(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、モータにより機械を駆動するモータ制御装置では、サーボ制御系がローパスフィルタあるいはノッチフィルタを有することにより、高周波共振に対処してきた。これらのフィルタは、サーボ制御系の制御ループ内に存在するフィルタであり、位置指令を補正するのではなく、サーボ制御系の応答性、安定性向上を目的とするフィルタである。
【0003】
一方、従来、低周波共振に対しては、なめらかな指令を用いる手法、指令にノッチフィルタを施す手法、指令にインプットシェイピングを用いる手法などが用いられてきた。これらは、高周波共振とは異なり、サーボ制御系に与える位置指令から、機械系が共振する周波数のエネルギーをカットする、あるいは十分小さくなるように設計するものである。
【0004】
また、制振制御操作量として、加速度指令情報に所定のゲインを乗じて制振制御操作量を設定し、位置指令に制振制御操作量を加えて、慣性系を制御する方法が報告されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
工作機械におけるモータの制御装置では、一般に、移動経路にこだわらないPTP(Point to Point)制御と、移動経路どおりに機械の位置を制御する軌跡制御の両者が行われる。モータの制御装置が軌跡制御を行う場合、ユーザがプログラムした指令軌跡からサーボ制御系が大きく逸脱することは望ましくない。
【0006】
今、あるサーボ制御軸に対して時系列の位置指令が与えられることを考える。サーボ制御系の目的は、時系列の位置指令どおりに機械を動かすことである。しかしながら、サーボ制御系が、与えられた位置指令からトルクを生成し、機械を動かそうとしても、機械の共振(振動)により位置指令どおりに機械を動かせない場合がある。振動は、軸が停止した際に残留振動となり、工作機械が加工中であれば、加工ワークに筋目を残すなどの問題が発生する。
【0007】
従来技術であるノッチフィルタやインプットシェイピングなどの技法を用いた場合、ノッチフィルタあるいはインプットシェイピングにより共振周波数に対応するエネルギー成分がカットされ、残留振動は減少する。しかしながら、これらのフィルタは残留振動を減少させる代わりに、指令軌跡を変更するため、ユーザがプログラムした指令軌跡どおりに機械が動かないといった現象が発生する。例えば、指令に対してノッチフィルタを施した場合、一般にオーバシュートが発生する。これは、ノッチフィルタのステップ応答がオーバシュートを発生させることから容易に理解できる。ノッチフィルタを用いることで、指令軌跡がオーバシュートすれば、加工ワークにはオーバシュートに応じた跡が残り、加工品位は望ましいものではなくなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係るモータ制御装置について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0014】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1に係るモータ制御装置について説明する。本発明の実施例1に係るモータ制御装置では、最も簡単な振動モデルである二慣性系に対して、軌跡制御であることをふまえた指令補正を行う。本発明の実施例1に係るモータ制御装置で扱う二慣性系のモデルは
図1のように表される。
【0015】
図1において、サーボモータ等のモータ100および機械200は質点であり、それぞれ質量J
m、J
Lである。摩擦は無視する。モータ100および機械200は、バネ定数(弾性変形部の剛性係数)Kのバネ30とダンパ定数Cのダンパ40で繋がれている。また、トルクをu、モータ速度をV
m、機械速度をV
L、バネとダンパの合成力をTとしている。
【0016】
モータ100及び機械200の運動方程式V
m、V
Lと、バネ30とダンパ40の合成力Tは、それぞれ以下の式で表される。
【0018】
上記の3つの式をブロック図で表記すれば
図2のようになる。
【0019】
上の運動方程式およびバネとダンパの合成力の式を変形すれば、トルクuからモータ速度V
m、および機械速度V
Lまでの伝達関数は、それぞれ以下の(式1)及び(式2)のように求められる。
【0021】
ところで、近年のモータ制御装置では、制御ゲインのハイゲイン化とフィードフォワード制御の利用により、モータに移動指令を行うと、すぐにモータの実際の位置が制御されるようになっている。言い換えれば、モータの位置指令からモータの実際の位置までの伝達特性は1に近づいている。
【0022】
本発明の実施例1に係るモータ制御装置の構成の概要を
図3に示し、
図4にブロック図を示す。本発明の実施例1に係るモータ制御装置101は、サーボモータを制御するモータ制御装置101において、モータの位置を指令する位置指令作成部20と、位置指令作成部により作成された位置指令を補正する補正フィルタ1と、補正フィルタ1により補正された位置指令である補正後位置指令に基づいてモータの移動を制御するサーボ制御部2と、を備え、補正フィルタ1は、被駆動部のイナーシャJ
L、弾性変形部の剛性係数K、弾性変形部のダンパ係数Cをフィルタ係数の要素とするフィルタF(s)を含む、ことを特徴とする。
【0023】
本発明の実施例1に係るモータ制御装置の動作について説明する。位置指令作成部20により作成された位置指令は、補正フィルタ1に入力される。補正フィルタ1は補正された位置指令である補正後位置指令を出力する。サーボ制御部2は、補正後位置指令に基づいてトルクを出力しモータ100の移動を制御する。モータ100の移動により伝達機構300を介して機械200が移動する。
【0024】
サーボ制御部2において、補正後位置指令が第1減算器3に入力され、フィードバックされたモータ位置の検出値を減算して位置偏差を出力し、出力された位置偏差は位置制御器4に入力される。また、補正後位置指令はフィードフォワード部5に入力された後、微分器6で微分されて速度が出力される。出力された速度は、位置制御器4の出力と共に加算器7に入力され、速度指令が出力される。
【0025】
速度指令は第2減算器8に入力され、フィードバックされたモータ速度の検出値が減算されて速度偏差が出力される。出力された速度偏差は速度制御器9に入力されて、トルクが出力される。トルクは、トルクからモータ速度までの伝達特性10を経て、モータに速度が発生する。発生したモータ速度は、第1積分器11により運動学的に積分されてモータ位置となる。一方、本発明では、トルクから機械速度までの伝達特性12を考える。トルクがトルクから機械速度までの伝達特性12を経て、機械速度が出力される。機械速度は、第2積分器13により運動学的に積分されて機械位置となる。
【0026】
モータの位置指令からモータの実際の位置までの伝達特性が1に近づいていることは、
図4中の記号で点Bから点Cまでの伝達関数が1に近づいていることと等価である。
【0027】
本発明の実施例1に係るモータ制御装置では、前述のように、ノッチフィルタやインプットシェイピングと異なり、軌跡精度を考慮した振動抑制フィルタを提供する。具体的には、「サーボ制御系に与えられる位置指令は、モータに対する位置指令ではなく、機械に対する位置指令である」とみなす。これは、機械が揺れなければモータが揺れても構わないとする考え方であり、従来のノッチフィルタやインプットシェイピングの「共振周波数に対応するエネルギー成分を落とす」という考え方と大きく異なる。
【0028】
サーボ制御系に与えられる位置指令を機械に対する位置指令とみなすため、
図4中の点Aから点Dまでの伝達特性が1に近づくように制御をかける必要がある。ここで、点Bから点Cまでの伝達特性を1とみなせば、点Aから点Bの伝達特性は、点Cから点Dまでの伝達特性の逆特性を有する必要があることが分かる。
【0029】
点Cから点Dまでの伝達特性の逆特性、つまり点Dから点Cまでの伝達特性は
図4より明らかに点D´から点C´の伝達特性と等価であり、その伝達特性は、前述の(式1)を(式2)で除算することにより以下のように与えられる。
【0031】
本発明の実施例1に係るモータ制御装置では、このフィルタが機械系の定数(J
L、C、K)のみに依存することに着目し、この3定数からなるフィルタを含む点を特徴としている。即ち、補正フィルタ1は、被駆動部のイナーシャJ
L、弾性変形部の剛性係数K、弾性変形部のダンパ係数Cをフィルタ係数の要素とするフィルタF(s)を含むことを特徴とする。
図5にフィルタF(s)のブロック図を示す。
図5(b)は
図5(a)のF(s)を機械系の定数(J
L、C、K)で表したものである。
【0032】
以上のように、本発明の実施例1に係るモータ制御装置によれば、ノッチフィルタやインプットシェイピングと異なり、軌跡精度を考慮した振動抑制フィルタを提供することができる。
【0033】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2に係るモータ制御装置について説明する。制御ソフトウェアの実装の容易さを考えれば、位置指令に直接フィルタ処理を施すより、位置指令に加算する補正量として計算する方が容易な場合がある。そこで、実施例1で求めたフィルタ特性を、補正量の形に変更する。
【0034】
位置指令の補正量の形にするためには、フィルタから1を減算すればよい。本発明の実施例1に係るモータ制御装置の補正フィルタのブロック図を
図5のように表せば、本発明の実施例2に係るモータ制御装置の補正フィルタのブロック図は
図6のように表せる。
図6(b)は
図6(a)のF(s)−1を機械系の定数(J
L、C、K)で表したものである。伝達関数は、簡単な計算から、以下の式のように表されることがわかる。
【0035】
【数4】
このように、位置指令にフィルタF(s)−1を施すことで演算する補正量差分を位置指令に加算することで、補正後位置指令を求めるようにしてもよい。
この式は、分解すれば、以下のように表される。
【0036】
【数5】
そこで、補正フィルタ1に含まれるフィルタF(s)の別の実現方法として、
・加速度指令(s
2(ラプラス演算子つまり微分演算子の2乗)が付いているため、位置指令に対して2階微分した値)に、
・機械のイナーシャJ
Lと弾性部のバネ定数Kから決まるゲインJ
L/Kを乗じた上で、
・ダンパ定数Cとバネ定数Kから決まる時定数τ=C/Kの1次ローパスフィルタを施す
という方法が考えられる。
【0037】
図7に実施例2に係るモータ制御装置のフィルタの詳細なブロック図を示す。ここで、加速度指令を出力する部分を加速度指令演算部1aとし、被駆動部のイナーシャJ
Lと弾性変形部の剛性係数Kとから求まるゲインJ
L/Kを乗じる部分を第1補正量演算部1bとし、第1補正量演算部により出力される第1補正量に、弾性変形部のダンパ係数Cと弾性変形部の剛性係数Kとから求まる時定数C/Kの1次ローパスフィルタを施す部分を第2補正量演算部1cとする。そうすると、補正フィルタ1に含まれるフィルタF(s)は、第2補正量演算部1cにより出力される第2補正量を位置指令に加算することにより実現できることがわかる。
【0038】
以上のように、本発明の実施例2に係るモータ制御装置は、補正フィルタは、位置指令から加速度指令を演算する加速度指令演算部と、加速度指令演算部により出力される加速度指令に、被駆動部のイナーシャJ
Lと弾性変形部の剛性係数Kとから求まるゲインJ
L/Kを乗じる第1補正量演算部と、第1補正量演算部により出力される第1補正量に、弾性変形部のダンパ係数Cと弾性変形部の剛性係数Kとから求まる時定数C/Kの1次ローパスフィルタを施す第2補正量演算部と、を有し、第2補正量演算部により出力される第2補正量を位置指令に加算することにより、フィルタF(s)を実現する点を特徴としている。
【0039】
本発明の実施例2に係るモータ制御装置によれば、ダンパ係数を考慮した、より現実に即した振動抑制が可能であり、従来技術に比べて高い振動抑制効果が期待できる。
【0040】
[実施例3]
次に本発明の実施例3に係るモータ制御装置について説明する。
【0041】
F(s)−1の計算式で表れた定数J
L、C、Kは、すべてトルクからモータ速度までの以下の伝達関数の分子多項式を構成する定数である。
【0043】
振動系においてしばしば用いられるように、トルクからモータ速度までの伝達関数の分子多項式を以下のような2次の標準形と置く。
【0044】
【数7】
そうすると、ゲイン及び時定数は以下のようにして求められる。
【0046】
機械のイナーシャJ
L、ダンパ定数C、バネ定数Kの3定数を入力するより、2次の標準形で表現した周波数ωと、ダンピングファクターζの2定数を入力する方が簡単であるので、実施例3に係るモータ制御装置では、周波数ωとダンピングファクターζから補正フィルタに含まれるフィルタF(s)を実現する点を特徴としている。
【0047】
図8に実施例3に係るモータ制御装置のフィルタの詳細なブロック図を示す。ここで、加速度指令を出力する部分を加速度指令演算部1a´とし、周波数ωの2乗で除する部分を第1補正量演算部1b´とし、第1補正量演算部により出力される第1補正量に、振動の減衰係数ζと周波数ωとから求まる時定数2ζ/ωの1次ローパスフィルタを施す部分を第2補正量演算部1c´とする。そうすると、補正フィルタ1に含まれるフィルタF(s)は、第2補正量演算部1c´により出力される第2補正量を位置指令に加算することにより実現できることがわかる。
【0048】
以上のように、本発明の実施例3に係るモータ制御装置は、被駆動部のイナーシャJ
Lと弾性変形部の剛性係数Kとから求まるゲインJ
L/K及び弾性変形部のダンパ係数Cと弾性変形部の剛性係数Kとから求まる時定数C/Kの代わりに、周波数ω及び振動の減衰係数ζを入力することにより補正フィルタに含まれるフィルタF(s)を実現する点を特徴とする。
【0049】
以上説明したように、本発明の実施例に係るモータ制御装置によれば、最も簡単な振動モデルである二慣性系に対して、軌跡制御であることをふまえた指令補正を行うことができる。