【実施例】
【0055】
次に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
金属サレン錯体化合物(II)の合成
(第1の合成例)
金属サレン錯体(II)を次の反応式に従って合成した。
【0056】
(化合物1の合成)
グリシン・メチル・エステル一塩酸塩(glycine methyl ester monohydrochloride)(10.0g, 0.079mol)を含むギ酸エチル(ethyl formate)溶液(60mL)にp-TsOH (10 mg)を加えた。そして、その溶液を加熱して沸騰させた。沸騰中にトリエチルアミン(triethylamine)を数滴滴下し、その混合液を24時間還流した。その後、その溶液を室温まで冷却した。白いトリエチルアミン塩酸塩をろ過した。ろ過物を20mLまで濃縮した。得られた溶液をマイナス摂氏5度まで冷却し、ろ過を行った。ろ過物である、赤茶色の濃縮溶液(化合物1)を得た。
【0057】
(化合物2の合成)
化合物1に、CH
2Cl
2 (20mL)を溶かした。その後に、ethane-1,2-diamine(1.2g)、そして、酢酸(HOAc)(20μL)を加えた。反応させた混合溶液を6時間還流させた。そして、反応混合溶液を室温まで冷却し、4グラムの黄色い油状の濃縮物(化合物2)を得た。得られた化合物2の純度を、シリカゲルを用いたフラッシュコラムクロマトグラフィーによって向上させた。
【0058】
(化合物0の合成)
メタノール(50ml)の中に化合物2、triethylamineをいれ、10mlメタノールの中に、金属塩化物(
鉄サレン錯体化合物の合成の際は、FeCl3(4H2O)である。)溶液を窒素雰囲気下で混合した。室温窒素雰囲気で1時間混合したところ茶色の化合物が得られた。その後、これを真空中で乾燥した。得られた化合物をジクロロメタン400mlで希釈し、塩性溶液で2回洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、真空中で乾燥させて化合物0(
金属サレン錯体化合物(II))を得た。
【0059】
(第2の合成例)
金属サレン錯体(II)を次の反応式に基づいて合成した。
【0060】
氷上の酢酸でpH6に調整しながら無水メタノール(50mL)の中に3.4gの3-メチルアセチルアセトン(化合物2)と0.9gのエチレンジアミン(化合物1)を入れて化合物3を合成した。得られた溶液を15分間還流し、これが半分の体積になるまで蒸発させた。その後、同体積の水を加えて析出させたところ1.4gの白い化合物(化合物3)を合成した。
【0061】
その後、化合物3(1.2g、5mmol)をメタノール(50mL)に入れ、FeSO
4・7H
2O (1.4 g, 5 mmol)を加えたところ、青白い緑の溶液が得られた。混合溶液を、8時間、室温、窒素雰囲気で攪拌したところ、色が徐々に茶色になった。その後、溶液を蒸発させてその体積を半分にした後、同体積の水を加えた。次いで、真空引きでメタノールを蒸発させたて茶色の塊を得た。その塊を集めて水で洗浄し、真空引きで乾燥したところ目的の化合物
0(鉄サレン錯体化合物(II))が360ミリグラム得られた。
【0062】
(第3の合成例)
金属サレン錯体(II)を次の反応式に基づいて合成した。
【0063】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し1.07gの中間体を得た。
【0064】
窒素雰囲気下、中間体(1.07mg, 3.4 mmol)、配位原子(0.70g, 3.4 mmol)、脱気デカリン30mLを反応容器に仕込み、還流下1時間攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン10mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、0.17gの生成物
(鉄サレン錯体化合物(II))を得た。
【0065】
(実施例2)
金属サレン錯体化合物
(III)の合成
金属サレン錯体化合物
(III)を次の反応式に基づいて合成した。
【0066】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.78g, 4.5mmol)、脱気メタノール20mLを仕込み、アセチルアセトン(0.91g, 9.9mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。析出した結晶をろ過し、冷却したメタノール10mLで洗浄した。その後、減圧乾燥し0.58gの中間体を得た(収率 67%)。
【0067】
窒素雰囲気下、中間体(240mg, 0.75 mmol)、配位原子(210mg, 0.75 mmol)、脱気デカリン10mLを反応容器に仕込み、還流下30分攪拌した。放冷後、析出した固体をろ過した後取り出し脱気シクロヘキサン3mLで洗浄した。減圧乾燥を行い、101mgの生成物(金属サレン錯体化合物(III))を得た。
【0068】
(
実施例3)
金属サレン錯体化合物(IV)の合成
金属サレン錯体化合物
(IV)を次の反応式に基づいて合成した。
【0069】
窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを仕込み、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、放冷した。CH
2Cl
2(10mL)に溶かした化合物1の溶液(60mg, 1.0 mmol)に化合物2(120mg, 2.0 mmol)とSiO
2 (1g)を加えた。得られた溶液を、反応させるため終夜、室温で攪拌したところ化合物3が合成された。その後、得られた化合物を窒素雰囲気下、反応容器に酢酸鉄(II)(0.83g, 4.8mmol)、脱気メタノール48mLを入れ、アセチルアセトン(0.95g, 9.5mmol)を加えた。還流下15分攪拌後、析出した結晶をろ過したところ茶色の目的化合物(金属サレン錯体化合物(IV))を得た。
【0070】
(
実施例4)
前記(V)〜(XI)の化合物は、WO2010/058280の明細書第43〜47頁に記載の方法によって合成する。側鎖である臭素、又は、メトキシル基の主骨格への付加は、サレンに金属錯体の結合を形成する際に、ベンゼン環のOH基とはパラの位置でベンゼン環に結合している保護基(NHBoc)を臭素、又は、メトキシル基で置換する。(c,d),(e,f)がアントラセンを構成する
(VIII)及び(IX)の化合物では、出発物質として、パラニトロフェノールに代えて、下記化合物を使用する。
(a,h)がシクロヘキサンを構成する金属サレン錯体(
VI)、さらに、(a,h)がベンゼンを構成する金属サレン錯体(
Vii)の合成については、Journal of thermal Analysis and Calorimetry, Vol.75(2004)599-606 のExperimental の600Pに記載の方法によって、金属と配位結合する前の目的のサレンを作成する。
【0071】
(実施例5)
金属サレン錯体(II)〜(XI)のそれぞれの水溶液をポンプでガラス管を循環させながら永久磁石でトラップされるか否か検討する。
金属サレン錯体の水溶液の循環速度は100 mm/s、ガラス管の直径は1.3mm、ガラス管の表面と永久磁石の距離は1.35 mm、化合物の濃度は10 mg/mLである。磁石は市販されている断面円形状の棒磁石(直径20mm x 長さ150mm、信越化学の型番N50、最大磁束密度0.8T)を用いる。
各金属錯体は磁石にラップする領域でトラップされたことを確認する。
【0072】
(
実施例6)
ラットL6細胞が30%のコンフルエントの状態の時に、既述の方法によって得られた、
金属(鉄)サレン錯体(II)〜(XI)のそれぞれについて、
金属サレン錯体の粉末(10mg)を磁石に引き寄せられるのが目視できる程度の量を培地(PBS)に散布して48時間後に培地の状態を写真撮影する。
図1はラットL6細胞の培地がある角型フラスコに棒磁石を接触させた状態を示した模式図である。次いで、48時間後角型フラスコ底面の一端から他端までを撮影し、細胞数を算出した結果を
図2に示す。
図2において磁石から近位とは、角型フラスコ底面における磁石端面の投影面積内を示し、磁石から遠位とは、角型フラスコ底面において磁石端面と反対側にある領域を示す。
【0073】
図2に示すように、磁石から近位では各
金属サレン錯体が引き寄せられてそれらの濃度が増し錯体のDNA抑制作用によって細胞数が遠位よりも極端に低いことが分かる。この結果、
金属サレン錯体と、磁気発生手段とを備えたシステムによって、個体の目的とする患部や組織に薬剤を集中して存在させることが可能となる。
【0074】
次に、誘導装置を用いた誘導例について説明する。この誘導装置は、
図3に示すように重力方向に互いに向き合う一対の磁石230,232がスタンド234とクランプ235によって支持されており、磁石の間には金属板236が置かれている。一対の磁石間に金属板、特に鉄板をおくことにより、局所的に一様で強力な磁界を作り出すことができる。この誘導装置は磁石の代わりに電磁石を用いて発生磁力を可変にすることができる。また、XYZ方向に一対の磁力発生手段を移動できるようにして、テーブル上の固体の目的とする位置に磁力発生手段を移動させることができる。
【0075】
この磁界の領域に固体組織を置くことにより、組織に薬剤を集中させることができる。体重約30グラムのマウスに既述の
金属サレン錯体(薬剤濃度5mg/ml(15mM))を静注して開腹し、右の腎臓を前記一対の磁石の間に来るようにマウスを鉄板の上に置く。使用した磁石は、信越化学工業株式会社製 品番:N50(ネオジウム系永久磁石) 残留磁束密度:1.39-1.44 Tである。このとき、右側の腎臓に与えられた磁場は約0.3(T)で左側の腎臓に与えられる磁場はその約1/10である。
【0076】
左の腎臓及び磁界を適用しない腎臓(Control)と共に、マウスの右腎に磁界を加えて10分後MRIでSNRをT1モード及びT2モードで測定した。その結果、
図4に示すように、磁界を加えた右腎(RT)が左腎(LT)及びControlに比較して薬剤を組織内に留め置くことができることが確認された。
【0077】
図5に、マウスにおけるメラノーマ成長に対する
サレン錯体の効果を示す。メラノーマは、培養メラノーマ細胞(クローンM3メラノーマ細胞)の局所的移植によって、マウス尾腱においてin vivoに形成された。
サレン錯体を尾腱の静脈から静脈投与し(50 mg/kg)、市販の棒磁石(630mT、円筒状ネオジウム磁石、長さ150mm、直径20mm)を用いて、局所的に磁場を印加した。棒磁石の適用は、
サレン錯体を10〜14日注入した直後に、メラノーマサイトに3時間穏やかに接触させることにより行った。
【0078】
棒磁石の適用は、磁場強度が、メラノーマ延長が予想される部位に最大強度となるように、150mm以下のマウス尾腱に対して2週間の成長期間、行った。
金属サレン錯体の初回注入の12日後に、メラノーマ染色された部位を評価することによって、メラノーマの延長を評価した。
図6に示すように、
金属サレン錯体の代わりに、塩水を注入した塩水グループ(saline)では、メラノーマ拡張は最大であった(100±17.2%)。
【0079】
一方、磁場を適用せずに
サレン錯体を注入したSCグループでは、メラノーマ拡張は緩やかに減少した(63.68±16.3%)。これに対して、磁場を適用しつつ金属サレン錯体を注入したSC+Magグループでは、ほとんどのメラノーマが消失した(9.05±3.42%)。
【0080】
図7に示すように、ヒストロジカル試験を、組織部の腫瘍増殖マーカーであるanti-Ki-67抗体及びanti-Cyclin D1抗体を用いて、ヘマトキシリン−エオジン染色(HE)及び免疫組織染色(Ki,CyclinD1)により行った。その結果、
金属サレン錯体を注入した場合(SC)の投与前において顕著であったメラノーマの腫瘍拡張が減少し、さらに
サレン錯体の投与時に磁場の適用が組み合わされた場合、
サレン錯体の投与後にはメラノーマの腫瘍はほとんどが消失することが分かった(楕円状の点線)。