【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、金属からなる金属基材と、この金属基材の表面に、意図的に酸素含有量を増やす処理を施すことにより形成された酸素を含有する酸素含有皮膜と、この酸素含有皮膜の上に接合され、熱可塑性樹脂組成物で形成された樹脂成形体とを有し、
前記熱可塑性樹脂組成物が、酸素含有皮膜と反応する官能基を有する添加剤化合物を含有し、
前記添加剤化合物が、カルボキシル基及びその塩及びそのエステル、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、アミノ基及びその塩、並びに、酸無水物基及びそのエステルからなる群の中から選ばれる少なくとも1
種の官能基を
有し、
前記添加剤化合物の官能基が、熱可塑性樹脂組成物中に0.5〜150μmol/gの割合で含有されていることを特徴とする金属樹脂接合体である。
【0014】
また、金属からなる金属基材の表面に、意図的に酸素含有量を増やす処理を施すことにより酸素含有皮膜を形成する皮膜形成工程と、この皮膜形成工程で得られた表面処理済金属基材の酸素含有皮膜の上に、熱可塑性樹脂組成物の射出成形により樹脂成形体を形成する樹脂成形工程とを有し、
前記酸素含有皮膜を介して金属基材と樹脂成形体とが接合された金属樹脂接合体を製造する金属樹脂接合体の製造方法であり、
前記熱可塑性樹脂組成物が、酸素含有皮膜と反応する官能基を有する添加剤化合物を含有し、前記添加剤化合物が、カルボキシル基及びその塩及びそのエステル、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、アミノ基及びその塩、並びに、酸無水物基及びそのエステルからなる群の中から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする金樹脂接合体の製造方法である。
【0015】
更に、本発明
の前記金属樹脂接合体については、金属からなる金属基材の表面に、意図的に酸素含有量を増やす処理を施すことにより酸素含有皮膜を形成する皮膜形成工程と、熱可塑性樹脂組成物の射出成形により樹脂成形体を形成する樹脂成形工程と、前記皮膜形成工程で得られた表面処理済金属基材の酸素含有皮膜の上に、前記樹脂成形工程で得られた樹脂成形体を射出成形又は熱圧着により接合する金属樹脂接合工程とを有し、
前記熱可塑性樹脂組成物
として、酸素含有皮膜と反応する官能基を有する添加剤化合物を含有し、
かつ、この添加剤化合物
がカルボキシル基及びその塩及びそのエステル、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、アミノ基及びその塩、並びに、酸無水物基及びそのエステルからなる群の中から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する
化合物である熱可塑性樹脂組成物を用いる方法によっても製造することができる。
【0016】
本発明において、素地となる金属基材については、銅又は銅合金からなる銅基材や、鉄又は鉄合金からなる鉄基材や、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ基材等、特には制限されるものではなく、これを用いて形成される金属樹脂接合体の用途やその用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決めることができる。また、アルミ基材の材質や形状等についても、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものであれば特には制限されず、これを用いて形成されるアルミ樹脂接合体の用途やその用途に要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性に基づいて決めることができる。
【0017】
また、このような金属基材の表面に皮膜形成工程で形成される酸素含有皮膜については、金属基材との密着性が良好であれば特に限定されるものではないが、金属基材が銅基材である場合には、例えば黒化処理で得られた酸素含有皮膜や、レーザー処理で得られた酸素含有皮膜(熱酸化皮膜)を例示することができ、また、金属基材が鉄基材である場合には、例えば亜鉛めっき処理で得られた亜鉛皮膜由来の酸素含有皮膜等を挙げることができ、更に、金属基材がアルミ基材である場合には、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用いた皮膜形成処理で得られた亜鉛元素を含有する亜鉛含有皮膜や、91℃以上100℃以下の熱水を用いた皮膜形成処理で、又は、60℃以上90℃以下の温水を用いた皮膜形成処理で得られた水和酸化物皮膜や、アルミ基材の表面にレーザー処理を施す皮膜形成処理で得られた酸化物皮膜等を例示することができる。
【0018】
ここで、アルミ基材の表面に酸素含有皮膜として亜鉛元素を含有する亜鉛含有皮膜を形成するための皮膜形成処理については、アルミ基材の表面に亜鉛元素と共に酸素を酸化亜鉛(ZnO)、酸化亜鉛鉄(ZnFeO)、酸化亜鉛アルミ(ZnAlO)等の形で含有する皮膜を形成することができればよく、熱可塑性樹脂組成物の射出成形により樹脂成形体を成形する際に、あるいは、この熱可塑性樹脂組成物を成形して得られた樹脂成形体との熱圧着により、この酸素含有皮膜の上に形成される樹脂成形体との間に強固なアルミ−樹脂間の接合強度が達成される。
【0019】
そして、この亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用いる皮膜形成処理については、好ましくは、水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn
2+)とを重量比(MOH/Zn
2+)1以上100以下の割合、好ましくは2以上20以下の割合、より好ましくは3以上10以下の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用い、この亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を常温でアルミ基材の表面に接触させることにより、アルミ基材の表面に酸素を含む亜鉛含有皮膜を形成するのがよい。この水酸化アルカリ(MOH)と亜鉛イオン(Zn
2+)との重量比(MOH/Zn
2+)が1より小さい(MOH<Zn
2+)と、亜鉛が十分に溶解しないのでその効果が十分に発揮されず、反対に、100より大きい(MOH>100 Zn
2+)と、亜鉛の置換析出よりもアルミ基材の溶解が速くなり、このアルミ基材の表面に亜鉛が析出し難くなる。
【0020】
ここで、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中のアルカリ源については、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムから選ばれたいずれか1種以上が用いられ、また、この亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中の亜鉛イオン源としては、好ましくは酸化亜鉛、水酸化亜鉛、過酸化亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、及び硝酸亜鉛から選ばれたいずれか1種以上が用いられる。
【0021】
そして、この亜鉛イオン含有アルカリ水溶液において、水酸化アルカリ濃度については、10g/L以上1000g/L以下、好ましくは50g/L以上300g/L以下であるのがよく、また、亜鉛イオン濃度については、1g/L以上200g/L以下、好ましくは10g/L以上100g/L以下であるのがよい。亜鉛イオン含有アルカリ水溶液の組成を上記の範囲内にすることにより、アルミ基材の表面ではアルミニウムと亜鉛イオンとが置換反応を起こし、アルミニウムは溶解し、また、亜鉛イオンは微細粒として析出し、その結果としてアルミ基材の表面に酸素元素と亜鉛元素を含有する酸素含有皮膜(亜鉛含有皮膜)が形成される。すなわち、アルミニウムは凹部を形成しながら溶解し、この凹部内に亜鉛が析出し、亜鉛元素を含有する亜鉛含有皮膜が形成される。ここで、水酸化アルカリ濃度が10g/L未満では亜鉛元素を含有する亜鉛含有皮膜の形成が不十分になるという問題があり、反対に、1000g/Lを超えるとアルカリによるアルミの溶解速度が速く亜鉛元素を含有する亜鉛含有皮膜が形成されないという問題が生じる。また、亜鉛イオン濃度が1g/L未満では亜鉛含有皮膜の形成に時間がかかるという問題があり、反対に、200g/Lを超えると亜鉛析出速度が制御できず不均一な表面になるという問題が生じる。
【0022】
また、アルミ基材の表面に酸素含有皮膜として水和酸化物皮膜を形成するための皮膜形成処理については、先ず、導電率が0.01mS/m以上20mS/m以下、好ましくは0.01mS/m以上10mS/m以下であって91℃以上100℃以下の熱水を用い、この熱水中にアルミ基材を通常0.5分以上30分以下、好ましくは1分以上10分以下浸漬して水和酸化物皮膜を形成するか、あるいは、導電率が0.01mS/m以上20mS/m以下、好ましくは0.01mS/m以上10mS/m以下であって60℃以上90℃以下の温水を用い、この熱水中にアルミ基材を通常0.5分以上30分以下、好ましくは1分以上10分以下浸漬して水和酸化物皮膜を形成する。この水和酸化物皮膜を形成するための皮膜形成処理に使用する熱水や温水は純水であるのが好ましい。この水和酸化物皮膜を形成するための皮膜形成処理に使用する熱水や温水の導電率が0.01mS/m未満であると、超純水の領域になるため,純水製造コストが高くなり過ぎて実用化や工業化が困難になり、反対に、20mS/mを超えると、水和酸化物皮膜が形成されないことがあるほか、皮膜形成速度が極端に遅くなり、また、不純物の存在により水和皮膜の皮膜欠陥が生じ易くなるという問題もある。
【0023】
このアルミ基材の表面に形成される水和酸化物皮膜について、X線回折により確認したところ、91℃以上100℃以下の熱水を用いた皮膜形成処理では、ベーマイト(boehmite)又は擬ベーマイト(pseudoboehmite)を主体としたブロードのピークが認められる皮膜であり、また、60℃以上90℃以下の温水を用いた皮膜形成処理では、結晶性成分に由来するピークが認められない主に非晶質(amorphous)を主体とした皮膜である。
【0024】
なお、水和酸化物皮膜についてのX線回折の測定は、皮膜形成処理によりアルミ基材の表面に酸素含有皮膜として水和酸化物皮膜を形成した後の表面処理済みアルミ基材から、30mm×30mmにして測定用試料を作製し、この試料をX線回析装置〔(株)リガク社製:RAD-rR〕のガラス試料板(試料部24mm角・貫通)に固定し、X線源:Cu回転対陰極ターゲット(使用X線及び波長:CuKα 1.5418Å)、X線出力:50kV、200mA、検出器:シンチレーション検出器、光学系属性:Bragg-Brentano光学系(集中法)、発散スリット1°、散乱スリット1°、及び受光スリット0.3mmの条件で測定し、含有成分を同定し、次に、検出された各相を代表するピークのうち、強度が高くて他成分に由来するピークと重複しない1ピークについて、積分回析強度を算出して求めた。
【0025】
更に、皮膜形成工程で行われるアルミ基材の表面に酸素含有皮膜として酸化物皮膜を形成するためのレーザー処理については、アルミ基材の表面付近を、好ましくは表面付近のみを部分的に、アルミ基材の溶融温度以上まで加熱して酸化し、アルミ基材の表面付近に酸化アルミニウム(Al
2O
3)を析出させてこの酸化アルミニウム(Al
2O
3)を含む酸素含有皮膜を形成することができればよく、例えばレーザーエッチング装置等を用いて行うことができる。
【0026】
このようにして上記皮膜形成工程でアルミ基材の表面に酸素含有皮膜を形成して得られた表面処理済アルミ基材については、その最表面から3μmの深さまでの表層において、EPMAで測定される酸素含有率が0.1重量%以上50重量%以下、好ましくは1.0重量%以上30重量%以下であるのがよい。この表面処理済アルミ基材の表層における酸素含有率が0.1重量%より低いと、皮膜が薄過ぎてアルミ基材と樹脂成形体との間の十分なアルミ−樹脂間の接合強度を達成するのが困難になる場合があり、反対に、酸素含有率を50重量%を超えて高くすると、皮膜が厚過ぎて皮膜凝集破壊が生じ、充分なアルミ−樹脂間の接合強度が得られない。
【0027】
また、この皮膜形成工程でアルミ基材の表面に形成された酸素含有皮膜の厚さについては、通常0.06μm以上2μm以下であるのがよく、好ましくは0.1μm以上1μm以下であるのがよい。この酸素含有皮膜の皮膜厚さが0.06μm未満であると、皮膜が薄すぎて充分なアルミ−樹脂間の接合強度が得られない場合があり、反対に、2μmを超えると、皮膜が厚過ぎて皮膜凝集破壊が生じ、充分なアルミ−樹脂間の接合強度が得られない場合がある。
【0028】
そして、91℃以上100℃以下の熱水を用いた皮膜形成処理でアルミ基材の表面に形成された水和酸化物皮膜の厚さについては、通常0.1μm以上1μm以下であるのがよく、好ましくは0.2μm以上0.5μm以下であるのがよい。この酸素含有皮膜の皮膜厚さが0.1μm未満であると、皮膜が薄すぎて充分なアルミ−樹脂間の接合強度が得られない場合があり、反対に、1μmを超えると、皮膜が厚過ぎて皮膜凝集破壊が生じ、充分なアルミ−樹脂間の接合強度が得られない場合がある。
【0029】
また、60℃以上90℃以下の温水を用いた皮膜形成処理でアルミ基材の表面に形成された水和酸化物皮膜の厚さについては、通常0.1μm以上1μm以下であるのがよく、好ましくは0.2μm以上0.5μm以下であるのがよい。この酸素含有皮膜の皮膜厚さが0.1μm未満であると、皮膜が薄すぎて充分なアルミ−樹脂間の接合強度が得られない場合があり、反対に、1μmを超えると、皮膜が厚過ぎて皮膜凝集破壊が生じ、充分なアルミ−樹脂間の接合強度が得られない場合がある。
【0030】
本発明において、上記皮膜形成工程で得られた表面に酸素含有皮膜を有する表面処理済アルミ基材については、その酸素含有皮膜の上に熱可塑性樹脂組成物の射出成形により樹脂成形体を一体的に接合する樹脂成形工程でアルミ樹脂接合体を製造するか、あるいは、熱可塑性樹脂組成物の射出成形により樹脂成形体を形成する樹脂成形工程と、得られた樹脂成形体を表面処理済アルミ基材の酸素含有皮膜の上にレーザー溶着、振動溶着、超音波溶着、ホットプレス溶着、熱板溶着、非接触熱板溶着、又は高周波溶着等の手段を用いた熱圧着により一体的に接合するアルミ樹脂接合工程とでアルミ樹脂接合体を製造する。
【0031】
そして、本発明においては、上記の樹脂成形工程で用いる熱可塑性樹脂組成物として、具体的には、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド系樹脂やサルフォン系樹脂等の硫黄元素を含有する樹脂、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂や、液晶ポリマー、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂等の酸素原子を含有する樹脂、例えばポリアミド(PA)、ABS、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の窒素原子を含有する熱可塑性樹脂等からなる樹脂組成物が挙げられ、中でも、金属樹脂接合体のニーズが大きい自動車部品では耐熱性及び剛性の観点で、また、電機・電子部品では剛性の観点で、PPS、PBT、液晶ポリマー、ポリアセタール等のエンジニアリングプラスチックが特に好ましい。
【0032】
また、上記の樹脂成形工程で用いる熱可塑性樹脂組成物としては、酸素含有皮膜と反応する特定の官能基を有する添加剤化合物を含有する樹脂組成物が用いられる。ここで、前記添加剤化合物とは、熱可塑性樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂以外の物質をいい、また、熱可塑性樹脂組成物中に添加して用いられるものであれば、特に制限されるものではなく、熱可塑性樹脂組成物の製造、熱可塑性樹脂組成物の成形性及び加工性、熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体の特性等を考慮して様々な目的で添加される、例えば、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、帯電防止剤、染料、顔料、滑剤、シランカップリング剤、フィラー、エラストマー等の種々の添加剤を例示することができ、中でも、線膨張差に起因して発生する金属・樹脂間の歪みを緩和する観点から、添加剤としては特にエラストマーが好ましい。
【0033】
ここで、前記添加剤化合物としては、カルボキシル基及びその塩及びそのエステル、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、アミノ基及びその塩、並びに、酸無水物基及びそのエステルからなる群の中から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する化合物であるのがよく、中でも、グリシジル基を有する化合物であることが特に好ましい。前記添加剤化合物としては、α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体であることが好ましく、また、更に(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むオレフィン系共重合体であることがより好ましい。なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0034】
α-オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、特にエチレンが好ましい。α-オレフィンは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。
【0035】
前記添加剤化合物がα-オレフィン由来の構成単位を含むことで、樹脂成形体には可撓性が付与され易い。この可撓性の付与により、樹脂成形体が軟らかくなり、優れた金属−樹脂間の接合強度が発現すると共に耐久試験後の強度低下が防止され、長期に亘る優れた金属−樹脂間の接合強度が維持され易い。
【0036】
α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられ、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。前記添加剤化合物がα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを含むことで、金属−樹脂間の接合強度が向上する効果が得られる。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸-n-ヘキシル、アクリル酸-n-オクチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸-n-アミル、メタクリル酸-n-オクチル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。中でも、特にアクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位は、金属−樹脂間の接合強度の向上に寄与する。
【0038】
α-オレフィン由来の構成単位とα,β-不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体、及び、更に(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むオレフィン系共重合体は、従来公知の方法で重合することにより製造することができる。例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記共重合体を得ることが出来る。共重合体の種類は特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、このオレフィン系共重合体に、例えばポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸-2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリル酸ブチル・スチレン共重合体等が、分岐状に又は架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。
【0039】
本発明に用いるオレフィン系共重合体は、本発明の効果を害さない範囲で、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0040】
また、前記添加剤化合物の官能基については、熱可塑性樹脂組成物中に0.5〜150μmol/g、好ましくは0.5〜50μmol/g、更に好ましくは2〜25μmol/gの割合で含有される。この熱可塑性樹脂組成物中における官能基の割合が0.5μmol/gより低いと金属−樹脂間の接合強度が低下し易く、反対に150μmol/gより高くなると樹脂材料としての特性、特に流動性、引張強度や曲げ強度等の機械的強度、及び剛性に悪影響を与え易いという点で好ましくない。
【0041】
ここで、熱可塑性樹脂組成物中における官能基の割合は、この熱可塑性樹脂組成物中に添加する添加剤化合物における“官能基1個当りの分子量”をMとした場合、この添加剤化合物中の官能基の量は1/M(mol/g)となるので、この添加剤化合物を熱可塑性樹脂組成物中に例えば1質量%の割合で添加すると、(1/M)×(1/100)=1/100M(mol/g)と計算される。なお、前記“官能基1個当りの分子量”Mは、もし添加剤化合物が複数、例えば2個の官能基を有する場合には、添加剤化合物それ自体の分子量Mwの1/2になる。
【0042】
また、本発明においては、素地となる金属基材の表面全体に酸素含有皮膜を形成し、得られた表面処理済金属基材の必要な個所にのみ射出成形により、又は、熱圧着により樹脂成形体を接合してもよく、あるいは、コスト性を考慮して、金属基材の表面の一部又は必要な個所のみに酸素含有皮膜を形成し、得られた表面処理済金属基材の必要な個所に射出成形により、又は、熱圧着により樹脂成形体を接合してもよい。そして、金属基材の表面の一部又は必要な個所のみに酸素含有皮膜を形成する際には、酸素含有皮膜を形成する部分以外の部分を、例えばマスキングテープ等でマスキングした後に酸素含有皮膜を形成するための処理を行い、次いでこのマスキングした部分のマスキングテープ等を除去すればよい。
【0043】
本発明における金属樹脂接合体の製造方法においては、必要により上記酸素含有皮膜を形成する皮膜形成工程に先駆けて、金属基材の表面の前処理として、脱脂処理、エッチング処理、デスマット処理、粗面化処理、化学研磨処理、及び電解研磨処理から選ばれたいずれか1種又は2種以上の処理を行ってもよい。
【0044】
上記前処理として行う脱脂処理については、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、界面活性剤等からなる通常の脱脂浴を用いて行うことができ、処理条件としては、通常、浸漬温度が15℃以上55℃以下、好ましくは25℃以上40℃以下であって、浸漬時間が1分以上10分以下、好ましくは3分以上6分以下である。
【0045】
また、上記前処理として行うエッチング処理については、通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液、又は、硫酸−リン酸混合水溶液等の酸水溶液が用いられる。そして、アルカリ水溶液を用いる場合には、濃度20g/L以上200g/L以下、好ましくは50g/L以上150g/L以下のものを用い、浸漬温度30℃以上70℃以下、好ましくは40℃以上60℃以下、及び処理時間0.5分以上5分以下、好ましくは1分以上3分以下の処理条件で浸漬処理を行うのがよい。また、酸水溶液である硫酸−リン酸混合水溶液を用いる場合には、硫酸濃度10g/L以上500g/L以下、好ましくは30g/L以上300g/L以下、及びリン酸濃が10g/L以上1200g/L以下、好ましくは30g/L以上500g/Lのものを用い、浸漬温度30℃以上110℃以下、好ましくは55℃以上75℃以下、及び浸漬時間0.5分以上15分以下、好ましくは1分以上6分以下の処理条件で浸漬処理を行うのがよい。
【0046】
更に、上記前処理として行うデスマット処理については、例えば1〜30%濃度の硝酸水溶液からなるデスマット浴を用い、浸漬温度15℃以上55℃以下、好ましくは25℃以上40℃以下、及び浸漬時間1分以上10分以下、好ましくは3分以上6分以下の処理条件で浸漬処理を行うのがよい。
【0047】
更にまた、上記前処理として行う粗面化処理については、例えば、アルミ基材の前処理後に、酸性フッ化アンモニウムを主成分とする処理液(日本シーヒーケミカル製商品名:JCB-3712)中に浸漬する方法等を例示することができる。この処理により,Siを合金中に含むAl材についてもSiを残存させずに溶解除去することが可能となるため、その後に酸素含有皮膜を付けても欠陥等の問題が生じることがなく、良好な接合強度を得ることが可能となる。
なお、上記前処理として行う化学研磨処理や電解研磨処理については、従来公知の方法を採用することができる。
【0048】
本発明における金属基材と樹脂成形体との間の接合の原理については、未だ不明な点も多いが、金属基材と樹脂成形体との接合後に金属基材の表面に形成した酸素含有皮膜が破壊されずに残存しており、また、次のような検証結果から、概ね以下のように考えている。
【0049】
例えば、金属がアルミ基材の場合、アルミ基材の表面に酸素含有皮膜を有する複数の表面処理済アルミ基材を形成し、一部の表面処理済アルミ基材については、その表面にグリシジル基を有するポリフェニレンスルフィド(PPS)の射出成形によりPPS成形体を接合してアルミPPS接合体とした。また、残りの表面処理済アルミ基材については、先ず、100℃に保持した電気炉中でステアリン酸を揮発させ、その中に表面処理済アルミ基材を24時間暴露し、酸素含有皮膜の上にステアリン酸の単分子膜を有するステアリン酸処理済アルミ基材とし、このステアリン処理済アルミ基材の表面にグリシジル基を有するPPSの射出成形によりPPS成形体を接合してステアリン酸処理アルミPPS接合体とした。
そして、これらアルミPPS接合体とステアリン酸処理アルミPPS接合体との間における接合強度の違いを測定したところ、結果は、ステアリン処理有アルミPPS接合体における接合強度は、アルミPPS接合体の接合強度に比べて、明確に低下していた。
【0050】
ステアリン酸は親水基であるカルボキシル基(COOH)と疎水基であるアルキル基(C
17H
35)とを併せ持ち、1分子の厚みをもつ単分子膜を形成する性質がある。ステアリン酸処理アルミPPS接合体においては、そのアルミ基材の酸素含有皮膜とステアリン酸のカルボキシル基側が化学結合してしまい、アルキル基側がPPS成形体と接触するかたちとなるため、その結果として、アルミ基材とPPS成形体の化学結合が阻害され、アルミPPS接合体の接合強度に比べて接合強度が低下したものと考えられる。
【0051】
また、ステアリン酸処理前後の表面処理済アルミ基材について、その表面を観察して比較検討したが、ステアリン酸単分子膜の有無により表面の構造に違いは見られなかった。一方、ステアリン酸処理後の表面処理済アルミ基材について、液滴を垂らし、その接触角を測定すると、接触角は180°に近くなり、液滴はほぼ球形になった。このことは、ステアリン酸のアルキル基側がアルミ基材の最表層側に偏在していることを裏付ける結果である。
【0052】
以上から、本発明の金属樹脂接合体における表面処理済金属基材とグリシジル基を有する樹脂成形体との間において、酸素含有皮膜の酸素と樹脂中のグリシジル基との間に化学的な結合が生じ、この化学的な結合による作用が金属基材と樹脂成形体との間の接合強度を高くする効果を発現しているものと考えられる。