特許第6017726号(P6017726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6017726還元型無電解金めっき液及び当該めっき液を用いた無電解金めっき方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6017726
(24)【登録日】2016年10月7日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】還元型無電解金めっき液及び当該めっき液を用いた無電解金めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/44 20060101AFI20161020BHJP
   C23C 18/52 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C23C18/44
   C23C18/52 B
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-509202(P2016-509202)
(86)(22)【出願日】2015年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2015073551
(87)【国際公開番号】WO2016031723
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2016年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-170558(P2014-170558)
(32)【優先日】2014年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】393017188
【氏名又は名称】小島化学薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 秀人
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−025974(JP,A)
【文献】 特開平10−147884(JP,A)
【文献】 特開2011−168837(JP,A)
【文献】 特開昭55−024914(JP,A)
【文献】 特表2003−518552(JP,A)
【文献】 特開平06−280039(JP,A)
【文献】 特開平05−295558(JP,A)
【文献】 米国特許第05035744(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、パラジウム、金、又は、ニッケルの何れかが存在する被めっき物表面への無電解金めっき皮膜の形成に用いる還元型無電解金めっき液であって、
水溶性金化合物と、クエン酸又はクエン酸塩と、エチレンジアミン四酢酸又はエチレンジアミン四酢酸塩と、ヘキサメチレンテトラミンと、炭素数3以上のアルキル基と3つ以上のアミノ基とを含む鎖状ポリアミンと、を含むことを特徴とする還元型無電解金めっき液。
【請求項2】
pH7.0〜pH9.0である請求項1に記載の還元型無電解金めっき液。
【請求項3】
前記鎖状ポリアミンが3,3’−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン、又は、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンである請求項1又は請求項2に記載の還元型無電解金めっき液。
【請求項4】
析出促進剤としてタリウム化合物を含む請求項1〜請求項3のいずれかに記載の還元型無電解金めっき液。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の還元型無電解金めっき液を用いて、銅、パラジウム、金、又は、ニッケルの何れかが存在する被めっき物の表面に無電解金めっき皮膜を形成することを特徴とする無電解金めっき方法。
【請求項6】
前記被めっき物表面は、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に形成された無電解パラジウムめっき皮膜を備える請求項5に記載の無電解金めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、無電解金めっき液と、当該無電解金めっき液を用いた無電解金めっき方法、及び、当該無電解金めっき方法によりめっき処理しためっき製品に関する。より具体的には、被めっき物表面に直接めっき処理が可能な還元型無電解金めっき技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化や多機能化への要求が高まる一方で、これらの電子機器に用いられるプリント配線板には、さらなる軽薄短小化が求められている。この軽薄短小化に対応するため、回路パターンの微細化が進んでおり、当該回路パターンの微細化に伴って高度な実装技術が要求されている。一般に、プリント配線板の分野では、実装部品や端子部品を接合する技術として、はんだやワイヤボンディングを用いた技術が確立している。
【0003】
これらはんだやワイヤボンディングを用いた接合の接続信頼性を確保する目的で、プリント配線板上の回路の実装部分及び端子部分である配線パッドの表面処理としてめっき処理が施されている。めっき処理としては、電気抵抗の低い銅等の金属により形成された回路パターン上に行う、ニッケルめっきと、パラジウムめっきと、金めっきとを順次行う技術がある。ニッケルめっき皮膜は、はんだによる銅回路の浸食を防止するものであり、パラジウムめっき皮膜は、ニッケルめっき皮膜を構成するニッケルが金めっき皮膜へ拡散することを防止するためのものである。そして、金めっき皮膜は、低い電気抵抗を実現しつつ、良好なはんだの濡れ特性を得るために形成される。
【0004】
上述しためっき技術の従来技術として、例えば、以下に示す特許文献1〜特許文献3がある。特許文献1に記載の無電解金めっき方法は、ニッケル上に還元剤を含有する無電解金めっき液により金めっき膜を形成する方法であって、無電解金めっきの触媒としてニッケル上に置換金めっき膜を形成している。
【0005】
また、特許文献2に記載の無電解金めっき方法は、電子部品の被めっき面上に、触媒を介して無電解ニッケルめっき皮膜が形成され、該無電解ニッケルめっき皮膜上に無電解パラジウムめっき皮膜が形成され、更に該無電解パラジウムめっき皮膜上に無電解金めっき皮膜が形成されためっき皮膜積層体の無電解金めっき皮膜を形成する方法であって、水溶性金化合物と、錯化剤と、ホルムアルデヒド及び/又はホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物と、特定のアミン化合物とを含有する無電解金めっき浴を用いた第1無電解金めっきにより無電解金めっき皮膜を形成している。
【0006】
さらに、特許文献3に記載のパラジウム皮膜用還元析出型無電解金めっき液は、パラジウム皮膜上に直接金めっき皮膜を形成可能とする無電解金めっき液であって、水溶性金化合物、還元剤及び錯化剤を含有する水溶液からなり、還元剤として、ホルムアルデヒド重亜硫酸類、ロンガリット及びヒドラジン類からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−222541号公報
【特許文献2】特開2008−266668号公報
【特許文献3】特開2008−174774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、当該特許文献1の無電解金めっき方法では、置換金めっき皮膜が、下地となるニッケルとめっき浴中の金イオンとの酸化還元電位の差を利用して金を析出させて形成するものであるため、金が下地ニッケルを溶解して下地ニッケルを腐食することで、金めっき皮膜にニッケルが拡散する問題がある。当該金めっき皮膜にニッケルが拡散すると、ワイヤボンディングの金−金接合強度が低下する問題がある。当該不都合を防止するために、特許文献1では、置換金めっき皮膜上に無電解金めっき皮膜を形成し、金の膜厚を厚くすることで、ワイヤボンディング性の低下を抑制している。しかし、当該技術は、置換金めっき皮膜の形成が必須となるため、コストの高騰を招くと共に生産性が悪いという問題がある。
【0009】
また、上述した特許文献2に記載の無電解金めっき方法や特許文献3に記載のパラジウム皮膜用還元析出型無電解金めっき液を用いた場合には、下地金属であるニッケルの腐食を抑制することが可能となるが、無電解金めっき浴に毒性の強いホルムアルデヒドやホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物が含まれるため、めっき処理作業における安全性を確保することが困難となる。
【0010】
よって、市場においては、下地金属の腐食を抑制し、良好なワイヤボンディング性を実現することができると共に、有害物質を含まない無電解金めっき液の要求が高まってきた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本件発明者等が鋭意研究を行った結果、以下に示す無電解金めっき液、無電解金めっき方法及びめっき製品を提供することに至った。
【0012】
本件発明に係る還元型無電解金めっき液は、銅、パラジウム、金、又は、ニッケルの何れかが存在する被めっき物表面への無電解金めっき皮膜の形成に用いるものであって、水溶性金化合物と、クエン酸又はクエン酸塩と、エチレンジアミン四酢酸又はエチレンジアミン四酢酸塩と、ヘキサメチレンテトラミンと、炭素数3以上のアルキル基と3つ以上のアミノ基を含む鎖状ポリアミンと、を含むことを特徴とする。
【0013】
本件発明に係る還元型無電解金めっき液は、pH7.0〜pH9.0であることが好ましい。
【0014】
本件発明に係る還元型無電解金めっき液において、前記鎖状ポリアミンは、3,3’−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン、又は、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミンであることが好ましい。
【0015】
本件発明に係る還元型無電解金めっき液は、さらに、析出促進剤としてタリウム化合物を含むことが好ましい。
【0016】
本件発明に係る無電解金めっき方法は、上述の還元型無電解金めっき液を用いて、銅、パラジウム、金、又は、ニッケルの何れかが存在する被めっき物の表面に無電解金めっき皮膜を形成することを特徴とする。
【0017】
また、本件発明に係る無電解金めっき方法において、被めっき物表面は、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に形成された無電解パラジウムめっき皮膜を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の還元型無電解金めっき液は、水溶性金化合物と、クエン酸又はクエン酸塩と、エチレンジアミン四酢酸又はエチレンジアミン四酢酸塩と、ヘキサメチレンテトラミンと、炭素数3以上のアルキル基と3つ以上のアミノ基を含む鎖状ポリアミンと、を含むことにより、被めっき物表面に、金めっき皮膜を厚付けすることが容易となる。
【0019】
また、本発明の還元型無電解金めっき液を用いて、電気接続部位に設けられるニッケルめっき皮膜/パラジウムめっき皮膜/金めっき皮膜を形成する場合であっても、当該パラジウムめっき皮膜の膜厚に影響されることなく、金めっき皮膜をパラジウムめっき皮膜の表面に迅速に形成することができる。更に、本件発明の還元型無電解金めっき液によれば、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に形成された無電解パラジウムめっき皮膜の表面に無電解金めっき皮膜を形成する場合であっても、置換金めっき皮膜を形成する場合と比較してニッケルの溶出を著しく抑制でき、金めっき皮膜へのニッケルの拡散を防止することが可能となる。よって、本件発明の還元型無電解金めっき液によれば、高いワイヤボンディングの接合信頼性を実現することができる金めっき皮膜を提供することが可能となる。
【0020】
さらに、本発明の還元型無電解金めっき液は、従来の無電解金めっき液と比較して溶液の安定性が高く、毒性の強いホルムアルデヒドやホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物を含まないため、めっき処理作業における安全性の確保が容易となる。
【0021】
加えて、本発明の還元型無電解金めっき液は、金の析出反応が、触媒核となりうる金、パラジウム、ニッケル、銅等の表面においてのみ生じ、触媒核のない部分には生じないため、選択析出性が良好である。よって、金の析出が必要のない部分への金めっき皮膜の形成を回避でき、原料の節約ができる点で有益である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施試料群1Aの還元型無電解金めっき皮膜のめっき時間とめっき膜厚との関係を示すグラフである。
図2】実施例2の還元型無電解金めっき皮膜のめっき時間とめっき膜厚との関係を示すグラフである。
図3】実施例1と比較例1の無電解金めっき液を用いた場合の下地パラジウムめっき皮膜の膜厚と金めっき皮膜の析出速度との関係を示す図である。
図4】実施試料1A−2の還元型無電解金めっき皮膜の電子顕微鏡写真(×10000及び×30000)である。
図5】実施試料2−2及び比較例2の還元型無電解金めっき皮膜の電子顕微鏡写真(×30000)である。
図6】実施試料1A−2のめっき皮膜から還元型無電解金めっき皮膜及び無電解パラジウムめっき皮膜を剥離した後のニッケルめっき皮膜表面の電子顕微鏡写真(×5000)である。
図7】実施試料2−2及び比較例2のめっき皮膜から還元型無電解金めっき皮膜を剥離した後のニッケルめっき皮膜表面の電子顕微鏡写真(×3000)である。
図8】実施試料1A−6の還元型無電解金めっき皮膜の断面観察写真(×30000)である。
図9】実施試料1A−6と同様の条件でめっき皮膜を形成しためっき製品の端部と中央部の電子顕微鏡写真(×500)である。
図10】実施例1と比較例1の無電解金めっき液を用いた場合の金めっき液中へのニッケル溶出量の関係を示す図である。
図11】実施例2及び比較例2の無電解金めっき皮膜の膜厚のバラツキを示す図である。
図12】実施例2及び比較例2の無電解金めっき皮膜のワイヤーボンディング特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本件発明に係る還元型無電解金めっき液、当該めっき液を用いた無電解金めっき方法及び当該方法で処理しためっき製品の実施の形態についてそれぞれ説明する。
【0024】
1.本発明に係る還元型無電解金めっき液
本発明に係る還元型無電解金めっき液は、被めっき物表面への無電解金めっき皮膜の形成に用いるものであって、「水溶性金化合物」と、「クエン酸又はクエン酸塩」と、「エチレンジアミン四酢酸又はエチレンジアミン四酢酸塩」と、「ヘキサメチレンテトラミン」と、「炭素数3以上のアルキル基と3つ以上のアミノ基を含む鎖状ポリアミン」と、を含有することを特徴とする。以下、各成分についてそれぞれ述べる。
【0025】
(1)水溶性金化合物
本発明に係る還元型無電解金めっき液に用いる水溶性金化合物は、めっき液に可溶であって、所定の濃度が得られるものであれば、シアン系金塩、非シアン系金塩のいずれの水溶性金化合物を用いることができる。具体的なシアン系金塩の水溶性金化合物としては、シアン化金カリウム、シアン化金ナトリウム、シアン化金アンモニウム等を例示することができる。また、具体的な非シアン系金塩の水溶性金化合物としては、塩化金酸塩、亜硫酸金塩、チオ硫酸金塩等を例示することができる。これらの中でも、シアン化金カリウムが特に好ましい。また、水溶性金化合物は、1種単独、又は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、水溶性金化合物は、ここに例示した金化合物に限定されるものではない。
【0026】
本発明に係る還元型無電解金めっき液中の水溶性金化合物の濃度は、0.0025mol/L〜0.0075mol/Lであることが好ましい。水溶性金化合物の濃度が0.0025mol/L未満では、金めっき皮膜の析出速度が遅く、所望の膜厚の金めっき皮膜が得られにくいからである。水溶性金化合物の濃度が0.0075mol/Lを超えると、めっき液の安定性が低下するおそれがあり、また経済的にも不利だからである。
【0027】
(2)クエン酸又はクエン酸塩
本発明に係る還元型無電解金めっき液は、クエン酸又はクエン酸塩を含有する。これらクエン酸又はクエン酸塩は、金イオンと錯体形成可能な錯化剤として用いられるものである。本発明に係る還元型無電解金めっき液中のクエン酸又はクエン酸塩の濃度は、0.05mol/L〜0.15mol/Lであることが好ましい。錯化剤として用いられるこれらクエン酸又はクエン酸塩の濃度が0.05mol/L未満では、めっき液中に金が析出して、溶液安定性に劣るからであり、0.15mol/Lを超える場合には、錯体形成が過剰に進み、金の析出速度が低下して、所望の膜厚の金めっき皮膜が得られにくいからである。
【0028】
(3)エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はエチレンジアミン四酢酸塩
本発明に係る還元型無電解金めっき液は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はエチレンジアミン四酢酸塩とを含有する。このエチレンジアミン四酢酸又はエチレンジアミン四酢酸塩は、上述したクエン酸又はクエン酸塩と組み合わせて用いられる錯化剤である。本発明に係る還元型無電解金めっき液中のエチレンジアミン四酢酸又はエチレンジアミン四酢酸塩の濃度は、0.03mol/L〜0.1mol/Lであることが好ましい。錯化剤として用いられるエチレンジアミン四酢酸又はエチレンジアミン四酢酸塩の濃度が0.03mol/L未満では、めっき液中に金が析出して、溶液安定性に劣るからであり、0.1mol/Lを超える場合には、錯体形成が過剰に進み、金の析出速度が低下して、所望の膜厚の金めっき皮膜が得られにくいからである。
【0029】
(4)ヘキサメチレンテトラミン
本発明に係る還元型無電解金めっき液は、ヘキサメチレンテトラミンを含有する。当該ヘキサメチレンテトラミンは、めっき液中の金イオンを還元して、被めっき物表面に金を析出させる還元剤として用いられるものである。
【0030】
本発明に係る還元型無電解金めっき液中のヘキサメチレンテトラミンの濃度は、0.003mol/L〜0.009mol/Lであることが好ましい。ヘキサメチレンテトラミンの濃度が0.003mol/L未満では、金めっき皮膜の析出速度が遅く、所望の膜厚の金めっき皮膜が得られにくく、0.009mol/Lを超えると、還元反応が急速に進行し、めっき液中の金塩が異常析出してしまう場合があり、溶液安定性に劣り、経済的にも不利だからである。
【0031】
(5)鎖状ポリアミン
また、本発明に係る還元型無電解金めっき液は、炭素数3以上のアルキル基と3つ以上のアミノ基を含む鎖状ポリアミンを含有する。当該鎖状ポリアミンは、めっき液中の金イオンの還元を補助する還元補助剤として作用するアミン化合物である。当該鎖状ポリアミンとして、具体的には、3,3’−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン等を用いることができる。得られるめっき皮膜性能や、経済性から特に好ましいからである。
【0032】
本発明に係る還元型無電解金めっき液中の当該鎖状ポリアミンの濃度は、0.02mol/L〜0.06mol/Lであることが好ましい。鎖状ポリアミンの濃度が0.02mol/L〜0.06mol/Lの範囲とすることにより、下地金属皮膜の膜厚に影響することなく、高い析出速度を維持することが可能となる。また、金めっき皮膜の付き回り性を向上させることができ、金めっき皮膜を0.2μm以上の厚付けが可能となる。更に、溶液安定性を著しく高めることが可能となる。
【0033】
(6)その他の成分
本発明に係る還元型無電解金めっき液には、上述した水溶性金化合物と、クエン酸又はクエン酸塩と、エチレンジアミン四酢酸又はエチレンジアミン四酢酸塩と、ヘキサメチレンテトラミンと、炭素数3以上のアルキル基と3つ以上のアミノ基とを含む鎖状ポリアミンとに加えて、析出促進剤を含有させてもよい。ここに用いられる析出促進剤としては、タリウム化合物や鉛化合物が挙げられる。得られる金めっき皮膜の厚膜化の観点からタリウム化合物を用いることが好ましい。
【0034】
本発明に係る還元型無電解金めっき液中の析出促進剤としてのタリウム化合物の濃度は、1mg/L〜10mg/Lであることが好ましい。析出促進剤としてのタリウム化合物の濃度が1mg/L未満では、金めっき皮膜の厚膜化が困難となる。また、析出促進剤としてのタリウム化合物の濃度が10mg/Lを超えると、それ以上の厚膜化が図れず、経済的に不利である。
【0035】
本発明に係る還元型無電解金めっき液は、上述した必須成分に加えて、pH調整剤、酸化防止剤、界面活性剤、光沢剤等の添加剤を含有することができる。
【0036】
pH調整剤としては、特に制限はないが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水溶液、硫酸、リン酸等が挙げられる。本発明に係る還元型無電解金めっき液は、pH調整剤を用いることにより、pH7.0〜pH9.0に維持することが好ましい。還元型無電解金めっき液のpHが7.0を下回ると、めっき液が分解しやすくなり、pHが9.0を上回るとめっき液が安定しすぎてしまって、めっきの析出速度が遅くなり、金めっき皮膜の厚膜化に多大な時間を要してしまうからである。さらに、pH条件を7.0〜9.0に調整することによって、アルカリに弱い材料で構成された被めっき物のめっき処理も可能となる。また、酸化防止剤、界面活性剤、光沢剤等の添加剤としては公知のものが使用することができる。
【0037】
(7)めっき条件
本発明に係る還元型無電解金めっき液を用いた金めっき条件は特に限定されないが、液温が40℃〜90℃が好ましく、75℃〜85℃であることが特に好ましい。めっき時間も特に限定されないが、1分〜2時間が好ましく、2分〜1時間が特に好ましい。
【0038】
本発明に係る還元型無電解金めっき液は、上述したように、水溶性金化合物と、クエン酸又はクエン酸塩と、エチレンジアミン四酢酸又はエチレンジアミン四酢酸塩と、ヘキサメチレンテトラミンと、炭素数3以上のアルキル基と3つ以上のアミノ基を含む鎖状ポリアミンとを必須成分とすることにより、無電解めっき法によって、被めっき物表面に、金めっき皮膜を厚付けすることが容易となる。
【0039】
また、電気接続部位に設けられるニッケルめっき皮膜/パラジウムめっき皮膜/金めっき皮膜を形成する場合であっても、本発明に係る還元型無電解金めっき液を用いることにより、パラジウムめっき皮膜の膜厚に影響されることなく、金めっき皮膜をパラジウムめっき皮膜の表面に迅速に形成することができる。更に、無電解ニッケルめっき皮膜の表面に形成された無電解パラジウムめっき皮膜の表面に無電解金めっき皮膜を形成する場合であっても、本件発明の還元型無電解金めっき液を用いることにより、置換金めっき皮膜を形成する場合と比較して著しくニッケルの溶出を抑制でき、金めっき皮膜へのニッケルの拡散を防止することが可能となる。よって、本件発明の還元型無電解金めっき液によれば、高いワイヤボンディングの接合信頼性を実現することができる金めっき皮膜を提供することが可能となる。
【0040】
さらに、本発明の還元型無電解金めっき液は、従来の無電解金めっき液と比較して溶液の安定性が高い。例えば、めっき液を補給しながら連続めっきを行う場合において、めっき液の老朽化の指標としてメタルターンオーバー(MTO。建浴時のめっき液中の金が全て析出した場合を1ターンとするもの)が用いられる。従来の還元型無電解金めっき液の場合、MTOが2.0〜3.0ターンであるのに対し、本発明の還元型無電解金めっき液は、MTOが5.0ターン以上を実現することが可能となる。
【0041】
また、本発明の還元型無電解金めっき液は、従来の還元型無電解金めっき液に含まれていた毒性の強いホルムアルデヒドやホルムアルデヒド重亜硫酸塩付加物を含まないため、めっき処理作業における安全性の確保が容易となる。
【0042】
加えて、本発明の還元型無電解金めっき液は、金の析出反応が、触媒核となりうる金、パラジウム、ニッケル、銅等の表面においてのみ生じ、触媒核のない部分には生じないため、選択析出性が良好である。よって、金の析出が必要のない部分への金めっき皮膜の形成を回避でき、原料の節約ができる点で有益である。
【0043】
2.無電解金めっき方法
次に、本発明に係る無電解金めっき方法について説明する。本発明に係る無電解金めっき方法では、上述したいずれかの還元型無電解金めっき液を用い、被めっき物表面に無電解金めっき処理を行って金めっき皮膜を形成する。当該無電解金めっき方法では、通常の還元型無電解めっきの処理方法と同様に、被めっき物を無電解金めっき液中に浸漬する方法によりめっき処理を行う。
【0044】
本発明に係る無電解金めっき方法において処理の対象となる被めっき物表面は銅、パラジウム、金、ニッケルの何れかが存在することが好ましい。被めっき物表面に、銅、パラジウム、金、ニッケルの何れかが存在するものであれば、その存在形態は、何れの場合であっても良い。特に、被めっき物自体が銅により構成されるものや、被めっき物表面に銅、パラジウム、金、ニッケル、又は、これらの金属を含有する合金からなる皮膜の何れかを有するものを用いることがより好ましい。例えば、これらの金属を含有する合金としては、金コバルトを挙げることができる。金、パラジウム、ニッケル、銅、又は、これらの金属を含有する合金は、本発明における無電解金めっきの下地金属となり、これらの金属又は合金は、上述した還元型無電解金めっき液に含まれた還元剤としてのヘキサメチレンテトラミンに対して触媒活性作用を発揮する。被めっき物表面に形成される皮膜としては、特に、無電解パラジウムめっき皮膜、置換金めっき皮膜又は銅めっき皮膜を用いることが好ましい。例えば、プリント配線板の回路の実装部分や端子部分の表面に、無電解ニッケルめっきが施されている場合には、当該無電解ニッケルめっき皮膜の表面に無電解パラジウムめっき皮膜が形成されたものであることが好ましい。ニッケルめっき皮膜の表面にパラジウムめっき皮膜が形成されたものであれば、ニッケルめっき皮膜の金めっき皮膜への拡散を防止することができる点で特に有効だからである。
【0045】
3.めっき製品
次に、本発明に係るめっき製品について説明する。本発明に係るめっき製品は、被めっき物表面に、上述したいずれかの無電解金めっき液を用いて、上述した無電解金めっき方法で被めっき物表面に無電解金めっき処理をしたことを特徴とする。中でも、pHが7.0〜9.0の還元型無電解金めっき液を用いて被めっき物表面に無電解金めっき処理を施したものであることが好ましい。また、被めっき物表面に、銅、パラジウム、金、ニッケルの何れかが存在するものであれば、その存在形態は、何れの場合であっても良い。特に、被めっき物自体が銅により構成されるものや、被めっき物表面に、銅、パラジウム、金、ニッケル、又は、これらの金属を含有する合金からなる皮膜の何れかを有するものを用いることがより好ましい。中でも、被めっき物表面に形成される皮膜としては、無電解パラジウムめっき皮膜、置換金めっき皮膜又は銅めっき皮膜であることが好ましい。特に、表面に無電解パラジウムめっき皮膜を備えた被めっき物としては、当該無電解パラジウムめっき皮膜の下層として無電解ニッケルめっき皮膜を形成したものであることが好ましい。上述した還元型無電解金めっき液を用いためっき処理は、電気的接続部位のめっき皮膜の形成に特に好適に用いることができるからである。
【0046】
以上説明した本発明に係る実施の形態は、本発明の一態様であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であるのはもちろんである。
【0047】
以下に、本件発明の還元型無電解金めっき液を用いて作製した金めっき皮膜の実施例1及び実施例2と、置換型無電解金めっき液を用いて作製した金めっき皮膜の比較例1、従来の還元型無電解めっき液を用いて作製した金めっき皮膜の比較例2を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではないことを念のために述べておく。
【実施例1】
【0048】
実施例1では、本件発明を適用した還元型無電解金めっき液を用いて、銅板を基板として、当該基板上に、無電解ニッケルめっき皮膜/無電解パラジウムめっき皮膜/無電解金めっき皮膜からなるめっき皮膜を形成した。
【0049】
還元型無電解金めっき液の調整:本実施例において用いた還元型無電解金めっき液の組成を以下に示す。めっき条件(pH、液温度)を組成とあわせて示す。
シアン化金カリウム 5ミリmol/L
エチレンジアミン四酢酸2カリウム 0.03mol/L
クエン酸 0.15mol/L
ヘキサメチレンテトラミン 3ミリmol/L
3,3’−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン 0.02mol/L
酢酸タリウム 5mg/L
pH 8.5
液温度 80℃
【0050】
めっき皮膜の作製:実施例1としてのめっき皮膜付き試料は、実施試料群1A〜実施試料群1Dからなる。これら実施試料群1A〜実施試料群1Dは、無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚の違いにより分けられる。
【0051】
実施試料群1Aは、実施試料1A−1〜実施試料1A−6からなり、各実施試料は、銅板の表面に5μmの膜厚の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、当該無電解ニッケルめっき皮膜の表面に0.1μmの膜厚の無電解パラジウムめっき皮膜を形成した。その後、上述した還元型無電解金めっき液を用いて、各めっき時間の条件に応じて、無電解パラジウムめっき皮膜の表面に還元型無電解金めっき皮膜を形成した。具体的には、実施試料1A−1〜実施試料1A−6は、還元型無電解金めっき皮膜形成時におけるめっき時間の条件を10分、20分、30分、40分、50分、60分として金めっき皮膜付き試料を得た。
【0052】
実施試料群1Bは、実施試料1B−1〜実施試料1B−6からなり、無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚が0.2μmであること以外、実施試料群1Aと同様に作製した。なお、各実施試料1B−1〜実施試料1B−6は、実施試料1A−1〜実施試料1A−6と同様に、還元型無電解金めっき皮膜形成時におけるめっき時間の条件が異なるものである。
【0053】
実施試料群1Cは、実施試料1C−1〜実施試料1C−6からなり、無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚が0.4μmであること以外、実施試料群1Aと同様に作製した。なお、各実施試料1C−1〜実施試料1C−6は、実施試料1A−1〜実施試料1A−6と同様に、還元型無電解金めっき皮膜形成時におけるめっき時間の条件が異なるものである。
【0054】
実施試料群1Dは、実施試料1D−1〜実施試料1D−6からなり、無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚が0.6μmであること以外、実施試料群1Aと同様に作製した。なお、各実施試料1D−1〜実施試料1D−6は、実施試料1A−1〜実施試料1A−6と同様に、還元型無電解金めっき皮膜形成時におけるめっき時間の条件が異なるものである。
【実施例2】
【0055】
実施例2では、実施例1と同様の還元型無電解金めっき液を用いて、銅板を基板として、当該基板上に、無電解ニッケルめっき皮膜/置換型無電解金めっき皮膜/還元型無電解金めっき皮膜からなるめっき皮膜を形成した。実施例2としてのめっき皮膜付き試料は、実施試料2−1〜実施試料2−6からなる。各実施試料2−1〜実施試料2−6は、銅板の表面に5μmの膜厚の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、当該無電解ニッケルめっき皮膜の表面に0.07μmの膜厚の置換型無電解金めっき皮膜を形成した。その後、上述した還元型無電解金めっき液を用いて、各めっき時間の条件に応じて、置換型無電解金めっき皮膜の表面に還元型無電解金めっき皮膜を形成した。なお、各実施試料2−1〜実施試料2−6は、実施試料1A−1〜実施試料1A−6と同様に、還元型無電解金めっき皮膜形成時におけるめっき時間の条件が異なるものである。
【比較例】
【0056】
[比較例1]
比較例1では、置換型無電解金めっき液を用いて、実施例1と同様に、銅板を基板として、当該基板上に、無電解ニッケルめっき皮膜/無電解パラジウムめっき皮膜/無電解金めっき皮膜からなるめっき皮膜を作製した。
【0057】
置換型無電解金めっき液の調整:比較例1において用いた置換型無電解金めっき液の組成を以下に示す。めっき条件(pH、液温度)を組成とあわせて示す。
シアン化金カリウム 10ミリmol/L
エチレンジアミン四酢酸 0.03mol/L
クエン酸 0.15mol/L
酢酸タリウム 50mg/L
pH 4.5
液温度 80℃
【0058】
めっき皮膜の作製:比較例1としてのめっき皮膜付き試料は、比較試料群1A〜比較試料群1Dからなる。これら比較試料群1A〜比較試料群1Dは、無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚の違いにより分けられる。
【0059】
比較試料群1Aは、比較試料1A−1〜比較試料1A−6からなり、各比較試料は、銅板の表面に5μmの膜厚の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、当該無電解ニッケルめっき皮膜の表面に0.1μmの膜厚の無電解パラジウムめっき皮膜を形成した。その後、上述した置換型無電解金めっき液を用いて、各めっき時間の条件に応じて、無電解パラジウムめっき皮膜の表面に置換型無電解金めっき皮膜を形成した。具体的には、比較試料1A−1〜比較試料1A−6は、置換型無電解金めっき皮膜形成時におけるめっき時間の条件を10分、20分、30分、40分、50分、60分として金めっき皮膜付き試料を得た。
【0060】
比較試料群1Bは、比較試料1B−1〜比較試料1B−6からなり、無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚が0.2μmであること以外、比較試料群1Aと同様に作製した。なお、各比較試料1B−1〜比較試料1B−6は、比較試料1A−1〜比較試料1A−6と同様に、置換型無電解金めっき皮膜形成時におけるめっき時間の条件が異なるものである。
【0061】
比較試料群1Cは、比較試料1C−1〜比較試料1C−6からなり、無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚が0.4μmであること以外、比較試料群1Aと同様に作製した。なお、各比較試料1C−1〜比較試料1C−6は、比較試料1A−1〜比較試料1A−6と同様に、置換型無電解金めっき皮膜形成時におけるめっき時間の条件が異なるものである。
【0062】
比較試料群1Dは、比較試料1D−1〜比較試料1D−6からなり、無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚が0.6μmであること以外、比較試料群1Aと同様に作製した。なお、各比較試料1D−1〜比較試料1D−6は、比較試料1A−1〜比較試料1A−6と同様に、置換型無電解金めっき皮膜形成時におけるめっき時間の条件が異なるものである。
【0063】
[比較例2]
比較例2では、従来の還元型無電解金めっき液を用いて、実施例2と同様に、銅板を基板として、当該基板上に、無電解ニッケルめっき皮膜/置換型無電解金めっき皮膜/従来の還元型無電解金めっき皮膜からなるめっき皮膜を形成した。
【0064】
従来の還元型無電解金めっき液の調整:比較例2において用いた還元型無電解金めっき液の組成を以下に示す。めっき条件(pH、液温度)を組成とあわせて示す。
シアン化金カリウム 0.015mol/L
シアン化カリウム 0.03mol/L
水酸化ナトリウム 0.8mol/L
ジメチルアミンボラン 0.2mol/L
鉛化合物 5mg/L(鉛として)
pH 13
液温度 70℃
【0065】
めっき皮膜の作製:比較例2は、銅板の表面に5μmの膜厚の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、当該無電解ニッケルめっき皮膜の表面に0.05μmの膜厚の置換型無電解金めっき皮膜を形成した。その後、上述した還元型無電解金めっき液を用いて、置換型無電解金めっき皮膜の表面に0.20μmの膜厚の還元型無電解金めっき皮膜を形成した。
【0066】
[評価]
次に、本件発明の還元型無電解金めっき液を用いて作製した金めっき皮膜の実施例1及び実施例2について析出速度や、表面形態等について評価を行った。以下に、必要に応じて、実施例1や実施例2と、置換型無電解金めっき液を用いて作製した金めっき皮膜の比較例1や従来の還元型無電解めっき液を用いて作製した金めっき皮膜の比較例2とを対比して、具体的に述べる。
【0067】
析出速度:本発明に係る還元型無電解金めっき液を用いた実施例1のうち、実施試料群1A(実施試料1A−1〜実施試料1A−6)の金めっき皮膜のめっき時間とめっき膜厚との関係を図1に示す。同様に、本発明に係る還元型無電解金めっき液を用いた実施例2(実施試料2−1〜実施試料2−6)の金めっき皮膜のめっき時間とめっき膜厚との関係を図2に示す。なお、図2にめっき処理時間20分として得られた実施試料2−2の金めっき皮膜の電子顕微鏡写真(×10,000)を示す。
【0068】
図1から上述した還元型無電解金めっき液を用いて、無電解パラジウムめっき皮膜の表面に形成した金めっき皮膜は、形成される金めっき皮膜の厚さに影響されることなく、安定して0.15μm/30分の速度で金めっき皮膜が形成されることが確認できた。
【0069】
図2から上述した還元型無電解金めっき液を用いて、置換型無電解金めっき皮膜の表面に形成した還元型無電解金めっき皮膜は、形成される金めっき皮膜の厚さに影響されることなく、安定して0.17μm/30分の速度で金めっき皮膜が形成されることが確認できた。
【0070】
金めっき皮膜の析出速度に及ぼす無電解パラジウムめっき皮膜の厚さへの影響:次に、実施例1と比較例1とを対比して、金めっき皮膜の析出速度に及ぼす無電解パラジウムめっき皮膜の厚さへの影響について述べる。図3には、還元型無電解金めっき液を用いて無電解パラジウムめっき皮膜の表面に金めっき皮膜を形成した実施試料群1A(実施試料1A−1〜実施試料1A−6)〜実施試料群1D(実施試料1D−1〜実施試料1D−6)の無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚と金めっき皮膜の析出速度との関係を示す。あわせて図3には、置換型無電解金めっき液を用いて無電解パラジウムめっき皮膜の表面に金めっき皮膜を形成した比較試料群1A(比較試料1A−1〜比較試料1A−6)〜比較試料群1D(比較試料1D−1〜比較試料1D−6)無電解パラジウムめっき皮膜の膜厚と金めっき皮膜の析出速度との関係を示す。
【0071】
図3から比較試料群1A〜比較試料群1Dの置換型無電解金めっき液を用いて形成した金めっき皮膜は、下地金属であるパラジウムめっき皮膜が厚くなるに従い、金めっき皮膜の析出速度が低下していることがわかる。これに対し、実施試料群1A〜実施試料群1Dの還元型無電解金めっき液を用いて形成した金めっき皮膜は、下地金属であるパラジウムめっき皮膜の厚さにかかわらず、安定した速度で金めっき皮膜が形成されることが確認できた。
【0072】
金めっき皮膜の表面形態:次に、本発明の還元型無電解金めっき液を用いて無電解パラジウムめっき皮膜の表面に形成した金めっき皮膜の表面形態を観察した。図4に実施例1のうち還元型無電解金めっき皮膜を0.1μmの膜厚で形成した実施試料1A−2の金めっき皮膜表面の電子顕微鏡写真(×10000及び×30000)を示す。また、本発明の還元型無電解金めっき液を用いて置換型無電解金めっき皮膜の表面に形成した還元型無電解金めっき皮膜の表面形態を観察した。図5に実施例2のうち還元型無電解金めっき皮膜を0.13μmの膜厚で形成した実施試料2−2の金めっき皮膜表面の電子顕微鏡写真(×30000)を示す。比較として、従来の還元型無電解金めっき液を用いて置換型無電解金めっき皮膜の表面に形成した還元型無電解金めっき皮膜の表面形態を観察した。図5には、還元型無電解金めっき皮膜を0.13μmの膜厚で形成した比較例2の金めっき皮膜表面の電子顕微鏡写真(×30000)を示す。
【0073】
図4及び図5から、本件発明の還元型無電解金めっき液のみならず、従来の還元型無電解金めっき液を用いて無電解金めっき皮膜は、緻密に形成されていることが確認できた。
【0074】
無電解金めっき皮膜剥離後の表面形態:また、図4及び図5に示した各めっき皮膜から無電解金めっき皮膜、又は、無電解金めっき皮膜及び無電解パラジウムめっき皮膜を剥離した後のニッケルめっき皮膜の表面形態を観察した。図6図4の状態から無電解金めっき皮膜及び無電解パラジウムめっき皮膜を剥離した後のニッケルめっき皮膜表面の電子顕微鏡写真(×5000)を示す。図7図5の状態から無電解金めっき皮膜を剥離した後のニッケルめっき皮膜表面の電子顕微鏡写真(×3000)を示す。
【0075】
図6及び図7から明らかなように、還元型無電解金めっき液を用いて形成された実施例及び比較例は、何れもニッケルめっき皮膜の局部腐食は確認されなかった。
【0076】
めっき皮膜の断面形態:次に、本発明の還元型無電解金めっき液を用いて無電解パラジウムめっき皮膜の表面に金めっき皮膜を形成した実施例1の無電解ニッケルめっき皮膜/無電解パラジウムめっき皮膜/無電解金めっき皮膜の層構成のめっき皮膜の断面を観察した。図8には、還元型無電解金めっき皮膜を0.3μmの膜厚で形成した実施試料1A−6のめっき皮膜の断面観察写真(×30000)を示す。図8から上述した還元型無電解金めっき液を用いて形成した無電解金めっき皮膜は、均一に、パラジウムめっき皮膜の表面に形成されていることが確認できた。
【0077】
金めっき皮膜の選択析出性:次に、本発明の還元型無電解金めっき液を用いて無電解パラジウムめっき皮膜の表面に金めっき皮膜を形成した実施例1のうち実施試料1A−6と同様の条件でめっき皮膜を形成しためっき製品の端部と中央部それぞれの電子顕微鏡写真(×500)を図9に示す。図9からめっき製品の端部と、中央部とでは、同様に均一に、無電解金めっき皮膜が形成されていることが確認できる。よって、図9の写真からも、本件発明の還元型無電解金めっき液は、無電解金めっき皮膜の選択析出性が良好であることがいえる。
【0078】
金めっき液中のニッケル溶出の影響:次に、本発明の還元型無電解金めっき液を用いて無電解パラジウムめっき皮膜の表面に金めっき皮膜を形成した実施例1について、還元型無電解金めっき液への無電解ニッケルの溶出の影響について検討した。具体的には、金1gを無電解パラジウムめっき皮膜の表面に析出した場合の下地ニッケルの無電解金めっき液への溶出量をICPを用いて測定した。比較として、置換型無電解金めっき液を用いた比較例1についても、実施例1と同様に測定した。図10に、還元型無電解金めっき液を用いた実施例1の無電解ニッケルの溶出量と、置換型無電解金めっき液を用いた比較例1の下地ニッケルの溶出量を示す。図10では、いずれも金1gを析出した場合の金めっき液へのNiの溶出量をICPを用いて測定した際の値を示す。
【0079】
図10から、置換型無電解金めっき液を用いて、金めっき皮膜を1gあたり析出した比較例1は、置換型無電解金めっき液に下地金属として用いられるNiが162ppm溶出した。これに対し、本件出願の還元型無電解金めっき液を用いて、金めっき皮膜を1gあたり析出した実施例1は、還元型無電解金めっき液に下地金属として用いられるNiが0.2ppmしか溶出しなかった。
【0080】
当該評価試験の結果から、本件出願に係る還元型無電解金めっき液は、置換金めっき皮膜を形成する場合と比較してパラジウムめっき皮膜を介した下地ニッケルの溶出を著しく抑制でき、金めっき皮膜へのニッケルの拡散を防止することが可能となることがいえる。
【0081】
金めっき皮膜の膜厚のバラツキ:次に、置換型無電解金めっき皮膜の表面に還元型無電解金めっき液を用いて形成した金めっき皮膜の膜厚のバラツキについて検討する。ここでは、本件発明に係る還元型無電解金めっき液を用いた実施例として、実施例2の実施試料2−2について還元型無電解金めっき皮膜の膜厚を測定した。比較として、従来の還元型無電解金めっき液を用いた比較例2について還元型無電解金めっき皮膜の膜厚を測定した。それぞれについて20箇所、膜厚の測定を行った結果を表1にまとめて示す。また、図11にバラツキの状態を示す図を示す。
【0082】
【表1】
【0083】
本件発明に係る還元型無電解金めっき液を用いた実施試料2−2の無電解金めっき皮膜の膜厚の平均値が0.199μmであり、最大値と最小値の差は0.01μm、標準偏差が0.004と著しく小さかった。これに対し、従来の還元型無電解金めっき液を用いた比較例2の無電解金めっき皮膜の膜厚の平均値が0.206μmであり、最大値と最小値の差は0.036μm、標準偏差が0.013であった。よって、本件発明に係る還元型無電解金めっき液を用いることにより、従来の還元型無電解金めっき液を用いた場合と比べて、得られる無電解金めっき皮膜の膜厚が全体にわたって、かなり高いレベルでバラツキが小さく、均一であることが分かる。当該結果から、本件発明に係る還元型無電解金めっき液を用いることによって、被めっき対象面の全体をより一層均一にめっき処理することが可能となり、品質の向上を図ることができる。また、要求膜厚で均一に無電解金めっき皮膜を形成することができるため、要求膜厚を超えた無電解金めっき皮膜の形成が抑制され、金の余分な持ち出しを大幅に低減することが可能となる。
【0084】
金めっき皮膜のワイヤボンディング特性:次に、本件発明に係る還元型無電解金めっき液を用いて形成した金めっき皮膜のワイヤーボンディング特性について検討する。ここでは、本件発明に係る還元型無電解金めっき液を用いた実施例として、実施例2の実施試料2−2について還元型無電解金めっき皮膜のワイヤーボンディングの強度を測定した。比較として、従来の還元型無電解金めっき液を用いた比較例2について還元型無電解金めっき皮膜のワイヤーボンディングの強度を測定した。具体的には、実施試料2−2及び比較例2の還元型無電解めっき皮膜に対して、線径25μmの金ワイヤーをワイヤーボンディング装置で接合し、プルテスターにてワイヤーを引っ張り、ワイヤーボンディングの強度を測定した。それそれ20箇所測定し、ワイヤーボンディング強度の最大値、最小値、平均値を求めた。測定結果を図12に示す。
【0085】
本件発明に係る還元型無電解めっき液を用いた実施例2(実施試料2−2)の無電解金めっき皮膜のワイヤーボンディング強度の最大値は、6.0gf、最小値は4.8gfであり、平均値は5.3gfであった。そして、従来の還元型無電解めっき液を用いた比較例2の無電解金めっき皮膜のワイヤーボンディング強度の最大値は、6.0gf、最小値は4.8gfであり、平均値は5.3gfであった。これらの結果から、本件発明に係る還元型無電解めっき液を用いて得られた無電解金めっき皮膜は、従来の還元型無電解めっき液を用いた場合と殆ど変わることなく、良好なワイヤーボンディング強度が得られることが分かった。よって、本件発明の還元型無電解金めっき液によれば、高いワイヤボンディングの接合信頼性を実現することができる金めっき皮膜を提供することが可能となることがいえる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本件発明の還元型無電解金めっき液は、ニッケルやパラジウム等の下地金属の溶出を著しく抑制し、当該下地金属の表面に金めっき皮膜を高い析出速度で厚付けすることが可能となる。よって、本件発明によれば、ワイヤボンディングの接合信頼性の高い金めっき皮膜を提供することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12