(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(I)で表されるビスマレイミド化合物が、一般式(I)中のXが炭素数10〜30のアルキル基を主鎖となし、このアルキル基中の互いに隣接する炭素に結合した2本の側鎖が部分的に環状構造をなしていることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂含浸物。
前記一般式(I)で表されるビスマレイミド化合物が、一般式(I)中のnが1〜20の範囲のいずれかの数である化合物の混合物であり、この混合物中におけるn=0である化合物の割合が5〜30質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂含浸物。
前記(B)ラジカル重合開始剤が、過酸化物系重合開始剤、ジアゾ系重合開始剤、アルキルフェノン系重合開始剤、アシルフォスフィン系重合開始剤、チタノセン系重合開始剤、及びオキシムエステル系重合開始剤から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂含浸物。
【背景技術】
【0002】
高周波信号を伝送するためのプリント配線基板の材料は、信号の伝送特性を向上させるために、優れた誘電特性を有することが求められている。近年は、例えば大容量通信機器、スマホのアンテナモジュール、ノートパソコンのケーブル系統向け材料、ミリ波レーダー向け材料、車のオートブレーキ装置関連機器等の用途に対し、より優れた誘電特性、耐熱性、低応力、耐水性、接着性等の要求が、電子回路基板に対して高まっている。
【0003】
従来の電子回路基板としては、例えば、FR4(Frame Retardant Type 4)等に代表されるガラス繊維を基材として、低誘電率エポキシ樹脂をマトリクスとして含浸させて樹脂含浸物とし、樹脂含浸物を硬化させて得られた基板が広く用いられている(特許文献1)。しかし、これは誘電率がそれほど低くならず、さらなる信号の伝送特性の向上効果が求められている。
【0004】
また、低誘電率のフッ素系樹脂をマトリクス誘電体層とした基板も提案されているが(特許文献2)、これはフッ素系樹脂とガラスクロス層との接着性や、銅箔との接着性に問題があることが知られている。
【0005】
また、基材としてガラス繊維の代わりにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂を用い、マトリクスとしてエポキシ樹脂を用いた基板も提案されている(特許文献3)。PTFEは誘電特性と耐熱性とのバランスに優れ、この分野を含む高周波分野における回路基板などにも多く使用されており、半田リフロー炉などの工程にも耐えることができるため、それらの基板は、ある程度優れた誘電特性を有し、例えば大型コンピュータの回路基板等に使用されている。特にPTFEの多孔質膜である延伸多孔質PTFE(expanded PTFE、またはePTFE)を用いた場合、エポキシ樹脂との接着性が高くはないが、硬い硬化物を形成するエポキシ樹脂を含浸させると、多孔質膜の内部までエポキシ樹脂が十分に回り込んで一体化した状態が得られ、両者の組み合わせ効果により誘電特性もある程度優れた基板材料を得ることができる。
【0006】
しかし、製造工程中や実際の使用時における、地震、落下等の大小を問わない衝撃により、延伸多孔質PTFEとエポキシ樹脂との間でわずかでも剥離が生じると、湿度の影響等により経時的に信頼性が低下するリスクを有するという大きな弱点があるため、携帯電話の回路基板等広く採用されるには至っていない。
【0007】
誘電特性に優れた他の材料としては、液晶ポリマー(以下、「LCP」と称する場合がある)が従来から使用されている。しかし、約260℃のハンダリフロー工程に耐えうる耐熱性を有するLCPは300℃付近かそれを超える温度での処理が必要となり、加工性が著しく悪いという問題点を有する。また、プリント回路基板の製造の最終段階で、得られた製品にわずかであっても不良が発見された場合に、手はんだで局所的に400℃程度まで短時間加熱されるが、耐熱性の問題から、LCPを用いた配線板は手はんだでの修正が不可能という問題点もある。また、LCPは銅箔との密着性が良好でないため、LCPと銅箔とを貼り合わせる際には、充分な密着性を得るために予め銅箔の表面に比較的大きな凹凸形状を形成し、LCPの平滑な面に加熱加圧して貼り合わせることが必要となる。しかしながら、凹凸形状が大きくなると信号の伝送距離が増大することから伝送損失が生じるという問題を有する。即ち、LCPはエポキシ樹脂より優れた誘電特性を有するものの、高周波の信号回路用の基板材料としては解決すべき課題を抱えている。
【0008】
また、ビスマレイミド化合物(以下、「BMI」と称する場合がある)等のマレイミド化合物は耐熱性が高いことで知られており、近年では優れた誘電特性を有するものの出現が知られている(特許文献4〜6)。
【0009】
しかし、ビスマレイミド化合物は、上記のように比較的優れた誘電特性を有するビスマレイミド化合物でも、ビスマレイミド化合物それ自体の強度は、上記用途に適用するためには不足している。一方でビスマレイミド化合物の強度を高くするためにガラス繊維と組み合わせると、強度は高くなるものの、誘電特性が低下するため、このビスマレイミド化合物の誘電特性を相殺してしまうという問題がある。
【0010】
また、公知のビスマレイミド化合物を使用して基板材料を調製することも提案され、その基材の選択肢の一つとしてテトラフルオロエチレンが挙げられているが、ビスマレイミド化合物と織布または不織布との組合せによるプリプレグの製造が可能との表現のうち、織布または不織布の素材の例示の一つとしてPTFEも含まれるとしているのみで、本発明の主旨とは異なるものである。(特許文献7)。
【0011】
また、基板に用いられる、樹脂含浸物や、その硬化物である複合体は、基板以外にも応用が可能であり、例えば、航空機管制用のレーダーアンテナを風雨から保護するために使用されるレドーム等の構造物に用いることができる。レドームを構成する材料には、レーダー波がレドームを通過する際に強度が低下することのないように、低い誘電特性を持つことが要求される。このような材料としては、低誘電率のフッ素系樹脂が用いられ、上記PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が本分野でも用いられている。
【0012】
しかし、フッ素系樹脂自体の強度は高くなく、さらに、このPTFE樹脂を用いた薄いシートを得るためには、硬い塊状のPTFE樹脂から薄くスライスして製作しなければならず、フレキシブルで薄く、かつ布状で丈夫な使い勝手の良いシートは今まで得られていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を、より具体的に説明する。
【0035】
本発明の樹脂含浸物においては、次の一般式(I)で表される(A)ビスマレイミド化合物を含有する硬化性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」という場合もある)をマトリクス樹脂として用いる。
【0036】
【化1】
但し、式(I)中、Xは、脂肪族、脂環式又は芳香族の炭化水素基であって、主鎖の炭素数が10〜30である炭化水素基を示し、これらの基は、ヘテロ原子、置換基又はシロキサン骨格を有していてもよい。Xは、好ましくは、脂肪族又は脂環式炭化水素若しくは脂環式炭化水素基により修飾された脂肪族炭化水素基であり、炭素数10〜55の脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、炭素数10〜40であることがさらに好ましい。
【0037】
Yは、脂肪族、脂環式又は芳香族の炭化水素基を示し、これらの基はヘテロ原子、置換基、フェニルエーテル骨格、スルフォニル骨格又はシロキサン骨格を有していてもよい。Yは、好ましくは、芳香族炭化水素基である。
【0038】
nは繰り返し単位数であり、1〜20の範囲の数を示す。nが1以上であると、誘電特性に優れた樹脂含浸物及び複合材が得られる。また、nは20以下が好ましく、10以下がより好ましい。nが20以下であると、強度に優れた樹脂含浸物及び複合材が得られる。ビスマレイミド化合物は、nが1〜20であるものを1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよいが、nが1〜10のものの混合物であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明で用いるビスマレイミド化合物は、一般式(I)中のnが1〜20の範囲のいずれかの数である化合物の混合物を使用可能であり、この混合物中におけるn=0である化合物の割合が5〜30質量%であることが好ましい。n=0である化合物の割合はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定可能である。
【0040】
より具体的には、GPCを用いて測定して得られたn=0〜20のビスマレイミド化合物に由来するピーク面積の合計中の、n=0のビスマレイミド化合物に由来するピーク面積の割合が、5〜30%であることが好ましく、10〜20%であることがより好ましい。n=0のビスマレイミド化合物のピーク面積比が5%以上であると、強度に優れた樹脂含浸物及び複合材が得られる。また、n=0のビスマレイミド化合物のピーク面積比が30%以下であると、誘電特性及び耐リフロー性に優れた樹脂含浸物及び複合材が得られる。
【0041】
上記GPC分析の具体的方法は特に限定されるものではないが、ビスマレイミド化合物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた試料を用い、ポリスチレン換算にて求めることができる。
【0042】
また、本発明で用いるビスマレイミド化合物は、一般式(I)中のnが1〜20の範囲の化合物の混合物中におけるn=0である化合物とn=1である化合物の合計量の割合が15〜30質量%であることが好ましい。より具体的には、GPCを用いて測定して得られたn=0〜20のビスマレイミド化合物に由来するピーク面積の合計に対して、n=0のピーク面積比とn=1のピーク面積比の合計が15〜30%であることが好ましく、20〜24%であることがより好ましい。n=0のピーク面積比とn=1のピーク面積比の合計が15%以上であると、強度に優れた樹脂含浸物及び複合材が得られる。また、n=0のピーク面積比とn=1のピーク面積比の合計が30%以下であると、誘電特性に優れた樹脂含浸物及び複合材が得られる。
【0043】
上記ビスマレイミド化合物の製造方法は特に限定されず、例えば酸無水物とジアミンとを縮合反応させたのち、脱水して環化(イミド化)を行う公知の方法により製造することができる。
【0044】
その製造に使用可能な酸無水物の例としては、ポリブタジエン−グラフト−無水マレイン酸;ポリエチレン−グラフト−無水マレイン酸;ポリエチレン−無水マレイン酸交互共重合体;ポリ無水マレイン酸−1−オクタデセン交互共重合体;ポリプロピレン−グラフト−無水マレイン酸;ポリ(スチレン−無水マレイン酸)共重合体;無水ピロメリト酸;無水マレイン酸、無水コハク酸;1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物;1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物;3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物;ビシクロ(2.2.2)オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物;ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物;エチレンジアミン四酢酸二無水物;3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物;3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物;4,4’−オキシジフタリックス無水物;3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物;2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物;4,4’−ビスフェノールA ジフタル酸無水物;5−(2,5−ジオキシテトラヒドロ)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン無水物;エチレングリコールビス(トリメリット酸無水物);ヒドロキノンジフタル酸無水物;アリルナディック酸無水物(allyl nadic anhydride);2−オクテン−1−イルコハク酸無水物;無水フタル酸;1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物;3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物;1,8−ナフタル酸無水物;グルタル酸無水物;ドデセニルコハク酸無水物;ヘキサデセニルコハク酸無水物;ヘキサヒドロフタル酸無水物;メチルヘキサヒドロフタル酸無水物;テトラデセニルコハク酸無水物等が挙げられる。
【0045】
またジアミンの例としては、1,10−ジアミノデカン;1,12−ジアミノドデカン;ダイマージアミン;1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン;1,2−ジアミノシクロヘキサン;1,2−ジアミノプロパン;1,3−ジアミノプロパン;1,4−ジアミノブタン;1,5−ジアミノペンタン;1,7−ジアミノヘプタン;1,8−ジアミノメンタン;1,8−ジアミノオクタン;1,9−ジアミノノナン;3,3’−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン;ジアミノマレオニトリル;1,3−ジアミノペンタン;9,10−ジアミノフェナントレン;4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニル;3,5−ジアミノ安息香酸;3,7−ジアミノ−2−メトキシフルオレン;4,4’−ジアミノベンゾフェノン;3,4−ジアミノベンゾフェノン;3,4−ジアミノトルエン;2,6−ジアミノアントラキノン;2,6−ジアミノトルエン;2,3−ジアミノトルエン;1,8−ジアミノナフタレン;2,4−ジアミノトルエン;2,5−ジアミノトルエン;1,4−ジアミノアントラキノン;1,5−ジアミノアントラキノン;1,5−ジアミノナフタレン;1,2−ジアミノアントラキノン;2,4−クメンジアミン;1,3−ビスアミノメチルベンゼン;1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン;2−クロロ−1,4−ジアミノベンゼン;1,4−ジアミノ−2,5−ジクロロベンゼン;1,4−ジアミノ−2,5−ジメチルベンゼン;4,4’−ジアミノ−2,2’―ビストリフルオロメチルビフェニル;ビス(アミノ−3−クロロフェニ)エタン;ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)メタン;ビス(4−アミノ−3,5−ジエチルフェニル)メタン;ビス(4−アミノ−3−エチルジアミノフルオレン;ジアミノ安息香酸;2,3−ジアミノナフタレン;2,3−ジアミノフェノール;−5−メチルフェニル)メタン;ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)メタン;ビス(4−アミノ−3−エチルフェニル)メタン;4,4’−ジアミノフェニルスルホン;3,3’−ジアミノフェニルスルホン;2,2−ビス(4,(4アミノフェノキシ)フェニル)スルホン;2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン;4,4’―オキシジアニリン;4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド;3,4’−オキシジアニリン;2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン;1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン;4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル;4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル;4,4’−ジアミノ−3,3’―ジメチルビフェニル;4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメトキシビフェニル;Bisaniline M;Bisaniline P;9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン;o‐トリジンスルホン;メチレンビス(アントラニル酸);1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン;1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)プロパン;1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ブタン;1,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ブタン;2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン;3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;4,4’−ジアミノベンザニリド;2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン;ポリオキシアルキレンジアミン類(たとえば、HuntsmanのJeffamine D−230、D400、D−2000およびD−4000);1,3−シクロヘキサンビス(メチルアミン);m−キシリレンジアミン;p−キシリレンジアミン;ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン;1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン;3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ(5.2.1.0
2,6)デカン、1,2−ビス(アミノオクチル)−3−オクチル−4−ヘキシル−シクロヘキサン等が挙げられる。これらの中でも、優れた誘電特性や強度を示す樹脂含浸物及び硬化物を得る観点から、アルキル鎖の主鎖の炭素数が10〜30であるジアミンであることが好ましい。
【0046】
上記ビスマレイミド化合物は、市販の化合物を用いることもでき、好ましい例としては、DESIGNER MOLECURES Inc.製のBMI−3000(ダイマージアミン、ピロメリット酸二無水物及びマレイン酸無水物より合成)、BMI−1500、BMI−2550、BMI−1400、BMI−2310、BMI−3005等を好適に用いることができる。
【0047】
上記の中でも本発明で特に好適に用いられるビスマレイミド化合物であるDESIGNER MOLECURES Inc.製のBMI−3000は、下記の構造式で表される。式中、nは1〜20の範囲の数である。
【化2】
【0048】
次に本発明で用いる(B)ラジカル重合開始剤としては、加熱によりラジカル重合を開始させる熱重合開始剤と、エネルギー線照射によりラジカル重合を開始させるエネルギー線重合開始剤のいずれか一方又は双方を使用できる。
【0049】
ラジカル重合開始剤は、特に制限されず、従来用いられている有機過酸化物系やアゾ系の化合物を適宜使用することができる。
【0050】
有機過酸化物系開始剤の例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセテートパーオキサイド、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキサイド、m−トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ−s−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノオエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシマレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメトルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン等が挙げられる。
【0051】
また、アゾ系開始剤の例としては、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドリドクロリド、2,2’−アゾビス[N−(4−ヒドロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル−2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等が挙げられる。
【0052】
上記熱重合開始剤は1種を単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。
【0053】
またエネルギー線重合開始剤も特に制限されず、アルキルフェノン系、アシルフォスフィン系、オキシムエステル系、チオキサントン系等の従来用いられているものを適宜使用することができる。具体例としては、アセトフェノン、2,2−ジメトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−プロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、チオキサトン、2−クロロチオキサソン、2−メチルチオキサトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−1−ブタノン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、1,2−オクタンジオン、1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、2,4−ジメチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のエネルギー線重合開始剤が挙げられる。このようなエネルギー線重合開始剤としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
これらの中でも、半導体の保護膜等の製造工程に標準的に用いられている縮小投影露光機(ステッパー;光源波長:365nm、436nm)を用いて微細なパターン形成ができるという観点からは、露光波長310〜436nm(より好ましくは365nm)において効率よくラジカルを発生するものを用いることが好ましい。また、マレイミド基は一般にはラジカルによる単独重合を行い難く、主にエネルギー線重合開始剤から発生したラジカルとの反応によりビスマレイミド化合物の2量化反応が進行するため、ビスマレイミド化合物は一般にエネルギー線重合性化合物として用いられるアクリル化合物等と比較して、見かけ上反応性が乏しいと考えられる。従って、より効率的にラジカルを発生させることができ、露光波長310〜436nm(より好ましくは365nm)における反応性が高くなるという観点から、オキシム構造及びチオキサントン構造から選択される少なくとも1種の構造を有する化合物であることがさらに好ましい。
【0055】
そのようなエネルギー線重合開始剤の例としては、オキシム構造を有する1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)](BASFジャパン製、「IRGACURE OXE−01」)、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)(BASFジャパン製、「IRGACURE OXE−02」)、チオキサントン構造を有する2,4−ジメチルチオキサントン(日本化薬株式会社製、「DETX−S」)が挙げられる。
【0056】
本発明で用いる硬化性樹脂組成物において、上記ラジカル重合開始剤の含有量は、ビスマレイミド化合物量に対して化学量論的に必要な量であればよく、その種類によって異なるが、目安としてはビスマレイミド化合物100質量部に対して、熱開始剤の場合は0.1〜20質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。また、エネルギー線重合開始剤の場合は0.05〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましい。ラジカル重合開始剤の含有量がこの範囲内である場合には、樹脂含浸物の硬化が十分となる。また、ラジカル重合開始剤の種類や量を選ぶことで、硬化時間の短縮や室温での長期保存安定性など目的に応じた使用をすることができる。
【0057】
硬化性樹脂組成物は、各種材料への接着性をより向上させるために、カップリング剤をさらに含有することもできる。
【0058】
このようなカップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤;エポキシ基等の有機基及びアルコキシシリル基を併せ持つアルコキシオリゴマー等のカップリング剤が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本発明で用いる硬化性樹脂組成物にカップリング剤を含有させる場合、その含有量は、樹脂組成物全体中の0.1〜10質量%であることが好ましい。カップリング剤の含有量がこの範囲内である場合、添加による有意の接着性向上効果が得られ、かつカップリング剤の凝集物の発生を防止することができる。
【0060】
上記ビスマレイミド化合物とラジカル重合開始剤を含む硬化性樹脂組成物には、有機溶剤を適宜含有させることができる。本発明で使用可能な有機溶剤は特に限定されないが、例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリン、メシチレン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
本発明で用いる硬化性樹脂組成物には、必要に応じて充填剤をさらに含有させることもできる。充填剤を含有させることにより、硬化性樹脂組成物の粘度を調整し、取り扱い性を向上させることができる。充填剤の種類は特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよいが、例としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化ケイ素(シリカ)、中空シリカや中空ガラス粒子等の中空フィラー、窒化ケイ素、フッ素樹脂粒子、フッ素樹脂のチョップストランド等が挙げられる。充填剤の含有量は、使用目的に応じて選択され、特に限定されるものではないが、目安としてはビスマレイミド化合物100質量部に対して0.01〜400質量部であることが好ましく、0.1〜100質量部であることがより好ましい。
【0062】
次に本発明に係る樹脂含浸物の基材について説明する。本発明で用いる基材は、空隙率50〜97%の多孔質フッ素樹脂であるのが好ましい。多孔質フッ素樹脂の種類は限定されないが、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフロオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン/エチレン共重合体(ECTFE)等を使用することができ、その中でもPTFEが耐熱性や電気的性質の点で好ましい。その形態は、空隙率が上記範囲内であれば、繊維の束、織布、不織布、多孔質シート等のいずれでもよい。空隙率は、硬化性樹脂組成物の含有率を高めるために、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上とする。また、樹脂含浸物及び複合体の強度を保つために、空隙率は95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。なお、基材の空隙率は、見掛け密度ρを用いて次式から算出することができる。
【0063】
空隙率(%)=[(2.2−ρ)/2.2]×100
但し、上記式中、「2.2」は基材の真密度(g/cm
3)である。
【0064】
また、上記空隙は、平均孔径が0.01μm〜100μmが好ましく、0.1μm〜1.0μmであることがより好ましい。平均孔径が0.01μm以上であるとビスマレイミド化合物とフッ素樹脂との密着性が良好となり、100μm以下であると硬化性樹脂組成物の強度が良好となる。なお、空隙の大きさは、例えばポロメータを用いてミーンフローポイント法により測定することができる。
【0065】
本発明の複合材における多孔質フッ素樹脂の含有率は、20〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量%である。含有率が20質量%以上であると、誘電特性が良好となる。90質量%以下であると、複合材の強度が高くなる。
【0066】
基材がシート状の場合、厚さは特に限定されず、目的に応じて選択することができるが、銅張積層体を得る目的のためには10〜1000μmが好ましく、より好ましくは20〜500μmとする。なお、本明細書ではシートとフィルムとを特に区別せず、フィルムを包含する語として「シート」を用いる。
【0067】
なお、上記基材には接着性向上のために表面処理を施すことができる。表面処理の例としては、プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、放射線照射処理、ケミカルエッチング処理、エキシマレーザー処理等が挙げられる。また、基材は、単層であってもよいし、複数を積層して一体化したものであってもよい。
【0068】
上記各要件を満たす基材として、延伸多孔質PTFE(ePTFE)シートが特に好適に用いられる。延伸多孔質PTFEシートとしては、米国W.L.GORE社からゴアテックスの商品名で販売されている製品が好適に使用できる。これは、延伸により形成されたサブミクロンの孔(空隙部)を多数均一に有する、高強度の多孔質素材であり、他社が市場に供給している同種類の製品も使用可能である。延伸多孔質PTFEシートは、ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダーを成形助剤と混合することにより得られるペーストの成形体から、成形助剤を除去した後又は除去せずに延伸し、必要に応じて焼成することにより得られる。一軸延伸の場合、延伸方向に配向した細糸状構造(以下、フィブリル)が、フィブリル間にPTFE微粒子が高密度に存在する領域(以下、ノード)で画された空孔が多数存在する梯子状の繊維構造となる。また、二軸延伸の場合、フィブリルが放射状に広がり、ノードとフィブリルで画された空孔が多数存在するクモの巣状の繊維構造となる。
【0069】
延伸多孔質PTFEシートは、延伸された方向にポリテトラフルオロエチレンの分子が配向するため、未延伸のPTFEシートに比べて強度が高い。延伸PTFEと未延伸PTFEは、示差走査熱量分析測定(DSC)の示差熱分析曲線のピークによって区別することができる。即ち、未延伸PTFEの焼成体の示差熱分析曲線ピークは325〜340℃の間にあるのに対し、延伸PTFEの同ピークは325〜340℃の間に加えて、当該ピーク以外に360〜380℃の間にもピークがある。
【0070】
本発明の樹脂含浸物は、上記多孔質フッ素樹脂シート等の基材に上記硬化性樹脂組成物を含浸させることにより得ることができる。硬化性樹脂組成物から溶媒が一部又は全部蒸発したもの、あるいは更に加熱及び/又はエネルギー線照射を行うことにより重合が進行したものも本発明でいう樹脂含浸物に含まれるものとする。溶媒を蒸発させる際は、必要に応じて100℃以下程度で加熱することができる。
【0071】
得られた樹脂含浸物は、加熱及び/又はエネルギー線照射を行うことにより硬化させて複合材とすることができる。通常は、樹脂含浸物を所望の厚みに調整するために何枚か重ね、必要に応じて銅箔等と重ねて加圧しながら加熱する。加熱条件は硬化性樹脂組成物の組成や硬化触媒の種類や量、複合材の厚さ等により選択され、限定されるものではないが、目安としては150〜200℃で0.5〜4時間程度である。エネルギー線は、照射によりラジカルを発生させうるものであれば限定されず、例としては、遠赤外線や赤外線等の熱線、紫外線、X線、電子線等が挙げられるが、大がかりな設備を要しない点からは紫外線を好適に使用できる。
【0072】
銅箔等と重ねて加圧する際、加圧条件を適宜設定することで、多孔質フッ素樹脂シート等の基材の空隙から硬化性樹脂組成物を絞り出すことができ、多孔質フッ素樹脂シート等の基材が占有する割合を大きくすることができる。基材として誘電率が低い材料を使用すると、樹脂含浸物の10GHzにおける誘電率を2.1〜2.5、誘電正接を0.0003〜0.0028の範囲にすることができる。
【0073】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、発明の効果を損なわない範囲においてポリエステル系樹脂、イミド系樹脂、アミド系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の樹脂や、着色剤、難燃剤、充填剤等の公知の添加剤を加えることができる。
【0074】
次に、本発明の銅張積層体とその製造方法の一例について説明する。
【0075】
本発明の銅張積層体は、上記樹脂含浸物1層以上と銅箔1層以上とが接着されて一体化したものである。各層の厚さや積層順は、積層体の用途により適宜決定される。
【0076】
本発明の樹脂含浸物を用いた銅張積層体の製造方法は特に限定されず、乾式積層法や湿式積層法を利用することができる。湿式積層法としては、接触積層法、減圧積層法、加圧積層法、遠心積層法などの公知の方法を採用することもできる。乾式積層法により銅張積層体を得る方法の一例を以下に示す。まず、ビスマレイミド化合物にラジカル重合開始剤(必要に応じて溶剤、その他添加剤)を加えて硬化性樹脂組成物を製造する。次いで、その硬化性樹脂組成物を多孔質フッ素樹脂に含浸させ、加熱して乾燥させるとともに必要に応じて硬化性樹脂組成物を半硬化させ、本発明の樹脂含浸物を得る。この樹脂含浸物を、単独または所望の厚みに応じて複数枚積層させ、さらに銅箔を重ねあわせ、一定時間加熱加圧することで、銅張積層体を得る。
【0077】
このようにして得られた銅張積層体は、銅箔をパターンエッチングして回路を形成してプリント配線板としたり、複数枚の銅張積層体を積層して多層CCLとしたりすることができる。
【0078】
本発明に係る樹脂含浸物および複合体は、上記特定構造のビスマレイミド化合物を含有する硬化性樹脂組成物と所定の空隙率を有するフッ素樹脂製基材とを組み合わせたことにより、ビスマレイミド化合物とフッ素樹脂製基材との密着性に優れることから、優れた誘電特性、高絶縁性、高耐熱性、低応力性、耐水性、耐湿性、複合体のリペア性、耐衝性、高度な信頼性等をすべて併せ持ち、この複合体は回路基板等の接合に好適に使用でき、その銅張積層体は特に高周波特性が求められる電子回路基板に好適に用いられるものとなる。
【0079】
より詳細には、本発明の樹脂含浸物および複合体は柔軟でフィット性に優れるため、対象物の表面のわずかな凹凸や反りなどの形状にかかわらず、貼り合せ用に好適に使用できる。従って、Bステージまで半硬化させて銅箔を貼り合わせた場合、極めて優れた誘電特性と接着性を併せ持ち、高い接合信頼性を有する積層体が得られる。また、本発明で用いるマレイミド化合物は疎水構造を有するため、複合材は耐水性や耐湿性に優れ、吸湿による誘電特性の変化を極めて小さくすることができる。
【0080】
また、フッ素樹脂として多孔質フッ素樹脂シートを用いた場合、本発明で用いる特定のビスマレイミド化合物と多孔質フッ素樹脂シートとの組み合わせ効果により、樹脂のみの場合と比較して高強度の硬化物が得られる。また、繊維状の織布を用いた場合と比較して極めて薄い樹脂含浸物を得ることも可能となり、織布では不可避の経糸と緯糸との重なり合い等による凹凸がないので、平滑性も高い製品が得られる。
【0081】
さらに、本発明の樹脂含浸物はロール巻状で供給可能であるので、銅張積層体を連続で製造し供給することもできる。そのため、連続工程に供することが可能であり、生産性の向上に寄与することができる。
【0082】
上記本発明の複合材は、従来のプリプレグ硬化物等と異なり、極めて優れた柔軟性と耐熱性と誘電特性のすべてを併せ持ち、さらに高絶縁性や耐水性にも優れたものとなる。
【0083】
本発明に係る複合材は、常温では極めて優れた接着性を示す。しかし、200℃付近の高温下では接着力が極めて低くなり、軽い力を加えることにより基板等から容易に剥がすことができる。この性質を本明細書では「リペア性」と称する。これは、本発明で用いるビスマレイミド化合物が特定のマレイミド構造を有することに起因し、特に架橋点の含有率が低いことにより、複合体に柔軟性を与えることができるが、同時にある程度の熱可塑的挙動を示すことによると考えられる。一方で、熱硬化性即ち3次元架橋構造を有するため、自重で流れ出す等のおそれはなく、電子回路基板に使われるエポキシ樹脂に比べて弾性率が大幅に低くなる。したがって、本発明に係る複合材は、貼り合わせた素材(例えば銅張積層体の場合は、PTFE/マレイミド化合物/銅箔)との膨張率の違いによる応力を吸収し、剥離等の発生を防止できることから、温度が急激に変化する環境に曝されたり、機械的衝撃を受けたりした場合でも信頼性を維持することができる。
【0084】
プリント回路基板の製造の最終段階での不良品発生は通常大きな損害をもたらすが、本発明の樹脂含浸物及び複合体を使用した場合、不良部分を簡単な工程で剥がして補修することができる。また、本発明で使用するビスマレイミド化合物は耐熱性の高い熱硬化性樹脂であるため、部分的に手はんだ等で400℃近くに加熱しても流れ出すことはなく、通常の手はんだ工程程度の短時間であれば熱劣化による物性低下の恐れは無い。また、弾性率が極めて低いため、軟化しても導電層の剥離は抑制され、絶縁層の熱膨張により厚みが変化しても、温度が下がれば元の厚みに戻る性質を有する。なお、液晶ポリマー基板では、樹脂が完全に熱可塑性(非架橋構造)であるため、液晶ポリマーの加工温度である300℃を越えた状態で局所に応力が加わることで絶縁層の可塑的変形による厚さ変化が起こり、信頼性確保の点で問題が生じる。従って、手はんだによる補修は事実上不可能である。本発明の複合材によれば、プリント回路基板のわずかな不良を手はんだで補修可能になる点は、液晶ポリマーを使用した場合と比較して大きなメリットであると云える。
【0085】
本発明の銅張積層体は、上記樹脂含浸物と銅箔とを貼り合せて硬化させた物であり、耐衝撃性や、車載等で重要な耐振動性に優れる。また、弾性率が低いことから、銅張積層体にしたときの材料同士の線膨張の違いによる応力を吸収することができるので、層間剥離を防ぐことができる。
【0086】
従来技術によれば、上記特長の一つを兼ね備えることにより他の特性が犠牲になって低下するという問題があったのに対し、本発明によれば上記特性をすべてバランスよく兼ね備えた製品を得ることができるという点で顕著な効果を奏するものである。
【0087】
本発明の樹脂含浸物は、上述したように、LCPに比べて誘電特性や耐熱性、機械特性等に優れるため、様々な厚みや材質フレキシブルプリント配線板やリジッドプリント配線板等のプリント配線板、レーダーを保護する材料、に好適に使用することができる。
【0088】
プリント配線板に使用する場合には、樹脂含浸物の片面または両面に、公知の方法により銅箔からなる回路パターンを形成し、プリント配線板を作製することができる。
【0089】
なお、LCPを使用した回路基板は銅箔との密着性が良好でないため、銅箔の表面に深い凹凸形状を形成させ、その凹凸によるアンカー効果を利用しなければ、実用に耐えるプリント配線板を得ることができなかった。しかしながら、表面に深い凹凸形状を有する銅箔は、高周波信号回路として用いた場合には伝送損失が大きいという問題を有する。それに対して本発明の樹脂含浸物は銅箔との密着性に優れるため、LCPを用いた場合に比べて凹凸高さを小さくすることができ、高周波信号回路における伝送損失を最小限に抑えることができる。
【0090】
また、本発明の樹脂含浸物を使用したプリント配線板は、片面プリント配線板や両面プリント配線板、多層プリント配線板、ビルドアップ多層プリント配線板等、公知の構造に使用することができる。また、これら公知の構造に、電磁波シールドフィルムを貼り付けてシールドプリント配線板とすることもできる。
【0091】
本発明の樹脂含浸物をフレキシブルプリント配線板に使用するときは、例えば
図1に示すように両面フレキシブルプリント配線板の片面に電磁波シールドフィルムを貼り付けることで、ストリップライン構造を有するシールドフレキシブルプリント配線板とすることもできる。このような構造とすることで、高周波信号の伝送特性とシールド特性に優れたフレキシブルプリント配線板を容易に製造することができる。
【0092】
また、多層プリント配線板やビルドアップ多層プリント配線板において、層間接続材料として、高融点金属粒子と低融点金属粒子および樹脂組成物を含み、低融点金属が溶融した際に高融点金属と金属間化合物を形成する導電性組成物を使用してもよい。このような導電性組成物を使用することで、金属粒子と銅箔とが強固に密着するとともに、金属間化合物が高い融点を有するので、高温に曝されても接続信頼性を確保することができる。
【0093】
低融点金属粒子及び高融点金属粒子としては、単一の金属からなる粒子のほか、2種以上の金属の合金を含む粒子を使用することもできる。低融点金属粒子を構成する金属の好ましい例としては、インジウム(融点:156℃)単独、又は錫(融点:231℃)、鉛(融点:327℃)、ビスマス(融点:271℃)、又はインジウムのうちの2種以上を合金にして融点180℃以下にしたものが挙げられる。また、高融点金属粒子を構成する金属の好ましい例としては、金(融点:1064℃)、銀(融点:961℃)、銅(融点:1083℃)、又はニッケル(融点:1455℃)のうちの1種又は2種以上の合金が挙げられる。
【0094】
また、従来から層間接続材料に添加される添加剤を、本発明の目的から外れない範囲内で添加することもできる。その例としては、消泡剤、増粘剤、粘着剤等が挙げられる。
【0095】
本発明の複合体の一実施形態である、延伸多孔質PTFE−ビスマレイミド化合物の樹脂含浸物によるCステージ、すなわち硬化物シートは、布のようにフレキシブルで、折りたたむこともでき、極めて優れた誘電特性を有する。さらには、電子回路基板としても使用できる耐熱性を併せ持つ、優れた物性を有することが確認できている。また、上記複合体である硬化物シートは、延伸多孔質PTFEの緻密な繊維の間にビスマレイミド化合物が充填された構造を有する繊維強化プラスチック(FRP)であるため、フレキシブルでありながら高い張力を有するものとなる。
【0096】
上記本発明の複合材の一実施形態である硬化物シートは、レーダーを保護する材料として、レドームの外形の形成に使用することができる。その使用方法としては、本発明に係る硬化物シート単体での使用に限定されず、例えば、硬いPTFEを構造骨格とし、その間に本発明に係る硬化物シートを敷き詰めるといった組み合わせの構造をとることも可能である。この際、内部を陽圧にした、原理的には風船状の構造を形成することができ、このことにより、レドームの最外層の強度を高めることができる。このような用途には、従来の延伸多孔質PTFEのみを使用することも可能であるが、延伸多孔質PTFEは微細な孔を有しているため、陽圧を維持し、強度を保持するには大量の気体を送り続ける必要がある。そのため、この用途においては、本発明に係る複合体である延伸多孔質PTFEとビスマレイミド化合物からなる硬化物シートの方が圧倒的に有利である。
【0097】
本発明の複合材は、レドームのみならず、高周波、超高周波を用いる分野、例えば高速道路のETC装置、車のオートストップ装置、更には今後ますます需要領域の広がる超高周波分野の構造用素材としても応用可能である。
【実施例】
【0098】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下において配合割合等は、特にことわらない限り質量基準とする。
【0099】
<ビスマレイミド化合物の合成>
[合成例1(ビスマレイミド化合物4の合成)
撹拌器を備えた1000mLのフラスコに、250mlのトルエンを投入した。35g(0.35モル)のトリエチルアミンをフラスコに加え、ついでメタンスルホン酸無水物35g(0.36モル)をゆっくりと加え、塩を形成した。
ほぼ10分間撹拌して混合し、ついで下記一般式(II)で表されるジアミン(n=6、q=6、m=5、p=5)を50g(0.11モル)加えた。無水ピロメリト酸(10.9g、0.05モル)を、撹拌された混合物に滴下して溶解させた後、2時間環流させ、アミン末端のジイミドを有する反応混合物を得た。
【化3】
次いで、得られた反応混合物を室温以下に冷却し、フラスコ中に、無水マレイン酸12.8gを、次いでメタンスルホン酸無水物5gを投入した後環流させた。
室温に冷却した後、フラスコ中にトルエン100mlを投入し、沈殿物を得た。フラスコ中の液相を除去し、沈殿物をトルエンで洗浄した後一晩放置し、シリカゲルが充填されたガラスフリット漏斗を用いて濾過した。次いで、ろ過物を真空環境下に放置して溶剤を除去することにより、ビスマレイミド化合物4を得た。
【0100】
[合成例2(ビスマレイミド化合物5の合成)
ジアミンとして、上記一般式(II)で表されるジアミン(n=6、q=6、m=5、p=5)を50g(0.11モル)用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ビスマレイミド化合物5を得た。
【0101】
[合成例3(ビスマレイミド化合物6の合成)
ジアミンとして、上記一般式(II)で表されるジアミン(n=4、q=3、m=5、p=5)を42g(0.11モル)用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ビスマレイミド化合物6を得た。
【0102】
[合成例4(ビスマレイミド化合物7の合成)
ジアミンとして、上記一般式(II)で表されるジアミン(n=13、q=13、m=5、p=5)を71g(0.11モル)用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ビスマレイミド化合物7を得た。
【0103】
[比較合成例1(ビスマレイミド化合物8の合成)
ジアミンとして、上記一般式(II)で表されるジアミン(n=2、q=2、m=5、p=5)を37g(0.11モル)用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ビスマレイミド化合物8を得た。
【0104】
[比較合成例2(ビスマレイミド化合物9の合成)
ジアミンとして、上記一般式(II)で表されるジアミン(n=15、q=16、m=5、p=5)を79g(0.11モル)用いたこと以外は、合成例1と同様にして、ビスマレイミド化合物9を得た。
<硬化性樹脂組成物の調製>
[実施例1]
ビスマレイミド化合物として、ビスマレイミド化合物1(DESIGNER MOLECURES Inc.製、BMI−3000CG、上記式(I)中の炭化水素基Xの主鎖の炭素数が18であり、n=0のビスマレイミド化合物の含有割合が14%である)を100質量部、ラジカル重合開始剤としてジクミルパーオキサイド2質量部を、トルエン120質量部に投入し、室温下で撹拌して硬化性樹脂組成物を得た。
【0105】
なお、n=0のビスマレイミド化合物の含有割合としては、ビスマレイミド化合物をGPCにより分析して、ビスマレイミド化合物のピークの総面積中でのn=0のビスマレイミド化合物によるピークの面積の割合を示した。以下の実施例及び比較例においても同様である。
【0106】
[実施例2]
ビスマレイミド化合物として、化合物2(DESIGNER MOLECURES Inc.製、BMI−3000GEL、上記式(I)中の炭化水素基Xの主鎖の炭素数が18であり、n=0のビスマレイミド化合物の含有割合が24%である)を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
【0107】
[実施例3]
ビスマレイミド化合物として、化合物3(DESIGNER MOLECURES Inc.製、BMI−3000J(上記式(I)中の炭化水素基Xの主鎖の炭素数が18であり、n=0のビスマレイミド化合物の含有割合が9%である)を使用した以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
【0108】
[実施例4]
ビスマレイミド化合物として、上記合成例1により得られた化合物4(上記式(I)中の炭化水素基Xの主鎖の炭素数が16であり、n=0のビスマレイミド化合物の含有割合が6%である)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
【0109】
[実施例5]
ビスマレイミド化合物として、上記合成例2により得られた化合物5(上記式(I)中の炭化水素基Xの主鎖の炭素数が16であり、n=0のビスマレイミド化合物の含有割合が、29%である)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
【0110】
[実施例6]
ビスマレイミド化合物として、上記合成例3により得られた化合物6(上記式(I)中の炭化水素基Xの主鎖の炭素数が11であり、n=0のビスマレイミド化合物の含有割合が14%である)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
【0111】
[実施例7]
ビスマレイミド化合物として、上記合成例4により得られた化合物7(上記式(I)中の炭化水素基Xの主鎖の炭素数が30であり、n=0のビスマレイミド化合物の含有割合が14%である)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
【0112】
[比較例1]
ビスマレイミド化合物として、上記比較合成例1により得られた化合物8(上記式(I)中の炭化水素基Xの主鎖の炭素数が8であり、n=0のビスマレイミド化合物の含有割合が14%である)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
【0113】
[比較例2]
ビスマレイミド化合物として、上記比較合成例2により得られた化合物9(上記式(I)中の炭化水素基Xの主鎖の炭素数が35でありn=0のビスマレイミド化合物の含有割合が14%である)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性樹脂組成物を得た。
【0114】
表面を離型処理したPETフィルム上に、上記で得られた硬化性樹脂組成物を厚み25μmとなるように塗布し、80℃で5分間加熱して乾燥させた後、PETフィルムを剥がして硬化性樹脂フィルムを得た。
【0115】
次いで、厚み110μmの多孔質フッ素シート(日東電工製、NTF8031)の上下を、上記硬化性樹脂フィルムで挟み込み、180℃で60分間、1MPaでプレスして、硬化性樹脂組成物と多孔質フッ素樹脂との複合材を得た。プレス機は、高温真空プレス(KVHC−II型)北川精機株式会社製を用いた。
【0116】
〈多孔質フッ素樹脂含有率〉
上記で得られた複合材について、下記式により多孔質フッ素樹脂含有量を求めた。
フッ素基材含有率(%)
=(多孔質フッ素樹脂の質量(g)/上記複合材の質量(g))×100
【0117】
〈誘電率、誘電正接〉
上記で得られた複合材を約2mm幅にカットしたサンプルを用いて、誘電率及び誘電正接を測定した。具体的には空洞共振器摂動法により、3つのサンプルについて、誘電率、誘電正接を測定し、平均値を求めた。ネットワークアナライザーは、Agilent Technologies社製E8361A、空洞共振器は、株式会社関東電子応用開発製CP531(10GHz)を用いた。
【0118】
〈リフロー後の外観(銅箔との密着性)〉
上記硬化性樹脂組成物を、離型処理したPETフィルム表面に、厚さが50μmになるように塗布し、溶剤を乾燥(80℃×5分)させて硬化性樹脂フィルムを得た。次いで、硬化性樹脂フィルムを厚さ100μmの多孔質フッ素樹脂シート(同上)の両面に貼り合わせて仮接着(80℃×10分、15kg/cm
2)した後、更にその上に銅箔を貼り付け本接着(170℃×60分、30kg/cm
2)することにより、銅張積層体を得た。
【0119】
得られた銅張積層体を1.5cm×15cmの短冊状にカットし、リフロー試験に供した。具体的には、JEDEC LEVEL 3 に相当する吸湿リフロー試験をN=5で行い、剥離有り無しの評価を行った。N=5全て剥離の無いものを合格(○)とし、1サンプルでも剥離が出た場合は不合格(×)とした。
【0120】
【表1】
【0121】
以上の結果から、本発明の複合材は、多孔質フッ素樹脂からなる基材と特定のビスマレイミド化合物とを組み合わせることにより、誘電率を2.5以下に抑えることができ、誘電正接を0.0028以下に抑えることができた。同様に、従来の高周波回路基板に比べて比誘電率および誘電正接が大幅に低下していることが確認できた。
【0122】
これは、実施例で用いた多孔質フッ素樹脂単体の10GHzにおける比誘電率が2.1、誘電正接が0.0002という低い値をとることに起因するものと思われる。即ち、溶剤希釈したビスマレイミド化合物を多孔質フッ素樹脂に含浸乾燥させて加熱加圧して硬化すると、ビスマレイミド化合物がフッ素樹脂の孔に取り込まれて複合材の多孔質フッ素樹脂の比率が増加するため、多孔質フッ素樹脂とビスマレイミド化合物の組み合わせによって得られた複合材の誘電特性に多孔質フッ素樹脂の優れた誘電特性が反映されたものと思われる。
【0123】
比較例1は、実施例と比較し、誘電率・誘電正接が高かった。これは、ビスマレイミド化合物の炭化水素基Xの主鎖が短いことに起因するものと考えられる。
【0124】
比較例2は、リフロー後の外観が優れなかった。これは、ビスマレイミド化合物の炭化水素基Xの主鎖が長く、Tgが低いため、耐熱性が悪いものと考えられる。
【0125】
上記のように、本発明の硬化性樹脂組成物及びそれにより得られる複合材は、優れた耐熱性と低誘電率及び低誘電正接を示したことから、本発明の硬化性樹脂組成物及び複合材は電子回路基板等での使用に好適であることが確認できた。
(A)下記一般式(I)で表されるビスマレイミド化合物と(B)ラジカル重合開始剤とを含有する硬化性樹脂組成物を多孔質フッ素樹脂に含浸させてなる樹脂含浸物を用いる。但し、下記一般式(I)中、Xは、脂肪族、脂環式又は芳香族の炭化水素基であって、主鎖の炭素数が10〜30である炭化水素基を示し、Yは、脂肪族、脂環式又は芳香族の炭化水素基を示し、nは1〜20の範囲の数を示す。