の際の雰囲気については特に限定されないが、減圧、真空等のもとで行ってもよく、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0031】
本発明の製造方法においては、必要に応じて、調製された分岐状ポリマーを、従来公知の手法に従って、更に粉砕、精製、洗浄、乾燥等の処理に供してもよい。
【0032】
乳酸とε−カプロラクトンの開環重合反応を行う際に使用される触媒として金属触媒を使用する場合には、触媒を除去することが可能な洗浄溶媒を用いることが好ましい。このような洗浄溶媒としては、有機酸とアルコールから構成されるものを好適に使用することができ、より具体的には、酢酸とイソプロパノールの混合物が挙げられる。酢酸とイソプロパノールの混合比は、分岐状ポリマーが溶解しない範囲であればよく、好ましくは酢酸/イソプロパノールの混合比は15/85〜35/65(容量/容量)である。洗浄溶媒は分岐状ポリマー1kgに対して1L以上であればよく、好ましくは1L〜5Lが挙げられる。また、洗浄液の交換回数については金属触媒が1ppm未満となるまで交換すれば良く、例えば5回〜10回が挙げられる。
【0033】
3.用途及び物性
本発明の分岐状ポリマーは従来の直鎖状乳酸−ε−カプロラクトン共重合体と同様の優れた生体内分解吸収性を有し、更に生体組織等と同等の柔軟性を合わせ持つものである。従って、このような生分解性高分子化合物は、医療用材料として好適に利用される。即ち、本発明は、当該生分解性高分子化合物を含む医療用材料、特に医療用インプラントを提供する。
【0034】
本発明の分岐状ポリマーを含む医療用材料は、当該分岐状ポリマーのみから構成されていてもよいが、必要に応じて他の生体内分解吸収性ポリマーを含んでいてもよい。当該他の生体内分解吸収性ポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸、乳酸―グリコール酸共重合体、ポリグリコール酸、乳酸−ε−カプロラクトン共重合体、グリコール酸−ε−カプロラクトン共重合体、乳酸―グリコール酸−ε−カプロラクトン3元共重合体、ポリジオキサノン等が挙げられる。
【0035】
本発明の分岐状ポリマーを含む医療用材料が前記分岐状ポリマー以外の生体内分解吸収性ポリマーを含む場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、前記医療用材料100重量部当たり、当該生体内分解吸収性ポリマー(前記分岐状ポリマー以外)が0〜90重量部、好ましくは0〜70重量部、更に好ましくは0〜50重量部が挙げられる。
【0036】
本発明の分岐状ポリマーを含む医療用材料の形状については、特に制限されないが、例えば、シート、フィルム、パッチ、チューブ、発泡体、繊維構造物、メッシュプレート等が挙げられる。更に、前記医療用材料は、必要に応じて、細胞増殖因子、成長因子、抗菌剤、抗生物質等を含有してもよく、これらの物質によって表面コーティングがなされていてもよい。また、医療用材料の好ましい態様として、例えば、医療用インプラントが挙げられる。医療用インプラントの具体例としては、人工硬膜、人工血管、軟骨用基材、癒着防止膜等が例示され、これらの中でも特に人工硬膜、人工血管には優れた柔軟性が要求されることから、本発明の分岐状ポリマーが好適に利用される。即ち、本発明の分岐状ポリマーを用いて形成した医療用インプラントは、人工硬膜、人工血管、軟骨用基材、癒着防止膜等の移植又は挿入が求められる疾患を有する患者において、当該疾患部位に挿入することによって使用される。
【0037】
前記医療用材料の調製は、本発明の分岐状ポリマーを材料とし、当該技術分野において一般的に採用される公知の方法によって行うことができる。例えば、フィルム状の医療用材料であれば、前記分岐状ポリマー及び必要に応じて含まれる他の生体内分解吸収性ポリマーを公知の溶媒に溶解させてポリマー溶液とし、キャストした後乾燥させて得ることができる。また溶融成形により加工してフィルムを得ても良い。チューブ状の医療用材料であれば、公知の溶媒に溶解させてポリマー溶液とし、鋳型に流し込んだ後に風乾ないしは凍結乾燥など公知の方法で乾燥、あるいは溶融成形により加工してチューブ状の医療用材料を得ても良い。
【0038】
本発明の分岐状ポリマーを含む医療用材料は、優れた柔軟性を有しており、生体内に長期間留置された場合にも周辺組織の損傷や生体組織との吻合部の破断等を懸念する必要がない。本発明の分岐状ポリマーを含む医療用材料の柔軟性は、含有されるその他の生体内分解吸収性ポリマーの量によって変動するが、本発明の分岐状ポリマーのみからなるキャストフィルム(厚さ100μm、80mm×10mm)とした場合の初期弾性率は10〜70MPa、好ましくは20〜60MPaが挙げられる。また、同様の条件により測定される最大点応力が5〜40MPa、好ましくは10〜30MPaが挙げられる。ここで、医療用材料の柔軟性は、万能引張試験機(島津製作所 EZ−Graph)を用いて、チャック間距離15mm、引張速度10mm/minの条件で評価することができる。
【0039】
また、本発明の分岐状ポリマーを材料として調製された医療用材料は、生体内に埋入されて一定期間が経過すると速やかに分解されるという特性を備えている。前記医療用材料が備える分解特性は、含有されるその他の生体内分解吸収性ポリマーの量によって変動するが、本発明の分岐状ポリマーのみからなる医療用材料である場合、リン酸緩衝液(PBS(−)、pH7.4))に37℃で30日間浸漬した場合の分子量残存率が、通常70%以下、好ましくは0〜60%、更に好ましくは0〜55%が挙げられる。ここで、分子量残存率(%)は、下記式に従って算出される値である。
【実施例】
【0041】
以下、合成例、試験例等に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[合成例1]
L−ラクチド334.8g(2.325mol)とε−カプロラクトン257.4g(2.325mol)、2−エチルヘキサン酸スズ300ppmおよびペンタエリスリトール500ppmをセパラブルフラスコに入れ、減圧乾燥した後窒素雰囲気下において130℃で7日間重合した。得られた乳酸−ε−カプロラクトン共重合体(以下PE−500と記載)をメッシュサイズ3mmの回転式粉砕機にて粉砕し、その後、酢酸/イソプロパノール(容量比:20/80)混合溶媒を用いた洗浄処理(分岐状ポリマー100gに対して混合溶媒500mlの割合で9回洗浄)に供して、分岐状ポリマーPE−500を得た。
【0042】
本合成例1においては、得られる分岐状ポリマーのアーム部1本当たりの数平均分子量が理論上67800となるようにL−ラクチド、ε−カプロラクトン及びペンタエリスリトールを仕込んだ。また、得られた分岐状ポリマー(PE−500)について、GPC(溶媒:クロロホルム、流速:1ml/min、スタンダードとして直鎖ポリスチレンを使用)にて、重量平均分子量を求めた。その結果、合成例1で得られた分岐状ポリマー(PE−500)の重量平均分子量は、220000であった。
【0043】
[合成例2]
L−ラクチド334.8g(2.325mol)とε−カプロラクトン257.4g(2.325mol)、2−エチルヘキサン酸スズ300ppmおよびジペンタエリスリトール500ppmをセパラブルフラスコに入れ、減圧乾燥した後窒素雰囲気下において130℃で7日間重合した。得られた乳酸−ε−カプロラクトン共重合体(以下DPE−500と記載)をメッシュサイズ3mmの回転式粉砕機にて粉砕し、その後、前記合成例1と同様に酢酸/イソプロパノール混合溶媒を用いた洗浄処理に供して、分岐状ポリマーDPE−500を得た。
【0044】
本合成例2においては、得られる分岐状ポリマーのアーム部1本当たりの数平均分子量が理論上84500となるようにL−ラクチド、ε−カプロラクトン及びペンタエリスリトールを仕込んだ。得られた分岐状ポリマーDPE−500について、上記合成例1と同条件でGPCによる分析を行った。その結果、合成例2で得られた分岐状ポリマー(DPE−500)の重量平均分子量は、200000であった。
【0045】
[比較合成例1]
L−ラクチド334.8g(2.325mol)とε−カプロラクトン257.4g(2.325mol)、2−エチルヘキサン酸スズ300ppmをセパラブルフラスコに入れ、減圧乾燥した後窒素雰囲気下において130℃、7日間重合した。得られた乳酸−ε−カプロラクトン共重合体(以下PLCLと記載)をメッシュサイズ3mmの回転式粉砕機にて粉砕し、その後、前記合成例1と同様に酢酸/イソプロパノール混合溶媒を用いて洗浄処理に供して、直鎖状ポリマーPLCLを得た。
【0046】
得られた直鎖状ポリマーPLCLについて、上記合成例1と同条件でGPCによる分析を行った。その結果、比較合成例1で得られた直鎖状ポリマーPLCLの重量平均分子量は、170000であった。
【0047】
[キャストフィルムの調製]
合成例1、合成例2及び比較合成例1で得られたポリマーを用いて、4重量%の割合で各ポリマーを含有する1,4−ジオキサン溶液を調製した。各溶液を水平台の上にキャストし、20℃にて24時間ドラフト内で風乾した。最終的に厚み100μm程度のキャストフィルムを得た。
【0048】
[引張試験]
上記で得られたキャストフィルムを80mm×10mmの短冊状に切断し、初期弾性率を測定してキャストフィルムの柔軟性を評価した。柔軟性については0.5N〜1.5Nの間の初期弾性率により評価した。また、同じキャストフィルムについて最大点応力を測定し、強度を評価した。なお、初期弾性率が低く、最大点応力が大きい材料ほど、柔軟で破断しにくいことを指す。引張強度は、万能引張試験機(島津製作所 EZ−Graph)を用いて、チャック間距離15mm、引張速度10mm/minの条件で測定した。結果を下表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示されるように、合成例1及び2で得られた分岐状ポリマーは優れた柔軟性を有していることが示された。特に、合成例1の初期弾性率は比較合成例1に比べて低い初期弾性率を示し、ペンタエリスリトール残基をコア部分とする分岐状ポリマーは、より柔軟性に優れていることが示された。一方、合成例1及び2のいずれについても最大点応力は比較合成例1と同程度であり、機械的強度は同等であった。すなわち、合成例1は比較合成例1と比較して柔軟でありながら機械的強度を保持していることが示された。
【0051】
[加水分解試験]
合成例1、2又は比較合成例1で合成されたポリマーを用いて調製されたキャストフィルムを80mm×10mmの短冊状に切断し、37℃のPBS(−)(pH7.4)に1、2、4又は8週間浸漬した。所定期間経過後、GPCにて重量平均分子量を測定し、初期の重量平均分子量に対して、浸漬後のポリマーの重量平均分子量の低下した割合をポリマー分子量の低下率(%)として算出し、加水分解性を評価した。結果を下表2に示す。
【0052】
表2に示されるように、合成例1及び2で得られた分岐状ポリマーにより調製されたキャスティングフィルムは、比較合成例1の直鎖状PLCLと同様の分解挙動を示し、従来使用されている直鎖状PLCLを構成成分とする医用材料と同様の用途に利用できることが示された。
【0053】
【表2】
【0054】
以上結果から、合成例1及び2で得られた生分解性高分子化合物を用いて調製したキャスティングフィルムは、高い初期弾性率と共に、一定期間経過後には速やかに分解される特性を備えており、特に人工硬膜や人工血管等の柔軟性が求められる医療用インプラントの材料として好適に利用できることが確認された。